(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】船舶監視装置
(51)【国際特許分類】
G08G 3/02 20060101AFI20250120BHJP
B63B 43/20 20060101ALI20250120BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20250120BHJP
【FI】
G08G3/02 A
B63B43/20
B63B79/40
(21)【出願番号】P 2021573028
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048157
(87)【国際公開番号】W WO2021149448
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020007184
(32)【優先日】2020-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(72)【発明者】
【氏名】中川 和也
【審査官】篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-125675(JP,A)
【文献】特開2015-186956(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003856(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/193596(WO,A1)
【文献】特開2020-098539(JP,A)
【文献】特開2020-044934(JP,A)
【文献】特開2019-204396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 3/02
B63B 43/20
B63B 79/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の船舶のうち第1船舶の変針を仮定して当該第1船舶が他の第2船舶と衝突するリスクを評価するために定められた、前記第2船舶について推定した予定針路上の位置をリスク評価位置と呼ぶときに、前記リスク評価位置以外の位置における前記第1船舶と前記第2船舶の衝突リスク値を、前記リスク評価位置における前記第1船舶と前記第2船舶の衝突リスク値に基づいて推定し、推定された前記衝突リスク値の分布を示すリスクマップを生成するリスクマップ生成部と、
前記リスクマップを表示するための表示データを生成する表示データ生成部と、
を備えることを特徴とする船舶監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶監視装置であって、
前記リスクマップ生成部は、リスク評価位置を基準として周辺の前記衝突リスク値を補間することができる関数を利用して、前記リスク評価位置以外の位置における前記衝突リスク値を推定し、推定された前記衝突リスク値の分布を示すリスクマップを生成することを特徴とする船舶監視装置。
【請求項3】
請求項2に記載の船舶監視装置であって、
前記リスクマップ生成部は、それぞれの前記リスク評価位置を中心とするカーネル関数を加算することにより、前記リスクマップを生成することを特徴とする船舶監視装置。
【請求項4】
請求項3に記載の船舶監視装置であって、
前記カーネル関数はガウス関数であることを特徴とする船舶監視装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の船舶監視装置であって、
複数の前記船舶から前記第1船舶を選択して指定可能な船舶指定部を備えることを特徴とする船舶監視装置。
【請求項6】
請求項5に記載の船舶監視装置であって、
船舶に備えられ、
前記船舶指定部は、自船の周囲にある他船を前記第1船舶として指定可能であることを特徴とする船舶監視装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の船舶監視装置であって、
船舶に備えられ、
前記リスクマップ生成部は、前記第1船舶及び前記第2船舶が何れも自船の周囲の他船である場合の前記リスクマップを生成可能であることを特徴とする船舶監視装置。
【請求項8】
請求項1から5までの何れか一項に記載の船舶監視装置であって、
地上施設に備えられることを特徴とする船舶監視装置。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の船舶監視装置であって、
前記リスクマップ生成部は、複数の船舶のそれぞれを前記第1船舶としたときの前記衝突リスク値の分布を合成して、前記リスクマップを生成することを特徴とする船舶監視装置。
【請求項10】
コンピュータにより、
複数の船舶のうち第1船舶の変針を仮定して当該第1船舶が他の第2船舶と衝突するリスクを評価するために定められた、前記第2船舶について推定した予定針路上の位置をリスク評価位置と呼ぶときに、前記リスク評価位置以外の位置における前記第1船舶と前記第2船舶の衝突リスク値を、前記リスク評価位置における前記第1船舶と前記第2船舶の衝突リスク値に基づいて推定し、
推定された前記衝突リスク値の分布を示すリスクマップを生成し、
前記リスクマップを表示するための表示データを生成する、
船舶監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶の航行情報を利用して、船舶同士の衝突が将来的に発生するゾーンを計算することができる船舶監視装置が知られている。非特許文献1は、この種の船舶監視装置による当該ゾーンの計算手法を開示する。
【0003】
非特許文献1は、OZT(Obstacle Zоne by Target)を計算する手法を開示する。非特許文献1に記載のOZTの計算においては、予 測した相手船の計画航路上に適宜の間隔で評価ポイントを設定し、それぞれの評価ポイントにおける衝突リスクを求める。設定した閾値を超える衝突リスクを評 価ポイントが持つ場合、当該評価ポイントを中心として適宜の大きさの円が表示される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】福戸淳司・今津隼馬:相手船による妨害ゾーン(OZT)を用いた衝突警報の検討,日本航海学会論文集,vоl.128,pp.49-54,2013.3.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の手法は、OZTを評価ポイント毎に適宜の大きさの円で示す構成であり、状況によっては円が混み合って表示が見づらくなっていた。 また、従来のOZTは、円が表示された場合でも、当該円の周辺において衝突リスクがある程度は高いのかそうでないのか、操船者は想像で判断せざるを得ず、 より広域的な観点で分かり易い情報をユーザに提供できる船舶監視装置が求められていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、衝突の可能性に関する情報をユーザが直感的に分かり易く知ることができる船舶監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の船舶監視装置が提供される。即ち、この船舶監視装置は、リスクマップ生成部と、表示データ生成部と、を備える。前記リ スクマップ生成部は、複数の船舶のうち第1船舶の変針を仮定して当該第1船舶が他の第2船舶と衝突するリスクを評価するために定められた、前記第2船舶に ついて推定した予定針路上の位置をリスク評価位置と呼ぶときに、前記リスク評価位置以外の位置における前記第1船舶と前記第2船舶の衝突の可能性を推定 し、推定された衝突の可能性の分布を示すリスクマップを生成する。前記表示データ生成部は、前記リスクマップを表示するための表示データを生成する。
【0009】
これにより、第1船舶の変針を仮定したときに、第2船舶と衝突する可能性を、リスク評価位置と異なる位置でも推定して示したリスクマップにより、ユーザは、第1船舶と第2船舶との衝突の可能性を、従来のOZTよりも広域的かつ直感的に理解することができる。
【0010】
前記の船舶監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この船舶監視装置は、情報取得部と、衝突リスク計算部と、を備える。前記情報取得 部は、複数の船舶の航行情報を取得する。前記衝突リスク計算部は、前記リスク評価位置について、前記第1船舶と前記第2船舶とが衝突するリスクを示す衝突 リスク値を、前記航行情報を利用して計算する。前記リスクマップ生成部は、前記リスク評価位置以外の位置における衝突リスク値を推定し、推定された衝突リ スク値の分布を示すリスクマップを生成する。
【0011】
これにより、リスク評価位置以外の位置における衝突リスク値を推定して示したリスクマップにより、ユーザは、第1船舶と第2船舶との衝突の可能性を、より具体的に理解することができる。
【0012】
前記の船舶監視装置においては、前記リスクマップ生成部は、リスク評価位置を基準として周辺の衝突リスク値を補間することができる関数を利用して、前記リ スク評価位置以外の位置における衝突リスク値を推定し、推定された衝突リスク値の分布を示すリスクマップを生成することが好ましい。
【0013】
これにより、ユーザは、リスク評価位置の周辺の衝突リスク値が補間されているリスクマップを見ることで、リスク評価位置の周辺における衝突の可能性を直感的に理解することができる。
【0014】
前記の船舶監視装置においては、前記リスクマップ生成部は、それぞれの前記リスク評価位置を中心とするカーネル関数を加算することにより、前記リスクマップを生成することが好ましい。
【0015】
これにより、滑らかに変化するカーネル関数を用いることで、位置の変化に応じて衝突リスク値が滑らかに変化するように、リスク評価位置でない位置における衝突リスク値を推定することができる。
【0016】
前記の船舶監視装置においては、前記カーネル関数はガウス関数であることが好ましい。
【0017】
これにより、リスク評価位置でない位置における衝突リスク値を適切に推定することができる。
【0018】
前記の船舶監視装置においては、複数の前記船舶から前記第1船舶を選択して指定可能な船舶指定部を備えることが好ましい。
【0019】
これにより、第1船舶の選択を切り換えつつリスクマップを表示させることで、様々な視点での衝突の危険性の分析が可能になる。
【0020】
前記の船舶監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この船舶監視装置は船舶に備えられる。前記船舶指定部は、自船の周囲にある他船を前記第1船舶として指定可能である。
【0021】
これにより、他船からみた衝突の危険性をリスクマップにより把握できるので、他船の回避行動を予測し易くなる。
【0022】
前記の船舶監視装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この船舶監視装置は船舶に備えられる。前記リスクマップ生成部は、前記第1船舶及び前記第2船舶が何れも自船の周囲の他船である場合の前記リスクマップを生成可能である。
【0023】
これにより、他船同士の衝突の危険性をリスクマップにより把握しながら操船することができる。
【0024】
前記の船舶監視装置においては、地上施設に備えられることが好ましい。
【0025】
これにより、例えば港湾を通行する船舶を監視する用途において、船舶同士の衝突の危険性をユーザに分かり易く表示することができる。
【0026】
前記の船舶監視装置においては、前記リスクマップ生成部は、複数の船舶のそれぞれを前記第1船舶としたときの衝突の可能性の分布を合成して、前記リスクマップを生成することが好ましい。
【0027】
これにより、多数の船舶が関係する状況において、全体的に衝突の危険性が高い領域/低い領域を分かり易く表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の一実施形態に係る操船支援装置の電気的構成を示すブロック図。
【
図2】第1船舶として自船を選択した状況における、リスク評価位置及び衝突リスク値の例を示す図。
【
図3】リスク評価位置以外の位置における衝突リスク値を推定する方法を説明する概念図。
【
図4】リスクマップ生成部によって生成されるリスクマップの一例を示す図。
【
図5】第1船舶として他船を選択した状況における、リスク評価位置及び衝突リスク値の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る操船支援装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【0030】
図1に示す本実施形態の操船支援装置(船舶監視装置)1は、水上を移動する船舶に設けられ、他船の動向等の情報を表示する。
【0031】
操船支援装置1には、表示装置3が接続される。表示装置3は、例えば液晶ディスプレイとして構成され、操船を支援する情報を表示する。操船支援装置1は、 適宜の情報を表示装置3に表示するための表示データを生成し、当該表示装置3に出力する。操船支援装置1が生成する表示データには、自船の位置及び速度の 情報、他船の位置及び速度の情報が含まれる。また、この表示データには、船舶同士の衝突の可能性が高い場所の情報を示したリスクマップが含まれる。
【0032】
リスクマップは、衝突の可能性が高い地点と、衝突の可能性を評価した値と、をOZTに類似した手法で求め、これらに基づいて作成される。OZTは、自船 (第1船舶)の変針に対して、他船(第2船舶)に妨害される領域を当該他船の予定針路上に示したものである。ただし、本発明では、自船と他船の関係で衝突 の可能性を評価するOZTを、他船と自船の関係、又は他船と他船の関係に対しても拡張している。従って、第1船舶は自船にも他船にもなり得るし、第2船舶 は自船にも他船にもなり得る。
【0033】
この操船支援装置1は、船舶データ取得部(情報取得部)11と、対象船舶選択部(船舶指定部)21と、リスク評価位置計算部31と、衝突リスク計算部41と、リスクマップ生成部51と、表示データ生成部61と、を備える。
【0034】
具体的に説明すると、操船支援装置1は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM等を備える。ROMには、上記のリスクマップの表 示データを生成するためのプログラムが記憶される。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、操船支援装置1を、船舶データ取得部11、対象船舶選 択部21、リスク評価位置計算部31、衝突リスク計算部41、リスクマップ生成部51、及び表示データ生成部61等として動作させることができる。
【0035】
船舶データ取得部11は、自船、及び、自船の周りに存在する他船に関し、必要なデータを取得する。このデータには、船舶の位置及び速度に関する情報(航行情報)が含まれる。
【0036】
具体的には、操船支援装置1には、図略のGNSS測位装置が接続されている。船舶データ取得部11は、GNSS測位装置から入力される測位結果に基づい て、自船の位置を取得することができる。また、船舶データ取得部11は、GNSS測位装置から得られる位置の変化を計算することにより、自船の船速を取得 することができる。
【0037】
また、操船支援装置1には、自船の周囲を探知してレーダ映像を生成する図略のレーダ装置が接続されて いる。このレーダ装置は、探知した物標(他船)の動きを検出して追尾する技術であるTT(ターゲットトラッキング)機能を有している。TT機能は公知であ るため簡単に説明すると、TT機能は、過去のレーダ映像の推移に基づいて、自船の周囲に存在する物標(他船)の位置及び速度ベクトルを計算により取得する ものである。
【0038】
レーダ装置は自船を基準とした相対的な他船の位置及び速度を取得するものであるが、船舶データ取得部11に 入力される他船の位置及び速度ベクトルは、適宜の手段(例えば、上記のGNSS測位装置及び図略の方位センサ)により得られた自船の位置及び船首方位に基 づいて、対地基準となるように予め変換されている。
【0039】
対象船舶選択部21は、リスクマップを生成するにあたって、自船と他船の中から、どの船舶の変針を仮定して衝突の可能性を考慮するか(即ち、上述の第1船舶を何れの船舶とするか)を選択する。
【0040】
操船支援装置1のユーザである操船者が何も指定しない場合、第1船舶としては既定値として自船が選択される。従って、生成されるリスクマップは、自船と他 船との衝突の可能性を示したものとなる。しかし、操船者が表示装置3の画面を見ながら所望の他船を指定する操作をすることで、当該他船を基準としたリスク マップを生成することもできる。操作は、表示装置3が備える図略の入力操作装置(例えば、ジョイスティック又はトラックボール等)を用いて行うことがで き、また、操船支援装置1に接続される入力操作装置を用いることもできる。
【0041】
図2には、船舶データ取得部11に入力される、自船5と、4つの他船6,7,8,9と、の位置の例が示されている。
図2において、自船5及び他船6,7,8,9の位置には、それぞれの速度ベクトルが矢印で示されている。
【0042】
以下では、対象船舶選択部21により、自船5が第1船舶として選択された場合を説明する。従って、他船6,7,8,9は第2船舶に相当する。
【0043】
図1のリスク評価位置計算部31は、第1船舶と第2船舶との間で、第1船舶の行動を制約する第2船舶の将来位置を予測することにより、リスク評価位置を計 算する。リスク評価位置は、将来の時刻における第2船舶の位置と一致するように定められ、第1船舶と第2船舶との衝突のリスクを評価する位置的基準とな る。
【0044】
リスク評価位置計算部31は、第2船舶の将来位置を予測するにあたって、第2船舶が、現在の位置から、針路及び船速を一定に保ったまま移動すると仮定する。従って、第2船舶の将来の予測位置は、第2船舶の予定針路に沿って並ぶように位置する。
【0045】
リスク評価位置計算部31は、第2船舶について推定した予定針路に沿って適当な間隔で並ぶようにリスク評価位置を複数定め、それぞれのリスク評価位置を特 定する情報を、衝突リスク計算部41及びリスクマップ生成部51に出力する。また、リスク評価位置計算部31は、当該リスク評価位置に第2船舶が到達する 予定時刻を併せて求め、この予定時刻を衝突リスク計算部41に出力する。
図2には、それぞれの第2船舶(他船6,7,8,9)についてリスク評価位置計算 部31が定めたリスク評価位置の例が、小さい丸印で示されている。
【0046】
図1の衝突リスク計算部41は、リスク評価位置計算部31から入力されるリスク評価位置のそれぞれについて、当該リスク評価位置で第1船舶と第2船舶との衝突リスクを予測した衝突リスク値を計算する。
【0047】
以下、具体的に説明する。まず、衝突リスク計算部41は、リスク評価位置計算部31の計算により得られたリスク評価位置に第1船舶が到達する予定時刻を求 める。このとき、リスク評価位置計算部31は、第1船舶が、現在時刻の時点でリスク評価位置に向けて変針し、変針前と同じ船速を保ったまま移動すると仮定 する。また、衝突リスク計算部41には、リスク評価位置に第2船舶が到達する予定時刻が、リスク評価位置計算部31から入力される。
【0048】
本実施形態では、リスク評価位置に第1船舶が到達するのと同時に、第2船舶が到達したとき、衝突が起こると考える。ただし、操船支援装置1に入力される第 1船舶及び第2船舶の船速の誤差を考慮すれば、リスク評価位置に第1船舶が到達する時刻の確率密度分布、及び、第2船舶が到達する時刻の確率密度分布は、 それぞれの到達予定時刻を中心とする正規分布に従う。そこで、第1船舶及び第2船舶が同時にリスク評価位置に到達する確率は、上記の2つの確率密度分布の 積を時間積分することにより求めることができる。
【0049】
衝突リスク計算部41は、積分により得られた値を、衝突リスク値として リスクマップ生成部51に出力する。
図2のリスク評価位置の近傍に付された数値は、そのリスク評価位置に関して衝突リスク計算部41が計算した衝突リスク 値の例を示す。ただし、計算結果の衝突リスク値が実質的にゼロであるリスク評価位置については、数値は省略されている。
【0050】
リスクマップ生成部51は、操船者を支援するための情報であるリスクマップを生成する。リスクマップ生成部51は、生成したリスクマップを、表示データ生成部61に出力する。
【0051】
リスクマップは、リスク評価位置における衝突リスク値から、他の位置の衝突リスク値を内挿的又は外挿的に推定し、衝突リスク値の2次元的な分布として表し たものである。リスクマップは、リスク評価位置における衝突リスク値の影響が、リスク評価位置から離れるに従って単調減少的に弱まるように、前記リスク評 価位置以外の位置における衝突リスク値を推定することにより作成することができる。
【0052】
本実施形態において、リスクマップ生 成部51は、
図3に示すように、それぞれのリスク評価位置を中心として、リスク評価値に応じた重みを乗じた等方的な2次元ガウス分布を配置し、これを加算 することにより衝突リスク値を推定する。この手法により、それぞれのリスク評価位置を基準として、当該リスク評価位置の周辺の衝突リスク値(例えば、2つ のリスク評価位置の間の位置における衝突リスク値)を補間により得ることができる。
図3には、
図2における2つのリスク評価位置とその衝突リスク値を取り 出して、対応する2つのガウス分布を加算した(畳み込んだ)例が示されている。
【0053】
このように、値が得られた点のそれぞれにカーネル関数を当てはめる処理を行い、配置された関数を重ね合わせる方法は、カーネル法と呼ばれている。このような処理により、リスク評価位置以外の位置における衝突リスク値を、滑らかに変化するように得ることができる。
【0054】
本実施形態においては、カーネル関数としてガウス関数が用いられている。これにより、リスク評価位置計算部31により得られたリスク評価位置の誤差を適切に考慮することができる。
【0055】
なお、リスクマップは、他の推定方法によって得ることもできる。例えば、リスク評価位置以外の位置における衝突リスク値を、公知の逆距離加重補間法によって推定しても良い。
【0056】
図1の表示データ生成部61は、リスクマップ生成部51から入力したリスクマップを表示装置3に表示させるための表示データを生成する。表示データ生成部61は、生成した表示データを、適宜のインタフェースを介して表示装置3に出力する。
【0057】
図4には、
図2の状況に対応したリスクマップが表示装置3に表示された例が示されている。このようなリスクマップを参考にすることで、操船者は、第1船舶 (自船5)にとって第2船舶(他船6,7,8,9)との衝突発生のリスクが高い領域と、リスクが低い領域と、を直感的に識別することができる。
【0058】
図4では、図面の表現の都合上、衝突リスク値が高い場所を間隔が狭いハッチングの領域で示し、衝突リスク値が低い場所を間隔が広いハッチング又はハッチン グなしの領域で示している。
図4ではハッチングの広狭が段階的に変化しているが、実際の表示画面では、位置の変化に応じて衝突リスク値が滑らかに変化する ことに伴い、色の変化も滑らかである。
【0059】
衝突の危険性は不確実なものであるから、衝突の危険性が高い領域は、従来のOZT 表示のように円等の図形で明瞭に区切ることができるものではなく、本来、その輪郭は不明確である。この点、本実施形態のリスクマップは、そのような境界の 曖昧さを、色の滑らかな変化(中間の色を経由した変化)によって表現することができる。従って、操船者が衝突の危険性に対して持つ一般的な感覚と親和性が 高い表示を実現することができる。
【0060】
実際の表示画面では、衝突リスクが高い場所は赤色で、衝突リスクが低い場所は黒色で示 されている。ただし、色の割当ては任意であり、例えばサーモグラフィで用いられるように、衝突リスク値が高い順に赤色、黄色、緑色、水色、青色、黒色と滑 らかに変化するように割り当てることもできる。この場合、公知のヒートマップ表示を実現することができる。
【0061】
上述したよう に、本実施形態では、対象船舶選択部21により、上述の第1船舶を何れの船舶とするかを変更することができる。自船5の操船者が操船支援装置1を操作し、 リスク評価位置及び衝突リスク値を計算する基準(第1船舶)として他船7を選択した場合、リスク評価位置及び衝突リスクは、例えば
図5のようになる。これ により、図示しないが、生成されるリスクマップも
図4の例とは異なるものになる。他船7を基準とするリスクマップを表示することで、自船5の操船者は、他 船7の将来の針路を予測することが容易になる。
【0062】
図2及び
図5に示す衝突リスク値の分布は、加算により容易に合成すること ができる。リスクマップ生成部51は、
図2に示される自船5及び他船6,7,8,9の中で第1船舶の選択を1つずつ切り換えながら衝突リスク値の分布をそ れぞれ計算し、全て合成した結果に基づいたリスクマップ(合成リスクマップ)を生成することもできる。この合成リスクマップは、他船6,7,8,9と他船 6,7,8,9との衝突リスクも考慮したものになる。合成リスクマップにおいて色が赤く表示されている場所は、将来的に輻輳が発生する可能性が高いことを 表しており、これは自船5の操船にあたって有用な情報となる。
【0063】
上記の実施形態において、操船支援装置1は船舶(自船5) に備えられる。ただし、操船支援装置1と同様の構成の装置を、港湾を通行する船舶を監視するために地上の施設に設置される港湾監視装置として用いることも できる。港湾監視装置において自船/他船の概念はないが、例えば対象船舶選択部21において複数の船舶から1の船舶を選択することで、当該船舶を基準とす るリスクマップを表示することができる。また、上述の合成リスクマップを表示させることで、港湾において将来的に混雑が発生しそうな領域を監視者が容易に 理解することができる。
【0064】
以上に説明したように、本実施形態の操船支援装置1は、リスクマップ生成部51と、表示データ生 成部61と、を備える。リスクマップ生成部51は、第1船舶(例えば、自船5)の変針を仮定して当該第1船舶が他の第2船舶(例えば、他船 6,7,8,9)と衝突するリスクを評価するために定められた、前記第2船舶について推定した予定針路上の位置をリスク評価位置と呼ぶときに、前記リスク 評価位置以外の位置における前記第1船舶と前記第2船舶の衝突の可能性を推定し、推定された衝突の可能性の分布を示すリスクマップを生成する。表示データ 生成部61は、リスクマップを表示するための表示データを生成する。
【0065】
これにより、第1船舶の変針を仮定したときに、第2船舶と衝突する可能性を、リスク評価位置と異なる位置でも推定して示したリスクマップにより、操船者は、第1船舶と第2船舶との衝突の可能性を、従来のOZTよりも広域的かつ直感的に理解することができる。
【0066】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0067】
他船の位置及び船速は、レーダ装置のTT機能に代えて、AIS装置により取得することもできる。
【0068】
リスクマップ生成部51が用いるカーネル関数は任意であり、上述のガウス分布に代えて、例えばcos関数等の公知のカーネル関数を用いることができる。
【0069】
リスク評価位置における衝突リスク値は、衝突の危険性の大小を評価できる値であれば良く、衝突確率分布を積分して求める以外の方法でも得ることができる。 例えば、当該リスク評価位置に第2船舶が到達する時刻を求めるとともに、当該時刻での第1船舶の予測位置を示す円(予測円)を求め、リスク評価位置と予測 円との最小距離を衝突リスク値として求めても良い。
【0070】
上記の実施形態では、リスク評価位置計算部31は、第2船舶の予定針 路に沿って適当な間隔で並ぶようにリスク評価位置を複数定めている。しかしながら、リスク評価位置計算部31は、異なる手法を用いて第2船舶の予定針路上 にリスク評価位置を定めても良い。例えば、リスク評価位置計算部31は、第1船舶及び第2船舶の位置及び船速(言い換えれば、第1船舶と第2船舶の速力 比)から求めた将来的に衝突が発生する可能性がある衝突予測点の軌跡と、第2船舶の予定針路と、の交点を、リスク評価位置として定めても良い。なお、この 衝突予測点の軌跡は、衝突予測線(LOPC:Line of Predicted Collisiоn)として知られている。
【0071】
リスク評価位置計算部31は、第1船舶の位置及び船速と、第2船舶の位置及び速度と、から計算されるDCPAやTCPAを利用して、相手船の予定針路上にリスク評価位置を定めても良い。
【0072】
公知の文献(今津隼馬:衝突針路を使ったOZT算出方法,日本航海学会誌 NAVIGATION,vоl.188,pp.78-81,2014.4.)に は、相手船の予定航路上において、OZTを線分として簡単に算出する方法が開示されている。この方法は、実質的には、相手船の予定航路上のあらゆる位置 (リスク評価位置)において、衝突の可能性が所定の程度以上となっているか否かを評価していると考えることができる。上記の算出方法でOZTを求める場 合、リスクマップ生成部51は、自船(第1船舶)の周囲の領域を分割するようにある程度の大きさのメッシュを定義し、それぞれのメッシュ毎に、上記の OZTの線分が含まれる他船(第2船舶)の数を計算する。更に、リスクマップ生成部51は、それぞれのメッシュの中心位置に上記の数を値として配置したと きに、隣接するメッシュの中心の間の位置における値を、2次元補間計算により求める。これにより、他船(第2船舶)の予定航路以外の位置における衝突の可 能性を推定した結果を分布として示すリスクマップを生成することができる。
【0073】
リスクマップ表示と、非特許文献1のような円 によるOZT表示と、をユーザの操作により切り換えて表示可能に構成しても良い。操船支援装置1において、自船以外の他船を基準(第1船舶)として円によ るOZT表示を行うことにより、ユーザに有用な情報を提供することができる。円によるOZT表示と、リスクマップと、を重ねて同時に表示しても良い。
【0074】
リスクマップを作成する際の、それぞれのリスク評価位置における衝突リスク値の空間的影響の範囲(言い換えれば、カーネル関数におけるいわゆるバンド幅)は、一定値としても良いが、ユーザが変更できるように構成しても良い。
【符号の説明】
【0075】
1 操船支援装置(船舶監視装置)
11 船舶データ取得部(情報取得部)
41 衝突リスク計算部
51 リスクマップ生成部