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特許7621682自動車用熱伝導材料、熱伝導接着剤、熱伝導ペーストおよび熱伝導シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】自動車用熱伝導材料、熱伝導接着剤、熱伝導ペーストおよび熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20250120BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20250120BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20250120BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20250120BHJP
   C09J 177/00 20060101ALI20250120BHJP
   C09J 171/00 20060101ALI20250120BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20250120BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250120BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250120BHJP
   C08K 7/18 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C09J175/04
C09J123/00
C09J153/02
C09J177/00
C09J171/00
C09J11/04
C08L101/00
C08K3/013
C08K7/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023191999
(22)【出願日】2023-11-10
(65)【公開番号】P2024070257
(43)【公開日】2024-05-22
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】111212331
(32)【優先日】2022-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(31)【優先権主張番号】112141510
(32)【優先日】2023-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】517175024
【氏名又は名称】旭立科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】簡 忠誠
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-544966(JP,A)
【文献】特開2006-193626(JP,A)
【文献】特開2011-054609(JP,A)
【文献】特開2008-239640(JP,A)
【文献】特開2022-149288(JP,A)
【文献】特開2021-080472(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111607351(CN,A)
【文献】特開2020-158556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00 - 5/20
C09J 1/00 - 201/10
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
H01M 10/52 - 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が55℃未満である如何なる有機物も含まない組成の自動車用熱伝導材料であって、
前記自動車用熱伝導材料の組成は、
含有量が5~18重量部のノンシリコン弾性体樹脂と、
形状が実質的に粒径50~250μmの球体である40~70重量部の第1熱伝導性パウダーと、
形状が実質的に粒径1~30μmの球体である2~50重量部の第2熱伝導性パウダーと、を含むことを特徴とする自動車用熱伝導材料。
【請求項2】
前記ノンシリコン弾性体樹脂は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、熱可塑性スチレンブロック共重合体(TPS)、熱可塑性ポリエーテルエステル(TPEE)、或いは熱可塑性ポリアミド(TPA)を含むことを特徴とする請求項1に記載の自動車用熱伝導材料。
【請求項3】
前記第1熱伝導性パウダー及び前記第2熱伝導性パウダーの材料は、銀、銅、鉄、アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、グラファイト、或いは前述の任意の組み合わせをそれぞれ独立的に含むことを特徴とする請求項1に記載の自動車用熱伝導材料。
【請求項4】
前記第1熱伝導性パウダーは、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、或いはグラファイトを含むことを特徴とする請求項3に記載の自動車用熱伝導材料。
【請求項5】
前記第2熱伝導性パウダーは、窒化ホウ素と、窒化アルミニウムと、酸化マグネシウムと、酸化亜鉛と、酸化アルミニウムと、炭化ケイ素と、グラファイトと、を含むことを特徴とする請求項3に記載の自動車用熱伝導材料。
【請求項6】
前記第1熱伝導性パウダー及び前記第2熱伝導性パウダーの球状化率は90~95%であることを特徴とする請求項1に記載の自動車用熱伝導材料。
【請求項7】
前記自動車用熱伝導材料の熱伝導率は15~25W/mKであることを特徴とする請求項1に記載の自動車用熱伝導材料。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の自動車用熱伝導材料を含むことを特徴とする熱伝導接着剤または熱伝導ペースト。
【請求項9】
前記熱伝導接着剤はポッティング剤であることを特徴とする請求項8に記載の熱伝導接着剤または熱伝導ペースト。
【請求項10】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の自動車用熱伝導材料を含むことを特徴とする熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用熱伝導材料に関し、更に詳しくは、熱伝導接着剤、熱伝導ペーストおよび伝導シートを調製するための自動車用熱伝導材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の勃興と発展により、電気自動車の設計において放熱問題が重要な議題となっている。電気自動車内には、バッテリーパック、車載用スマートシステム及び電源接続が必要な各種電子制御素子が搭載されており、屋外の高温環境で運転するときは、様々な放熱工程が必要となっていた。さもなくば、温度が高くなりすぎ、自動車用バッテリーモジュール、電子素子、及び各種スマートシステムの動作及び寿命に影響が及ぼす虞があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の電気自動車の電子素子と放熱素子との間の接合は、主に厚みを弾力的に調整可能であり、熱伝導性能が優れ、施工が簡単である等の理由から市場に流通しているシリコン成分を含んだ「熱伝導シリコンシート」に頼っている。しかしながら、シリコンを含んだ放熱ガスケットは使用中に高温の熱を受けると、小分子のシリコンオイル(或いは、有機ケイ素小分子揮発物)が放出され、使用面や機材に「オイル滲み現象」が発生することがあった。小分子のシリコンオイルが滲み出すと、コネクタの接点の回路がショートする。また、小分子のシリコンオイルは光学装置を汚染し、光学装置(例えば自動車のライトカバー、ガラス)の光透過率を低下させ、曇り問題を引き起こし、光学センサーの判断エラーに繋がっていた。また、周囲の異物や粒子が小分子のシリコンオイルに吸着し、機器装置の動作及び寿命に影響が及ぼす虞があった。
【0004】
そこで、本発明者は上記の欠点が改善可能と考え、鋭意検討を重ねた結果、合理的設計で上記の課題を効果的に改善する本発明の提案に至った。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、融点が55℃未満である如何なる有機物も含まない組成の自動車用熱伝導材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様である自動車用熱伝導材料の組成は、5~18重量部のノンシリコン弾性体樹脂と、40~70重量部の第1熱伝導性パウダーと、2~50重量部の第2熱伝導性パウダーと、を含む。前記第1熱伝導性パウダーの形状は実質的に粒径50~250μmの球体であり、前記第2熱伝導性パウダーの形状は実質的に粒径1~30μmの球体である。
【0007】
本発明の一実施形態によれば、前記ノンシリコン弾性体樹脂は、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethanes、TPU)、熱可塑性ポリオレフィン(thermoplastic polyolefins、TPO)、熱可塑性スチレンブロック共重合体(thermoplastic styrene block copolymers、TPS)、熱可塑性ポリエーテルエステル(thermoplastic polyether ester elastomer、TPEE)、或いは熱可塑性ポリアミド(thermoplastic polyamides、TPA)を含む。
【0008】
本発明の他の実施形態によれば、前記第1熱伝導性パウダー及び前記第2熱伝導性パウダーの材料は、銀、銅、鉄、アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、グラファイト、或いは前述の任意の組み合わせをそれぞれ独立的に含む。
【0009】
本発明のさらに他の実施形態によれば、前記第1熱伝導性パウダーは、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、またはグラファイトを含む。
【0010】
本発明のさらなる他の実施形態によれば、前記第2熱伝導性パウダーは、窒化ホウ素と、窒化アルミニウムと、酸化マグネシウムと、酸化亜鉛と、酸化アルミニウムと、炭化ケイ素と、グラファイトと、を含む。
【0011】
本発明のさらなる他の実施形態によれば、前記第1熱伝導性パウダー及び前記第2熱伝導性パウダーの球状化率は90~95%である。
【0012】
本発明のさらなる他の実施形態によれば、前記自動車用熱伝導材料の熱伝導率は15~25W/mKである。
【0013】
また、本発明の別の態様である熱伝導接着剤または熱伝導ペーストは、上述の自動車用熱伝導材料を含む。本発明の一実施形態によれば、前記熱伝導接着剤はポッティング剤である。
【0014】
また、本発明のさらに別の態様である熱伝導シートは、上述の自動車用熱伝導材料を含む。
【発明の効果】
【0015】
上述したように、自動車用熱伝導材料、熱伝導接着剤、熱伝導ペースト、熱伝導シートには、高効率のノンシリコン自動車用熱伝導材料を提供し、従来のシリコン材料を含むことで起こり得るオイル滲み、光学装置の汚染等の問題を防止し、電気自動車の放熱効果の信頼性を高め、システムの動作を更に安定させる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0017】
以上述べた如く、本発明の幾つかの実施例に係る自動車用熱伝導材料の組成は、融点が55℃未満である如何なる有機物も含まない。上述した自動車用熱伝導材料の組成は、5~18重量部のノンシリコン弾性体樹脂と、40~70重量部の第1熱伝導性パウダーと、2~50重量部の第2熱伝導性パウダーと、を含む。自動車用熱伝導材料の熱伝導率は15~25W/mKである。
【0018】
上述したノンシリコン弾性体樹脂は、例えば、熱可塑性ポリウレタン(thermoplastic polyurethanes、TPU)、熱可塑性ポリオレフィン(thermoplastic polyolefins、TPO)、熱可塑性スチレンブロック共重合体(thermoplastic styrene block copolymers、TPS)、熱可塑性ポリエーテルエステル(thermoplastic polyether ester elastomer、TPEE)、或いは熱可塑性ポリアミド(thermoplastic polyamides、TPA)を含む。
【0019】
上述した第1熱伝導性パウダーの形状は実質的に粒径50~250μmの球体であり、第2熱伝導性パウダーの形状は実質的に粒径1~30μmの球体であり、第1熱伝導性パウダー及び第2熱伝導性パウダーの球状化率は90~95%である。第1熱伝導性パウダー及び第2熱伝導性パウダーの材料は、銀、銅、鉄、アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、グラファイト、或いは前述の任意の組み合わせをそれぞれ独立的に含む。例えば、第1熱伝導性パウダーは、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、またはグラファイトを含んでもよく、第2熱伝導性パウダーは、窒化ホウ素と、窒化アルミニウムと、酸化マグネシウムと、酸化亜鉛と、酸化アルミニウムと、炭化ケイ素と、グラファイトと、を含む。
【0020】
本発明の他の幾つかの実施例では、上述した自動車用熱伝導材料を含む熱伝導接着剤、熱伝導ペースト、及び熱伝導シートを更に提供する。熱伝導接着剤は、例えば、ポッティング剤である。
【0021】
以下、幾つかの実施例を挙げて上述した自動車用熱伝導材料の組成について説明する。
【実施例
【0022】
〔実施例1〕自動車用熱伝導材料の熱伝導率に対する各種熱伝導性パウダーの影響
本実施形態において、自動車用熱伝導材料の熱伝導率に対する各種熱伝導性パウダーの影響を探求する。自動車用熱伝導材料の各成分の含有量、熱伝導性パウダーの粒径、及び得られる自動車用熱伝導材料の熱伝導率を下記表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1において、第1熱伝導性パウダーの粒径は第2熱伝導性パウダーの粒径よりも大きい。第1熱伝導性パウダーの粒径の上限が250μmから300μmに上昇すると、自動車用熱伝導材料の熱伝導率が低下する。よって、第1熱伝導性パウダーの粒径は、好ましくは50~250μmの間の範囲である。
【0025】
表1において、実験例7~10を比較すると、第2熱伝導性パウダーがグラファイトである場合、自動車用熱伝導材料の熱伝導率が最高となり、窒化ホウ素が次に高く、最後は酸化亜鉛及び酸化マグネシウムとなる。
【0026】
〔実施例2〕自動車用熱伝導材料の熱伝導率に対する各種ノンシリコン弾性体樹脂の影響
本実施形態において、自動車用熱伝導材料の熱伝導率に対する各種ノンシリコン弾性体樹脂の影響を探求する。自動車用熱伝導材料の各成分の含有量、熱伝導性パウダーの粒径、及び得られる自動車用熱伝導材料の熱伝導率を下記表2に示す。表2において、ノンシリコン弾性体樹脂の種類のみが変化した場合、自動車用熱伝導材料の熱伝導率に対するノンシリコン弾性体樹脂の種類の影響が大きくないことが分かる。
【0027】
【表2】
【0028】
上述の自動車用熱伝導材料は、下記利点を少なくとも有している。
【0029】
1.オイル滲み現象を防止する:従来のシリコンを含む自動車用熱伝導材料は高温になると小分子のシリコンオイルをすぐに放出し、オイル滲み現象を引き起こし、回路のショートに繋がった。上述した自動車用熱伝導材料はこの問題を解決し、放熱素子の信頼性を確保している。
【0030】
2.光学装置の汚染を防止する:従来の自動車用熱伝導材料が放出する小分子のシリコンオイルは、光学装置を汚染し、光透過率を低下させ、センサーの正確な動作に影響を与えた。上述した自動車用熱伝導材料を使用することでこのような汚染を防止し、車両の光学システムの正常な動作を確保している。
【0031】
3.様々な応用方式:このような自動車用熱伝導材料は熱伝導接着剤または熱伝導ペーストとして製造可能であり、様々な電気自動車の放熱に適用でき、車両システム全体の安定性及び操作性能を確保している。
【0032】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、自動車用熱伝導材料、熱伝導接着剤、熱伝導ペーストおよび熱伝導シートに利用できる。