(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-17
(45)【発行日】2025-01-27
(54)【発明の名称】石炭ケーキの製造方法、冶金用コークスの製造方法および石炭ケーキ用強度向上材
(51)【国際特許分類】
C10B 45/02 20060101AFI20250120BHJP
C10B 57/06 20060101ALI20250120BHJP
【FI】
C10B45/02
C10B57/06
(21)【出願番号】P 2024566189
(86)(22)【出願日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2024019790
【審査請求日】2024-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2023116323
(32)【優先日】2023-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼嶋 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】河合 佑哉
(72)【発明者】
【氏名】松井 貴
(72)【発明者】
【氏名】原 弥生
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
(72)【発明者】
【氏名】辻 志穂
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】滝口 翔
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敏彦
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-111801(JP,A)
【文献】特開昭56-26979(JP,A)
【文献】特開2018-123313(JP,A)
【文献】特表2020-519703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 45/02
C10B 57/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタンプチャージ式コークス炉における石炭ケーキの製造方法であって、
粉状の石炭ケーキの原料に、平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維を配合して混合し、得られたセルロース繊維混合原料をスタンピングして石炭ケーキを得ることを特徴とする、石炭ケーキの製造方法。
【請求項2】
前記セルロース繊維の配合率は、前記石炭ケーキの原料100質量%に対して2.0質量%以下である、請求項1に記載の石炭ケーキの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法によって製造された石炭ケーキをコークス炉で乾留してコークスを得ることを特徴とする、冶金用コークスの製造方法。
【請求項4】
平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維であることを特徴とする、スタンプチャージ式コークス炉で用いられる石炭ケーキ用強度向上材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭ケーキの製造方法、冶金用コークスの製造方法および石炭ケーキ用強度向上材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高炉を用いた銑鉄の製造において、石炭をコークス炉で乾留することにより製造したコークスが、鉄鉱石の還元材、および高炉内の通気性を確保する目的で使用されている。高炉の操業を効率よく行うためには、高強度のコークスが好ましいことが知られている。これは、コークスが高炉内で粉化すると、発生粉により高炉の通気性が悪化し、効率的な高炉操業が行えなくなるためである。
【0003】
高強度のコークスを製造するには、コークス炉に装入される石炭の嵩密度を高めることが有効であることが知られており、その目的でスタンプチャージ式コークス炉が使用されている。現在わが国で使用されている一般的なコークス炉(以下、「トップチャージ式コークス炉」と言う。)では、コークスの原料である石炭はコークス炉炭化室の上部から重力によって装入されるが、重力装入した石炭の嵩密度は700~800kg-dry/m3である。
【0004】
一方、スタンプチャージ式コークス炉では、石炭はコークス炉に装入される前にコークス炉炭化室の側方に配置されたスタンピング装置により突き固められ、嵩密度1000kg-dry/m3以上の石炭ケーキに加工された後、コークス炉炭化室にその側方から機械的に装入される。スタンプチャージ式コークス炉を使用することによって、上述の通り乾留前にコークス原料の密度を高めることができ、トップチャージ式コークス炉に比べて高強度のコークスを製造することができる。
【0005】
スタンプチャージ式コークス炉は、上述の通りコークス強度の観点でトップチャージ式コークス炉に比べて優位である。一方で、スタンピングにより製造した石炭ケーキの強度が低いと、石炭ケーキをコークス炉炭化室に装入する途中で石炭ケーキが崩壊する操業トラブルを招くことがある。そのため、スタンプチャージ式コークス炉の安定操業のため、高強度の石炭ケーキを製造する技術が求められている。
【0006】
また、石炭ケーキの強度には石炭の水分量が大きく影響することが知られており、スタンプチャージ式コークス炉では、石炭の水分が10~12質量%になるように調湿されることが一般的である。しかし、石炭ケーキの含水量が多いと、その分だけ乾留時間が増大して生産性が低下する。そのため、スタンプチャージ式コークス炉の生産性向上のため、石炭水分を低位に維持しながら、操業上十分な強度を有する石炭ケーキを製造する技術開発が求められている。
【0007】
これまで、上述の目的で、粘結性のバインダーを使用する検討がなされている。例えば、特許文献1には、粘結性の石炭を300~500℃に加熱し、軟化溶融状態にある石炭を石炭ケーキのバインダーとする方法が報告されている。また、非特許文献1には、軟化点80℃のピッチをバインダーとして原料に添加することによって、石炭ケーキが高強度化し、通常よりも石炭水分が低い条件においても十分な強度を有する石炭ケーキを製造できることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【文献】S. H. Krishnan, et al., "Application of Binder in Stamp Charge Coke Making", ISIJ International, 44(2004), 1150.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1および非特許文献1に記載された粘結性のバインダーを使用する方法では、粘結性バインダーを含むコークス原料を運搬する過程、および原料をスタンピング装置で突き固める過程において、粘結性の原料がベルトコンベアやスタンピング装置に付着する。そのため、装置の清掃を頻繁に行う必要があり、結果として生産性が低下する問題点があった。
【0011】
本発明の目的は、粘結性のバインダーを用いることなく、石炭ケーキの強度を向上させることができる石炭ケーキの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行い、セルロース繊維をコークス原料と混合することによって、石炭ケーキの強度が向上するという実験結果を得た。そして、セルロース繊維は粘結性のバインダーと異なり、装置への付着を起こさないという経験的知見から、セルロース繊維がスタンプチャージ式コークス炉用のバインダーとして適している可能性を見出した。また、化石燃料由来のバインダーでなく、木質由来のバイオマスであるセルロース繊維をバインダーとして使用することは、カーボンニュートラル製鉄を目指す社会的要求にも適している。
【0013】
発明者らは、さらに検討を行い、セルロース繊維の各分析値と石炭ケーキの強度との関係を調べる実験を行い、パルプの平均繊維長が石炭ケーキの強度に大きく影響することを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明の要旨構成は以下の通りである。
[1]スタンプチャージ式コークス炉における石炭ケーキの製造方法であって、
粉状の石炭ケーキの原料に、平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維を配合して混合し、得られたセルロース繊維混合原料をスタンピングして石炭ケーキを得ることを特徴とする、石炭ケーキの製造方法。
【0015】
[2]前記セルロース繊維の配合率は、前記石炭ケーキの原料100質量%に対して2.0質量%以下である、前記[1]に記載の石炭ケーキの製造方法。
【0016】
[3]前記[1]または[2]に記載の方法によって製造された石炭ケーキをコークス炉で乾留してコークスを得ることを特徴とする、冶金用コークスの製造方法。
【0017】
[4]平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維であることを特徴とする、スタンプチャージ式コークス炉で用いられる石炭ケーキ用強度向上材。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、粘結性のバインダーを用いることなく、石炭ケーキの強度を向上させることができる石炭ケーキの製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、石炭水分を低位に保ちながら、操業上十分な強度を有する石炭ケーキを製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】セルロース繊維の平均繊維長と石炭ケーキの強度との関係を示す図である。
【
図2】セルロース繊維の配合率と石炭ケーキの強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による石炭ケーキの製造方法は、スタンプチャージ式コークス炉における石炭ケーキの製造方法であって、粉状の石炭ケーキの原料に、平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維を配合して混合し、得られたセルロース繊維混合原料をスタンピングして石炭ケーキを得ることを特徴とする。
【0021】
まず、粉状の石炭ケーキの原料に、平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維を配合して混合し、セルロース繊維混合原料とする。
【0022】
[石炭ケーキの原料]
石炭ケーキの原料としては、一般的にコークスの製造に使用される原料炭を中心とした粉状の配合炭を使用すればよい。また、石炭ケーキを乾留して得られるコークスの品質が問題にならない範囲で、原料炭以外に、非微粘結炭やバイオマス、バイオマスを加熱して得た炭化物、その他炭素を主とする原料を使用してもよい。
【0023】
上記原料は、従来スタンプチャージ式コークス炉の操業で行われているように、ハンマークラッシャーなどを用いて、粒度が-3mm70~100質量%に粉砕(粒子径3mm以下の粒子の占有率が70~100質量%になるように粉砕)して、石炭ケーキの原料として使用すればよい。
【0024】
石炭ケーキの原料の水分調整は、上記粉砕処理の前後において、石炭調湿設備を用いた乾燥、およびノズルからの散水などの処理によって行うことができる。石炭ケーキの原料の水分量の目標値は、石炭ケーキの強度を高くする目的からは、10~12質量%が好ましいが、生産性を向上させる目的で、石炭ケーキの強度が問題にならない範囲で水分量を減らしてもよい。
【0025】
[セルロース繊維]
本発明では、上記石炭ケーキの原料に対して、一定以上の平均繊維長を有するセルロース繊維を配合して混合し、分散させることによってセルロース繊維が相互に絡み合ったネットワークを形成し、セルロース繊維混合原料とする。これにより、より高強度の石炭ケーキを製造することができる。
【0026】
セルロース繊維の平均繊維長が大きいほど、セルロース繊維の相互の接触が増え、石炭ケーキ全体に渡るセルロース繊維のネットワークが形成される。石炭ケーキの強度を向上させるためには、セルロース繊維の平均繊維長を1.0mm以上とすることが必要である。セルロース繊維の平均繊維長は、石炭ケーキの強度を向上させる点ではより大きい方が好ましく、セルロース繊維の平均繊維長の上限は、石炭ケーキの強度を向上させる目的からは限定されない。しかし、一般的に繊維長が大きいことが知られている針葉樹由来の原料から製造されたセルロース繊維の平均繊維長が3.0mm以下程度である。そのため、本発明による石炭ケーキの製造方法では、セルロース繊維の平均繊維長を3.0mm以下とする。セルロース繊維の平均繊維長は、1.5mm以上3.0mm以下が好ましく、1.8mm以上3.0mm以下がより好ましい。
【0027】
なお、本明細書において、「セルロース繊維」とは、通常は天然由来のセルロース原料から得られる繊維状物を意味している。セルロース原料としてはパルプが好ましく、木材由来のパルプがより好ましい。木材由来のパルプとしては、例えば、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプが挙げられる。
【0028】
木材由来のパルプの調製方法としては、公知の方法で調整することができるが、例えば、化学パルプ化法(蒸解法)による処理を含む方法が挙げられる。化学パルプ化法(蒸解法)による処理により着色物質であるリグニンが溶解して取り除かれ、酸素脱リグニン処理や漂白処理と併せることによって白色度の高いパルプを得ることができる。このような酸素脱リグニン処理や漂白処理は、本用途においては、行う必要はないが、行っても問題はない。すなわち、通常のパルプ製造工程の適用が可能である。
【0029】
化学パルプ化法(蒸解法)としては、例えば、サルファイト蒸解法、クラフト蒸解法、ソーダ・キノン蒸解法、オルガノソルブ蒸解法が挙げられ、環境面、経済面から、クラフト蒸解法が好ましい。「クラフト蒸解法」とは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ薬品と硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどのイオウを含む薬品とを共用する方法であり、添加剤として、キノン系蒸解助剤、ポリサルファイド等の使用が可能である。
【0030】
パルプの調製方法においては、蒸解で得られたパルプに酸素脱リグニン処理を施すことができる。本発明に使用される酸素脱リグニン処理法として、公知の中濃度法あるいは高濃度法をそのまま適用できる。中濃度法を用いる場合はパルプ濃度を8~15質量%、高濃度法を用いる場合はパルプ濃度を20~35質量%として行うことが好ましい。酸素脱リグニン処理におけるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、圧力スイング吸着(Pressure Swing Adsorption、PSA)法によって分離された酸素、真空スイング吸着(Vacuum Swing Adsorption、VSA)法によって分離された酸素等を使用できる。
【0031】
酸素脱リグニン処理の反応条件は、特に限定はないが、例えば、酸素圧は3~9kg/cm2とすればよい。また、アルカリ添加率は0.5~4質量%とすればよく、温度は80~140℃とすればよく、処理時間は20~180分とすればよい。この他の条件は、公知のものを適用できる。なお、本発明において、酸素脱リグニン処理は、複数回行ってもよい。
【0032】
酸素脱リグニン処理が施されたパルプは、例えば、次いで洗浄工程へ送られ、洗浄後、後述されるような漂白処理を行ってもよい。
【0033】
パルプの調製方法においては、化学パルプ化法(蒸解法)、酸素脱リグニン処理に加え、さらに漂白処理を行うこともできる。これにより、白色度のより高いパルプが得られる。漂白処理方法としては、例えば、任意に通常の方法で脱リグニンしたパルプに対し、塩素処理(C)、二酸化塩素漂白(D)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩漂白(H)、過酸化水素漂白(P)、アルカリ性過酸化水素処理段(Ep)、アルカリ性過酸化水素・酸素処理段(Eop)、オゾン処理(Z)、キレート処理(Q)、およびこれらの2以上の処理の組み合わせを施す方法が挙げられる。2以上の処理の組み合わせ(シーケンス)としては、例えば、D-E/P-D、C/D-E-H-D、Z-E-D-P、Z/D-Ep-D、Z/D-Ep-D-P、D-Ep-D、D-Ep-D-P、D-Ep-P-D、Z-Eop-D-D、Z/D-Eop-D、Z/D-Eop-D-E-D(シーケンス中の「/」は、「/」の前後の処理を洗浄なしで連続して行なうことを意味する。)が挙げられる。漂白処理は、上記の例に限定されることなく、一般的に使用される方法でもよい。漂白処理を経たパルプは、通常は流動状態(流動パルプ)である。
【0034】
上述のパルプの水分量としては、例えばパルプシ-トの解砕処理を行う場合には、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。さらに本発明のセルロース繊維の解砕前後で原料の繊維を短繊維化させないためには、水分量は30質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましい。パルプの水分量は、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、65質量%以下が特に好ましい。パルプの水分量を本範囲に調整することによって、解砕処理におけるセルロース繊維の調整を容易に行うことができる。
【0035】
パルプシートの解砕処理を行わず、水中で叩解処理などを行うことによってセルロース繊維を調整する場合には、パルプの水分量は特に制限されず、適宜選択することができる。
【0036】
なお、セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、バルメット社製フラクショネーターや、ABB株式会社製L&W Fiber Tester Plus等の、画像解析型繊維分析装置により求めることができる。具体的には、例えば、セルロース繊維を固形0.1g含むように希釈した水分散体300mlを画像解析型繊維分析装置(製品名:L&W Fiber Tester Plus、ABB社製)に供し、300秒間測定を行い、length-weighted fiber length(長さ加重平均繊維長)を求める(n=2)。その際、測定条件を定めるSample type画面にて、Fines LimitのMax値を0.2、Length class1のMin値を0.2に設定した上で測定を行う。
【0037】
本発明では、上記粉状の石炭ケーキの原料にセルロース繊維を配合して混合したセルロース繊維混合原料をスタンピングして突き固めることにより、高強度の石炭ケーキを製造することができる。
【0038】
石炭ケーキの原料に対するセルロース繊維の配合率について、後述する実施例に示すように、セルロース繊維の配合率が多いほど石炭ケーキの強度は向上する。セルロース繊維の配合率と石炭ケーキ強度との関係には線形性が見られることから、石炭ケーキ強度の観点からは配合率の上限は限定されない。ただし、セルロース繊維のようなバイオマス原料を石炭ケーキの原料に配合して混合して石炭ケーキとし、得られた石炭ケーキをコークス製造に使用すると、乾留後に得られるコークスの強度が低下する。そのため、コークス強度への悪影響が軽微で高炉操業への影響を無視できる範囲として、セルロース繊維の配合率は、石炭ケーキの原料100質量%に対して2.0質量%以下とすることが好ましい。なお、セルロース繊維を2.0質量%以下の割合で配合するとは、石炭ケーキの製造に使用する原料(石炭、石炭乾留物、その他の炭材など。セルロース繊維は含まれない。)の乾燥質量の合計を100質量%とした場合に、セルロース繊維の乾燥質量が外割で2.0質量%以下となるように配合することを意味する。セルロース繊維の配合率は、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
一方、セルロース繊維の配合率が少量の場合でも、配合率に対応した石炭ケーキ強度の向上効果を示すことから、配合率の下限も特に限定されない。ただし、より高強度の石炭ケーキを製造し、石炭ケーキの崩壊を防止する観点からは、セルロース繊維の配合率は、0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましい。
【0040】
なお、石炭ケーキの原料およびセルロース繊維は、一定量の水分を含有することが一般的である。そのため、セルロース繊維の配合率は、石炭ケーキの原料およびセルロース繊維の水分量を事前に測定し、乾燥質量(水分を除いた質量)を用いて計算する。セルロース繊維の水分は、JIS M 8812で規定された空気中乾燥減量測定法を用い、107℃で1時間加熱乾燥した時の試料の減量から算出する。なお、この方法は石炭類の水分定量方法であるが、石炭以外の原料を含む石炭ケーキ原料やセルロース繊維についても同様の方法によって水分を測定してよい。
【0041】
石炭ケーキの原料とセルロース繊維とを混合する方法としては、一般的にコークス工場で石炭を混合するのに用いられるミキサーを用いればよく、特に限定されない。より短時間で大量の石炭ケーキ原料とセルロース繊維とを混合し生産性を高めるために、パムアペックスミキサ(太平洋機工株式会社製)のようなチョッパー羽根付きのミキサーを用いる方法も例示できる。
【0042】
上記の通り調製したセルロース繊維混合原料から石炭ケーキを製造する場合には、落錘衝撃によりセルロース繊維混合原料を締固める形式のスタンピング装置を用いて製造すればよい。この時、1.0mm以上3.0mm以下の平均繊維長を有するセルロース繊維を配合する場合には、セルロース繊維を配合しない場合に比べて高強度の石炭ケーキを製造することができる。その結果、石炭ケーキの崩壊が起こりにくく、コークス炉の安定した操業を行うことができる。また、石炭水分が低位であり、通常石炭ケーキの崩壊が頻発するような操業条件であっても、上記セルロース繊維を配合した場合には、石炭ケーキの強度が操業上問題ない範囲で維持できる。セルロース繊維の配合が石炭ケーキの強度に及ぼす影響については、以下の実施例においてより詳しく説明する。
【0043】
(冶金用コークスの製造方法)
次に、本発明による冶金用コークスの製造方法について説明する。本発明による冶金用コークスの製造方法は、上述した本発明による石炭ケーキの製造方法によって製造された石炭ケーキをコークス炉で乾留してコークスを得ることを特徴とする。
【0044】
上述した本発明による石炭ケーキの製造方法によって製造された石炭ケーキは、コークス炉炭化室の側方から機械的に装入する。このとき、石炭ケーキは、石炭ケーキの自重や、装入機械の振動の衝撃を受ける。石炭ケーキの強度が低い場合には、石炭ケーキの装入中に石炭ケーキが崩壊する操業トラブルが起こり得る。本発明による石炭ケーキの製造方法においては、セルロース繊維をバインダーとして使用しており、これにより石炭ケーキの強度が向上し、石炭ケーキの崩壊を抑制することができる。
【0045】
石炭ケーキを乾留する条件に特に制約はない。一般的なスタンプチャージ式コークス炉により、概ね900℃以上の温度で石炭ケーキを乾留すればよい。
【0046】
(石炭ケーキ用強度向上材)
続いて、本発明による石炭ケーキ用強度向上材について説明する。本発明による石炭ケーキ用強度向上材は、スタンプチャージ式コークス炉で用いられる石炭ケーキ用強度向上材であり、平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維であることを特徴とする。
【0047】
上記セルロース繊維としては、上述した本発明による石炭ケーキの製造方法に用いるセルロース繊維とすることができる。セルロース繊維の要件についても、石炭ケーキの製造方法に用いるセルロース繊維と同様とすることができる。
【0048】
上述のように、平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維をバインダーとして石炭ケーキの原料と混合し、得られたセルロース繊維混合原料をスタンピングすることによって、高強度の石炭ケーキを製造することができる。その結果、得られた石炭ケーキをコークス炉において乾留してコークスを製造する際に、石炭ケーキが崩壊するのを抑制することができるため、コークス炉の操業を安定して行うことができる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で任意に変更可能である。
【0050】
まず、以下のように、石炭ケーキの製造に用いるセルロース繊維を製造した。
【0051】
<製造例1>
広葉樹由来の未晒しパルプに対して酸素脱リグニン処理を施して得られたパルプシート(白色度47.2%、固形分53質量%/水分量47質量%)を、水に分散して4質量%の水分散体とした。次いで、得られた水分散体をシングルディスクリファイナー(製品名:14インチ ラボリファイナー(相川鉄工株式会社製)、クリアランス0.15mm)で処理し、カナダ標準濾水度(csf)0mlとなるまで叩解を進めた。続いて、叩解後の水分散体を固形分量16質量%となるように遠心脱水機にて調整し、平均繊維長0.76mmのセルロース繊維Aを得た。
【0052】
<製造例2>
csf400mlとなるまで叩解を進め、得られた水分散体を固形分量22質量%となるように調整した以外は、製造例1と同様にして、平均繊維長0.93mmのセルロース繊維Bを得た。
【0053】
<製造例3>
針葉樹由来の未晒しパルプに対して酸素脱リグニン処理を施して得られたパルプシート(白色度38.0%、固形分46質量%/水分量54質量%)を用いた以外は、製造例1と同様にして、平均繊維長1.03mmのセルロース繊維Cを得た。
【0054】
<製造例4>
針葉樹由来の未晒しパルプシート(白色度22.8%、固形分45質量%/水分量55質量%)を、水に分散して3質量%の水分散体とし、シングルディスクリファイナー(製品名:14インチ ラボリファイナー(相川鉄工株式会社製)、クリアランス0.15mm)で処理し、カナダ標準濾水度(csf)0mlとなるまで叩解を進めた。その後、得られた水分散体を固形分量12質量%となるように遠心脱水機にて調整し、平均繊維長1.08mmのセルロース繊維Dを得た。
【0055】
<製造例5>
針葉樹由来の未晒しパルプに対して酸素脱リグニン処理を施して得られたパルプシート(白色度38.0%、固形分46質量%/水分量54質量%)に水に加えて固形分20質量%のウェットシート状物とした。得られたウェットシート状物を、シングルディスクリファイナー(製品名:BR-300CB ラボリファイナー(熊谷理機工業製)、クリアランス0.15mm)で処理してカナダ標準濾水度(csf)400mlとなるまで叩解を進め、平均繊維長1.63mmのセルロース繊維Eを得た。
【0056】
<製造例6>
csf400mlとなるまで叩解を進め、得られた水分散体を固形分量20質量%となるように調整した以外は、製造例4と同様にして、平均繊維長1.95mmのセルロース繊維Fを得た。
【0057】
<製造例7>
針葉樹由来の未晒しパルプに対して酸素脱リグニン処理を施して得られたパルプシート(白色度38.0%、固形分46質量%/水分量54質量%)を用いた以外は、製造例2と同様にして、平均繊維長1.98mmのセルロース繊維Gを得た。
【0058】
<製造例8>
針葉樹由来の漂白済みパルプシート(白色度85%、固形分85質量%/水分量15質量%)を、解繊機(製品名:ATOMZ M4-300、石川総研社製、スクリーン径φ25mm)にて処理し、粗解砕物を得た。得られた粗解砕物をさらに解繊機(製品名:ATOMZ M4-300、石川総研社製、スクリーン径φ4.5mm)で処理し、平均繊維長1.81mmのセルロース繊維Hを得た。
【0059】
<製造例9>
針葉樹由来の未晒しパルプシート(白色度22.8%、固形分45質量%/水分量55質量%)を、水に分散して3質量%の水分散体とし、シングルディスクリファイナー(製品名:BR-300CB ラボリファイナー(熊谷理機工業製)、クリアランス0.1mm)で処理し、カナダ標準濾水度(csf)695mlとなるまで叩解を進めた。その後、得られた水分散体を固形分量30質量%となるように遠心脱水機にて調整し、ウェットシート状物を得た。得られたウェットシート状物を、前述するシングルディスクリファイナー(クリアランス3.95mm)で処理することによって解砕を行い、平均繊維長2.06mmのセルロース繊維Iを得た。
【0060】
<製造例10>
針葉樹由来の未晒しパルプシート(白色度22.8%、固形分45質量%/水分量55質量%)を、水に分散し3質量%の水分散体とした。得られた水分散体を固形分量35質量%となるように遠心脱水機にて調整し、ウェットシート状物を得た。得られたウェットシート状物を、シングルディスクリファイナー製品名:BR-300CB ラボリファイナー(熊谷理機工業製)、クリアランス3.95mm)で処理することによって解砕を行い、平均繊維長2.08mmのセルロース繊維Jを得た。
【0061】
<製造例11>
針葉樹由来の未晒しパルプシート(白色度22.8%、固形分45質量%/水分量55質量%)を、シングルディスクリファイナー(製品名:BR-300CB ラボリファイナー(熊谷理機工業製)、クリアランス2.5mm)で処理することによって解砕を行い、平均繊維長2.15mmのセルロース繊維Kを得た。
【0062】
<製造例12>
シングルディスクリファイナーの代わりに、FMミキサー(製品名:FM-150、日本コークス工業製、回転数2750rpm/30分間)を用いた以外は、製造例11と同様にして、平均繊維長2.15mmのセルロース繊維Lを得た。
【0063】
上述のように製造したセルロース繊維の特徴を表1に示す。
【0064】
【0065】
(実施例1)
実施例1として、種々の繊維長を有するセルロース繊維を用い、本発明による石炭ケーキの製造方法によって石炭ケーキを製造してその強度を評価した。
【0066】
石炭ケーキ原料としては、原料炭を石炭化度(Ro)の加重平均が0.92となるように配合した配合炭を粒径-3mm100質量%となるように粉砕して使用した。上記石炭ケーキ原料に、表1に記載したセルロース繊維を表2に記載の配合率で配合して混合し、セルロース繊維混合原料とした。得られたセルロース繊維混合原料の水分量を測定し、水分量がスタンプチャージ式コークス炉における一般的な条件である10質量%となるように計算した量の水を添加した。
【0067】
上述の手順で水分量を調整したセルロース繊維混合原料を用いて、以下の手順で石炭ケーキを製造した。まず、内径10cm、高さ20cmの金属製モールドにセルロース繊維混合原料約200gを装入し、質量9kgのランマーを試料表面から30cmの高さから10回落とすことにより、その衝撃で装入したセルロース繊維混合原料を突き固めた。上記石炭の装入からランマーの落下までの操作を10回繰り返すことによって、直径10cm、高さ20cm、質量約2kgの石炭ケーキを製造した。その後、石炭ケーキからモールドを静かに外して石炭ケーキの強度を測定した。石炭ケーキの強度は、JIS A 1216で規定される一軸圧縮強さにより評価した。得られた結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
表2は、平均繊維長の異なるセルロース繊維を石炭ケーキ原料に配合して混合した場合の石炭ケーキの強度を示している。石炭ケーキ強度(一軸圧縮強さ)は、使用した石炭ケーキ原料の種類や粒度によって大きく変動する。そのため、セルロース繊維の配合による石炭ケーキ強度への影響を評価する場合、各石炭ケーキ原料について、スタンプチャージ式コークス炉における一般的な条件である水分量10質量%、セルロース繊維の配合なしの条件で製造した石炭ケーキの一軸圧縮強さを基準として、基準に対する強度比で評価するのがよい。
【0070】
上記強度比が1.0未満であれば、一般的な操業条件に比べて石炭ケーキ強度が低下しており、石炭ケーキの崩壊などのトラブルが起こりやすい条件とみなすことができる。一方、強度比が1.0超えであれば、一般的な操業条件に比べて石炭ケーキ強度が高く、石炭ケーキの崩壊が起こりにくい安定操業に望ましい条件とみなすことができる。この観点から、比較例であるセルロース繊維A、Bを配合した条件では、基準に対する強度比が1.0未満であり、セルロース繊維を配合することによって石炭ケーキ強度は低下している。一方、発明例であるセルロース繊維C~Gを配合した場合には、基準に対する強度比はいずれも1.0超えであり、石炭ケーキの崩壊が起こりにくい安定操業に望ましい条件と言える。
【0071】
図1にセルロース繊維の平均繊維長と石炭ケーキ強度(強度比)との関係を示す。
図1から明らかなように、平均繊維長と石炭ケーキ強度(強度比)との関係は明白であり、平均繊維長1.0mm以上の長繊維のセルロース繊維を配合して混合することによって、石炭ケーキの強度を向上させることができる。
【0072】
(実施例2)
実施例2として、セルロース繊維Fの配合率を変化させ、本実施形態に係る製造方法で石炭ケーキを製造して強度を評価した。
【0073】
石炭ケーキ原料には、原料炭を石炭化度(Ro)の加重平均が0.93となるように配合した配合炭を粒径―3mm100質量%となるように粉砕して使用した。上記石炭ケーキ原料に対して、セルロース繊維Fを表3に記載の配合率で配合して混合し、セルロース繊維混合原料とした。上記セルロース繊維混合原料の水分量を測定し、水分量がスタンプチャージ式コークス炉における一般的な条件である10質量%となるように計算した量の水を添加した。上述の手順で水分量を調整したセルロース繊維混合原料を用いて、実施例1と同様の方法で石炭ケーキを製造し、その強度を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0074】
【0075】
表3に示す通り、セルロース繊維Fの配合率の増大に伴い、石炭ケーキ強度は線形的に増大しており、石炭ケーキ強度を向上させる目的に対しては、セルロース繊維の配合率はより多いことが好ましい。一方で、前述の通り、セルロース繊維の配合率が多すぎると、石炭ケーキを乾留して得られるコークスの強度が低下する。そのため、本発明の実施にあたっては、各工場における石炭ケーキの強度およびコークスの強度の基準に照らし、事前の実験によりセルロース繊維の最適な配合率を求めておくことが好ましい。
【0076】
図2にセルロース繊維の配合率と石炭ケーキ強度(強度比)との関係を示す。
図2から明らかなように、セルロースの配合率と石炭ケーキ強度との関係は明白であり、石炭ケーキ原料にセルロース繊維を配合することによって、石炭ケーキの強度を向上させることができる。
【0077】
(実施例3)
実施例3として、石炭ケーキ原料の水分量が10質量%である一般的なスタンプチャージの操業条件に比べて、水分量が7質量%と低位である条件において、セルロース繊維を配合した場合の石炭ケーキ強度への影響を調べた。そのために、本発明による石炭ケーキの製造方法によって石炭ケーキを製造してその強度を評価した。
【0078】
石炭ケーキ原料としては、原料炭を石炭化度(Ro)の加重平均が0.94となるように配合した配合炭を粒径-3mm100質量%となるように粉砕して使用した。上記石炭ケーキ原料に対して、表1に記載したセルロース繊維を表4に記載の配合率で配合して混合し、セルロース繊維混合原料とした。得られたセルロース繊維混合原料の水分量を測定し、水分量がスタンプチャージ式コークス炉における一般的な条件である10質量%、もしくは通常に比べて水分が低位な条件である7質量%となるように計算した量の水を添加した。上述の手順で水分量を調整したセルロース繊維混合原料を用いて、実施例1と同様の方法で石炭ケーキを製造してその強度を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
表4は、スタンプチャージ式コークス炉における一般的な条件に比べて石炭水分が低い場合に、セルロース繊維の配合が石炭ケーキ強度に及ぼす影響を示している。表4において参考例として示したが、石炭ケーキ原料の水分量を10質量%から7質量%に低下させると、石炭ケーキの基準に対する強度比は0.45まで低下する。この条件では石炭ケーキの崩壊が頻発し、安定したコークス製造を行うことは難しい。また、表4において、比較例としてセルロース繊維Bを配合した場合の石炭ケーキ強度を示すが、強度はセルロース繊維Bの配合がない場合と同程度であった。一方、発明例については、セルロース繊維H~Lを配合することにより、石炭ケーキ原料の水分量が7質量%の条件であっても、強度比が基準と比べて高い値を示すことが分かる。以上のようにして、セルロース繊維の配合によって石炭ケーキの強度を維持しながら石炭ケーキの水分量を低下させ、コークスの生産性を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、粘結性のバインダーを用いることなく、石炭ケーキの強度を向上させることができる石炭ケーキの製造方法を提供することができる。
【要約】
粘結性のバインダーを用いることなく、石炭ケーキの強度を向上させることができる石炭ケーキの製造方法を提供する。本発明による石炭ケーキの製造方法は、スタンプチャージ式コークス炉における石炭ケーキの製造方法であって、粉状の石炭ケーキの原料に、平均繊維長1.0mm以上3.0mm以下のセルロース繊維を配合して混合し、得られたセルロース繊維混合原料をスタンピングして石炭ケーキを得ることを特徴とする。