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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】状態診断装置および状態診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20250120BHJP
   G01N 17/00 20060101ALI20250120BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20250120BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20250120BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20250120BHJP
   H02J 13/00 20060101ALN20250120BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01N17/00
G01H17/00 Z
G01R31/00
H01F27/00 H
H01F27/00 B
H02J13/00 301D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021131305
(22)【出願日】2021-08-11
(65)【公開番号】P2022089753
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2024-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020201943
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】代田 孝広
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇広
(72)【発明者】
【氏名】今村 武
(72)【発明者】
【氏名】中澤 義基
(72)【発明者】
【氏名】染谷 竜太
(72)【発明者】
【氏名】高倉 啓
(72)【発明者】
【氏名】高野 啓
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-036941(JP,A)
【文献】特開2022-012217(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0156225(US,A1)
【文献】国際公開第2012/029154(WO,A1)
【文献】特開平03-257805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
G01N 17/00
G01H 17/00
G01R 31/00
H01F 27/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の過去の点検に関する履歴情報および前記変圧器の機器情報に基づいて、前記履歴情報に所定の前処理を行う前処理部と、
前記前処理部により処理された情報に基づいて前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測する予測部と、
前記予測部により予測された前記変圧器の油中ガス量の変化傾向に基づいて前記変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断する状態診断部と、
前記予測部による前記変圧器の油中ガス量の変化傾向の予測値と、前記変圧器の点検結果に基づく前記油中ガス量の変化傾向の実測値との予測誤差に基づいて補正値を生成する補正値生成部と、を備え、
前記状態診断部は、前記予測部により予測された前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を前記補正値生成部により生成された補正値に基づいて補正し、補正した変化傾向に基づいて前記変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断する、
態診断装置。
【請求項2】
前記履歴情報は、前記変圧器の点検年月日および前記変圧器の油中に含まれるガスの分析結果、前記変圧器の運転時間、前記変圧器の過負荷率、前記変圧器に常設または仮設で取り付けたセンサからの取得情報のうち、少なくとも一つを含み、
前記機器情報は、前記変圧器のメーカー種別および電圧容量を含む、
請求項1に記載の状態診断装置。
【請求項3】
前記予測部は、複数の予測手法を用いて前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測し、
前記状態診断部は、前記複数の予測手法により予測されたそれぞれの予測結果に基づいて前記変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断する、
請求項1または2に記載の状態診断装置。
【請求項4】
前記複数の予測手法のうち少なくとも一つは、前記変圧器の油中ガスの物理的観点または化学的観点のうち、一方または双方に基づく予測手法を含む、
請求項3に記載の状態診断装置。
【請求項5】
前記変圧器に設けられた一以上のセンサにより検出されたデータを取得するセンシングデータ取得部と、
前記センシングデータ取得部により取得されたセンシングデータに基づいて、前記変圧器の状態を推定する状態推定部と、を更に備え、
前記状態診断部は、前記予測部により予測された前記変圧器の油中ガス量の変化傾向と、前記状態推定部により推定された推定結果とに基づいて前記変圧器の状態を診断する、
請求項1からのうち何れか1項に記載の状態診断装置。
【請求項6】
前記センシングデータは、前記変圧器から出力される音、前記変圧器の振動、または前記変圧器の温度のうち、少なくとも一つを含む、
請求項に記載の状態診断装置。
【請求項7】
前記前処理部は、過去から現在に至るまでの前記変圧器の油中ガス量の変化傾向に基づいて、適切でないと判定される油中ガス量を補正または除去する、
請求項1からのうち何れか1項に記載の状態診断装置。
【請求項8】
前記前処理部は、前記履歴情報に含まれる前記変圧器の油中ガス量が所定範囲に含まれない場合に、前記油中ガス量を外れ値として補正または除去する、
請求項に記載の状態診断装置。
【請求項9】
前記前処理部は、連続する二つの点検時点における前記変圧器の油中ガス量を比較し、後の点検時の変圧器の油中ガス量が前の点検時から閾値以上減少した場合に、前記変圧器の脱気作業が実施されたと判定し、前記前の点検時までの油中ガス量の変化傾向に基づいて前記後の点検時の変圧器の油中ガス量を補正する、
請求項またはに記載の状態診断装置。
【請求項10】
前記予測部は、状態を診断する対象の変圧器の電圧クラスまたは負荷状況のうち一方または双方に基づいて、前記変圧器の油中ガス量の予測手法の切り替え、または複数の予測手法の組み合わせによって、前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測する、
請求項1からのうち何れか1項に記載の状態診断装置。
【請求項11】
状態診断装置が、
変圧器の過去の点検に関する履歴情報および前記変圧器の機器情報に所定の前処理を行い、
前記前処理した情報に基づいて前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測し、
予測した前記変圧器の油中ガス量の変化傾向に基づいて前記変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断し、
予測した前記変圧器の油中ガス量の変化傾向の予測値と、前記変圧器の点検結果に基づく前記油中ガス量の変化傾向の実測値との予測誤差に基づいて補正値を生成し、
前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を、生成した前記補正値に基づいて補正し、補正した変化傾向に基づいて前記変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断する、
状態診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、変圧器の状態診断装置および状態診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所から送られてきた電力をそれぞれの使用目的に合せた電圧に昇降させる変電所は、市街地から離れた場所に設置され、無人で管理されていることが多い。このような変電所で使用される変圧器の健全性評価として、作業員が定期的に変電所を訪れて油中ガス分析による簡易検査が行われている。また、変圧器は、安定した性能を長期にわたり維持することが可能な高信頼性機器であり、検査を行っても前回とほとんど変化がないという状況が多い。そのため、変圧器の点検については、所定周期で点検を行うTBM(Time Based Maintenance)方式から、簡易な手法で機器の状態診断を行い、診断結果に応じて次回の検査時期を決定するCBM(Condition Based Maintenance)方式に切り替えることが望まれている。しかしながら、従来では、変圧器の状態を予測する手法が限定的であるため、適切な診断ができない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4857597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、変圧器の将来の状態を、より適切に診断することができる状態診断装置および状態診断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の状態診断装置は、前処理部と、予測部と、状態診断部と、補正値生成部とを持つ。前処理部は、変圧器の過去の点検に関する履歴情報および前記変圧器の機器情報に基づいて、前記履歴情報に所定の前処理を行う。予測部は、前記前処理部により処理された情報に基づいて前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測する。状態診断部は、前記予測部により予測された前記変圧器の油中ガス量の変化傾向に基づいて前記変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断する。補正値生成部は、前記予測部による前記変圧器の油中ガス量の変化傾向の予測値と、前記変圧器の点検結果に基づく前記油中ガス量の変化傾向の実測値との予測誤差に基づいて補正値を生成する。前記状態診断部は、前記予測部により予測された前記変圧器の油中ガス量の変化傾向を前記補正値生成部により生成された補正値に基づいて補正し、補正した変化傾向に基づいて前記変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断する。

【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態の状態診断装置100の構成例を示す図。
図2】点検履歴情報122の内容を説明するための図。
図3】変圧器情報124の内容について説明するための図。
図4】予測部140および状態診断部150の機能の詳細について説明するための図。
図5】第1の実施形態の状態診断装置100における一連の処理の流れを示すフローチャート。
図6】第2の実施形態の状態診断装置100Aの構成例を示す図。
図7】第3の実施形態の状態診断装置100Bの構成例を示す図。
図8】第3の実施形態の状態診断装置100Bにおける一連の処理の流れを示すフローチャート。
図9】第4の実施形態の状態診断装置100Cの構成例を示す図。
図10】第4の実施形態の状態診断装置100Cにおける一連の処理の流れを示すフローチャート。
図11】第5の実施形態の状態診断装置100Dの構成例を示す図。
図12】5の実施形態における脱気判定と油中ガス量の補正について説明するための図。
図13】第5の実施形態の状態診断装置100Dにおける一連の処理の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の状態診断装置および状態診断方法を、図面を参照して説明する。なお、以下では、絶縁および冷却媒体としての絶縁油をタンク内部に備える油入式変圧器の状態診断を行う状態診断装置および状態診断方法について説明する。変圧器は、例えば、発電所や変電所、その他の受変電設備に設置される変圧器である。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の状態診断装置100の構成例を示す図である。図1に示す状態診断装置100は、例えば、点検結果取得部110と、記憶部120と、前処理部130と、予測部140と、状態診断部150と、出力部160とを備える。点検結果取得部110、前処理部130、予測部140、および状態診断部150は、それぞれ、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。これらの構成要素の機能のうち一部または全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、状態診断装置100が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリ等の記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVD(Digital Versatile Disc)やCD-ROM等の着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が状態診断装置100のドライブ装置に装着されることで状態診断装置100が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0009】
記憶部120は、上記の各種記憶装置、或いはEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)等により実現されてもよい。記憶部120には、例えば、点検履歴情報122、変圧器情報124、プログラム、その他の各種情報等が格納される。また、記憶部120は、予測部140により予測された結果や、状態診断部150により診断された結果、出力部160により出力された情報が格納されてもよい。点検履歴情報122は、「履歴情報」の一例である。変圧器情報124は、「機器情報」の一例である。記憶部120は、状態診断装置100からアクセス可能な外部装置(例えば、データベースサーバ)であってもよい。
【0010】
点検結果取得部110は、状態を診断する対象の変圧器の点検結果を取得する。例えば、点検結果取得部110は、変圧器を点検した作業員または状態診断装置100の管理者等による状態診断装置100の入力部(不図示)を用いた入力操作によって、点検結果を取得する。また、点検結果取得部110は、ネットワークを介して接続された外部装置と通信を行うことで、外部装置から送信された点検結果を取得してもよい。ネットワークは、例えば、LAN(Local Area Network)でもよく、インターネットやセルラー網等のWAN(Wide Area Network)を含んでもいてもよい。また、点検結果取得部110は、ネットワークを介して変圧器から変圧器の状態に関する情報を所定周期(例えば、日ごとまたは週ごと)で取得してもよい。変圧器の状態に関する情報には、例えば、変圧器を外部と絶縁させるための絶縁油に含まれるガス(以下、油中ガス)の分析結果が含まれる。点検結果取得部110は、取得した点検結果を記憶部120の点検履歴情報122に格納する。
【0011】
図2は、点検履歴情報122の内容を説明するための図である。点検履歴情報122には、例えば、年月日に、点検理由および油中ガス分析結果が対応付けられている。年月日は、油中ガスが分析された年月日を示す情報である。点検理由は、例えば、作業員等が変圧器の点検やメンテナンス、検査等を実施した場合にその理由(例えば、定期点検、機器等の交換等)を示す情報である。点検履歴情報122において、点検理由が格納されていない場合には、点検日以外の日付の油中ガス分析結果が格納されていることを示す。
【0012】
油中ガス分析結果には、例えば、変圧器の内部の局部的な過熱や放電等によって絶縁油や絶縁物が熱分解する際に生じた分解ガスの分析結果である。分解ガスは、絶縁油中に溶解するため、油中に溶解した分解ガス(油中ガス)が抽出されることで、ガスの種類や、ガス種別ごとのガス量等が分析される。分析する油中ガスには、例えば、水素、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、一酸化炭素等が含まれる。また、油中ガス分析結果には、油中の可燃性ガス総量が含まれてもよい。また、点検履歴情報122には、変圧器の他の点検結果に関する情報(例えば、稼働状況、負荷率、利用率)が含まれていてもよい。例えば、点検結果に関する情報には、それぞれの変圧器について、油中ガス分析実施時における運転時間や、変圧器の許容負荷を超えた時間または回数の割合を表す過負荷率に関する情報が含まれる。また、運転時間や過負荷率を測定する装置を備えていない変圧器については、これらの情報を取得するための情報が点検結果に関する情報に含まれる。上述した点検結果に関する情報は、後述する前処理部130によって、点検履歴情報122に記憶されるデータから取得されてもよい。点検履歴情報122は、変圧器を識別する識別情報としての変圧器IDごとに格納されてよい。上述した履歴情報を点検履歴情報122に格納しておくことで、変圧器の将来の状態(例えば、現時点以降の各ガス種におけるガス量の変化傾向)等をより適切に予測することができる。
【0013】
また、点検結果取得部110は、状態を診断する対象の変圧器に関する情報を取得し、取得した情報を変圧器情報124として記憶部120に格納してもよい。図3は、変圧器情報124の内容について説明するための図である。変圧器情報124には、例えば、変圧器IDに機器データが対応付けられている。機器データには、例えば、変圧器を製造または販売したメーカーを識別するメーカー種別や、変圧器の規模や性能によって決められる変圧可能な電圧容量等が含まれる。また、機器データには、変圧器を管理する管理会社を識別する情報や、変圧器を構成する部品に関する情報(例えば、製造元、性能情報等)が含まれてもよい。
【0014】
前処理部130は、記憶部120に記憶された点検履歴情報122および変圧器情報124に基づいて、所定の前処理を実行する。所定の前処理とは、例えば、点検履歴情報122に含まれる情報から予測部140で利用する情報を生成することである。例えば、前処理部130は、過去から現在に至るまでの変圧器の油中ガス量の変化傾向に基づいて、適切でないと判定される油中ガス量を補正または除去する。点検履歴情報122の油中ガス分析結果には、変圧器中の絶縁油を成分分析することで得たガス種別ごとのガス量が含まれるが、ガス量には計測機器の故障や計測手法のミス、作業員等による計測結果の入力ミス等により、明らかに増減の許容範囲を超える外れ値(ノイズ)が存在する場合がある。また、変圧器内で絶縁油が充分に循環していない場合に成分の偏りが発生し、成分分析時に採取した絶縁油のガス量が実際よりも高い値もしくは低い値になり外れ値となる場合がある。また、成分分析時にノイズの影響を受けて実際よりも高い値もしくは低い値になり外れ値となる場合がある。このような外れ値を予測部140の入力データに含めると予測結果に大きく影響する可能性がある。
【0015】
したがって、前処理部130は、診断対象の変圧器IDの点検履歴情報122に含まれる油中ガス分析結果において、油中ガス量が所定範囲に含まれないガス量を外れ値として検出し、検出した外れ値を予測部140の入力対象のデータから除外する。所定範囲とは、例えば予め決められたガス量の下限値から上限値までの範囲である。また、所定範囲は、ガス種別ごとに設定されてよく、変圧器情報124に含まれる変圧器の機器データに基づいて設定されてよい。また、所定範囲は、ガス種別に関係なく固定範囲であってもよい。
【0016】
また、前処理部130は、例えば、対象データの中で特に大きい値や特に小さい値を検定するスミルノフ-グラブス(Smirnov-Grubbs)検定を適用して点検履歴情報122に含まれるガス量の外れ値を検出し、検出した外れ値を予測部140の入力対象のデータから除外してもよい。また、外れ値の検出については、有識者により設定したガス量変化の上下限を閾値としたフィルタによる判断など、成分分析したガス量の適正判断が可能な手法であれば何を適用してもよい。さらに、多くのガス量が外れ値と判断された変圧器情報や、外れ値と判断されないがガス量の増減変化が他と比べて大きな変圧器については、絶縁油や変圧器そのものが特異な状況になっていることも考えられるため、このような変圧器情報については、後述する予測モデルの生成時の学習用データから除外するような処理を行ってもよい。
【0017】
また、前処理部130は、点検履歴情報122に含まれるデータ全体の油中ガス量の分布から外れているガス量を外れ値として予測部140の入力対象のデータから除外してもよい。また、前処理部130は、外れ値を入力対象のデータから除外するのに代えて、外れ値が所定範囲に含まれるようにガス量を調整してもよい。また、前処理部130は、外れ値の代わりに過去の変化傾向から推定されるガス量で補間してもよい。具体的には、前処理部130は、検出した外れ値よりも過去に検出されたガス量に基づいて外れ値が検出された時点のガス量を線形補間する。なお、前処理部130は、過去のガス量の増減が著しく大きい場合(増減が閾値より大きい場合)には補間が適切に行えないため、外れ値を除外する。上述した外れ値に対する処理は、新規の油中ガス分析結果の適正判断だけでなく、過去の点検履歴情報に対する外れ値の判断にも適用し、外れ値について除外または補正を行う。また、前処理部130は、油中ガスの発生アルゴリズムを物理的または化学的な観点に基づいて分析し、分析した発生アルゴリズムによって生成したフィルタを用いて外れ値を含まない入力対象データを生成してもよい。
【0018】
また、変圧器のメンテナンスによって、絶縁油の少なくとも一部を入れ替えるような作業を行った場合には、その後の点検時には油中ガス量が著しく減少し、外れ値と見なされる可能性が高い。したがって、前処理部130は、診断対象の変圧器に対応付けられた点検履歴情報122の点検理由を参照し、点検理由が「絶縁油交換」等のように油中ガス量の変化が生じることが予測される理由である場合には、外れ値を予測部140の入力対象のデータから除外しないようにしてもよい。また、前処理部130は、交換した絶縁油の量や全体に対する割合に応じて、外れ値と見なされた油中ガス量を調整してもよい。また、前処理部130は、油中に含まれるガスの比率換算等を行ってもよい。
【0019】
予測部140は、前処理部130により処理されたデータを用いて、変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測する。例えば、予測部140は、油中ガス分析結果を入力とし、変圧器の油中ガス量の変化傾向を出力とする予測モデルを用いて、診断対象の変圧器の油中ガス分析結果に対する油中ガス量の将来の変化傾向を予測する。変化傾向には、例えば、油中ガスのガス量そのものや、ガス量が将来にどれくらいの割合で増加するのか(または現状維持なのか)等のトレンド情報が含まれる。将来とは、現時点から所定時間が経過するまでの期間である。
【0020】
また、予測モデルは、ネットワークを介して外部装置から取得してもよく予測部140により学習されてもよい。例えば、予測部140は、過去に予測した油中ガス量の変化傾向と、実測値から導出した油中ガス量の変化傾向とを比較して予測した変化傾向を実測値側に近似させるように制御(フィードバック制御)を行い、予測モデルを学習させる。予測モデルは、例えば、油中ガスに含まれるガス種別ごとに生成されてよい。また、複数の異なるガスの変化傾向の相関関係等に基づいて予測モデルを学習させてもよい。
【0021】
また、予測部140は、例えば、変圧器情報124の機器データに基づいて、同一の機器データである変圧器の油中ガス分析結果を用いて学習を行って予測モデルを生成してもよい。同一の機器データとは、例えば機器データに含まれるメーカー種別および電圧容量が同一の機器データであり、電圧容量は所定の誤差範囲を含んでもよい。また、予測部140は、メーカー種別が同一の変圧器の油中ガス分析結果のみを用いて予測モデルを学習させてもよく、電圧容量が同一の変圧器の油中ガス分析結果のみを用いて学習させてもよく、同一の変圧器の油中ガス分析結果を用いて学習させてもよい。予測部140は、どの油中ガス量を用いて学習するかについては、例えば、変圧器の特性や、予測対象のガス種別の特性、予測手法の特性、更には学習に利用可能なデータ数に応じて選択することができる。
【0022】
また、予測部140は、例えば、ランダムフォレストやLSTM(Long Short Term Memory)等の各種の機械学習やニューラルネットワークを用いて予測モデルを学習させてもよく、クラスタリング手法に基づく予測モデルを生成してもよく、VARモデル(Vector Auto Regression Model;ベクトル自己回帰モデル)やVARMAモデル(Vector Auto Regression Moving Average model;ベクトル自動回帰移動平均モデル)等を用いて予測モデルを生成してもよい。どのような予測モデル(予測手法)を用いて予測するかについては、例えば、予測部140が予測対象の変圧器の種類や油中ガスの種類、特性等に応じて選択してもよい。例えば、予測部140は、ガス種別の間に相関関係が認められず、学習用データとして他のガス種別を含めて予測モデルを構築すると他のガス種別の変化がノイズとなって適切な予測が難しくなる変圧器については、ランダムフォレストやLSTM等により、複数の変圧器の1種類のガス種別について学習することで予測モデルを生成する。また、予測部140は、変圧器の各ガス種別の間に強い相関関係が認められるようなガス種別のガス量を予測する場合には、特徴量ベクトルに関する時系列モデルであるVARモデルや、VARMAモデル等により複数の変圧器の全てのガス種別について学習することで予測モデルを生成する。そして、予測部140は、生成された予測モデルに基づいて1以上のガス種別における将来のガス量の変化傾向を予測する。また、予測部140は、複数のガス種別におけるガス量の変化傾向を総合的に判断して、将来のガス量の変化傾向を予測してもよい。
【0023】
状態診断部150は、予測部140により予測された変圧器の油中ガス量の変化傾向に基づいて、変圧器の将来の状態を診断する。将来の状態には、例えば、次回の点検時期、将来の故障時期、または寿命のうち少なくとも一つが含まれる。寿命とは、例えば、変圧器が稼働可能な残りの期間(余命)である。上述の予測部140および状態診断部150の機能の詳細については後述する。
【0024】
出力部160は、状態診断部150の診断結果に基づいて、出力先の装置に対応する情報を生成し、生成した情報を出力先に出力する。出力部160は、例えば、出力先の装置が表示装置の場合には、診断結果を示す画像を生成し、出力先の装置が音声出力装置である場合には、診断結果を示す音声を生成する。
【0025】
次に、予測部140および状態診断部150の機能の詳細について具体的に説明する。図4は、予測部140および状態診断部150の機能の詳細について説明するための図である。図4の例では、変圧器の油中ガスに含まれる特定のガス(以下、ガスAと称する)の時間経過に伴う実際のガス量(実測値)と、ガスAの変化傾向とを示している。図4の横軸は時刻tを示し、縦軸はガスAのガス量[ppm]を示している。時刻tは、年月日であってもよい。図4の例において、時刻t0は変圧器の稼働開始時刻を示し、時刻t1、t2、t3は過去の点検年月日を示している。また、図4の例では、時刻t0からt3までの期間において変圧器からガスAのガス量(実測値)が所定周期で連続的に取得されているものとする。また、図4の例では、時刻t0から所定周期(例えば時間△Ta)ごとに点検が行われているものとする。また、図4の例において、ガスAのガス量が0~G1の場合には変圧器は正常であるものとし、ガス量がG1~G2の場合には変圧器のメンテナンスが必要な区間(要注意区間)であるものとする。ガス量G1およびG2は、例えば、診断対象のガス種別によって異なっていてもよく、ガス種別に関係なく同一であってもよい。
【0026】
予測部140は、時刻t0~t3におけるガスAのガス量に基づいて、過去の(時刻t3より前の)変化傾向を取得する。例えば、予測部140は、時刻t0~t3におけるガス量を最小二乗法により誤差が最小となる近似直線を生成する。また、予測部140は、この直線をガスAの過去の変化傾向とし、過去の変化傾向に基づいてガスAのガス量の将来(時刻t3以降)の変化傾向を予測する。例えば、予測部140は、図4に示すように、過去の変化傾向の直線を時刻t3以降にも適用させて、将来の変化傾向を予測してもよく、ガス種別や変圧器情報124によって、図4に示す過去の変化傾向の直線の傾きを変化させて将来の変化傾向を予測してもよい。また、予測部140は、直線に代えて、所定関数に基づく近似曲線を用いて、ガス量の過去の変化傾向を取得したり、将来の変化傾向を予測してもよい。また、予測部140は、上述した予測モデルに時刻t0~t3におけるガスAのガス量を入力して、将来の変化傾向を予測してもよい。そして、予測部140は、変化傾向に基づいてガスAのガス量がG1に到達する時刻t10を予測する。
【0027】
なお、正常区間と要注意区間との境界のガス量G1は、予測信頼度が閾値以上となる許容範囲が含まれてもよい。例えば、ガス量G1を基準とした予測信頼度に基づく所定の許容量△Gが設定された場合、予測部140は、ガスAのガス量の将来の変化傾向に基づき、ガス量が許容量△Gの範囲に到達する期間△Pを予測する。期間△Pは、時刻t10を中心として予測精度が閾値以上となる時刻の範囲である。
【0028】
状態診断部150は、予測部140による予測結果に基づいて、変圧器の将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを診断する。図4の例において、状態診断部150は、時刻t3からの点検周期(時間△Ta)において、期間△P内に含まれる周期となる時刻t5を、次回の点検時期(将来の点検時期の一例)と診断する。つまり、図4の例では、時刻t3から時間△Taが経過した時刻t4では点検を行わずに、更に時間△Taが経過した時刻t5で変圧器が点検を行う状態であると診断する。なお、状態診断部150は、期間△Pのうち、時刻t10を越えないように将来の点検時期を設定するのが好ましい。したがって、上述の時刻t5が時刻t10よりも遅い時刻である場合、状態診断部150は、時刻t10を点検時期とする。これにより、ガス量がガス量G1を超えることを抑制し、より安全な点検時期を設定することができる。
【0029】
また、状態診断部150は、将来の変化傾向に基づき、時刻t3から時間△Taが経過した時刻t4において、ガスAのガス量がG1を超える場合には、要注意の状態になる前に変圧器の絶縁油の入れ替えや、変圧器の交換が必要であると診断してもよい。また、状態診断部150は、時刻t10が変圧器の稼働開始時刻から所定時間以上である場合には、時刻t10を変圧器の寿命であるとして診断してもよい。この場合、状態診断部150は、寿命に対応付けた時刻を変圧器の交換時期として診断してもよい。
【0030】
また、状態診断部150は、ガスの種類によっては、時刻t10を点検期間ではなく、変圧器の故障時期または絶縁油の交換時期として診断してもよい。例えば、状態診断部150は、油中ガスがガスAの場合には時刻t5を点検時期と診断し、ガスAと異なるガスBの場合には時刻t5を変圧器の故障時期と診断し、ガスA、Bと異なるガスCの場合には時刻t5を絶縁油の交換時期として診断してもよい。これにより、ガス種別ごとのガス量の将来の変化傾向に基づいて、より適切に変圧器を診断することができる。
【0031】
また、状態診断部150は、ガス量の将来の変化傾向が所定量を越えて減少傾向である場合、時刻t3から所定時間が経過してもガス量が許容量△Gに到達しない場合、または過去のガス量がすでにガス量G1またはG2を超えている場合には、変圧器に故障が発生していると診断してもよい。
【0032】
図5は、第1の実施形態の状態診断装置100における一連の処理の流れを示すフローチャートである。なお、図5の例では、すでに記憶部120に点検履歴情報122および変圧器情報124が記憶されているものとする。以降の実施形態におけるフローチャートの説明においても同様とする。図5の例において、前処理部130は、記憶部120に記憶された点検履歴情報122および変圧器情報124を取得し(ステップS100)、取得した情報に基づいて、点検履歴情報122に含まれる油中ガス分析結果に対する前処理を行う(ステップS102)。
【0033】
次に、予測部140は、前処理により処理されたデータに基づいて過去および将来のガス量の変化傾向を予測する(ステップS104)。次に、状態診断部150は、予測結果に基づいて、変圧器の将来の状態を診断する(ステップS106)。次に、出力部160は、状態診断部150により診断された変圧器の将来の状態を出力する(ステップS108)。
【0034】
上述したように第1の実施形態によれば、変圧器の将来の状態を、より適切に診断することができる。具体的には、第1の実施形態によれば、変圧器の絶縁油中ガスの分析結果に基づいて変圧器の状態を診断することで、次回の点検時期や機器の交換時期に関する情報を提供することができる。
【0035】
また、第1の実施形態によれば、より適切なタイミングで点検を行うだけでよく、TBM方式と比較して作業員の作業負担を軽減させることができる。例えば、半年に一度の周期で変圧器の点検を行っているような状況において、将来の変化傾向により5年後にガスAのガス量がG1に達するという結果が出た場合には、次回の点検は半年間隔で考えると4年半後に先延ばしすることができる。
【0036】
また、第1の実施形態によれば、半年後のガスAのガス量がG1を超えるという結果が出た場合には、要注意の状態になる前に変圧器のメンテナンスとして変圧器の油の入れ替えや、変圧器を交換するという対応を行うことができる。したがって、変圧器の故障による停電等のリスクを効率的に低減することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の状態診断装置について説明する。例えば、変圧器の油中ガス量は、基本的には変圧器内部での化学変化や経年劣化により増加する傾向がみられる。しかしながら、その増加量は、変圧器の機器特性や使用状況によって異なる場合もある。また、予測手法は、油中ガス量の長期的な変化傾向の予測を得意とするものや短期的な予測を得意とするもの、特定のガスに対して高い信頼度(精度)を待つもの等が存在する。そのため、第2の実施形態では、油中ガス量の変化傾向を予測するために、複数の予測手法を用いて予測を行い、複数の予測結果を総合的に判断して変圧器の状態を診断する。なお、以下の説明において、第1の実施形態における状態診断装置100の各構成のうち、機能が同一である構成には第1の実施形態と同様の符号を付するものとし、さらに共通事項に関する具体的な説明は省略する。以降の実施形態の説明においても同様とする。
【0038】
図6は、第2の実施形態の状態診断装置100Aの構成例を示す図である。図6に示す状態診断装置100Aは、例えば、点検結果取得部110と、記憶部120と、前処理部130Aと、複数の予測部140A-1~140-n(nは2以上の整数)と、状態診断部150と、出力部160とを備える。状態診断装置100Aは、第1の実施形態の状態診断装置100と比較して、前処理部130、予測部140、状態診断部150に代えて、前処理部130A、複数の予測部140A-1~140A-n、状態診断部150Aを備える点で相違する。以下では、主に上述した相違点を中心として説明する。
【0039】
第2の実施形態の前処理部130Aは、複数の予測部140A-1~140A-nのそれぞれに、前処理した情報を出力する。この場合、前処理部130Aは、予測部140Aごとの予測手法に対応させて入力データのフォーマット等を調整してもよい。
【0040】
複数の予測部140A-1~140A-nのそれぞれは、前処理部130Aから入力したデータに基づいて、それぞれが他の予測部とは異なる予測手法を用いて油中ガスの変化傾向を予測する。予測手法は、例えば、診断対象の変圧器またはガス種別に基づいてそれぞれ特性の異なるものが適用される。特性とは、例えば予測モデルのアルゴリズムの特徴等によって、ガス量の長期的な変化傾向の予測を得意とするものや、短期的な変化傾向を得意とするもの、特定のガス量に高い信頼性を持つもの等の特性である。
【0041】
予測部140A-1~140A-nにより実行される複数の予測手法の種類および数については、例えば、変圧器情報124に含まれる機器データ(メーカー種別、電圧容量)、変圧器の機器特性、使用状況に基づいて選定してもよく、予測対象のガス種別によって選定されてもよい。例えば、メーカーがA社の変圧器で油中ガスに含まれるガスAのガス量の変化傾向を予測する場合には予測手法Aが選定され、B社の変圧器で油中ガスに含まれるガスAのガス量の変化傾向を予測する場合には予測手法Bが選定される。また、変圧器の稼働年が10年以上の場合には予測手法Cが選定され、変圧器の稼働年が20年以上の場合には予測手法Dが選定される。
【0042】
また、変圧器は、電圧クラスや負荷状況によってガス量の変化傾向が異なる。電圧クラスとは、変圧器ごとに設定される使用可能な電圧の大きさである。また、負荷状況とは、変圧器の連続運転時間や使用頻度、現在までの油中ガス量の変化傾向、油中ガス種の油中ガス量の割合等の使用状況に基づく変圧器の負荷の度合である。したがって、特定手法だけで予測モデルを生成すると、変化傾向を適切に学習できない可能性がある。そのため、第2の実施形態において、予測部140A-1~140A-nでは、状態を診断する対象の変圧器の電圧クラスまたは負荷状況のうち一方または双方に基づいて、変圧器の油中ガス量の予測手法の切り替え、または複数の予測手法の組み合わせによって、変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測する。
【0043】
例えば、第2の実施形態において、前処理部130Aは、現在までのガス量の変化の増減の幅を算出し、算出した幅(変化)のばらつきが多い場合(幅が閾値以上の場合)にはノイズの影響や絶縁油の偏りが起きやすい傾向のある変圧器と判断する。そして、前処理部130Aは、ガス量の変化が増加傾向になるか減少傾向になるかを判断可能なトレンド予測に適した予測手法を選択し、ガス量変化の増減の幅が安定している場合に、ガス量そのものを予測する手法を選択して予測部に予測させる。また、前処理部130Aは、変化の増減の幅が閾値以上である場合の予測手法と、変化の増減の幅が閾値未満である場合の予測手法を設定し、変圧器の増減の幅に応じて予測手法を切り替えて予測部に予測させてもよい。また、変圧器によってはガス種別によってガス量の変化傾向が異なる場合がある。そのため、予測部140A-1~140A-nは、ガス種別ごとに対応付けられた予測手法で予測を行い、それらの予測結果を組み合わせて全体のガス量の変化を予測してもよい。なお、予測手法の種類および数については、状態診断装置100Aの利用者の操作により選定されてもよく、固定の種類および数が設定されていてもよい。複数の予測部140A-1~140A-nのそれぞれは、予測結果を状態診断部150Aに出力する。
【0044】
状態診断部150Aは、複数の予測部140A-1~140A-nのうち一以上から得られるガス量の変化傾向の予測結果を総合的に判断して将来の油中ガス量の変化傾向を予測する。例えば、状態診断部150Aは、複数の油中ガス量の将来の変化傾向を平均した結果を用いて変圧器の将来の状態を診断してもよく、変化が最大または最小となる変化傾向を用いて将来の状態を診断してもよい。
【0045】
また、状態診断部150Aは、ガス種別に応じて、予測手法ごとに所定の重みを付与し、重みが大きい予測手法によって予測された変化傾向に基づいて診断された結果の優先度を大きくしてもよい。この場合、ガス種別に応じた重みは、例えば、過去のガス量の変化傾向の予測結果と、実際のガス量の変化傾向とが近い予測手法ほど、そのガス種別に対する重みが重くなるように設定されている。
【0046】
例えば、状態診断部150Aは、長期的な予測を得意とする予測手法による予測結果と、短期的な予測を得意とする予測手法による予測結果とを組み合わせた将来の変化傾向に基づいて、変圧器の診断を行ってもよい。また、状態診断部150Aは、例えば、予測部140A-1で行ったガスAのガス量の変化傾向と、予測部140A-2で行ったガスBのガス量の変化傾向との相関関係に基づいて、ガスCのガス量の変化傾向を予測したり、変圧器の診断を行ってもよい。
【0047】
なお、新設の変圧器の場合には、過去の点検履歴が少ないため予測モデルを生成するための学習データも少ない。そのため、油中ガス量の将来の変化傾向を適切に予測できない可能性がある。この場合、複数の予測部140A-1~140A-nのうちの少なくとも一つは、変圧器の油中ガスの物理的な観点に基づく情報(以下、物理的観点情報)または化学的な観点に基づく情報(以下、化学的観点情報)のうち、一方または双方を用いた予測手法で予測を行う。
【0048】
物理的観点情報には、例えば、各ガス種別の相関関係や変圧器の経年変化量、変圧器の負荷率等が含まれる。複数の予測部140A-1~140A-nのうちの少なくとも一つは、油中ガスの分析結果に代えて(または加えて)、上述した物理的観点情報を入力とし、将来のガス量の変化傾向を出力とする予測ロジックに基づいて予測を行う。
【0049】
また、化学的観点情報には、例えば、絶縁油の過熱や放電、絶縁紙(セルロース)の分解により発生する気体の種類や発生量に関する情報が含まれる。例えば、変圧器が過熱および放電することにより、絶縁油が分解されて特定ガスが発生する。例えば、局部過熱の場合には、メタンが発生し、温度が高くなると水素が増加し、アセチレンも発生する。また、部分放電の場合には、主に水素やアセチレンが発生する。また、アーク放電の場合には、水素やアセチレンが多く発生し、更にはエチレンやメタン等も発生する。また、変圧器内部の巻線の導体被覆として使用される絶縁紙は、巻線に流れる大電流によって生じる熱や有機材料に吸着している水分によって徐々に分解され、炭酸ガスやフルフラール、アセトン等が発生する。これらの気体の発生量は、電流値や水分量によって決定される。複数の予測部140A-1~140A-nのうちの少なくとも一つは、油中ガスの分析結果に代えて(または加えて)、上述した化学観点情報を入力とし、将来のガス量の変化傾向を出力とする予測ロジックに基づいて予測を行う。このように、物理的観点情報および化学的観点情報に基づいて予測を行うことで、油中ガスの分析結果がないまたは少ない場合であっても、変化傾向を予測することができる。
【0050】
なお、予測部140Aは、上述した物理的観点情報および化学的観点情報の両方を用いてガス量の変化傾向を予測してもよい。例えば、絶縁油の過熱や放電、絶縁紙(セルロース)の分解の起こり易さや発生するガス量は、変圧器の経年数や負荷率で変化する。したがって、これらの情報を組み合わせることで、より適切にガス量の変化傾向を予測することができる。
【0051】
状態診断部150Aは、上述した物理的観点情報や化学的観点情報に基づいて予測された結果も含めて、ガス量の将来の変化傾向を総合的に診断することで、予測対象である変圧器の固有の特性を十分に反映した診断を行うことができる。なお、物理的観点情報または化学的観点情報を用いた予測は、新設の変圧器に限定されず、例えば十分な学習データが得られるような長年使用している変圧器の場合に適用させてもよい。
【0052】
第2の実施形態の状態診断装置100Aにおける一連の処理の流れについては、上述した第1の実施形態の状態診断装置100におけるステップS100~S108の処理と同様の流れで処理を行うことができるため、ここでの具体的な説明は省略する。なお、第2の実施形態の場合、ステップS102の処理では、前処理部130Aが前処理を実行し、ステップS104の処理では、予測部140A-1~140A-nのそれぞれが異なる予測手法で変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測する。また、ステップS106の処理では、状態診断部150Aが、複数の予測部140A-1~140A-nによって予測された結果を総合的に判断して、変圧器の状態を診断する。
【0053】
上述したように第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、複数の予測部140A-1~140A-nを用いて異なる予測手法で予測を行い、それぞれの予測結果を総合的に判断して最終的な予測結果を導出することで、変圧器の状態をより適切に診断することができる。
【0054】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態の状態診断装置について説明する。例えば、予測部140で用いられる予測モデルは、過去の油中ガス量の変化傾向を学習することで生成されるが、時間要素も含めて学習を行うため、経年劣化等の要素も含まれる。しかしながら、経年劣化は、変圧器の使用状況や周囲環境の影響によって異なるため、前回の点検時よりも経年劣化が進行している場合もありえる。したがって、第3の実施形態では、前回の点検時に予測した変圧器の油中ガス量(予測値)と新たに取得した変圧器の油中ガス量(実測値)を比較し、過去の予測誤差と比較して閾値以上の誤差が生じた場合には経年劣化の傾向に変化が発生したものとして、変圧器の油中ガス量の変化傾向を補正する。
【0055】
図7は、第3の実施形態の状態診断装置100Bの構成例を示す図である。状態診断装置100Bは、例えば、点検結果取得部110と、記憶部120と、前処理部130と、予測部140と、状態診断部150Bと、出力部160と、補正値生成部170とを備える。状態診断装置100Bは、第1の実施形態の状態診断装置100と比較して、状態診断部150に代えて状態診断部150Bを備え、更に補正値生成部170を備える点で相違する。以下では、主に上述した相違点を中心として説明する。
【0056】
補正値生成部170は、前回の点検時に予測した変圧器の油中ガス量と、今回新たに取得した変圧器の油中ガス量とを比較し、油中ガス量の予測誤差(例えば、ガス種別ごとのガス量ごとの誤差)を取得する。また、補正値生成部170は、予測誤差が閾値以上である場合に、経年劣化の傾向に変化が発生したものとして、変圧器の油中ガス量の変化傾向に対する補正値を生成する。補正値生成部170は、例えば、油中ガス量の予測誤差が閾値未満になるように油中ガス量の変化傾向に対する補正値を生成する。
【0057】
状態診断部150Bは、予測部140により予測された油中ガス量の変化傾向に対して、補正値生成部170により生成された補正値で補正して、将来の油中ガス量の状態を診断する。なお、補正値生成部170により補正値が生成されていない場合、状態診断部150Bは、予測部140により予測された油中ガス量の変化傾向に補正を行わない。
【0058】
図8は、第3の実施形態の状態診断装置100Bにおける一連の処理の流れを示すフローチャートである。図8の例は、図5に示す第1の実施形態の状態診断装置100のステップS100~S108の処理と比較して、ステップS200~S204の処理が追加されている点で相違する。したがって、以下では、主に上述の相違点を中心として説明し、他の処理の説明は省略する。
【0059】
図8の例において、ステップS104の処理後、補正値生成部170は、前回点検時に予測した油中ガス量と、今回取得した変圧器の油中ガス量とを比較する(ステップS200)。次に、補正値生成部170は、前回点検時に予測した油中ガス量と、今回取得した変圧器の油中ガス量との誤差が閾値以上であるか否かを判定する(ステップS202)。誤差が閾値以上であると判定した場合、誤差量に基づいて補正値を生成する(ステップS204)。
【0060】
第3の実施形態において、ステップS204の処理後、またはステップS202の処理において、誤差が閾値未満である場合、状態診断部150Bは、変圧器の将来の状態を診断する(ステップS106)。この場合、状態診断部150Bは、誤差が閾値以上である場合には、予測された油中ガス量の変化傾向および補正値に基づいて変圧器の現在の状態を診断したり、将来の状態を予測する。状態診断部150Bは、誤差が閾値未満である場合には、予測された油中ガス量の変化傾向に基づいて変圧器の現在の状態を診断したり、将来の状態を予測する。
【0061】
上述したように第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様の効果を奏する他、予測値と実測値との比較によって得られた誤差量に応じて、予測情報の補正を行うことで、変圧器の将来の状態をより適切に予測することができる。
【0062】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態の状態診断装置について説明する。例えば、変圧器の油中ガス量の変化傾向を予測する場合、過去の変圧器の油中ガス量や変圧器機器データに基づいて、予測モデルを生成するが、例えば点検時の直前に変圧器の内部状態に何らかの現象(変圧器が故障する前兆)が生じた場合には、この現象から変圧器の油中ガス量に変化が生じる可能性がある。そのため、点検時の変圧器の油中ガス量の変化だけでは変圧器の状態を適切に診断できない場合がある。そのため、第4の実施形態では、変圧器の状態を検知するセンサによって検出されたセンシングデータに基づいて、予測部140により予測された油中ガス量の変化傾向を補正する。
【0063】
図9は、第4の実施形態の状態診断装置100Cの構成例を示す図である。図9に示す状態診断装置100Cは、例えば、点検結果取得部110と、記憶部120Cと、前処理部130と、予測部140と、状態診断部150Cと、出力部160と、センシングデータ取得部180と、状態推定部190とを備える。状態診断装置100Cは、第1の実施形態の状態診断装置100と比較して、記憶部120および状態診断部150に代えて、記憶部120Cおよび状態診断部150Cを備える点で相違する。更に状態診断装置100Cは、状態診断装置100と比較して、センシングデータ取得部180および状態推定部190を備える点で相違する。したがって、以下では、主に上述した相違点を中心として説明する。
【0064】
図9に示すように診断対象の変圧器200には、一以上のセンサが設置されている。センサ210は、例えば、変圧器200から出力される音を検出するマイク等の音センサや、変圧器200の振動を検出する加速度センサ等の振動センサ、変圧器の温度(例えば、内部温度または外部温度)を検出する温度センサ、変圧器200の所定部位または全体の匂いを検出する匂いセンサ等が含まれる。匂いセンサは、異臭や匂いの程度(度合)を検出してもよく、匂いの元となるガスの種類を検出してもよい。センサ210は、変圧器200に取り付けられた常設センサでもよく、点検のときだけ仮設するセンサ(以下、仮設センサと称する)であってもよい。仮設センサは、変圧器200やその周辺に着脱自在に設置可能なセンサである。仮設センサは、例えば、前回までの診断結果に基づいて、近い将来に故障する可能性が高いと判断される変圧器や、状態を詳細に取得したい変圧器、状態推定や状態診断の精度を向上させたい変圧器に設置される。仮設センサを設置することで、より多くの情報を検出することができ、その後の状態推定部190における推定精度や状態診断部150における診断精度を向上させることができる。センサ210は、検出したデータ(センシングデータ)を、所定周期または所定タイミングでLANやWAN等のネットワークを介して状態診断装置100Cに送信する。
【0065】
センシングデータ取得部180は、センサ210から送信されたセンシングデータを取得する。また、センシングデータ取得部180は、取得したセンシングデータと、変圧器IDとセンシングデータが検知された時刻情報とを対応付けて、センシングデータ126として記憶部120Cに格納させる。また、センシングデータ取得部180は、取得したデータを点検履歴情報122に記憶してもよく、状態推定部190に出力してもよい。記憶部120Cには、状態診断装置100の記憶部120に格納される情報に加えて、センシングデータ126が格納される。
【0066】
状態推定部190は、記憶部120Cに記憶されたセンシングデータ126から診断対象の変圧器IDのセンシングデータを取得し、取得したセンシングデータに基づいて、変圧器200の内部の状態に関する推定処理を行う。例えば、状態推定部190は、センシングデータに含まれる変圧器から出力された音の周波数分析を行い、分析による音の周波数特性と、変圧器の不具合時に出力される音の周波数特性とを比較することで、変圧器200の状態を推定する。例えば、音の周波数特性の類似度が所定値未満である場合、変圧器200は正常状態であると推定し、所定値以上である場合には、変圧器200に不具合が生じている、または近い将来(所定の短い期間)に不具合が生じる可能性が高いと推定する。
【0067】
また、状態推定部190は、音による推定に代えて(または加えて)、センシングデータに含まれる変圧器200の振動についての周波数分析を行ってもよい。この場合、状態推定部190は、分析結果の振動の周波数特性と、変圧器200の不具合時に出力される振動の周波数特性とを比較することで、変圧器の状態を推定する。また、センシングデータ取得部180は、音や振動に代えて(または加えて)、センシングデータに含まれる温度と、変圧器の不具合時の温度とを比較して、変圧器の状態を推定してもよい。
【0068】
また、状態推定部190は、音や振動、温度に代えて(または加えて)、センシングデータに含まれる変圧器200の匂いの程度や種類に基づいて、変圧器200の状態を推定してもよい。この場合、状態推定部190は、匂いの程度が大きくなるほど変圧器200に不具合が生じる可能性が高いと推定してもよく、所定のガス種別の匂いの程度が閾値以上である場合に、変圧器200に不具合が生じていると推定してもよい。
【0069】
また、状態推定部190は、変圧器200の種類や特性、変圧器200の周囲環境に応じて、センシングデータに含まれる音、振動、温度、匂いを示すデータのうち、一以上のデータを選択的に利用して、変圧器の状態を推定してもよい。また、状態推定部190は、センシングデータ取得部180がセンサ210から取得したセンシングデータに基づいて変圧器200の状態を周期的に監視してもよい。
【0070】
状態診断部150Cは、予測部140により予測された油中ガス量の変化傾向と、状態推定部190により推定された状態に基づいて、変圧器200の状態を診断する。例えば、状態診断部150Cは、予測部140に予測部140により予測された油中ガス量の変化傾向に対して、状態推定部190で不具合が発生している、または近い将来に発生する可能性があると推定された場合には、油中ガス量の増加傾向を大きくなるように補正して診断を行う。また、状態診断部150Cは、不具合が発生していると推定された場合には、すぐに点検を行う診断を行ってもよい。
【0071】
図10は、第4の実施形態の状態診断装置100Cにおける一連の処理の流れを示すフローチャートである。図10の例は、図5に示す第1の実施形態の状態診断装置100のステップS100~S108の処理と比較して、ステップS106に代えてステップS210~S214の処理が追加されている点で相違する。したがって、以下では、主に上述の相違点を中心として説明し、他の処理の説明は省略する。
【0072】
図10の例において、ステップS104の処理後、センシングデータ取得部180は、状態診断対象の変圧器200に設置されたセンサ210により検出されたセンシングデータを取得する(ステップS210)。次に、状態推定部190は、センシングデータに基づいて変圧器の状態を推定する(ステップS212)。次に、状態診断部150Cは、油中ガス量の変化傾向の予測結果と、状態推定部190の推定結果とに基づいて、変圧器200の状態を診断する(ステップS214)。
【0073】
上述したように第4の実施形態によれば、上述した第1の実施形態と同様の効果を奏する他、センシングデータに基づく変圧器の状態の推定結果を用いて、変圧器の状態を総合的に診断することができる。これにより、将来における変圧器の状態をより適切に予測することができる。また、第4の実施形態によれば、センシングデータに基づいて、近い変圧器の将来の状態を、より精度よく診断することができる。
【0074】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態の状態診断装置について説明する。例えば、変圧器のメンテナンスにおいて、脱気作業を行う場合がある。脱気作業は、例えば、少なくとも絶縁油の一部を入れ替えることで油中ガス(溶存気体)を取り除くこと、または他の手法で油中のガスの量を減らす処理である。この脱気作業を行うことで絶縁油のガス量は大きく減少するため、脱気作業を行った前後のガス量は連続性が失われてしまう。したがって、脱気作業を行ったガス量の情報を用いてガス量の変化傾向を予測した場合には、不連続性も予測モデルに反映され、適切でない予測結果が得られる可能性がある。そこで、第5の実施形態では、点検履歴情報122に記憶された履歴情報(過去から現在に至るまでの変圧器の油中ガス量の変化傾向)に基づいて、脱気作業が行われたと推定される箇所を判定し、脱気作業によって予測に適切でないデータである油中ガス量を、その箇所より以前のガス量の変化と連続性を踏まえて補正する。
【0075】
図11は、第5の実施形態の状態診断装置100Dの構成例を示す図である。状態診断装置100Dは、例えば、点検結果取得部110と、記憶部120と、前処理部130Dと、予測部140と、状態診断部150と、出力部160とを備える。状態診断装置100Dは、第1の実施形態の状態診断装置100と比較して、前処理部130に代えて前処理部130Dを備える点で相違する。以下では、主に上述した相違点を中心として説明する。
【0076】
前処理部130Dは、第1の実施形態の前処理部130の処理に加えて(または代えて)、以下の処理を行う。前処理部130Dは、例えば、脱気判定部132と、補正部134とを備える。脱気判定部132は、点検履歴情報122に記憶された履歴情報に基づいて、連続する二つの点検時点の油中ガス量を比較し、前の点検時から後の点検時までの間で脱気作業が実施されたか否かを判定する。上記の脱気作業は、前の点検時に実施された場合も含まれてよい。例えば、脱気判定部132は、後の点検時の変圧器の油中ガス量が前の点検時から閾値以上減少した場合に脱気作業が実施されたと判定し、閾値以上減少していない場合に脱気作業が実施されていないと判定する。ガス量は、予め決められた一つのガス成分であってもよく、複数のガス成分の減少量の平均と閾値とを比較してもよい。
【0077】
図12は、第5の実施形態における脱気判定と油中ガス量の補正について説明するための図である。図12において横軸は時間tを示し、縦軸は、ある油中ガス成分のガス量(油中ガス量)[ppm]を示す図である。時刻t11~t16は、所定周期における各点検時点を示している。また、図12の左側のグラフは、点検履歴情報122に記憶された履歴情報に基づく油中ガス量を示し、図12の右側のグラフは、補正後の油中ガス量を示している。
【0078】
図12の左側のグラフにおいて、時刻t13の点検時における油中ガス量GA1から、その後の点検時(時刻t14)における油中ガス量GA2への減少量(△GA)が閾値以上であるものとする。この場合、脱気判定部132は、時刻t13からt14までの間で脱気作業が実施されたと判定する。
【0079】
また、脱気判定部132は、点検履歴情報122に含まれる時刻t11からt16までの油中ガス量の変化傾向に基づく変曲点が抽出された場合に、抽出された変曲点の前後の点検時点の間で脱気作業が実施されたと判定してもよい。変化傾向に基づく変曲点とは、例えば、油中ガス量の変化傾向を曲線で表した場合に、二階微分の符号が変化する点(曲線において、上に凸の状態と下に凸の状態とが切り替わる点)である。
【0080】
補正部134は、脱気判定部132により脱気作業が実施されたと判定された場合に、脱気作業が実施される前までの油中ガス量に基づいて、脱気作業が実施された後の油中ガス量を増加させる補正を行う。例えば、補正部134は、時刻t11から時刻t13までの油中ガス量の変化傾向を取得し、取得した変化傾向に基づいて時刻t13における油中ガス量GA1を基準として時刻t13以前と同様の変化傾向で変化するように時刻t14~t16における油中ガス量を補正する。
【0081】
具体的には、補正部134は、時刻t11からt12までの油中ガスの増加量(第1増加量)と、時刻t12からt13までの油中ガス量の増加量(第2増加量)との平均増加量を算出し、時刻t13における実際の油中ガス量GA1から平均増加量を加算した油中ガス量を、時刻t14におけるガス量として補正する。また、補正部134は、油中ガス量GA1から直前の増加量である第2増加量のみを加算して時刻t14における油中ガス量としてもよい。また、補正部134は、第2増加量から第1増加量を減算した値(第2増加量-第1増加量)を、第2増加量に加算した値を、油中ガス量GA1に加算して時刻t14における油中ガス量としてもよい。また、時刻t15、t16における油中ガス量は、時刻t14における油中ガス量からの増加量を、補正後の油中ガス量に加算して補正する。
【0082】
また、補正部134は、油中ガス量の変化傾向に基づく変曲点が抽出された場合に、その変曲点の前後の点検時における油中ガス量に基づいて脱気作業後の油中ガス量を補正してもよい。この場合、補正部134は、変曲点の前後のそれぞれで、複数の測定結果で得られた油中ガス量に基づいて、変化傾向の連続性が維持されるように補正を行う。
【0083】
これにより、図12の左側のグラフに示すように、連続性を維持した変化傾向を取得することができ、この変化傾向に基づいて、時刻t16以降の予測をより適切に行うことができる。
【0084】
図13は、第5の実施形態の状態診断装置100Dにおける一連の処理の流れを示すフローチャートである。図13の例は、図5に示す第1の実施形態の状態診断装置100のステップS100~S108の処理と比較して、ステップS220~S224の処理が追加されている点で相違する。したがって、以下では、主に上述の相違点を中心として説明し、他の処理の説明は省略する。
【0085】
図13の例において、ステップS102の処理後、脱気判定部132は、点検履歴情報122に記憶された履歴情報に基づいて、連続する二つの点検時点の油中ガス量を比較し(ステップS220)、後の点検時の変圧器の油中ガス量が前の点検時から閾値以上減少したか否かを判定する(ステップS222)。後の点検時の変圧器の油中ガス量が前の点検時から閾値以上減少していると判定された場合、脱気判定部132は、脱気作業が実施されたと判定する。そして、補正部134は、連続する二つの点検時点のうち後の点検時以降の油中ガス量を補正する(ステップS224)。ステップS224の処理後、またはステップS222の処理において、閾値以上減少していないと判定された場合、ステップS104以降の処理を実行する。
【0086】
上述したように第5の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する他、メンテナンス等により脱気作業が実施された場合であっても、油中ガスの変化傾向の連続性を維持する補正を行うことで、変圧器の将来の状態をより適切に予測することができる。
【0087】
上述した第1~第5の実施形態のそれぞれは、他の実施形態の一部または全部を組み合わせてもよい。したがって、点検履歴情報122は、例えば、変圧器の点検年月日および変圧器の油中に含まれるガスの分析結果、変圧器の運転時間、変圧器の過負荷率、変圧器に常設または仮設で取り付けたセンサからの取得情報のうち、少なくとも一つを含む。状態診断装置100、100A~100Dは、点検履歴情報122等を用いて、上述した各種の予測や診断等を行う。上述した各実施形態によれば、変圧器の絶縁油の油中ガスの分析結果に基づいて変圧器の状態を診断することで、より適切に将来の点検時期、故障時期、または寿命のうち少なくとも一つを提供することができる。
【0088】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0089】
100…状態診断装置、110…点検結果取得部、120…記憶部、130…前処理部、140…予測部、150…状態診断部、160…出力部、170…補正値生成部、180…センシングデータ取得部、190…状態推定部
図1
図2
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