(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】新規な選択的ACKR3調節性物質及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20250120BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20250120BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20250120BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250120BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20250120BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250120BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20250120BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20250120BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20250120BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250120BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20250120BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20250120BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20250120BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250120BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250120BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20250120BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20250120BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20250120BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20250120BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20250120BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250120BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20250120BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
C07K7/06
C07K7/08 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/86 Z
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P9/10 101
A61P9/00
A61P43/00 105
A61P29/00
A61P37/06
A61P17/02
A61P31/18
A61P25/00
A61P25/28
A61P13/12
A61P9/12
A61P3/04
A61K38/08
A61K38/10
A61K48/00
A61K35/76
G01N33/53 P
(21)【出願番号】P 2021564925
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2020061981
(87)【国際公開番号】W WO2020225070
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-28
(32)【優先日】2019-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518384906
【氏名又は名称】ルクセンブルク インスティテュート オブ ヘルス(エルアイエイチ)
【氏名又は名称原語表記】LUXEMBOURG INSTITUTE OF HEALTH(LIH)
【住所又は居所原語表記】1A-B, rue Thomas Edison, L-1445 Strassen, LUXEMBOURG
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】メイラス,マックス,マーク,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】サプコフスカ,マルティナ
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィーニェ,アンディ
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】Cell,2013年,Vol.155,p.1323-1336,doi:10.1016/j.cell.2013.10.052
【文献】Molecular Pharmacology,2019年,Vol.96,p.809-818,doi:10.1124/mol.118.115329
【文献】Brain Research,Vol.700,1995年,p.89-98
【文献】Frontiers in Pharmacology,2018年,Vol.9,Article641,doi:10.3389/fphar.2018.00641
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/08
C07K 7/06
C12N 15/62
C12N 15/86
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列FGGX
1MRRX
2 (配列番号1) (ここで、X
1はF又はWであり、X
2はK、V又はFである)を含み、最大で15アミノ酸長を有する選択的ACKR3調節性ペプチド。
【請求項2】
X
1がFである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
X
2がKである、請求項1又は2に記載のペプチド。
【請求項4】
アミノ酸配列FGGX
1MRRX
2X
3 (配列番号2) (ここで、X
3は任意のアミノ酸で
ある)を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列FGGX
1
MRRX
2
X
3
(配列番号2) (ここで、X
3
はR又はAである)を含む請求項4に記載のペプチド。
【請求項6】
FGGFMRRK (配列番号3)、FGGFMRRKR (配列番号4)、FGGFMRRVR (配列番号5)及びFGGWMRRK (配列番号6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含
む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のペプチド。
【請求項7】
アミノ酸配列FGGFMRRK (配列番号3)を含む、請求項6に記載のペプチド。
【請求項8】
C末端がNH
2
置換されている、請求項7に記載のペプチド。
【請求項9】
検出可能な標識若しくはタグ、免疫グロブリンFc領域、プロトキシン、トキシン又は薬と、
場合により1又は2以上のリンカーと
融合した請求項1~
8のいずれか1項に記載のペプチド
からなる融合タンパク質
であって
、
ここで、リンカーは非ペプチドリンカー又はグリシン、セリン、アラニン、トレオニン及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸からなるペプチドリンカーである、融合タンパク質。
【請求項10】
請求項1~
8のいずれか1項に記載のペプチド又は請求項
9に記載の融合タンパク質をコードする核酸。
【請求項11】
プロモータ並びに/又は転写及び翻訳調節シグナルと作動可能に連結した請求項
10に記載の核酸を含む核酸発現カセット。
【請求項12】
請求項
10に記載の核酸又は請求項
11に記載の核酸発現カセットを含む
、ベクター。
【請求項13】
請求項1~
8のいずれか1項に記載のペプチド、請求項
9に記載の融合ペプチド、請求項
10に記載の核酸、請求項
11に記載の核酸発現カセット又は請求項
12に記載のベクターを、場合により薬学的に許容される担体と共に含む医薬組成物。
【請求項14】
医薬用の
、請求項1~
8のいずれか1項に記載のペプチド、請求項9に記載の融合タンパク質、請求項
10に記載の核酸、請求項
11に記載の核酸発現カセット、請求項
12に記載のベクター又は請求項1
3に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象における窮迫機能障害疾患若しくは状態、がん、動脈硬化性血管疾患、循環器疾患、線維症、炎症性若しくは自己免疫性の疾患及び状態、過剰若しくは異常な血管新生の状態、幹細胞分化及び可動化障害、脳及び神経機能不全、腎機能異常、腎障害、妊娠高血圧腎症並びに肥満症からなる群より選択される疾患又は状態の処置用の、請求項14に記載のペプチド、融合タンパク質、核酸、核酸発現カセット、ベクター又は医薬組成物。
【請求項16】
ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態のインビトロ又はエクスビボでの診断、予知、予後予測及び/又はモニタリング
を補助するためのデータを取得する方法であって、
- 対象から得られた生体試料を、請求項1~
8のいずれか1項に記載のペプチドであって、検出可能な標識と融合したペプチドと接触させる工程と、
- 前記生体試料中のACKR3ポリペプチドレベル
を決定
し、前記データを取得する工程
と
を含む方法。
【請求項17】
治療薬として有用な作用体を同定するインビトロ方法であって、試験作用体が、請求項1~
8のいずれか1項に記載の選択的ACKR3調節性ペプチドによるACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2の動員を阻害できるかどうかを決定することを含む方法。
【請求項18】
対象におけるACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態を診断、予知、予後予測及び/又はモニターするためのキットであって、
(a)請求項1~
8のいずれか1項に記載のペプチドと、
(b)ACKR3ポリペプチドレベルの参照値であって、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の既知の診断、予知及び/又は予後予測を表す参照値と
を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広く医薬分野にあり、そのまま及び他の作用体(agent)との融合タンパク質としての両方で診断及び治療を含む異なる分野において有用な新規非定型ケモカイン受容体3(ACKR3)調節性分子(modulating molecule)を提供し、さらに、前記ACKR3調節性分子の方法及び使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
オピオイド受容体は、痛覚消失、報酬情報処理及びストレス、不安又はうつ病の調節において中心的な役割を演じる、中枢神経系及び免疫細胞により発現されるGタンパク質共役受容体(GPCR)である。オピオイド受容体のファミリーは、3つの古典的受容体:ミュー(μ又はMOR)、デルタ(δ又はDOR)、カッパ(κ又はKOR)と、非古典的ノシセプチン受容体(NOP、又はオルファニンFQ受容体)とからなる。
【0003】
全ての内因性オピオイドペプチドは、大きいタンパク質前駆体のタンパク質分解性切断から導かれ、中枢神経系(CNS)において主に生成されるが、副腎及び脳下垂体において、またいくつかのタイプの免疫細胞によっても生成される。いくつかの例外はあるが、これれらのリガンドは、Gタンパク質を介する下流のシグナル伝達応答を引き起こし、その後、β-アレスチンが動員され、受容体脱感作及び内部移行が導かれる。オピオイド受容体は、非ペプチドオピオイド、例えばモルフィン、フェンタニル又はナロキソンによっても調節され得る。オピオイド受容体は、医薬品にとっての魅力ある標的であり、オピオイド受容体調節性物質(modulator)は、臨床においていまだに最も広く用いられる鎮痛剤である。しかし、これらの医薬品の使用は耐性、依存及び様々な有害作用(例えば呼吸抑制)又は誤用としばしば関連する。
【0004】
オピオイド受容体発現、シグナル伝達及び脱感作は、それらと他のGPCR、特にケモカイン受容体との相互作用によりさらに影響される。ケモカイン受容体は、小さい(8~14 kDa)分泌化学誘引サイトカイン、すなわちケモカインであるケモカインと結合し、細胞プロセス、例えば遊走、接着及び成長をレギュレートし、それにより、炎症及び発生過程において重要な役割を演じる。現在までに、ほぼ50のケモカイン及び20の古典的受容体がヒトにおいて同定されている。オピオイド受容体-リガンドネットワークと同様に、多くのケモカイン受容体は、複数のケモカインを認識し、その逆も同じであり、多くのケモカインが1を超える受容体を活性化する。最近、非定型ケモカイン受容体(ACKR)と呼ばれる新しいファミリーが、ケモカイン受容体の小さいサブグループとして出現した。ACKRは、Gタンパク質シグナル伝達を引き起こさずにケモカインと結合するが、代わりに、炎症プロセスを消散させるか又は適当なケモカイン勾配を形作るために、ケモカインを輸送若しくは捕捉することにより又はリガンドを内部移行し、かつ分解することにより走化性事象に参加する。
【0005】
以前はCXCR7として知られていたACKR3は、様々な細胞、例えばB及びTリンパ球、ニューロン及び内皮細胞において発現され、心血管及び神経発生を含む多くのプロセス、並びに造血幹/前駆細胞の遊走及びホーミングにおいて重要な役割を演じる。循環器疾患及び多くのがんにおけるACKR3の関与を指摘する研究の数が増えてきている。ACKR3は、様々ながん細胞型において、また、腫瘍関連脈管構造上で発現され、転移発生におけるその関与を示す証拠が蓄積してきている。ACKR3は、HHV-8、EBV、HTLV-1を含むいくつかの発がん性ウイルスへの感染の際に上方制御され、かつ細胞形質転換及び増殖において重要な演じることも示された。その独特の生物学のために、これは、最近、非定型ケモカイン受容体と分類された。実際に、ACKR3は、それぞれC-X-Cモチーフケモカイン受容体4(CXCR4)及びC-X-Cモチーフケモカイン受容体3(CXCR3)によっても認識される2つの内因性ケモカイン、C-X-Cモチーフケモカイン12(CXCL12)及びC-X-Cモチーフケモカイン11(CXCL11)と結合するが、従来のケモカイン受容体とは違って、ACKR3は、古典的なGタンパク質経路を活性化せず、β-アレスチン依存性シグナル伝達を引き起こすと提案されている。さらに、細胞膜とエンドソーム区画との間でのその連続的な循環及びケモカインを効率的に内部移行して分解するその能力により、ACKR3は、CXCR4及びCXCR3に対するCXCL12及びCXCL11のアベイラビリティーをレギュレートするスカベンジャー受容体として機能する。また、ACKR3は、ヘテロ二量体を形成するか、又はシグナル伝達に関与する細胞内エフェクタータンパク質について競合することにより、CXCR4の活性を修飾すると提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に鑑みて、ACKR3が関与する障害を調節する新しい方法を探索することが差し迫って必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、非定型ケモカイン受容体ACKR3が、エンケファリン、ダイノルフィン及びノシセプチンファミリーからのものを含む、中枢神経系(CNS)及び免疫細胞において見いだされる広い範囲の内因性オピオイドペプチドと結合することを見出した。この広範囲の選択性は、オピオイド受容体のうちで非定型かつ独特である。さらに、本発明者らは、ACKR3が、既知のオピオイド受容体及びIkedaら(Ikedaら、2013、Modulation of circadian glucocorticoid oscillation through adrenal opioid-CXCR7 signaling alters emotional behavior、Cell. 155(6): 1323~1336)により提案されたこととは対照的に、下流のシグナル伝達経路を、例えばGタンパク質又はβ-アレスチンを介して内因性オピオイドペプチドに応答して活性化できず、異なる細胞区画内に存在し、スカベンジャーとして作用して、それらの局所的及び/又は全身性の濃度、ひいては古典的オピオイド受容体についてのアベイラビリティーをレギュレートすることを見出した。
【0008】
本発明者らは、ACKR3が修飾されて、内因性オピオイドペプチド調節不全につながる障害、例えば窮迫機能障害疾患(distress dysfunction diseases)又は状態、例えばうつ病若しくは慢性疼痛の処置において、安全性プロファイルの改善の可能性をもって、内因性オピオイドペプチドのレベルを変えることができることを見出した。
このために、本発明者らは、選択的ACKR3調節性物質を開発した。より具体的には、これらの選択的ACKR3調節性物質は、コンセンサス配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFである)を有し、好ましくは最大で15アミノ酸の長さを有するペプチドであって、ACKR3について高い親和性及び選択性を有し、試験したいずれの他のタイプの受容体に対しても調節性(例えばアゴニスト又はアンタゴニスト)活性を有さないペプチドである。さらに、ACKR3についての高い親和性及び選択性を有する新規なペプチドは、ACKR3アゴニストとして作用でき、β-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2をACKR3に対して誘導できる。さらに、本明細書で教示するペプチドが最大で15アミノ酸の長さを有する場合、これらのペプチドは、低い生産コストの利点を有し、このことは、競争力を高く保ち、多くの患者が入手できるようにするために非常に重要である。
【0009】
上記に鑑みて、第一の観点は、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1) (ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFである)を含む選択的ACKR3調節性ペプチドを提供し、該ペプチドは、最大で15アミノ酸の長さを有する。
特定の実施形態において、X1は、Fである。
特定の実施形態において、X2は、Kである。
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2X3(配列番号2) (ここで、X3は、任意のアミノ酸であり得、好ましくは、X3は、R又はAである)を含む。
特定の実施形態において、ペプチドは、FGGFMRRK(配列番号3)、FGGFMRRKR(配列番号4)、FGGFMRRVR(配列番号5)及びFGGWMRRK(配列番号6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を含み、好ましくは、該ペプチドは、アミノ酸配列FGGFMRRK(配列番号3)を含み、好ましくは、ペプチドのC末端は、NH2置換されている。
【0010】
さらなる観点は、本明細書で教示するペプチドを含む融合タンパク質を提供する。
さらなる観点は、本明細書で教示するペプチド又は本明細書で教示する融合タンパク質をコードする核酸を提供する。
さらなる観点は、プロモータ並びに/又は転写及び翻訳調節シグナルと作動可能に連結した本明細書で教示する核酸を含む核酸発現カセットを提供する。
さらなる観点は、本明細書で教示する核酸又は本明細書で教示する核酸発現カセットを含むベクター、例えばウイルスベクターを提供する。
さらなる観点は、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合ペプチド、本明細書で教示する核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、又は本明細書で教示するベクターと、場合によって、薬学的に許容される担体とを含む、医薬組成物を提供する。
【0011】
さらなる観点は、医薬用の、好ましくは、対象における窮迫機能障害疾患若しくは状態、がん、動脈硬化性血管疾患、循環器疾患、線維症(例えば心臓線維症)、炎症性若しくは自己免疫性の疾患及び状態、過剰若しくは異常な血管新生の状態(例えば創傷治癒及びHIV感染性(infectivity))、幹細胞分化及び可動化障害、脳及び神経機能不全(例えばアルツハイマー病、多発性硬化症及び脱髄疾患)、腎機能異常(kidney dysfunction)、腎障害(renal dysfunction)、妊娠高血圧腎症並びに肥満症からなる群より選択される疾患又は状態の処置用の、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物を提供する。
【0012】
さらなる観点は、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の、インビトロ又はエクスビボでの診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングの方法であって、
- 対象から得られた生体試料を得る工程と、
- 前記生体試料を、本明細書で教示するペプチドであって、検出可能な標識と融合したペプチドと接触させる工程と、
- 前記生体試料中のACKR3ポリペプチドのレベルを、前記ペプチドを検出することにより決定する工程と、
- 疾患又は状態を、ACKR3ポリペプチドのレベルに基づいて診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングする工程と
を含む方法を提供する。
【0013】
さらなる観点は、対象における窮迫機能障害疾患又は状態の処置用の治療又は予防剤であって、他のいずれの受容体ポリペプチドでもなく非定型ケモカイン受容体3(ACKR3)ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を調節できる、治療又は予防剤を提供する。
さらなる観点は、治療薬として有用な作用体を同定するインビトロ方法であって、試験作用体が、ACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できるが、他のいずれの受容体ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員も誘導できないかどうかを決定することを含む方法を提供する。
さらなる観点は、治療薬として有用な物質を同定するインビトロ方法であって、試験物質が、本明細書で教示する選択的ACKR3調節性ペプチドによるACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を阻害できるかを決定することを含む方法を提供する。
【0014】
さらなる観点は、対象におけるACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態を診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングするためのキットであって、
(a) 本明細書で教示するペプチドと、
(b) ACKR3ポリペプチドのレベルの参照値であって、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の既知の診断、予知及び/又は予後予測を表す参照値と
を含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ACKR3に対するオピオイドペプチドライブラリースクリーニング、ヒットの確認及び古典的オピオイド受容体との比較。(A)4つのオピオイドファミリーからの天然オピオイドペプチド、それらのバリアント及び小分子オピオイド受容体調節性物質を含む58の化合物の、ACKR3、CXCR4及びCXCR3へのβ-アレスチン-2動員を、U87細胞において、5μMの濃度にて誘導する能力。陽性対照ケモカインは、300 nMの濃度にて用いた。結果は、賦形剤処理細胞に対する倍数変化で表し、2回の反復の平均±S.Dを表す。(B~F)オピオイド受容体MOR (B)、DOR (C)、KOR (D)、NOP (E)及びACKR3 (F)へのβ-アレスチン-1動員をU87細胞において誘導することにおける、ACKR3活性化ペプチドの効力及び有効性の比較。結果は、示すアゴニスト応答のパーセンテージとして表す。(G) Alexa Fluor 647-標識CXCL12 (5nM)とのACKR3活性化ペプチドの、U87-ACKR3細胞上での、フローサイトメトリにより決定した結合競合。(H)4つのファミリーの代表的なオピオイドペプチドの配列、並びにACKR3へのβ-アレスチン-1動員を誘導すること、又はAlexa Fluor 647-標識CXCL12との競合における、前記オピオイドペプチドの効力及び有効性。B~Hの結果は、平均±S.E.M (n≧3)を表す。
【
図2】オピオイドペプチドによるACKR3の特異的活性化。4つのオピオイドファミリーの代表的なオピオイドペプチド(3μM)の、21の古典的及び4の非定型ケモカイン受容体に向かう、U87細胞におけるβ-アレスチン-1動員アッセイにおいて評価したアゴニスト活性。各受容体について、ケモカイン受容体リガンドのIUPHARリポジトリに列挙されている100 nMの1つの既知のアゴニストケモカインを、陽性対照として加えた。結果は、賦形剤に対する倍数変化として表し、平均(n≧3)を表す。
【
図3】ACKR3及び古典的オピオイド受容体に対するアドレノルフィンバリアントの構造-活性関係の分析。(A)ACKR3、MOR、DOR、KOR及びNOPに向かうアドレノルフィンのアゴニスト活性に対する、置換、短縮、伸長、D-アミノ酸置き換え又は二量体形成の影響の比較。アゴニスト活性又は各バリアントは、U87細胞におけるβ-アレスチン-1動員アッセイにおいて評価し、野生型アドレノルフィンの活性に対する倍数変化として表した。(B~E)アドレノルフィン(B)並びにY1F (C)、M5L (D)及びR6A (E)の変異を有するそのバリアントの、ACKR3並びにオピオイド受容体KOR、MOR、DOR及びNOPへのβ-アレスチン-1動員をU87細胞において誘導する効力及び有効性の比較。「~」は、ACKR3及び記載するオピオイド受容体に向かうペプチドの効力に対する修飾の類似の影響を示す。結果は、平均±S.E.M.(n≧3)を表す。(F)変異Y1Fを他の修飾(変異及び/又は伸長)と組み合わせたペプチドバリアントの、ACKR3へのβ-アレスチン-1動員を誘導する効力の比較。母ペプチド(Y1FアドレノルフィンFGGFMRRV)に対する修飾アミノ酸を、下線及び太字で示す。
【
図4】ACKR3に向かう古典的オピオイド調節性物質の活性と、ナノモル濃度以下ACKR3-選択的アゴニストとしてのLIH383の開発。(A)研究目的又は臨床で一般的に用いられるオピオイド調節性物質(10μM、1μM及び100 nM)のACKR3に向かうアゴニスト及びアンタゴニスト活性と、β-アレスチン-1動員アッセイにおいてモニタリングした、オピオイド受容体MOR、DOR、KOR及びNOPとの比較。アンタゴニスト活性は、MOR、DOR、KOR、NOP及びACKR3に対するそれぞれBAM22 (50 nM)、met-エンケファリン(70 nM)、ダイノルフィンA(50 nM)、ノシセプチン(70 nM)及びCXCL12 (4nM)の添加の後に測定した。(B及びE)ヒト(B)及びマウス(E)ACKR3に向かうLIH383のアゴニスト活性と、他の内因性ACKR3ケモカインリガンド及び異なる配置でのLIH383を構成する8アミノ酸からなる対照ペプチド(MRRKFGGF)との比較。(C及びD)ACKR3及びオピオイド受容体MOR、DOR、KOR及びNOP(C)又は全ての他の既知のケモカイン受容体(3μM)(D)へのβ-アレスチン-1動員の比較により評価したLIH383選択性。(F)蛍光標識LIH383(LIH383-Cy5)の、ACKR3発現細胞への選択的結合。全てのアッセイは、U87細胞において行った。結果は、平均±S.E.M.(n≧3)を表す。(G)漸増濃度のACKR3活性化ケモカイン、アドレノルフィン又はLIH383の、Alexa Fluor 647標識CXCL12 (5nM)とのU87-ACKR3細胞上での、フローサイトメトリにより決定した結合競合。(H)U87細胞(-)又はACKR3、CXCR4若しくは古典的オピオイド受容体(MOR、DOR、KOR又はNOP)を発現するU87における、LIH383又は陽性対照(+ctrl、30 nM PMA、10% FBS)に応答しての、ERK1/2シグナル伝達カスケードにつながる血清応答配列(SRE)の活性化。未処理細胞(培地)についてのバーは、ベースライン参照として用いる。(I)LIH383(3000 nM~12.3 nM)の、古典的オピオイド受容体DOR、MOR、KOR及びNOPに向かう、β-アレスチン-1動員によりモニタリングした、用量依存性アンタゴニスト活性。DOR、MOR及びKORについてナロキソン(1000 nM~4.1 nM)又はNOPについてブプレノルフィン(27000 nM~111 nM)を、陽性対照アンタゴニストとして用いた。アンタゴニスト活性を、それぞれMOR、DOR、KOR及びNOPに対するBAM22 (50 nM)、met-エンケファリン(70 nM)、ダイノルフィンA(50 nM)、ノシセプチン(70 nM)の添加の後に測定した。結果は、平均±S.E.M (n≧3)として表す。
【
図5】オピオイド及びケモカインリガンドに応答するACKR3シグナル伝達の非存在。(A~D)ケモカインCXCL12 (200 nM)(A)又はオピオイドペプチド(500 nM)ダイノルフィンA(B)、アドレノルフィン(C)及びノシセプチン1-13 (D)により刺激された、U87細胞又はACKR3、CXCR4若しくは古典的オピオイド受容体(KOR及びNOP)を発現するU87細胞のDMRプロファイル。左のパネル:3000秒にわたって決定した代表的なDMRプロファイル。右のパネル:少なくとも3回の独立した実験の曲線下面積(AUC)±S.E.M.。(E)ACKR3、CXCR4及び古典的オピオイド受容体(MOR、DOR、KOR又はNOP)の、CXCL12及びオピオイドペプチドに応答する、U87細胞においてモニタリングしたミニGi動員の比較。(F)CXCL12及びオピオイドペプチドにより刺激された、ACKR3又はCXCR4を安定的に発現するU87細胞におけるERK1/2リン酸化の動態解析。EGFは、陽性対照として用いた。(G) U87細胞(-)又はACKR3、CXCR4若しくは古典的オピオイド受容体(MOR、DOR、KOR又はNOP)を発現するU87における、ケモカインCXCL12及びCXCL11 (200 nM)又はオピオイドペプチド(500 nM)又は陽性対照(SREについて30 nM PMA、10% FBS、及びNFAT-REについて30 nM PMA、1μMイオノマイシン、10% FBS)に応答する、SRE (ERK1/2)及びNFAT-RE (Ca
2+)シグナル伝達カスケードの活性化の比較。結果は、平均±S.E.M.(n≧3)を表す。
【
図6】様々なオピオイドペプチドの効率的な取り込みと、古典的オピオイド受容体との比較における、ACKR3の非定型局在化及び輸送特性。(A)ACKR3発現細胞による蛍光標識ダイノルフィンA(1-13)取り込みは、イメージングフローサイトメトリにより視覚化した。LIH383 (3μM)で前処理したU87、U87-ACKR3又はU87-ACKR3細胞は、250 nM (FAM)標識ダイノルフィンA(1-13)で、37℃にて40分間刺激した。生存性染料を用いて、死滅細胞を除いた。各条件について、所定の数の区別可能な小胞様構造(点)を有する細胞のパーセンテージと、緑チャネル(FAM標識)についての幾何平均蛍光強度(MFI)とを決定した。示すデータは、3回の独立した実験の代表である。(B)異なるファミリー (ダイノルフィン、エンケファリン又はノシセプチン)の代表である蛍光標識オピオイドペプチド(ダイノルフィンA(1-13)-FAM (250 nM)、ビッグダイノルフィン-Cy5 (400 nM)、BAM22-Cy5 (400 nM)又はノシセプチン-FAM (1μM))の、U87細胞(NT)又はACKR3若しくは対応する好ましい古典的オピオイド受容体(KOR、MOR又はNOP)でトランスフェクションしたU87細胞による、(A)に記載するイメージングフローサイトメトリにより分析した取り込み。(C)KORを活性化するその能力によりモニタリングした、細胞外ダイノルフィンAのACKR3媒介欠乏。LIH383(400 nM)又は対照ペプチド(LIH383 ctrl) (左のパネル)及びCXCL12 (200 nM)、又は陰性対照ケモカインCXCL10(右のパネル)で15分間前処理したU87又はU87-ACKR3細胞を、ダイノルフィンAと25分間インキュベートした。細胞上清を、次いで、SmBiTタグ付加KOR及びLgBiT-ベータ-アレスチン-1 (左のパネル)又はLgBiT-ミニGi (右のパネル)を発現するU87細胞に加えた。(挿入図):バーグラフとして表すEC
50値。(D) オピオイドペプチド誘導受容体-アレスチンの、ACKR3を安定的に発現するU2OS細胞におけるβ-ガラクトシダーゼ補完アッセイによりモニタリングした、エンドソームへの送達。(E~G)ACKR3及び古典的オピオイド受容体のオピオイドペプチド誘発内部移行の、HiBiT技術(E及びG)及びフローサイトメトリ(F)によりモニタリングした動態。(E)HiBiTがN末端にタグ付加された受容体を発現するU87細胞を、ダイノルフィンA、ダイノルフィンB、ビッグダイノルフィン、ダイノルフィンA 1-13、アドレノルフィン、BAM22、met-エンケファリン、エンドモルフィン1、エンドモルフィン2及びベータ-エンドルフィン(1μM)を含むオピオイドペプチド又はCXCL12(300 nM)で、記載された時間刺激し、残存膜受容体を、可溶性LgBiTタンパク質を用いて定量した。(F)リガンド刺激(ダイノルフィンA、ダイノルフィンB、ビッグダイノルフィン、ダイノルフィンA 1-13、アドレノルフィン、BAM22、met-エンケファリン、ノシセプチン、ノシセプチン1-13及びF-Gノシセプチン1-13を含むオピオイドペプチドについて1μM、CXCL12について300 nM)の後の酸洗浄の後のU87細胞における、フローサイトメトリによりモニタリングしたACKR3及びKORの内部移行及びリサイクリングプロファイル。(G)様々なオピオイドペプチド(1μM)による180分間の刺激の後のACKR3及びKORのエンドソーム輸送/サイクリングに対する、HiBiT技術によりモニタリングした、バフィロマイシンA1 (1.5μM)の影響。結果を、平均(A)又は平均±S.E.M. (B~G) (n≧3)として表す。Bonferroni補正を用いる一方向ANOVA(B)、二方向ANOVA:Tukeyの事後検定を用いる株化細胞とリガンド処理との間の相互作用(C)、及び両側対応のないt検定(G)による、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図7】神経前駆細胞及び脳のオピオイド中心における、古典的受容体についてのオピオイドペプチドアベイラビリティーのACKR3媒介レギュレーション。(A~C)smNPC及びオピオイドペプチド活性について重要な中心に相当する異なる脳領域におけるACKR3及び古典的オピオイド受容体の相対的遺伝子発現。(A)16~22名のドナーからのデータを含むオープンソースデータベース(brainspan.org)からのRNA-Seq RPKM (reads per kilobase per million;百万あたりキロベースあたりのリード)値。(B及びC)5のヒト成人脳(B)又は2のsmNPC試料(C)に対するqPCRにより決定し、安定ハウスキーピング遺伝子としてのPPIA及びGAPDHの算術平均に対して標準化したmRNA発現。(D)ACKR3特異的mAb抗体(11G8)又はマッチするアイソタイプ対照(MG1-45)と、PE結合二次抗体とを用いるフローサイトメトリによりモニタリングした、非染色細胞との比較におけるACKR3の細胞外及び細胞内発現。(E)イメージングフローサイトメトリにより評価した、smNPCによる蛍光標識ダイノルフィンA(1-13)の取り込み。LIH383又はLIH383ctrl (3μM)で15分間前処理したsmNPCを、250 nM (FAM)標識ダイノルフィンA (1-13)と37℃にて40分間インキュベーションし、イメージングフローサイトメトリにより分析した。結果は、平均±S.E.M(n≧3)を表す。(F)様々なオピオイドペプチド(500 nM)又は陽性対照としての10% FBSに応答する、smNPCにおけるSRE (ERK1/2)シグナル伝達カスケード活性化。結果は、平均±S.E.M(n≧3)を表す。(G)KORを活性化する能力によりモニタリングした、細胞外ダイノルフィンAのACKR3媒介欠乏。LIH383、LIH ctrl (1.5μM)、CXCL12又はCXCL10 (300 nM)と15分間前処理したsmNPCを、ダイノルフィンA(3μM)と4時間インキュベートした。細胞上清中に残存するダイノルフィンAの活性を、SmBiTタグ付加KOR及びLgBiTタグ付加ミニGiを発現するU87細胞上で調べた。代表的な30×上清希釈を示す。結果は、平均±S.E.M(n≧3)として表す。(H及びI)LIH383単独、ナロキソンの存在下若しくは非存在下のダイノルフィンA(H)、又はLIH383の存在下若しくは非存在下の漸増濃度のダイノルフィンA(I)により誘導される、ニューロン脱分極のエクスビボラット青斑核阻害。データ及びEC
50値(挿入図)は、平均±S.E.Mとして表し、各条件について6回の独立した脱分極実験に基づく。Bonferroni補正を用いる一方向ANOVA(E及びG)及び Kruskal-WallisとDunnの検定(I)により*p<0.05、**p<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で用いる場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、単数及び複数の両方の指示物を含む。
用語「含み(comprising)」、「含む(comprises)」及び「で構成される」は、本明細書で用いる場合、「含み(including)」、「含む(includes)」又は「含み(containing)」、「含む(contains)」と同義であり、包括的又はオープンエンドであり、追加の言及していないメンバー、要素又は方法の工程を除外しない。この用語は、特許用語においてよく確立された意味を享受する「からなり」及び「から本質的になり」も包含する。
両端による数値範囲の言及は、それぞれの範囲内に包含される全ての数字及び画分、並びに言及される両端を含む。
【0017】
用語「約」又は「およそ」は、測定可能な値、例えばパラメータ、量、時間の期間などに言及して本明細書で用いる場合、そのような変動が開示する発明において行うのに適切である限り、特定の値の及びその値からの変動、例えば、特定の値の及びその値から+/-10%以下、好ましくは+/-5%以下、より好ましくは+/-1%以下、さらにより好ましくは+/-0.1%以下の変動を意味する。「約」の修飾語が言及する値自体も具体的にかつ好ましくは開示されると理解される。
用語「1以上」又は「少なくとも1」、例えば、メンバーの群のうちの1つ以上のメンバー又は少なくとも1つのメンバーは、さらなる例示によりそれ自体明確であるが、この用語は、なかでも、前記メンバーのうちの任意の1つ、又は前記メンバーのうちの任意の2つ以上、例えば前記メンバーのうちの任意の≧3、≧4、≧5、≧6又は≧7などであって、前記メンバーの全てまでへの言及を包含する。別の例において、「1以上」又は「少なくとも1」は、1、2、3、4、5、6、7以上に言及し得る。
【0018】
本明細書における発明の背景の議論は、本発明の関係を説明するために含まれる。これは、そこで言及した材料のいずれも、公開され、既知であり、又は請求項のいずれの優先日においていずれの国においても一般常識の一部であったことを認めるためのものと理解されない。
本開示を通じて、様々な出版物、特許及び公開特許明細書を引用しながら参照する。本明細書において引用する全ての文書は、その全体が本明細書に参照により組み込まれている。特に、本明細書で具体的に言及するそのような文書の教示又は部分は、参照により組み込まれている。
そうでないと定義しない限り、技術的及び科学的用語を含む本発明の開示において用いる全ての用語は、本発明が属する技術における熟練者が一般的に理解する意味を有する。さらなる手引きの目的で、本発明の教示をよりよく認識するために、用語の定義を含める。特定の用語が本発明の特定の観点又は本発明の特定の実施形態に関連して定義される場合、そのような言外の意味は、そうでないと定義しない限り、本明細書を通じて、すなわち、本発明の他の観点又は実施形態の関係においても適用することを意味する。
【0019】
以下の部分において、本発明の異なる観点又は実施形態を、より詳細に定義する。そのように定義される各観点又は実施形態は、そうでないことが明確に示されない限り、任意のその他の観点又は実施形態と組みあわせてよい。特に、好ましい又は有利であると示された任意の構成は、好ましい又は有利であると示された任意の他の構成と組み合わせてよい。
「一実施形態」、「実施形態」への本明細書を通じての言及は、その実施形態と関連して記載される特定の構成、構造又は特徴が、本発明の少なくとも1つの実施形態において含まれることを意味する。よって、本明細書を通じての様々な場所における「一実施形態において」又は「ある実施形態において」との句の出現は、全て同じ実施形態に必ずしも言及するわけではないが、言及してもよい。さらに、特定の構成、構造又は特徴は、本開示から当業者にとって明らかであるように、1つ以上の実施形態において、任意の適切な様式で組み合わせてよい。さらに、本明細書に記載するいくつかの実施形態は、他の実施形態に含まれるいくつかの構成を含むがその他の構成を含まないが、異なる実施形態の構成の組み合わせは、本発明の範囲内であることを意味し、当業者に理解されるように、異なる実施形態を形成する。例えば、添付の特許請求の範囲において、任意の請求される実施形態を、任意の組み合わせで用いることができる。
【0020】
本発明者らは、非定型ケモカイン受容体ACKR3(CXCR7としても知られる)を、オピオイド系の新しい鍵となるレギュレータと同定した。
より具体的には、本発明者らは、ACKR3が、脳において、古典的オピオイド受容体と一緒に豊富に発現されることを見出し、BAM22 (Ikedaら、2013、Modulation of circadian glucocorticoid oscillation through adrenal opioid-CXCR7 signaling alters emotional behaviour、Cell. 155(6): 1323~1336)に加えて、ACKR3が、エンケファリン、ダイノルフィン及びノシセプチンファミリーからのものを含む、中枢神経系(CNS)及び免疫細胞において見いだされる広い範囲の他の内因性オピオイドペプチドと結合することを証明する。この広範囲の選択性は、オピオイド受容体のなかで非定型及び独特である。さらに、本発明者らは、ACKR3が、既知のオピオイド受容体及びIkedaら(Ikedaら、2013、Modulation of circadian glucocorticoid oscillation through adrenal opioid-CXCR7 signaling alters emotional behavior、Cell. 155(6): 1323~1336)により提案されたこととは対照的に、下流のシグナル伝達経路を、例えばGタンパク質又はβ-アレスチンを介して内因性オピオイドペプチドに応答して活性化できず、異なる細胞区画内に存在し、スカベンジャーとして作用して、それらの局所的及び/又は全身性の濃度、ひいては古典的オピオイド受容体に対するアベイラビリティーをレギュレートすることを見出した。
【0021】
本発明者らは、ACKR3が、このファミリーの神経調節性物質に向かうスカベンジャーとして作用し、シグナル伝達オピオイド受容体へのそれらのアベイラビリティーをレギュレートすることを見出した。よって、ACKR3は、オピオイドペプチドについて新しい広い範囲の受容体として作用する。より具体的に、本発明者らは、ラットエクスビボモデルにおいて、ACKR3の遮断が、古典的受容体を通してオピオイドペプチドにより誘導されるアベイラビリティー及びシグナル伝達を増加させたことを示した。本発明者らは、ニューロン発火の阻害が、ACKR3の特異的な活性化により達成できないが、古典的オピオイド受容体の活性化を通じてのみ達成される一方、ACKR3排除能力の中和が、古典的受容体に向かうダイノルフィンAの効力の改善を明確に示すことも示す。オピオイドペプチドの排除は、神経前駆細胞(smNPC)及びU87細胞においてさらに確認された。
【0022】
したがって、ACKR3は、内因性オピオイドペプチド調節不全につながる障害、例えば窮迫機能障害疾患又は状態、例えばうつ病又は慢性疼痛の処置において、安全性プロファイルの改善の可能性をもって、内因性オピオイドペプチドの正常レベルを調節及び/又は回復するために用いることができる。このために、本発明者らは、コンセンサス配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFである)を有し、好ましくは最大で15アミノ酸の長さを有するペプチドであって、ACKR3について高い親和性及び選択性を有し、ミュー(μ)型オピオイド受容体(MOR)、デルタ(δ)型オピオイド受容体(DOR)、カッパ(κ)型オピオイド受容体(KOR)及び非古典的ノシセプチン受容体(NOP)又は任意のC-Cケモカイン受容体1型(CCR1)、C-Cケモカイン受容体2A型(CCR2A)、C-Cケモカイン受容体2B型(CCR2B)、C-Cケモカイン受容体3型(CCR3)、C-Cケモカイン受容体4型(CCR4)、C-Cケモカイン受容体5型(CCR5)、C-Cケモカイン受容体6型(CCR6)、C-Cケモカイン受容体7型(CCR7)、C-Cケモカイン受容体8型(CCR8)、C-Cケモカイン受容体9型(CCR9)、C-Cケモカイン受容体10型(CCR10)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体1(CXCR1)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体2(CXCR2)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体3A(CXCR3A)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体3B(CXCR3B)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体4(CXCR4)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体5(CXCR5)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体6(CXCR6)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体8(CXCR8)、X-Cモチーフケモカイン受容体1(XCR1)、C-X3-Cモチーフケモカイン受容体1(CX3CR1)、非定型ケモカイン受容体1(ACKR1)、非定型ケモカイン受容体2(ACKR2)及び非定型ケモカイン受容体4(ACKR4)のいずれに対しても調節性(例えばアゴニスト又はアンタゴニスト)活性を有さないペプチドを開発した。さらに、ACKR3について高い親和性及び選択性を有する新規ペプチドは、ACKR3アゴニストとして作用でき、ACKR3へのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できる。
さらに、本明細書で教示するペプチドが最大で15アミノ酸の長さを有する場合、これらのペプチドは、低い生産コストの利点を有し、このことは、競争力を高く保ち、多くの患者が入手できるようにするために非常に重要である。
【0023】
したがって、第一の観点は、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1) (ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFである)を含か、本質的にそれからなるか、又はそれからなり、場合によって、最大で15アミノ酸の長さを有するペプチドを提供する。
用語「ペプチド」は、本明細書を通じて用いる場合、好ましくは、50以下のアミノ酸、例えば45以下のアミノ酸、好ましくは40以下のアミノ酸、例えば35以下のアミノ酸、より好ましくは30以下のアミノ酸、例えば25以下、20以下、15以下、10以下又は5以下のアミノ酸から本質的になる本明細書で用いるポリペプチドのことをいう。
【0024】
特定の実施形態において、ペプチドは、非天然であり、例えば天然に存在しないか又は天然から単離されない、例えば自然に又は内生的に細胞又は組織により生成又は発現されず、場合によってそれから単離されない。
特定の実施形態において、ペプチドは、組換えであり、すなわち、組換えDNA技術により生産され、かつ/又は部分的若しくは全体的に、化学的若しくは生化学的に合成され得る。限定することなく、ペプチドは、適切な宿主又は宿主細胞発現系により組換え生成され、場合によってそれから単離され得る(例えば、適切な細菌、酵母、真菌、植物又は動物宿主又は宿主細胞発現系)か、或いは無細胞翻訳若しくは無細胞翻訳及び転写、又は非生物学的ペプチド合成により組換え生成され得る。
【0025】
特定の実施形態において、ペプチドは、20以下のアミノ酸、15以下のアミノ酸、例えば14以下のアミノ酸、13以下のアミノ酸、12以下のアミノ酸、11以下のアミノ酸、好ましくは10以下のアミノ酸、例えば9アミノ酸又は8アミノ酸からなる。特定の実施形態において、ペプチドは、8から20までのアミノ酸、8から15までのアミノ酸、8から14までのアミノ酸、8から13までのアミノ酸、8から12までのアミノ酸、8から11までのアミノ酸、8から10までのアミノ酸、又は8若しくは9アミノ酸、好ましくは8から15までのアミノ酸、より好ましくは8から10までのアミノ酸からなる。
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、F又はW、好ましくはFであり、X2は、K又はV、好ましくはKである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
好ましい実施形態において、配列番号1のX2は、X2がペプチドのC末端にある場合、NH2置換される。
【0026】
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、Wであり、X2は、K又はV、好ましくはKである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、Fであり、X2は、K又はV、好ましくはKである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
特定の実施形態において、X2がVであるならば、ペプチドは、最大で15アミノ酸の長さを有する。
【0027】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、NCBI Genbank受入番号WP_110061560.1の下でアノテートされるクロモハロバクター・サレキシゲンス(Chromohalobacter salexigens)からのホモセリンO-アセチルトランスフェラーゼではない。
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、Ikedaら(Ikedaら、2013, Modulation of circadian glucocorticoid oscillation through adrenal opioid-CXCR7 signaling alters emotional behavior、Cell. 155(6): 1323~1336)に記載される、N末端ロシン(Y)がフェニルアラニン(F)に置換されているBAM-22ではない。
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、Fである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、Wである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X2は、Kである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
【0028】
本発明者らは、アミノ酸配列FGGFMRRK(配列番号3;C末端にてNH2置換されている) (本明細書において「LIH383」ともいう)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなり、好ましくはそれからなるペプチドが特に、既知のACKR3アゴニスト、例えばMenhaji-Klotzら、Discovery of a novel small-molecule modulator of C-X-C chemokine receptor type 7 as a treatment of cardiac fibrosis、J. Med. Chem, 2018, 61(8): 3685~3696に記載され、11 nMのEC50を有する化合物18 よりも20倍以上も効力が高い、ACKR3の効力が高く(すなわちナノモル範囲以下のEC50)選択的なペプチド調節性物質であることを見出した。
したがって、好ましい実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、Fであり、X2は、Kである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。言い換えると、好ましい実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGFMRRK(配列番号3)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなり、さらにより好ましい実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGFMRRK(配列番号3;C末端にてNH2置換されている)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
【0029】
特定の実施形態において、ペプチドは、少なくとも1(例えば1、2、3又は4、好ましくは1又は2、より好ましくは1)のアミノ酸を、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1)(ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFである)のC末端に含む。言い換えると、特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2X3(配列番号2)又はFGGX1MRRX2X3X4(配列番号7)、FGGX1MRRX2X3X4X5(配列番号8)、FGGX1MRRX2X3X4X5X6(配列番号9)(ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFであり、X3、X4、X5及びX6は、任意のアミノ酸であり得る)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなり、好ましくはそれからなる。好ましい実施形態において、配列番号2のX3、配列番号7のX4、配列番号8のX5又は配列番号9のX6は、X3、X4、X5又はX6がそれぞれ、ペプチドのC末端に位置する場合、NH2置換されている。特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列FGGX1MRRX2X3(配列番号2) (ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFであり、X3は、R又はAである)を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
【0030】
特定の実施形態において、ペプチドは、アミノ酸配列G、GR、GRP、GRPE(配列番号73)、GRPEW(配列番号74)、GRPEWW(配列番号75)又はGRPEWWM(配列番号76)を、アミノ酸配列FGGX1MRRX2(配列番号1) (ここで、X1は、F又はWであり、X2は、K、V又はFである)のC末端に含む。
特定の実施形態において、ペプチドはFGGFMRRK(配列番号3)、FGGFMRRKR(配列番号4)、FGGFMRRVR(配列番号5)、FGGWMRRK(配列番号6)、 FGGWMRRVR(配列番号10)、FGGWMRRKR(配列番号11)、FGGWMRRV(配列番号68)、FGGFMRRF(配列番号69)、FGGFMRRFR(配列番号70)、FGGWMRRFR(配列番号71)又はFGGWMRRF(配列番号72)からなる群より選択され、好ましくは、FGGFMRRK(配列番号3)、FGGFMRRKR(配列番号4)、FGGFMRRVR(配列番号5)、FGGWMRRK(配列番号6)、FGGWMRRVR(配列番号10)又はFGGWMRRKR(配列番号11)からなる群より選択され、より好ましくはFGGFMRRK(配列番号3)、FGGFMRRKR(配列番号4)、FGGFMRRVR(配列番号5)、FGGWMRRK(配列番号6)、さらにより好ましくはFGGFMRRK(配列番号3)であるアミノ酸配列を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。
【0031】
好ましい実施形態において、本明細書で教示するペプチドのC末端は、NH2置換されている。C末端NH2置換型の本明細書で教示するペプチドを意図するならば、ペプチドは、配列番号で言及した後に、「C末端にてNH2置換されている」の句が続く。例えば、LIH383の配列は、「(配列番号3;C末端にてNH2置換されている)」と表す。
したがって、特定の実施形態において、ペプチドは、C末端のKがNH2置換されているFGGFMRRK (配列番号3;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGFMRRKR(配列番号4;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGFMRRVR(配列番号5;C末端にてNH2置換されている)、C末端のKがNH2置換されているFGGWMRRK (配列番号6;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGWMRRVR(配列番号10;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGWMRRKR(配列番号11;C末端にてNH2置換されている)、C末端のVがNH2置換されているFGGWMRRV(配列番号68;C末端にてNH2置換されている)、C末端のFがNH2置換されているFGGFMRRF (配列番号69;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGFMRRFR (配列番号70;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGWMRRFR (配列番号71;C末端にてNH2置換されている)、又はC末端のFがNH2置換されているFGGWMRRF(配列番号72;C末端にてNH2置換されている)からなる群より選択され、好ましくは、C末端のKがNH2置換されているFGGFMRRK (配列番号3;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGFMRRKR(配列番号4;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGFMRRVR(配列番号5;C末端にてNH2置換されている)、C末端のKがNH2置換されているFGGWMRRK (配列番号6;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGWMRRVR(配列番号10;C末端にてNH2置換されている)又はC末端のRがNH2置換されているFGGWMRRKR(配列番号11;C末端にてNH2置換されている)からなる群より選択され、より好ましくは、C末端のKがNH2置換されているFGGFMRRK (配列番号3;C末端にてNH2置換されている)、C末端のKがNH2置換されているFGGFMRRKR(配列番号4;C末端にてNH2置換されている)、C末端のRがNH2置換されているFGGFMRRVR(配列番号5;C末端にてNH2置換されている)、C末端のKがNH2置換されているFGGWMRRK (配列番号6;C末端にてNH2置換されている)、さらにより好ましくは、C末端のKがNH2置換されているFGGFMRRK (配列番号3;C末端にてNH2置換されている)であるアミノ酸配列を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなる。特定の実施形態において、ペプチドは、ACKR3と特異的に結合できる。
【0032】
用語「結合する」、「相互作用する」、「特異的に結合する」又は「特異的に相互作用する」は、本明細書を通じて用いる場合、作用体が、無作為又は無関係の他の分子を実質的に除いて、かつ場合によって構造的に関係する他の分子を実質的に除いて1つ以上の所望の分子又は分析物に結合又は影響する子をと意味する。この用語は、作用体が、その意図する標的とのみ結合することを必ずしも必要としない。例えば、作用体は、そのような意図する標的についての結合条件下での親和性が、非標的分子についてのその親和性よりも、少なくとも約2倍大きく、好ましくは少なくとも約5倍大きく、より好ましくは少なくとも約10倍大きく、さらに好ましくは少なくとも約25倍大きく、さらにより好ましくは少なくとも約50倍大きく、さらにより好ましくは少なくとも約100倍以上大きく、例えば少なくとも約1000倍以上大きく、少なくとも約1×104倍以上大きく、又は少なくとも約1×105倍以上大きいならば、興味対象の標的と特異的に結合するということができる。
【0033】
作用体と意図する標的との間の結合又は相互作用は、電子対共有的(すなわち、原子間の電子対の共有を伴う1以上の化学結合により媒介される)、又はより典型的には、電子対非共有的(すなわち非共有結合力、例えば水素ブリッジ、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用などにより媒介される)であり得る。好ましくは、作用体は、その意図する標的と、親和性定数(KA)≧1×106 M-1、より好ましくはKA≧1×107 M-1、さらにより好ましくはKA≧1×108 M-1、さらにより好ましくはKA≧1×109 M-1、さらにより好ましくはKA≧1×1010 M-1又はKA≧1×1011 M-1(ここで、KA = [A_T]/[A][T]、Aは、作用体であり、Tは意図する標的である)のそのような結合のKAで結合できる。KA は、当該技術において既知の方法により、例えば平衡透析及びScatchard プロット分析を用いて決定できる。
【0034】
ペプチドが、標的についての親和性を有し、特異性を有し、かつ/又は標的(すなわち、少なくともその一部又は断片)を特異的に指向する場合に、該ペプチドは、特定の標的に「特異的に結合する」という。
本明細書で教示するペプチドの「特異性」は、親和性に基づいて決定できる。ポリペプチドの「親和性」は、ペプチドとACKR3、好ましくはヒトACKR3(例えばNCBI Genbank受入番号NP_064707.1の下でアノテートされる)との解離についての平衡定数により表される。KD値が低いほど、ペプチドとACKR3との間の結合強度が強い。或いは、親和性は、1/KDに相当する親和性定数(KA)として表すこともできる。約1ミリモル濃度より大きいKD値は、通常、非結合又は非特異的結合を示すとみなされる。
本明細書で記載する作用体、例えばペプチドの標的への結合、並びに前記結合の親和性及び特異性は、当該術において既知の任意の方法により決定できる。その非限定的な例は、蛍光標識又は放射性標識リガンド(例えば蛍光標識又は放射性標識ケモカイン、例えばCXCL12)を用いる結合競合アッセイ、共免疫沈降、二分子蛍光補完、親和性電気泳動、標識トランスファー、ファージディスプレイ、近接ライゲーションアッセイ(PLA)、タンデムアフィニティー精製(TAP)、インシリコドッキング及び予測されるGibbs結合エネルギーの算出、並びに競合結合アッセイを含む。
【0035】
本発明者らは、本明細書で教示するペプチドが、ナノモル濃度、さらにはナノモル以下の濃度で用いた場合に、β-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2をACKR3受容体へ動員する能力を有することを見出した。
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、10 nM以下、9nM以下、8nM以下、7nM以下、6nM以下、5nM以下、4nM以下、3nM以下、2nM以下、1nM以下、0.95 nM以下、0.90 nM以下、0.85 nM以下、0.80 nM以下、0.75 nM以下、0.70 nM以下又は0.65 nM以下のEC50、好ましくは5nM以下のEC50、好ましくは1nM以下のEC50を特徴とするACKR3についての効力を有する。例えば、本明細書で教示するペプチドは、0.61 nMのEC50を特徴とするACKR3についての効力を有する。本発明の関係におけるEC50は、β-アレスチン動員アッセイに基づいて決定した。β-アレスチン動員は、当該技術において既知の任意の方法により、例えばナノルシフェラーゼ補完アッセイ(例えばNanoBiT、Promega)により、例えばC末端でSmBiTに融合したACKR3及びN末端にてLgBiTに融合したβ-アレスチンを用いて決定できる。
【0036】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3の結合ポケットに結合できる。
【0037】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3とACKR3内因性若しくは外因性リガンド、例えば内因性オピオイドペプチド(例えばBAM-22)、内因性ケモカイン(例えばCXCL12又はCXCL11)、又は外因性オピオイドペプチドとの間の相互作用を阻害、低減及び/又は防止する。
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3と内因性オピオイドペプチド、例えばプロエンケファリン、プロダイノルフィン、プロオピオメラノコルチン、又はプレプロノシセプチンに由来する内因性オピオイドペプチドとの間の相互作用を阻害、低減及び/又は防止する。
好ましくは、BAM-22、BAM-18、ペプチドE、アドレノルフィン、ダイノルフィンA若しくはその断片(例えばダイノルフィン1-13、ダイノルフィン2-17)、ダイノルフィンB、ビッグダイノルフィン若しくはその断片、ノシセプチン若しくはその断片からなる群より選択される内因性オピオイドペプチド。
【0038】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3とCXCL12 (例えばUniprot受入番号P48061を有する)及びCXCL11 (例えばUniprot受入番号O14625を有する)からなる群より選択される内因性ケモカインとの間の相互作用を阻害、低減及び/又は防止する。
本明細書で教示するペプチドによるACKR3と内因性ACKR3リガンドとの間の相互作用の阻害、低減及び/又は防止は、当該技術において既知の任意の手段により、例えば競合結合アッセイ又はディスプレイスメントアッセイにより決定できる。特定の実施形態において、ペプチドは、1μM未満、より具体的には100 nM未満又は10 nM未満の濃度にて標識CXCL12を置き換えることができる。上で記載したように、本発明者らは、ACKR3が、既知のオピオイド受容体及びIkedaら(Ikedaら、2013、Modulation of circadian glucocorticoid oscillation through adrenal opioid-CXCR7 signaling alters emotional behavior、Cell. 155(6): 1323~1336)により提案されたこととは対照的に、下流のシグナル伝達経路を、例えばGタンパク質又はβ-アレスチンを介して内因性オピオイドペプチドに応答して活性化できないが、むしろスカベンジャーとして作用し、それらの局所的及び/又は全身性の濃度、ひいては古典的オピオイド受容体についてのアベイラビリティーを調節することを見出した。下流のシグナル伝達経路活性化の存在又は非存在は、例えば動的質量再分布に基づくホールセルバイオセンシングアプローチを用いて、受容体へのミニGタンパク質の動員を決定し、ERK1/2のリン酸化レベルを決定し、SRE (ERK1/2)及びNFAT-RE (Ca2+)シグナル伝達カスケードの活性化を決定する当該技術において既知の方法を用いて決定できる。
【0039】
したがって、ACKR3が内因性オピオイドペプチドに応答してスカベンジャーとして作用するという本発明者らの発見に一致して、特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3により媒介されるGタンパク質媒介シグナル伝達を誘導しない。Gタンパク質媒介シグナル伝達の非存在又は存在は、例えば受容体へのミニGタンパク質の動員を決定し、ERK1/2のリン酸化レベル、動的質量再分布に基づくホールセルバイオセンシングアプローチを決定し、SRE (ERK1/2)及びNFAT-RE (Ca2+)シグナル伝達カスケードの活性化を決定する当該技術において既知の方法を用いて決定できる。
より特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3へのミニGタンパク質(mGs) (例えばGαs、Gαi/o、Gαq/11及び/又はGα12/13)の動員を誘導しない。ACKR3へのmGsの動員(又はその非存在)は、タンパク質-タンパク質結合を決定するための任意の確立された分析技術、例えば共免疫沈降、二分子蛍光補完、標識トランスファー、タンデムアフィニティー精製、化学架橋、蛍光共鳴エネルギー移動、及びナノルシフェラーゼ補完アッセイ(例えばNanoBiT、Promega)により、例えばC末端でSmBiTに融合したACKR3及びN末端にてLgBiTに融合したmGsを用いて決定できる。タンパク質結合アッセイは、無細胞系、又は細胞溶解物、又は単離若しくは培養細胞、又は単離若しくは培養組織において行うことができる。
【0040】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3受容体へのβ-アレスチン-及び/又はβ-アレスチン-2の動員の結果としてのいずれのシグナル伝達経路(例えばcAMPシグナル伝達及び/又はMAPK/ERKシグナル伝達経路)も活性化しない。
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ミュー(μ)型オピオイド受容体(MOR)、デルタ(δ)型オピオイド受容体(DOR)、カッパ(κ)型オピオイド受容体(KOR)及び非古典的ノシセプチン受容体(NOP)と相互作用及び/又はそれを活性化できない。より具体的な実施形態において、、本明細書で教示するペプチドは、それぞれMOR、DOR、KOR及び/又はNOP受容体の既知のリガンドにより誘導されるMOR、DOR、KOR及び/又はNOP受容体へのβ-アレスチン1及びβ-アレスチン2の動員を低減しない。より具体的な実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、MOR、DOR、KOR及び/又はNOP受容体によるGタンパク質媒介シグナル伝達を誘導しない。より具体的な実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、MOR、DOR、KOR及び/又はNOP受容体へのβ-アレスチン1及びβ-アレスチン2の動員を誘導できない。Gタンパク質媒介シグナル伝達の非存在は、当該技術において既知の任意の方法、例えば作用体をACKR3と接触させる際のERK1/2のリン酸化レベルを決定することであって、リン酸化ERK1/2の欠如は、Gタンパク質媒介シグナル伝達の非存在を示すことにより決定できる。
【0041】
特定の実施形態において、本明細書で開示するペプチドは、MOR、DOR、KOR又はNOP受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2の動員を誘導できない。より具体的な実施形態において、本明細書で開示するペプチドは、中立の物質又は陰性対照により誘導されるベースラインβ-アレスチン-1若しくはβ-アレスチン-2動員又はバックグラウンドβ-アレスチン-1若しくはβ-アレスチン-2動員と比較して、MOR、DOR、KOR又はNOP受容体へのβ-アレスチン-1又はβ-アレスチン-2動員を増進又は低減さえすることがない。本明細書の他のところで記載するように、MOR、DOR、KOR又はNOP受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2の動員は、ナノルシフェラーゼ補完アッセイにより測定できる。
任意の現存の、利用可能な又は従来の分離、検出及び定量法を、試料中のペプチド、ポリペプチド、タンパク質の存在若しくは非存在(例えば存在に対する非存在の読み出し、又は検出可能な量に対する検出不能な量)及び/又は量(例えば絶対的又は相対的な量である読み出し、例えば絶対的又は相対的な濃度)を測定するために、本明細書において用いることができる。例えば、このような方法は、生化学アッセイ法、免疫アッセイ法、質量分析分析法若しくはクロマトグラフィー法、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0042】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、ACKR3以外のいずれの他のケモカイン受容体、より特にはC-Cケモカイン受容体1型(CCR1) (例えばUniProt受入番号P32246を有するもの)、C-Cケモカイン受容体2型(CCR2) (例えばUniProt受入番号P41597を有するもの)、例えばCCR 2A型 (CCR2A)又はCCR 2B型 (CCR2B)、C-Cケモカイン受容体3型(CCR3) (例えばUniProt受入番号P51677を有するもの)、C-Cケモカイン受容体4型(CCR4) (例えばUniProt受入番号P51679を有するもの)、C-Cケモカイン受容体5型(CCR5) (例えばUniProt受入番号P51681を有するもの)、C-Cケモカイン受容体6型(CCR6) (例えばUniProt受入番号P51684を有するもの)、C-Cケモカイン受容体7型(CCR7) (例えばUniProt受入番号P32248を有するもの)、C-Cケモカイン受容体8型(CCR8) (例えばUniProt受入番号P51685を有するもの)、C-Cケモカイン受容体9型(CCR9) (例えばUniProt受入番号P51686を有するもの)、C-Cケモカイン受容体10型 (CCR10) (例えばUniProt受入番号P46092を有するもの)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体1(CXCR1) (例えばUniProt受入番号P25024を有するもの)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体2(CXCR2) (例えばUniProt受入番号P25025を有するもの)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体3(CXCR3) (例えばUniProt受入番号P49682を有するもの)、例えばCXCR 3A型(CXCR3A)及びCXCR 3B型 (CXCR3B)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体4(CXCR4) (例えばUniProt受入番号P61073を有するもの)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体5(CXCR5) (例えばUniProt受入番号P32302を有するもの)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体6(CXCR6) (例えばUniProt受入番号O00574を有するもの)、C-X-Cモチーフケモカイン受容体8(CXCR8) (例えばUniProt受入番号Q9HC97を有するもの)、X-Cモチーフケモカイン受容体1 (XCR1) (例えばUniProt受入番号P46094を有するもの)、C-X3-Cモチーフケモカイン受容体1(CX3CR1) (例えばUniProt受入番号P49238を有するもの)、非定型ケモカイン受容体1(ACKR1) (例えばUniProt受入番号Q16570を有するもの)、非定型ケモカイン受容体2(ACKR2) (例えばUniProt受入番号O00590を有するもの)並びに非定型ケモカイン受容体4(ACKR4) (例えばUniProt受入番号Q9NPB9を有するもの)からなる群より選択されるケモカイン受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2の動員を誘導できない。
【0043】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2又はACKR4受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2の動員を誘導できない。さらにより具体的な実施形態において、本明細書で開示するペプチドは、中立の物質又は陰性対照により誘導されるベースラインβ-アレスチン-1若しくはβ-アレスチン-2動員又はバックグラウンドβ-アレスチン-1若しくはβ-アレスチン-2動員と比較して、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2又はACKR4受容体へのβ-アレスチン-1又はβ-アレスチン-2動員を増進又は低減しない。本明細書の他のところで記載するように、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2又はACKR4受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2の動員は、ナノルシフェラーゼ補完アッセイにより測定できる。
【0044】
さらなる手引きとして、非定型ケモカイン受容体3(ACKR3)は、当該技術において、ケモカイン受容体7(CXCR7)としても知られる。例えば、ヒトACKR3 mRNAは、NCBI Genbank受入番号NM_020311.2の下でアノテートされる。ヒトACKR3ポリペプチドは、NCBI Genbank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)受入番号NP_064707.1、及びUniprot受入番号P25106の下でアノテートされる。
さらなる手引きとして、ミュー(μ)型オピオイド受容体(MOR)は、当該技術において、OPRM、LMOR又はMOPとしても知られる。例えば、ヒトMORタンパク質は、NCBI Genbank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)受入番号AY521028.1及びUniprot受入番号P35372の下でアノテートされる。
さらなる手引きとして、デルタ(δ)型オピオイド受容体(DOR)は、当該技術において、OPRD又はDOPとしても知られる。例えば、ヒトDORタンパク質は、NCBI Genbank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)受入番号NM_000911.4及びUniprot受入番号P41143の下でアノテートされる。
さらなる手引きとして、カッパ(κ)型オピオイド受容体(KOR)は、当該技術において、OPRK又はKOPとしても知られる。例えば、ヒトKORタンパク質は、NCBI Genbank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)受入番号AF498922.1及びUniprot受入番号P41145の下でアノテートされる。
さらなる手引きとして、非古典的ノシセプチン受容体(NOP)は、当該技術において、オルファニンFQ受容体、OPRL及びオピオイド関連ノシセプチン受容体1としても知られる。例えば、ヒトNOPタンパク質は、NCBI Genbank (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)受入番号AY268428.1及びUniprot受入番号P41146の下でアノテートされる。
【0045】
当業者は、配列データベース又は本明細書に示す任意の配列が、それぞれのペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の前駆体のものであり得、成熟分子からプロセシングされて除かれる部分を含み得ることを認識できる。
任意のペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸への言及は、当該技術におけるそれぞれの呼称の下で一般的に知られるそれぞれのペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸のことをいう。より具体的に、「ACKR3」、「MOR」、「DOR」、「KOR」、「NOP」、「CCR1」、「CCR2A」、「CCR2B」、「CCR3」、「CCR4」「CCR5」、「CCR6」、「CCR7」、「CCR8」、「CCR9」、「CCR10」、「CXCR1」、「CXCR2」、「CXCR3A」、「CXCR3B」、「CXCR4」、「CXCR5」、「CXCR6」、「CXCR8」、「XCR1」、「CX3CR1」、「ACKR1」、「ACKR2」又は「ACKR4」への言及は、文脈から明らかなように、当該技術において前記呼称の下で一般的に知られるように、それぞれのペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸のことをいう。
これらの用語は、生体、器官、組織又は細胞の一部を形成する場合、生体試料の一部を形成する場合、及びそのような起源から少なくとも部分的に単離される場合のペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸を包含する。これらの用語は、組換え又は合成の手段により生成される場合のペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸も包含する。
【0046】
任意のペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸への言及は、見いだされる場合に任意の生物、特に動物、好ましくは温血動物、より好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくはヒト及び非ヒト哺乳動物を含む哺乳動物、さらにより好ましくはヒトのそのようなペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸を包含する。
よって、ある実施形態において、本明細書において用いるACKR3、MOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及びACKR4の1つ以上、好ましくは全ては、動物起源、好ましくは温血動物起源、より好ましくは脊椎動物起源、さらにより好ましくはヒト起源及び非ヒト哺乳動物起源を含む哺乳動物起源、さらにより好ましくはヒト起源である。
【0047】
生物学的ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸について、天然配列は、種間の遺伝子の相違のために、異なる種の間で異なることがある。さらに、天然配列は、ある種のうちの通常の遺伝子多様性(変動)のために、同じ種の異なる個体間又は個体内で異なることがある。また、天然配列は、体細胞突然変異又は転写後若しくは翻訳後修飾のために、同じ種の異なる個体間又は個体内でさえ異なることがある。ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の任意のこのようなバリアント又はアイソフォームは、本明細書で意図する。したがって、天然で見いだされるか又は天然に由来するペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の全ての配列が、「天然」とみなされる。
文脈からそうでないことが明らかでない限り、任意のペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸への本明細書における言及は、前記ペプチド、ポリペプチド、タンパク質又は核酸の修飾形、例えばリン酸化、糖鎖付加、脂質化、メチル化、システイニル化、スルホン化、グルタチオン付加、アセチル化、メチオニンからメチオニンスルホキシド又はメチオニンスルホンへの酸化などを含む、例えば発現後修飾を有する形も包含する。
【0048】
用語「タンパク質」は、本明細書を通じて用いる場合、一般的に、1つ以上のポリペプチド鎖を含む高分子、すなわちペプチド結合によりつながれたアミノ酸残基の重合鎖を包含する。この用語は、天然、組換え、半合成又は合成により生成されたタンパク質を包含できる。この用語は、ポリペプチド鎖の1つ以上の発現と同時又は発現後の修飾、例えば、限定することなく、糖鎖付加、アセチル化、リン酸化、スルホン化、メチル化、ユビキチン化、シグナルペプチド除去、N末端Met除去、活性形へのプロ酵素又はプレホルモンの変換などを有するタンパク質も包含する。この用語は、対応する天然タンパク質に対するアミノ酸配列変動、例えばアミノ酸欠失、付加及び/又は置換を有するタンパク質バリアント又は変異体もさらに含む。この用語は、全長タンパク質と、タンパク質の部分又は断片、例えばそのような全長タンパク質のプロセシングから得られる天然に存在するタンパク質の部分とをともに企図する。
【0049】
用語「ポリペプチド」は、本明細書を通じて用いる場合、一般的に、ペプチド結合によりつながれたアミノ酸残基の重合鎖を包含する。よって、タンパク質が単一ポリペプチド鎖のみで構成される場合は特に、用語「タンパク質」及び「ポリペプチド」は、本明細書において交換可能に用いて、このようなタンパク質を示してよい。この用語は、ポリペプチド鎖のいずれの最少の長さにも限定されない。この用語は、天然、組換え、半合成又は合成により生成されたポリペプチドも包含できる。この用語は、ポリペプチド鎖の1つ以上の発現と同時又は発現後の修飾、例えば、限定することなく、糖鎖付加、アセチル化、リン酸化、スルホン化、メチル化、ユビキチン化、シグナルペプチド除去、N末端Met除去、活性形へのプロ酵素又はプレホルモンの変換などを有するポリペプチドも包含する。この用語は、対応する天然ポリペプチドに対するアミノ酸配列変動、例えばアミノ酸欠失、付加及び/又は置換を有するポリペプチドバリアント又は変異体もさらに含む。この用語は、全長ポリペプチド及びポリペプチドの部分又は断片、例えばそのような全長ポリペプチドのプロセシングから得られる天然に存在するポリペプチドの部分を企図する。
ポリペプチド又はタンパク質は、天然、例えば天然に存在するか又は天然から単離、例えば細胞又は組織において生成されるか又は天然若しくは内因的に発現され、場合によってそれから単離され得る。ポリペプチド又はタンパク質は、組換え、すなわち組換えDNA技術により生成されることができ、かつ/又は部分的若しくは全体的に、化学的若しくは生化学的に合成されることができる。限定することなく、ポリペプチド又はタンパク質は、適切な宿主又は宿主細胞発現系により組換え生成され、場合によってそれから単離されることができる(例えば、適切な細菌、酵母、真菌、植物又は動物宿主又は宿主細胞発現系)か、無細胞翻訳若しくは無細胞転写、又は非生物学的ポリペプチド若しくはタンパク質合成により組換え生成及び翻訳できる。
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、作用体と融合してよい。
【0050】
本発明に関係において、用語「結合され(coupled)」は、本明細書で用いる場合、「接続され」、「結合され(bound)」、「融合され」、「接合され」と同義であり、少なくとも2つの要素又は成分の間の物理的な連結のことを言う。
本明細書で用いる場合、用語「作用体」は、任意の化学的(例えば無機又は有機)、生化学的又は生物学的物質、分子又は高分子(例えば生物学的高分子)、それらの組み合わせ又は混合物、組成が未決定の試料、又は生物学的材料、例えば細菌、真菌、植物又は動物細胞若しくは組織から得られた抽出物のことを広くいう。しかし、好ましい非限定的な「作用体」は、核酸、オリゴヌクレオチド、リボザイム、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、ペプチド模倣物、抗体、抗体断片、抗体様タンパク質足場、アプタマー、光アプタマー、シュピーゲルマ、化学物質、好ましくは有機分子、より好ましくは有機小分子、脂質、炭水化物、多糖類など、及びそれらの任意の組み合わせを含む。
【0051】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、化学物質、抗体、抗体断片、抗体様タンパク質足場、タンパク質又はポリペプチド及びペプチド、ペプチド模倣物、アプタマー、光アプタマー、シュピーゲルマ及び核酸からなる群より選択される作用体と結合できる。
本明細書で用いる場合、用語「化学物質」は、その最も広い意味で用いられ、全般的に、一定の化学組成及び特徴的な特性を有する任意の実質的に純粋な物質のことをいう。化学物質は、有機分子、好ましくは有機小分子であり得る。用語「小分子」は、化合物、好ましくは製薬において一般的に用いられる有機分子の物に匹敵するサイズを有する有機化合物のことをいう。この用語は、生物学的高分子(例えば、タンパク質、ペプチド、核酸など)のことをいう。好ましい有機小分子は、約5000 Daまで、例えば約4000まで、好ましくは3000 Daより好ましくは2000 Da、さらにより好ましくは約1000 Daまで、例えば900、800、700、600又は約500 Daまでのサイズの範囲である。
【0052】
用語「抗体」は、本明細書において、その最も広い意味で用いられ、全般的に、任意の免疫学的結合剤、例えば、限定することなく、キメラ、ヒト化、ヒト、組換え、トランスジェニック、グラフト化及び単鎖の抗体などを含む全抗体、又は任意の融合タンパク質、コンジュゲート、断片若しくは興味対象の抗原に選択的に結合する1つ以上のドメインを含むその誘導体のことをいう。用語抗体は、よって、全免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体又はそれらのいずれかの免疫学的に効果的な断片を含む。この用語は、よって、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多価(例えば2、3又はそれより多い価数)及び/又は少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多重特異性抗体(例えば二重又はそれより多い特異性の抗体)、並びに所望の生物学的活性(特に、興味対象の抗原に特異的に結合する能力)を示す限りは抗体断片、並びにそのような断片の多価及び/又は多重特異性の複合体を具体的に包含する。用語「抗体」は、免疫化を含む方法により作製される抗体を含むだけでなく、任意のポリペプチド、例えば、興味対象の抗原上のエピトープに特異的に結合できる少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を包含するように作製された、組換え発現されたポリペプチドも含む。よって、この用語は、それらがインビトロ、細胞培養又はインビボで生成されたかに関わらず、そのような分子に対して用いられる。
【0053】
用語「抗体断片」又は「抗原結合部分」は、全長抗体の部分又は領域、全般的に、その抗原結合又は可変ドメインを含む。抗体断片の例は、Fab、Fab'、F(ab)2、Fv、scFv断片、単一ドメイン(sd)Fv、例えばVHドメイン、VLドメイン及びVHHドメイン、ダイアボディ、直鎖抗体、単鎖抗体分子、特に重鎖抗体、並びに抗体断片、例えばダイアボディ、トリボディ及びマルチボディから形成された多価及び/又は多重特異性抗体を含む。上記の呼称Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFvなどは、当該技術において確立されたそれらの意味を有することを意図する。
【0054】
より具体的な実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、検出可能な標識、例えば蛍光タンパク質若しくは酵素、免疫グロブリンFc領域(例えばIgG2a Fc)、プロトキシン、トキシン又は薬、好ましくは蛍光タンパク質、酵素、免疫グロブリンFc領域、プロトキシン又はトキシンからなる群より選択される作用体に結合できる。
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、検出可能な標識に融合できる。
用語「標識」は、検出可能で好ましくは定量可能な読み出し又は特性を提供するために用いることができ、興味対象の物体、例えば本明細書で教示するペプチドに付着又はその一部として作成され得る任意の原子、分子部分又は生体分子のことをいう。標識は、例えば質量分光分析、分光学、光学、比色、磁性、光化学、生化学、免疫化学又は化学的手段により適切に検出できる。標識は、限定することなく、染料、放射性標識、例えば32P、33P、35S、125I、131I、高電子密度試薬、酵素(例えば免疫アッセイにおいて一般的に用いられるセイヨウワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ)、結合部分、例えばビオチン-ストレプトアビジン、ハプテン、例えばジゴキシゲニン、発光性、燐光性若しくは蛍光性部分、マスタグ、並びに蛍光染料(例えば蛍光体、例えばフルオレセイン、カルボキシフルオレセイン(FAM)、テトラクロロ-フルオレセイン、TAMRA、ROX、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Texas Redなど)を単独で、又は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により発光スペクトルを抑制又はシフトできる部分と組み合わせたものを含む。
【0055】
いくつかの実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、別の作用体(例えばプローブ結合パートナー)を用いる検出を可能にするタグを備えることができる。このようなタグは、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、his-タグ、mycタグ、マルトース、マルトース結合タンパク質又は結合パートナーを有することが当該技術において知られているその他の種類のタグであり得る。プローブ:結合パートナーの取り合わせにおいて用いることができる会合の例は、いずれでもよく、例えばビオチン:ストレプトアビジン、his-タグ:金属イオン(例えばNi2+)、マルトース:マルトース結合タンパク質などを含む。
特定の実施形態において、標識は、NanoLuc(登録商標)バイナリーテクノロジー(NanoBiT)のラージBiT (LgBiT)又はスモールBiT (SmBiT)又はHiBiTであり得る。
【0056】
本明細書で教示するペプチドは、検出を容易にするために、検出剤と会合又はそれに付着できる。検出剤の例は、それらに限定されないが、発光標識、比色標識、例えば染料、蛍光標識(例えば緑色蛍光タンパク質 (GFP))、又は化学標識、例えば電気活性剤(例えばフェロシアン化物)、酵素、放射性標識、若しくは高周波標識を含む。検出剤は、粒子でも良い。そのような粒子の例は、それらに限定されないが、金コロイド粒子、硫黄コロイド粒子、セレンコロイド粒子、硫酸バリウムコロイド粒子、硫酸鉄コロイド粒子、金属ヨウ化物粒子、ハロゲン化銀粒子、シリカ粒子、金属(水和)酸化物コロイド粒子、金属硫化物コロイド粒子、セレン化鉛コロイド粒子、セレン化カドミウムコロイド粒子、金属リン酸化物コロイド粒子、金属フェライトコロイド粒子、有機若しくは無機の層で被覆された上記のコロイド粒子のいずれか、タンパク質若しくはペプチド分子、リポソーム、又は有機重合体ラテックス粒子、例えばポリスチレンラテックスビーズを含む。
【0057】
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチドは、1つ以上のリンカーにより、作用体に結合できる。
本明細書で用いる場合、用語「リンカー」は、他の要素をつなぐ役目をする接続要素のことをいう。リンカーは、強固なリンカー又はフレキシブルリンカーであり得る。特定の実施形態において、リンカーは、共有結合を達成する電子対共有リンカーである。用語「電子対共有」又は「共有結合」は、2つの原子間で1つ以上の電子対の共有を伴う化学結合のことをいう。多くの分子について、電子の共有により、各原子は、安定な電子的配置に相当する、外殻が電子で満たされることと等価になる。共有結合は、σ結合、π結合、金属間結合、アゴスティック相互作用、曲がった結合及び三中心二電子結合を含む異なるタイプの相互作用を含む。
特定の実施形態において、リンカーは、(ポリ)ペプチドリンカー又は非ペプチドリンカー、例えば非ペプチド重合体、例えば非生物学的重合体である。好ましくは、本明細書で教示するペプチドと第二のペプチド、タンパク質又はポリペプチドとの間のつながりは、加水分解的に安定な、すなわち特に生理的条件下を含む有用なpH値にて水中で長時間、例えば数日間実質的に安定なつながりであり得る。特定の実施形態において、リンカーは、1つ以上のアミノ酸のペプチドリンカーである。
【0058】
用語「アミノ酸」は、立体異性体の形を可能にする構造であることを条件として、全てそれらのD及びL立体異性体での天然のアミノ酸、天然にコードされるアミノ酸、天然にコードされないアミノ酸、非天然アミノ酸、アミノ酸アナログ及び天然アミノ酸と似た様式で機能するアミノ酸模倣物を包含する。アミノ酸は、本明細書において、それらの名称、IUPAC-IUB生化学命名委員会により推奨されるそれらの一般的に知られる3文字記号又は1文字記号で言及する。用語「天然」は、全般的に、自然において見いだされ、人により操作されていない材料のことをいう。用語「非天然」、「人為的」などは、全般的に、自然において見いだされないか、又は人により構造的に修飾、半合成若しくは合成された材料のことをいう。この用語は、限定することなく、天然にコードされるアミノ酸の修飾(例えば翻訳後修飾)により生じたが、翻訳複合体による成長しているポリペプチド鎖には天然で取り込まれないアミノ酸を含む。また、1つ以上の個別の原子が異なる原子、同じ原子の同位体又は異なる官能基で置き換えられたアミノ酸アナログも含む。また、Ellmanら、Methods Enzymol. 1991、vol. 202、301~36に記載される人為的アミノ酸及びアミノ酸アナログも含む。タンパク質又はポリペプチドへの非天然アミノ酸の取り込みは、いくつかの異なる様式で有利であり得る。例えば、D-アミノ酸含有ポリペプチドは、L-アミノ酸を含む対応物と比較して、インビトロ又はインビボにて安定性の増加を示す。より具体的に、D-アミノ酸含有ポリペプチドは、内因性ペプチダーゼ及びプロテアーゼに対して耐性がより高いことがあり、作用体のバイオアベイラビリティの改善と、インビボでの寿命の延長とをもたらし得る。
より具体的に、ペプチドリンカーは、1から50アミノ酸の長さ、又は2から50アミノ酸の長さ、又は1から45アミノ酸の長さ、又は2から45アミノ酸の長さ、好ましくは1から40アミノ酸の長さ、又は2から40アミノ酸の長さ、又は1から35アミノ酸の長さ、又は2から35アミノ酸の長さ、より好ましくは1から30アミノ酸の長さ、又は2から30アミノ酸の長さであり得る。さらに好ましくは、リンカーは、5から25アミノ酸の長さ、又は5から20アミノ酸の長さであり得る。特に好ましくは、リンカーは、5から15アミノ酸の長さ、又は7から15アミノ酸の長さであり得る。よって、あるいくつかの実施形態において、リンカーは、1、2、3又は4アミノ酸の長さであり得る。言い換えると、リンカーは、5、6、7、8又は9アミノ酸の長さであり得る。さらなる実施形態において、リンカーは、10、11、12、13又は14アミノ酸の長さであり得る。まだ他の実施形態において、リンカーは、15、16、17、18又は19アミノ酸の長さであり得る。さらなる実施形態において、リンカーは、20、21、22、23、24又は25アミノ酸の長さであり得る。あるいくつかの実施形態において、リンカーは、4~10又は5~9又は6~8又は7アミノ酸の長さである。他の実施形態において、リンカーは、12~18又は13~17又は14~16又は15アミノ酸の長さである。
【0059】
リンカーを構成するアミノ酸の性質は、それによりつながれるポリペプチドセグメントの生物活性が実質的に損なわれず、リンカーが本明細書で教示するペプチドと第二のペプチド、タンパク質又はポリペプチドとの意図する空間的分離を提供する限り、特に重要でない。好ましいリンカーは、本質的に非免疫原性であり、かつ/又はタンパク質分解性切断を受けにくい。
あるいくつかの好ましい実施形態において、ペプチドリンカーは、グリシン、セリン、アラニン、トレオニン及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなることができる。さらにより好ましい実施形態において、リンカーは、グリシン、セリン及びそれらの組み合わせからなる群より選択されるアミノ酸を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなることができる。このようなリンカーは、特に良好な柔軟性をもたらす。あるいくつかの実施形態において、リンカーは、グリシン残基のみからなることができる。あるいくつかの実施形態において、リンカーは、セリン残基のみからなることができる。
【0060】
特定の実施形態において、リンカーは、非ペプチドリンカーである。好ましい実施形態において、非ペプチドリンカーは、非ペプチド重合体を含むか、本質的にそれからなるか、又はそれからなることができる。用語「非ペプチド重合体」は、本明細書で用いる場合、ペプチド結合を除く共有結合により互いにつながれた2つ以上の反復単位を含む生体適合性重合体のことをいう。例えば、非ペプチド重合体は、2から200単位の長さ、又は2から100単位の長さ、又は2から50単位の長さ、又は2から45単位の長さ、又は2から40単位の長さ、又は2から35単位の長さ、又は2から30単位の長さ、又は5から25単位の長さ、、又は5から20単位の長さ、又は5から15単位の長さであり得る。非ペプチド重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体、ポリオキシエチレン化ポリオール、ポリビニルアルコール、多糖類、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、生分解性重合体、例えばPLA(ポリ(乳酸)及びPLGA(ポリ乳酸-グリコール酸)、脂質重合体、キチン、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。特に好ましくは、ポリ(エチレングリコール) (PEG)である。非ペプチド重合体の分子量は、好ましくは、1から100 kDa、好ましくは1から20 kDaの範囲であり得る。非ペプチド重合体は、1重合体又は異なるタイプの重合体の組み合わせであり得る。非ペプチド重合体は、コンジュゲートを形成する本明細書で教示するペプチド及び第二のペプチド、タンパク質又はポリペプチドに結合可能な反応性基を有する。好ましくは、非ペプチド重合体は、両端に反応性基を有する。好ましくは、反応性基は、反応性アルデヒド基、プロピオンアルデヒド基、ブチルアルデヒド基、マレイミド基及びスクシンイミド誘導体からなる群より選択される。スクシンイミド誘導体は、プロピオン酸スクシンイミジル、ヒドロキシスクシンイミジル、スクシンイミジルカルボキシメチル又は炭酸スクシンイミジルであり得る。非ペプチド重合体の両端での反応性基は、同じ又は異なっていてよい。あるいくつかの実施形態において、非ペプチド重合体は、両端に反応性アルデヒド基を有する。例えば、非ペプチド重合体は、一端にマレイミド基、他端にアルデヒド基、プロピオンアルデヒド基又はブチルアルデヒド基を有することができる。両端に反応性ヒドロキシ基を有するポリエチレングリコール(PEG)を非ペプチド重合体として用いる場合、ヒドロキシ基は、既知の化学反応により様々な反応性基に活性化できるか、又は市販で入手可能な修飾反応性基を有するPEGを用いて、タンパク質コンジュゲートを調製できる。
【0061】
特定の実施形態において、作用体は、本明細書で教示するペプチドのC末端に融合される。ある関連する観点は、本明細書で教示するペプチドを含む融合タンパク質を提供する。
用語「融合タンパク質」又は「融合ポリペプチド」及び「タンパク質コンジュゲート」又は「ポリペプチドコンジュゲート」は、天然で通常見いだされない様式でつながれ、接続され又は接合された少なくとも2つのペプチド、タンパク質又はポリペプチドを含むハイブリッド又はキメラ分子のことをいう。分子は、アミノ酸ベースの化合物、すなわち必ずしもそれのみではないが主にアミノ酸残基を含む物質又は分子と適切にいうことができる。任意の組換え、半合成又は合成により生成された融合体又はコンジュゲートが包含される。融合体又はコンジュゲートは、所望により、糖鎖付加、リン酸化、スルホン化、メチル化、アセチル化、脂質付加、peg付加などにより修飾され得る。
より具体的には、用語「融合タンパク質」又は「融合ポリペプチド」は、2つ以上のペプチド、タンパク質、ポリペプチド又はそのバリアント若しくは断片が、融合タンパク質をコードする単一の連続したポリヌクレオチド分子の遺伝子発現によりそれらの個別のポリペプチド主鎖を介して共直線(co-linear)共有結合により接合された遺伝子的融合体のことをいう。典型的に、融合タンパク質をコードする連続したポリヌクレオチド分子を生成するために、それぞれが所定のポリペプチドセグメントをコードする2つ以上のオープンリーディングフレーム(ORF)を接合して、それぞれの元のORFについての正しいリーディングフレームを維持するような様式でより長い連続ORFを形成する。得られた組換え融合ポリペプチドにおいて、元のORFによりコードされる2つ以上のポリペプチドセグメントは、同じポリペプチド分子において接合されるが、これらは、天然では通常、そのように接合されない。リーディングフレームは、よって、融合された遺伝子セグメント全体にわたって連続するようにされているが、そのように融合されたポリペプチドセグメントは、例えばインフレームポリペプチド又はペプチドリンカーにより物理的又は空間的に分けられていることがある。
【0062】
特定の実施形態において、融合タンパク質は、本明細書の他のところで記載するように、作用体をさらに含み、作用体は、ペプチド、タンパク質又はポリペプチド、好ましくは検出可能な標識若しくはタグ又は免疫グロブリンFc領域である。
特定の実施形態において、融合タンパク質は、本明細書の他のところで記載するように、1つ以上のリンカーをさらに含み、リンカーは、本明細書で教示するペプチドと本明細書の他のところで記載する作用体との間に位置する。
【0063】
さらなる観点は、本明細書で教示するペプチド又は本明細書で教示する融合タンパク質をコードする核酸を提供する。
用語「核酸」は、本明細書で用いる場合、ヌクレオチドで本質的に構成されている任意の長さのオリゴマー又は重合体(好ましくは線状重合体)のことを典型的にいう。ヌクレオチド単位は、複素環式塩基と、糖基と、少なくとも1つの、例えば1、2又は3つの、修飾又は置換リン酸基を含むリン酸基とを通常含む。複素環式塩基は、なかでも、プリン及びピリミジン塩基、例えば天然核酸に広く分布しているアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)及びウラシル(U)、他の天然塩基(例えばキサンチン、イノシン、ヒポキサンチン)、並びに化学的若しくは生化学的に修飾された(例えばメチル化)非天然又は派生塩基を含み得る。糖基は、なかでも、ペントース(ペントフラノース)基、例えば好ましくは天然核酸において一般的なリボース及び/若しくは2-デオキシリボース又はアラビノース、2-デオキシアラビノース、トレオース又はヘキソース糖基、並びに修飾又は置換糖基を含み得る。本明細書で意図する核酸は、天然ヌクレオチド、修飾ヌクレオチド又はそれらの混合物を含み得る。修飾ヌクレオチドは、修飾複素環式塩基、修飾糖部分、修飾リン酸基又はそれらの組み合わせを含み得る。リン酸基又は糖の修飾は、安定性、酵素分解に対する耐性又はいくつかの他の有用な特性を改善するために導入できる。用語「核酸」は、さらに好ましくは、hnRNA、プレ-mRNA、mRNA、cDNA、ゲノムDNA、増幅産物、オリゴヌクレオチド及び合成(例えば化学合成)DNA、RNA又はDNA/RNAハイブリッドを特に含むDNA、RNA及びDNA/RNAハイブリッド分子を包含する。核酸は、天然、例えば天然に存在するか若しくは天然から単離され得るか、又は非天然、例えば組換え、すなわち組換えDNA技術及び/若しくは部分的若しくは全体的に、化学的若しくは生化学的に合成されることにより生成され得る。「核酸」は、二本鎖、部分的二本鎖又は一本鎖であり得る。一本鎖である場合、核酸は、センス鎖又はアンチセンス鎖であり得る。さらに、核酸は、環状又は線状であり得る。
【0064】
「コードする」により、核酸配列又はその部分が、特定のアミノ酸配列、例えば1つ以上の所望のタンパク質若しくはポリペプチドのアミノ酸配列、又は鋳型転写生成物(例えばRNA又はRNAアナログ)の関係にある別の核酸配列に問題の生物の遺伝子コードのおかげで対応することを意味する。
本明細書で教示するペプチド又は融合タンパク質をコードする核酸の発現を可能にするために、核酸は、当該技術において公知であるように、核酸発現カセット及び/又はベクターに挿入できる。
【0065】
さらなる観点は、プロモータ並びに/又は転写及び翻訳調節シグナルに機能的に連結された、本明細書で教示する核酸を含む核酸発現カセットを提供する。
用語「核酸発現カセット」は、本明細書で用いる場合、核酸断片を挿入して発現できる核酸分子、典型的にDNAであって、核酸断片の発現を制御する1つ以上の核酸配列を含む前記核酸分子のことをいう。核酸断片の発現を制御するそのようなさらなる核酸配列の非限定的な例は、プロモータ配列、オープンリーディングフレーム及び転写ターミネータを含む。
好ましくは、核酸発現カセットは、前記1つ以上のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドをコードする1つ以上のオープンリーディングフレーム(ORF)を含み得る。「オープンリーディングフレーム」又は「ORF」は、翻訳開始コドンで始まって、それ自体既知の翻訳停止コドンで終結し、いずれの内部インフレーム翻訳停止コドンも含まず、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドをコードできる可能性がある、連続するコーディングヌクレオチドトリプレット(コドン)のことをいう。よって、この用語は、当該技術において用いられるように、「コード配列」と同義である。
【0066】
「機能的連結」は、調節配列及び発現しようとする配列が前記発現を可能にするような様式で接続されている連結である。例えば、配列、例えばプロモータ及びORFは、前記配列間の連結の性質が、(1)フレームシフト変異の誘導をもたらさず、(2)プロモータがORFの転写を支配する能力に干渉せず、(3)ORFがプロモータ配列から転写される能力に干渉しないならば、機能的に連結されるということができる。よって、「機能的に連結された」は、発現制御配列、例えばプロモータが興味対象の配列の転写/発現を効率的に制御するように遺伝子構築物に組込まれたことを意味し得る。
発現のために必要な転写及び翻訳調節配列又はエレメントの精密な性質は、発現環境間で変動し得るが、転写ターミネータ及び場合によってエンハンサーを典型的に含む。
【0067】
「プロモータ」への言及は、その最も広い意味で理解され、正確な転写開始、並びに当てはまる場合には遺伝子発現の正確な空間的及び/又は時間的制御、又は例えば内部若しくは外部(例えば外因性)刺激に対するその応答のために必要な転写調節配列を含む。より具体的には、「プロモータ」は、RNAポリメラーゼが結合して転写を開始する核酸分子、好ましくはDNA分子上の領域を示し得る。プロモータは、常にではないが好ましくは、それが制御する転写の配列の上流、すなわち5'に位置する。典型的に、原核生物において、プロモータ領域は、プロモータ自体と、RNAに転写されたときに、タンパク質合成の開始を合図する配列(例えばShine-Dalgarno配列)との両方を含み得る。プロモータ配列は、タンパク質(すなわちトランス作用因子)と結合して遺伝子クラスター内の遺伝子の転写レベルを増進できる1つ以上のDNA領域である「エンハンサー領域」も含むことができる。コード領域の典型的に5'端にあるエンハンサーは、プロモータ配列から分けることもでき、例えば遺伝子のイントロン領域内、又は遺伝子のコード領域の3'にあることもできる。
実施形態において、本明細書で企図するプロモータは、構成的又は誘導的であり得る。構成的プロモータは、その発現が、標準的な培養条件下で一定であるプロモータであると理解される。誘導的プロモータは、1つ以上の誘導合図に応答性のプロモータである。例えば、誘導的プロモータは、化学的に調節できる(例えば、その転写活性が、化学誘導剤、例えばアルコール、テトラサイクリン、ステロイド、金属又は他の小分子の存在又は非存在によりレギュレートされるプロモータ)か、又は物理的にレギュレートできる(例えばその転写活性が、物理的誘導物質、例えば光又は高温若しくは低温の存在又は非存在によりレギュレートされるプロモータ)。誘導的プロモータは、また、それら自体が化学的又は物理的合図により直接レギュレートされる1つ以上の転写因子により間接的にレギュレートされ得る。プロモータの非限定的な例は、T7、U6、H1、レトロウイルスラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRプロモータ、サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ、SV40プロモータ、ジヒドロ葉酸レダクターゼプロモータ、β-アクチンプロモータ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモータ及びEF1αプロモータを含む。
【0068】
用語「ターミネータ」又は「転写ターミネータ」は、全般的に、転写の終結を合図する転写ユニットの最後にある配列エレメントのことをいう。例えば、ターミネータは、興味対象のポリペプチドをコードするORFの下流、すなわち3'に通常位置する。例えば、組換え核酸が、例えば連続的に順序付けられ、一緒にマルチシストロン転写ユニットを形成する2つ以上のORFを含む場合、転写ターミネータは、最下流のORFの3'に位置するのが有利であり得る。
【0069】
特定の実施形態において、核酸発現カセットは、1つ以上のプロモータ、エンハンサー、ORF及び/又は転写ターミネータに機能的に連結された本明細書で開示するペプチド又は融合タンパク質をコードする核酸を含む。
【0070】
さらなる観点は、本明細書で教示する核酸又は本明細書で教示する核酸発現カセットを含むベクター、例えばウイルスベクターを提供する。
用語「ベクター」又は「発現ベクター」は、本出願において用いる場合、別の核酸分子(挿入核酸分子)、例えば、それらに限定されないが、cDNA分子に挿入され得る核酸分子、例えば二本鎖DNAのことをいう。ベクターは、挿入核酸分子を適切な宿主細胞に輸送するために用いられる。ベクターは、挿入核酸分子の転写を可能にし、場合によって、ペプチド、タンパク質又はポリペプチドへの転写産物の翻訳を可能にする必要なエレメントを含み得る。挿入核酸分子は、宿主細胞に由来し得るか、又は異なる細胞若しくは生物に由来し得る。一旦宿主細胞に入ると、ベクターは、宿主染色体DNAから独立して、又はそれと一緒に複製され、ベクター及びその挿入核酸分子のいくつかのコピーが作製され得る。ベクターは、エピソームベクター(すなわち、宿主細胞のゲノムに組込まれない)であり得るか、又は宿主細胞ゲノムに組込まれるベクターであり得る。用語「ベクター」は、よって、標的細胞への遺伝子移動を容易にする遺伝子送達輸送手段と定義することもできる。この定義は、非ウイルス及びウイルスベクターをともに含む。非ウイルスベクターは、それらに限定されないが、カチオン性脂質、リポソーム、ナノ粒子、PEG、PEI、プラスミドベクター(例えばpUCベクター、bluescriptベクター(pBS)及びpBR322又は細菌配列を有さないその誘導体(ミニサークル))トランスポソンベースのベクター(例えばPiggyBac (PB)ベクター又はSleeping Beauty (SB)ベクター)などを含む。ウイルスベクターは、ウイルスに由来し、それらに限定されないが、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、肝炎ウイルスのベクターなどを含む。典型的に、それらに限定されないが、ウイルスベクターは、複製に必要なウイルス遺伝子がウイルスベクターから除去されているので、所定の細胞内で増える能力を喪失している、複製欠損である。しかし、いくつかウイルスベクターは、所定の細胞、例えばがん細胞において特異的に複製するように適合されており、(がん)細胞特異的(腫瘍退縮)溶解を引き起こすために典型的に用いられる。ビロソームは、ウイルス及び非ウイルスエレメントの両方を含むベクターの非限定的な例であり、特に、これらは、リポソームを、不活化HIV又はインフルエンザウイルスと組み合わせる。別の例は、カチオン性脂質と混合したウイルスベクターを包含する。
【0071】
本明細書で教示するペプチド又は融合タンパク質は、宿主細胞又は宿主生物中で前記ペプチド又は融合タンパク質をコードし、それを発現するように構成された発現構築物で形質転換された宿主細胞又は宿主生物による発現と、その後のペプチド又は融合タンパク質の精製とにより適切に得ることができる。
よって、さらなる観点は、本明細書で教示する核酸、核酸発現カセット又はベクターを含む宿主細胞を提供する。
あるいくつかの実施形態において、宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、動物細胞又は哺乳動物細胞であり得る。
【0072】
用語「宿主細胞」及び「宿主生物」は、原核生物、例えば細菌と、真核生物、例えば酵母、真菌、原生動物、植物及び動物との両方を包含する細胞又は生物に適切に言及できる。宿主細胞として企図するものは、なかでも、単細胞生物、例えば細菌(例えば大腸菌(E. coli)、サルモネラ・チフィムリウム(Salmonella tymphimurium)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)又は枯草菌(Bacillus subtilis))、酵母(例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又はピキア・パストリス(Pichia pastoris))、(培養)植物細胞(例えばシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)又はタバコ(Nicotiana tobaccum)から)及び(培養)動物細胞(例えば、脊椎動物細胞、哺乳動物細胞、霊長類細胞、ヒト細胞又は昆虫細胞)である。宿主生物として企図するものは、なかでも、多細胞生物、例えば植物及び動物、好ましくは動物、より好ましくは温血動物、さらにより好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物、なおより好ましくは霊長類であり、特に企図するものは、ヒトでないこのような動物及び動物の部類である。
このようなタンパク質、ポリペプチド又はペプチドは、適切に単離及び/又は精製できる。精製核酸、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドは、例えば実験室若しくは組換え合成、クロマトグラフィー、分取電気泳動、遠心分離、沈殿、親和性精製などを含む既知の方法により得ることができる。
【0073】
特定の実施形態において、本明細書で記載する核酸を含むベクターは、ウイルスベクター、好ましくは中枢及び/又は末梢神経系を特異的に指向するベクター(例えば脳特異的ウイルスベクター)である。
特定の実施形態において、本明細書で教示する作用体をコードする核酸は、シグナルペプチドをもたらすベクター内に含まれ得る。シグナルペプチドは、本明細書で教示する作用体の生成のために用いる宿主細胞に依存して、同種又は異種シグナルペプチドであり得る。さらに、本明細書で教示する作用体の原核生物での発現のために、プロテアーゼ切断部位モチーフが、前記シグナルペプチドのC末端及び本明細書で教示する作用体のN末端に存在できる。
【0074】
さらなる観点は、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合ペプチド、本明細書で教示する核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット又は本明細書で教示するベクターと、場合によって、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物を提供する。
用語「薬学的に許容される」は、本明細書で用いる場合、当該技術と一致して、医薬組成物の他の成分と適合し、その受容者に有害でないことを意味する。
本明細書で用いる場合、「担体」又は「補形剤」は、任意のそして全ての溶剤、希釈剤、緩衝剤(例えば中性緩衝生理食塩水又はリン酸緩衝生理食塩水)、可溶化剤、コロイド、分散媒、賦形剤、充填剤、キレート剤(例えばEDTA又はグルタチオン)、アミノ酸(例えばグリシン)、タンパク質、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、調味料、芳香剤、増粘剤、デポー効果を達成するための剤、コーティング、抗真菌剤、保存剤、抗酸化剤、張性制御剤、吸収遅延剤などを含む。薬学的活性物質についてのこのような媒体及び剤の使用は、当該技術において公知である。いずれの従来の媒体又は剤が活性物質と適合しない場合を除いて、治療組成物におけるその使用を企図できる。
医薬組成物の処方用の説明的で非限定的な担体は、例えば、水中油型若しくは油中水型エマルジョン、静脈内(IV)用に適切な有機共溶媒を含むか若しくは含まない水性組成物、リポソーム若しくは界面活性剤含有小胞、マイクロスフェア、マイクロビーズ及びミクロソーム、粉末、錠剤、カプセル、坐剤、水性懸濁物、エアゾール及び当業者に明らかなその他の担体を含む。
【0075】
本明細書で意図する医薬組成物は、本質的に任意の投与経路、例えば、限定することなく、経口投与(例えば経口摂取又は吸入)、鼻内投与(例えば鼻内吸入又は鼻内粘膜への施用)、非経口投与(例えば皮下、静脈内(I.V.)、筋内、腹腔内又は胸骨内注射又は注入)、経皮又は経粘膜(例えば経口、舌下、鼻内)投与、局部投与、直腸、膣又は気管内点滴などのために処方できる。このようにして、方法及び組成物により達成可能な治療効果は、所定の施用の具体的な必要性に依存して、例えば、全身性、局部、組織特異的などであり得る。
【0076】
好ましい実施形態において、本明細書で教示するペプチド、融合タンパク質、ペプチド若しくは融合タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む核酸発現カセット、該核酸若しくは核酸発現カセットを含むベクター、宿主細胞、又は医薬組成物は、非経口投与される。より好ましくは、本明細書で教示するペプチド、融合タンパク質、該ペプチド若しくは融合タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む核酸発現カセット、該核酸若しくは核酸発現カセットを含むベクター、宿主細胞、又は医薬組成物は、例えば注入により静脈内投与される。
投与する1つ以上の他の活性化合物と場合によって組み合わせた本明細書で教示する作用体の投与量又は量は、個別の場合に依存し、常として、最適な効果を達成するために個別の状況に適合される。よって、単位用量及びレジメンは、処置される障害の性質及び重篤度、並びに対象の種、性別、年齢、体重、全体的な健康、食餌、投与の形態及び時間、免疫状態及び処置されるヒト又は動物の個別の応答性、有効性、代謝安定性及び用いる化合物の作用の期間、治療が急性若しくは慢性若しくは予防的であるか、又は他の活性化合物を本発明の作用体に加えて投与するかのような要因に依存する。治療有効性を最適化するために、本明細書で教示するペプチド、融合タンパク質、該ペプチド若しくは融合タンパク質をコードする核酸、該核酸を含む核酸発現カセット、該核酸若しくは核酸発現カセットを含むベクター、宿主細胞、又は医薬組成物は、まず、異なる投与レジメンで投与できる。典型的に、組織内の作用体のレベルを、臨床試験手順の一部として適当なスクリーニングアッセイを用いてモニタリングして、例えば所定の処置レジメンの有効性を決定できる。投与頻度は、医療従事者(例えば意思、獣医師又は看護師)の熟練及び臨床判断の範囲内である。典型的に、投与レジームは、最適投与パラメータを確立し得る臨床試験により確立される。しかし、医療従事者は、1つ以上の前記の要因、例えば対象の年齢、健康、体重、性別及び医療状態に従ってそのような投与レジームを変更してよい。投与頻度は、処置が予防的又は治療的であるかに従って変動できる。
【0077】
本明細書に記載する物質又はそれを含む医薬組成物の毒性及び治療有効性は、例えば細胞培養又は実験動物における既知の薬学的手順により決定できる。これらの手順は、例えば、LD50(集団の50%に致死的な用量)及びED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定するために用いることができる。毒性効果と治療効果との間の用量比は、治療指数であり、これは、比率LD50/ED50として表すことができる。高い治療指数を示す医薬組成物が好ましい。毒性副作用を示す医薬組成物を用いることができるが、正常細胞(例えば非標的細胞)への損傷の可能性を最小限にすることにより副作用を低減するために、そのような化合物を罹患した組織の部位に向ける送達システムを設計する際に、注意が必要である。
細胞培養アッセイ及び動物研究から得られたデータは、適当な対象において用いるための投与量範囲を策定するために用いることができる。このような医薬組成物の投与量は、通常、ほとんど又は全く毒性を有さないED50を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、用いる剤形及び用いる投与経路に依存して、この範囲内で変動できる。本明細書に記載する、用いる医薬組成物について、治療有効用量は、まず、細胞培養アッセイから推定できる。用量は、動物モデルにおいて処方して、細胞培養において決定したIC50(すなわち、症状の最大半量の阻害を達成する医薬組成物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成できる。このような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定できる。血漿レベルは、例えば高性能液体クロマトグラフィーにより測定できる。
特定の実施形態において、本明細書で教示するペプチド又は融合タンパク質は、医薬組成物の主要な又は唯一の活性成分である。
ACKR3についての本明細書で教示するペプチドの選択性及び高い親和性は、本明細書で教示するペプチドに、多くの価値のあるインビトロ、エクスビボ及びインビボ用途をもたらす。
【0078】
さらなる観点は、本明細書に記載するペプチドの、例えば核磁気共鳴(NMR)分析中の、ACKR3ポリペプチドの安定化における使用を提供する。受容体の立体構造柔軟性は、タンパク質生成及び結晶学研究において障害になり得る。本明細書で教示するペプチドは、ACKR3ポリペプチドを特異的に認識するので、ペプチドは、作用体、例えば検出可能な標識、薬又はトキシンを特異的にACKR3ポリペプチドに標的させるために用いることができる。
したがって、さらなる観点は、本明細書に記載するペプチド又は融合タンパク質の、作用体、例えば薬若しくはトキシンのACKR3ポリペプチドへの標的化送達のための使用を提供する。
例えば、ACKR3は、様々な細胞、例えばB及びTリンパ球、ニューロン及び内皮細胞において発現され、多くのタイプのがん、心血管及び神経発生、心臓及び免疫病態生理、並びに造血幹/前駆細胞の遊走及びホーミングにおいて役割を演じる。ACKR3は、様々ながん細胞型(例えば結腸直腸癌、乳癌、前立腺癌、肺癌、肝癌、リンパ腫、白血病、膠芽腫及び頭頚部癌)において、並びに腫瘍関連脈管構造上で発現され、転移発生に関与している。ACKR3は、また、HHV-8、EBV、HTLV-1を含むいくつかの発がん性ウイルスへの感染の際に上方制御され、かつ細胞形質転換及び増殖において重要な役割を演じる。
したがって、特定の実施形態において、トキシンと融合した本明細書で教示するペプチドは、がんの処置において用いられる。
【0079】
関連する観点は、本明細書に記載するペプチドの、ペプチドトレーサ、例えばインビボ、エクスビボ又はインビトロイメージングのためのペプチドトレーサとしての使用を提供する。例えば、本明細書で教示するペプチドは、検出可能な標識と融合された場合に、ACKR3を発現する細胞、組織及び/又は器官(例えばあるタイプのがん細胞)を視覚化するために用いることができる。したがって、本明細書で教示するペプチドは、検出可能な標識と融合された場合に、ACKR3に関連する疾患又は状態、例えばがん、過剰又は異常な血管新生を伴う疾患又は状態、並びに炎症性又は自己免疫疾患及び状態(例えば関節炎)を視覚化するために用いることもできる。より具体的には、本明細書で教示するペプチドは、検出可能な標識と融合された場合に、がん、動脈硬化性血管疾患、心臓線維症又は脳及び神経機能不全(例えばアルツハイマー病、多発性硬化症及び脱髄疾患)を、インビボ、エクスビボ又はインビトロで視覚化するために用いることができる。本明細書で教示するペプチドを用いて視覚化できるがんの非限定的な例は、癌腫、神経膠腫、中皮腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、膠芽腫、前立腺癌、バーキットリンパ腫、頭頚部癌、大腸癌、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道の癌、胃癌、膵癌、肝胆道癌、胆嚢の癌、小腸の癌、直腸癌、腎臓癌、膀胱癌、陰茎癌、尿道癌、精巣癌、膣癌、子宮癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、膵内分泌癌、カルチノイド癌、骨癌、皮膚癌、網膜芽細胞腫、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫を含む。
【0080】
さらなる観点は、生体試料中のACKR3ポリペプチドのレベルをインビトロ又はエクスビボで検出及び/又は決定するための方法であって、
- 対象から得られた生体試料を得る工程と、
- 前記生体試料を、本明細書で教示するペプチドであって、検出可能な標識と融合したペプチドと接触させる工程と、
- 前記生体試料中のACKR3ポリペプチドのレベルを、本明細書で教示するペプチドを検出することにより検出及び/又は決定する工程と
を含む方法を提供する。
【0081】
用語「レベル」、「量(quantity)」、「量(amount)」は、同義であり、当該技術において全般的によく理解されている。この用語は、本明細書で用いる場合、特に、試料中の分子若しくは分析物の絶対的な定量、又は試料中の分子若しくは分析物の相対的な、すなわち別の値に対する、例えば本明細書で教示する参照値若しくは分子若しくは分析物のベースライン発現を示す値の範囲に対する定量のことを言うことができる。これらの値又は範囲は、単一の患者又は患者の群から得ることができる。
【0082】
関連する観点は、対象におけるACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態を診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングする方法において用いるための、本明細書で教示するペプチドであって、検出可能な標識に融合されたペプチドと、関連する使用方法を提供する。
特に記載しない場合、用語「対象」又は「患者」は、交換可能に用いることができ、動物、特に温血動物、より好ましくは脊椎動物、さらにより好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくは霊長類のことをいい、ヒト患者並びに非ヒト哺乳動物及び霊長類を具体的に含む。好ましい対象は、ヒト対象である。用語「対象」又は「患者」は、処置を必要とする対象、より具体的には所定の状態の処置から利益を受けるであろう対象を含む。このような対象は、限定することなく、前記状態を有すると診断された対象、前記状態を発生しやすい対象、及び/又は前記状態を防止すべき対象を含み得る。
【0083】
試料中の分子又は分析物の絶対量は、重量又はモル濃度量で、又はより一般的には濃度、例えば容量あたりの重量又は容量あたりのモルで有利に表すことができる。
試料中の分子又は分析物の相対量は、別の値に対する、例えば本明細書で教示する参照値に対する増加若しくは減少、又は倍数増加若しくは倍数減少で有利に表すことができる。第一パラメータと第二パラメータ(例えば第一及び第二の量)の間の相対的比較は、まず、第一及び第二のパラメータの絶対値を決定することにより行うことができるが、必ずしもそれを必要としない。例えば、測定方法は、前記第一及び第二のパラメータについての定量可能な読み出し(例えばシグナル強度)を生じることができ、前記読み出しは、前記パラメータの値の関数であり、読み出しをそれぞれのパラメータの絶対値に実際にまず変換することを実際に必要とせずに、前記読み出しを直接比較して、第一パラメータ対第二パラメータについての相対的値を生じることができる。
【0084】
用語「予知する」又は「予知」、「診断する」又は「診断」及び「予後予測する」又は「予後予測」は、医療及び臨床プラクティスにおいて一般的であり、よく理解されている。所定の疾患又は状態の「診断、予知及び/又は予後予測の方法」との句は、前記疾患若しくは状態を「診断、予知及び/又は予後予測する方法」、又は前記疾患若しくは状態の「診断、予知及び/又は予後予測を行う(又は決定若しくは確立する)方法」などの句と交換することもできる。
さらなる説明のために、限定することなく、「予知する」又は「予知」は、疾患又は状態を(まだ)有さない対象における疾患又は状態の事前の宣言、表示又は予言のことを全般的にいう。例えば、対象における疾患又は状態の予知は、対象が、例えばある期間内に又はある年齢までに前記疾患又は状態を発生する見込み、可能性又は危険性を示し得る。前記見込み、可能性又は危険性は、なかでも、絶対値、範囲若しくは統計として示すことができるか、又は適切な対照の対象若しくは対象集団(例えば一般的、正常若しくは健常対象又は対象集団に対して)に対して示すことができる。よって、対象が疾患又は状態を発生する見込み、可能性又は危険性は、適切な対照の対象若しくは対象集団に対する増加若しくは減少、又は倍数増加若しくは倍数減少として有利に示すことができる。本明細書で用いる場合、対象における本明細書で教示する状態又は疾患の「予知」との用語は、対象がその「陽性」の予知を有すること、すなわち対象が、それを有する危険がある(例えば、危険性は、対照の対象又は対象集団に対して有意に増加する)ことも具体的に意味し得る。対象における本明細書で教示する疾患又は状態が「ないことの予知」との用語は、対象が、その「陰性の」予知を有し、すなわちそれを有するという対象の危険性が、対照の対象又は対象集団に対して著しく増加していないことを具体的に意味し得る。
【0085】
用語「診断し」又は「診断」は、全般的に、症状及び徴候に基づいて、かつ/又は様々な診断手順(例えば、診断される疾患又は状態の特徴である1つ以上のバイオマーカーの存在、非存在及び/又は量を知ることから)の結果から、対象における疾患又は状態に対して認識するか、決定するか、又は結論付けるプロセス又は行為のことをいう。本明細書で用いる場合、対象における本明細書で教示する疾患又は状態の「診断」は、対象がそれを有する、よって、それを有すると診断されることを具体的に意味し得る。対象における本明細書で教示する疾患又は状態が「ないことの診断」は、対象がそれを有さない、よって、それを有さないと診断されることを具体的に意味し得る。対象は、それを思い起こさせる1つ以上の慣例的な症状又は徴候を示しても、それを有さないと診断され得る。
【0086】
用語「予後予測し」又は「予後予測」は、全般的に、疾患又は状態の進行に対する予想及び回復の見通し(例えば見込み、期間及び/又は程度)のことをいう。本明細書で教示する疾患又は状態の良好な予後予測は、全般的に、好ましくは許容可能な期間内に疾患又は状態からの満足のいく部分的又は完全な回復の予想を包含し得る。その良好な予後予測は、より一般的に、好ましくは所定の期間内にそれのさらなる悪化又は重篤化がないことの予想を包含し得る。本明細書で教示する疾患又は状態の悪い予後予測は、全般的に低水準の回復及び/又は満足できない遅い回復、又は実質的に回復がないこと、又はそれがさらに悪化することの予想を包含し得る。
よって、疾患又は状態の予知又は予後予測は、なかでも、疾患若しくは状態の発生の予知若しくは予後予測を行うこと、或いは疾患若しくは状態の進行、重篤化、軽減若しくは再発、又は処置若しくは他の外的若しくは内的要因、状況若しくはストレス要因などに対する応答の予知若しくは予後予測を行うことを可能にする。
【0087】
さらに、疾患又は状態をモニタリングすることは、なかでも、疾患若しくは状態の発生を予知すること、或いは疾患若しくは状態の進行、重篤化、軽減若しくは再発又は処置若しくは他の外的若しくは内的要因、状況若しくはストレス要因などに対する応答をモニタリングすることを可能にする。有利には、モニタリングすることは、対象の医療処置、好ましくはモニタリングされる疾患又は状態の軽減を狙いとする医療処置の経過中に行うことができる。このようなモニタリングは、例えば、患者を退院させ得るか、処置の変更を必要とするか、又はさらなる入院治療を必要とするかについての判断を下すことで構成され得る。本明細書で意図する場合、疾患又は状態のモニタリングへの言及は、対象が疾患又は状態を発生する見込み、危険性又は可能性をモニタリングすること、すなわち経時的なその見込み、危険性又は可能性の変化をモニタリングすることも具体的に含む。
【0088】
関連する観点は、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態を、インビトロ又はエクスビボで診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングする方法であって、
- 対象から得られた生体試料を得る工程と、
- 前記生体試料を、本明細書で教示するペプチドであって、検出可能な標識と融合したペプチドと接触させる工程と、
- 前記生体試料中のACKR3ポリペプチドのレベルを、本明細書で教示するペプチドを検出することにより決定する工程と、
- 疾患又は状態を、ACKR3タンパク質のレベルに基づいて診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングする工程と
を含む方法を提供する。
用語「インビトロ」は、全般的に、体、例えば動物又は人の体の外側又は外部のことをいう。この用語は、「エクスビボ」も包含する。「インビトロ」の一例は、組織細胞培養物中である。
用語「試料」又は「生体試料」は、本明細書で用いる場合、対象から得られ、単離された任意の生物学的検体を含む。試料は、限定することなく、器官組織(すなわち腫瘍組織、より具体的には乳腺腫瘍組織)、全血、血漿、血清、全血細胞、赤血球、白血球(例えば末梢血単核細胞)、唾液、尿、便(すなわち糞便)、涙液、汗、皮脂、乳頭吸引液、乳管洗浄液、腫瘍滲出液、滑液、脳脊髄液、リンパ液、穿刺吸引液、羊水、任意のその他の体液、細胞可溶化液、細胞分泌産物、炎症液、精液及び膣分泌物を含み得る。好ましくは、試料は、採血又は組織生検のように最小限に侵襲的な方法で容易に得ることができ、対象からの試料の除去/単離/提供を可能にすることができる。用語「組織」は、本明細書で用いる場合、器官の細胞とともに、上記の血液及びその他の体液も含む人体の全てのタイプの細胞を包含する。
【0089】
用語「接触」又は「接触し」は、本明細書で用いる場合、1つ以上の第一成分(例えば1つ以上の分子、生物学的物体、細胞又は材料)を、1つ以上の第二成分(例えば1つ以上の分子、生物学的物体、細胞又は材料)と、第一成分が、できるならば、第二成分と結合若しくはそれを調節するか、又は第二成分が、できるならば、第一成分と結合若しくはそれを調節するような様式で、一緒にすることを意味する。そのような調節は、直接、すなわち第一及び第二成分の間の直接の相互作用により、或いは間接的に、例えば第一成分が1つ以上のさらなる成分と相互作用若しくはそれを調節する場合、1つ以上のそれが次いで第二成分と相互作用若しくはそれを調節するか、又はその逆で生じ得る。用語「接触し」は、文脈に依存して、「曝露し」、「インキュベートし」、「混合し」、「反応し」、「処理し」などと同義であり得る。
【0090】
特定の実施形態において、使用又は方法のための本明細書で教示するペプチドは、対象からの生体試料中のACKR3ポリペプチドのレベルを、所定の参照値と比較する工程と、対象からの生体試料中のACKR3ポリペプチドのレベルと参照値との間の偏差又は偏差がないことを見出す工程と、前記偏差又は偏差がないことを見出したことを、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の特定の診断、予知又は予後予測に帰属させる工程とを含み得る。
このような比較は、全般的に、比較した値又はプロファイル間の少なくとも1つの差の存在又は非存在と、場合によってそのような差のサイズとを決定する任意の手段を含み得る。比較は、目視検査、測定値の算術的又は統計的比較を含み得る。そのような統計的比較は、それらに限定されないが、アルゴリズムの適用を含む。
【0091】
ACKR3ポリペプチドのレベルについての参照値は、他のバイオマーカーのために以前に用いられた既知の手順に従って確立できる。例えば、本明細書で教示する増殖性疾患の特定の診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングのためのACKR3ポリペプチドの量の参照値は、前記疾患又は状態の前記特定の診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングを特徴とする一個体又は個体の集団からの試料中のACKR3ポリペプチドの量又は発現レベルを決定することにより確立できる。そのような集団は、限定することなく、≧2、≧10、≧100又は数百以上の個体さえ含み得る。
当業者は、参照値が、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングのいずれを思い描いているかに依存することを理解している。例えば、明確な参照値は、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の非存在(例えば、健常、又はACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患若しくは状態からの回復)に対する、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の診断を表し得る。
【0092】
第二の値からの第一の値の「偏差」は、全般的に、変更の任意の向き(例えば増加:第一の値>第二の値、又は減少:第一の値<第二の値)及び任意の程度を包含し得る。好ましくは、偏差は、統計学的に有意な観測された変更のことをいうことができる。例えば、偏差は、比較を行う第二の値に対して限定することなく、少なくとも約10%(約1.1倍以上)、又は少なくとも約20% (約1.2倍以上)、又は少なくとも約30% (約1.3倍以上)、又は少なくとも約40% (約1.4倍以上)、又は少なくとも約50% (約1.5倍以上)、又は少なくとも約60% (約1.6倍以上)、又は少なくとも約70% (約1.7倍以上)、又は少なくとも約80% (約1.8倍以上)、又は少なくとも約90% (約1.9倍以上)、又は少なくとも約100% (約2倍以上)、又は少なくとも約150% (約2.5倍以上)、又は少なくとも約200% (約3倍以上)、又は少なくとも約500% (約6倍以上)、又は少なくとも約700% (約8倍以上)などの第一の値からの増加を包含し得る。
さらなる実施形態において、観測された変更が所定の閾値又はカットオフを超えるならば、偏差を結論付けることができる。そのような閾値又はカットオフは、当該技術において一般的に知られるように、予知方法の選択された感度及び/又は特異性をもたらすように選択できる。
【0093】
本明細書で提供する方法において、対象からの生体試料中のACKR3ポリペプチドレベルと参照値との間の偏差の観察は、前記対象における前記増殖性疾患の診断、予知及び/又は予後予測が、前記参照値により表されるものから異なるとの結論を導くことができる。同様に、対象からの生体試料中のACKR3ポリペプチドレベルの量又は発現レベルと参照値との間に偏差が見いだされない場合、そのような偏差の非存在は、前記対象における前記増殖性疾患の診断、予知及び/又は予後予測が、前記参照値により表されるものと実質的に同じであるとの結論を導くことができる。
ACKR3ポリペプチドは、正常(非がん)細胞よりもがん細胞において優先的に発現される。
したがって、特定の実施形態において、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患は、増殖性疾患、好ましくはがん、より好ましくは癌腫、神経膠腫、中皮腫、黒色腫、リンパ腫、白血病、腺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、膠芽腫、前立腺癌、バーキットリンパ腫、頭頚部癌、大腸癌、結腸直腸癌、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、食道の癌、胃癌、膵癌、肝胆道癌、胆嚢の癌、小腸の癌、直腸癌、腎臓癌、膀胱癌、陰茎癌、尿道癌、精巣癌、膣癌、子宮癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、膵内分泌癌、カルチノイド癌、骨癌、皮膚癌、網膜芽細胞腫、ホジキンリンパ腫及び非ホジキンリンパ腫からなる群より選択されるがんである。さらに具体的な実施形態において、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患は、線維症である。さらに具体的な実施形態において、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患は、アテローム動脈硬化症又は動脈硬化プラーク形成である。
【0094】
本発明のさらなる観点は、対象におけるACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態を診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングするためのキットであって、
(a) 本明細書で教示するペプチドであって、好ましくは検出可能な標識に融合しているペプチドと、
(b) ACKR3ポリペプチドのレベルの参照値であって、ACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態の既知の診断、予知及び/又は予後予測を表す参照値、例えばACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態に罹患していない組織、例えば健常組織におけるACKR3ポリペプチドのレベルに対応しているか、又はACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態に罹患している組織におけるACKR3ポリペプチドのレベルに対応している参照値と
を含むキットに関する。
【0095】
対象におけるACKR3ポリペプチドの異常なレベルを特徴とする疾患又は状態を診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングするためのキットは、使用準備ができた基質溶液、洗浄溶液、希釈緩衝剤及び使用説明をさらに含み得る。診断キットは、陽性及び/又は陰性対照試料も含み得る。
好ましくは、診断キットに含まれる使用説明は、当業者にとって明確で、簡潔でかつ分かりやすい。使用説明は、典型的に、キットの内容物の情報、組織試料の採取の仕方、方法論、実験読み出し及びその解釈、並びに注意及び警告を含む。
特定の実施形態において、キットは、本明細書で教示する前記ペプチドを検出する手段をさらに含む。
【0096】
対象からの組織試料中のACKR3ポリペプチドのレベルを測定するための手段は、本明細書の他のところで論じる結合剤並びに/又は例えば分光分析による測定の視覚化及び/若しくは定量的読み出しを可能にする担体を含み得る。場合によって、これらの担体は、カスケード試験を可能にする。担体の非限定的な例は、透光性マイクロタイタープレート、透光性ストリップウェル又は透光性チューブである。
【0097】
さらなる観点は、治療薬として有用な作用体を同定するためのインビトロ方法であって、試験作用体が、ACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を調節(すなわち誘導又は阻害)できるかを決定することを含む方法を提供する。
さらなる観点は、治療薬として有用な作用体を同定するインビトロ方法であって、試験作用体が、ACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できるが、他のいずれの受容体ポリペプチド、例えばMOR、DOR、KOR及びNOP受容体からなる群より選択される任意のオピオイド受容体ポリペプチド、又はCCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2若しくはACKR4からなる群より選択される任意のケモカイン受容体ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できないかどうかを決定することを含む方法を提供する。
【0098】
用語「試験作用体」は、本明細書で用いる場合、ACKR3ポリペプチドに特異的に結合してそれを活性化するかを決定することが所望される任意の化学的(例えば無機又は有機)、生化学的若しくは生物学的物質、分子若しくは高分子(例えば生物学的高分子)、それらの組み合わせ若しくは混合物、組成が未決定の試料、又は生物学的材料、例えば細菌、真菌、植物若しくは動物細胞若しくは組織からの抽出物のことをいう。
ACKR3、MOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2又はACKR4ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員の誘導(又はその非存在)の決定は、本明細書の他のところで記載するようにして決定できる。
【0099】
受容体へのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員について本明細書で言及する場合、これは、作用体が受容体に結合することにより誘導又は媒介される同じ受容体へのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2の動員を示す。よって、これは、例えば受容体のスカベンジャー機能に起因するような、作用体が受容体に結合することに起因する他の受容体に対するいずれの間接的な影響も包含しない。例えば、MORポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員は、MORポリペプチドへの内因性オピオイドペプチドのアベイラビリティーの増加をもたらすACKR3受容体への本明細書で教示するペプチドの結合の結果としてのMORポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を包含しない。
【0100】
特定の実施形態において、本明細書で開示する治療薬として有用な作用体を同定するためのインビトロ法は、ACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員ができる細胞と試験作用体を接触させることと、ACKR3ポリペプチドへの前記β-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を選択的に測定することと、MOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及び/又はACKR4ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員ができる細胞と試験作用体を接触させることと、MOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及び/又はACKR4ポリペプチドへの前記β-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を選択的に測定することとを含む。
【0101】
ある受容体へのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を選択的に測定することは、本明細書の他のところで記載するようにして行うことができる。例えば、ACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を選択的に測定することは、SmBiTにC末端にて融合したACKR3及びLgBiTにN末端にて融合したβ-アレスチンを用いて行うことができる。同様に、MOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2又はACKR4ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を選択的に測定することは、SmBiTにC末端にて融合したMOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2又はACKR4ポリペプチド及びLgBiTにN末端にて融合したβ-アレスチンを用いて行うことができる。或いは、ACKR3、MOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2又はACKR4ポリペプチドをLgBiTにC末端にて融合し、β-アレスチンをSmBiTにC末端又はN末端にて融合できる。これらの例において、SmBiTタグ付加受容体ポリペプチドとLgBiTタグ付加β-アレスチン、又はSmBiTタグ付加β-アレスチンとLgBiTタグ付加受容体ポリペプチドとの間の相互作用を決定する。
【0102】
ACKR3受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員ができる細胞は、典型的に、β-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2をその細胞質ゾルに含み、ACKR3ポリペプチドをその細胞膜にて発現する細胞である。MOR、DOR、KOR及び/又はNOP受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員ができる細胞は、典型的に、β-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2をその細胞質ゾルに含み、MOR、DOR、KOR及び/又はNOPポリペプチドをその細胞膜にて発現する細胞である。CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及び/又はACKR4受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員ができる細胞は、β-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2をその細胞質ゾルに含み、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及び/又はACKR4ポリペプチドをその細胞膜にて発現する細胞である。
【0103】
特定の実施形態において、ナノルシフェラーゼ補完アッセイ(例えばNanoBiT、Promega)によりある受容体へのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を選択的に測定する場合、ACKR3受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員ができる細胞は、典型的に、LgBiTタグ付加若しくはSmBiTタグ付加β-アレスチン-1及び/又はLgBiTタグ付加若しくはSmBiTタグ付加β-アレスチン-2をその細胞質ゾルにて発現し、SmBiTタグ付加又はLgBiTタグ付加ACKR3ポリペプチドをその細胞膜にて発現する細胞である。MOR、DOR、KOR及び/又はNOP受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員ができる細胞は、典型的に、LgBiTタグ付加若しくはSmBiTタグ付加β-アレスチン-1及び/又はLgBiTタグ付加若しくはSmBiTタグ付加β-アレスチン-2をその細胞質ゾルに含み、SmBiTタグ付加又はLgBiTタグ付加MOR、DOR、KOR及び/又はNOPポリペプチドをその細胞膜にて発現する細胞である。CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及び/又はACKR4受容体へのβ-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員ができる細胞は、典型的に、LgBiTタグ付加若しくはSmBiTタグ付加β-アレスチン-1及び/又はLgBiTタグ付加若しくはSmBiTタグ付加β-アレスチン-2をその細胞質ゾルに含み、SmBiTタグ付加又はLgBiTタグ付加 CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及び/又はACKR4ポリペプチドをその細胞膜にて発現する細胞である。当業者は、本実施形態において、β-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2がLgBiTタグ付加されているならば、受容体ポリペプチドはSmBiTタグ付加され、その逆も真であることを理解する。本明細書の他のところで記載するように、受容体ポリペプチドの非存在、又はそれを含まない若しくは含有しないことは、この関係において、それ自体、細胞膜に前記受容体ポリペプチドが全く存在しないことをいうのではなく、当業者に既知のタンパク質アッセイにより検出できないか又はその感度範囲未満である受容体ポリペプチドの量のことをいうことができる。
試験作用体がACKR3ポリペプチドに結合する能力について、試験作用体をスクリーニングすることにより、予備スクリーニングを行うことができる。
【0104】
特定の実施形態において、本明細書で開示する治療薬として有用な作用体を同定するためのインビトロ法は、試験作用体がACKR3ポリペプチドに結合できるかを決定することと、場合によって、試験作用体が任意の他の受容体ポリペプチド、例えばMOR、DOR、KOR、NOP、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及び/又はACKR4ポリペプチドに結合できるかを決定することとを含む。
結合アッセイは、ACKR3ポリペプチド、MORポリペプチド、DORポリペプチド、KORポリペプチド、NOPポリペプチド、CCR1ポリペプチド、CCR2Aポリペプチド、CCR2Bポリペプチド、CCR3ポリペプチド、CCR4ポリペプチド、CCR5ポリペプチド、CCR6ポリペプチド、CCR7ポリペプチド、CCR8ポリペプチド、CCR9ポリペプチド、CCR10ポリペプチド、CXCR1ポリペプチド、CXCR2ポリペプチド、CXCR3Aポリペプチド、CXCR3Bポリペプチド、CXCR4ポリペプチド、CXCR5ポリペプチド、CXCR6ポリペプチド、CXCR8ポリペプチド、XCR1ポリペプチド、CX3CR1ポリペプチド、ACKR1ポリペプチド、ACKR2ポリペプチド又はCKR4ポリペプチドを試験作用体と接触させることと、試験作用体とACKR3ポリペプチド、MORポリペプチド、DORポリペプチド、KORポリペプチド、NOPポリペプチド、CCR1ポリペプチド、CCR2Aポリペプチド、CCR2Bポリペプチド、CCR3ポリペプチド、CCR4ポリペプチド、CCR5ポリペプチド、CCR6ポリペプチド、CCR7ポリペプチド、CCR8ポリペプチド、CCR9ポリペプチド、CCR10ポリペプチド、CXCR1ポリペプチド、CXCR2ポリペプチド、CXCR3Aポリペプチド、CXCR3Bポリペプチド、CXCR4ポリペプチド、CXCR5ポリペプチド、CXCR6ポリペプチド、CXCR8ポリペプチド、XCR1ポリペプチド、CX3CR1ポリペプチド、ACKR1ポリペプチド、ACKR2ポリペプチド又はACKR4ポリペプチドとが結合複合体を形成するのに十分な時間を経過させることとを含み得る。結合複合体の形成は、タンパク質-タンパク質結合を決定するための任意の確立された分析技術、例えば蛍光標識又は放射性標識リガンド(例えば蛍光標識又は放射性標識ケモカイン、例えばCXCL12)を用いる結合競合アッセイ、共免疫沈降、二分子蛍光補完、標識トランスファー、タンデムアフィニティー精製、化学架橋及び蛍光共鳴エネルギー移動を用いて決定できる。タンパク質結合アッセイは、無細胞系、又は細胞溶解物、又は単離若しくは培養細胞、又は単離若しくは培養組織において行うことができる。
【0105】
結合アッセイにおいて、1つ以上の作用体、ACKR3ポリペプチド、MORポリペプチド、DORポリペプチド、KORポリペプチド、NOPポリペプチド、CCR1ポリペプチド、CCR2Aポリペプチド、CCR2Bポリペプチド、CCR3ポリペプチド、CCR4ポリペプチド、CCR5ポリペプチド、CCR6ポリペプチド、CCR7ポリペプチド、CCR8ポリペプチド、CCR9ポリペプチド、CCR10ポリペプチド、CXCR1ポリペプチド、CXCR2ポリペプチド、CXCR3Aポリペプチド、CXCR3Bポリペプチド、CXCR4ポリペプチド、CXCR5ポリペプチド、CXCR6ポリペプチド、CXCR8ポリペプチド、XCR1ポリペプチド、CX3CR1ポリペプチド、ACKR1ポリペプチド、ACKR2ポリペプチド及び/又はACKR4ポリペプチドは、標識と接合でき、該標識は、検出可能なシグナルを直接又は間接的に与えることができる。そのような標識又はシグナルの非限定的な例は、放射性同位体、蛍光標識若しくはシグナル、化学発光標識若しくはシグナル、酵素、特異的結合分子又は粒子(例えば磁性粒子)を含む。
【0106】
特定の実施形態において、本明細書で開示する治療薬として有用な作用体を同定するためのインビトロ法は、アッセイの効率を改善し、最適なタンパク質-タンパク質結合を容易にし、かつ/又は非特異的若しくはバックグラウンド相互作用を低減する1つ以上の試薬の使用をさらに含み得る。そのような試薬の非限定的な例は、塩、中立のタンパク質(例えばアルブミン)、洗浄剤、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤及び抗微生物剤である。
特定の実施形態において、試験作用体により誘導されるACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員のレベルは、本明細書で教示するペプチドにより誘導されるACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員のレベルと比較できる。
特定の実施形態において、ACKR3ポリペプチドへの試験作用体の結合親和性は、ACKR3ポリペプチドへの本明細書で教示するペプチドの結合親和性と比較できる。
【0107】
特定の実施形態において、試験作用体は、例えば本明細書の他のところで記載するアッセイにおいて測定される、中立物質又は陰性対照により誘導される、ACKR3ポリペプチドへのベースラインβ-アレスチン-1及び/若しくはβ-アレスチン-2動員又はバックグラウンドβ-アレスチン-1及び/若しくはβ-アレスチン-2動員と比較して、少なくとも1.5倍多い、少なくとも2倍多い、少なくとも2.5倍多い、少なくとも3倍多い、少なくとも4.5倍多い、少なくとも5倍多い、少なくとも6倍多い、少なくとも7倍多い、少なくとも8倍多い、少なくとも9倍多い、少なくとも10倍多い、少なくとも20倍以上又は少なくとも30倍多いACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を試験作用体が誘導するならば、本明細書で開示する治療薬として有用な作用体として同定できる。
【0108】
特定の実施形態において、試験作用体は、
- 例えば本明細書の他のところで記載するアッセイにおいて測定される、本明細書で教示するペプチドにより誘導されるACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員以上、例えば少なくとも1.1倍多い、少なくとも1.2倍多い、少なくとも1.3倍多い、少なくとも1.4倍多い、少なくとも1.5倍多い、少なくとも2倍多い、少なくとも2.5倍多い、少なくとも3倍多い、少なくとも4.5倍多い、少なくとも5倍多い、少なくとも6倍多い、少なくとも7倍多い、少なくとも8倍多い、少なくとも9倍多い、少なくとも10倍多い、少なくとも20倍多い又は少なくとも30倍多くで作用体がACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導するならば、かつ/或いは
- ACKR3ポリペプチドへの本明細書で教示するペプチドの結合親和性以上、例えば少なくとも1.1倍多い、少なくとも1.2倍多い、少なくとも1.3倍多い、少なくとも1.4倍多い、少なくとも1.5倍多い、少なくとも2倍多い、少なくとも2.5倍多い、少なくとも3倍多い、少なくとも4.5倍多い、少なくとも5倍多い、少なくとも6倍多い、少なくとも7倍多い、少なくとも8倍多い、少なくとも9倍多い、少なくとも10倍多い、少なくとも20倍多い又は少なくとも30倍多い親和性で作用体がACKR3ポリペプチドと結合するならば、
本明細書で開示する治療薬として有用な作用体として同定できる。
【0109】
本明細書で教示する選択的ACKR3調節性ペプチドは、ACKR3アンタゴニスト又は正/負のアロステリック調節性物質を同定するための競合的結合研究において用いることができる。例えば、ACKR3は、試験作用体を前処理した後に、ACKR3を、本明細書で教示する選択的ACKR3調節性ペプチドに曝露することができる。本明細書で教示する選択的ACKR3調節性ペプチドへの曝露の際のACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員が阻害されるならば、試験作用体は、ACKR3ポリペプチドのアンタゴニスト又は正/負のアロステリック調節性物質として同定できる。
したがって、さらなる観点は、治療薬として有用な作用体を同定するためのインビトロ法であって、試験作用体が、本明細書で教示する選択的ACKR3調節性ペプチドによるACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を調節、好ましくは阻害できるかを決定することを含む方法を提供する。
特定の実施形態において、本明細書で開示する治療薬として有用な作用体を同定するためのインビトロ法は、試験作用体がACKR3ポリペプチドに特異的に結合できるかを決定することを含む。
【0110】
本発明者らは、ACKR3が、内因性オピオイドペプチドについてのスカベンジャーとして作用して、局所的及び/又は全身性の濃度、よって古典的オピオイド受容体へのアベイラビリティーをレギュレートすることを見出した。したがって、ACKR3ポリペプチドに特異的に結合し、かつ/又はACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を特異的に誘導する全ての作用体は、MOR、KOR、DOR及びNOPポリペプチドを含む他のオピオイド受容体についての内因性オピオイドペプチドのアベイラビリティーをレギュレートするために用いることができる。
【0111】
したがって、さらなる観点は、対象における窮迫機能障害疾患若しくは状態の処置用の治療又は予防剤であって、ACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を調節(例えば誘導又は弱める)でき、好ましくは誘導でき、かつMOR、DOR、KOR及びNOP受容体からなる群より選択される任意のオピオイド受容体ポリペプチド、並びにCCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及びACKR4からなる群より選択される任意のケモカイン受容体ポリペプチドを含む任意の他の受容体ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できない、治療又は予防剤を提供する。
用語「処置し」又は「処置」は、既に発生した疾患又は状態の治療的処置、及び予防的又は防止的施策の両方を包含し、ここで、ねらいは、望まない苦痛の発生の可能性を防止又は少なくすることである。有益又は所望の臨床結果は、限定することなく、1以上の症状又は1以上の生物学的マーカーの軽減、疾患の程度の縮小、疾患状態の安定化(すなわち悪化しない)、疾患進行の遅延又は減速、疾患状態の改善又は緩和などを含み得る。「処置」は、処置を受けない場合に予期される生存と比較した生存の延長も意味し得る。
【0112】
特定の実施形態において、窮迫機能障害疾患又は状態は、不安障害、うつ病、怒り、不眠症、気分障害、物質及び行動嗜癖(例えばオピエート、コカイン若しくはアルコール乱用及び/又は依存症)及び摂食障害(例えば食欲不振)からなる群より選択される。好ましい実施形態において、窮迫機能障害疾患又は状態は、不安障害及びうつ病からなる群より選択される。
特定の実施形態において、治療又は予防剤は、化学物質、抗体、抗体断片、抗体様タンパク質足場、タンパク質又はポリペプチド、ペプチド、ペプチド模倣物、アプタマー、光アプタマー、シュピーゲルマ及び核酸からなる群より選択され、好ましくは、前記剤は、タンパク質又はポリペプチド又はペプチドである。
【0113】
作用体がACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できるか、そしてMOR、DOR、KOR及びNOP受容体からなる群より選択される任意のオピオイド受容体ポリペプチド、並びにCCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及びACKR4からなる群より選択される任意のケモカイン受容体ポリペプチドを含む任意の他の受容体ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できないかを決定する方法は、本明細書の他のところで記載するように、当業者に既知である。
【0114】
関連する観点は、治療及び/又は予防有効量の治療又は予防剤を前記対象に投与することを含む、対象における窮迫機能障害疾患又は状態を処置する方法であって、前記治療又は予防剤が、ACKR3ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導でき、MOR、DOR、KOR及びNOP受容体からなる群より選択される任意のオピオイド受容体ポリペプチド、並びにCCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及びACKR4からなる群より選択される任意のケモカイン受容体ポリペプチドを含む任意の他の受容体ポリペプチドへのβ-アレスチン-1及び/又はβ-アレスチン-2動員を誘導できない方法を提供する。
用語「治療有効量」は、本明細書で用いる場合、なかでも、処置される疾患又は状態の症状の緩和を含み得る外科医、研究者、獣医師、医師又はその他の臨床家が求める、対象における生物学的若しくは医療的応答を導き出す治療剤の量のことをいう。用語「予防有効量」は、研究者、獣医師、医師又はその他の臨床家が求める障害の発生を対象において阻害又は遅延させる予防剤の量のことをいう。本明細書に記載する治療又は予防剤の治療及び/又は予防有効量を決定するための方法は、当該技術において既知である。
【0115】
本明細書で教示するペプチドは、少なくとも部分的にACKR3活性に依存する疾患又は状態の処置において用いることができる。
ACKR3は、ケモカインについてのスカベンジャーとして作用し、局所的及び/又は全身性濃度、よって他のケモカイン受容体についてのアベイラビリティーをレギュレートする。したがって、本明細書で教示するペプチドは、CCR1、CCR2A、CCR2B、CCR3、CCR4、CCR5、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CXCR8、XCR1、CX3CR1、ACKR1、ACKR2及びACKR4ポリペプチドを含む他のケモカイン受容体について内因性(例えばCXCL11又はCXCL12)又は外因性(例えばvCCL2 (vMIP-II))ケモカインのアベイラビリティーをレギュレートするために用いることができる。その結果、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物は、これらの内因性又は外因性ケモカインが役割を演じる疾患又は状態の処置において用いることができる。
したがって、さらなる観点は、医薬用の本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物を提供する。
【0116】
ACKR3は、例えばがんにおける血管形成性プロセスの制御において重要な役割を演じる。したがって、本発明は、本明細書で教示するペプチドを投与することにより、必要とする任意の対象(例えば過剰又は異常な血管新生が関与する疾患又は状態を有する対象)における血管新生を低減することを含む。
さらなる観点は、対象における窮迫機能障害疾患若しくは状態、がん、動脈硬化性血管疾患(又はアテローム動脈硬化症)、循環器疾患、線維症(例えば心臓線維症)、炎症性若しくは自己免疫疾患及び状態、過剰若しくは異常な血管新生の状態(例えば創傷治癒及びHIV感染性)、幹細胞分化及び可動化障害、脳及びニューロン機能不全(例えばアルツハイマー病、多発性硬化症及び脱髄疾患)、腎機能異常、腎障害、妊娠高血圧腎症並びに肥満症からなる群より選択される疾患又は状態、好ましくは、窮迫機能障害疾患若しくは状態、がん、動脈硬化性血管疾患、循環器疾患及び線維症からなる群より選択される疾患又は状態の処置用の、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物を提供する。
【0117】
炎症性又は自己免疫疾患及び状態の非限定的な例は、炎症性腸疾患、関節リウマチ、変形関節症、乾癬性関節炎、多関節型関節炎、腎炎症性障害、多発性硬化症、大腸炎、アレルギー性疾患、乾癬、アトピー性皮膚炎及び喘息を含む。関連する観点は、対象に、治療及び/又は予防有効量の本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物を投与することを含む、前記対象における窮迫機能障害疾患若しくは状態、がん、動脈硬化性血管疾患(又はアテローム動脈硬化症)、循環器疾患、線維症(例えば心臓線維症)、炎症性若しくは自己免疫疾患及び状態、過剰若しくは異常な血管新生の状態(例えば創傷治癒及びHIV感染性)、幹細胞分化及び可動化障害、脳及びニューロン機能不全(例えばアルツハイマー病、多発性硬化症及び脱髄疾患)、腎機能異常、腎障害、妊娠高血圧腎症並びに肥満症からなる群より選択される疾患又は状態、好ましくは、窮迫機能障害疾患若しくは状態、がん、動脈硬化性血管疾患、循環器疾患及び線維症からなる群より選択される疾患又は状態を処置する方法を提供する。
【0118】
さらなる観点は、腫瘍細胞増殖、腫瘍形成、腫瘍血管新生及び転移を低減するための、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物の使用を提供する。
さらなる観点は、対象におけるT細胞動員を増加するための、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物の使用を提供する。
さらなる観点は、対象におけるウイルス複製を低減するための、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物の使用を提供する。
【0119】
具体的な実施形態において、本明細書で教示するペプチド、本明細書で教示する融合タンパク質、本明細書で教示する作用体若しくは融合タンパク質をコードする核酸、本明細書で教示する核酸発現カセット、本明細書で教示するベクター又は本明細書で教示する医薬組成物は、上で列挙する疾患又は状態の処置において用いることが知られている作用体と組み合わせて用いる。本発明は、その具体的な実施形態に関連して記載してきたが、上記の記載に鑑みて、多くの代替、改変及び変動が当業者に明らかになることが明確である。したがって、以下のそのような代替、改変及び変動は、添付の特許請求の範囲の精神及び広い範囲において、全て包含することを意図する。
本発明のここで開示する観点及び実施形態は、以下の非限定来なじっしれいによりさらに支持される。
【実施例】
【0120】
実施例1.実施例2から7で用いる材料及び方法
1.1.ペプチド及びケモカイン
未標識ケモカインCXCL12、CXCL11及びvCCL2を、PeproTechから購入した。Alexa Fluor 647標識CXCL12 (CXCL12-AF647)を、Almacから購入した。オピオイドペプチドライブラリー及び全てのオピオイドペプチド並びにFAM標識ダイノルフィンA (1-13)及びFAM標識ノシセプチンは、Phoenix Pharmaceuticalsから得た。Cy5で標識したBAM22及びビッグダイノルフィンは、製造業者のプロトコールに従って、タンパク質のためのAmersham QuickStain Cy5キットを用いて作製した。アドレノルフィン由来ペプチドは、JPTにより合成した。これらのペプチドは、N末端に遊離アミン、C末端にアミド基を含んで、さらなる負電荷を回避する。Sigmaから購入したレバロルファン以外は、全ての非ペプチドオピオイドは、Tocrisから得た。
【0121】
1.2.細胞培養
ヒト脳膠芽腫に由来するU87細胞を、Deng博士及びLittman博士から、NIH AIDS Reagent Programを介して得た。ACKR3及びCXCR4を安定的に発現するU87を、Szpakowska, M.ら、Different contributions of chemokine N-terminal features attest to a different ligand binding mode and a bias towards activation of ACKR3/CXCR7 compared with CXCR4 and CXCR3. Br J Pharmacol 175、1419~1438 (2018)に以前に記載されたようにして作製した。U87細胞は、15%ウシ胎児血清及びペニシリン/ストレプトマイシン(100ユニット/ml及び100μg/ml)を補ったダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で成長させた。U87-ACKR3及びU87-CXCR4は、ピューロマイシン(1μg/ml)選択圧の下で維持した。インフォームドコンセントを得た健常ドナー(C1-1)に由来するsmNPC (小分子神経前駆細胞)を得て、0.5μMプルモルファミン、3μM CHIR 99021及び150μMアスコルビン酸を補ったN2B27培地中、Geltrex(商標)被覆表面上で成長させた。N2B27培地は、0.5% N2サプリメント、ビタミンAを欠く1% B27サプリメント、1% GlutaMAX及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むDMEM/F12及びNeuroBasal培地50:50からなった。培地は、1日おきに新しくした。
【0122】
1.3. 結合競合アッセイ
U87-ACKR3細胞を、96ウェルプレートに分配し(ウェルあたり1.5×105細胞)、5nM CXCL12-AF647と記載する濃度の未標識ケモカイン又はオピオイドペプチドとの混合物と氷上で90分間インキュベートし、次いで、FACS緩衝液(PBS、1%BSA、0.1% NaN3)と4℃にて2回洗浄した。Zombie Green生存性染料(BioLegend)を用いて、死滅細胞を除いた。ACKR3陰性U87細胞を用いて、CXCL12-AF647の非特異的結合を評価した。CXCL12-AF647の0%の受容体結合を、1μMの未標識CXCL12の添加後に得られたシグナルと定義した。未標識ケモカインの非存在下でCXCL12-AF647について得られたシグナルを用いて、100%結合を規定した。リガンド結合は、BD FACS Fortessaサイトメータ(BD Biosciences)上での平均蛍光強度により定量した。
【0123】
1.4. ナノルシフェラーゼ補完アッセイ
ケモカイン及びオピオイド受容体へのリガンド誘導β-アレスチン動員を、Szpakowska, M.ら、Mutational analysis of the extracellular disulphide bridges of the atypical chemokine receptor ACKR3/CXCR7 uncovers multiple binding and activation modes for its chemokine and endogeneous non-chemokine agonists. Biochem Pharmacol 153、299~309 (2018)に以前に記載されたようにして、NanoLuc補完アッセイ(NanoBiT, Promega)によりモニタリングした。簡単に述べると、1.2×106 U87細胞を、10 cm培養皿に播種し、48時間後に、C末端にてSmBiTがタグ付加したGPCRと、LgBiTとN末端にて融合したヒトβ-アレスチン-1若しくは-2又はミニGタンパク質(mG、Gαサブユニットの工学改変されたGTPアーゼドメイン)とをコードするpNBeベクターで同時トランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後に、細胞を採集し、37℃にて25分間、200倍希釈したNano-Glo生細胞基質とインキュベートして、白色96ウェルプレートに分配した(ウェルあたり5×104細胞)。GPCRへのリガンド誘導β-アレスチン及びmG動員を、Mithras LB940ルミノメータ(Berthold Technologies)で20分間評価した。濃度応答曲線のために、各受容体について飽和濃度の完全アゴニストを用いて記録したシグナルを、100%に設定した。リガンドのアンタゴニスト特性を評価するために、各受容体の完全アゴニスト(MORについて50 nM BAM22、KORについて50 nM ダイノルフィンA、DORについて70 nM met-エンケファリン、NOPについて70 nMノシセプチン及びACKR3について4nM CXCL12)を、リガンドとの20分間のインキュベーションの後に加えた。完全アゴニストのみで処理したウェルからのシグナルを0%阻害と規定し、アゴニストなしで処理したウェルからのシグナルを用いて、100%阻害を設定した。U87細胞を用いるダイノルフィンA排除実験のために、1.5×105 U87又はU87.ACKR3細胞を、白色96ウェルプレートのウェルあたりに分配した。400 nM LIH383又はLIH383対照ペプチド(200 nM CXCL12又はCXCL10)との37℃での15分間のインキュベーションの後に、ダイノルフィンAを0.15 nMから3μMまでの範囲の濃度で加えて、37℃にて25分間インキュベートした。同時トランスフェクションの48時間後にSmBiTタグ付加KOR及びLgBiTタグ付加β-アレスチン-1又はミニGiを用いる実験を行い、Nano-Glo Live基質と25分間プレインキュベーションした1.5×104 U87細胞を、次いで、ウェルあたり加え、シグナルを20分間測定した。smNPCを用いるダイノルフィンA排除実験のために、2×106 smNPCを1.5μM LIH383又はLIH383対照ペプチド(300 nM CXCL12又はCXCL10)と15分間前処理した後に、3μMダイノルフィンAと4時間インキュベーションした。細胞を遠心分離し、系列希釈した上清中の残存ダイノルフィンAの活性を、SmBiTタグ付加 KOR及びLgBiTタグ付加ミニGiタンパク質を発現するU87細胞上で決定した。
【0124】
1.5. 無標識動的質量再分布(DMR)アッセイ
動的質量再分布(DMR)実験を、Schroder, R.ら、Deconvolution of complex G protein-coupled receptor signaling in live cells using dynamic mass redistribution measurements. Nat Biotechnol 28、943~949 (2010)及びSchroder, R.ら、Applying label-free dynamic mass redistribution technology to frame signaling of G protein-coupled receptors noninvasively in living cells. Nat Protoc. 6(11): 1748~1760 (2011)に以前に記載されたようにして、Corning Epic (Corning)バイオセンサーシステムを用いて行った。簡単に述べると、6×105 U87細胞を6-cm皿に播種した。24時間後に細胞を、ポリエチレンイミン(PEI)試薬(Polysciences)を用いて、それぞれのケモカイン(ACKR3、CXCR4)又はオピオイド(KOR、NOP)受容体をコードするpcDNA3.1ベースの発現プラスミドでトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、ウェルあたり1×104細胞を384ウェルEpicバイオセンサープレートに移し、一晩インキュベーションした(37℃、5%CO2)。細胞を、次いで、 20 mM HEPES (Life Technologies)を含むHanks平衡塩溶液(HBSS) (Life Technologies)で2回洗浄し、その後、DMRリーダにて1.5時間インキュベーションして、温度平衡(37℃)を達成した。ベースラインDMRトレースの平衡化の5分後に、化合物をバイオセンサープレートに加えた。リガンド誘導DMRの変化を、少なくとも3000秒間モニタリングした。未加工データを、GraphPad Prism 7.05 (GraphPad Inc)を用いて加工して分析した。定量のために、0と3000秒との間の負及び正の曲線下面積(AUC)を用いた。
【0125】
1.6. ホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)ベースの細胞外シグナル調節キナーゼ1及び2(ERK1/2)リン酸化アッセイ
ホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)ベースのホスホ-ERK1/2及びトータル-ERK1/2アッセイを、ホスホ-ERK1/2 (Thr202/Tyr204)及びトータル-ERK1/2細胞キット(Cisbio International)を用いて行った。簡単に述べると、トータル及びリン酸化ERK1/2タンパク質の定量のために、ACKR3又はCXCR4を安定的に発現する(又はしない)U87細胞を、96ウェルポリ-D-リジン(PDL)被覆マイクロタイタープレート(Sigma-Aldrich)中にウェルあたり3.5×104細胞の密度にて播種した。一晩のインキュベーションの後に、細胞を、無血清培地中で37℃にて4時間飢餓状態にした。細胞を、次いで、それぞれケモカイン又はオピオイドリガンドを用いて記載した時間間隔で刺激した後に、上清を溶解緩衝液で置き換え、その後、オービタルシェーカ上で1.5時間インキュベーションすることにより停止した。可溶化液を白色384ウェルプレートに移し、D2標識抗ホスホ-ERK1/2及びEu3+-クリプテート標識抗ホスホ-ERK1/2抗体を、ホスホ-ERK1/2決定のために各ウェルに加えた。D2標識抗トータル-ERK1/2及びEu3+-クリプテート標識抗トータル-ERK1/2抗体を、トータル-ERK1/2量の定量のために加えた。少なくとも2時間(ホスホ-ERK1/2)又は24時間(トータル-ERK1/2)のインキュベーション時間の後に、時間分解FRETシグナルを、320 nm励起フィルタ並びに620 nm (ドナー)及び665 nm (アクセプター)発光フィルタを備えたMithras LB 940マルチモードリーダ(Berthold Technologies)を用いて測定した。
【0126】
1.7.転写ナノルシフェラーゼレポータアッセイ
MAPK/ERKシグナル伝達経路の活性化を、血清応答配列(SRE)ナノルシフェラーゼレポータアッセイを用いて評価した。カルシウム依存性シグナル伝達経路の活性化を、活性化T細胞核内因子応答配列(NFAT-RE)ナノルシフェラーゼレポータアッセイを用いて評価した。両方のアッセイのために、1.2×106 U87細胞を、10-cm皿に播種し、48時間後に、SRE又はNFAT-REの下流にナノルシフェラーゼ遺伝子を含むpNanoLuc/SRE又はpNanoLuc/NFAT-REベクター(Promega)と、それぞれのケモカイン又はオピオイド受容体をコードするpcDNA3.1とで同時トランスフェクションした。24時間後に、2.5×104細胞/ウェル(smNPCについて2.5×105)を、白色96ウェルプレートに播種した。24時間後に、培地を無血清かつフェノールレッドフリーDMEM (smNPCについて無血清DMEM/F12)に置き換え、さらに2時間インキュベーションした。オピオイドペプチド(500 nM)、ケモカイン(200 nM)を次いで細胞に加え、6時間インキュベーションした。30 nMホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA)、10% FBS又は30 nM PMA、1uMイオノマイシン、10% FBSをそれぞれSRE及びNFAT-REアッセイについての陽性対照として用いた。Nano-Glo生細胞基質(Promega)を次いで加え、発光を、Mithras LB940プレートリーダ(Berthold technologies)上で20分間にわたって読み取った。
【0127】
1.8. Imagestreamによる蛍光標識オピオイドペプチド取り込みの視覚化
細胞を、96ウェルプレートに分配した(U87及びU87-ACKR3についてOpti-MEM中の2×105細胞/ウェル、並びにsmNPCについてN2B27培地中の3×105細胞/ウェル)。LIH383 (3μM)と又はOpti-MEMのみで37℃にて15分間のインキュベーションの後に、FAM標識ダイノルフィンA(1-13) (250 nM)、BAM22-Cy5 (400 nM)、ビッグダイノルフィン-Cy5 (400 nM)又はノシセプチン-FAM (1μM)を加え、37℃にて40分間インキュベーションし、FACS緩衝液で2回洗浄した。ACKR3又は古典的オピオイド受容体による標識オピオイドペプチド取り込みの比較のために、1.2×106 U87細胞を10-cm皿に播種し、ACKR3又はKOR、MOR若しくはNOPをコードする4μgのpcDNA3.1プラスミドと48時間後にトランスフェクションした。トランスフェクションの48時間後に、細胞を採集し、上記のようにして処理した。FAM標識ペプチド及びCy5標識ペプチドについてそれぞれZombie NIR又はZombie Green生存性染料(BioLegend)を用いて、死滅細胞を除いた。1×104のインフォーカス生存シングルセルの画像を、40倍の倍率(smNPCについて60倍の倍率)を用いるImageStream MKIIイメージングフローサイトメータ(Amnis)を用いて得た。試料を、Ideas6.2ソフトウェアを用いて分析した。細胞あたりのスポットの数を、マスクベースのソフトウェアウィザードを用いて決定した。
【0128】
1.9. エクスビボラットニューロン脱分極
1.9.1. 動物
成体雄性ウィスターラット(6から8週齢)を、室温にて、3又は4匹の群で、12:12時間の明暗サイクルで飼育した。全ての動物は、食物及び水を無制限に入手できた。全ての手順は、1986年11月24日の欧州共同体会議指令(86/609/EE)の手引きに従って行い、リエージュ大学の動物使用に関する倫理員会(プロトコール 2061)により承認された。動物の苦しみを最小限にするために全ての努力を行った。
【0129】
1.9.2. 脳外植片準備及び記録手順
ラットに抱水クローラル(400 mg/kg、i.p.)で麻酔をかけ、断頭の2分前に酸化空気(95% O2、5% CO2)を含むキャップの下に置いた。断頭後、脳を迅速に取り出し、以下の組成:NaCl 130 mM、KCI 3.5 mM、NaH2PO4 1.25 mM、NaHCO3 24 mM、グルコース10 mM、CaCl2 2mM、MgSO4 1.25 mMの氷冷(約2℃)酸化人工脳脊髄液(aCSF)に入れた。脳橋を含む組織のブロックを、振動ブレードミクロトーム(Vibratome 1000 Plus、Sectioning System)に入れ、解剖の目印として用いた第四脳室及び第七脳神経のすぐ頭側にある青斑核(LC)を含む薄片を、冠状に切断した(厚さ400μm)。薄片を記録チャンバ(容量:0.5 ml)内のナイロンメッシュ上に置き、そこでこれを2から3ml/分の速度で酸化aCSF (34.0±0.5℃)により灌流した。LCは、第四脳室の側方の、透過照明中に半透明の領域と認識した。全ての実験は、それぞれAMPA/カイニン酸、GABAA、NMDA及びGABAB受容体を遮断する10μM CNQX、10μM SR95531、1μM MK801及び1μM CGP55845からなるシナプスブロッカーを含む酸化aCSF中で行った。このことにより、ニューロンの自発的な発火は、確実にその内因性ペース調整のみによることになった。
LCニューロンの細胞外シングルセル記録は、aCSF (抵抗10~20 MΩ)を満たしたガラス微小電極を用いて行った。シグナルは、インピーダンスアダプタを通過し、自家製の増幅器を用いて1000×に増幅した。これらは、Fluke Combiscopeオシロスコープ上に表示され、コンピュータに接続されたアナログ-デジタルインターフェース(CED 1401、Cambridge Electronic Design、Cambridge、UK)に供給された。データを回収し、Spike 2ソフトウェア(Cambridge Electronic Design)で分析した。全ての記録されたニューロンは、良好な規則性(スパイク間インターバルの変動係数は0.13±0.01、N=18であった)で0.5から3Hzの発火頻度と、α2-アドレナリン作動性受容体アゴニストであるクロニジン(10~20 nM)の施用中の発火の停止を有した。細胞外で記録された活動電位の期間は、2~3msであった。薬物及びペプチドは、少なくとも10分間施用した。
【0130】
1分間の平均発火頻度は、各条件中に算出した。次に、用いたペプチド及び薬物(LIH383及びダイノルフィン)による発火の阻害は、全阻害の%として定量した。この目的のために、本発明者らは、各条件(対照、LIH383単独、LIH383プラス所定の濃度のダイノルフィン)の最後の1分間の平均発火頻度を考慮した。ダイノルフィンのEC50を、GraphPad Prism (バージョン6)においてHillの式(E/Emax = [ダイノルフィン]/ EC50(ダイノルフィン)+[ダイノルフィン]を用いて得た。異なる条件におけるEC50値の個別の値を、Kruskal-Wallis検定を用いて比較した。1つの異常な値(LIH383 3μMの群において: 559 nM、これは、この群についての平均値から>2SD離れていた)は、割愛した。
【0131】
1.10. ヒト脳試料及びsmNPCに対するRNA抽出及び定量PCR
Cao-Lei, L.ら、Glucocorticoid receptor gene expression and promoter CpG modifications throughout the human brain. J Psychiatr Res 47、1597~1607 (2013)に報告されるように、致命的非頭部外傷に罹患した5名の患者の6つの脳領域からの死後試料を、死後2~10時間以内に回収した。トータルRNAを生検からAllPrep DNA/RNAミニキット(Qiagen)を用いて、又はsmNPCからRNeasyミニキット(Quiagen)を用いて抽出し、cDNA合成まで-80℃にて貯蔵した。第一鎖合成は、2工程プロセスで行った。最初に、試料をRNaseOUT (Invitrogen)と65℃にて5分間インキュベーションした。逆転写反応を、その後、55℃にて60分間、Superscript III RT (Invitrogen)及び2μM dT20プライマー(Eurogentec)を用いて行った。定量PCRは、CFX96サーマルサイクラー(Bio-Rad)で行った。サーマルサイクルは、以下のようにして行った:95℃にて15分間の変性、95℃にて15秒間、30秒間のアニーリング、及び72℃にて30秒間の伸長の40サイクル、72℃にて10分間の最終伸長。各プライマーについて、増幅の特異性を、融解曲線分析及びSYBR Safe (Invitrogen)を用いるアガロースゲル上でのPCR生成物の視覚化により確認した。相対的PCR定量を、安定ハウスキーピング遺伝子としてPPIA及びGAPDHの算術平均を用いる比較閾値サイクル法を用いて行った。平均からの3つの標準偏差より大きいCt値を有する試料を、さらなる分析から除いた。
【0132】
1.11. 遺伝子発現のBrainbankデータベース分析
CNS遺伝子発現データを、Allen Institute、BrainSpan: Atlas of the Developing Human Brain (http://www.brainspan.org/static/download.html、ファイル:遺伝子についてまとめたRNA-Seq Gencode v10)から抽出した。データセットは、遺伝子について平均化したRNA-Seq RPKM (百万あたりキロベースあたりのリード)値を含む。試料調製、組織選択基準及びデータ標準化の詳細な記載については、技術白書、発生的トランスクリプトーム(http://help.brain-map.org/display/devhumanbrain/Documentation)を参照されたい。脳の領域に依存して、遺伝子発現データは、4か月から40歳までの年齢の16~22名のドナーから抽出した。データベースの出生前試料は除外したことに留意されたい(pcw 8~37)。男性及び女性のドナーからの脳試料を等しく代表した。
【0133】
1.12. フローサイトメトリーによる受容体の検出及び局在化
細胞内及び表面ACKR3レベルを、ACKR3特異的mAb (12.5μg/ml、クローン11G8 (R&D Systems)又はマッチするアイソタイプ対照(12.5μl/ml、クローンMG1-45、BioLegend)及びフィコエリスリン結合F(ab')2断片抗マウスIgG (Jackson ImmunoResearch)を用いるフローサイトメトリーにより分析した。Zombie NIR固定性生存性染料(BioLegend)を用いて、死滅細胞を除いた。細胞内染色のために、細胞を、製造者の推奨に従って、BD Cytofix/Cytoperm固定/透過溶液キット(BD Biosciences)を用いて処理した。蛍光強度は、Novocyte Quanteonフローサイトメータ(ACEA Biosciences)上で定量した。
【0134】
1.13 エンドソームへのオピオイドペプチド誘導アレスチン依存性ACKR3送達
エンドソームへのオピオイドペプチド誘導受容体-アレスチン複合体送達は、PathHunter eXpress ACKR3活性化GPCR内部移行アッセイ(DiscoverX)を用いるβ-ガラクトシダーゼ補完によりモニタリングした。簡単に述べると、ACKR3、β-ガラクトシダーゼの酵素アクセプターと融合したβ-アレスチン-2及びβ-ガラクトシダーゼProLinkドナーペプチドと融合したエンドソームマーカを安定的に発現するU2OS細胞を播種した24時間後に、1×104細胞/ウェルの密度にて96ウェルプレート中で実験を行った。オピオイドペプチド(3μM及び300 nM)を、次いで加え、37℃にて4時間のインキュベーションの後に、55μl β-ガラクトシダーゼ基質(PathHunter検出試薬)の添加により、発光シグナルを発生させた。室温にて1時間のインキュベーションの後に、化学発光シグナルを、Mithras LB940プレートリーダ(Berthold Technologies)で測定した。
【0135】
1.14 受容体細胞表面レベルにおける、オピオイドペプチドにより誘導される変化のモニタリング
NanoLuc補完アッセイによる受容体表面発現レベルの決定は、製造者のプロトコールに従って、Nano-Glo HiBiT細胞外検出系(Promega)を用いて行った。簡単に述べると、1.2×106 U87細胞を10-cm皿に播種し、48時間後に、N末端にてHiBiTタグ付加されたACKR3又はそれぞれのオピオイド受容体、LgBiTに向かう高い親和性を有するナノルシフェラーゼの小さい部分をコードする100 ngプラスミドでトランスフェクションした。48時間後に、5×104細胞/ウェルを96ウェルプレートに播種し、CXCL12 (300 nM)又はオピオイドペプチド(1μM)で37℃にて記載した時間刺激した。細胞を、次いで、HiBiT緩衝液中のナノルシフェラーゼ細胞外基質及びLgBiTタンパク質からなるHiBiT細胞外試薬とインキュベーションした。残存表面受容体融合HiBiTとのLgBiTタンパク質の補完からの発光を、Mithras LB940プレートリーダ(Berthold Technologies)で決定した。シグナルを、t=1分で記録した測定値に標準化した。ノシセプチン及び誘導体の影響は、ノシセプチンによる著しいLgBiTタンパク質相互補完のために、本アッセイにおいて決定できなかったことは、注目すべきである。記載する場合、細胞は、リガンド刺激前及びリガンド刺激中(180分間)に、バフィロマイシンA1 (0.15% DMSO中1.5μM) (Santa Cruz Biotechnology)又は0.15% DMSOで45分間処理した。
フローサイトメトリーによる受容体表面発現レベルの決定のために、U87-ACKR3又はU87-KOR細胞を、オピオイドペプチド(1μM)又はCXCL12 (300 nM)で37℃にて60分間刺激した。残存表面結合リガンドを、次いで、150 mM NaCl、50 mMグリシン、pH3 での短い洗浄、及びFACS緩衝液での2回の洗浄により除去した。記載する場合、細胞をさらに120分間インキュベーションして、表面受容体回復を可能にした。ACKR3又はKORの細胞表面レベルは、次いで、飽和濃度(12.5μg/ml)の受容体特異的mAb (ACKR3についてクローン11G8、及びKORについて387301、R&D Systems)及び二次フィコエリスリン結合F(ab')2断片抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch)を用いるフローサイトメトリーにより測定した。Zombie NIR固定性生存性染料(BioLegend)を用いて、死滅細胞を除いた。平均蛍光強度は、Novocyte Quanteonフローサイトメータ(ACEA Biosciences)で定量した。
【0136】
1.15.データ分析
濃度応答曲線を、反復最小二乗法を用いて、4パラメータHillの式にフィットさせた(GraphPad Prismバージョン8.0.1)。全ての曲線を、少なくとも3つの独立した実験の平均から得られたデータ点にフィットさせた。
【0137】
実施例2.ACKR3は、異なるファミリーからの広い範囲のオピオイドペプチドにより活性化される
最近の研究において、本発明者らは、プロエンケファリン由来ペプチドBAM22が、ケモカインリガンドのN末端と、ACKR3結合及び活性化に重要で/それに関与する構造的及び機能的特徴を共有することを示唆した。全ての内因性オピオイドペプチドが、それらのN末端にてF/YGGFL/M(配列番号12)モチーフ及び配列を通じてのいくつかの正荷電残基を含む著しい配列相同性を示すことに鑑みて、本発明者らは、BAM22及び関連するペプチドのみがACKR3を活性化できるオピオイドペプチドであるのか疑問を持った(
図1H;表1a)。よって、本発明者らは、58オピオイドペプチドのライブラリーを、陰性対照として用いたACKR3とのリガンドとしてそれぞれCXCL12及びCXCL11を共有する2つの古典的ケモカイン受容体であるCXCR4及びCXCR3とともに、ACKR3へのβ-アレスチン-2動員を誘導する能力についてスクリーニングした。BAM22の他に、BAM18及びペプチドEは、ACKR3リガンドであると以前に報告されているが、本発明者らのスクリーニングは、多くの他のオピオイドペプチドが、ACKR3へのβ-アレスチン-2動員を誘導できることを明らかにした。これらは、アドレノルフィン、別のプロエンケファリン由来ペプチドだけでなく、ノシセプチン及びダイノルフィンファミリーからのペプチドも含んだ(
図1A)。しかし、エンドルフィン及びエンドモルフィンは、ACKR3を活性化しなかった。これらのペプチドのいずれも、ACKR3アンタゴニストとして作用しないか(データは示さず)、又はCXCR4又はCXCR3へのβ-アレスチン-2動員を誘導しなかった(
図1A)。
【0138】
本発明者らは、次に、β-アレスチン-1及びβ-アレスチン-2動員におけるACKR3及び古典的オピオイド受容体に向かう異なるヒットの効力及び有効性を分析及び比較した(
図1B~F及びH、表1b、β-アレスチン-2についてのデータは示していない)。ACKR3は、古典的オピオイド受容体に対するそれらの活性に匹敵する低濃度にて、いくつかの内因性オピオイドペプチド、例えばダイノルフィンA、ダイノルフィンA 1-13、ビッグダイノルフィン、BAM22又はアドレノルフィンにより活性化された。より高い濃度のダイノルフィンB、ノシセプチン又はノシセプチン1-13アミドは、ACKR3活性化に必要であった。驚くべきことに、ACKR3は、NOPアンタゴニストPhe1Ψ(CH
2-NH)-Gly2-ノシセプチン-1-13アミド(F-G ノシセプチン1-13) (配列番号13;C末端にてNH
2置換されている)並びに内因性短縮ダイノルフィンバリアントであるダイノルフィン2-13(配列番号20;C末端にてNH
2置換されている)及びダイノルフィン2-17(配列番号19)によっても活性化され(
図1H、表1b)、これらは、古典的オピオイド受容体を活性化しないが、生理的効果を有することが示された。ACKR3は、いくつかのペプチド、例えばエンドルフィンと同程度の選択性を示すようであるが、ショートエンドモルフィン及びLeu-又はMet-エンケファリンは、β-アレスチン動員を引き起こさなかった。これらのデータは、HEK293T及びCHO-K1細胞バックグラウンド(データは示さず)及び結合競合研究においてさらに確認され、同定されたリガンドが全て、Alexa Fluor 647標識CXCL12と競合し、ACKR3からそれを置き換えることができたことを示した(
図1G)。結論として、これらのデータは、CXCR3又はCXCR4とは異なって、ACKR3が、オピオイド受容体を介する活性化及びシグナル伝達について観察されたものと同様の濃度範囲において、異なるファミリーからの様々な内因性オピオイドペプチドにより選択的に活性化されることを明らかにする。
【0139】
ACKR3は、オピオイドペプチドにより活性化される唯一のケモカイン受容体である
古典的オピオイド受容体とちょうど同じように、多くのケモカイン受容体は、複数のリガンドを有し、これらは、他の受容体と頻繁に共有される。よって、本発明者らは、ACKR3が、オピオイドペプチドにより活性化されるケモカイン受容体ファミリーの唯一のメンバーであるのか疑問を持った。このために、本発明者らは、全てのケモカイン受容体を、飽和濃度にて、異なるACKR3結合オピオイドペプチドリガンドに応答するアレスチン動員について、同じナノルシフェラーゼ補完アッセイを用いて試験した。いずれのペプチドも、24の他のケモカイン受容体のいずれへの同様のβ-アレスチン-1又はβ-アレスチン-2動員も誘導しなかった(
図2、β-アレスチン-2についてのデータは示さず)。β-アレスチン動員のわずかな誘導が、ビッグダイノルフィンで処理したいくつかの受容体、例えばCX3CR1、CXCR3及びCCR3に向かって検出できた。しかし、ACKR3又はオピオイド受容体とは逆に、ビッグダイノルフィンへのそれらの応答は、これらの同族ケモカインを用いて達成されたものと比較して著しく低減された(データは示さず)。これらのデータは、内因性オピオイドペプチドに応答してアレスチンを動員する能力が、全てのケモカイン受容体ファミリーメンバーのうちでACKR3に独特かつ顕著であるという考えを強く支持する。
【0140】
ACKR3及び古典的オピオイド受容体結合ポケットの類似性及び相違点:アドレノルフィン構造-活性関係研究
古典的オピオイド受容体と比較したACKR3の結合及び活性化様式へのさらなる洞察を深めるために、本発明者らは、オクタペプチドアドレノルフィン(YGGFMRRV(配列番号32;C末端にてNH
2置換されている)、以前のメトルファミド)に基づく構造-活性関係研究を行った。アドレノルフィンは、ACKR3、MOR、DOR及びKORへのアレスチン動員を、ほぼ同じ効力で引き起こし(
図3B)、これら4つの受容体の活性化様式を研究するための適切な基礎を提供した。本発明者らは、アドレノルフィンのアラニンスキャンを行い、密接に関連するアミノ酸への置換、又はその他の修飾、例えばN及びC末端伸長、D-アミノ酸置き換え若しくは二量体形成を導入した。本発明者らは、これらの修飾ペプチドが、ACKR3及びオピオイド受容体を、β-アレスチン-1動員アッセイにおいて活性化する能力を評価した(
図3A)。興味深いことに、「メッセージ」及び「アドレス」配列は、効力変化における同様の傾向にもかかわらず、古典的オピオイド受容体と比較してACKR3について多少異なった。ACKR3は、古典的オピオイド受容体の活性化にとって重要なN末端チロシン残基の修飾に対してより耐性があるように見られた。実際に、ロイシン又はフェニルアラニンを示すバリアントは、親の活性を保持し、ノシセプチンペプチドN末端を模倣するY1F変異で、10倍の効力の改善をもたらした(
図3A及びC)。しかし、古典的受容体と同様に、YGGF-L/M (配列番号15)コアの4位のフェニルアラニンは、ACKR3結合にとって重要であることが見いだされ、F4Wを例外としていずれの変異も、受容体活性化にとって有害であった。ダイノルフィンファミリーのペプチドを模倣する5位でのメチオニンからロイシンへの置換は、KORへの結合を改善したが、MOR及びACKR3への結合を著しく低減し(
図3D)、一方、ジアルギニンモチーフにおける6位での変異は、KOR及びACKR3に向かう活性を廃止したが、MORに向かう活性を大きく改善した(
図3E)。
上記のSAR分析に基づいて、本発明者らは、オピオイドペプチドとのACKR3の相互作用様式が、いくつかの局面において、古典的オピオイド受容体のものとは異なり、ACKR3が、他の4つの受容体全てと重要な相互作用決定因子を共有すると結論付けた。この特徴は、異なるファミリーからのペプチドと結合してそれに応答するその能力を説明するようである。
【0141】
ACKR3は、アルカロイドオピオイド及び合成オピオイド薬物に非応答性である
内因性オピオイドペプチドの異なるファミリーへ応答するその能力、及び古典的オピオイド受容体との結合様式類似性に基づいて、本発明者らは、ACKR3が、古典的オピオイド受容体を活性化又は阻害するために通常用いられる非内因性オピオイドリガンドに対しても応答できるのか疑問を持った。プロトタイプのオピオイドツール化合物、例えばD-Ala
2,D-Leu
5-エンケファリン(DADLE) (配列番号16)又はD-Ala
2,N-MePhe
4, Gly-ol]-エンケファリン(DAMGO) (配列番号17)の他に、本発明者らは、承認済み疼痛薬剤、例えばモルフィン、フェンタニル又はブプレノルフィンを、β-アレスチン動員アッセイにおいて試験した。全ての分子は、それぞれのそれらのオピオイド受容体に対して期待されたアゴニスト又はアンタゴニスト活性を示した(
図4A)。モルフィンについて、以前の報告と一致して、MORへの弱いβ-アレスチン動員のみが観察された。1つの受容体を特異的に標的にするように設計されているが、高濃度にてこれらの分子の多くは、内因性リガンドを用いて観察されたことと同様に、他のオピオイド受容体に向かういくらかの活性を示した。しかし、ACKR3は、高濃度でさえ、試験した分子のいずれにも応答性でなかった。 ACKR3の弱い活性化が、KORアゴニストU50488及びアンタゴニストノルビナルトルフィミンを用いて観察されたが、KORと比較してかなりより弱い効力であった。
これらの結果は、ACKR3が古典的オピオイド受容体といくつかの内因性オピオイドペプチドを共有するが、古典的オピオイド受容体を標的にするオピエート鎮痛剤又は合成オピオイド薬物により調節されないことを示す。
【0142】
実施例3 ACKR3に向かう高い特異性及びナノモル濃度以下のアゴニスト活性を有するアドレノルフィン由来オクタペプチドであるLIH383の開発
効力が高く選択的なACKR3調節性物質を開発するために、本発明者らは、アドレノルフィンSARデータを活用して、第二世代のペプチドを設計した。本発明者らは、アドレノルフィンY1Fバリアント(配列番号35;C末端にてNH
2置換されている)を足場として用いた。なぜならこれは、WTアドレノルフィンと比較して、ACKR3に向かう10倍の効力の増加及び古典的オピオイド受容体MOR、DOR及びKORに向かう100倍の効力の低減を示したからである(
図3A及びC)。F4W、V8F、V8K又は9Rを含む、ACKR3に向かう効力が増加した他の変異をさらに組み合わせ、得られたペプチドを、β-アレスチン動員アッセイにおいて試験した(
図3F)。試験した全ての組み合わせのうち、オクタペプチドFGGFMRRK(配列番号3;C末端にてNH
2置換されている) (LIH383と呼ぶ)が最も効力が高いACKR3アゴニストであり、EC
50は0.61 nMであった。注目すべきことに、LIH383は、ACKR3へのβ-アレスチン動員の誘導において、全長ケモカインリガンドCXCL12又はCXCL11 (それぞれEC
50 = 1.2 nM及び2.2 nM)よりも効力がより高かった(
図4B)。重要なことに、3μMほど高い濃度でさえ、LIH383処理によりいずれの他のオピオイド受容体又はいずれの他のケモカイン受容体の活性化も阻害も検出できなかった(
図4C、D、H及びI)。LIH383は、また、ヒト及びマウスACKR3(mACKR3)に対して等価な活性を有した(
図4B及びE)。LIH383は、ACKR3結合について、低いナノモル濃度にてCXCL12-AF647と直接競合した(
図4G)。さらに、Cy-5標識LIH383は、ACKR3発現U87細胞に結合したが、天然の又はCXCR4発現U87細胞には結合せず(
図4F)、このことにより、このペプチドは、特異的ACKR3調節のため又はACKR3発現細胞の検出のために潜在的に価値があり、汎用性のあるツールとなる。
【0143】
実施例4. ACKR3は、内因性オピオイドペプチドに応答してシグナル伝達しない
オピオイド系に対するACKR3の機能及び影響を解読するために、本発明者らは、U87細胞においてACKR3を介して下流のシグナル伝達を引き起こすオピオイドペプチドの能力を試験した。本発明者らは、まず、4つ全ての主要なGタンパク質経路を含む複数の下流のシグナル伝達事象を検出できる動的質量再分布(DMR)に基づくホールセル光学バイオセンシングアプローチを適用した。他の研究と一致して、本発明者らは、ケモカイン刺激の際にいずれのACKR3依存性シグナル伝達も検出しなかった(
図5A)。同様に、オピオイドペプチドに応答して、ACKR3でトランスフェクションした細胞と非トランスフェクション細胞との間で、DMRシグナルにおける差は観察されなかった(
図5B~D)。対照的に、これらの受容体による下流のシグナル伝達経路の堅固な活性化に従って、それぞれCXCL12、ダイノルフィンA/アドレノルフィン又はノシセプチン1-13に応答して、Gタンパク質シグナル伝達コンピテントCXCR4、KOR又はNOPを発現するU87細胞は、強いDMRを示さなかった(
図5A~D)。これらの観察結果と一致して、本発明者らは、全て効率的にmGiを動員したCXCR4又は古典的オピオイド受容体とは対照的に、ケモカイン又はオピオイドペプチド処理によるミニG(mG)タンパク質(mGi、mGs、mGq又はmG12/13)とのACKR3のいずれの相互作用も検出しなかった(
図5E、mGs、mGq及びmG12/13についてデータは示さず)。さらに、ホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)によりモニタリングしたERKリン酸化レベルは、ACKR3を安定的に発現する細胞のリガンド刺激により変化しなかったが、CXCR4を安定的に発現する細胞のCXCL12刺激後2と120分の間に、ERKリン酸化の強い増加が観察された(
図5F)。これらの結果は、さらに、それぞれのリガンドを用いる刺激によるCXCR4-又は古典的オピオイド受容体-発現細胞における堅固なシグナル増加とは対照的に、ACKR3陽性U87細胞(
図5G, 左のパネル)又はHEK293T及びCHO-K1細胞(データは示さず)におけるオピオイドペプチド又はケモカイン刺激によるMAPK/ERK依存性血清応答配列(SRE)の活性化の非存在により裏付けられた。オピオイド又はケモカインリガンドに応答するACKR3を介するシグナル伝達の同様の非存在が、カルシウム依存性活性化T細胞核内因子応答配列(NFAT-RE)活性化について示された(
図5G、右のパネル)。
これらのデータは、オピオイドペプチドが、ACKR3へのβ-アレスチンを誘導するが、古典的なGタンパク質により駆動される読み出しにおいて不活性であることを証明し、このことは、ACKR3が、オピオイドペプチドについてのスカベンジャーとして作用し得ることを示唆する。
【0144】
実施例5. ACKR3は、本発明のペプチドにより調節又は阻止できる内因性オピオイドペプチド取り込みを媒介する
ACKR3がオピオイドペプチドを取り除く能力を調べるために、本発明者らは、イメージングフローサイトメトリーを用いて、ACKR3又は対応する古典的オピオイド受容体を発現する細胞による異なるファミリーの蛍光標識オピオイドペプチドの取り込みを測定した。ダイノルフィンA(1-13)について、モノ-5(6)-カルボキシフルオレセイン(FAM)標識ダイノルフィンA(1-13)(以下ダイノルフィンA-FAM)を用い、U87-ACKR3細胞によるその取り込みを、イメージングフローサイトメトリーを用いて測定した。本発明者らは、40分間の刺激の後に、蛍光標識ペプチドの明確な細胞内蓄積とともに、飽和濃度のLIH383とプレインキュベーションしたU87細胞又はU87-ACKR3細胞と比較して、著しくより多数の明確なベシクル様構造と、平均蛍光強度とを観察し(
図6A)、このことは、ACKR3が、オピオイドペプチドの取り込みを媒介できることを証明した。さらに、ACKR3によるダイノルフィンA (1-13)の取り込みは、ACKR3に向かうダイノルフィンA (1-13)の効力がより低いにもかかわらず、このペプチドについての主要な古典的オピオイド受容体であるKORのものと比較してより効率的であった(
図6B)。同様のことが、ダイノルフィンA及びBの前駆体である標識ビッグダイノルフィンA、並びにエンケファリンファミリーからのペプチドであるBAM22について観察された。実際に、2つの受容体に向かう同様の効力にもかかわらず、BAM22は、MOR陽性細胞よりも、ACKR3陽性細胞によって著しくより内在化された。低親和性リガンドノシセプチンも、対応する古典的オピオイド受容体NOPと同程度にACKR3により内在化された(
図6B)。重要なことに、オピオイドペプチドのこのACKR3駆動性細胞内蓄積も、細胞外空間におけるそれらのアベイラビリティーの低減と関連した。例えば、本発明者らは、KORを活性化するダイノルフィンAの見かけの効力が、ACKR3発現細胞の存在下で損なわれたことを見出した。この効果はACKR3発現細胞を、飽和濃度のLIH383又はCXCL12で前処理した場合に逆になったが、無関係の対照ペプチド(LIH383 ctrl)又は無関係のケモカインCXCL10では逆にならず、このことは、ACKR3の一応の排除機能を示す(
図6C)。
【0145】
実施例6. ACKR3は、古典的オピオイド受容体と比較して、非定型の局在化及びリサイクリングパターンを示す。
この排除機能と一致して、ACKR3は、古典的オピオイド受容体と比較して、非定型の細胞局在化、内部移行及び輸送パターンを示した。以前の報告と一致して、本発明者らは、より高い割合のACKR3が、細胞表面と比較して細胞内に存在したことを観察した。対照的に、古典的オピオイド受容体MOR、DOR、KOR及びNOPは、細胞膜に主に局在化した(データは示さず)。さらに、様々なオピオイドペプチドの効率的な取り込み及び初期エンドソームへのそれらの送達にもかかわらず(
図6D)、細胞表面でのACKR3の全体的な低減は、古典的オピオイド受容体よりもわかりにくく、このことは、細胞膜と細胞内区画との間でのACKR3の迅速なサイクリングを反映するとみられた(
図6E)。ケモカインについて報告されたことと同様に、本発明者らは、刺激後のアゴニスト除去が、細胞膜でのACKR3の漸進的な増加を導くが、KORのような古典的受容体について、このような回復は観察されなかった(
図6F)。このことは、液胞型H+-ATPアーゼの阻害剤であるバフィロマイシンA1を用いて観察された結果によりさらに支持された。以前の研究は、低いエンドソームpHが、ACKR3からのケモカイン解離並びに効率的な受容体リサイクリング及び再感作に必要であることを示した。本発明者らは、液胞型H+-ATPアーゼの阻害剤であるバフィロマイシンA1での処理が、多様なオピオイドペプチドでの刺激後に細胞膜での受容体回復の低下をもたらしたが、KORの表面レベルに影響しなかったことを観察した(
図6G)。まとめると、これらの結果は、ACKR3が、細胞内区画と細胞膜との間の連続的な受容体サイクリングにより、異なるファミリーのオピオイドペプチドの迅速で効率的な取り込みを支持できることを証明し、このことは、細胞外オピオイドペプチドの漸進的な枯渇を導き、古典的受容体へのそれらのアベイラビリティーを制限する。
【0146】
実施例7. CNSオピオイド中心における内因性オピオイドペプチドのアベイラビリをレギュレートするための本発明のペプチドの使用
ACKR3の観察されたオピオイドペプチド排除能力の生理的関連性を確立するために、本発明者らは、Brainspanデータベース(www.brainspan.org)を用いて、オピオイドシグナル伝達/活性についての重要な中心に相当する異なる脳の領域における古典的オピオイド受容体と比較して、その遺伝子発現プロファイルを分析した。興味深いことに、ACKR3は、これらの多くの領域、例えば扁桃体、海馬又は内側前頭前野で発現されるだけでなく、その発現は、同じ領域におけるMOR (OPRM1)、KOR (OPRK1)、DOR (OPRD1)及びNOP (OPRL1)のものよりも頻繁により高かった(100倍まで) (
図7A)。これらのデータは、ヒト脳試料に対するqPCRによりさらに確認され、ここで、さらなるオピオイド中心、例えば歯状回又は青斑核が、同様の高いACKR3発現を示した(
図7B)。
【0147】
古典的オピオイド受容体と同じCNSの領域でのACKR3の発現、及び下流のシグナル伝達、特にGタンパク質媒介シグナル伝達を誘導することなく効率的にオピオイドペプチドを内在化するその能力を考慮して、本発明者らは、ACKR3が、それらのリガンドのアベイラビリティーをレギュレートすることにより古典的オピオイド受容体シグナル伝達に影響するのではないかと疑問を持った。この仮説及びより生理的な関係において ACKR3がシグナル伝達を引き起こす能力がないことを確認するために、本発明者らは、ACKR3を内因的に発現するが、古典的オピオイド受容体を発現しない小分子神経前駆細胞(smNPC)を用いた(
図7C)。本発明者らは、U87-ACKR3細胞とちょうど同じように、smNPCは、より高い割合のACKR3を、細胞表面と比較して細胞内で発現し(
図7D)、ERKシグナル伝達経路を活性化することなく(
図7F)、標識ダイノルフィンA (1-13)を蓄積できることを確認した(
図7E)。この取り込みは、smNPCをLIH383で前処理した場合に著しく低減したが、LIHctrlペプチドでの処理では低減しなかった(
図7E)。U87細胞の結果と一致して、この取り込みは、細胞外ダイノルフィンA濃度の減少と、その結果としてのその対応する古典的オピオイド受容体を介してシグナル伝達する能力とも関連した(
図7G)。
【0148】
オピオイドペプチドについてのACKR3の排除機能を最終的に確認するために、本発明者らは、ACKR3がKOR及びMORと一緒に見いだされる脳の一領域であるラット青斑核の外植片における自発的ニューロン脱分極(すなわちニューロン発火)のエクスビボダイノルフィンA媒介阻害をモニタリングした(
図7B)。ダイノルフィンAでの処理は、ニューロン脱分極(すなわちニューロン発火)の濃度依存的阻害を導き、1μMで完全阻害が得られた(
図7H)。しかし、同じ濃度のダイノルフィンAは、ナロキソンで前処理した場合にニューロン発火頻度の変化を導かず、このことは、発火のダイノルフィンA誘導阻害が、古典的オピオイド受容体.に帰する可能性があることを示した。3μMほど高い濃度のLIH383での処理は、しかし、ニューロン発火の著しい阻害を導かず、このことにより、ACKR3が、CNSのこの領域において古典的Gタンパク質シグナル伝達を引き起こすことができないことがさらに確認された(
図7H)。
興味深いことに、ACKR3の排除能力を選択的に遮断するためのLIH383 (1又は3μM)での青斑核ニューロンの前処理は、脱分極阻害の著しい増加と、その古典的受容体へのダイノルフィンAの効力の明らかな改善とをもたらした(
図7I)。この観察は、本発明者らのインビトロデータと一致し、インビボ、すなわちより生理学的環境及び豊富な内因性受容体の下でも、ACKR3が、オピオイド勾配を形作るその排除機能、及びそのことにより、その古典的オピオイド受容体を介するオピオイドペプチドの微調整されたシグナル伝達を発揮できることを示唆する。
【配列表】