(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】細胞外小胞を製造するための流体系および関連方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20250120BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20250120BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20250120BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20250120BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20250120BHJP
A61K 51/12 20060101ALI20250120BHJP
A61K 49/22 20060101ALI20250120BHJP
A61K 49/04 20060101ALI20250120BHJP
A61K 49/18 20060101ALI20250120BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20250120BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20250120BHJP
A61P 31/00 20060101ALN20250120BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20250120BHJP
A61P 37/00 20060101ALN20250120BHJP
A61P 3/00 20060101ALN20250120BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20250120BHJP
A61P 25/28 20060101ALN20250120BHJP
A61P 17/02 20060101ALN20250120BHJP
A61P 37/04 20060101ALN20250120BHJP
【FI】
C12N1/00 Z
A61K35/12
C12M1/00 A
A61K47/46
A61K49/00
A61K51/12 200
A61K49/22
A61K49/04
A61K49/18
A61K9/51
A61P35/00
A61P31/00
A61P29/00
A61P37/00
A61P3/00
A61P43/00 105
A61P25/28
A61P17/02
A61P43/00 121
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2021537118
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 FR2019053309
(87)【国際公開番号】W WO2020136362
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-11-11
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516086358
【氏名又は名称】サントル ナショナル デ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】グランジエ,アリス
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァ,アマンダ
(72)【発明者】
【氏名】ガゾー,フロレンス
(72)【発明者】
【氏名】ウィルヘルム,クレア
(72)【発明者】
【氏名】ピフォクス,マックス
(72)【発明者】
【氏名】ヘスロット,フランソワーズ
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/102608(WO,A1)
【文献】特表2020-528763(JP,A)
【文献】特開2006-296423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0355776(US,A1)
【文献】Adv. Biosys.,2017年,e1700044
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12N 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁産生細胞(6)からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造方法であって、
-前記懸濁産生細胞(6)の増殖に好適するように攪拌器(7)の速度を制御する手段、および容器(4)の形状および寸法が、前記細胞外小胞(EV)の生成を達成するために前記産生細胞(6)にシェアストレスを作用させるように前記容器(4)中の液体培地(5)の乱流を生成するように適合され、前記容器(4)中の流れのKolmogorovの長さが50μm以下であり、前記容器(4)が出口(9)を含み、前記液体培地(5)が懸濁産生細胞(6)を含むこと、および
-前記容器(4)の前記出口(9)で細胞外小胞(EV)を含む前記液体培地(5)を収集すること、を含む、方法。
【請求項2】
前記流れのKolmogorovの長さが40μm以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記液体培地(5)が少なくとも20分間撹拌される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
セパレーター(15)が、細胞外小胞(EV)の前記容器(4)の前記出口(9)で収集した前記液体培地(5)の一部を枯渇させ、前記液体培地(5)の一部を前記容器(4)中に再導入する、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記方法が、前記液体培地中に存在する治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填する前段ステップを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記流れが、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の前記産生細胞(6)の内部または膜への充填、および前記容器(4)中の前記細胞外小胞(EV)の生成を同時に行うことを可能にする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を、産生細胞(6)からの細胞外小胞(EV)の内部または膜に充填する方法であって、
-容器(4)中に前記産生細胞(6)を含む液体培地(5)および治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を加えるステップ;
-液体培地(5)の乱流を起こす攪拌器(7)の制御を作動させて、流れのKolmogorovの長さを50μm以下にし、前記流れが少なくとも1種の治療薬の充填、および前記容器(4)中での前記細胞外小胞(EV)の生成を同時に可能とし、前記容器が出口(9)を含むステップ;
-前記容器(4)の前記出口(9)で細胞外小胞(EV)を含む前記液体培地(5)を収集するステップ、を含む、方法。
【請求項8】
前記流れのKolmogorovの長さを40μm以下にする、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は一般に、細胞外小胞の製造に関する。より具体的には、本発明は、懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するシステム、このような小胞を製造および回収する方法、およびこのようなシステムにより製造された小胞に関し、細胞外小胞は、例えば、治療薬および/またはイメージング剤の媒介物として、細胞療法に対する代替法として、および再生医療において、有用であり得る。
【0002】
先行技術
細胞は、それらの環境中で、例えば、インビボで、生物の生体液中で細胞外小胞を放出することが知られている。細胞外小胞は、個別化されたまたは標的化方式での人体中への薬物送達のために効果的な手段であることがわかっている。第1に、それらは、生来の生体適合性および免疫寛容を有する。それらはまた、セラノスティックナノ粒子を内部移行させて、身体の特定の部分をイメージングおよび治療作用を有する有効成分の送達の両方を可能にする。細胞外小胞はまた、細胞間通信の機能も有し、それらは、例えば、脂質、膜および細胞質のタンパク質および/または細胞質のヌクレオチド、例えば、mRNA、マイクロRNAまたは長鎖非コードRNAの異なる細胞間の輸送を可能とする。
【0003】
特に、細胞外小胞の使用は、細胞複製、分化、血管閉塞、拒絶のリスクおよび貯蔵および凍結の困難さ、などの細胞の治療的使用での既知の問題を解決できる。従って、治療的使用、特に、細胞療法に代わる、またはそれに付加するのに十分な量での細胞小胞の製造に関する産業上のニーズが存在する。
【0004】
この目的のために、Piffouxら(Piffoux,M.,Silva,A.K.,Lugagne,J.B.,Hersen,P.,Wilhelm,C.,& Gazeau,F.,2017,Extracellular Vesicle Production Loaded with Nanoparticles and Drugs in a Trade-off between Loading,Yield and Purity:Towards a Personalized Drug Delivery System,Advanced Biosystems)は、細胞外小胞の種々の製造法の比較について記載している。
【0005】
第1の方法は、毛細血管内の生理的条件下で、または血管の狭窄中の病的状態下で、生じるストレスを模倣する流体力学的ストレスにこれらの細胞をさらすことによる、臍帯静脈(HUVEC)の内皮細胞からの細胞外小胞の製造である。これらのストレスは、産生細胞のマイクロ流体チャネルへの通過により促進される。マイクロ流体チップは、2百チャネルを含み、その中で、細胞が層流中を輸送されて、並列化方式で小胞を産生する。
【0006】
しかし、この方法は、量的規模の問題がある、すなわち、マイクロ流体チップにより製造された小胞の量は、上述の用途に必要な量としては適切でない。さらに、このようなチップ中に導入された細胞当たり製造された細胞外小胞の収量(細胞当たり約2x104個の小胞)は、細胞により製造された小胞の理論的最大収量、例えば、MSC型(間葉系幹細胞)の細胞における細胞当たり約3.5x106個の小胞よりも非常に小さい。最終的には、この方法は、医薬の製造にとって必要な、GMP(優良医薬品製造基準)と呼ばれる標準を遵守する必要がある。
【0007】
文献でよく使われ、Piffouxらにより記載された第2の方法は、無血清のDMEMタイプ(ダルベッコ変法イーグル培地)の培地中で、3日間にわたりHUVECを培養するものである(飢餓法(starvation technique)、または血清欠乏(serum deficiency))。血清の非存在は、産生細胞による小胞の放出を誘発する細胞ストレスをもたらす。本方法は、高収量であり、マイクロ流体チップ(産生細胞当たり約4x104個の小胞)を用いた方法よりも、より多くの量の小胞を製造できる。しかし、計算収量は、前の方法の製造時間よりも遙かに長い製造時間に該当する。この方法は、上述の用途に対し十分な細胞外小胞の量を製造可能にしない。結局、この方法は、細胞死を誘導するために、連続的に小胞を製造することを可能にしない。
【0008】
Watsonら(Watson,D.C.,Bayik,D.,Srivatsan,A.,Bergamaschi,C.,Valentin,A.,Niu,G.,& Jones,J.C.,2016,Efficient production and enhanced tumor delivery of engineered extracellular vesicles,Biomaterials,105,195-205)は、製造される小胞の量を増大させることを可能にする小胞製造方法を記載している。この方法は、HEK293型接着細胞を培養フラスコ中で、その後、中空繊維膜中で培養するものである。中空繊維の中央通路は、培地を産生細胞に運ぶことを可能にする。産生細胞は事前にこの通路の周りに播種されており、それらは、繊維間空隙中で小胞を製造する。繊維間空隙中に包含される液体培地は、週3回収集され、極めて大量の播種細胞、例えば、約5x108個の細胞の場合、細胞当たり約6000個の細胞外小胞の収量、および極めて低い純度比(例えば、1μgのタンパク質当たり1.09x109個の粒子)をもたらし、数週間で約3x1012個の小胞を製造することを可能にする。しかし、この製造は、上記用途を考慮すると、十分に多くはなく、また、時間がかかりすぎる。加えて、この方法は、無血清媒体中での培養に特に耐性のある細胞株に対応する産生細胞を用いることにより説明されており、この方法は、幹細胞などの、例えば、ヒトの耐性の低い、標的療法適用に特に好適する産生細胞による小胞の製造に取り入れることができない場合がある。
【0009】
また、3次元(3D)懸濁細胞の培養は、細胞死を誘導しないことが培養に求められるので、低撹拌法の使用が必要であることも当業者にはよく知られている。Kolmogorovの長さは、混合作用により生成される乱流を評価すること、および3D培養にとっていつ乱流が過剰になるかを判断することを可能にする判定基準であることは、当業者に特に知られている。
【発明の概要】
【0010】
驚くべきことに、また、意外にも、3D細胞培養の分野で一般に是認されている考え方とは逆に、発明者らは、培地中での乱流の生成が多量の小胞の急速生成およびそれらへの充填を可能とすることを発見した。
【0011】
従って、本発明の目的は、GMP標準に適合する、またはその標準に適合させることができる条件下で、細胞外小胞を大量に、高速に、既知の方法より高速に、産生細胞から製造するための方策を提案することである。本発明の別の目的は、小胞製造システムの収率、すなわち、製造された小胞の数と製造システムに導入された産生細胞の数の間の比率を高めるための方策を提案することである。本発明の別の目的は、製造システムに導入される細胞型の耐性に関係なく、および血清欠乏に対する耐性に関係なく、広範囲の懸濁産生細胞から細胞外小胞の製造に好適するシステムを提供することである。本発明の別の態様では、懸濁産生細胞は、ヒト、動物、植物、細菌または他の微生物起源である。本発明の別の目的は、細胞外小胞を連続的にまたは不連続的に製造および回収するための方策を提案することである。最終的には、本発明の別の目的は、小胞製造のための流体系の構造を単純化し、その製造コストを低減することである。また、本発明の目的の1つは、本発明による流体系により製造された、および/または本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞のエクスビボ製造のための方法により得られた小胞の使用である。あるいは、本発明の別の目的は、流体系により製造された細胞外小胞に治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填するための方策を提案することである。また、本発明の目的の1つは、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を本発明による産生細胞由来の細胞外小胞の内部または膜に充填する方法により得られた、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填された細胞外小胞の使用である。
【0012】
特に、本発明の目的は、懸濁産生細胞から細胞外小胞(EV)を製造するための流体系であり、該流体系は、少なくとも1つの容器、容器により含まれる液体培地、懸濁産生細胞、液体培地攪拌器、懸濁産生細胞の増殖に適合された攪拌器の速度を制御する手段を含み、該流体系はまた、細胞外小胞(EV)の製造を達成するために産生細胞にシェアストレスを作用させるように攪拌器の速度を制御する手段および容器の形状および寸法が容器中の液体培地の乱流の生成に適合されている攪拌器を含み、流れのKolmogorovの長さが50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下であることを特徴とする。一実施形態では、Kolmogorovの長さは、5~50μm、好ましくは5~41μm、より好ましくは5~35μm、さらにより好ましくは10~35μmである。
【0013】
換言すれば、本発明の目的は、懸濁産生細胞から細胞外小胞(EV)を製造するための流体系であり、該流体系は、少なくとも1つの容器、容器により含まれる液体培地、懸濁産生細胞、液体培地攪拌器、懸濁産生細胞の増殖に適合された攪拌器の速度を制御する手段を含み、該流体系は、細胞外小胞(EV)の製造を達成するために産生細胞にシェアストレスを作用させるように攪拌器の速度を制御する手段、攪拌器および容器の形状および容器の寸法が容器中の液体培地の乱流の生成に好適し、流れのKolmogorovの長さが50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下であることを特徴とする。一実施形態では、Kolmogorovの長さは、5~50μm、好ましくは5~41μm、好ましくは10~41μm、より好ましくは5~35μm、さらにより好ましくは10~35μmである。
【0014】
一実施形態では、本発明で使用される産生細胞は、ヒト細胞、好ましくは健康なヒト細胞である。
あるいは、本発明で使用される産生細胞は、病理学的細胞、例えば、HeLa細胞などの癌細胞である。
【0015】
一実施形態では、本発明で使用される産生細胞は、動物細胞、好ましくはマウス細胞、例えば、マウスMSC細胞(マウス間葉系幹細胞)である。
【0016】
好ましい特徴によると、本発明で使用される産生細胞は、非接着細胞である。
【0017】
別の好ましい特徴によると、本発明で使用される産生細胞は、例えば、好適な処理、例えば、酵素的、例えば、化学的または例えば、機械的またはこれらの手段の組み合わせにより培養支持体から剥離された接着細胞である。
【0018】
一実施形態では、本発明で使用される産生細胞は、幹細胞、特に、誘導多能性幹細胞、多能性細胞、例えば、多能性間葉細胞、遺伝子改変細胞または臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)である。
【0019】
一実施形態では、本発明で使用される産生細胞は、幹細胞、特に、誘導多能性幹細胞、多能性細胞、例えば、多能性間葉細胞、遺伝子改変細胞または臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)または通常は初代細胞である。
【0020】
別の実施形態では、本発明で使用される産生細胞は、細胞株細胞、好ましくはヒト単球細胞株またはBリンパ球由来の造血起源ヒト細胞株、より好ましくはTHP-1細胞またはラージ細胞である。
【0021】
別の実施形態では、本発明で使用される産生細胞は、初代細胞、例えば、赤血球である。
【0022】
好ましい特徴によると、本発明で使用される産生細胞は、前記産生細胞により産生された細胞外小胞が、例えば、投与またはエクスビボ使用により使用される予定の対象由来の細胞である。
【0023】
好ましい別の特徴によると、本発明で使用される産生細胞は、前記産生細胞により産生された細胞外小胞が、例えば、投与またはエクスビボ使用により使用される予定の対象由来の細胞ではない。さらに好ましい特徴によると、本発明で使用される産生細胞は、前記産生細胞により産生された細胞外小胞が、使用される予定の対象の種と同じ種由来の細胞である。あるいは、本発明で使用される産生細胞は、前記産生細胞により産生された細胞外小胞が、使用される予定の対象の種とは異なる種由来の細胞である。
【0024】
好ましい特徴によると、流体系容器の液体培地中の産生細胞の濃度は、液体培地1リットル当たり50,000~500,000,000個の産生細胞、好ましくは1リットル当たり50,000,000~500,000,000個の産生細胞、好ましくは1リットル当たり50,000,000~300,000,000個、より好ましくは1リットル当たり200,000,000~300,000,000個、さらにより好ましくは前記液体培地1リットル当たり250,000,000個である。別の好ましい特徴によると、流体系容器の液体培地中の産生細胞の濃度は、液体培地1リットル当たり100,000~250,000,000個の産生細胞である。
【0025】
好ましい特徴によると、流体系容器の液体培地中の産生細胞の濃度は、液体培地1リットル当たり50,000~900,000,000,000,000個の産生細胞、好ましくは1リットル当たり50,000,000~100,000,000,000,000個の産生細胞、好ましくは50,000,000~10,000,000,000,000個、さらにより好ましくは1リットル当たり200,000,000~1,000,000,000,000個である。別の好ましい特徴によると、流体系容器の液体培地中の産生細胞の濃度は、液体培地1リットル当たり100,000,000~1,000,000,000,000個の産生細胞である。
【0026】
特に、本発明の目的は、本発明による流体系により製造された小胞から構成される。
【0027】
特に、本発明の目的は、細胞に対し作用させるための、本発明による流体系により製造された小胞の使用である。
【0028】
特に、本発明の目的は、イメージングおよび/または治療目的のための、本発明による流体系により製造された小胞の使用である。
【0029】
一実施形態では、50μm以下、例えば、17~35μmのKolmogorovの長さでの乱流撹拌の継続時間は、15分以上、好ましくは約20分~約10時間、より好ましくは約20分~約8時間、さらにより有利には、約1時間~約6時間、さらにより好ましくは約2時間~約3時間、さらにより好ましくは、約2時間、あるいは約3時間あるいは約4時間である。
【0030】
一実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の攪拌器は、ブレードから構成される。あるいは、前記攪拌器は、2、3、4、5、6、7、8または8枚超のブレードからなる。
【0031】
好ましい特徴によると、前記攪拌器の少なくとも1枚のブレードは、垂直ブレードである。
【0032】
一実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の攪拌器は、プロペラ型、例えば、異形ブレード、またはタービン、例えば、Rushtonタービン、または撹拌アンカーを有する舶用プロペラ攪拌器、またはバリアー攪拌器、またはヘリカルリボンプロペラ、または羽根車、または歯車、または磁気攪拌器またはこれらの攪拌器の組み合わせである。
【0033】
一実施形態では、静的構造は、容器中に存在し得るものであり、例えば、調節板、または液体の運動に対し部分的なバリアーを形成する構造物、例えば、静的ミキサーで使用されるものであり得る。
【0034】
このようなシステムにより、およびGMP標準に適合される、または適合可能なシステムにより、小胞を大量に製造することが可能であると理解される。また、このようなシステムは、細胞外小胞を製造するための既知のシステムより、製造するためにより単純で、より安価であると理解される。
【0035】
本発明は、好都合にも、個別にまたはそれらのいずれかの技術的に可能な組み合わせが採用される、次の特徴により完成される:
-液体培地の攪拌器および容器の寸法は、液体培地の流れを制御して、流れのKolmogorovの長さが50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは35μm以下となるよう適合される;
-流体系は、出口および出口に連結された連結器を含み、連結器は、液体培地および細胞外小胞を含むことができる;
-攪拌器は、好ましくは回転または軌道攪拌器であり、容器の形状および寸法と共に、その攪拌器の形状およびサイズは、容器中の液体培地の乱流の生成に適合される;
-容器は、バッチ方式で使用される、または使用でき、すなわち、容器中に含まれる液体は、産生細胞が所定の時間の間細胞外小胞を生成後に取り出される;
-流体系は、細胞外小胞セパレーターを含む;
-流体系は、細胞外小胞(EV)枯渇液体培地を容器中に再導入できるように、容器に流体連結された細胞外小胞セパレーターを含む;
-セパレーターは、容器の内側または外側に配置され、液体は、容器中に含めることができ、容器内部のセパレーターにより小胞が枯渇され、一方、容器中では細胞が保持されるか、または液体は容器中に含むことができ、容器の外部のセパレーターにより小胞が枯渇される;
-セパレーターの入口は、容器に流体連結され、小胞が枯渇した液体培地の形で容器中に再導入できるように、セパレーターの出口は、容器に流体連結される。
【0036】
一実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、100mLの容積のスピナーフラスコであり(例えば、細胞懸濁液用の装置スピナー撹拌フラスコBellco、参照番号Bellco505001)、3.8cmの直径および100mL未満の作業容積を有するブレードを備える。
【0037】
別の実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、スピナーフラスコであり、その構造上の特徴(容積、ブレードの直径および作業容積)は、全て100mLの容積のスピナーフラスコに対して上述したものに比例して増減され、別の実施形態では、前記構造上の特徴は、特に規模の変更中は、全て100mLの容積のスピナーフラスコに対して上述したものに対して比例しない方式で増減される。
【0038】
一実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、7.6cmの直径のブレードおよび200mL~500mLの作業容積を備える500mLの容積のスピナーフラスコ(例えば、細胞懸濁液用の装置スピナー撹拌フラスコBellco、参照番号Bellco505010)またはその構造上の特徴(容積、ブレードの直径および作業容積)が、全て500mLの容積のスピナーフラスコに対して上述したものに比例して増減されるスピナーフラスコ、またはその構造上の特徴が、特に規模の変更中は、全て500mLの容積のスピナーフラスコに対して上述したものに比例しない方式で増減される撹拌フランジである。
【0039】
一実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、10.8cmの直径のブレードおよび300mL以上で1L未満の作業容積を備える1000mLの容積のスピナーフラスコ(例えば、細胞懸濁液用のスピナー撹拌フラスコBellco、参照番号Bellco505010)またはその構造上の特徴(容積、ブレードの直径および作業容積)が、全て1000mLの容積のスピナーフラスコに対して上述したものに比例して増減されるスピナーフラスコである。
【0040】
別の実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、バイオリアクターであり、その作業容積は400mL~1000mLであり、ブレードの直径は、6cmである。
【0041】
別の実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、バイオリアクターであり、その作業容積およびブレードの直径は、400mLおよび6cmのそれぞれの値に比例して増減される。
【0042】
別の実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、ブレードによる撹拌手段を有するバイオリアクターであり、当業者なら、これを入手または設計できる。
【0043】
別の実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、バイオリアクターであり、その作業容積およびブレードの直径は、特に、規模の変更中には、上記のそれぞれの値に比例しない方式で増減される。
【0044】
別の実施形態では、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系の容器は、バイオリアクターまたはスピナーフラスコであり、その経常的特徴、作業容積、混合機のタイプおよび特徴、ならびに操作モードは、当業者により利用可能な実施技術により選択される。
【0045】
本発明の別の目的は、懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造方法であり、該方法は、下記を含む:
-懸濁産生細胞の増殖に好適するように攪拌器の速度を制御する手段、および容器の形状および寸法が、細胞外小胞(EV)の製造を達成するために産生細胞にシェアストレスを作用させるように容器中の液体培地の乱流を生成するように適合され、容器中で流れのKolmogorovの長さが50μm以下、好ましくは40μm以下であり、容器は出口を含み、液体培地は懸濁産生細胞を含むこと、および
-容器の出口で細胞外小胞(EV)を含む液体培地を収集すること。
【0046】
方法は、好都合にも、個別にまたはそれらのいずれかの技術的に可能な組み合わせが採用される、次の特徴により完成される:
-液体培地は少なくとも20分間撹拌される;
-攪拌器は、液体培地の定常流または間欠流の強度を増大または低下させて、流れのKolmogorovの長さが40μm以下となるよう制御される;
-セパレーターは、細胞外小胞の容器の出口で収集した液体培地の一部を枯渇させ、液体培地の一部を容器中に再導入する。
【0047】
あるいは、方法は、個別にまたはそれらのいずれかの技術的に可能な組み合わせが採用される、次の特徴により完成される:
-前記方法は、液体培地中に存在する治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填する前段ステップを含む;
-液体培地の流れは、産生細胞内の治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の同時充填、および容器中での細胞外小胞(EV)の製造を可能にする。
【0048】
したがって、本発明は、懸濁産生細胞からの細胞外小胞のエクスビボ製造方法に関し、該方法は、下記を含む:
(i)産生細胞を液体培地を含む容器中に挿入するステップ;
(ii)液体培地の乱流を起こす攪拌器の制御を作動させて、流れのKolmogorovの長さを50μm以下、好ましくは40μm以下にし、前記流れが前記容器中で細胞外小胞の生成を可能にするステップ;および
(iii)ステップ(ii)で生成されたで細胞外小胞を含む液体培地を収集するステップ。
【0049】
一実施形態では、ステップ(i)で産生細胞が挿入される容器は、本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するための流体系である。
【0050】
特に、本発明の目的は、本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞のエクスビボ製造方法により得られる小胞から構成される。
【0051】
特に、本発明の目的は、細胞に対する作用のために、本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞のエクスビボ製造方法により得られる小胞の使用である。
【0052】
特に、本発明の目的は、イメージングおよび/または治療目的のための、本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞のエクスビボ製造方法により得られる小胞の使用である。
【0053】
類似の目的によると、本発明は、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を産生細胞からの細胞外小胞(EV)の内部または膜に充填する方法であり、次のステップを含む:
-容器に産生細胞を含む液体培地および治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を加えるステップ;
-液体培地の乱流を起こす攪拌器の制御を作動させて、流れのKolmogorovの長さを50μm以下、好ましくは40μm以下にし、前記流れが少なくとも1種の治療薬の同時充填、および容器中での細胞外小胞(EV)の生成を可能とし、容器が出口を含むステップ;
-容器の出口で細胞外小胞(EV)を含む液体培地を収集するステップ。
【0054】
あるいは、方法は、個別にまたはそれらのいずれかの技術的に可能な組み合わせが採用される、次の特徴により完成される:
-攪拌器が、液体培地の流れを生じさせて、流れのKolmogorovの長さが40μm以下となるよう制御される;
-容器の出口での細胞外小胞(EV)は、治療薬および/またはイメージング剤または非荷電細胞外小胞の少なくとも1種を充填した細胞外小胞の混合物を含む。
【0055】
一実施形態では、少なくとも1種の医用イメージング剤が、例えば、蛍光剤、発光剤、放射性同位元素、磁気、プラズモン、超音波または放射線不透過性特性を有する造影剤およびこれら混合物から選択される。
【0056】
産生細胞のタイプに関して特に好ましい特徴、液体培地中でのそれらの濃度、Kolmogorov長さの範囲、50μm以下、例えば、5~35μmのKolmogorov長さでの乱流撹拌に持続時間、および容積、作業培地、攪拌器のタイプおよび流体系の少なくとも1つのブレードの位置での任意の直径は、上記流体系に関して記載されており、これらはまた、本発明による方法の好ましい特徴でもあり、すなわち、懸濁産生細胞からの細胞外小胞のエクスビボ製造のための方法および治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の産生細胞からの細胞外小胞の内部または膜への充填のための方法である。
【0057】
特に、本発明の目的は、本発明による産生細胞からの細胞外小胞の内部または膜への治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の充填方法により得られる小胞から構成される。
【0058】
特に、本発明の目的は、細胞に作用するための、本発明による産生細胞からの細胞外小胞の内部または膜への治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の充填方法により得られる小胞の使用である。
【0059】
特に、本発明の目的は、イメージングおよび/または治療目的のための、本発明による産生細胞からの細胞外小胞の内部または膜への治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の充填方法により得られる小胞の使用である。
【0060】
本発明はまた、本発明による懸濁産生細胞から細胞外小胞を製造するためのシステムにより製造される細胞外小胞に関する。
【0061】
本発明はまた、本発明による細胞外小胞を製造および回収するための方法により得られる細胞外小胞に関する。
【0062】
本発明はまた、本発明による細胞外小胞を充填するための方法により得られる細胞外小胞に関する。
【0063】
本発明はまた、本出願で記載の本発明による流体系を実行することにより、および/または本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造のための方法により、および/または本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)の内部または膜への治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の充填のための方法により、得られる細胞外小胞に関する。
【0064】
細胞外小胞の構造は、使用する産生細胞に依存して、および、特に、膜マーカーおよびこれらの小胞上に存在する成分の観点から、使用する取得方法に依存して変化することは、当業者にはよく知られている。
【0065】
一実施形態では、本発明による細胞外小胞は、40~300nm、好ましくは45~90nm、より好ましくは50~65nm、さらにより好ましくは約60nmの平均直径を有し、細胞外小胞の前記平均直径は、蛍光と組み合わせて、または組み合わせないで干渉法により測定され、好ましくは前記平均直径は、NanoView Bioscience社より販売されている装置ExoView(商標)R100により測定される。
【0066】
一実施形態では、本発明による細胞外小胞は、50~500nm、好ましくは100~110nm、より好ましくは105~109nm、さらにより好ましくは約106nmまたは約108nmの平均直径を有し、細胞外小胞の前記平均直径は、個別粒子追跡(またはNTA:ナノ粒子トラッキング解析)の方法により、例えば、Malvern Panalytical社から販売されている装置NanoSight NS300を用いて測定される。
【0067】
好都合なことに、前記細胞外小胞は、
図11に記載のように、膜マーカーCD81、CD63、および/またはCD9を有する。さらに好都合なことに、前記細胞外小胞は、マーカーCD81および/またはCD63を発現する。本発明による流体系から、および/または本発明による方法により製造された細胞外小胞は、所望の温度、例えば、約4℃に冷却でき、またはそれらは、所望により、輸送のために凍結され得る。
【0068】
本発明はまた、本出願で記載の本発明による流体系により製造される、および/または本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造のための方法により得られる、および/または本出願で記載の本発明による産生細胞からの治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の細胞外小胞(EV)の内部または膜への充填のための方法により得られる、細胞外小胞の、例えば、医用イメージングを実施するための少なくとも1種の医用イメージング剤の投与のためのベクターとしての、使用に関する。一実施形態では、少なくとも1種の医用イメージング剤が、例えば、蛍光剤、発光剤、放射性同位元素、磁気、プラズモン、超音波または放射線不透過性特性を有する造影剤およびこれら混合物から選択される。
【0069】
本発明はまた、本出願で記載の本発明による流体系により製造される、および/または本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造のための方法により得られる、および/または本出願で記載の本発明による産生細胞からの治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の細胞外小胞(EV)の内部または膜への充填のための方法により得られる、治療的使用のための細胞外小胞に関する。
【0070】
本発明はまた、本出願で記載の本発明による流体系により製造される、および/または本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造のための方法により得られる、および/または本出願で記載の本発明による産生細胞からの治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の細胞外小胞(EV)の内部または膜への充填のための方法により得られる、免疫療法、再生医療、細胞療法の代替としてまたは細胞療法に加えて、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を送達するためのベクターとして、および/または腫瘍、感染性疾患、炎症性疾患、免疫疾患、代謝疾患、癌疾患、遺伝性疾患、変性疾患または手術または外傷に続発する疾患の治療での使用のための細胞外小胞に関する。
【0071】
本発明はまた、本出願で記載の本発明による流体系により製造される、および/または本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造のための方法により得られる、および/または本出願で記載の本発明による産生細胞からの治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の細胞外小胞(EV)の内部または膜への充填のための方法により得られる細胞外小胞の、それを必要としている対象への投与を含む、免疫療法、再生医療、細胞療法の代替としてまたは細胞療法に加えて、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種のベクターとしての治療の方法、および/または腫瘍、感染性疾患、炎症性疾患、免疫疾患、代謝疾患、癌疾患、遺伝性疾患、変性疾患または手術または外傷に続発する疾患の治療のための方法に関する。
【0072】
本発明はまた、本出願で記載の本発明による流体系により製造される、および/または本出願で記載の本発明による懸濁産生細胞からの細胞外小胞(EV)のエクスビボ製造のための方法により得られる、および/または免疫療法、再生医療、細胞療法の代替としてまたは細胞療法に加えて、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種のベクターとして使用される薬物の製造のために、本出願で記載の本発明による産生細胞からの治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の細胞外小胞(EV)の内部または膜への充填のための方法により得られる、および/または腫瘍、感染性疾患、炎症性疾患、免疫疾患、代謝疾患、癌疾患、遺伝性疾患、変性疾患または手術または外傷に続発する疾患の治療に使用される細胞外小胞の使用に関する。
【0073】
一実施形態では、上述の細胞外小胞の治療的使用、治療的使用のための細胞外小胞、治療方法または薬物の製造のための細胞外小胞の使用は、前記細胞外小胞の投与および/またはエクスビボ使用を含む。投与は、例えば、非経口または腸内、例えば、注射投与(特に、静脈内、筋肉内、皮下、脊髄内、など)、経口、頬側、皮膚性、局所、腟、直腸、眼、耳介などであり得る。
【0074】
好ましい特徴によると、本発明は、例えば、免疫療法および/または癌腫学でのそれらの使用のための、THP-1産生細胞から、またはリンパ球から得られる本出願に記載されるような本発明による細胞外小胞に関する。
【0075】
別の好ましい特徴によると、本発明は、再生医療または腫瘍、感染性疾患、炎症性疾患、免疫疾患、代謝疾患、癌疾患、遺伝性疾患、変性疾患または手術または外傷に続発する疾患の治療でのそれらの使用のための、間葉系幹細胞(MSC)である産生細胞から得られる本出願に記載されるような本発明による細胞外小胞に関する。
【0076】
別の好ましい特徴によると、本発明は、少なくとも1種の治療薬の対象の身体中への送達でのそれらの使用のための、任意のタイプの細胞からまたは赤血球から得られ、少なくとも1種の治療薬を充填された本出願に記載されるような本発明による細胞外小胞に関する。
【0077】
別の好ましい特徴によると、本発明は、医用イメージング検査を実施するための、任意のタイプの細胞からまたは赤血球から得られ、少なくとも1種のイメージング剤を充填された本出願に記載されるような本発明による細胞外小胞の使用に関する。
【0078】
別の好ましい特徴によると、本発明は、医用イメージングにより対象の身体中の細胞外小胞の分布の追跡を行い、少なくとも1種の治療薬を前記対象の身体中に送達するための、任意のタイプの細胞からまたは赤血球から得られ、少なくとも1種の治療薬および少なくとも1種のイメージング剤を充填された本出願に記載されるような本発明による細胞外小胞の使用に関する。
【0079】
定義
用語「細胞外小胞」は一般に、産生細胞により内在的に放出される小胞を意味し、その直径は、30nm~5000nmである。細胞外小胞は特に、エキソソームおよび/または微小胞および/または細胞のアポトーシス小体に相当する。
【0080】
用語「懸濁産生細胞」は一般に、媒体に付着せず、分裂および増殖できる細胞を意味する。本発明の別の態様では、用語「懸濁産生細胞」は、細胞外小胞を分泌できる、ヒト細胞、動物、植物起源の細胞、細菌または他の微生物を意味する。本発明の別の態様では、用語「懸濁産生細胞」は、それらの培養支持体から剥離され、懸濁した接着細胞を意味する。攪拌器により形成された軽度の混合物は、定義されたように、懸濁産生細胞が液体培地中に懸濁したまま残ることを可能にする。本発明の別の態様では、用語「懸濁産生細胞」は、細胞凝集体を意味する。用語「細胞凝集体」は、相互に付着した複数の懸濁産生細胞の集合体を意味する。攪拌器により生成された軽度の混合物は、定義されたように、懸濁産生細胞が液体培地中に懸濁したまま残ることを可能にする。
【0081】
用語「治療薬」または「イメージング剤」は一般に、帯電させて、細胞外小胞中に挿入できる任意の薬剤、分子または粒子、着目化合物を意味する。これらの薬剤は、感染性、炎症性、代謝性、変性、外傷性、手術後、遺伝的、悪性(腫瘍)または非常にまれな疾患、または血管、リンパ、自発運動、消化、神経、生殖または排出系の疾患を治療するための治療分子または粒子、および/または核イメージング、磁性イメージング、光学イメージング、超音波イメージング、などの薬剤(分子または粒子)であり得る。したがって、本発明による少なくとも1種の医用イメージング剤は、好都合にも、蛍光剤、発光剤、放射性同位元素、磁気、プラズモン、超音波または放射線不透過性特性を有する造影剤およびこれら混合物から選択できる。
【0082】
用語「攪拌器」は、液体に対する作用により少なくとも1つの流れを生成し、液体の混合を促進させるまたはこの液体中で乱流を生成させる手段または複数手段の組み合わせの方法である極一般的用法として理解されるべきである。
【0083】
数字の前に配置される用語「約(approximately)」または「約(about)」は、この数字の基準値の±10%を意味する。
【0084】
用語「細胞」は、生物の最も小さい基本的な構造的および機能的単位を意味し、原形質または細胞質からなり、外側媒体とは膜により分離される。本発明との関係においては、用語「細胞」はまた、赤血球および血小板を包含する。
【0085】
用語「健康な細胞」は、病理学的組織または臓器由来の細胞、すなわち、その機能が変更された細胞ではなく、健康な組織由来の細胞を意味する。
【0086】
用語「XとYとの間」は、XとYとの間の値の範囲を意味し、末端XおよびYは前記範囲に含まれる。
【0087】
用語「免疫療法」は、免疫系に対する介入により疾患を治療することを意味する。
【0088】
用語「再生医療」は、治療を目的として、ヒト組織または臓器の置換または再生のために使用される全生物医学的方法を意味する。
【0089】
用語「対象」は、年齢に関係なく、雄(男性)または雌(女性)の、ヒトを含む動物を意味する。本発明の意味において、対象は患者、すなわち、医療を受けている人、医学的処置を受けている、または受けたことがある人、または疾患の発症について監視されている人であり得る。
【0090】
用語「細胞療法」は、いくつかの病状を予防、治療、または軽減するための、生物学的特性が操作または改変された、生きている体細胞のヒト中での使用を意味する。
その他の特徴および利点は、純粋に例示的で、非限定的であり、添付の図面と合わせて解釈されるべきである、次の記述から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】細胞外小胞の製造のための流体系の概略図を示す。
【
図2】流体系中で、種々の撹拌強度で撹拌の20分後に、THP1細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。
【
図3】種々の撹拌強度で撹拌の3時間後に、THP1細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。
【
図4】流体系中で、種々のKolmogorov長さに対して、20分の撹拌後に、THP1細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。
【
図5】200RPMおよび300RPMの撹拌の場合に、流体系中でTHP1細胞により生成された細胞外小胞の数を時間の関数として示す。
【
図6】流体系中で、種々のKolmogorov長さに対して、20分の撹拌後に、C3H/10T1/2細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。
【
図7】流体系中で、または飢餓条件中で、3時間の乱流撹拌(HeLa細胞では、撹拌は250RPM、41μmのKolmogorov長さ、およびラージ細胞では、撹拌は500RPM、24μmのKolmogorov長さ)後に、ラージ細胞およびHeLa細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。
【
図8】
図8a)は、3時間の乱流撹拌(500RPM、24μmのKolmogorov長さ)、または飢餓条件前後の生存可能ラージ細胞の数を示す。
図8b)は、2D飢餓72時間での試験の、および本発明による試験の、対照試験の上清中のアデニル酸キナーゼのパーセンテージを示す。
【
図9】光学顕微鏡観察による、対照試験中の3時間後と、乱流撹拌(500RPM、24μmのKolmogorov長さ)の3時間後との間のラージ産生細胞の外観を示す。
【
図10】種々の時間にわたる3D飢餓または2D飢餓条件中でTHP-1細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。
【
図11】飢餓または乱流(500RPM、24μmのKolmogorov長さ)条件下、NTAにより測定した、THP-1、HeLaまたはラージ産生細胞から生成された細胞外小胞の粒度分布を示す。
【
図12】72時間の飢餓または3時間の乱流(500RPM、24μmのKolmogorov長さ)条件下、ExoView(商標)R100により測定した、THP-1産生細胞から生成された細胞外小胞の粒度分布を示す。
【
図13】飢餓または乱流(500RPM、24μmのKolmogorov長さ)条件下、ExoView(商標)R100により測定した、THP-1産生細胞から生成された細胞外小胞の膜マーカーの分析を示す。
【
図14】種々の長さのKolmogorov(図の上段の図の18.6μmおよび下段の図の10.9μmに対して、対照は撹拌なし)で2時間の撹拌後に、赤血球により生成された細胞外小胞の数を示す。
【
図15】受動的充填(10μMのドキソルビシンと共に181μmのKolmogorov長さ、34RPMで2時間インキュベーションし、続けて、洗浄した後、28μmのKolmogorov長さ、400RPMで2時間撹拌した)により、または乱流撹拌(10μMのドキソルビシンと共に、28μmのKolmogorov長さ、400RPMで2時間)の存在下での充填および生成と、それに続く洗浄によるTHP-1産生細胞からのドキソルビシンの細胞外小胞への充填を示す。
【発明を実施するための形態】
【0092】
理論的要素
Kolmogorovの長さ(またはKolmogorovの次元または渦の長さ)は、流体の粘度がこの流体の流れの動力学的エネルギーを消散させることを可能にする長さである。実際には、Kolmogorovの長さは、乱流中の最小流体渦のサイズに相当する。この長さL
Kは、Kolmogorovの論文(Kolmogorov,A.N.,1941,January,The local structure of turbulence in incompressible viscous fluid for very large Reynolds numbers,In Dokl.Akad.Nauk,SSSR,Vol.30,No.4,pp.301-305)で計算されており、次の式(I)により表される:
【数1】
式中、νは流れている液体培地の動粘度であり、εは質量単位当たりの流体中のエネルギー消散の平均速度(または流体中のエネルギー注入速度)である。
【0093】
Zhouら(Zhou,G.,Kresta,S.M.,1996,Impact of tank geometry on the maximum turbulence energy dissipation rate for impellers,AIChE journal,42(9),2476-2490)は、平均εと、液体培地がパドルホイール型攪拌器により撹拌される容器の形状との間の関係を記載している。この関係は、次式(II)により与えられる:
【数2】
式中、N
pは液体培地中の撹拌動力の無次元数(またはニュートン数)であり、Dは攪拌器の直径(メートル)であり、Nは回転速度(1秒当たりの回転数)およびVは液体培地の体積(立方メートル)である。この関係は、本発明の実施に使用される容器および攪拌器の形状に対応する平均εの計算に使用される。動力数N
pは、式(III)により既知の方法で与えられる:
【数3】
式中、Pは攪拌器により供給される動力であり、ρは液体培地の密度である。式(III)は、Nienowら(Nienow,A.W.,& Miles,D.,1971,Impeller power numbers in closed vessels,Industrial & Engineering Chemistry Process Design and Development,10(1),41-43)またはZhouら(Zhou,G.,Kresta,S.M.,1996,Impact of tank geometry on the maximum turbulence energy dissipation rate for impellers,AIChE journal,42(9),2476-2490)に記載のように、液体培地の流れのレイノルズ数の関数として調節できる。また、系のレイノルズ数を次式(IV)により計算できる:
【数4】
【0094】
あるいは、当業者は、一般な知識および代わりの計算方式により単位体積当たりのKolmogorovの長さを計算できる。いずれの場合でも、上記で提示の計算は、Kolmogorovの長さを計算するための、当業者に既知の他の多くの方式の内の1つの方式に過ぎない。
【0095】
流体系の一般的構造
図1は、細胞外小胞(EV)の製造のための流体系(1)の概略図を示す。細胞外小胞(EV)を製造するための流体系(1)は、容器(4)中での大量の細胞外小胞(EV)の製造を目的とするものである。しかし、本発明はこの特定の実施形態に限定されず、並列または直列に流動連結されている一連の容器(4)を含み得る。
【0096】
容器(4)は、液体培地(5)を含む。容器(4)は特に、例えば、ガラスまたはプラスチック製のタンク、フラスコ、または液体培地(5)を含有するのに好適する任意の他の容器であり得る。容器は、可撓性であっても、可撓性部分を含んでもよい。容器(4)の容積は、大量に細胞外小胞(EV)を製造するのを可能にする因子の1つであり、この容積は、50mL~500L、好ましくは100mL~100L、および好ましくは300mL~40Lであり得る。
図1に略図で示した容器(4)の容積は、1Lである。容器(4)は通常、1つまたは複数のガス入口および1つまたは複数のガス出口を含み、これらを通して、細胞培養に適する濃度の空気、O
2、N
2およびCO
2を含む、例えば、5%CO
2を含む雰囲気ガスを流すことができる。この雰囲気は、好適なガス注入器/混合機またはCO
2制御雰囲気炉から導入され得る。第2のポンプ(17)は、容器(4)中のこのガス流を制御可能にする。容器(4)はまた、液体培地(5)および細胞外小胞(EV)を含有できる出口(9)を含む。この出口は、浮遊状態の細胞を分離および/または濾過して、容器(4)の外側で懸濁細胞を回収できないようにするための手段を追加できる。この出口(9)は、製造された細胞外小胞(EV)を容器(4)から取り出すことを可能にする。容器(4)はまた、液体培地(5)を容器(4)に導入するように適合された少なくとも1つの入口(8)を含み得る。
【0097】
液体培地(5)は通常、例えば、等張性の生理食塩水であり得る。好ましくは液体培地(5)は、目的の細胞の培養を可能とする化合物を添加された液体培地、または細胞外小胞から事前に精製された血清または血小板溶解物を補充された培地、または無血清培地であり、流体系(1)により製造された細胞外小胞(EV)に、血清または血小板溶解物由来のタンパク質または他の小胞が混入しないようにできる。無血清DMEM型液体培地(5)を使用できる。液体培地(5)の最大体積は、一部は容器(4)により決定される。この体積はまた、50mL~500L、好ましくは100mL~100L、およびより好ましくは300mL~40Lであり得る。容器(4)により含有される液体培地(5)の最小体積は、一部は、液体培地(5)の撹拌を可能にする攪拌器(7)の選択により決定される。
【0098】
流体系(1)はまた、懸濁産生細胞(6)も含み、用語の懸濁産生細胞は、懸濁細胞(非接着細胞)および懸濁状態にされている細胞(接着細胞)の両方を含む用語である。細胞外小胞(EV)は、これらの懸濁産生細胞(6)から流体系(1)により製造される。懸濁産生細胞(6)は、好適な細胞培地中での流体系(1)による細胞外小胞(EV)の製造の前に、培養され得る。従って、懸濁産生細胞(6)の培養と、細胞外小胞(EV)の製造との間で細胞の移動の必要がなく、それにより、汚染が回避され、全体として工程が単純化される。大部分の懸濁産生細胞(6)は、小量の懸濁産生細胞(6)が容器(4)の底に沈殿した、または容器(4)の壁に接着した場合でも、例えば、液体培地(5)を撹拌することにより、培地中で均質に懸濁される。好ましくは、流体系(1)は、好ましくは細胞外小胞の製造の前に、容器(4)内の液体培地(5)中で産生細胞(6)を均一化することを可能にする緩やかな撹拌を生成するように適合される。一般に、任意のタイプの産生細胞(6)が使用でき、好ましくは非接着性懸濁産生細胞(6)が使用できる。
【0099】
容器(4)はまた、液体培地(5)を撹拌するための攪拌器(7)を含む。攪拌器(7)は、インペラであり得、そのブレードは、少なくとも部分的に液体培地(5)中に浸漬され、磁性または機械的な力の伝達により動かされる。攪拌器(7)はまた、容器により含まれる液体培地(5)を撹拌するのに十分な流速での液体培地(5)の注入システム、または回転壁システム(例えば、ローラー上に配置された)でもあってもよい。あるいは、攪拌器(7)は、ボトルローラー、バッフル付きまたは無しの三角フラスコ用の軌道攪拌器(震盪フラスコ)、ロッキング攪拌器(波動式)、空気圧撹拌を備えるバイオ容器(空気圧リフト)または船用プロペラ、Rushtonタービンなどのブレードを備えた回転攪拌器、アンカー攪拌器、バリアー攪拌器、ヘリカルリボン攪拌器であり得る。好ましい回転攪拌器は垂直ブレードタービンである。最終的には、静的構造は、容器中に存在し得るものであり、例えば、調節板、または液体の運動に対し部分的なバリアーを形成する静的ミキサーで使用されるものなどの構造物も、当然使用され得る。攪拌器(7)および容器(4)の形状は、容器(4)中の液体培地(5)の乱流を制御するように適合される。一般的知識を有する当業者なら、各型の攪拌器(7)に好適するKolmogorovの長さを容器(4)の形状、攪拌器(7)の形状および撹拌強度の関数として、計算する方法を理解している。用語「乱流」は、レイノルズ数が2000超である流れを意味する。レイノルズ数は、例えば、式(IV)により計算できる。好ましくは、液体培地(5)の流れのレイノルズ数Reは、7,000超、好ましくは10,000超および好ましくは12,000超である。
【0100】
本発明による乱流を制御するための他の攪拌器(7)は、当業者にはよく知られた攪拌器であり、本発明によるシステムに実装できる。
【0101】
本発明の実施形態で使用される攪拌器(7)は、容器(4)中に配置されたパドルホイールまたはブレードを含み、磁性または機械的に力を伝達する系により動かされる。液体培地(5)中のパドルホイールまたはブレードの速度は、液体培地(5)の流れを生ずる。攪拌器は、容器(4)の形状を考慮して、乱流である流れを制御するように適合される。
図1に示す攪拌器(7)の場合には、いくつかのパラメーターが液体培地(5)の乱流に特有の値、特に、液体培地(5)の動粘度ν、容器(4)の形状および、特に、容器(4)に含まれる液体培地(5)の体積V、パドルホイールまたはブレードの浸漬部分に対応する動力数N
p、攪拌器の直径Dおよび特に、ホイール形状またはブレードの直径D、ホイールまたはブレードの回転速度Nを計算可能にする。したがって、使用者は、これらのパラメーターの関数として流れの乱流特有の値および特に、Kolmogorovの長さL
Kを式(I)、(II)および(III)により与えられるように計算できる。特に、攪拌器(7)は、長さL
Kが、50μm以下、好ましくは40μm以下となるように流れを制御するために適合される。
【0102】
流体系(1)の例示的実施形態では、攪拌器(7)の回転速度は、500rpm(1分当たりの回転数)で制御でき、例えば、パドルホイールまたはブレードの直径は10.8cmで、容器(4)により含まれる液体培地の体積は400mLである。測定された液体培地(5)中のパドルホイールまたはブレードの動力数Npは、式(III)により、ほぼ3.2に等しい。質量単位当たりのエネルギー消散εは、式(II)により計算して、6.80x10-1J.kg-1に等しい。したがって、式(I)により計算したKolmogorovの長さLKは、11.0μmに等しい。
【0103】
治療薬またはイメージング剤充填態様
細胞外小胞(EV)を製造するための流体系(1)は、容器(4)中での大量の細胞外小胞(EV)の製造を目的とするものである。しかし、本発明は、この実施形態に限定されず、治療薬および/または多量のイメージング剤の本発明により製造された細胞外小胞(EV)中への充填も可能にする。したがって、懸濁細胞(6)および治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種が同時に液体培地(5)中で懸濁され、容器(4)中で混合される。あるいは、懸濁細胞(6)は、前記液体培地(5)中への治療薬および/またはイメージング剤の添加の前または後で、液体培地(5)中に添加できる。通常、任意のタイプの治療薬またはイメージング剤、好ましくは、感染性、炎症性、代謝性、変性、外傷性、手術後、遺伝的、悪性(腫瘍)、非常にまれな疾患、または血管、リンパ、自発運動、消化、神経、生殖、排出系の疾患を治療するための治療薬分子または粒子、および/または核イメージング、磁性イメージング、光学イメージング、超音波イメージングのための薬剤(分子または粒子)が使用できる。容器(4)はまた、懸濁産生細胞(6)および治療薬またはイメージング剤の少なくとも1種を含む液体培地(5)を撹拌するための上述の攪拌器(7)も含む。好ましくは、流体系(1)は、容器(4)内の液体培地(5)中で産生細胞(6)を均一化し、目的の薬剤を産生細胞(6)中に効率的に投入し、その結果として、細胞外小胞中に充填するために、緩やかな撹拌を生成するように適合される。
【0104】
本発明の別の目的によると、本発明は、産生細胞からの細胞外小胞のエクスビボ製造方法であり、該方法は、下記を含む:
-容器(4)中で流れのKolmogorovの長さが50μm以下、好ましくは40μm以下であり、容器が出口(9)を含み、液体培地(5)が懸濁産生細胞(6)および治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を含む、液体培地(5)の乱流を生じさせる攪拌器(7)の制御、および
-容器(4)の出口(9)で細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)の収集。
【0105】
好ましくは、本発明による方法は、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填するステップを含む。より好ましくは、前記治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填するステップは、細胞外小胞を製造するステップと同時である。無論、このステップは、細胞外小胞を製造するステップに先行してもよい。あるいは、充填ステップは、細胞外小胞を製造するステップの後であってもよい。この実施形態は、非充填小胞の第1の製造を行い、続けて、治療薬および/またはイメージング剤の前記少なくとも1種を充填した細胞外小胞の第2の製造を行うのが望ましい場合に、これを、流体系を液体培地(5)の収集物と一緒に連続的に配置する状況で有用になり得る。驚くべきことに、懸濁産生細胞(6)が細胞外小胞の製造を可能とする流れはまた、懸濁産生細胞(6)中に、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の充填を可能とし、従って、容器(4)中で、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填した前記細胞外小胞(EV)の製造を同時に可能とする。
【0106】
好ましくは、本発明は、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種の、産生細胞(6)からの細胞外小胞(EV)の内部または膜に充填する方法であり、次のステップを含む:
・容器(4)中に産生細胞(6)を含む液体培地(5)および治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を加えるステップ;
・液体培地(5)の乱流をもたらす攪拌器(7)の制御を作動させて、流れのKolmogorovの長さを50μm以下、好ましくは40μm以下にし、前記流れが少なくとも1種の治療薬の同時充填、および容器(4)中での細胞外小胞(EV)の製造を可能とし、容器が出口(9)を含むステップ;
・容器(4)の出口(9)で細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)を収集するステップ。
【0107】
好ましくは、容器(4)の出口(9)での細胞外小胞(EV)は、治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填した細胞外小胞および治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を充填されていない細胞外小胞の混合物を含む。
【0108】
培地の調製、治療薬および/またはイメージング剤ならびに産生細胞
容器(4)は、液体培地(5)産生細胞(6)および治療薬またはイメージング剤の少なくとも1種のいずれかの導入前に、使い捨て、または滅菌できる。治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種は、容器(4)中、血清を含む産生細胞(6)の培地中でインキュベートされる。
【0109】
産生細胞(6)は、流体系1に導入される前に、任意の手段または当業者に既知の手段の組み合わせ、例えば、トリプシンまたは当業者に既知の接着細胞の懸濁を可能とするいずれか他の酵素を含む培地により、浮遊状態にされる。その後、それらは、トリプシンを含む培地をDMEM培地で置き換えるために、300Gで5分間遠心分離され、チューブの底部に濃縮され得る。その後、産生細胞(6)が、培地および代替的実施形態による治療薬および/またはイメージング剤の少なくとも1種を含む容器(4)中に導入される。産生細胞(6)および治療薬および/またはイメージング剤はその後、治療薬および/またはイメージング剤および産生細胞(6)が接触するように撹拌され、治療薬および/またはイメージング剤の産生細胞(6)中への充填が促進される。撹拌は、液体培地(5)中の産生細胞(6)および治療薬および/またはイメージング剤の均一化を促進するように定期的に再開できる。例えば、培地(5)中に存在する要素の均一化は、培地の低撹拌(例えば、パドルホイールの20rpmの速度での回転)ならびに培地の規則的な置換(例えば、毎日の5%~40%の培地の置換、例えば、毎日の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%または40%の培地の置換)により実施される。
【0110】
治療薬および/またはイメージング剤の充填のない細胞外小胞(EV)の製造の例
細胞外小胞(EV)は、例えば、無血清の液体培地(5)、および懸濁産生細胞(6)を含む容器(4)中で製造される。製造の前に、産生細胞(6)の培養のために血清を含む培地が使用され、容器(4)は、液体培地(5)の無血清DMEMで3~4回洗浄され、各洗浄は、例えば、約400mLの体積に相当する。次に、液体培地(5)の撹拌は、容器(4)中で乱流を生ずるように攪拌器(7)により制御される。好ましくは、撹拌は、液体培地(5)の流れを、Kolmogorovの長さLKが、50μm以下、好ましくは40μm以下となるように制御するために調節される。液体培地(5)の撹拌は、少なくとも20分間、好ましくは、1時間超の間、および好ましくは2時間超の間、例えば、約3時間にわたり制御される。細胞外小胞(EV)の生成は、製造中に測定できる。このために、撹拌は、連続的、間欠的、漸増的および漸減的であり得る。産生細胞(6)は、容器(4)の底部に沈降させられ、その後、細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)の試料が採取される。試料の遠心分離が2000Gで10分間実施され、細胞片が除去される。上清は、個別粒子追跡法(またはNTA:ナノ粒子トラッキング解析)により分析されて、細胞外小胞(EV)の数が計数され、それから、試料の細胞外小胞(EV)の濃度が推定される。撹拌の開始時の細胞外小胞(EV)の濃度がほぼゼロまたは無視できる程度であることが確認できる。
【0111】
生成された細胞外小胞(EV)はまた、クライオ透過型電子顕微鏡により観察および/または計数できる。この目的を達成するために、細胞外小胞(EV)を含む2.7μの溶液の液滴をクライオ顕微鏡に適するグリッド上に沈着させた後、エタン液体中に浸漬し、前記液滴のほぼ瞬間的凍結により、氷晶の形成を回避した。細胞外小胞(EV)を担持したグリッドを顕微鏡中に導入し、細胞外小胞(EV)を約-170℃の温度で観察した。
【0112】
細胞外小胞分離
容器(4)中で生成した細胞外小胞(EV)は、容器(4)の出口(9)を通って容器(4)から液体培地(5)中の懸濁状態で取り出すことができる。フィルター(18)を出口(9)に配置して、容器(4)から細胞外小胞(EV)を取り出す際に懸濁産生細胞(6)および細胞片を濾別できる。連結器(13)は、出口(9)に流体連結され、生成された細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)の輸送を可能とする。
【0113】
流体系(1)は、細胞外小胞(EV)のセパレーター(15)を含み得る。セパレーター(15)は、セパレーターの入口(10)を含み、容器(4)から細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)を直接的にまたは間接的に供給できる。セパレーター(15)はまた、セパレーターの第1の出口(11)を含み、それを通って、セパレーター(15)の入口(10)よりも低い濃度、あるいは実質的にゼロの濃度の細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)がセパレーター(15)から出ることができる。セパレーター(15)はまた、セパレーター(15)の第2の出口(12)を含み、それを通って、セパレーター(15)の入口(10)よりも高い濃度の細胞外小胞(EV)を含む液体培地(5)がセパレーター(15)から出ることができる。
【0114】
通常、細胞外小胞(EV)のセパレーター(15)は、容器(4)に流体連結され、それにより、小胞(EV)の枯渇した液体培地(5)を容器(4)中に、例えば、容器(4)の入口(8)を介して再導入できる。このように、細胞外小胞(EV)の製造および/または取り出しは、継続的に実施でき、容器(4)中の液体培地の体積は実質的に一定である。代替的実施形態では、流体系は、細胞外小胞(EV)のセパレーター(15)を含まないか、または流体系は、容器(4)に流体連結できる、または、例えば、前記セパレーター(15)を閉止するための手段を介して、流体連結できない細胞外小胞(EV)のセパレーター(15)を含む。したがって、細胞外小胞(EV)の製造および/または取り出しは、セパレーター(15)の上流に配置された閉止手段の開口または閉止により、継続的、または間欠的に実施できる。
【0115】
バッチ操作の場合には、産生細胞を含む容器は撹拌され、製造期間は、好ましくは、20分を超える時間(Tν)が選択される。
【0116】
その後、液体は容器から取り出され、引き続けて行われる、1種または複数の精製ステップ、特に、産生細胞由来の小胞を分離するためのステップに供することができる。この分離は、当業者に既知の技術、例えば、限定されないが、超音波技術、接線流濾過分離などの濾過方法、回転フィルターの使用または分離手段の任意の組み合わせにより達成できる。
【0117】
連続操作の場合、および好ましい実施形態では、分離系は、容器の内部にあり、小胞は容器のサブコンパートメント中で徐々に分離される。この種の分離を行うために、種々の技術、例えば、限定されないが、回転フィルター、あるいは、超音波手段の使用、または分離手段の任意の組み合わせが当業者に知られている。別の実施形態では、細胞および小胞を分離するための系は、産生細胞および小胞を含む培地を、一方の容器と、他方の容器の外側の分離システムとの間で循環させるように設計された流体回路を含み得る。この容器の外側の分離系は、当業者に既知の技術、例えば、限定されないが、接線流濾過、または超音波分離技術、または既知の分離手段の任意の組み合わせを含み得る。分離系の出口では、小胞枯渇液体が容器中に再注入され、それにより、産生細胞による小胞の製造が容器中で継続できる。
【0118】
図1に示された流体系(1)の例示的実施形態では、液体培地(5)を収集器(19)に輸送するために、コネクター(13)を介して第1のポンプ(16)により容器(4)から液体培地(5)を取り出すことができる。別の第1のポンプ(16’)は、収集器(19)中に含まれる液体培地(5)を別のコネクターを介してセパレーター(15)の入口(10)に運ぶことを可能にする。セパレーター(15)の第1の出口(11)は、容器(4)に連結され、それにより、細胞外小胞(EV)の枯渇した液体培地(5)を容器(4)中に再導入できる。セパレーター(15)の第2の出口(12)は、コネクターを介して収集器(19)に連結され、それにより、収集器(19)中に含まれる液体培地(5)の細胞外小胞(EV)を富化する。あるいは、セパレーター(15)の入口(10)は、容器(4)の出口(9)に直接(または第1のポンプ(16)を介して)連結できる。セパレーター(15)の第1の出口(11)は、容器(4)に連結され、セパレーター(15)の第2の出口(12)は、収集器(19)に連結される。いくつかのセパレーターも直列に配置し、液体培地(5)中の細胞外小胞(EV)の分離の程度を変え、および/または並列に配置し、各セパレーター(15)中の液体培地(5)の流れを第1のポンプ(16)の流速に適合させ得る。
【0119】
細胞外小胞(EV)製造に対する撹拌の影響
以下の図では、異なるタイプの産生細胞が使われる。赤血球を除いて、細胞外小胞の製造のために産生細胞を使用する前に、これらの産生細胞は培養される。赤血球の場合は、細胞外小胞の製造のために産生細胞を使用する前の調製は、フェノールレッドなしでDMEM中で所望の濃度で洗浄された赤血球の懸濁液を得ることにある。
【0120】
ヒト単球株由来のTHP-1細胞は、培地RPMI(Roswell Park Memorial Institute培地)中で培地1mL当たり2x105~1x106細胞の濃度、37℃、および5%CO2を含む雰囲気下で培養される。培地RPMIは、10体積%のウシ胎仔血清および1体積%のペニシリン/ストレプトマイシンを含む。体積は、培地RPMIの総体積を基準に表される。それらは全て、新しい培地中でそれらを5倍に希釈することにより、3~5日毎に継代培養される。
【0121】
Bリンパ球由来の造血起源のヒト細胞株のラージ細胞は、10体積%のウシ胎仔血清および1体積%のペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI培地中で培養される。体積は、RPMI培地の総体積を基準に表される。それらは、新しい培地中でそれらを10~20倍に希釈することにより、3~4日毎に継代培養される。
【0122】
C3H/10T1/2細胞は、CH3マウスの胚性細胞由来の多能性間葉細胞であり、これは付着性である。それらは、10体積%のウシ胎仔血清および1体積%のペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM中で培養される。体積は、DMEM培地の総体積を基準に表される。それらは、新しい培地中でそれらを2~10倍に希釈することにより、3~5日毎に継代培養される。
【0123】
HeLa細胞は、子宮頸癌由来の細胞株である。それらは、10体積%のウシ胎仔血清および1体積%のペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM中で培養される。体積は、DMEM培地の総体積を基準に表される。最初は付着性であるこれらのHeLa細胞は、トリプシンで剥離された後、50RPMで撹拌したバイオリアクター中で懸濁され、105/mL~106/mLの濃度で培養される。
【0124】
細胞外小胞の製造のために産生細胞を使用する前に、培養された細胞は洗浄された後、容器中で、DMEM培地に対して1体積%のペニシリン/ストレプトマイシンを含む白色DMEM中に再懸濁され、細胞外小胞の製造が行われる(フラスコ、スピナーフラスコまたはバイオリアクターは、G.M.P標準に適合しているのが好ましい)。
【0125】
図2は、攪拌器(7)により制御された種々の撹拌に対し、流体系(1)中のTHP-1細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。縦軸は容器(4)中の細胞により生成された細胞外小胞(EV)の数に対応する。各バーは、容器(4)中の攪拌器(7)の種々の回転速度に対する細胞外小胞(EV)の生成に対応する。細胞外小胞(EV)は、容器(4)中、1000mLのスピナーフラスコ中の400mLの液体培地(5)中で浮遊状態の100,000,000個の濃度の産生細胞(6)を用いてTHP1タイプの産生細胞(6)から生成される。液体培地(5)の流れを制御することにより、有意に多量の細胞外小胞(EV)の生成が観察された。この生成は、撹拌速度200RPM、すなわち、長さL
Kが23μmに等しい場合のより低い撹拌条件下での細胞外小胞(EV)の生成に比較して、図中のバーの300RPM、すなわち、長さL
Kが17μm以下に対応する。さらに、さらに高い撹拌条件下、すなわち、400RPMおよび515RPMでは、長さL
Kがそれぞれ13.8μmおよび11.4μmに対応し、産生細胞当たりの細胞外小胞の生成は、さらに増大し、長さL
Kに逆比例する。これは、撹拌が大きくなるほど、産生細胞がより多くの細胞外小胞を生成することを示す。
【0126】
図3は、流体系(1)中で、攪拌器(7)により制御された種々の撹拌に対し、THP-1細胞の産生細胞(6)により生成された細胞外小胞の数を示し、この系の容器(4)および液体培地(5)の量は、
図2の実験の場合で用いられたものとは異なり、また、20分ではなく、3時間のより長い撹拌時間によるものである。50mLの液体培地(5)を含む0.1Lのスピナーフラスコ中で、3.8cmの直径のブレード、Kolmogorovの長さL
K41μmで行われた250RPMの撹拌下、3時間で、産生細胞により3553個の細胞外小胞が生成された。50mLの液体培地(5)を含む0.1Lのスピナーフラスコ中で、3.8cmの直径のブレード、Kolmogorovの長さL
K35μmにより行われた300RPMの撹拌下、3時間で産生細胞により、約17,400個の細胞外小胞が生成された。50mLの液体培地(5)を含む0.1Lのスピナーフラスコ中で、3.8cmの直径のブレード、Kolmogorovの長さL
K24μmにより行われた500RPMの撹拌下、3時間で、産生細胞により約30,000~40,000個の細胞外小胞が生成された。3.8cmの直径のブレード、Kolmogorovの長さL
K181μmで行われた34RPMの撹拌下の、50mLの液体培地(5)を含む0.1Lのスピナーフラスコの使用に対応する対照試験により、3時間で産生細胞当たり、約1,400個の細胞外小胞が得られた。
【0127】
図2および3の結果は、容器(4)のタイプに関係なく、液体培地(5)を撹拌することにより得られるKolmogorovの長さが5~50μm、好ましくは10μm~41μm、例えば、11.4μm、13.8μm、17μm、23μm、24μm、35μmおよび41μmの場合、液体培地(5)中に懸濁された産生細胞により細胞外小胞が生成される。さらに、Kolmogorov長さが減少するに伴い、産生細胞当たりの生成される細胞外小胞の数が増大する。
【0128】
図4は、流体系(1)中で、攪拌器(7)により制御された種々のKolmogorovの長さに対し生成された細胞外小胞(EV)の数を示す。細胞外小胞(EV)は、容器(4)中、1000mLのスピナーフラスコ中の400mLの液体培地(5)中で100,000,000個の濃度の懸濁産生細胞(6)を用いてTHP1タイプの産生細胞(6)から生成される。横軸は、式(I)、(II)および(III)により計算された、細胞外小胞(EV)の生成中の攪拌器(7)による長さL
Kに対応する。液体培地(5)の流れを制御することにより、有意に多量の細胞外小胞(EV)の生成が観察された。この場合は、より低い撹拌条件下での細胞外小胞(EV)の生成に比較して、長さL
Kが17μm未満である。産生細胞当たりの細胞外小胞(EV)の生成の収率は、より長い、特に100μmを超えるL
K長さと比較して、長さL
Kが50μm以下の場合に、より大きい。
【0129】
図5は、200RPMおよび300RPMの撹拌での液体培地(5)の流れの制御により、流体系中でヒトTHP-1産生細胞(6)により細胞当たり生成された細胞外小胞の数を時間の関数として示す。使用した条件は、1000mLのスピナーフラスコ中の400mL中の100,000,000個の細胞であり、直径10.8cmのブレードを用いた。式(I)、(II)および(III)により計算された長さL
Kは、それぞれ、23μm(300RPMの場合)および17μm(400RPMの場合)である。生成された細胞外小胞(EV)の数は、23μmの長さL
Kを特徴とする流れに比べて、17μmの長さを特徴とする流れの場合に、遙かに多い。
【0130】
図6は、流体系中で、攪拌器(7)により制御された種々のKolmogorov長さに対し、C3H/10T1/2産生細胞(マウス由来間葉系幹細胞)により生成された細胞外小胞の数を示す。1000mLのスピナーフラスコ中の400mLの液体培地(5)中の100,000,000個の濃度の産生細胞(6)の濃度を使用した。横軸は、式(I)、(II)および(III)により計算された、細胞外小胞(EV)の生成中の攪拌器(7)による長さL
Kに対応する。細胞当たりの小胞の生成は、液体培地(5)の流れを制御することにより、有意に増大する。この場合は、より低い撹拌条件下での細胞外小胞(EV)の生成に比較して、長さL
Kが17μm未満である。産生細胞当たりの細胞外小胞(EV)の生成の収率は、より長いL
K長さ、特に、EV/細胞の収率のプラトーに達し始める、100μmを超えるL
K長さと比較して、長さL
Kが50μm以下の場合に、より大きい。
【0131】
図7は、最初に、ラージタイプ産生細胞(6)を用いて、一方で、先行技術法の2D飢餓72時間に従って3時間で生成された小胞の数、他方で、容器(4)が100mLの容積のスピナーフラスコで、液体培地(5)が50mL、ブレードの直径が3.8cm、撹拌が500RPMおよびKolmogorovの長さL
Kが24μmである流体系(1)により3時間で生成された小胞の数を示す。次に、この図は、HeLaタイプ産生細胞(6)を用いて、一方で、先行技術法の3D飢餓72時間に従って3時間で生成された小胞の数、他方で、容器(4)が100mLの容積のスピナーフラスコで、液体培地(5)が50mL、ブレードの直径が3.8cm、撹拌が250RPMおよびKolmogorovの長さL
Kが41μmである流体系(1)により3時間で生成された小胞の数を示す。
【0132】
この図は、本発明による流体系中での、および本発明の方法による細胞外小胞の生成は、先行技術に比べて、遙かに多量の、および少ない時間での細胞外小胞の製造を可能にすることを示す。さらに、この図は、本発明による流体系中で、および本発明の方法により、任意のタイプの産生細胞を細胞外小胞の製造に使用できることを示す。
【0133】
図8a)は、従来のフラスコ中の液体培地(5)中の撹拌なしの72時間後(本出願では2D飢餓または2D飢餓72時間と呼ぶ条件)、または本発明による流体系中で乱流撹拌の存在下で3時間後の、生存可能ラージタイプ懸濁産生細胞を経時的に示す。この図で使用される本発明による流体系は、50mLの液体培地(5)を含む100mLスピナーフラスコ、3.8cmのブレードの直径、500RPMの撹拌、およびKolmogorovのL
K24μmである。対照試験は、50mLの液体培地(5)を含む100mLのスピナーフラスコ、3.8cmのブレードの直径、34RPMの撹拌、およびKolmogorovのL
K181μmである。細胞濃度および生存率は、時間t=0時間およびt=3時間またはt=72時間でNucleoCounter(登録商標)(Chemometec社により販売されているNC-200(商標))により測定した。
【0134】
得られた結果は、産生細胞の数は、本発明による乱流撹拌中に大きくは減少せず、産生細胞はシェアストレスに耐性があることを示す。
【0135】
図8b)は、対照試験、2D飢餓72時間試験および本発明による試験の上清中のアデニル酸キナーゼのパーセンテージを示す。アデニル酸キナーゼを、時間t=0時間およびt=3時間またはt=72時間で上清に添加し、Lonza社から販売されているToxiLight(登録商標)Assayキットにより膜の健全性が測定され、陽性対照(100%溶解)試験が、対照の液体培地の体積を基準にして0.3体積%のトリトン(登録商標)X-100を用いて実行される。
【0136】
上清中のアデニル酸キナーゼの濃度は、種々の試験の間に大きくは変化せず、これは、細胞損傷は存在せず、特に、それらの細胞膜の健全性が維持されることを示しているように見える。
【0137】
加えて、
図9は、試験の3時間後および本発明による流体系中での3時間後(対照試験および本発明による試験は
図8のものと同じ)のx4倍率の光学顕微鏡を用いた観察による、ラージタイプの産生細胞の外観を示す。これらの画像は、乱流の作用後でも、産生細胞に対する損傷がほとんどないかまたは全くなく、細胞の健全性が維持され、それらの外観は対照試験の細胞のものと同一であるという事実を示す。
【0138】
図10は、従来のフラスコ中の液体培地(5)中、撹拌なしで72時間にわたり(2D飢餓72時間と呼ばれる)、および流体系中で液体培地(5)の流れを長さL
Kが200μmより大きくなるように制御することにより(3D飢餓と呼ばれる)、ヒトTHP-1細胞により生成された細胞外小胞の数を示す。これらの状態は、細胞外小胞EVを生成するための従来の条件である。これらの種々の条件下での細胞からの細胞外小胞(EV)の生成は、長さL
Kが17μm未満である流れ中での生成に比べて、有意に少ない。
【0139】
図11は、飢餓の条件または500RPMで撹拌することによる乱流条件下で、THP-1、HeLaまたはラージ産生細胞から生成された細胞外小胞の粒度分布を示す。これらの分布を得るために、種々の試験の上清を均一に採取し、2000Gで5分間遠心分離した後、小胞の濃度および粒度分布がナノ粒子トラッキング解析(Malvern Panalytical社から販売されている装置NanoSight NS300を用いて)により測定される。これらの結果は、本発明により生成された細胞外小胞の平均および中央粒径は、両方とも、および先行技術(飢餓)の方法により生成された細胞外小胞のものと類似していることを示す。
【0140】
次の
図12および13は、細胞外小胞および細胞外小胞の膜マーカーの粒度分布の分析結果に対応する。これらの分析は、NanoView Bioscience社から販売されている装置ExoView(商標)R100により実施される。細胞外小胞は、種々の抗体(抗CD81、抗CD9、抗CD63)で標識されたスポットを含むチップ上でインキュベートされ、洗浄後、抗CD81 Alexa Fluor(登録商標)555、抗CD9 Alexa Fluor(登録商標)647および抗CD63 Alexa Fluor(登録商標)488二次抗体が添加される。一群の蛍光および干渉画像は、液体培地中の細胞外小胞の粒度および濃度の測定値を得ることを可能にする。
【0141】
図12は、3時間(乱流)にわたり、本発明により生成された、または72時間の3D飢餓法により生成された細胞外小胞の粒度分布を示す。両方とも、THP1-タイプ産生細胞から生成される。本発明により生成された細胞外小胞は、THP1-タイプ産生細胞から、50mLの液体培地(5)を含む100mLスピナーフラスコ中で、3.8cmのブレードの直径、500RPMの撹拌、およびKolmogorovの長さL
K24μmで生成される。3D飢餓法72時間により生成された細胞外小胞は、THP1-タイプ産生細胞から、50mLの液体培地を含む100mLスピナーフラスコ中で、3.8cmのブレードの直径、500RPMの撹拌、およびKolmogorovの長さL
K181μmで生成される。結果は、
図11で得られた値未満の細胞外小胞の平均直径の値を与え、この理由は、分析方法が同じでないことにある(
図11のNTAによる測定は、
図12のExoView(商標)R100による測定に比べて、小さい粒度の細胞外小胞の全てを検出するとは限らない)。
図12でExoView(商標)R100により得られた結果は、抗CD9、CD63およびCD81捕捉抗体に結合する小胞の分析を意味する。
【0142】
得られた結果は次の通りである:
【表1】
これらの結果は、一方では、本発明によりまたは3D飢餓法により生成された細胞外小胞の平均直径は同一であり、他方では、膜マーカーの分布は、細胞外小胞生成法の関数として同じではない(すなわち、本発明による方法または3D飢餓法による方法間で)ことを示す。
【0143】
図13は、2種のタイプの細胞外小胞の膜マーカーの分析を示す。
-THP-1タイプ産生細胞から、50mLの液体培地(5)を含む100mLスピナーフラスコ中で、500RPMの撹拌、およびKolmogorovの長さL
K24μmで3時間生成された細胞外小胞、および
-THP-1タイプの産生細胞から、3D飢餓72時間で生成された細胞外小胞。
【0144】
2種のタイプの細胞外小胞は、ExoView(商標)R100で次のようにして分析される:小胞はチップ上の抗体(抗CD9、抗CD63、抗CD81)により捕捉され、各抗体のスポットが分離される。次に、捕捉された小胞は、フルオロフォアと結合した二次抗体(同様に、抗CD9、抗CD63、抗CD81)と共にインキュベートされ、これらのマーカーの同一場所への配置を可能にする。グラフ上では、捕捉抗体は、横軸に示され、一方、横軸位置毎の3つの異なるバーは、蛍光二次抗体である。したがって、CD81捕捉抗体の場合、それ以上の利用可能なエピトープが存在しない場合を除き、全ての捕捉された小胞は、Alexa Fluor(登録商標)555フルオロフォアで標識されなければならない。
【0145】
結果は、一方では、細胞外小胞の典型的膜マーカー、すなわち、CD81およびCD63は、基本的に、24μmのKolmogorovの長さの存在下で生成された細胞外小胞上に存在することを示す。これは、本発明による方法で生成された粒子は、実際に、細胞外小胞であり、それらは、親産生細胞に特異的なマーカーを有することを示す。
【0146】
他方では、これらの結果は、500RPMで生成された小胞の場合、CD81捕捉抗体上のCD81およびCD63中のフルオロフォアにより標識された同じ数の粒子が存在し、CD63捕捉抗体により捕捉された小胞の約半分がCD81蛍光で標識されることを示す。したがって、これらの2種の膜マーカーCD63およびCD81は、24μmのKolmogorovの長さの存在下で生成された細胞外小胞上に存在する。3D飢餓で生成された細胞外小胞上の2つのCD63およびCD81膜マーカーの存在および有意な共局在化についても同じ傾向が存在するが、相対的分布は24μmのKolmogorovの長さの存在下で生成された細胞外小胞のものとは異なる。
【0147】
図14は、種々のKolmogorovの長さに対して、撹拌の2時間後に、赤血球により生成された細胞外小胞の数を示す。2時間の撹拌後(本発明による条件:BR500mLおよびBR1L)または撹拌なしでの2時間の維持後(対照条件)、細胞外小胞の計数を、上清の均質サンプリング(実験前および実験後)により実施した後、これらの上清を5分間2000Gで遠心分離し、次に小胞の濃度をナノ粒子トラッキング解析(NanoSight NS300,Malvern Panalytical)により測定する。操作条件および結果の詳細は、以下で提示される。
【0148】
500mLの容量で、7.6cmの直径のブレードを有するスピナーフラスコ中の、150mLの白色DMEM中に1.5x1011個の赤血球が導入される。350RPMで、Kolmogorov長さLKが18.6μmの撹拌が2時間実施される。スクリューキャップ付きチューブ中で、50mLの白色DMEM中の5.1x1010個の赤血球を用いて対照を実施し、この対照チューブを静止状態に保持し、撹拌はしない。結果(図中の結果のバーBr500mL-T0およびBR500mL-T2時間)は、18.6μmなどの50μm未満のKolmogorovの長さでの赤血球の撹拌が、赤血球による10.4細胞外小胞の収率でこれらの赤血球による細胞外小胞の生成をもたらすことを示す。
【0149】
1Lの容量で、10.8cmの直径のブレードを有するスピナーフラスコ中の、300mLの白色DMEM中に1.05x1011個の赤血球が導入される。500RPMで、Kolmogorov長さLKが10.9μmの撹拌が2時間実施される。スクリューキャップ付きチューブ中で、50mLの白色DMEM中の1.15x1010個の赤血球を用いて対照を実施し、この対照チューブを静止状態に保持し、撹拌はしない。結果(図中の結果のバーBR1L-T0およびBR1L-T2時間)は、10.9μmなどの50μm未満のKolmogorovの長さでの赤血球の撹拌が、赤血球による約100細胞外小胞の収率でこれらの赤血球による細胞外小胞の生成をもたらすことを示す。
【0150】
このように、撹拌する速度場増大し、Kolmogorov長さが減少するに伴い、赤血球細胞当たりの生成される細胞外小胞の数が増大する。
【0151】
図15は、乱流撹拌の存在下でドキソルビシンの細胞外小胞への充填を示す。
THP-1細胞は洗浄後、1体積%のペニシリン/ストレプトマイシンおよび10μMのドキソルビシン(Merck)を添加したRPMIに再懸濁される。THP-1細胞は、スピナーフラスコに導入され、その液体培地は50mLであり、スピナーフラスコ中のTHP-1細胞の濃度は、8.5x10
4細胞/mLの液体培地である。THP-1細胞は、400RPMのKolmogorov長さ28μm(ドキソルビシン内部移行条件)、または34RPMのKolmogorov長さ181μm(対照条件=受動的)で2時間撹拌され、その後、THP-1細胞は、洗浄された後、前と同じ条件:400RPM、Kolmogorov長さ28μmを用いて、1体積%のペニシリン/ストレプトマイシンを更に含むRPMI中で再度撹拌される。試料(THP-1細胞および生成された細胞外小胞を含む)はその後、2000Gで5分間遠心分離される。上清が150,000Gで1時間30分超遠心分離された後、小胞の底部をPBS(リン酸緩衝食塩水)中に再懸濁し、0.3%トリトン(登録商標)X-100で溶解する。蛍光が蛍光分光光度計Hitachi F7000(励起波長:485nm、発光波長:560nm)で測定される。
【0152】
結果は、同じ出発細胞の数の場合、充填および乱流生成(乱流条件)後に細胞外小胞中で測定されたドキソルビシンの量は、乱流なしの充填に続く乱流生成(対照条件=受動的)後よりも遙かに多く:ドキソルビシン充填は、対照条件下(=受動的)での細胞外小胞の含有比率の0.08nmolから、乱流条件下での細胞外小胞の含有比率0.78nmolまで増大する。
【0153】
さらに、純度と呼ばれる比率を測定した。これは、NTAにより測定された細胞外小胞の濃度の、タンパク質濃度に対する比率である(μg/mL単位)。細胞外小胞濃度のNTA測定値は次のプロトコルを用いて実施される:
-THP-1タイプ産生細胞;2D飢餓72時間の条件の液体培地;3D飢餓72時間の液体培地;250RPMで3時間撹拌後の液体培地;500RPMで3時間撹拌後の液体培地、からの細胞外小胞を生成する種々の条件の液体培地の上清の均質サンプリング、
-2000Gで5分間の遠心分離、
-ナノ粒子トラッキング解析(Malvern Panalytical社から販売されている装置NanoSight NS300を使用)による細胞外小胞の濃度およびそれらの粒度分布の測定。
【0154】
タンパク質濃度測定は、Bradford test(ThermoFisher Scientific)により実施される。
【0155】
タンパク質濃度は小胞を溶解せずに測定されるので、細胞外小胞濃度のタンパク質濃度に対する比率(=純度)は、試料中に存在する混入物の指標と考えられる。結果は次の通りである:
【表2】
【0156】
これらの結果は、本発明により生成された細胞外小胞の試料は、2Dおよび3D飢餓で生成された細胞外小胞の試料の純度と類似であることを示す。これは、本発明による細胞外小胞の製造法が、生成された細胞外小胞の量および細胞外小胞の収率を増大させ、同時に、先行技術の方法に対する純度レベルを維持することを示す。