(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】イオン検出器
(51)【国際特許分類】
H01J 49/02 20060101AFI20250120BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20250120BHJP
H01J 49/06 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
H01J49/02 500
H01J49/00 950
H01J49/06 700
(21)【出願番号】P 2021110138
(22)【出願日】2021-07-01
【審査請求日】2024-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100171583
【氏名又は名称】梅景 篤
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛志
(72)【発明者】
【氏名】小林 浩之
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-196467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0175292(US,A1)
【文献】特開昭64-078121(JP,A)
【文献】特開2014-059989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1極性を有する第1イオンを検出するための第1電子増倍体と、
前記第1極性とは異なる第2極性を有する第2イオンを検出するための第2電子増倍体と、
前記第1電子増倍体から放出される電子を捕捉する第1アノードと、
前記第2電子増倍体から放出される電子を捕捉する第2アノードと、
前記第1アノードと電気的に接続されている第1入力端子、前記第2アノードと電気的に接続されている第2入力端子、及び出力端子を含み、前記第1入力端子及び前記第2入力端子のいずれかを選択的に前記出力端子に接続する切替回路と、
第1方向に延びる中心軸を有する貫通孔が設けられたイオン導入部と、
を備え
、
前記第1電子増倍体は、前記第1方向に延びる第1増倍部と、前記第1増倍部の前記第1方向における一端に設けられた第1入力電極と、前記第1増倍部の前記第1方向における他端に設けられた第1出力電極と、を備え、
前記第2電子増倍体は、前記第1方向に延びる第2増倍部と、前記第2増倍部の前記第1方向における一端に設けられた第2入力電極と、前記第2増倍部の前記第1方向における他端に設けられた第2出力電極と、を備え、
前記第1入力電極は、前記貫通孔を通過した前記第1イオンを受け、
前記第2入力電極は、前記貫通孔を通過した前記第2イオンを受け、
前記第1電子増倍体と前記第2電子増倍体とは、前記第1方向と交差する第2方向において互いに離間しており、
前記第1入力電極は、前記第1方向において前記イオン導入部と向かい合う第1本体部と、前記第1方向において前記第1出力電極に向かって延びる第1延長部と、を含み、
前記第1延長部は、前記第1増倍部の前記第2増倍部と向かい合う部分を覆う、イオン検出器。
【請求項2】
前記第1延長部は、筒状の形状を有する、請求項
1に記載のイオン検出器。
【請求項3】
前記第2入力電極は、前記第1方向において前記イオン導入部と向かい合う第2本体部と、前記第1方向において前記第2出力電極に向かって延びる第2延長部と、を含み、
前記第2延長部は、前記第2増倍部の前記第1増倍部と向かい合う部分を覆う、
請求項
1又は請求項
2に記載のイオン検出器。
【請求項4】
前記第2延長部は、筒状の形状を有する、請求項
3に記載のイオン検出器。
【請求項5】
前記第1電子増倍体と前記中心軸との前記第2方向における距離は、前記第2電子増倍体と前記中心軸との前記第2方向における距離と等しい、請求項
1~請求項
4のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項6】
前記第1方向において前記イオン導入部と向かい合う主面を有する基板を更に備え、
前記第1アノード及び前記第2アノードは、前記主面に設けられ、
前記第1電子増倍体は、前記第1出力電極が前記第1アノードと前記第1方向において向かい合うように前記主面上に配置され、
前記第2電子増倍体は、前記第2出力電極が前記第2アノードと前記第1方向において向かい合うように前記主面上に配置される、請求項
1~請求項
5のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項7】
前記切替回路は、前記基板に実装されている、請求項
6に記載のイオン検出器。
【請求項8】
前記基板には、前記第1アノードと前記第2アノードとの間に前記基板を前記第1方向に貫通するスリットが設けられている、請求項
6又は請求項
7に記載のイオン検出器。
【請求項9】
前記主面に設けられ、前記イオン導入部を支持する支持部材を更に備える、請求項
6~請求項
8のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【請求項10】
前記第1方向において前記イオン導入部と向かい合う第1主面を有する第1基板と、
前記第1方向において前記イオン導入部と向かい合う第2主面を有する第2基板と、
を更に備え、
前記第1アノードは、前記第1主面に設けられ、
前記第2アノードは、前記第2主面に設けられ、
前記第1電子増倍体は、前記第1出力電極が前記第1アノードと前記第1方向において向かい合うように前記第1主面上に配置され、
前記第2電子増倍体は、前記第2出力電極が前記第2アノードと前記第1方向において向かい合うように前記第2主面上に配置される、請求項
1~請求項
5のいずれか一項に記載のイオン検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、イオン検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
正イオン及び負イオンを検出するイオン検出器が知られている。例えば、特許文献1には、陽イオン(正イオン)検出用の電子増倍管と、陰イオン(負イオン)検出用の電子増倍管と、を備えるイオン検出器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のイオン検出器では、正イオン検出用の電子増倍管及び負イオン検出用の電子増倍管のそれぞれの出力に専用の増幅器等の信号処理回路が設けられている。したがって、回路規模が増大するおそれがある。本技術分野では、回路規模を縮小しつつ、両極性のイオンを検出することが望まれている。
【0005】
本開示は、回路規模を縮小しつつ、両極性のイオンを検出可能なイオン検出器を説明する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係るイオン検出器は、第1極性を有する第1イオンを検出するための第1電子増倍体と、第1極性とは異なる第2極性を有する第2イオンを検出するための第2電子増倍体と、第1電子増倍体から放出される電子を捕捉する第1アノードと、第2電子増倍体から放出される電子を捕捉する第2アノードと、第1アノードと電気的に接続されている第1入力端子、第2アノードと電気的に接続されている第2入力端子、及び出力端子を含み、第1入力端子及び第2入力端子のいずれかを選択的に出力端子に接続する切替回路と、を備える。
【0007】
このイオン検出器では、第1極性を有する第1イオンを検出するための第1電子増倍体から放出される電子を捕捉する第1アノードが切替回路の第1入力端子に電気的に接続され、第2極性を有する第2イオンを検出するための第2電子増倍体から放出される電子を捕捉する第2アノードが切替回路の第2入力端子に電気的に接続されている。切替回路は、第1入力端子及び第2入力端子のいずれかを選択的に出力端子に接続するので、出力端子からは、第1イオン検出に関する信号及び第2イオン検出に関する信号が選択的に出力される。したがって、イオン検出器の後段には、第1イオン検出と第2イオン検出とで共通に用いられる信号処理回路が設けられ得るので、第1イオン検出と第2イオン検出とでそれぞれ専用の信号処理回路を設ける必要が無い。その結果、回路規模を縮小しつつ、両極性のイオンを検出することが可能となる。
【0008】
上記イオン検出器は、第1方向に延びる中心軸を有する貫通孔が設けられたイオン導入部を更に備えてもよい。第1電子増倍体は、第1方向に延びる第1増倍部と、第1増倍部の第1方向における一端に設けられた第1入力電極と、第1増倍部の第1方向における他端に設けられた第1出力電極と、を備えてもよい。第2電子増倍体は、第1方向に延びる第2増倍部と、第2増倍部の第1方向における一端に設けられた第2入力電極と、第2増倍部の第1方向における他端に設けられた第2出力電極と、を備えてもよい。第1入力電極は、貫通孔を通過した第1イオンを受けてもよい。第2入力電極は、貫通孔を通過した第2イオンを受けてもよい。第1電子増倍体と第2電子増倍体とは、第1方向と交差する第2方向において互いに離間していてもよい。この場合、第1電子増倍体と第2電子増倍体とは、第2方向において互いに離間しながら、第1方向に延びるように設けられる。第1入力電極と第2入力電極とはいずれも第1方向においてイオン導入部と向かい合っている。したがって、第1入力電極及び第2入力電極が、他方の電子増倍体で発生した荷電粒子に由来するノイズを受ける可能性を低減することができる。その結果、第1イオン及び第2イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0009】
第1入力電極は、第1方向においてイオン導入部と向かい合う第1本体部と、第1方向において第1出力電極に向かって延びる第1延長部と、を含んでもよい。第1延長部は、第1増倍部の第2増倍部と向かい合う部分を覆ってもよい。例えば、第1入力電極には負の電圧が印加され、第2入力電極には正の電圧が印加される。第1入力電極から第1出力電極に向かうにつれ、第1増倍部の電圧が増加し、第2入力電極から第2出力電極に向かうにつれ、第2増倍部の電圧が増加する。したがって、第1入力電極の印加電圧の絶対値と、第2入力電極の印加電圧の絶対値と、が等しかったとしても、出力電極に向かうにつれて、第1増倍部の電圧の絶対値と、第2増倍部の電圧の絶対値との差が大きくなる。上記構成では、第1入力電極の第1延長部が第1増倍部の第2増倍部と向かい合う部分を覆っているので、イオンが移動する領域における正の電位勾配と負の電位勾配との対称性を改善することができる。したがって、第1イオン及び第2イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0010】
第1延長部は、筒状の形状を有してもよい。この場合、第1増倍部の一端を含む端部が第1延長部に囲まれる。第1増倍部の一端を含む端部の一部が第1延長部によって覆われる構成と比較して、イオンが移動する領域において、正の電位勾配と負の電位勾配との対称性が改善し得る。したがって、第1イオン及び第2イオンの検出精度を一層向上させることが可能となる。
【0011】
第2入力電極は、第1方向においてイオン導入部と向かい合う第2本体部と、第1方向において第2出力電極に向かって延びる第2延長部と、を含んでもよい。第2延長部は、第2増倍部の第1増倍部と向かい合う部分を覆ってもよい。第2入力電極の第2延長部が第2増倍部の第1増倍部と向かい合う部分を覆っているので、イオンが移動する領域における正の電位勾配と負の電位勾配との対称性を改善することができる。したがって、第1イオン及び第2イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0012】
第2延長部は、筒状の形状を有してもよい。この場合、第2増倍部の一端を含む端部が第2延長部に囲まれる。第2増倍部の一端を含む端部の一部が第2延長部によって覆われる構成と比較して、イオンが移動する領域において、正の電位勾配と負の電位勾配との対称性が改善し得る。したがって、第1イオン及び第2イオンの検出精度を一層向上させることが可能となる。
【0013】
第1電子増倍体と中心軸との第2方向における距離は、第2電子増倍体と中心軸との第2方向における距離と等しくてもよい。この場合、第1電子増倍体及び第2電子増倍体の配置の設計を簡単化することができる。
【0014】
第1イオンは、正イオンであってもよい。第2イオンは、負イオンであってもよい。第1電子増倍体と中心軸との第2方向における距離は、第2電子増倍体と中心軸との第2方向における距離よりも大きくてもよい。上述のように、イオンが移動する領域における正の電位勾配と負の電位勾配との対称性が崩れることによって、第2イオンが第2方向において第1電子増倍体から離れる方向に受ける力よりも、第1イオンが第2方向において第2電子増倍体から離れる方向に受ける力が大きくなる。つまり、第2イオンよりも第1イオンの方が中心軸から離れるように移動する。上記構成によれば、第2電子増倍体よりも第1電子増倍体の方が中心軸から離れているので、第1イオンが第1入力電極に入射し、第2イオンが第2入力電極に入射する可能性を高めることができる。したがって、第1イオン及び第2イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0015】
上記イオン検出器は、第1方向においてイオン導入部と向かい合う主面を有する基板を更に備えてもよい。第1アノード及び第2アノードは、主面に設けられてもよい。第1電子増倍体は、第1出力電極が第1アノードと第1方向において向かい合うように主面上に配置されてもよい。第2電子増倍体は、第2出力電極が第2アノードと第1方向において向かい合うように主面上に配置されてもよい。この場合、1枚の基板に第1電子増倍体及び第2電子増倍体が配置される。したがって、第1電子増倍体と第2電子増倍体との間の距離が一定になるので、イオン検出器の組立精度を向上させることができる。
【0016】
切替回路は、基板に実装されてもよい。この場合、1枚の基板にイオン検出器の構成部品が実装される。したがって、部品点数を削減することが可能となる。
【0017】
基板には、第1アノードと第2アノードとの間に基板を第1方向に貫通するスリットが設けられてもよい。第1アノードと第2アノードとの電位差が大きい場合には、第1アノードと第2アノードとの間で基板の主面に沿って沿面放電が生じることがある。上記構成では、第1アノードと第2アノードとの間にスリットが設けられるので、第1アノードと第2アノードとの間の沿面距離が長くなる。これにより、第1アノードと第2アノードとの間で沿面放電が生じる可能性を低減することができる。
【0018】
上記イオン検出器は、主面に設けられ、イオン導入部を支持する支持部材を更に備えてもよい。この場合、支持部材によりイオン導入部が支持されるので、中心軸(貫通孔)の位置が定まる。したがって、イオン検出器の組立精度を向上させることができる。
【0019】
上記イオン検出器は、第1方向においてイオン導入部と向かい合う第1主面を有する第1基板と、第1方向においてイオン導入部と向かい合う第2主面を有する第2基板と、を更に備えてもよい。第1アノードは、第1主面に設けられてもよい。第2アノードは、第2主面に設けられてもよい。第1電子増倍体は、第1出力電極が第1アノードと第1方向において向かい合うように第1主面上に配置されてもよい。第2電子増倍体は、第2出力電極が第2アノードと第1方向において向かい合うように第2主面上に配置されてもよい。この場合、第1アノードと第2アノードとは異なる基板に配置されるので、第1アノードと第2アノードとの間で沿面放電が生じる可能性を低減することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、回路規模を縮小しつつ、両極性のイオンを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るイオン検出器を概略的に示す構成図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるイオン検出器の実装例を示す断面図である。
【
図4】
図4は、
図2に示されるイオン検出器の正イオン検出時における等電位線を示す図である。
【
図5】
図5は、
図2に示されるイオン検出器の負イオン検出時における等電位線を示す図である。
【
図6】
図6は、別の実装例のイオン検出器の正イオン検出時における等電位線を示す図である。
【
図7】
図7は、別の実装例のイオン検出器の負イオン検出時における等電位線を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1に示されるイオン検出器の更に別の実装例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、
図1に示されるイオン検出器の更に別の実装例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。
【0023】
図1を参照しながら、一実施形態に係るイオン検出器の概略構成を説明する。
図1は、一実施形態に係るイオン検出器を概略的に示す構成図である。
図1に示されるイオン検出器1は、両極性のイオンを検出可能な装置である。イオン検出器1は、例えば、質量分析装置に適用される。イオン検出器1は、イオン導入部2と、電子増倍体3(第1電子増倍体)と、電子増倍体4(第2電子増倍体)と、アノード5(第1アノード)と、アノード6(第2アノード)と、コンデンサ7と、コンデンサ8と、切替回路9と、を備えている。
【0024】
イオン導入部2は、イオン検出器1の外部からイオン検出器1の内部空間S(
図2参照)にイオンを通過させる部分である。イオン導入部2は、外部ノイズを遮断するアパーチャ部材であってもよい。イオン導入部2は、イオンレンズ21と、イオンレンズ22と、を含む。イオンレンズ21は、板状の導電性部材である。イオンレンズ21には、イオンレンズ21を貫通する開口21aが設けられている。イオンレンズ21は、例えば、接地されている。
【0025】
イオンレンズ22は、板状の導電性部材である。イオンレンズ22には、イオンレンズ22を貫通する開口22aが設けられている。イオンレンズ22は、開口21aの中心軸と開口22aの中心軸とが一致するように配置されている。つまり、イオン導入部2には、中心軸AXを有する貫通孔2aが設けられている。貫通孔2aは、開口21aと開口22aとから構成されている。
【0026】
イオンレンズ22には、正電圧及び負電圧のいずれかが選択的に印加される。イオン検出器1が正イオン(第1極性を有する第1イオン)を検出する場合には、イオンレンズ22には負電圧が印加される。この構成により、正イオンが、開口21a及び開口22aを順に通過することで、収束されるとともに内部空間Sに導入される。イオン検出器1が負イオン(第2極性を有する第2イオン)を検出する場合には、イオンレンズ22には正電圧が印加される。この構成により、負イオンが、開口21a及び開口22aを順に通過することで、収束されるとともに内部空間Sに導入される。イオンレンズ22に印加される正電圧は、例えば、500V程度である。イオンレンズ22に印加される負電圧は、例えば、-500V程度である。
【0027】
電子増倍体3は、正イオンを検出するための構造体である。電子増倍体4は、負イオンを検出するための構造体である。電子増倍体3,4の例としては、チャンネル型電子増倍体(Channel Electron Multiplier:CEM)、電子増倍管(Electron Multiplier tube:EM管)、マイクロチャンネルプレート(Microchannel Plate:MCP)とアバランシェダイオード(Avalanche Diode:AD)との組み合わせ、MSP(MCP、シンチレータ、及び光電子増倍管(PMT)を含む)、及びこれらのうちの2つの組み合わせが挙げられる。CEM、EM管、及びADにコンバージョンダイノード(Conversion Dynode:CD)が更に設けられてもよい。本実施形態では、電子増倍体3,4として、CEMが例示される。
【0028】
電子増倍体3は、増倍部31(第1増倍部)と、入力電極32(第1入力電極)と、出力電極33(第1出力電極)と、を含む。増倍部31は、一方向に延びており、例えば直方体状の形状を有する。増倍部31は、端面31a,31bを有する。端面31a(一端)は、増倍部31の長手方向における一方の端面であり、イオン導入部2と向かい合う。端面31b(他端)は、増倍部31の長手方向における端面31aと反対側の端面である。増倍部31は、例えば、セラミック材料等の絶縁材料を含む。増倍部31は、端面31aから端面31bまで延びる複数のチャネルを有する。
【0029】
入力電極32は、貫通孔2aを通過した正イオンを受け、正イオンを電子に変換する。入力電極32は、端面31aに設けられる。入力電極32は、導電性の金属材料によって構成されている。入力電極32には、負の高電圧が印加される。入力電極32には、例えば、-10kV程度の電圧が印加される。
【0030】
出力電極33は、端面31bに設けられる。出力電極33は、導電性の金属材料によって構成されている。出力電極33には、入力電極32に印加されている電圧よりも大きい負の高電圧が印加される。つまり、出力電極33の電位が入力電極32の電位よりも高くなるように、出力電極33に負の高電圧が印加されている。出力電極33に印加される電圧は、入力電極32に印加される電圧よりも2~4kV程度大きい。入力電極32及び出力電極33によって、端面31aから端面31bに向かうにつれて高電位となるように、増倍部31には、増倍部31の長手方向に沿って電位勾配が生じている。
【0031】
電子増倍体4は、増倍部41(第2増倍部)と、入力電極42(第2入力電極)と、出力電極43(第2出力電極)と、を含む。増倍部41は、一方向に延びており、例えば直方体状の形状を有する。増倍部41は、端面41a,41bを有する。端面41a(一端)は、増倍部41の長手方向における一方の端面であり、イオン導入部2と向かい合う。端面41b(他端)は、増倍部41の長手方向における端面41aと反対側の端面である。増倍部41は、例えば、セラミック材料等の絶縁材料を含む。増倍部41は、端面41aから端面41bまで延びる複数のチャネルを有する。
【0032】
入力電極42は、貫通孔2aを通過した負イオンを受け、負イオンを電子に変換する。入力電極42は、端面41aに設けられる。入力電極42は、導電性の金属材料によって構成されている。入力電極42には、正の高電圧が印加される。入力電極42には、例えば、+10kV程度の電圧が印加される。
【0033】
出力電極43は、端面41bに設けられる。出力電極43は、導電性の金属材料によって構成されている。出力電極43には、入力電極42に印加されている電圧よりも大きい正の高電圧が印加される。つまり、出力電極43の電位が入力電極42の電位よりも高くなるように、出力電極43に正の高電圧が印加されている。出力電極43に印加される電圧は、入力電極42に印加される電圧よりも2~4kV程度大きい。入力電極42及び出力電極43によって、端面41aから端面41bに向かうにつれて高電位となるように、増倍部41には、増倍部41の長手方向に沿って電位勾配が生じている。
【0034】
アノード5は、電子増倍体3から放出される電子を捕捉する電極である。アノード5は捕捉した電子に応じた電気信号を出力する。アノード5は、コンデンサ7を介して切替回路9に電気信号を出力する。アノード6は、電子増倍体4から放出される電子を捕捉する電極である。アノード6は、捕捉した電子に応じた電気信号を出力する。アノード6は、コンデンサ8を介して切替回路9に電気信号を出力する。
【0035】
コンデンサ7,8は、AC(Alternating Current)カップリングコンデンサである。コンデンサ7は、アノード5から出力された電気信号からDC(Direct Current)オフセット電圧を除去する。コンデンサ8は、アノード6から出力された電気信号からDCオフセット電圧を除去する。
【0036】
切替回路9は、アノード5及びアノード6のいずれかを選択的に後段の増幅器等の信号処理回路に接続するための回路である。切替回路9の例としては、RF(Radio Frequency)スイッチIC(Integrated Circuit)、及び無接点リレーが挙げられる。無接点リレーの例としては、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が挙げられる。切替回路9は、外部からの切替信号に応じて、アノード5及びアノード6の中から測定対象のアノードを選択する。切替回路9は、入力端子9a(第1入力端子)と、入力端子9b(第2入力端子)と、出力端子9cと、を有する。入力端子9aは、アノード5と電気的に接続されている。本実施形態では、入力端子9aは、コンデンサ7を介してアノード5と電気的に接続されている。入力端子9bは、アノード6と電気的に接続されている。本実施形態では、入力端子9bは、コンデンサ8を介してアノード6と電気的に接続されている。出力端子9cは、後段の信号処理回路に電気的に接続されている。
【0037】
切替回路9は、入力端子9a及び入力端子9bのいずれかを選択的に出力端子9cに接続する。切替回路9は、外部からの切替信号によって、第1状態と第2状態との間で切り替えられる。第1状態は、入力端子9aと出力端子9cとを電気的に接続するとともに入力端子9bと出力端子9cとを電気的に遮断する状態である。第2状態は、入力端子9aと出力端子9cとを電気的に遮断するとともに入力端子9bと出力端子9cとを電気的に接続する状態である。
【0038】
切替回路9は、スイッチ91と、スイッチ92と、を含む。スイッチ91は、入力端子9aと出力端子9cとの間に設けられている。スイッチ91は、入力端子9aと出力端子9cとを電気的に接続するオン状態と、入力端子9aと出力端子9cとを電気的に遮断するオフ状態との間で切り替え可能に構成されている。スイッチ92は、入力端子9bと出力端子9cとの間に設けられている。スイッチ92は、入力端子9bと出力端子9cとを電気的に接続するオン状態と、入力端子9bと出力端子9cとを電気的に遮断するオフ状態との間で切り替え可能に構成されている。切替信号によって、スイッチ91とスイッチ92とは互いに反対の状態に設定される。つまり、スイッチ91がオン状態に設定される場合には、スイッチ92はオフ状態に設定され(第1状態)、スイッチ91がオフ状態に設定される場合には、スイッチ92はオン状態に設定される(第2状態)。
【0039】
次に、イオン検出器1の動作を説明する。イオン検出器1が正イオンを検出する場合、スイッチ91がオン状態に設定されるとともに、スイッチ92がオフ状態に設定され、その後イオンレンズ22に負電圧が印加される。正イオンがイオンレンズ22の負電圧に引き寄せられて、開口21a及び開口22aを順に通過し、イオン検出器1の内部空間Sに導入される。そして、入力電極32に負の高電圧が印加されているので、正イオンは入力電極32に向かって移動し、入力電極32に入射する。入力電極32に入射した正イオンに応じて発生した電子が、増倍部31において増倍されて出力電極33から放出される。そして、出力電極33から放出された電子がアノード5に捕捉され、その電子に応じた電気信号がコンデンサ7を介して入力端子9aに出力される。切替回路9では、入力端子9aと出力端子9cとが電気的に接続されているので、電気信号は、出力端子9cから後段の信号処理回路に出力される。
【0040】
イオン検出器1が負イオンを検出する場合、スイッチ91がオフ状態に設定されるとともに、スイッチ92がオン状態に設定され、その後イオンレンズ22に正電圧が印加される。負イオンがイオンレンズ22の正電圧に引き寄せられて、開口21a及び開口22aを順に通過し、イオン検出器1の内部空間Sに導入される。そして、入力電極42に正の高電圧が印加されているので、負イオンは入力電極42に向かって移動し、入力電極42に入射する。入力電極42に入射した負イオンに応じて発生した電子が、増倍部41において増倍されて出力電極43から放出される。そして、出力電極43から放出された電子がアノード6に捕捉され、その電子に応じた電気信号がコンデンサ8を介して入力端子9bに出力される。切替回路9では、入力端子9bと出力端子9cとが電気的に接続されているので、電気信号は、出力端子9cから後段の信号処理回路に出力される。
【0041】
以上説明したイオン検出器1では、正イオンを検出するための電子増倍体3から放出される電子を捕捉するアノード5が切替回路9の入力端子9aに電気的に接続され、負イオンを検出するための電子増倍体4から放出される電子を捕捉するアノード6が切替回路9の入力端子9bに電気的に接続されている。切替回路9は、入力端子9a及び入力端子9bのいずれかを選択的に出力端子9cに接続するので、出力端子9cからは、正イオン検出に関する電気信号及び負イオン検出に関する電気信号が選択的に出力される。したがって、イオン検出器1の後段には、正イオン検出と負イオン検出とで共通に用いられる信号処理回路が設けられるので、正イオン検出と負イオン検出とでそれぞれ専用の信号処理回路を設ける必要が無い。その結果、回路規模を縮小しつつ、両極性のイオンを検出することが可能となる。
【0042】
イオン検出器1では、両極性のイオンが直接電子に変換されるので、両極性のイオンの検出効率を向上させることが可能となる。正イオン検出用の電子増倍体3と負イオン検出用の電子増倍体4とが設けられるので、1つの電子増倍体を両極性のイオンの検出に用いる構成と比較して、イオン検出器1の寿命を2倍程度に延ばすことができる。切替回路9はアノード5とアノード6とを電気的に分離するので、アノード5とアノード6とを後段の信号処理回路に直接接続する構成と比較して、他方のアノードのダークカウントを低減するとともに、他方のアノードの静電容量の影響を無くすことができる。その結果、出力波形の劣化を抑制することが可能となる。
【0043】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、
図1に示されるイオン検出器1の一実装例を説明する。
図2は、
図1に示されるイオン検出器の実装例を示す断面図である。
図3は、
図2に示される基板の平面図である。
図2に示されるように、イオン検出器1は、基板51と、スペーサ52と、スペーサ53と、を更に備えている。
【0044】
基板51は、イオン検出器1の構成要素が実装される板状の部材である。基板51は、例えば、ガラスエポキシ基板等のプリント基板である。基板51は、主面51aと、主面51aと反対側の裏面51bとを有する。主面51aは、方向D1(第1方向)と交差(ここでは、直交)する。
【0045】
スペーサ52,53は、イオン導入部2を支持するための支持部材である。スペーサ52,53は、主面51aに設けられ、方向D1に延びている。イオンレンズ21,22は、中心軸AXが方向D1に延びるように固定されている。具体的には、スペーサ52,53の基端は、基板51にネジ等の固定部材によって固定される。主面51aが方向D1においてイオン導入部2と向かい合うように、スペーサ52,53の先端にイオン導入部2が取り付けられる。より具体的には、スペーサ52,53の先端にイオンレンズ21が載置され、スペーサ52,53によってイオンレンズ22が挟持される。イオンレンズ21及びイオンレンズ22は、スペーサ52,53にネジ等の固定部材によって固定される。このように、スペーサ52,53によって、イオン導入部2が基板51に固定される。
【0046】
アノード5,6は、主面51aに設けられている。アノード5,6は、配線パターンとして主面51a上に形成されてもよい。アノード5とアノード6とは、方向D2(第2方向)に配列されている。方向D2は、方向D1と交差(ここでは、直交)する方向であり、主面51aに沿っている。アノード5とアノード6とは、方向D2と直交するとともに中心軸AXに沿った仮想面に対して実質的に面対称に配置される。
【0047】
図3に示されるように、基板51には、アノード5とアノード6との間に基板51を方向D1に貫通するスリット51sが設けられている。スリット51sは、アノード5とアノード6との間の沿面距離を延伸するために設けられている。
図3に示される例では、スリット51sは、アノード5とアノード6との間において、方向D3に延びている。方向D3は、方向D1及び方向D2と交差(ここでは、直交)する方向であり、主面51aに沿っている。スリット51sは、方向D3における基板51の両端付近まで延びている。スリット51sは、アノード5とアノード6との間だけでなく、アノード5と切替回路9との間、及びアノード6と切替回路9との間にまで延びている。
【0048】
電子増倍体3は、出力電極33がアノード5と方向D1において向かい合うように主面51a上に配置されている。電子増倍体4は、出力電極43がアノード6と方向D1において向かい合うように主面51a上に配置されている。電子増倍体3,4(増倍部31,41)はいずれも方向D1に延びている。電子増倍体3と電子増倍体4とは、方向D2において互いに離間している。電子増倍体3と中心軸AXとの方向D2における距離L1は、電子増倍体4と中心軸AXとの方向D2における距離L2と実質的に等しい。言い換えると、電子増倍体3と電子増倍体4とは、上記仮想面に対して実質的に面対称に配置される。電子増倍体3及びアノード5は、空間S1に配置され、電子増倍体4及びアノード6は、空間S2に配置される。空間S1及び空間S2は、内部空間Sを上記仮想面によって区分することによって得られる空間である。
【0049】
本実装例では、入力電極32は、本体部32a(第1本体部)と、延長部32b(第1延長部)と、を含む。本体部32aは、端面31aに設けられ、端面31aの全面を覆う部分である。本体部32aは、例えば矩形板状の形状を有しており、方向D1から見て端面31aよりもひと回り大きい。本体部32aは、方向D1においてイオン導入部2と向かい合っている。
【0050】
延長部32bは、方向D1において出力電極33に向かって延びる部分である。延長部32bは、増倍部31の側面のうち、少なくとも増倍部41と向かい合う部分を覆っている。本実装例では、延長部32bは、筒状の形状を有しており、増倍部31の端面31aを含む端部を全周にわたって覆っている。延長部32bは、本体部32aの周縁に沿って設けられ、出力電極33に向かって延びている。延長部32bは、増倍部31の方向D1における長さの半分よりも端面31bに近い位置まで延びている。延長部32bは、増倍部31の側面から離間している。
【0051】
本実装例では、出力電極33は、本体部33aと、支持部33bと、を含む。本体部33aは、端面31bに設けられ、端面31bの全面を覆う部分である。本体部33aは、例えば矩形板状の形状を有しており、方向D1から見て端面31bよりもひと回り大きい。本体部33aは、支持部33bによって支持されている。支持部33bは、筒状の形状を有している。支持部33bの一端は、本体部33aに接続され、支持部33bの他端はネジ又は溶接等によって基板51の主面51aに固定されている。支持部33bによってアノード5が囲まれる。
【0052】
本実装例では、入力電極42は、本体部42a(第2本体部)と、延長部42b(第2延長部)と、を含む。本体部42aは、端面41aに設けられ、端面41aの全面を覆う部分である。本体部42aは、例えば矩形板状の形状を有しており、方向D1から見て端面41aよりもひと回り大きい。本体部42aは、方向D1においてイオン導入部2と向かい合っている。
【0053】
延長部42bは、方向D1において出力電極43に向かって延びる部分である。延長部42bは、増倍部41の側面のうち、少なくとも増倍部31と向かい合う部分を覆っている。本実装例では、延長部42bは、筒状の形状を有しており、増倍部41の端面41aを含む端部を全周にわたって覆っている。延長部42bは、本体部42aの周縁に沿って設けられ、出力電極43に向かって延びている。延長部42bは、増倍部41の方向D1における長さの半分よりも端面41bに近い位置まで延びている。延長部42bは、増倍部41の側面から離間している。
【0054】
本実装例では、出力電極43は、本体部43aと、支持部43bと、を含む。本体部43aは、端面41bに設けられ、端面41bの全面を覆う部分である。本体部43aは、例えば矩形板状の形状を有しており、方向D1から見て端面41bよりもひと回り大きい。本体部43aは、支持部43bによって支持されている。支持部43bは、筒状の形状を有している。支持部43bの一端は、本体部43aに接続され、支持部43bの他端はネジ又は溶接等によって基板51の主面51aに固定されている。支持部43bによってアノード6が囲まれる。
【0055】
切替回路9は、主面51aに実装されている。切替回路9は、裏面51bに実装されてもよい。
図2には示されていないが、コンデンサ7,8は、基板51に実装されている。コンデンサ7,8は、主面51aに実装されてもよく、裏面51bに実装されてもよい。さらに、後段の信号処理回路に接続するための出力端子が基板51に実装されてもよい。出力端子としては、SMA(Sub Miniature Type A)コネクタ等が用いられる。
【0056】
次に、
図4~
図7を参照しながら、上記実装例に係るイオン検出器1の作用効果を説明する。
図4は、
図2に示されるイオン検出器の正イオン検出時における等電位線を示す図である。
図5は、
図2に示されるイオン検出器の負イオン検出時における等電位線を示す図である。
図6は、別の実装例のイオン検出器の正イオン検出時における等電位線を示す図である。
図7は、別の実装例のイオン検出器の負イオン検出時における等電位線を示す図である。
図6及び
図7に示される別の実装例のイオン検出器は、入力電極32が延長部32bを含まない点、及び入力電極42が延長部42bを含まない点において、
図4及び
図5に示されるイオン検出器と相違する。
【0057】
図4~
図7に示される等電位線は、シミュレーションによって計算された。
図4~
図7には、-5000V~+5000Vの範囲で1000Vごとに等電位線が示されている。電子増倍体3及びアノード5として、本体部32a、増倍部31、出力電極33、及びアノード5を一体化したシミュレーションモデルが用いられた。電子増倍体4及びアノード6として、本体部42a、増倍部41、出力電極43、及びアノード6を一体化したシミュレーションモデルが用いられた。入力電極32には-10kVの電圧が印加され、アノード5には-6.5kVの電圧が印加された。入力電極42には+10kVの電圧が印加され、アノード6には+13.5kVの電圧が印加された。イオンレンズ21には接地電位が付された。
図4及び
図6の等電位線の計算において、イオンレンズ22には、-500Vの電圧が印加された。
図5及び
図7の等電位線の計算において、イオンレンズ22には、+500Vの電圧が印加された。
【0058】
図4~
図7に示されるように、空間S1では、電子増倍体3に印加されている電圧によって負の電位が支配的となり、電子増倍体3に近づくほど電位が低くなる。空間S2では、電子増倍体4に印加されている電圧によって正の電位が支配的となり、電子増倍体4に近づくほど電位が高くなる。貫通孔2aから入力電極32に向かって正イオンは移動し、貫通孔2aから入力電極42に向かって負イオンは移動する。このため、イオン導入部2と入力電極32及び入力電極42との間の空間(イオン移動領域)における電位勾配が、イオンの軌道に影響を与え得る。
【0059】
図6及び
図7に示されるように、入力電極32が延長部32bを含まない場合には、増倍部31が露出するので、増倍部31の電圧(電位)が内部空間Sにおける電位に影響を与える。同様に、入力電極42が延長部42bを含まない場合には、増倍部41が露出するので、増倍部41の電圧(電位)が内部空間Sにおける電位に影響を与える。入力電極32の印加電圧の絶対値と入力電極42の印加電圧の絶対値とは等しいものの、増倍部41の電圧の絶対値が増倍部31の電圧の絶対値よりも大きくなり、それらの差は出力電極33,43に向かうにつれて大きくなる。したがって、正の電圧よりも負の電圧の方が内部空間Sにおける電位に大きな影響を与えるので、上記仮想面に対して、正の電位勾配と負の電位勾配との対称性が大きく崩れている。その結果、イオン移動領域において、正の電位が空間S1にも発生している。
【0060】
このため、正イオン検出時には、負の電位による引き込み成分よりも正の電位による反発成分が大きくなるので、正イオンには方向D2において電子増倍体4から離れる方向に力が加わる。同様に、負イオン検出時には、負の電位による反発成分よりも正の電位による引き込み成分が大きくなるので、負イオンには方向D2において電子増倍体3から離れる方向に力が加わる。正の電位勾配と負の電位勾配との対称性が高い理想的な状態に基づいて、距離L1及び距離L2が設定される場合には、距離L1と距離L2とは互いに等しくなる。この場合、
図6及び
図7に示される例では、正イオンが入力電極32に到達する可能性が低減し、正イオンの検出精度が低下するおそれがある。同様に、負イオンが入力電極42に到達する可能性が低減し、負イオンの検出精度が低下するおそれがある。
【0061】
一方、
図4及び
図5に示されるように、入力電極32が延長部32bを含む場合には、増倍部31の端面31aを含む端部が延長部32bによって覆われる。したがって、増倍部31の電圧が内部空間Sにおける電位に与える影響が軽減され、入力電極32の印加電圧が内部空間Sにおける電位に与える影響が増大する。同様に、入力電極42が延長部42bを含む場合には、増倍部41の端面41aを含む端部が延長部42bによって覆われる。したがって、増倍部41の電圧が内部空間Sにおける電位に与える影響が軽減され、入力電極42の印加電圧が内部空間Sにおける電位に与える影響が増大する。その結果、
図6及び
図7と比較して、イオン移動領域においては、正の電位勾配と負の電位勾配との対称性が改善している。このため、正イオン検出時において、反発成分と引き込み成分とのバランスが取れ、正イオンが入力電極32に到達する可能性が増大するので、正イオンの検出精度を向上させることが可能となる。同様に、負イオン検出時において、反発成分と引き込み成分とのバランスが取れ、負イオンが入力電極42に到達する可能性が増大するので、負イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0062】
延長部32bは筒状の形状を有しているので、増倍部31の端面31aを含む端部が延長部32bによって囲まれる。同様に、延長部42bは筒状の形状を有しているので、増倍部41の端面41aを含む端部が延長部42bによって囲まれる。したがって、端面31aを含む端部の一部が延長部32bによって覆われ、端面41aを含む端部の一部が延長部42bによって覆われる構成と比較して、イオン移動領域において、正の電位勾配と負の電位勾配との対称性が更に改善している。その結果、正イオン及び負イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0063】
電子増倍体3と中心軸AXとの方向D2における距離L1は、電子増倍体4と中心軸AXとの方向D2における距離L2と等しい。したがって、電子増倍体3の配置と電子増倍体4の配置とを個別に調整する必要が無いので、電子増倍体3及び電子増倍体4の配置の設計を簡単化することができる。
【0064】
電子増倍体3と電子増倍体4とは、方向D2において互いに離間しながら、方向D1に延びるように設けられる。入力電極32と入力電極42とはいずれも方向D1においてイオン導入部2と向かい合っている。言い換えると、本体部32aと本体部42aとが同じ方向を向いており、入力電極32と入力電極42とが対面しないように構成されている。したがって、入力電極32が電子増倍体4で発生した荷電粒子に由来するノイズを受ける可能性を低減することができる。同様に、入力電極42が電子増倍体3で発生した荷電粒子に由来するノイズを受ける可能性を低減することができる。その結果、正イオン及び負イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0065】
電子増倍体3と電子増倍体4とが互いに異なる基板に実装されている構成では、電子増倍体3の位置と電子増倍体4の位置とを個別に合わせる必要がある。一方、上記実装例に係るイオン検出器1では、1枚の基板51に電子増倍体3及び電子増倍体4が配置されるので、電子増倍体3と電子増倍体4との間の距離が一定になる。したがって、電子増倍体3と電子増倍体4との間の方向D2における中心点を中心軸AX上に合わせるだけで、電子増倍体3及び電子増倍体4の方向D2における位置が定まる。その結果、イオン検出器1の組立精度を向上させることができる。
【0066】
電子増倍体3,4及びアノード5,6だけでなく、コンデンサ7,8及び切替回路9も、基板51に実装されている。この構成では、1枚の基板51にイオン検出器1の構成部品が実装されるので、コンデンサ7,8及び切替回路9を実装するために別の基板を準備する必要が無い。したがって、部品点数を削減することが可能となる。
【0067】
アノード5とアノード6との電位差が大きい場合には、アノード5とアノード6との間で基板51の主面51a又は裏面51bに沿って沿面放電が生じることがある。これに対し、基板51には、アノード5とアノード6との間に基板51を方向D1に貫通するスリットが設けられている。したがって、アノード5とアノード6との間の沿面距離が長くなる。これにより、アノード5とアノード6との間で沿面放電が生じる可能性を低減することができる。
【0068】
スペーサ52,53によりイオン導入部2が支持されるので、中心軸AX(貫通孔2a)の位置が定まる。したがって、イオン検出器1の組立精度を向上させることができる。
【0069】
なお、本開示に係るイオン検出器は上記実施形態に限定されない。
【0070】
入力電極32,42のいずれか一方が、延長部を含まなくてもよい。この場合も、入力電極32,42の両方が延長部を含まない構成と比較して、イオン移動領域において、正の電位勾配と負の電位勾配との対称性を改善することができる。その結果、正イオン及び負イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【0071】
電子増倍体3及び電子増倍体4の配置は、
図2に示される実装例における配置に限定されない。例えば、電子増倍体3と電子増倍体4とは、中心軸AXを挟んで入力電極32と入力電極42とが方向D2において互いに向かい合うように配置されてもよい。この場合、上記仮想面に対する正の電位勾配と負の電位勾配との対称性を維持することができる。電子増倍体3及び電子増倍体4の一方が方向D1に延びるように配置され、他方が方向D2に延びるように配置されてもよい。
【0072】
入力電極32に印加される電圧の絶対値と、入力電極42に印加される電圧の絶対値とは、等しくなくてもよい。
【0073】
次に、
図8を参照しながら、
図1に示されるイオン検出器1の更に別の実装例を説明する。
図8は、
図1に示されるイオン検出器の更に別の実装例を示す断面図である。
図8に示されるように、本実装例のイオン検出器1は、基板51に代えて基板61(第1基板)及び基板62(第2基板)を備える点、並びにコンデンサ7,8及び切替回路9の実装において、
図2に示される実装例のイオン検出器1と主に相違している。
【0074】
基板61は、電子増倍体3が実装される板状の部材である。基板61は、例えば、ガラスエポキシ基板等のプリント基板である。基板61は、主面61a(第1主面)と、主面61aと反対側の裏面61bとを有する。主面61a及び裏面61bは、方向D1と交差(ここでは、直交)する。主面61aは、方向D1においてイオン導入部2と向かい合っている。基板62は、電子増倍体4が実装される板状の部材である。基板62は、例えば、ガラスエポキシ基板等のプリント基板である。基板62は、主面62a(第2主面)と、主面62aと反対側の裏面62bとを有する。主面62a及び裏面62bは、方向D1と交差(ここでは、直交)する。主面62aは、方向D1においてイオン導入部2と向かい合っている。基板61と基板62とは、方向D2に配列されている。基板61と基板62とは、方向D2と直交するとともに中心軸AXに沿った仮想面に対して実質的に面対称に配置される。
【0075】
アノード5は、主面61aに設けられている。アノード5は、配線パターンとして主面61a上に形成されてもよい。アノード6は、主面62aに設けられている。アノード6は、配線パターンとして主面62a上に形成されてもよい。アノード5とアノード6とは、上記仮想面に対して実質的に面対称に配置される。
【0076】
電子増倍体3は、出力電極33がアノード5と方向D1において向かい合うように主面61a上に配置されている。本実装例では、支持部33bの他端はネジ又は溶接等によって基板61の主面61aに固定されている。電子増倍体4は、出力電極43がアノード6と方向D1において向かい合うように主面62a上に配置されている。本実装例では、支持部43bの他端はネジ又は溶接等によって基板62の主面62aに固定されている。
【0077】
コンデンサ7,8及び切替回路9は、基板61,62とは別の基板(不図示)に実装されている。なお、コンデンサ7は、基板61に実装されてもよく、コンデンサ8は、基板62に実装されてもよい。
【0078】
この実装例では、アノード5とアノード6とは異なる基板に配置されるので、アノード5とアノード6との間で沿面放電が生じる可能性を低減することができる。さらに、電子増倍体3と電子増倍体4とは互いに異なる基板に配置されるので、電子増倍体3及び電子増倍体4の配置の自由度を向上させることができる。
【0079】
次に、
図9を参照しながら、
図1に示されるイオン検出器1の更に別の実装例を説明する。
図9は、
図1に示されるイオン検出器の更に別の実装例を示す断面図である。
図9に示されるように、入力電極32は、延長部32bを含まない。入力電極42は、延長部42bを含まい。このような構成では、上述のように、正イオン検出時には、正の電位によって正イオンが反発し、正イオンには方向D2において電子増倍体4から離れる方向に力が加わる。同様に、負イオン検出時には、正の電位によって負イオンが引き込まれ、負イオンには方向D2において電子増倍体3から離れる方向に力が加わる。
【0080】
これに対し、電子増倍体3と電子増倍体4とは、中心軸AXに沿った仮想面に対して非対称に配置される。具体的には、距離L1が距離L2よりも大きくなるように、電子増倍体3及び電子増倍体4が配置される。出力電極33に印加される電圧と出力電極43に印加される電圧との差が大きいほど、距離L1が距離L2よりも大きい値に設定される。正イオンの軌道をシミュレーションによって予め計算することによって、距離L1が定められてもよい。負イオンの軌道をシミュレーションによって予め計算することによって、距離L2が定められてもよい。
【0081】
この構成によれば、電子増倍体4よりも電子増倍体3の方が方向D2において中心軸AXから離れているので、正イオンが入力電極32に入射する可能性を高めることができる。同様に、電子増倍体3よりも電子増倍体4の方が方向D2において中心軸AXに近いので、負イオンが入力電極42に入射する可能性を高めることができる。したがって、正イオン及び負イオンの検出精度を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0082】
1…イオン検出器、2…イオン導入部、2a…貫通孔、3…電子増倍体(第1電子増倍体)、4…電子増倍体(第2電子増倍体)、5…アノード(第1アノード)、6…アノード(第2アノード)、9…切替回路、9a…入力端子(第1入力端子)、9b…入力端子(第2入力端子)、9c…出力端子、31…増倍部(第1増倍部)、32…入力電極(第1入力電極)、32a…本体部(第1本体部)、32b…延長部(第1延長部)、33…出力電極(第1出力電極)、41…増倍部(第2増倍部)、42…入力電極(第2入力電極)、42a…本体部(第1本体部)、42b…延長部(第1延長部)、43…出力電極(第2出力電極)、51…基板、51a…主面、51s…スリット、52,53…スペーサ(支持部材)、61…基板(第1基板)、62…基板(第2基板)、61a…主面(第1主面)、62a…主面(第2主面)、AX…中心軸、D1…方向(第1方向)、D2…方向(第2方向)。