(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】鉄道車両用駆動システムおよび鉄道車両用駆動システムの駆動方法
(51)【国際特許分類】
B60L 50/61 20190101AFI20250120BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20250120BHJP
B60L 58/12 20190101ALI20250120BHJP
B61C 3/02 20060101ALI20250120BHJP
B61C 5/00 20060101ALI20250120BHJP
B61C 7/04 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
B60L50/61
B60L9/18 A
B60L58/12
B61C3/02
B61C5/00
B61C7/04
(21)【出願番号】P 2023570727
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2022042903
(87)【国際公開番号】W WO2023127344
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2024-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2021214124
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大樂 陽介
(72)【発明者】
【氏名】金子 貴志
(72)【発明者】
【氏名】大石 亨一
(72)【発明者】
【氏名】福間 徹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智晃
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-122122(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016275(WO,A1)
【文献】特開2013-133062(JP,A)
【文献】登録実用新案第3156582(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 50/61
B60L 9/18
B60L 58/12
B61C 3/02
B61C 5/00
B61C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関により駆動される発電機と、
前記発電機の電力を制御する第一の電力変換装置と、
前記第一の電力変換装置の直流部に接続される蓄電装置と、
前記第一の電力変換装置の出力電力および前記蓄電装置の出力電力を制御して電動機を駆動する第二の電力変換装置と、
前記第一の電力変換装置および前記第二の電力変換装置の温度を検出する温度検出器と、
少なくとも前記第一の電力変換装置、前記第二の電力変換装置、前記蓄電装置および前記内燃機関を制御する制御装置と
を備えた鉄道車両用駆動システムであって、
前記制御装置は、前記蓄電装置の充電量が第一の閾値未満の状態で、前記温度検出器が検出した前記第一の電力変換装置の温度または前記第一の電力変換装置および前記第二の電力変換装置の温度が第二の閾値以上に上昇した場合に、前記内燃機関の少なくとも出力および回転数のいずれかを増加させて前記内燃機関の動作点を変更する
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用駆動システムであって、
前記制御装置は、前記内燃機関の動作点を変更する前記態様を鉄道車両の停車時に実行する
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システム。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両用駆動システムであって、
前記第二の閾値を、前記鉄道車両の停車中の前記内燃機関の稼働時間と停止時間との比率に応じて可変とする
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄道車両用駆動システムであって、
前記制御装置は、前記内燃機関の回転数を、当該内燃機関の出力を維持しつつ増加させる
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の鉄道車両用駆動システムであって、
前記制御装置は、前記内燃機関の複数のエンジンノッチのいずれのノッチでも要求された出力に応じた前記動作点を決定する
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システム。
【請求項6】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の鉄道車両用駆動システムであって、
前記蓄電装置は、第三の電力変換装置を介して前記直流部に接続される
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システム。
【請求項7】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の鉄道車両用駆動システムを搭載した鉄道車両。
【請求項8】
内燃機関と、
前記内燃機関により駆動される発電機と、
前記発電機が出力する電力を制御する第一の電力変換装置と、
前記第一の電力変換装置の直流電力線に接続される蓄電装置と、
前記第一の電力変換装置の出力電力および前記蓄電装置の出力電力を制御して電動機を駆動する第二の電力変換装置と
を備えた鉄道車両用駆動システムの駆動方法であって、
前記第一の電力変換装置の第一の温度または前記第一の電力変換装置および前記第二の電力変換装置の第二の温度を検出し、
前記蓄電装置の充電量が第一の閾値未満の状態で、前記第一の温度または前記第二の温度が第二の閾値以上に上昇した場合に、前記内燃機関の少なくとも出力および回転数のいずれかを増加させて前記内燃機関の動作点を変更する
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システムの駆動方法。
【請求項9】
請求項8に記載の鉄道車両用駆動システムの駆動方法であって、
鉄道車両の停車時に、前記内燃機関の動作点を変更する前記態様を実行する
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システムの駆動方法。
【請求項10】
請求項9に記載の鉄道車両用駆動システムの駆動方法であって、
前記鉄道車両の停車中の前記内燃機関の稼働時間と停止時間との比率に応じて、前記第二の閾値を可変とする
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システムの駆動方法。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の鉄道車両用駆動システムの駆動方法であって、
前記内燃機関の回転数を、当該内燃機関の出力を維持しつつ増加させる
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システムの駆動方法。
【請求項12】
請求項8から10のいずれか1項に記載の鉄道車両用駆動システムの駆動方法であって、
前記内燃機関の複数のエンジンノッチのいずれのノッチでも要求された出力に応じた前記動作点を決定する
ことを特徴とする鉄道車両用駆動システムの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用駆動システムおよび鉄道車両用駆動システムの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、以下の技術が開示されている。エンジンの駆動によって発電機で発電された電力が、コンバータ、インバータを介してモータに出力されてモータ駆動を行い、コンバータとインバータとを共通に冷却する冷却装置の冷却水温度が過度に上昇したときに、その温度に応じてコンバータとインバータの合計電力を減少して発熱を抑え、その際に電力の減少はまずコンバータから行う。これによって、インバータ単独の発熱に応じて冷却装置の冷却能力を設定すれば、インバータとコンバータが過熱になることを防止するものである。
【0003】
また、特許文献2には、蓄電池電車に搭載されたコンバータとインバータとを、共通化した冷却器により冷却する構成が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-274509号公報
【文献】国際公開第2018/074329号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者が、ハイブリッド鉄道車両の鉄道車両用駆動システムにおける温度低減について鋭意検討した結果、次の知見を得るに至った。
特許文献1に記載の技術では、冷却水温が過度に上昇した時に電力変換装置の出力を制限するため、電力変換装置の温度上昇は抑制できるものの、発車時における蓄電装置の充電量が十分に回復できない可能性があるという問題、電力変換装置の出力を制限することで運転ダイヤを満足しない可能性があるという問題、があった。
【0006】
そこで、本発明では、ハイブリッド車両の駆動用電力変換装置の温度上昇を低減し、省エネルギーでかつ安定した運行を実現するハイブリッド車両の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、代表的な本発明の鉄道車両用駆動システムの一つは、内燃機関と、発電機の電力を制御する第一の電力変換装置と、第一の電力変換装置の直流部に接続される蓄電装置と、第一の電力変換装置の出力電力および蓄電装置の出力電力を制御して電動機を駆動する第二の電力変換装置と、第一の電力変換装置および第二の電力変換装置の温度を検出する温度検出器と、少なくとも第一の電力変換装置、第二の電力変換装置、蓄電装置および内燃機関を制御する制御装置とを備え、制御装置は、蓄電装置の充電量が第一の閾値未満の状態で、温度検出器が検出した第一の電力変換装置の温度または第一の電力変換装置および第二の電力変換部の温度が第二の閾値以上に上昇した場合に、内燃機関の少なくとも出力および回転数のいずれかを増加させて内燃機関の動作点を変更するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、蓄電装置の充電状態および電力変換装置の温度に基づいて、内燃機関の動作点が制御され、内燃機関を動力とする発電が必要な状況で、電力変換装置の温度上昇が一定値を超過すると、効率の良い動作点で発電を行うように制御される。
【0009】
これにより、エンジン効率の向上、電力変換効率の向上、動作時間の短縮が可能となり、電力変換装置の温度上昇が抑制される。したがって、本発明によれば、より省エネルギーでかつ走行不能リスクを低減したハイブリッド車両の走行を可能にすることができる。
また、上記した以外の課題、構成および効果は、以下の発明を実施するための形態における説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの構成を示す図である。
【
図2】電力変換装置(コンバータ)側冷却装置と電力変換装置(インバータ)側冷却装置7とを一つに共通化にした場合の駆動システムの構成を示す図である。
【
図3】実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの停車中における各機器の動作タイムチャートを示す図である。
【
図4】実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの走行中における各機器の動作タイムチャートを示す図である。
【
図5】実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの内燃機関の動作特性を示す図である。
【
図6】実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの停車中における内燃機関の動作点決定のフローチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態として実施例について説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【実施例】
【0012】
図1は、実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの構成を示す図である。
ハイブリッド鉄道車両用の駆動システムは、鉄道車両用の電動機を駆動制御するためのシステムである。
図1に示すように、主に、電動機4、内燃機関2、発電機1、蓄電装置8、電力変換装置(コンバータ)3、電力変換装置(インバータ)5および制御装置9から構成される。
【0013】
電動機4は、発電機1および蓄電装置8から供給されるエネルギーを、電力変換装置(インバータ)5で電力制御を行うことで駆動力を発生する。また、電動機4は、車両の制動時に発電機動作を行うことで、車両の運動エネルギーや位置エネルギーを電気エネルギーへと変換し、電力変換装置(インバータ)5へ出力する。
【0014】
電力変換装置(インバータ)5は、制御装置9からの指令信号に基づいて、少なくとも電力変換装置(コンバータ)3および蓄電装置8のいずれかからの直流電力を、三相交流電力に変換して電動機4に出力する。
【0015】
また、電力変換装置(インバータ)5は、車両の制動時に、制御装置9からの指令信号に基づいて、電動機4から発電された電力を変換し、蓄電装置8に出力する。
【0016】
電力変換装置(インバータ)5は、例えば、パワー半導体を用いたスイッチング素子を含む三相インバータによって構成され、また、2レベルや3レベルの電圧を出力する構成が考えられる。電力変換装置(インバータ)5のスイッチング素子のON/OFF制御としては、例えば、PWM制御や同期パルス制御などが考えられる。
【0017】
更に、電力変換装置(インバータ)5は、素子や周辺機器の寿命の観点から、温度の上限値が設定され、過温度状態に至らないように保護制御される。
【0018】
発電機1は、内燃機関2によって得られる動力を、電気エネルギーに変換し、電力変換装置(コンバータ)3に出力するものである。
【0019】
電力変換装置(コンバータ)3は、発電機によって発電された三相交流電力を直流電力に変換するものである。電力変換装置(コンバータ)3が出力する直流電力により、電力変換装置(インバータ)5への電力供給や、蓄電装置8の充電動作が行われる。
【0020】
また、電力変換装置(コンバータ)3は、例えば、パワー半導体を用いたスイッチング素子を含むコンバータによって構成され、また、2レベルや3レベルの電圧を出力する構成が考えられる。電力変換装置(コンバータ)3のスイッチング素子のON/OFF制御としては、例えば、PWM制御や同期パルス制御などが考えられる。
【0021】
更に、電力変換装置(コンバータ)3は、素子や周辺機器の寿命の観点から、温度の上限値が設定され、過温度状態に至らないように保護制御される。
【0022】
蓄電装置8は、再充電可能な直流電源であり、例えば、リチウムイオン電池等の二次電池によって構成される。蓄電装置8は、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の直流部に接続され、発電機1や電動機4の発電時に、電力変換装置(コンバータ)3または電力変換装置(インバータ)5を介して充電される。
【0023】
また、蓄電装置8は、走行時には、電力変換装置(インバータ)5へ電力を供給し、制動時には、電動機4を電気ブレーキとして用いることで発電される回生電力によって充電される。
【0024】
ここで、蓄電装置8は、直流電力変換装置(チョッパ)を介して、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5に共通の直流部に接続してもよい。
【0025】
更に、蓄電装置8の充電量(SOC)は、蓄電装置8に接続される図示しないセンサによる取得情報を基に算出され、その算出値が制御装置9へ出力される。蓄電装置8のSOCは、安全性確保や劣化防止の観点から上限値と下限値が設定され、基本的には設定されたSOC範囲で使用されることを要し、過充電と過放電を防止するように制御される。
【0026】
冷却装置6は、電力変換装置(コンバータ)3において電力変換動作の際に損失として発生する熱エネルギーの冷却を行う。冷却装置6は、例えば、アルミニウムで成形された冷却フィンや冷却用ヒートパイプなどによって構成される。
【0027】
一方、冷却装置7は、電力変換装置(インバータ)5において電力変換動作の際に損失として発生する熱エネルギーの冷却を行う。冷却装置7は、例えば、アルミニウムで成形された冷却フィンや冷却用ヒートパイプなどによって構成される。
【0028】
ここで、冷却装置6および冷却装置7は、電力変換に伴う熱エネルギーの放熱を行うという目的で一致するので、省スペース化や軽量化を狙って共通としてもよい。
図2は、電力変換装置(コンバータ)3側の冷却装置6と電力変換装置(インバータ)5側の冷却装置7とを一つに共通化(6+7)にした場合の駆動システムの構成を示す図である。
【0029】
制御装置9は、設計されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)で実行することにより、電力変換器(コンバータ)3、電力変換装置(インバータ)5、蓄電装置8および内燃機関2を制御する。
【0030】
具体的には、制御装置9は、発電機1、電動機4、内燃機関2、電力変換装置(コンバータ)3、電力変換装置(インバータ)5、蓄電装置8および冷却装置6と7の物理量並びに状態を、図示しないセンサによって収集し、収集した情報を基に電力変換器(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5を動作させるための指令信号を生成し、電力変換装置(コンバータ)3や電力変換装置(インバータ)5へ出力する。
【0031】
また、制御装置9は、上記したセンサ(図示せず)によって収集した情報を基に、内燃機関2を制御するための指令信号を生成し、内燃機関2へ出力する。
【0032】
更に、制御装置9は、蓄電装置8に接続された図示しないセンサにより、電圧および電流を検出値し、蓄電装置8のSOCを算出し、その算出値に基づいて蓄電装置8のSOCを制御する。
【0033】
例えば、鉄道車両が停車中の状態において、制御装置9は、算出された蓄電装置8のSOCが充電判断閾値SOC1以下ならば、内燃機関2を動作させる指令を内燃機関2へ出力すると共に、内燃機関2の動力によって連動する発電機1の動作に対応した信号を生成し、電力変換装置(コンバータ)3へ制御指令を出力する。これにより、内燃機関2、発電機1および電力変換装置(コンバータ)3による発電動作によって、蓄電装置8への充電が開始される。
【0034】
また、制御装置9は、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の温度情報を図示しない温度センサによって取得する。この時、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の各温度情報を、温度センサに替えて、例えば、電流センサによる検出電流値等を基に推定してもよい。
【0035】
図3は、実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの停車中における各機器の動作タイムチャートを示す図である。
【0036】
停車中においても、車両内の空調や照明等の図示しない機器(以下、「補機」と総称する)への電力供給のため、電力消費は発生する。ここで、停車する場所としては、主に駅が挙げられる。駅における騒音低減および排気ガス低減のために、基本的に駅構内では、蓄電装置8から補機へ電力供給し、内燃機関2を停止させる。
【0037】
この期間(T1)においては、蓄電装置8のSOCは、補機の消費電力に従って減少するが、内燃機関2、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5は、動作しない(OFF)。この時、電力変換装置(コンバータ)3、電力変換装置(インバータ)5および冷却装置6と7の温度は、車両走行終了時の比較的高い温度から、冷却装置6の性能に応じて減少する。もちろん、車両走行終了時に蓄電装置8のSOCが充電開始閾値SOC1を下回っていれば、停車後速やかに充電動作を行うことになる。
【0038】
ハイブリッド鉄道車両が走行する路線の運用においては、通常の停車駅と比較して、折返し駅やターミナル駅での停車時間は長めに確保される。これは、鉄道事業者の車両運用の調整都合や、利用客の利便性向上のためである。駅停車時間が長い場合には、停車時の補機の消費電力量も増加する。この時、蓄電装置8のSOCは低下し続け、SOCが充電開始閾値SOC1を下回ると、蓄電装置8は、充電終了閾値SOC2に達するまで充電を行う。このようにして、蓄電装置8の過放電を避けつつ、補機への電力供給を継続する。
【0039】
この期間(T2)においては、内燃機関2、発電機1および電力変換装置(コンバータ)3が動作状態となり(ON)、内燃機関2で発電した動力を、電力変換装置(コンバータ)3によって制御される発電機1が電力に変換し、蓄電装置8への充電および補機への電力供給を行う。その際に、電力変換装置(コンバータ)3で生じる損失により、電力変換装置(コンバータ)3の温度が上昇し、冷却装置6の温度も上昇する。
【0040】
停車中においては、駆動用途の電力変換装置(インバータ)5は動作しないが、内燃機関2、発電機1および電力変換装置(コンバータ)3の温度上昇の影響を受け、電力変換装置(インバータ)5の温度は上昇する。更に、冷却装置6と7を、2つの電力変換装置(コンバータ3とインバータ5)に対して共通の構成とした場合、電力変換装置(インバータ)5の温度上昇が顕著になる。
【0041】
ここで、駆動用途の電力変換装置(インバータ)5の温度が上昇したまま、車両の駅発車時刻となり、車両が走行状態に切り替わる場合がある。車両走行時は、力行動作または回生動作のため、駆動用の電力変換装置(インバータ)5が動作する。この時、電力変換装置(インバータ)5で損失が生じるので、電力変換装置(インバータ)5の温度は上昇する。実際には、電力変換装置(インバータ)5の温度は、冷却装置7の冷却性能との兼ね合いで決定されるが、一般的には、電力変換装置(インバータ)5の温度は上昇する。
【0042】
図4は、実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの走行中における各機器の動作タイムチャートを示す図である。
【0043】
停車中において、蓄電装置8への充電が十分に行われ、電力変換装置(インバータ)5の温度が上昇したまま、車両の駅発車時刻となり、車両が走行状態に切り替わるとする(期間T2→期間T3)。この期間(T3)においては、車両速度がある制御閾値(V1)以下で、かつSOCに比較的余裕がある場合、電力変換装置(インバータ)5のみが動作する。すなわち、電力変換装置(インバータ)5自身の損失により、電力変換装置(インバータ)5の温度は更に上昇する。蓄電装置8のSOCが高い場合、電力変換装置(コンバータ)3は動作しないので、電力変換装置(コンバータ)3による発熱は生じない。
【0044】
力行中において、車両速度がある制御閾値(V1)以上となった時(期間T3→期間T4)、SOCの状態によらず、内燃機関2、発電機1および電力変換装置(コンバータ)3による負荷への電力供給が行われる。この期間(T4)においては、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の温度は、自らの損失により上昇傾向となる。この時、冷却装置6と7とが、2つの電力変換装置(コンバータ3とインバータ5)に対して共通化されている場合や、2つの電力変換装置(コンバータ3とインバータ5)が互いに熱的影響を有する場合においては、電力変換装置(コンバータ)3または電力変換装置(インバータ)5が単独で動作している時に比べて、冷却効果は弱まる。
【0045】
ここで、期間T3または期間T4において、駆動用の電力変換装置(インバータ)5の温度上昇が、図示されない過温度抑制制御開始閾値を上回る場合がある。この時、過温度抑制制御により制限される電力変換装置(インバータ)5の出力が、電動機4の要求電力を下回れば、鉄道車両の加速力を制限することとなり、定められた運転時分を守れないリスクが生じる。すなわち、鉄道車両の定時運行性を害することとなり、鉄道利用者の利便性低下や、鉄道事業者の調整業務増加等を招くことになる。
【0046】
また、期間T3または期間T4において、蓄電装置8からの電力供給のみで電動機4の要求電力を満たせない場合、電力変換装置(コンバータ)3からも電力を供給し電動機4を動作させる。この時、発電用の電力変換装置(コンバータ)3の温度上昇が、図示されない過温度抑制制御開始閾値を上回る場合がある。電力変換装置(コンバータ)3の過温度抑制制御により制限される電力変換装置(コンバータ)3の出力と蓄電装置8の電力を加えた合計の電力が、電動機4の要求電力を下回る場合も、鉄道車両の加速力を制限することとなり、定められた運転時分を守れないリスクが生じる。すなわち、鉄道車両の定時運行性を害することとなり、鉄道利用者の利便性低下や、鉄道事業者の調整業務増加等を招く。
【0047】
仮に、期間T4まで電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の温度上昇が問題とならず、力行から惰行状態(期間T5)へと変化したとする。ここでは、電力変換装置(インバータ)5は動作せず、冷却装置7の冷却性能に応じて、電力変換装置(インバータ)5の温度は低下する。
【0048】
惰行状態(期間T5)においても、補機への電力供給は行われるので、蓄電装置8のSOCは徐々に低下する。蓄電装置8のSOCの低下が小さい場合、電力変換装置(コンバータ)3は動作せず、冷却装置6の冷却性能に応じて、電力変換装置3の温度は低下する。内燃機関2、発電機1および電力変換装置(コンバータ)3は、蓄電装置8のSOCが図示されないある閾値以下に低下したら、発電動作を行い、補機および蓄電装置8への電力供給を行う。この場合は、電力変換装置(コンバータ)3の温度は、上昇傾向となる。また、この場合においても、期間T4から期間T5への切り替わり時において、電力変換装置(コンバータ)3の温度上昇が、図示しない過温度抑制制御閾値を上回る場合、補機および蓄電装置8への電力供給が制限されることとなる。補機への電力供給が制限された場合、車内サービスの低下や、制御系統の電力源の不安定化および蓄電装置8のSOC不足を招く。
【0049】
また、仮に、期間T5まで電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の温度上昇が問題とならず、惰行状態(期間T5)から回生状態(期間T6)へと遷移したとする。ここでは、電動機4を発電機動作させることで、鉄道車両の運動エネルギーを電気エネルギーへ変換し、電力変換装置(インバータ)5を通して、蓄電装置8へと充電を行う。この時、蓄電装置8へ充電される電力は、回生エネルギーと呼ばれ、補機への電力供給や次回以降の力行電力として再利用される。これにより、従来の内燃機関のみを備えた気動車に比べて省エネルギーとなり、ハイブリッド鉄道車両の優位性となる。
【0050】
期間T6における回生動作時には、電力変換装置(インバータ)5が動作する。期間T3、期間T4および期間T5の間に、電力変換装置(インバータ)5の温度が上昇し、期間T6の電力変換動作において、過温度抑制制御開始閾値を上回る場合がある。この時、回生エネルギーを制限して電池へ充電するので、本来得られるはずだった回生電力量よりも少ない充電量となり、省エネルギー効果が低減される。一般的な鉄道車両においては、安全性や運転性を考慮して、回生ブレーキ力が制限された場合は、所望のブレーキ力に対して不足するブレーキ力を機械ブレーキ等で補う。そのため、回生エネルギーを制限、すなわち回生ブレーキ力を制限しても、運行上の時間に影響は生じない。
【0051】
また、期間T6においても、蓄電装置8のSOCが低い場合には、内燃機関2、発電機1および電力変換装置(コンバータ)3によって発電動作を行い、補機および蓄電装置8への電力供給を行う。この場合には、電力変換装置(コンバータ)3の温度は上昇する。
【0052】
図3および
図4からは、車両運用の安定性と省エネルギー効果を得る観点から、走行中の電力変換装置(インバータ)5および電力変換装置(コンバータ)3の温度を低減する必要性が示唆される。しかし、走行中の電力変換装置(インバータ)5および電力変換装置(コンバータ)3の稼働状態は、蓄電装置8および電動機4の要求電力によってほぼ決定されることになる。冷却装置6および冷却装置7に対して、より冷却性能の高いシステムを採用する選択肢もあるが、実際には、コスト、スペースおよび重量等で制限を受ける。そのため、走行中の温度上昇を低減するために、走行開始時の温度を低減する手段を採用することが考えられる。
【0053】
図5は、実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの内燃機関の動作特性を示す図である。
【0054】
走行時は、車両速度、蓄電装置8のSOCおよび電力変換装置(インバータ)5の要求電力によって、内燃機関2のエンジンノッチが決定される。エンジンノッチが設定されると、要求される出力に応じた出力および回転数へとマッチングし、動作点が決定される。
【0055】
駅構内の低速走行時や、駅停車時においては、駅構内での騒音低減および排気ガス低減を目的として、内燃機関2の動作点は、アイドル動作点にて回転数制御されることが一般的である。蓄電装置8のSOCが十分であり、蓄電装置8のみで補機での電力消費をまかなえる場合は、一般的に内燃機関(エンジン)を停止させる。
【0056】
ここで、機器効率として、アイドル動作点付近でのエンジン効率は一般的に低い。そのため、同出力を得るための内燃機関(エンジン)の発熱は、高位のノッチに比べて大きくなり、内燃機関(エンジン)周辺の空気温度の上昇を招く。
【0057】
また、電力変換装置(コンバータ)3の効率は、内燃機関(エンジン)の回転数が高い方が、一般に高効率となる。これは、電力変換装置(コンバータ)3における速度域に応じた制御方式の違いによるもので、具体的には、パワー半導体のスイッチング損失が低減されるためである。
【0058】
これらのことから、アイドル動作点付近で動作させた場合には、電力変換装置(コンバータ)3の温度上昇が顕著になる傾向が分かる。また、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5に対して冷却装置を共有するなど、相互に熱的影響を有する場合には、電力変換装置(インバータ)5の温度も上昇する。
【0059】
以上のとおり、省エネルギー性や電力変換装置(インバータ)5の走行開始時の温度上昇抑制のためには、停車中の充電における電力変換器(コンバータ)3および電力変換器(インバータ)5の温度低減が有効である。
【0060】
そのための手段として、蓄電装置8のSOCが充電を必要とする場合に、電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の温度状態に応じて、内燃機関2の動作点を、高回転数側または高出力側、あるいはその両方へと変更するように、制御装置9から指令を出すことを考案した。
【0061】
高回転数側へ変更することのメリットは、内燃機関2と電力変換装置(コンバータ)3を効率の良い動作点で動かせることである。特に、電力変換装置(コンバータ)3の効率向上により、内燃機関2からの出力を維持しつつより効率よく負荷および蓄電装置8へと供給できる。このため、アイドル動作点での動作よりも電力変換の損失が少なく、発熱が低減でき、駅発車時の電力変換装置(コンバータ)3の温度が低減可能となる。一方、デメリットとしては、内燃機関2の回転数が上昇するため、騒音が増大してしまう点が挙げられる。
【0062】
次に、高出力側へ変更することのメリットは、内燃機関2の騒音をそのままに、充電時間を短縮できる点である。充電期間の短縮により、駅構内での内燃機関2の稼働率低減や電力変換装置(コンバータ)3の自然冷却時間の確保が可能になる。
【0063】
一方、デメリットとしては、同じ効率で出力を上昇させるので、より損失エネルギーの総量が増加し、アイドル動作点に比べて電力変換装置(コンバータ)3の温度の最高点が上昇する点である。駅出発時の電力変換装置(コンバータ)3の温度については、駅での停車時間、補機消費電力および冷却装置6の冷却性能との兼ね合いとなる。
【0064】
更に、高回転数側かつ高出力側へ変更することのメリットは、効率の良い動作点で動かしつつ、充電時間を短縮できる点である。アイドル動作点での動作に比べて、騒音は増加するものの、単位充電量当たりの損失が低下する。また、停車中における内燃機関2の稼働率を低減し、駅発車までに電力変換装置(コンバータ)3の温度を低減する時間を長時間確保できる。
【0065】
上記した手段により、駅出発時の電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の温度が低減可能なことをシミュレーションおよび実車にて確認した。もちろん、上記したメリットおよびデメリットを考慮した上で、これらの対策を組み合わせて実施してもよい。
【0066】
図6は、実施例に係るハイブリッド鉄道車両用の駆動システムの停車中における内燃機関の動作点決定のフローチャートの一例を示す図である。以下のフローチャートの各ステップの動作主体は、全て制御装置9であるので、以下では、動作主体の記載を省略する。
前回の走行が終了し、車両が停止状態となったタイミングをスタートステップ101とする。
【0067】
次に、ステップ102にて、蓄電装置8の充電量(SOC)を判定する。この判定により、SOCが充電開始閾値SOC1未満であった場合は(YES)、内燃機関2、発電機1および電力変換装置(コンバータ)3を動作させ、蓄電装置8への充電を行う。ここで、ステップ102におけるSOCの判定に関して、実際には、チャタリング防止のために、制御上安定となる幅でヒステリシス特性を持たせてもよい。
【0068】
続いて、ステップ103にて、図示しない温度センサ等によって検出した電力変換装置(コンバータ)3の温度と所定の閾値との大小関係を判定する。ここでは、電力変換装置(コンバータ)3の温度が、内燃機関の動作点決定に最も影響が大きいことから、電力変換装置(コンバータ)3の温度を判定対象としたが、これに限定されるものではない。電力変換装置(コンバータ)3に加えて電力変換装置(インバータ)5の検出温度も含めて(以下、総称して「電力変換装置の温度」という)、所定の閾値との大小関係を判定してもよい。
【0069】
電力変換装置の温度が、所定の閾値未満の場合は(LOW)、ステップ104にて、内燃機関2を従来のアイドル発電動作点で動作する。
一方で、電力変換装置の温度が所定の閾値以上の場合は(HIGH)、ステップ105にて、動作点を変更し、電力変換装置(コンバータ)3の温度を、低減可能な内燃機関2の動作点となるように制御する。すなわち、高出力側の発電動作点(
図6の(A))、高回転数側の発電動作点(
図6の(B))または高出力側かつ高回転数側の発電動作点(
図6の(A)+(B))に制御する。
【0070】
ステップ106にて、車両の状態を判断し、まだ停止状態(STOP)とするならば、ステップ102へ戻り、停車を継続する。走行状態(RUN)とするならば、ステップ107へとフローを遷移し、車両走行を開始する。
【0071】
ここで、ステップ103で電力変換装置の温度の判定に用いる所定の閾値は、停車中の内燃機関(エンジン)の稼働時間と停止時間との比率に応じて可変としてもよい。また、電力変換装置(コンバータ)3と電力変換装置(インバータ)5とで異なるようにしてもよい。更に、複数の条件に場合分けし、内燃機関2の動作点を全体として最適とする制御方式としてもよい。
【0072】
また、
図6に示す内燃機関の動作点決定のフローチャートは、ハイブリッド鉄道車両の停車中における場合を示したが、走行中であっても例えば惰行走行時などに適用することも可能である。
【0073】
上記したフローチャートにより、ステップ107のタイミングにおいて、電力変換装置(コンバータ)3の温度または電力変換装置(コンバータ)3および電力変換装置(インバータ)5の温度を低減することで、より省エネルギーかつ走行不能リスクを低減したハイブリッド車両の走行が可能となる。
【0074】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0075】
1…発電機、2…内燃機関(エンジン)、3…電力変換装置(コンバータ)、4…電動機、5…電力変換装置(インバータ)、6…冷却装置、7…冷却装置、8…蓄電装置、9…制御装置