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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】高純度のガス拡散層
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20250120BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20250120BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20250120BHJP
   D04H 1/43 20120101ALI20250120BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20250120BHJP
   D06M 11/74 20060101ALI20250120BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20250120BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M4/96 M
H01M4/96 B
D04H1/4242
D04H1/43
D04H1/492
D06M11/74
H01M8/10 101
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023535737
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-28
(86)【国際出願番号】 EP2021085452
(87)【国際公開番号】W WO2022128895
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】102020134219.5
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510057615
【氏名又は名称】カール・フロイデンベルク・カー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】ボック,アヒム
(72)【発明者】
【氏名】クライン,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ラコウスキ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】バルシュ,ハンネス
(72)【発明者】
【氏名】ヒルン,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグナー,クラウス-ディートマー
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-213563(JP,A)
【文献】特開2013-175328(JP,A)
【文献】国際公開第2016/072414(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 4/96
H01M 8/02
H01M 8/10
D04H 1/4242
D04H 1/43
D04H 1/492
D06M 11/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
a)カーボンファイバーおよび/またはカーボンファイバー前駆体を含む繊維組成物を提供するステップと、
b)前記ステップa)で提供された繊維組成物を、繊維ウェブ製造するためのドライレイプロセスに供するステップと、
c)前記繊維ウェブを、水を含む流体ジェットの作用により強化して不織布を得るが、その際、使用される前記水は、25℃で最大で250マイクロジーメンス/cmの導電率を有するものとするステップと、
d)任意に、前記ステップc)で得られた不織布を、乾燥および/またはさらなる強化のための熱的および/または機械的処理に供するステップと、
e)前記ステップa)で使用される繊維組成物がカーボンファイバー前駆体を含む場合、前記ステップc)またはd)の次に行われるステップであり、前記ステップc)またはd)で得られた前記不織布を少なくとも1000℃の温度での熱分解に供するステップと
を実施する、方法であり、
前記ステップc)において前記繊維ウェブの強化に使用される水は、少なくとも部分的に再循環され、
前記ステップc)の前記繊維ウェブの処理から排水流を排出し、前記排水流の導電率の設定値を定め、前記排水流の前記導電率の実測値を求め、前記実測値が前記設定値からずれたときに、前記排水流を少なくとも部分的に後処理および/またはイオン濃度がより低い水との交換に供し、前記排水流を少なくとも部分的に前記繊維ウェブの処理に返送することで、前記繊維ウェブの強化に使用される水が、25℃で最大で250マイクロジーメンス/cmの導電率を有するようにするものである、方法
【請求項2】
前記ステップc)、d)またはe)で得られた不織布をさらに、少なくとも1つの添加剤で仕上げ加工し(ステップf))、前記添加剤は、好ましくは疎水化剤f1)、導電性向上添加剤f2)、さらなる添加剤f3)およびそれらの混合物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップc)、d)、e)またはf)で得られた不織布をさらに、マイクロポーラス層で被覆する(ステップg))、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記ステップa)で提供された繊維組成物が、カーボンファイバー前駆体を含み、前記カーボンファイバー前駆体は、非酸化ポリアクリロニトリル繊維、酸化ポリアクリロニトリル繊維およびそれらの混合物から選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ステップa)で提供された繊維組成物がさらに、さらなる繊維を含み、前記さらなる繊維は、フェノール樹脂繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルエステルケトン繊維、ポリエーテルスルホン繊維、ポリビニルアルコール繊維、リグニン繊維、レジン繊維およびそれらの混合物から選択される、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ステップa)で提供された繊維組成物が、ポリアクリロニトリル繊維、特にポリアクリロニトリルホモポリマー繊維からなる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記ステップc)において前記繊維ウェブの強化に使用される水が、25℃で最大で200マイクロジーメンス/cm、好ましくは25℃で最大で150マイクロジーメンス/cmの導電率を有する、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記ステップc)で得られた不織布を、ステップd)においてカレンダリングによるさらなる強化に供する、請求項1からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記疎水化剤f1)が、少なくとも1つのフッ素含有ポリマーを含む、請求項2からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記導電性向上添加剤f2)が、金属粒子、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、およびそれらの混合物から選択される、請求項2からまでのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記さらなる添加剤f3)が、成分f1)およびf2)以外のポリマーバインダー、界面活性物質、およびそれらの混合物から選択される、請求項2から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記不織布を、ステップf1)における前記疎水化剤での前記被覆および/または含浸の間または後に熱処理に供する、請求項2から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記後処理が、ナノフィルトレーション、逆浸透またはこれらのプロセスの組み合わせである、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
a)カーボンファイバーおよび/またはカーボンファイバー前駆体を含む繊維組成物を提供するステップと、
b)前記ステップa)で提供された繊維組成物を、繊維ウェブの製造するためのドライレイプロセスに供するステップと、
c)前記繊維ウェブを、水を含む流体ジェットの作用により強化して不織布を得るが、その際、使用される前記水は、25℃で最大で250マイクロジーメンス/cmの導電率を有するものとするステップと
を実施する、不織布の製造方法であり、
前記ステップc)において前記繊維ウェブの強化に使用される水は、少なくとも部分的に再循環され、
前記ステップc)の前記繊維ウェブの処理から排水流を排出し、前記排水流の導電率の設定値を定め、前記排水流の前記導電率の実測値を求め、前記実測値が前記設定値からずれたときに、前記排水流を少なくとも部分的に後処理および/またはイオン濃度がより低い水との交換に供し、前記排水流を少なくとも部分的に前記繊維ウェブの処理に返送することで、前記繊維ウェブの強化に使用される水が、25℃で最大で250マイクロジーメンス/cmの導電率を有するようにするものである、方法
【請求項15】
請求項1から13までのいずれか1項記載の方法によってガス拡散層を得るステップと、
前記ガス拡散層を得るステップで得られたガス拡散層を燃料電池に組み込み、前記ガス拡散層を少なくとも1つ備えた燃料電池を製造するステップとを有する、燃料電池の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のガス拡散層の製造方法、該方法によって得ることができるガス拡散層、および該ガス拡散層を備えた燃料電池に関する。
【0002】
背景技術
燃料電池は、燃料である特に水素と酸素との化学反応による水の生成を利用して電気エネルギーを発生させるものである。水素-酸素燃料電池では、水素または水素含有混合ガスがアノードに供給され、そこで電気化学的酸化が生じて電子が放出される(H2→2H++2e-)。プロトンは、反応チャンバ同士を気密的に隔てて電気的に絶縁する膜を通じてアノードチャンバからカソードチャンバに輸送される。アノードで提供された電子は、外部導体回路を経由してカソードに供給される。カソードには酸素または酸素含有混合ガスが供給され、電子の受容により酸素の還元が行われる。その際に生成される酸素アニオンと、膜を通じて輸送されたプロトンとが反応して、水が生成される(1/2O2+2H++2e-→H2O)。
【0003】
多くの用途、特に自動車のパワートレインには、低温プロトン交換膜型燃料電池(PEMFC、proton exchange membrane fuel cells、高分子電解質膜燃料電池とも呼ばれる)が使用されており、その中核となるのが高分子電解質膜(PEM)であり、これは、プロトン(またはオキソニウムイオンH3+)および水のみを透過させ、一般には大気中の酸素である酸化剤と還元剤とを空間的に隔てている。気密性、電気絶縁性でかつプロトン伝導性の膜のアノード側およびカソード側に触媒層が施与されており、この触媒層は、電極を形成するとともに、通常は触媒活性金属として白金を含有する。この触媒層で、実際の酸化還元反応や電荷分離が行われる。膜および触媒層が1つのユニットを形成しており、これはCCM(catalyst coated membrane、触媒被覆膜)とも呼ばれる。CCMの両側にはガス拡散層(GDL)が存在しており、これはセル構造を安定させるとともに、反応ガス、水、熱および電気の輸送および分配の機能を担っている。膜、電極およびガス拡散層により、膜電極接合体(MEA、membrane electrode assembly)が形成されている。これらの膜電極接合体の間に分流板(いわゆるバイポーラプレート)が配置されており、これは、隣接するカソードおよびアノードにプロセスガスを供給するための流路と、通常はさらに内部冷却流路とを備えている。
【0004】
分流板と触媒層との間に位置するガス拡散層は、燃料電池の機能および性能にとって非常に重要である。電極反応で消費および生成されたプロセス成分を、ガス拡散層を通じて輸送し、分流板/バイポーラプレートのマクロ構造から触媒層のミクロ構造まで均質に分配する必要がある。ハーフセル反応で生成および消費された電子は、できるだけ電圧の損失を少なくして分流板に伝導させる必要がある。また、反応時に発生した熱を分流板で冷媒に放出する必要があるため、GDLの材料には十分な熱伝導性も求められる。さらに、GDLは、マクロ構造化分流板と触媒層との間の機械的な補償体としても機能しなければならない。
【0005】
燃料電池用ガス拡散層は典型的に、通常はフッ素系ポリマー(例えば、PTFE)で疎水化仕上げ加工を施した炭素繊維基材を、次いでマイクロポーラス層(MPL)で面状に被覆したものからなる。MPLは通常、バインダーとしてのフッ素含有ポリマー(PTFEなど)と、多孔質で導電性の炭素材料(カーボンブラックやグラファイト粉末など)とで構成されている。現在、GDLの炭素繊維基材として、以下の3つの材料が使用されている:
- 炭素繊維紙(ウェットレイド処理を施して化学的に結合させた炭素繊維不織布であって、化学バインダーを含み、炭化しているもの)、
- 炭素繊維織布(例えば、酸化はされているがまだ炭化はされていないポリアクリロニトリル繊維から構成された糸を、製織後に炭化あるいは黒鉛化したもの)、
- 炭素繊維不織布(例えば、酸化ポリアクリロニトリルから構成され、ドライレイ処理し、カーディング処理し、ウォータージェットで強化し、その後に厚さ調整して炭化させた不織布)。
【0006】
燃料電池は、電極プロセスに関与しない外来イオンの導入により汚染され得ることが知られている。例えば、バイポーラプレートの材料や、そこから燃料電池のMEAに導入されるカチオンおよびアニオンがセル性能に与える影響について検討がなされた。その他の原因としては、特に金属カチオンの場合、セルの他の素材からの排出物、タンク、熱交換器、配管などといったシステム構成要素からの排出物、カソードへの空気供給流からの排出物、ならびに製造および輸送による水素への混入物が挙げられる。導入される金属イオンの考え得る問題点の1つとして、該イオンが電解質膜に吸着され易いという点が挙げられる。これは、パーフルオロカチオン交換膜のスルホン酸基に対する金属カチオンの親和力が強く、通常はスルホン酸基に対するプロトンの親和力よりも大きいためである。
【0007】
今般、GDLも、MEAにおいてある割合の外来イオン担持量を有し得ることが見出された。したがって、イオン、特に金属カチオンの濃度が非常に低いガス拡散層、およびその製造方法が必要とされている。該GDLは特に、工業用途の水に通常含まれる、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンといったカチオンの濃度が低いことが望ましい。その際、GDLの他の機械的特性が不利に変更されないことが望ましい。
【0008】
炭素繊維不織布の製造に際して、カーボンファイバーまたはカーボンファイバー前駆体の不織材を、水を含む流体ジェットの作用による強化に供することができる。過熱蒸気ジェットによるスパンレース加工を含む流体ジェットおよび流体流による不織材強化のためのこのようなスパンレース法は、当業者に知られている。不織布を機械的に強化するための特定の方法の1つにウォータージェットによる強化があり、該方法では、約20~400バール超の高圧の水が、強化すべき不織材に複数のノズルを通じて送られる。この場合、ウォータージェットの衝撃力により繊維が生成物に機械的に固定される。該方法の工具として機能するのがいわゆるノズルストリップであり、これは、1列または複数列で備えられていてよい。この場合、各列は複数のノズルを備える。ノズルの最大数は、1ストリップあたり最大で20,000ノズルであることができ、典型的なノズル径は、0.05~0.3mmの範囲である。
【0009】
国際公開第02/31841号には、カーボンファイバーの予備酸化繊維の繊維ウェブから、該繊維ウェブを100~300バールの圧力で高圧流体ジェットにより強化し、強化した繊維不織材を緻密化し、次いで保護ガス雰囲気下で800℃~2500℃の温度で炭化および/または黒鉛化させることにより得られた導電性不織布が記載されている。
【0010】
独国特許出願公開第102006060932号明細書には、繊維とコーティングとを含み、該コーティングが繊維表面に共有結合している、温度安定性の高い構造体が記載されている。特に、これはフッ素化炭化水素によるプラズマコーティングを施した導電性不織布であり、燃料電池のガス拡散層として適している。導電性不織布の製造に際して、カーボンファイバーまたはカーボンファイバー前駆体の積層により繊維ウェブが生成され、これが高圧流体ジェットの作用により強化され、次いでこれに予備乾燥、カレンダリングおよび炭化処理が施される。
【0011】
米国特許出願公開第2019/0165379号明細書には、面内に高目付の領域と低目付の領域とを有するカーボンファイバー不織布をベースとするガス拡散層用の材料であって、不織布の表面の少なくとも1つが、繊維の重量分布に依存しない凹部と凸部とを有する非平坦パターンを有する、材料が記載されている。不織布の製造は、ウォータージェット法を含む。
【0012】
前出の文献のいずれにも、ウォータージェット処理に使用する水の品質に関する記載はない。
【0013】
今般、カーボンファイバーまたはカーボンファイバー前駆体のドライレイド不織材を、水を含む流体ジェットの作用による強化に供することによって、高純度の炭素繊維不織布を製造できることが判明した。驚くべきことに、ウォータージェットによる強化法により、イオン濃度が非常に低い高純度の不織布を製造することが可能であり、さらに、該不織布をさらに加工して、同様にイオン濃度が非常に低いGDLを得ることが可能である。有利なことに、得られた不織布は、いわゆるノズルストリップ欠陥の数が非常に少ないという特徴を有する。このノズルストリップ欠陥は、ノズルストリップの個々のノズルの閉塞時に発生する場合がある。
【0014】
発明の概要
本発明の第1の主題は、燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
a)カーボンファイバーおよび/またはカーボンファイバー前駆体を含む繊維組成物を提供するステップと、
b)ステップa)で提供された繊維組成物を、繊維ウェブの製造プロセスに供するステップと、
c)繊維ウェブを、水を含む流体ジェットの作用により強化して不織布を得るが、その際、使用される水は、25℃で最大で250マイクロジーメンス/cmの導電率値を有するものとするステップと、
d)任意に、ステップc)で得られた不織布を、乾燥および/またはさらなる強化のための熱的および/または機械的処理に供するステップと、
e)ステップa)で使用される繊維組成物がカーボンファイバー前駆体を含む場合、不織布を少なくとも1000℃の温度での熱分解に供するステップと
を実施する、方法である。
【0015】
特定の一実施形態では、ステップc)、d)またはe)で得られた不織布は、(すなわち、これらのステップのいずれが実施されるかに応じて、これらのステップのうち最後のステップに続いて)疎水化剤で仕上げ加工される(=ステップf))。
【0016】
さらなる特定の一実施形態では、ステップc)、d)、e)またはf)で得られた不織布は、(すなわち、これらのステップのいずれが実施されるかに応じて、これらのステップのうち最後のステップに続いて)マイクロポーラス層で被覆される(=ステップg))。
【0017】
本発明はさらに、水を含む流体ジェットの作用により強化された、イオン濃度が非常に低い繊維ウェブ(ウォータージェットにより強化された不織布)に関する。したがって、本発明の主題はさらに、
a)カーボンファイバーおよび/またはカーボンファイバー前駆体を含む繊維組成物を提供するステップと、
b)ステップa)で提供された繊維組成物を、繊維ウェブの製造プロセスに供するステップと、
c)繊維ウェブを、水を含む流体ジェットの作用により強化して不織布を得るが、その際、使用される水は、25℃で最大で250マイクロジーメンス/cmの導電率を有するものとするステップと
を実施する方法によって得ることができる不織布である。
【0018】
ステップa)、b)およびc)に関しては、これらのステップに関する以下の説明が十分に参照される。
【0019】
本発明のさらなる主題は、前記および以下に定義される、または前記および以下に定義される方法によって得ることができる、ガス拡散層である。
【0020】
本発明のさらなる主題は、前記および以下に定義される、または前記および以下に定義される方法によって得ることができるガス拡散層を少なくとも1つ備えた、燃料電池である。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明による方法によって得られるガス拡散層は、以下の利点を有する:
- ドライレイドカーボンファイバーからウォータージェットによる強化によって得られたカーボンファイバー不織布、およびそれをベースとするGDLは、イオン濃度が非常に低いことを特徴とする。
- ドライレイドカーボンファイバー前駆体からウォータージェットによる強化およびその後の炭化または黒鉛化によって得られた不織布、およびそれをベースとするGDLもまた、イオン濃度が非常に低いことを特徴とする。
- 本発明の方法によるウォータージェットによる強化によって得られた不織布は、いわゆるノズルストリップ欠陥の数が非常に少ない。
- 先行技術で使用されるGDLと比較して、本発明によるGDLは、同等の良好な機械的特性を有する。
- 本発明によるGDLをベースとする燃料電池は、従来のGDLをベースとする燃料電池よりも耐用年数が長い。
【0022】
本発明によるおよび本発明による方法によって得ることができるガス拡散層は、面状の導電性材料として炭素繊維不織布を有する。炭素繊維不織布およびガス拡散層は、実質的に二次元的で平面的な広がりを有するが、それに対して厚さが小さい面状の構造体である。ガス拡散層は通常は、触媒層を有する隣接する膜の底面と、燃料電池の隣接する分流板の底面とに実質的に対応する底面を有する。ガス拡散層の底面の形状は、例えば、多角形(n≧3のn角形、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形など)、円形、円セグメント状(例えば、半円形)、楕円形、または楕円セグメント状であってよい。好ましくは、底面は、矩形または円形である。
【0023】
ガス拡散層の製造
ステップa)
本発明による方法のステップa)において、カーボンファイバーおよび/またはカーボンファイバー前駆体を含む繊維組成物を提供する。
【0024】
好ましいカーボンファイバーは、その総重量に対して少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも92重量%が炭素からなる。特定の一実施形態では、黒鉛化に供されたカーボンファイバーを使用することができる。これらのカーボンファイバーは、炭素含有量が高く、特に少なくとも95重量%が炭素からなる。
【0025】
適切なカーボンファイバー前駆体は、1つ以上の処理ステップ(炭化)によりカーボンファイバーに変換することが可能な合成または天然由来の繊維である。これらには、例えば、ポリアクリロニトリルホモおよびコポリマー繊維(PAN繊維)、フェノール樹脂繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルエステルケトン繊維、ポリエーテルスルホン繊維、ポリビニルアルコール繊維、リグニン繊維、レジン繊維およびそれらの混合物が含まれる。好ましくは、ステップa)で提供された繊維組成物は、前駆体繊維としてのPAN繊維を含むか、または前駆体繊維としてのPAN繊維からなる。第1の好ましい実施形態では、ステップa)で提供される繊維組成物は、PAN繊維と、それ以外の繊維であって、好ましくはフェノール樹脂繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、セルロース繊維、アラミド繊維、ポリエーテルケトン繊維、ポリエーテルエステルケトン繊維、ポリエーテルスルホン繊維、ポリビニルアルコール繊維、リグニン繊維、レジン繊維およびそれらの混合物から選択されるものとを含む。そのような追加のポリマーは、好ましくは、カーボンファイバー前駆体に対して最大で50重量%、特に好ましくは最大で25重量%の量でこれに含まれている。第2の好ましい実施形態では、ステップa)で提供された繊維組成物は、専らPAN繊維からなる。
【0026】
適切なPAN繊維は、PANホモポリマー、PANコポリマーおよびそれらの混合物から選択される。PANコポリマーは、少なくとも1つのコモノマーを重合導入により含み、このコモノマーは、好ましくは、(メタ)アクリルアミド、アルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレート、アルキルエーテルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、アルキルビニルエーテル、ハロゲン化ビニル、ビニル芳香族化合物、ビニルエステル、エチレン性不飽和ジカルボン酸、それらのモノおよびジエステル、ならびにそれらの混合物から選択される。例えば、コモノマーは、アクリルアミド、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、4-メトキシブチルアクリレート、ジエチレングリコールエチルエーテルアクリレート、2-ブトキシエチルアクリレート、エチルビニルエーテル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノラウリルエステル、フマル酸ジメチルエステル、スチレン、酢酸ビニル、臭化ビニル、塩化ビニルなどから選択される。ステップa)においてカーボンファイバー前駆体としてポリアクリロニトリルコポリマー繊維が使用される場合、コモノマーの割合は、重合に使用されるモノマーの総重量に対して最大で20重量%、好ましくは最大で10重量%である。好ましくは、ステップa)においてカーボンファイバー前駆体としてポリアクリロニトリルホモポリマー繊維が使用される。
【0027】
PANポリマーは、例えば、溶液として湿式紡糸および凝固により紡糸してフィラメントとし、これをまとめて紐状物(繊維束)とすることができる。PANコポリマーは、PANホモポリマーよりも融点が低いことが多く、したがって、湿式紡糸プロセスだけでなく溶融紡糸プロセスでの使用にも適している。このようにして得られたPAN繊維は通常は、酸素含有雰囲気中での約180~300℃の高温での酸化的環化(略して、酸化または安定化とも呼ばれる)に供される。その際に生じる化学的架橋により、繊維の寸法安定性が向上する。
【0028】
酸化的環化で得られた繊維を、さらに後処理せずに、ステップa)においてカーボンファイバー前駆体として使用することができる。酸化的環化で得られた繊維を、好ましくは浄化、少なくとも1つのサイズ剤による被覆、乾燥およびこれらの処理ステップのうちの少なくとも2つの組み合わせから選択される、少なくとも1つの後処理ステップに供することも可能である。電気化学的酸化後の繊維を洗浄するために、繊維を洗浄プロセスに供することができる。この洗浄は、特に繊維片を除去するために行われる。洗浄後、通常は乾燥ステップが行われる。表面特性を変更するために、繊維を少なくとも部分的に少なくとも1つのサイズ剤で被覆することができる。サイズ剤は、例えば、適切な溶媒中の溶液の形態で、または分散液の形態で使用することができる。被覆を施すために、繊維を、例えばサイジング浴に通すことができる。サイズを、ステップc)のウォータージェットによる強化の際に繊維から少なくとも部分的に剥離することができる。ステップc)において繊維ウェブの強化に使用される水が少なくとも部分的に再循環される場合には、ウォータージェットによる強化の排水を後処理に供し、この後処理で、排水に含まれるサイズを部分的または完全に除去することが有利であり得る。
【0029】
繊維を少なくとも1つのサイズ剤で被覆した後、これは通常、(さらなる)乾燥に供される。乾燥は、それぞれ例えば、熱風、ホットプレート、加熱ローラーまたは熱線により実施することができる。
【0030】
このようにして得られたカーボンファイバー前駆体を、本発明による方法のステップa)において繊維組成物として使用し、さらに処理することができる。また、PAN繊維を含むかまたはPAN繊維からなる繊維組成物を、少なくとも1000℃の温度での熱分解に供すことができ、その際、PAN前駆体は炭素繊維に変換される。熱分解条件に関して、ステップe)についての以下の説明が参照される。このようにして得られたカーボンファイバーも同様に、本発明による方法のステップa)において繊維組成物として使用し、さらに処理することができる。
【0031】
ステップb)
本発明による方法のステップb)において、ステップa)で提供された繊維組成物を、繊維ウェブ(カーボンファイバー不織材あるいはカーボンファイバー前駆体不織材)の製造プロセスに供する。適切な不織布製造方法は、当業者に知られており、例えばH. Fuchs, W. Albrecht, Vliesstoffe, 2. Aufl. 2012, S. 121 ff., Wiley-VCHに記載されている。これらには、例えば、乾式法、湿式法、押出法および溶剤法が含まれる。好ましい一実施形態では、ステップa)で提供された繊維組成物は、ステップb)において、繊維ウェブを製造するためのドライレイプロセスに供される。ドライレイド不織布の製造は、原則として、カーディング法またはエアロダイナミック法により実施することができる。カーディング法では、繊維ウェブの形成がカードまたは梳綿機によって行われるのに対して、エアロダイナミック法では、繊維からの不織材の形成が空気の利用により行われる。所望の場合には、複数の層状の繊維ウェブを重ねて積層して不織材を形成することができる。ステップb)のドライレイプロセスは、例えば不織材延伸による特性の変更を含むことができる。これにより、例えば、不織材の厚さ調整および/または繊維ウェブの予備強化を行うことができる。
【0032】
ステップc)
本発明による方法のステップc)において、ステップb)で得られた繊維ウェブを、水を含む流体ジェットの作用により強化して不織布を得る。ここで、水を含む流体ジェットには、流体流および蒸気ジェットも含まれる。
【0033】
ウォータージェットによる強化には、原則として、この目的のために知られている、スパンレース法とも呼ばれる機械的強化法が適している。また、原理的には、過熱蒸気ジェットを不織材の強化に使用する、いわゆるスチームジェット技術も適している。このような方法は、当業者に知られている。不織布の機械的強化のための特定の一方法では、約20~500バールの高圧の水が、強化すべき不織材に複数のノズルを通じて送られる。ここで、ノズルは、いわゆるノズルストリップに1列または複数列で配置されている。これらのノズルストリップは、各列に複数のノズルを有する。ノズルの最大数は、1ストリップあたり最大で20000ノズルであることができ、典型的なノズル径は、0.05~0.5mmの範囲である。ノズル孔径の公差は、通常は非常に小さく、例えば2mm未満である。欠陥のない不織布を実現するためには、ノズル孔径が動作中に変化せず、特にノズルが閉塞しないことが必要である。
【0034】
今般、繊維ウェブ(不織材)の強化に使用される水の導電性が、該繊維ウェブ(不織材)から製造される、燃料電池に使用されるガス拡散層の品質に重要であることが判明した。したがって、ステップc)において不織布の強化に使用される水が、25℃で最大で250マイクロジーメンス/cm(μS/cm)の導電率を有することが、本発明による方法の重要な特徴である。好ましくは、ステップc)で使用される水は、25℃で最大で200マイクロジーメンス/cm、特に好ましくは25℃で最大で150マイクロジーメンス/cm、特に25℃で最大で100マイクロジーメンス/cmの導電率を有する。
【0035】
導電率は、イオン濃度、すなわち、ある量の水に溶解している解離物質の割合の累積的な指標である。ここで、導電率は、特に、溶解物質の濃度、その解離度、ならびに形成されたカチオンおよびアニオンの価数および移動度、ならびに温度に依存する。導電率の測定は、分析すべき水試料のオーミック抵抗率、あるいは抵抗率の逆数である導電率値(単位ジーメンスS=Ω-1)の決定に基づく。導電率の測定には、市販の導電率計(コンダクトメーター)を使用することができる。ここで、測定値は、通常はS/cm(ジーメンス/センチメートル)単位で示され、イオン負荷量の少ない水試料についてはμS/cm(マイクロジーメンス/センチメートル)単位で示される。
【0036】
工業プロセス用のプロセス水および工程用水は、通常は、公共の飲料水網から供給されるか、または井戸、河川および湖から採取される。水質が重要なプロセスの飲料水やプロセス水は、通常、その内容物質が検査され、必要に応じて水処理工程に供される。ここで、水の純度に対する要求は、各用途によって極めて多様である。例えば、飲料水は、無色透明の液体として、臭いや有害な微生物や物質を含まないが、生命にとって重要なミネラル分や塩分を豊富に含んだ状態で供給される。この水は、食用に適した品質であるが、必ずしも多くの工業用途に適しているとはいえない。例えば、ドイツの飲料水条例(TrinkwV 2001、2016年3月10日付の新版)に基づく導電率の限界値は、25℃で2790マイクロジーメンス/cmである。ドイツの水道局が供給する水道水の導電率は、硬度レベルに応じて、25℃で250~1000マイクロジーメンス/cmである。無機カチオンの主要な割合を占めるのは、Na+、K+、Ca2+、およびMg2+である。
【0037】
本発明によるステップc)で使用される水を提供するために、利用可能な飲料水またはプロセス水を、イオン濃度を低下させるための後処理に供することができる。これには、イオン交換、電気脱イオン、膜処理、例えば、ナノフィルトレーション、逆浸透および電気透析、熱プロセス、例えばフラッシュ蒸発などがある。
【0038】
好ましくは、イオン濃度を低下させるために、ナノフィルトレーション、逆浸透またはこれらのプロセスの組み合わせが使用される。ナノフィルトレーションおよび逆浸透はいずれも、後処理すべき水を浸透圧より高い圧力下で半透膜に通して、イオン濃度が低下した透過液を得ることに基づくものである。ここで、ナノフィルトレーションは、逆浸透よりも低い圧力で行われるため、逆浸透よりも浄化能力は低いが、多くの場合、十分な浄化能力がある。ナノフィルトレーションにより予備浄化を行い、次いで逆浸透によりイオン濃度をさらに低下させることも可能である。
【0039】
好ましくは、ステップc)で使用される水は、最大で200重量ppm、特に好ましくは最大で25重量ppmのNa+イオン含有量を有する。
【0040】
好ましくは、ステップc)で使用される水は、最大で200重量ppm、特に好ましくは最大で10重量ppmのK+イオン含有量を有する。
【0041】
好ましくは、ステップc)で使用される水は、最大で10重量ppmのMg2+イオン含有量を有する。
【0042】
好ましくは、ステップc)で使用される水は、最大で200重量ppm、特に好ましくは最大で40重量ppmのCa2+イオン含有量を有する。
【0043】
本発明による方法の特定の一実施形態では、ステップc)において繊維ウェブの強化に使用される水は、部分的にまたは完全に再循環される。したがって、本発明による方法によって、ウォータージェットによる強化のための真水の要件および廃棄すべき排水量の低減が可能となる。ここで、繊維ウェブの処理に使用される水が常に本発明による範囲の導電率を有するとともに、さらには、ウォータージェットによる強化の排水に含まれる成分による繊維ウェブの汚染も回避されることが保証される。この目的のために、ウォータージェットによる強化の排水を、部分的または完全に後処理および/または交換に供することができる。
【0044】
ウォータージェットによる強化の排水の後処理および/または交換は、連続的にまたは間隔をおいて実施することができる。
【0045】
好ましいのは、繊維ウェブを、水を含む流体ジェットの作用により強化して不織布とし、繊維ウェブの処理から排水流を排出し、排水流の導電率の設定値を定め、排水流の導電率の実測値を求め、設定値からの実測値のずれの限界値に達した後に、排水流を少なくとも部分的に後処理および/またはイオン濃度がより低い水との交換に供し、排水流を少なくとも部分的に繊維ウェブの処理に返送する、方法である。
【0046】
後処理のために、排水流を、先に述べたようなイオン濃度の低下に供することができる。さらに、排水流を、例えば繊維および繊維片を除去するためのさらなる浄化に供することができる。
【0047】
ステップd)
任意に、ステップc)で得られた不織布を、乾燥および/またはさらなる強化のための熱的および/または機械的処理に供することができる。適切な乾燥法は、対流乾燥、接触乾燥、放射線乾燥およびそれらの組み合わせである。
【0048】
好ましくは、ステップc)で得られた不織布は、カレンダリングによる処理に供される。カレンダリングにより、不織布のさらなる熱強化と、厚さ調整とを同時に行うことができる。ここで、複数の不織材層を互いに結合させることも可能である。特定の一実施形態では、ステップc)で得られた不織布は、熱可塑性繊維を含む。この熱可塑性繊維は、バインダー繊維として機能し、通常は炭化可能である。この場合、ステップd)において、繊維が可塑化されて互いに融着される結合点の形成とともに、不織布の熱的なカレンダリングによる強化を行うことができる(サーマルボンディング)。
【0049】
ステップe)
ステップa)で使用される繊維組成物がカーボンファイバー前駆体を含む場合、不織布を、ステップe)において少なくとも1000℃の温度での熱分解に供する。熱分解時の温度によって、炭化と黒鉛化とに区別される。炭化とは、不活性ガス雰囲気下に約1000~1500℃で処理することであり、揮発性生成物が分解される。黒鉛化、すなわち不活性ガス下で約2000~3000℃に加熱すると、いわゆる高弾性繊維やグラファイト繊維が得られる。炭素の割合は熱分解時に増加し、例えば1000℃未満の温度で処理した場合の約67重量%から、2000℃超の温度で処理した場合の約99重量%へと増加する。特に、黒鉛化により得られる繊維は、高純度で、軽量で、高強度で、かつ導電性および熱伝導性が非常に優れている。
【0050】
ステップf)
任意に、不織布を、ステップc)、d)またはe)に続いて、少なくとも1つの添加剤で仕上げ加工することができる。添加剤は、好ましくは、疎水化剤f1)、導電性向上添加剤f2)、f1)およびf2)以外のさらなる添加剤f3)、ならびにそれらの混合物から選択される。
【0051】
好ましくは、不織布は、少なくとも1つのフッ素含有ポリマーを含む疎水化剤f1)で被覆および/または含浸(仕上げ加工)される。好ましくは、フッ素含有ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシポリマー(PFA)およびそれらの混合物から選択される。パーフルオロアルコキシポリマーは、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロビニルプロピルエーテルなどのパーフルオロアルコキシビニルエーテルとのコポリマーである。好ましくは、フッ素含有ポリマーとしてポリテトラフルオロエチレンが使用される。
【0052】
好ましくは、フッ素含有ポリマーf1)の質量割合は、不織布の質量に対して0.5~40%、特に好ましくは1~20%、特に1~10%である。特定の一実施形態では、フッ素含有ポリマーはPTFEであり、質量割合は、不織布の質量に対して0.5~40%、好ましくは1~20%、特に1~10%である。
【0053】
多くの場合、不織布は、導電性向上添加剤がなくても、使用されている炭素繊維により良好な導電性および熱伝導性をすでに有している。しかし、導電性および熱伝導性を向上させるために、不織布を少なくとも1つの導電性向上添加剤f2)でさらに仕上げ加工することができる。好ましくは、不織布は、導電性向上添加剤f2)で仕上げ加工され、導電性向上添加剤f2)は、金属粒子、カーボンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー、およびそれらの混合物から選択される。好ましくは、導電性向上添加剤f2)は、カーボンブラックを含むかまたはカーボンブラックからなる。少なくとも1つの導電性向上添加剤f2)による不織布の仕上げ加工は、例えば、ポリマーf1)および/またはさらなる添加剤f3)と共に実施することができる。好ましくは、不織布の仕上げ加工には水性分散液が使用される。
【0054】
好ましくは、導電性向上添加剤f2)の質量割合は、不織布の質量に対して0.5~45%、好ましくは1~25%である。特定の一実施形態では、導電性向上添加剤f2)は、カーボンブラックを含むかまたはカーボンブラックからなり、質量割合は、不織布の質量に対して0.5~45%、好ましくは1~25%である。
【0055】
不織布は、少なくとも1つのさらなる添加剤f3)でさらに仕上げ加工されていてよい。これらには、例えば、成分f1)およびf2)以外のポリマーバインダー、界面活性物質などが含まれる。適切なバインダーf3)は、例えばフラン樹脂などである。特に、不織布は、f1)以外の少なくとも1つのポリマーでさらに仕上げ加工することができ、その際、好ましくは高性能ポリマーが使用される。さらなるポリマーf3)は、好ましくは、ポリアリールエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、半芳香族(コ)ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミドおよびそれらの混合物から選択される。少なくとも1つの添加剤f3)による不織布の仕上げ加工は、例えば、ポリマーf1)および/または導電性向上添加剤f2)と共に実施することができる。その後、必要に応じてバインダーf3)を硬化させることができる。これは、例えば、ポリマーf1)による仕上げ加工の後の乾燥および/または焼結と一緒に実施することも、それとは別個に実施することもできる。
【0056】
好ましくは、さらなる添加剤f3)の総質量割合は、不織布の質量に対して0~80%、好ましくは0~50%である。不織布がさらに少なくとも1つのさらなる添加剤f3)を含む場合、さらなる添加剤f3)の総質量割合は、不織布の質量に対して0.1~80%、好ましくは0.5~50%である。
【0057】
不織布は、好ましくは50~500μm、特に好ましくは100~400μmの範囲の厚さを有する。この厚さは、不織布の仕上げ加工を施していない非圧縮状態、すなわちGDLが燃料電池に組み込まれる前の状態に関するものである。
【0058】
成分f1)、f2)および/またはf3)による不織布の仕上げ加工は、特に被覆および/または含浸のような当業者に知られている施与方法によって実施することができる。好ましくは、不織布の被覆および/または含浸には、パディング、ドクターブレードによる加工、吹付け、スロープパディングおよびそれらの組み合わせから選択される方法が使用される。
【0059】
パディングプロセスでは、不織布を、添加剤を含有する溶液や分散液と共にパダー(浸漬槽)に通し、次いで圧力および必要に応じてギャップの調整が可能な一対のローラーで絞って、添加剤を所望の施与量とする。
【0060】
ドクターブレードによるプロセスでは、グラビア印刷とスクリーン印刷とが区別される。グラビア印刷では、ドクターブレードとして、例えば、研磨された刃状の鋼板にバックアップブレードを備えたもの、あるいは備えていないものが使用される。これは、圧胴のウェブに付着した、添加剤を含有する余分な溶液や分散液を掻き取るために使用される(ドクターブレードによる除去)。一方、スクリーン印刷では、ドクターブレードは通常、ゴムやプラスチックからなり、縁部は、鋭利にまたは丸みを帯びるように研磨されている。
【0061】
吹付け塗布では、添加剤を含有する溶液や分散液が、少なくとも1つのノズル、特に少なくとも1つのスロットノズルにより、仕上げ加工すべき不織布に施与される。
【0062】
スロープパディングプロセス(キスロール)は、好ましくは、水平に延在するウェブの材料の下側を被覆するために使用される。被覆媒体を、ウェブに対して反対方向に施与することも同一方向に施与することも可能である。転写ローラーにより、少量の施与で間接的な被覆を実現することができる。
【0063】
特定の一実施形態では、本発明による方法のステップf)において成分f1)、f2)および/またはf3)で仕上げ加工された不織布を乾燥および/または熱処理に供する。添加剤を含有する溶液や分散液を被覆および/または含浸させた不織布を乾燥および/または熱処理するための適切なプロセスは、原理的に知られている。好ましくは、乾燥および/または熱処理は、20~250℃、より好ましくは40~200℃の範囲の温度で行われる。さらに、乾燥を減圧で行うことができる。
【0064】
ステップg)
好ましい一実施形態では、本発明によるガス拡散層は、不織布と、不織布の1つの面上に設けられたマイクロポーラス層(MPL)とをベースとする2層状の層複合体からなる。よって、ガス拡散層の製造に際して、ステップc)、d)、e)またはf)で得られた不織布をマイクロポーラス層で被覆することができる。
【0065】
マクロポーラス不織布とは対照的に、MPLは、通常は1マイクロメートルを明らかに下回る、好ましくは最大で900nm、特に好ましくは最大で500nm、特に最大で300nmの孔径を有するマイクロポーラス状である。MPLの平均孔径は、好ましくは5~200nm、特に好ましくは10~100nmの範囲にある。平均孔径の測定は、水銀ポロシメトリーによって行うことができる。MPLは、ポリマーバインダーのマトリックス中に伝導性炭素粒子、好ましくはカーボンブラックまたはグラファイトを含む。好ましいバインダーは、先に述べたフッ素含有ポリマー、特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。
【0066】
マイクロポーラス層は、好ましくは10~100μm(マイクロメートル)、特に好ましくは20~50μmの範囲の厚さを有する。この厚さは、マイクロポーラス層B)の非圧縮状態、すなわちGDLが燃料電池に組み込まれる前の状態に関するものである。
【0067】
本発明によるガス拡散層は、好ましくは80~1000μm、特に好ましくは100~500μmの範囲の厚さ(不織布とMPLとの合計厚さ)を有する。この厚さは、GDLの非圧縮状態、すなわちGDLが燃料電池に組み込まれる前の状態に関するものである。
【0068】
本発明のさらなる主題は、先に定義した、または先に定義した方法によって得ることができるガス拡散層を少なくとも1つ備えた、燃料電池である。原理的には、本発明によるガス拡散層は、従来のすべてのタイプの燃料電池に適しており、特に低温プロトン交換膜型燃料電池(PEMFC)に適している。燃料電池の構造についての前述の実施形態が全面的に参照される。
【図面の簡単な説明】
【0069】
図1】未処理の不織布、および導電率の異なる水で強化した不織布の金属含有量(Ca2+、Na+、Mg2+、およびK+)を示す図である。
図2】導電率の異なる水で強化した基材不織布、それを炭化して得られたカーボンファイバー不織布、およびMPLを施与して得られたガス拡散層のCa2+およびNa+イオンの含有量を示す図である。
図3図2と同様にCa2+イオンおよびNa+イオンの含有量の合計を示す図である。
【0070】
本発明を以下の実施例によって説明するが、これらは限定的な例と理解されるものではない。
【0071】
実施例
酸化ポリアクリロニトリル繊維の基材不織布、それを炭化して得られた不織布、およびGDLの金属含有量(Ca2+、Na+、Mg2+、およびK+)の測定を、ICP-AES法(Inductively Coupled Argon Plasma - Atomic Emission Spectrometry、誘導結合アルゴンプラズマ発光分析法)により行った。試料の前処理(分解)を、底質、汚泥および土壌の酸分解に関するEPA-Methode 3050Aに準拠して行うことができる。このプロセスは、以下のステップを含む:
1.)硝酸による分解を、95℃で15分間行う。
2.)この分解をさらに1時間継続しながら、さらに硝酸を加える。
3.)ホットプレートから取り出し、脱イオン水および20%過酸化水素溶液を加える。
4.)再度ホットプレート上で約15分間加熱し、泡の形成が完全に停止した後、再度ホットプレートから取り出す。
5.)濃塩酸を加え、再度1時間分解させる。
【0072】
ウォータージェットによる強化には、以下の表1に記載の導電率を有する水を使用した。比較の水1は、従来のウォータージェットによる不織材強化法での使用に一般的であるプロセス水に相当する。水バッチ2および3については、ナノろ過によってイオン濃度を低下させた。
【0073】
表1
【0074】
製造例
基材不織布を製造するために、100%の酸化ポリアクリロニトリル繊維から構成されるドライレイド繊維ウェブを、カードに配置した。この繊維ウェブを強化ユニットに供給し、このユニットにおいて、第1の段階でそれぞれ約100バール、第2の段階ではそれぞれ約200バールの圧力での高エネルギーのウォータージェットにより繊維を両側からスパンレース加工して交絡させた。表1による品質の水を使用した。不織布を乾燥させて巻き取り、その際、ウォータージェットによる強化および乾燥を行った後の目付は、150g/m2であった。次いで、この不織布を厚さ調整に供することにより、ウォータージェットによる強化を施した不織布の厚みを0.25mmに減少させた。次いで、この不織布を炭化ユニットに供給し、このユニットにおいて、窒素雰囲気下に約1000~1400℃で炭化を行った。
【0075】
不織布の仕上げ加工のために、固形分基準で70%のカーボンブラックと30%のPTFEとを含む含浸組成物を使用した。仕上げ加工を、仕上げ加工重量がGDL基材の質量に対して15%(15g/m2に相当)となるように水性分散液をパディング含浸させることにより行った。次いで、さらに180℃での乾燥および400℃での焼結を行った。このようにして得られた基材に、次にさらに、蒸留水中に2.0重量%のPTFEと7.8重量%の炭素とを含むMPLペーストを施与した。次いで、この不織布を160℃で乾燥させ、400℃で焼結させた。得られたMPL担持量は、24g/m2であった。
図1
図2
図3