(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】リポソームの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/127 20250101AFI20250120BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20250120BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20250120BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20250120BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20250120BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20250120BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20250120BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20250120BHJP
C07K 17/04 20060101ALN20250120BHJP
【FI】
A61K9/127
A61K47/24
A61K47/28
A61K47/42
A61K47/64
A61K49/00
A61K31/704
A61K31/519
C07K17/04 ZNA
(21)【出願番号】P 2021566082
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(86)【国際出願番号】 IB2020054346
(87)【国際公開番号】W WO2020225769
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-01-27
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PT
(73)【特許権者】
【識別番号】516116507
【氏名又は名称】ユニベルズィダード ドゥ ミンホ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE DO MINHO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】ディアナ イサベル ペレイラ グイマラエス
(72)【発明者】
【氏名】エウゲニア ソフィア ダ コスタ ノグエイラ
(72)【発明者】
【氏名】アルトゥール マヌエル カヴァコ パウロ
【審査官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/223135(WO,A1)
【文献】特表2015-514692(JP,A)
【文献】国際公開第2013/089151(WO,A1)
【文献】Modified ethanol injection method for liposomes containing β-sterol β-D-glucoside,Journal of Liposome Research,2001年,Vol.11, No.1,pp.115-125
【文献】Analysis of process parameters on the characteristics of liposomes prepared by ethanol injection with a view to process scale-up: Effect of temperatureand batch volume,Chemical Engineering Research and Design,2011年,89,pp.785-792
【文献】Peptide anchor for folate-targeted liposomal delivery,Biomacromolecules,2015年,Vol.16,pp.2904-2910
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00- 47/69
A61K 31/33- 33/44
C07K 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン脂質およびステロイドの疎水性分子をエタノールと混合してエタノール相を調製する工程と、
活性成分およびターゲティング剤を用いて緩衝液中に水相を調製する工程と、
約50℃~約80℃の温度で、前記水相に前記エタノール相を、前記エタノール相と前記水相との体積比を1:1~3:2として注入してリポソームを得る工程と、
前記エタノールを除去する工程と、
残留する遊離の前記活性成分を適切な方法、具体的にはタンジェンシャルフローろ過によって除去してリポソーム分散液を得る工程と、
任意で、前記リポソーム分散液を前記水相で1~10倍にさらに希釈する工程と、
を逐次的に有し、
前記ターゲティング剤は、リポソーム成分と共役しているか、脂質膜に組み込まれているペプチドであり、
前記水相の初期体積に対する前記エタノールの濃度が40%~60%である、活性成分をリポソームに封入する方法。
【請求項2】
前記エタノールの除去が、蒸発またはタンジェンシャルフローろ過によって行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステロイドがコレステロールである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記リポソーム分散液を前記水相で1~10倍にさらに希釈する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記エタノール相が約2~4ml/分の速度で注入される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水相の初期体積に対する前記エタノールの濃度が50%である、請求項1~5に記載の方法。
【請求項7】
前記温度が60℃または70℃である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記活性成分が、pH約4~約7で少なくとも1つの負電荷を含む多荷電分子である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記活性成分が薬剤、イメージング剤または治療薬である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記薬剤が、抗がん剤、抗リウマチ剤、抗神経変性疾患剤、抗酸化剤、抗炎症剤、解熱剤、抗生剤、抗ウイルス剤、鎮痛剤、またはそれらの組み合わせである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記注入工程が撹拌下で行なわれる、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記ターゲティング剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、またはその組み合わせのリストから選択される配列と少なくとも90%の同一度を有する少なくとも1種のペプチドである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水相がリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記エタノール相が、アニオン性、中性、またはカチオン性のリン脂質を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記エタノール相の前記リン脂質が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、および/またはそれらの誘導体もしくは混合物からなるリストから選択される、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記エタノール相の前記リン脂質が、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンである、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記エタノール相が、ステルス剤、ターゲティング剤、またはそれらの混合物をさらに含む、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ステルス剤がポリエチレングリコール(PEG)またはガングリオシドである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリエチレングリコール(PEG)が、リン脂
質に結合されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記リン脂質がジステアロイルホスファチジルエタノールアミンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ターゲティング剤が前記脂質膜に組み込まれている請求項17~
20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記活性成分がイメージング剤または治療薬である、請求項1~
21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記イメージング剤または治療薬が疎水性または親水性である、請求項
22に記載の方法。
【請求項24】
前記イメージング剤が染料である、請求項
22または
23に記載の方法。
【請求項25】
前記活性成分が、メトトレキサート、ドキソルビシンまたはそれらの混合物である、請求項1~
24のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、少ない製造工程で封入される薬剤の高い封入効率を得るための、リポソームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームとは、1つ以上の同心円状のリン脂質層(ラメラ)に囲まれた水性のコアからなる人工的な微小ベシクルであると定義されている[非特許文献1]。リポソームは、自然界に存在する物質で構成されているため、毒性がなく生分解性があることから、さまざまな治療薬のキャリアとして広く注目されている[非特許文献2]。リポソームは、親水性物質(水性分画内)、疎水性物質(脂質膜内)、両親媒性物質(脂質-水界面)を取り込むことができるため、幅広い用途が期待されている[非特許文献3]。さらに、リポソームに封入されている生理活性物質は、すぐに希釈されたり分解されたりせずに保護される。これらの理由から、リポソームは発見されて以来、最も多く使用されているナノキャリアシステムとなっている。
【0003】
リポソームがいくつかの目的で広く使用されるようになったことにより、効率的かつ再現性を有し、最も簡便な調製方法を開発することが求められている。リポソームの調製方法にはさまざまな方法があり、数多くの変形例がある。多くの研究室では、その簡便さから、1965年に最初に報告された脂質薄膜水和法が用いられている[非特許文献4]。しかし、薄膜法は大規模な製造には不向きな傾向がある。また、塩素系溶媒の使用も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/084208号
【文献】米国特許第4752425号明細書
【文献】米国特許第5549910号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0171280号明細書
【文献】米国特許第5316771号明細書
【文献】米国特許第5939096号明細書
【文献】国際公開第2013/64911号
【文献】国際公開第01/05374号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Wang, A. Z., Langer, R., and Farokhzad, O. C., Nanoparticle Delivery of Cancer Drugs, Annual Review of Medicine. 2012, 63, 185-198.
【文献】Hong, M.-S., Lim, S.-J., Lee, M.-K., Kim, Y. B., and Kim, C.-K., Prolonged Blood Circulation of Methotrexate by Modulation of Liposomal Composition, Drug Delivery. 2001, 8, 231-237.
【文献】Laouini, A., Jaafar-Maalej, C., Limayem-Blouza, I., Sfar, S., Charcosset, C., and Fessi, H., Preparation, Characterization and Applications of Liposomes: State of the Art, Journal of Colloid Science and Biotechnology. 2012, 1, 147-168.
【文献】Bangham, A. D., Standish, M. M., and Watkins, J. C., Diffusion of univalent ions across the lamellae of swollen phospholipids, Journal of Molecular Biology. 1965, 13, 238-IN27.
【文献】Batzri, S. and Korn, E. D., Single bilayer liposomes prepared without sonication, Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Biomembranes. 1973, 298, 1015-1019.
【文献】Naeff, R., Feasibility of topical liposome drugs produced on an industrial scale, Advanced Drug Delivery Reviews. 1996, 18, 343-347.
【文献】Sur, S., Fries, A. C., Kinzler, K. W., Zhou, S., and Vogelstein, B., Remote loading of preencapsulated drugs into stealth liposomes, Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 2014, 111, 2283-2288.
【文献】Gubernator, J., Active methods of drug loading into liposomes: Recent strategies for stable drug entrapment and increased in vivo activity. Vol. 8. 2011. 565-80.
【文献】Duong, A. D., Collier, M. A., Bachelder, E. M., Wyslouzil, B. E., and Ainslie, K. M., One Step Encapsulation of Small Molecule Drugs in Liposomes via Electrospray-Remote Loading, Mol Pharm. 2016, 13, 92-9.
【文献】Jaafar-Maalej, C., Diab, R., Andrieu, V., Elaissari, A., and Fessi, H., Ethanol injection method for hydrophilic and lipophilic drug-loaded liposome preparation, J Liposome Res. 2010, 20, 228-43.
【文献】Pons, M., Foradada, M., and Estelrich, J., Liposomes obtained by the ethanol injection method, International Journal of Pharmaceutics. 1993, 95, 51-56.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
エタノール注入法は、GMPに適合した大規模リポソーム製造のための興味深い技術である。この方法は、脂質の分解または酸化による変化をさせないのみならず、簡便であること、GMPに適合した溶媒であること、迅速に導入でき再現性があることなど、いくつかの利点を備える。エタノール注入法は、超音波処理を行わずにスモールユニラメラベシクル(SUV)を調製するための最初の選択肢の1つとして1973年にBatzriとKornによって報告された[非特許文献5]。水相のエタノールをすぐに希釈すると、脂質分子が沈殿し、2層の平面状の断片が形成される。これらの脂質二重膜の断片は、(撹拌および/または超音波により)系内のエネルギーを散逸させると、分子の疎水性部分の水性環境への露出を減少させようとし、その結果、これらの断片が湾曲して準球状の構造をとる。その後、いくつかの研究において、エタノール注入法の調製パラメータ(脂質の濃度および組成、注入速度、両相の温度、撹拌速度など)が、得られるリポソームの特性(サイズ分布、ゼータ電位、薬物封入効率など)に及ぼす影響が研究された[非特許文献6]。
【0007】
従来のエタノール注入法では、エタノール相は水相に比べて割合が低く、通常5~10%である。エタノールを蒸発させた後、ベシクルのサイズを小さくするためにリポソーム分散液を押し出す。簡潔に述べると、従来のエタノール注入法は、
1.水相に脂質(エタノール)を注入する工程と、
2.押出を行ないリポソームのサイズを小さくする工程と、
3.封入されなかった薬剤を除去する工程と、の3つの主要工程を有する。
【0008】
一般に、リポソーム状の治療薬またはイメージング剤のローディングは、パッシブまたはアクティブな方法で行なわれる。
【0009】
パッシブローディングでは、目的の薬剤を含む水溶液に乾燥した脂質膜を溶解させる。この方法は、水溶性の薬剤にしか用いることができず、ローディング効率が低い(5%以下)ことが多い。この方法は、化学構造によらず、広範囲の化合物に使用することができる。
【0010】
アクティブローディングでは、リポソーム膜間のpH勾配によって薬剤が内包化される[非特許文献7]。このプロセスは効率が非常に高く(≧95%)、リポソーム内濃度を向上させ、貴重な化学療法剤の廃棄を最小限に抑えることができる。
【0011】
しかし、この方法(アクティブローディング)では、リポソームの内部と外部とで緩衝液の極端なpHを用いて、分子に異なるプロトン化状態を持たせる必要がある。このように、リポソームの内外で2つの異なるpHが設定されると、特定の分子が脂質二重層に拡散する。このように、pH勾配は、両親媒性の弱い塩基および酸を移動させ、保持するための駆動力となる[非特許文献8]。
【0012】
また、膜間の硫酸アンモニウム勾配を利用した弱塩基性アミンの治療薬またはイメージング剤のアクティブローディング手法が文献に報告されている。この場合、アンモニアの勾配によってpH勾配が生じ、リポソーム内への薬剤のアクティブな輸送が行なわれる。その後、硫酸塩がイオン化された薬剤の対イオンとして作用し、リポソーム内に沈殿する。Doxilの場合、この手法が、リポソーム状ドキソルビシンの製造に適用されている。Myocetは、リポソーム状ドキソルビシンをリモートローディングした別の例であり、クエン酸によりpH勾配を形成する[非特許文献9]。
【0013】
アクティブローディングプロセスでは、従来のエタノール注入法でリポソームを調製した後、リポソーム外相(extra-liposomal phase)を除去し、次にリポソーム外相に薬剤を添加してリポソームをインキュベートすることで、リモートローディングプロセスを進行させる。簡潔に述べると、アクティブローディングのプロセスは、
1.水相に脂質(エタノール)を注入する工程と、
2.押出を行ないリポソームのサイズを小さくする工程と、
3.リポソーム外相を除去する工程と、
4.薬剤を含むリポソームをインキュベートする工程と、
5.封入されなかった薬剤を除去する工程と、の5つの主要工程を有する。
【0014】
特許文献1(Paulo A. et al., 2013, Liposomes and its production method)には、脂質膜水和法であるリポソームの製造方法が記載されている。
【0015】
特許文献2(Martin F. et al., 1988, High-encapsulation liposome processing method)には、クロロホルムを用いたリポソームの製造方法が記載されている。製造されるリポソームは1.5ミクロン以上で、押し出してサイズを小さくする必要がある(元々封入されていた薬剤は失われる)。
【0016】
特許文献3(Szoka F. et al., 1994, Preparation of liposome and lipid complex compositions)には、水、アルコール、ハロゲン化炭化水素系溶媒への溶解度が低い化合物を含むリポソームを得る方法が記載されている。この方法では、脂質を非プロトン性溶媒の溶液に溶解させるが、この溶液は、脂質を可溶化するために必要な場合には追加で低級アルカノールを含んでよい。この方法では、決められたサイズのリポソームを得るために押出が必要である。
【0017】
特許文献4(Zhang Y, 2011, Method of making liposomes, Liposome compositions made by the methods, and methods of use of the same)には、アスコルビン酸またはその塩を封入するために、水溶液がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含むリポソームを得る方法が記載されている。このリポソーム組成物は、約200~約500nmの選択された平均粒径を有する。
【0018】
特許文献5(Barenholz, Y. et al., 1994, Method of amphiphatic drug loading in liposomes by ammonium ion gradient)には、膜間勾配を用いた弱両親媒性薬物のリポソームへのアクティブなローディングが記載されている。
【0019】
特許文献6(Clerc, S.Y. and Barenholz, 1999, Stably encapsulating a weak acid drug in liposomes, at a high concentration)には、弱酸性薬物が高濃度で封入されているリポソームが記載されている。この方法では、内側が高く外側が低いpH勾配を得るために弱酸の塩を用いたプロトンシャトル機構を採用している。
【0020】
特許文献7は、脂質層内に封入された核酸、タンパク質、ペプチドなど、脂質に封入された負電荷を有する治療用ポリマーを製造するための方法および組成物に関する。
【0021】
特許文献8は、あらかじめ作製した脂質ベシクル、電荷を有する治療薬(脂質とは反対の電荷)、および不安定化剤を混合した後、脂質に封入された電荷を有する治療薬粒子を製造するための方法および組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本明細書の方法は、ナノ粒子を製造するために追加の処理工程を必要とせずに、対象とするリポソームにおいて、従来の方法と同等またはそれ以上の低分子の封入効率を実現できるという利点を備える。本方法では、構造内に中性のpH(5~8)で多価の電荷を有する分子、つまり負電荷を有する分子、例えばメトテキトラートおよびドキソルビシンなどがより良好に封入される。メトテキトラートは封入率が高く、ドキソルビシンは工程数が少ない(表2および表3)。
【0023】
本提案の代替方法では、同様の体積比のエタノール:水相を用いた前濃縮法を用いて、治療薬またはイメージング剤のより高い封入効率を実現し、最後にリポソームが希釈されてよい。本提案の新しい方法は、産業プロセスにおいて望ましい工程数の削減(わずか2工程)を実現する。これら特徴が、初めてこの同じ方法に集約されており、これにより、この方法は文献で報告されている方法とは差違を有するものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
リポソームがいくつかの目的で広く使用されるようになったことにより、効率的かつ再現性を有し、最も簡便な調製方法を開発することが求められている。既存の方法では、工業的な大規模化が煩雑であり、かつ/または目的の薬剤の封入効率が低い。そのためには、工程数が少なく、かつ封入される薬剤の高い封入効率を実現する方法の開発が肝要である。
【0025】
リポソームの表面および膜層の特性を調整するために、リポソームの製造に使用される脂質が変更または修正されてよい。脂質には、その電荷に基づき、中性、カチオン性、アニオン性という異なるクラスが存在する。リン酸頭基(phosphate head group)に有機分子を付加すると、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、およびホスファチジルコリン(PC)など、さまざまな種類のリン脂質が得られる。これらの脂質はすべてリポソームの製造に使用することができる。
【0026】
未修飾のリポソームは、マクロファージによって除去されるため、循環に長時間残存することができない。これらの問題を課題するための最初の試みの1つは、二重膜の流動性を変更するため、ステロイドを含有させるなどの脂質膜の成分の調整が中心的であった。このように、本発明者らのリポソーム製剤は、コレステロール(CH)を好ましくは含有してよく、そのモル比は35~55%、好ましくは35~40%に変化させることができる。リポソームにコレステロールを組み込むと、脂質二重層中のリン脂質の充填が増えることにより、血中タンパク質との相互作用が低下することが示された。
【0027】
さらに、好ましい実施では、合成ポリマーであるポリエチレングリコール(PEG)をリポソームに含有させた。PEG含有リポソームは、血中タンパク質との結合が少なく、RESの取り込みが減少し、そのため、循環系内にリポソームが長時間残存した。これは、薬物送達に対する従来のリポソームの血液循環を延長し、共役リン脂質であるDSPE-MPEGはこれらの新しい製剤の脂質膜に4~12%、好ましくは5~10%のモル比で組み込まれた。
【0028】
また、ガングリオシドを付加した表面修飾リポソームは、非修飾リポソームに比べて血流中の循環時間が長いことも示された。これらの特徴は、免疫療法でのガングリオシドの利用に役立つ可能性がある。静脈内注射後のリポソームのRES取り込みの試験で数種類の糖脂質を試験した。糖脂質GM1(脳組織由来のモノシアロガングリオシド)は、リポソーム表面に取り込まれるとRESの取り込みを大幅に減少させ、この製剤は数時間にわたり血液循環に残存した。
【0029】
アクティブターゲティングとは、リポソームの表面をターゲティングリガンドで特異的に修飾することにより、標的部位への集積または標的細胞への細胞内送達を可能にするものである。リポソームが特定のリガンドを含んでいると、受容体を介したエンドサイトーシスによって内容物が細胞内に放出される。膜表面へのターゲティング剤の組み込みは、リン脂質または脂肪アシル鎖への共役、あるいは脂質膜への組み込みによって行なわれる。
【0030】
リポソームの調製法にはさまざまな方法があり、数多くの種類がある。エタノール注入法(5%エタノール)では、水溶性物質を含む水溶液の一部がベシクルの内部にパッシブに封入される。この方法の利点は、その簡便さにあるものの、この方法で封入可能な水溶性の治療薬またはイメージング剤の割合は非常に低い。
【0031】
リモートローディングでは、一般に、最初の塩または低pHの緩衝液内で空のリポソームを調製する。その後、透析またはサイズ排除クロマトグラフィーを用いる、あるいはpHをわずかに塩基性にすることで、リポソーム外相を除去する。最後に、リポソーム外相に薬剤を添加し、リポソームをインキュベートすることで、リモートローディングのプロセスを進行させる[非特許文献6]。工程数が多いため、製造プロセスの大規模化が難しく、この標準的なアプローチのさらなる開発を進める上での障壁となっている。
【0032】
そこで、本発明者らは、少ない製造工程数でリポソームに薬剤を封入する方法の最適化に注力している。実際、使用された薬剤のうち少量しか封入されず(例えばメトトレキサート薬では3~5%)、廃棄される薬剤の量が多く、大規模化の際に問題となる可能性がある。封入される薬剤を増やすために、製造方法のいくつかの工程でさまざまな条件を試した。詳細には、(逆にして)リン脂質を含有する有機相に水相を添加する、エタノールを除去しない、70℃ではなく室温で注入を行なう、注入速度を変えた試験を行なう、有機相の濃度を変える(5%~95%)などを行なった。
【0033】
本発明は、新しいリポソームの製造方法であり、リポソームの疎水性成分をエタノールに溶解させ、激しく撹拌しながら約2~4ml/分の速度で水相に注入する。エタノール:水相の初期の体積比は1/1である。エタノールを蒸発させるか、またはタンジェンシャルフローろ過を行なった後、リポソーム分散液を1~10倍に希釈して、望ましい最終濃度とする。
【0034】
一実施形態では、前濃縮法は、
脂質(エタノール)を水相(1:1v/v)に注入し、その後、希釈を行なう工程と、
封入されなかった薬剤を除去する工程と、の2つの主要工程を有する。
【0035】
一実施形態では、この方法により、少ない工程数(わずか2工程)で、メトトレキサートなどの多電荷を有する薬剤の高い封入効率(例えば、約40%)を実現することができる。初期の前濃縮(少ない体積の水の使用)により、リン脂質濃度が上がり、この結果、高い封入効率が得られる。さらに、エタノール:水相の初期の体積比を1:1にすることで、極性の異なる2つの相の間をバランスさせ、薬剤の封入が促進される。
【0036】
一実施形態では、本開示は、リポソームに活性成分を封入する方法に関し、この方法は、
リン脂質およびステロイド、好ましくはコレステロールの疎水性分子をエタノールと混合してエタノール相を調製する工程と、
活性成分およびターゲティング剤を用いて緩衝液中に水相を調製する工程と、
約50℃~約80℃の温度で、前記水相に前記エタノール相を、前記エタノール相と前記水相との体積比を1:1~3:2として注入してリポソームを得る工程と、
前記エタノールを蒸発させるか、またはタンジェンシャルフローろ過で除去することにより、前記エタノールを除去する工程と、
残留する遊離の前記活性成分を適切な方法、具体的にはタンジェンシャルフローろ過によって除去する工程と、を逐次的に有し、
前記ターゲティング剤は、リポソーム成分と共役しているか、脂質膜に組み込まれているペプチドである。
【0037】
別の実施形態では、本開示は、前記リポソーム分散液を前記水相で1~10倍にさらに希釈する工程をさらに含む、方法に関する。
【0038】
さらなる実施形態では、本開示は、前記エタノール相が約2~4ml/分の速度で注入される方法に関する。
【0039】
さらなる実施形態では、本開示は、前記注入工程が撹拌下で行なわれる方法に関する。
【0040】
さらなる実施形態では、本開示は、前記活性成分が薬剤、特に抗がん剤、抗リウマチ剤、抗神経変性疾患剤、抗酸化剤、抗炎症剤、解熱剤、抗生剤、抗ウイルス剤、鎮痛剤、またはそれらの組み合わせである方法に関する。
【0041】
別の実施形態では、本開示は、前記ターゲティング剤が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、またはその組み合わせのリストから選択される配列と少なくとも90%の同一度を有する、少なくとも95%、好ましくはまたは少なくとも96%同一である、または少なくとも97%同一である、または少なくとも98%同一である、または少なくとも99%同一である、少なくとも1種のペプチドである方法に関する。
【0042】
比較のために配列をアラインメントする方法は当技術分野で公知であり、そのような方法にはGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、TFASTAなどがある。GAPは、NeedlemanおよびWunsch((1970) J Mol Biol 48: 443-453)のアルゴリズムを用いて、一致数が最大でギャップ数が最小となる2つの配列のグローバルな(配列全体の)アライメントを検出する。BLASTアルゴリズム(Altschul et al. (1990) J Mol Biol 215: 403-10)は、配列の同一性のパーセントを計算し、2つの配列の相同性の統計的分析を行なう。BLAST解析を行なうためのソフトウェアは、アメリカ国立生物工学情報センター(National Centre for Biotechnology Information;NCBI)によって公開されている。また、相同性および同一性のグローバルな割合は、MatGATソフトウェアパッケージで利用可能な方法の1つを用いて求めることもできる(Campanella et al., BMC Bioinformatics. 2003 Jul 10; 4:29. MatGAT: an application that generates similarity/identity matrices using protein or DNA sequences)。当業者にとって自明なように、わずかな手動編集を行なって保存されたモチーフ間のアラインメントを最適化することができる。本主題においてパーセンテージで示される配列の同一性の値は、BLASTを用いてデフォルトのパラメータで、アミノ酸配列全体について求めたものである。
【0043】
別の実施形態では、本開示は、前記水相の初期体積に対する前記エタノールの濃度が40%~60%、好ましくは50%である方法に関する。
【0044】
別の実施形態では、本開示は、前記温度が60℃または70℃である方法に関する。
【0045】
別の実施形態では、本開示は、前記活性成分が、pH約4~約7で少なくとも1つの負電荷を含む多荷電分子、特にメトテキトラートまたはドキソルビシンである方法に関する。
【0046】
さらなる実施形態では、本開示は、前記水相がリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である方法に関する。
【0047】
別の実施形態では、本開示は、前記エタノール相が、アニオン性、中性、またはカチオン性のリン脂質を含む方法に関する。
【0048】
さらなる実施形態では、本開示は、前記エタノール相が、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、および/またはそれらの誘導体もしくはそれらの混合物、特に1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンを含む、方法に関する。
【0049】
別の実施形態では、本開示は、前記エタノール相が、ステロイド、ステルス剤、ターゲティング剤、またはそれらの混合物を含む方法に関する。
【0050】
さらなる実施形態では、本開示は、前記ステロイドがコレステロールおよび/またはその誘導体、特にヘミスコハク酸コレステリルである方法に関する。
【0051】
別の実施形態では、本開示は、前記ステルス剤がポリエチレングリコール(PEG)またはガングリオシドである方法に関する。
【0052】
さらなる実施形態では、本開示は、前記ポリエチレングリコール(PEG)が、リン脂質、特にジステアロイルホスファチジルエタノールアミンに結合されている方法に関する。
【0053】
別の実施形態では、本開示は、前記ターゲティング剤が脂質膜に組み込まれている方法に関する。
【0054】
別の実施形態では、本開示は、前記活性成分がイメージング剤または治療薬である方法に関する。
【0055】
さらなる実施形態では、本開示は、前記イメージングまたは治療薬が疎水性または親水性である方法に関する。
【0056】
別のさらなる実施形態では、本開示は、前記イメージング剤が染料である方法に関する。
【0057】
本開示は、少ない製造工程数で、詳細には、従来のリポソーム製造プロセスの押出工程を省略して、封入される薬剤の高い封入効率を得るためのリポソームの製造方法に関する。本発明のリポソームは、抗がん剤、抗酸化剤、抗炎症剤、解熱剤、抗生剤、抗ウイルス剤、抗リウマチ剤、鎮痛剤、成長因子、またはそれらの混合物などの治療薬を運搬することを対象としている。
【0058】
本明細書の方法は、ナノ粒子を製造するために追加の処理工程を必要とせずに、対象とするリポソームにおいて、従来の方法と同等またはそれ以上の低分子の封入効率を実現できるという利点を備える。
【実施例】
【0059】
少ない製造工程で封入される薬剤を増やすために、製造方法のいくつかの工程で多くの条件を試験した。その結果から、初期のエタノールの割合が封入効率に大きく影響することが示された。エタノールの体積を従来の5%よりも増やし(初期の水相に対して50%)、さらに薬剤の水溶液の体積を少なくすると、封入効率の大幅な向上がみられた(その後、エタノールの蒸発またはタンジェンシャルフローろ過の後、サンプルを5倍に希釈して通常の薬剤濃度とする)。この割合となった後は、ベシクルのサイズが、エタノールの体積によって正の影響を受ける。実際、エタノールの体積が多い(≧50%)バッチでは、従来法で製造されたリポソームのバッチよりも大きなベシクル(<150nm)がみられた。この結果は、水相中での体積増加に伴うエタノールの拡散が遅くなり、リン脂質の自己組織化が遅くなることで、サイズの大きなリポソームが形成されるためと考えられる。したがって、ベシクルのサイズが小さいほど、水性コアの体積が減り、得られる封入効率が低下する。これは、リポソームの水性コアに親水性の薬剤が主に封入されるためである[非特許文献10、非特許文献11]。しかし、エタノールの初期の体積として50%を使用することで、封入効率とサイズとの妥協点を得ることができた。エタノールをこの割合としたときに得られたリポソームは、サイズが小さく(<150nm)、低いPDI値(<0.1)を示した。また、これらの条件では、通常は減らすために押出工程が必要であり、ベシクルの均一なサイズが完全に拡張可能である。
【0060】
(リポソームの製造)
一実施形態では、エタノール注入法を用いて、DOPE/コレステロール/DSPE-MPEG(モル比=54:36:10)から形成されるリポソームを調製した。簡潔に述べると、脂質(DOPE、コレステロール、およびDSPE-MPEG)を60℃のエタノール(従来のエタノール注入法では5%、本提案の新しい前濃縮法では初期の20%水相に対して50%)に溶解させた。
【0061】
この溶液を撹拌下で水溶液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS))に注入した。このプロセスは70℃で行なわれ、エタノールの全体積を蒸発させるのに必要な時間の間行なわれる。
【0062】
従来のエタノール注入法では、サイズを小さくするためにリポソームが押し出される。前濃縮法では、エタノールの蒸発またはタンジェンシャルフローろ過の後、リポソーム分散液をPBS中で5倍に希釈する(残りの体積である80%を加える)。リポソームに取り込まれなかった遊離の治療薬またはイメージング剤は、カットオフ5kDaのゲルろ過クロマトグラフィーカラム(8.3mLのSephadex G-25媒質を含むPD-10脱塩カラム)(GEヘルスケア)にかけた後サンプルから除去した。親水性の治療薬またはイメージング剤(メトトレキサート、ドキソルビシンなど)は、従来のエタノール注入法でも、本提案の新しい前濃縮法でも、この水相に存在する。リモート/アクティブローディングでは、硫酸アンモニウム(120mM、pH=8.5)内で空のリポソームを製造した後、緩衝液をTrizma(登録商標)Baseスクロース(10%、w/v、pH9.0で緩衝)に変えて、治療薬またはイメージング剤によりインキュベートする。
【0063】
メトトレキサートを封入したリポソームのキャラクタライゼーション:いくつかの製造方法の比較実験。
【表1】
【0064】
【0065】
【表3-1】
【表3-2】
【表3-3】
【表3-4】
【表3-5】
【表3-6】
【表3-7】
【表3-8】
【0066】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表4-5】
【0067】
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【表5-5】
【表5-6】
【表5-7】
【表5-8】
【表5-9】
【表5-10】
【表5-11】
【0068】
範囲が示されている場合は、端点も含まれる。さらに、別段の記載のない限り、あるいは文脈および/または当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表現されている値は、文脈から明らかにそれ以外が指示されない限り、本発明の異なる実施形態において、範囲の下限の単位の10分の1まで記載された範囲内の任意の特定の値を想定してよいことができることを理解されたい。また、別段の記載のない限り、あるいは文脈および/または当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表現された値は、与えられた範囲内の任意の下位範囲を想定してよく、下位範囲の端点は、範囲の下限の単位の10分の1と同じ精度で表現されることを理解されたい。
【0069】
本文書で使用される「含む/含有する/有する」という用語は、記載された特徴、整数、工程、構成要素の存在を示すことを意図するが、1つ以上の他の特徴、整数、工程、構成要素、またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。
【0070】
本開示は、記載されている実施形態に何ら限定されるものではなく、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に定義されている本開示の基本的な考え方を逸脱することなく、その修正に多くの可能性を見出すことができる。
【0071】
上述した実施形態は組み合わせ可能である。
【0072】
以下の従属請求項は、本開示の特定の実施形態を規定するものである。
[配列表]
【0073】
配列番号1:葉酸-DRDDQAAWFSQY
配列番号2:KDEPQRRSARLSAKPAPPKPEPKPKKAPAKK-DRDDQAAWFSQY
配列番号3:YQSFWAAQDDRD-KDEPQRRSARLSAKPAPPKPEPKPKKAPAKK
【配列表】