(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】半導体発光装置および光結合装置
(51)【国際特許分類】
H10H 20/812 20250101AFI20250120BHJP
H10H 20/824 20250101ALI20250120BHJP
H10F 55/00 20250101ALI20250120BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/30
H01L31/12 C
(21)【出願番号】P 2021041036
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】田中 明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 秀人
(72)【発明者】
【氏名】近藤 且章
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昌伸
(72)【発明者】
【氏名】磯本 建次
(72)【発明者】
【氏名】大塚 洋昭
【審査官】東松 修太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-012688(JP,A)
【文献】特開2009-238778(JP,A)
【文献】特開2008-084974(JP,A)
【文献】特開2020-088091(JP,A)
【文献】特開平08-279650(JP,A)
【文献】特開平06-140721(JP,A)
【文献】今井哲二他編著,化合物半導体デバイス[I],株式会社工業調査会,1984年07月15日,p88-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01L 31/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1エネルギーバンドギャップを有するガリウム砒素を含む基板と、
前記基板上に設けられ、前記第1エネルギーバンドギャップよりも広い第2エネルギーバンドギャップを有する第1導電形のアルミニウムガリウム砒素混晶を含む第1半導体層と、
前記第1半導体層上に設けられ、前記第1および第2エネルギーバンドギャップよりも狭い第3エネルギーバンドギャップを有するインジウムガリウム砒素混晶を含む少なくとも1つの量子井戸層と、前記第1半導体層と前記量子井戸層との間に設けられアルミニウムガリウム砒素混晶を含み前記第1半導体層の不純物よりも低濃度の前記第1導電形
の不純物を含む第1障壁層と、を含む活性層と、
前記活性層上に設けられ、前記第3エネルギーバンドギャップよりも広い第4エネルギーバンドギャップを有する第2導電形のアルミニウムガリウム砒素混晶を含む第2半導体層と、
を備え、
前記基板の屈折率は、前記活性層から放射される光の波長において、前記第1半導体層の屈折率よりも大きく、
前記第1半導体層の屈折率は、前記光の波長において、前記第1障壁層の屈折率と同じか、または、前記第1障壁層の屈折率よりも大きく、
前記活性層は、前記量子井戸層と前記第2半導体層との間に設けられアルミニウムガリウム砒素リン混晶を含む第2障壁層をさらに含む半導体発光装置。
【請求項2】
前記第2半導体層の屈折率は、前記活性層から放射される光の波長において、前記第1半導体層の屈折率よりも小さい請求項1記載の半導体発光装置。
【請求項3】
前記基板と前記第1半導体層との間に設けられ、前記第3エネルギーバンドギャップよりも広いエネルギーバンドギャップを有し、前記活性層から放射される光の波長において、前記第1半導体層の屈折率よりも大きい第1導電形のガリウム砒素もしくはアルミニウムガリウム砒素混晶を含む中間層をさらに備えた請求項1または2に記載の半導体発光装置。
【請求項4】
前記第1半導体層の前記アルミニウムガリウム砒素混晶のアルミニウム組成比は、前記第1障壁層の前記アルミニウムガリウム砒素混晶のアルミニウム組成比と同じか、前記第1障壁層の前記アルミニウムガリウム砒素混晶のアルミニウム組成比よりも小さい請求項1~3のいずれか1つに記載の半導体発光装置。
【請求項5】
前記第2半導体層の前記アルミニウムガリウム砒素混晶のアルミニウム組成比は、前記第1半導体層の前記アルミニウムガリウム砒素混晶のアルミニウム組成比、および、前記第1障壁層の前記アルミニウムガリウム砒素混晶のアルミニウム組成比よりも大きい請求項4記載の半導体発光装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つに記載の半導体発光装置と、
前記半導体発光装置の前記基板の前記活性層とは反対側の裏面側に接合され、前記活性層から放射される光を受ける受光素子と、
を備えた光結合装置。
【請求項7】
半導体発光装置と、
受光素子と、
を備えた光結合装置であって、
前記半導体発光装置は、
第1エネルギーバンドギャップを有するガリウム砒素を含む基板と、
前記基板上に設けられ、前記第1エネルギーバンドギャップよりも広い第2エネルギーバンドギャップを有する第1導電形のアルミニウムガリウム砒素混晶を含む第1半導体層と、
前記第1半導体層上に設けられ、前記第1および第2エネルギーバンドギャップよりも狭い第3エネルギーバンドギャップを有するインジウムガリウム砒素混晶を含む少なくとも1つの量子井戸層と、前記第1半導体層と前記量子井戸層との間に設けられアルミニウムガリウム砒素混晶を含み前記第1半導体層の不純物よりも低濃度の前記第1導電形
の不純物を含む第1障壁層と、を含む活性層と、
前記活性層上に設けられ、前記第3エネルギーバンドギャップよりも広い第4エネルギーバンドギャップを有する第2導電形のアルミニウムガリウム砒素混晶を含む第2半導体層と、
を備え、
前記基板の屈折率は、前記活性層から放射される光の波長において、前記第1半導体層の屈折率よりも大きく、
前記第1半導体層の屈折率は、前記光の波長において、前記第1障壁層の屈折率と同じか、または、前記第1障壁層の屈折率よりも大きい半導体発光装置であ
り、
前記受光素子は、前記半導体発光装置の前記基板の前記活性層とは反対側の裏面側に接合され、前記活性層から放射される光を受ける受光素子である、光結合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体発光装置および光結合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インジウムガリウム砒素混晶を発光層に用いたLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)は、シリコンフォトダイオードが感度を有する波長帯(900~1000nm)の光源として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、発光出力を向上させた半導体発光装置および光結合装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る半導体発光装置は、基板と、第1導電形の第1半導体層と、活性層と、第2導電形の第2半導体層と、を備える。前記基板は、第1エネルギーバンドギャップを有する。前記第1半導体層は、前記基板上に設けられ、前記第1エネルギーバンドギャップよりも広い第2エネルギーバンドギャップを有する。前記活性層は、前記第1半導体層上に設けられ、前記第1および第2エネルギーバンドギャップよりも狭い第3エネルギーバンドギャップを有する少なくとも1つの量子井戸層と、前記第1半導体層と前記量子井戸層との間に設けられた第1障壁層と、を含む。前記第2半導体層は、前記活性層上に設けられ、前記第3エネルギーバンドギャップよりも広い第4エネルギーバンドギャップを有する。前記基板の屈折率は、前記活性層から放射される光の波長において、前記第1半導体層の屈折率よりも大きく、前記第1半導体層の屈折率は、前記光の波長において、前記第1障壁層の屈折率と同じか、または、前記第1障壁層の屈折率よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態に係る半導体発光装置を示す模式断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る半導体発光装置の活性層を示す模式断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る半導体発光装置の特性を示すグラフである。
【
図4】第2実施形態に係る半導体発光装置を示す模式図である。
【
図5】第2実施形態に係る半導体発光装置の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0008】
さらに、各図中に示すX軸、Y軸およびZ軸を用いて各部分の配置および構成を説明する。X軸、Y軸、Z軸は、相互に直交し、それぞれX方向、Y方向、Z方向を表す。また、Z方向を上方、その反対方向を下方として説明する場合がある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る半導体発光装置1を示す模式断面図である。半導体発光装置1は、例えば、波長900~1000nmの赤外光を放射するLEDである。
【0010】
図1に示すように、半導体発光装置1は、例えば、基板10と、発光体LBと、第1電極20と、第2電極30と、を備える。基板10は、例えば、導電性を有する半導体基板である。また、基板10は、絶縁性基板と、その上に設けられた半導体層と、を含む構造であっても良い。基板10は、例えば、第1導電形のガリウム砒素(以下、GaAs)を含む。ここでは、第1導電形をn形、第2導電形をp形として説明するが、実施形態はこれに限定される訳ではない。
【0011】
発光体LBは、基板10上に設けられる。発光体LBは、中間層11と、第1半導体層13と、活性層15と、第2半導体層17と、第3半導体層19と、を含む。
【0012】
中間層11は、例えば、第1導電形のバッファ層である。中間層11は、基板10上に設けられる。中間層11は、例えば、GaAsもしくは組成式AlxGa1-xAs(0<x<1)で表されるアルミニウムガリウム砒素混晶(以下、AlGaAs)を含む。
【0013】
第1半導体層13は、例えば、第1導電形のクラッド層である。第1半導体層13は、中間層11上に設けられる。第1半導体層13は、例えば、AlGaAsを含む。第1半導体層13のAlGaAsは、Al組成比x1を有する。
【0014】
活性層15は、例えば、少なくとも1つの量子井戸を含む。活性層15は、第1半導体層13上に設けられる。
【0015】
第2半導体層17は、例えば、第2導電形のクラッド層である。第2半導体層17は、活性層15上に設けられる。第2半導体層17は、例えば、AlGaAsを含む。第2半導体層17のAlGaAsは、Al組成比x2を有する。Al組成比x2は、例えば、第1半導体層13のAl組成比x1と同じか、Al組成比x1よりも大きい。
【0016】
第3半導体層19は、例えば、第2導電形のコンタクト層である。第3半導体層19は、第2半導体層17上に設けられる。第3半導体層19は、例えば、GaAsを含む。
【0017】
中間層11、第1半導体層13、活性層15、第2半導体層17および第3半導体層19は、例えば、MOCVD法を用いて、基板10の上に順次エピタキシャル成長される。発光体LBは、基板10の上にエピタキシャル成長された各半導体層をメサエッチングすることにより形成される。
【0018】
第1電極20は、第3半導体層19の上に設けられる。第1電極20は、第3半導体層19に電気的に接続される。第1電極20は、活性層15から放射される光に対する反射率が高い材料を含む。第1電極20は、例えば、アルミニウム(Al)もしくは金(Au)を含む。
【0019】
第2電極30は、例えば、メサエッチングにより露出された基板10上に設けられる。第2電極30は、基板10および中間層11を介して第1半導体層13に電気的に接続される。また、第2電極30は、中間層11の上に設けられても良い。例えば、発光体LBは、第1半導体層13、活性層15、第2半導体層17および第3半導体層19をメサエッチングすることにより形成されても良い。その場合、中間層11がメサエッチング後に露出され、第2電極30は、中間層11の上に形成される。第2電極30は、例えば、アルミニウム(Al)もしくは金(Au)を含む。
【0020】
図2は、第1実施形態に係る半導体発光装置1の活性層15を示す模式断面図である。活性層15は、第1量子井戸層WL1および第2量子井戸層WL2を含む。実施形態は、この例に限定されるわけではなく、活性層15は、1つの量子井戸層もしくは3つ以上の量子井戸層を含んでも良い。
【0021】
第1量子井戸層WL1および第2量子井戸層WL2は、例えば、組成式InyGa1-yAs(0<y<1)で表されるインジウムガリウム砒素混晶(以下、InGaAs)を含む。
【0022】
図2に示すように、第1量子井戸層WL1および第2量子井戸層WL2は、第1半導体層13から第2半導体層17に向かう方向、例えば、Z方向に並ぶ。
【0023】
第1量子井戸層WL1は、第1半導体層13と第2量子井戸層WL2との間に設けられる。第1半導体層13と第1量子井戸層WL1との間には、第1障壁層BL1が設けられる。第1量子井戸層WL1と第2量子井戸層WL2との間には、第2障壁層BL2が設けられる。
【0024】
第2量子井戸層WL2は、第1量子井戸層WL1と第2半導体層17との間に設けられる。第1量子井戸層WL1と第2半導体層17との間には、第3障壁層BL1が設けられる。
【0025】
第1半導体層13は、第1障壁層BL1の不純物よりも高濃度の第1導電形不純物を含む。また、第2半導体層17は、第3障壁層BL3の不純物よりも高濃度の第2導電形不純物を含む。
【0026】
第1障壁層BL1、第2障壁層BL2および第3障壁層BL3は、例えば、組成式AlxGa1-xAs1-yPy(0<x<1、0<y<1)で表されるアルミニウムガリウム砒素リン混晶(以下、AlGaAsP)を含む。また、第1障壁層BL1および第3障壁層BL3の少なくともいずれか一方は、AlGaAsを含んでも良い。
【0027】
第1および第2量子井戸層WL1、WL2に用いられるInGaAsは、基板10および中間層11に用いられるGaAsの格子定数よりも大きい格子定数を有する。また、InGaAsの格子定数は、第1半導体層13および第2半導体層17に用いられるAlGaAsの格子定数よりも大きい。また、AlGaAsは、GaAsの格子定数に近い格子定数を有する。
【0028】
第1~第3障壁層BL1、BL2、BL3に用いられるAlGaAsPは、GaAsの格子定数よりも小さい格子定数を有する。第1~第3障壁層BL1、BL2、BL3にAlGaAsPを用いることにより、InGaAsとGaAsおよびAlGaAsとの格子定数差に起因した応力が補償される。これにより、第2量子井戸層WL2およびその後に結晶成長される各層において、転移等の結晶欠陥の発生を抑制することができる。また、AlGaAsPのAl組成比xおよびP組成比yを制御することにより、第1および第2量子井戸層WL1、WL2における格子歪を最適化し、活性層15の発光効率を向上させることができる。
【0029】
半導体発光装置1では、第1電極20と第2電極30との間に駆動電流を流すことにより、活性層15に電子と正孔とを注入する。活性層15は、第1量子井戸層WL1および第2量子井戸層WL2における電子および正孔の発光再結合により生じた光を放射する。活性層15から第1電極20に向かって伝播する光は、第1電極20で反射され、伝播方向を変えて基板10の方向に進む。結果として、活性層15から放射された光は、基板10の裏面に向かって伝播する(
図1参照)。
【0030】
例えば、GaAs、AlGaAsおよびAlGaAsPは、InGaAsのエネルギーバンドギャップ(以下、Eg)よりも広いEgを有する。このため、基板10、中間層11、第1半導体層13、第2半導体層17および第3半導体層19は、活性層15から放射される光に対して、実質的に透明である。したがって、活性層15において発生した光は、基板10の発光体LBとは反対側の裏面から放射される。また、GaAsのEgは、AlGaAsおよびAlGaAsPのEgよりも小さい。
【0031】
半導体発光装置1の光出力を向上させるためには、活性層15から基板10の裏面に至る光の伝播過程において反射もしくは散乱を受けないことが望ましい。例えば、基板10の屈折率n0、中間層11の屈折率n1、第1半導体層13の屈折率n2および第1障壁層BL1の屈折率nbは、n0≧n1>n2≧nbの関係を有することが好ましい。さらに、活性層15から第1電極20の方向に伝播し、第1電極20により反射される光を考慮すれば、第2半導体層17(屈折率n3)から基板10の裏面へ向かう方向(-Z方向)において、n3<nb≦n2<n1≦n0であることがさらに好ましい。言い換えれば、活性層15から基板10の裏面に至る伝播経路において、隣り合う半導体層間の屈折率差を小さくすることにより、光の反射および散乱を抑制することが望ましい。
【0032】
(実施例)
第1半導体層13、第2半導体層17、第1障壁層BL1および第3障壁層BL3には、アルミニウムガリウム砒素混晶(AlxGa1-xAs)を用いることができる。以下の例では、第1半導体層13のAl組成比をx1、第2半導体層17のAl組成比をx2、第1障壁層BL1および第3障壁層BL3のAl組成比をxbとする。AlGaAsは、Al組成xが大きくなると、屈折率が小さくなり、Egが広くなる。
【0033】
例えば、基板10および中間層11のGaAsは、約1.4eVのEgを有する。第1および第2量子井戸層WL1、WL2は、約1.1eVEgを有し、波長900~1000nmの光を放出する。両者のEgの差は、0.3eV程度である。例えば、GaAsのEgよりも広いEgを有するAlGaAsをクラッド層(第1半導体層13および第2半導体層17)に用いることにより、第1および第2量子井戸層WL1、WL2とクラッド層との間のEgの差を大きくすることができる。これにより、活性層15へのキャリア(正孔)の閉じ込め効果を向上させ、活性層15の発光効率を向上させることが可能となる。
【0034】
この例では、クラッド層である第1半導体層13および第2半導体層17に加えて、第1障壁層BL1および第3障壁層BL3にもAlGaAsを用いることにより、第1および第2量子井戸層WL1、WL2へのキャリアの封じ込めをより有意に実現できる。
【0035】
基板10は、GaAs基板であり、中間層11は、GaAsバッファ層である。第1量子井戸層WL1および第2量子井戸層WL2は、In0.2Ga0.8Asを含む。第2障壁層BL2は、Al0.15Ga0.85As0.9P0.1を含む。
【0036】
図3は、第1実施形態に係る半導体発光装置1の特性を示すグラフである。横軸は、第1半導体層13(n形クラッド層)のAl組成比x1である。縦軸は、光出力である。
図3には、第1障壁層BL1および第3障壁層BL3のAl組成比xbをパラメータとして、Al組成比x1に対する光出力を示している。第2半導体層17のAl組成比x2は、0.5である。
【0037】
活性層15から放射される光の波長は、例えば、950nmである。GaAsの屈折率は、3.54である。AlGaAsの屈折率は、3.48(Al組成比x=0.1)、3.47(Al組成比x=0.15)、3.42(Al組成比x=0.2)、3.36(Al組成比x=0.3)、3.31(Al組成比x=0.4)、3.25(Al組成比x=0.5)と変化する。
【0038】
Al組成比xb=0場合、すなわち、第1障壁層BL1および第3障壁層BL3がGaAsである場合には、n0=n1=nb>n2となる。すなわち、第1障壁層BL1および第1半導体層13の屈折率の大小関係が逆転する。この例では、第1半導体層13と活性層15の界面における光反射が大きくなる。また、活性層15から第1半導体層13への正孔の漏れが顕著になり発光効率も低下する。このため、光出力は低レベルである。
【0039】
Al組成比xb=0.1場合、光出力は、第1半導体層13のAl組成比x1が0.1の時に最大となり、第1半導体層13のAl組成比x1が0.1よりも大きくなるにつれて光出力が低下する。これは、第1半導体層13とGaAsを含む中間層11との間の屈折率差が大きくなり、中間層11と第1半導体層13との界面における光反射が増えるためである。また、Al組成比x1が0.1以下になると、活性層15と第1半導体層13との間のエネルギー障壁が小さくなる。このため、活性層15から第1半導体層13への正孔の漏れが顕著になり、第1量子井戸層WL1および第2量子井戸層WL2における発光再結合が減少し、光出力が低下する。
【0040】
Al組成比xb=0.15の場合、光出力は、第1半導体層13のAl組成比x1が0.15の時に最大となり、Al組成比x1が0.2よりも大きくなると光出力が低下する。これは、第1半導体層13とGaAsを含む中間層11との間の屈折率差が大きくなり、第1半導体層13と中間層11との界面における光反射が増加するためである。一方、Al組成比x1が0.1よりも小さくなると、活性層15から第1半導体層13への正孔の漏れにより光出力が低下する。
【0041】
Al組成比xb=0.2の場合、光出力は、第1半導体層13のAl組成比x1が0.15~0.2の時に最大となり、Al組成比x1が0.2よりも大きくなると光出力が徐々に低下する。これは、第1半導体層13とGaAsを含む中間層11との間の屈折率差が大きくなり、中間層11と第1半導体層13との界面における光反射が増えるためである。一方、Al組成比x1が0.1よりも小さくなると、活性層15から第1半導体層13への正孔の漏れにより光出力が低下する。
【0042】
このように、第1半導体層13、第1障壁層BL1および第2障壁層BL2におけるAl組成比を好適に制御することにより、例えば、第1半導体層13と中間層11との界面における光反射を抑制し、光出力を向上させることができる。また、第1半導体層13のAl組成比x1を0.1以上とすることにより、活性層15への正孔の閉じ込め効果を向上させ、光出力を増すことができる。例えば、
図3中に破線で示す領域内のAl組成比を用いることにより、半導体発光装置1の光出力を向上させることができる。この領域では、Al組成比はx2>xb≧x1となり、n0≧n1>n2≧nb>n3の関係を満足することができる。また、第1障壁層BL1および第3障壁層BL3のEgが第1半導体層13のEgよりも大きくなり、第1量子井戸層WL1および第2量子井戸層WL2におけるキャリアの閉じ込め効果を向上させることができる。
【0043】
(第2実施形態)
図4(a)および(b)は、第2実施形態に係る光結合装置2を示す模式図である。
図4(a)は、光結合装置2を示す斜視図である。
図4(b)は、
図4(a)中に示す切断面CPに沿った断面図である。光結合装置2は、所謂、フォトカプラである。
【0044】
光結合装置2は、基板10と、発光体LBと、第1電極20と、第2電極30と、を備える。発光体LBは、基板10上に設けられる。第1電極20は、発光体LBの上に設けられる。第2電極30は、例えば、基板10の表面上に設けられる。第2電極30は、例えば、基板10の四角形の表面の1つの角に設けられる。発光体LBおよび第1電極20は、基板10の残りの領域を覆うように設けられる。
【0045】
図4(b)に示すように、光結合装置2は、受光素子40をさらに備える。受光素子40は、樹脂層50を介して、基板10の発光体LBとは反対側の裏面に接合される。受光素子40は、例えば、シリコンフォトダイオードである。樹脂層50は、例えば、ポリイミドを含む樹脂層である。
【0046】
樹脂層50は、絶縁膜53を介して、基板10の裏面に接続される。絶縁膜53は、例えば、シリコン酸化膜もしくはシリコン窒化膜である。絶縁膜53は、基板10と樹脂層50との接着性を向上させる。また、絶縁膜53は、基板10と樹脂層50との間において反射防止膜として機能する。また、基板10の裏面は、光取り出し効率を向上させるための凹凸を有しても良い。
【0047】
受光素子40は、受光層43を含む。受光層43は、例えば、シリコン基板上に設けられたエピタキシャル層である。受光層43は、樹脂層50に接続される。
【0048】
樹脂層50および絶縁膜53は、活性層15(
図1参照)から放射される光に対して、実質的に透明である。活性層15から放射された光は、樹脂層50および絶縁膜53を通して、受光層43に入射する。
【0049】
光結合装置2は、発光素子と受光素子とを積層した構造を有するため、実装面積を小さくすることができる。また、発光素子と受光素子の間隔を樹脂層50の層厚により制御し、パッケージを低背化することもできる。
【0050】
光結合装置2では、受光素子40の受光層43に均一に光が照射されることが望ましい。例えば、受光層43の表面における光強度が局所的に強くなると、その部分の電流密度が上昇し、受光素子40の出力電圧が不安定になる場合がある。
【0051】
図5は、第2実施形態に係る光結合装置2の特性を示すグラフである。
図5は、
図4(b)に示す断面における受光素子40の受光面上の光強度分布を表している。
図5中には、光結合装置2における光強度分布EMと、比較例に係る半導体発光装置の光強度分布CEと、を表している。
【0052】
図5に示す光強度分布EMおよびCEは、例えば、光線追跡法により求めることができる。この例では、樹脂層50の屈折率を1.7、樹脂層50の厚さ10μmとして計算している。また、受光面から深さ1μmの光強度分布を求めるため、受光層43の厚さは1μmとした。また、シリコンの吸収を考慮するため、波長950nmにおける複素屈折率(3.59、1.19×10
-3)を用いた。
【0053】
光結合装置2の発光体LBは、半導体発光装置1の発光体LBと同じ構造を有する。基板10、中間層11、第1半導体層13および活性層15の屈折率は、n0=n1>n2≧nbの関係を有する。
【0054】
これに対し、比較例に係る半導体発光装置では、第1半導体層13は、Al組成x1=0.5を有する。基板10、中間層11、第1半導体層13および活性層15における各層の屈折率は、n0=n1>nb>n2の関係を有する。すなわち、活性層15から基板10の裏面に向かう光の伝播経路において、第1導電形のクラッド層(第1半導体層13)の屈折率が低下し、第1導電形のバッファ層(中間層11)において屈折率が上昇する構成となっている。
【0055】
図5に示すように、比較例に係る光強度分布CEは、2つの強度ピークP1およびP2を有する。強度ピークP1は、基板10(GaAs基板)の端に近い位置であって、発光体LBの下方に位置する受光面上に見られる。一方、強度ピークP2は、第2電極30の下方に位置する受光面上に見られる。
【0056】
これらの強度ピークP1およびP2は、中間層11と第1半導体層13との界面、および、第1半導体層13と活性層15との界面における光の多重反射、および、基板10の側面における反射などの作用により生じたものと考えられる。
【0057】
発光素子と受光素子とを積層する光結合装置では、例えば、Z方向における基板10から受光素子40に至る距離が基板10の厚さよりも短く、樹脂層50の屈折率も、通常の透明樹脂や絶縁膜の屈折率(1.4程度)より大きい。このため、発光素子および受光素子の積層構造の最適化などにより、発光体LB内の屈折率差に起因した反射の影響を低減することは難しい。
【0058】
これに対し、光結合装置2の光強度分布EMには、強度ピークP1およびP2が見られず、発光体LB内の光反射が抑制されていることが分かる。これにより、受光素子40の出力電圧を安定化できる。また、活性層15から基板10の裏面に至る光の伝播経路における反射および散乱を抑制することにより、基板10から受光素子40に入射する光量も増加する。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1…半導体発光装置、 2…光結合装置、 10…基板、 11…中間層、 13…第1半導体層、 15…活性層、 17…第2半導体層、 19…第3半導体層、 20…第1電極、 30…第2電極、 40…受光素子、 43…受光層、 50…樹脂層、 53…絶縁膜、 BL1、BL2、BL3…障壁層、 CP…切断面、 LB…発光体、 WL1…第1量子井戸層、 WL2…第2量子井戸層