IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人麻布獣医学園の特許一覧 ▶ シュナイドテック株式会社の特許一覧

特許7621584ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置
<>
  • 特許-ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置 図1
  • 特許-ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置 図2
  • 特許-ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置 図3
  • 特許-ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置 図4
  • 特許-ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/02 20060101AFI20250120BHJP
【FI】
A61N5/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020106243
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2022001096
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(73)【特許権者】
【識別番号】517264384
【氏名又は名称】シュナイドテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】山下 匡
(72)【発明者】
【氏名】金井 詠一
(72)【発明者】
【氏名】永根 大幹
(72)【発明者】
【氏名】中村 靖彦
【審査官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-024688(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISM周波数帯で且つ出力200W~10kWの電磁波を出力するための電磁波発生手段、
電磁波発生手段で生じた電磁波を放射して腫瘍細胞に非対向2方向以上から照射するための手段、
電磁波の照射の、0.5~20秒間の実行と0.5~20秒間の停止とのサイクルを、身体にできた腫瘍細胞に対して複数サイクル行って腫瘍細胞を加温し、前記加温によって腫瘍細胞の温度が40℃以上になった時点で前記サイクルを止めるように、制御するための手段、および
前記電磁波が身体にできた腫瘍細胞に浸透するように身体を配置するための手段
を有する、ハイパーサーミア用装置。
【請求項2】
照射される電磁波が、中心周波数2450MHzの周波数帯の電磁波である、請求項に記載のハイパーサーミア用装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置に関する。より詳細に、本発明は、熱ショックタンパク質の産生を抑制し、腫瘍細胞のみを死滅に誘導できるまたは熱ショックタンパク質が産生しても、腫瘍細胞のみを死滅に誘導できるハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイパーサーミアは、身体の一部を39~43℃程度に温めて腫瘍などの病気を治療する方法である。身体の一部を温めるためにRF波、マイクロ波などの電磁波が用いられる。
【0003】
電磁波照射によるハイパーサーミアの原理は次のとおりである。電磁波照射によって、細胞の電子が振動して、分子の摩擦熱で正常細胞および癌細胞がともに発熱する。正常細胞は、正常血管を介しての血流によって、速やかに通常の温度まで冷やされる。これに対し、癌細胞は、水分が多く、血管が脆弱で、血流量が少ないために、高温になりやすく冷めにくい。その結果、癌細胞のみが熱による傷害を受けることになる。また、正常細胞は温められることで免疫力が向上すると同時に、血流がよくなるので、体内臓器の機能が活発になるといった効果もある。ただし、電磁波照射量が過剰であると、正常細胞も熱による傷害を受けることがある。
【0004】
加熱によって熱ショックタンパク質の産生が誘導されることが知られている。熱ショックタンパク質は温熱耐性の発現に寄与していると言われる。腫瘍細胞に温熱耐性が発現するとハイパーサーミアを行っても腫瘍細胞が死滅しない。熱ショックタンパク質は加温後72時間程度で消失すると言われている。そのため、一般的なハイパーサーミアは、週に1回若しくは2回のペースで行われる。
【0005】
ところで、ハイパーサーミア用装置が種々提案されている。
例えば、特許文献1は、悪性腫瘍の温熱療法装置システムであって、温度増加をMR温度画像で検知するために、0.5~9Tの静磁場強度を使い、42~43℃での温熱療法のモニタリングを可能にし、0.4~3GHzのマイクロ波ジェネレーターでマイクロ波を照射し、目標領域を目標とされたレベルの温度にコントロールするために、電源スイッチを断続的にオン&オフを繰り返えす機能を担持する悪性腫瘍の温熱療法装置システムを開示している。
【0006】
特許文献2は、電磁波を出力する電磁波発生手段と、この電磁波発生手段から出力される電磁波を生体へ照射するアプリケータとを備えたハイパーサーミア用加温装置において、前記電磁波発生手段の出力に対応して加温箇所の温度を一定時間ごとに検出する温度計測手段を設け、この温度計測手段が予め設定した温度以上の生体温度を検知した場合に前記電磁波発生手段の出力レベルを降下制御する出力降下制御手段を装備したことを特徴とするハイパーサーミア用加温装置を開示している。
【0007】
特許文献3は、ISM周波数帯の電磁波を出力するための電磁波発生手段と、電磁波発生手段で生じた電磁波の指向性を向上させるための手段と、電磁波照射量と腫瘍細胞生存率との関係を近似する関数に基づいて体表面にできた腫瘍細胞のアポトーシスを誘導させるのに適した電磁波照射量を算出するための照射量決定手段と、照射量決定手段からの指令または照射量決定手段で算出された電磁波照射量に基づくオペレータの入力による指令によって電磁波発生手段で出力させる電磁波量を調節する手段と、前記電磁波が体表面にできた腫瘍細胞に浸透するように身体を配置する手段を有する、ハイパーサーミア用装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-86525号公報
【文献】特開昭61-33668号公報
【文献】特開2019-24688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、熱ショックタンパク質の産生を抑制し、腫瘍細胞のみを死滅に誘導できるまたは熱ショックタンパク質が産生しても、腫瘍細胞のみを死滅に誘導できるハイパーサーミアおよびハイパーサーミア用装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために検討を重ねた結果、以下の態様を包含する本発明を完成するに至った。
【0011】
〔1〕 ISM周波数帯で且つ出力200W~10kWの電磁波の照射の、0.5~20秒間の実行と0.5~20秒間の停止とのサイクルを、身体にできた腫瘍細胞に対して複数サイクル行って腫瘍細胞を加温し、前記加温によって腫瘍細胞の温度が40℃以上になった時点で前記サイクルを止めることを、
1~7日毎に行うことを含む、
ヒト以外の動物に対するハイパーサーミア。
【0012】
〔2〕 照射される電磁波が、中心周波数2450MHzの周波数帯の電磁波である、〔1〕に記載のハイパーサーミア。
〔3〕 照射を非対向2方向以上から行う、〔1〕または〔2〕に記載のハイパーサーミア。
〔4〕 前記の電磁波の照射前に、身体にできた腫瘍細胞およびその周辺に熱ショック処置を施して、熱ショックタンパク質を産生させることをさらに含む、〔1〕~〔3〕のいずれかひとつに記載のハイパーサーミア。
【0013】
〔5〕 ISM周波数帯で且つ出力200W~10kWの電磁波を出力するための電磁波発生手段、
電磁波発生手段で生じた電磁波を放射して腫瘍細胞に非対向2方向以上から照射するための手段、
電磁波の照射の、0.5~20秒間の実行と0.5~20秒間の停止とのサイクルを、身体にできた腫瘍細胞に対して複数サイクル行って腫瘍細胞を加温し、前記加温によって腫瘍細胞の温度が40℃以上になった時点で前記サイクルを止めるように、制御するための手段、および
前記電磁波が身体にできた腫瘍細胞に浸透するように身体を配置するための手段
を有する、ハイパーサーミア用装置。
【0014】
〔6〕 照射される電磁波が、中心周波数2450MHzの周波数帯の電磁波である、〔5〕に記載のハイパーサーミア用装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正常細胞への傷害を防ぎつつ、効果的に腫瘍細胞のアポトーシスを誘導させることができる。本発明によれば、熱ショックタンパク質の産生を抑制し、腫瘍細胞のみを死滅に誘導できる。また、本発明によれば、熱ショックタンパク質が産生していても、腫瘍細胞のみを死滅に誘導できる。特に、従来の技術では一度ハイパーサーミアの処置を行うと熱ショックタンパク質の産生により1週間程度の休止期間が必要となるが、本発明では、熱ショックタンパク質の産生を抑制し、腫瘍細胞のみを死滅に誘導できるので、1~7日間毎の短周期での処置を行うことができるのが特徴である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のハイパーサーミアを行った後における腫瘍細胞の増殖率の推移を示す図である。
図2】熱ショックタンパク質の発現状況を示す図である。
図3】加熱後のHSP40の発現率の推移を示す図である。
図4】加熱後のHSP70の発現率の推移を示す図である。
図5】熱ショックタンパク質の産生後のハイパーサーミアの効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施例を示し、本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものでない。
【0018】
本発明のハイパーサーミア(温熱療法)は、ISM周波数帯の電磁波の照射の、実行と停止とのサイクルを、身体にできた腫瘍細胞に対して複数サイクル行って腫瘍細胞を加温し、前記加温によって腫瘍細胞の温度が所定レベル以上になった時点で前記サイクルを止めることを、少なくとも1回、好ましくは1回若しくは2回以上、1~7日毎に行うことを含む。なお、回数の上限は、治療の効果を勘案して適宜変えることができる。
【0019】
本発明の適用対象である、身体にできた腫瘍細胞は、特に限定されないが、体表に発生する悪性黒色腫(メラノーマ)細胞などが好ましい。メラノーマは、皮膚、眼窩内組織、口腔粘膜上皮などに発生する。なお、日本国特許法によるとハイパーサーミア(温熱療法)のヒトへの適用は産業上の利用可能性を有しない発明であるとされているが、本発明のハイパーサーミア(温熱療法)は、事実上、ヒトまたはそれ以外の動物に対して、適用することができる。
【0020】
ISM周波数帯の電磁波は、工業用、科学用および医療用を目的としてITU(国際電気通信連合)が割り当てた周波数の電磁波である。具体的に、中心周波数が、433.920MHz、915.000MHz、2450MHz,5800MHz、24125MHz、61250MHz,122500MHz,または245000MHzの波長帯の電磁波である。これらのうち、2450MHz帯は、電磁波発生手段である小形軽量永久磁石内蔵マグネトロンが安価に入手可能であるので、好ましい。ISM周波数帯の電磁波は、体表から数cm~数十cmの深さまで浸透するといわれているので、表在腫瘍の治療に適している。
電磁波の出力は、200W~10kW、好ましくは300W~1kW、より好ましくは400W~800Wである。
【0021】
電磁波の照射は、間欠照射である。間欠照射は、照射実行と照射停止とを1サイクルとして、複数サイクルを行う。1サイクルにおける照射実行時間は、0.5~20秒間、好ましくは1~15秒間、より好ましくは3~12秒間である。1サイクルにおける照射停止時間は、0.5~20秒間、好ましくは1~15秒間、より好ましくは3~12秒間である。複数サイクルの間欠照射によって腫瘍細胞を加温する。
【0022】
前記加温によって腫瘍細胞の温度が、40℃以上になった時点で前記サイクルを止める。温度の上限は好ましくは43℃以下である。複数サイクルの照射による加温は、1~7日毎、好ましくは1~4日毎に、より好ましくは1~3日毎に、さらに好ましくは1日毎に行う。本発明のハイパーサーミアを行うと、熱ヒートショックタンパク質の産生が抑制され、温熱耐性が発現しにくいので、ハイパーサーミアを毎日行ってもその治療効果が減衰しない。
【0023】
照射は、一方向から行ってもよいが、非対向2方向以上から行うことが好ましい。非対向2方向からの照射においては、斜入射、直交入射などによって、電磁波を一カ所に集中させて、照射を行うことができる。2方向以上からの照射は、同時に行ってもよいし、交互に行ってもよい。照射は、照射手段または被射体(身体)を照射中に移動させながら、行ってもよい(運動照射、回転照射、振子照射などと呼ばれることがある)。また、照射は、照射手段または被射体(身体)を日毎に移動させて、行ってもよい(移動照射、分割照射などと呼ばれることがある)。また、非対向2方向以上からの照射においては、作業者の電磁波の被ばくを軽減することができ、その点からも非対向2方向以上からの照射がより好ましい。例えば、入射角を、好ましくは0°以上90°より小さい範囲に、より好ましくは15°以上75°以下の範囲に、さらに好ましくは25°以上65°以下の範囲に、よりさらに好ましくは35°以上55°以下の範囲に、設定することができる。
【0024】
電磁波を照射している間は、電気信号などにノイズが入りやすく、計器類に影響を及ぼすことがある。そこで、電磁波を停止している間に、計器類によって、温度などを測定するように、制御することが好ましい。また、MRIを利用した温度測定(二川「MRIを用いた非侵襲温度分布測定と誘電加熱」 国士舘大学理工学部紀要 第7号(2014)など参照)、光ファイバサーモメータを利用した温度測定(肥後ら「マイクロ波加熱による温度特性の分類(第2報)各種食品の昇温速度」日本家政学会誌Vol. 41 No. 8 733-743 (1990)など参照)は、電磁波の影響をほとんど受けずに行うことができるので好ましい。
【0025】
本発明のハイパーサーミアに好適に用いられる装置は、ISM周波数帯で且つ出力200W~10kWの電磁波を出力するための電磁波発生手段、電磁波発生手段で生じた電磁波を放射して腫瘍細胞に非対向2方向以上から照射するための手段、電磁波の照射の、0.5~20秒間の実行と0.5~20秒間の停止とのサイクルを、身体にできた腫瘍細胞に対して複数回行って腫瘍細胞を加温し、前記加温によって腫瘍細胞の温度が40℃以上になった時点で前記サイクルを止めるように、制御するための手段、および前記電磁波が身体にできた腫瘍細胞に浸透するように身体を配置するための手段を有する。
【0026】
電磁波発生手段としてはマグネトロンが好ましく用いられる。電磁波の指向性を向上させるための手段として、パラボラアンテナや、ダイポールアンテナなどの指向性アンテナを用いることができる。また、電磁波発生手段が発振した電磁波(マイクロ波)を導波管や同軸ケーブルによって腫瘍細胞のそばまで伝送し、その末端で電磁波を放射して腫瘍細胞に照射することができる。非対向2方向以上から照射するための手段としては、例えば、Cアーム型などを採用することができる。
【0027】
制御するための手段としては、例えば、温度検出器と、制御プログラムがインストールされた情報処理装置と、電磁波発生手段や電磁波照射手段のオン-オフ、出力レベルを変更するための装置(例えば、スイッチ、電気抵抗器、サイリスタなどの公知の電気素子若しくは電子素子などを搭載したもの)などの組み合わせからなる。コンピュータなどのデジタル機器は、電磁波発生手段が出力する電磁波の干渉を防止するために、電磁波シールドすることが好ましい。
【0028】
電磁波が身体にできた腫瘍細胞に浸透するように身体を配置する手段は、腫瘍細胞ができた体の部位によって、適切なものを選択することができる。例えば、犬や猫などの動物を対象とする場合には、動物を手術台若しくは保定台の上に載せ、保定者が動物を保定するかまたはベルトなどの保定具にて動物を保定することができる。保定者に電磁波が無用に照射されないようにするために、電磁波シールド材製の手袋、手術着などを着用することが好ましい。動物にも電磁波が腫瘍細胞以外の部分にできるだけ照射されないように、電磁波シールド材製の術衣、口輪などを着用させることが好ましい。ラジオ波(数MHz~数十MHz)による温熱療法では、効果が発揮されるまでに、60~90分間の照射を要する。これに対して、本発明における、ISM周波数帯の電磁波照射においては、所望の腫瘍細胞生存率に低下させるために必要な時間が、数十秒間~数百秒間と、極めて短いので、動物に麻酔を施す必要がない。
【0029】
本発明のハイパーサーミアは、ISM周波数帯の電磁波の照射前に、身体にできた腫瘍細胞およびその周辺に熱ショック処置を施して、熱ショックタンパク質を産生させてもよい。熱ショック処置は、平常体温より4~20℃高い温度に晒し、次いで平常体温に冷ます処置である。例えば、ラジオ波照射、温浴などによって高温に晒すことができる。ラジオ波は、周波数30~300MHz(波長100km~1m)の電磁波である。熱ショック処置においては、高い温度の状態を、好ましくは30~120分間、より好ましくは40~100分間、さらに好ましくは60~90分間維持する。この熱ショック処置によって、熱ショックタンパク質が産生する。正常細胞に産生した熱ショックタンパク質は、正常細胞の温熱耐性、免疫力などを向上させる。これによって、癌の転移が抑制されることがある。
【0030】
本発明のハイパーサーミアは、化学療法または手術療法と併用することもできる。がん治療薬を服用中に本発明のハイパーサーミアを行うことによって相乗作用を期待できる。手術療法中に本発明のハイパーサーミアを行うと身体の奥深くにある腫瘍細胞の死滅が期待できる。手術療法との併用においては高出力のISM周波数帯電磁波を用いることもできる。
【0031】
以下に、本発明のハイパーサーミアを行った結果を示す。
【0032】
〔試験例1〕
マウスの左後肢に悪性黒色腫細胞106個(3μl)を移植し、12日間増殖させた。
12日目に2450MHz帯電磁波(500W,100V)の7秒間照射3秒間休止の間欠照射を9サイクル行った(MW)。9サイクル目において温度が40℃以上になった。その後、悪性黒色腫細胞の増殖率を計測した。コントロールとして、未照射の悪性黒色腫細胞の増殖率を計測した(CTRL)。結果を図1に示す。間欠照射9サイクルによって、腫瘍細胞の増殖を約2日間遅延させることができた。悪性黒色腫細胞の細胞周期が18~24時間程度であるので、照射量9サイクルを毎日行うことによって腫瘍の完全懐死の可能性が示唆される。なお、電磁波照射装置はマウスに対し直交する2方向から電磁波を照射できるように配置した。
【0033】
〔試験例2〕
B16F10細胞に2450MHz帯電磁波(500W,100V)の7秒間照射3秒間休止の間欠照射を9サイクル行った(MW)。コントロールとして、B16F10細胞にラジオ波を60分間照射した(HT)。その後、熱ヒートショックタンパク質の量を計測した。結果を図2~4に示す。HTによる温熱の場合、熱ヒートショックタンパク質(HSP40、HSP70)が加熱後に多量に産生した。加熱後約6時間経過時に熱ヒートショックタンパク質の量が最大となった。これに対して、MWによる温熱の場合、熱ヒートショックタンパク質(HSP40、HSP70)の産生が抑制されていた。なお、電磁波照射装置はマウスに対し直交する2方向から電磁波を照射できるように配置した。
【0034】
〔試験例3〕
マウスの左後肢に悪性黒色腫細胞106個(3μl)を移植し、12日間増殖させた。
12日目にB16F10細胞にラジオ波を60分間照射した(First-HT)。
その後、次のような処置を施した。
(1)First-HT終了後に何も処置しなかった。
(2)First-HT終了直後に、ラジオ波の60分間照射を行った(Second-HT)。
(3)First-HT終了から6時間経過後(熱ヒートショックタンパク質産生後)に、ラジオ波の60分間照射を行った(Second-HT)。
(4)First-HT終了直後に、2450MHz帯電磁波(500W,100V)の7秒間照射3秒間休止の間欠照射を9サイクル行った(Second-MW)。
(5)First-HT終了から6時間経過後(熱ヒートショックタンパク質産生後)に、2450MHz帯電磁波(500W,100V)の7秒間照射3秒間休止の間欠照射を9サイクル行った(Second-MW)。
(0)コントロールとしてFirst-HTもSecond-HTおよびSecond-MWも行わなかったものを用意した。
上記の処置が完了後、それぞれの悪性黒色腫細胞の増殖率を計測した。なお、電磁波照射装置はマウスに対し直交する2方向から電磁波を照射できるように配置した。
結果を図5に示す。Second-HTは熱ヒートショックタンパク質産生によって増殖率の抑制効果が小さくなった((2)と(3)との対比)。これに対してSecond-MWは熱ヒートショックタンパク質産生によっても増殖率の抑制効果に変化がなかった((4)と(5)との対比)。なお、First-HT終了直後に、ラジオ波の60分間照射を行った場合には、一時的に増殖率の抑制率が大きくなったが、熱ヒートショックタンパク質の産生も増大しているため、治療においては照射の休止期間が必要となる。
図1
図2
図3
図4
図5