(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】人工腱索再建術用の手術器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/04 20060101AFI20250120BHJP
A61F 2/24 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
A61B17/04
A61F2/24
(21)【出願番号】P 2021070819
(22)【出願日】2021-04-20
【審査請求日】2024-03-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【氏名又は名称】山本 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100161090
【氏名又は名称】小田原 敬一
(72)【発明者】
【氏名】松居 喜郎
(72)【発明者】
【氏名】波多野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】千葉 稔
(72)【発明者】
【氏名】四十万 順
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-104115(JP,A)
【文献】登録実用新案第3155686(JP,U)
【文献】特開2009-268632(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0053951(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工腱索の腱索長を定めるための基準となるべき弁尖と腱索との接合部位に接するように配置することが可能であり、かつ、前記基準となる接合部位に掛けられた牽引用の糸を通すための牽引糸通し部を有する位置決め部と、
前記位置決め部に隣接して設けられ、弁尖の対象部位に掛けられた人工腱索形成用の人工糸を通すための人工糸通し部、及び前記人工糸通し部を通過した人工糸を引き寄せて結紮する際に当該人工糸を掛け止ることが可能な糸掛け部を有する結紮支持部と、
を備えた人工腱索再建術用の手術器具。
【請求項2】
前記結紮支持部には、間隔を空けて並べられた複数の突片が設けられ、少なくとも一つの突片が前記糸掛け部として機能し、かつ前記複数の突片間の隙間が前記人工糸通し部として機能する請求項1に記載の手術器具。
【請求項3】
前記人工糸通し部を狭めるようにして前記結紮支持部と組み合わされる第1の状態と、前記糸掛け部から前記人工糸を取り外すことができるように前記結紮支持部から分離される第2の状態との間で状態を切り替え可能な結紮補助部をさらに備えた請求項1又は2に記載の手術器具。
【請求項4】
前記結紮補助部として、前記結紮支持部の前記糸掛け部に被さるようにして装着可能なチューブが設けられている請求項3に記載の手術器具。
【請求項5】
前記チューブは、切開されることにより前記結紮支持部から分離可能である請求項4に記載の手術器具。
【請求項6】
前記糸掛け部に対して前記人工糸を引き寄せる方向と平行に基準方向を設定したときに、前記位置決め部と前記結紮支持部とが前記基準方向に沿って隣接している請求項1~5のいずれか一項に記載の手術器具。
【請求項7】
前記糸掛け部に対して前記人工糸を引き寄せる方向と平行に基準方向を設定したときに、前記位置決め部と前記結紮支持部とが前記基準方向を横切る方向に沿って隣接している請求項1~5のいずれか一項に記載の手術器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、僧帽弁等の心臓弁の人工腱索再建術に用いることが可能な手術器具に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓の僧帽弁の弁尖逸脱に対する治療法として、逸脱した弁尖と乳頭筋とを人工糸でつないで弁尖を正常位置に戻す人工腱索再建術が広く適用されている。人工腱索再建術では、人工腱索の糸長を適切に定めることが重要である。そのため、種々の手術用具を利用して糸長を調整しつつ人工腱索を形成する手術法が提案されている。例えば、基準となる腱索長の測定結果に合わせて全長が調整された一対の筒状の補助具を乳頭筋と弁尖との間に配置し、それらの補助具に人工糸を通して両糸を結紮することにより、人工腱索を形成する手法が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、人工腱索を形成するための基準となる腱索長を測定するための測定具も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-104115号公報
【文献】特開2016-165396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実際の臨床では、腱索変性に伴って弁腹に拡大、肥厚等の変化が生じていることがある。そのため、腱索長の測定結果に合わせて人工腱索の糸長を決定しても、その長さが理想的な糸長とはならない場合がある。適切な人工腱索を形成するためには、弁尖の正常部位を基準として糸長を定めることが望ましいが、従来の器具はそのような観点に基づく糸長の設定を考慮したものではない。
【0005】
そこで、本発明は、弁尖の正常部位を基準として適切な糸長の人工腱索を形成することが可能な人工腱索再建術用の手術器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る人工腱索再建術用の手術器具は、人工腱索の腱索長を定めるための基準となるべき弁尖と腱索との接合部位に接するように配置することが可能であり、かつ、前記基準となる接合部位に掛けられた牽引用の糸を通すための牽引糸通し部を有する位置決め部と、前記位置決め部に隣接して設けられ、弁尖の対象部位に掛けられた人工腱索形成用の人工糸を通すための人工糸通し部、及び前記人工糸通し部を通過した人工糸を引き寄せて結紮する際に当該人工糸を掛けることが可能な糸掛け部を有する結紮支持部と、を備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一形態に係る手術器具の全体構成を示す図。
【
図2】
図1の手術器具の先端部(下端部)を拡大して示す図。
【
図3】
図1の手術器具を
図2の矢印III方向から見た状態を示す拡大側面図。
【
図4】
図1の手術器具を
図2の矢印IV方向から見た状態を示す拡大底面図。
【
図5】
図1の手術器具を使用する手順の一例を示す図。
【
図11】
図1の手術器具を使用する手順の他の例を示す図。
【
図14】本発明の他の形態に係る手術器具の全体構成を示す図。
【
図15】
図14の手術器具の先端部(下端部)を拡大して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[第1の形態]
図1~
図4は、本発明の一形態に係る手術器具1を示している。手術器具1は、心臓弁の一例としての僧帽弁の人工腱索再建術に用いられる。ただし、手術器具1は、他の心臓弁、すなわち三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁を対象とする人工腱索再建術に利用されてもよい。以下では僧帽弁を対象とする場合を例として説明を続ける。
【0009】
図1から明らかなように、手術器具1は、ロッド部2と、ロッド部2の先端側に設けられた作用部3とを備えている。ロッド部2及び作用部3は、消毒、滅菌に対して耐性を有し、生体に対して繰り返し安全に使用することが可能な金属材料、例えばステンレス合金にて形成される。ロッド部2は、直線軸状のシャンク2aの先端側に二股のフォーク2bを、後端側にグリップ2cをそれぞれ配置した形状を備えている。グリップ2cは一例として六角柱状である。ロッド部2は、手術器具1を用いる術者が、作用部3を患部に挿入して僧帽弁の所望位置に配置するための支持構造体として機能する。
【0010】
図2~
図4に拡大して示したように、作用部3は、位置決め部の一例としての基準プレート10と、結紮支持部の一例としての結紮プレート20とを備えている。基準プレート10は、正常な弁尖と腱索との接合部位に接するように配置される。基準プレート10は概ね平板状であり、その両端がロッド部2のフォーク2bに結合されることによりロッド部2に一体的に連結されている。基準プレート10には一対の貫通孔状の糸通し部11が、基準プレート10の幅方向(
図2及び
図4における左右方向)に並ぶようにして設けられている。糸通し部11は、弁尖の正常部位に掛けられた牽引糸を通すために設けられている。一例として、糸通し部11は、基準プレート10を厚さ方向(
図2及び
図3の上下方向)に貫く貫通孔形状に形成されている。それにより、糸通し部11は牽引糸通し部の一例として機能する。ただし、糸通し部11は貫通孔形状に限らない。スリット、溝といったように牽引糸を通過させることが可能である限り、糸通し部11は適宜の形状に形成されてよい。
【0011】
結紮プレート20は、基台部21上に複数(図示例では3個)の突片22を基準プレート10の幅方向に沿って一列に間隔を空けて並べた構成を備えている。基台部21は基準プレート10と一体的に設けられることにより基準プレート10の一部としても機能する。突片22は、概ね矩形平板状であり、基準プレート10とほぼ直交する方向に突出する。各突片22は互いに同形かつ同大である。各突片22は、人工糸を引き寄せて結紮する際にその人工糸を掛け止めることが可能な糸掛け部の一例として機能する。突片22間の隙間は、人工腱索を形成するための人工糸が通過可能な人工糸通し溝23として機能する。人工糸通し溝23の溝幅、すなわち突片22の間隔は人工糸が通過可能であればよく、図示の溝幅は一例である。結紮プレート20には、中央の突片22と位置を合わせるようにして人工糸通し孔24がさらに設けられている。人工糸通し孔24は、基台部21を厚さ方向(
図2及び
図3の上下方向)貫く貫通孔形状に形成されている。人工糸通し孔24の幅は突片22の幅よりも幾らか大きく設定されている。それにより、人工糸通し孔24は手術器具1の幅方向に扁平な断面形状である。また、人工糸通し溝24の突片22側の内壁面は突片22の表面と略面一である。人工糸通し溝23及び人工糸通し孔24は、結紮プレート20における人工糸通し部として機能する。
【0012】
手術器具1には、結紮補助部の一例としてのチューブ30がさらに設けられている。チューブ30は、弾性材料製であって、フォーク2bに対して適度に膨らみ変形して嵌め合わせることが可能な大きさに形成されている。一例として、チューブ30はシリコン製である。チューブ30は一回限りの使用を前提とした消耗部品として設けられてよい。チューブ30は、突片22のほぼ全体に被さるようにして結紮プレート20と組み合わされる。それにより、人工糸通し溝23が上下方向に関して狭められる。言い換えれば、人工糸通し溝23の開放端側(
図2の上端側)がチューブ30の端部で閉じられて、結紮プレート20とチューブ30との間には上下方向が狭められた複数の人工糸通し孔31が形成される。一方、チューブ30を
図2の上方、すなわち結紮プレート20から離れる方向に移動させるか、又はチューブ30を切開することにより、チューブ30を結紮プレート20から分離することが可能である。チューブ30が結紮プレート20の突片22に被せられた状態が第1の状態の一例に相当し、チューブ30が結紮プレート20から分離された状態が第2の状態の一例に相当する。
【0013】
次に、
図5~
図10を参照して、手術器具1の使用手順の一例を説明する。なお、
図5~
図10は、僧帽弁の後尖の正常部位を基準として糸長を調整しつつ前尖に人工腱索を形成する場合の手術器具1の使用法を理解するために示すものである。図中に描かれた各要素の大小関係等は実際の臨床例を必ずしも正確に示すものではない。
【0014】
まず、
図5を参照して、人工腱索再建術が適用される対象の僧帽弁の例を説明する。図示の例では、僧帽弁100の前尖101の対象箇所TPにて腱索が失なわれて逸脱が生じ、その対象箇所TPと乳頭筋102との間に人工腱索を形成するものとする。後尖103と乳頭筋102との間の腱索104は正常である。この場合、後尖103の対象箇所TPと対面する部位を、人工腱索の糸長(腱索長)を定めるための基準となるべき接合部位(以下、基準接合部位と称する。)RPとして選定する。
【0015】
次に、接合部位RPに対して牽引用の糸(以下、牽引糸と称する。)200を掛け、基準接合部位RPを牽引可能な状態とする。また、対象部位TPに関しては、人工腱索によって連結されるべき相手方の乳頭筋102に人工腱索形成用の人工糸201を縫着し、その人工糸201の両端側を対象部位TPに刺し通して、例えば少なくとも一回巻き付けることにより、対象部位TPを人工糸201にて牽引可能な状態とする。牽引糸200及び人工糸201のそれぞれの端部には、糸を通す際の先導となる穿刺針が設けられるが、その図示は省略されている。人工糸201は一例としてEPTFE糸であるが、人工腱索の形成に適した各種の糸が人工糸201として用いられてよい。
【0016】
次に、
図6に示すように、牽引糸200の両端部を基準プレート10の糸通し部11に通し、引き出された牽引糸200を例えばターニケットのチューブ202にさらに通す。また、人工糸201を人工糸通し孔24に対して下から上に通し、人工糸通し孔24から引き出された人工糸201を、基準プレート10の側から突片22の両側の人工糸通し孔31に通して基準プレート10の反対側に引き出す。続いて、
図7に示すように、チューブ202の先端部を基準プレート10に押し付けつつ牽引糸200を引っ張って基準プレート10を基準接合部位RPと接するように配置する。その状態で、クリップ等の適宜の固定手段(不図示)にてチューブ202を挟み込んで牽引糸200とチューブ202とを仮固定する。これにより、基準プレート10は、後尖103の正常部位である基準接合部位RPと接した位置に位置決めされる。さらに、基準接合部位RPの腱索104が軽度に引っ張られるように手術器具1の全体を引き上げることにより、基準プレート10と乳頭筋102との距離を正常な腱索104の腱索長に一致させる。続いて、人工糸201の両端を基準プレート10の反対側に引き寄せて、対象部位TPを結紮プレート20の基台部21で受け止める。これにより、対象部位TPが基台部21と接した状態で支持される。その状態で、
図8に示すように、人工糸201に結び目201aを形成し、得られた結び目201aで突片22を締め付けて人工糸201を突片22に緩みなく掛け止めることにより人工糸201を結紮する。結紮後は、チューブ30を切開するか又は上方に抜き取ることにより、
図9に示すようにチューブ30を結紮プレート20から分離させる。これにより、人工糸通し孔31が開放され、人工糸201を突片22から取り外すことが可能となる。その後、
図10に示すように、人工糸201の結び目201aを突片22から抜き取って手術器具1を除去し、かつ人工糸201の余長部分を切除する。それにより人工腱索105が形成される。
【0017】
図11~
図13は手術器具1の使用手順の他の例を示している。この例でも、
図5に示したように基準接合部位RPに牽引糸200を、対象部位TPに人工糸201をそれぞれ掛ける点までは同じである。その後、
図11に示すように、牽引糸200の両端部を基準プレート10の糸通し部11に通し、引き出された牽引糸200を例えばターニケットのチューブ202にさらに通す。また、人工糸201を結紮プレート20とチューブ30との間の糸通し孔31に基準プレート10の反対側から通す。その後、
図12に示すように、チューブ202の先端部を基準プレート10に押し付けつつ牽引糸200を引っ張って基準プレート10を基準接合部位RPと接するように配置する。その状態で、クリップ等の適宜の固定手段(不図示)にてチューブ202を挟み込んで牽引糸200とチューブ202とを仮固定する。これにより、基準プレート10は、後尖103の正常部位である基準接合部位RPと接した位置に位置決めされる。さらに、基準接合部位RPの腱索104が軽度に引っ張られるように手術器具1の全体を引き上げることにより、基準プレート10と乳頭筋102との距離を正常な腱索104の腱索長に一致させる。続いて、人工糸201の両端を基準プレート10側に引き寄せて、対象部位TPを結紮プレート20で受け止める。これにより、対象部位TPが突片22と接した状態で支持される。その状態で、
図13に示すように、対象部位TPを突片22に括り付けるようにして結び目201aを形成し、得られた結び目201aで突片22を締め付けて人工糸201を突片22に緩みなく掛け止めることにより人工糸201を結紮する。その後は、
図9と同様にチューブ30を取り外し、さらに人工糸201を突片22から抜き取るとともに、人工糸201の余長部分を切断する。それにより、
図10と同様に理想的な腱索長の人工腱索105が形成される。
【0018】
上述した使用手順の各例は、人工糸201の通し方、及び対象部位TPを基台部21又は突片22のいずれによって受け止めるかの点が相違するだけである。互いに隣接して配置された基準プレート10及び結紮プレート20のそれぞれで基準接合部位RP及び接合部位TPを受け止めつつ、突片22を利用して人工糸201を緩みなく結紮することができるので、いずれの使用手順に従っても、得られた人工腱索105の腱索長は、基準接合部位RPにおける正常な腱索104の腱索長に等しい。したがって、後尖103の正常部位を基準として、前尖101の対象部位TPに対して理想的な腱索長の人工腱索105を形成することができる。各使用手順は、手術野の状況、基準接合部位RPや対象部位TPの位置等に応じて適宜に使い分けられてよい。
【0019】
上記の各手順では、チューブ30を結紮プレート20の突片22に被せて人工糸通し孔31を形成しているため、そのチューブ30の差し込み量によって人工糸通し孔31の大きさ(図示例ではチューブ30と基台部21との間の隙間量)を調整することができる。人工糸通し孔31を狭めてこれを通過する人工糸201に適度な摩擦抵抗を付加することも可能である。したがって、人工糸201に適度な抜け止め作用を与えて手術の円滑化、あるいは負担の軽減を図ることができる。特に、人工糸201として、EPTFE糸のように滑りやすい素材の糸を用いる場合には得られるメリットが大きい。
【0020】
上記の説明から明らかなように、手術器具1では、結紮プレート20の突片22に対して人工糸201を引き寄せる方向と平行に基準方向(
図3、
図4の矢印C方向)を設定したときに、基準プレート10と結紮プレート20とがその基準方向に沿って隣接するように配置されている。したがって、人工腱索が形成されるべき対象部位TPに対面する弁尖の正常部位を基準接合部位RPとして選定した場合に、その基準接合部位に基準プレート10を当てて手術器具1を位置決めしつつ、その位置決め箇所の近傍で人工糸201を結紮するために適したレイアウトを実現することができる。
【0021】
基準プレート10及び結紮プレート20は、後尖103の基準接合部位RP、及び前尖101の対象部位TPが存在する領域まで挿入すれば足り、乳頭筋102の付近まで手術器具1を深く挿入する必要はない。したがって、視認性を良好に確保することが可能であり、この点でも手術の円滑化に有利である。MICS-MVP症例のように手術中の視野が比較的狭い範囲に限られる術野でも適用が可能である。前尖101及び後尖103の限られた範囲と接するように基準プレート10及び結紮プレート20を配置すれば人工腱索を形成することができるので、人工弁輪が装着されている僧帽弁であっても支障なく使用することが可能である。弁が変形し拡大した例でも前尖及び後尖の接合面を決定すれば人工腱索長は自ずから決定できる。
【0022】
[第2の形態]
次に、
図14~
図17を参照して本発明の他の形態に係る手術器具を説明する。
図14~
図17に示す手術器具1Aは、基準プレート10Aと結紮プレート20Aとの位置関係が
図1~
図4の手術器具1と異なる。
図14~
図17において、手術器具1との共通部分には同一符号を付し、以下では相違点について説明する。
【0023】
手術器具1Aでは、結紮プレート20Aに向けて人工糸を引き寄せる方向と平行に基準方向(
図16及び
図17の矢印C方向)を設定したとき、基準プレート10Aと結紮プレート20Aとがその基準方向を横切る方向、より具体的には基準方向と直交する方向に沿って隣接するように配置されている。その余の事項、すなわち基準プレート10Aに糸通し部11が設けられる点、結紮プレート20Aに基台部21及び複数の突片22が設けられる点、結紮プレート20Aにチューブ30が被さるように装着される点は
図1~
図4の例と共通である。ただし、基準プレート10Aと結紮プレート20Aとの位置関係の相違に伴い、結紮プレート20Aの基台部21は基準プレート10Aの一部として兼用されることはなく、基準プレート10Aと一体的に連なりかつ突片22の基礎として機能する部材として設けられている。基台部21は、突片22と同程度に薄く形成することができる。そのため、
図4の人工糸通し孔24に相当する貫通孔は手術器具1Aでは省略されている。
【0024】
本形態の手術器具1Aは、人工腱索を形成する対象となる弁尖と同一の弁尖上に基準接合部位を選定する場合に好適に用いることができる。例えば、前尖及び後尖のいずれにも逸脱が生じている場合、前尖の対象部位に対して後尖の対面位置に基準となる接合部位を選定し難い一方で、同一弁尖上の対象部位に隣接する位置に正常な接合部位が存在することが少なくない。このような場合に、対象部位に隣接する接合部位を基準接合部位として選定し、
図5~
図10と同様の手順で基準接合部位に手術器具1Aの基準プレート10Aを接触させつつ結紮プレート20Aを用いて人工糸を結紮することにより、理想的な腱索長の人工腱索を形成することが可能である。
【0025】
[変形例]
本発明は、上述した手術器具1、1Aに限定されることなく、適宜の変形又は変更を施した形態にて実施されてよい。例えば、位置決め部は平板状の基準プレート10、10Aを用いる例に限らない。位置決め部は、基準となる接合部位と接するように配置することが可能であって、かつ基準となる接合部位を牽引するための牽引糸通し部を備える限りにおいて適宜の形状で形成されてよい。結紮支持部も、基台部上に複数の矩形平板状の突片を並べて形成する例に限らない。例えば、突片は、結紮時に人工糸を掛け止めすることが可能な糸掛け部として機能する限り、ピン状、テーパ状等の適宜の形状で形成されてよい。糸掛け部の個数も図示の例に限らず、1以上の適宜の数に設定されてよい。単一の糸掛け部を設ける場合であっても、その両側で人工糸を引き寄せつつ、その糸掛け部に人工糸を縛り付けるように掛け止めすれば、結紮支持部に対象部位を密着させて理想的な腱索長の人工腱索を形成することが可能である。また、単一の糸掛け部を設ける場合には、チューブを利用して糸掛け部の両側で人工糸を挟むようにすれば、人工糸に適度の抜け止め又は滑り止め作用を与えつつ人工糸を手際よく結紮することが可能である。
【0026】
結紮補助部は、弾性材料製のチューブを利用する例に限らない。結紮支持部と組み合わされた状態と結紮支持部から分離された状態との間で状態を変更可能であって、組み合わせ時には人工糸通し部を狭めて人工糸に適度の抜け止め作用、あるいは滑り止め作用を生じさせることが可能で、分離時には結紮された人工糸の糸掛け部からの取り外しを可能とするものであれば、チューブに限らず適宜の構成の結紮補助部が設けられてよい。あるいは、結紮補助部を省略することも可能である。例えば、突片22同士の隙間量を、人工糸が適度に挟み込まれる程度まで狭めることにより、結紮補助部に依存することなく人工糸の抜け止め、あるいは滑り止め作用を付与できるようにしてもよい。
【0027】
上述した実施の形態及び変形例のそれぞれから導き出される本発明の各種の態様を以下に記載する。なお、以下の説明では、本発明の各態様の理解を容易にするために添付図面に図示された対応する構成要素を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0028】
本発明の一態様に係る人工腱索再建術用の手術器具(1;1A)は、人工腱索(105)の腱索長を定めるための基準となるべき弁尖(102)と腱索(104)との接合部位(RP)に接するように配置することが可能であり、かつ、前記基準となる接合部位に掛けられた牽引用の糸(200)を通すための牽引糸通し部(11)を有する位置決め部(10;10A)と、前記位置決め部に隣接して設けられ、弁尖(101)の対象部位(TP)に掛けられた人工腱索形成用の人工糸(201)を通すための人工糸通し部(23、24)、及び前記人工糸通し部を通過した人工糸を引き寄せて結紮する際に当該人工糸を掛け止ることが可能な糸掛け部(22)を有する結紮支持部(20;20A)と、を備えたものである。
【0029】
上記態様によれば、基準となる接合部位に掛けた牽引用の糸を位置決め部の牽引糸通し部に通して引き込むことにより、その接合部位を位置決め部に向けて牽引し、位置決め部を基準の接合部位と接した位置に位置決めすることができる。一方、対象部位に掛けられた人工糸を人工糸通し部に通して引き込むことにより、その対象部位を結紮支持部に接した状態で支持することができる。それらの状態で人工糸を糸掛け部に縛り付けるように結紮し、その後に結紮された人工糸を突片から取り外せば、対象部位に人工腱索を形成することができる。位置決め部と結紮支持部とは隣接しているため、位置決め部を基準となる接合部位に接するように位置決めし、かつ結紮支持部にて対象部位を支持した状態で人工糸を結紮すれば、得られた人工腱索の腱索長は、基準となる接合部位の腱索長に等しくなる。したがって、弁尖の正常部位を基準として適切な糸長の人工腱索を形成することが可能である。
【0030】
上記態様において、前記結紮支持部には、間隔を空けて並べられた複数の突片(22)が設けられ、少なくとも一つの突片が前記糸掛け部として機能し、かつ前記複数の突片間の隙間(23)が前記人工糸通し部として機能するようにしてもよい。この場合には、突片間の隙間に人工糸を通した上で、突片に縛り付けるように人工糸を結紮することにより、対象部位を結紮支持部に確実に接触させつつ人工糸を緩みなく結紮することができる。
【0031】
上記態様において、手術器具は、前記人工糸通し部を狭めるようにして前記結紮支持部と組み合わされる第1の状態と、前記糸掛け部から前記人工糸を取り外すことができるように前記結紮支持部から分離される第2の状態との間で状態を切り替え可能な結紮補助部(30)をさらに備えてもよい。これによれば、結紮補助部を結紮支持部と組み合わせて人工糸通し部を狭めることにより、人工糸に適度の摩擦抵抗を与え、人工糸の抜け止め作用又は滑り止め作用を生じさせることが可能である。
【0032】
また、前記結紮補助部として、前記結紮支持部の前記糸掛け部に被さるようにして装着可能なチューブが設けられてもよく、さらに、前記チューブは、切開されることにより前記結紮支持部から分離可能であってもよい。これらの形態によれば、チューブの弾性を利用して人工糸を押さえ込むことが可能である。チューブを除去して人工糸通し孔を開放する作業も比較的容易に行うことができる。
【0033】
上記態様の手術器具(1)においては、前記糸掛け部に対して前記人工糸を引き寄せる方向と平行に基準方向(矢印C方向)を設定したときに、前記位置決め部(10)と前記結紮支持部(20)とが前記基準方向に沿って隣接していてもよい。この場合は、人工腱索を形成すべき弁尖の対象部位に対面する他の弁尖の正常部位を基準として、これに位置決め部を接するように配置することにより、適切な腱索長の人工腱索を形成することができる。
【0034】
上記態様の手術器具(1A)においては、前記糸掛け部に対して前記人工糸を引き寄せる方向と平行に基準方向(矢印C方向)を設定したときに、前記位置決め部(10A)と前記結紮支持部(20A)とが前記基準方向を横切る方向に沿って隣接していてもよい。この場合は、人工腱索を形成すべき対象部位が存在する弁尖と同一弁尖上でかつ対象部位と隣接する正常部位を基準として、これに位置決め部を接するように配置することにより、適切な腱索長の人工腱索を形成することができる。
【符号の説明】
【0035】
1、1A 手術器具
10、10A 基準プレート(位置決め部)
11 糸通し部(牽引糸通し部)
20、20A 結紮プレート(結紮支持部)
22 突片(糸掛け部)
23 人工糸通し溝(人工糸通し部)
24 人工糸通し孔(人工糸通し部)
30 チューブ(結紮補助部)
31 人工糸通し孔
100 僧帽弁
101 前尖
102 乳頭筋
103 後尖
105 人工腱索
200 牽引糸
201 人工糸