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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】通信ケーブルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20250120BHJP
   H01B 11/02 20060101ALI20250120BHJP
   H01B 13/02 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
H01B11/00 A
H01B11/02
H01B13/02 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022570011
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046075
(87)【国際公開番号】W WO2022131258
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2020207472
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】光地 伸明
(72)【発明者】
【氏名】小林 公樹
(72)【発明者】
【氏名】河田 正義
(72)【発明者】
【氏名】坂本 喬
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-203347(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0243678(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 11/02
H01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を絶縁体で被覆した絶縁電線を複数本撚り合わせた通信ケーブルであって、
前記導体は、断面円形状で曲率半径が0.04mm以下の圧縮撚線で構成されていることを特徴とする通信ケーブル。
【請求項2】
請求項1に記載の通信ケーブルにおいて、
車載用途に使用されることを特徴とする通信ケーブル。
【請求項3】
導体として断面円形状で曲率半径が0.04mm以下の圧縮撚線を準備する工程と、
前記導体を絶縁体で被覆し絶縁電線を形成する工程と、
を備えることを特徴とする通信ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波データ伝送に対応した通信ケーブルおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車においては、情報通信機器の高性能化、車載マルチメディアの多機能化が進んでおり、今後も先進運転支援システム(ADAS;Advanced Driver-Assistance Systems)、自動運転などをキーワードに、一層の高性能化や搭載機器の増加が進展していくと考えられる。こうした進歩は情報通信量の大容量化をもたらしており、高周波でのデータ伝送が求められる。
直近では、車載Ethernet規格として、IEEE802.3ch Multi-Gig Automotive Ethernet PHY 10GBASE-T1(以下単に「Multi-Gig Automotive Ethernet規格」という。)が制定され、車載用の通信ケーブルには当該Multi-Gig Automotive Ethernet規格も満たすことが要求されると考えられる。
ただ、高周波データ伝送にはいくつかの課題があり、たとえば対内スキュー(対内の伝搬遅延時間の差)を抑制することや、高周波帯域でのサックアウト現象(信号減衰量の周波数特性の急激な落ち込み)を抑制することがあげられる。
【0003】
特許文献1にはこれら高周波データ伝送の課題を解決しようとした多芯ケーブルが開示されている。
特許文献1の技術では、8対の同軸電線対(11~18)が多芯ケーブル(1)内に収容されている。各同軸電線10は中心導体(21)が絶縁体(22)で被覆され、その外周が外部導体(23)および外被(24)で被覆されている。外部導体は内層部(23A)として金属細線(M)が絶縁体の周囲に横巻き(螺旋巻き)され、外層部(23B)として金属樹脂テープ(T)が内層部の周囲に横巻きされている。
当該技術では特に、金属細線と金属樹脂テープとの巻き方向を逆向きとしかつその巻き角度の差(角度θ3)を一定の範囲に設定することで、サックアウト現象を抑制している(段落0017-0027、図1-2、実施例、図4など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6269718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の電線対は上記のとおり、同軸電線内に外部導体を配しこれを金属細線および金属樹脂テープで構成し、金属細線と金属樹脂テープとの巻き方向や巻き角度まで設定しなければならない。特許文献1の技術はすなわち、ケーブルの内部構成が非常に複雑であり、ケーブルの内部構成には改善の余地がある。
したがって本発明の主な目的は、高周波データ伝送に対応した(Multi-Gig Automotive Ethernet規格において少なくとも8GHz以上の高周波帯域でも当該規格を満たすような)通信ケーブルであって、ケーブルの内部構成の簡素化を実現しうる通信ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するため技術的検討を重ねたところ、特に、高周波信号は表皮作用により導体の表層で電流密度が大きくなり、複数本の素線を撚り合わせた撚線では高周波伝送という面において不利に働くが、断面形状が円形の単線または一定の曲率半径を有する圧縮撚線のように、断面形状が円形に近いほど高周波伝送での抵抗が少なくなることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明によれば、導体を絶縁体で被覆した絶縁電線を複数本撚り合わせた通信ケーブルであって、前記導体が断面円形状の単線か、または断面円形状で曲率半径が0.06mm以下の圧縮撚線で構成されていることを特徴とする通信ケーブルが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、導体を、断面円形状の単線か、または断面円形状で曲率半径が0.06mm以下の圧縮撚線で構成するというシンプルな構成で、外部導体に複雑な構成を追加せずに、高周波データ伝送に対応した(Multi-Gig Automotive Ethernet規格において少なくとも8GHz以上の高周波帯域でも当該規格を満たすような)通信ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】通信ケーブルの概略構成を示す断面図である。
図2】圧縮撚線の断面形状を概略的に示す図である。
図3】実施例1にかかるシミュレーションに供した導体断面構造を示す図である。
図4図3の導体断面構造を補正しメッシュ分割した図である。
図5図3の導体断面構造に対する交流の電流密度を視覚化した図である。
図6】単なる撚線の交流抵抗値を基準とした単線および圧縮撚線の交流抵抗比を示す図である。
図7】実施例2にかかる各サンプルの周波数と挿入損失との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態にかかる通信ケーブルについて説明する。
本明細書において数値範囲を示す「~」は下限値および上限値を当該数値範囲に含む意味を有している。
【0010】
図1は通信ケーブル1の概略的な構成を示す断面図である。
図1に示すとおり、通信ケーブル1は、対撚体10、押巻き20、第1の遮蔽層40、第2の遮蔽層50および外被60を有しており、対撚体10の外周を押巻き20、第1の遮蔽層40、第2の遮蔽層50および外被60がこの順に巻回し被覆している。
【0011】
対撚体10は2心の(2本の)絶縁電線12から構成され、第1種線心10Aと第2種線心10Bとがペアで使用されている。第2の対撚体として第3種線心と第4種線心とが追加されこれらがペアで使用されてもよいし(4心で構成されてもよいし)、これ以降の線心のペアが追加され使用されてもよい。線心のペアを追加する場合は絶縁電線12をカッド撚りする。
【0012】
絶縁電線12は導体14および絶縁体16から構成され、導体14の外周を絶縁体16で被覆した構成を有している。
導体14は断面円形状の単線か、または断面円形状で曲率半径が0.06mm以下の圧縮撚線から構成されている。
「断面円形状の単線」とは、文字どおり一定の直径を有する断面円形状の単一の導線をいう。
「断面円形状で曲率半径が0.06mm以下の圧縮撚線」とは、図2に示すとおり、複数本の素線15を撚り合わせ圧縮しかつ曲率半径rが0.06mm以下の圧縮撚線をいう。曲率半径rは好ましくは0.04mm以下である。
「曲率半径r」とは、キーエンス社製デジタルマイクロスコープVHX-6000を使用し素線15の断面の湾曲部を観測した値であって、計測・スケール>平面計測>円弧のコマンドを実行し、接触点と変曲点およびその中点の計3点を選択し、その3点から構成される円弧の半径をいう。
すなわち、圧縮撚線は、複数本の素線15を単に撚り合わせた撚線(以下「単なる撚線」という。)を、ダイスを通過させ圧縮し形成される。かかる場合、図2の拡大部に示すとおり、外周部の素線15Aには湾曲部100が形成され、湾曲部100にはダイス通過の影響を受けた変曲点102、隣り合う素線15との接触点104、およびその中点106が存在する。曲率半径rとは、これら変曲点102、接触点104および中点106の3点から構成される円弧の半径である。
湾曲部100は、外周部の素線15Aの数に応じて複数存在する。たとえば、7本の素線15を撚り合わせた図2の形態であれば、中心部の素線15Bを除外した外周部の6本の素線15A×各2か所で計12か所存在する。ここでは、複数の湾曲部100に対する円弧のうち、最も小さい円弧の半径を「曲率半径r」と定義する。
【0013】
導体14(素線15を含む。)は好ましくは軟銅線であり、スズ、ニッケル、銀のいずれかのメッキ層(図示略)によって外周が被覆されてもよい。
導体14の外径は好ましくは0.4~0.6mmである。
【0014】
高周波における伝送特性は表皮効果の影響を受け導体14の表層で電流密度が増大する。
「表皮効果」とは、交流電流が導体14を流れるとき、電流密度が導体14の表層で高く、表層から離れると低くなる現象のことである。周波数が高くなるほど電流が表層に集中し、導体14の交流抵抗は高くなる。かかる表皮効果の影響を受ける表層の深さ、すなわち電流密度の高い表層の深さδ[μm]は下記のスキンデプス計算式から導かれ、周波数f[kHz]が高くなるほど減少する。
下記式中、「ρ」は導体14の体積抵抗率[Ω・m]であり1.72×10-8Ω・mである。「μ」は導体14の比透磁率であり1である。
【0015】
【数1】
【0016】
上記式に基づき、高周波における導体14の表層を、単なる撚線、圧縮撚線および単線ごとに単純に視覚的に比較すると、単なる撚線では導体14の外周部に配置された素線15の一部領域でのみ電流密度が高いにすぎない。これを圧縮撚線に置き換えると当該領域が導体14の円周方向においてやや増大し、単線に置き換えると当該領域が導体14の円周全体にわたりさらに増大する(図5参照)。
本実施形態ではかかる表皮効果に着目し、高周波の伝送特性が導体14の形態(単なる撚線、圧縮撚線および単線)にどの程度影響するかを下記実施例にて検討しており、導体14が断面円形状の単線か、または断面円形状で曲率半径rが0.06mm以下の圧縮撚線である場合に高周波の伝送特性が優れることを見出している。
【0017】
絶縁体16は絶縁性樹脂が押出機のダイスから押し出され形成されている。当該絶縁性樹脂は好ましくは架橋ポリエチレン(XLPE;Cross-linked polyethylene)またはポリプロピレン(PP:Polypropylene)である。
絶縁体16の厚さは好ましくは0.2~0.4mmである。
【0018】
押巻き20はテープ状のポリエチレンテレフタレート(PET;Polyethyleneterephthalate)が重ね巻きされ構成されている。押巻き20はテープ状の不織布から構成されてもよい。押巻き20はテープ状のポリプロピレンから構成されてもよい。
押巻き20の厚さは好ましくは0.02~0.1mmである。
なお、押巻き20は必須の部材ではなく省略されてもよい。
【0019】
第1の遮蔽層40は金属テープが重ね巻きされ構成されている。
当該金属テープは金属箔と樹脂テープとが貼り合わされ構成されたテープであり、好ましくはアルミニウム箔とポリエチレンテレフタレートテープ(PETテープ)とが貼り合わされ形成されている。第1の遮蔽層40では金属箔が外周に露出するように重ね巻きされる。
当該金属テープの厚さは好ましくは0.02~0.05mmである。
他方、第2の遮蔽層50は複数本の金属線が編組され構成されている。第2の遮蔽層50は複数本の金属線が一定のピッチ以下で横巻きされ構成されてもよい。当該各金属線は好ましくはスズのメッキ層で軟銅線を被覆した、いわゆるスズメッキ軟銅線(TA;Tinned Annealed copper)である。
当該金属線の外径は好ましくは3.0~3.5mmである。
【0020】
外被60はいわゆるシースであり、外被用樹脂が押出機のダイスから押し出され形成されている。当該外被用樹脂は好ましくはポリ塩化ビニル(PVC;PolyVinyl Chloride)または熱可塑性エラストマー(TPE;Thermoplastic Elastomers)から構成されている。
外被60の厚さは好ましくは0.2~0.6mmである。
【0021】
なお、対撚体10は上記のとおり2心の(2本の)絶縁電線12から構成され、2本の絶縁電線12が一定のピッチで撚り合された構成を有している。
【0022】
絶縁電線12の対撚りピッチの上限値および下限値は、対内スキューと挿入損失(IL)との観点から設定される。
【0023】
対撚りピッチの下限値は対内スキューを抑制しうる、安定的な製造が可能かどうかという観点から想定され、当該下限値は現実的には7.0mmであり、好ましくは7.9mmである。絶縁電線12の対撚りピッチが短くなるほど対撚りが過剰に密となり、絶縁電線12同士の撚りのバランスが不安定になる。その結果、絶縁電線12同士で物理的な長さに差が生じ(長さがばらつき)、対内スキューを抑制するのが難しくなる。
【0024】
対撚りピッチの上限値はサックアウト現象を高周波で(たとえば10GHzを超えるまで)抑制するという観点から導出される。本発明者は通信ケーブル1の試作と挿入損失の測定とを繰り返すなかで、対撚りピッチの上限値は絶縁体16の材質(誘電率)と相関があり、絶縁体16の誘電率に起因する下記関係式から導出されることを見出した。詳しくは、一般に波長=波の速さ/周波数で表現されるところ、対撚りピッチの上限値が当該波長を絶縁体16の誘電率で除した値に近似することを見出したのである。
これによれば、光の速度を100とするとケーブル対内を伝わる信号の速度は技術常識としておよそ70%である(NVP:Nominal Velocity of Propagation)。周波数を10GHzと設定すれば、対撚りピッチの当該上限値は理論的には下記式のとおりに導出されるのである。
対撚りピッチの上限値[mm]
=(波長)×(1/絶縁体16の誘電率)
=(光速×NVP/周波数)×(1/絶縁体16の誘電率)
=300,000,000[m/s]×0.7/10×10[Hz]×(1/絶縁体16の誘電率)×1,000[mm]
【0025】
ケーブル対内を伝わる信号の波長と絶縁電線12の対撚りピッチとが同期して共振するとサックアウト現象が生じるところ、表1に示すとおり、(i)絶縁体16が架橋ポリエチレンで構成される場合は、絶縁電線12の対撚りピッチの上限値が約9.55mmを超えると、10GHz以下の低周波で共振点が形成され、(ii)絶縁体16がポリプロピレンで構成される場合は、絶縁電線12の対撚りピッチの上限値が約10.00mmを超えると、10GHz以下の低周波で共振点が形成され、それぞれサックアウト現象が生じやすいのである。
【0026】
【表1】
【0027】
なお、押巻き20と第1の遮蔽層40との間には内被が形成されてもよい。かかる場合、内被は内被用樹脂が押出機のダイスから押し出され形成されるのがよい。当該内被用樹脂は好ましくはポリ塩化ビニル(PVC;PolyVinyl Chloride)または熱可塑性エラストマー(TPE;Thermoplastic Elastomers)から構成される。
内被の厚さは好ましくは2.3~2.9mmである。
【0028】
次に、通信ケーブル1の製造方法について説明する。
【0029】
はじめに、導体14として断面円形状の単線か、または断面円形状で曲率半径rが0.06mm以下の圧縮撚線を準備する。導体14として圧縮撚線を準備する場合には、単なる撚線を、その長さ方向に搬送しながらダイスを通過させ圧縮すればよく、ダイスの開口径において曲率半径rを制御する。
その後、導体14に対し絶縁性樹脂を押し出し被覆してこれに電子線を照射し架橋させ絶縁体16を形成し、絶縁電線12を製造する。
その後、2本の絶縁電線12を一定のピッチで撚り合わせる(対撚りする)。
【0030】
その後、対撚体10に対しポリエチレンテレフタレートテープ(PETテープ)を重ね巻きし押巻き20を形成する。
その後、押巻き20に対し金属テープを重ね巻きし第1の遮蔽層40を形成し、複数本の金属線を編組し第2の遮蔽層50を形成する。
最後に、第2の遮蔽層50に対し外被用樹脂を押し出し被覆し外被60を形成し、通信ケーブル1を製造することができる。
【0031】
以上の通信ケーブル1によれば、単に導体14が断面円形状の単線か、または断面円形状で曲率半径rが0.06mm以下の圧縮撚線で構成されるというシンプルな構成で、高周波データ伝送に対応した(Multi-Gig Automotive Ethernet規格において少なくとも8GHz以上の高周波帯域でも当該規格を満たすような)通信ケーブルを提供することができる(下記実施例参照)。
【0032】
なお、通信ケーブル1は通信用途であればいかなる用途にも使用可能であり、好ましくは車載用途に使用され、より好ましくは車載カメラの画像または映像信号の伝送に使用される。すなわち、通信ケーブル1はISO-6722規格またはISO-19642規格に準拠するケーブルとして好適である。
【実施例1】
【0033】
本実施例1では、単線、圧縮撚線および単なる撚線の3種の導体において、導体断面に対する交流の電流密度をシミュレートし、表皮効果と高周波の伝送特性との相関を確認した。
【0034】
(1)評価対象および評価方法
図3に示すとおり、評価対象は大きくは単線、圧縮撚線および単なる撚線の3種とし、各導体の断面形状を作成しこれをメッシュ分割し、電磁場解析(動磁場解析)した。解析ソフトにつき、導体断面の形状を作成するモデリングとしてGAMBITを、メッシュ分割するメッシングとしてGAMBITを、電磁場解析をおこなうソルバーとしてPhotonjωを、それぞれ使用した。メッシュ分割上の注意点として導体断面の中心から表層に向けてメッシュサイズを微細化するとともに導体の表層のメッシュ厚さを2.7×10-6mmとし、電磁場解析時の注意点として収束精度を1×10-9以下とした。
ただし、図3の構造でメッシュ分割する場合、導体内部の隙間の影響でメッシュ品質に相違が生じ、当該相違が評価結果をばらつかせる要因になると考えられた。一方で、高周波帯域で交流が流れる領域は導体の表層に限られるため、導体内部の形状は評価結果に影響を及ぼさない。これらを考慮し、本実施例1では、導体内部を埋めた図4の形状で評価を行うこととした。
【0035】
(2)評価結果
図5に示すとおり、単線、圧縮撚線および単なる撚線の各導体断面において表層で電流密度が高いのがわかる。
図6に示すとおり、単なる撚線の交流抵抗値を基準としてこれに対する単線および圧縮撚線の交流抵抗比を算出すると、単線および圧縮撚線は単なる撚線よりも交流抵抗比が小さく高周波帯域での伝送特性に優れることが示唆された。
【実施例2】
【0036】
本実施例2では、実施例1のシミュレート結果に基づき、現実の通信ケーブルの伝送特性とMulti-Gig Automotive Ethernet規格値との関係を実測した。
【0037】
(1)サンプルの作製
(1.1)サンプル1
はじめに、直径0.16mmの軟銅線を7本撚り合わせ、外径0.48mmの導体を形成した。当該導体は単なる撚線である。
その後、当該導体に対しポリエチレンを押し出し被覆しこれに電子線を照射し架橋させ、架橋ポリエチレン(XLPE)から構成される厚さ0.2mmの絶縁体を形成し、外径1mmの絶縁電線を形成した。
その後、2本の絶縁電線をピッチ8mmで撚り合わせ(対撚りし)、対撚体を形成した。
【0038】
その後、対撚体に対し押巻きとして厚さ0.025mmのポリエチレンテレフタレートテープ(PETテープ)を1/2重ね巻きした(PETテープ幅の1/2を重ねながら巻いた)。
【0039】
その後、第1の遮蔽層として厚さ0.01mmのアルミニウム箔と厚さ0.025mmのポリエチレンテレフタレートテープ(PETテープ)とを貼り合わせた厚さ0.04mmの金属テープを準備し、押巻きに対し当該金属テープを1/4重ね巻きし、外径2.6mmの第1の遮蔽層を形成した。
その後、第2の遮蔽層として86本の直径0.1mmのスズメッキ軟銅線(TA)を準備し、第1の遮蔽層に対し当該スズメッキ軟銅線を編組し、外径3.1mmの第2の遮蔽層を形成した。
最後に、当該第2の遮蔽層に対しポリ塩化ビニル(PVC)を押し出し被覆し、外径4mmの通信ケーブルを作製した。
【0040】
(1.2)サンプル2
サンプル1において主に、導体を、直径0.45mmの単線に変更した。
【0041】
(1.3)サンプル3
サンプル1において主に、導体を、曲率半径rが0.02mmの圧縮撚線に変更した。
【0042】
(1.4)サンプル4
サンプル1において主に、導体を、曲率半径rが0.04mmの圧縮撚線に変更した。
【0043】
(1.5)サンプル5
サンプル1において主に、導体を、曲率半径rが0.06mmの圧縮撚線に変更した。
【0044】
(2)サンプルの評価
各サンプルを5m切り出してこれに対し高周波帯域における挿入損失(IL;Insertion Loss)を測定した。測定結果を図7に示す。
なお、Multi-Gig Automotive Ethernet規格では、規格値が最大4GHzの高周波帯域までしか制定されていない。図7では、Multi-Gig Automotive Ethernet規格に記載された挿入損失(IL)の規格値たる下記計算式をもとに、4GHz以降の閾値を算出しこれを参考規格値としている。
【0045】
【数2】
【0046】
(3)まとめ
図7に示すとおり、サンプル1は導体が単なる撚線であり、5GHz前後の帯域において伝送特性が参考規格値を下回っている。これに対しサンプル2-5は導体が単線または曲率半径rが0.06mm以下の圧縮撚線であり、4GHz超の帯域において伝送特性が参考規格値を満たしている。特にサンプル2-4は10GHzの帯域においても伝送特性が参考規格値を満たしている。
以上から、高周波データ伝送に対応した通信ケーブルを提供するうえで、導体として断面円形状の単線か、または断面円形状で曲率半径rが0.06mm以下の圧縮撚線を適用することが有用であることがわかり、特に10GHzの帯域では曲率半径rが0.04mm以下の圧縮撚線を適用することが有用であることがわかった。
【0047】
本出願は2020年12月15日に出願した特願2020-207472の優先権を主張する出願である。上記出願の明細書、特許請求の範囲および図面に記載された事項は、すべて本出願に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本願発明は通信ケーブルおよびその製造方法にかかり、高周波データ伝送に対応した通信ケーブルを提供するのに有用である。
【符号の説明】
【0049】
1 通信ケーブル
10 対撚体
10A~10B 第1~第2種線心
12 絶縁電線
14 導体
15 素線
15A 外周部の素線
15B 中心部の素線
16 絶縁体
20 押巻き
40 第1の遮蔽層
50 第2の遮蔽層
60 外被
100 湾曲部
102 変曲点
104 接触点
106 中点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7