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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】研削装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/16 20060101AFI20250120BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20250120BHJP
   B24B 5/06 20060101ALI20250120BHJP
   G05B 19/404 20060101ALI20250120BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
B24B49/16
B24B49/10
B24B5/06
G05B19/404 K
B23Q15/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021018401
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022121189
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角野 佑樹
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-200944(JP,A)
【文献】特開昭63-300842(JP,A)
【文献】特開2018-167348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/00 - 49/18
B24B 5/06
G05B 19/404
B23Q 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削材を回転させるモータを有する回転装置と、
前記研削材とワークとを相対移動させることにより前記研削材を前記ワークに接触させる移動装置と、
前記研削材と前記ワークとの接触時に発生するアコースティックエミッションを検出するAEセンサと、
前記移動装置を制御することによって前記ワークに対する前記研削材の切込速度を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記AEセンサの出力および前記モータの出力を用いて前記切込速度を制御し、
前記制御装置は、
前記AEセンサの出力に基づいて前記研削材と前記ワークとの接触を検出する第1処理を実行し、
前記モータの出力に基づいて前記研削材と前記ワークとの接触を検出する第2処理を実行し、
前記第1処理による接触が検出されるまでは前記切込速度を第1速度とし、
前記第1処理による接触が検出されてから前記第2処理による接触が検出されるまでは前記切込速度を前記第1速度よりも小さい第2速度とし、
前記第2処理による接触が検出された後は前記切込速度を前記第2速度よりも小さい第3速度とする、研削装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記AEセンサの出力に対して特定の周波数領域の信号のみを通過させるバンドパスフィルタを備え、
前記制御装置は、前記バンドパスフィルタを通過した後の前記AEセンサの出力に基づいて前記第1処理を実行する、請求項に記載の研削装置。
【請求項3】
前記研削装置は、前記モータの電流を検出する電流センサを備え、
前記制御装置は、前記電流センサによって検出された前記モータの電流に基づいて前記第2処理を実行する、請求項またはに記載の研削装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転する研削材(研削砥石など)をワークに接触させることによってワークを研削する研削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転する研削材をワークに接触させてワークを研削する技術として、従来、研削材を回転させるモータの電流(研削動力)に基づいて研削材とワークとの接触の有無を判定し、その結果に応じてワークに対する研削材の切込速度を制御する技術が知られている。具体的には、上記接触が検出されるまでは切込速度を比較的高い値にして研削材をワークに早期に接触させる。一方、上記接触が検出された後は切込速度を比較的低い値に切り替えて研削材の劣化あるいはワークの研削焼けなどの不具合を抑制する。これにより、全体の加工時間を短縮しつつ、研削加工を適切に行なうことができる。
【0003】
研削材とワークとの接触による研削負荷の変化と、研削材を回転させるモータの電流(研削動力)の変化との間には、タイムラグがある。このため、モータの電流に基づいて切込速度を制御すると、実際に研削材がワークに接触したタイミングに対して、切込速度を切り替えるタイミングがかなり遅れてしまうことが懸念される。
【0004】
その対策として、たとえば特許第6492613号公報(特許文献1)には、研削材がワークに接触した時に発生するアコースティックエミッション(Acoustic Emission、以下「AE」ともいう)を検出するAEセンサを備えた研削装置が開示されている。この研削装置は、研削負荷の変動に対する感度が高いAEセンサの出力信号に基づいて研削材の切込速度をフィードバック制御する。そのため、モータの電力に基づいて研削材の切込速度をフィードバック制御する場合に比べて、研削負荷の変動に対する切込速度の制御の追従性が向上する。その結果、実際に研削材がワークに接触したタイミングに対して、研削材の切込速度の切り替えタイミングが遅れてしまうことが抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6492613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
研削負荷の変動に対する感度が高いAEセンサは、研削材がワークに極微小に接触した状態を検出する。そのため、特許第6492613号公報に開示された研削装置のようにAEセンサの出力信号のみに基づいて研削材の切込速度を制御すると、切込速度が必要以上に早く低い値に切り替わってしまい、全体の加工時間の短縮効果が十分には得られないことが懸念される。
【0007】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、研削加工を適切に行ないつつ、全体の加工時間をより適切に短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示による研削装置は、研削材を回転させるモータを有する回転装置と、研削材とワークとを相対移動させることにより研削材をワークに接触させる移動装置と、研削材とワークとの接触時に発生するアコースティックエミッションを検出するAEセンサと、移動装置を制御することによってワークに対する研削材の切込速度を制御する制御装置とを備える。制御装置は、AEセンサの出力およびモータの出力を用いて切込速度を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、AEセンサの出力とモータの出力との双方を用いて、研削材の切込速度を適切なタイミングで2段階で切り替えることができる。これにより、研削加工を適切に行ないつつ、全体の加工時間をより適切に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】研削装置の概略構成を示す図である。
図2図1に示す矢印Aの方向から研削装置を見た状態を示す図である。
図3】制御装置の制御ブロック図である。
図4】研削加工中におけるモータ電流およびAE波の変化の様子の一例を示す図である。
図5】切込量Nと加工時間との関係を示す図である。
図6】制御装置が研削材の切込速度を制御する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。
図7】研削材とワークとの接触前にAEセンサによって検出されるAE波の周波数特性の一例を示す図である。
図8】研削材とワークとの接触時にAEセンサによって検出されるAE波の周波数特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0012】
(構成)
図1は、本実施の形態による研削装置1の概略構成を示す図である。図2は、図1に示す矢印Aの方向から研削装置1を見た状態を示す図である。
【0013】
なお、図1においてワーク20およびワーク保持部2は、X軸方向およびY軸方向に平行な面に沿う断面図によって表されている。Y軸方向は、研削材5の回転軸に沿う方向であり、X軸方向は、ワーク20に対する研削材5の送り方向(切込方向)に沿う方向であり、Z軸方向はX軸方向およびY軸方向と直角な方向である。図2において、ワーク保持部2、研削材駆動部6、可動テーブル7、テーブル駆動部8、回転部9、および制御装置50の図示が省略されている。
【0014】
研削装置1は、ワーク保持部2と、支持台3,4と、研削材5と、研削材駆動部6と、可動テーブル7と、テーブル駆動部8と、回転部9と、AEセンサ10と、制御装置50とを備える。
【0015】
ワーク保持部2は、研削対象であるワーク20を保持する。ワーク保持部2は、たとえば、電磁力などの磁力によってワーク20に吸着固定することによって、ワーク20を保持することができる。ワーク保持部2は、たとえばバッキングプレートであってよい。
【0016】
支持台3は、支持台4の側面(Y軸正方向の端面)に取り付けられる。支持台3は、ワーク20の外周を2箇所で支持するための位置決め支持部3a,3bを有する。位置決め支持部3a,3bは、たとえばシューであってよい。図1,2に例示されるワーク20は、円筒形状を有する部材(たとえば軸受の外輪や内輪など)である。支持台3,4の素材は鋼である。なお、支持台3,4の素材は、鋼以外の金属であってもよい。
【0017】
研削材駆動部6は、Y軸方向に平行な軸を回転軸として研削材5を回転させるモータを備える。研削材駆動部6は、本開示の「回転装置」の一例である。研削材5は、たとえば研削砥石であってよい。
【0018】
研削材駆動部6には、電流センサ16が備えられる。電流センサ16は、研削材5を回転させるモータの電流(以下、単に「モータ電流」ともいう)を検出し、検出結果を示す信号を制御装置50に出力する。
【0019】
研削材駆動部6は、少なくともX軸方向に移動可能な可動テーブル7に固定される。可動テーブル7は、たとえばクロススライドであってよい。
【0020】
テーブル駆動部8は、可動テーブル7をX軸方向に移動させることにより、ワーク20と研削材5とを相対移動させて、回転する研削材5の外周をワーク20に接触させる。可動テーブル7およびテーブル駆動部8は、ワーク20に対して研削材5を切込方向(X軸方向)に相対移動させる装置であり、本開示の「移動装置」の一例である。なお、図1には研削材5をX軸方向に移動させる構成が例示されているが、移動装置は、研削材5およびワーク20の少なくとも一方をX軸方向に移動させるものであればよく、たとえばワーク20をX軸方向に移動させるものであってもよい。
【0021】
回転部9は、Y軸方向と平行な軸を回転軸としてワーク保持部2およびワーク20を回転させることによって、ワーク20における研削材5との接触箇所、すなわちワーク20の研削位置を変更する。
【0022】
AEセンサ10は、研削材5がワーク20に接触した時に発生するアコースティックエミッションを検出する。AEセンサ10は、支持台4の上面(Z軸正方向の端面)に固定される。AEセンサ10を支持台4に固定することにより、ワーク20から支持台3,4を伝搬するアコースティックエミッションを検出することができる。
【0023】
鋼を素材とする支持台3,4を伝播するAE波(縦波)の速度は約5900m/sと高速であり、研削材5とワーク20との接触部から発生したAE波が支持台3,4を伝播してAEセンサ10に到達する時間は非常に短い時間(たとえば約0.05ms)であるため、AEセンサ10の取り付け場所を、ワーク20を直接支持する支持台3ではなく、支持台3を支持するベース部材である支持台4にすることができる。
【0024】
制御装置50は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)等のメモリとを含む電子回路で実現される。
【0025】
制御装置50は、回転部9によるワーク20の回転速度を制御する。
制御装置50は、AEセンサ10の出力信号および電流センサ16の出力信号に基づいて、ワーク20に対する研削材5の切込速度を切り替えるようにテーブル駆動部8を制御する。
【0026】
本明細書において「切込速度」は、研削材5でワーク20を切削する送り運動の送り速度を示す。本実施の形態においては、切込速度は、テーブル駆動部8による研削材5のX軸方向の移動速度である。
【0027】
図3は、制御装置50の制御ブロック図である。制御装置50は、切込速度制御部53と、AEアンプ54と、第1接触検出部55と、第2接触検出部56とを含む。
【0028】
切込速度制御部53は、テーブル駆動部8を制御することによって、ワーク20に対する研削材5の切込速度を制御する。切込速度の制御手法については後に詳述する。
【0029】
AEアンプ54は、AEセンサ10によって検出されたAE波信号に対して、特定の周波数領域の信号のみを通過させるバンドパスフィルタを有する機器である。バンドパスフィルタを適切に設定することで、AEセンサ10によって検出されたAE波信号からノイズの影響を除去することができる。
【0030】
第1接触検出部55は、AEアンプ54を通過した後のAE波信号に基づいて、研削材5とワーク20との接触を検出する。具体的には、第1接触検出部55は、AEアンプ54を通過した後のAE波の強さが予め定められたAE閾値を超えた場合に、研削材5とワーク20とが接触したことを検出する。以下、第1接触検出部55によって検出される接触を「AEによる接触検出」とも称する。
【0031】
第2接触検出部56は、電流センサ16によって検出されるモータ電流に基づいて、研削材5とワーク20との接触を検出する。具体的には、第2接触検出部56は、モータ電流が予め定められた動力閾値を超えた場合に、研削材5とワーク20とが接触したことを検出する。以下、第2接触検出部56によって検出される接触を「研削動力による接触検出」ともいう。なお、研削動力による接触検出は、必ずしも電流センサ16によって検出されるモータ電流を用いて行なわれることに限定されない。たとえば、電流センサ16によって検出されるモータ電流に代えて、研削材回転速度制御部が生成したモータ電流の指令値を用いて、研削動力による接触検出を行なうようにしてもよい。
【0032】
切込速度制御部53は、第1接触検出部55による検出結果(AEによる接触検出の結果)および第2接触検出部56による検出結果(研削動力による接触検出の結果)に基づいて、ワーク20に対する研削材5の切込速度を制御する。
【0033】
(切込速度制御)
全体の加工時間を短縮しつつ研削加工を適切に行なうためには、研削材5とワーク20との接触が検出されるまでは切込速度を比較的高い値にしつつ、研削材5とワーク20との接触が検出された後は切込速度を比較的低い値に切り替えることが望ましい。
【0034】
しかしながら、研削材5とワーク20との接触による研削負荷の変化と、モータ電流(研削動力)の変化との間には、タイムラグがある。このため、研削動力による接触検出タイミングで研削材5の切込速度を低い値に切り替えると、研削材5がワーク20に実際に接触したタイミングに対して、切込速度を低い値に切り替えるタイミングがかなり遅れてしまう。その結果として、研削材5がワーク20に接触した後も、しばらくの間は研削材5の切込速度が高い値に維持される。これにより、研削材5がワーク20に深く切込んだ状態となり、研削材5の表面の形状崩れあるいはワーク20の研削焼けなどの不具合を生じる。また、研削材5の切込速度が高い場合の別の問題として、研削材5とワーク20との間に存在する研削液の巻き込みによって研削動力の上昇幅が大きくなり、実際には研削材5とワーク20とが接触していないにも関わらず、接触していると誤検出される可能性もある。従って、仮に研削動力による接触検出結果のみに基づいて研削材5の切込速度を低下させる場合には、切替前の切込速度が、研削材5とワーク20との接触を正常に接触検出できる程度の速度に制限されてしまう。
【0035】
一方、研削負荷の変動に対する感度が高いAEセンサ10は、研削材5がワーク20に極微小に接触した状態を検出する。そのため、AEによる接触検出タイミングで研削材5の切込速度を低い値に切り替えると、切込速度が必要以上に早く低い値に切り替わってしまい、全体の加工時間の短縮効果が十分には得られないことが懸念される。
【0036】
そこで、本実施の形態による切込速度制御部53は、研削動力による接触検出およびAEによる接触検出の双方の結果を用いて、研削材5の切込速度を適切なタイミングで2段階で切り替える。これにより、研削加工を適切に行ないつつ、全体の加工時間をより適切に短縮することができる。
【0037】
図4は、研削加工中におけるモータ電流(研削動力)およびAE波の変化の様子の一例を示す図である。図4において、AE波の強さがAE閾値を超えたことが検出される時刻t1が、AEによる接触検出タイミングである。研削動力の強さが動力閾値を超えたことが検出される時刻t2が、研削動力による接触検出タイミングである。
【0038】
研削動力による接触検出タイミング(時刻t2)は、上述したように、実際の接触タイミングよりも遅れる傾向にある。一方、AEセンサ10は研削負荷の変動に対する感度が高いため、AEによる接触検出タイミングは実際の接触タイミングとほぼ一致する。その結果、図4に示すように、AEによる接触検出タイミング(時刻t1)は、研削動力による接触検出タイミング(時刻t2)よりも早くなる。
【0039】
この点を利用して、本実施の形態では、AEによる接触検出タイミング(時刻t1)よりも前は、切込速度を比較的大きい第1切込速度V1とする。その後、AEによる接触検出タイミング(時刻t1)で切込速度を第1切込速度V1から第1切込速度V1よりも小さい第2切込速度V2に切り替える。その後、研削動力による接触検出タイミング(時刻t2)で切込速度を第2切込速度V2から第2切込速度V2よりも小さい粗送り速度(第3切込速度)V3に切り替える。
【0040】
第1切込速度V1は、たとえば、粗送り速度V3の7倍程度に設定することができる。第2切込速度V2は、たとえば、粗送り速度V3の3倍程度に設定することができる。
【0041】
図5は、研削材5の初期位置からのX軸方向の移動量(以下「切込量」ともいう)Nと加工時間との関係を示す図である。なお、図5においては、切込量Nが所定値N0に達するまでは、研削材5がワーク20に接触することは想定されないため、切込速度が第1切込速度V1よりも大きい初期速度V0に設定される例が示されている。切込量Nが所定値N0に達する時刻t0にて、切込速度は初期速度V0から第1切込速度V1に切り替えられる。
【0042】
その後の時刻t1にてAEによる接触検出がなされると、切込速度は第1切込速度V1から第1切込速度V1よりも小さい第2切込速度V2に切り替えられる。このように、第1段階目の切り替えは、研削負荷の変動に対する感度が高いAEセンサ10の出力信号が用いられる。この結果、研削負荷の変動に対する切込速度の制御の追従性が向上し、負荷変動が大きな研削における切込速度の制御が容易になる。
【0043】
その後の時刻t2にて研削動力による接触検出がなされると、切込速度は第2切込速度V2から第2切込速度V2よりも小さい粗送り速度V3に切り替えられる。このように、本実施の形態においては、初期速度V0と粗送り速度V3との間の切込速度が、第1切込速度V1、第2切込速度V2の順に2段階で切り替えられる。これにより、初期速度V0から粗送り速度V3に切り替えるまでの時間を短縮しつつ、研削材5の表面の形状崩れあるいはワーク20の研削焼けなどの不具合を抑制することができる。
【0044】
すなわち、仮に初期速度V0と粗送り速度V3との間の切込速度を第2切込速度V2よりも大きい第1切込速度V1に固定し、研削動力による接触検出タイミングで粗送り速度V3に切り替えると、全体の加工時間は短縮できるが、従来と同様、研削材5がワーク20に接触した後も、しばらくの間は研削材5の切込速度が比較的高い第1切込速度V1に維持されることになるため、研削材5およびワーク20の劣化(研削材5の表面の形状崩れあるいはワーク20の研削焼けなど)が生じることがある。また、別の問題として、研削液の巻き込みに起因する誤検出の問題も生じ得る。これに対し、本実施の形態においては、研削材5がワーク20に接触した後は、研削材5の切込速度が第1切込速度V1よりも小さい第2切込速度V2に切り替えられることになるため、研削材5およびワーク20の劣化を生じ難くすることができる。さらに、研削液の巻き込みに起因する誤検出も生じ難くすることができる。
【0045】
また、仮に初期速度V0と粗送り速度V3との間の切込速度を第1切込速度V1よりも小さい第2切込速度V2に固定し、研削動力による接触検出タイミングで粗送り速度V3に切り替えると、上述の研削材5およびワーク20の劣化あるいは研削液の巻き込みに起因する誤検出を生じ難くすることはできるが、全体の加工時間が長くなってしまう。これに対し、本実施の形態においては、AEによる接触検出がなされるまでは、研削材5の切込速度が第2切込速度V2よりも大きい第1切込速度V1にされる。これにより、研削材5およびワーク20の劣化を抑制しつつ、全体の加工時間を適切に短縮することができる。
【0046】
図6は、制御装置50が研削材5の切込速度を制御する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0047】
制御装置50は、切込量N(研削材5の初期位置からのX軸方向の移動量)が所定値N0に達するまで、切込速度を初期速度V0にする(ステップS10)。なお、切込量Nが所定値N0に達したか否かは、たとえば研削材5を初期速度V0で移動させている時間が予め定められた値に達したか否かで判定するようにしてもよい。また、エンコーダ等を用いて切込量Nを測定できる場合には、切込量Nの測定値が所定値N0に達したか否かを判定するようにしてもよい。
【0048】
切込量Nが所定値N0に達すると、制御装置50は、切込速度を初期速度V0から初期速度V0よりも小さい第1切込速度V1に切り替える(ステップS12)。第1切込速度V1は、上述のように、たとえば、粗送り速度V3の7倍程度に設定することができる。
【0049】
次いで、制御装置50は、AEによる接触が検出されたか否かを判定する(ステップS13)。AEによる接触が検出されていない場合(ステップS13においてNO)、制御装置50は、処理をステップS12に戻し、切込速度を第1切込速度V1に維持する。
【0050】
AEによる接触が検出された場合(ステップS13においてYES)、制御装置50は、切込速度を第1切込速度V1から第1切込速度V1よりも小さい第2切込速度V2に切り替える(ステップS14)。第2切込速度V2は、上述したように、たとえば、粗送り速度V3の3倍程度に設定することができる。
【0051】
次いで、制御装置50は、研削動力による接触が検出されたか否かを判定する(ステップS15)。研削動力による接触が検出されていない場合(ステップS15においてNO)、制御装置50は、処理をステップS14に戻し、切込速度を第2切込速度V2に維持する。
【0052】
研削動力による接触が検出された場合(ステップS15においてYES)、制御装置50は、切込速度を第2切込速度V2から第2切込速度V2よりも小さい粗送り速度V3に切り替える(ステップS16)。
【0053】
以上のように、本実施の形態による切込速度制御部53は、研削動力による接触検出およびAEによる接触検出の双方の結果を用いて、研削材5の切込速度を適切なタイミングで2段階で切り替える。これにより、研削加工を適切に行ないつつ、全体の加工時間をより適切に短縮することができる。
【0054】
(AEアンプ54の通過周波数帯域)
本実施の形態による研削装置1は、AEセンサ10によって検出されたAE波信号に対して、特定の通過周波数帯域の信号のみを通過させるAEアンプ54(バンドパスフィルタ)を備えている。通過周波数帯域は、ワーク20と研削材5との接触前後の周波数波形から最適な領域に設定される。
【0055】
図7は、研削材5とワーク20との接触前にAEセンサ10によって検出されるAE波の周波数特性の一例を示す図である。図7および後述の図8において、横軸はAE波の周波数(単位:kHz)を示し、縦軸はAE波の強さ(大きさ)を示す。なお、図7および後述の図8に示す周波数特性は、たとえば、AEセンサ10によって検出されるAE波信号を高速フーリエ変換することによって得ることができる。
【0056】
研削材5がワーク20に接触する前においては、図7に示すように、100kHz以下の周波数帯域において、研削液の巻き込み、およびシュー(位置決め支持部3a,3b)とワーク20との接触などに起因して発生するノイズ成分が含まれる。
【0057】
図8は、研削材5とワーク20との接触時にAEセンサ10によって検出されるAE波の周波数特性の一例を示す図である。一般的に、金属材料から発生するAE周波数は100kHz~300kHz程度である。本実施の形態による研削装置1で焼入鋼を研削加工した際のAE周波数は、図8に示すように約150kHz程度であった。
【0058】
そこで、本実施の形態による研削装置1においては、S/N(シグナル/ノイズ比)を確保するため、AEアンプ54の通過周波数帯域が、ノイズ成分(研削液の巻き込みに起因するノイズ、シューとワーク20との接触など)の影響が大きい100kHz以下の帯域を回避可能で、かつ研削材5とワーク20との接触時におけるAE周波数150kHzが含まれる、110kHz~400kHzの帯域に設定される。このような通過周波数帯域を有するAEアンプ54(バンドパスフィルタ)を設定することで、研削材5とワーク20との接触をAEによって精度よく検出できる。
【0059】
以上のように、本実施の形態による研削装置1は、研削材5を回転させるモータを有する研削材駆動部6(回転装置)と、研削材5とワーク20とを相対移動させることにより研削材5をワーク20に接触させるテーブル駆動部8(移動装置)と、研削材5とワーク20との接触時に発生するアコースティックエミッションを検出するAEセンサ10と、テーブル駆動部8を制御することによってワーク20に対する研削材5の切込速度を制御する制御装置50とを備える。
【0060】
制御装置50は、AEセンサ10の出力および研削材駆動部6のモータ電流を用いて切込速度を制御する。具体的には、制御装置50は、AEセンサ10の出力に基づいて研削材5とワーク20との接触を検出する処理(第1処理)と、モータ電流に基づいて研削材5とワーク20との接触を検出する処理(第2処理)とを実行する。そして、制御装置50は、第1処理による接触が検出されるまでは切込速度を第1切込速度V1とし、第1処理による接触が検出されてから第2処理による接触が検出されるまでは切込速度を第1切込速度V1よりも小さい第2切込速度V2とし、第2処理による接触が検出された後は切込速度を第2切込速度V2よりも小さい粗送り速度V3とする。これにより、初期速度V0と粗送り速度V3との間の切込速度が、第1切込速度V1、第2切込速度V2の順に2段階で切り替えられる。そのため、初期速度V0と粗送り速度V3との間の切込速度が第1切込速度V1あるいは第2切込速度V2に固定される場合に比べて、全体の加工時間を適切に短縮しつつ、研削材5およびワーク20の劣化を適切に抑制することができる。
【0061】
さらに、本実施の形態による研削装置1は、ノイズ成分の影響が大きい100kHz以下の帯域を回避可能で、かつ研削材5とワーク20との接触時におけるAE周波数150kHzが含まれる110kHz~400kHzの帯域を通過周波数領域とするAEアンプ54(バンドパスフィルタ)を備える。制御装置50は、AEアンプ54を通過した後のAE波に基づいて上記の第1処理(AEによる接触検出処理)を実行する。そのため、研削材5とワーク20との接触をAEによって精度よく検出できる。
【0062】
<変形例>
上述の実施の形態においてはAEセンサ10が支持台4の上面(Z軸正方向の端面)に固定されるが、AEセンサ10の設置場所はこれに限定されない。たとえば、支持台3における位置決め支持部3a,3b間にAEセンサ10を配置してもよい。
【0063】
なお、AEセンサ10の設置場所は、研削材5とワーク20との接触時のAE波を迅速かつ正確に検出するために、以下の条件1~4を満たすことが望まれる。
(条件1)AEセンサ10の設置場所が研削材5とワーク20との接触点から近い。
【0064】
AE波は、その性質上、音波に近く、距離が離れることで減衰するためである。
(条件2)研削材5とワーク20との接触点からAEセンサ10までに介在する部品点数が少ない。
【0065】
AE波が部品同士の隙間から空気中に拡散し減衰する恐れがあるためである。
(条件3)AEセンサ10の取付面は鋼で平滑である。
【0066】
AEセンサ10の取付面の隙間からAE波が空気中に拡散するのを防止するためである。
(条件4)AEセンサ10の設置場所が外乱(ノイズ)要因から離れている。
【0067】
外乱による影響を最小化するため、研削用クーラントが大量に飛散する場所、高速回転する機械に近い場所、電子ノイズを発する部品(高周波インバータ等)に近い場所から離れていることが望ましい。
【0068】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 研削装置、2 ワーク保持部、3,4 支持台、3a,3b 位置決め支持部、5 研削材、6 研削材駆動部、7 可動テーブル、8 テーブル駆動部、9 回転部、10 センサ、16 電流センサ、20 ワーク、50 制御装置、53 切込速度制御部、54 アンプ、55 第1接触検出部、56 第2接触検出部。
図1
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図8