(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】田植機
(51)【国際特許分類】
A01C 11/02 20060101AFI20250120BHJP
【FI】
A01C11/02 350F
(21)【出願番号】P 2021175854
(22)【出願日】2021-10-27
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】720001060
【氏名又は名称】ヤンマーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 智之
【審査官】小林 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-194573(JP,A)
【文献】特開平11-137012(JP,A)
【文献】特開昭63-276406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01C 11/02
A01B 63/00-63/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行部を有する田植機であって、
前記走行部に支持されたリンク機構と、
前記リンク機構に支持されるヒッチ部と、
前記ヒッチ部から前記田植機の前後方向に配置されたローリング軸と、
苗載台を有し、前記ローリング軸によって回動自在に支持された植付装置と、
前記ヒッチ部に取り付けられ、前記田植機の左右方向で前記ローリング軸と同じ位置で前記苗載台を支持する
荷重支持部材と、を備え
、
前記苗載台は、前記田植機の前方側を向く平坦面を有する支持受け部材を有しており、
前記荷重支持部材は、前記支持受け部材に対して前記田植機の前方側に位置すると共に、前記支持受け部材の前記平坦面の延在方向である水平方向に沿って延び、軸心周りに設けられた円筒面を有しており、
前記支持受け部材の前記平坦面と前記荷重支持部材の前記円筒面とが直接的に当接することにより、前記苗載台が前記荷重支持部材によって支持されていることを特徴とす
る田植機。
【請求項2】
前記荷重支持部材はローラ部を有し、前記苗載台のローリングに対して前記ローラ部が回転して追従することを特徴とする、請求項1に記載の田植機。
【請求項3】
前記荷重支持部材と異なる位置で前記苗載台を支持するシュー部材を備え、
前記シュー部材の前記苗載台に対する位置を前記田植機の前後方向で位置調節可能とする調節機構を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の田植機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、走行しながら圃場へ苗を移植する田植機に関し、特に、目標方位に沿って自律走行を行う田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、JIS規格で定められた苗マットの寸法で、2枚半~3枚分程度の苗マットを載せることができる田植機の苗載台が、特開平10-127122号公報(特許文献1)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、JIS規格で定められた苗マットの寸法で、2枚半~3枚分程度の苗マットを載せることができ、苗マットを3枚載せる苗載台を設計する場合、苗載台や載置される苗マットの荷重により苗載台が変形することを防ぐため、苗載台を支持する必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、苗マットを載せる苗載台の変形を防ぐために、苗載台の支持に適した構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る田植機は、走行部と、走行部に支持されたリンク機構と、リンク機構に支持されるヒッチ部と、ヒッチ部から田植機前後方向に配置されたローリング軸と、苗載台とを有し、ローリング軸によって回動自在に支持された植付装置と、ヒッチ部に取り付けられ、田植機左右方向でローリング軸と同じ位置で苗載台を支持する荷重支持部材と、を備え、前記苗載台は、前記田植機の前方側を向く平坦面を有する支持受け部材を有しており、前記荷重支持部材は、前記支持受け部材に対して前記田植機の前方側に位置すると共に、前記支持受け部材の前記平坦面の延在方向である水平方向に沿って延び、軸心周りに設けられた円筒面を有しており、前記支持受け部材の前記平坦面と前記荷重支持部材の前記円筒面とが直接的に当接することにより、前記苗載台が前記荷重支持部材によって支持されていることを特徴とする。
【0007】
この発明に係る田植機は、ローリング軸と左右方向で同じ位置で苗載台を支持するため、より多くの苗マットを苗載台に支持することができる。
【0009】
この構成によれば、苗載台や載置された苗マットの荷重を効果的に支持部材で支持することができる。
【0010】
さらに好ましくは、支持部材はローラ部を有し、苗載台のローリングに対してローラ部が回転して追従することを特徴とする。
【0011】
苗載台はローリングするため、支持部材が回転して追従可能なローラで構成されることが好ましい。
【0012】
この発明の一実施の形態によれば、支持部材と異なる位置で苗載台を支持するシュー部材を備え、シュー部材の苗載台に対する位置を田植機前後方向で位置調節可能とする調節機構を有する。
【0013】
支持部材が苗載台を支持しやすいようにシュー部材を設けているため、機体前後方向で位置調節することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、田植機は、ローリング軸と左右方向で同じ位置で苗載台を支持するため、より多くの苗マットを苗載台に支持することができる。その結果、苗載台の支持に適した構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
<全体構成>
図1及び
図2を参照して、田植機1の全体構成について説明する。田植機1は、走行機体(走行部)2と、その後部に装着される圃場作業部(植付部)3とを備え、走行機体2によって走行しつつ圃場作業部3によって植付作業を行うように構成されている。なお、本実施形態では、田植機1の植付条数が6条である場合を例に示しているが、勿論、田植機1の植付条数は何条であってもよい。
【0018】
走行機体2は、エンジン4、エンジン4からの動力を変速するトランスミッション5、エンジン4及びトランスミッション5を支持する機体フレーム6、エンジン4及びトランスミッション5から伝達される動力によって駆動される前輪7及び後輪8等を備える。
【0019】
エンジン4及びトランスミッション5からの動力は、それぞれフロントアクスルケース9、リアアクスルケース10に伝達される。フロントアクスルケース9は、機体フレーム6の前部に支持されるとともに、その左右両端部に前輪7が支承される。同様に、リアアクスルケース10は、機体フレーム6の後部に支持されるとともに、その左右両端部に後輪8が支承される。機体フレーム6の上部は、ステップ11によって被覆されており、オペレータ(作業者)は、ステップ11上を移動可能である。
【0020】
また、エンジン4及びトランスミッション5からの動力は、図示の無い株間設定器を経て圃場作業部3に伝達される。株間設定器は、走行機体2の進行方向に沿って植え付けられる苗の植付間隔を設定された間隔に変更可能に構成される。
【0021】
また、走行機体2の圃場内での測位や実車速の算出のために、走行機体2には、測位装置としてGNSS受信機(位置情報取得部)49が設けられている。
【0022】
走行機体2の前後中途部に運転席12が配置され、その前方に操向ハンドル13、操作ペダル14、及び、ダッシュボード15等が設けられる。ダッシュボード15には、操向ハンドル13に加えて各種操作用の操作具、表示装置が配置されている。
【0023】
ここで、GNSS受信機49について説明する。走行機体2の前方には、予備苗載台本体部17a、および予備苗載台フレーム17bが設けられ、これから上方に延びるGNSS受信機支持フレーム50の上にGNSS受信機49が載置される。走行機体2は、GNSS受信機49によって圃場内での測位や実車速の算出が可能となっている。
【0024】
圃場作業部3は、全体が後に説明するフレーム部40(
図5参照)に載置され、走行機体2に対して、昇降リンク機構20を介して連結されている。昇降リンク機構20は、上リンク21及び左右一対の下リンク22、昇降シリンダ等を備える。昇降シリンダによって下リンク22、上リンク21を回動させて圃場作業部3を昇降させる。
【0025】
圃場作業部3は、植付アーム31、植付爪32、苗載台33、苗載台33を横方向(機体幅方向)に往復動させる横送り機構、苗載台33に置かれる苗マットMを下端側に向かって縦方向(機体前後方向)に搬送する縦送り機構、フロート34等を備える。植付爪32は、植付アーム31に取り付けられている。
図5に示す実施形態では、田植機1の植付条数が8条であるため、8つの植付アーム31と12の植付爪32とを備えている。圃場作業部3は、トランスミッション5から後方に向けて延出されるPTO軸16によって駆動される。
【0026】
より詳細には、PTO軸16から植付センターケース35を介して圃場作業部3に設けられる3つの植付伝動ケース36に動力が伝達されて、4つの植付伝動ケース36の各々から植付伝動ケース36毎の左右一対の植付アーム31及び左右一対の植付爪32に動力が分配される。植付センターケース35には、植付クラッチが設けられ、植付クラッチはエンジン4から圃場作業部3への動力の伝達を断接するように構成される。
【0027】
植付アーム31は、植付伝動ケース36から伝達される動力によって回転する。植付爪32には、苗載台33から苗が供給される。植付アーム31の回転運動に伴って、植付爪32が圃場内に挿入され、所定の植え付け深さとなるように苗が植え付けられる。なお、本実施形態では、ロータリ式の植付爪を採用しているが、クランク式のものを用いても良い。
【0028】
苗載台33は、板状の部材によって構成され、機体側面視において前高後低状に傾斜するように配設される。苗載台33の後面には、苗マットMを載置する載置面が植付アーム31の数(田植機1の条数)に応じて機体幅方向に並べて配置される。本実施形態の田植機1は、植付条数が8条であるため、載置面が8つ形成される。載置面には、苗マットMが傾斜した状態で置かれる。
【0029】
この実施の形態においては、フレーム部40の構成が重要であるので、まず、それについて説明する。
【0030】
図3は、苗載台33を支持するフレーム部40をその裏面側から見た斜視図である。
図3を参照して、フレーム部40は、苗載台33(
図1および
図2参照)を固定する複数の上シュー部材40a~40cが取り付けられた門型フレーム41と、門型フレーム41の左右の肩部41a,41bを斜めに接続する斜めフレーム42a,42bと、門型フレーム41を左右方向で連結する、上下に配置された第1横フレーム43,および第2横フレーム44と、門型フレーム41の高さ方向の中間部45a,45bから、略垂直下方向に延びた後、水平方向に延びて門型フレーム41の下部を接続するL字フレーム46a,46bと、を含む。
【0031】
さらに、第1横フレーム43には、苗載台33(
図1および
図2参照)を固定する複数の下シュー部材43a~43dが取付けられる。
【0032】
ここでは、L字フレーム46a,46bの水平方向に延びる部分は、三角形状である。
【0033】
なお、門型フレーム41の高さ方向の中間部45a,45bには、第1横フレーム43や、斜めフレーム42a,42bが接続されている。
【0034】
門型フレーム41の下端部47a,47bは、第3横フレーム48に接続され、第2横フレーム44の中央部には、ヒッチ部60が設けられる。
【0035】
門型フレーム41は、苗載台33の裏面全体にわたるフレーム部材で上方ほど機体前方へ傾斜している。
【0036】
ヒッチ部60は、下部を第3横フレーム48と接続され、下方のローリング軸53でフレーム部40全体をローリング自在に支持している。ヒッチ部60は、ローリング制御の関係で第1、第2横フレーム43,44とは連結されていない。ヒッチ部60の上方には、荷重支持部材54が設けられる。
【0037】
第1横フレーム43の中央には、荷重支持部材54と当接する支持受け部材55が設けられる。
【0038】
また、斜めフレーム42a,42bは、門型フレーム41と苗載台33との間を連結し、ターンバックル構造を備え、苗載台33の荷重を受けても支持できるように長さを微調整できる。
【0039】
L字フレーム46a,46bは、門型フレーム41の「上下方向の縦部分の第1横フレーム43との連結箇所付近」と下端部および「門型フレーム41と第3横フレーム48との連結箇所」を連結する略L字形状のフレーム部材である。
【0040】
植付分配ケース52は、第3横フレーム48の後方に連結して動力を受け、植付伝動ケース36及び植付アーム31へ動力を伝達する。
【0041】
上シュー部材40a~40cは、門型フレーム41に配置され、下シュー部材43a~43dは、第1横フレーム43に配置され、それぞれ苗載台側の下向きの溝を乗せるようして横送りを可能とする。上シュー部材40a~40cは、下シュー部材43a~43dと溝位置の取付けに合わせて前後方向に取付け位置を微調整可能で支持する苗載台の傾斜角を微調整できる。
【0042】
以上のように、フレーム部40は、門型フレーム41、第1横フレーム43、第2横フレーム44、第3横フレーム48、L字フレーム46を含み、苗載台33の荷重を支持する構造部材を構成している。荷重支持部材54は苗載台の荷重の影響を一番受けるフレーム部40の略中央に配置している。L字フレーム46と門型フレーム41で略トラス構造を構成している。門型フレーム41における第1横フレーム43と、L字フレーム46a,46bとの連結箇所が集中して、第1横フレーム43から下方で第3横フレーム48上方までの門型フレーム41は補強されている。そのため、門型フレーム41の第1横フレーム43との連結箇所より上方は少し強度は弱い。そこで、この箇所が荷重で機体前方へ変形しないよう斜めフレーム42a,42bを配置して補強している。
【0043】
詳細には、門型フレーム41と第1横フレーム43の間に斜めフレーム42a,42bを入れて、門型フレーム41が機体前方へ変形しないように斜めフレーム42a,42bで後方へターンバックルでテンションをかけている。
【0044】
上シュー部材40a~40cを前後に微調整して、支持する苗載台33の傾斜角を微調整することで、荷重支持部材54と支持受け部材55との当接が垂直になるよう調整可能である。
【0045】
次に、この実施の形態に係る各図面について説明する。
【0046】
図4は、
図3で説明したフレーム部40上に苗載台33等が搭載された、植付部や平行リンクなどを示す左側面図である。理解の容易のために、
図3で説明した主要な部品に参照番号を付している。
【0047】
図5は、植付部3の要部の全体斜視図である。苗載台33、フレーム部40、ヒッチ部60の位置関係を示す。
図3の中央部に位置するヒッチ部60は植付部3を昇降させる昇降リンク機構20の一部である。フレーム部40は
図3に示した通りであり、ヒッチ部60の詳細な説明は
図7に示す。
【0048】
図6は、植付部3の要部の全体正面図である。
図3で説明した主要な部品に参照番号を付している。
【0049】
図7は、ヒッチ部60の斜視図である。ヒッチ部60は、ヒッチ上部体61と、ヒッチ本体62と、ヒッチ下部体63とを含む。ヒッチ上部体61には荷重支持部材54が設けられ、荷重支持部材54は回転可能に支持受け部材55に当接する。
【0050】
ここで、荷重支持部材54の支持受け部材55への当たり方向はローリング軸53の軸方向と平行であり、ローリングの動作で荷重支持部材54と支持受け部材55の距離が変わらず、当たり具合が保持される。
【0051】
ヒッチ上部体61の上端部には、そこを中心として、その両側にローリング補正バネ56が設けられる。ヒッチ下部体63の下部には、ローリング軸53が設けられる。
【0052】
図8は、ヒッチ部60の正面図である。ヒッチ部60の上端部にはヒッチ上部体61が設けられ、ヒッチ上部体61の上部には荷重支持部材54が取り付けられている。なお、実際は、荷重支持部材54は、ヒッチ上部体61の裏面側にあるため見えないが、ここでは、理解の容易のために、荷重支持部材54を示している。
【0053】
荷重支持部材54はローリング軸53と左右方向で同じ位置、すなわち、ローリングの動作で移動が少ない位置に設けられている。支持受け部材55の幅はローリングの動作で支持受け部材55と当接する範囲で設定している。
【0054】
図9は、荷重支持部材54を示す図である。荷重支持部材54は、ヒッチ上部体61に支持されている。荷重支持部材54はダブルナット構造などでヒッチ上部体61に支持されていて、支持受け部材55への距離を調整できるようになっている。
【0055】
また、荷重支持部材54は、支持受け部材55に対して、調節する際にローラが常に回転方向に垂直に接することを可能にするように、調節ボルトには2面幅を設けている。言い換えると、荷重支持部材54は、調節ボルトの2面幅により、常にローラの回転軸が上下方向となり、苗載台33の横送りに対してローラが支持受け部材55に適切に接するようになる。
【0056】
上記実施の形態においては、苗載台を保持する苗載台プレート、およびその下方に設けられ、それを支持するリブは一体構造のもので説明したが、これに限らず、苗載台プレート、およびそれを支持するリブは、上下、左右方向に分割してもよい。
【0057】
また、苗台部分を延長しても良いし、上段、中段、下段(共用部分)は、それぞれ異なる角度(いずれも水平面に対する角度)で構成してもよい。
【0058】
さらに、既存の苗マット押さえ(下段側)と別体の苗保持部材を設けてもよいし、苗マット押さえを独立して調整できるようにしてもよい。
【0059】
さらに、延長する3マット苗載台部分に既存の固定操作器具仕組みを追加してもよいし、苗載台を3マット化にするにあたり支持部材を下段・中段・上段の3段構成としてその上段(3マットフレーム)を分割構造に構成してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 田植機
2 走行機体(走行部)
3 圃場作業部(植付部)
40 フレーム部
41 門型フレーム
42 斜めフレーム
43 第1横フレーム
44 第2横フレーム
46 L字フレーム
48 第3横フレーム
53 ローリング軸
54 荷重支持部材
55 支持受け部材
60 ヒッチ部