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特許7621949リチウム化学物質及び金属リチウムの製造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】リチウム化学物質及び金属リチウムの製造
(51)【国際特許分類】
   C01D 15/02 20060101AFI20250120BHJP
   C01D 15/10 20060101ALI20250120BHJP
   C22B 26/12 20060101ALI20250120BHJP
   C22B 1/04 20060101ALI20250120BHJP
   C22B 1/24 20060101ALI20250120BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20250120BHJP
   C22B 5/16 20060101ALI20250120BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
C01D15/02
C01D15/10
C22B26/12
C22B1/04
C22B1/24
C22B5/10
C22B5/16
C22B3/06
【請求項の数】 35
(21)【出願番号】P 2021531386
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 AU2019051308
(87)【国際公開番号】W WO2020107074
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】2018904540
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】521235051
【氏名又は名称】アイシーエスアイピー ピーティーワイ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ICSIP PTY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】リチャード ハンウィック
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-538445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01D
C22B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸リチウム出発材料から酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を製造するプロセスであって、前記硝酸リチウム出発材料を、その画分が酸化リチウムを形成するように、且つ、前記硝酸リチウム出発材料の残りの画分が酸化リチウムに分解しないように、熱分解することを含み、前記熱分解を決められた時間後に終了し、前記硝酸リチウム出発材料の残りの画分を確保し、それにより、前記酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を製造する、プロセス。
【請求項2】
記終了が、前記ブレンド物を、約600℃未満の温度に冷却することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ブレンド物を、約260℃未満の温度にさらに冷却し、それにより酸化リチウムと硝酸リチウムとの固体のブレンド物を製造する、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記固体のブレンド物を、プリル、ペレット、又はフレークの形態となるように製造する、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を、分散された酸化リチウム結晶を含む溶融硝酸リチウム塩の槽を形成するように加熱し、そこに、1つ又は複数の遷移金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は硝酸塩を加えることをさらに含む、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記硝酸リチウム出発材料が、溶融硝酸リチウム塩である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
酸化リチウムに熱分解した前記硝酸リチウム出発材料の画分が、前記硝酸リチウム出発材料の50~90%である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記熱分解によって酸素及び窒素酸化物を含むガスを製造し、これらのガスを回収し、硝酸製造段階に送る、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記硝酸製造段階で製造された硝酸を、リチウム含有ケイ酸塩鉱物と混合し、前記硝酸とリチウム含有ケイ酸塩鉱物との混合物を、前記リチウム含有ケイ酸塩鉱物中のリチウム有価物が硝酸リチウムとして前記リチウム含有ケイ酸塩鉱物から浸出される浸出段階に付し、次いで、前記熱分解のための前記硝酸リチウムを分離し、酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を形成する、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記熱分解が、前記硝酸リチウム出発材料を直接的又は間接的に加熱することを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記直接的又は間接的に前記硝酸リチウム出発材料を加熱することが、大気圧又はそれ以上の圧力で行われる、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を、還元プロセスによってリチウム金属に変換することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記還元プロセスが、前記酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を炭素源と共に、前記硝酸リチウム出発材料の残りの画分を熱分解させるのに十分な温度、及び酸化リチウムをリチウム金属に還元して炭素源をガス状に酸化するのに十分な温度に加熱すること含む、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
前記還元プロセスの後に、リチウム金属がリチウム金属蒸気を含み、前記リチウム金属蒸気及びガス状酸化炭素を、液体リチウム金属を形成するために急速に冷却する、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記リチウム金属蒸気及びガス状酸化炭素を、収束-発散ノズルによる超音速膨張によって急速に冷却する、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記液体リチウム金属及びガス状酸化炭素を、互いに分離し、前記ガス状酸化炭素を任意に回収して燃料として再利用する、請求項14又は15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記液体リチウム金属及びガス状酸化炭素を、サイクロン分離段階に通して互いに分離する、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記硝酸リチウム出発材料の供給源が塩原を含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項19】
前記塩原からの前記硝酸リチウム出発材料が硝酸リチウムの溶液であり、前記硝酸リチウムの溶液は、塩原処理段階からリチウムが豊富な塩水(LiCl)を採取し、そこに硝酸塩を加え、得られた混合物を、硝酸リチウムの溶液を製造するように熱処理段階に付すことによって製造される、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記硝酸塩はチリ硝石(NaNO)である、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
硝酸リチウム出発材料から酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を製造するためのシステムであって、前記硝酸リチウム出発材料における硝酸リチウムの画分をその中で熱分解して酸化リチウムを形成できるように、且つ、前記硝酸リチウム出発材料の残りの画分が酸化リチウムに分解しないようにし、それにより前記酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を製造するように構成された熱分解反応器を含む、システム。
【請求項22】
前記熱分解反応器が、タンク反応器を含み、前記タンク反応器が、溶融硝酸リチウムをタンク反応器の上部に加えることができ、且つ、酸化リチウムを含む硝酸リチウムのスラリーを前記タンク反応器の底部から引き抜くことができるように配置され、前記タンク反応器が、前記スラリーの上方にガス空間を提供し、その空間に前記硝酸リチウム出発材料の熱分解による窒素酸化物及び酸素を集めて取り出せるように配置された、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記タンク反応器が、周囲よりも高い圧力で動作するように構成された圧力容器である、請求項22に記載のシステム。
【請求項24】
前記タンク反応器が、600℃を超える温度に加熱されるように構成される、請求項22に記載のシステム。
【請求項25】
前記硝酸リチウム出発材料をその融点温度である260℃を超える温度に加熱するように構成された予熱容器をさらに含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項26】
前記予熱容器が前記硝酸リチウム出発材料を約400℃まで加熱するように構成される、請求項25に記載のシステム。
【請求項27】
硝酸製造反応器をさらに含み、前記硝酸製造反応器は、前記ガス空間から取り出すことが可能な窒素酸化物及び酸素を受け取るように構成される、請求項22に記載のシステム。
【請求項28】
浸出反応器をさらに含み、前記浸出反応器は、硝酸とリチウム含有ケイ酸塩鉱物とを混合して、前記リチウム含有ケイ酸塩鉱物中のリチウム有価物が前記リチウム含有ケイ酸塩鉱物から硝酸リチウムとして浸出することができるように構成される、請求項21に記載のシステム。
【請求項29】
前記浸出反応器で製造された硝酸リチウムの溶液を分離するように構成された濾過段階をさらに含む、請求項28に記載のシステム。
【請求項30】
前記浸出反応器で製造された硝酸リチウムの溶液を受け取り、硝酸リチウムを結晶化して溶液中で結晶化LiNOを形成するように配置された結晶化装置をさらに含む、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
分離機をさらに含み、前記分離機は、前記結晶化LiNOを前記溶液から分離するように構成され、前記システムは、前記分離したLiNOを熱分解反応器に送るように構成される、請求項30に記載のシステム。
【請求項32】
還元炉をさらに含み、前記還元炉は、溶融硝酸リチウム槽に酸化リチウム結晶を含むスラリーを受け取り、前記スラリーを炭素源と混合するように構成され、且つ、前記還元炉は、前記スラリーをリチウム金属に還元するために、前記スラリーと前記炭素源との混合物を加熱するようにさらに構成され、前記加熱は、硝酸リチウムと炭素との反応による加熱を含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項33】
フラッシュ冷却装置をさらに含み、前記フラッシュ冷却装置は、ガス状のリチウム金属が急速に冷却されるように、ガス状のリチウム金属がこれを通過するように構成され、それにより、溶融リチウム金属が形成される、請求項32に記載のシステム。
【請求項34】
分離装置をさらに含み、前記分離装置は、リチウム金属への硝酸リチウムの変換中に前記還元炉で製造されたガスから、前記溶融リチウム金属を分離するように構成される、請求項33に記載のシステム。
【請求項35】
電池電極を製造するためのプロセスであって、
硝酸リチウム出発材料を熱分解して酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を製造することと、
分散した酸化リチウム結晶を含む溶融硝酸リチウム塩の槽を形成するように前記酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を加熱することと、
1つ又は複数の遷移金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は硝酸塩を、任意の電極材料と共に添加することと、
を含む、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一連のリチウム化学物質並びにリチウム金属を製造するためのプロセス、システム及び装置について説明する。このようなプロセス、システム及び装置の製品は、特にリチウム電池の製造に有利となる可能性がある。また、製造されたリチウム金属は、合金化の目的(例えば、航空宇宙業界及びその他の用途で使用するためのリチウム-アルミニウム合金)でも使用できる。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)及び屋上の太陽光発電(PV)パネル等によって生産された再生可能エネルギーの蓄電等の大規模な蓄電用途に適したリチウム電池の市場価格は、2012年~2018年にかけて、約1,000USドル/kWhの有効蓄電容量の上限価格から80%も下落している。一方その間に、リチウム電池の重量1キログラムあたりの電力を蓄電する容量(単位:kWh/kg)、及び電池が送受信する電力の容量の割合(充電及び放電、単位:kWh/kg)は、ゆっくりではあるが上昇を続けている。
【0003】
道路輸送の電気化に伴う蓄電システムの採用、及び再生可能エネルギーシステムの出力を需要に応じて分配できるようにするための蓄電システムの採用等の予測を受けて、新たなリチウム資源の探鉱から完全な電池パック(何千個もの個別のリチウムセル(lithium cell)を含み得る)の最終組み立てまで、付加価値を高める多くの作業に対する投資が世界中で急増している。しかし、この伸びは、リチウム電池のコストが下がり続けること、並びにリチウム電池の寿命、充電/放電速度と効率、蓄電容量及び安全性が向上し続けることが、ある程度容認されていることによって支えられている。
【0004】
リチウム有価物をリチウム電池の製造に使用するために適した形態で回収するには、コストと環境への影響という課題があり、これらが組み合わさって、リチウム電池の普及と期待される良性の適用の実現を遅らせる原因となっている可能性がある。前述のリチウム鉱化の探鉱、及び完全な電池パックの組み立て等、付加価値を生み出す多くの作業については、それらのコスト及び/又は環境への影響を低減するための改善が行われてきたが、リチウム含有鉱物をリチウム電池の製造に適したリチウム化学物質に変換する処理作業の改善については、あまり注目されていなかった。
【0005】
リチウム電池の構成要素で最も重要であり、コスト削減にも最も適しているのは、間違いなくリチウム電池の2つの端子、即ち、正極(カソード)と負極(アノード)であり、特にカソードである。現行のリチウム電池のカソードは、リチウム、各種遷移金属、及び酸素の化合物を一般的に含む。初期の高性能リチウム電池は、1つの遷移金属、即ち、コバルトのみを使用した化学物質(いわゆる、LCO電池、即ち、コバルト酸リチウム)であった。
【0006】
最近では、LMN(即ち、マンガンニッケル酸リチウム)、NMC(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)等のリチウム電池(即ち、式:LiMO及びLiM’O(式中、Mは酸化状態が+3の遷移金属であり、M’は酸化状態が+4の遷移金属である)から形成されたカソードを含む電池)が開発されている。コバルトは比較的希少で高価であり、LCO電池は発火しやすいため、電池製造メーカーはコバルトの一部又は全部を鉄、ニッケル、マンガン、チタン等のより豊富な遷移金属で代替しようと試みている。
【0007】
例えば、US2019/0212267には、前駆体材料から、ミクロン/ナノメートルオーダーのサイズを有するリチウム系化合物(例えば、LiFePO、LiMnPO、LiFeMnPO、LiMnNiO、LiTi12)等の小さな粒子を製造することが開示されている。得られた小さな粒子は、電池を含む電気化学セルの電極材料として使用される。
【0008】
これらの化合物を作るには、遷移金属の酸化物と、(最初の例では)炭酸リチウム、更には水酸化リチウム(一水和物として)を所望の比率で一緒に混合し、高温(800~900℃)で何時間もかけて加熱し、得られる固体を非常に細かい粉末に粉砕し、次いで、その粉末を薄い銅箔にコーティング(プリント)してカソードを形成する。
【0009】
このような化合物のためのリチウムの主な供給源は、スポジュメン(リチア輝石)、及びリチウムが豊富な金属ケイ酸塩鉱物を含む。本発明者は、ケイ酸塩鉱物からリチウムを回収し、炭酸リチウム及び水酸化リチウムを製造するための改善されたプロセスの特許を取得している(例えば、US10,131,968、CN106906359(両方ともWO2017/106925に由来する))。このプロセスは、半世紀以上も前の技術を改良したものである。WO2017/106925の関連内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0010】
WO2017/106925のプロセスは、そのプロセスで使用される主要な化学物質、即ち、硝酸に関する限り、「閉鎖的(closed)」である。WO2017/106925のプロセスでは、プロセスに使用された硝酸を回収し、再利用するために再構成してもよい。また、WO2017/106925には、形成された硝酸リチウムを熱分解して、酸化リチウムと窒素酸化物を得て、窒素酸化物から硝酸を再形成してプロセスに再利用してもよいことが記載されている。しかしながら、酸化リチウムは、電池製造において処理が困難な材料であるため、WO2017/106925のプロセスでは、酸化リチウムは、炭酸リチウム、水酸化リチウム及びリチウム金属(即ち、炭酸リチウム及び水酸化リチウムの各々は、リチウム電池の製造のための業界仕様の化学物質であるため)を製造する途中の中間体としてのみ形成されている。更に、WO2017/106925のプロセスでは、できるだけ多くの酸化リチウムが形成されるように、即ち、形成される炭酸リチウム及び水酸化リチウムの各々の形成量を最大化するようにしている。なお、炭酸リチウムは、リチウム鉱石を精製するための他の既知のプロセスのいずれかを用いて都合よく製造されない。
【0011】
本明細書で背景技術及び先行技術の参照は、そのような技術が当業者の通常の、及び/又は一般的な知識の一部を形成することを認めるものではありません。このような参照は、本明細書に記載されているプロセス及びシステムを制限することを何ら意図するものではない。
【発明の概要】
【0012】
本明細書では、硝酸リチウムから酸化リチウムを製造するプロセスを開示している。硝酸リチウムは、天然に存在するリチウムが豊富な鉱物の主要なクラス、即ち、金属ケイ酸塩(マイカ及びクレイを含む)及び塩水から次々に製造してもよい。例えば、硝酸リチウムは、WO2017/106925(即ち、US10,131,968及びCN106906359)に記載されているようなプロセスによって製造してもよい。
【0013】
本プロセスは、硝酸リチウムを、その画分が酸化リチウムを形成するように、且つ、硝酸リチウムの残りの画分が酸化リチウムに分解しないように、熱分解することを含む。言い換えれば、本明細書に開示されたプロセスは、硝酸リチウムの一部のみが酸化リチウムに分解するように制御される。そのため、本プロセスの生成物は、硝酸リチウムと酸化リチウムとのブレンド物である。本プロセスを決められた時間後に終了し、硝酸リチウムの画分が残るように確保し、それによって、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を製造する
【0014】
本プロセスは、生成物が水酸化リチウム、炭酸リチウム及びリチウム金属であるWO2017/106925に開示されたプロセスと対照的である。本プロセスは、故意的に、生成物中に酸化リチウム(リチア)の画分を製造することを意図している。本出願人は、酸化リチウムが高い割合のリチウムを有すること(例えば、水酸化リチウム及び炭酸リチウムと比較して)を理解している。しかしながら、上述したように、酸化リチウムは、リチウム電池のカソードを製造するための原料としては扱いにくい生成物である。これは、酸化リチウムが非常に溶けにくいことにある。この結果、例えばリチウム電池のカソード材料(リチウムと遷移金属酸化物との化合物)を製造する際に出発材料として使用するには、厳しい条件(即ち、高温及び長時間の加熱)が必要となる。また、100%の酸化リチウムを供給原料として製造できるようにするためには、複雑な処理設備が必要となる(既存のリチウム精製設備では対応できない)。このため、酸化リチウムは、特にリチウム電池のカソードを製造するための原料として使用されていない。このような理由から、既存のリチウム精製所では酸化リチウムの製造を目的としていない。
【0015】
また、本プロセスは、US2009/0212267に開示された方法と対照的である。US2009/0212267は、硝酸リチウムを熱分解して酸化リチウムを形成することはもちろん、硝酸リチウムの適当な画分を熱分解して酸化リチウムを形成すること(即ち、硝酸リチウムの残りの画分が分解して酸化リチウムにならないようにすること)についても開示しておらず、また関連もない。更に、US2009/0212267は、そこに前駆体材料として記載されているリチウム塩の膨大なリストの中から硝酸リチウムを区別していない。この点について、US2009/0212267は、硝酸リチウム塩が260℃という比較的低い温度で溶融すること、つまり分解された画分から形成される固体酸化リチウムを導く(host)ことができること等、硝酸リチウムのユニークな特性を何ら特定していない。むしろ、US2009/0212267の焦点は、特定の粉砕媒体を用いて前駆体を極めて細かく粉砕し、その後の電池電極への形成につなげることにある。
【0016】
一方、本発明者は、驚くべきことに、酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物が、電池製造のための、また、リチウム金属製造のための好適な原料となり得ることに気が付いた。例えば、硝酸リチウムの融点を超える温度(即ち、約260℃超)では、酸化リチウム含有溶融硝酸リチウムのスラリー又はペーストを製造できる。このスラリーが硝酸リチウムの融点を超える温度に維持されていれば、(例えば、処理環境において)適切なポンプ及びパイプラインを使用して便利に輸送ができる。次に、スラリーが硝酸リチウムの融点未満に冷却されると、(例えば、取り扱い、輸送及び保管の設定において)酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物は、好適には、プリル、ペレット、フレーク等に形成されてもよい(又は、生成物は好適には、そのような形態をとってもよい)。
【0017】
例えばプリル等に成形して輸送した後、電池製造メーカーは、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を、硝酸リチウム相が軟化する(即ち、約260℃超)まで加熱するだけでよい。これにより、例えば、分散した固体酸化リチウム結晶を含む溶融LiNO塩の槽を形成でき、その槽に遷移金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は硝酸塩(例えば、粉末として)を、その他必要な電極材料と共に加えることができる。その後、電極を製造する際に製造メーカーによって、得られた混合物を更に熱処理することができる。本発明者は、驚くべきことに、適度な条件(即ち、典型的に必要とされる多くの時間及び高い温度(800~900℃)よりも少ない時間及び低い温度を必要とするだけ)で、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物から、電池のカソード材料を形成できることに気が付いた。このようにして、本発明者は、酸化リチウムを、例えば電池製造の出発材料として容易に使用できる方法を考案した。上述したように、酸化リチウムは、比較的高い割合のリチウムを含んでいるという利点がある。
【0018】
一実施形態では、熱分解されて酸化リチウムになる硝酸リチウムの画分は、熱分解前の硝酸リチウムの約50~90%でもよい。より具体的には、熱分解される硝酸リチウムの画分は、約70~90%でもよい。この変換率であれば、得られた高温スラリー(即ち、硝酸リチウムの融点を超える温度において)は容易に流動できる。
【0019】
硝酸リチウムの90%が熱分解されるという数字は、酸化物への高い変換率を表しており、また、プロセスの一部として製造された硝酸の最大90%をリサイクルする(失われた分の硝酸の補填)という結果をもたらし得る。実際には、LiOとLiNOとの割合は、エンドユーザー(例えば、電池製造メーカー)が必要とするものに合わせてもよい。例えば、LiNOの82%が分解されてLiOになると、LiNOとLiOとの重量比は50:50になり得る。
【0020】
例えば,硝酸リチウムの90%を熱分解して酸化リチウムにすると、これにより、66重量%のLiO(固体結晶)と34重量%のLiNO(液体)とを含むペーストが製造され、これは、全体の34.5重量%のLiを含む。一方、典型的な電池製造用の原料、即ち、炭酸リチウム及び水酸化リチウム一水和物は、それぞれ、19重量%、16.7重量%のLiを含む。そのため、本明細書で開示されているプロセスによって、全体的に高い割合のLiを例えば電池製造メーカーに供給できる。
【0021】
一実施形態では、熱分解の前に、溶融硝酸リチウム塩を形成するように硝酸リチウムを別の予熱段階で加熱してもよい。次いで、溶融硝酸リチウムを熱分解段階に送ってもよく、熱分解段階は予熱段階とは別の段階でもよい。硝酸リチウム(例えば、結晶)を、予熱段階で部分的に酸化リチウムに変換してもよい。予熱段階は、硝酸リチウム(例えば、結晶)を約400℃に加熱(例えば、高温のプロセスストリーム(hot process stream)との熱交換によって)し得る溶融(例えば、熱交換器)容器を含んでもよい。この加熱により、硝酸リチウムは透明で流動性の高い(即ち、移動可能な)溶融塩に変化する。溶融塩の形態では、硝酸リチウムは導電性があり、これは、次に電気誘導を用いて熱分解できることを意味する。この結果、別の熱分解段階では、溶融硝酸リチウムを受け取り、硝酸リチウムの分解温度よりも高い温度(即ち、600℃超)で(より積極的な)加熱をすることで溶融硝酸リチウムを更に分解できる。典型的に、熱分解段階は、高価になる傾向がある電気誘導加熱を必要とするが、別の予熱段階は高温のプロセスストリームを使用でき、この結果として、硝酸リチウムを予熱(例えば、400℃まで)できるため、2つの段階を直列に用いると、プロセスの経済性をより向上できる。この結果、硝酸リチウムをその分解温度超(即ち、約600℃超)に加熱するために必要な電気エネルギーを少なくできる。
【0022】
一実施形態では、硝酸リチウムの熱分解は、硝酸リチウムの直接的又は間接的な加熱を含んでもよい。加熱は、周囲/大気圧と同等又はそれ以上の圧力(例えば、9バールゲージの高さまでの圧力を含む)で行ってもよい。
【0023】
1つの形態では、直接加熱は、誘導加熱(例えば、熱分解反応器内に配置された電気式誘導コイルによって、硝酸リチウムを所望の程度まで分解するように動作させる)の形態でもよい。
【0024】
別の形態では、間接的に(外部から)加熱された容器の中で硝酸リチウムを分解してもよい。即ち、所望の方法で所望の程度まで硝酸リチウムを分解する。
【0025】
このような直接的又は間接的な(例えば、誘導又は外部からの)加熱の過程では、容器の内容物と、大気を含むあらゆるガスとの間の接触を避けるように注意し得る。また、硝酸リチウムを分解するのに必要な外部からの熱を提供するために燃料を燃焼させる場合、容器の内容物と燃料の燃焼生成物との接触を避けるように注意し得る。
【0026】
上述したように、硝酸リチウムは約600℃超の温度で熱分解する。一実施形態では、硝酸リチウムの熱分解の終了は、部分的に分解された生成物を、その分解温度である約600℃未満に冷却するだけで達成できる。その後、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を約260℃~約600℃の温度に維持すると、生成物は、固体酸化リチウムを含有する溶融硝酸リチウムを含むペースト又はスラリーの形態になり得る。次いで、このペースト/スラリーを、プロセス内で移送(例えば、適切なポンプ、配管、コンベヤー等によって)してもよい。その後、ペースト/スラリーを更に約260℃未満の温度に冷却して、固体の酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を製造してもよい。例えば、上述のように、得られた固体の生成物を、プリル、ペレット、フレーク等の形態に製造してもよい。
【0027】
例えば、得られた固体の生成物をプリルにする場合は、これはプリル塔(prilling column)で行ってもよい。プリル塔には、水蒸気及び二酸化炭素がない(即ち、プリルと反応しないような)空気が充填されてもよい。得られたプリルは、密封容器に詰めても、バルクで扱ってもよく、例えばフレーク状の苛性ソーダよりも扱いが難しくない。この結果として、固体の酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物は、容易に輸送等を行うことができる。
【0028】
例えば、苛性ソーダのように、得られた固体の生成物をフレーク状にする場合、固体酸化リチウムを含有する溶融硝酸リチウム(即ち、高温のスラリー/ペースト)を冷却したドラムの外面にコーティングしてもよい。次いで、得られた冷却固体生成物をドクターブレード等でドラムの表面からリフトオフし、フレーク状の生成物を形成してもよい。
【0029】
電池製造メーカーは、硝酸リチウム相が軟化するまでプリル、フレーク、ペレット等を加熱し、次いで、遷移金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩又は硝酸塩(粉末として)、その他必要なものを加え、次いで、得られた混合物を必要に応じて加熱するだけで、電極供給材料を製造できる。この結果として、固体の酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物は、電池電極の製造のための理想的な供給材料となる。
【0030】
一実施形態では、熱分解により、酸素及び窒素酸化物が製造されてもよい(即ち、副生成物ストリームとして)。これらのガスを回収し、例えば、硝酸製造段階(即ち、硝酸を生成する)に送ってもよい。硝酸製造段階では、窒素酸化物及び酸素を水溶液に吸収させ、既知の方法で硝酸を形成してもよい。この結果として、プロセスからの硝酸を「再生」することができる。更に、このような副生成物ガスを回収して使用することは、硝酸に関する限り、本プロセスが「閉鎖的」にすることができる。
【0031】
一実施形態では、一酸化窒素等の損失を補うために、補充段階を設けることができる。補充段階では、過剰な空気中でアンモニアを触媒燃焼させることにより、窒素酸化物を製造できる(即ち、オストワルド法によって産業規模で広く行われている)。触媒燃焼で得られたガス状ストリームを回収して硝酸製造段階に送り、更に硝酸を生成してもよい。これは、硝酸に関する限り、本プロセスが「閉鎖的」であることに更に寄与できる。
【0032】
一実施形態では、硝酸製造段階で製造された硝酸を、熱分解段階の前に配置された段階で使用してもよい。例えば、熱分解前の段階では、硝酸を、リチウム含有ケイ酸塩鉱物(例えば、典型的にはスポジュメン又はその他のリチウムが豊富な金属ケイ酸塩鉱物等の活性化されたリチウム鉱石)と混合してもよい。次いで、この混合物を、ケイ酸塩鉱物中のリチウム有価物が、硝酸リチウムとしてケイ酸塩鉱物から浸出される浸出段階に付してもよい。この硝酸リチウムを分離してもよく、次いで、前述の熱分解工程に付し、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を形成してもよい。この結果として、WO2017/106925のプロセスと同様に、本プロセスは、硝酸に関する限り、再度「閉鎖的」と考えることができる。
【0033】
一実施形態では、本プロセスは、浸出段階で製造された硝酸リチウムの溶液を濃縮して結晶化し、比較的純粋な結晶性LiNOを形成する、結晶化段階を更に含んでもよい。この結晶化したLiNOを、遠心分離等により溶液から分離してもよい。次いで、分離された結晶性LiNOを熱分解プロセスに付し、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を形成してもよい。
【0034】
プロセスの変形例では、熱分解の酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物の一部又は全部を、還元工程等でリチウム金属に変換してもよい。この点に関して、熱分解の酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を、還元プロセスに高温で送ってもよい(即ち、中間冷却なし)。還元プロセスのリチウム金属生成物は、ハイテク/先進的な合金(例えば、航空宇宙用途)等の電池製造以外への適用が可能であるという点で、経済的により有利な生成物を表すことができる。
【0035】
このプロセスの変形例の一実施形態では、還元プロセスは、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を炭素源(例えば、灰分を含まないカーボンブリケット)と共に、硝酸リチウムと炭素との反応を開始するのに十分な温度に加熱することを含んでもよい。この点に関して、硝酸リチウムと炭素との反応は非常に発熱性が高いことが指摘されており、本質的には火薬と同じ原理の反応である(即ち、硝酸リチウムではなく硝酸カリウムを使用するということ)。典型的に、この反応の温度は、硝酸リチウムと酸化リチウムとの両方に含まれるリチウムがリチウム金属に還元されるのに十分であり、一方で炭素源はガス状に酸化される。
【0036】
硝酸リチウムと炭素との反応が開始され得ると同時に、還元プロセスのための継続的な熱の一部は、ブレンド生成物の硝酸リチウム成分が炭素源と継続的に反応することによって得ることができる(即ち、還元プロセスに直接送られる)。この結果として、還元工程では、硝酸リチウムと炭素との反応と、酸化リチウムの還元反応とを並行して行うことができる。前述の通り、前者は発熱が強い一方で、後者は吸熱が強い。
【0037】
この点に関して、リチウム金属の製造のための反応を動かすのに必要な熱エネルギーの一部を、硝酸リチウムと炭素源との反応によって提供できるように、熱分解生成物中の硝酸リチウム及び酸化リチウムの割合を制御してもよい。
【0038】
このプロセスの変形例の一実施形態では、リチウムへの還元の直後に、蒸気としてのリチウム金属及びガス状酸化炭素を急速に冷却することで、反応が反転する傾向(即ち、リチウム金属が酸化リチウムに酸化され、ガス状酸化炭素が元素の炭素に再形成される)を防ぐことができる。例えば、リチウム金属蒸気とガス状酸化炭素とを形成する反応の反転を防止するために、蒸気のブレンド物を収束-発散(ラバール)ノズルに通す等して、超音速膨張によって急速に冷却できる。超音速膨張は、ラバールノズルの入口と放出部との間に適切な圧力差を維持することで得られる。
【0039】
このプロセスの変形例の一実施形態では、ラバールノズルから排出されるガスの温度をリチウム金属の沸点以下にすることで、リチウム金属を酸化炭素ガス中に分散した微細な液滴に凝縮させることができる。これにより、液体リチウム金属とガス状酸化炭素とを互いに分離できる。例えば、液体リチウム金属及びガス状酸化炭素をサイクロン分離段階に通すことができる。サイクロン分離段階では、液体リチウム金属生成物を製造し、これを更に冷却して固体とし、安全に保管する。固体リチウム金属生成物は、気密容器に入れたり、空気又は水分との接触を防いだり(例えば、油等の非水性液体の下に保管する等)して、周囲温度で安全に保管してもよい。また、分離したガス状酸化炭素を回収し、燃料として再利用することもできる。例えば、リチウムが豊富なケイ酸塩鉱物であるスポジュメン(プロセスへの元の供給原料)の精鉱をか焼するために使用できる(例えば、製造されたガス状酸化炭素が一酸化炭素である場合、これを空気中で燃焼させてエネルギーを放出し、二酸化炭素を製造できる)。
【0040】
別の実施形態では、熱分解プロセスのための硝酸リチウムの供給源は、塩原(例えば、南米の塩湖、例えば、アルゼンチン、ボリビア、チリの「リチウムトライアングル」の湖等からの塩水)を含んでもよい。
【0041】
この別の実施形態では、塩原からの硝酸リチウムは、塩原処理段階からリチウムが豊富な塩水、特に塩化リチウム(LiCl)を採取し、そこにチリ硝石(NaNO)等の硝酸塩を加えることによって製造してもよい。次いで、得られた混合物を、硝酸リチウムの溶液を製造するために、蒸発等の熱処理段階に付してもよい。
【0042】
この別の実施形態では、リチウムが豊富な塩水と硝酸塩との混合物の熱処理は、通常の塩(NaCl)を溶液から沈殿させ、それによって硝酸リチウム溶液を製造するようなものでもよい。次いで、この溶液は、熱分解段階のための硝酸リチウム供給原料を製造する基礎となる。
【0043】
また、本明細書では、硝酸リチウムからリチウム金属を製造するための還元プロセスを開示している。還元プロセスは、硝酸リチウムを炭素源(例えば、灰分を含まないカーボンブリケット)と共に、硝酸リチウムと炭素と反応を開始するのに十分な温度に加熱することを含み、これにより、リチウムをリチウム金属に還元し、炭素源をガス状に酸化する。
【0044】
有利なことに、上述したように、リチウムをリチウム金属に還元するのに十分に高温を維持するのに必要な熱エネルギーの一部は、硝酸リチウムと炭素との強い発熱反応によってもたらされてもよい。例えば、硝酸リチウムと炭素との強い発熱反応は、少なくとも1,500℃(おそらく2,000℃)の温度への上昇を生じさせる可能性がある。これらの温度では、供給材料中のリチウムがリチウム金属に還元される。
【0045】
一実施形態では、加熱される硝酸リチウムは、硝酸リチウムと酸化リチウムとの混合物中に存在してもよい。この混合物は、上述したような熱分解プロセスの生成物でもよい。この混合物は、高温のペースト/スラリーとして、リチウム還元プロセスに供給されてもよい。ここでも、酸化リチウムをリチウム金属に還元させるために必要な高温を維持するのに必要な熱エネルギーの割合は、ブレンド物の硝酸リチウム成分と炭素との間の強い発熱反応によってもたらされてもよい。
【0046】
一実施形態では、還元の直後に、蒸気としてのリチウム金属及びガス状酸化炭素(硝酸リチウムと炭素との反応による窒素ガスも含む)を、液体リチウム金属及び副生成物ガスを形成するように急速に冷却してもよい。例えば、リチウム金属蒸気及びガス状酸化炭素等を、収束-発散(ラバール)ノズルによる超音速膨張等の膨張によって急速に冷却してもよい。
【0047】
得られた液体リチウム金属及びガス状酸化炭素等を、サイクロン分離段階(例えば、直列に接続された2つのサイクロン分離機)に通す等して互いに分離してもよい。ガス状酸化炭素(一酸化炭素等)を任意に回収して燃料として再利用してもよい。
【0048】
また、本明細書では、硝酸リチウムから酸化リチウムを製造するためのシステムを開示している。本システムは、硝酸リチウムの画分をその中で熱分解して酸化リチウムを形成できるように、且つ、硝酸リチウムの残りの画分が酸化リチウムに分解しないように、構成された熱分解反応器を含む。
【0049】
一実施形態では、熱分解反応器は、タンク反応器(任意に、圧力容器)を含んでもよい。タンク反応器は、溶融硝酸リチウムをタンク反応器の上部に加えることができるように配置されてもよい。タンク反応器は、更に、酸化リチウムを含む硝酸リチウムのスラリーをタンク反応器の底部から引き抜くことができるように配置されてもよい。加えて、タンク反応器は、スラリーの上方にガス空間を提供し、そのガス空間に硝酸リチウムの分解による窒素酸化物及び酸素を集めて取り出せるように配置してもよい。
【0050】
典型的には、タンク反応器は、約600℃を超える温度(即ち、硝酸リチウムの分解温度を超える温度)に加熱されるように構成される。この加熱は、直接加熱でも間接加熱でもよい。
【0051】
例えば、タンク反応器内に誘導加熱コイルを配置し、それらの内容物を直接加熱することができる。これに関して、溶融硝酸リチウムは導電性があるため、電気誘導を用いて加熱してもよい。
【0052】
他の例では、反応器を外部から加熱するために配置された燃料バーナーを使用して燃料を燃焼させる等して、反応器を外部から加熱してもよい。
【0053】
タンク反応器の内容物は、電気誘導加熱コイル等の作用による自然循環によって撹拌されてもよい。外部加熱型の反応器の場合は、適切なインペラーで内容物を攪拌してもよい。
【0054】
変形例では、タンク反応器は、周囲よりも高い圧力で動作させるために圧力容器の形態でもよい。例えば、反応器は、約9バールゲージ(10バール絶対圧)までの圧力で動作するように構成されてもよい。これらの温度及び圧力では、タンク反応器の典型的な生成物は、酸化リチウムの固体結晶を含有する硝酸リチウム液体を含むことができる。
【0055】
一実施形態では、システムは、予熱(例えば、熱交換器)容器を更に含んでもよい。予熱容器は、任意に攪拌されてもよい。予熱容器では、硝酸リチウム(例えば、その無水で比較的純粋な結晶形態)を、その融点温度である約260℃を超える温度に加熱してもよい。最適には、硝酸リチウムを約400℃まで加熱してもよい。この温度では、硝酸リチウムは移動性及び導電性が高くなり、熱分解反応器に直接移動して、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を形成するのに最適な形態になることができる。上述したように、予熱容器を使用すると、プロセスの経済性を向上できる。なぜなら、典型的に熱分解反応器は、電気誘導加熱又は燃料を燃焼させる外部バーナーを必要とし、これらはそれぞれ高価になる傾向がある一方で、別の予熱容器は、高温のプロセスストリームを利用して硝酸リチウムを予熱し、溶融することができるからである。
【0056】
タンク反応器が圧力容器の形態である場合、予熱容器からの溶融硝酸リチウムが、熱分解反応器に送られる前に、適切なポンプによって圧力を上昇させてもよい(例えば、約9バールゲージまで)。
【0057】
一実施形態では、システムは、硝酸製造反応器(例えば、公知の吸収塔/吸収タワー、又はコンパクトな熱交換器-吸収器等)を更に含んでもよい。熱分解反応器から取り出された窒素酸化物及び酸素は、硝酸製造反応器に送られ、そこで水溶液に吸収されて既知の方法で硝酸が形成されてもよい。熱分解反応器が圧力容器の形態である場合、回収したガスが圧力下で硝酸製造反応器に流れることができるようにシステムを配置してもよい。
【0058】
一実施形態では、システムは、浸出反応器(例えば、オートクレーブ等の圧力浸出容器)を更に含んでもよい。浸出反応器では、硝酸製造反応器で製造された硝酸が、リチウム含有ケイ酸塩鉱物(例えば、スポジュメン等のケイ酸塩鉱石の活性化されたβ形)と混合されてもよい。浸出反応器では、ケイ酸塩鉱物中のリチウム有価物がケイ酸塩鉱物から硝酸リチウムとして浸出されてもよい。硝酸リチウムは(例えば、濾過段階で)分離されてもよく、次いで、熱分解反応器に送られ、酸化リチウム(即ち、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物)が形成される。
【0059】
一実施形態では、システムは、結晶化装置を更に含んでもよい。結晶化装置は、浸出段階で製造された硝酸リチウムの溶液を受け取り、その溶液を濃縮し、次に結晶化して、比較的純粋な無水結晶LiNOを形成するように配置されてもよい。また、システムは、分離機(例えば、遠心分離機)を含んでもよい。分離機では、結晶化LiNOを溶液から分離し、次いで、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を形成するために、分離した結晶化LiNOを熱分解反応器(又は予熱容器)に送ることができるようにしてもよい。
【0060】
一実施形態では、システムは、燃焼器を更に含んでもよい。燃焼器は、加圧された触媒式燃焼器の形態でもよい。燃焼器では、アンモニアを過剰な空気中で燃焼させてもよい。燃焼器からのガス状生成物ストリーム(窒素の酸化物)を回収し、硝酸生成反応器に送ってもよい。このようにして、燃焼器は、(システムの損失を考慮して)硝酸を補充するために提供できる。
【0061】
一実施形態では、システムは、熱分解反応器からの、酸化リチウムの固体結晶を含有する硝酸リチウム液体を含むスラリーを炭素源(例えば、灰分を含まないカーボンブリケット)と混合し得る還元炉を更に含んでもよい。反応制御を助けるために、炭素を還元炉の周辺部に供給してもよく、酸化リチウム含有硝酸リチウムスラリーを還元炉の上方から中央に供給してもよい周辺部の炭素は、中央の反応ゾーンに向かって傾斜している炉内の反応床を形成してもよい。還元炉では、スラリーをリチウム金属(即ち、ガス状リチウム金属)に変換するために、ブレンド物を(例えば、炉の中央で)加熱してもよい。還元炉の熱の一部は、供給材料自体から得てもよい(即ち、硝酸リチウムと炭素との反応によって得てもよい)。
【0062】
一実施形態では、還元炉に供給する前に、スラリーを保持容器内で予熱してもよい。このような予熱は、高温のプロセスストリームを使用できるだけでなく、硝酸リチウムスラリー中の酸化リチウムを還元炉への供給に最適な形態にすることもできる。
【0063】
一実施形態では、システムは、熱分解生成物中の硝酸リチウム及び酸化リチウムの割合が制御され得るブレンド容器を更に含んでもよい。これに関して、ブレンド物が還元炉に供給される前に、追加の硝酸リチウムをブレンド容器に加え、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物とブレンドしてもよい。リチウム金属への還元反応に必要な熱エネルギーの一部が、硝酸リチウムと炭素源との反応で得ることができるように、ブレンド物を最適化してもよい。
【0064】
一実施形態では、システムは、フラッシュ冷却装置を更に備えてもよい。フラッシュ冷却装置は、収束-発散(ラバール)ノズルの形態でもよい。収束-発散ノズルは、例えば、還元炉の上部出口に配置されてもよい。リチウム金属生成物(即ち、ガス状)は、還元炉の上部出口からラバールノズルを通過するように流れ、それによって(例えば、超音速膨張によって急速に冷却)され得る。その際、ガス状リチウム金属は、それによって溶融リチウム金属を形成できる。
【0065】
一実施形態では、システムは、分離装置を更に含んでもよい。分離装置は、1つ又は複数のサイクロンの形態でもよい。分離装置では、溶融リチウム金属を、リチウム金属への変換中に還元炉で製造されたガス(例えば、炭素酸化物、主にCO、窒素酸化物等)から分離できる。分離された溶融リチウム金属は、任意に加熱された貯蔵容器(例えば、ジャケット付きタンク)に貯蔵でき、一方、分離されたガス(例えば、炭素酸化物)は、リサイクルされ、例えば、熱分解反応器の前の段階で燃焼させることができる。例えば、一酸化炭素を、リチウム含有ケイ酸塩鉱物をか焼する際に使用してもよい(即ち、硝酸で浸出できるように活性化されたβ形を製造するために)。
【0066】
また、本明細書では、リチウム金属を製造するための還元炉を開示する。この炉は、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を、炭素源と共に受け取るように配置される。得られた2つの混合物は、硝酸リチウムが炭素と反応するように加熱され、生成物中のリチウムがリチウム金属に還元されるようになっている。還元炉は、炭素が還元炉の周辺部に供給され、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物が還元炉の中央に供給されるように構成することができる。
【0067】
反応力学(熱と圧力を含む)と反応構造は、炭素(例えば、灰分を含まないカーボンブリケット)を還元炉の周辺部に供給し、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を中央部に供給することで、より良好に制御できる。この点に関して、周辺部の炭素は、炉の下部領域に配置された中央反応ゾーンに向かって傾斜する炉内の反応床を形成してもよい。還元反応は、この反応ゾーン内で行われる。使用時には、炭素は、反応塊の反応床の斜面を下って中央の反応領域に徐々に供給できる。上記のように、硝酸リチウムと炭素との反応により、少なくとも1,500℃(おそらく、2,000℃)の炉の温度が得られる。このような炉の温度では、酸化リチウムは容易にリチウム金属に還元される。
【0068】
反応開始後、還元炉のための熱の割合は、硝酸リチウムと炭素との反応に由来することができ、上述したように、炉に供給しようとする生成物中の硝酸リチウムの最適な割合が得られる。また、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物は、生成物が還元炉に供給される前に、保持容器内で予熱されてもよい(例えば、硝酸リチウムを溶融するため)。還元炉は、その他の点では、上記システムに記載されているように構成されてもよい。
【0069】
また、本明細書では、電池電極を製造するためのプロセスを開示する。本プロセスは、溶融硝酸リチウム(即ち、その中に分散した酸化リチウムを有する-例えば、その中に分散した固体酸化リチウム結晶として)を形成するように、酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物を加熱することを含む。酸化リチウム含有硝酸リチウム生成物は、上述したようなプロセスに従って製造してもよい。
【0070】
本プロセスはまた、1つ又は複数の遷移金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、又は硝酸塩を、任意に他の必要な電極材料と共に添加することを含む。得られたブレンド物を更に熱処理して、電池電極を製造できる。
【0071】
ここで、プロセス、装置及びシステムの実施形態を、添付の図面を参照して説明する。図面はただの例示である。図面は、主に、純粋な硝酸リチウム(即ち、本明細書に記載されているような方法及び/又はWO2017/106925に記載されているような方法によって製造されたもの)の硝酸リチウム/酸化リチウムのブレンド物への変換に関するものであり、また、そのようなブレンド物のリチウム金属への変換に関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1図1は、リチウム含有ケイ酸塩鉱物(スポジュメン等)からリチウム有価物を回収し、その回収したリチウム有価物を硝酸リチウムと酸化リチウムとのブレンド物に変換し、次いで、そのブレンド物をリチウム金属に次々に変換するプロセス及びシステムの概要ブロック図であり、図1では、プロセス全体は次のように4つの「ブロック」:1.スポジュメン等を硝酸で温浸し、純粋な硝酸リチウムを製造するブロック;2.純粋な硝酸リチウムを酸化リチウムと窒素酸化物に部分的に分解するブロック;3.窒素酸化物をブロック1の温浸段階で再利用するために硝酸に変換するブロック;4.酸化リチウム/硝酸リチウムのブレンド物からリチウム金属に変換するブロック;に分かれている。
図2図2は、図1のブロック2及び3をカバーして詳細を示すものであり、図2は、純粋な硝酸リチウム結晶を硝酸リチウムと酸化リチウムとのブレンド生成物に変換する方法、及び硝酸リチウムの熱分解からのガス(窒素及び酸素の酸化物)を再構成して、プロセス全体(例えば、ブロック1の温浸)で使用可能な硝酸を形成する方法を示す概略フロー図である。
図3図3は、図1のブロック4をカバーして詳細を示すものであり、図3は、硝酸リチウムと酸化リチウムとのブレンド物からのリチウム金属の製造のより具体的な実施形態を示す概略フロー図である。
図4図4は、硝酸リチウムと酸化リチウムとのブレンド物からリチウム金属を製造するための還元反応器の実施形態のより詳細な描写を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
以下の詳細な説明では、詳細な説明の一部を構成する添付の図面を参照する。詳細な説明に記載され、図面に示されている例示的な実施形態は、限定することを意図するものではない。本明細書に開示された主題の主旨又は範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用することができ、他の変更を行うことができる。本明細書に一般的に記載され、図面に示されている本開示の態様は、多種多彩な異なる構成で配置、置換、結合、分離及び設計することができ、その全てが本開示で企図されていることが容易に理解される。
【0074】
本明細書に記載されている特定のプロセスは、酸化リチウムと硝酸リチウムとのブレンド物を利用し、その比率を特定の要件に合わせて変更できる。以後、この詳細な説明では、この新規のブレンド物を「ニトロロックス(Nitrolox)」と呼ぶ。ニトロロックス生成物は、広範囲の一次リチウム含有原料から得られ、一次リチウム含有原料としては、限定されるものではないが、硬質岩石(ケイ酸塩)鉱物、南米のいわゆる「リチウムトライアングル」等で見られるリチウムが豊富な塩水、特定のクレイ、更には鉱物のジャダライトが挙げられる。
【0075】
最初に、以下の詳細な説明では、以下の各方法論:
1.天然に存在するリチウムが豊富な鉱物の主要なクラス、即ち、金属ケイ酸塩(それぞれ個別に説明される、マイカ及びクレイを含む)、及び塩水から純粋な硝酸リチウムを製造する方法;
2.酸化リチウムと硝酸リチウムとの好ましいブレンド物を調製する方法;及び
3.リチウム電池のカソード及びアノード材料の両方、並びのリチウム金属を調整するためのブレンド物のユニークな使用の概要;
について説明する。
【0076】
[1.リチウム鉱物からの純粋な硝酸リチウムの製造]
硝酸リチウムは、後述する全てのプロセスの最初の生成物である。硝酸リチウムは、便利で経済的な酸化リチウム(リチア)の製造を可能にする。WO2017/106925(即ち、US10,131,968及びCN106906359)に記載されているように、リチアは、純粋で市場性のあるリチウム化学物質(水酸化物(LiOH・HO)及び炭酸塩(LiCO)が挙げられる)の製造のための理想的な出発点である。-リチウムの計算は、業界では通常、炭酸リチウム当量又はLCE、及び元素リチウムの観点かで表されている。将来的には、リチウム金属は、新世代のリチウム電池のアノード及び合金化のための好ましい材料となることが予想される。例えば、リチウム-アルミニウム合金は、軽量性と組み合わせて、高い強度及び耐熱性が重要な属性である航空宇宙産業及びその他の用途で好まれている。
【0077】
<A.硬質岩石(ケイ酸塩)鉱物からの硝酸リチウム>
本出願人は、WO2017/106925(US10,131,968及びCN106906359に相当)に、リチウム含有ケイ酸塩材料からリチウム有価物を回収するプロセスを開示している。このような材料としては、硬質岩石鉱物のスポジュメン(LiAlSi)、及び/又は限定されるものではないが、様々なリチウム含有ケイ酸塩鉱物のいずれか(鉱物のペタライトLiAlSi10及びユークリプタイトLiAlSiOが挙げられる)を挙げることができる。この明細書の全体を通して、鉱物の「スポジュメン」に関するいずれか及び全ての参照は、これらの他のリチウム含有ケイ酸塩鉱物を含むものと解釈されるべきである。
【0078】
WO2017/106925では、活性化されたスポジュメンを温浸するために硝酸を使用することで、硫酸及び炭酸ナトリウム(ソーダ灰)等の高価で危険な化学物質を購入して消費する必要性を回避できる。また、WO2017/106925に開示されているプロセスでは、硫酸ナトリウム、又は石膏若しくは方沸石(analcite)(方沸石(Anarcime))等の不要な副生成物の精製を回避できる。その理由の1つは、硝酸が「閉鎖的」プロセスを可能できる、即ち、温浸プロセスで一度消費されても、硝酸をほぼ完全に再構成し、リサイクルすることができるからである。また、WO2017/106925に開示されているプロセスは、最小限の処理工程を含んでもよい。
【0079】
WO2017/106925に開示されているプロセスは、前処理されたケイ酸塩鉱物を硝酸と混合することを含む。このプロセスは、混合物を、硝酸(浸出剤(lixiviant))によってケイ酸塩鉱物中のリチウム有価物をケイ酸塩鉱物から溶出して硝酸リチウムを形成するような条件を有する浸出プロセスに付すことを更に含む。
【0080】
WO2017/106925では、典型的には、ケイ酸塩鉱物の前処理は、か焼等による熱処理を含んでもよく、この場合、(例えば、天然に存在するα スポジュメンをより反応性の高いβ型に変換するために)相変化をもたらすのに十分なレベルまで固体の温度を上昇させてもよいとされている。
【0081】
浸出プロセスの一部として、前処理されたケイ酸塩鉱物と化学量論的に過剰な硝酸とのブレンド物は、温浸プロセスに付されもよい。温浸プロセスは、1つ又は複数の段階を用いることができる温浸反応器(例えばオートクレーブ)中で行うことができ、ケイ酸塩鉱物中のリチウム有価物を可溶性硝酸リチウムに変換するような条件下で実施できる。
【0082】
望ましい温浸反応は、次のように表すことができる。
LiAlSi(スポジュメン)+HNO(硝酸)→LiNO(硝酸リチウム)+LiAlSi(OH)(パイロフィライト) 1)
【0083】
必然的に、前処理されたスポジュメン中の他の不純物は、アルカリ金属のナトリウム及びカリウム、アルミニウム、鉄、その他遷移金属、並びにアルカリ土類金属(カルシウム及びマグネシウム)等の硝酸塩、及びリン酸イオンに変換されることで、種々の程度に可溶化される。
【0084】
WO2017/106925では、浸出プロセスの生成物は、リチウムイオンとその他いくつかの可溶性陽イオン及び陰イオンとを含む水相、遊離硝酸の残留物と水、及びリチウム内容物が実質的に除去された残りのスポジュメン精鉱を表す不溶性相からなるスラリー又はペーストであるとしている。このスラリー又はペーストをプロセス水で希釈して固液分離システムに送り、不溶性の固体を溶液から分離して洗浄し、リチウム有価物を回収して、浄化されたリチウムが豊富な貴液を得る。
【0085】
この貴液は、遊離硝酸が残留しているために強酸性である。この貴液は、次いで、これを沸騰させて遊離硝酸及び水の大部分を濃縮及び蒸留し、前者は更に処理して温浸反応器にリサイクルし、後者はプロセス水として使用する。
【0086】
沸騰が続くと、貴液中の酸性度(pH)が一定レベルに保たれ、すると、貴液中のアルミニウム有価物は自動的に加水分解して水酸化アルミニウムの沈殿物を形成し、同時に形成された硝酸が沸騰により除去される。
2Al(NO+6HO→Al・3HO+6HNO 2)
【0087】
不溶性の水酸化アルミニウムを濾過によって分離し、更に精製して、とりわけ、より純粋なアルミナ生成物を製造してもよい。濃縮された溶液である濾液は、まだ弱酸性であるが、次に適切な量のリチウムの酸化物、水酸化物又は炭酸塩を添加することで、pHをほぼ中性~弱アルカリ性になる。これらはいずれも、プロセスのさまざまな実施形態において、下流で製造されてもよい。
【0088】
その結果、追加の硝酸リチウムが形成されるが、遊離硝酸のほとんどが最初に貴液から蒸留によって除去されるため、この方法でリサイクルする必要があるリチウム系アルカリの量は、未処理の濾液中に元々存在していた遊離硝酸の全を中和する必要がある場合に比べてはるかに少なくなる。
【0089】
これらの反応は、撹拌タンク又は連続式のそのようなタンク中で起こる。WO2017/106925には開示されていないが、貴液が1つ又は複数のタンクに供給されると、アルミナ三水和物の微細な結晶の種を得ることができ、1つ又は複数のタンクの内容物は、更なる水酸化リチウムの添加を制御することによって、pHを中性~弱アルカリ性に維持できる。これにより、残留するアルミナ有価物がアルミナの種の上で成長して沈殿する。
2Al(NO+3HO+6LiOH→2Al・3HO+6LiNO 3)
【0090】
WO2017/106925には開示されていないが、1つ又は複数のタンクの内容物を、ハイドロサイクロン又は同様のバンクを介して循環し、ハイドロサイクロンのアンダーフローによってアルミナ結晶の粗い画分を除去でき、次いで、これを、既知の固液分離プロセス(洗浄及び脱水等が挙げられる)によって貴液から分離し、純粋な結晶性アルミナ三水和物の生成物を製造できる。ハイドロサイクロンバンクからのオーバーフローは、残留アルミナ三水和物の微粉末の内容物が結晶成長によってこの化合物を更に沈殿させるための核として役立つように、1つ又は複数のタンクに戻すことができる。このプロセスは「オストワルド熟成」と呼ばれている。1つ又は複数のタンクからの最終的なオーバーフローは、本質的に懸濁固形物を含まない液である。
【0091】
この「固形物を含まない」液に、追加の水酸化リチウム(酸化リチウムを消化して形成される)を投入して、この液中に硝酸塩として存在するマグネシウム有価物が、不溶性の水酸化マグネシウム(ミネラルブルーサイト)として沈殿するレベルまでpHを上げる。
Mg(NO+2LiOH→Mg(OH)+2LiNO 4)
【0092】
次いで、他のアルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)の炭酸塩、又は好ましくは炭酸リチウム(又は追加の水酸化リチウムに適切な割合で二酸化炭素を加えたもの)を適量加え、残留カルシウム有価物を沈殿させる。
Ca(NO+LiCO→CaCO+2LiNO 5)
【0093】
懸濁固形物としてカルシウム及びマグネシウムの有価物を含むこの液は、浄化幾に送られ、これらは浄化されたオーバーフローを残してアンダーフローとして沈殿する。この浄化されたオーバーフローは、保持又は貯蔵タンクに送られ、アンダーフローは、遠心分離幾等の固液分離装置に送られ、不溶性固体を回収し、残留リチウムが豊富な液を洗浄する。濾液/濃縮液は、浄化幾の供給部に戻される。
【0094】
この浄化されたオーバーフローは、元のスポジュメン精鉱に不純物として系に含まれているアルカリ金属のナトリウム、カリウム、並びに少量の希少なルビジウム及びセシウムを除いて、他の陽イオンを本質的に含まない硝酸リチウム溶液となる。しかしながら、アルカリ土類、アルミニウム及び遷移金属は、実質的に存在せず、リン酸イオンも100万分の1のレベルでしか検出されない。
【0095】
WO2017/106925の特定の実施形態では、現在精製されている硝酸リチウムの溶液を更に濃縮し、次いで結晶化して、より高純度の固体硝酸リチウムLiNOを形成してもよい。第1の結晶化段階は、エバポレーター/晶析装置を使用してもよい。WO2017/106925は、純粋な乾燥結晶性硝酸リチウム生成物を得て、他のアルカリ金属硝酸塩(即ち、ナトリウム及びカリウム)が豊富な残留溶液から分離できるプロセスも概説している。このような高純度の固体硝酸リチウムLiNOは、本明細書に開示され、図2を参照して詳細に説明されているような熱分解プロセスへの供給材料を形成できる。
【0096】
<B.リチウムが豊富な塩水からの硝酸リチウム>
リチウムは、南米のリチウムトライアングルと呼ばれる塩原(salar)の特定の塩水に存在する。このような塩水には、リチウムがイオンとして存在し、その濃度は、典型的には0.1%程度であり、場合によっては0.4%にもなる。その他の陽イオンとしては、大抵は、高い割合がナトリウム及びカリウムであり、そしてマグネシウム及びカルシウムも様々な量で含まれている。最も多い陰イオンは、塩化物及び硫酸塩であり、主に塩化物であるが、全ての種の濃度及び割合は塩原間だけでなく、個々のサハールでも異なる。従って、以下の塩原に関する詳細な説明は、本質的に一般的なものとして理解されるべきである。
【0097】
これらの塩水を一般的に処理(精製)してリチウム有価物を回収する方法は、まず、沈めたポンプを使用して、塩原の上部40メートルほどにある固体塩塊の特徴的な亀裂及びその他空洞から塩水を抽出する。この深さより下では、一般的に亀裂は存在しない。この深さから塩原の底までに、典型的に出くわすのは本質的に不浸透性の岩塩(様々な濃度の塩化カリウムと石膏とを含む塩化ナトリウム)である。沈めたポンプは、塩水を塩原の乾燥した硬い岩盤の表面に形成された乾燥しているパン(pan)に転送し、日当たりの良い砂漠のような環境で水を蒸発させる。太陽による蒸発が進むと、様々な塩が結晶化する。1つのパンで1種類の適度に純粋な結晶化した塩を分離するために、塩水は、パンからパンへと次々にポンプで送られ、次の塩が濃縮(自然蒸発による)及び結晶化によって実質的に除外されるのに十分な時間、特定のパンに保持される。
【0098】
最初に結晶化するのは、通常の塩であるNaCl、及び/又は難溶性の石膏(CaSO・2HO)が多い。
【0099】
存在する陽イオンの残りは、主にカリウム、マグネシウム及びリチウムのブレンド物で、陰イオンは、主に塩化物である。マグネシウムが高濃度で存在する場合、その硫酸塩と塩化物の両方が水溶液に非常に溶けやすいため、問題となる可能性がある。石灰乳を適量加えて、マグネシウムを不溶性の水酸化マグネシウムとして沈殿させてもよい。この場合、以下に示す反応のように、塩水にはカルシウムが添加される。
MgCl+Ca(OH)→Mg(OH)+CaCl 6)
【0100】
硫酸イオンの濃度が依然として高い場合、反応6)に従って添加されたカルシウムを含めて、多くのカルシウムが、より多くの石膏として沈殿する可能性がある。
MgSO+Ca(OH)+2HO→Mg(OH)+CaSO・2HO 7)
【0101】
それ以外の場合、カルシウムは炭酸ナトリウム(ソーダ灰)を使用して除去してもよい。炭酸ナトリウムは、カルシウムを不溶解な炭酸塩として沈殿させ、塩水に更なるナトリウムが加えられ、その結果、食塩が作られる。
CaCl+NaCO→CaCO+2NaCl 8)
【0102】
次に、更に太陽蒸発で濃縮すると、塩化カリウム(カリ(potash)、有価生成物)が、他の蒸発パンで結晶化する。或いは、チリ硝石(硝酸ナトリウム)が入手しやすい場合には、これを水で浸出し、固液分離して不溶性の固形分を除去した後に濃縮塩水に加え、ブレンド物を沸点で熱蒸発させると、以下の反応が起こる。
KCl+NaNO→NaCl+KNO 9)
【0103】
食塩は塩の中でも溶けにくいため、反応は右に進み、貴重な肥料である硝酸カリウムが主成分の溶液となる。これにより、残留塩水を、例えば真空冷却によって冷却して回収し、結晶を脱水できる。典型的に、チリ硝石堆積物では、ナトリウムイオンの約10%がカリウムイオンに置き換えられ、これらも追加の硝酸カリウムとして結晶化する。
【0104】
残るのは、リチウムがかなり濃縮され、且つ、塩化物が主な陰イオンとなっている残留溶液であり、実質的には、微量の不純物として様々な残留塩が存在する塩化リチウムの濃縮溶液が残る。
【0105】
通常の処理では、リチウムが豊富な塩水を70℃超に加熱し、更にソーダ灰を追加して、リチウムを難溶性の炭酸リチウムとして沈殿させる。これは一次リチウム生成物であり、当業者に知られている様々なプロセス(再炭酸化等が挙げられる)によって更に精製される。リチウムの全体的な回収率は変動する可能性があり、典型的には、原料の塩水に元々存在していたリチウムの50~80%である。
【0106】
これまでの説明は、南米のリチウムトライアングルの塩原、特にチリの重要なアタカマ塩原で使用されている現在の技術を代表するものである。また、重要なこととしてもう一度強調するが、上記は一般的なプロセスを非常に簡略化して説明したものであり、その中の蒸発及び結晶化の順序は、塩水の元の組成及び操作の好みによって異なってもよい。
【0107】
以下の説明は、既知の技術から逸脱したものを示している。以下の説明は、塩原の塩の供給源から純粋な結晶性硝酸リチウムを製造するためのプロセスである。
【0108】
プロセスの出発原料は、塩化リチウムの濃縮溶液に、他の塩(主に食塩)が残留しているものである(即ち、硝酸カリウムが結晶化された残留溶液)。硝酸カリウムの製造は、通常、処理業者がチリ硝石をすぐに入手できる場合(即ち、チリを拠点とする主要なリチウム処理業者が、チリ硝石の供給をすぐに受け取ることできる)にのみ選択可能であることに留意すべきである。
【0109】
本質的に、硝酸カリウムの製造プロセスの再現であり、可能な限り塩水からカリウム有価物を回収した後、塩化リチウムが豊富な塩水に、更にチリ硝石を加え、ブレンド物の沸点で熱蒸発させると、以下のような反応が起こる。
LiCl+NaNO→NaCl+LiNO 10)
【0110】
ここでも、食塩が結晶化し、残留硝酸リチウムが豊富な液を洗浄して、硝酸リチウムの濃縮溶液が残る。
【0111】
硝酸リチウム溶液を、例えば真空冷却によって冷却し、純粋な硝酸リチウムの結晶が得られ、この結晶は、適切なフィルター式遠心分離機等による、従来の固液分離プロセスによって除去できる。残りの塩水(即ち、濾液/濃縮液)は、再循環される。所望であれば、例えば、追加の結晶化、イオン交換樹脂を使用した貴液からの不純物の除去、結晶塊の乾燥、及び硝酸リチウムは溶解するが他のアルカリ金属の硝酸塩が溶解しないマイルドな極性を有する有機溶媒への溶解等の様々な方法で、硝酸リチウムを更に精製してもよい(以下を参照)。その他の精製方法として、当業者に知られている方法を使用できる。
【0112】
<C.他の鉱物(マイカ、クレイ及びジャダライト)からの硝酸リチウム>
リチウムは、マイカグループの一部を含む他の鉱物中、とりわけ、アンブリゴナイト(Li,Na)AlPO(F,OH)、レピドライトK(Li,Al,Rb)(Al,Si)10(F,OH)、及びチンワルダイトKLiFeAl(Al,Si)O10(F,OH)中に存在する。また、リチウムは、ヘクトライトNa0.3(Mg,Li)Si10(OH)等のマイカ鉱物が部分的に風化してできた特定のクレイにも存在し得る。他の第3のカテゴリーの鉱物は、ホウケイ酸塩鉱物のジャダライトLiNaSiBOHである。これは、NaO・LiO・(SiO・(B・HOという形で表記されることもあり、セルビアのジャダルという近くの町にちなんで名づけられ、2006年に初めてユニークな鉱物として定義されたものである。ジャダライトは、将来的にリチウムの重要な供給源となることが期待されている。また、ホウ素の供給源としても期待され、ホウ素はリチウムの5倍近い量が含まれ、この資源の価値を大きく高めている。先行技術調査では、処理方法の検討が進められているが、硝酸を使用する方法は知られていない。
【0113】
驚くべきことに、これらの鉱物は全て熱硝酸に実質的に溶解するできることに気が付いた。
【0114】
(アンブリゴナイト、レピドライト及びチンワルダイト)
これらは比較的柔らかい鉱物であり、硝酸等の鉱酸による浸出を受けやすくするために、一般的にはか焼する必要がない。一実施形態では、インパクトミル又は一連の高圧粉砕ロールで鉱物を粉砕し、マイカの特徴である「シート(sheet)」を実質的に剥離することで、酸の浸透性を向上させ、金属硝酸塩(即ち、硝酸を使用する場合)として金属の抽出を増加させる。
【0115】
ある特定の一実施形態では、レピドライトを細かく粉砕し、必要に応じて選鉱して、次いでか焼したスポジュメンからリチウム有価物を回収するために、記載した方法と同様の方法で硝酸と反応させる。リチウム、ナトリウム、カリウム及びルビジウム(カリウムに類似した希少なアルカリ金属で、レピドライト中には様々だが一般的に低濃度で存在する)のほとんどが硝酸塩に変換され、不純物として存在するアルミニウム、カルシウム、マグネシウム及び遷移金属の一部も硝酸塩に変換される。不溶性固体が除去され、過剰な硝酸と大部分の水が蒸留された後に残る貴液は、か焼したスポジュメンのために上述の技術を用いて再び精製される。フッ素が溶液に入ると(フッ化物イオンとして)、難溶性のフッ化リチウムとしてリチウムが除去される傾向にあるため、フッ素レベルが高いと問題が発生する可能性がある。リン有価物は、不溶性のリン酸三カルシウム(鉱物アパタイト)として沈殿する。
【0116】
硝酸リチウムを熱分解し、次いでオフガスとして製造された窒素酸化物及び酸素を回収し、これらを水と追加の酸素(空気由来)と組み合わせることで硝酸を回収することは可能であるが、他のアルカリ金属、即ち、ナトリウムとカリウム(及びルビジウム)、その中でもカリウムは一般的に最も豊富に存在している。リチウム有価物を他のアルカリ金属から分離するにはいくつかの選択肢がある。一つの選択肢は、アルカリ金属塩のブレンド物を乾燥させ、硝酸リチウムを溶かすことができるが他のアルカリ金属硝酸塩を溶かすことができないマイルドな極性溶媒を使用して、リチウム有価物を浸出させることである。多くの極性炭化水素溶媒(アセトン等)は可燃性が高いため、この用途には適していない。しかしながら、クロロホルム(トリクロロメタン)等の高塩素化された単純な炭化水素は安全性が高く、その結果、硝酸リチウムの溶解及び分離に適切に使用できる。次に、極性溶媒は、溶媒を再利用するために、真空蒸留を用いて、硝酸リチウム(及び存在する可能性のある他の固体)から回収できる。
【0117】
硝酸リチウムが分離されると、残留物(主に硝酸ナトリウムと硝酸カリウムとのブレンド物)は、特にカリウム有価物が主成分である場合、肥料としての価値がある。硝酸カリウムは、植物の三大栄養素、即ち、カリウム(K)と窒素(N)(3つ目はリン(P))のうち、1つではなく2つも含んでいるため、塩化カリウム又は硝酸ナトリウムよりも価値の高い肥料(点滴潅漑システムに広く使用されている)である。
【0118】
塩化リチウムの供給源が容易に入手可能な場合(例えば、塩原環境の場合)に使用できる1つのレピドライト処理の一実施形態では、マイルドな極性溶媒を用いてリチウム有価物を浸出する前に、以下の反応を行ってもよい。これに関して、反応10)に行き着いた、塩原の処理するための上述のようなプロセスを参照する。反応10)と同様の反応を以下のように使用できる。
LiCl+NaNO/KNO→Na/KCl+LiNO 10’)
【0119】
得られたNaCl及びKClの塩は、LiNOから分離でき、後者は熱分解段階に送られる前に更に精製する。
【0120】
しかしながら、ナトリウム、カリウム、及び(存在する場合)ルビジウムの硝酸塩が形成され、反応9)に記載されているような手順によって回収されない場合、硝酸は全プロセスで失われる。更に、上述したように、これらのアルカリ金属の硝酸塩は、加熱しても硝酸リチウムと同じようには分解しない。しかしながら、このメカニズムによる硝酸塩の損失に加えて、システムからの硝酸塩(従って硝酸)の他の損失は、アンモニアを使用して、特に、オストワルド法による硝酸の製造に携わったことのある人にはよく知られたプロセスに従って、前述のように、空気中で適切な触媒(例えば、白金ガーゼ(platinum gauze))によって促進されるアンモニアの燃焼によって補うことができる。これに関して、1トンのアンモニアで、6トンの硝酸カリウムが形成される際の硝酸塩の損失を補うことができる。ルビジウムは低濃度でしか存在しないと考えられる。ルビジウムはカリウムと似たような挙動を示し、且つ、植物に対して毒性がないため(但し、肥料としての価値はない)、濃度が特に高くない限り、硝酸カリウムから分離する必要はなく、このような場合には、追加の方法で回収する経済的なケースがあってもよい。
【0121】
(ジャダライト)
硝酸は、ジャダライトから硝酸リチウムを製造するためのより効果的なプロセスの基礎を形成することもできる。ジャダライト鉱物を粉砕し、熱硝酸と反応させる。
LiNaSiB(OH)(ジャダライト)+2HNO(硝酸)+3HO→LiNO(硝酸リチウム)+NaNO(硝酸ナトリウム)+3HBO(ホウ酸)+SiO(シリカ) 11)
【0122】
硝酸濃度は、ホウ酸の溶解度を超えることはできない。これは、沸騰水に近い温度の脱塩水で、約24グラム/100mLである。
【0123】
浸出反応器からの生成物を濾過して、シリカ及びその他の不溶性不純物を除去し、ホウ酸と、溶解度が高いナトリウム及びリチウムの硝酸塩の透明な溶液を残してもよい。この溶液を、例えば真空冷却により冷却すると、ホウ酸は無色透明の結晶の形態で沈殿する。一実施形態では、これらの結晶をデカンタ遠心分離幾によって、又はそのような遠心分離機のスクリーンボウル変形を使用することによって、分離及び洗浄する。
【0124】
水溶液からの結晶化によって、硝酸リチウムをそのナトリウム相対物から分離することは、両方とも水への溶解性が高く、溶解度曲線が比較的急勾配であるため、課題が生じる。しかしながら、リチウムが豊富なマイカに関する説明のように、硝酸ナトリウムはアセトン等の極性用内に不溶であるが、硝酸リチウムはこの液体に溶解するため、2つを分離できる。
【0125】
一実施形態では、ホウ酸の結晶化からの残留物を蒸発乾固し、粉砕して粉末にし、十分なアセトンとブレンドし、硝酸リチウムを溶解する。次いで、不溶性の硝酸ナトリウムを濾過又は遠心分離し、洗浄する。一実施形態では、濾過遠心分離機が使用され、硝酸リチウムが豊富な溶液が残る。この溶液を真空下で蒸留して硝酸ナトリウムの塊を残し、アセトンを再利用するために、空冷コンデンサーでアセトンを回収及び凝縮する。
【0126】
アセトン溶媒は、アルカリ金属硝酸塩と爆発性ブレンド物を形成する危険性があるため、アセトンと同等の極性でありながら、可燃性でない他の溶媒、例えば、トリクロロメタン等の高塩素化炭化水素を使用できる。
【0127】
残留硝酸ナトリウムを肥料として使用してもよい。或いは、リチウムが豊富な(塩原)塩水から硝酸リチウムを製造するプロセスと同様に、合理的な輸送距離内に塩化リチウムの供給源があれば、上記の反応10)で具体化されたプロセスのように、これを硝酸リチウムに変換できる。
【0128】
[2.電池カソードのためのリチウムの酸化物及び硝酸の塩ブレンド物の製造]
硝酸リチウムは、電池製造メーカー、並びにリチウム/遷移金属酸化物(又は水酸化物、炭酸塩若しくは硝酸塩)及びカソードのための関連化合物の製造を担当するその他企業にとって、一定の利点がある。そのようなカソードは、以下のような一般的な組成を有する(電池セルにおいて、カソードが完全に放電されている場合)。
LiMO:式中、Mは、遷移金属又は金属のブレンド物(コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、クロム及びチタン、並びに場合により(遷移元素ではないが)アルミニウムのうち1種又は複数種等が挙げられる)であり、これらの金属は+3の酸化状態を有する
LiM’O:式中、M’は、遷移金属又は金属のブレンド物(コバルト、ニッケル、マンガン、クロム及びチタンのうち1種又は複数種等が挙げられる)であり、これらの金属は+4の酸化状態を有する
【0129】
これらの化合物は、微細に粉砕された酸化物又は塩(硫酸塩、塩化物又は硝酸塩でもよい)と、チタン化合物(通常は炭酸塩又は水酸化物)とを正確な割合でブレンドし、化合物の1つ又は複数が溶けるまで、典型的には段階的にブレンド物を加熱することで作られる。これにより、例えば、鉱物の結晶構造(スピネル、かんらん石、ペロブスカイト、又は1つのゼオライト若しくはその他ゼオライト)を模倣した所望の構造を有する化合物へのイオンの輸送と再配置が可能になる(即ち、結晶構造へのリチウムイオンの出入りを受け入れることが可能な構造になる)。典型的に、これらのブレンド物は、バッチベースで処理(850℃又はそれ以上の温度で10時間又はそれ以上の時間保持されること等)される。これらの化合物がどのように作られているかについての詳細は企業秘密として厳重に管理されているため、上記の説明は一般的なものである。
【0130】
このようなカソードを製造するプロセスは、1つ又は複数の成分を溶融させて、伝導性媒体を形成することから始まる。より低い溶融温度を有する少なくとも1つの成分を有することが有利である。また、比較的低温でそれぞれの酸化物に分解し、水蒸気又は二酸化炭素の発生を最小限に抑えることができる原料であることが有利であり、これは、温度が下がると材料が再結合する可能性があるためである。
【0131】
リチウムが電池製造メーカーに供給された当初の形態は、ほとんどが炭酸リチウムであった(現在も大部分はそうである)。炭酸リチウムは約725℃の温度で溶融し、約1,300℃になるまで分解(酸化リチウムになる)しない。水酸化リチウムは、約460℃で溶融し、925℃で分解(酸化リチウムになる)するため、電池製造メーカーに好まれるようになった。酸化リチウム自体は更に耐火性が高く、1,450℃を超えるまで溶融しない。この結果として、リチウム/遷移金属カソード化合物を形成するために必要な反応が起こる場合、酸化リチウムより融点の低い別の化合物が必要となる。
【0132】
硝酸リチウムは、この点において明確な利点を有し得る。純粋な硝酸リチウムの場合、約260℃の比較的低い温度で溶融する。これらの温度を超えると、硝酸リチウムは透明な流動性のある液体になり、導電性の液体になる。つまり、硝酸リチウムは、電気誘導を用いて更に加熱してもよく、所定のカソード材料の製造に必要な遷移金属化合物を容易に収容できる。硝酸リチウムはわずか約600℃で分解(反応12)し、酸化リチウム、窒素酸化物、遊離酸素を生成する。
4LiNO→2LiO+4NO+3O. 12)
【0133】
分解が完了すると、最初に1キログラムあった硝酸リチウム(純粋で無水の形態)から、わずか0.22kgの酸化リチウムが得られるが、同じ量のリチウムも含まれている。つまり、硝酸リチウムの元素リチウム含有量は10重量%であるが、純粋な酸化リチウムの元素リチウム含有量は46重量%である。
【0134】
特に興味深いのは、硝酸リチウムと、硝酸リチウムを部分的に分解して得られる酸化リチウムとのブレンド物であり、本明細書ではニトロロックスと呼ばれる。以下の表は、指定量の硝酸リチウムを分解した結果を示している。
【0135】
【表1】
【0136】
線より下の数字は、酸化リチウムが非常に豊富なため、スラリー又はペーストとして扱うことができない組成を表している(即ち、90%超の分解率で、約260℃超の温度では溶融したLiNOが十分に存在しない可能性がある)。
【0137】
例として(上の表では太字で表示)、硝酸リチウムは、75%が酸化リチウムに分解されるまで、その分解温度を超える温度に加熱される(列2)。この時点で、もともと硝酸リチウムに含まれていた全てのリチウムは、50%の硝酸リチウムと50%の酸化リチウムとの塊に濃縮され、ペーストとして扱うことができるようになる(即ち、硝酸リチウムの溶融温度を超える温度、即ち、約260℃、好ましくは約300℃)。そして、得られた50%の硝酸リチウムと50%の酸化リチウムとの重量は、純粋な無水硝酸リチウムの形態であったときと比較して3分の1よりもわずかに多くなる(列3)。これにより、重量当たりのリチウムの濃度はほぼ3倍になったことになる(約10から約28%へ、列4)。
【0138】
ペースト状の場合、溶融塩混合等の材料をプリル変換する際に用いられる方法(例えば、プリルタワー(prilling tower)を使用)で、ブレンド物をプリル、ペレット又はフレークのいずれかの形態に容易に変換できる。このような形態の場合、取り扱い及び保管が簡単になる(例えば、固体を200リットルの密閉ドラムに入れて保管できる)。このようなブレンド物のリチウム含有量が高いということは、炭酸リチウム(19%Li)及び水酸化リチウム一水和物(16%Li)よりも運搬上の利点があることを意味する。
【0139】
[3.ニトロロックスブレンド物からのリチウム金属の製造]
本明細書に開示されているプロセスにおいて、硝酸リチウムから有利かつユニークに直接製造される酸化リチウムは、炭素熱還元のプロセス等によって、リチウム金属に簡便に変換できる。重要なことに、本発明者は、炭素熱還元によって、酸化マグネシウムからマグネシウム金属を製造するために開発された装置及びシステムが、リチウム金属の製造に適用できることに気が付いた。これは、リチウム金属を製造する既存の方法が、高度に精製された無水のリチウム及びカリウムの塩化物の溶融混合を約450℃の温度で電気分解するという複雑で高価な方法であることを考えると、それ自体は重要であり、非常に価値のある革新である。また、このような既存の方法の主要な供給源(即ち、高純度の無水塩化リチウム)の製造にも複雑な処理が必要である。
【0140】
炭素熱還元プロセスは、多くの重要な金属、とりわけ、鉄及び鋼だけでなく、マンガン、フェロシリコン、純シリコン、及び(間接的に)マグネシウム金属の製造の基礎となっている。例えば、金属チタンを製造するためのクロール法(還元剤として金属マグネシウムを使用)がある。
【0141】
更に重要なことに、本発明者は、もともとマグネシウム金属の製造のために開発された技術を応用して、直接炭素熱プロセスによって、硝酸リチウム及び酸化リチウムを直接リチウム金属に還元できることに気が付いた。このような例の1つは、US特許9,090,954に記載されており、これには、酸化マグネシウムと、何らかの形態の炭素(例えば、グラファイト、石油コークス、又は石炭由来のコークス)とのブレンド物をブリケットに形成し、これを炉(誘導加熱又は電気アーク加熱のいずれかを使用可能)で約2,000℃に達し得る温度まで電気加熱するプロセスが開示されている。これにより、酸化マグネシウムがマグネシウム金属に還元され、炭素が一酸化炭素に酸化されるという以下のような可逆反応が起こる。
MgO+C→M+CO 13)
【0142】
反応が逆になる(右から左に進む)のを防ぐために、高温の蒸気(マグネシウム蒸気と一酸化炭素)を収束-発散(ラバール)ノズルで超音速膨張させてフラッシュ冷却する。これにより、ガスの膨張によって冷却が急速に行われるため、逆の反応はあまり起こらない。US9,090,954に記載されているプロセスでは、ノズルの性能低下及び閉塞の原因となる、ノズルの露出した表面に不純物が凝縮して付着しないように、ノズルを十分に高温に保つための設備が定義されている。
【0143】
純粋な酸化リチウム(本明細書に開示されているプロセスで本質的に製造される)と、本質的に鉱物を含まない炭素の形態(例えば、特定のグレードの石油コークス、又は灰分レベルが少ない天然の石炭から作られたコークス、又は最初に灰分を化学的に除去した石炭(ウルトラクリーン石炭))のみに頼ることで、本プロセスは、US4,147,534及びUS4,200,264に記載されている手順を含む、先行技術、例えばHiroの手順に頼ることができる。これらのプロセスには、US9,090,954と同様の装置が含まれるが、ノズルが十分に加熱されたままであることを保証するための機能はない。
【0144】
更に、US4,147,534及びUS4,200,264の手段によるリチウム金属の炭素熱製造の場合、ノズルを通過してその露出した表面に凝縮して付着しやすい凝縮可能な鉱物がとても少ないはずであり、ノズルの性能低下のリスクは最小限となるはずであると本発明者は気づいている。好都合なことに、リチウム金属は、ノズルの出口での一般的な条件下等、広い温度範囲で液体のままである。これにより、一酸化炭素ガス等の流れからリチウム金属を迅速に分離できる。
【0145】
一実施形態では、この迅速な分離は、直列に動作するサイクロン分離機の1つ又は複数のバンクを使用することによって起こり得る。更に、直接炭素熱プロセスによって製造された一酸化炭素ガスは、それ自体を燃料として使用でき、これは、リチウム含有ケイ酸塩鉱物の原鉱をか焼するために使用される天然ガスの部分的な代替物としての使用も含まれる。
【0146】
酸化リチウムに関するこの反応は以下である。
LiO+C→2Li+CO 14)
【0147】
更に、本発明者は、ニトロロックスブレンド物が、より単純にリチウム金属を製造する方法の基礎となり得ると認識した。
【0148】
これまでに説明した炭素熱製造方法の課題は、炉の温度を2,000℃程度に維持することである。唯一満足できる方法は、誘導又は電気アークのいずれかによる電気加熱である。反応14)は強い吸熱反応であるため、反応14)を右に動かすのに十分な電気エネルギーを計上し、更に高温度であるため必然的に発生する損失を考慮すると、全還元プロセスは高価になる。
【0149】
ニトロロックスは本質的に硝酸イオンの形態でエネルギーを含んでいる。酸化リチウムの炭素熱還元に影響を与えるエネルギーの一部を提供するために、ニトロロックスブレンド物を指定できる。ニトロロックスの硝酸塩部分が関与する反応は以下の通りである。
2LiNO+6C→2Li+6CO+N 15)
【0150】
硝酸リチウムと炭素との反応は発熱性が高い。これは火薬と同じ原理である(即ち、硝酸リチウムではなく硝酸カリウムを使用するということ)。ニトロロックスブレンド物では、反応14)と15)とが並行して起こる可能性がある。反応14)は、前述のように、強い吸熱性であり、反応15)は強い発熱性である。従って、反応15)によって放出されるエネルギーは、反応14)を動かすために必要なエネルギーの一部を相殺し得る。反応14)を動かすために必要なエネルギーは、通常、電気の形で供給されるため、これは大きな節約になる。
【0151】
反応14)と反応15)とを比較すると、後者の方が前者よりも実質的に大量のガスが得られることがわかる。本発明者は、ガス量が多いとプラントのサイズの限定的な増加につながるがあることに気が付いた。しかしながら、反応器内の条件下では、ガスは非反応性であり、プロセス制御も改善される。炉に別々に供給されるニトロロックスと無灰分に近い炭素とを使用したリチウム金属の製造に適したプラントの説明は、図3及び図4を参照して提供される。
【0152】
反応14)及び15)は、リチウム金属蒸気及びガス状の副生成物を収束-発散(ラバール)ノズルによって超音速膨張させることで終了し、続いて凝縮したリチウム金属を(例えば、直列に動作する)サイクロン分離機の1つ又は複数のバンクを介してそのようなガスから迅速に分離する。得られたリチウム金属を回収し、次いで更に精製できる(即ち、必要な程度のリチウム金属の純度を得るために、別の下流プロセス、例えば、リチウム金属を更に精製する通常の工業的方法である真空蒸留等によって)。
【0153】
この結果として、例えば、酸化リチウム、窒化リチウム、炭素、及び/又はその他の耐火性固体材料が、ラバールノズルを通過してサイクロンに入るリチウム蒸気及び一酸化炭素と一緒に持ち込まれても、別の下流プロセス(即ち、真空蒸留等)で容易に分離できる。
【0154】
これに関して、酸化リチウムは1450℃の温度を超えるまで溶融せず、窒化リチウムは約850℃の融点を有するため、真空蒸留でリチウム金属を精製する過程において固体として残ることに注意すべきである。更に、このような真空蒸留の後(即ち、遊離のリチウム金属を蒸留した後)に、窒化リチウムとして残ったリチウム有価物がある場合は、窒化リチウムを希硝酸に加えるだけで、硝酸リチウムと硝酸アンモニウムが形成されるので、これを回収することができる、
LiN+4HNO→3LiNO+NHNO 16)
【0155】
以下、図3及び4を参照しながら、上述のリチウム金属を製造するためのプロセス及びシステムを更に詳しく説明する。
【0156】
<プロセス全体(ニトロロックス及びリチウム金属の製造-図1)>
ここで図1を参照すると、スポジュメンからニトロロックス(即ち、硝酸リチウムと酸化リチウムとのブレンド物)及びリチウム金属を製造するためのプロセス全体がプロセスブロック図として概略的に示されている。全プロセスは、4つの「ブロック」1~4で構成されていることが示されている。
【0157】
プロセスブロック1では、(α)スポジュメンを、例えば天然ガスを燃焼させたか焼炉に送り、そこで活性化する。必要に応じて、このか焼炉には、リチウム金属製造からの一酸化炭素を含むリサイクル燃料ガスを追加で使用してもよい。次いで、か焼炉で得られた活性化された(β)スポジュメンを、温浸段階(例えば、オートクレーブ)に送り、高温高圧化で硝酸と接触させて温浸する。温浸段階の硝酸は、硝酸製造プラントで製造できる(全プロセスのブロック3)。硝酸製造プラントの供給原料は、温浸段階及び硝酸リチウム熱分解段階(全プロセスのブロック2)のそれぞれからの揮発性物質/オフガス、並びに補充段階(例えば、空気を用いたアンモニアの触媒燃焼段階-本明細書の図2を参照)からの揮発性物質/オフガスを含むことができる。
【0158】
プロセスブロック1の温浸段階では、β-スポジュメンを硝酸で浸出し、硝酸リチウムを製造する。硝酸リチウムは、β-スポジュメン温浸物の残留物から分離及び精製されるが、これには硝酸リチウム結晶化段階での精製も含まれる。これにより、比較的純粋な硝酸リチウムが製造され、熱分解段階(プロセスブロック2)の準備が整う。
【0159】
プロセスブロック2では、比較的純粋な硝酸リチウムを保持(予熱)容器に送り、その中で(例えば、高温のプロセス流体によって)溶融状態に加熱する。この予熱により、熱分解反応炉の負荷が軽減される。次いで、溶融した純粋な硝酸リチウムを、熱分解反応器(典型的には、電気誘導加熱式又は外部加熱式の反応器)に供給し、その中で所定の時間、硝酸リチウムをその分解温度超に加熱し、硝酸リチウムの一部を酸化リチウムに分解すると共に、ガス状の窒素酸化物を製造する。硝酸リチウムを部分的に分解すると、酸化リチウムの固体結晶を含有する溶融硝酸リチウムのブレンド物が製造される。
【0160】
また、プロセスブロック2では、酸化リチウムを含有する硝酸リチウムのブレンド物を部分的な分解反応器から抽出し、すぐに硝酸リチウムの分解温度未満に(熱交換器等で)冷却する。熱分解反応器が加圧されている場合、生成物(固体酸化リチウムを含有する溶融硝酸リチウム)を減圧してもよい。この結果として、生成物はニトロロックスのスラリー/ペースト(即ち、固体酸化リチウムを含有する溶融硝酸リチウムを含むスラリー/ペースト)である。図1に示すように、このスラリー/ペーストの一部を、(ニトロロックスとして)固体形成段階(例えば、プリルタワー/プリル塔等)に送ることができ、そこで冷却され、プロセス全体の固体の生成物を形づくる。他の部分は、リチウム金属製造(プロセス全体のブロック4)に送ることができる。
【0161】
プロセスブロック3では、温浸段階及び熱分解段階のそれぞれからの揮発性物質を組み合わせ、冷却し、硝酸製造プラント(例えば、吸収塔/吸収タワー、又はコンパクト熱交換器等)に送る。この組み合わせたストリームに、補充窒素酸化物を加えてもよい。この補充窒素酸化物が、アンモニアが空気中で燃焼される触媒燃焼反応器で別途製造される。硝酸製造プラントから得られた硝酸は、プロセスブロック1の温浸段階で再利用される。
【0162】
プロセスブロック4では、ニトロロックスブレンド物のスラリー/ペーストを還元炉でリチウム金属に還元する。典型的には、ニトロロックスブレンド物が固体形態である場合(即ち、部分的な熱分解を経て硝酸リチウムの融点温度未満に冷却されている場合)、保持タンクで再溶融する。この再溶融は、ニトロロックスブレンド物が炭素源と共に還元炉に集中的に供給される前に行われる。典型的には、炭素は灰分を形成する鉱物物質を本質的に含まず、下向きに傾斜した炭素床を形成するように還元炉の周囲部に供給される。還元炉では、硝酸リチウム成分が発熱的に反応し、供給原料中の実質的に全てのリチウムを(炭素との反応によって)リチウム金属に還元するのに十分な高温を達成するための熱エネルギーの一部を供給する。図3及び4を参照して更に詳しく説明すると、高温のリチウム金属蒸気は、ガス状の副生成物と共に、ラバールノズルによる超音速膨張によって急速に冷却された後、互いに分離されて、リチウム金属が回収される。
【0163】
次に、図2を参照して、図1のプロセスブロック2及び3をより詳細に説明する。
【0164】
<酸化リチウムの製造及び硝酸のリサイクル(図2)>
ここで図2を参照すると、全体のプロセスブロック1で製造された硝酸リチウムの純粋な無水結晶21は、液体硝酸リチウム保持タンク22に移送される。硝酸リチウム結晶21は、可変速度スクリューコンベア(即ち、プロセス供給速度を制御するため)を介してタンク22に移送できる。保持タンク22の内容物は、硝酸リチウムの融点(約260℃)を超える温度、典型的には300℃を超える温度に維持される。この温度は、タンクの一部を囲む被覆物によって維持される。被覆物は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム及び硝酸リチウム等のアルカリ金属塩のブレンド物が流れる複数のチャンネルを含む。これらは、WO2017/106925に詳述されているように、純粋な硝酸リチウムの製造プロセスの副産物として製造される可能性がある。この溶融塩の循環流の温度は、タンク22の内容物の温度よりも高い温度に維持され、タンク22の所望の温度が確実に維持されるようにする。タンク22に入ると、硝酸リチウム結晶21はすぐに溶けて、透明で流動性のある液体になる。
【0165】
プロセスの必要性に応じて、タンク22の内容物は、ポンプ23によって分解反応器24に移送される。分解反応器24が加圧化で運転される場合(即ち、反応器24が圧力容器の形態を有する場合-オートクレーブ)、ポンプ23は、溶融硝酸リチウムの圧量を約10バール(9バールゲージ)の圧力まで、即ち、硝酸リチウム分解反応器24の動作圧力まで上昇されるように構成できる。反応器24の内容物は、純粋な硝酸リチウムの分解温度以上、即ち、約600℃以上に維持される。
【0166】
反応器24では、反応器24内に位置した電気誘導コイル24a(断面を模式的に示す)よる電気誘導によって温度が維持される。しかしながら、別の形態の反応器では、反応器とその内容物を外部から加熱(即ち、間接加熱)する外部燃料燃焼(例えば、天然ガス)バーナーによって温度を維持することができる。
【0167】
分解温度では、電気誘導等で加えられたエネルギーが反応12)に従って硝酸リチウムを分解する。
4LiNO→2LiO+4NO+3O. 12)
【0168】
酸化リチウムは、溶融硝酸リチウム中に浮遊する小さな結晶の形態になる。
【0169】
反応12)の進行割合は、電気等のエネルギーの入力割合に直接関係する。ガス(亜酸化窒素及び酸素)が形成されて、溶融硝酸リチウムが発砲しないことが確認されている。
【0170】
上記の表1から、硝酸リチウムの酸化物への実用的な最大変換率は約80%であり、これは重量で40%の硝酸リチウムと60%の酸化リチウムとのブレンド物に相当する。注目すべきことは、このブレンド物は、3倍の質量の硝酸リチウムに含まれているのと同じ量のリチウムを有していることである。
【0171】
酸化リチウム結晶を含有する溶融硝酸リチウムのブレンド物(ニトロロックスのスラリー/ペースト)は、600℃オーダーの温度で反応器24(反応器24が圧力容器である場合には、任意で約10バールの圧力下)から出る。無水硝酸リチウムが反応器24に入る割合と比較して、このスラリー/ペーストが反応器24から出る割合は、表1にまとめられているように、硝酸塩の酸化物への分解の望ましい程度に大きく依存する。
【0172】
高温のニトロロックスのスラリー/ペーストの一部は、図3及び4を参照して以下で更に詳細に説明するように、更なる処理をすることなく、リチウム金属を製造する施設に直接送られる。次いで、高温のニトロロックスのスラリー/ペーストの残りの部分(又は、リチウム金属を現場製造しない場合は、高温のニトロロックスのペースト/スラリーの全て)は、熱交換器25によって部分的に冷却される。この熱交換器では、これらは、溶融塩(即ち、ナトリウム、カリウム及びリチウムの硝酸塩のブレンド物)の向流によって約300℃まで冷却される。これにより、溶融塩ブレンド物の流れが次々に加熱され、プロセス全体の他の場所で再利用される。
【0173】
次いで、部分的に冷却されたニトロロックスのスラリー/ペーストは、ポンプ26を介してプリルタワー(図示せず)に送られ、そこで当業者によく知られた装置及びシステムを使用して、直径約1~2mmの液摘に分けられる。液摘は、冷却された乾燥した雰囲気を通って落下し、プリルタワーを上向きに通過するまでに固化(凝結)し、容器内に回収され、搬送され、そして密閉される。例えば、気密性の高い蓋をした容器200リットルのステンレス鋼製のドラム缶等を使用できる。プリルタワーを通過する乾燥した空気は、大気中に放出される前に、プロセス水を使用して塵及びその他汚染物質を洗い流す。
【0174】
反応器24が圧力容器である場合、ポンプ26は、そこを通過するニトロロックスのスラリー/ペーストを減圧する適切な容積型ポンプの形態にすることができる(即ち、ポンプ26は、ヘッド回収装置(head-recovery device)として逆に動作できる)。この結果として、反応器を出るニトロロックスのスラリー/ペーストの圧力の多くは、供給ポンプ23に戻すこと(例えば、直接)ができるか、或いは、ヘッド回収ポンプ(head-recovery pump)26と供給ポンプ23との間で圧力を伝達するために使用できる中間油圧流体に交換できる。いずれの場合も、結果として得られる、部分的に冷却され、部分的に減圧されたニトロロックスのスラリー/ペーストは、次いで、プリルタワーに送られる。
【0175】
反応器24からの高温のオフガスは、反応12)の右側のように主に一酸化窒素と酸素との混合物であり、また約600℃の温度で(任意に加圧して)混合器27に送られる。混合器27において、ガスは、プロセス全体の他の場所からのガス(及び、任意でミスト又は蒸気の形態の水)とブレンドされる。
【0176】
活性窒素(即ち、一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素/四酸化窒素(それぞれ、NO及びN))が、例えば、その回収における非効率性によって、或いはニトロロックス生成物における硝酸イオンの損失によって、システムから失われる程度まで、これらの活性窒素の損失が補われる。例えば、無水アンモニアは加圧状態の液体として購入され、その状態で例えば道路タンカー等で現場に運ばれ、関連技術に精通したシステムを使用して必要になるまで(任意に加圧状態で)貯蔵される。貯蔵庫からは無水アンモニアが取り出される。任意選択で、反応器24が圧力容器として動作する場合、無水アンモニアは、反応器24からのオフガスと少なくとも等しい圧力(例えば、約10バール(9バールゲージ))で取り出すことができる。
【0177】
オストワルド法に従って硝酸の製造に密接に適合するプロセスにより、アンモニアは、空気圧縮機33によって圧縮され得る(例えば加圧反応器24の場合)周囲の空気中で、白金ガーゼ又は他の材料(例えば、遷移金属酸化物、又はその水酸化物、炭酸塩、若しくは硝酸塩の適切なブレンド物)でもよい触媒の上で反応(燃焼)し、反応17)に従って一酸化窒素を形成する。
4NH+5O→4NO+6HO 17)
【0178】
反応17)の右側のガスの温度は700℃オーダーでもよい。これらは、混合器27で反応器24からのオフガスとブレンドされ、その温度はほぼ同じで、約600℃である。また、これらは硝酸リチウム製造からのオフガス及び蒸気とブレンドされ、ガス圧縮機31によってその圧力を高めることができ(例えば、約10バール)、この圧縮機はまた、混合器27に入る他のガスと同等の温度になるまで、該オフガス及び蒸気を断熱的に加熱する役割を果たし得る。
【0179】
混合器27からの得られた組み合わせガスストリームは、3つの段階で冷却される。まず、ガスストリームは、シェルとチューブの容器の形態の熱交換器28を通過させることにより冷却される。そのチューブの中は比較的冷たい(最初は約150℃)アルカリ金属の溶融硝酸塩ブレンド物が流れており、これは次々に加熱される。次いで、部分的に冷却されたガスは、硝酸吸収タワー30に送られる前に、水冷式熱交換器29(冷却水はプロセス水である)を通過する。このタワーも、タワーパッキング(tower packing)に分散したチューブを介して循環する冷水によって冷却される。このタワーでは、以下のような反応が起こり、硝酸が製造される。
2NO+O→2NO 18a)
3NO+HO→2HNO+NO 18b)
【0180】
反応18b)で製造されたNOは、反応18a)にリサイクルされる。
【0181】
典型的には、吸収タワー30からの硝酸は、リチウムが豊富な鉱物からリチウム有価物を浸出する際に(即ち、プロセスブロック1の温浸段階で)使用するために、精留塔での蒸留によって適切な濃度に濃縮される。
【0182】
吸収タワー30の上部から出ていくことが示されているオフガスは、大気中の窒素、いくらかの残留酸素、並びに少量の水蒸気及び未反応の窒素酸化物のブレンド物である。次いで、この排気ガスは、スポジュメンか焼器(即ち、プロセスブロック1)を通過する入口空気供給物にブレンドされてもよい。変形例としては、加圧された排ガスを適切なガスタービンに供給して、そこからエネルギーを回収してもよい。
【0183】
図2に示され、且つ、説明されたようなプロセス機構は、処理される元のリチウムが豊富な鉱物がスポジュメンを含む場合に最も密接に関連する。但し、図2のプロセス機構は、プロセス全体の範囲をこの鉱物に限定するものではないことを理解すべきである。先に開示したように、他の鉱物及びリチウム塩は、純粋な硝酸リチウム結晶を製造するためのプラント及び装置への供給物を構成できる。
【0184】
<リチウム金属の製造(図3及び4)>
ここで図3を参照すると、硝酸リチウムと酸化リチウムとのブレンド物(ニトロロックス)は、再溶融/貯蔵容器41内で適切なレシピで調製される(例えば、ブレンド物は、更なる硝酸リチウムの添加によってトリミングされてもよい)。容器41は、容器の周りの被覆物内を循環する高温の溶融硝酸塩等を用いて、400℃オーダーの温度に加熱できる。
【0185】
高温のブレンド物は制御された割合で取り出され、典型的には加圧下で操作される炭素熱還元炉40に供給される。また、炉40には、当業者が理解する酸及びアルカリ洗浄プロセスによって灰分を形成する鉱物を除去した石炭に由来する、実質的に灰分を含まないコークスの形態の炭素も供給される。また、一部の石炭(例えば、インドネシア及びニュージーランド産)は、灰分の含有量が自然に非常に低いレベルであるため、化学的に洗浄する必要がない場合もある。同様に、石油コークスにも灰分の含有量が非常に低いレベルのグレードのものがある(ただし、「ボトム」石油コークスがこのカテゴリーに入ることはほとんどない)。石炭を必要に応じて化学的に脱灰分した後、実質的に灰分を含まない石炭を(一実施形態において)コークス炉で熱分解し、揮発性物質を全て追い出して石炭/コークスの水素含有量を最小化する。また、灰分をほとんど含まない、好ましくは0.5重量%以下、更に好ましくは0.2重量%以下であれば、炭素源として黒鉛を使用することもできる。
【0186】
典型的には、炉40の内容物は、1,500℃を超える温度(潜在的には約2,000℃にもなる)に維持される。炉40は、任意に、適切に配置された誘導コイル43(例えば、炉40の内容物を実質的に囲み、且つ、ラバール放出ノズル42を囲む炉の壁に組み込まれたソレノイド)を含むことができる。他の実施形態(図示せず)では、必要な温度は、先端と炉40内のカーボンブリケットとの間で電気アークが打たれる炭素電極を介して維持されてもよい。
【0187】
炉40は、内容物が1,500℃を超える温度で持続して動作するように設計されている。そのため、炉40は、グラファイト又はその他圧縮された炭素レンガによって全体的に覆われ得る。いくつかの実施形態では、炉40への供給物が、酸化リチウムのみの形態のリチウム有価物、又はごく少量の硝酸リチウムを含むニトロロックスブレンド物を含む場合、リチウム還元に必要な高い温度は、誘導コイル43を介して供給される電気エネルギーによって持続することができる。他の実施形態では、炉40に供給されるニトロロックスブレンド物がより高い割合の硝酸リチウムを含む場合、硝酸リチウムと炭素との間の反応(反応15)から放出されるエネルギーが、リチウムが酸化リチウムのみとして供給される場合に使用される電気エネルギーの一部を置換することができる。
【0188】
図3の実施形態では、追加の硝酸リチウムを貯蔵容器41内のニトロロックスブレンド物に加えてもよい(即ち、容器41の内容物を常に監視して、実質的であるが制御された硝酸リチウムの内容物が炉の供給物中に存在することを確実にすることができる)。
【0189】
運転中は、図3に示すように、バインダーを使用せずに作られた本質的に均一なサイズのブリケットの形をした低灰分の炭素が、壁の近くに放出する複数の入口によって炉40に加えられる(この断面図では2つしか示されていないが、実際にはこのような入口が炉の円周上に均等に配置されており、少なくとも4つ、6つ以上、大型の炉では更に多くの入口があり得る)。これにより、炭素床は、炉の日常的な運転の過程で自然に形成される内向きの円錐型の表面を形成する。
【0190】
ニトロロックスは、反応器40の中央(即ち、一般的には炭素床の円錐型表面の中央下部)に単一のストリームとして落下するように、炉の上方から集中的に加えられ、そこで炭素に衝突する。ここでも再度示されている反応15)のように、強い発熱反応が起こる。
2LiNO+6C→2Li+6CO+N 15)
【0191】
一方、ニトロロックスに存在する酸化リチウムは、ここでも再度示されている反応14)に従って反応する。
LiO+C→2Li+CO 14)
【0192】
上述のように、供給されるエネルギーと共に、硝酸リチウムと酸化リチウムとの間の最適なバランスから供給される補助的なエネルギーは、動作中に1,500℃以上の最適な温度が確保されるようなもの、即ち、反応14)又は15)のいずれかに従って製造されたリチウム金属が気相のままであることを保証するようなものである。
【0193】
図3に示す実施形態では、反応14)及び15)は、「燃焼ゾーン」と呼ばれる領域から固体炭素をガスの一酸化炭素として除去する役割を果たす。これにより、炉40の側面近くから中心部に炭素が本質的に連続的に導かれ、この炭素とニトロロックスブレンドとが反応して、全てガス状又は蒸気状の生成物(反応14)及び15)の右側)が得られる。このことから、反応器40内で最も高い温度はその中央部に限定され、壁に向かって温度が徐々に低下する。これにより、反応器40の個々の構成要素にかかるストレスが少なくなり、反応器からの熱損失が減少する。
【0194】
また、炭素は、燃焼ゾーンが反応器の底面から上に十分に留まるのを確実にするような速度で供給される。ニトロロックスブレンド物は、反応器40内の適切な動作温度及び圧力を維持する割合で供給され、収束-発散(ラバール)ノズル42を通る高温ガス及び蒸気の適切な流れも維持される。上記のように、ニトロロックスブレンド物の組成は、これらの基準が満たされるように貯蔵容器41内で微調整してもよい。一実施形態では、反応器40に組み込まれた誘導コイル43等の電気加熱によって、全体の温度レベルを必要な高温に維持する。
【0195】
図4は、炉40の変形例を示しており、ここでは、炉40は耐火物で覆われた圧力容器40’の形態となっている。更に、ニトロロックスブレンド物はブレンドユニット45を介して供給され、プロセス制御手順の一部として、容器40’へのニトロロックス供給(右側の流れ)に追加の硝酸リチウム(左側の流れ)をブレンドすることができる。また、図4には、溶融スラグタップ47も示されている。その他、容器40’は、本明細書に記載の炉40と同様であり、同様の方法で動作する。
【0196】
火薬反応と同様に、硝酸リチウムが十分に供給されていれば、反応15)は維持されることがわかる。この硝酸リチウムの流れが遮断されると、反応は停止する。硝酸リチウムの供給が再開されると反応が再開される。このように、硝酸リチウムの流れと、炉に供給投入されるニトロロックスブレンド物中の硝酸リチウムの比率は、プロセス制御変数として使用できる。
【0197】
US特許第9,090,954号の背景にある論理は、誘導コイル(即ち、図3にノズル42のコイル43で示されているようなもの)をラバールノズル42に組み込み(即ち、スロートを取り囲むように)、動作中のスロートがその表面に耐火性固体が凝縮するのを防ぐのに十分な温度を保つようにすべきであることを要求している。上述したように、本明細書に開示されたプロセスは、純粋な硝酸リチウム(及びこの結果として純粋なニトロロックス)を供給することにより、また非常に低灰分炭素を使用することにより、炉40への不純物の混入を最小限に抑えることができる。従って、通常の動作の過程では、ノズル42内のコイル43に通電する必要はないはずである。
【0198】
オフガス及び蒸気(反応14)及び15)の右側)は、燃焼ゾーンから上昇し、炭素の微量物、酸化リチウム、及び供給物ストリームでシステムに入り得る他の耐火性酸化物の微量物を一緒に運ぶ傾向がある。オフガス中に分散した微細な炭素粒子の存在は、炉40内の条件が強い還元性を維持することを保証し、その結果、逆方向(右から左)に作用する反応14)及び15)を防止する。このような逆反応を防止するために、反応14)及び15)の右側で製造されたガス及び蒸気をフラッシュ冷却する。これは、炉40からの唯一の出口がラバールノズル42を経由するようにすることで達成される。このノズルのスロートを通過する流れは音速であるが、ガス及び蒸気がノズルの発散部で超音速に膨張及び加速するため、この加速は、ミリ秒以内に2,000℃もの温度を300℃まで下げるのに十分である。この温度では、14)及び15)の反応が逆方向に進行する条件はもはや存在しないため、リチウム蒸気は速やかに凝縮し、液体リチウム金属の微細な液滴となる。
【0199】
図3の実施形態では、このガス及び蒸気の超音速の流れは、サイクロンバンク44に送られる。リチウムの液滴はガスの流れから除去され、アンダーフローの出口(スピゴット)からサイクロンバンク44を出る。液体リチウムは、そのスピゴットから原料液体リチウム貯蔵タンク45に流入し、このタンクは、その内容物が液体のままであるような温度(即ち、180℃を超える温度、好ましくは200℃を超える温度)に保たれる。この溶融リチウムには、少量の耐火性固体である炭素、酸化リチウム、及びおそらく他の鉱物が含まれている可能性がある。貯蔵されたリチウム金属は、真空蒸留によって容易に精製することができるが、そのための適切な装置は図3には示されていない。
【0200】
液体リング真空ポンプ46によって、ラバールノズル42の下流側の装置全体で真空状態を維持することができる。液体リング真空ポンプ46で使用される液体は典型的にはプロセス水である。液体リングは、ラバールノズル42の圧力を少なくとも5分の1に低減するのに十分な真空状態を発生させるだけでなく、一酸化炭素(及び一部の窒素)ガス流から残留リチウム有価物をスクラビングする役割も果たす。スクラビングされたガスは燃料として使用され、原料スポジュメンのか焼等のプロセスで天然ガスから供給されるエネルギーを補うことができる。硝酸リチウムがスポジュメン鉱石の精錬(例えば、南米の塩原で採掘されたもの)に由来しない場合には、ガス燃料の他の用途は発電等であってもよい。
【0201】
<更なるバリエーション>
本仕様書に記載されている天然リチウム源の範囲内では、大きなばらつきがあることを理解しておく必要がある。このような固有の特性を適切に考慮するために、実用的な技術的手段が講じられる。また、サービス及びユーティリティの提供、廃熱の効率的な利用、水の節約、すべての廃棄物ストリームの最小化等、優れたエンジニアリングの実践に沿って、全体のプロセスに他の単位操作を含めることができる。
【0202】
以下の特許請求の範囲及びこれまでの説明では、明示的な表現又は必要な暗黙の了解により文脈上別の表現が必要な場合を除き、「含む(comprise)」という単語及び「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)」等の変形は、包括的な意味で使用されています。つまり、記載された特徴の存在を特定するためであり、さらなる特徴の存在又は追加を排除するものではない。
図1
図2
図3
図4