(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】冷却器及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/473 20060101AFI20250121BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
H01L23/46 Z
H05K7/20 N
(21)【出願番号】P 2020199467
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100132067
【氏名又は名称】岡田 喜雅
(72)【発明者】
【氏名】松澤 憲亮
(72)【発明者】
【氏名】小山 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】郷原 広道
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-036097(JP,A)
【文献】特開2019-186237(JP,A)
【文献】特開2011-086805(JP,A)
【文献】特開2013-036098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/473
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に放熱面が形成された天板と、
前記天板に対向配置され、前記天板より厚みの大きい底板と、
前記底板に設けられた複数のフィンと、
前記底板の外周縁に沿って前記複数のフィンの外周を囲うように形成された周壁部と、
前記複数のフィン及び前記周壁部を前記天板に接合する接合材と、
を備え、
前記複数のフィン及び前記周壁部は、前記天板の前記放熱面に接合され、前記天板、前記底板、前記複数のフィン、及び前記周壁部によって囲まれた空間により冷媒の流路が形成され、
前記天板側の電位が前記底板側の電位よりも高
く、
前記接合材は、アルミニウムを主成分とし、少なくとも組成比率が7.5%以上のシリコン、組成比率が0.25%以下の亜鉛、及びマグネシウムを有し、
前記底板は、
アルミニウムを主成分とし、少なくとも組成比率が0.2%以上1.5%以下のシリコン、組成比率が0.35%以上1.5%以下のマグネシウム、組成比率が0%以上0.7%以下の銅、及び組成比率が0%以上0.7%以下の亜鉛を有し、または、
アルミニウムを主成分とし、少なくとも組成比率が4.5%以上13.5%以下のシリコン、組成比率が0%以上1.3%以下のマグネシウム、組成比率が0%以上1.3%以下の銅、及び組成比率が0%以上0.25%以下の亜鉛を有する、冷却器。
【請求項2】
前記接合材は、前記底板側よりも高電位である、請求項1に記載の冷却器。
【請求項3】
前記接合材は、冷媒の流路における前記放熱面を全面にわたって覆っている、請求項2に記載の冷却器。
【請求項4】
前記接合材は、シート状のろう材で構成されている、請求項2又は請求項3に記載の冷却器。
【請求項5】
前記底板側と前記接合材との電位差は、50mV以上である、請求項2から請求項4のいずれかに記載の冷却器。
【請求項6】
前記底板は、母材が冷媒の流路に露出している、請求項2から請求項5のいずれかに記載の冷却器。
【請求項7】
前記接合材及び前記底板の母材は、アルミニウムを主成分とし、
前記接合材は、前記底板の母材より、シリコンの比率が高く、マグネシウムの比率が低い、請求項2から請求項6のいずれかに記載の冷却器。
【請求項8】
前記接合材の組成は、アルミニウムを主成分とし、少なくともシリコンが7.5%以上、亜鉛が0.25%以下の比率で構成されている、請求項2から請求項7のいずれかに記載の冷却器。
【請求項9】
前記底板の母材の組成は、アルミニウムを主成分とし、少なくとも銅が2.0%以下の比率で構成されている、請求項8に記載の冷却器。
【請求項10】
前記底板の上面に第1の腐食孔が形成されている、請求項2から請求項9のいずれかに記載の冷却器。
【請求項11】
前記天板の前記放熱面に前記接合材を貫通した第2の腐食孔が形成され、
前記第2の腐食孔は、前記第1の腐食孔よりも小さい、請求項10に記載の冷却器。
【請求項12】
前記接合材の厚みは、50μm以上、500μm以下である、請求項2から請求項11のいずれかに記載の冷却器。
【請求項13】
前記天板の厚みは、0.25mm以上、5.0mm以下である、請求項2から請求項12のいずれかに記載の冷却器。
【請求項14】
前記底板の厚みは、2.0mm以上、10.0mm以下である、請求項2から請求項13のいずれかに記載の冷却器。
【請求項15】
前記天板の母材と、前記底板の母材は、組成の異なる材料で形成され、前記天板の母材の電位が、前記底板の母材の電位よりも高い、請求項2から請求項14のいずれかに記載の冷却器。
【請求項16】
請求項2から請求項15のいずれかに記載の冷却器と、
前記天板の他方の面に絶縁基板を介して配置された半導体素子と、を備え、
前記複数のフィンは、前記半導体素子の直下に配置されている、半導体装置。
【請求項17】
前記底板は、冷媒の導入口及び排出口を有し、
前記導入口及び前記排出口は、前記複数のフィンを挟んで対向するように配置されており、
前記導入口及び/又は前記排出口に対向する前記接合材の厚みは、その周囲よりも大きい、請求項16に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却器及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
汎用の熱交換器(冷却器)は、アルミニウム合金等、熱伝導性の良好な金属材料によって形成される(特許文献1-2参照)。例えば特許文献1では、いわゆるフィンチューブ式の熱交換器の製造方法について記載されている。特許文献1では、アルミニウム合金製の押出扁平管とフィンとをろう材で接合している。また、特許文献2では、一対のプレート部材の間にコルゲート板を配置し、プレート部材とコルゲート板をろう材で接合する。
【0003】
また、冷却器の冷却対象として、半導体装置が挙げられる。半導体装置は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、FWD(Free Wheeling Diode)等の半導体素子が設けられた基板を有し、インバータ装置等に利用されている。
【0004】
この種の半導体装置では、冷却器が一体となったものが提案されている(例えば、特許文献3-4参照)。半導体素子は、所定の回路基板(絶縁基板と呼ばれてもよい)上に配置され、半田等の接合材を介して冷却器上に搭載される。例えば冷却器は、半導体素子等が搭載される天板、放熱フィン、底板、冷媒の流入口及び流出口等を備えている。天板、放熱フィン及び底板は、ろう材等によって接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-070658号公報
【文献】特開2009-293888号公報
【文献】特開2013-036098号公報
【文献】特開2017-005181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、冷却器の内部には、冷媒(冷却水)が流れる。冷媒が流れることにより、冷却器の内面には、腐食が発生し得る。腐食が進行することにより、冷却器に穴が開いて冷媒が外に漏れてしまうおそれがある。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、冷媒通路の所定箇所における局所的な腐食を抑制することが可能な冷却器及び半導体装置を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の冷却器は、一方の面に放熱面が形成された天板と、前記天板に対向配置され、前記天板より厚みの大きい底板と、前記底板に設けられた複数のフィンと、前記底板の外周縁に沿って前記複数のフィンの外周を囲うように形成された周壁部と、を備え、前記複数のフィン及び前記周壁部は、前記天板の前記放熱面に接合され、前記天板、前記底板、前記複数のフィン、及び前記周壁部によって囲まれた空間により冷媒の流路が形成され、前記天板側の電位が前記底板側の電位よりも高い。
【0009】
また、本発明の一態様の半導体装置は、上記の冷却器と、前記天板の他方の面に絶縁基板を介して配置された半導体素子と、を備え、前記複数のフィンは、前記半導体素子の直下に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、冷媒通路の所定箇所における局所的な腐食を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係る半導体装置の断面図である。
【
図2】本実施の形態に係る冷却器から天板を省略して上面からみた平面図である。
【
図4】変形例に係る冷却器から底板を省略して下側からみた平面図である。
【
図7】他の変形例に係る半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用可能な半導体装置について説明する。
図1は、本実施の形態に係る半導体装置の断面図である。
図2は、本実施の形態に係る冷却器から天板を省略して上面からみた平面図である。なお、以下に示す半導体装置はあくまで一例にすぎず、これに限定されることなく適宜変更が可能である。
【0013】
また、以下の図において、半導体装置(冷却器)の長手方向(複数の相が並ぶ方向)をX方向、半導体装置(冷却器)の短手方向をY方向、高さ方向(基板の厚み方向)をZ方向と定義することにする。図示されたX、Y、Zの各軸は互いに直交し、右手系を成している。また、場合によっては、X方向を左右方向、Y方向を前後方向、Z方向を上下方向と呼ぶことがある。これらの方向(前後左右上下方向)は、説明の便宜上用いる文言であり、半導体装置の取付姿勢によっては、XYZ方向のそれぞれとの対応関係が変わることがある。例えば、半導体装置の放熱面側(冷却器側)を下面側とし、その反対側を上面側と呼ぶことにする。また、本明細書において、平面視は、半導体装置の上面又は下面をZ方向からみた場合を意味する。
【0014】
本実施の形態に係る半導体装置1は、例えばパワーコントロールユニット等の電力変換装置に適用されるものであり、インバータ回路を構成するパワー半導体モジュールである。
図1及び
図2に示すように、半導体装置1は、天板20の上面に複数の絶縁基板3を配置し、各絶縁基板3の上面に半導体素子4を配置して構成される。複数の絶縁基板3及び半導体素子4は、枠状のケース部材5によって囲われる。ケース部材5の内側空間には、封止樹脂6が充填されている。
【0015】
図1では、絶縁基板3及び半導体素子4がY方向に並んで2つ配置されているが、この構成に限定されない。例えば、絶縁基板3及び半導体素子4は、Y方向だけでなくX方向にも複数並んで配置されてもよい。この場合、複数の絶縁基板3及び半導体素子4によって、インバータ回路が形成される。
【0016】
天板20は、冷却器2の一部を構成し、平面視矩形で所定厚みを有する板状体で形成される。冷却器2は、例えば天板20と、底板21と、底板21に設けられる複数のフィン22及び周壁部23と、を含んで構成される。冷却器2の構成については後述する。
【0017】
天板20の一方の面である下面には、放熱面20aが形成されている。放熱面20aは、半導体素子の熱を放熱する面であり、当該放熱面20aには、後述する複数のフィン22の先端が接合される。放熱面20aは、冷媒が直接接触する面でもある。
【0018】
天板20の他方の面である上面には、はんだSを介して絶縁基板3が配置される。はんだSは、焼結材等、他の結合剤で代用することも可能である。絶縁基板3は、例えば、DCB(Direct Copper Bonding)基板やAMB(Active Metal Brazing)基板、あるいは金属ベース基板で構成される。具体的に絶縁基板3は、絶縁板30と、絶縁板30の下面に配置された放熱板31と、絶縁板30の上面に配置された回路板32と、を有する。絶縁基板3は、例えば平面視矩形状に形成される。
【0019】
絶縁板30は、例えば、アルミナ(Al2O3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等のセラミックス材料、エポキシ等の樹脂材料、又はセラミックス材料をフィラーとして用いたエポキシ樹脂材料等の絶縁材料によって形成される。なお、絶縁板30は、絶縁層又は絶縁フィルムと呼ばれてもよい。
【0020】
放熱板31は、Z方向に所定の厚みを有し、絶縁板30の下面全体を覆うように形成される。放熱板31は、例えば銅やアルミニウム等の熱伝導性の良好な金属板によって形成される。
【0021】
絶縁板30の上面には、回路板32が形成される。なお、
図1では、便宜上、1つの絶縁板30につき1つの回路板32を示すが、絶縁板30の上面には、より多くの回路板32が形成されてもよい。これらの回路板32は、銅箔等で形成された所定厚みの金属層であり、絶縁板30上に電気的に互いに絶縁された状態で島状に形成される。
【0022】
回路板32の上面には、はんだSを介して半導体素子4が配置されている。はんだSは、焼結材等、他の結合剤で代用することも可能である。半導体素子4は、例えば平面視方形状に形成される。詳細は後述するが、半導体素子4は、複数のフィン22に対応する箇所に配置されている。
【0023】
半導体素子4は、回路板32の上面にはんだSを介して配置され、電気的に接続される。
図1では、便宜上、1つの回路板32につき1つの半導体素子4を示すが、より多くの半導体素子4が回路板32に配置されてもよい。半導体素子4は、例えば炭化けい素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、及びダイヤモンド等の半導体基板によって平面視方形状(矩形状)に形成される。
【0024】
なお、半導体素子4としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、パワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)等のスイッチング素子、FWD(Free Wheeling Diode)等のダイオードが用いられる。また、半導体素子4として、IGBTとFWDを一体化したRC(Reverse Conducting)-IGBT素子、又はパワーMOSFET素子、逆バイアスに対して十分な耐圧を有するRB(Reverse Blocking)-IGBT等が用いられてもよい。
【0025】
また、半導体素子4の形状、配置数、配置箇所等は適宜変更が可能である。なお、本実施の形態における半導体素子4は、半導体基板にトランジスタなどの機能素子を形成した、縦型のスイッチング素子であるが、これに限らず、横型のスイッチング素子であってもよい。
【0026】
ケース部材5は、天板20の上面に例えば接着剤(不図示)を介して接合される。ケース部材5は、天板20の外形に沿った形状を有している。また、ケース部材5は、中央が開口された矩形枠状に形成される。中央開口には、上記した絶縁基板3及び半導体素子4が収容される。すなわち、絶縁基板3及び半導体素子4は、枠状のケース部材5によって囲われる。
【0027】
また、詳細は後述するが、ケース部材5の内側空間には、封止樹脂6が充填される。すなわち、ケース部材5は、複数の絶縁基板3、半導体素子4や封止樹脂6を収容する空間を画定する。このようなケース部材5は、例えば熱可塑性樹脂によって形成されている。ケース部材5は、例えば、PPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、PBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)等により形成される。
【0028】
また、図示はしないが、ケース部材5には、外部接続用の主端子(P端子、N端子、M端子等)と、制御用の制御端子が設けられている。これらの端子は、例えばケース部材5と一体成型される。
【0029】
上記したように、封止樹脂6は、枠状のケース部材5により規定された空間内に充填される。これにより、絶縁基板3、及びこれに実装された半導体素子4が上記の空間内に封止される。封止樹脂6は、例えば熱硬化性の樹脂により構成される。具体的に封止樹脂6は、エポキシ、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド、及びポリアミドイミドのいずれかを少なくとも含むことが好ましい。封止樹脂6には、例えば、フィラーを混入したエポキシ樹脂が、絶縁性、耐熱性及び放熱性の点から好適である。
【0030】
次に冷却器2の詳細構成について説明する。
図1及び
図2に示すように、冷却器2は、天板20と底板21とを接合して一体化された箱型に形成される。冷却器2は、放熱性のよい、例えばアルミニウム合金によって形成される。
【0031】
上記したように、天板20は、平面視矩形状を有し、所定厚みの板状体で形成される。天板20の外形は、ケース部材5の外形に対応している。すなわち、天板20は、その長手方向が半導体装置1の左右方向(X方向)に延び、その短手方向が半導体装置1の前後方向(Y方向)に延びている。天板20は、一方の面(下面)と他方の面(上面)とを有している。一方の面は、半導体素子4の熱を放出する放熱面を形成している。他方の面は、絶縁基板3に対する接合面を形成している。
【0032】
本実施の形態では、複数の絶縁基板3及び半導体素子4が、天板20の上面の中央領域に配置されている。例えば複数の絶縁基板3及び半導体素子4は、X方向又はY方向に並んで配置されている。
図1では、絶縁基板3及び半導体素子4がY方向に2つずつ並んで配置されているが、この構成に限定されない。絶縁基板3及び半導体素子4は、X方向にも複数並んで配置されてもよい。なお、本実施の形態において、上記した複数の絶縁基板3及び半導体素子4が配置された天板20の下面側(放熱面側)の中央領域を放熱領域と呼ぶことがある。
【0033】
底板21は、天板20と同形状の平面視矩形状を有し、所定隙間を空けて天板20の直下に対向配置されている。底板21は、天板20より厚みの大きい板状体で形成される。底板21は、天板20と同素材のアルミニウム合金で形成されることが好ましい。
【0034】
底板21の上面には、複数のフィン22が設けられている。フィン22は、例えばZ方向に延びる角柱形状のピンフィンを用いることが可能である。複数のフィン22は、X方向又はY方向、もしくはXY方向に交差する方向で所定ピッチの間隔を空けて配列されてよい。複数のフィン22は、底板21と同一の金属材料で構成され、底板21と一体的に設けられてよい。また、フィン22は、言い換えると、ヒートシンク(heat sink)として用いられる。
【0035】
フィン22は、より具体的には、平面視ひし形に形成され、対角線上で対向する一対の角部の対向方向が、X方向又はY方向と一致している。また、フィン22は、Z方向正側に向かって所定長さで突出している。フィン22の一方の端部は底板21の上面と接続され、他方の端部は天板20の下面(放熱面)と接続されている。また、フィン22は、後述する接合材Bを介して天板20又は底板21と接続されていてもよい。なお、底板21に設けられるフィン22の構成については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、円柱形状のピンを複数設ける構成や、前後方向又は左右方向に延在するブレード形状の複数のフィン22を互いに平行に配列する構成としてもよい。フィン22は、底板21にロウ付け、植設、切削加工あるいは塑性加工により設けられてよい。
【0036】
複数のフィン22は、全体として略直方体形状のフィン集合体24を形成する。フィン集合体24の長手方向は、底板21の長手方向と合致している。なお、フィン集合体24の外形形状は、これに限定されるものではなく、面取りや変形された形状であってもよい。
【0037】
また、底板21の上面には、複数のフィン22(フィン集合体24)の外周を囲う周壁部23が設けられている。周壁部23は、底板21の上面からZ方向正側に所定高さで突出している。また、周壁部23は、底板21の外周縁に沿って矩形枠状に形成されている。なお、周壁部23の突出高さは、フィン22の突出高さと等しいことが好ましい。
【0038】
底板21と周壁部23は、一体的に形成されてもよい。すなわち、底板21と周壁部23は、上方が開口された箱型の冷却器ケースを構成する。そして、天板20は、冷却器ケースの開口を塞ぐ蓋部を構成する。
【0039】
天板20は、上記した周壁部23及び複数のフィン22の先端(上端)にろう付け等することで接合される。これにより、冷却ケースの上方開口が塞がれる。このように、天板20、底板21、複数のフィン22、及び周壁部23によって囲まれた空間により、冷媒の流路が形成される。冷媒には、例えば冷却水が用いられ、その物性は適宜変更が可能である。また、天板20と冷却器ケースの接合構成については後述する。
【0040】
なお、天板20、底板21、及び周壁部23によって囲まれた空間は、3つの空間(第1ヘッダ部R1、フィン収容部R2、第2ヘッダ部R3)に分けられる。具体的に第1ヘッダ部R1は、後述する冷媒の導入口25に連なる空間を形成する。フィン収容部R2は、上記した複数のフィン22が収容される空間を形成する。第2ヘッダ部R3は、後述する冷媒の排出口26に連なる空間を形成する。
【0041】
第1ヘッダ部R1及び第2ヘッダ部R3は、フィン収容部R2をY方向で挟んで対向するように配置されている。すなわち、第1ヘッダ部R1は、フィン収容部R2よりも上流側の冷媒流路を形成し、第2ヘッダ部R3は、フィン収容部R2よりも下流側の冷媒流路を形成する。冷媒には液体を用いている。なお、冷媒には種々の液体を用いることが可能である。
【0042】
また、
図2に示すように、底板21の所定箇所には、冷却器2に対する冷媒の導入口25及び排出口26が形成されている。導入口25及び排出口26は、底板21を厚み方向に貫通する貫通穴で形成される。具体的に導入口25及び排出口26は、複数のフィン22をY方向で挟んで斜めに対向するように配置されている。例えば、第1ヘッダ部R1において、導入口25は、X方向負側に偏って配置されている。これに対し、第2ヘッダ部R3において、排出口26は、X方向正側に偏って配置されている。
【0043】
また、導入口25及び排出口26は、平面視でX方向に長い長穴形状を有している。例えば、導入口25及び排出口26の形状は、冷却器2の短手方向側は短く、長手方向側が長い楕円形状となっている。なお、導入口25及び排出口26の形状及び配置箇所は、これに限定することなく、適宜変更が可能である。
【0044】
このように構成される半導体装置1は、ホース(不図示)の接続口を有するフランジ70の平坦な取付面71に、Oリング72等のパッキンを介して取り付けられる。このとき、底板21の下面が取付面71に接触される。
図1では、例えば、フランジ70側にOリング72用の溝73が形成されている。Oリング72によって取付面71と底板21の下面とのシール性が確保される。
【0045】
ところで、水冷式の冷却器においては、内部に形成された空間(冷媒の流路)内を冷媒が流れることになる。冷媒には例えば、各種冷却水が用いられる。そのため、冷却器の内面には、冷媒が長期にわたって接触することで腐食が発生してしまうことが想定される。ここで、
図1及び
図3の比較例を参照して本実施の形態に係る冷却器について説明する。
図3は、比較例に係る半導体装置の断面図である。なお、比較例においては、複数のフィン及び周壁部が天板に設けられている点でのみ、本実施の形態と相違する。このため、本実施の形態と同一名称の構成については同一の符号を付しており、適宜説明を省略する。
【0046】
本実施に係る冷却器2は、
図1に示すように、底板21の上面に、複数のフィン22が設けられている。また、底板21の上面に、複数のフィン22と複数のフィン22の外周を囲うように周壁部23とが設けられている。底板21、複数のフィン22、及び周壁部23は、一体的に形成されてもよい。
【0047】
図1では、底板21と周壁部23により、上方が開口された箱型の冷却器ケースが構成される。そして、天板20は、冷却器ケースの開口を塞ぐ蓋部を構成する。天板20は、上記した周壁部23及び複数のフィン22の先端(上端)にろう付け等することで接合される。より具体的に天板20は、接合材Bを介して周壁部23及び複数のフィン22に接合される。
【0048】
一方、比較例に係る冷却器2は、
図3に示すように、天板20の下面に、複数のフィン22が設けられている。また、天板20の下面に、複数のフィン22の外周を囲うように周壁部23が設けられている。天板20、複数のフィン22、及び周壁部23は、一体的に形成されてもよい。
【0049】
図3では、天板20と周壁部23により、下方が開口された箱型の冷却器ケースが構成される。そして、底板21は、冷却器ケースの開口を塞ぐ蓋部を構成する。底板21は、上記した周壁部23及び複数のフィン22の先端(下端)にろう付け等することで接合される。より具体的には、底板21は、接合材Bを介して周壁部23及び複数のフィン22に接合される。
【0050】
本実施の形態及び比較例では、接合材Bは、例えばシート状のろう材で構成される。接合材Bは、所定厚みを有し、底板21の所定範囲に配置されている。接合材Bは、天板20や底板21と同等のアルミニウム合金系の金属材料によって構成される。また、天板20の上面には、冷却対象である半導体素子4及び絶縁基板3が配置されている。天板20の厚みは、熱伝導性の観点から底板21の厚みに比べて小さく設定されている。また、半導体素子4は、装置の駆動に伴って発熱する熱源である。そのため、一般的には冷却器2では、底板21及び周壁部23よりも天板20の温度が上がりやすく、底板21側及び周壁部23側よりも天板20側の腐食が進行しやすい。
【0051】
比較例では、冷却器2の内部空間において、接合材Bが配置された底板21側よりも金属の母材が露出した天板20の放熱面20a側の方が、腐食しやすい傾向にある。上記したように、底板21よりも天板20の方が薄いため、腐食が進行してしまうと、天板20に穴が開いて冷媒が外に漏れ出てしまうおそれがある。
【0052】
一方、本実施の形態では、冷却器2の内部空間において、接合材Bが配置された天板20側よりも金属の母材が露出した底板21側の方が、腐食しやすい傾向にある。そして、天板20側の腐食の進行を抑制する。上記したように、底板21は天板20よりも厚いため、腐食が進行しても、穴が開いて冷媒が外に漏れ出てしまうおそれを抑制することができる。
【0053】
本実施の形態及び比較例で用いた接合材Bは、天板20や底板21の母材よりも電位が高い材料で構成される。そこで、本件発明者等は、冷媒の流路内における腐食の傾向として、電位の低い箇所がより腐食しやすく、電位の高い箇所が腐食の進行を抑制することを見出した。より具体的には、天板20や底板21の金属の母材よりも電位の高い接合材Bを用いることで、接合材Bを配置していない側の腐食の進行がより進み、接合材Bを配置した側の腐食の進行が抑えられる。したがって、本件発明者等は、冷却器2の内部の冷媒流路において、電位の高低による腐食の傾向、天板20及び底板21の厚みに着目し、本発明に想到した。
【0054】
すなわち、本発明の骨子は、冷媒流路からみて放熱面20aを有する天板20側の電位を底板21側よりも高くすることである。具体的に本実施の形態において、冷却器2は、一方の面に放熱面20aが形成された天板20と、天板20に対向配置され、天板20より厚みの大きい底板21と、底板21に設けられた複数のフィン22と、底板21の外周縁に沿って複数のフィン22の外周を囲うように形成された周壁部23と、を備える。複数のフィン22及び周壁部23は、天板20の放熱面20aに接合され、天板20、底板21、複数のフィン22、及び周壁部23によって囲まれた空間により冷媒の流路が形成される。そして、冷媒の流路において天板20側の電位が底板21側の電位よりも高くなっている。
【0055】
この構成によれば、底板21に複数のフィン22及び周壁部23を設け、底板21側で冷却器ケースを構成している。また、冷却器2内の空間(冷媒の流路)において、比較的厚みの小さい天板20側が底板21側よりも高電位である。このため、底板21側よりも天板20側が腐食し難くなっている。すなわち、比較的厚みの大きい底板21側は、ある程度の腐食を許容しつつも、底板21よりも厚みの小さい天板20側は、電位を高くして腐食を極力進行し難くするという意図である。これにより、冷媒通路の所定箇所における局所的な腐食を抑制して冷却器2の長寿命化を図ることが可能である。
【0056】
また、本実施の形態では、複数のフィン22及び周壁部23を天板20に接合するに際し、底板21よりも高電位である接合材Bを用いる。この構成によれば、複数のフィン22及び周壁部23の先端と天板20との間に接合材Bが介在することになる。冷媒の流路において、天板20側に接合材Bが配置され、底板21側には接合材Bが配置されず、底板21が露出されている。したがって、接合材Bによって天板20側と底板21側との間に電位差を生じさせることが可能である。
【0057】
なお、天板20側と底板21側との電位差、すなわち接合材Bと底板21との電位差は、50mV以上であることが好ましい。この場合、天板20側での腐食を極力抑制することが可能である。
【0058】
また、本実施の形態では、接合材Bが天板20の下面(放熱面)を全面にわたって覆っている。本来的には、接合材Bは接合箇所のみ配置されれば十分である。しかしながら、本実施の形態では、放熱面20a全体が接合材Bによって覆われることで、天板20側と底板21側との間の電位差を確保しつつも、天板20の母材が冷媒の流路内に露出することがない。この結果、天板20の腐食を接合材Bで防止することが可能である。すなわち、本発明における接合材Bは、部材間の接合という本来的な機能のみならず、天板20の腐食を防止するための保護被膜としての機能も兼ね備えている。
【0059】
また、本実施の形態では、接合材Bがシート状のろう材で構成されている。この構成によれば、シート状の接合材Bを予め天板20の大きさに合わせてカットしておき、その接合材Bを複数のフィン22及び周壁部23と天板20との間に配置した状態で炉に入れることが可能である。炉内で接合材Bが溶融することで、複数のフィン22及び周壁部23と天板20とが接合されると共に天板20の下面(放熱面20a)全体がろう材で覆われる。このように、接合材Bとしてシート状のろう材を用いることで冷却器2の製造工程(主に接合工程及び保護被膜形成工程)を簡略化することが可能である。なお、接合材Bは、シート状に限らず、ペースト状のろう材を天板20の下面全体に塗布する構成としてもよい。
【0060】
また、本実施の形態において、冷却器2は、アルミニウムを主成分とするアルミニウム合金で形成されることが好ましい。例えば、天板20や底板21の母材は、A6063等、6000系のアルミニウム合金で形成されることが好ましい。6000系のアルミニウム合金は、主にマグネシウムとシリコンを添加し、純アルミニウムの強度を増加させたものであり、強度や耐食性に優れている。例えば、冷却器2は、アルミニウムを主成分とし、シリコンが0.2%以上1.5%以下、マグネシウムが0.35%以上1.5%以下、銅が0%以上0.7%以下、亜鉛が0%以上0.7%以下の比率で構成されていてよい。より具体的に天板20及び底板21の母材の組成は、少なくとも銅が2.0%以下の比率で構成されていることが好ましい。より好ましくは、銅が0.2%以下である。なお、組成の比率は重量パーセントである。主成分とは80%以上の比率で構成されていることを指す。
【0061】
天板20と底板21は、同じ組成のアルミニウム合金であることが好ましい。または、天板20と底板21は、同じ組成のアルミニウム合金に限らず、互いに組成の異なる材料で形成されてもよい。この場合、底板21と天板20と同じ電位、または、底板21よりも天板20の方が高電位となるように組成比率を調整することが好ましい。
【0062】
接合材Bとしてのろう材は、A4047等、4000系のアルミニウム合金で形成されることが好ましい。4000系のアルミニウム合金は、アルミニウムを主成分とし、主にシリコンを添加し、耐熱性、耐摩耗性に優れている。なお、冷却器2の構成部材の材質は、アルミニウム合金に限らず、例えば銅合金であってもよい。例えば、冷却器2は、アルミニウムを主成分とし、シリコンが4.5%以上13.5%以下、マグネシウムが0%以上1.3%以下、銅が0%以上1.3%以下、亜鉛が0%以上0.25%以下の比率で構成されていてよい。接合材Bの組成は、天板20や底板21の母材より、シリコンの組成比率が大きい。また、電位を下げる効果があるマグネシウムの組成比率が小さい。更には、電位を上げる効果がある銅の組成比率が大きくてよい。また、電位を下げる効果があるマンガンの組成比率が小さくてよい。より具体的に接合材Bの組成は、少なくともシリコンが7.5%以上、亜鉛が0.25%以下の比率で構成されていることが好ましい。なお、組成の比率は重量パーセントである。主成分とは80%以上の比率で構成されていることを指す。
【0063】
また、本実施の形態では、天板20の上面(他方の面)に絶縁基板3を介して半導体素子4が配置されている。複数のフィン22は、半導体素子4の直下に配置されている。このように、本実施の形態では、冷却器2の冷却対象が半導体素子4及び絶縁基板3である。半導体素子4は、装置の駆動に伴って発熱する熱源であるためである。
【0064】
半導体装置1においては、その熱伝導性を向上するため、天板20の厚みを極力小さくしている。より具体的に天板20の厚みは、250μm以上、5.0mm以下であることが好ましい。天板20の厚みをこの範囲に設定することで、熱伝導性を損なうことなく、半導体素子4の熱を放熱面から効果的に排出することが可能である。
【0065】
一方で、底板21は、据付先に固定される側であるため、ある程度の剛性が必要である。そのため、底板21は、天板20よりも厚く形成されており、その剛性が確保されている。より具体的には、底板21の厚みは、2.0mm以上、10.0mm以下であることが好ましい。
【0066】
また、上記した天板20及び底板21の厚みに加え、接合材Bの厚みは、50μm以上、500μm以下であることが好ましい。接合材Bの厚みをこの範囲に設定することで、熱伝導性を損なうことなく、天板20の放熱面を保護する保護被膜としての機能を両立することが可能である。
【0067】
また、上記の実施の形態では、天板20の下面に一様の厚さで接合材Bが配置されている場合について説明したが、この構成に限定されない。接合材Bは、部分的に厚く形成されてもよい。
図4は、変形例に係る冷却器から底板を省略して下側からみた平面図である。より具体的に本実施の形態では、
図2及び
図4に示すように、底板21が冷媒の導入口25及び排出口26を有している。導入口25及び排出口26は、平面視で複数のフィン22を挟んで斜めに対向するように配置されている。この場合、導入口25及び/又は排出口26にZ方向で対向する天板20の領域25a、26bにおける接合材Bの厚みは、その周囲よりも大きいことが好ましい。この構成によれば、冷媒の導入口25及び排出口26の近傍は、冷媒の流速が速い。このため、冷媒の流路からすれば、導入口25及び排出口26に対向する天板20は、腐食しやすい環境にあるといえる。したがって、導入口25及び排出口26に対向する接合材Bの厚みをその周囲の厚みよりも大きくすることで、天板20を腐食から効果的に防止することが可能である。なお、接合材Bの厚みの調整は、導入口25及び排出口26の両方に対応する箇所、又は、導入口25若しくは排出口26のいずれか一方に対応する箇所のみ行ってもよい。
【0068】
上記したように、本実施の形態では、冷却器2において、天板20側と底板21側との間に電位差を設けることで、比較的厚みの小さい天板20側の腐食を極力抑制するものである。しかしながら、本発明は、冷媒による冷却器2の内壁面の腐食を完全に防止するものではない。上記したように、本実施の形態では、冷却器2の冷却対象(半導体素子4等)の配置の関係上、冷却効率(熱伝導性)や剛性を考慮して天板20及び底板21の厚みが異なっている。このため、比較的厚みの小さい天板20側の電位を底板21側の電位よりも高くすることで、天板20側の腐食を極力抑えようというものである。すなわち、比較的に厚みの大きい底板21側であれば、ある程度の腐食は許容しても、底板21には冷媒が漏れる程の腐食孔は形成されないという意味である。
【0069】
ここで、
図5を参照して、本実施の形態に係る冷却器2で腐食が発生した場合の一例について説明する。
図5は、
図1の部分拡大図である。なお、
図5に示す腐食はあくまで一例を示すものであり、これに限定されるものではない。例えば
図5では、天板20側にも僅かながら比較的小さな腐食孔が形成された場合を示している。
【0070】
図5に示すように、底板21の上面には、所定の大きさの腐食孔27(第1の腐食孔)が複数形成されている。腐食孔27の深さは、例えば400μm以上、1100μm以下である。一方で、天板20の放熱面20aには、所定の大きさの腐食孔28(第2の腐食孔)が複数形成されている。腐食孔28は、接合材Bを貫通して天板20の下面(放熱面20a)にも一部侵食している。腐食孔28の深さは、腐食孔27よりも浅く、例えば100μm以上、550μm以下である。より具体的には、腐食孔28は、腐食孔27の半分程度の深さである。また、腐食孔28の数は、腐食孔27の数よりも少なくなっている。
【0071】
このように、本実施の形態では、比較的厚みの小さい天板20側の電位を高くしたことで、底板21側よりも天板20側を腐食し難くしている。逆を言えば、比較的厚みの大きい底板21側を天板20側よりも先に腐食しやすくしている。このため、天板20側の腐食孔28よりも底板21側の腐食孔27方が比較的大きく形成され、その数も多くなっている。上記したように、底板21は、剛性確保のために十分な厚みを有しているので、多少の腐食は許容できるという趣旨である。したがって、底板21側が腐食孔27によって液漏れを起こすような事態は生じない。
【0072】
一方で、天板20側は、上面に半導体素子4が配置され底板21側よりも高温になりやすいものの、底板21側よりも高電位であるためにそもそも腐食し難い。仮に腐食が生じたとしても、ろう材で構成される接合材Bから先に腐食されるため、天板20の母材にその腐食が進行したとしても、腐食孔28自体の大きさは底板21側の腐食孔27に比べて十分に小さい。このため、天板20側においても、腐食孔28によって液漏れを起こすような事態は生じない。
【0073】
次に、
図3、
図6、及び
図7を参照して、変形例について説明する。
図6は、変形例に係る半導体装置の断面図である。
図7は、他の変形例に係る半導体装置の断面図である。
【0074】
上記したように、
図3に示す比較例では、底板21側に接合材Bが配置され、底板21側よりも天板20側が低電位となる構成とした。一方で、
図3のレイアウトを同じにしたまま、接合材Bの組成を調整して天板20側の電位が底板21側の電位よりも高くしてもよい。すなわち、
図3において、底板21側の接合材Bが天板20よりも低電位であってもよい。この場合、接合材Bの方が低電位となるため、接合材Bが犠牲層となって天板20よりも先に腐食が進行する。そして、接合材Bが腐食されて無くなるまでの間、天板20側の腐食を遅らせることができ、天板20側での液漏れを抑制することが可能である。但し、この場合、接合材Bを十分に厚くする必要があるため、天板20と底板21の接合部分における剥離対策等の課題がある。したがって、
図1のように、接合材Bが高電位である方が好適である。
【0075】
また、
図6に示すように、天板20と底板21とが接合材Bを介して接合されているものの、天板20の下面(放熱面20a)及び底板21の上面が共に接合材Bで覆われていない構成も可能である。この場合、接合材Bは、周壁部23の形状に沿った四角枠状に形成されてよい。またこの場合、天板20側が底板21側よりも高電位であることが好ましい。この構成によっても、天板20側より底板21側が先に腐食されるため、天板20側の腐食を遅らせて、天板20側での液漏れを抑制することが可能である。但し、この場合、天板20及び底板21の加工性・剛性・放熱性が劣るため、
図1のように、より高電位な接合材Bがあった方が好適である。
【0076】
更に、
図7に示すように、天板20の下面(放熱面20a)及び底板21の上面の両方が接合材Bで覆われる構成であってもよい。この場合、天板20側が底板21側よりも高電位であることが好ましい。この構成によっても天板20側より底板21側が先に腐食されるため、天板20側の腐食を遅らせて、天板20側での液漏れを抑制することが可能である。但し、この場合、接合材Bを十分に厚くする必要があるため、天板20と底板21の接合部分における剥離対策等の課題がある。したがって、
図1のように、天板20側の接合材Bが高電位である方が好適である。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態によれば、冷却器2の天板20と底板21との間に電位差を設けたことで、天板20側における局所的な腐食を抑制することが可能となる。
【0078】
なお、上記実施の形態では、導入口25と排出口26が斜めに対向するように配置される場合について説明したが、この構成に限定されない。例えば、導入口25及び排出口26は、冷却器2の長手方向に直交する方向(Y方向)で対向してもよい。
【0079】
また、上記実施の形態において、導入口25及び排出口26は、長手方向(X方向)に長い長穴形状を有する場合について説明したが、この構成に限定されない。導入口25及び排出口26の形状、配置箇所等は、適宜変更が可能である。
【0080】
また、上記実施の形態において、半導体素子4の個数及び配置箇所は、上記構成に限定されず、適宜変更が可能である。
【0081】
また、上記実施の形態において、回路板32の個数及びレイアウトは、上記構成に限定されず、適宜変更が可能である。
【0082】
また、上記実施の形態では、絶縁基板3、半導体素子4が平面視矩形状又は方形状に形成される構成としたが、この構成に限定されない。これらの構成は、上記以外の多角形状に形成されてもよい。
【0083】
また、本実施の形態及び変形例を説明したが、他の実施の形態として、上記実施の形態及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0084】
また、本実施の形態は上記の実施の形態及び変形例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらに、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【0085】
下記に、上記の実施の形態における特徴点を整理する。
上記実施の形態に係る冷却器は、一方の面に放熱面が形成された天板と、前記天板に対向配置され、前記天板より厚みの大きい底板と、前記底板に設けられた複数のフィンと、前記底板の外周縁に沿って前記複数のフィンの外周を囲うように形成された周壁部と、を備え、前記複数のフィン及び前記周壁部は、前記天板の前記放熱面に接合され、前記天板、前記底板、前記複数のフィン、及び前記周壁部によって囲まれた空間により冷媒の流路が形成され、前記天板側の電位が前記底板側の電位よりも高い。
【0086】
また、上記実施の形態に係る冷却器は、前記複数のフィン及び前記周壁部を前記天板に接合する接合材を更に備え、前記接合材は、前記底板側よりも高電位である。
【0087】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記接合材は、冷媒の流路における前記放熱面を全面にわたって覆っている。
【0088】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記接合材は、シート状のろう材で構成されている。
【0089】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記底板側と前記接合材との電位差は、50mV以上である。
【0090】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記底板は、母材が冷媒の流路に露出している。
【0091】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記接合材及び前記底板の母材は、アルミニウムを主成分とし、前記接合材は、前記底板の母材より、シリコンの比率が高く、マグネシウムの比率が低い。
【0092】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記接合材の組成は、アルミニウムを主成分とし、少なくともシリコンが7.5%以上、亜鉛が0.25%以下の比率で構成されている。
【0093】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記底板の母材の組成は、アルミニウムを主成分とし、少なくとも銅が2.0%以下の比率で構成されている。
【0094】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記底板の上面に第1の腐食孔が形成されている。
【0095】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記天板の前記放熱面に前記接合材を貫通した第2の腐食孔が形成され、前記第2の腐食孔は、前記第1の腐食孔よりも小さい。
【0096】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記接合材の厚みは、50μm以上、500μm以下である。
【0097】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記天板の厚みは、0.25mm以上、5.0mm以下である。
【0098】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記底板の厚みは、2.0mm以上、10.0mm以下である。
【0099】
また、上記実施の形態に係る冷却器において、前記天板の母材と、前記底板の母材は、組成の異なる材料で形成され、前記天板の母材の電位が、前記底板の母材の電位よりも高い。
【0100】
また、上記実施の形態に係る半導体装置は、上記の冷却器と、前記天板の他方の面に絶縁基板を介して配置された半導体素子と、を備え、前記複数のフィンは、前記半導体素子の直下に配置されている。
【0101】
また、上記実施の形態に係る半導体装置において、前記底板は、冷媒の導入口及び排出口を有し、前記導入口及び前記排出口は、前記複数のフィンを挟んで対向するように配置されており、前記導入口及び/又は前記排出口に対向する前記接合材の厚みは、その周囲よりも大きい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明は、冷媒通路の所定箇所における局所的な腐食を抑制することができるという効果を有し、特に、水冷式の冷却器及びこれを備える半導体装置に有用である。
【符号の説明】
【0103】
1 半導体装置
2 冷却器
3 絶縁基板
4 半導体素子
5 ケース部材
6 封止樹脂
20 天板
21 底板
22 フィン
23 周壁部
24 フィン集合体
25 導入口
26 排出口
27 腐食孔(第1の腐食孔)
28 腐食孔(第2の腐食孔)
30 絶縁板
31 放熱板
32 回路板
70 フランジ
71 取付面
72 Oリング
73 溝
S はんだ
B 接合材
R1 第1ヘッダ部
R2 第2ヘッダ部
R3 フィン収容部