(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】干渉抑圧回路および無線受信装置
(51)【国際特許分類】
H04J 11/00 20060101AFI20250120BHJP
H04L 27/227 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
H04J11/00 B
H04L27/227
(21)【出願番号】P 2020166265
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 康英
【審査官】齊藤 晶
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-167557(JP,A)
【文献】特開平05-090983(JP,A)
【文献】米国特許第08396177(US,B1)
【文献】米国特許第05872540(US,A)
【文献】H. MATSUE et al.,“Digitalized Cross-Polarization Interference Canceller for Multilevel Digital Radio”,IEEE Journal on Selected Areas in Communications,1987年04月,Vol. 5, No. 3,p.493-501,DOI: 10.1109/JSAC.1987.1146544
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 11/00
H04L 27/227
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の偏波方向の信号を受信する自偏波受信部と、
前記第1の偏波方向と交差する第2の偏波方向の信号を受信する異偏波受信部と、
前記第2の偏波方向の前記信号から異偏波レプリカ信号を生成するとともに前記第1の偏波方向の前記信号から前記異偏波レプリカ信号を減算して前記第1の偏波方向の前記信号中の前記第2の偏波方向の前記信号の成分を除去する交差偏波間干渉補償部と、
前記異偏波レプリカ信号のレベルを一定にするように働く自動利得制御回路と、
前記交差偏波間干渉補償部内に備えられる判定器における前記第1の偏波方向の前記信号についてのシンボル判定によって判定されたシンボル信号の信号電力を算出する自偏波電力算出部と、
前記自動利得制御回路内に備えられて前記異偏波レプリカ信号の信号電力と所定の基準レベルとの差分を出力する減算器と、
前記自動利得制御回路において前記異偏波レプリカ信号と前記差分とが乗算されて前記自動利得制御回路から出力される信号の瞬時電力を算出する干渉電力算出部と、
前記シンボル信号の前記信号電力、前記差分、および前記瞬時電力に基づいて
、前記交差偏波間干渉補償部内に備えられるFIRフィルタのタップ係数
の更新
の際のステップサイズの制御信号を生成する更新制御部と、を有する、
ことを特徴とする干渉抑圧回路。
【請求項2】
前記更新制御部が、
前記シンボル信号の前記信号電力が
第1の閾値以上である且つ/或いは前記瞬時電力が
第2の閾値以上であるという条件1と、
前記差分が
第3の閾値以上であるという条件2と、について、
前記条件1と前記条件2とのうちの一方が成立しているときの前記ステップサイズを、前記条件1と前記条件2とのどちらも成立していないときの前記ステップサイズよりも小さくする命令を前記制御信号として出力し、
前記条件1と前記条件2との両方が成立しているときには前記タップ係数の更新を行わない命令を前記制御信号として出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の干渉抑圧回路。
【請求項3】
前記FIRフィルタの前記タップ係数の値を用いて前記異偏波レプリカ信号のキャリア位相制御を行うキャリア再生部が組み合わせられる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の干渉抑圧回路。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の干渉抑圧回路を備える、
ことを特徴とする無線受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、干渉抑圧回路および無線受信装置に関し、特に、交差偏波成分の除去に用いて好適な干渉抑圧回路および前記干渉抑圧回路を含む無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波/ミリ波伝送において、周波数利用効率の向上や大容量伝送を目的として同一周波数コチャネル伝送システムが採用されている。このような伝送システムでは、同一周波数の異偏波の信号の間に、伝搬路における反射や散乱などによって干渉が生じる。
【0003】
自偏波と異偏波との間の干渉を補償する従来の交差偏波間干渉補償装置として、例えば、異偏波を所定の時間間隔で遅延させた複数の信号に対応して複数のタップ係数を乗算し、乗算結果を加算した値を交差偏波間干渉補償信号として出力するトランスバーサルフィルタと、正規の自偏波および実際の自偏波の振幅差および位相差を示す誤差信号と異偏波とに基づいて複数のタップ係数を生成してトランスバーサルフィルタに供給するタップ係数制御回路と、交差偏波間干渉補償信号と誤差信号に基づいて自偏波と異偏波の位相雑音を求める位相雑音補償器と、を有し、タップ係数制御回路は、複数のタップ係数のうち、いずれか1つのタップ係数の位相を固定する、ものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、交差偏波間干渉補償に用いられるトランスバーサルフィルタのタップ更新に利用する、復調部のシンボル判定に関する位相誤差信号は、高多値になると信号間距離が小さくなるため、交差偏波間干渉補償装置の補償限界近くになると信頼性が著しく低下する、という問題がある。また、特許文献1に記載の技術は、位相雑音に対してのみ有効な方式であり、任意の原因による干渉に対して有効であるとは言えない、という問題がある。
【0006】
そこでこの発明は、交差偏波間干渉補償について高多値においても安定に動作することが可能な干渉抑圧回路および前記干渉抑圧回路を含む無線受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、第1の偏波方向の信号を受信する自偏波受信部と、前記第1の偏波方向と交差する第2の偏波方向の信号を受信する異偏波受信部と、前記第2の偏波方向の前記信号から異偏波レプリカ信号を生成するとともに前記第1の偏波方向の前記信号から前記異偏波レプリカ信号を減算して前記第1の偏波方向の前記信号中の前記第2の偏波方向の前記信号の成分を除去する交差偏波間干渉補償部と、前記異偏波レプリカ信号のレベルを一定にするように働く自動利得制御回路と、前記交差偏波間干渉補償部内に備えられる判定器における前記第1の偏波方向の前記信号についてのシンボル判定によって判定されたシンボル信号の信号電力を算出する自偏波電力算出部と、前記自動利得制御回路内に備えられて前記異偏波レプリカ信号の信号電力と所定の基準レベルとの差分を出力する減算器と、前記自動利得制御回路において前記異偏波レプリカ信号と前記差分とが乗算されて前記自動利得制御回路から出力される信号の瞬時電力を算出する干渉電力算出部と、前記シンボル信号の前記信号電力、前記差分、および前記瞬時電力に基づいて、前記交差偏波間干渉補償部内に備えられるFIRフィルタのタップ係数の更新の際のステップサイズの制御信号を生成する更新制御部と、を有する、ことを特徴とする干渉抑圧回路である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の干渉抑圧回路において、前記更新制御部が、前記シンボル信号の前記信号電力が第1の閾値以上である且つ/或いは前記瞬時電力が第2の閾値以上であるという条件1と、前記差分が第3の閾値以上であるという条件2と、について、前記条件1と前記条件2とのうちの一方が成立しているときの前記ステップサイズを、前記条件1と前記条件2とのどちらも成立していないときの前記ステップサイズよりも小さくする命令を前記制御信号として出力し、前記条件1と前記条件2との両方が成立しているときには前記タップ係数の更新を行わない命令を前記制御信号として出力する、ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の干渉抑圧回路において、前記FIRフィルタの前記タップ係数の値を用いて前記異偏波レプリカ信号のキャリア位相制御を行うキャリア再生部が組み合わせられる、ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の干渉抑圧回路を備える、ことを特徴とする無線受信装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、自偏波と異偏波とに関係する3つの指標に基づいて、FIRフィルタのタップ係数の更新の際のステップサイズを制御するようにしているので
、自偏波と異偏波との過度な干渉を検知することができるとともに交差偏波間の干渉補償の限界に対する余裕の程度を判断することができ、タップ係数の更新の精度を維持して交差偏波間干渉補償について高多値においても安定に動作することが可能となる。付け加えると、請求項1に記載の発明は、位相雑音だけでなく任意の原因による干渉補償限界に対して有効である。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、タップ係数を更新する際のステップサイズを適切に制御することができ、交差偏波間干渉補償について高多値においても一層確実に安定に動作することが可能となる。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、FIRフィルタのタップ係数の値を用いて異偏波レプリカ信号のキャリア位相制御を行うことができるので、自偏波側と異偏波側とでキャリア信号を独立して設定しても、異偏波の干渉を的確に補償することが可能となる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、同一周波数コチャネル伝送システムに係る無線受信装置において上記の作用効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】この発明の実施の形態における無線通信システムの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】自偏波の復調信号と異偏波の復調信号との間の関係を説明する図である。
【
図3】この発明の実施の形態1に係る干渉抑圧回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】この発明の実施の形態2に係る干渉抑圧回路の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、以下では、この発明の特徴的な構成について説明し、無線通信を行う際の従来と同様の仕組みについては説明を省略する。
【0017】
図1は、この発明の実施の形態における無線通信システム1(具体的には、交差偏波伝送システム,同一周波数コチャネル伝送システム)の概略構成を示す機能ブロック図である。実施の形態における無線通信システム1は、無線送信装置10と無線受信装置20との間でマイクロ波/ミリ波での同一周波数コチャネル伝送を行う。なお、無線送信装置10や無線受信装置20は、これら無線送信装置10の機能と無線受信装置20の機能との両方を備える一体の無線通信装置として構成されるようにしてもよい。
【0018】
無線送信装置10は、垂直偏波信号の送信を行う仕組み/送信系としての変調器11V、D/A変換器12V(Digital-Analog convertor)、直交変調器13V、および垂直偏波送信部14Vと、水平偏波信号の送信を行う仕組み/送信系としての変調器11H、D/A変換器12H、直交変調器13H、および水平偏波送信部14Hと、偏分波器15と、アンテナ16と、を備える。
【0019】
垂直偏波信号の送信系の変調器11Vは、垂直偏波によって送信するデータの供給を受け、所定の変調方式に従って変調を行う機能を備え、垂直偏波によって送信するデータを前記所定の変調方式の規則に従って変調してベースバンド信号(尚、デジタル信号である)を生成して出力する。
【0020】
無線送信装置10における変調方式および無線受信装置20における復調方式として、実施の形態では、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation の略:直交振幅変調/直角位相振幅変調)方式が用いられる。この場合、変調器11Vは、垂直偏波によって送信するデータを64QAM方式の規則に従ってIQ平面上にマッピングしてIQベースバンド信号を生成して出力する。ただし、QAM方式の多値数は、64に限定されるものではなく、64よりも少なくてもよいし、64よりも多くてもよい。
【0021】
D/A変換器12Vは、変調器11Vから出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0022】
直交変調器13Vは、D/A変換器12Vから出力されるアナログ信号(即ち、垂直偏波によって送信するデータのIQベースバンド信号)の入力を受け、互いに直交するキャリア信号によって前記アナログ信号(具体的には、I軸およびQ軸の変調信号)を直交変調し、直交変調出力信号(尚、IF(Intermediate Frequency)信号である)を生成して出力する。
【0023】
垂直偏波送信部14Vは、直交変調器13Vから出力される直交変調出力信号を所望の搬送波周波数に変換し(即ち、IF信号をRF(Radio Frequency)信号に変換し)、必要に応じて電力増幅したうえで出力する。
【0024】
垂直偏波送信部14Vから出力される直交変調出力信号は、偏分波器15を介してアンテナ16から垂直偏波信号として送信される。
【0025】
水平偏波信号の送信系の変調器11Hは、水平偏波によって送信するデータの供給を受け、所定の変調方式に従って変調を行う機能を備え、水平偏波によって送信するデータを前記所定の変調方式の規則に従って変調してベースバンド信号(尚、デジタル信号である)を生成して出力する。変調器11Hは、実施の形態では、水平偏波によって送信するデータを64QAM方式の規則に従ってIQ平面上にマッピングしてIQベースバンド信号を生成して出力する。
【0026】
D/A変換器12Hは、変調器11Hから出力されるデジタル信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0027】
直交変調器13Hは、D/A変換器12Hから出力されるアナログ信号(即ち、水平偏波によって送信するデータのIQベースバンド信号)の入力を受け、互いに直交するキャリア信号によって前記アナログ信号(具体的には、I軸およびQ軸の変調信号)を直交変調し、直交変調出力信号(尚、IF信号である)を生成して出力する。
【0028】
水平偏波送信部14Hは、直交変調器13Hから出力される直交変調出力信号を所望の搬送波周波数に変換し(即ち、IF信号を垂直偏波送信部14Vと同じ周波数のRF信号に変換し)、必要に応じて電力増幅したうえで出力する。
【0029】
水平偏波送信部14Hから出力される直交変調出力信号は、偏分波器15を介してアンテナ16から水平偏波信号として送信される。
【0030】
なお、図に示す例では、無線送信装置10や無線受信装置20のアンテナとして、垂直アンテナ素子と水平アンテナ素子とを備える一体のアンテナ16,21が用いられる。ただし、無線送信装置10や無線受信装置20のアンテナとして、垂直偏波の信号を受信するアンテナと水平偏波の信号を受信するアンテナとが各々別体のアンテナとして備えられるようにしてもよい。その場合は、偏分波器15,22は不要となる。
【0031】
無線受信装置20は、アンテナ21と、偏分波器22と、自偏波としての垂直偏波の信号の受信を行う仕組み/受信系としての垂直偏波受信部23V、直交復調器24V、A/D変換器25V(Analog-Digital conveter)、垂直偏波XPIC26V(XPIC:Cross Polarization Interference Canceller:交差偏波間干渉補償器)、および復調器27Vと、自偏波としての水平偏波の信号の受信を行う仕組み/受信系としての水平偏波受信部23H、直交復調器24H、A/D変換器25H、水平偏波XPIC26H、および復調器27Hと、を備える。
【0032】
無線受信装置20は、さらに、自偏波としての垂直偏波の信号の受信系に対して異偏波の受信信号として水平偏波信号を供給する仕組みとして直交復調器28HおよびA/D変換器29Hと、自偏波としての水平偏波の信号の受信系に対して異偏波の受信信号として垂直偏波信号を供給する仕組みとして直交復調器28VおよびA/D変換器29Vと、を備える。
【0033】
アンテナ21は、無線送信装置10のアンテナ16から送信される垂直偏波信号および水平偏波信号を受信して偏分波器22へと転送する。
【0034】
偏分波器22は、アンテナ21から転送される垂直偏波の受信信号と水平偏波の受信信号とを分離して、垂直偏波の受信信号を垂直偏波受信部23Vへと転送し、水平偏波の受信信号を水平偏波受信部23Hへと転送する。
【0035】
自偏波としての垂直偏波の信号の受信系の垂直偏波受信部23Vは、偏分波器22から転送される垂直偏波の受信信号(尚、RF信号である)を増幅するとともに所望の中間周波数帯の信号(即ち、IF信号)に変換して出力する。
【0036】
直交復調器24Vは、垂直偏波受信部23Vから出力されるIF信号の入力を受け、前記IF信号をIQベースバンド信号(尚、アナログ信号である)に復調して出力する。
【0037】
A/D変換器25Vは、直交復調器24Vから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0038】
自偏波としての水平偏波の信号の受信系の水平偏波受信部23Hは、偏分波器22から転送される水平偏波の受信信号(尚、RF信号である)を増幅するとともに所望の中間周波数帯の信号(即ち、IF信号)に変換して出力する。
【0039】
直交復調器24Hは、水平偏波受信部23Hから出力されるIF信号の入力を受け、前記IF信号をIQベースバンド信号(尚、アナログ信号である)に復調して出力する。
【0040】
A/D変換器25Hは、直交復調器24Hから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0041】
異偏波の受信信号として水平偏波信号を供給する仕組みの直交復調器28Hは、水平偏波受信部23Hから出力されるIF信号の入力を受け、前記IF信号をIQベースバンド信号(尚、アナログ信号である)に復調して出力する。直交復調器28Hは、異偏波としての水平偏波の受信信号を自偏波即ち垂直偏波のキャリア信号で直交復調する。
【0042】
A/D変換器29Hは、直交復調器28Hから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。A/D変換器29Hは、異偏波としての水平偏波の復調信号を自偏波即ち垂直偏波のクロック信号でアナログ-デジタル変換する。
【0043】
異偏波の受信信号として垂直偏波信号を供給する仕組みの直交復調器28Vは、垂直偏波受信部23Vから出力されるIF信号の入力を受け、前記IF信号をIQベースバンド信号(尚、アナログ信号である)に復調して出力する。直交復調器28Vは、異偏波としての垂直偏波の受信信号を自偏波即ち水平偏波のキャリア信号で直交復調する。
【0044】
A/D変換器29Vは、直交復調器28Vから出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換して出力する。A/D変換器29Vは、異偏波としての垂直偏波の復調信号を自偏波即ち水平偏波のクロック信号でアナログ-デジタル変換する。
【0045】
自偏波としての垂直偏波の信号の受信系の垂直偏波XPIC26Vは、直交復調器24Vから出力されてA/D変換器25Vで変換されたデジタル信号(即ち、垂直偏波の復調信号)中の異偏波(即ち、水平偏波)の信号による干渉をキャンセルするための機序である。垂直偏波XPIC26Vは、具体的には、異偏波としての水平偏波の復調信号から異偏波レプリカ信号(即ち、干渉信号と同様の周波数特性を有する信号)を生成し、自偏波としての垂直偏波の復調信号から異偏波レプリカ信号を減算することで、自偏波としての垂直偏波の復調信号中の異偏波としての水平偏波の信号成分を除去して交差偏波の干渉を補償するように構成される。そして、垂直偏波XPIC26Vは、干渉補償後の垂直偏波の復調信号を出力する。
【0046】
復調器27Vは、垂直偏波XPIC26Vから出力される干渉補償後の垂直偏波の復調信号の入力を受け、無線送信装置10の変調器11Vにおける変調方式(実施の形態では、64QAM方式)に対応する復調を行い、前記変調器11Vへと供給された垂直偏波によって送信するデータを復調する。
【0047】
自偏波としての水平偏波の信号の受信系の水平偏波XPIC26Hは、直交復調器24Hから出力されてA/D変換器25Hで変換されたデジタル信号(即ち、水平偏波の復調信号)中の異偏波(即ち、垂直偏波)の信号による干渉をキャンセルするための機序である。水平偏波XPIC26Hは、具体的には、異偏波としての垂直偏波の復調信号から異偏波レプリカ信号を生成し、自偏波としての水平偏波の復調信号から異偏波レプリカ信号を減算することで、自偏波としての水平偏波の復調信号中の異偏波としての垂直偏波の信号成分を除去して交差偏波の干渉を補償するように構成される。そして、水平偏波XPIC26Hは、干渉補償後の水平偏波の復調信号を出力する。
【0048】
復調器27Hは、水平偏波XPIC26Hから出力される干渉補償後の水平偏波の復調信号の入力を受け、無線送信装置10の変調器11Hにおける変調方式(実施の形態では、64QAM方式)に対応する復調を行い、前記変調器11Hへと供給された水平偏波によって送信するデータを復調する。
【0049】
以上のように、無線通信システム1(交差偏波伝送システム,同一周波数コチャネル伝送システム)では、垂直偏波と水平偏波との両方の偏波信号を同一の周波数帯で同時に使用して通信を行うので、垂直偏波信号の受信系においては水平偏波(異偏波)の受信信号は垂直偏波(自偏波)の受信信号に対する干渉信号となり、水平偏波信号の受信系においては垂直偏波(異偏波)の受信信号は水平偏波(自偏波)の受信信号に対する干渉信号となる。そして、偏分波器15,22の偏波間アイソレーションや垂直偏波と水平偏波との間の伝搬路特性の違いにより、異偏波の干渉が増加することがある。
【0050】
図2は、自偏波の復調信号と異偏波の復調信号(別言すると、交差偏波の干渉信号)との間の関係の一例である。
図2に示すように、コンスタレーションでみると、交差偏波の干渉が生じる際は、自偏波のコンスタレーション/復調信号に対して異偏波のコンスタレーション/復調信号が重なって見える。なお、
図2では、異偏波信号は2点のみ表示しているが、実際には、異偏波信号は自偏波のコンスタレーションの全点に重なる。
図2では、また、異偏波信号を小さいコンスタレーションとして表しているが、瞬間的には或る信号の1点が見える。
【0051】
図2において、非線形歪や位相雑音の影響を受けると、自偏波の復調信号の信号電力が極端に大きいシンボル点や異偏波レプリカ信号の信号電力が極端に大きいシンボル点のとき、タップ係数更新回路に入力する位相誤差信号にエラーが発生する確率が高くなる。そこで、この発明に係る干渉抑圧回路30では、自偏波の復調信号の信号電力や異偏波レプリカ信号の信号電力などをモニタしつつ、前記信号電力などに基づいてFIRフィルタ261のタップ係数の更新を制御するようにしている。
【0052】
(実施の形態1)
図3は、この発明の実施の形態1に係る干渉抑圧回路30の概略構成を示す機能ブロック図である。なお、
図3は、上記で説明した無線通信システム1における無線受信装置20のような構成(
図1参照)をベースとし、無線受信装置20の垂直偏波XPIC26Vや水平偏波XPIC26Hに対して組み込まれる(別言すると、付加される)構成として適用される。
【0053】
干渉抑圧回路30が付加される垂直偏波XPIC26Vは、異偏波の復調信号として水平偏波の復調信号の入力を受けて前記水平偏波の復調信号から異偏波レプリカ信号を生成し、自偏波の復調信号としての垂直偏波の復調信号から前記異偏波レプリカ信号を減算することにより、自偏波の復調信号としての垂直偏波の復調信号中の異偏波(即ち、水平偏波)の信号成分を除去する。また、干渉抑圧回路30が付加される水平偏波XPIC26Hは、異偏波の復調信号として垂直偏波の復調信号の入力を受けて前記垂直偏波の復調信号から異偏波レプリカ信号を生成し、自偏波の復調信号としての水平偏波の復調信号から前記異偏波レプリカ信号を減算することにより、自偏波の復調信号としての水平偏波の復調信号中の異偏波(即ち、垂直偏波)の信号成分を除去する。下記では、干渉抑圧回路30および垂直偏波XPIC26Vの各構成を説明し、干渉抑圧回路30が付加される水平偏波XPIC26Hは前記の各構成に対して垂直偏波と水平偏波とが逆になるように動作するものであるので、干渉抑圧回路30が付加される水平偏波XPIC26Hの各構成の説明は省略する。
【0054】
まず、垂直偏波XPIC26Vに対応する構成として、FIR(Finite Impulse Response の略)フィルタ261、タップ係数更新部262、干渉減算器263、判定器264、および減算器265を備える。
【0055】
FIRフィルタ261は、自偏波(即ち、垂直偏波)の復調信号中の異偏波(即ち、水平偏波)の信号成分を除去するための異偏波レプリカ信号を生成する。FIRフィルタ261に対しては、タップ係数更新部262により、異偏波の信号成分を除去するのに最適なタップ係数が設定される。
【0056】
FIRフィルタ261は、直交復調器28Hから出力されてA/D変換器29Hで変換された水平偏波の復調信号の供給を受けるとともに、タップ係数更新部262からタップ係数の供給を受け、タップ係数を畳み込み演算することにより、異偏波レプリカ信号を生成する。なお、FIRフィルタ261の具体的な構成は周知であるので(例えば、特許第6194551号公報参照)、ここでは詳細の説明を省略する。
【0057】
FIRフィルタ261により、異偏波の信号成分を除去するための異偏波レプリカ信号が異偏波としての水平偏波の復調信号から生成され、前記異偏波レプリカ信号が干渉減算器263へと供給される。
【0058】
タップ係数更新部262は、FIRフィルタ261の最適なタップ係数を最小二乗法によって求める。タップ係数更新部262は、具体的には、A/D変換器29Hから異偏波としての水平偏波の復調信号の入力を受けるとともに、減算器265から位相誤差信号の入力を受け、前記復調信号と前記位相誤差信号との相関をとることにより(具体的には、最小二乗法を用いて)、垂直偏波XPIC26Vの出力信号の平均電力が最小となるようにFIRフィルタ261のタップ係数を生成して更新する。
【0059】
タップ係数更新部262によって生成されるタップ係数はFIRフィルタ261内のそれぞれ対応する乗算器(図示省略)へと供給され、前記乗算器において、直交復調器28Hから出力されてA/D変換器29Hで変換された水平偏波の復調信号と前記タップ係数とが乗算される。
【0060】
干渉減算器263は、直交復調器24Vから出力されてA/D変換器25Vで変換された自偏波としての垂直偏波の復調信号の供給を受けるとともに、FIRフィルタ261から出力される異偏波レプリカ信号の供給を受け、前記自偏波としての垂直偏波の復調信号から前記異偏波レプリカ信号を減算する。
【0061】
自偏波としての垂直偏波の復調信号から異偏波レプリカ信号が減算されることにより、垂直偏波/自偏波の復調信号中の水平偏波/異偏波の干渉成分がキャンセルされる。そして、干渉減算器263から、水平偏波/異偏波の干渉成分がキャンセルされた垂直偏波/自偏波の復調信号が出力される。
【0062】
判定器264は、干渉減算器263から出力される、異偏波レプリカ信号減算後の垂直偏波の復調信号について、シンボル判定(即ち、IQ平面上において前記復調信号の位置に最も近い正規の信号点/理想のシンボル信号を判定する)を行い、判定されたシンボル信号を出力する。
【0063】
減算器265は、判定器264によって判定される前の復調信号(即ち、干渉減算器263から出力される復調信号)から、判定器264によって判定されたシンボル信号を減算する。減算器265により、IQ平面上におけるもとの復調信号の位置とシンボル信号の位置との差分を表す位相誤差信号が生成され、前記位相誤差信号がタップ係数更新部262へと供給される。
【0064】
そして、この実施の形態に係る干渉抑圧回路30は、第1の偏波方向の信号を受信する自偏波受信部(即ち、自偏波としての垂直偏波の信号を受信する垂直偏波受信部23V)と、第1の偏波方向と交差する第2の偏波方向の信号を受信する異偏波受信部(即ち、異偏波としての水平偏波の信号を受信する水平偏波受信部23H)と、第2の偏波方向の信号から異偏波レプリカ信号を生成するとともに第1の偏波方向の信号から異偏波レプリカ信号を減算して第1の偏波方向の信号中の第2の偏波方向の信号の成分を除去する交差偏波間干渉補償部(即ち、垂直偏波XPIC26V)と、異偏波レプリカ信号のレベルを一定にするように働く自動利得制御回路32と、交差偏波間干渉補償部(即ち、垂直偏波XPIC26V)内に備えられる判定器264における第1の偏波方向の信号についてのシンボル判定によって判定されたシンボル信号の信号電力を算出する自偏波電力算出部31と、自動利得制御回路32内に備えられて異偏波レプリカ信号の信号電力と所定の基準レベルとの差分を出力する減算器321と、自動利得制御回路32において異偏波レプリカ信号と前記差分とが乗算されて自動利得制御回路32から出力される信号の瞬時電力を算出する干渉電力算出部33と、シンボル信号の信号電力、前記差分、および瞬時電力に基づいて交差偏波間干渉補償部(即ち、垂直偏波XPIC26V)内に備えられるFIRフィルタ261のタップ係数を更新する際のステップサイズの制御信号を生成する更新制御部34と、を有する、ようにしている。
【0065】
自偏波電力算出部31は、判定器264から出力されるシンボル信号の信号電力(「自偏波シンボル電力」と呼ぶ)を算出する。自偏波電力算出部31によって算出される自偏波シンボル電力は、更新制御部34へと供給される。
【0066】
自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control の略)回路32は、減算器321、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter の略)322、および乗算器323を備え、異偏波レプリカ信号のレベルを一定にするように働く。
【0067】
減算器321は、FIRフィルタ261から出力されて乗算器323で処理された異偏波レプリカ信号の供給を受け、前記異偏波レプリカ信号の信号電力と所定の基準レベルとの差分(「干渉レベル」と呼ぶ)を出力する。干渉レベルは、交差偏波の干渉の補償について必要とされる程度に対応する指標となる。
【0068】
減算器321において用いられる基準レベルは、主偏波(即ち、垂直偏波)の復調信号中の異偏波(即ち、水平偏波)の信号成分による干渉の程度を評価するための閾値であり、特定の値に限定されるものではなく、無線受信装置20の仕様や特性を踏まえつつ、例えば通常想定される干渉レベルが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。減算器321において用いられる基準レベルは、具体的には例えば、設計上の主偏波の平均電力程度に設定されることが考えられる。
【0069】
減算器321から出力される干渉レベルは、ローパスフィルタ322によって平滑化されたうえで、乗算器323および更新制御部34へと供給される。
【0070】
乗算器323は、FIRフィルタ261から出力される異偏波レプリカ信号の入力を受けるとともに、減算器321から出力されてローパスフィルタ322で平滑化された干渉レベルの入力を受け、前記異偏波レプリカ信号と前記干渉レベルとを乗算して出力する。
【0071】
干渉電力算出部33は、乗算器323から出力される信号について、同相成分のDi信号および直交成分のDq信号の2乗和(即ち、Di2+Dq2)を計算して瞬時電力(「干渉瞬時電力」と呼ぶ)を算出する。干渉電力算出部33によって算出される干渉瞬時電力は、更新制御部34へと供給される。
【0072】
更新制御部34は、タップ係数更新部262におけるタップ係数の収束速度を調整するステップサイズの大きさを制御するための仕組みであり、自偏波電力算出部31から出力される自偏波シンボル電力、減算器321から出力されてローパスフィルタ322で平滑化された干渉レベル、および干渉電力算出部33から出力される干渉瞬時電力の3つの指標に基づいてタップ係数更新部262におけるステップサイズの制御信号を生成する。
【0073】
更新制御部34は、自偏波電力判定部341、干渉レベル判定部342、干渉電力判定部343、および選択部344を備える。
【0074】
自偏波電力判定部341は、自偏波電力算出部31から出力される自偏波シンボル電力の供給を受け、前記自偏波シンボル電力と所定の閾値(「自偏波信号用の判定精度低下閾値」と呼ぶ)とを比較して、自偏波シンボル電力が自偏波信号用の判定精度低下閾値以上であるときは自偏波判定精度低下フラグとして1を出力し、自偏波シンボル電力が自偏波信号用の判定精度低下閾値未満であるときは自偏波判定精度低下フラグとして0を出力する(尚、前記における「以上」と「未満」との組み合わせは「より大きい」と「以下」との組み合わせでもよい。以下についても同様である。)。
【0075】
自偏波信号用の判定精度低下閾値は、特定の値に限定されるものではなく、自偏波シンボル電力が極端に大きい場合にはタップ係数更新部262におけるステップサイズを小さくすることが好ましいので、その判断が適切に行われ得ることが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。自偏波信号用の判定精度低下閾値は、具体的には例えば、アナログ系の劣化が大きいと予想されるコンスタレーション上の信号電力が大きいシンボル点のときを判定精度低下シンボルと捉え、アナログ系の劣化の影響が大きいと推測される信号電力の大きいシンボル点についてはステップサイズを小さくするような値に設定されることが考えられる。
【0076】
干渉レベル判定部342は、減算器321から出力されてローパスフィルタ322を通過した干渉レベルの供給を受け、前記干渉レベルと所定の閾値(「補償限界閾値」と呼ぶ)とを比較して、干渉レベルが補償限界閾値以上であるときは補償限界判定フラグとして1を出力し、干渉レベルが補償限界閾値未満であるときは補償限界判定フラグとして0を出力する。
【0077】
補償限界閾値は、特定の値に限定されるものではなく、交差偏波の干渉の補償について必要とされる程度に対応する指標である干渉レベルが垂直偏波XPIC26Vによる交差偏波の干渉の補償限界に近い場合にはタップ係数の更新を抑制することが好ましいので、その判断が適切に行われ得ることが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。補償限界閾値は、具体的には例えば、変調多値数の違いで補償限界が異なるので、事前の評価等で把握されている補償限界のD/U比(Desired to Undesired signal ratio)に基づいて設定されることが考えられる。
【0078】
干渉電力判定部343は、干渉電力算出部33から出力される干渉瞬時電力の供給を受け、前記干渉瞬時電力と所定の閾値(「異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値」と呼ぶ)とを比較して、干渉瞬時電力が異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値以上であるときは異偏波判定精度低下フラグとして1を出力し、干渉瞬時電力が異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値未満であるときは異偏波判定精度低下フラグとして0を出力する。
【0079】
異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値は、特定の値に限定されるものではなく、異偏波シンボル電力が極端に大きい場合にはタップ係数更新部262におけるステップサイズを小さくすることが好ましいので、その判断が適切に行われ得ることが考慮されるなどしたうえで適当な値に適宜設定される。異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値は、具体的には例えば、アナログ系の劣化が大きいと予想されるコンスタレーション上の信号電力が大きいシンボル点のときを判定精度低下シンボルと捉え、アナログ系の劣化の影響が大きいと推測される信号電力の大きいシンボル点についてはステップサイズを小さくするような値に設定されることが考えられる。
【0080】
選択部344は、自偏波電力判定部341から出力される自偏波判定精度低下フラグ、干渉レベル判定部342から出力される補償限界判定フラグ、および干渉電力判定部343から出力される異偏波判定精度低下フラグの3つのフラグに基づいてタップ係数更新部262におけるステップサイズを選択/決定する。
【0081】
選択部344は、自偏波の復調信号の信号電力や異偏波レプリカ信号の信号電力が、極端に大きいときはタップ係数の更新を抑制し、小さいときはタップ係数の更新を抑制しない、という基本的な考え方に基づいてステップサイズを選択/決定する。
【0082】
選択部344におけるステップサイズの選択/決定の仕方としては、具体的には例えば、以下の表1に整理する選択基準の集合(即ち、選択基準ア乃至ク)や表2に整理する選択基準の集合(即ち、選択基準サ乃至ツ)が用いられることが考えられる。
【0083】
【0084】
表1では、自偏波シンボル電力が自偏波信号用の判定精度低下閾値以上である且つ干渉瞬時電力が異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値以上であるという条件1と、干渉レベルが補償限界閾値以上であるという条件2と、について、前記条件1と前記条件2とのうちの一方が成立しているとき(即ち、選択基準ウ,エ,カ,およびキ)はステップサイズ「小さい」が選択され、前記条件1と前記条件2との両方が成立しているとき(即ち、選択基準ク)はステップサイズ「OFF」が選択される。
【0085】
【0086】
表2では、自偏波シンボル電力が自偏波信号用の判定精度低下閾値以上である或いは干渉瞬時電力が異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値以上であるという条件1と、干渉レベルが補償限界閾値以上であるという条件2と、について、前記条件1と前記条件2とのうちの一方が成立しているとき(即ち、選択基準シ,ス,ソ,およびタ)はステップサイズ「小さい」が選択され、前記条件1と前記条件2との両方が成立しているとき(即ち、選択基準セ,チ,およびツ)はステップサイズ「OFF」が選択される。なお、ここでの「或いは」は、自偏波シンボル電力が自偏波信号用の判定精度低下閾値以上であるとともに干渉瞬時電力が異偏波レプリカ信号用の判定精度低下閾値以上であるときを含む。
【0087】
ステップサイズとして「大きい」が選択された場合の具体的なステップサイズや、ステップサイズとして「小さい」が選択された場合の具体的なステップサイズは、特定の値に限定されるものではなく、ステップサイズ「小さい」はステップサイズ「大きい」よりも小さい値に設定されること、および、ステップサイズ「小さい」は従来一般的なタップ係数の更新において通常設定/想定されるステップサイズよりも小さい値に設定されることが好ましいことが考慮されるなどしたうえで、適当な値にそれぞれ適宜設定される。なお、ステップサイズ「大きい」は従来一般的なタップ係数の更新において通常設定/想定されるステップサイズと同程度の値に設定されるようにしてもよい。
【0088】
ステップサイズとして「OFF」が選択された場合には、タップ係数更新部262は、タップ係数の更新を行わず、直前の処理において求められたタップ係数をFIRフィルタ261へと供給する。
【0089】
また、選択部344におけるステップサイズの選択/決定の仕方(具体的には、選択基準の集合)は、表1や表2に示す例に限定されるものではなく、他の選択基準の集合が用いられるようにしたり、或いは、上記3つのフラグを変数として各変数に重み係数が設定された関数によって算出される値が用いられるようにしたりしてもよい。
【0090】
選択部344は、選択されたステップサイズに従ってタップ係数の更新を行うようにする命令を制御信号としてタップ係数更新部262に対して出力する。
【0091】
この実施の形態に係る干渉抑圧回路30によれば、自偏波と異偏波とに関係する3つの指標に基づいてFIRフィルタ261のタップ係数を更新する際のステップサイズを制御するようにしているので、自偏波と異偏波との過度な干渉を検知することができるとともに交差偏波間の干渉補償の限界に対する余裕の程度を判断することができ、タップ係数の更新の精度を維持して交差偏波間干渉補償について高多値においても安定に動作することが可能となる。付け加えると、干渉抑圧回路30は、位相雑音だけでなく任意の原因による干渉補償限界に対して有効である。
【0092】
(実施の形態2)
図4は、この発明の実施の形態2に係る干渉抑圧回路30の概略構成を示す機能ブロック図である。なお、
図4は、上記で説明した無線通信システム1における無線受信装置20のような構成(
図1参照)をベースとし、無線受信装置20の垂直偏波XPIC26Vや水平偏波XPIC26Hに対して組み込まれる(別言すると、付加される)構成として適用される。
【0093】
実施の形態2の干渉抑圧回路30は、上記の実施の形態1と同等の構成に加え、タップ係数によって異偏波レプリカ信号のキャリア位相制御を行うためのキャリア再生部40が組み合わせられるようにしている。なお、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。また、下記では、干渉抑圧回路30および垂直偏波XPIC26Vの各構成を説明し、前記の各構成に対して垂直偏波と水平偏波とが逆になるように動作するものであるので、干渉抑圧回路30が付加される水平偏波XPIC26Hの各構成の説明を省略する。
【0094】
キャリア再生部40は、位相比較器41、ローパスフィルタ42(LPF:Low Pass Filter の略)、電圧制御発振器43(VCO:Voltage Contorolled Oscillator の略)、および乗算器44を備える。位相比較器41、ローパスフィルタ42、および電圧制御発振器43は、周波数負帰還回路(PLL:Phase Locked Loop の略)を構成する。
【0095】
位相比較器41は、タップ係数更新部262から、FIRフィルタ261の、当時刻nTにおけるタップ係数hv(n)(k)およびτT前におけるタップ係数hv(n-τ)(k)を取得し、以下の数式1に従って前記タップ係数hv(n)(k)とhv(n-τ)(k)とを複素乗算することにより、位相回転量(別言すると、位相誤差)を算出して出力する(尚、数式1の導出については、特許第6194551号公報を参照)。
【0096】
【数1】
ここに、 δθ(n):位相回転量
arg{C}:複素数Cの偏角
hv
(n)(k):当時刻nTにおけるFIRフィルタのタップ係数
h
*v
(n-τ
)(k):τT前におけるFIRフィルタのタップ係数の複素共役
T:サンプリング周期
n:順序数(1,2,3,・・・)
τ:時間間隔を特定するための順序数の遡りの程度(1,2,3,・・・)
K:タップ数に関係する定数(1,2,3・・・)(2K+1:タップ数)
【0097】
位相回転量δθ(n)は、すなわち、τTの間に生じる位相差(即ち、位相回転角度の差分)であり、τT離れた各タップ係数値から推定される平均の位相回転量である。
【0098】
位相比較器41から出力される位相回転量(別言すると、位相誤差)は、ローパスフィルタ42によって平滑化されたうえで、電圧制御発振器43へと供給される。電圧制御発振器43の発振周波数は、これにより、位相回転量(位相誤差)に応じて制御される。
【0099】
乗算器44は、直交復調器28Hから出力されてA/D変換器29Hで変換された異偏波としての水平偏波の復調信号の供給を受けるとともに、電圧制御発振器43から出力される位相回転量(位相誤差)の供給を受け、前記異偏波としての水平偏波の復調信号に前記位相回転量を複素乗算して出力する。乗算器44の出力信号は、FIRフィルタ261へと供給される。
【0100】
以上により、実施の形態2では、乗算器44においてタップ係数を用いたキャリア位相制御が施された異偏波としての水平偏波の復調信号から、異偏波の信号成分を除去するための異偏波レプリカ信号が生成される。
【0101】
実施の形態2では、選択部344によってステップサイズとして「OFF」が選択された場合には、位相比較器41は、位相回転量(別言すると、位相誤差)の算出を行わず、直前の処理において求められた位相回転量(別言すると、位相誤差)を出力する。
【0102】
この実施の形態に係る干渉抑圧回路30によれば、FIRフィルタ261のタップ係数の値を用いて異偏波レプリカ信号のキャリア位相制御を行うことができるので、自偏波側と異偏波側とでキャリア信号を独立して設定しても、異偏波の干渉を的確に補償することが可能となる。
【0103】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0104】
具体的には、上記の実施の形態ではこの発明に係る干渉抑圧回路30が適用されるベースの構成として
図1に示す無線受信装置20を挙げたが、この発明が適用され得る無線受信装置の構成は、
図1に示す無線受信装置20に限定されるものではなく、上記で説明したような干渉抑圧回路30の構成が交差偏波間干渉補償器に相当する機序として適用することができる(言い換えると、偏波が異なる複数種類の偏波信号の受信に纏わる機序に組込むことができる)無線受信装置であればどのような構成でもよい。
【0105】
また、上記の実施の形態では垂直偏波と水平偏波とが用いられるようにしているが、この発明に係る無線通信システム1が利用する偏波は垂直偏波や水平偏波に限定されるものではなく、相互に異なる偏波角度であれば他の任意の偏波角度の偏波が用いられるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0106】
1 無線通信システム
10 無線送信装置
11V,11H 変調器
12V,12H D/A変換器
13V,13H 直交変調器
14V 垂直偏波送信部
14H 水平偏波送信部
15 偏分波器
16 アンテナ
20 無線受信装置
21 アンテナ
22 偏分波器
23V 垂直偏波受信部
23H 水平偏波受信部
24V,24H 直交復調器
25V,25H A/D変換器
26V 垂直偏波XPIC
26H 水平偏波XPIC
261 FIRフィルタ
262 タップ係数更新部
263 干渉減算器
264 判定器
265 減算器
27V,27H 復調器
28V,28H 直交復調器
29V,29H A/D変換器
30 干渉抑圧回路
31 自偏波電力算出部
32 自動利得制御回路
321 減算器
322 ローパスフィルタ
323 乗算器
33 干渉電力算出部
34 更新制御部
341 自偏波電力判定部
342 干渉レベル判定部
343 干渉電力判定部
344 選択部
40 キャリア再生部
41 位相比較器
42 ローパスフィルタ
43 電圧制御発振器
44 乗算器