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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】排水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/32 20230101AFI20250120BHJP
   C12N 1/12 20060101ALN20250120BHJP
【FI】
C02F3/32
C12N1/12 C ZNA
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021046706
(22)【出願日】2021-03-20
(65)【公開番号】P2022145342
(43)【公開日】2022-10-04
【審査請求日】2024-02-28
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22388
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22400
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100157107
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 健司
(72)【発明者】
【氏名】久保田 謙三
(72)【発明者】
【氏名】久保田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】河目 裕介
(72)【発明者】
【氏名】井上 繁人
【審査官】松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-183763(JP,A)
【文献】特開2016-036777(JP,A)
【文献】特開2017-039078(JP,A)
【文献】特開2019-041681(JP,A)
【文献】特開2019-004809(JP,A)
【文献】特開2016-174565(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0097136(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0044474(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第103663713(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28 - 3/34
C12N 1/00 - 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を処理槽に供給する排水供給工程と、
前記処理槽内の排水に受託番号FERM P-22388で寄託された微生物および受託番号FERM P-22400で寄託された微生物を供給する微生物供給工程とを備えることを特徴とする排水の処理方法。
【請求項2】
前記排水が、メタン発酵消化液であることを特徴とする請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記処理槽内の排水の温度を15℃以上とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の排水の処理方法。
【請求項4】
前記微生物供給工程から所定時間経過後に、
前記処理槽内の処理水を所定量排出する排出工程と、新たな排水を所定量供給する排水再供給工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の排水の処理方法。
【請求項5】
さらに、
前記処理槽内の排水を所定時間撹拌する撹拌工程を備え、
前記撹拌工程から所定時間経過後に、
前記処理槽内の処理水を所定量排出する排出工程と、新たな排水を所定量供給する排水再供給工程を行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の排水の処理方法。
【請求項6】
さらに、
前記処理槽内の排水を所定時間撹拌する撹拌工程を備え、
前記撹拌工程を、
前記排水供給工程および/または前記微生物供給工程および/または前記排水再供給工程の後に行うことを特徴とする請求項に記載の排水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は排水の処理方法、特に高濃度のアンモニア性窒素を含む排水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家畜糞尿や食品廃棄物などの排水を処理する技術が開発されているが、このような排水には、高濃度のアンモニア性窒素が含まれていることから、排水の処理においては係る高濃度のアンモニア性窒素への対策が必要となってくる。
また、排水自体を処理する技術の他に、排水をメタン発酵させて取り出したメタンガスを用いて発電(バイオガス発電)する技術も開発されているが、メタン発酵後の液(メタン発酵消化液)にも高濃度のアンモニア性窒素が含まれていることから、メタン発酵消化液の処理においても係る高濃度のアンモニア性窒素への対策が必要となってくる。
【0003】
ここで、イネ科の植物などはアンモニア性窒素を吸収できることから、アンモニア性窒素への対策の一例として、排水やメタン発酵消化液を液肥として稲作や飼料作物の圃場などに施肥することが行われている。特に、水田への施肥の場合は、水口から液肥を混ぜ込むことができるので、比較的作業が簡便である。
しかしながら、施肥できる時期や回数が限られることから、年間を通じた排水(メタン発酵消化液)の利用方法という観点では課題がある。
【0004】
一方、メタン発酵消化液(アンモニア性窒素)に関しては、藻類を活用する技術が開発されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-61452号公報
【文献】特開2019-150821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、メタン発酵消化液を希釈した上で微細藻類の培養を行う技術であることから、係る技術を実用化しようとすると、大量のメタン発酵消化液の希釈水が発生することになるという課題がある(特許文献1の[請求項1]、[0025]参照)。また、同技術においては、藻類はメタン発酵消化液中で培養される、すなわちメタン発酵消化液中で生存できるということのみが記載されているだけであり、メタン発酵消化液中のアンモニア性窒素自体を処理することに関する記載はない。
また、特許文献2に記載の技術は、硝化細菌を用いてアンモニア性窒素(第1の消化液)を亜硝酸態窒素や硝酸態窒素に処理(酸化、硝化)する技術であって、藻類は処理後の液(第2の消化液)において培養されることが記載されているだけとなっている(特許文献2の[0024]~[0028]参照)。
【0007】
一方、アンモニア性窒素は、一般的に高濃度になると微生物の生育を阻害することが知られている。
【0008】
従って、従前においては、高濃度のアンモニア性窒素が含まれる排水を希釈することなく、原液の状態で処理することは困難であった。
【0009】
今回、本願発明者らは、鋭意検討を行った結果、希釈前の原液状態において排水中のアンモニア性窒素の濃度を低下させる能力を有する2種の新規微生物(藻類)を併用することによって、排水(特にメタン発酵消化液)の処理を効果的に行うことができる、具体的には、排水中(特にメタン発酵消化液中)のアンモニア性窒素濃度を効果的に低減することができるという知見を得た。
また、この2種の新規微生物(藻類)はお互いに干渉することなく(分解し合うことなく)、共存するものであり、さらに処理槽内における生存形態がそれぞれ異なるものであることも分かった。
【0010】
本発明は上記した問題点に鑑みてなされたものであって、従前の藻類では処理が困難であった、高濃度のアンモニア性窒素を含む排水(特にメタン発酵消化液)を処理することができる排水の処理方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1は、排水を処理槽に供給する排水供給工程と、処理槽内の排水に受託番号FERM P-22388で寄託された微生物および受託番号FERM P-22400で寄託された微生物を供給する微生物供給工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2は、排水が、メタン発酵消化液であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3は、処理槽内の排水の温度を15℃以上とすることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4は、微生物供給工程から所定時間経過後に、処理槽内の処理水を所定量排出する排出工程と、新たな排水を所定量供給する排水再供給工程を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5は、処理槽内の排水を所定時間撹拌する撹拌工程を備え、撹拌工程から所定時間経過後に、処理槽内の処理水を所定量排出する排出工程と、新たな排水を所定量供給する排水再供給工程を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項6は、処理槽内の排水を所定時間撹拌する撹拌工程を備え、撹拌工程を、排水供給工程および/または微生物供給工程および/または排水再供給工程の後に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の排水の処理方法によれば、受託番号FERM P-22388で特定される新規微生物(藻類)と受託番号FERM P-22400で特定される新規微生物(藻類)を併用することで、従前の藻類では処理が困難であった高濃度のアンモニア性窒素を含む排水を処理することができる。具体的には、本発明に用いる新規微生物(藻類)は、アンモニア性窒素を体内に取り込むことによって排水中のアンモニア性窒素の濃度を低下するものと考えられる。
【0018】
また、本発明の排水の処理方法によれば、2種の新規微生物(藻類)を用いることから、1種の新規微生物(藻類)を用いる場合に比べて、外的要因(例えば温度変化)によって新規微生物(藻類)が全滅してしまうということを防止することができる。
【0019】
なお、この2種の新規微生物(藻類)は、処理槽内における生存形態がそれぞれ異なるものであり、お互いに干渉する(分解し合う)ことなく、共存し増殖していくものであることが分かった。具体的には、受託番号FERM P-22388で特定される新規微生物(藻類)は壁に付着したり、底に溜まったりする形態で生存するものであるのに対して、受託番号FERM P-22400で特定される新規微生物(藻類)は排水中に分散する形態で生存することから、処理槽内において住み分けがなされることになり、お互いに干渉する(分解し合う)ことなく、共存し増殖し易いものとなる。
従って、本発明の排水の処理方法においては、処理期間中に新規微生物(藻類)を追加する必要がほとんどなく、効率的な処理を行うことができることになる。
【0020】
なお、新規微生物(藻類)の体内に取り込まれたアンモニア性窒素の一部については、新規微生物(藻類)が行う光合成で得たエネルギーによってアミノ酸に合成されるものと考えられる。また、さらにアミノ酸の一部については、係るアミノ酸が起点となってタンパク質が形成され、新規微生物(藻類)の体の一部となっていくことになるものと考えられる。
従って、本発明の排水の処理方法は、アンモニア性窒素を含む排水からアミノ酸などの高付加価値成分を生産する方法としても活用することができる。
【0021】
また、排水がメタン発酵消化液である場合(バイオガス発電の場合)には、メタン発酵消化液中のアンモニア性窒素濃度を低減させることができることから、処理後の液はメタン発酵槽に戻すことが可能となり、リサイクル水としてメタン発酵の際に再利用することができることになる。
さらに、メタン発酵の際においては、アンモニア性窒素を取り込んだ新規微生物(藻類)を固液分離などによってメタン発酵消化液の系外に除去すれば、発酵槽中におけるメタン発酵の阻害を抑制することができ、メタンガス(エネルギー)の生産効率を向上させることができる。
【0022】
なお、アンモニア性窒素を取り込んだ新規微生物(藻類)は、土壌に混ぜ込むことで窒素肥料として活用することもできるが、本発明に用いる新規微生物(藻類)は一般的な藻類と同様に体内に持つクロロフィルによって光合成を行うことから、大気中あるいはバイオガス発電の排ガスに含まれる二酸化炭素を有機物の形で体内に固定することになる。
従って、固液分離した新規微生物(藻類)はバイオガス発電の原料として再利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】DH-MA01株(受託番号FERM P-22388)のコロニー観察像である。
図2】DH-MA01株(受託番号FERM P-22388)の形態観察像である。
図3】DH-MA01株(受託番号FERM P-22388)の液体培養後の状態を示す写真である。
図4】DH-MA02株(受託番号FERM P-22400)のコロニー観察像である。
図5】DH-MA02株(受託番号FERM P-22400)の形態観察像である。
図6】DH-MA02株(受託番号FERM P-22400)の液体培養後の状態を示す写真である。
図7】実施例の排水の状態を示す写真(図7(a)は処理開始時の状態を示す写真、図7(b)は処理40日後の状態を示す写真、図7(c)は経時変化の状態を示す写真)である。
図8】実施例におけるアンモニア性窒素濃度の推移を示すグラフである。
図9】実施例における新規微生物(藻類)の個体数の推移を示すグラフである。
図10】排水中における新規微生物(藻類)の状態を示す写真(BV励起光:436nmを照射した状態を示す写真)である。
図11】さらに処理を継続した実施例のアンモニア性窒素濃度および新規微生物(藻類)の個体数の推移を示すグラフである。
図12】実施例におけるアンモニア性窒素濃度と平均水温との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(基本構成)
本発明の排水の処理方法は、排水を処理槽に供給する排水供給工程と、処理槽内の排水に受託番号FERM P-22388で寄託された微生物および受託番号FERM P-22400で寄託された微生物を供給する微生物供給工程とを備えることを特徴とするものである。
【0025】
本発明の排水の処理方法に使用する処理槽については特に限定されるものではなく、一般的な排水処理槽のような沈殿槽を用いることもできるが、2種の新規微生物(藻類)の処理槽内における生存形態がそれぞれ異なることから、処理槽内に藻類が担持することができる担体を設置しつつ、処理槽内に流れを作る構造とすれば、効率的な排水処理を行うことができるので好適である。
具体的には、受託番号FERM P-22388で特定される新規微生物(藻類)は壁に付着したり、底に溜まったりする形態を好むのに対して、受託番号FERM P-22400で特定される新規微生物(藻類)は排水中に分散する形態を好むことから、上記構造の処理槽とすれば、各新規微生物(藻類)の生存形態を活用した効率的な排水処理を行うことができることになる。
【0026】
次に、各工程について説明する。
【0027】
(排水供給工程)
排水供給工程は、排水を処理槽に供給する工程である。排水の供給方法としては特に限定されるものではなく、最初から処理槽に排水を供給して処理槽を排水のみで満たした状態としても良いが、新規微生物(藻類)の活性を維持する観点から、最初は処理槽に後記する新規微生物(藻類)を液体培地で培養した培養液を溜めておき、その後排水を少しずつ供給するようにすることが好ましい。また、排水を少しずつ供給する方法を採用する場合には、初期においては排水の供給量を少なくして、その後徐々に供給量を増やすようにすれば、新規微生物(藻類)の活性を効果的に維持することができるので好適である。
【0028】
(微生物供給工程)
微生物供給工程は、処理槽内の排水に受託番号FERM P-22388で寄託された微生物および受託番号FERM P-22400で寄託された微生物を供給する工程である。新規微生物(藻類)の供給方法としては特に限定されるものではなく、新規微生物(藻類)自体を処理槽内(排水)に直接供給しても良いが、排水に馴化させるという観点から、新規微生物(藻類)を液体培地で培養した培養液に排水を供給することが好ましい。
なお、排水に対する2種の新規微生物(藻類)の供給量(供給比率)については、特に限定されるものではないが、排水5Lに対して2種の新規微生物(藻類)の培養液を5~595L供給することが好ましい。
また、2種の新規微生物(藻類)の比率についても特に限定されるものではないが、アンモニア性窒素の濃度低減効果を向上させることができるという点から、受託番号FERM P-22400で特定される新規微生物(藻類)の個体数を多くすることが好ましい。具体的には、受託番号FERM P-22388で特定される新規微生物(藻類)の個体数:受託番号FERM P-22400で特定される新規微生物(藻類)の個体数を1:50~50:50とすることが好ましい。
【0029】
(排出工程、排水再供給工程)
排出工程は、2種の新規微生物(藻類)によって処理された処理槽内の排水(処理水)を処理槽の外に所定量排出する工程であり、排水再供給工程は、排出工程によって液量が減少した処理槽内に新たな排水を所定量供給(補充)する工程である。このように、処理槽内の排水を少しずつ入れ替えれば、新規微生物(藻類)の個体数および活性を維持しつつ、効果的な処理を行うことができるので好適である。
【0030】
なお、排出工程、排水再供給工程を行うタイミングとしては、微生物供給工程から所定時間経過後、または後記する撹拌工程から所定時間経過後とすることが好ましい。ここで、「所定時間」については特に限定されるものではなく、処理槽の容積や排水中のアンモニア性窒素の濃度などに応じて適宜決定すればよいが、新規微生物(藻類)の活性を効果的に発現させる観点から、微生物供給工程または撹拌工程から8~24時間後とすることが好ましい。
具体的には、一般的に藻類の活性を発現させるためには日照が必要となるところ、本発明に用いる新規微生物(藻類)においては、効果的な活性を得るためには好ましくは8時間の日照が必要となることから、最短のタイミングとしては微生物供給工程または撹拌工程から8時間後とすることが好ましいことになるのである。
一方、微生物供給工程または撹拌工程を日没中に行った場合には翌日の日照が必要となる。また、本発明に用いる新規微生物(藻類)は一般的な藻類と同様に、増殖に関してレッドフィールド比(Redfield ratio)の考え方が当て嵌まることになる。具体的には、一般的な藻類と同様にC:N:P=106:16:1(モル比)が増殖において適した割合となる。ここで、本発明に用いる新規微生物(藻類)はアンモニア性窒素を体内に取り込む性質があることから、新規微生物(藻類)が活動すると排水中の窒素分が徐々に不足していくことになり、新たな排水を供給しない場合にはレッドフィールド比が最適比率から外れ、新規微生物(藻類)の活性が低下することになる。
従って、新規微生物(藻類)の活性を維持するためには排出工程、排水再供給工程は1日1回行うことが好ましいことになるのであるが、微生物供給工程または撹拌工程を日没直後に行った場合には、翌日の日照のことも考慮すると、最長のタイミングとしては微生物供給工程または撹拌工程から24時間後とすることが好ましいことになるのである。
以上のことから、微生物供給工程または撹拌工程から8~24時間後とすることが好ましいことになる。
【0031】
また、「所定量」についても特に限定されるものではなく、処理槽の容積や排水中のアンモニア性窒素の濃度などに応じて適宜決定すればよいが、新規微生物(藻類)の個体数および活性を維持する観点から、処理槽の容量の2.5~20%の量とすることが好ましい。すなわち、2.5%の場合は40日で処理槽内の排水が入れ替わることになり、20%の場合は5日で処理槽内において排水が入れ替わることになる。
さらに、排出工程における「所定量」と排水再供給工程における「所定量」は同じ量としても良いし、異なる量としても良い。
【0032】
(撹拌工程)
本発明の排水の処理方法は、撹拌工程を備えていても良い。撹拌工程は、処理槽内の排水を撹拌する工程であり、新規微生物(藻類)とアンモニア性窒素との接触効率を向上させるための工程である。
なお、攪拌の形態については特に限定されるものではなく、プロペラを回転させる一般的な攪拌装置の他に、曝気装置や、水流を作って処理槽内の排水を撹拌する装置など、各種の形態を採用することができる。
また、撹拌時間についても特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜決定すればよいが、曝気装置以外の撹拌形態を採用する場合には、撹拌による新規微生物(藻類)への物理的な影響および撹拌効果(接触効率)を両立させる観点から5~30分とすることが好ましい。
【0033】
本発明の排水の処理方法における処理時の温度についても特に限定されるものではないが、用いられる2種の新規微生物(藻類)の活性を維持する点から、排水の液温(1日の平均温度)の下限を10℃以上とし、上限を42℃以下にすることが好ましく、その中でも15℃~30℃にすることがより好ましい。
【0034】
(新規微生物(藻類))
本発明の排水の処理方法に用いられる新規微生物(藻類)の1種は、Desmodesmus sp.に帰属すると推定されるものであり、株名はDH-MA01株である。また、本発明に係る微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に令和2年5月15日に受託されており、その受託番号はFERM P-22388である。
また、もう1種の新規微生物(藻類)は、Chlorella属に属するものであり、さらに詳しくはChlorella sorokinianaに帰属すると推定されるものであり、株名はDH-MA02株である。また、本発明に係る微生物は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に令和2年12月15日に受託されており、その受託番号はFERM P-22400である。
【0035】
なお、本発明の排水の処理方法に用いられる新規微生物(藻類)は、アンモニア性窒素を取り込む能力を有しつつ、紫外線照射や放射線照射などの公知の手法にて変異をさせた変異株や、自然界において変異した変異株も含まれるものである。
【0036】
本発明の排水の処理方法に用いられるDH-MA01株およびDH-MA02株の単離方法は以下の通りである。
【0037】
(1)1次スクリーニング
まず、石川県を中心に、日本国内の農業集落排水、工場排水、環境水を採取した。これらの採取水を改変MBM液体培地に接種し、20℃、光照射下で静置培養した。光照射条件は約4,000lux、明期24h/暗期0hとした。目視で藻体の増殖が確認されたものを1次スクリーニング取得サンプルとした。
【0038】
(2)2次スクリーニング
次に、段階希釈したメタン発酵消化液の液分に上記の培養液を接種し、同条件の光照射下で静置培養した。無希釈のメタン発酵消化液で藻体の増殖が確認されたものを2次スクリーニング取得サンプルとした。2次スクリーニングを通過したのは12サンプルであった。
【0039】
(3)3次スクリーニング
次に、改変MBM液体培地10Lに各サンプルを接種して2週間屋外で静置培養し、前培養液を作製した。600Lの処理水槽に、新たな改変MBM液体培地480Lと、12サンプルの前培養液(合計120L)を入れて撹拌し、2週間静置培養した。濁度およびクロロフィルの蛍光を測定して十分に増殖したことを確認後、メタン発酵消化液の液分を5~15L/日のペースで投与し、馴化した。その後、約1年間の連続運転を行った。定期的に培養液をサンプリングし、培養液中の窒素成分および藻体の濃度の経時変化を分析した。この培養液からDNAを抽出し、微生物群集構造の解析を行って優占種を決定した。
【0040】
(4)4次スクリーニング
最後に、培養液を種々の抗生物質を含む改変MBM寒天培地にプレーティングし、25℃、光照射下で14日間静置培養した。光の照射条件は約4,000lux、明期24h/暗期0hとした。シングルコロニーアイソレーションを行って、微細藻類のライブラリーを作製した。それぞれの株を前培養し、種々の窒素濃度に調整したメタン発酵消化液の液分または硫酸アンモニウムを含む改変MBM液体培地に接種し、アンモニア濃度の低減効果が認められたものを選抜した。この中から上記の優占種と一致したものを最終的なスクリーニング取得株とした。
【0041】
次に、本発明の排水の処理方法に用いられる微生物DH-MA01株の分類学的性質及び形態的性質を説明する。
【0042】
(分類学的性質)
まず、本発明に係る微生物DH-MA01株の塩基配列は、配列番号1に示す18S rRNA遺伝子である。
次に、国際塩基配列データベース(GenBank)に基づいて当該塩基配列の相同性検索を行ったところ表1に示す結果となり、緑藻類の一種であるDesmodesmus属と相同率99%以上の高い相同性を示した。
従って、本発明に関わる微生物DH-MA01株はDesmodesmus armatusに近縁なDesmodesmus sp.と推定される。
【0043】
【表1】
【0044】
(形態的性質)
次に、本発明に係る微生物DH-MA01株の形態観察を、改変MBM寒天培地上で、25℃、培養14日間において行った。その結果について、コロニー観察像を図1に、形態観察像を図2に示す。具体的には、改変MBM寒天培地を用いて培養すると、直径1mm程度の円形状のコロニーを形成した。なお、細胞の形状は楕円形で、細胞の色はやや淡い緑色であった。さらに、4細胞(図2)あるいはその倍数で観察された。
また、改変MBM液体培地を用いて静置培養すると、糸状あるいは球状の凝集塊を形成して増殖した。液体培養後の状態を図3に示す。図3の矢印および実線の囲み部分が凝集塊である。
【0045】
以上の分類学的性質(塩基配列解析)および形態的性質(形状的特徴)の結果から、本発明に係る微生物DH-MA01株はDesmodesmus sp.と推定される。
【0046】
次に、本発明の排水の処理方法に用いられる微生物DH-MA02株の分類学的性質及び形態的性質を説明する。
【0047】
(分類学的性質)
まず、本発明に係る微生物DH-MA02株の塩基配列は、配列番号2に示す18S rRNA遺伝子である。
次に、国際塩基配列データベース(GenBank)に基づいて当該塩基配列の相同性検索を行ったところ表2に示す結果となり、緑藻類の一種であるChlorella属と相同率99%以上の高い相同性を示した。
従って、本発明に関わる微生物DH-MA02株はChlorella sorokinianaに近縁なChlorella sp.と推定される。
【0048】
【表2】
【0049】
(形態的性質)
次に、本発明に係る微生物DH-MA02株の形態観察を、改変MBM培地上で、25℃、培養14日間において行った。その結果について、コロニー観察像を図4に、形態観察像を図5に示す。具体的には、改変MBM寒天培地を用いて培養すると、直径1~2mm程度の円形状のコロニーを形成した。なお、細胞の形状は球形で、細胞の色はやや淡い緑色であった。
また、改変MBM液体培地を用いて静置培養すると、培地内で分散して増殖し、比較的均一に緑色に濁った。液体培養後の状態を図6に示す。
【0050】
以上の分類学的性質(塩基配列解析)および形態的性質(形状的特徴)の結果から、本発明に係る微生物DH-MA02株はChlorella sorokinianaに近縁なChlorella sp.と推定される。
【0051】
本発明の排水の処理方法に用いられるDH-MA01株およびDH-MA02株の培養条件、保管条件は以下の通りである。
【0052】
(培養条件、保管条件)
最後に、本発明に係る微生物DH-MA01株の培養条件、保管条件を以下に示す。なお、以下に記載の培養条件、保管条件は一例に過ぎず、本発明に係る微生物DH-MA01株が増殖できるものであれば特に限定されるものではない。
[培養条件]
培地名:改変MBM液体培地
培地の滅菌条件:オートクレーブ(121℃、15分)
培養温度:25℃
培養期間:2日~14日間
培養方法:静置培養
光要求性:必要(約4,000lux、明期24h/暗期0hもしくは明期12h/暗期12h)
[保管条件]
凍結法による保管:可能(-80℃付近、保護材:10%DMSO)
継代培養による保管:固体培養、液体培養どちらでも可(植え継ぎ間隔:1ヶ月、保管温度:4℃)
【実施例
【0053】
次に、本発明の排水の処理方法を実施例に基づいて説明する。なお、図7は実施例の排水の状態を示す写真(図7(a)は処理開始時の状態を示す写真、図7(b)は処理40日後の状態を示す写真、図7(c)は経時変化の状態を示す写真)であり、図8は実施例におけるアンモニア性窒素濃度の推移を示すグラフであり、図9は実施例における新規微生物(藻類)の個体数の推移を示すグラフであり、図10は排水中における新規微生物(藻類)の状態を示す写真(BV励起光:436nmを照射した状態を示す写真)であり、図11はさらに処理を継続した実施例のアンモニア性窒素濃度および新規微生物(藻類)の個体数の推移を示すグラフであり、図12は実施例におけるアンモニア性窒素濃度と平均水温との関係を示すグラフである。
【0054】
まず、エアポンプを設置した1000Lの処理槽に、受託番号FERM P-22388で特定される新規微生物(藻類)と受託番号FERM P-22400で特定される新規微生物(藻類)とを培養した培養液600Lを投入した(図7(a))。なお、この際における、受託番号FERM P-22388で特定される新規微生物(藻類)の個体数と受託番号FERM P-22400で特定される新規微生物(藻類)の個体数との比率は50:50であった。
【0055】
次に、処理槽内にエアポンプを用いて毎分60Lの空気を送り込みながら、処理開始日(8月17日)から26日目までについては、上記処理槽から5L/日を排出するとともにバイオガス発電施設から採取した排水(メタン発酵消化液)を5L/日投入することによって排水処理を行い、27日目以降については、上記処理槽から15L/日を排出するとともに新たな排水(メタン発酵消化液)を15L/日投入することによって排水処理を行った。なお、係る工程において、新規微生物(藻類)の追加供給は行わなかった。以上のことから、最初に処理槽に投入した水は、40日目の時点において全量が排水(メタン発酵消化液)によって置換され、処理槽は初期の新規微生物(藻類)の色(緑色)から排水の色(茶色)となった(図7(b)、(c))。
【0056】
そして、定期的に排水中のアンモニア性窒素の濃度測定を行った。結果を図8~12に示す。
【0057】
その結果、本発明の排水の処理方法は、図8に示すとおり、処理開始日からアンモニア性窒素の濃度を低減できており、新規微生物(藻類)が生存出来なかったと仮定した場合の計算値と比較して、極めて良好な濃度低減効果を示すものであることが分かった。
また、図9に示すとおり、排水中の新規微生物(藻類)の個体数も減少しておらず、処理中の排水にBV励起光(436nm)を照射すると、図10に示すとおり、赤色または黄色の蛍光を発したことからクロロフィルが存在すること、すなわち、クロロフィルを体内に持つ新規微生物(藻類)が死滅することなく存在していることが確認できた。
【0058】
また、処理をさらに継続した場合においても、図11に示すとおり、効果的な処理が出来ていることが分かった。なお、図12に示すとおり、排水の液温(平均水温)が15℃未満になると濃度低減効果が低下し始め、10℃未満になるとその傾向が顕著となった。これは、液温(平均水温)が下がったことによって新規微生物(藻類)の一部が死滅し始めたことによるものと思われる。
【0059】
以上の結果から、本発明の排水の処理方法は、従前の藻類では処理が困難であった、高濃度のアンモニア性窒素を含む排水(特にメタン発酵消化液)を処理することができることがわかった。
なお、本発明に用いる新規微生物(藻類)がアンモニア性窒素の濃度を低下させる詳細なメカニズムは不明であるが、アンモニア性窒素を体内に取り込むことによって濃度を低下させるものと考えられる。
【0060】
また、本発明の排水の処理方法は、新規微生物(藻類)の追加供給を行わずに新たな排水(メタン発酵消化液)のみを再供給するだけで、新規微生物(藻類)の個体数を減少させることなく、アンモニア性窒素の濃度を低下させ続けることができた。これらのことから、本発明に用いる新規微生物(藻類)は、体内に取り込んだアンモニア性窒素の一部を用いてアミノ酸を合成しているものと考えられ、さらにアミノ酸の一部については、係るアミノ酸が起点となってタンパク質が形成され、新規微生物(藻類)の体の一部となっていくことになるものと考えられる。
具体的には、本発明に用いる新規微生物(藻類)は一般的な藻類と同様に体内に持つクロロフィルによって光合成を行う。すなわち、排水中の水と、排水中や大気中などに含まれる二酸化炭素とを体内に取り込んで、光エネルギーによって炭水化物を合成する。本発明に用いる新規微生物(藻類)は、光合成によって得たエネルギーを利用してアンモニア性窒素の一部をアミノ酸に合成し、さらにアミノ酸の一部については、係るアミノ酸を起点としてタンパク質とするものと考えられる。そして、係るタンパク質を新規微生物(藻類)自身の生存・増殖に用いるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る微生物は、高濃度のアンモニア性窒素を含む排水の処理、特にメタン発酵消化液の処理に用いることができる。
【受託番号】
【0062】
FERM P-22388
【0063】
FERM P-22400
図1
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図3
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図12
【配列表】
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