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7622052車両フレームのための成形板金部品および対応する製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】車両フレームのための成形板金部品および対応する製造方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/15 20060101AFI20250120BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20250120BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20250120BHJP
   B21D 53/88 20060101ALI20250120BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20250120BHJP
   B62D 25/20 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
B62D21/15 C
B21D22/20 H
B21D22/26 D
B21D53/88 Z
B62D25/04 A
B62D25/04 B
B62D25/20 F
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022523400
(86)(22)【出願日】2020-11-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2020081322
(87)【国際公開番号】W WO2021089800
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】19382980.1
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522158409
【氏名又は名称】オートテック エンジニアリング ソシエダー リミターダ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ガルセラン オムス ローラ
(72)【発明者】
【氏名】コロン モレノ デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】メカ マルティネス マルティ
(72)【発明者】
【氏名】マルケス デュラン セルヒ
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-512594(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0054513(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0166166(US,A1)
【文献】特開2010-236560(JP,A)
【文献】特開2014-024074(JP,A)
【文献】特開2019-111567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00-25/08
B62D 25/14-29/04
B21D 53/88
B21D 22/00-26/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的に加熱軟化された部分を有する成形板金部品(1)を製造するための方法であって、
[a]該成形板金部品を成形するための、第一の成形工程と、
[b]該第一の成形工程ののち、該成形板金部品(1)の第一の部分(2)を局所的に加熱軟化させるための、局所的加熱軟化工程と
を含み;以下:
[c]該加熱軟化工程の前に、専用の三次元歪み吸収区域(4)を成形するための、第二の成形工程
をさらに含み、該三次元歪み吸収区域(4)が、該第一の部分(2)がその範囲内で局所的に加熱軟化されるところの内部境界(6)を画定し、
[d]該歪み吸収区域(4)が、該局所的加熱軟化工程が実行されたならば該内部境界(6)が該第一の部分(2)に隣接し、該第一の部分(2)を取り囲んで、該加熱軟化工程によって誘発される寸法歪みを吸収するように寸法設定されていること
を特徴とする、方法。
【請求項2】
第二の成形工程が熱間または冷間成形によって実施されることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第一の成形工程がスタンピング工程であり、該第一および前記第二の成形工程が同時に実行されることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
局所的加熱軟化工程中、スタンピング部品の第一の部分(2)が300℃~1200℃で加熱されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
局所的加熱軟化工程中、スタンピング部品の第一の部分(2)が500℃~800℃で加熱されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
局所的加熱軟化工程が、500W~100kWで構成されるパワーを有するレーザービームを第一の部分(2)に照射することによって実施されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
局所的加熱軟化工程が、1kW~10kWで構成されるパワーを有するレーザービームを第一の部分(2)に照射することによって実施されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
成形板金部品(1)が、0.5~8mmの厚さを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
成形板金部品(1)が、0.5~6mmの厚さを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
成形板金部品(1)が、0.5~3mmの厚さを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
成形板金部品(1)が、0.8~2.5mmの厚さを有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
歪み吸収区域(4)が2~20mmの高さを有することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項記載の方法。
【請求項13】
局所的に加熱軟化された第一の部分(2)が、内部境界(6)から0~50mmだけ離れていることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
局所的に加熱軟化された第一の部分(2)が、内部境界(6)から0~10mmだけ離れていることを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
歪み吸収区域(4)が丸みのある縁部を含み、内部境界(6)が該丸みのある縁部の内接線によって画定されることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
丸みのある縁部が2~20mmの半径を有することを特徴とする、請求項15記載の方法。
【請求項17】
丸みのある縁部が2~10mmの半径を有することを特徴とする、請求項15記載の方法。
【請求項18】
第一の部分(2)が100mm2~50,000mm2の面積を有することを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
第一の部分(2)が100mm2~15,000mm2の面積を有することを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
歪み吸収区域(4)が、凸部、凹部または囲い状の突出部によって形成される群のうちの1つであることを特徴とし、該歪み吸収区域(4)が、局所的に加熱軟化された第一の部分(2)を実行するための平坦な部分を取り囲むことを特徴とする、請求項1~19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
歪み吸収区域(4)が囲い状の突出部であるとき、それが、幅0超~20mmの平坦部をさらに含むことを特徴とする、請求項20記載の方法。
【請求項22】
内部境界(6)が、局所的に加熱軟化された第一の部分(2)を完全に取り囲むような閉じた境界であることを特徴とする、請求項1~21のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、車両産業における車両のフレームのための板金部品、特に、衝突時性能および受動的安全性に関連する部品の製造の分野にある。車両部品フレームは、自動車、トラック、列車、地下鉄などの任意の種類の車両に当てはまる。
【0002】
より具体的には、本発明は、車両フレームのための成形板金部品に関し、これは、該板金部品が成形されたのち局所的に加熱軟化される、該板金部品の第一の部分を含む。
【0003】
本発明はさらに、成形板金部品を成形するための第一の成形工程と、該第一の成形工程ののち、該成形板金部品の第一の部分を局所的に加熱軟化させるための局所的加熱軟化工程とを含む、局所的に加熱軟化された部分を有する成形板金部品を製造するための方法に関する。
【0004】
本発明中、「加熱軟化」という用語は、加熱軟化部分における板金の降伏応力を減らすような、熱による板金の金属組織構造の変性、と理解されるべきである。この金属組織変性により、部品のこの部分は、部品の残り部分とは異なる機械的性質、特に、より高い延性を提供される。
【背景技術】
【0005】
現状技術
最新の車両フレームは、板金ブランクから、コールドスタンピング、プレス硬化、ロール成形または間接的プレス硬化などのプロセスによって製造される。この種の車両部品の例が、フレームピラー、ロッカー、ルーフトップ部品、フロアクロスメンバー、フロントレールなどである。これらの部品は、好ましくは、約1,500MPaの引張り強さを提供する超高強度鋼(UHSS)から作製される。その利点は、きわめて頑丈な部品が得られることである。これらの部品のおかげで、事故の場合、搭乗者のためのサバイバルケージを提供する搭乗者セーフティセルを創出することができる。しかし、これらの車両フレームにおいてはまた、衝突時に発生するエネルギーがそのいくつかの所定の区域によって吸収されることが求められる。このエネルギーは、これらの区域の制御された変形によって吸収される。変形によって放散されるエネルギーが多くなればなるほど、搭乗者に対する損傷は少なくなる。
【0006】
この課題を解決するために、より予測可能な衝突時挙動を有し、また、作業後のプロセス、例えば溶接プロセス中のひび割れを避けるために、低下させた引張り強さ、例えば約575~1,300MPaの引張り強さの区域をフレーム中に創出することが公知である。
【0007】
そのような軟化区域をフレーム中に創出するためのいくつかのプロセス、例えば、フレームのいくつかの部分の選択的焼入れ、部品のいくつかの構成部分の分割炉加熱またはこれらの部品の一部分のレーザーもしくは誘導軟化によるプロセスが公知である。
【0008】
レーザー軟化プロセスが、その融通性および適合性の理由から、特に推奨される。この方法は一般に、超高強度鋼(UHSS)に適用され、ホットスタンピング部品の非等温急速加熱処理、すなわち、金型中での同時成形・焼入れからなる。これが、結果的に、材料に含まれるマルテンサイトの焼戻し、ひいては、プロセスが実施された部分の引張り強さの低下を生じさせる。
【0009】
レーザー軟化プロセスの目的は、500MPa~1,400MPa、好ましくは600MPa~1,200MPaの範囲の引張り強さ値を得るために、400℃~900℃、好ましくは500℃~750℃の温度に到達させることである。軟化処理は局所的に適用され、部品の残り部分の性質を変化させることはない。焼戻しが起こる区域はソフトゾーンと呼ばれる。
【0010】
レーザー軟化プロセスに関連する課題は、それが、局所的加熱処理であるため、部品中に幾何学的歪みを誘発することである。これは、部品が加熱区域において公差を逸脱することを招くことがある。この効果は、この技術の妥当性を確認するために、課題を生じさせる。理由は、局所的軟化プロセスののち幾何学的規格値が達成されないならば、車両製造者は、その技術を使用することを嫌がる場合があるからである。
【0011】
この課題に対して考え得る解決手段は、部品を再び目標公差内に戻すために、処理後工程を導入することにある。しかし、この追加工程は、その追加費用およびロジスティック的複雑さのせいで、あまり望まれない。
【0012】
US20190054513A1(特許文献1)は、異なる強度の少なくとも2つの領域と、保護層とを有する自走車構成部品を製造するための方法であって、以下のプロセス工程:[a]硬化されていてもよい鋼合金で作製された、プレコート済みブランクを提供する工程;[b]少なくともAC1温度以上、好ましくはAC3温度以上である加熱温度まで均一に加熱する工程;[c]プレコーティングがブランクと合金化するよう加熱温度を保持する工程;[d]合金化ブランクを450℃~700℃の中間冷却温度まで均一に中間冷却する工程;[e]ブランクを、中間冷却温度から、第一のタイプの領域における少なくともAC3温度へと部分的に加熱し、第二のタイプの領域を実質的に中間冷却温度に保持する工程;[f]部分的に焼戻しされたブランクを熱間成形し、プレス硬化して自走車構成部品を成形する工程からなる方法を開示している。第一のタイプの領域では1400MPaを超える引張り強さが生成され、第二のタイプの領域では1050MPa未満の引張り強さが生成され、該領域の間に移行領域が生成される。
【0013】
US20140166166A1(特許文献2)は、自動車用コラム材を製造するための方法を開示している。自動車用コラム材は、互いに異なる強度を有する、第一のタイプの領域および第二のタイプの領域を有する。50mm未満の幅を有する移行領域が2つの領域の間に形成される。自動車用コラム材は、第一のタイプの領域においてはベイナイト構造を有し、第二のタイプの領域においてはマルテンサイト構造を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】US20190054513A1
【文献】US20140166166A1
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、製造しやすく、かつ、求められる製造品質を維持する、改善された衝突時挙動を有する車両フレームのための成形板金部品を提案することである。この目的は、冒頭で示したタイプの成形板金部品によって達成され、これは以下を特徴とする:三次元歪み吸収区域をさらに含み、この区域は、該板金部品が成形されたのち前記第一の部分がその範囲内で局所的に加熱軟化されるところの内部境界を画定し、該歪み吸収区域は、該局所的加熱軟化工程が実行されたならば該内部境界が該第一の部分に隣接し、該第一の部分を取り囲んで、該局所的に加熱軟化された第一の部分によって誘発される寸法歪みを吸収するように寸法設定されている。
【0016】
三次元歪み吸収区域または幾何学的歪み吸収部は、以下:前記部品中に突出または貫入し、かつこの歪み吸収区域を取り囲む部品の残り部分から区別される高さを有する、任意の種類の専用の凹部または凸部を部品中に創出すること、によって得ることができる。
【0017】
歪み吸収区域は、後で加熱軟化されなければならない部分の周辺部についてより高い剛性を提供する。そして、加熱軟化工程が実行されるとき、熱によって前記部品の第一の部分中に誘発される引張りは、このより高い剛性の周囲区域によって中和される。したがって、第一の部分の最終的な変形は減らされ、または補償され、第一の部分はその寸法安定性を維持する、または少なくとも、部品を所定の公差内に維持するように変形が減らされる。
【0018】
本発明はさらに、従属項の対象であるいくつかの好ましい特徴を含み、それらの効用は、以下、本発明の態様の詳細な説明において強調される。
【0019】
好ましくは、板金部品は、コールドスタンピング、プレス硬化、ロール成形または間接的プレス硬化からなる群のうちの1つまたは複数のプロセスによって成形される。
【0020】
特に好ましくは、前記局所的加熱軟化工程は、誘導、レーザービーム照射、抵抗加熱などによって実施される。しかし、局所的加熱プロセスを可能な限り融通性にするために、レーザービーム照射が特に好ましい。
【0021】
先に説明したように、本発明の最も好ましい用途において、部品は車両フレーム部品である。したがって、成形による部品の良好な加工性を有するために、板金部品は、0.5~8mm、好ましくは0.5~6mm、より好ましくは0.5~3mm、特に好ましくは0.8~2.5mmの厚さを有する。
【0022】
また、局所的に加熱軟化された第一の部分の変形を補償する技術的効果と、部品への望まれない引張り状態の導入の回避との間の良好な折り合いのために、別の態様において、前記歪み吸収区域は2~20mmの高さを有する。この範囲は、部品の望まれない疲労破損を招き得る部品中の区域が生じることを回避する。
【0023】
熱によって誘発される寸法歪みの最適な変形吸収を保証するために、好ましい態様において、前記局所的に加熱軟化された第一の部分は、前記内部境界から0~50mm、好ましくは0~10mmの距離だけ離れている。
【0024】
好ましくは、前記歪み吸収区域において切欠き効果が生じることを回避するために、該歪み吸収区域は丸みのある縁部を含み、前記内部境界は、該丸みのある縁部の内接線によって画定される。
【0025】
好ましくは、前記丸みのある縁部が2~20mm、好ましくは2~10mmの半径を有するとき、歪み吸収区域の創出またはその後の局所的加熱のいずれかによって生じる疲労亀裂をなくすことができる。
【0026】
衝突状況における板金部品の変形の最適な制御を得るために、前記第一の部分は、100mm2~50,000mm2、好ましくは100mm2~15,000mm2の面積を有する。また、加熱軟化された部分の創出を簡単にするために、前記第一の部分は正方形または長方形であることが特に好ましい。
【0027】
別の態様において、前記歪み吸収区域は、凸部、凹部または囲い状の突出部によって形成される群のうちの1つであり、該歪み吸収区域は、前記局所的に加熱軟化された第一の部分を実行するための平坦な部分を取り囲む。特に好ましくは、歪み吸収区域の断面は、半円形、三角形、丸みのある縁部を有する等脚台形断面である。
【0028】
歪み吸収区域の様々な形状の中でも、最良の歪み減少を得るためには、囲い状の突出部が特に好ましい。
【0029】
また、前記歪み吸収区域が囲い状の突出部であるとき、それはさらに、幅0超~20mmの平坦部を含む。平坦部は、より良好な順応性を提供し、さらに、他の部品を溶着することができる区域を創出する。
【0030】
さらなる態様において、加熱軟化工程後の前記部品の変形を最小化するために、前記内部境界は、前記局所的に加熱軟化された第一の部分を完全に取り囲むような閉じた境界である。
【0031】
本発明の別の目的は、上記タイプの局所的に加熱軟化された部分を有する成形板金部品を製造するための方法を提案することであり、これは以下を特徴とする:前記加熱軟化工程の前に、専用の三次元歪み吸収区域を成形するための第二の成形工程をさらに含み、該三次元歪み吸収区域は、前記第一の部分がその範囲内で局所的に加熱軟化されるところの内部境界を画定し、該歪み吸収区域は、該局所的加熱軟化工程が実行されたならば該内部境界が該第一の部分に隣接し、該第一の部分を取り囲んで、該加熱軟化工程によって誘発される寸法歪みを吸収するように寸法設定されている。
【0032】
前記成形工程はホットスタンピングによって実施されることが特に好ましい。ホットスタンピングは、超高強度鋼、例えば22MnB5ボロン鋼のスタンピング部品の製造を可能にする。これは、フレームの重量を減らしながらも車両の受動的安全性を顕著に改善する。あるいはまた、部品は、コーティング付きまたはコーティングなしの従来の自動車用鋼を使用するコールドスタンピングによって製造することもできる。
【0033】
また、高度に効率的な製造プロセスに達するために、前記第一の成形工程はスタンピング工程であり、該第一および前記第二の成形工程は同時に実行される。スタンピング金型中での第二の成形工程を含むことによって、追加的なスタンピング工程が不要になるため、部品製造プロセスに顕著な追加コストは加わらない。しかし、本発明によって達成される利点はなおも得られる。
【0034】
別の態様において、前記局所的加熱軟化工程中、前記スタンピング部品の第一の部分は、300℃~1200℃、好ましくは500℃~800℃で加熱される。
【0035】
最後に、前記局所的加熱軟化工程は、500W~100kW、好ましくは1kW~10kWのパワーを有するレーザービームを前記第一の部分に照射することによって実施される。
【0036】
同様に、本発明はまた、本発明の態様の詳細な説明および添付図面に示される他の詳細の特徴を含む。
【図面の簡単な説明】
【0037】
本発明のさらなる利点および特徴は、限定的な性質なしに図面を参照しながら本発明の好ましい態様が開示される以下の詳細な説明から明らかになる。
【0038】
図1】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第一の態様の斜視図を示す。
図2図1の板金部品の歪み吸収区域の平面図を示す。
図3図1の板金部品の歪み吸収区域の断面の詳細図を示す。
図4図4Aは、部品が歪み吸収区域を有しない場合の、局所的に加熱軟化された第一の部分の創出後の図1の板金部品の変形の数値シミュレーションを示す。図4Bは、部品が、第一の部分を取り囲む本発明の専用の歪み吸収区域を有する場合の、局所的に加熱軟化された第一の部分の創出後の図1の板金部品の変形の数値シミュレーションを示す。
図5】板金部品の中央に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第二の態様の斜視図を示す。
図6図5の板金部品の歪み吸収区域の平面図を示す。
図7図5の板金部品の歪み吸収区域の断面の詳細図を示す。
図8図8Aは、部品が歪み吸収区域を有しない場合の、局所的に加熱軟化された第一の部分の創出後の図5の板金部品の変形の数値シミュレーションを示す。図8Bは、部品が、第一の部分を取り囲む本発明の専用の歪み吸収区域を有する場合の、局所的に加熱軟化された第一の部分の創出後の図5の板金部品の変形の数値シミュレーションを示す。
図9】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第三の態様の斜視図を示す。
図10】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第三の態様の斜視図を示す。
図11】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第三の態様の斜視図を示す。
図12図12Aおよび12Bは、それぞれ歪み吸収区域を有しない場合および有する場合の、局所的に加熱軟化された第一の部分の創出後の図9の板金部品の変形の数値シミュレーションを示す。
図13】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第四の態様の斜視図を示す。
図14】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第四の態様の斜視図を示す。
図15】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第四の態様の斜視図を示す。
図16図16Aおよび16Bは、それぞれ歪み吸収区域を有しない場合および有する場合の、局所的に加熱軟化された第一の部分の創出後の図13の板金部品の変形の数値シミュレーションを示す。
図17】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第五の態様の斜視図を示す。
図18】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第五の態様の斜視図を示す。
図19】板金部品の縁部に配設され、局所的に加熱軟化された第一の部分を取り囲む歪み吸収区域を有する、縦ビームの形状にある本発明の成形板金部品の第五の態様の斜視図を示す。
図20図20Aおよび20Bは、それぞれ歪み吸収区域を有しない場合および有する場合の、局所的に加熱軟化された第一の部分の創出後の図17の板金部品の変形の数値シミュレーションを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
発明の態様の詳細な説明
図1~3は、車両フレーム、例えば、金属フレームを含む自動車または任意の他のタイプの車両のフロントレールのための本発明の成形板金部品1の第一の態様を示す。
【0040】
図中、部品1は、わかりやすくするため、厚みを有しない状態で表されているが、好ましくは、例えば板金部品どうしの重なり部分を有する場合、0.5~8mm;好ましくは0.5~6mmの厚さを有する。他の場合、部品1は、0.5~3mm、特に好ましくは0.8~2.5mmの厚さを有することができる。
【0041】
また、部品1は、まっすぐな縦ビームとして示されている。しかし、部品は、例えばA、BもしくはCピラー、ヒンジピラー、ロッカー、フロントもしくはリヤレール、車体フロアまたは任意の他の車両フレーム部品など、任意の所望の形態を有することができる。
【0042】
板金部品1は、該板金部品1が打ち抜かれたのち局所的に加熱軟化される、第一の部分2、を含む。好ましくは、板金部品1はレーザー軟化される。しかし、誘導、抵抗加熱など、他の局所的加熱軟化法を使用することもできる。
【0043】
改善された衝突時挙動を有すると同時に、製造しやすく、求められる製造品質を維持し、熱処理後も公差を逸脱しない成形板金部品1を提供する課題を解決するために、板金部品1は専用の三次元歪み吸収区域4を含み、この区域が、板金部品1が成形されたのち該第一の部分2がその範囲内で局所的に加熱軟化されるところの内部境界6を画定する。これは、丸みのある縁部を有する半円形の突出部によって歪み吸収区域4が形成されている図2および3において特に見てとることができる。図2から明らかであるように、内部境界6は、この場合、丸みのある縁部の内接線によって画定されている。また、この場合、歪み吸収区域4は10mmの高さを有し、5mmの半径を有する丸みのある縁部を伴う。したがって、加熱軟化が実施される区域における部品の全平面P1を見るならば、歪み吸収区域4は、この場合、囲い状の突出部である。そして、歪み吸収区域4は、第一の部分2が加熱軟化されるところの平坦な部分12を取り囲む。
【0044】
したがって、歪み吸収区域4は、局所的加熱軟化工程が実行されたならば内部境界6が第一の部分2に隣接し、該第一の部分2を取り囲んで、該局所的に加熱軟化された第一の部分2によって誘発される寸法歪みを吸収するように寸法設定される。
【0045】
本発明において、「第一の部分を取り囲む」という表現はまた、第一の部分が部品の縁部にある場合をも含む。図2から明らかであるように、自由縁8は突出部を有しない。しかし、これは、部品1が公差を逸脱することを招かない。理由は、歪み吸収区域4の残り部分が、熱によって誘発される変形を補償し、歪み吸収区域4が利用可能でない場合に起こる板金部品の制御されない変形を回避させるからである。
【0046】
「第一の部分を取り囲む」という表現は、歪み吸収区域4がその延長中に小さな途切れを有することを除外しない。例えば、図1~3の場合、歪み吸収区域4が角部10で途切れていることもあり得る。しかし、これは、歪み吸収区域4が歪み吸収効果を失うことを生じさせない。実際、この場合の効果は、加熱軟化された第一の部分2が部品の縁部にある場合にいくぶん類似している。
【0047】
また、歪み吸収区域4の効果的な機能を保証するために、局所的に加熱軟化された第一の部分2は、内部境界6から0~50mm、好ましくは0~10mmの距離D1だけ離れている。この場合、図18から明らかであるように、効果的な歪み吸収効果を発揮するためには距離D1がすべての場合で一定であってはならないことを指摘しなければならない。
【0048】
好ましくは、第一の部分2は、100mm2~50,000mm2、好ましくは100mm2~15,000mm2の面積を有し、正方形または長方形である。
【0049】
局所的に加熱軟化された部分を有する成形板金部品1を製造するための方法は以下のとおりである。
【0050】
まず、板金ブランクから出発して、第一の成形工程は、板金部品1を成形するための成形金型または圧延装置中で実施される。板金部品は、コールドスタンピング、プレス硬化、ロール成形または間接的プレス硬化などの方法によって製造することができる。部品は、冷間条件もしくは熱間条件のいずれでも、または圧延によってもスタンピングすることができるが、好ましくは、成形工程は、ホットスタンピングとしても知られるプレス硬化によって実施される。
【0051】
次いで、三次元歪み吸収区域4を成形するための第二の成形工程を実施する。好ましくは、この第二の成形工程は、使用される方法がコールドスタンピングまたはプレス硬化のいずれかであるとき、第一の成形工程と同時に実施される。第二の成形工程は、第一の部分2がその範囲内で局所的に加熱軟化されるところの内部境界6を画定する。
【0052】
スタンピング工程の後、最後に、スタンピング部品の第一の部分2を局所的に加熱軟化させるための局所的加熱軟化工程を実施する。特に好ましくは、加熱軟化工程は、500W~100kW、特に好ましくは1kW~10kWのパワーを有するレーザービームを第一の部分2に照射することによって実施される。次いで、第一の部分2を、400℃~1200℃、好ましくは500℃~800℃で加熱する。歪み吸収区域4は、局所的加熱軟化工程が実行されたならば内部境界6が第一の部分2に隣接し、第一の部分2を取り囲んで、加熱軟化工程によって誘発される寸法歪みを吸収するように寸法設定される。
【0053】
図4Aおよび4Bは、歪み吸収区域4の創出の効果を示す。
【0054】
図4Aは、歪み吸収区域4が利用可能でない場合の、加熱軟化された第一の部分4の創出後の板金部品1の変形を示す。この場合、以下の歪み値が達成される。
【0055】
【表1】
【0056】
代わって、図4Bは、部品が歪み吸収区域4を有し、ひいては以下の変形値および以下の変形減少率を達成する場合の、加熱軟化された第一の部分4の創出後の板金部品1の変形を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
したがって、前記表から、歪み吸収区域4が、局所的加熱軟化工程が実施された後の板金部品1の明白な変形減少をもたらすということが明らかに推論可能である。特に、歪み吸収区域4を有する場合、板金部品に加わる最大歪みに対して75.7%の変形減少率が達成されている。加えて、加熱軟化部品の中央区域においては、囲い状の突出部のおかげで、93.3%の変形減少率を得ることができるため、さらに良好な結果が達成されている。
【0059】
以下、前記第一の態様と共通の複数の特徴を有するさらなる態様を説明する。したがって、以後、際立った特徴だけを説明し、共通の特徴に関しては、上記説明を参照されたい。
【0060】
図5~7は、本発明の板金部品の第二の態様を示す。明らかであるように、この場合、歪み吸収区域4は部品の中央区域にある。ここでもまた、わかりやすくするため、自動車のフロントレールのようなU字形の縦ビームが示されている。しかし、ここでもまた、本発明は、車両フレームの任意の板金部品に適用可能である。
【0061】
歪み吸収区域4は、ここでは、丸みのある角部10を有する、囲い状の閉じた突出部である。より具体的には、この場合、内部境界6は、局所的に加熱軟化された第一の部分2を完全に取り囲むような閉じた境界である。そして、この場合、歪み吸収区域4は、以下、比較表3および4に示すような、より均一かつ機能的な歪み吸収効果を提供する。加えて、前記態様とは異なって、歪み吸収区域4はさらに、幅0.1~20mmの平坦部14を有する。
【0062】
図8Aに対応する、幾何学的な歪み吸収部を有しない板金部品においては、以下の変形値が得られた。
【0063】
【表3】
【0064】
代わって、局所的に加熱軟化された第一の部分2を完全に取り囲むような閉じた境界である内部境界6を有する、囲い状の突出部の形状の幾何学的な歪み吸収部を提供することにより、表4から明らかであるような、特に機能的な結果が得られた。
【0065】
【表4】
【0066】
図9~11は、歪み吸収区域4が、丸みのある角部を有する等脚台形の断面を有する凸部である態様を示す。
【0067】
表5は、歪み吸収区域4を有しない図12Aの成形板金部品の変形の結果を示す。
【0068】
【表5】
【0069】
再び、表6から明らかであるように、図12Bに見られるような角錐台様の歪み吸収区域4のおかげで、83%の最大歪み減少率が達成されている。
【0070】
【表6】
【0071】
図13~15の態様は図9~11の態様に類似しているが、この場合、歪み吸収区域4は、丸みのある角部を有する逆等脚台形の断面を有する凹部である。
【0072】
表7は、歪み吸収区域4を有しない図16Aの成形板金部品の変形の結果を示す。
【0073】
【表7】
【0074】
再び、表8から明らかであるように、図16Bにおけるような逆角錐台様の歪み吸収区域4のおかげで、83%の最大歪み減少率が達成されている。
【0075】
【表8】
【0076】
最後に、図17~19の態様において、歪み吸収区域4の高さは可変性である。この場合、2つの横方向突出部のみを要するような歪み吸収区域4の区分を構成するためにU字形のビーム断面が使用されている。
【0077】
表9は、歪み吸収区域4を有しない図20Aの成形板金部品の変形の結果を示す。
【0078】
【表9】
【0079】
再び、表10から明らかであるように、この場合、達成された変形減少率は44.6%でしかない。しかし、歪み吸収区域4の技術的効果はなおも明らかである。
【0080】
【表10】
【0081】
また、同じ部品1が、部品の変形挙動を調整するために、局所的に加熱軟化される、複数の部分2、を含むこともできるということを指摘しなければならない。
【0082】
最後に、歪み吸収区域4の形状が、先に説明した態様の組み合わせであるということを放棄することはできない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20