IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ノリタケカンパニーリミテドの特許一覧

<>
  • 特許-装飾用組成物およびセラミックス製品 図1
  • 特許-装飾用組成物およびセラミックス製品 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-16
(45)【発行日】2025-01-24
(54)【発明の名称】装飾用組成物およびセラミックス製品
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/88 20060101AFI20250117BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20250117BHJP
【FI】
C04B41/88 D
C09D1/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024558446
(86)(22)【出願日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2024022515
【審査請求日】2024-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2023103893
(32)【優先日】2023-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】前野 吉秀
(72)【発明者】
【氏名】菊川 結希子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祥浩
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-235169(JP,A)
【文献】国際公開第2022/209724(WO,A1)
【文献】特開平08-183682(JP,A)
【文献】特開平08-290985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/88
C09D 1/00-1/12
B44D 2/00-5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、
貴金属元素と、マトリクス形成元素と、を含み、
前記貴金属元素は、
Ptからなる第1元素と、
Rhからなる第2元素と、
PdおよびIrからなる群から選択される少なくとも1種である第3元素と、
を含み、
前記マトリクス形成元素は、Biを含み、
ここで、前記貴金属元素と前記マトリクス形成元素との合計を100モル%とするモル比において、
前記貴金属元素の含有割合が80モル%以上であり、
前記第2元素と前記第3元素との合計が6モル%以上60モル%以下である、装飾用組成物。
【請求項2】
前記第1元素のモル分率に対する前記第2元素と前記第3元素との合計モル分率の比((第2元素+第3元素)/第1元素)が0.1以上1以下である、請求項1に記載の装飾用組成物。
【請求項3】
前記モル比において、Ptの含有割合が50モル%以上80モル%以下である、請求項2に記載の装飾用組成物。
【請求項4】
前記モル比において、Rhの含有割合が3モル%以上10モル%以下である、請求項1または2に記載の装飾用組成物。
【請求項5】
前記モル比において、Pdの含有割合が10モル%以上35モル%以下である、請求項1または2に記載の装飾用組成物。
【請求項6】
前記貴金属元素は、さらに第4元素を含み、
前記第4元素は、Au、Ag、RuおよびOsからなる群から選択される少なくとも一種の元素である、請求項1または2に記載の装飾用組成物。
【請求項7】
前記モル比において、前記第4元素の含有割合が18.5モル%以下である、請求項6に記載の装飾用組成物。
【請求項8】
セラミックス基材と、
前記セラミックス基材の上に配置され、請求項1または2に記載の装飾用組成物の焼成体からなる銀色装飾部と、を備えており、
前記銀色装飾部は、SCI方式で測定したときの8°グロス値が750以上であり、かつ、
前記8°グロス値をSCE方式で測定したときの前記銀色装飾部の明度Lで除した値(8°グロス値/明度L)が20以上である、セラミックス製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾用組成物およびセラミックス製品に関する。本出願は、2023年6月26日に出願された日本国特許出願第2023-103893号に基づく優先権を主張しており、その出願の全内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
陶磁器、ガラス器、琺瑯器などのセラミックス製品の表面には、優美または豪華な印象を与えるために、金色系や銀色系の装飾部が形成されることがある。かかる装飾部は、例えば、金属レジネートなどの金属有機化合物を含有する組成物をセラミックス製品の表面に塗布し、焼成することによって形成される。例えば特許文献1~3には、陶磁器等にこのような装飾部を形成するための組成物の一例が開示されている。特許文献1では、75%以上の金(Au)を含み、装飾用のホワイトゴールド合金を形成する組成物が開示されている。特許文献2では、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ビスマス(Bi)を必須の成分として含み、電子レンジ対応のプラチナ色の装飾部を形成する組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-214718号公報
【文献】特開2001-130985号公報
【文献】特開平01-000179号公報
【発明の概要】
【0004】
近年では金の価格が高騰する傾向にあり、装飾用の組成物においても金の含有割合が高い組成物から、白金や銀の含有割合を従来よりも多くした組成物への変更が検討されている。しかしながら、本発明者らが検討した結果によれば、白金を従来よりも多く含む組成物では、焼成後の装飾部において銀色が黒ずむことや、光沢を損なうことを見出した。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、発色性と光沢に優れる銀色装飾部および該銀色装飾部を実現する装飾用組成物を提供することにある。
【0006】
上記目的を実現するべく、ここに開示される装飾用組成物は、セラミック基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、貴金属元素と、マトリクス形成元素と、を含む。上記貴金属元素は、Ptからなる第1元素と、Rhからなる第2元素と、PdおよびIrからなる群から選択される少なくとも1種である第3元素と、を含む。上記マトリクス形成元素は、Biを含む。ここで、上記貴金属元素と上記マトリクス形成元素との合計を100モル%とするモル比において、上記貴金属元素の含有割合が80モル%以上であり、上記第2元素と上記第3元素との合計が6モル%以上60モル%以下である。
【0007】
PtとともにRh、Pd、Irを含む組成物を焼成すると、焼成中にRh、Pd、Irが酸化物の形態としてPt粒子の周囲に付着し、Pt粒子の凝集が抑制される。これにより、焼成によってPt粒子が粗大化することを抑制される。また、Pt粒子が凝集しないため組成物の焼成膜(銀色装飾部)において均等にPt粒子が存在する。したがって、上記した構成によれば、優れた発色性や光沢を有する銀色装飾部を実現する装飾用組成物を提供することができる。
【0008】
ここに開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記第1元素のモル分率に対する上記第2元素と上記第3元素との合計モル分率の比((第2元素+第3元素)/第1元素)が0.1以上1以下である。
かかる構成によれば、より好適な発色性および光沢を有する銀色装飾部を実現する装飾用組成物が提供される。
【0009】
ここに開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記モル比において、Ptの含有割合が50モル%以上80モル%以下である。
かかる構成によれば、銀色装飾部においてより好適な発色を実現することができる。
【0010】
ここに開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記モル比において、Rhの含有割合が3モル%以上10モル%以下である。
かかる構成によれば、ここに開示される技術の効果をより安定して発揮させることができる。
【0011】
ここに開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記モル比において、Pdの含有割合が10モル%以上35モル%以下である。
かかる構成によれば、より好適な光沢を有する銀色装飾部を実現する装飾用組成物を提供することができる。
【0012】
ここに開示される装飾用組成物の好ましい一態様では、上記貴金属元素は、さらに第4元素を含み、上記第4元素は、Au、Ag、RuおよびOsからなる群から選択される少なくとも一種の元素である。また、ここに開示される装飾用組成物の別の好ましい一態様では、上記モル比において、上記第4元素の含有割合が18.5モル%以下である。
かかる構成によれば、ここに開示される技術の効果を好適に発揮することができ、発色性や光沢に優れる銀色装飾部を提供することができる。
【0013】
また、別の側面からここに開示されるセラミックス製品が提供される。ここに開示されるセラミックス製品は、セラミックス基材と、上記セラミックス基材の上に配置され、ここで開示される装飾用組成物の焼成体からなる銀色装飾部と、を備えている。上記銀色装飾部は、SCI方式で測定したときの8°グロス値が750以上であり、かつ、上記8°グロス値をSCE方式で測定したときの上記銀色装飾部の明度Lで除した値(8°グロス値/明度L)が20以上である。
かかる構成によれば、優れた発色性と光沢を有する銀色装飾部を備えたセラミックス製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1に係る銀色装飾部のFE-SEM観察画像(10000倍)である。
図2図2は、比較例2に係る銀色装飾部のFE-SEM観察画像(10000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ここに開示される技術の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって実施に必要な事柄(例えば、加飾されるセラミックス基材の製造方法など)は、本明細書により教示されている技術内容と、当該分野における当業者の一般的な技術常識とに基づいて理解することができる。ここに開示される技術の内容は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」との表記は、A以上B以下を意味する。
【0016】
<装飾用組成物>
ここに開示される装飾用組成物(以下、単に「組成物」ということがある。)は、セラミックス基材の上に銀色装飾部を形成するために用いられる。ここに開示される装飾用組成物は、貴金属元素と、マトリクス形成元素と、を含む。貴金属元素は、少なくともPtと、Rhと、PdおよびIrのうち少なくとも一方と、を含んでいる。また、マトリクス形成元素は、少なくともBiを含んでいる。そして、貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100モル%とするモル比において、貴金属元素の含有割合が80モル%以上であり、RhとPdとIrとの合計が6モル%以上60モル%以下である。かかる装飾用組成物を焼成することにより、セラミックス基材の上に発色性および光沢が良好な銀色装飾部を形成することができる。
【0017】
このような効果が得られる理由としては、特に限定的に解釈されるものではないが、例えば以下のように推測される。白金(Pt)元素は、例えば金(Au)元素や銀(Ag)元素等の他の貴金属元素よりも過焼結しやすく、Pt粒子が凝集しやすい傾向にある。Pt粒子が過焼結した場合には銀色装飾部の表面に凹凸が生じ、これによって光沢が損なわれ得る。また、Ptは、銀色装飾部の着色に特に貢献する成分である。このため、装飾用組成物の焼成体(銀色装飾部)においてPt粒子が過度に粒成長した場合、または過焼結が発生した場合、当該Pt粒子が少ない領域では発色性や光沢が低下し得る。そこで、ここに開示される装飾用組成物では、Pt元素に加えて、Rhを必須の構成元素として含んでいる。また、PtおよびRhに加えて、PdおよびIrのうちいずれか1つ、またはその両方を含んでいる。本発明者らの検討によれば、Ptと共にRh、Pd、Irを焼成すると、焼成中にRh、Pd、Irが酸化物の形態としてPt粒子の周囲に付着し、Pt粒子の凝集を抑制することを見出した。これにより、焼成によってPt粒子が粗大化することを抑制することができる。また、Pt粒子が凝集しないため銀色装飾部において均等にPt粒子が存在する。これらによって、銀色装飾部の発色性や光沢が向上させることができる。
【0018】
上記したとおり、ここに開示される装飾用組成物は、少なくとも貴金属元素とマトリクス形成元素とを含んでいる。以下、ここに開示される装飾用組成物が含み得る各種成分について具体的に説明する。
【0019】
貴金属元素は、装飾用組成物の焼成体(以下、単に「銀色装飾部」ともいう。)の着色に寄与する成分である。貴金属元素としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、およびオスミウム(Os)が挙げられる。ここに開示される装飾用組成物は、貴金属元素として第1元素と第2元素と第3元素とを少なくとも含んでいる。第1元素は、白金(Pt)である。第2元素は、ロジウム(Rh)である。第3元素(第3元素群)は、パラジウム(Pd)およびイリジウム(Ir)からなる群から選択される少なくとも一種である。すなわち、ここに開示される装飾用組成物は、Ptと、Rhとを必須の構成成分として含む。また、ここに開示される装飾用組成物は、PtおよびRhに加えて、PdおよびIrのうちいずれか一方、またはその両方を含んでいる。これにより、良好な発色と光沢を有する銀色装飾部を実現する装飾用組成物を提供することができる。なお、貴金属元素は、例えば、金属レジネート(金属の有機化合物)の状態で、装飾用組成物中に含まれ得る。ただし、装飾用組成物中の貴金属元素の状態は、上述の金属レジネートに限定されず、錯体や重合体であってもよいし、金属粒子であってもよい。
【0020】
ここに開示される装飾用組成物は、当該装飾用組成物に含まれる貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100モル%とするモル比(以下、単に「装飾用組成物のモル比」ともいう。)において、貴金属元素の含有割合が少なくとも80モル%以上である。貴金属元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、83モル%以上であることが好ましく、84モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であってもよい。また、ここに開示される装飾用組成物は、マトリクス形成元素を含むため、装飾用組成物のモル比における貴金属元素の含有割合は、98モル%以下であることが好ましく、97モル%以下であることがより好ましく、96モル%以下であってもよい。貴金属元素の含有割合が上記した範囲であることにより、装飾用組成物における貴金属成分の割合が十分に確保され、発色や光沢が良好な銀色装飾部を実現することができる。
【0021】
白金(Pt)は、銀色装飾部において、光沢のある銀色系色調を呈する成分である。また、Ptは、AuやPd等よりも比較的安価であり、コストの観点からも有利である。ここに開示される装飾用組成物は、Ptを必須の構成成分として含んでいる。Ptは、例えば、Ptレジネートの構成元素として装飾用組成物に含まれることが好ましい。Pt元素の含有割合は、装飾用組成物に含まれる貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100モル%としたときのモル比において、35モル%以上であることが好ましく、39モル%以上であることがより好ましく、50モル%以上であることがさらに好ましい。これにより、銀色装飾部のグロス値(光沢度)を好適に向上させることができる。装飾用組成物中のPtの含有割合が高すぎる場合、Rh、Pd、Irによる過焼結抑制効果が十分に発揮されず、銀色装飾部の発色性や光沢が損なわれる虞がある。かかる観点からは、Pt元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、例えば、90モル%以下であることが好ましく、85モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることがさらに好ましい。なお、かかる装飾用組成物中の各元素の含有割合は、例えばICP発光分析により測定することができる。
【0022】
Ptは、貴金属元素の中でも特に光沢のある銀色系色調を呈する成分であり、このようなPtを多く含有することにより、さらに好適な発色と光沢を有する銀色装飾部を提供することができる。かかる観点からは、Ptが装飾用組成物に含まれる貴金属元素の中で主要な構成成分(すなわち、Ptが装飾用組成物に含まれる貴金属元素のうち50モル%以上)であることが好ましい。Ptは、装飾用組成物に含まれる貴金属元素を100モル%としたときに、例えば50モル%以上であって、57モル%以上であることが好ましく、60モル%以上であってもよく、70モル%以上であってもよい。上記したとおり、ここに開示される装飾用組成物は、発色性や光沢を良好とする観点から、貴金属元素としてPtの他にRh、Pd、Ir等を含む。したがって、Ptは、装飾用組成物に含まれる貴金属元素を100モル%としたときに、例えば94モル%以下であることが好ましく、92.5モル%以下であることがより好ましい。
【0023】
ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)およびイリジウム(Ir)は、焼成によって生じるPt粒子の粒子径の増大を好適に抑制し、適度な粒子径を有するPt粒子の数を増加させることができる成分である。これにより、銀色装飾部の強度が向上すると共に、発色が良好な銀色装飾部が実現される。特にRhは、Pt粒子の粒子径の増大を好適に抑制する。このため、ここに開示される装飾用組成物は、Rhを必須の構成成分として含んでいる。また、ここに開示される装飾用組成物は、PtおよびRhに加えて、Pdおよび/またはIrを含んでいる。
【0024】
ここに開示される装飾用組成物は、当該装飾用組成物に含まれる貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100モル%としたときのモル比において、第2元素と第3元素との合計(言い換えれば、RhとPdとIrとの合計)が6モル%以上60モル%以下である。装飾用組成物のモル比において、第2元素と第3元素との合計は、6モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、17モル%以上であることがさらに好ましく、20モル%以上であってもよい。これにより上記したような効果が発揮されて、銀色装飾部の発色性や光沢が好適に向上する。Rh、Pd、Irは、Ptと比較するとやや光沢度が低く、曇った銀色を呈する傾向にある。また、装飾用組成物においてRh、Pd、Irが過剰に含まれる場合には、Pt粒子が過剰に小さくなる虞があり、これにより銀色装飾部においてPt粒子が少ない(または存在しない)領域が生じ得る。このため、Rh、Pd、Irが過剰に含まれることは発色性の観点から好ましくない。また、Rh、Pd、Irは高価であるため、コストの観点からも不利になり得る。これらの観点からは、第2元素と第3元素との合計は、60モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、46モル%以下であることがさらに好ましく、40モル%以下であってもよく、30モル%以下であってもよい。
【0025】
Rh、Pd、Irの装飾用組成物におけるそれぞれの含有割合は、RhとPdとIrとの合計が上記した範囲を満たすように調整されている限りにおいて特に限定されない。Rh元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、1モル%以上であることが好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、3モル%以上であることがさらに好ましく、3.9モル%以上であることが特に好ましい。装飾用組成物中にRhが過剰に含まれる場合には、Pt粒子が過剰に小さくなる虞がある。かかる観点からは、Rh元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、10モル%以下であることが好ましく、8モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であってもよい。
【0026】
ここに開示される装飾用組成物は、Pdを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。装飾用組成物がPdを含む場合、Pd元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、1モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることがさらに好ましく、12モル%以上であることが特に好ましい。装飾用組成物中においてPdがPtよりも多く含まれる場合には、グロス値が低くなる傾向にある。かかる観点からは、Pdの含有割合は、装飾用組成物のモル比において、45モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましく、35モル%以下であることがさらに好ましく、25モル%以下であることが特に好ましい。
【0027】
ここに開示される装飾用組成物は、Irを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。装飾用組成物がIrを含む場合、Ir元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、1モル%以上であることが好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましく、2モル%以上であることがさらに好ましい。また、Irの含有割合は、装飾用組成物のモル比において、5モル%以下であることが好ましく、4モル%以下であることがより好ましく、3モル%以下であることがさらに好ましく、2.6モル%以下であることが特に好ましい。
【0028】
上記したとおり、Ptと共にRh、Pd、Irを含むことにより、Ptの過焼結等が好適に抑制され、銀色装飾部の発色性や光沢が向上する。例えば、Ptと、(Rh+Pd+Ir)とのモル分率の比が好適に調整されていることにより、上記した効果がさらに良好に発揮されて銀色装飾部のグロス値がより向上する傾向にある。特に限定されないが、第1元素のモル分率に対する第2元素と第3元素との合計モル分率の比((第2元素+第3元素)/第1元素)が、0.08以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましく、0.3以上であることが特に好ましい。Ptのモル分率に対して、RhとPdとIrとの合計モル分率が高すぎる場合には、銀色装飾部のグロス値が低くなる傾向にある。かかる観点からは、第1元素のモル分率に対する第2元素と第3元素との合計モル分率の比((第2元素+第3元素)/第1元素)が、1.2以下であることが好ましく、1以下であることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。
【0029】
ここに開示される装飾用組成物は、上述した元素以外の貴金属元素として第4元素を含んでいてもよい。このような第4元素としては具体的に、金(Au)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)が挙げられる。
【0030】
ここに開示される装飾用組成物は、第4元素を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。例えば、装飾用組成物が第4元素を含む場合、第4元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、18.5モル%以下であることが好ましく、16モル%以下であってもよく、10モル%以下であってもよく、5モル%以下であってもよい。具体的に装飾用組成物がAuを含む場合、Au元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、0.5モル%以上18.5モル%以下であることが好ましく、1モル%以上18.3モル%以下であることがより好ましい。また、装飾用組成物がAgを含む場合、Ag元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、0.5モル%以上16モル%以下であることが好ましく、1モル%以上15.5モル%以下であることがより好ましい。装飾用組成物がAuやAgを含むことにより、銀色装飾部の銀色が好適に調整されてグロス値が高くなる傾向にある。ただし、上記したとおり、AuやAgはここに開示される装飾用組成物において必須の構成成分ではなく、当該装飾用組成物において含まれていなくてもよい。
【0031】
マトリクス形成元素は、セラミックス基材への銀色装飾部の定着性を向上させる成分である。本明細書において「マトリクス形成元素」とは、装飾用組成物の焼成体(銀色装飾部)において酸化物の状態で非晶質マトリクスを構築し得る金属元素と半金属元素とを包含する概念である。また、「非晶質マトリクス」とは、所定の金属元素および半金属元素の非晶質酸化物の(アモルファス構造の酸化物)が骨格となったうえで、種々の金属元素(または半金属元素)が酸化物として、または陽イオンの形態で、骨格内に存在している構造のことをいう。非晶質マトリクスを有する材料(非晶質材料)の一例として、ガラスが挙げられる。かかるマトリクス形成元素のとしては、Si、Bi、Zr、Ti、Al、Ni、Cr、Sm、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Sn、Zn、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Li、Na、K、Rb、B、V、Fe、Cu、P、Sc、Pm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、In、Coが挙げられる。なお、上述した貴金属元素の中には、焼成処理において一部が非晶質酸化物となって非晶質マトリクスの一部を構成し得る元素(Agなど)がある。しかし、本明細書では、便宜上、上記貴金属元素にて挙げた元素はマトリクス形成元素とみなさないものとする。
また、貴金属元素と同様に、装飾用組成物中のマトリクス形成成分の形態は、特に限定されず、金属レジネート(金属の有機化合物)、錯体、重合体、微細な粒子(ガラスフリット)などの形態をとり得る。
【0032】
ここに開示される装飾用組成物は、マトリクス形成元素として少なくともビスマス(Bi)を含んでいる。Biは、焼成後に非晶質マトリクスの骨格を形成する成分であって、基材に対する接着性を向上させることができる成分である。かかるBiを含むことにより、接着性が向上するため、例えばアルカリ性薬剤に暴露された際の銀色装飾部の剥離を好適に抑制することができる。
【0033】
Bi元素の含有割合は、装飾用組成物に含まれる貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100モル%としたときのモル比において、2.5モル%以上であることが好ましく、3モル%以上であることがより好ましく、6モル%以上であってもよい。これにより、上記した基材への接着性向上効果が好適に発揮され得る。一方で、装飾用組成物におけるBiの含有割合を増加させすぎると、相対的に貴金属元素の含有割合が低下するため、銀色装飾部の発色性や光沢が損なわれる虞がある。かかる観点からは、Bi元素の含有割合は、装飾用組成物のモル比において、例えば、20モル%以下であることが好ましく、15.5モル%以下であることがより好ましく、15.2モル%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
ここに開示される装飾用組成物は、ここに開示される技術の効果を損なわない範囲において、Bi以外の金属元素もしくは半金属元素をマトリクス形成元素として含有してもよい。かかる他の元素としては、例えば、ケイ素(Si)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、サマリウム(Sm)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、クロム(Cr)、スズ(Sn)等が挙げられる。導電性組成物全体を100モル%としたときにその他の元素の含有割合は、例えば、5モル%以下であってもよく、3モル%以下であってもよく、1.6モル%以下であってもよく、その他の元素が含まれていなくてもよい。
【0035】
以上、ここに開示される装飾用組成物が含み得る元素について説明した。なお、ここに開示される装飾用組成物は、上述した成分の他に、基材の表面への定着性や銀色装飾部の成形性などを考慮して種々の成分を添加されていると好ましい。以下、ここに開示される装飾用組成物に含まれ得る他の成分について説明する。ただし、以下で説明する他の成分は、ここに開示される技術の効果を著しく妨げない限りにおいて、装飾用組成物に使用され得る従来公知の成分を特に制限することなく使用することができる。すなわち、ここに開示される装飾用組成物は、その用途に応じて、上述した必須元素以外の成分を適宜変更することができる。
【0036】
まず、上述した通り、ここに開示される装飾用組成物は、貴金属元素とマトリクス形成元素のそれぞれを金属レジネートの状態で含有してもよい。この場合、装飾用組成物は、当該金属レジネートを形成するための有機化合物を含有する。有機化合物は、金属レジネートの生成に用いられ得る従来公知の樹脂材料を特に制限することなく使用することができる。かかる樹脂材料としては、オクチル酸(2-エチルヘキサン酸)、アビエチン酸、ナフテン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸、ネオデカン酸などの高炭素数(例えば炭素数8以上)のカルボン酸;スルホン酸;ロジンなどに含まれる樹脂酸;テレピン油、ラベンダー油などの精油成分を含む樹脂硫化バルサム、アルキルメルカプチド(アルキルチオラート)、アリールメルカプチド(アリールチオラート)、メルカプトカルボン酸エステル、アルコキシドなどが挙げられる。
【0037】
また、貴金属元素とマトリクス形成元素のそれぞれを金属レジネートの状態で含有する装飾用組成物では、該金属レジネートを分散または溶解する有機溶媒が用いられていることが好ましい。かかる有機溶媒としては、従来からレジネートペーストに使用されているものや、水金液に使用されているものを特に制限なく使用することができる。例えば、1,4-ジオキサン、1,8-シネオール、2-ピロリドン、2-フェニルエタノール、N-メチル-2-ピロリドン、p-トルアルデヒド、安息香酸ベンジル、安息香酸ブチル、オイゲノール、カプロラクトン、ゲラニオール、サリチル酸メチル、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、シクロペンチルメチルエーテル、シトロネラール、ジ(2-クロロエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジヒドロカルボン、ジブロモメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ニトロベンゼン、ピロリドン、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、プレゴン、ベンジルアセテート、ベンジルアルコール、ベンズアルデヒド、テレピン油、ラベンダー油などが挙げられる。なお、これらの有機溶剤は、1種または2種以上を用いてもよい。なお、金属レジネートは、例えば、レジネートペーストとして市販されているため、かかるレジネートペーストをそのまま使用してもよい。
【0038】
装飾用組成物に含まれ得る溶媒の重量比は、装飾用組成物の塗布方法によって好適な範囲が異なるため特に限定されず、適宜調整すればよい。例えば、装飾用組成物に占める溶媒の含有量が概ね10wt%~50wt%程度とすればよい。一例として、インクジェットで塗布する場合には、装飾用組成物に占める溶媒の含有量が例えば10wt%~50wt%とするのが好ましい。また、他の例として、刷毛塗りの場合には、装飾用組成物に占める溶媒の含有量が例えば10wt%~30wt%とするのが好ましい。
【0039】
装飾用組成物の粘度は、装飾用組成物の塗布方法によって適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。装飾用組成物の粘度は、例えば10mPa・s~500mPa・s程度とすればよい。なお、装飾用組成物の粘度は溶媒の量や樹脂バルサムの添加などにより適宜調整することができる。
【0040】
なお、ここに開示される装飾用組成物は、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、適宜他の成分を付加的に含んでいてもよい。付加的な成分としては、例えば、有機バインダ、保護材、界面活性剤、分散剤、増粘剤、pH調整剤、防腐剤、消泡剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤などが例示される。
【0041】
ここに開示される装飾用組成物は、例えば、少なくとも貴金属成分とマトリクス形成成分のそれぞれを含むように、所望の金属元素を含む材料を所定の割合になるように混合することで製造することができる。なお、上述した通り、ここに開示される装飾用組成物に含まれる貴金属成分とマトリクス形成成分の形態は、金属レジネートに限定されず、錯体、重合体、微細粒子であってもよい。なお、貴金属成分とマトリクス形成成分が金属レジネート以外の形態をとる場合には、上述した溶媒や付加的成分についても、該貴金属成分とマトリクス形成成分の形態に応じて適宜変更することが好ましい。例えば、微細粒子のような溶媒に溶解しない形態で、貴金属成分とマトリクス形成成分を含有させる場合には、当該微細粒子を適切に分散させることができる溶媒を選択するとともに、付加的成分として分散剤などを添加することが好ましい。
【0042】
<セラミックス製品>
以下、ここに開示されるセラミックス製品の一実施形態について説明する。ここに開示されるセラミックス製品は、貴金属成分を含む銀色装飾部を備えている。例えば、セラミックスを主体として構成される基材の上に、銀色装飾部を備えていてもよい。あるいは、例えば、セラミックスを主体として構成される基材の上に、非晶質材料(典型的にはガラス)を主体として構成されるコート層と、銀色装飾部と、を備えていてもよい。かかるセラミックス製品は、上記した装飾用組成物をセラミックス基材の上に塗布し、焼成することによって、好適に作成することができる。
【0043】
(1)基材
基材は、セラミックスを主体として構成される成形体(例えば、セラミックスの含有率が50質量%以上である成形体)である。かかる基材を構成するセラミックスとしては、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、マグネシア(MgO)、チタニア(TiO)、セリア(CeO)、イットリア(Y)等が挙げられる。基材の厚みや形状、硬さや色などは、セラミックス製品の用途に応じて適宜変更することができ、ここに開示される技術を限定するものではないため、詳細な説明は省略する。なお、上記物質名の後の括弧内に示された化学式は、当該物質の代表組成を示すものであり、実際のセラミックの組成がかかる化学式のものに限定されることを意図したものではない。
【0044】
(2)コート層
コート層は、非晶質材料(例えばガラス)を主体として構成される層(例えば、非晶質材料の含有率が50質量%以上である層)である。かかるコート層は、基材の保護などのために基材の表面に形成され得る。なお、コート層は必須ではなく、他の形態において省略することも可能である。かかるコート層は、例えば、釉薬を基材の表面に塗布した後に焼成することにより形成される。ここで釉薬とは、焼成されることで酸化物となり、非晶質マトリクスを形成する金属元素および半金属元素を含有する薬剤である。この釉薬は、銀色装飾部の非晶質領域に含まれる元素と同じ元素を含んでいてもよいし、異なる元素を含んでいてもよい。
【0045】
コート層の組成は、ここに開示される技術の効果を著しく阻害しない限りにおいて、特に限定されず、セラミックス製の基材の保護に使用され得る従来公知の成分を適宜選択することができる。一例として、コート層は、Si、Al、Fe、Mg、Na、Zn、K、Ca、Snなどを含み得る。そして、これらの元素は、非晶質酸化物の形態でマトリクスを形成し得る。すなわち、コート層には、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化鉄(Fe)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カリウム(NaO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化カリウム(KO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化スズ(SnO)などを含む非晶質マトリクスが形成され得る。なお、コート層における各元素の存在比率は、ここに開示される技術を限定するものではないため、詳細な説明を省略する。
【0046】
(3)銀色装飾部
ここに開示されるセラミックス製品は、銀色装飾部を有している。銀色装飾部は、上記した基材の表面またはコート層の表面に形成され得る。ここに開示されるセラミックス製品の銀色装飾部は、貴金属成分を含んでいる。当該貴金属成分は、貴金属粒子を含み得る。例えば、貴金属成分は貴金属粒子から構成されていてもよい。かかる銀色装飾部は、SCI方式で測定したときの8°グロス値が750以上であり、かつ、8°グロス値をCE方式で測定したときの明度Lで除した値(8°グロス値/明度L)が20以上である。すなわち、ここに開示される銀色装飾部は、光沢があり、発色が良好な銀色を呈する装飾部である。
【0047】
銀色装飾部の光沢度は、SCI方式で測定した8°グロス値(以下、単に「8°グロス値」ともいう。)によって評価することができる。ここで、「8°グロス値」とは、光沢度を示す値であり、8°グロス値が高いほど銀色装飾部に光沢があり艶感が向上する。8°グロス値の測定は、JIS Z 8741:1997に基づく60°光沢計に近似するように設計された分光測色計(例えばコニカミノルタセンシング株式会社製のCM-700dまたはCM-600dなど)を用いて行うことができる。なお、SCI(Specular Components Include)方式とは、正反射光を含めて測定する測定方式である。
【0048】
また、銀色装飾部の発色性は、SCE方式で測定された明度L(以下、単に「明度L」ともいう。)によって評価することができる。明度とは、JIS Z 8781:2
013に基づくL表色系において、白みの程度を示す値であり、明度Lの値が高いほど、白みが強いことを示す。明度Lの測定は、JIS Z 8722:2009に準拠した分光測色計(例えばコニカミノルタセンシング株式会社製のCM-700dまたはCM-600dなど)を用いて行うことができる。なお、SCE(Specular Components Exclude)方式とは、正反射光を取り除き、拡散反射光のみを測定する方法であり、拡散反射測定方式とも呼ばれる。SCE方式では、同じ色であっても表面状態によって測定値が異なり、目視によって色を認識するときと近い測定結果を得ることができる。
【0049】
セラミックス製品の銀色装飾部は、上記した装飾用組成物をセラミックス基材(またはコート層)の表面に塗布して焼成することにより作製することができる。この焼成の際に、Pt粒子が過焼結した銀色装飾部においては、8°グロス値が低く、明度Lが高くなりすぎる傾向にある。8°グロス値が低く、明度Lが高すぎる銀色装飾部は、目視において銀色の光沢が十分に感じられず、曇って見える。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果によれば、8°グロス値と明度Lとの両方の指標に基づいて銀色装飾部を評価することにより、目視において曇りがなく光沢と発色が良好に感じられる銀色装飾部が実現されることを見出した。
【0050】
具体的には、ここに開示されるセラミックス製品の銀色装飾部は、8°グロス値が750以上であり、かつ、8°グロス値を明度Lで除した値(8°グロス値/明度L)が20以上である。8°グロス値は、この値が高くなるほどより光沢のある銀色を呈する傾向にある。銀色装飾部の8°グロス値は、750以上であって、800以上であることが好ましく、900以上であってもよく、990以上であってもよく、1000以上であってもよい。8°グロス値を明度Lで除した値(8°グロス値/明度L)は、この値が高くなるほどより銀色の発色性が良好となる傾向にある。8°グロス値/明度Lは、20以上であって、24以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、60以上であってもよく、70以上であってもよい。銀色装飾部の8°グロス値および8°グロス値/明度Lが上記した範囲を満たすことにより、発色性と光沢が両立された銀色装飾部が実現される。
【0051】
明度Lは、上記値を満たすように調整されていれば特に限定されない。明度Lは、例えば、10以上であることが好ましく、15以上であってもよい。明度Lが高すぎる場合には、白みが強く曇った銀色になりがちである。かかる観点から、明度Lは、50以下であることが好ましく、35以下であることがより好ましく、30以下であることがさらに好ましく、22以下であることが特に好ましい。例えば、明度Lは、10以上22以下であることが好ましい。
【0052】
銀色装飾部が好適な銀色を呈するためには、JIS Z 8781:2013に基づくL表色系における、色度aおよび色度bが高すぎず低すぎない値に調整されていることが好ましい。ここで、色度aおよび色度bは、色の方向を示しており、+aは赤色方向、-aは緑色方向、+bは黄色方向、-bは青色方向を示す。かかる色度aおよび色度bの測定は、JIS Z 8722:2009に準拠した分光測色計を用いて行うことができる。
特に限定されるものではないが、SCE方式で測定した場合の色度a(以下、単に「色度a」ともいう。)は、例えば-5以上5以下であることが好ましく、-1以上1以下であることがより好ましい。また、SCE方式で測定した場合の色度b(以下、単に「色度b」ともいう。)は、例えば-10以上10以下であることが好ましく、-5以上5以下であることがより好ましい。
【0053】
特に限定されないが、ここに開示されるセラミックス製品は、好適な耐アルカリ性を有している。具体的には、ここに開示されるセラミックス製品は、沸騰させた状態(100℃)の0.5wt%のNa2CO3水溶液(3L程度)に0.5時間浸漬した後、水洗いし、ジルコンペーパーを10往復擦り付ける擦過試験を実施した際にも、銀色装飾部の30%以上が残存する程度の耐アルカリ性を有している。これにより、例えばアルカリ洗浄剤を使用した自動食器洗浄機による洗浄等にも対応し得るセラミックス製品を実現することができる。
【0054】
銀色装飾部は、典型的には、セラミックス製品の基材(またはコート層)の表面に膜状に形成されている。銀色装飾部の平均厚みは、特に限定されないが、20nm以上300nm以下であることが好ましく、50nm以上150nm以下であることがより好ましい。かかる平均厚みを有する銀色装飾部であれば、セラミックス基材の色が透けることなく、良好な銀色の銀色装飾部を実現される。かかる銀色装飾部の平均厚みは、例えば塗布方法により適宜調整することができる。
【0055】
<セラミックス製品の製造方法>
次いで、ここに開示されるセラミックス製品を製造する方法の一例について説明する。なお、ここに開示されるセラミックス製品は、以下の製造方法によって製造されたものに限定されない。
【0056】
本実施形態に係るセラミックス製品を製造する際には、まず、所望の基材を準備する。例えば、所定のセラミックス材料を混練した基材用材料を成形・焼成することによって基材を作製できる。また、コート層付きの基材は、焼成後の基材の表面に釉薬を塗布した後に再度焼成することによって作製できる。但し、かかる工程は、基材を準備できれば特に限定されない。例えば、別途作製された基材を購入して準備してもよい。
【0057】
次に、ここに開示されるセラミックス製品の製造では、基材(またはコート層)上に銀色装飾部を形成する。この銀色装飾部の形成では、上述した装飾用組成物を基材またはコート層の表面に塗布(付与)した後、所定の温度で焼成処理をすることにより行うことができる。かかる工程における焼成処理では、好適な一例としては、釉薬を施した後のコート層付基材に対して装飾を施す「上絵付け」にここに開示される装飾用組成物が用いられる。上絵付けでは、釉薬の表面に装飾用組成物を塗布した後、700℃~1000℃程度の中温で画付焼成を行うとよい。また、ここに開示される装飾用組成物は、素焼きした生地(セラミックス基材)に対して装飾を施す「下絵付け」にも用いられ得る。下絵付けでは、装飾用組成物を生地に塗布した後、例えば、1200℃~1400℃程度の高温で画付焼成を行うとよい。なお、装飾用組成物の塗布方法としては、例えば、刷毛塗り、スクリーン印刷、インクジェット印刷など挙げられる。
【0058】
以上のようにして、光沢があり、発色が良好な銀色装飾部を備えるセラミックス製品を実現することができる。また、このような銀色装飾部を好適に形成する装飾用組成物が実現することができる。ここでいう「セラミックス製品」には、上記したように陶器、磁器、土器、石器、ガラスなどが包含され、具体的な製品としては、例えば、食器、装飾器、各種タイル、衛生陶器、瓦、れんが、土管、陶管などが挙げられる。特に、ここに開示される技術によれば、光沢があり、曇りがなく発色が良好な銀色装飾部を備えた食器が好適に実現される。
<試験例>
以下、ここに開示される技術に関する試験例を説明するが、ここに開示される技術をかかる試験例に限定することを意図したものではない。
【0059】
1.装飾用組成物の調製
本試験では、表1に示す組成となるように、貴金属元素およびマトリクス形成元素の原料を混合した。なお、表1中の各数値は、装飾用組成物に含まれる貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100mol%としたときの各元素の含有割合(mol%)である。具体的には、軟膏壺に各種原料を調合し、株式会社シンキー製の撹拌機(製品名:自転公転あわとり練太郎)を用いて、回転数1800rpmで2分間の混合を行った。このようにして、実施例1~10、比較例1および2、参考例1の装飾用組成物を調製した。当該装飾用組成物の粘度は10~15mPa・sであった。以下、ここで用いた各元素の原料を示す。
Pt:Ptレジネート(白金樹脂硫化バルサム)
Rh:Rhレジネート(ロジウム樹脂硫化バルサム)
Pd:Pdレジネート(パラジウム樹脂硫化バルサム)
Ir:Irレジネート(イリジウム樹脂硫化バルサム)
Au:Auレジネート(金樹脂硫化バルサム)
Ag:Agレジネート(銀樹脂硫酸塩)
Bi:Biレジネート(ビスマス樹脂酸塩)
Si:Siレジネート(シリコン樹脂酸塩)
Zr:Zrレジネート(ジルコニウム樹脂酸塩)
Sm:Smレジネート(サマリウム樹脂酸塩)
【0060】
(2)装飾用組成物の付与および焼成
セラミックス基材として、コート層(釉薬)が表面に施された白磁平板(縦:15mm、横:15mm)を準備し、上記調製した装飾用組成物(実施例1~10、比較例1および2、参考例1のいずれか)を白磁平板の片側の表面全体に付与(塗布)した。このとき、焼成後の銀色装飾部が30~200nmとなるように調整した。かかる装飾用組成物の付与には、ミカサ株式会社製のスピンコーター(Opticoat MS-A-150)を使用した。スピンコーターは、スピン条件を1000rpm~5000rpm、10秒間に設定した。装飾用組成物が付与された白磁平板を60℃のホットプレートで1時間乾燥させたのち、800℃で10分間焼成した。これにより、セラミックス基材の表面に銀色装飾部が形成された実施例1~10、比較例1および2、参考例1の白磁平板を得た。
【0061】
(3)光沢度および発色性評価
銀色装飾部が形成された白磁平板の8°グロス値と、L値、a値、b値とをJIS Z 8722:2009に準拠した分光測色計(コニカミノルタセンシング株式会社製、CM-700d)を用いて測定した。なお、8°グロス値はSCI方式で測定し、L値、a値、b値はSCE方式で測定した。また、8°グロス値および明度Lから、8°グロス値/明度Lを算出した。8°グロス値が750以上かつ、8°グロス値/明度Lが20以上のものを光沢および発色が良好な銀色装飾部であると評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(4)FESEM観察
銀色装飾部が形成された白磁平板のFE-SEM観察を行った。FE-SEM(株式会社日立ハイテクノロジーズ製:SU8230)を用いて、銀色装飾部の表面のFE-SEM観察画像(倍率:10000倍)を取得した。なお、FE-SEM観察画像の取得における加速電圧は10.0kVとし、エミッション電流は10±0.5μAとした。一例として、実施例1および比較例2のFE-SEM観察画像を図1および図2に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、実施例1~10、および、Auを主体とした参考例1では、8°グロス値が750以上かつ、8°グロス値/明度Lが20以上となることがわかる。実施例1~10の装飾用組成物は、Ptを含み、貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100モル%とするモル比において、RhとPdとIrとの合計が6モル%以上60モル%以下であることにより、Ptの過焼結抑制効果が好適に発揮され、発色や光沢が向上したと推測される。すなわち、ここに開示される装飾用組成物を用いることにより、Auを主体とする組成物を用いた銀色装飾部と同等かそれ以上の発色および光沢を実現することができる。
【0065】
一方で、表1に示すように、Rh、Pd、Irを含まない比較例1、およびRhとPdとIrとの合計が60モル%を超える比較例2では、8°グロス値および8°グロス値/明度Lが顕著に低くなることがわかる。これは、Rh、Pd、Irを含まない比較例1では、Pt過焼結抑制効果が発揮されないためと推測される。また、RhとPdとIrとの合計が60モル%を超える比較例2では、Pt粒子が過剰に小さくなるとともに、Rh、Pd、Ir自身の発色の要素が大きくなるためと推測される。
【0066】
表1に示すように、第1元素のモル分率に対する第2元素と第3元素との合計モル分率の比((第2元素+第3元素)/第1元素)が、0.1以上1以下であることにより、8°グロス値が900以上かつ、8°グロス値/明度L*が59以上となることがわかる。すなわち、Ptのモル分率に対して、RhとPdとIrとの合計モル分率が好適に調整されていることにより、さらに発色性および光沢が良好な銀色装飾部を実現することができる。
【0067】
以上、ここに開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0068】
なお、ここに開示される技術は以下の項目1~8を含んでいる。以下の項目1~8は、上記した実施形態に限定されない。
【0069】
項目1は、装飾用組成物に関する。項目1における装飾用組成物は、
セラミック基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、
貴金属元素と、マトリクス形成元素と、を含み、
前記貴金属元素は、
Ptからなる第1元素と、
Rhからなる第2元素と、
PdおよびIrからなる群から選択される少なくとも1種である第3元素と、
を含み、
前記マトリクス形成元素は、Biを含み、
ここで、前記貴金属元素と前記マトリクス形成元素との合計を100モル%とするモル比において、
前記貴金属元素の含有割合が80モル%以上であり、
前記第2元素と前記第3元素との合計が6モル%以上60モル%以下である。
【0070】
項目2は、項目1に記載された装飾用組成物であって、
前記第1元素のモル分率に対する前記第2元素と前記第3元素との合計モル分率の比((第2元素+第3元素)/第1元素)が0.1以上1以下である。
【0071】
項目3は、項目2に記載された装飾用組成物であって、
前記モル比において、Ptの含有割合が50モル%以上80モル%以下である。
【0072】
項目4は、項目1~項目3のいずれか一項に記載された装飾用組成物であって、
前記モル比において、Rhの含有割合が3モル%以上10モル%以下である。
【0073】
項目5は、項目1~項目4のいずれか一項に記載された装飾用組成物であって、
前記モル比において、Pdの含有割合が10モル%以上35モル%以下である。
【0074】
項目6は、項目1~項目5のいずれか一項に記載された装飾用組成物であって、
前記貴金属元素は、さらに第4元素を含み、
前記第4元素は、Au、Ag、RuおよびOsからなる群から選択される少なくとも一種の元素である。
【0075】
項目7は、項目1~項目6のいずれか一項に記載された装飾用組成物であって、
前記モル比において、前記第4元素の含有割合が18.5モル%以下である。
【0076】
項目8は、セラミックス製品に関するものである。項目8におけるセラミックス製品は、
セラミックス基材と、
前記セラミックス基材の上に配置され、項目1~項目7のいずれか一つに記載の装飾用組成物の焼成体からなる銀色装飾部と、を備えており、
前記銀色装飾部は、SCI方式で測定したときの8°グロス値が750以上であり、かつ、
前記8°グロス値をSCE方式で測定したときの前記銀色装飾部の明度Lで除した値(8°グロス値/明度L)が20以上である。
【要約】
ここに開示される装飾用組成物は、セラミック基材の銀色加飾に用いられる装飾用組成物であって、貴金属元素と、マトリクス形成元素と、を含む。貴金属元素は、Ptからなる第1元素と、Rhからなる第2元素と、PdおよびIrのうち少なくとも1種からなる第3元素と、を含む。マトリクス形成元素は、Biを含む。ここで、貴金属元素とマトリクス形成元素との合計を100モル%とするモル比において、前記貴金属元素の含有割合が80モル%以上であり、前記第2元素と前記第3元素との合計が6モル%以上60モル%以下である。
図1
図2