(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】ステーターの製造方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/06 20250101AFI20250117BHJP
H02K 15/04 20250101ALI20250117BHJP
【FI】
H02K15/06
H02K15/04 F
(21)【出願番号】P 2024546339
(86)(22)【出願日】2024-05-10
(86)【国際出願番号】 JP2024017480
【審査請求日】2024-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2023082599
(32)【優先日】2023-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】小林 大
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特許第6269514(JP,B2)
【文献】特開2014-107877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/06
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステーターコアに保持されたセグメントコイルの径方向に沿って配置された複数のコイルエンド部の内、最外周の第1コイルエンド部を折り曲げて動力線とするステーターの製造方法であって、
前記ステーターコアの
前記径方向で前記第1コイルエンド部の内側に隣接する第2コイルエンド部を
前記第1コイルエンド部と共に前記径方向の外側に向けて傾斜
させ、
前記第2コイルエンドの先端部が軸方向に沿うように
前記第2コイルエンドを折り曲げ
て前記傾斜した第1コイルエンド部の先端部を前記第2コイルエンドの先端部から分離させ、
前記
分離した第1コイルエンド部の先端部を把持して変位させることによって前記第1コイルエンド部を前記動力線とするために折り曲げる、
ステーターの製造方法。
【請求項2】
請求項1のステーターの製造方法であって、
前記
分離した第1コイルエンド部の前記先端部を一対の壁部間に位置させて把持し、
前記一対の壁部の一方が前記第1コイルエンド部と前記第2コイルエンド部との間に位置し、
前記一対の壁部の前記一方の先端に設けられた曲面に前記第1コイルエンド部を押し付けて前記折り曲げを行う、
ステーターの製造方法。
【請求項3】
ステーターコアに保持されたセグメントコイルの径方向に沿って配置された複数のコイルエンド部の内、最外周の第1コイルエンド部を折り曲げて動力線とするステーターの製造方法であって、
前記ステーターコアの前記径方向で前記第1コイルエンド部の内側に隣接する第2コイルエンド部を、該第2コイルエンド部よりも前記径方向の内側の隣接するコイルエンド部間に歯を
軸方向に差し込んで
前記第1コイルエンド部と共に前記軸方向に沿った状態から
前記径方向の外側に向けて傾斜させ、
前記第2コイルエンド部の
先端部をプッシャーにより前記歯に対して押し付けて前記軸方向に沿わせ
、前記第2コイルエンド部の基端部の傾斜に沿って前記第1コイルエンド部が傾斜した状態で保持され、
前記傾斜した第1コイルエンド部の先端部を把持して変位させることによって前記第1コイルエンド部を前記動力線とするために折り曲げる、
ステーターの製造方法。
【請求項4】
請求項3のステーターの製造方法であって、
前記第1コイルエンド部は、折り曲げ前の状態において、前記第2コイルエンド部よりも前記軸方向で短く、
前記プッシャーは、前記第2コイルエンド部を前記第1コイルエンド部から前記軸方向に突出する範囲内で前記歯に押し付ける、
ステーターの製造方法。
【請求項5】
ステーターコアに保持されたセグメントコイルの径方向に沿って配置された複数のコイルエンド部の内、最外周の第1コイルエンド部を折り曲げて動力線とするステーターの製造装置であって、
隣接するコイルエンド部間に挿入可能な歯と、
前記コイルエンド部間に挿入された歯に対して前記挿入の方向に対する交差方向から移動可能なプッシャーと、
前記第1コイルエンド部の先端部を把持可能な把持部と、
前記歯、前記プッシャー、及び前記把持部を制御するコントローラーとを備え、
前記コントローラーは、
前記ステーターコアの径方向で前記第1コイルエンド部の内側に隣接する第2コイルエンド部よりも前記径方向の内側の前記コイルエンド部間に前記歯を前記軸方向に差し込んで前記第2コイルエンド部と共に前記第1コイルエンド部を前記軸方向に沿った状態から傾斜させ、
前記プッシャーにより前記第2コイルエンド部の前記先端部を前記歯に対して押し付け、前記第2コイルエンド部の前記先端部を前記軸方向に沿わせ、
前記傾斜した第1コイルエンド部の前記先端部を把持した前記把持部を変位することによって前記第1コイルエンド部を前記動力線とするために折り曲げる、
ステーターの製造装置。
【請求項6】
ステーターコアに保持されたセグメントコイルの径方向に沿って配置された複数のコイルエンド部の内、最外周の第1コイルエンド部を折り曲げて動力線とするステーターの製造装置であって、
隣接するコイルエンド部間に挿入可能な歯と、
前記コイルエンド部間に挿入された歯に対して前記挿入の方向に対する交差方向から移動可能なプッシャーと、
前記第1コイルエンド部の先端部を把持可能な把持部と、
前記歯、前記プッシャー、及び前記把持部を制御するコントローラーとを備え、
前記コントローラーは、
前記ステーターコアの径方向で前記第1コイルエンド部の内側に隣接する第2コイルエンド部よりも前記径方向の内側の前記コイルエンド部間に前記歯を前記軸方向に差し込んで前記第2コイルエンド部と共に前記第1コイルエンド部を前記軸方向に沿った状態から傾斜させ、
前記プッシャーにより前記第2コイルエンド部の前記先端部を前記歯に対して押し付け、前記第2コイルエンド部の前記先端部を前記軸方向に沿わせ、
前記傾斜した第1コイルエンド部の前記先端部を把持した前記把持部を変位することによって前記第1コイルエンド部を前記動力線とするために折り曲げ、
前記把持部は、前記傾斜した第1コイルエンド部の前記先端部を相互間に位置させて把持する一対の壁部と、前記把持の際に前記第1コイルエンド部と前記第2コイルエンド部との間に位置する前記一対の壁部の一方の先端に設けられ前記第1コイルエンド部に押し付けられて前記折り曲げを行う曲面とを備えた、
ステーターの製造装置。
【請求項7】
請求項6のステーターの製造装置であって、
前記歯と前記把持部は、ロボットマニピュレーターによって変位可能な折り曲げ治具上に配置された、
ステーターの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステーターコアに保持されたセグメントコイルのコイルエンド部を折り曲げて動力線とするステーターの製造方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のステーターの製造方法としては、例えば特許文献1に記載のように、複数の変形治具を用いたものがある。
【0003】
この製造方法では、まず動力線となるコイルエンド部(動力線)の外側に台座を配置する。次いで、動力線と隣接するコイルエンド部との間にブレードを打ち込んで台座を支点に動力線を外側に傾斜させる。
【0004】
傾斜した動力線と隣接するコイルエンド部との間にブロック状の第1の変形治具を挿入し、第1の変形治具と台座とで動力線を挟みつつ第1の変形治具を径方向の外側に移動させる。
【0005】
その後、台座の外側に配置されたローラーからなる第2の変形治具を隣接するコイルエンド部と平行に移動させて動力線の先端部を軸方向に沿うように折り曲げる。
【0006】
かかる製造方法では、動力線をクランク状に確実に折り曲げることができる。しかし、ブレードや第1及び第2の変形治具を連動させて制御する必要があり、コイルエンド部の折り曲げによる動力線の形成が煩雑なものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、コイルエンド部の折り曲げによる動力線の形成が煩雑なものとなっていた点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ステーターコアに保持されたセグメントコイルの径方向に沿って配置された複数のコイルエンド部の内、最外周の第1コイルエンド部を折り曲げて動力線とするステーターの製造方法を提供する。この製造方法は、前記ステーターコアの前記径方向で前記第1コイルエンド部の内側に隣接する第2コイルエンド部を前記第1コイルエンド部と共に前記径方向の外側に向けて傾斜させ、前記第2コイルエンドの先端部が軸方向に沿うように前記第2コイルエンドを折り曲げて前記傾斜した第1コイルエンド部の先端部を前記第2コイルエンドの先端部から分離させ、前記分離した第1コイルエンド部の先端部を把持して変位させることによって前記第1コイルエンド部を前記動力線とするために折り曲げる。
【0010】
また、本発明は、ステーターコアに保持されたセグメントコイルの複数のコイルエンド部の内、最外周の第1コイルエンド部を折り曲げて動力線とするステーターの製造装置を提供する。この製造装置は、隣接するコイルエンド部間に挿入可能な歯と、前記コイルエンド部間に挿入された歯に対して前記挿入の方向に対する交差方向から移動可能なプッシャーと、前記第1コイルエンド部の先端部を把持可能な把持部と、前記歯、前記プッシャー、及び前記把持部を制御するコントローラーとを備える。そして、前記ステーターコアの径方向で前記第1コイルエンド部の内側に隣接する第2コイルエンド部よりも前記径方向の内側の前記コイルエンド部間に前記歯を前記軸方向に差し込んで前記第2コイルエンド部と共に前記第1コイルエンド部を前記軸方向に沿った状態から傾斜させ、前記プッシャーにより前記第2コイルエンド部の前記先端部を前記歯に対して押し付け、前記第2コイルエンド部の前記先端部を前記軸方向に沿わせ、前記傾斜した第1コイルエンド部の前記先端部を把持した前記把持部を変位することによって前記第1コイルエンド部を前記動力線とするために折り曲げる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、コイルエンド部の折り曲げによる動力線の形成を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1に係るステーターを示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1のステーターを部分的に示す拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施例1に係るステーターの製造装置を示す側面図である。
【
図4】
図4は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ前の状態を示す拡大側面図である。
【
図5】
図5は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ開始時の状態を示す拡大側面図である。
【
図7】
図7は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ治具の傾斜状態を示す拡大側面図である。
【
図9】
図9は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ中の状態を示す拡大側面図である。
【
図11】
図11は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ完了時の状態を示す拡大側面図である。
【
図13】
図13は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のあるスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ開始時の状態を示す拡大側面図である。
【
図14】
図14は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のあるスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ中の状態を示す拡大側面図である。
【
図16】
図16は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のあるスロットの動力線以外のコイルエンド部に対する折り曲げ完了時の状態を示す拡大側面図である。
【
図18】
図18は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線の折り曲げ前の状態を示す拡大側面図である。
【
図20】
図20は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線の折り曲げ開始時の状態を示す拡大側面図である。
【
図22】
図22は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線の折り曲げ完了時の状態を示す拡大側面図である。
【
図23】
図23は、実施例2に係るステーター製造装置の折り曲げ治具を示す正面図である。
【
図26】
図26は、実施例2の変形例に係るステーター製造装置の折り曲げ治具を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
コイルエンド部の折り曲げによる動力線の形成を容易に行うという目的を、第1コイルエンド部を隣接する第2コイルエンド部の折り曲げに伴う基端部の傾斜に沿って傾斜させ、傾斜した第1コイルエンド部の先端部を把持して折り曲げを行うことによって実現した。
【0014】
図のように、ステーター1の製造方法は、ステーターコア3に保持されたセグメントコイル7の複数のコイルエンド部9の内、最外周の第1コイルエンド部9Aaを折り曲げて動力線11とするものである。
【0015】
この製造方法では、ステーターコア3の径方向で第1コイルエンド部9Aaの内側に隣接する第2コイルエンド部9bを、基端部10bが径方向の外側に向けて傾斜し先端部10aが軸方向に沿うように折り曲げる。この第2コイルエンド部9bの基端部10bの傾斜に沿って、第1コイルエンド部9Aaが傾斜した状態で保持される。そして、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持して変位させることによって、第1コイルエンド部9Aaを動力線11とするために折り曲げる。
【0016】
かかる製造方法は、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aの把持に適宜の手法を採用可能である。一実施形態では、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを一対の壁部25a及び29間に位置させて把持する。一対の壁部の一方29が第1コイルエンド部9Aaと第2コイルエンド部9bとの間に位置し、一対の壁部の一方29の先端に設けられた曲面29aに第1コイルエンド部9Aaを押し付けて折り曲げを行う。
【0017】
第2コイルエンド部9bの折り曲げは、適宜の手法で行うことができるが、一実施形態として歯25aとプッシャー21とを用いてもよい。この場合、第2コイルエンド部9bよりも径方向の内側の隣接するコイルエンド部9間に歯25aを軸方向に差し込んで、第2コイルエンド部9bと共に第1コイルエンド部25aを軸方向に沿った状態から傾斜させる。そして、第2コイルエンド部9bの先端部10aを、プッシャー21により歯25aに対して押し付けて軸方向に沿わせる。
【0018】
第1コイルエンド部9Aaは、折り曲げ前の状態において、第2コイルエンド部9bよりも軸方向で短く、プッシャー21は、第2コイルエンド部9bを第1コイルエンド部9Aaから軸方向に突出する範囲内で歯25aに押し付けてもよい。
【0019】
ステーター1の製造装置15は、歯25aと、プッシャー21と、把持部27と、コントローラー31とを備える。歯25aは、隣接するコイルエンド部9間に挿入可能な部材である。プッシャー21は、コイルエンド部9間に挿入された歯25aに対して挿入の方向に対する交差方向から移動可能な構成である。把持部27は、第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持可能な構成である。コントローラー31は、歯25a、プッシャー21、及び把持部27を制御する。
【0020】
コントローラー31は、ステーターコア3の径方向で第1コイルエンド部9Aaの内側に隣接する第2コイルエンド部9bよりも径方向の内側のコイルエンド部9間に歯25aを軸方向に差し込んで第2コイルエンド部9bと共に第1コイルエンド部9Aaを軸方向に沿った状態から傾斜させる。また、コントローラー31は、プッシャー21により第2コイルエンド部9bの先端部10aを歯25aに対して押し付け、第2コイルエンド部9bの先端部10aを軸方向に沿わせる。そして、コントローラー31は、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持した把持部27を変位することによって、第1コイルエンド部9Aaを動力線11とするために折り曲げる。
【0021】
把持部27は、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを相互間に位置させて把持する一対の壁部25a及び29と、把持の際に第1コイルエンド部9Aaと第2コイルエンド部9bとの間に位置する一対の壁部25a及び29の一方29の先端に設けられ第1コイルエンド部9Aaに押し付けられて折り曲げを行う曲面29aとを備えてもよい。
【0022】
歯25aと把持部27は、ロボットマニピュレーター17によって変位可能な折り曲げ治具19上に配置されてもよい。
【実施例1】
【0023】
[ステーター]
図1は、本発明の実施例1に係るステーターを示す概略斜視図である。
図2は、
図1のステーターを部分的に示す拡大断面図である。
【0024】
図1及び
図2のステーター1は、図示しないローターと共に回転電機を構成するものである。回転電機は、例えば図示しない電動車両の駆動輪を駆動し、駆動輪からの回生制動力によって発電する例えば3相(U相、V相、W相)8極の交流型の永久磁石同期モーターとして構成される。
【0025】
ここで、
図1及び
図2は、ステーターコア3にステーターコイル5を組み込んだ状態を示している。
図1の状態では、ステーターコイル5を構成する各セグメントコイル7のコイルエンド部9の先端部10aが軸方向に沿った状態となっている。軸方向とは、ステーターコア3の軸方向をいう。
【0026】
この
図1の状態に対し、コイルエンド部9は、周方向に折り曲げられた後、溶接により接合されてステーターコイル5を構成する。その後、コイルエンド部9の端末8aが絶縁塗装され、ステーターコイル5の部分を樹脂封止するなどして回転電機のステーター1が形成される。以下の説明では、便宜上
図1に示すものをステーター1として説明する。
【0027】
ステーター1は、上記のように、ステーターコア3と、ステーターコイル5とを備える。ステーターコア3は、例えば複数の円環状の電磁鋼板を積層して構成される。このステーターコア3は、複数のスロット3aを周方向に等間隔で備えている。
【0028】
ステーターコイル5は、ステーターコア3に3相分設けられ、波巻き状となるように構成されている。かかるステーターコイル5は、複数のセグメントコイル7で構成されている。
【0029】
各セグメントコイル7は、例えば断面が矩形の平角線を、U状、例えばヘアピン状に形成したものである。なお、セグメントコイル7の断面形状等は、特に限定されるものではない。複数のセグメントコイル7は、ステーターコア3に対し円周方向に組み合わされている。
【0030】
各セグメントコイル7は、絶縁層の無い端末8aを含む脚部8がステーターコア3のスロット3aに挿入されている。これにより、セグメントコイル7は、ステーターコア3に保持されている。なお、絶縁層は、セグメントコイル7の端末8a以外の部分全体に形成されている。
【0031】
セグメントコイル7の脚部8は、ステーターコア3を貫通している。これにより、端末8aを含む脚部8のコイルエンド部9がステーターコア3から軸方向に突出する。なお、
図1及び
図2は、セグメントコイル7の脚部8がステーターコア3に下方より押し込まれて上方へ突出した状態を示している。ここでの突出は、コイルエンド部9の先端と基端とが軸方向でずれて配置されていることをいう。
【0032】
コイルエンド部9は、各スロット3a内で径方向に一列に配置されている。本実施例では、ステーターコイル5の相に応じて最外周の第1コイルエンド部9a~最内周の第6コイルエンド部9fがスロット3a内に位置する。
【0033】
なお、第1コイルエンド部9a(及び後述する第1コイルエンド部9Aa)~最内周の第6コイルエンド部9fは、同一スロット3a内のコイルエンド部9を意味し、特に各スロット3a内のコイルエンド部9を識別するために用いる。
【0034】
動力線11を有するスロット3aにおいては、動力線用の第1コイルエンド部9Aaの折り曲げによって動力線11が形成され、動力線11と共に第2コイルエンド部9b~第6コイルエンド部9fがスロット3a内に位置する。
【0035】
隣接する層のコイルエンド部9の先端部10a間には、径方向の隙間13が形成されている。この隙間13により、コイルエンド部9の周方向への折り曲げを行い易くする。
【0036】
隙間13を形成するために、第1~第4コイルエンド部9a~9dには、軸方向に沿った先端部10a及び軸方向に対して傾斜した基端部10bを含む(
図12参照)。基端部10bの傾斜は、先端部10aへ向けて漸次径方向の外側に偏倚するように行われている。
【0037】
ここでの先端部10aは、最終的に軸方向に沿う部分をいう。先端部10aは、軸方向に対して厳格に沿う必要はなく、多少傾斜した場合も含む。基端部10bは、先端部10aに対してステーターコア3側に位置する部分をいう。基端部10bの傾斜は、先端部10aが軸方向に対して多少傾斜している場合、この先端部10aよりも傾斜することをいう。
【0038】
動力線11は、クランク状に折り曲げられた形状を有する。動力線11は、軸方向に沿った先端部11a及び軸方向に対して傾斜した基端部11bを含む。基端部11bの傾斜は、先端部11aへ向けて漸次径方向の外側に偏倚するように行われている。基端部11bの軸方向に対する傾斜角度は、第1~第4コイルエンド部9a~9dの基端部10bの軸方向に対する傾斜角度よりも大きい。
【0039】
[ステーターの製造装置及び方法]
図3は、実施例1にかかるステーターの製造装置を示す側面図である。
【0040】
本実施例では、
図3のステーター1の製造装置15を用いてステーター1を製造する。製造装置15は、ロボットマニピュレーター17と、折り曲げ治具19と、クランプ20と、プッシャー21と、コントローラー31とを備えている。
【0041】
ロボットマニピュレーター17は、例えば6軸の垂直多関節型ロボットからなる。ロボットマニピュレーター17の端部には、エンドエフェクターとしての折り曲げ治具19が取り付けられている。なお、ロボットマニピュレーター17は、
図3において1台のみ図示されているが、これに限らずステーター1の周方向に複数台設けられていてもよい。
【0042】
折り曲げ治具19は、隣接する層のコイルエンド部9間の隙間13の形成と動力線11の形成を行うためのものである。なお、隙間13の形成と動力線11の形成は、異なる治具等によって別々に行ってもよい。
【0043】
この折り曲げ治具19は、本体部23と、櫛歯25と、把持部27とが設けられている。本体部23は、例えば金属からなる板状である。この本体部23の一側面23aには、櫛歯25及び把持部27が設けられている。
【0044】
櫛歯25は、ロボットマニピュレーター17の第6軸A6の軸方向に間隔をあけて並ぶ複数、本実施例において3つの歯25a、25b、及び25cが設けられている。歯25a、25b、及び25cは、板状に形成されている。
【0045】
歯25a、25b、及び25cは、第6軸A6から離れる方向に延び、その先端が片刃状に尖っている。これら歯25a、25b、及び25cは、ステーターコア3の軸方向に沿って配置されると共に並び方向がスロット3a内でコイルエンド部9が並ぶステーター1の径方向と一致した状態で、片刃状に傾斜した面が径方向の外側を向く。また、この状態において、径方向の内側の歯25cから外側の歯25aへかけて、順次軸方向で短くなっている。
【0046】
クランプ20は、例えば金属等によって板状に形成され、スロット3a内のコイルエンド部9の基端を径方向の内外から把持するものである。この把持により、スロット3aとコイルエンド部9との間の絶縁紙22が保護されると共にコイルエンド部9の曲げの起点が構成される。
【0047】
プッシャー21は、樹脂等によって形成された柱状である。このプッシャー21は、歯25aに対してロボットマニピュレーター17の第6軸A6に沿った方向の外側で近接離反するように移動可能となっている。
【0048】
このプッシャー21の移動方向は、歯25aのコイルエンド部9間への挿入の方向である軸方向に対する直交方向である径方向である。ただし、プッシャー21の移動方向は、径方向及び第6軸A6に対して傾斜した方向であってもよい。プッシャー21の移動は、直動アクチュエーター等の適宜のアクチュエーターによって行えばよい。プッシャー21の支持は、ロボットマニピュレーター17或いは他の部材に対して行うことが可能である。
【0049】
把持部27は、動力線11用の第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持可能なものである。本実施例の把持部27は、一対の壁部としての歯25cと壁部29とを備える。本実施例では、歯25cを一方の壁部として利用しているが、別途壁部を設けてもよい。
【0050】
壁部29は、歯25cに対して第6軸A6の軸方向に間隔をあけて並ぶ。この把持部27は、歯25cと壁部29との間に第1コイルエンド9Aaの先端部10aを挿入して把持するようになっている。ただし、把持部27は、ロボットハンド等によって構成してもよい。壁部29は、第6軸A6から離れる方向の先端が歯25cに面する角に曲面29aを有している(
図6参照)。
【0051】
コントローラー31は、プロセッサーやメモリー等を有するコンピューターからなる。
図3において、コントローラー31は、概念的にのみ示す。コントローラー31は、ロボットマニピュレーター17を通じて折り曲げ治具19、つまり歯25a、25b、及び25c並びに把持部27を制御すると共に、プッシャー21を制御する。この制御を通じて、ステーター1の製造方法を実現する。
【0052】
以下、コントローラー31による製造装置15の制御として、ステーター1の製造方法について説明する。
【0053】
ステーター1の製造方法では、層間拡大が行われる。層間拡大は、
図1及び
図2のように、スロット3a内で隣接する層のコイルエンド部9間を拡大して隙間13を形成する。層間拡大は、動力線11のないスロット3a及び動力線11のあるスロット3aの双方に対して行われる。
【0054】
動力線11のないスロット3aにおいては、ステーターコア3の径方向で最内周の層を除き、コイルエンド部9を折り曲げる。なお、最内周の層のコイルエンド部9も折り曲げることも可能である。コイルエンド部9の折り曲げは、コイルエンド部9の基端部10bが径方向の外側に向けて傾斜し、先端部10aが軸方向に沿うように行われる。
【0055】
図4は、実施例1のステーターの製造方法に係り、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ前の状態を示す拡大側面図である。
【0056】
図3及び
図4のように、本実施例においては、まずステーター1を所定位置に保持し、ステーターコア3の軸方向が上下方向に沿うように配置する。このとき、クランプ20により第1コイルエンド9a~第6コイルエンド9fの基端を把持する。なお、折り曲げ前の第1コイルエンド9a~第6コイルエンド9fは、全体として軸方向に沿っており、軸方向の長さが各スロット3a内において第1コイルエンド9aから第6コイルエンド9fまで漸次短くなっている。
【0057】
動力線11が形成される部分においては、第1コイルエンド9Aaの軸方向の長さが最も短くなっており、その他の第2コイルエンド9bから第6コイルエンド9fまでは上記同様に漸次軸方向の長さが短くなる(
図3参照)。
【0058】
このステーター1に対して、ロボットマニピュレーター17により折り曲げ治具19を上方に位置させる。このとき、折り曲げ治具19の櫛歯25の歯25a、25b、及び25cは、軸方向に沿うようにし、片刃状の斜面をステーターコア3の径方向の外側に向けておく。
【0059】
そして、櫛歯25の歯25a、25b、及び25cの先端が、それぞれ各層の径方向内側に位置するコイルエンド部9、本実施例では第2、第4、及び第6コイルエンド部9b、9d、及び9fに径方向で対向するように配置される。この配置は、歯25a、25b、及び25cの軸方向の長さの相違、並びにコイルエンド部9の軸方向の長さの相違に基づいて行われる。
【0060】
図5は、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ開始時の状態を示す拡大側面図である。
図6は、
図5の一部を示す拡大側面図である。
【0061】
図5及び
図6のように、ロボットマニピュレーター17により折り曲げ治具19を径方向に移動させる。これにより、櫛歯25の歯25a、25b、及び25cの先端をそれぞれ対向するコイルエンド部9(第2、第4、及び第6コイルエンド部9b、9d、及び9f)に径方向で当接させる。
【0062】
これによって、櫛歯25の歯25a、25b、及び25cの先端は、隣接する層のコイルエンド部9間に位置する。具体的には、歯25aを第2及び第3コイルエンド部9b及び9c間、歯25bを第4及び第5コイルエンド部9d及び9e間に位置させる。また、歯25cは、第6コイルエンド部9fの径方向に内側に位置する。
【0063】
図7は、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ治具の傾斜状態を示す拡大側面図である。
図8は、
図7の一部を示す拡大側面図である。
【0064】
図7及び
図8のように、ロボットマニピュレーター17により折り曲げ治具19を軸方向でステーターコア3に向けてさらに移動させる。これにより、櫛歯25の歯25a及び25bは、隣接する層のコイルエンド部9間である、第2及び第3コイルエンド部9b及び9c間、及び第4及び第5コイルエンド部9d及び9e間に挿入される。
【0065】
この挿入の際には、櫛歯25を歯25a、25b、及び25cの並び方向となるステーターコア3の径方向とステーターコア3の軸方向とに直交する軸線周り、本実施例ではロボットマニピュレーター17の第5軸A5周りに折り曲げ治具19が傾斜される。この結果、櫛歯25の歯25a、25b、及び25cが傾斜される。このため、櫛歯25の歯25a、25b、及び25cの先端がコイルエンド部9の絶縁層に対して非接触となる。
【0066】
図9は、動力線のないスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ中の状態を示す拡大側面図である。
図10は、
図9の一部を示す拡大側面図である。
図11は、同コイルエンド部に対する折り曲げ完了時の状態を示す拡大側面図である。
図12は、
図11の一部を示す拡大側面図である。
【0067】
図9及び
図10のように歯25a、25b、及び25cの挿入過程において、歯25a、25b、及び25cが再び軸方向に沿うようにロボットマニピュレーター17によって折り曲げ治具19を変位させる。
【0068】
櫛歯25の歯25a、25b、及び25cを挿入しきると、第3及び第4コイルエンド部9c及び9dが歯25a及び25b間で折り曲げられ、第5及び第6コイルエンド部9e及び9fが歯25b及び25c間に折り曲げられずに収容される。これによって、第3及び第4コイルエンド部9c及び9dは、基端部10bが径方向の外側へ向けて傾斜し、先端部10aが軸方向に沿った状態となる。
【0069】
一方、最外周の層である第1及び第2コイルエンド部9a及び9bは、径方向の外側に櫛歯25の歯が存在しないため、全体として傾斜した状態となっている。この傾斜した第1及び第2コイルエンド部9a及び9bの先端部10aを、
図11及び
図12のようにプッシャー21により歯25aに径方向の外側から押し付ける。これにより、第1及び第2コイルエンド部9a及び9bの先端部10aも、基端部10bが径方向の外側へ向けて傾斜し、先端部10aが軸方向に沿った状態となる。
【0070】
その後、プッシャー21を第1及び第2コイルエンド部9a及び9bの先端部10aから離し、ロボットマニピュレーター17によって折り曲げ治具19を上昇させる。これにより、櫛歯25の歯25a及び25bが隣接する層のコイルエンド部9間から引き抜かれる。こうして動力線11のないスロット3aでの層間拡大が完了する。
【0071】
一方、動力線11のあるスロット3aでの層間拡大も、
図1及び
図2のように、コイルエンド部9の基端部10bが径方向の外側に向けて傾斜し、先端部10aが軸方向に沿うようにコイルエンド部9を折り曲げる。
【0072】
図13は、動力線のあるスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ開始時の状態を示す拡大側面図である。
【0073】
図13のように、動力線11のないスロット3aと同様、ロボットマニピュレーター17により折り曲げ治具19を軸方向及び径方向に移動させる。これにより、櫛歯25の歯25a及び25bを隣接する層のコイルエンド部9間である、第2及び第3コイルエンド部9b及び9c間、及び第4及び第5コイルエンド部9d及び9e間に挿入する。
【0074】
この挿入の際にも、櫛歯25が傾斜されて、
図7と同様にして櫛歯25の歯25a、25b、及び25cの先端がコイルエンド部9の絶縁層に対して非接触となる。
【0075】
図14は、動力線のあるスロットのコイルエンド部に対する折り曲げ中の状態を示す拡大側面図である。
図15は、
図14の一部を示す拡大側面図である。
【0076】
櫛歯25の歯25a及び25bを挿入しきると、
図14及び15のように、第3及び第4コイルエンド部9c及び9dが歯25a及び25b間で折り曲げられ、第5及び第6コイルエンド部9e及び9fが歯25b及び25c間に折り曲げられずに収容される。一方で、最外周の層である第1及び第2コイルエンド部9Aa及び9bが全体として傾斜した状態となる。
【0077】
これにより、本実施例では、第2コイルエンド部9bよりも径方向の内側の隣接するコイルエンド部9間に歯25aを軸方向に差し込んで、第2コイルエンド部9bと共に第1コイルエンド部9Aaを軸方向に沿った状態から傾斜させている。
【0078】
なお、ステーターコイル5の構成によっては、櫛歯25の歯25aを省略して歯25bによって第3及び第4コイルエンド部9c及び9dと共に第1及び第2コイルエンド部9a及び9bを傾斜させる構成としてもよい。つまり、第2コイルエンド部9bよりも径方向の内側の隣接するコイルエンド部9間は、第2及び第3コイルエンド部9b及び9c間だけでなく、他のコイルエンド部9間、例えば第4及び第5コイルエンド部9d及び9e間であってもよい。
【0079】
図16は、動力線のあるスロットの動力線以外のコイルエンド部に対する折り曲げ完了時の状態を示す拡大側面図である。
図17は、
図16の一部を示す拡大側面図である。
【0080】
図16及び
図17のように、傾斜した第1及び第2コイルエンド部9a及び9bの内、第2コイルエンド部9bの先端部10aを、プッシャー21により歯25aに径方向の外側から押し付ける。
【0081】
この押し付けは、プッシャー21が第1コイルエンド部9Aaに当たらない位置で行われる。本実施例において、プッシャー21は、第2コイルエンド部9bを第1コイルエンド部9Aaから軸方向に突出する範囲内で歯25aに押し付ける。プッシャー21は、この範囲内である限り、その軸方向の位置を動力線11のあるスロット3aと動力線11のないスロット3aとの間で固定することができる。
【0082】
かかる押し付けにより、第2コイルエンド部9bは、基端部10bが径方向の外側へ向けて傾斜し、先端部10aが軸方向に沿うように折り曲げられる。一方、第1コイルエンド部9Aaは、第2コイルエンド部9bの基端部10bに当接し、その基端部10bの傾斜に沿って傾斜した状態で保持される。
【0083】
こうして第1コイルエンド部9Aaは第2コイルエンド部9bに対して分離される。この分離は、上記のように動力線11がないスロット3aと同様の層間拡大によって行うことができる。
【0084】
その後、プッシャー21を第2コイルエンド部9bの先端部10aから離し、ロボットマニピュレーター17によって折り曲げ治具19を上昇させることで、櫛歯25の歯25a及び25bが隣接する層のコイルエンド部9間から引き抜かれる。
【0085】
次いで、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持して変位させることによって、第1コイルエンド部9Aaを動力線11とするために折り曲げる。
【0086】
図18は、動力線の折り曲げ前の状態を示す拡大側面図である。
図19は、
図18の一部を示す拡大側面図である。
【0087】
図18及び
図19のように、本実施例では、ロボットマニピュレーター17により、折り曲げ治具19をコイルエンド部9群の径方向の外側に位置させる。このとき、折り曲げ治具19を傾斜させ、一対の壁部である歯25c及び壁部29を第1コイルエンド部9Aaの先端部10aの傾斜に一致させる。これにより、歯25c及び壁部29間のスペースを第1コイルエンド部9Aaの先端部10aに指向させる。この傾斜は、櫛歯25を傾斜させる際と同様、ロボットマニピュレーター17の第5軸A5周りの回転によって行うことができる。
【0088】
図20は、動力線の折り曲げ開始時の状態を示す拡大側面図である。
図21は、
図20の一部を示す拡大側面図である。
【0089】
こうして歯25c及び壁部29が傾斜した状態で、
図20及び
図21のように、折り曲げ治具19を変位させて、第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを歯25c及び壁部29間で把持する。
【0090】
このとき、折り曲げ治具19、つまり歯25c及び壁部29の傾斜を増加させる。傾斜の増加は、軸方向に対する傾斜角度を増加させることをいう。この傾斜の増加により、第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを円滑に把持することができる。ただし、折り曲げ治具19の傾斜の増加は省略してもよい。
【0091】
この把持の際には、一対の壁部の一方である壁部29が、第1コイルエンド部9Aaと第2コイルエンド部9bとの間に位置する。壁部29は、先端に曲面29aを有する関係上、歯25c等よりも板厚が厚くなる。本実施例では、第1コイルエンド部9Aaが第2コイルエンド部9bに対して上記のように分離させることで、壁部29が厚くても円滑に第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持部27で把持することができる。
【0092】
図22は、動力線の折り曲げ完了時の状態を示す拡大側面図である。
【0093】
図22のように、第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持した状態において、ロボットマニピュレーター17により折り曲げ治具19を径方向の外側且つ軸方向でステーターコア3に近づけるように変位させる。このとき、壁部29が軸方向に沿うように折り曲げ治具19の傾斜を戻す。
【0094】
この結果、壁部29の曲面29aに第1コイルエンド部9Aaが押し付けられ、第1コイルエンド部9Aaの折り曲げを行うことができる。これにより、第1コイルエンド部9Aaがクランク状に折り曲げられて動力線11となる。
【0095】
以上説明したように、本実施例のステーターコア3の製造方法では、ステーターコア3の径方向で第1コイルエンド部9Aaの内側に隣接する第2コイルエンド部9bを、基端部10bが径方向の外側に向けて傾斜し先端部10aが軸方向に沿うように折り曲げる。この第2コイルエンド部9bの基端部10bの傾斜に沿って、第1コイルエンド部9Aaが傾斜した状態で保持される。そして、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持して変位させることによって、第1コイルエンド部9Aaを動力線11とするために折り曲げる。
【0096】
従って、本実施例では、第2コイルエンド9bの折り曲げを利用して第1コイルエンド部9Aaと第2コイルエンド部9bとを分離させ、第1コイルエンド部9Aaの先端部10bを容易且つ確実に把持することができる。そして、把持した第1コイルエンド部9Aaの先端部10bを変位させることで、第1コイルエンド部9Aaを容易且つ確実に折り曲げることができる。
【0097】
このように、本実施例では、第1コイルエンド部9Aaの折り曲げによる動力線11の形成を容易に行うことができる。
【0098】
また、本実施例では、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを一対の壁部である歯25c及び壁部29間に位置させて把持する。このとき、一対の壁部の一方である壁部29が第1コイルエンド部9Aaと第2コイルエンド部9bとの間に位置する。そして、壁部29の先端に設けられた曲面29aに第1コイルエンド部9Aaを押し付けて折り曲げを行う。
【0099】
従って、本実施例では、より容易に第1コイルエンド部9Aaの折り曲げを行うことができる。このように構成すると、壁部29は、曲面29aを有する関係上、歯25cのように板厚を薄くすることはできない。しかし、第1コイルエンド部9Aaが第2コイルエンド部9bに対して分離されているので、歯25c及び壁部29間で容易且つ確実に第1コイルエンド部9Aaを把持することができる。
【0100】
また、本実施例では、第2コイルエンド部9bよりも径方向の内側の隣接するコイルエンド部9間に歯25aを軸方向に差し込んで第2コイルエンド部9bと共に第1コイルエンド部9Aaを軸方向に沿った状態から傾斜させ、第2コイルエンド部9bの先端部10aをプッシャー21により歯25aに対して押し付けて軸方向に沿わせる。
【0101】
従って、本実施例では、第1コイルエンド部9Aaと第2コイルエンド部9bとを歯25aの差し込みだけで容易に傾斜させることができる。しかも、第2コイルエンド部9bの先端部10aを軸方向に沿わせる折り曲げによって、第1コイルエンド部9Aaと第2コイルエンド部9bとを容易に分離させることができる。
【0102】
第1コイルエンド部9Aaは、折り曲げ前の状態において、第2コイルエンド部9bよりも軸方向で短く、プッシャー21は、第2コイルエンド部9bを第1コイルエンド部9Aaから軸方向に突出する範囲内で歯25aに押し付ける。
【0103】
従って、本実施例では、動力線11を形成する場合と動力線11を形成しない場合との間でプッシャー21の軸方向での位置を固定することができ、製造装置15の構造や制御、製造方法の工程の簡素化等を図ることができる。
【0104】
本実施例のステーター1の製造装置15は、隣接するコイルエンド部9間に挿入可能な歯25aと、コイルエンド部9間に挿入された歯25aに対して挿入の方向に対する交差方向から移動可能なプッシャー21と、第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持可能な把持部27と、歯25a、プッシャー21、及び把持部27を制御するコントローラー31とを備える。
【0105】
従って、ステーター1の製造装置15は、本実施例の製造方法を実現して、第1コイルエンド部9Aaの折り曲げによる動力線11の形成を容易に行うことができる。また、製造装置15では、歯25a、プッシャー21、及び把持部27の複雑な制御が不要で、構造や制御の簡素化を図ることができる。
【0106】
歯25aと把持部27は、ロボットマニピュレーターによって変位可能な折り曲げ治具19上に配置された。このため、歯25aと把持部27の動作を共通化して、製造装置15の構造や制御の簡素化を図ることができる。
【実施例2】
【0107】
図23は、本発明の実施例2に係るステーターの製造装置の折り曲げ治具を示す正面図である。
図24は、
図23の折り曲げ治具の背面図である。
図25は、
図23の折り曲げ治具の側面図である。なお、実施例2は、基本構成が実施例1と共通するため、実施例1と対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0108】
実施例2では、
図23~
図25のように、折り曲げ治具19の把持部27の位置を実施例1に対して変更したものである。すなわち、折り曲げ治具19は、本体部23の一側面23aに櫛歯25を備える一方、本体部23の他側面23bに把持部27を備える。その他は実施例1と同一である。
【0109】
図26は、変形例に係る折り曲げ治具を示す正面図である。
【0110】
変形例では、折り曲げ治具19の本体部23の一側面23aに櫛歯25及び把持部27を備えるが、把持部27と櫛歯25とが本体部23の長手方向の反対側の端部にそれぞれ設けられている。その他は、実施例1と同一である。
【0111】
かかる実施例においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。また、把持部27が櫛歯25と並列に設ける必要がないため、折り曲げ治具19の寸法を小さくすることが可能となる。なお、把持部27の位置は、折り曲げ治具19の姿勢を制御して、動力線11用の第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持できる限りにおいて、本体部23上の種々の位置とすることが可能である。
【0112】
なお、把持部27は、必ずしも折り曲げ治具19と一体となっている必要はなく、別体の治具に設けてもよい。実施例1も同様である。
【符号の説明】
【0113】
1 ステーター
3 ステーターコア
5 ステーターコイル
7 セグメントコイル
9 コイルエンド部
9a~9f 第1~第6コイルエンド部
9Aa 第1コイルエンド部
10a 先端部
10b 基端部
11 動力線
15 製造装置
17 ロボットマニピュレーター
19 折り曲げ治具
21 プッシャー
25a、25b、及び25c 歯
27 把持部
29 壁部
29a 曲面
【要約】
コイルエンド部の折り曲げによる動力線の形成を容易に行うことが可能なステーターの製造方法を提供する。ステーターコア3に保持されたセグメントコイル7の複数のコイルエンド部9の内、最外周の第1コイルエンド部9Aaを折り曲げて動力線11とするステーター1の製造方法であって、ステーターコア3の径方向で第1コイルエンド部9Aaの内側に隣接する第2コイルエンド部9bを、基端部10bが径方向の外側に向けて傾斜し先端部10aが軸方向に沿うように折り曲げ、第2コイルエンド部9bの基端部10bの傾斜に沿って第1コイルエンド部9Aaが傾斜した状態で保持され、傾斜した第1コイルエンド部9Aaの先端部10aを把持して変位させることによって第1コイルエンド部9Aaを動力線11とするために折り曲げる。