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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】音響周波数選択透過フィルター
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/162 20060101AFI20250120BHJP
   G10K 11/04 20060101ALI20250120BHJP
   C08J 5/18 20060101ALN20250120BHJP
【FI】
G10K11/162
G10K11/04
C08J5/18 CEP
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020146471
(22)【出願日】2020-09-01
(65)【公開番号】P2021167931
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2019164237
(32)【優先日】2019-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020072022
(32)【優先日】2020-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591167430
【氏名又は名称】株式会社KRI
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽山 秀和
(72)【発明者】
【氏名】林 蓮貞
(72)【発明者】
【氏名】伊東 結
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-43927(JP,A)
【文献】特表平11-513349(JP,A)
【文献】特開2018-146603(JP,A)
【文献】特開2018-140554(JP,A)
【文献】特開2019-86135(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0144701(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08J 9/00- 9/42
D06M 10/00-16/00
D06M 19/00-23/18
G10K 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の音響周波数選択透過フィルターが不織布(グラスウウール及びロックウールを除く)あるいは連続気泡発泡体の内部に形成されており、低音域および高音域の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有し、
前記低音域が400Hz以下の周波数帯であり及び前記高音域が1300Hz以上の周波数帯であり、前記低音域と前記高音域の間の前記中音域に、透過損失の最小値を有する、音響周波数選択透過フィルター。
【請求項2】
請求項1に記載の音響周波数選択透過フィルターを具備した機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で遮音性に優れた音響選択透過フィルターおよびその製造方法に関し、特に400Hz以下の低周波数(低音域)および1300Hz以上高音域の遮音性に優れ、その中間の中音域を透過する周波数選択性を有する音響選択透過フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、鉄道車両や航空機の快適性に対して騒音対策の要望があり、省エネルギーの観点から軽量であることが求められている。
ウレタンフォームのようなスポンジ状の発泡体やグラスウールやマイクロファイバーの不織布が吸音材として、ブチルゴムのようなゴム状シートが遮音材として用いられている。
発泡体や不織布から成る吸音材は連続気孔によって音による空気振動を圧損することにより優れた吸音性能を有するが、空気振動を完全に遮断することは困難で空気振動が材料を透過し、十分な遮音性を得ることが難しい。
ゴム状の遮音シートは、空気を遮蔽し振動を伝えないことで高い遮音性を有するが、音の反射が起こりやすく、重量が大きい問題がある。
【0003】
自動車の騒音には、ロードノイズ(路面とタイヤにより発生するランダム性の音であり、主要な周波数帯域は1000Hz以下である。)、エンジン音(エンジン回転数の0.5次成分を基本周波数とした複合周期音であり、主要な周波数帯域は5000Hz以下である。)、こもり音(周波数帯域20~250Hzの低周波音で耳を圧迫するような音である。)、風切り音(自動車が高速で走行することにより車両周辺の気流が乱されることにより発生するランダム性の音であり、周波数帯域500~5000Hzである。)などがある。
【0004】
耳を圧迫するような250Hz以下の低周波音については、ウレタンフォームなどの発泡体やグラスウール、マイクロファイバーなどの不織布の吸音、遮音特性は低い。
【0005】
一方、聞こえなければならない音としてサイレン音があるが、救急車のサイレン音は960Hzと770Hz、消防車のサイレン音は約400~850Hz、パトロールカーのサイレン音は870±50Hzである。
【0006】
特許文献1には、発泡ポリエチレン樹脂製の基材に平均粒径0.3~2.0mm、密度3.0g/cm~9.0g/cmの粒子を内包し、好ましくは平均直径1.0mm以上6.0mm以下の大きさの孔構造を持つ構造を含ませることにより、吸音性と遮音性を両立した軽量な遮音シートが記載されているおり、2000~4500Hz垂直入射吸音率の最大値が0.6~0.8、透過損失の最大値が15~18dBの優れた吸音性と遮音性を有しているが、厚さが9mmであり、孔構造の大きさが1.0mm以上6.0mm以下であることから薄くすることは困難であると考えられる。なお、2000Hz以下の吸音性、遮音性については記載されていない。
【0007】
特許文献2には、繊維集合体を含む面材と連通空隙を有する樹脂発泡成形体を含む基材とを含む積層体であって、薄くても高い吸音性能、特に1000Hz前後の低周波数での高吸音性を有する吸音材が記載されており、1000Hzの吸音率が0.6と高いものの200Hzの吸音率は0.1以下である。
【0008】
特許文献3には、シリコーン多孔質層及び柔軟性構造層を備える低周波吸音材であって、シリコーン多孔質層が、二置換のアルコキシシランと三置換のアルコキシシラン類とを含むシラン化合物の共重合により得られるシリコーン多孔質層、もしくは二置換のアルコキシシランと三置換のアルコキシシラン及び三置換以上のアルコキシシラン類とを含むシラン化合物の共重合により得られるシリコーン多孔質層である低周波吸音材が記載されており、600Hzでの吸音率は0.7と高いが、200Hzの吸音率は0.1以下である。
【0009】
特許文献4には、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバー、水溶性非イオン界面活性剤と水を含む分散媒にシリカエアロゲル粒子を分散させて得られる有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液を乾燥した吸音材が記載されているが、中音域の選択透過性については明記されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-6853号公報
【文献】特開2019-77095号公報
【文献】特開2018-146603号公報
【文献】特開2018-43927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、低音域(400Hz以下)および高音域(1300Hz以上)の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有する軽量な音響選択透過フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーと水溶性非イオン界面活性剤を含む水溶液にシリカエアロゲル粒子を加えて得られる有機ナノファイバーを含むシリカエアロゲル粒子水分散液を乾燥させることで得られる音響選択透過フィルターにより本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
〔1〕 シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体であって、低音域および高音域の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有する音響周波数選択透過フィルター。
〔2〕 前記〔1〕に記載の音響周波数選択透過フィルターが不織布上に形成されていることを特徴とする音響周波数選択透過フィルター
〔3〕 シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体が不織布(グラスウウール及びロックウールを除く)あるいは連続気泡発泡体の内部に形成されており、低音域および高音域の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有する音響周波数選択透過フィルター。
〔4〕 前記低音域が400Hz以下の周波数帯であり及び前記高音域が1300Hz以上の周波数帯であり、前記低音域と前記高音域の間の前記中音域に、透過損失の最小値を有することを特徴とする前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の音響周波数選択透過フィルター。
〔5〕 前記各音域の透過損失の平均値が、前記低音域において6dB以上であり、前記高音域において6dB以上であり、前記中音域において14dB以下であり、透過損失の最小値が3dB以下であることを特徴とする前記〔4〕に記載の音響周波数選択透過フィルター。
〔6〕 前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の音響周波数選択透過フィルターを具備した機器。
【0014】
前記〔3〕に記載する不織布とは、一般に繊維を織らずに絡み合わせたものを言うが、本発明においては繊維を縦横に組み合わせた布や織物であっても繊維の隙間に陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液を含浸することができれば用いることができる。
また、前記〔3〕に記載する連続気泡発泡体とは、スポンジのように気泡同士が繋がっており、水を吸収したり、気体を通過させることができる構造の発泡体である。
前記〔5〕に記載する垂直入射音響透過損失とは、サンプルに垂直に入射した入射音のエネルギー(Ii)と透過音のエネルギー(It)において次式で算出される遮音性能値であって値が大きいほど遮音性が優れていることを意味している。
音響透過損失(TL)=10log10(Ii/It)
本発明においてはASTM-E2611に準拠した伝達マトリックス法に基づく音響材料の垂直入射音伝送測定により得られる値である。
【発明の効果】
【0015】
有機ナノファイバーを含むシリカエアロゲル粒子水分散液を乾燥させることで得られる音響選択透過フィルターは、軽量であり、低周波領域における吸音性、特に400Hz以下のノイズの吸音、遮音性に優れ、1300Hz以上の高音域の遮音性に優れ、かつ、その中間の中音域の音を透過することができる周波数選択性を有する。
【0016】
また、固体複合体を不織布(グラスウウール及びロックウールを除く)あるいは連続気泡発泡体の内部に形成させた本発明の音響選択透過フィルターは、軽量で、粉落ちが少なく、断熱性および遮音性に優れる。
【0017】
本発明の音響選択透過フィルターは、自動車、船舶や飛行機、ヘリコプターなどの輸送機器、工場の送風機、プレス機、真空ポンプなど、店舗・公共施設の空調室外機、ボイラーなどから発生する圧迫するような不快な音である低音域及びキーキー音のような人間が最も敏感に聞こえる不快な音である高音域の音を低減し、日常会話の音、音楽の主旋律の音域の心地よい音、サイレン音等を選択的に透過させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1で作製した音響選択透過フィルターの光学顕微鏡写真
図2】固体複合体の模式図
図3】実施例7で作製した音響選択透過フィルターの光学顕微鏡写真
図4】実施例10で作製した音響選択透過フィルターの光学顕微鏡写真
図5】実施例1の音響選択透過フィルターと比較例1、比較例2の周波数に対する垂直入射透過損失
図6】実施例2の音響選択透過フィルターと比較例1、比較例2の周波数に対する垂直入射透過損失
図7】実施例3の音響選択透過フィルターと比較例1、比較例2の周波数に対する垂直入射透過損失
図8】実施例4の音響選択透過フィルターと比較例1、比較例2の周波数に対する垂直入射透過損失
図9】実施例5の音響選択透過フィルターと比較例1、比較例2の周波数に対する垂直入射透過損失
図10】実施例6の音響選択透過フィルターと比較例1、比較例2の周波数に対する垂直入射透過損失
図11】実施例1~6の音響選択透過フィルターと比較例1、比較例2の周波数に対する垂直入射吸音率
図12】実施例7~10の音響選択透過フィルターの周波数に対する垂直入射透過損失
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の音響選択透過フィルターは、シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体であって、低音域および高音域の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有する
【0020】
また、本発明の音響周波数選択透過フィルターは、前記〔1〕に記載の音響周波数選択透過フィルターを不織布上に形成させて音響周波数選択透過フィルターとしてもよい。
【0021】
さらに、本発明の音響周波数選択透過フィルターは、シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体が不織布(グラスウウール及びロックウールを除く)あるいは連続気泡発泡体の内部に形成されており、低音域および高音域の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有する音響周波数選択透過フィルターであってもよい。
【0022】
先ず、本発明の音響選択透過フィルターを構成する固体複合体について説明する。
前記固体複合体は、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバー、水溶性非イオン界面活性剤と水を含む分散媒にシリカエアロゲル粒子を分散させて得られる有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液を乾燥して得られる。そして、本発明の音響選択透過フィルターは、シート状に成型することが好ましい。
【0023】
前記陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーは、特に限定しないが、カルボキシル基及びカルボキシル基の塩、リン酸基及びリン酸基の塩並びに硫酸エステル基及び硫酸エステル基の塩等の陰イオン性官能基有する有機ナノファイバーが挙げられる。さらに、カルボキシル基の塩、リン酸基の塩及び硫酸エステル基の塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩等であればよい。
【0024】
特に好ましい陰イオン性官能基としては、前記硫酸基又は硫酸エステル基の塩であり、硫酸エステル基の塩としては、硫酸エステル化セルロースナノファイバーのナトリウム塩、カルシウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩基の少なくとも一つ以上の硫酸エステル基の塩を挙げることができる。
【0025】
前記陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーとしては、変性又は修飾により表面に陰イオン性官能基を持たせるセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー等の天然多糖類ナノファイバー、及び寒天、ゼラチン、ヒアルロン酸、CMCとポリアクリル酸等のカルボキシル基を持つポリマーから天然形成又は人工加工により得られる有機ナノファイバーを例示できるが、その中でも、変性又は修飾により表面に陰イオン性官能基を持たせるセルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー等の天然多糖類ナノファイバーは結晶化度が高くてチキソトロピー性や粘度が高いためより好ましい。
【0026】
前記陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの結晶化度は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。結晶化度の高い有機ナノファイバーはチキソロトピー性と粘度が高いため、エアロゲル粒子が取り込まれるミセルを安定化させることができ、乾燥した複合体は丈夫で耐水性が優れたため好ましい。
前記陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの最も好ましい有機ナノファイバーは、変性又は修飾により表面に陰イオン性官能基を持たせるセルロースナノファイバー及びキチンナノファイバーである。
【0027】
そして、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの特に好ましいものを具体的例示すると、前記カルボキシル基又はカルボキシル基の塩を陰イオン性官能基として持つ有機ナノファイバーTEMPO酸化セルロースナノファイバー及びカルボキシメチル修飾セルロースナノファイバーを挙げることができる。
【0028】
また、有機ナノファイバーの表面の陰イオン性官能基の置換度は、大きい程有機ナノファイバーの水和性が高いため、分散媒の粘度やチキソトロピー性を向上する効果が高くなる。従って、有機ナノファイバーの表面の陰イオン性官能基の平均置換度が0.10~1.00であることが好ましく、より好ましくは0.15~0.95であり、さらに好ましくは0.20~0.90である。0.1以下になると増粘効果や非イオンエーテル型界面活性剤との相互作用が低くなる。一方、1.0以上になるとナノファイバーの結晶化度が低下し、チキソトロピー性が低下したり、繊維状が崩れたりすることにより増粘効果の低下や乾燥後の複合化材の強度が低下したりする恐れがある。
【0029】
陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの平均繊維径は、2~500nmであることが好ましく、より好ましくは5~300nm、さらに好ましくは10~200nmである。2nm以下になるとナノファイバーの製造コストが高くなるとともに耐熱性が低下する。また、結晶化度が低下する恐れがある。一方、500nm以上になると表面積が小さくなり、チキソトロピー性が失う恐れがある。さらに、繊維径が大きくなると表面積が小さくなるためナノファイバーネットワークの中にシリカエアロゲル粒子を取り込んで固定化することができなくなるため、乾燥後の複合材が脆くなったり、シリカエアロゲル粒子の脱落により粉塵が発生したりする恐れがある。
【0030】
さらに、有機ナノファイバーの平均繊維長は、0.2~50μmが好ましく、より好ましくは0.3~35μm、さらに好ましくは0.5~30μm、最も好ましくは1.0~20μmである。繊維長が小さすぎるとネットワークが弱くなる。
【0031】
本発明の音響選択透過フィルターの前記固体複合体を得るためのシリカエアロゲル粒子を分散させる分散媒は、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバー、水溶性非イオン界面活性剤と水を含んでいる。
前記水溶性非イオン界面活性剤には、水と完全混合しない溶解度の低いものであっても、分散媒にしたときに水に溶解する親水性非イオン界面活性剤を含む。
【0032】
前記水溶性非イオン界面活性剤は、特に限定しないが、エチレングリコール又はポリエチレングリコールアルキルエーテル、プロピレン又はポリプロピレングリコールアルキルエーテル、グリセリン又はポリグリセリンエーテル、アルキルグリコシド等のエーテル型水溶性界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の水溶性エステル型界面活性剤を用いることができる。その中でも水溶性に優れた非イオンエーテル型界面活性剤である下記式(1)又は(2)で表されるエーテル型非イオン界面活性剤が好ましい。
R1-O-(CH-CH-O)-R2 (1)
R1-O-(CH2-CH2-CH2-O)-R2 (2)
(式(1)及び式(2)中、R1は水素原子、炭素数10以下のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数10以下のアルケニル基、R2は炭素数3~10のアルキル基、炭素数5~10のシクロアルキル基又は炭素数10以下のアルケニル基、nは1~20)
【0033】
さらに、前記水溶性非イオン界面活性剤は、下記式(3)で表される炭素数4~7の両親媒性アルコールの少なくとも一種以上であることが好ましい。
HO-R3 (3)
(式(3)中、R3は炭素数4~7のアルキル基)
極性の高い炭素数3以下のメタノール、エタノール及び2-プロパノール又はイソブチルアルコールは、界面活性剤としての働きが弱くなり、疎水性のシリカエアロゲルになじみにくいため、少量(例えば15%以下)を添加しても疎水性のシリカエアロゲルを分散することができず、大量(例えば15%以上)を添加すると分散媒はシリカエアロゲルの細孔内に侵入し、乾燥後シリカエアロゲルが激しく収縮するため好ましくない。炭素数8以上のアルコールは、水に溶けにくいか溶けないため均一なシリカエアロゲル分散体を得られないため好ましくない。
【0034】
式(1)若しくは式(2)に示す水溶性の非イオンエーテル型界面活性剤又は式(3)に示す両親媒性アルコールを用いることで疎水性のシリカエアロゲル粒子は集合体で分散媒に分散するため特に好ましい。このような分散液を乾燥した後シリカエアロゲル粒子は集合体のままで陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークに取り込まれたため有機ナノファイバーの含有量が少なくてシリカエアロゲルは収縮又は脱落しないため強くて遮音性に優れた複合体が得られる。
更に、水溶性の非イオンエーテル型界面活性剤及び/又は炭素数4以上の両親媒性アルコールは、エステル型の疎水性の非イオン界面活性剤と併用することもできる。
【0035】
分散液を乾燥して複合材を作製することを考えると、沸点300℃以下の界面活性剤が好ましい。界面活性剤の沸点が高すぎると蒸発し難く、乾燥して複合材に成形する場合、複合体内に界面活性剤が残留するため複合体の耐熱性を低下する恐れがあるため好ましくない。
【0036】
上記式(1)及び(2)で表されるエーテル型非イオン界面活性剤の中でも、R1、R2の炭素数が少なく、nも小さい沸点300℃以下のエーテル型非イオン界面活性剤が好ましい。
【0037】
沸点300℃以下のエーテル型非イオン界面活性剤を例示すると、エチレングリコールモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、トリプロピレングリコールモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテルの群から選ばれた少なくとも一種以上である。
【0038】
上記式(3)で表される両親媒性アルコールは、式(3)中のR3の炭素数が4~7の親水性アルキルアルコールが好ましく、例示すると、1ーブタノール(nーブチルアルコール、ノルマルブタノール)、2-メチル-1-プロパノール(イソブチルアルコール)、2-ブタノール(sec-ブチルアルコール)、2-メチル-2-プロパノール(tert-ブチルアルコール)、ペンタノールの全ての異性体、ヘキサノールの全ての異性体、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、4-ヘプタノールの群から選ばれる少なくとも一種以上である。
【0039】
本発明の音響選択透過フィルターとなる前記固体複合体に用いられるシリカエアロゲルは、好ましくは表面に疎水基を有する、疎水性エアロゲルである。具体的には、粒子表面に、下記式で表わされる3置換シリル基が結合することで疎水性となっている。式中、R,R,Rは同一であっても異なっていてもよく、炭素数1~18のアルキル基、又は炭素数6~18のアリール基から選ばれ、好ましくはメチル基、エチル基、シクロヘキシル基、フェニル基である。
【化1】
【0040】
シリカエアロゲルは空気の平均自由行程を阻害する数十nmの細孔構造のため空気の分子運動が阻害され、高い遮音性を示す。粒子表面に疎水基を有することから、水性媒体中に分散しても、細孔内への水の染み込みや侵入が防止される。このことは、組成物の状態、さらには成形後の状態においても、エアロゲル本来の高い気孔率を保持できること、ひいては優れた遮音性を発揮できることを意味する。通常の遮音材は、単位面積当たりの質量(面密度)が大きいほど、また同じ面密度であれば高い周波数(高音域)ほど透過損失(遮音性能)が大きくなる質量則といわれる法則にしたがうが、本発明の音響周波数選択透過フィルターは、低周波数(低音域)において高い吸音性を示し、薄くて面密度が低くても低音域、高音域において透過損失が大きく、中音域の透過損失が小さいといった音響周波数選択透過性を発現する。
【0041】
このように表面に疎水基を有するシリカエアロゲルは、単独では水性媒体中に均一に分散することができないが、界面活性剤の共存により、水性媒体中に分散させることができる。しかし、界面活性剤の含有量が少ない場合、シリカエアロゲルが分散できない。一方界面活性剤の濃度をシリカエアロゲルが分散できるまで上げると分散媒は細孔内に染み込みやすくなる。本発明は陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーと界面活性剤を併用することにより分散媒がシリカエアロゲルの細孔内に侵入しないため成形後の遮音材の細孔率を高度に保持でき、高い遮音性を持つ複合材が得られる。
【0042】
本発明の音響選択透過フィルターとなる前記固体複合体で使用するシリカエアロゲルは、気孔率50体積%以上、好ましくは70体積%以上、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上の気孔を有する。
【0043】
シリカエアロゲルの粒子径は特に制限しないが、粒径が小さすぎると粒子間隙総合比が増え、遮音等シリカエアロゲルのナノサイズ細孔の比率が少ないため好ましくない。一方、粒径が大きすぎると、粒子間隙のサイズが大きくなり大きい空隙の間に空気が対流し遮音効果が減る恐れがあるため好ましくない。200nm~10mmの粒径範囲が好ましい。好ましくは、シリカエアロゲルの90%以上が粒径1μm~6mmの範囲内、より好ましくは2μm~3mmの範囲内、さらに好ましくは5μm~2mmの範囲内にあるエアロゲル粒子である。粒径が10mm以上のシリカエアロゲルを使用すると粒子と粒子の間の空隙が空気の平均自由行程より大きくなる恐れがあるため好ましくない。さらに粒子の間の空隙を減らすためシリカエアロゲル粉末の嵩密度(バルク密度)は粒子密度との差が小さいものが好ましい。嵩密度は粒子密度に近い程粒子間隙が小さいため好ましい。さらに、単一粒径より各種粒径の粒子が混ぜるシリカエアロゲルが好ましい。
【0044】
このような粒径のシリカエアロゲルは、当該粒径範囲を有する市販品を用いてもよいし、上記範囲よりも粒径が大きいシリカエアロゲルを適宜粉砕処理して用いてもよい。
【0045】
本発明の音響選択透過フィルターとなる前記固体複合体の有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液は、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバー、水溶性非イオン界面活性剤とシリカエアロゲル粒子を、所定比率で配合することにより調製される。疎水性のシリカエアロゲル粒子を本発明の水分散媒に分散することによりシリカエアロゲル粒子が集合体で分散しているコロイドの様なクリーム状の分散液が得られる。シリカエアロゲル粒子の集合体(ミセル)の形状と大きさ(ミセル当たり取り込まれるシリカエアロゲルの数)は有機ナノファイバーと界面活性剤の含有量、分散プロセスや条件に依存する。特に、有機ナノファイバーの含有量が少ない場合、乾燥した複合体はシリカエアロエル粒子の集合体が六角形のような多面体である。一方、有機ナノファイバーの含有量が極端に大きい時、集合体が球状である。
【0046】
有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液を作製するに当たり、各成分の配合順序などは特に限定しないが、シリカエアロゲルの表面が疎水性であること、水溶性非イオン界面活性剤の不在下では、シリカエアロゲルを水に分散できないことに鑑みて、(1)陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバー、水溶性非イオン界面活性剤と水を混ぜた後、シリカエアロゲル粒子を添加混合する方法と;(2)陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーを水に添加して、シリカエアロゲル粒子を添加した後に水溶性非イオン界面活性剤を添加して混合する方法などが挙げられる。添加及び混合は、所定量を一度に添加して混合する方法と少量ずつ添加混合する方法のいずれも可能である。また、有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液の粘度が高い場合、分散液を調製した後、分散媒を加えてさらに希釈することできる。
【0047】
シリカエアロゲル粒子を分散媒に分散するための混ぜる方法は特に制限しないか、シェーキング、磁性スターラー撹拌、機械撹拌、振動撹拌、超音波撹拌等の公知の方法が適用できる。しかし、撹拌のせん断力が強すぎるとシリカエアロゲルの細孔構造が崩壊する恐れがあるため好ましくない。
【0048】
撹拌時間が特に限られていないが、均一な分散液を得るまで撹拌する。撹拌時の分散液の温度は特に制限しないが、施工環境や用途に応じて温度を適切調整すればよい。温度が高すぎると有機成分の分解や揮発の恐れがあるため好ましくない。15~150℃が好ましい。より好ましくは20~120℃、さらに好ましくは23~90℃である。
【0049】
水に対する陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの濃度は0.01~3重量%が好ましい。この範囲内であれば、シリカエアロゲル粒子を分散媒に容易に分散し、分散したシリカエアロゲル粒子のミセルが高い安定性を保つことができるため好ましい。
0.01重量%以下になる分散媒のチキソトロピー性又は粘度が低すぎるため、シリカエアロゲル粒子のミセルが合一しやすく安定を保つことが困難であるため好ましくない。一方、3重量%以上になると分散媒の粘度が高いためシリカエアロゲル粒子がよく分散できず、均一な分散液を得難いため好ましくない。より好ましくは0.05~2.5重量%、さらに0.1~2.0重量%、もっと好ましくは0.2~1.5重量%である。
【0050】
分散媒に対する水溶性非イオン界面活性剤の濃度は界面活性剤の種類に依存し、特に制限しないが、0.2~20重量%が好ましい。より好ましくは2~15重量%である。水溶性非イオン界面活性剤の濃度は低すぎると、シリカエアロゲルを分散媒に均一に分散させることが困難となる。しかしながら、水溶性非イオン界面活性剤の濃度は高すぎると表面張力の低下により分散媒はシリカエアロゲル粒子の表面を濡らすだけでなく、シリカエアロゲルの細孔内に染み込む又は浸透するため、乾燥の際に溶媒の蒸発により細孔が収縮し、遮音性が低下する。
【0051】
前記有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液を乾燥して、水と界面活性剤を蒸発することで固体の複合体を成形することができ、固体複合材料として用いることができる。
【0052】
その場合、有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液が高粘度である場合は、分散液の中に気泡が含まれている可能性が高いため、成形の前に脱泡したりすることが好ましい。脱泡した前記水分散液から得られた固体複合体は、空気の平均自由行程より大きい空隙が少なくなるため高い遮音性と強度を持つ複合体が得られるため好ましい。
【0053】
前記水分散液を乾燥して複合材料を作製する際、常圧乾燥、減圧乾燥又は常圧と減圧の併用等の乾燥法の何れも適用することができる。シリカエアロゲルの熱伝導性が低いため減圧乾燥又は常圧乾燥で一部の水又は非イオン界面活性剤が揮発した後、減圧乾燥に変えることも良い。乾燥の温度、時間は界面活性剤の沸点、金型の寸法、常圧または減圧等の因子に依存する。生産性と施工の面から常圧乾燥と減圧乾燥を併用することが好ましい。
【0054】
乾燥温度と時間は特に制限しないが、界面活性剤の沸点、金型の形状により調整すればよい。例えば、50~250℃が好ましい。より好ましくは60~200℃、さらに好ましくは75~180℃である。温度が低すぎると水と界面活性剤を除くための乾燥時間が長くなり、生産性が低いため好ましくない。一方、乾燥温度が高すぎると水や界面活性剤の揮発が激しすぎるため気泡や欠陥の形成可能性があるため好ましくない。また、乾燥温度が高すぎると有機ナノファイバーが分解したり性能が低下したりする可能性があるため好ましくない。さらに、乾燥温度は、段階的に上げた方が好ましい。
【0055】
前記水分散液を乾燥した固体複合体は、シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体である。固体複合体の模式図を図2に示す。シリカエアロゲルとセルロースナノファイバーで製造した固体複合体の光学顕微鏡写真は、特許文献4の実施例の図2図4図5に示されている。
【0056】
本発明の音響選択透過フィルターを構成する固体複合体の陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーとシリカエアロゲルの重量比は特に限られないが、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの重量比が少なくなると、有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液は熱力学的に不安定な状態になり、乾燥又は成型の際にシリカエアロゲル粒子のミセルが凝集することで相分離が発生する恐れがある。さらに、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの重量比が低すぎると乾燥後の複合体が脆くなるため好ましくない。一方、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーの重量比が大きすぎるとシリカエアロゲル由来性能が低下するため好ましくない。そのため、シリカエアロゲル粒子と有機ナノファイバーの重量比は95:5~60:40が好ましい。より好ましくは90:10~70:30、さらに好ましくは85:15~75:25である。
【0057】
本発明の音響選択透過フィルターを構成する固体複合体は、低い密度とシリカエアロゲルのナノ細孔が維持されているため遮音材に好適であり、低音域および高音域の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有する。本発明の音響選択透過フィルターを構成する固体複合体の密度は特に限られないが、密度が高いほど音響選択透過フィルターが固くなり柔軟性を失う。密度が低いほど、シリカエアロゲル以外の空隙が多くなり、シリカエアロゲルの特性である遅い音の伝搬速度に起因する遮音性が損なわれる。そのため、音響選択透過フィルターを構成する固体複合体の密度は0.05~0.35g/cmが好ましい。より好ましくは0.07~0.18g/cm、さらに好ましくは0.09~0.15g/cmである。
なお、本明細書において固体複合体、不織布、連続気泡発泡体、音響周波数選択透過フィルター等の内部に空間部を有する材料の密度は、見かけ密度である。
【0058】
本発明の音響選択透過フィルターをシート状にする場合、シートの厚さが薄すぎると遮音効果が小さく、厚過ぎると乾燥の際にシートに割れが生じるなどの問題がある。ただし、乾燥した後に積層を繰り返して厚いシートを作製することが可能である。シートの厚さは0.5mm以上が好ましい。より好ましくは0.8mm以上、さらに好ましくは1mm以上である。
【0059】
次に、前記音響周波数選択透過フィルターを構成する固体複合体を不織布上に形成させて音響周波数選択透過フィルターとすることができる。前記固体複合体を不織布上に形成することで乾燥する際に音響選択透過フィルターが割れることを防ぐことができる。有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液が不織布内部に含侵せず固体複合体を表面に形成するためには不織布は疎水性である方が好ましい。疎水性の不織布としてポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル繊維やナイロンなどのアラミド繊維が適する。不織布の厚さは特に限られないが、厚過ぎるとシリカエアロゲル粒子と有機ナノファイバーの複合体層に比べて音響選択透過フィルター全体の厚さが厚くなり省スペースに不利である。
【0060】
続いて、シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体が不織布(グラスウウール及びロックウールを除く)あるいは連続気泡発泡体の内部に形成させた前記〔3〕の音響選択透過フィルター(以下、「複合音響選択透過フィルター」と記載する場合がある。)について説明する。
【0061】
不織布(グラスウウール及びロックウールを除く)あるいは連続気泡発泡体の内部に形成される固体複合体は、前述した有機ナノファイバーを含むシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液を乾燥した複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体で前記固体複合体と同様の構造を有する。
【0062】
複合音響選択透過フィルターを構成する不織布としては、特に限定はされないが、天然繊維(コットン繊維や麻繊維などの植物繊維、絹や羊毛など動物繊維)、再生セルロース繊維(ビスコース、レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル)、半合成繊維(アセテート、トリアセテート、プロミックス)、合成繊維(ナイロン、アラミドなどのポリアラミド繊維、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリクラール、ポリ乳酸)、炭素繊維があげられる。耐熱性の観点からアラミド繊維、植物繊維、再生セルロース繊維、半合成繊維、ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、ビニロン繊維、炭素繊維がより好ましい。
また、本発明においては、不織布に限らず、繊維を組み合わせた布や織物であっても繊維の隙間にシリカエアロゲル粒子の水分散液を含浸することができれば用いることができる。
【0063】
複合音響選択透過フィルターを構成する連続気泡発泡体としては、特に限定はされないがウレタン樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、オレフィン樹脂、ラテックス、ゴムの連続気泡発泡体があげられる。前記水分散液が内部に浸透しやすい点から親水性の連続気泡発泡体が好ましい。ここで連続気泡発泡体とは、内部に気泡を含みスポンジのように気泡同士が繋がっており、水を吸収したり、気体を通過させることができる構造の前記材料の発泡体である。
【0064】
前記固体複合体は、内部に空気を含有して生成され、その空気含有率はシリカエアロゲル粒子と有機ナノファイバーの配合比率、水分散液中の濃度等により変化するが、固体複合体内部に通常は8~35vol%の空気が存在する。
【0065】
複合音響選択透過フィルターである固体複合体が不織布(グラスウウール及びロックウールを除く)あるいは連続気泡発泡体内部に形成させた音響選択透過フィルターとは、シリカエアロゲル粒子の集合体が陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバーのネットワークにより取り囲まれたセルを基本構成とし、複数のセルが密接した3次元的な連続構造の固体複合体が不織布あるいは連続気泡発泡体内部に形成されている。図3に脱脂綿内部に固体複合体が形成されている音響選択透過フィルターの顕微鏡写真、図4にメラミンフォーム内部に固体複合体が形成されている音響選択透過フィルターの顕微鏡写真を示すが、固体複合体とコットン繊維(あるいはメラミン)および空間(空気)で構成されており、固体複合体はコットン繊維(あるいはメラミン)の網目よりも大きく、また、有機ナノファイバー(セルロースナノファイバー)によりコットン繊維(あるいはメラミン)に接着しているためシリカエアロゲル粒子の粉落ちがほとんどない。
【0066】
本発明の複合音響選択透過フィルターは、前記固体複合体が不織布あるいは連続気泡発泡体の内部に形成されている。本発明の複合音響選択透過フィルターは、固体複合体と不織布あるいは連続気泡発泡体の内部および空間(空気)で構成されており、固体複合体は不織布の網目あるいは連続気泡発泡体の気泡連結部の開口部よりも大きいため、固体複合体が不織布あるいは連続気泡発泡体から脱落することはない。また、シリカエアロゲル粒子は、有機ナノファイバー(セルロースナノファイバー)により固体複合体を形成しているので、シリカエアロゲル粒子の粉落ちがほとんどない。図3に脱脂綿内部に固体複合体が形成されている音響選択透過フィルターの顕微鏡写真、図4にメラミンフォーム内部に固体複合体が形成されている音響選択透過フィルターの顕微鏡写真を示す。不織布の繊維間あるいは連続気泡発泡体の空間に固体複合体と空間(空気)が構成されており、固体複合体はガラス繊維の網目あるいは連続気泡発泡体の気泡連結部の開口部よりも大きく、また、不織布の繊維あるいは連続気泡発泡体に接着して存在している。
【0067】
本発明の複合音響選択透過フィルター中の固体複合体の構成比は、断熱遮音材に対して体積比で好ましくは5vol%以上、より好ましくは10vol%以上、さらに好ましくは20vol%以上である。固体複合体の構成比が高いほど遮音性が高くなるため、固体複合体の構成比を高くすると高同等の遮音性を得るための厚さを薄くすることができる。
【0068】
本発明の複合音響選択透過フィルターの密度は、不織布あるいは連続気泡発泡体の材料やシリカエアロゲルとマクロポアの比率による。密度は特に限定されないが、軽量の観点から300kg/m以下であることが好ましい。
【0069】
本発明の複合音響選択透過フィルターの厚さが薄すぎると遮音効果が小さく、厚過ぎると省スペースに対するメリットを失う。シートの厚さは0.5mm以上、50mm以下が好ましい。より好ましくは1mm以上、10mm以下である。
【0070】
続いて、本発明の複合音響選択透過フィルターの製造方法について説明する。
本発明の複合音響選択透過フィルターは、不織布あるいは連続気泡発泡体に有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液を含浸した後、又は、有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液に不織布あるいは連続気泡発泡体を浸して含浸した後、乾燥して不織布あるいは連続気泡発泡体の内部空間に前記固体複合体を形成させて製造することができる。
【0071】
有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液のが高粘度である場合は、分散液の中に気泡が含まれている可能性が高いため、含浸する前に脱泡することが好ましい。脱泡した前記混合水分散液から得られた固体複合体は、空気の平均自由行程より大きい空隙が少なくなるため高い遮音性と強度を持つ複合体が得られるため好ましい。
【0072】
乾燥は、前記した固体複合体の製造と同じ方法、同じ条件で行うことができる。
不織布あるいは連続気泡発泡体の内部空間に前記固体複合体を形成しているため、厚くても乾燥する際に複合音響選択透過フィルターが割れることがない。
【0073】
不織布あるいは連続気泡発泡体の内部空間に形成する前記固体複合体の構成比は、水分散液中の有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子の濃度を濃くすることによって構成比を高くすることができるが、不織布あるいは連続気泡発泡体への有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液の含浸、乾燥を繰り返すことによっても構成比を高くすることができる。
【0074】
次に、本発明の音響選択透過フィルターの遮音性について説明する。
本発明の音響選択透過フィルターは、低音域および高音域の遮音性に優れ、中音域の音を透過する周波数選択性を有している。
本発明の音響選択透過フィルターは、前記低音域が400Hz以下の周波数帯であり及び前記高音域が1300Hz以上の周波数帯であり、前記低音域と前記高音域の間の前記中音域に、透過損失の最小値を有する。
【0075】
より具体的には、音の遮音性を評価するために遮音フィルター(本発明においては本発明の音響選択透過フィルター)を透過する音の周波数を変えて垂直入射透過損失を測定し、音の周波数を横軸に、透過損失を縦軸にしたグラフによって表示することができる。本発明の音響選択透過フィルターは、音の周波数を横軸に透過損失を縦軸にしたグラフに示すと、中音域において逆放物線に近い特性を示し、中音域に透過損失の最小値を持っている。
【0076】
透過損失が10dBの場合は音の大きさは約1/3となり、8dBの場合は40%、6dBの場合はおよそ半分となり騒音が低くなったと感じられる。一方、透過損失が2dBの場合は約80%、3dBの場合は約70%、4dBの場合は約60%が透過して実質的な音量の低下は感じにくい。
【0077】
本発明の音響選択透過フィルターは、前記各音域の透過損失の平均値が、周波数400Hz以下の低音域において6dB以上であり、周波数1300Hz以上の高音域において6dB以上であり、400~1300Hzの中音域において14dB以下であり、400~1300Hzの中音域に存在する透過損失の最小値が3dB以下である。
【0078】
そして、本発明の前記〔1〕及び前記〔2〕に記載の音響選択透過フィルターは、中音域の周波数帯をより狭い範囲の音域で特徴づけることができる。具体的には、低音域を400Hz以下、高音域を1000Hz以上、中音域を400~1000Hzと区分することができる。そして、各音域の透過損失の平均値が、周波数400Hz以下の低音域において6dB以上、好ましくは8dB以上、さらに好ましくは10dB以上であり、高音域を周波数1000Hz以上とすることができる高音域において6dB以上、好ましくは8dB以上、さらに好ましくは10dB以上であり、400~1000Hzの中音域において6dB以下、好ましくは3dB以下、さらに好ましくは2dB以下であり、透過損失の最小値が3dB以下、好ましくは2dB以下、さらに好ましくは1dB以下である。
【0079】
また、本発明の前記〔1〕及び前記〔2〕に記載の音響選択透過フィルターは、200Hzの低音の吸音率が30%以上という特徴も有している。
低音を吸音することで冷蔵庫、エアコンなどのコンプレッサーや自動車エンジンの唸り音など耳障りな音を軽減することができる。
【0080】
本発明の前記〔3〕に記載の音響選択透過フィルター(複合音響選択透過フィルター)は、不織布あるいは連続気泡発泡体の種類によって中音域の周波数帯をより狭い範囲の音域で特徴づけることができ、前記〔1〕に記載の音響選択透過フィルターの同様の中音域を400~1000Hzとする音響選択透過フィルターと中音域を800Hz~1300Hzとする音響選択透過フィルターがある。それぞれを例示すると、中音域を400~1000Hzとする音響選択透過フィルターの例としては、3Mシンサレート(登録商標)不織布等があり、中音域を800Hz~1300Hzとする音響選択透過フィルターの例としてはコットン不織布、メラミンフォーム、カーボンファイバー不織布等がある。
【0081】
中音域を800Hz~1300Hzとする複合音響選択透過フィルターの好ましい各音域の透過損失の平均値は、周波数800Hz以下の低音域において6dB以上、好ましくは10dB以上、さらに好ましくは20dB以上であり、周波数1300Hz以上の高音域において6dB以上、好ましくは10dB以上、さらに好ましくは20dB以上であり、800Hz~1300Hzの中音域において8dB以下、好ましくは6dB以下、さらに好ましくは4dB以下であり、透過損失の最小値が3dB以下、好ましくは2dB以下、さらに好ましくは1dB以下である。
【0082】
そして、中音域を400~1000Hzとする複合音響選択透過フィルターは、各音域の透過損失の平均値は、周波数400Hz以下の低音域において6dB以上、好ましくは8dB以上、さらに好ましくは10dB以上であり、高音域を周波数1000Hz以上とすることができる高音域において6dB以上、好ましくは8dB以上、さらに好ましくは10dB以上であり、400~1000Hzの中音域において6dB以下、好ましくは3dB以下、さらに好ましくは2dB以下であり、透過損失の最小値が3dB以下、好ましくは2dB以下、さらに好ましくは1dB以下である。
【0083】
本発明の音響周波数選択透過フィルターは、それを具備した機器として利用できる。
音響周波数選択透過フィルターの用途としては、自動車のエンジンルーム、車内やトランクルームに用いられているゴム系の遮音材から置き換えることで大幅な軽量化が図れ、前述のエンジン音などのノイズを低減させると同時にサイレン音などを透過させることができる。このような用途としては鉄道車両、船舶、航空機やヘリコプターなどの輸送機の機体には軽量であるため好適である。また、工場の送風機、プレス機、真空ポンプなど、店舗・公共施設の空調室外機、ボイラーなど、家の壁、床、天井などにも用いることができる。
音響周波数選択透過フィルターを具備した機器としては、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、エアコン、スピーカーなどが挙げられる。
また、マイクとスピーカーが同じ空間にある時、話者やボーカルの声以外にスピーカーから発せられる音をマイクが拾い、拾った音をアンプが増幅してさらに大きな音でスピーカーが拡声し、マイク~アンプ~スピーカーの間でループ状態ができて共振することで、いわゆるハウリングの「キーン」という音や「ボー」という音が発生する。
マイク、拡声器や補聴器などに音響周波数選択透過フィルターを備えることで低音域や高音域の音をカットすることができ、ハウリングの発生を防ぐことができる。
【実施例
【0084】
本発明について、実施例を用いてさらに説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。各実施例及び各比較例の作製方法や用いた物性評価法、陰イオン性官能基を持つ有機ナノファイバー、界面活性剤やシリカエアロゲル粒子のメーカーやそれらの調製方法を以下に示した。
【0085】
(有機ナノファイバー)
有機ナノファイバーとしてセルロースナノファイバーの表面の一部又は全ての6位の炭素のヒドロキシメチル基がTEMPO酸化によりカルボキシル基に変換されたTEMPO酸化法セルロースナノファイバーである第一工業製薬社製レオクリスタ(TEMPO酸化法セルロースナノファイバーが2重量%の水分散液)を用いた。
【0086】
(界面活性剤)
ナカライテスク株式会社製のエチレングリコールモノブチルエーテル(EGMBE)を用いた。
【0087】
(シリカエアロゲル粒子)
シリカエアロゲル粒子はキャボト社製ENOVA AEROGEL MT1100を用いた。MT1100について粒子サイズは2~24μm、粒子の密度は120kg/mである。
【0088】
(不織布)
コットン不織布として脱脂綿(ハクジュウコットン、白十字社製、密度43.1kg/m)を用いた。
カーボン繊維不織布としてアクリル繊維を焼成炭化したカーボン繊維から成る厚さ3mmのカーボンフェルト(密度109.2kg/m)を用いた。
マイクロファイバー不織布として繊維径2μmのポリプロピレンマイクロファイバーと繊維径25μmのポリエステル短繊維から成る厚さ10mmのシンサレート(3M社製、密度22.3kg/m)を用いた。
(連続気泡発泡体)
連続気泡発泡体として厚さ3mmのメラミンフォーム(密度82.5kg/m)を用いた。
【0089】
(透過損失・吸音率の評価)
音響選択透過フィルターの垂直入射透過損失および垂直入射吸音率を日本音響エンジニアリング株式会社製 WinZacを用いてASTM-E2611に準拠した伝達マトリックス法に基づく音響材料の垂直入射音伝送の測定を行った。
直径40mmの円盤状に切り抜いた音響選択透過フィルターの試料を装置に設置し、周波数が200~5000Hzの範囲で測定した。環境温度は25℃であった。
【0090】
(音響選択透過フィルターの密度および面密度の評価)
直径40mmの円盤状に切り抜いた一定面積(S=12.57cm)の音響選択透過フィルターについてその質量(W)をマイクロ電子天秤、その厚み(d)をマイクロメータで測り、下式により密度および面密度を求めた。
面密度とは単位面積当たりの重量である。
密度(g/cm)=W(g)/[d(cm)×S(cm)]
面密度(kg/m)=W(kg)/[S(m)]
【0091】
[実施例1]
50mlのサンプル瓶にレオクリスタの水分散液(固形分2重量%)13g、蒸留水26g、エチレングリコールモノブチルエーテル1.5gを加えスターラーにてレオクリスタが均一に分散するまで撹拌した後、シリカエアロゲル(MT1100)0.86gを加え、蓋を閉めて手で1分間シェーキングすることによりクリーム状の分散液を得た。得られた分散液をポリプロピレンシート上に厚さ5mmのスペーサーを介してガラス棒を用いて塗り広げ、90℃のホットプレート上に3時間放置して水とエチレングリコールモノブチルエーテルの殆どを蒸発させてから、120℃の乾燥機でさらに3時間乾燥した後にポリプロピレンシートから剥離して音響選択透過フィルターを得た。得られた音響選択透過フィルターを光学顕微鏡で観察した結果、図1の光学顕微鏡写真、図2の模式図に示すようにネットワークで取り囲まれた複数のセルが密接した3次元的な連続構造が観測された。シリカエアロゲル粒子と有機ナノファイバーの重量比は77:23である。得られた音響選択透過フィルターのシート厚、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図5に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図11に示した。
【0092】
[実施例2]
実施例1の音響選択透過フィルターを2枚重ねて垂直透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図6に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図11に示した。
【0093】
[実施例3]
シリカエアロゲル(MT1100)1.0gとした以外は実施例1と同様に作製した。シリカエアロゲル粒子と有機ナノファイバーの重量比は79:21である。得られた音響選択透過フィルターのシート厚、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図7に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図11に示した。
【0094】
[実施例4]
実施例3の音響選択透過フィルターを2枚重ねて垂直透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図8に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図11に示した。
【0095】
[実施例5]
シリカエアロゲル(MT1100)1.2gとした以外は実施例1と同様に作製した。シリカエアロゲル粒子と有機ナノファイバーの重量比は82:18である。得られた音響選択透過フィルターのシート厚、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図9に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図11に示した。
【0096】
[実施例6]
実施例1の有機ナノファイバーとシリカエアロゲル粒子を含有する水分散液をシンサレート(厚さ約13mm)の表面に塗り広げ、80℃の乾燥器で3時間乾燥した。厚さは約4mmで表層に0.3mmのシリカエアロゲル粒子と有機ナノファイバーから成る層が形成された。得られた音響選択透過フィルターのシート厚、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図10に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図11に示した。
【0097】
[比較例1]
グラスウール(GW32K25T)のシート厚、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図3~8に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図9に示した。
【0098】
[比較例2]
3M社製の吸音断熱材(シンサレート)のシート厚、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表1に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図3~8に示した。また、周波数に対する吸音率のグラフを図9に示した。
【0099】
実施例1~実施例6にて得られた音響選択透過フィルターおよび比較例1および比較例2の厚さ、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表1に示す。
【表1】
表1の結果から明らかなように、実施例で得られたシリカエアロゲル粒子/有機ナノファイバー複合体による音響選択透過フィルターは、面密度が低く、軽量で薄くても低音域の200~400Hzおよび高音域の1000~5000Hzの透過損失が高く、音響遮蔽性に優れ、400~1000Hzの透過損失が低く、選択的に中音域の音を透過させる特性を有している。また、200Hzの低音における吸音性を有している。
【0100】
[実施例7]
110mlのねじ口瓶にレオクリスタの水分散液(固形分2重量%)13g、蒸留水35g、エチレングリコールモノブチルエーテル2.5gを加えスターラーでレオクリスタが均一に分散するまで撹拌した後、シリカエアロゲル(MT1100)0.86gを加え、蓋を閉めて手で3分間シェーキングすることによりクリーム状の分散液を得た。ステンレス製トレイに厚さ5mm、6cm×6cmの脱脂綿を置き、分散液を浸み込ませた後、120℃の乾燥機で3時間乾燥して音響選択透過フィルターを得た。乾燥後の音響選択透過フィルターの厚さは1mmであった。密度は259kg/m、面密度は0.26kg/mの軽さであった。得られた音響選択透過フィルターの厚さ、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表2に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図12に示した。
【0101】
[実施例8]
110mlのねじ口瓶にレオクリスタの水分散液(固形分2重量%)13g、蒸留水35g、エチレングリコールモノブチルエーテル2.5gを加えスターラーでレオクリスタが均一に分散するまで撹拌した後、シリカエアロゲル(MT1100)0.86gを加え、蓋を閉めて手で3分間シェーキングすることによりクリーム状の分散液を得た。得られた分散液に蒸留水を13g加えてスターラーで撹拌して含浸用分散液を得た。ステンレス製トレイに厚さ3mm、6cm×6cmのカーボンフェルトを置き、分散液を浸み込ませた後、120℃の乾燥機で3時間乾燥して音響選択透過フィルターを得た。乾燥後の音響選択透過フィルターの厚さは2mmであった。密度は184kg/m、面密度は0.37kg/mの軽さであった。得られた音響選択透過フィルターの厚さ、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表2に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図12に示した。
【0102】
[実施例9]
110mlのねじ口瓶にレオクリスタの水分散液(固形分2重量%)13g、蒸留水35g、エチレングリコールモノブチルエーテル2.5gを加えスターラーでレオクリスタが均一に分散するまで撹拌した後、シリカエアロゲル(MT1100)0.86gを加え、蓋を閉めて手で3分間シェーキングすることによりクリーム状の分散液を得た。得られた分散液に蒸留水を13g加えてスターラーで撹拌して含浸用分散液を得た。ステンレス製トレイに厚さ10mm、6cm×6cmのマイクロファイバー不織布を置き、分散液を浸み込ませた後、120℃の乾燥機で3時間乾燥して音響選択透過フィルターを得た。乾燥後の音響選択透過フィルターの厚さは1.5mmであった。密度は166kg/m、面密度は0.25kg/mの軽さであった。得られた音響選択透過フィルターの厚さ、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表2に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図12に示した。
【0103】
[実施例10]
110mlのねじ口瓶にレオクリスタの水分散液(固形分2重量%)13g、蒸留水35g、エチレングリコールモノブチルエーテル2.5gを加えスターラーでレオクリスタが均一に分散するまで撹拌した後、シリカエアロゲル(MT1100)0.86gを加え、蓋を閉めて手で3分間シェーキングすることによりクリーム状の分散液を得た。得られた分散液に蒸留水を13g加えてスターラーで撹拌して含浸用分散液を得た。ステンレス製トレイに厚さ3mm、6cm×6cmのメラミンフォームを置き、分散液を浸み込ませた後、120℃の乾燥機で3時間乾燥して音響選択透過フィルターを得た。乾燥後の音響選択透過フィルターの厚さは2.3mmであった。密度は123kg/m、面密度は0.28kg/mの軽さであった。得られた音響選択透過フィルターの厚さ、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表2に、周波数に対する垂直入射透過損失のグラフを図12に示した。
【0104】
実施例7~実施例10にて得られた音響選択透過フィルターの厚さ、密度、面密度および垂直入射透過損失を評価した結果を表2に示す。
【表2】
表2に示すように、不織布あるいは連続気泡発泡体に含浸させた場合の本発明の複合音響選択透過フィルターは、低音域および高音域の遮音性に優れ中音域の音を透過する周波数選択性を有する遮音性能を示し、含浸させる不織布あるいは連続気泡発泡体の種類により透過する中音域の周波数帯域を変えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のシリカエアロゲル粒子/有機ナノファイバー複合体による音響選択透過フィルターは、従来の軽量な吸音材では実現できない250Hz以下の耳を圧迫するような不快な低周波音を遮断することができる。低周波音は自動車のエンジンだけでなく、鉄道車両、船舶、航空機やヘリコプターなどの輸送機器、工場の送風機、プレス機、真空ポンプなど、店舗・公共施設の空調室外機、ボイラーなどからも発生するので特に軽量であることが求められる幅広い分野への利用が期待できる。さらに低周波音を遮断するだけでなく吸音することから音の発生源と同じ空間であっても音の反響が少なく、例えば自動車内のエアコンの音などを聞こえにくくして快適性を保つことができる。
また、背景技術でサイレン音を例示したが、音声や歌声は主に中音域なので、低音域や高音域の音は遮断し、中音域の声を聞こえやすくする音響選択透過性を利用した機器への利用も期待できる。

図1
図2
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図5
図6
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図12