(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】流体制御弁、流体制御装置、弁体、及び弁体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16K 1/00 20060101AFI20250120BHJP
F16K 31/02 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
F16K1/00 P
F16K31/02 A
(21)【出願番号】P 2021006276
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】赤土 和也
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-190872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 1/00
F16K 31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座と、前記弁座に対向する対向面に形成された凹溝に樹脂層が設けられてなる弁体とを備える流体制御弁において、
前記弁体が、前記対向面とは反対側を向く裏面に流入口が開口するとともに、前記対向面における前記凹溝の周囲
の凸条部に流出口が開口する内部流路を有し、
前記内部流路の前記流入口側に座繰り部が形成されていることを特徴とする流体制御弁。
【請求項2】
前記弁体が、前記内部流路として、第1の内部流路と、前記第1の内部流路よりも長い第2の内部流路とを有し、
前記座繰り部が、前記第1の内部流路に形成されることなく、前記第2の内部流路に形成されている、請求項1記載の流体制御弁。
【請求項3】
前記弁体の前記裏面に、当該裏面に直交する方向に沿った寸法である厚み寸法が周囲よりも大きい突出部が設けられており、
前記第1の内部流路が、前記突出部の周囲を貫通しており、
前記第2の内部流路が、前記突出部を貫通している、請求項2記載の流体制御弁。
【請求項4】
前記弁体を前記弁座に向かって付勢する環状の弁体戻しばねをさらに備え、
前記突出部が、前記弁体戻しばねに嵌まり込むものである、請求項3記載の流体制御弁。
【請求項5】
前記第1の内部流路が複数設けられるとともに、前記第2の内部流路が複数設けられており、
複数の前記第1の内部流路の流出口と、複数の前記第2の内部流路の流出口とが、前記対向面において同心円状に配置されている、請求項2乃至4のうち何れか一項に記載の流体制御弁。
【請求項6】
前記座繰り部が、前記流入口及び前記流出口の中心を通過する軸を回転軸とした回転体形状をなす、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の流体制御弁。
【請求項7】
1つの前記座繰り部が、複数の前記内部流路に跨って形成されている、請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の流体制御弁。
【請求項8】
前記内部流路の全長に対する前記座繰り部の長さの占める割合が、55%以上80%以下である、請求項1乃至7のうち何れか一項に記載の流体制御弁。
【請求項9】
前記樹脂層が、架橋改質フッ素系樹脂で形成してある請求項1乃至8のうち何れか一項に記載の流体制御弁。
【請求項10】
請求項1乃至9のうち何れか一項に記載の流体制御弁を備える流体制御装置。
【請求項11】
弁座とともに流体制御弁を構成するとともに、前記弁座に対向する対向面に形成された凹溝に樹脂層が設けられてなる弁体であって、
前記対向面とは反対側を向く裏面に流入口が開口するとともに、前記対向面における前記凹溝の周囲
の凸条部に流出口が開口する内部流路を有し、
前記内部流路の前記流入口側に座繰り部が形成されていることを特徴とする弁体。
【請求項12】
弁座ととともに流体制御弁を構成する弁体の製造方法であって、
前記弁座に対向する対向面に凹溝を形成する工程と、
前記凹溝に樹脂層を設ける工程と、
前記対向面とは反対側を向く裏面に流入口が開口するとともに、前記対向面における前記凹溝の周囲
の凸条部に流出口が開口する内部流路を形成する工程と、
前記内部流路の前記流入口側に座繰り部を設ける工程とを含むことを特徴とする弁体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体制御弁、流体制御装置、弁体、及び弁体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体制御弁を構成する弁体としては、弁座との間のシール性を向上させるべく、着座面をPFA等の樹脂層により形成したものがある。
【0003】
かかる弁体は、着座面を全体的に凹ませて、この凹みに樹脂層を形成することをもって嚆矢とするが、大流量化に対応するべく内部流路を形成しようとすると、樹脂層を貫通させることになる(特許文献1)。そうすると、内部流路の加工時に面だれが発生し、生産歩留まりの悪化やリーク性能の低下を招来したり、場合によっては樹脂層が内部流路に流れ込んで目詰まりを生じさせたりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本願発明者は、
図11に示す従来のように着座面を全体的に凹ませるのではなく、
図12に示すように、着座面に形成される内部流路の開口を避けるように例えばリング状の凹溝を同心円状に複数形成し、これらの凹溝に樹脂層を設ける構成を本発明の開発にあたって中間的に考えた。
【0006】
このような構成であれば、複数本の内部流路を形成することにより大流量を流すことができ、しかも内部流路の加工時に樹脂層を貫通させる必要がないので、面だれを防ぐことができるかのように思われた。
【0007】
ところが、実際のところは、リング状の凹溝に樹脂層を設ける構成であると、着座面を全体的に凹ませて樹脂層を設ける構成に比べて、内部流路の本数が同じままであれば、最大流量が低下してしまうということを新たに見出した。
この理由を以下に開陳する。
【0008】
上述したリング状の凹溝に設けられる樹脂層は、弁座の弁座面に着座するとともに、この弁座に形成された内部流路の開口を封止する役割を担う。そして、弁座での圧力損失を抑えるべく、弁座の内部流路の径をある程度確保するためには、少なくともその径よりも樹脂層の幅、すなわちリング状の凹溝の幅を広くしておかなければならない。
【0009】
そうすると、着座面において互いに隣り合うリング状の凹溝の間の領域は、その幅寸法に制限が課されることになり、この領域に開口させる弁体の内部流路は、少なくともこの領域の幅寸法よりも狭くなる。これにより、弁体の内部流路を従来よりも狭くせざるを得ず、その結果、最大流量が低下する。
【0010】
なお、内部流路の本数を増やすことにより最大流量を増大させることが考えられるが、生産コスト・工数の増大や歩留まりの低下が生じる。
【0011】
そこで本発明は、上述した問題を一挙に解決するべくなされたものであり、弁体の着座面が樹脂層により形成された流体制御弁において、弁体の内部流路を加工する際の面だれを防ぐことができ、しかも最大流量を担保できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係る流体制御弁は、弁座と、前記弁座に対向する対向面に形成された凹溝に樹脂層が設けられてなる弁体とを備える流体制御弁において、前記弁体が、前記対向面とは反対側を向く裏面に流入口が開口するとともに、前記対向面における前記凹溝の周囲に流出口が開口する内部流路を有し、前記内部流路の前記流入口側に座繰り部が形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
このような構成であれば、弁体に形成された内部流路が、対向面における凹溝の周囲に開口するので、この内部流路の加工時に樹脂層を貫通させる必要がなく、面だれを防ぐことができる。しかも、この内部流路の流入口側に座繰り部が設けられているので、最大流量を担保することができる。そのうえ、対向面における内部流路が開口する領域には樹脂層を設けないので、この領域の平面度を出しやすく、シール性の向上をも図れる。
【0014】
最大流量を担保するためには、弁体により多くの内部流路を設けることが望まれるものの、それら全ての内部流路に座繰り部を設けるのでは、加工コスト・工数が増大する。
そこで、加工コスト・工数の増大を抑えつつ、座繰り部による作用効果をより顕著に発揮させるためには、前記弁体が、前記内部流路として、第1の内部流路と、前記第1の内部流路よりも長い第2の内部流路とを有し、前記座繰り部が、前記第1の内部流路に形成されることなく、前記第2の内部流路に形成されていることが好ましい。
このような構成であれば、流体に対してより高い抵抗となる第2の内部流路に座繰り部を設けているので、加工コスト・工数の増大を抑えつつ、座繰り部による作用効果をより顕著に発揮させることができる。
【0015】
このように一部の内部流路(第1の内部流路)よりもその他の内部流路(第2の内部流路)の方が長くなってしまう具体的な構成としては、前記弁体の前記裏面に、当該裏面に直交する方向に沿った寸法である厚み寸法が周囲よりも大きい突出部が設けられており、前記第1の内部流路が、前記突出部の周囲を貫通しており、前記第2の内部流路が、前記突出部を貫通している構成を挙げることができる。
【0016】
ここで、ノーマルクローズタイプの流体制御弁には、弁体を弁座に向かって付勢する弁体戻しばねが設けられている。この弁体戻しばねは、例えば環状をなすものであり、弁体の中心部にはこの弁体戻しばねの開口に嵌まり込む突出部が設けられている。
そこで、前記弁体を前記弁座に向かって付勢する環状の弁体戻しばねをさらに備え、前記突出部が、前記弁体戻しばねに嵌まり込むものであることが好ましい。
このような構成であれば、ノーマルクローズタイプの流体制御弁において、加工コスト・工数の増大を抑えつつ、座繰り部による作用効果をより顕著に発揮させることができる。
【0017】
より具体的な実施態様としては、前記第1の内部流路が複数設けられるとともに、前記第2の内部流路が複数設けられており、複数の前記第1の内部流路の流出口と、複数の前記第2の内部流路の流出口とが、前記対向面において同心円状に配置されている態様を挙げることができる。
【0018】
座繰り部の加工性を担保するためには、前記座繰り部が、前記流入口及び前記流出口の中心を通過する軸を回転軸とした回転体形状をなすことが好ましい。
このような構成であれば、内部流路を加工した際の中心軸をそのまま座繰り部の中心軸とすることができるので、加工性が良い。
【0019】
最大流量をより確実に担保できるようにするためには、1つの前記座繰り部が、複数の前記内部流路に跨って形成されていることが好ましい。
このような構成であれば、内部流路と座繰り部とを一対一に対応させる場合に比べて、座繰り部の容積が大きくなるので、最大流量をより確実に担保することができる。
【0020】
前記内部流路の全長に対する前記座繰り部の長さの占める割合が、55%以上80%以下であることが好ましい。
このような構成であれば、内部流路を従来の本数に留めつつ、最大流量を増大させることができる。なお、詳細な解析データは後述する。
【0021】
前記樹脂層が、架橋改質フッ素系樹脂で形成してあることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る流体制御装置は、上述した流体制御弁を備えることを特徴とするものである。
【0023】
さらに、本発明に係る弁体は、弁座とともに流体制御弁を構成するとともに、前記弁座に対向する対向面に形成された凹溝に樹脂層が設けられてなる弁体であって、前記対向面とは反対側を向く裏面に流入口が開口するとともに、前記対向面における前記凹溝の周囲に流出口が開口する内部流路を有し、前記内部流路の前記流入口側に座繰り部が形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
加えて、本発明に係る弁体製造方法は、弁座ととともに流体制御弁を構成する弁体の製造方法であって、前記弁座に対向する対向面に凹溝を形成する工程と、前記凹溝に樹脂層を設ける工程と、前記対向面とは反対側を向く裏面に流入口が開口するとともに、前記対向面における前記凹溝の周囲に流出口が開口する内部流路を形成する工程と、前記内部流路の前記流入口側に座繰り部を設ける工程とを含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0025】
このように構成した本発明によれば、弁体の着座面が樹脂層により形成された流体制御弁において、弁体の内部流路を加工する際の面だれを防ぐことができ、しかも最大流量を担保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態における流体制御装置の全体縦断面図。
【
図6】同実実施形態の座繰り部による作用効果を示す解析データ。
【
図7】同実実施形態の座繰り部による作用効果を示す解析データ。
【
図8】同実実施形態の座繰り部による作用効果を示す解析データ。
【
図9】その他の実施形態における弁体の縦断面図及び下方から視た斜視図。
【
図10】その他の実施形態における弁体の縦断面図及び下方から視た斜視図。
【
図12】本発明の開発に当たり中間的に検討した弁体の構成の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る流体制御弁を組み込んだ流体制御装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0028】
本実施形態の流体制御装置は、
図1に示すように、例えば半導体製造装置に用いられるマスフローコントローラであって、半導体プロセス用のガス等の流体が流れる流路51を形成したボディ5と、このボディ5の流路51を流れる流体の流量をセンシングする流量検知機構2と、前記流路51を流れる流体の流量を制御する流体制御弁3と、前記流量検知機構2の出力する測定流量を予め定めた設定流量に近づけるべく流体制御弁3の弁開度を制御する制御部Cとを具備する。以下に各部を詳述する。
【0029】
前記ボディ5は、前述した流路51が貫通するブロック状をなすものであり、当該流路51の上流端が、上流側ポート5Aとして外部流入配管(図示しない)に接続されるとともに、下流端が下流側ポート5Bとして外部流出配管(図示しない)に接続されている。
【0030】
流量検知機構2としては、熱式、差圧式、コリオリ式や超音波式など種々考えられるが、ここでは、いわゆる熱式流量検知機構を採用している。この熱式の流量検知機構2は、前記流路51を流れる流体のうちの所定割合の流体が導かれるように当該流路51と並列接続した細管21と、この細管21に設けたヒータ24及びその前後に設けた一対の温度センサ22、23とを具備したものである。そして、前記細管21に流体が流れると、二つの温度センサ22、23の間にその質量流量に対応した温度差が生じることから、この温度差に基づいて流量を測定するように構成してある。
【0031】
この実施形態では、前記細管21、ヒータ24、温度センサ22、23及びその周辺の電気回路を収容する長尺状の筐体25を設ける一方、ボディ5の流路51から一対の分岐流路2a、2bを分岐させ、この筐体25を前記ボディ5に取り付けることによって、前記細管21の導入口が上流側の分岐流路2aに接続され、該細管21の導出口が下流側の分岐流路2bに接続されるように構成してある。なお、流量センサはこの方式に限定されるものではない。
【0032】
制御部Cは、物理的にはCPUやメモリ等を備えたコンピュータであり、機能的には上述した一対の温度センサの出力値に基づいて流量を算出する流量算出部C1と、この流量算出部C1により算出された算出流量と所定の目標流量とを比較して、算出流量が目標流量に近づくように流体制御弁の弁開度を制御する弁制御部C2とを備えるものである。
【0033】
流体制御弁3は、前記流路51上に設けられたノーマルクローズタイプのもので、前記ボディ5内に収容された弁座部材4及び弁体部材6と、前記弁体部材6を駆動して弁開度、すなわち弁座部材4と弁体部材6との離間距離を設定する駆動機構たるアクチュエータ7とを備えたものである。
【0034】
弁座部材4は、弁座となるものであり、
図2に示すように、その下面に弁体部材6側に突出した弁座面4aを有する金属製(ここでは、ステンレス鋼を素材として用いているが、その他ハステロイ等の高耐熱耐食合金を用いてもよい。)のものであり、その内部には内部流路41が形成されている。なお、この弁座部材4の素材として、ハステロイ等の高耐熱耐食合金を用いてもよい。
【0035】
本実施形態の内部流路41は、一端が弁座面4aに開口し、他端が弁座部材4の上面に開口する第1の内部流路411と、一端が弁座部材4の上面に開口し、他端が弁座部材4の側周面に開口する第2の内部流路412と、一端が弁座面4aに開口し、他端が弁座部材4の側周面に開口する第3の内部流路413とからなる。また、第1の内部流路411は、後述するアクチュエータ7の駆動軸(当接軸部722)が挿入されている。なお、第1の内部流路411及び第2の内部流路412は、弁座部材4の上面に形成された凹部と当該凹部を塞ぐダイアフラム部材721により形成される空間を介して連通しており、第2の内部流路412及び第3の内部流路413は、弁座部材4の内部で連通しているが、これらの内部流路411~413の構成はこれに限らず、適宜変更して構わない。
【0036】
ここで、弁座面4aの中央部に第1の内部流路411の一端が開口し、その中央部よりも径方向外側に第3の内部流路413の一端がしている。また、この実施形態では、複数本の第3の内部流路413が設けられており、これらの第3の内部流路413の一端開口が、弁座面4aの複数箇所に開口している。より具体的には、弁座面4aの中央部から径方向外側に所定距離隔てた箇所に複数の第3の内部流路413の一端が開口しており、その箇所からさらに径方向外側に所定距離隔てた箇所に複数の第3の内部流路の一端が開口している。
【0037】
上述した構成において、弁座面4aは、第1の内部流路411の一端開口や第3の内部流路413の一端開口を避けるように形成されており、具体的には平面視において同心円状の円環状をなす複数の領域からなる。
【0038】
この弁座部材4は、ボディ5に設けた円柱状の収容凹部52に収容されている。この収容凹部52は、ボディ5の流路51を分断するように配置してあり、この収容凹部52によって分断された流路51のうち、上流側の流路(以下、上流側流路とも言う)51(A)が、例えば当該収容凹部52の底面中央部に開口し、この収容凹部52より下流側の流路(以下、下流側流路とも言う)51(B)が、例えばこの収容凹部52の側面又は底面に開口する。
【0039】
そして、弁座部材4を収容凹部52に収容した状態では、当該弁座部材4の外側周面と収容凹部52の内側周面との間に隙間が形成され、この隙間を介してボディ5の下流側流路51(B)が前記内部流路41に連通することとなる。
【0040】
弁体部材6は、弁体となるものであり、ボディ5の収容凹部52において前記弁座部材4に対向配置されるとともに、その表面(上面)に前記弁座部材4の弁座面4aに着座する着座面6aを有するものである。
【0041】
この弁体部材6は、アクチュエータ7により駆動されて、弁座部材4に接触して上流側流路51(A)及び下流側流路51(B)を遮断する閉状態から、弁座部材4から離間して上流側流路51(A)及び下流側流路51(B)を連通させる開状態に移動する。このように閉状態から開状態に向かう方向、つまり、弁体部材6に対するアクチュエータ7の駆動力の作用方向が開弁方向である。一方、開状態から閉状態に向かう方向、つまり、弁体部材6に対するアクチュエータ7の駆動力の作用方向とは反対方向が閉弁方向である。
【0042】
アクチュエータ7は、
図1に示すように、例えば、ピエゾ素子を複数枚積層して形成されるピエゾスタック71と、当該ピエゾスタック71の伸長により変位する作動体72とを備えたものである。
【0043】
このピエゾスタック71は、ケーシング部材74内に収容されており、その先端部が作動体72の基端部に例えば一体的に設けられた突起部73に接続してある。なお、突起部73は、作動体72と別体であって構わない。
【0044】
本実施形態の作動体72は、ダイアフラム部材721と、当該ダイアフラム部材721の中心に設けられて、前記弁座部材4の中心(第1の内部流路411)を貫通して弁体部材6の上面に当接する当接軸部722とを有する。そして、所定の全開電圧が印加されるとピエゾスタック71が伸長し、作動体72が弁体部材6を開弁方向に付勢して、弁座面4aが着座面6aから離間して開状態となる。また、全開電圧を下回る電圧であれば、その電圧値に応じた距離だけ弁座面4aと着座面6aとが離間する。そして、この隙間を通じて上流側流路51(A)と下流側流路(B)とが連通する。
【0045】
また、弁体部材6には、当該弁体部材6を閉弁方向に付勢する弁体戻しばね8が接触して設けられている。この弁体戻しばね8により、アクチュエータ7に電圧を印加しないノーマル状態においては、弁体部材6が閉状態となる。
【0046】
この弁体戻しばね8は、環状をなすものであり、弁体部材6の中心部にはこの弁体戻しばね8に嵌まり込む突出部6zが設けられている。具体的に弁体戻しばね8は、ボディ5の収容凹部52内に収容されたばねガイド部材10に支持される板ばねであり、
図2に示すように、弁体部材6の着座面6aとは反対側を向く裏面(下面)6bに接触して設けられている。なお、弁体戻しばね8は、弁体部材6を付勢するものであれば板ばね以外の弾性体を用いても良い。弾性体は弁体部材6を直接的又は間接的に付勢しても良い。また、本実施形態では、この弁体戻しばね8よりも上方に位置するとともに、弁体部材6の傾きを抑制する傾き抑制用ばね81が設けられている。この傾き抑制用ばね81も環状をなすものであり、弁体部材6の裏面6bにおいて、弁体戻しばね8の接触箇所よりも外側に接触するものである。
【0047】
ばねガイド部材10は、収容凹部52内にばね8を支持するための、断面凹形の概略回転体形状をなすものであり、その底壁には、収容凹部52の底面に開口する上流側流路51(A)に連通する開口部10xが形成されるとともに、その側周壁の上端部が弁座部材4の周縁部に接触する。そして、その内側周面に前記弁体戻しばね8が設けられている。このように本実施形態では、弁座部材4及びばねガイド部材10により形成される空間内に弁体部材6が収容される構成としている。また、弁体部材6は、ばねガイド部材10の内側周面から所定の間隔を介して配置されており、弁体部材6の外側周面は、当該外側周面に対向するばねガイド部材10の内側周面から離間している。
【0048】
上述した構成において、本実施形態の弁体部材6は、
図3~
図5に示すように、弁座部材4の弁座面4aに対向する対向面6x(上面)に形成された凹溝61と、当該凹溝61内に設けられて弁座部材4の弁座面4aに接触する樹脂層62と、裏面6bに流入口6pが開口するとともに、対向面6xに流出口6qが開口する内部流路63とを有している。なお、弁体部材6は、耐熱性及び耐食性に優れた材料から形成されており、本実施形態では、主としてステンレス鋼から形成されている。なお、その他、ハステロイ等の高耐熱耐食合金から形成されるものとしても良い。
【0049】
凹溝61は、弁座面4aに対応した形状をなすものであり、弁体部材6が弁座部材4に着座した状態において弁座面4aの範囲を包含する範囲を有する形状である。本実施形態の凹溝61は、平面視において概略円環形状をなすものであり、ここでは同心円状に設けられた複数の凹溝61が形成されている。また、この凹溝61は、断面概略上向きコの字状をなすものであり、その深さは、例えば50~150μmである。
【0050】
互いに隣り合う凹溝61の間や最も径方向外側に位置する凹溝61のさらに外側には、凸条部64が形成されている。これらの凸条部64は、平面視において概略円環形状をなすものであり、凹溝61と同心円状に形成されている。
【0051】
樹脂層62は、凹溝61内に形成されており、その平面視形状は、前記凹溝61と同一形状であり、本実施形態では概略円環形状である。そして、この凹溝61に形成された樹脂層62に弁座面4a全体が接触する。すなわち、樹脂層62の上面が着座面6aとなる。また、樹脂層62の膜厚は、前記凹溝61の深さと同じであり、例えば50~150μmである。このように樹脂層62の膜厚が、凹溝61の深さと同一であることから、凸条部64の上面と、樹脂層62の上面とは同一平面に位置する構成となる。さらに、樹脂層62は、耐熱性、耐食性、耐薬品性及び低摩擦特性に優れた例えばフッ素系樹脂を用いて形成されており、本実施形態では架橋改質フッ素系樹脂を用いており、具体的にはPFA(ポリテトラフルオロエチレン)によい形成されている。
【0052】
内部流路63は、弁体部材6の対向面6x及びその裏面6bを貫通させてなるものであり、裏面6bに形成された流入口6pが、上述した上流側流路51(A)やばねガイド部材10の開口部10xに連通するとともに、対向面6xに形成された流出口6qが、弁座面4aが着座面6aから離間した開状態において弁座部材4の内部流路41に連通する。なお、この流出口6qは、弁座面4aに形成された内部流路41の開口とは互いに重なり合わないように形成されている。
【0053】
本実施形態では、内部流路63の流入口6p及び流出口6qは円形状をなし、内部流路63は、流入口及び流出口の中心を通過する軸を回転軸とした回転体形状をなすものであり、具体的には概略円柱状をなす。
【0054】
また、ここでの弁体部材6には、複数の内部流路63が設けられており、具体的には第1の内部流路631と、第1の内部流路631よりも流路長の長い第2の内部流路632とが設けられている。
【0055】
より具体的に説明すると、弁体部材6には上述したように裏面6bに突出部6zが設けられており、この突出部6zの厚み寸法が、突出部6zの周囲の厚み寸法よりも大きく、かかる構成において、複数本の第1の内部流路631が、突出部6zの外周部に設けられており、複数本の第2の内部流路632が、突出部6zに設けられている。なお、ここでの厚み寸法は、裏面6bに直交するする方向に沿った寸法である。
【0056】
第1の内部流路631の流出口6qは、着座面6aの中心周りに周方向に沿って間欠的に設けられており、ここでは円周状に等間隔に配置されている。
【0057】
第2の内部流路632は、着座面6aの中心周りに周方向に沿って間欠的に設けられており、ここでは円周状に等間隔に配置されている。また、これらの第2の内部流路632の流出口6qと、上述した第1の内部流路631の流出口6qとは、同心円状に配置されている。
【0058】
然して、本実施形態の内部流路63は、
図3~
図5に示すように、流入口6p側に座繰り部65が形成されており、流入口6p側(上流側)が流出口6q側(下流側)よりも流路径が大きい形状をなす。
【0059】
ここでは、上述した第1の内部流路631には座繰り部65を形成することなく、第2の内部流路632に座繰り部65を形成してある。すなわち、第1の内部流路631は、流入口6pから流出口6qに亘って等断面形状をなし、第2の内部流路632は、流入口6pから流出口6qまでの途中で断面形状が小さくなるように構成されている。
【0060】
この座繰り部65は、第2の内部流路632それぞれに個別に対応して設けられた概略円柱形状をなすものであり、第2の内部流路632の圧力損失を低減させる機能を備えている。すなわち、座繰り部65は、第2の内部流路632の流路方向に直交する断面の断面積が、第2の内部流路632の下流側の同断面の断面積よりも大きい領域である。より具体的には、座繰り部65の径寸法(直径)は、第2の内部流路における座繰り部65よりも下流側の径寸法(直径)よりも2倍以上であることが好ましく、換言すると、この実施形態では第2の内部流路632における流入口6pの径寸法が流出口6qの径寸法の2倍以上であることが好ましい。
【0061】
ここで、
図6の上段に示すように、従来の弁体部材、すなわち内部流路に座繰り部を設けていない構成であると、内部流路の本数を増やすことにより、ある本数を境にして流量が大きく増加することが分かる。しかしながら、この目標流量まで最大流量を増大させるためには、内部流路の本数を増やすことによる生産コスト・工数の増大や歩留まりの低下が生じる。
【0062】
これに対して、
図6の下段に示すように、第2の内部流路632の全長に対する座繰り部65の長さの占める割合が、55%以上80%以下であれば、内部流路63の本数を増やすことなく、上述した目標流量又はそれと同等の流量まで最大流量を増大させることができる。
なお、座繰り部65の流路長が、第2の内部流路642の全長に対して55%を下回ると、座繰り部65の下流側における流速が速くなり、流体と内部流路の内周面との摩擦による圧力損失が流速の二乗に比例して影響することから、圧力損失は大きくなると推測される。一方、座繰り部65の流路長が、第2の内部流路632の全長に対して80%を上回ると、この座繰り部65の内周面における壁面損失が大きくなり、第2の内部流路632の圧力損失が増大すると推測される。
【0063】
また、
図7に示すように、1本の第2の内部流路632の全容積に対する座繰り部65の容積の占める割合が、86%以上95%以下であれば、内部流路63の本数を増やすことなく、上述した目標流量又はそれと同等の流量まで最大流量を増大させることが見て取れる。
この現象に関しても、上述した要因と同様に、座繰り部65の容積が、第2の内部流路642の全容積に対して86%を下回ると、座繰り部65の下流側における流速が速くなり、流体と内部流路の内周面との摩擦による圧力損失が流速の二乗に比例して影響することから、圧力損失は大きくなると推測され、座繰り部65の容積が、第2の内部流路632の全容積に対して95%を上回ると、この座繰り部65の内周面における壁面損失が大きくなり、第2の内部流路632の圧力損失が増大すると推測される。
【0064】
次に本実施形態の弁体部材6の製造方法について説明する。
まず、弁体部材6の上面に凹溝61を形成する。この形成方法としては、切削加工等の機械加工である。このとき凹溝61の底面を、粗面化処理により微小な凹凸形状とすることで、凹溝61の内面と樹脂層62との接着性を向上させることができる。
【0065】
次に、凹溝61を含む弁体部材6の上面全体にプライマー樹脂であるPTFEを塗装して、プライマー層を形成する。その後、そのプライマー層の上面に例えばPFA等のフッ素系樹脂を数回にわたって薄膜コーティング等により塗装し、樹脂層62となるトップコート層を形成する。このとき、前記プライマー層及び前記トップコート層の合計膜厚が、前記凹溝61の深さ(例えば120μm)以上となるようにする。
【0066】
その後、上面に形成されたプライマー層及びトップコート層を平面ラップング等の研磨処理によって研磨する。このときの研磨量は、例えば50μm程度である。つまり、弁体部材6の上面に形成されたプライマー層及びトップコート層を研磨するだけでなく、弁体部材6の上面に形成された凹溝61の周辺部(凸条部64として残存する部分)も併せて研磨する。このような研磨によって、凹溝61内にのみ樹脂が残る構成となり、凹溝61内に残った樹脂が樹脂層62となる。このように凹溝61の周辺部も併せて研磨することによって、凹溝61内の樹脂を研磨しすぎることを防止するとともに、凹溝61内の樹脂を均一の膜厚に研磨することができる。
【0067】
続いて、研磨処理を終えた弁体部材6に内部流路63を形成する。具体的には、環状に形成された樹脂層62に挟まれた凸条部64からを切削加工等により貫通させることで内部流路63を形成する。これにより、内部流路63の流入口6pが裏面6bに開口し、流出口6qが凸条部64の上面に開口する。
【0068】
本実施形態では、着座面6aの外周部に複数本の第1の内部流路631を形成するとともに、これら第1の内部流路631よりも内側に複数本の第2の内部流路632を形成する。
【0069】
そして、内部流路63の流入口6p側を座繰ることにより、座繰り部65を形成する。本実施形態では、第1の内部流路631には座繰り部65を形成することなく、第2の内部流路632に座繰り部65を形成しており、具体的には第2の内部流路632それぞれの流入口6p側に概略円柱形状をなす座繰り部65を形成している。
【0070】
このように構成した流体制御弁100によれば、弁体部材6に形成された内部流路63が、対向面6xにおける凹溝61の周囲の凸条部64に開口させているので、この内部流路63の加工時に樹脂層62を貫通させる必要がなく、面だれを防ぐことができる。しかも、この内部流路63の流入口6p側に座繰り部65が設けられているので、
図8に示すように、従来の構成(具体的には
図11の下段に示す構成)に比べて、最大流量を増大させることができる。そのうえ、対向面6xにおける内部流路63が開口する領域には樹脂層62を設けないので、この領域の平面度を出しやすく、シール性の向上をも図れる。
【0071】
また、突出部6zの周囲を貫通する第1の内部流路631には座繰り部65を形成することなく、突出部6zを貫通して第1の内部流路631よりも長い第2の内部流路632に座繰り部65を形成しているので、加工コスト・工数の増大を抑えつつ、座繰り部65による圧力損失の低減効果をより顕著に発揮させることができる。
【0072】
さらに、内部流路63や座繰り部65が回転体形状をなすので、加工性を担保することができる。
【0073】
加えて、内部流路63の全長に対する座繰り部65の長さの占める割合が、55%以上80%以下であるので、内部流路63を従来の本数に留めつつ、最大流量を増大させることができる。
【0074】
なお、本発明は前記実施形態に限られない。
【0075】
例えば、前記実施形態では、第2の内部流路632それぞれに個別に対応させて座繰り部65を形成していたが、複数本の第2の内部流路632に跨って共通の座繰り部65が形成されていても良い。
具体的には、
図9に示すように、突出部6zに環状の座繰り部を形成することで、この共通の座繰り部65が第2の内部流路632の全て跨って設けられるようにしても良い。
また、別の態様としては、
図10に示すように、突出部6zにおける第2の内部流路632の全ての流入口6pを含む領域を一挙に座繰ることにより、この共通の座繰り部65が第2の内部流路632の全て跨って設けられるようにしても良い。
【0076】
さらに、前記実施形態の座繰り部は概略円柱形状をなすものであったが、例えば流出口に向かって徐々に縮径する形状など、内部流路の流出口側よりも流路径が大きい形状であれば種々の形状を採用して構わない。
【0077】
加えて、座繰り部は、第2の内部流路のみならず、第1の内部流路にも形成しても良い。
【0078】
また、内部流路としては、第1の内部流路及び第2の内部流路に加えて、第1の内部流路の径方向外側や、第2の内部流路の径方向内側などに第3の内部流路が形成されていても良い。なお、この第3の内部流路には、座繰り部を設けても良いし、設けなくても良い。
【0079】
さらに、前記実施形態では、弁体部材の製造方法として、凹溝に樹脂層を設けた後に、内部流路を形成して座繰り部を設ける方法を説明したが、まずは内部流路を形成して座繰り部を設け、その後に、凹溝に樹脂層を設ける手順であっても良い。
【0080】
樹脂層としては、架橋改質フッ素系樹脂のみならず、種々の樹脂、例えばポリアミド、ポリカーボネート、PBTなどのポリエステル樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリステル樹脂などでもよい。これらの場合、接着剤を不要とするため、例えば、金属基体の表面に特定の薬剤を使用するなどして反応性官能基を形成しておき、この反応性官能基と樹脂とを加熱するなどして化学結合させる。
【0081】
また、フッ素系樹脂としては、テトラフルオロエチレン系共重合体、テトラフルオロエチレン‐パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン‐エチレン系共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン系共重合体から選ばれる1種又は2種以上を混合して得られたものを用いて構わない。
【0082】
その他、前述した実施形態や変形実施形態の一部又は全部を適宜組み合わせてよいし、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形や実施形態の組合せが可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
100・・・流体制御装置
3 ・・・流体制御弁
4 ・・・弁座部材
6 ・・・弁体部材
6a ・・・着座面
6b ・・・裏面
6z ・・・突出部
6x ・・・対向面
61 ・・・凹溝
62 ・・・樹脂層
63 ・・・内部流路
631・・・第1の内部流路
632・・・第2の内部流路
6p ・・・流入口
6q ・・・流出口
64 ・・・凸条部
65 ・・・座繰り部