(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】銅-ダイヤモンド複合体、放熱部材および電子装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/373 20060101AFI20250120BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20250120BHJP
C22C 1/05 20230101ALI20250120BHJP
C22C 26/00 20060101ALI20250120BHJP
C22C 1/10 20230101ALI20250120BHJP
【FI】
H01L23/36 M
B22F1/00 L
C22C1/05 P
C22C26/00 Z
C22C1/10 E
(21)【出願番号】P 2023540331
(86)(22)【出願日】2022-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2022029486
(87)【国際公開番号】W WO2023013579
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2021128792
(32)【優先日】2021-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】丁 孝眞
(72)【発明者】
【氏名】酒井 謙嘉
(72)【発明者】
【氏名】永沢 基
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-160996(JP,A)
【文献】国際公開第07/074720(WO,A1)
【文献】特開2013-098491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
B22F 1/00
C22C 1/05
C22C 26/00
C22C 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有する金属マトリックス中に複数のダイヤモンド粒子が分散した、銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記金属マトリックスが、金属の焼結体で構成されており、
画像式粒度分布測定装置を用いて前記ダイヤモンド粒子の粒度分布を測定したとき、前記ダイヤモンド粒子の球形度分布の数平均が0.90以上である、
銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が50%となる球形度S
50が0.87以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が90%となる球形度S
90が0.91以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が10%となる球形度S
10が0.8以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径分布の数平均が180μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が50%となる粒子径D
50が180μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が90%となる粒子径D
90が210μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D
10が160μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径が粒子径D
50より大きく粒子径D
90以下の範囲に属する、前記ダイヤモンド粒子の球形度が0.90以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径が粒子径D
10より大きく粒子径D
50以下の範囲に属する、前記ダイヤモンド粒子の球形度が0.90以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
熱伝導率が610W/m・K以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の体積含有率が10体積%以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の銅-ダイヤモンド複合体と、
前記銅-ダイヤモンド複合体の少なくとも一方の面に接合した金属膜と、
を含む、放熱部材。
【請求項14】
請求項13に記載の放熱部材と、
前記放熱部材上に設けられた電子部品と、を備える、電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅-ダイヤモンド複合体、放熱部材および電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで銅-ダイヤモンド複合体について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、金属マトリクス-熱伝導体粒子の複合材料に関して、ダイヤモンド粒子やSiC粒子などの良熱伝導体粒子の平均粒子系が10~100μm以下と記載されている(段落0060等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の複合材料において、熱伝導率の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者がさらに検討したところ、銅-ダイヤモンド複合体中に含まれるダイヤモンド粒子の球形度合を適切に制御することにより、複合体における熱伝導性を向上できることを見出した。
このような知見に基づいて鋭意研究したところ、本発明者は、画像式粒度分布測定装置を用いて求められるダイヤモンド粒子の球形度の数平均を所定値以上とすることにより、複合体の熱伝導性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の一態様によれば、以下の銅-ダイヤモンド複合体、放熱部材および電子装置が提供される。
【0007】
1. 銅を含有する金属マトリックス中に複数のダイヤモンド粒子が分散した、銅-ダイヤモンド複合体であって、
画像式粒度分布測定装置を用いて前記ダイヤモンド粒子の粒度分布を測定したとき、前記ダイヤモンド粒子の球形度分布の数平均が0.90以上である、
銅-ダイヤモンド複合体。
2. 1.に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が50%となる球形度S50が0.87以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
3. 1.又は2.に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が90%となる球形度S90が0.91以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が10%となる球形度S10が0.8以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径分布の数平均が180μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が50%となる粒子径D50が180μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が90%となる粒子径D90が210μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D10が160μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径が粒子径D50より大きく粒子径D90以下の範囲に属する、前記ダイヤモンド粒子の球形度が0.90以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径が粒子径D10より大きく粒子径D50以下の範囲に属する、前記ダイヤモンド粒子の球形度が0.90以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
熱伝導率が610W/m・K以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の体積含有率が10体積%以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
【0008】
13. 1.~12.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体と、
前記銅-ダイヤモンド複合体の少なくとも一方の面に接合した金属膜と、
を含む、放熱部材。
14. 13.に記載の放熱部材と、
前記放熱部材上に設けられた電子部品と、を備える、電子装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱伝導率に優れた銅-ダイヤモンド複合体、それを用いた放熱部材および電子装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る銅-ダイヤモンド複合体の構成の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本実施形態に係る放熱部材の構成の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
【0012】
本実施形態の銅-ダイヤモンド複合体の概要について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る銅-ダイヤモンド複合体の構成の一例を示す断面模式図である。
【0013】
本実施形態の銅-ダイヤモンド複合体30は、銅を含有する金属マトリックス10中に複数のダイヤモンド粒子20が分散した構造を有する。
この銅-ダイヤモンド複合体30は、画像式粒度分布測定装置を用いてダイヤモンド粒子20の粒度分布を測定したとき、ダイヤモンド粒子20の球形度分布の数平均が0.90以上となるように構成される。
【0014】
本発明者の知見によれば、ダイヤモンド粒子の球形度を指標とすることにより、銅-ダイヤモンド複合体の熱伝導性を安定的に評価することができること、そして、球形度が所定値以上のダイヤモンド粒子を用いることにより、複合体における熱伝導率を向上できることが判明した。
詳細なメカニズムは定かではないが、球形度が高いダイヤモンド粒子を用いることで、充填の過程等において、粒子同士の接触による破壊やひび割れなどの発生頻度を低減できるため、ダイヤモンド粒子の破損による熱伝導率の低下を抑制できると考えられる。
また、球形度が高いダイヤモンド粒子は、金属マトリックス中に高充填可能となるため、一層、複合体における熱伝導率を高められる。
【0015】
ダイヤモンド粒子20の球形度や粒子径は、以下の手順に従って測定できる。
ダイヤモンド粒子20の粒度分布を、画像式粒度分布測定装置(例えば、Malvern社製、Morphologi4)を用いて測定する。粒度分布は、形状分布や粒子径分布を含む。
得られた粒度分布から、球形度の体積粒度分布や粒子径の体積粒度分布を作成する。
そして、ダイヤモンド粒子20の球形度の体積粒度分布において、所定の累積値の球形度や、所定の累積値の粒子径を求める。
ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D10、累積値が50%となる粒子径D50、累積値が90%となる粒子径D90を求める。
ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が10%となる球形度S10、累積値が50%となる球形度S50、累積値が90%となる球形度S90を求める。
また、ダイヤモンド粒子の粒子径が、粒子径D10以下の範囲、粒子径D10超え粒子径D50以下の範囲、粒子径D50超え粒子径D90以下の範囲、粒子径D90超えの範囲の4つの区分に分類される粒子径クラス別において、各粒子径クラスにおける球形度を求める。
また、粒子径分布、形状分布(球形度分布)において、それぞれの数平均(ダイヤモンド粒子の個数基準の平均粒子径)を算出する。
ここで、球形度および粒子径を以下のように定義する。
球形度:投影された物体と同じ面積を持つ円周と物体との円周長の比率
粒子径:粒子画像の輪郭上の2点における最大長さ
【0016】
ダイヤモンド粒子20の球形度分布の数平均の下限は、例えば、0.90以上、好ましくは0.91以上、より好ましくは0.92以上である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、銅-ダイヤモンド複合体30の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の球形度分布の数平均の上限は、特に限定されないが、0.99以下でもよい。
【0017】
ダイヤモンド粒子20の球形度S50の下限は、例えば、0.87以上、好ましくは0.90以上、より好ましくは0.92以上である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の球形度S50の上限は、特に限定されないが、0.99以下でもよく、0.98以下でもよい。
【0018】
ダイヤモンド粒子20の球形度S90の下限は、例えば、0.91以上、好ましくは0.93以上、より好ましくは0.95以上である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の球形度S90の上限は、特に限定されないが、0.99以下でもよい。
【0019】
ダイヤモンド粒子20の球形度S10の下限は、例えば、0.80以上、好ましくは0.82以上、より好ましくは0.85以上である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の球形度S10の上限は、特に限定されないが、0.99以下でもよく、0.95以下でもよい。
【0020】
ダイヤモンド粒子20の粒子径分布の数平均の上限は、例えば、180μm以下、好ましくは175μm以下、より好ましくは170μm以下である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の粒子径分布の数平均の下限は、特に限定されないが、例えば、30μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。これにより、ダイヤモンド粒子20と金属マトリックス10中の銅相/銅合金相との界面を全体的に小さくすることができ、熱抵抗が増加することを抑制できるため、銅-ダイヤモンド複合体における熱伝導特性を向上できる。
なお、ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布は、1個のピークを含むように構成されもよく、または2個以上のピークを含むように構成されてもよい。
【0021】
ダイヤモンド粒子20の粒子径D50の上限は、例えば、180μm以下、好ましくは175μm以下、より好ましくは170μm以下である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の粒子径D50の下限は、特に限定されないが、例えば、30μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。
【0022】
ダイヤモンド粒子20の粒子径D90の上限は、例えば、210μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは190μm以下である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の粒子径D90の下限は、特に限定されないが、例えば、30μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは110μm以上である。
【0023】
ダイヤモンド粒子20の粒子径D10の上限は、例えば、160μm以下、好ましくは158μm以下、より好ましくは155μm以下である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、ダイヤモンド粒子20の粒子径D10の下限は、特に限定されないが、例えば、30μm以上、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上である。
【0024】
ダイヤモンド粒子20の粒子径がD50の粒子径より大きくD90の粒子径以下の範囲に属する、ダイヤモンド粒子20の球形度は、例えば、0.90以上、好ましくは0.91以上、より好ましくは0.92以上である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、上記ダイヤモンド粒子20の球形度の上限は、特に限定されないが、0.99以下でもよい。
【0025】
ダイヤモンド粒子20の粒子径がD10の粒子径より大きくD50の粒子径以下の範囲に属する、ダイヤモンド粒子20の球形度は、例えば、0.90以上、好ましくは0.91以上、より好ましくは0.92以上である。これにより、ダイヤモンド粒子20の充填度合を高め、複合体の熱伝導率を高められる。
一方、上記ダイヤモンド粒子20の球形度の上限は、特に限定されないが、0.99以下でもよい。
【0026】
本実施形態の銅-ダイヤモンド複合体の構成について詳細を説明する。
【0027】
(銅-ダイヤモンド複合体)
銅-ダイヤモンド複合体30(以下、単に「複合体」と呼称することもある)は、銅を含有する金属マトリックス10と、金属マトリックス10中に存在する複数のダイヤモンド粒子20を含む。
【0028】
複合体中のダイヤモンド粒子20は、複数の粒子の全体が金属マトリックス10中に埋設された状態であるが、1個または2個以上の粒子における少なくとも一部が銅-ダイヤモンド複合体30の表面から露出した状態であってもよい。
【0029】
銅-ダイヤモンド複合体30の熱伝導率の下限は、例えば、610W/m・K以上、好ましくは620W/m・K以上、より好ましくは630W/m・K以上である。これにより、放熱部材の放熱特性を高められる。
一方、銅-ダイヤモンド複合体30の熱伝導率の上限は、特に限定されないが、例えば、900W/m・K以下、好ましくは890W/m・K以下、より好ましくは880W/m・K以下である。
【0030】
銅-ダイヤモンド複合体30の形状、サイズは、用途に応じて適宜設定され得る。
銅-ダイヤモンド複合体30の形状の一例は、例えば、平板状、ブロック状、棒状等が挙げられる。
【0031】
金属マトリックス10は、銅を含有するものであればよく、銅以外の他の高熱伝導性金属を含有してもよい。すなわち、金属マトリックス10は、銅相および/または銅合金相で構成される。
【0032】
金属マトリックス10中の主成分は、熱伝導性やコストの観点から、銅が好ましい。
主成分の銅の含有量の下限は、金属マトリックス10の100質量%中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。これにより、銅および銅合金の良好な熱伝導率を利用できる。また、ロウ付け性や表面平滑性の確保のためマトリックスと同じ銅を表面層として活用でき、他の表面被膜層形成を省ける。
主成分の銅の含有量の上限は、金属マトリックス10の100質量%中、とくに限定されないが、100質量%以下でもよく、99質量%以下でもよい。
【0033】
他の高熱伝導性金属として、例えば、銀、金、アルミニウム等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。銅とともに他の高熱伝導性金属を組み合わせる場合、銅と他の高熱伝導性金属とで形成した合金や、複合材料を用いることができる。
なお、金属マトリックス10は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、高熱伝導性金属以外の金属等を許容する。
【0034】
また、金属マトリックス10として、銅合金を用いる場合、銅合金は、CuAg、CuAl、CuSn、CuZr、CrCu等が挙げられる。
【0035】
金属マトリックス10は、例えば、銅(および必要に応じて他の光熱伝導性金属)を含む金属粉末の焼結体である。本実施形態において、金属マトリックス10は、複数のダイヤモンド粒子20の少なくとも一部が内部に埋設された焼結体で構成される。
【0036】
ダイヤモンド粒子20は、表面に金属含有被覆層を有しないノンコートダイヤモンド粒子、および表面に金属含有被覆層を有するコートダイヤモンド粒子の少なくとも一方を含む。ダイヤモンドと金属粒子間の密着性向上や分散性の観点から、コートダイヤモンド粒子がより好ましい。
【0037】
銅-ダイヤモンド複合体30中のダイヤモンド粒子20の体積含有量の下限は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは20体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上である。これにより、銅-ダイヤモンド複合体30の熱伝導性を高められる。
一方、銅-ダイヤモンド複合体30中のダイヤモンド粒子20の体積含有量の上限は、例えば、好ましくは80体積%以下、より好ましくは70体積%以下、さらに好ましくは65体積%以下である。これにより、銅-ダイヤモンド複合体30中において、ダイヤモンド粒子20の周囲に銅粉の付周りが低下する等により大きな気孔が残留することを抑制でき、製造安定性に優れた構造を実現できる。
【0038】
ダイヤモンド粒子20として、コートダイヤモンド粒子を用いる場合、コートダイヤモンド粒子中の金属含有被覆層は、モリブデン、タングステン、クロム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルおよびこれらの合金等を含んでもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、金属含有被覆層は、粒子表面の少なくとも一部または全面を覆うように構成される。
【0039】
(放熱部材)
図2は、本実施形態に係る放熱部材の構成の一例を示す断面模式図である。
本実施形態の放熱部材100は、銅-ダイヤモンド複合体30と、銅-ダイヤモンド複合体30の少なくとも一方の面に接合した金属膜50と、を備える。
【0040】
放熱部材100の熱伝導率の下限は、例えば、600W/m・K以上、好ましくは630W/m・K以上、より好ましくは650W/m・K以上である。これにより、放熱部材の放熱特性を高められる。
一方、放熱部材100の熱伝導率の上限は、特に限定されないが、例えば、780W/m・K以下、好ましくは760W/m・K以下、より好ましくは760W/m・K以下である。
金属膜50は、銅-ダイヤモンド複合体30の少なくとも一面上に形成されていればよく、例えば、平板状の銅-ダイヤモンド複合体30の両面にそれぞれ形成されてもよい。
【0041】
金属膜50は、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、錫、およびマグネシウムからなる群から選ばれる一または二以上を含んでもよい。好ましくは、金属膜50が、金属マトリックス10中の主成分の金属と同種の金属を含むことが好ましく、少なくとも銅または銅合金を含むことが好ましい。
【0042】
主成分の銅の含有量は、金属膜50の100質量%中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、最も好ましくは90質量%以上である。
主成分の銅の含有量の上限は、金属膜50の100質量%中、とくに限定されないが、100質量%以下でもよく、99質量%以下でもよい。
【0043】
金属膜50の膜厚の上限は、好ましくは150μm以下、より好ましくは120μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。これにより、放熱部材の熱伝導率を高められる。
一方、金属膜50の膜厚の下限は、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。これにより、複合体との密着強度や自身の耐久性を高められる。
【0044】
金属膜50は、例えば、スパッタ法、メッキ法により得られる。
【0045】
本実施形態の電子装置は、上記の放熱部材と、放熱部材上に設けられた電子部品とを備える。
【0046】
電子部品としては、例えば、半導体素子等が挙げられる。半導体素子の具体例として、例えば、パワー半導体、画像表示素子、マイクロプロセッサユニット、レーザダイオード等が挙げられる。
【0047】
放熱部材は、ヒートシンクやヒートスプレッダ等に用いられる。ヒートシンクは、半導体素子の動作時に発生する熱を外部空間に放熱し、ヒートスプレッダは、半導体素子の発熱を他の部材に伝熱する。
【0048】
電子部品は、放熱部材に直接またはセラミック基板等を介して間接的に設置されてもよい。
【0049】
本実施形態の銅-ダイヤモンド複合体の製造方法の一例を説明する。
【0050】
銅-ダイヤモンド複合体の製造方法の一例は、原料混合工程、および焼結工程を含む。
【0051】
原料混合工程では、銅粉末等の銅を含む金属粉末、およびダイヤモンド粒子を混合し、混合物を得る。
原料粉末の混合は、乾式、湿式の種々の方法を適用できるが、乾式混合方法を用いてもよい。
【0052】
焼成工程では、金属粉末とダイヤモンド粒子との混合物を焼成し、銅とダイヤモンド粒子との複合焼結体(銅-ダイヤモンド複合体)を得る。
焼成温度は、金属粉末に含まれる金属種に応じて適宜選択できるが、銅粉末の場合、好ましくは800℃以上1100℃以下、より好ましくは850℃以上1000℃以下である。焼成温度を800℃以上とすることにより、銅-ダイヤモンド複合体が緻密化し、所望の熱伝導率が得られる。焼成温度を1100℃以下とすることにより、ダイヤモンド粒子の界面のグラファイト化による劣化を抑制し、ダイヤモンド本来の熱伝導率の低下を防止できる。
焼成時間は、特に限定されないが、好ましくは5分以上3時間以下、より好ましくは10分以上2時間以下である。焼成時間を5分以上とすることにより、銅-ダイヤモンド複合体が緻密化し、所望の熱伝導率が得られる。焼成時間を3時間以下とすることにより、コートダイヤモンド粒子中のダイヤモンドと表面を被覆する金属との間で炭化物の形成や厚膜化が生じて、フォノン散乱による熱伝導率低下や線膨張率差によるクラックが引き起こされることを抑制できる。また複合体の生産性を高められる。
【0053】
焼成工程では、常圧焼結方法でも加圧焼結方法でも構わないが、緻密な複合体を得るために加圧焼結方法が好ましい。
【0054】
加圧焼結方法としては、ホットプレス焼結や放電プラズマ焼結(SPS)、熱間等方加圧焼結(HIP)等が挙げられる。ホットプレス焼結やSPS焼結の場合、圧力は、好ましくは10MPa以上、より好ましくは30MPa以上である。一方、ホットプレス焼結やSPS焼結の場合、圧力は、100MPa以下が好ましい。圧力を10MPa以上とすることにより、銅-ダイヤモンド複合体が緻密化し、所望の熱伝導率が得られる。圧力を100MPa以下とすることにより、ダイヤモンドの割れが生じ、ダイヤ界面の増加やダイヤ破砕面と金属間との密着性が低下して、ダイヤモンド本来の熱伝導率が低下してしまうことを防止できる。
【0055】
また、放熱部材の製造方法の一例は、上記で得られた複合体に対して、金属膜を形成する成膜工程を含む。
【0056】
成膜工程では、銅-ダイヤモンド複合体30の表面の少なくとも一部に金属膜50を形成する。
金属膜を形成する方法は、スパッタ法、めっき法、銅箔を用いた加圧共焼成法などの一般的な方法を採用してもよいが、薄膜化するためにスパッタ法を用いてもよい。
また、金属膜の表面の少なくとも一部を平面研削・研磨をしてもよい。これにより、成膜工程後における金属膜の表面平滑性を向上できる。
【0057】
また、必要に応じて、焼成工程の後、平滑化工程を行ってもよい。平滑化工程では、複合焼結体の表面の少なくとも一部を研削・研磨する。
また、焼成工程と平滑化工程との間に、アニール工程を追加して行ってもよい。
また、成膜工程の前に、銅-ダイヤモンド複合体において、形状加工や穴あき加工等の加工を施す工程を行ってもよい。
【0058】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 銅を含有する金属マトリックス中に複数のダイヤモンド粒子が分散した、銅-ダイヤモンド複合体であって、
画像式粒度分布測定装置を用いて前記ダイヤモンド粒子の粒度分布を測定したとき、前記ダイヤモンド粒子の球形度分布の数平均が0.90以上である、
銅-ダイヤモンド複合体。
2. 1.に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が50%となる球形度S
50
が0.87以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
3. 1.又は2.に記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が90%となる球形度S
90
が0.91以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
4. 1.~3.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が10%となる球形度S
10
が0.8以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径分布の数平均が180μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が50%となる粒子径D
50
が180μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が90%となる粒子径D
90
が210μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D
10
が160μm以下である、銅-ダイヤモンド複合体。
9. 1.~8.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径が粒子径D
50
より大きく粒子径D
90
以下の範囲に属する、前記ダイヤモンド粒子の球形度が0.90以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
10. 1.~9.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の粒子径が粒子径D
10
より大きく粒子径D
50
以下の範囲に属する、前記ダイヤモンド粒子の球形度が0.90以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
熱伝導率が610W/m・K以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体であって、
前記ダイヤモンド粒子の体積含有率が10体積%以上である、銅-ダイヤモンド複合体。
13. 1.~12.のいずれか一つに記載の銅-ダイヤモンド複合体と、
前記銅-ダイヤモンド複合体の少なくとも一方の面に接合した金属膜と、
を含む、放熱部材。
14. 13.に記載の放熱部材と、
前記放熱部材上に設けられた電子部品と、を備える、電子装置。
【実施例】
【0059】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0060】
(原料)
・ダイヤモンド粒子A
・ダイヤモンド粒子B
原料のダイヤモンド粒子A,Bについて、画像式粒度分布測定装置(Malvern社製、Morphologi4)を用いてダイヤモンド粒子の粒度分布(形状分布/粒子径分布)を測定した。
ダイヤモンド粒子の粒子径の体積粒度分布において、累積値が10%となる粒子径D10、累積値が50%となる粒子径D50、累積値が90%となる粒子径D90を求めた。
ダイヤモンド粒子の球形度の体積粒度分布において、累積値が10%となる球形度S10、累積値が50%となる球形度S50、累積値が90%となる球形度S90を求めた。
また、ダイヤモンド粒子の粒子径が、粒子径D10以下の範囲、粒子径D10超え粒子径D50以下の範囲、粒子径D50超え粒子径D90以下の範囲、粒子径D90超えの範囲の4つの区分に分類される粒子径クラス別において、各粒子径クラスにおける球形度を求めた。
また、粒子径分布、形状分布(球形度分布)において、それぞれの数平均(ダイヤモンド粒子の個数基準の平均粒子径)を算出した。
これらの値は、2回測定した値の平均値を表1に示す。
なお、球形度および粒子径を以下のように定義した。
球形度:投影された物体と同じ面積を持つ円周と物体との円周長の比率
粒子径:粒子画像の輪郭上の2点における最大長さ
【0061】
【0062】
<複合体の作製>
(実施例1)
銅粉末とダイヤモンド粒子A(Moコート)とを50体積%:50体積%になるように秤量し、秤量した粉末をV型混合機で均一に混合し、混合物を得た(原料混合工程)。
続いて、SPS焼成装置を用いて、得られた混合物を型内に充填し、30MPaの加圧条件下で、900℃で1時間加熱焼結し、銅マトリックス中に複数のダイヤモンド粒子が分散してなる、円板状の複合焼結体(銅-ダイヤモンド複合体)を得た(焼結工程)。
【0063】
銅-ダイヤモンド複合体中のダイヤモンド粒子の含有量が、50体積%であった。
銅-ダイヤモンド複合体の熱伝導率をレーザーフラッシュ法により測定した結果、747W/m・Kであった。なお、レーザーフラッシュ法の測定は、JIS H 7801に準拠して、サンプル表面にカーボンコーティングを施し、室温下で測定とした。
【0064】
(実施例2~4、比較例1~4)
表2に従って、ダイヤモンド粒子の種類、ダイヤモンド粒子の含有量を変更した以外は、実施例1と同様にして、銅-ダイヤモンド複合体を得た。得られた複合体に対して、実施例1と同様の評価を行った。
【0065】
【0066】
表2に示したとおり、実施例1~4の銅-ダイヤモンド複合体は、比較例1~4と比べて、ダイヤモンド粒子の球形度が高いものを使用しているため、熱伝導率が向上する結果を示した。
このような実施例の複合体を用いることにより、熱伝導率に優れた放熱部材を提供できる。
【0067】
この出願は、2021年8月5日に出願された日本出願特願2021-128792号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0068】
10 金属マトリックス
20 ダイヤモンド粒子
30 銅-ダイヤモンド複合体
50 金属膜
100 放熱部材