(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】高引張ナイロン6,6糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/48 20060101AFI20250120BHJP
【FI】
D02G3/48
(21)【出願番号】P 2022576884
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 TR2020050538
(87)【国際公開番号】W WO2021262102
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】517272965
【氏名又は名称】コルドサ・テクニク・テクスティル・アノニム・シルケティ
【氏名又は名称原語表記】Kordsa Teknik Tekstil Anonim Sirketi
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100224605
【氏名又は名称】畠中 省伍
(72)【発明者】
【氏名】ギュンドゥズ,ジャンス
(72)【発明者】
【氏名】フィダン,メフメト サデッティン
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-034216(JP,A)
【文献】特表2019-508595(JP,A)
【文献】特表2019-518877(JP,A)
【文献】特開平08-268008(JP,A)
【文献】特開平04-271903(JP,A)
【文献】米国特許第03564835(US,A)
【文献】特開昭58-208413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00- 3/48
D01F 1/00- 6/96
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に定義される引張補強指数(Tensile Reinforcement Index)(TRI)を有することを特徴とする空気タイヤのタイヤコード補強材に適したナイロン6,6糸:
TRI(g/dtex)=テナシティ(g/dtex)+7%伸長時応力
ここで、TRIは12.0g/dtexより高く
、かつ13.5g/dtexより低く、テナシティは9.3~10.5g/dtexである。
【請求項2】
糸の線密度が最小200dtex最大3000dtexである、請求項
1に記載のナイロン6,6糸。
【請求項3】
空気タイヤのタイヤコード補強材として使用するための請求項1
又は2に記載のナイロン6,6糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気タイヤのタイヤコード補強材として使用する高テナシティ-高弾性ナイロン6,6糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6,6糸は、低い初期弾性率及び高い最終弾性率という双弾性引張特性(bi-elastic tensile properties)を持つことはよく知られている。低い初期弾性率であれば、グリーンタイヤの歪みなくタイヤのリフティング/エクスパンションプロセスを実現でき、高い最終弾性率(低弾性率から高弾性率への移行点以降の弾性率)であれば、空気ラジアルタイヤのキャッププライとして高速タイヤの耐久性を向上させる。
【0003】
双弾性引張挙動(bi-elastic tensile behaviour)に加えて、引張強度、言い換えればテナシティも、カーカスの高いバースト強度とキャッププライの高いプランジャーエネルギーを提供する非常に重要なパラメータである。また、破断強度又はテナシティの向上により、より細い(低dtex)コードを使用することが可能となり、ゴムゲージの低減による転がり抵抗を低減し得る。従って、高テナシティ・高弾性糸を、最終ヒートセットやディップコードの原料として用いると、通常のナイロン6,6糸に比べ最終引張特性が向上する利点がある。
【0004】
EP3469122B1、EP3469123B1は、空気タイヤや機械用ゴム製品の補強材としての高弾性ナイロン6,6コードに関するものであるが、6.6ナイロンコードの引張強度(テナシティ)と弾性率(SASE)のバランスや引張強度(テナシティ)の重要性について開示はされていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明の主な目的は、ナイロン6,6糸の引張補強指数(TRI)を12.0g/dtex以上とすることである。タイヤコード補強に高TRI糸を使用すると、タイヤの伸び(growth)、転がり抵抗などのタイヤ性能が向上し、同時にベルトパッケージのキャッププライとして使用した場合の高速耐久性も向上する。また、カーカス用途では、バースト強度を向上させ、より細いコードを使用することが可能となり、軽量化につながる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の背景で述べた公知のクロスフロークエンチ及び結合スピンドロー装置の一例(先行技術例)である。
【
図2】本発明及びコントロールA、Bの応力-歪み曲線。
【0007】
符号
図にはすべて番号が振られており、以下のように参照される。
1
インレット
2
スピンパック
3
未延伸フィラメント
4
クロスフロー冷却風
5
チャンバー
6
従来の糸
7
フィードロールアセンブリ
8
第一ドローロール対
9
チューブ
10
第二ドローロール対
11
弛緩ロール
12
レットダウンロール(Let-down roll)
13
ガイド
14
糸パッケージ
【0008】
図1に、高弾性率ナイロン6,6糸を製造するための公知のクロスフロークエンチ及び結合スピンドロー装置の一例を示す。この図では、溶融したポリアミドが入口(1)からスピンパック(2)に導入される。ポリマーは、所望の断面を与えるように設計されたオリフィスを有するスピンパック(2)から未延伸フィラメント(3)として押し出される。未延伸フィラメント(3)は、スピンパック(2)のキャピラリーを出た後に急冷され、クロスフロー冷却空気(4)により繊維が冷却される。これらのフィラメントは、チャンバー(5)内で従来の仕上げ潤滑剤を塗布しながら従来の糸(6)に収束され、フィードロールアセンブリ(7)により前進される。この従来の糸(6)は、第一ドローロール対(8)、第二及び熱されたドローロール対(second and hot draw roll pair)(10)へと送られる。ドロープロセスの第2段階を容易にするために、熱されたチューブ(hot tube)(9)、又はドローアシストが使用される場合がある。従来の糸(6)は、プラーロール(11、12)で弛緩される。プラーロールの1つは弛緩ロール(11)とも呼ばれ、従来の糸(6)の収縮と物性の安定性を制御するために、ドローロールアセンブリ(10)よりも低い速度で運転することが可能である。その他のロールはレットダウンロール(12)とも呼ばれ、従来の糸(6)の張力を緩和し、従来の糸(6)が延伸時に経験するよりも低い張力で巻き取ることを可能にする。ガイド(13)は、糸パッケージ(14)上に従来の糸(6)を敷設し、それが巻き取られる。以上説明したプロセス、装置及び方法は、先行技術や文献と同様であるが、標準的な操作条件が差別化され、熱延後の弛緩を抑えた従来糸とは異なる高TRIナイロン6,6糸が製造される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、以下に定義するTRI(Tensile Reinforcement Index)が高い引張補強ナイロン6,6糸に関する;
TRI(g/dtex)=テナシティ(g/dtex)+7%伸長時SASE(g/dtex)
ここで
テナシティ:破断力/線密度(g/dtex)
SASE:規定伸長時の応力(Stress At Specified Elongation)(g/dtex)
LASE:規定伸長時の荷重(Load At Specified Elongation)、である。
【0010】
よく知られているように、引張強度(テナシティ)と弾性率、特に7%伸長時応力(SASE)は、高速耐久性、転がり抵抗、燃費などのタイヤ性能パラメータに大きな影響を与える重要な2つの引張特性である。
【0011】
このコードに最終的な特性を付与するために、ディッピング(静的及び動的接着)及び熱セット(3T又は熱延伸プロセス)を高張力・高温で行い、分子配向と寸法安定性をさらに向上させた。同じ3T(時間、張力、温度)条件下で、高TRIナイロン6,6糸から調製したナイロン6,6コードは、従来のナイロン6,6コードより高いTRI値を示す。
【0012】
ナイロン6,6糸は、TRI値が12.0g/dtexより高く、同時にテナシティが9.3g/dtex~10.5g/dtexのものが、TRIが低いナイロン6,6糸より適している。TRIが12g/dtexより高ければ、高弾性と高強度のバランスがとれる。高テナシティ・低モジュラス、あるいは低テナシティ・高モジュラスの通常のナイロン6,6では、最終コードに十分な初期強度を与えることができない。
【0013】
12.0g/dtexより高い引張補強指数(TRI)を有するナイロン6,6糸は、最適化されバランスのとれたテナシティとSASEを有し、空気タイヤのカーカス及びキャッププライの補強として使用可能なタイヤコードに適している。TRIが13.5g/dtexより高くなると、分子配向が進みすぎて糸の破壊エネルギーや強靭性が低くなり、フィラメントがもろくなる可能性がある。TRI値は最小12.0g/dtex、テナシティは最小9.3g/dtexかつ最大10.5g/dtexが望ましい。
【0014】
本発明により製造されたナイロン6,6糸の線密度は、最小200dtex、最大3000dtexである。
【0015】
表1に本発明により製造されたナイロン6,6糸とコントロール糸A及びBの特性の比較を示す。
【0016】
【0017】
表-1において、コントロールAはTRI<12.0g/dtexを有する普通テナシティ・普通弾性(LASE)糸であり、コントロールBはTRI<12.0g/dtexを有する高テナシティ・普通弾性(LASE)糸であり、発明はTRI>12.0g/dtexを有する高テナシティ・高弾性(LASE)糸である。
【0018】
高TRIナイロン6,6糸は、空気タイヤのタイヤコード補強材として使用される。