IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20250121BHJP
   B29C 55/12 20060101ALI20250121BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20250121BHJP
   B32B 7/027 20190101ALI20250121BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20250121BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20250121BHJP
   B29K 81/00 20060101ALN20250121BHJP
【FI】
C08J5/18 CEZ
B29C55/12
B32B27/00 A
B32B7/027
C08L81/02
C08L101/00
B29K81:00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020562227
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2020033189
(87)【国際公開番号】W WO2021045076
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2019161063
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋健太
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼▲崎▼莉沙
(72)【発明者】
【氏名】福田一友
(72)【発明者】
【氏名】前川茂俊
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-138080(JP,A)
【文献】特開2009-132874(JP,A)
【文献】国際公開第2015/033856(WO,A1)
【文献】特開平06-322151(JP,A)
【文献】特開2004-096040(JP,A)
【文献】特開2001-329076(JP,A)
【文献】特開2005-015641(JP,A)
【文献】特開平08-103955(JP,A)
【文献】Eiji Maemura, Mukerrem Cakmak, James L. White,Characterization of crystallinity, orientation, and mechanical properties in biaxially stretched poly(p-phenylene sulfide) films,Polymer Engineering & Science,米国,SPE-Inspiring Plastics Professionals.,1989年01月31日,Volume 29, Issue 2,p. 140-150,https://doi.org/10.1002/pen.760290210
【文献】Pengtao Huo, Peggy Cebe,Dielectric relaxation of poly(phenylene sulfide) containing a fraction of rigid amorphous phase,Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics,米国,John Wiley & Sons,1992年03月15日,Volume 30, Issue 3,p. 239-250,https://doi.org/10.1002/polb.1992.090300303
【文献】Rajendra K. Krishnaswamy, Jon F. Geibel, Barbara J. Lewis,Influence of Semicrystalline Morphology on the Physical Aging Characteristics of Poly(phenylene sulfide),Macromolecules,米国,American Chemical Society,2003年03月28日,36, 8,p.2907-2914,https://doi.org/10.1021/ma025776u
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B29C 55/00-55/30
B32B 1/00-43/00
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリーレンスルフィド系樹脂を主たる構成成分とし、示差走査熱量(DSC)測定を用いて昇温速度20℃/min、試料量5mg条件において1st.Runで測定される溶融開始温度(Tms)と融点(Tm)が下記式(1)を満たし、フィルム全体に対する剛直非晶量が40%以上55%以下である二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
20℃≦Tm-Tms≦100℃ (1)
【請求項2】
ポリアリーレンスルフィド系樹脂を主たる構成成分とし、示差走査熱量(DSC)測定を用いて昇温速度20℃/min、試料量5mg条件において1st.Runで測定される溶融開始温度(Tms)と融点(Tm)が下記式(1)を満たし、フィルム全体に対する剛直非晶量の割合が結晶化度よりも大きい二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
20℃≦Tm-Tms≦100℃ (1)
【請求項3】
フィルム全体に対する剛直非晶量が40%以上55%以下であって、かつ剛直非晶量の割合が結晶化度よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
熱機械分析(TMA)測定で得られる収縮応力の開始温度が220℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項5】
250℃における収縮応力が3.0MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項6】
PAS系樹脂(I)を主成分とし、樹脂(I)とは異なる熱可塑性樹脂(II)を少なくとも1種以上含み、熱可塑性樹脂(II)が下記骨格のいずれかを有する請求項1~のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【化1】
(ただし、式中のR~Rはそれぞれ水素、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基および炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
【請求項7】
樹脂(II)がスルホニル基を有することを特徴とする請求項に記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項8】
少なくとも一方の表面の中心面平均粗さ(SRa)が15nm以上300nm以下であることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項9】
分子配向計にて測定される配向パラメーターの平均値(Q)が4300以上であることを特徴とする請求項1~のいずれかに二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載のフィルムと金属・樹脂フィルム・繊維シートのいずれか1種以上との複合体。
【請求項11】
請求項1~のいずれかに記載のフィルムを用いた回路用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドフィルムは、耐熱性・電気特性・低吸湿性、高温下での寸法安定性および耐薬品性に優れることから、電気・電子部品、電池用部材、機械部品および自動車部品の絶縁材や断熱材として好適に使用されている。
【0003】
近年、電気、電子部品分野において高速・大容量化の流れから、伝送損失の小さい材料が求められており、低伝送損失材料として液晶ポリマーフィルムを用いた回路基板が知られている(特許文献1)。しかし、液晶ポリマーを用いた場合には、分子鎖が極度に配向している構造を有し伸度が低いため割れ易く加工が十分ではないという課題がある。そこで、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称することがある。)に代表されるポリアリーレンスルフィドフィルムは、その伝送損失性や低吸湿性の高さを活かし、電気絶縁材料への適用が進められている。しかしながら、PPSフィルムを回路基材としたものは、熱寸法変化を起こし、例えば、回路基板の製造工程で熱が加わると回路の変形や反りが生じやすい。これは、PPSフィルムの熱による収縮応力が大きく回路層を変形させてしまうためであり、PPSフィルムの低収縮応力が望まれている。また、高周波帯での伝送において、電気信号は回路表面部を流れるため、フィルムの表面の凹凸が大きくなると伝送経路が長くなり、伝送損失量が大きくなることから表面平滑性に優れるフィルムが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-60449号公報
【文献】WO2007/129721号公報
【文献】特開2007-301784号公報
【文献】特開2002-47360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、近年では高温での成形性を向上させる目的で、ポリアリーレンスルフィド樹脂に異なる他の熱可塑性樹脂を含有させて耐久性や加工性をあげるPPSフィルムが提案されている(特許文献2、特許文献3)。しかしながら、熱成型性を向上させるが、回路基板の製造工程の熱収縮応力の抑制が充分ではないという課題があった。
【0006】
また、回路基板用途としてPPSフィルムを高圧下で段階的に熱をかけ熱安定性を向上させる技術が開示されているが(特許文献4)、段階的に熱をかけ圧力と時間を必要としフィルムの脆化を伴うため、回路基板としての加工性が充分ではないという課題があった。
【0007】
本発明は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、熱寸法安定性、加工性、伝送特性に優れた二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、上記課題を解決するために次の構成を有する。すなわち、ポリアリーレンスルフィド系樹脂を主たる構成成分とし、示差走査熱量(DSC)測定を用いて昇温速度20℃/min、試料量5mgの条件において1st.Runで測定される溶融開始温度(Tms)と融点(Tm)が下記式(i)を満たす二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムである。
20℃≦Tm-Tms≦100℃ (1)
【発明の効果】
【0009】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、熱寸法安定性、加工性および伝送特性に優れることから、電気・電子機器、電池用部材、機械部品および自動車部品や絶縁材、印刷機器用部材、耐熱テープ、特に高周波回路材として好適に用いることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について説明する。
【0011】
本発明において、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムとは、ポリアリーレンスルフィド(以下、「PAS」と言う。)系樹脂を主たる構成成分とする樹脂組成物を、溶融成型してシート状とし、二軸延伸、熱処理してなる二軸配向フィルムである。
【0012】
本発明において、PAS系樹脂を主たる構成成分とするとは、PAS系樹脂を50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上含むことをいう。PAS系樹脂の含有量が50質量%未満では、PASフィルムの特徴である、耐熱性、寸法安定性、機械的特性を損なう場合がある。
【0013】
本発明で用いるPAS系樹脂とは、-(Ar-S)-の繰り返し単位を有するコポリマーである。Arとしては下記の式(A)~式(K)などであらわされる単位などがあげられる。
【0014】
【化1】
【0015】
(R1,R2は、水素、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基から選ばれた置換基であり、R1とR2は同一でも異なっていてもよい)
繰り返し単位としては、p-アリーレンスルフィド単位が好ましく、これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルフィドケトンなどが挙げられ、特に好ましいp-アリーレンスルフィド単位としては、フィルム物性と経済性の観点から、p-フェニレンスルフィド単位が好ましく例示される。
【0016】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂は、主要構成単位として下記構造式で示されるp-フェニレンスルフィド単位を全繰り返し単位の80モル%以上99.9モル%以下で構成されていることが好ましい。上記の組成とすることで、優れた耐熱性、耐薬品性を発現せしめることができる。
【0017】
【化2】
【0018】
また、繰り返し単位の0.01モル%以上20モル%以下の範囲で共重合単位と共重合することもできる。
【0019】
好ましい共重合単位は、
【0020】
【化3】
【0021】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO2単位を示す。またRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)が挙げられ、特に好ましい共重合単位は、m-フェニレンスルフィド単位である。
【0022】
主要構成単位に共重合成分との共重合の態様は特に限定はないが、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0023】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを構成するPAS系樹脂の分子量は重量平均分子量で40,000以上であることが好ましく、より好ましくは60,000以上である。
【0024】
分子量を上記の範囲とすることで溶融状態における流動性を制御することができ、分子鎖の絡み合いが増えることから後述する他の熱可塑性樹脂と混合した際に分散性を向上し、表面平滑性が高まる。重要平均分子量が40,000未満であるとPAS樹脂の溶融時の粘度が低くなる。そのため口金から吐出した樹脂を安定してキャスティングできず、シートの厚み斑、幅変動を引き起こす場合がある。なお、重量平均分子量の値に上限は特に設けないが、汎用的な設備にて安定的に押出可能な樹脂として110,000以下が実質的な上限となる。重量平均分子量を上記の範囲にするには後述する重合条件によって制御することが出来る。また、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、測定することができる。
【0025】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、示差走査熱量(DSC)測定を用いて昇温速度20℃/min、試料量5mgの条件において1stRunで測定される溶融開始温度(Tms)と融点(Tm)が下記式(i)を満たすことが必要である。
【0026】
20℃≦Tm-Tms≦100℃ (i)
ここで言う溶融開始温度(Tms)とは、微結晶が溶融を開始する温度を意味する。また融点(Tm)とは樹脂フィルムの固体・液体の転移温度を意味する。溶融開始温度と融点は、JIS K-7122(1987)に準じて、上述した条件で、25℃から350℃まで加熱(1stRun)を行なって得られた示差走査熱量測定チャートより後述する方法にて算出する。本発明において、微結晶とは、低温から溶融開始を始める結晶である。微結晶が多く存在することで、低温から寸法変化が起こり、耐熱性が劣る場合がある。
【0027】
溶融開始温度と融点を上述した範囲とすることで、微結晶が低減していることになる。高温にさらされた場合においても、微結晶の融解による収縮を抑制できる。そのため熱寸法性に優れ、加工時においてもフィルム全体としての収縮応力を低減し変形抑制できるという点で優れるフィルムが得られる。融点と溶融開始温度の差が100℃を超えるとであると微結晶の融解が低温から始まり、収縮応力が増大し加工時のフィルム変形がおこる場合がある。また、融点と溶融開始温度の差が20℃未満であるとフィルムの結晶化が進む傾向がある。そのため、フィルムが脆化し加工時のわれや剥離がおこる場合がある。融点と溶融開始温度の差は、より好ましくは30℃以上70℃以下、さらに好ましくは40℃以上60℃以下である。融点と溶融開始温度の差(Tm-Tms)を上記範囲とするには後述する製膜条件の中でも、熱固定処理とアニール処理条件によって制御することが出来る。
【0028】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、フィルム全体に対する剛直非晶量が40%以上55%以下であることが好ましい。上記の特性を有することで、非晶部分が配向し熱安定化していることを意味する。回路基板の製造工程において低収縮応力となり、熱寸法変化が小さく良好な特性を有することができる。剛直非晶量が40%未満であると、フィルム中の結晶性が増加し加工時の割れ、バリなどが起こる場合がある。また、剛直非晶量が55%を超えると、フィルム全体の結晶性が低下するため収縮応力が増加し、熱寸法安定性が悪化する場合がある。より好ましい剛直非晶量40%以上50%以下である。剛直非晶量を上記範囲とするには、後述する製膜条件の中でもアニール条件によって制御することが出来る。剛直非晶量は後述する手法によって評価することができる。
【0029】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、結晶化度が25%以上45%以下であることが好ましく、30%以上38%以下であることがより好ましい。上記の特性を有することで、適度に結晶化が進みフィルムの耐熱性と加工性を兼ね備え、良好な特性を有することができる。結晶化度が25%未満であると、フィルム全体の結晶性が低下するため収縮応力が増加し、熱寸法安定性が悪化する場合がある。また、結晶化度が45%を超えると、フィルム全体の結晶性が高くなり加工時に脆化し、割れ、バリなどが起こる場合がある。結晶化度を上記範囲とするには、後述する製膜条件の中でも熱処理条件によって制御することが出来る。結晶化度は後述する熱分析の手法によって評価することができる。
【0030】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、フィルム全体に対する剛直非晶量の割合が結晶化度よりも大きいことが好ましい。上記特性を有することで、剛直非晶量がフィルムの脆化を抑制しつつ、結晶化度によって熱寸法安定性と加工性のバランスが取れるため良好な特性を有する。結晶化度の割合が大きくなると熱寸法安定性は高まるものの加工性が悪化するといった場合がある。剛直非晶の割合を結晶化度よりも大きくするには、後述する製膜条件のなかでもアニール条件を調整することが好ましい。
【0031】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、熱機械分析(TMA)測定で得られる収縮応力の開始温度が220℃以上であることが好ましい。より好ましくは230℃以上であり、さらに好ましくは240℃以上である。本発明において、収縮応力の開始温度とは、横軸に温度、縦軸に収縮応力とし、温度-収縮応力曲線を描いたときに、収縮応力が急激に増加し始める点の温度をいう。収縮応力の開始温度は、その温度まで収縮による変形が小さいことを示す。上記特性を有することで、収縮による変形が抑制できるため、熱寸法安定性が良好な特性を有する。220℃未満であると、低温から収縮による変形が起こるため、熱寸法安定性が悪化する場合がある。収縮応力の立ち上がりを上記範囲とするには、後述する製膜条件の中でもアニール温度によって制御することができる。
【0032】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、250℃における収縮応力が3.0MPa以下であることが好ましい。より好ましくは2.0MPa以下であり、さらに好ましくは1.5MPa以下であり、最も好ましくは1.0MPa以下である。上記特性を有することで、加工時の熱変形を抑制でき、他の部材と組合せ加工した際の残留応力が小さくなるため、熱寸法安定性が良好な特性を有する。3.0MPaを超えると加工時の収縮および残留応力が大きくなるため、熱寸法安定性が悪化する場合がある。収縮応力を上記範囲とするには後述する製膜条件の中でも熱固定温度とアニール条件を制御することでできる。
【0033】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、PAS系樹脂(I)を主成分とし、PAS系樹脂(I)とは異なる熱可塑性樹脂(II)を少なくとも1種以上含み、熱可塑性樹脂(II)は、下記化学式のうち少なくとも1種類の構造を含んでおり、より好ましくは少なくとも1種以上含み、化学式(A)、(B)、(C)及び(D)を含み、さらに好ましくは化学式(A)、(D)を含むことが好ましい。特に化学式(A)を含む場合に収縮応力の低減による高い熱寸法安定性、加工性、製膜性(特に延伸性)の向上、に寄与するため好ましく、これは、化学式(A)を含む熱可塑性樹脂(B)とPAS系樹脂が相互作用しているためと推定される。なお、熱可塑性樹脂(I)に下記化学式の構造が含まれない場合、十分な熱寸法安定性や加工性が得られなくなるだけでなく、PAS系樹脂と混錬した樹脂をフィルム化し延伸した際に熱可塑性樹脂Bとの界面で剥離が生じて、フィルムの破断を招く場合があるため好ましくない。
【0034】
【化4】
【0035】
(ただし、式中のR~Rはそれぞれ水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロメチル基、炭素数1~13の脂肪族基、炭素数6~10の芳香族基のいずれかである。)
なお、熱可塑性樹脂(B)としては、例えばポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン等の各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも一種類を含むブレンド物を用いることができる。耐熱性および電気絶縁性の観点から熱可塑性樹脂(B)として、より好ましくはポリフェニルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルイミドから選ばれる樹脂である。さらに好ましくはポリフェニルスルホンであることが好ましい。
【0036】
本発明において、PAS系樹脂(I)と熱可塑性樹脂(II)を混合する時期は特に限定されない。溶融押出し前に、PAS系樹脂(I)と熱可塑性樹脂(II)の混合物を予備溶融混練し、さらにペレタイズしてマスターペレット化する方法や、溶融押出時に混合して溶融混練させる方法がある。中でも、二軸押出機などの剪断応力のかかる装置を用いてマスターペレット化する方法などが好ましい。この場合、混練部ではPAS系樹脂(I)の融点に対して5℃以上、80℃以下の樹脂温度範囲となる様に混練することが好ましい。より好ましくはPAS系樹脂(I)の融点に対して10℃以上、80℃以下の範囲であり、さらに好ましくは15℃以上、70℃以下の温度範囲である。また、スクリュー回転数を100rpm以上1500rpm以下の範囲とすることが好ましい。樹脂温度やスクリュー回転数を好ましい範囲に設定することで、分散相の分散径をコントロールできる。また、二軸押し出し機の(スクリュー軸長さ/スクリュー軸径)の比率は20以上60以下の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30以上50以下の範囲である。
【0037】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、PAS系樹脂(I)に熱可塑性樹脂(II)が分散相として存在することが好ましい。ここでいう分散相とは、PAS系樹脂(I)と熱可塑性樹脂(II)とが構成する海島構造の島成分のことを指す。また、島成分ということは、熱可塑性樹脂(II)が円形、楕円形、紡錘形、不定形などの状態として本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム中に存在することである。本発明のフィルムの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察や走査電子顕微鏡(SEM)観察などによりその形態を確認することができる。
【0038】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムに含まれる熱可塑性樹脂(B)が、スルホニル基を有することが好ましい。スルホニル基を含まない場合、PAS系樹脂との親和性がなく、微結晶の形成を抑制することが出来ない場合がある。
【0039】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、PAS系樹脂(I)の含有量Wと、PAS系樹脂(I)とは異なる熱可塑性樹脂(II)の含有量WIIの合計を100重量部とした場合に、熱可塑性樹脂(II)の含有量WIIが、0.1重量部以上50重量部未満であることが好ましい。より好ましくは熱可塑性樹脂(II)の含有量WIIが、0.1重量部以上30重量部未満であり、さらに好ましくは熱可塑性樹脂(II)の含有量WIIが、0.1重量部以上15重量部未満である。熱可塑性樹脂(II)の含有量が50質量部以上の場合、延伸時に破れが多発して安定的に製膜できなくなる恐れがある。また、熱可塑性樹脂(II)の含有量WIIが0.1重量部よりも少ない場合、熱寸法安定性の低下を招く恐れがある。
【0040】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは、少なくとも一方の表面の中心面平均粗さ(SRa)が15nm以上300nm以下であることが好ましい。SRaとは3次元表面粗さのパラメーターで、表面粗さ曲線をサインカーブで近似した際の中心面における平均粗さを意味し、中心面平均粗さと定義する。中心面平均粗さは、JIS-B0601-1994に記載されている2次元粗さパラメーターの中心線平均粗さ(Ra)を3次元に拡張したもので、表面形状曲面と中心面で囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものである。中心面をXY面、縦方向をZ軸とし、測定された表面形状曲線をf(x、y)とする時、下記式(ii)によって定義される。ここで、LxはX方向測定長、LyはY方向測定長である。
【0041】
【数1】
【0042】
SRaを上記範囲とすることで、金属箔(例えば、銅)を直接およびまたは接着剤を介して重ね合わせ、回路化した際に、銅箔への凹凸転写を小さくすることができ伝送特性を向上することが出来る。SRaが15nm未満であると、フィルム製膜時の搬送工程においてすべり性が悪化し、表面に微細なキズができ回路化後の特性ムラが発生する場合がある。また300nmを超えると表面凹凸が大きく、伝送特性が悪化する場合がある。SRaは好ましくは30nm以上200nm以下であり、より好ましくは50nm以上150nm以下である。SRaはPAS系樹脂を他の熱可塑性樹脂と混練する場合は、PAS系樹脂の分子量を変更することで、分散径を制御することができ、分散径によって表面粗さを制御することが出来る。表面粗さは後述する表面粗さ計によって評価することができる。
【0043】
本発明における二軸配向フィルムとは、二軸延伸されたフィルムを指し、分子配向計にて測定される配向度パラメーター(Q)が3700以上であることにより判断することができる。配向度パラメーター(Q)はより好ましくは4200以上である。未延伸フィルや一軸延伸フィルムの場合、分子鎖の配向度が十分でなく微結晶を制御でき熱寸法安定性が悪化する場合や、熱による結晶化が促進し加工性が悪化する場合がある。なお、配向度パラメーター(Q)の値に上限は特に設けないが、破れなどなく安定的に製膜可能なフィルムとして5500以下が実質的な上限となる。
【0044】
発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを製造する方法についてポリアリーレンスルフィド系樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂(以下PPS樹脂と略紀する場合がある)を用い、他の熱可塑性樹脂としてポリフェニルスルホン樹脂を用いた場合のフィルムの製造方法を例にとって説明する。本発明は、この例に限定されない。
【0045】
まずPPS樹脂の製造について説明する。以下の説明は例示である。硫化ナトリウムとp-ジクロロベンゼンを配合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、m-ジクロロベンゼンやトリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として水酸化カリウムやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230~290℃で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、湿潤状態の粒状ポリマーを得る。
【0046】
この粒状ポリマーにアミド系極性溶媒を加えて30~100℃の温度で攪拌処理して洗浄し、イオン交換水にて30~80℃で数回洗浄し、酢酸カルシウムなどの金属塩水溶液で数回洗浄した後、乾燥してポリフェニレンスルフィドの粒状ポリマーを得る。この粒状ポリマーをベント付き押出機に投入してストランド状に溶融押出し、温度25℃の水で冷却した後、カッティングしてチップを作製しPPSチップとする。
【0047】
また、得られたPPS粒状ポリマーを上述した条件にてポリフェニルスルホン樹脂と予備溶融混練(ペレタイズ)してマスターチップを作製する
本発明のフィルムの製造においては、まず例えば180℃で3時間減圧乾燥したPPSチップを準備する。PPSとマスターバッチとを所定の割合で混合して、溶融部が300~350℃に設定されたフルフライトの単軸押出機に供給し、フィルターに通過させた後、続いてTダイ型口金から吐出させ、表面温度20~70℃の冷却ドラム上に静電荷を印加させながら密着させて急冷固化し、実質的に無配向状態の未延伸フィルムを得る。
【0048】
次いで、二軸延伸するには、上記で得られた未延伸フィルムを、ポリアリーレンスルフィド樹脂のガラス転移点(Tg)以上冷結晶化温度(Tcc)以下の範囲で、逐次二軸延伸機または同時二軸延伸機により二軸延伸した後、150~280℃の範囲の温度で1段もしくは多段熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。延伸方法としては、逐次二軸延伸法(長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行う方法などの一方向ずつの延伸を組み合わせた延伸法)、同時二軸延伸法(長手方向と幅方向を同時に延伸する方法)、又はそれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0049】
ここでは、最初に長手方向、次に幅方向の延伸を行う逐次二軸延伸法を例示する。
【0050】
未延伸フィルムを加熱ロール群で加熱し、長手方向(MD方向)に2.0~4.0倍、より好ましくは2.3~3.3倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg~Tcc、好ましくは(Tg+5)~(Tcc-10)℃の範囲である。その後20~50℃の冷却ロール群で冷却する。
【0051】
MD延伸に続く幅方向、すなわちTD方向の延伸方法としては、例えば、テンターを用いる方法が一般的である。このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、幅方向の延伸を行う。これをTD延伸という。延伸温度はTg~Tccの範囲が好ましく、より好ましくは(Tg+5)~(Tcc-10)℃の範囲である。延伸倍率はフィルムの平面性の観点から3.0~5.0倍、好ましくは3.0~4.5倍が好ましい。
【0052】
このとき、フィルムの延伸倍率についてTD倍率に対するMD倍率の比(延伸倍率比=MD倍率/TD倍率)は1.0以下が好ましく、0.9以下がより好ましく、0.80以下であることが熱寸法安定性を向上する点から好ましい。
【0053】
本発明においては、延伸後の熱固定を温度の異なる2段以上の工程で行い、段階的に行うことが好ましい。上記の熱固定処理を行うことで、熱処理によって結晶形成を制御でき、均一な結晶を作ることが可能となり、熱寸法安定性を良好にできるため好ましい。熱固定温度としては、前段熱固定温度Ths1(℃)が180℃~Tm、最終段の熱固定温度Ths2(℃)が230~Tm℃であることが好ましい。
【0054】
なお、本発明でいう「前段」とは、2段以上の工程で実施する熱固定処理工程の最終段を除いた工程のことを表す。例えば3段の工程からなる熱固定処理工程を有する場合、1段目と2段目が前段に該当し、3段目が最終段に該当する。
【0055】
前段の熱固定温度(Ths1)を上記範囲とすると、結晶化が促進されやすく、かつ配向緩和が進みにくい温度となるため、結晶構造の前駆体からサイズの小さい微結晶を均一に作製できるため好ましい。均一な微結晶を作製することによって、後述するアニール処理で効果的に結晶を融解することができ、緩和処理を促進できるため好ましい。具体的には、上述したように180~Tm℃であることが好ましく、より好ましくは200~Tm℃である。最終段の熱固定温度(以下、Ths2と略すことがある)をThs1と融解温度(Tm)の間の温度とすることで、前段でできた結晶核を基点に結晶成長させることができ均一な結晶を形成し収縮応力を低減できるため好ましい。
【0056】
熱固定温度(Ths1)は、230~280℃が好ましく、より好ましくは250~280℃である。本発明の熱固定処理を3段以上で実施するときは、熱固定温度は、上述したThs1、Ths2の好ましい温度範囲の中で、1段目、2段目、3段目と徐々に温度を上げることが好ましい。熱固定の時間は、前段の熱固定各段が1秒~1000秒間であることが好ましく、より好ましくは1秒~60秒、更に好ましくは1秒~30秒である。また、最終段の熱固定の時間は1秒~1000秒間であることが好ましく、より好ましくは1秒~60秒、更に好ましくは1秒~10秒である。また、熱固定全体の時間は2000秒を超えないことが好ましく、より好ましくは120秒、更に好ましくは30秒、特に好ましくは20秒を越えないようにする。本発明において、熱固定処理工程は2段以上の工程であることが好ましいが、熱固定全体の時間を考慮すると、2段以上3段以下であることがより好ましい。
【0057】
さらにこのフィルムを冷却工程に供する前に、延伸温度以上Ths2(℃)以下の温度で幅方向に弛緩処理することが好ましい。弛緩率とは処理前の幅を基準にして、処理後の幅との差に対する割合の値であり、例えば、弛緩率2%は、処理前が100mmの場合、2%の2mmを弛緩して処理後は98mmになることを示す。Rxhsは0~9%であることが好ましい。
【0058】
その後、好ましくは35℃以下、より好ましくは25℃以下の温度で冷却後、フィルムエッジを除去しコア上に巻き取る。
【0059】
さらに、巻き取られた二軸配向PPSフィルムは、好ましくは一定の温度条件下で張力をかけて搬送され、結晶をさらに均一化させる目的で熱寸法安定性を向上させるために、アニール処理を行うことが好ましい。アニール処理温度(以下、Taと略すことがある。)は、Ths1以上Ths2(℃)以下の温度であることが好ましく、230℃を超えて270℃以下がより好ましい態様である。270℃を超えると、熱固定処理により固定した構造までをも緩和させ、再結晶化が起こり加工性が悪化しやすい。230℃以下であると、アニール処理による分子構造の歪み除去が不完全となり高温域の熱収縮応力が残存してし、熱寸法安定性が悪化する場合がある。
【0060】
アニール処理時間は、1~300秒が好ましく、より好ましくは30~150秒である。また、アニール処理において、アニール処理後から巻き取り工程における温度を制御することが好ましい。アニール処理後の巻き取り温度は、Tg+20℃以下であることが好ましい。Tg+20℃を超えると、アニール時に加えられた熱が、巻き取り工程においても残存しており、巻き取り張力によって配向され微結晶が形成し熱寸法安定性に劣る場合がある。アニール処理後の巻き取り温度は好ましくはTg以下である。アニール処理後の巻き取り温度は、アニールオーブン内で段階的に温度差を設けることにより、出口部での温度を低減させる方法、アニールオーブン出口で冷却ロールに接触させる方法、アニールオーブン出口でエアーによる空冷方法があるが、いずれの方法を用いてもよく、その中でもアニールオーブン出口でエアーによる空冷方法が生産性の観点から好ましい。フィルムを速度1~100m/minで搬送しながらアニール処理し、本発明の二軸配向PPSフィルムを得ることができる。
【0061】
本発明においては、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムやそのフィルムロールに、必要に応じて、成形、表面処理、ラミネート、コーティング、印刷、エンボス加工およびエッチングなどの任意の加工を行ってもよい。
【0062】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムは熱寸法安定性、加工性、伝送特性に優れることから、自動車用、電気・電子材料の各種部品、耐熱テープ基材、印刷用トナー攪拌子用フィルム、離形用フィルム、とくに高周波回路基材として好適に用いることができる。
【0063】
[特性の測定方法]
(1)融点(Tm)、溶融開始温度(Tms)
フィルムを、JIS K-7121(1987)およびJIS K-7122(1987)に準じて、測定装置にはセイコー電子工業(株)製示差走査熱量測定装置“ロボットDSC-RDC220”を、データ解析にはディスクセッション“SSC/5200”を用いて、下記の要領にて測定した。
【0064】
サンプルパンにフィルムのサンプルを5mgずつ秤量し、昇温速度は20℃/minで樹脂を25℃から350℃まで20℃/分の昇温速度で加熱(1stRun)し、示差走査熱量チャートを得た。そのとき、観測される融解の吸熱ピークのピーク温度を測定する。
(a)融点(℃)
上述して得られた示差走査熱量チャートから、観測される融解の吸熱ピークの温度を測定する。ここで、2つ以上のピークが観察される場合は、もっとも高温側の吸熱ピークのピーク温度を融点とする。測定は1サンプルにつき3回実施し、得られた値の平均値をそのサンプルの融点(℃)とした。
(b)溶融開始温度(℃)
上述して得られた示差走査熱量チャートから、融点の吸熱ピークが終了する温度をTmendとしTmend+5℃とTmend+25℃を結ぶ直線をベースラインとし、低温側に延長する。そのベースラインと示差走査熱量チャートの交点を溶融開始温度とする。測定は1サンプルにつき3回実施し、得られた値の平均値をそのサンプルの溶融開始温度(℃)とした。
【0065】
(2)剛直非晶量(%)、結晶化度(%)
(A)可動非晶量(%)
TA Instruments社製温度変調DSC(Q1000)を用い、試料5mgを窒素雰囲気下、0から250℃まで2℃/minの昇温速度、温度変調降幅±1℃、温度変調周期60秒で測定した。測定によって得られたガラス転移温度(Tg)とTg 前後での比熱差(ΔCp)を求め、以下式より可動非晶量(Xma)を算出した。
可動非晶量:Xma(%)=ΔCp /ΔCp×100
ここで、ΔCpは完全非晶PPSのTg前後での比熱差をあらわし、ポリアリーレンスルフィドがPPSの場合のΔCp=0.2699J/g℃(Wunderlich B., Thermal Analysis of Polymeric Materials,Appendix 1 (The ATHAS Data Bank),Springer
(2005).)を用いる。
【0066】
(B)結晶化度(%)
フィルムの結晶化度は上述した1st RunのDSCチャートで確認される吸熱ピークを結晶化ピークとし、下記式を用いて結晶化度を算出する。
結晶化度(%)=(結晶融解に伴う吸熱ピーク熱量ΔHm-結晶生成に伴う発熱ピーク熱量ΔHc)/完全結晶ポリアリーレンスルフィドの融解熱量ΔHm×100
ここで、ポリアリーレンスルフィドがPPSの場合のΔHmの文献値=146.44J/g(Maemura E.,Cakmak M.,White J.L.,Polym.Eng.Sci,29,140(1989).)を用いる。
【0067】
(C)剛直非晶量(%)
剛直非晶量(Xrigid)は、測定によって得られた可動非晶量(Xma)、結晶化度(Xc)より、以下の式にて算出した。
剛直非晶量:Xrigid(%)=100 -(Xc+Xma)
(3)収縮の応力開始温度、収縮応力
熱機械測定装置TMA/SS6600(セイコーインスツル社製)を用いて、下記要領にて測定した。
フィルムを、測定する方向に20mm、測定方向と直交する方向に4mmとなるように短冊状に切り出し、引張定長条件にて室温から270℃まで昇温速度10℃/分で加熱したときに発生する収縮力を測定した。
【0068】
(a)収縮応力の開始温度
温度-収縮応力曲線から収縮応力が急激に増加し始める温度を収縮応力の開始温度とする。本発明では、温度-収縮応力曲線から、30℃から80℃の収縮応力をベースラインとし、ベースラインから収縮応力が増加に転じる温度を読み取り、その温度を収縮応力の開始温度とした。
【0069】
(b)収縮応力
上述した測定で得られた250℃での収縮応力を本発明の収縮応力とした。
【0070】
(4)表面粗さ
小坂研究所製Surfcorder ET30HKを用い、下記条件にてA層表面の平均中心線粗さ(SRa)を求めた。
【0071】
触針曲率半径 : 2μm
カットオフ : 0.25mm
測定長 : 0.5mm
測定間隔 : 5μm
測定回数 : 40回。
【0072】
(5)配向度(Q)
フィルムを5cm×5cmの正方形に切り出し、分子配向計(王子計測機器株式会社製、MOA-7015)を用いて測定し、配向度(Q)の最小値と最大値の平均値を値として採用した。
【0073】
(6)重量平均分子量
PPS樹脂およびPPSフィルムの分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC-7100
カラム名:センシュー科学 GPC3506
溶離液:1-クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
【0074】
(7)熱寸法安定性
(a)熱寸法安定性(I)
二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの両表面に回路基板用接着剤AW-32(共同薬品(株)製)を固化厚み2μmで塗布した後、12μmの銅箔(3EC-HTE、三井金属工業(株)製)を170℃に加熱された真空熱プレス装置で、圧力4MPaにて10分間プレスすることで両表面にラミネートし、銅箔/二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム/銅箔の構成の積層体を作製した。得られた積層体にマイクロストリップ構造にて、線路長100mm、特性インピーダンスが50Ωとなるように化学エッチング法により回路を形成した。該回路を、マイクロストリップラインが含まれるサイズとなる長さ110mm、幅5mmで切り出し、該サンプルを厚み2mmのガラエポ基板上に置き、到達温度250℃に設定されたリフロー炉で処理時間5分となるように処理を実施した。処理前後におけるサンプルの両端の浮き上がりを測定し、その平均値をカール量とし下記基準にて判定した。
カール量(mm)=(処理後のカール量(mm))‐(処理前のカール量(mm))
AA:カール量が5mm以下
A:カール量が10mm以下
B:カール量が10mmを超えて、20mm以下
C:20mmを超える
(b)熱寸法安定性(II)
上述した銅箔/二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム/銅箔の積層体の片面にライン幅200μm、線路長100mm、ライン数11本、スペース幅100μmとなるように回路を形成した。
その後、両面にニッカン工業製カバーレイフィルム(ニカフレックスCKSE、ベースフィルム厚み12.5μm)を用いて、160℃に加熱された真空プレス装置で、圧力4MPaにて90分プレスすることで回路積層体の両表面にライミネートし、両面にカバーレイフィルムを張り合わせた回路基板を作製した。
該回路基板を、厚み2mmのガラエポ基板上に置き、到達温度250℃に設定されたリフロー炉で1回の処理時間5分となるように設定し、リフロー処理を5回繰り返して処理を実施した。
処理後の回路基板を、ミクロトームを用いて断面切削し、スペース幅を10カ所の距離をマイクロスコープを用いて測定し、その平均値をスペース幅のずれとし下記基準にて判定した。
スペース幅のズレ(%)={(処理後のスペース幅平均値(μm))―(スペース幅設計値100μm)}/(スペース幅設計値100μm)×100
AA:スペース幅のずれが-5%以上5%以下
A:スペース幅のずれが-8%以上8%以下
B:スペース幅のずれが-10%以上10%以下
C:スペース幅のずれが-15%以上15%以下
D:スペース幅のずれが-15%未満、15%を超える。
【0075】
(8)加工性
上述した手法にて二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムの両面に銅箔を積層し、積層体を作製した。積層体の加工性をモデル的に評価するために、UV-YAGレーザー(ESI MODEL5335)を用いてレーザー波長355nmにて貫通孔を形成した。形成した貫通孔の中心を通るように積層体を切断し、電子顕微鏡を用いて観察を行い下記判定基準に従って判定した。
AA:バリ、銅箔界面剥離が無い。
A:バリが少しあるものの銅箔界面剥離が無い。
B:バリが多く発生するが、銅箔界面剥離が無い。
C:バリが発生し銅箔界面で剥離が発生する。
【0076】
(9)伝送特性
上述した手法により、マイクロストリップラインを形成し、評価用のサンプルとした。得られたサンプルを、温度23℃、湿度65%RH環境下で24時間放置した直後にネットワークアナライザー(Agilent Technology社製「8722ES」)とカスケードマイクロテック製プローブ(ACP40-250)を10~65GHzの伝送損失(dB/100mm)を測定した。60GHzの値から伝送損失の絶対値から、下記基準で評価した。
A:伝送損失の絶対値が15dB/100mm未満
B:伝送損失の絶対値が15dB/100mm以上20dB/100mm未満
C:伝送損失の絶対値が20dB/100mm以上
【実施例
【0077】
(参考例1)ポリフェニレンスルフィド系樹脂顆粒1(PPS顆粒1)の作製
工程撹拌機付きの1 リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム1.00モル、96% 水酸化ナトリウム1.03モル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.65モル、酢酸ナトリウム0.45モル、及びイオン交換水150gを仕込み、240rpm で撹拌しながら常圧で窒素を通じながら225℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水211gおよびNMP4gを留出したのち、反応容器を160℃ に冷却した。
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)1.00モル、NMP1.31モルを加えた。続いて反応容器を窒素ガス下に密封した。240rpmで撹拌しながら、200℃から235℃ まで0.6℃/分の速度で昇温して、235℃ 到達後、235℃で反応を95分間継続した。その後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温して100分保持した。
【0078】
270℃到達後水1モルを15分かけて系内に注入した。270℃で100分経過後、200℃まで1.0℃/分の速度で冷却し、その後室温近傍まで急速冷却した。内容物を取り出し、0.4リットルのNMPで希釈後、85℃で30分撹拌した後、溶剤と固形物を80meshのふるいで濾別した。後処理工程についで、得られた固形物に、0.5リットルのNMPを加えて85℃で30分撹拌し、濾別した。
【0079】
得られた固形物を0.9リットルの温水で3回洗浄、濾別した。更に、得られた粒子に1リットルの温水を加えて2回洗浄、濾別しポリマー粒子を得た。これを、80℃ で熱風乾燥した後、120℃で減圧乾燥した。その結果、融点が280℃、重量平均分子量70,000のポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂の顆粒(PPS顆粒1)を得た。
【0080】
(参考例2)ポリフェニレンスルフィド系樹脂顆粒2(PPS顆粒2)の作製
工程撹拌機付きの1 リットルオートクレーブに、47%水硫化ナトリウム1.00モル、96% 水酸化ナトリウム1.02モル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.65モル、酢酸ナトリウム0.33モル、及びイオン交換水150gを仕込み、240rpm で撹拌しながら常圧で窒素を通じながら235℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水211gおよびNMP2gを留出したのち、反応容器を160℃ に冷却した。
次に、p-ジクロロベンゼン(p-DCB)1.00モル、NMP1.30モルを加えた。続いて反応容器を窒素ガス下に密封した。400rpmで撹拌しながら、200℃から270℃ まで0.6℃/分の速度で昇温して、270℃ 到達後、270℃で反応を140分間継続した。その後、15分かけて270℃から250℃ まで冷却した。この段階で、仕込みスルフィド化剤のイオウ成分1モル当たりの系内水分量は1.1モルであった。次いで250℃ から220℃ まで平均冷却速度0.4℃ / 分で冷却した。220℃ に到達後、そのまま室温近傍まで急冷した。内容物を取り出し、0.4リットルのNMPで希釈後、85℃で30分撹拌した後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別した。後処理工程についで、得られた固形物に、0.5リットルのNMPを加えて85℃で30分撹拌し、濾別した。得られた固形物を0.9リットルの温水で3回洗浄、濾別した。更に、得られた粒子に1リットルの温水を加えて2回洗浄、濾別しポリマー粒子を得た。これを、80℃ で熱風乾燥した後、120℃で減圧乾燥し、融点が280℃、重量平均分子量50,000のポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂の顆粒(PPS顆粒2)を得た。
【0081】
(参考例3)フィルム用原料(PPS1)の作製
参考例1で作製したPPS顆粒1を、320℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数150回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてチップを作製し、フィルム用原料(PPS1)とした。
【0082】
(参考例4)フィルム用原料(PPS2)の作製
参考例2で作製したPPS顆粒2を、320℃に加熱されたベント付き同方向回転式二軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に投入し、滞留時間90秒、スクリュー回転数150回転/分で溶融押出してストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングしてチップを作製し、フィルム用原料(PPS2)とした。
【0083】
(参考例5)PPS顆粒1と熱可塑性樹脂のマスターペレット(MB1)の作製。
ニーディングパドル混練部を1箇所設けた同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機を320℃に加熱した、フィード口から参考例1で得たPPS顆粒1を80質量部、ポリフェニルスルホン(PPSU:ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、レーデル R5600-NT)を20質量部となるように供給し、スクリュー回転数250rpmで溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして、PPSUを20質量部含有するマスターペレットを作製した。
【0084】
(参考例6)PPS顆粒2と熱可塑性樹脂のマスターペレット(MB2)の作製。
ニーディングパドル混練部を1箇所設けた同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機を320℃に加熱し、フィード口から参考例2で得たPPS顆粒2を80質量部、ポリフェニルスルホン(PPSU:ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、レーデル R5600-NT)を20質量部となるように供給し、スクリュー回転数250rpmで溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして、PPSUを20質量部含有するマスターペレットを作製した。
【0085】
(参考例7)PPS顆粒1と熱可塑性樹脂のマスターペレット(MB3)の作製。
ニーディングパドル混練部を1箇所設けた同方向回転タイプのベント式二軸混練押出機を320℃に加熱し、フィード口から参考例1で得たPPS顆粒1を80質量部、ポリエーテルスルホン(PES:ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社、ベラデル 3600)を20質量部となるように供給し、スクリュー回転数250rpmで溶融混練後、ストランド状に吐出し、温度25℃の水で冷却した後、直ちにカッティングして、PESを20質量部含有するマスターペレットを作製した。
【0086】
(実施例1)
参考例3で得られたPPS1を75質量部と参考例5で得られたMB1を25質量部をドライブレンドした後に、180℃で3時間真空乾燥した。次いで、押出機に供給し、窒素雰囲気下、320℃の温度で溶融させ、Tダイ口金に導入した。次いで、Tダイ口金内より、シート状に押出して溶融単層シートとし、該溶融単層シートを、3.0m/minで回転している、表面温度25℃に保たれたキャストドラム上に静電印加法で密着冷却固化させながらキャストし、未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムを加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して延伸温度103℃でフィルムの長手方向に2.7倍の倍率で延伸した。その後、フィルムの両端部をクリップで担持して、テンターに導き延伸温度100℃でフィルムの幅方向に3.6倍の倍率で延伸した。引き続いて280℃で熱処理を行った後、2%弛緩処理を行い、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚み50μmのポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。次いで、得られたフィルムを、250℃に昇温されたオーブン内にフィルムを搬送しながら130秒間アニール処理を施し、オーブン出口‐巻取りロール間でエアーによる冷却を施し、巻き取り温度60℃にてフィルムを巻き取り、二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0087】
(実施例2)
参考例4で得られたPPS2と参考例6で得られたMB2を使用する以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0088】
(実施例3)
参考例7で得られたMB3を使用する以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0089】
(実施例4)
アニール処理後の冷却を行わず、巻き取り温度を表1に記載の温度で実施した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0090】
(実施例5~6)
アニール温度を表1に示した条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0091】
(実施例7)
熱固定温度を表1に示した条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0092】
(実施例8)
フィルム長手方向の延伸倍率を2.0倍、フィルム幅方向の延伸倍率を2.5倍にした以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0093】
(実施例9)
参考例1で得られたPPS1を100質量部用いてフィルム化した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
(実施例10)
アニール温度を表1に示した条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
(実施例11)
熱固定温度を表1に示した条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0094】
(比較例1)
アニール処理を施さなかった以外は、実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0095】
(比較例2)
キャストドラムの速度を30m/minとして、厚み50μmの未延伸フィルムを作製した。得られたフィルムを表1に示す条件で熱処理し、ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたサンプルは結晶性が高く、加工が出来ない結果であった。
【0096】
(比較例3)
アニール温度を表1に示した条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルムを得た。得られたフィルムの物性および特性を表1に示す。
【0097】
【表1A】
【0098】
【表1B】