(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】二軸延伸ポリアミドフィルム及び積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/34 20060101AFI20250121BHJP
B32B 9/02 20060101ALI20250121BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20250121BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B9/02
B32B7/022
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020562781
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032244
(87)【国際公開番号】W WO2021070500
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2023-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2019186064
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 考道
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 卓郎
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/117884(WO,A1)
【文献】特開2003-211605(JP,A)
【文献】特開平11-172022(JP,A)
【文献】特開昭57-051427(JP,A)
【文献】特開2009-119843(JP,A)
【文献】特開平8-47972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/02
B32B 7/022
B32B 27/34
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタキシリレンジアミン、若しくはメタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる混合キシリレンジアミンを主たるジアミン成分とし、炭素数6~12のα、ω-脂肪族ジカルボン酸成分を主たるジカルボン酸成分とするメタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)の少なくとも片面に、脂肪族ポリアミド樹脂を主体とする樹脂層(B層)を積層してなる二軸延伸ポリアミドフィルムであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする二軸延伸ポリアミドフィルム。
(1)前記メタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)がメタキシリレン基含有ポリアミド重合体を70質量%以上含む。
(2)前記脂肪族ポリアミド樹脂を主体とする樹脂層(B層)が、少なくともポリアミド6を99~60質量%、及びバイオマス由来の原料から重合されたポリアミドを1~34質量%を含
み、バイオマス由来の原料から重合された上記ポリアミドは、ポリアミド11、ポリアミド410、ポリアミド610、及びポリアミド1010からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミドである。
(3)A層の厚みが、A層及びB層の合計厚みの10%以上30%以下である。
【請求項2】
二軸延伸ポリアミドフィルム中の全炭素に対して、放射性炭素(C
14)測定によるバイオマス由来の炭素の含有量(バイオマス度)が0.5~30%であることを特徴とする請求項1に記載の二軸延伸ポリアミドフィルム
。
【請求項3】
フィルムの厚みが8~50μmであることを特徴とする請求項1
又は2に記載の二軸延伸ポリアミドフィルム。
【請求項4】
請求項1~
3いずれかに記載の二軸延伸ポリアミドフィルムにシーラントフィルムを積層した積層体。
【請求項5】
温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下、ゲルボフレックステスターを用いて1分間当たりに40サイクルの速度で連続して2000サイクルの屈曲テストを行った場合のピンホール数が10個以下であることを特徴とする請求項
4に記載の積層体。
【請求項6】
温度23℃、相対湿度65%の酸素透過率が150ml/m
2・MPa・day以下であることを特徴とす
る請求項
4又は
5に記載の積層体。
【請求項7】
請求項
4~
6いずれかに記載の積層体を用いた包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス(植物などの生物由来の有機物資源)由来の原料から重合された樹脂を含む二軸延伸ポリアミドフィルムであり、且つ酸素ガスバリア性、耐衝撃性及び耐屈曲疲労性に優れ、食品包装等の包装材料として使用したときに、内容物の変質防止や商品の輸送時における振動や衝撃から内容物を保護する効果があり、各種の包装用途に適した二軸延伸ポリアミドフィルム及びこれを用いた積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、キシリレンジアミンを構成成分とするポリアミド重合体からなるフィルムは、他の重合体成分からなるフィルムに比べ、酸素ガスバリア性や耐熱性に優れ、フィルム強度も強いという特性をもっている。
【0003】
一方、ポリアミド6やポリアミド66に代表される脂肪族ポリアミドからなる未延伸フィルムや延伸フィルムは、耐衝撃性や耐屈曲疲労性に優れており各種の包装材料として広く使用されている。
【0004】
上記従来のフィルムにおいて、前者のキシリレンジアミンを構成成分とするポリアミド重合体からなるフィルムは耐屈曲疲労性を必要とする包装材料に使用する場合において、真空包装等を行う加工工程や、商品の輸送時における屈曲疲労によるピンホールの発生が起こり易いという問題があった。商品の包装材料にピンホールが発生すると、内容物の漏れによる汚染、内容物の腐敗やカビの発生等の原因となり、商品価値の低下につながる。
【0005】
一方、後者の脂肪族ポリアミドからなるフィルムは、耐衝撃性や耐屈曲疲労性等のフィルム特性は優れているが、酸素ガスバリア性が劣るという問題点があった。
【0006】
さらに、これらの問題点を解決するために、キシリレンジアミンを構成成分とするポリアミド重合体と脂肪族ポリアミド等を別々の押出機で溶融押出して積層し二軸延伸する方法等が提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0007】
しかしながら、これらの特許文献に記載された技術も、良好な商品保存性と輸送時等の衝撃や屈曲に対する保護性を兼備する点において満足するレベルとは言えなかった。特許文献2の方法では、良好な酸素ガスバリア性と耐屈曲疲労性を満足するフィルムを得るためにはキシリレンジアミンを構成成分とするポリアミド重合体を多く使わなければならず、包装、流通コストの低減が求められる中では望ましい方法ではなかった。特許文献3には、キシリレンジアミンを主たる構成成分とするポリアミドからなるガスバリア性樹脂層の少なくとも片面に脂肪族ポリアミドと耐屈曲疲労性改良剤とからなる樹脂層を積層したフィルムによりガスバリア性と耐屈曲疲労性を満たすフィルムが開示されているが、ガスバリア性を満足するためにはガスバリア性樹脂層の比率を40%以上にしなければならないことが記載されている。本発明者らは特許文献3のフィルムを用いて厳しい条件下での耐屈曲疲労性を評価したが満足するものではなかった。特許文献4には、脂肪族ポリアミドと熱可塑性エラストマーからなる樹脂層の少なくとも片面に脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドとの混合ポリアミドからなる樹脂層を積層した破袋防止性と耐屈曲疲労性を両立するフィルムが開示されているが、この方法を用いても耐屈曲疲労性を有するガスバリア性フィルムを得ることは出来なかった。また、今日の食品流通の形態において特に重要度の高い、包装材料の輸送時における振動や衝撃、摩擦などに対する内容物の変質防止の点では、上記の公報に記載された方法においても懸念が残るものであった。
これらの課題に対して、例えば特許文献5では、メタキシリレンジアミン、若しくはメタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる混合キシリレンジアミンを主たるジアミン成分とし、炭素数6~12のα、ω-脂肪族ジカルボン酸成分を主たるジカルボン酸成分とするメタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)の少なくとも片面に、脂肪族ポリアミド樹脂を主体とする樹脂層(B層)を積層してなるポリアミド系積層二軸延伸フィルムが開示されている。かかる技術によれば、包装用フィルムとして必要なフィルム品質である酸素ガスバリア性、耐衝撃性及び耐屈曲疲労性に優れ、各種の包装材料として使用したときに、内容物の変質や変色を防ぎ、さらには、輸送時の振動や衝撃等による商品の破袋防止や内容物の品質の保護にも効果がある包装用途に適したポリアミド系積層二軸延伸フィルムが得られるというものである。
【0008】
ところで、近年、循環型社会の構築を求める声の高まりとともに、材料分野においてもエネルギーと同様に化石燃料からの脱却が望まれており、バイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であるので、それを利用することにより、再度二酸化炭素と水になった場合に、いわゆるカーボンニュートラルな(環境中での二酸化炭素の排出量と吸収量が同じであるので温室効果ガスである二酸化炭素の増加を抑制できる)材料である。昨今、これらバイオマスを原料としたバイオマスプラスチックの実用化が急速に進んでおり、汎用高分子材料であるポリエステルをこれらバイオマス原料から製造する試みも行われている。
【0009】
例えば、特許文献6では、ポリエステルフィルムの分野において、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを含んでなる樹脂組成物であって、ジオール成分単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、ジカルボン酸成分単位が化石燃料(石油など)由来のジカルボン酸であるポリエステルを、樹脂組成物全体に対して、50~95質量%含んでなることを特徴とする樹脂組成物及びフィルムが開示されている。
かかる技術によれば、従来の化石燃料から得られるエチレングリコールに代えて、バイオマス由来のエチレングリコールを用いて製造されたポリエステルであっても、従来の化石燃料由来のエチレングリコールを用いた場合と同等の機械的特性が得られるというものである。
【0010】
このような背景の中、先に述べたポリアミドフィルムにおいても、バイオマス由来の原料を用いたカーボンニュートラルは素材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平6-255054号公報
【文献】特開2003-11307号公報
【文献】特開2001-341253号公報
【文献】特開2006-205711号公報
【文献】特開2009-119843号公報
【文献】特開2012―097163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み創案されたものである。すなわち本発明は、上記従来のポリアミド系積層二軸延伸フィルムの有する問題点を解決し、包装用フィルムとして必要なフィルム品質である酸素ガスバリア性、耐衝撃性及び耐屈曲疲労性に優れ、各種の包装材料として使用したときに、内容物の変質や変色を防ぎ、さらには、輸送時の振動や衝撃等による商品の破袋防止や内容物の品質の保護にも効果がある包装用途に適しているだけでなく、バイオマス由来の原料を用いたカーボンニュートラルな二軸延伸ポリアミドフィルム及びこれを用いた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明は、以下の構成よりなる。
〔1〕メタキシリレンジアミン、若しくはメタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる混合キシリレンジアミンを主たるジアミン成分とし、炭素数6~12のα、ω-脂肪族ジカルボン酸成分を主たるジカルボン酸成分とするメタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)の少なくとも片面に、脂肪族ポリアミド樹脂を主体とする樹脂層(B層)を積層してなる二軸延伸ポリアミドフィルムであって、下記要件(1)~(3)を満たすことを特徴とする二軸延伸ポリアミドフィルム。
(1)前記メタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)がメタキシリレン基含有ポリアミド重合体を70質量%以上含む。
(2)前記脂肪族ポリアミド樹脂を主体とする樹脂層(B層)が、少なくともポリアミド6を99~60質量%、及びバイオマス由来の原料から重合されたポリアミドを1~34質量%を含む。
(3)A層の厚みが、A層及びB層の合計厚みの10%以上30%以下である。
〔2〕二軸延伸ポリアミドフィルム中の全炭素に対して、放射性炭素(C14)測定によるバイオマス由来の炭素の含有量(バイオマス度)が0.5~30%であることを特徴とする〔1〕に記載の二軸延伸ポリアミドフィルム。
〔3〕バイオマス由来の原料から重合されたポリアミド樹脂が、ポリアミド11、ポリアミド410、ポリアミド610、及びポリアミド1010からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミド樹脂であることを特徴とする〔1〕又は〔2〕に記載の二軸延伸ポリアミドフィルム。
〔4〕フィルムの厚みが8~50μmであることを特徴とする〔1〕~〔3〕いずれかに記載の二軸延伸ポリアミドフィルム。
〔5〕[1〕~[4〕いずれかに記載の二軸延伸ポリアミドフィルムにシーラントフィルムを積層した積層体。
〔6〕温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下、ゲルボフレックステスターを用いて1分間当たりに40サイクルの速度で連続して2000サイクルの屈曲テストを行った場合のピンホール数が10個以下であることを特徴とする〔5〕に記載の積層体。
〔7〕温度23℃、相対湿度65%の酸素透過率が150ml/m2・MPa・day以下であることを特徴とする〔5〕又は〔6〕に記載の積層体。
〔8〕〔5〕~〔7〕いずれかに記載の積層体を用いた包装袋。
【発明の効果】
【0014】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルム及びこれを用いた積層体は、特定のバイオマス由来ポリアミド樹脂をブレンドすること及び特定の製膜条件を採用することで、バイオマス由来の樹脂を用いたカーボンニュートラルなポリアミドフィルムが得られるだけでなく、優れた酸素ガスバリア性を有すると共に耐衝撃性及び耐屈曲疲労性が良好であり、食品包装等において内容物の変質や変色の防止に効果があり、さらに、輸送中における衝撃や振動による屈曲疲労から内容物を保護することができ、各種の包装材料として有効に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る二軸延伸ポリアミドフィルム及びそれを用いた積層体について詳細に説明する。
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、メタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)の少なくとも片面に、脂肪族ポリアミド樹脂を主体とする樹脂層(B層)を積層してなる二軸延伸ポリアミドフィルムである。
【0016】
<メタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)>
メタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂層(A層)は、メタキシリレンジアミン、若しくはメタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる混合キシリレンジアミンを主たるジアミン成分とし、炭素数6~12のα、ω-脂肪族ジカルボン酸成分を主たるジカルボン酸成分とするメタキシリレン基含有ポリアミド重合体を70質量%以上含む。好ましくは、90質量%以上、更に好ましくは99質量%以上含む。
【0017】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムのA層に用いる、メタキシリレンジアミン、若しくはメタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンからなる混合キシリレンジアミンを主たるジアミン成分とし、炭素数6~12のα、ω-脂肪族ジカルボン酸を主たるジカルボン酸成分とするメタキシリレン基含有ポリアミド重合体において、パラキシリレンジアミンは全キシリレンジアミン中30モル%以下が好ましい。また、キシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから構成された構成単位は分子鎖中において少なくとも70モル%以上が好ましい。
【0018】
本発明におけるA層に用いるメタキシリレン基含有ポリアミド重合体の例としては、例えばポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6と略す場合がある)、ポリメタキシリレンピメラミド、ポリメタキシリレンスベラミド、ポリメタキシリレンアゼラミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンドデカンジアミド等のような単独重合体、及びメタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンピメラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンスベラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンセバカミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンドデカンジアミド共重合体等のような共重合体、ならびにこれらの単独重合体又は共重合体の成分に一部ヘキサメチレンジアミンの如き脂肪族ジアミン、ピペラジンの如き脂環式ジアミン、パラ-ビス-(2-アミノエチル)ベンゼンの如き芳香族ジアミン、テレフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、ε-カプロラクタムの如きラクタム、アミノヘプタン酸の如きω-アミノカルボン酸、パラ-アミノメチル安息香酸の如き芳香族アミノカルボン酸等を共重合した共重合体等が挙げられる。
【0019】
<脂肪族ポリアミド樹脂を主体とする樹脂層(B層)>
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムのB層に用いる脂肪族ポリアミド樹脂は、少なくともポリアミド6が99~60質量%、バイオマス由来の原料から重合されたポリアミドが1~34質量%を含む。
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムのB層に含まれるポリアミド6が60質量%より少ないと衝撃強度などの機械的強度が低くなる場合がある。一方、バイオマス由来の原料から重合されたポリアミドが1質量%より少ないと、二軸延伸ポリアミドフィルムに含まれるバイオマス由来の原料が少ないので、カーボンニュートラルな素材への要求を満足しない。バイオマス由来の原料から重合されたポリアミドが34質量%より多く含む場合は衝撃強度が弱くなる場合やフィルムの均質性が悪くなる場合がある。
【0020】
本発明におけるB層に用いるポリアミド6としては、ε-カプロラクタムをラクタム単位とするポリアミド樹脂であり、一般にε-カプロラクタムの開環重合やアミノカプロン酸の重縮合によって重合された後に熱水抽出などで残存するモノマーや低分子量物を除いたものが用いられる。一般に化石燃料由来の原料のεーカプロラクタムから重合される。
【0021】
ポリアミド6の相対粘度は、2.0~3.5が好ましい。ポリアミド系樹脂の相対粘度は、得られる二軸延伸フィルムの強靭性や延展性等に影響を及ぼし、相対粘度が2.0未満のものでは衝撃強度が不足気味になり、反対に、相対粘度が3.5を超えるものでは、延伸応力の増大によって逐次二軸延伸性が悪くなる傾向があるからである。なお、本発明における相対粘度とは、ポリマー0.5gを97.5%硫酸50mlに溶解した溶液を用いて25℃で測定した場合の値をいう。
【0022】
本発明におけるB層に用いるバイオマス由来の原料から重合されたポリアミドとしては、ポリアミド11、ポリアミド610、ポリアミド1010及びポリアミド410が入手性の点で好ましい。
【0023】
上記ポリアミド11は、炭素原子数11である単量体がアミド結合を介して結合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、ポリアミド11は、アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムを単量体として用いて得られる。とりわけアミノウンデカン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、環境保護の観点(特にカーボンニュートラルの観点)から望ましい。これらの炭素原子数が11である単量体に由来する構成単位は、ポリアミド11内において全構成炭素の50%以上であることが好ましい。
【0024】
上記ポリアミド11としては通常、前述したウンデカンラクタムの開環重合によって製造される。開環重合で得られたポリアミド11は、通常、熱水でラクタムモノマーを除去した後、乾燥してから押出し機で溶融押出しされる。
【0025】
上記ポリアミド610は、炭素原子数6である単量体と、炭素原子数10である単量体と、がアミド結合を介して結合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、ポリアミド610はジアミンとジカルボン酸との共重合により得られ、各々ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸が利用される。このうちセバシン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、環境保護の観点(特にカーボンニュートラルの観点)から望ましい。これらの炭素原子数6である単量体に由来する構成単位と、炭素原子数10である単量体に由来する構成単位とは、ポリアミド610内においてその合計が、全構成単位のうちの50%以上であることが好ましい。
【0026】
上記ポリアミド1010は、炭素原子数10であるジアミンと、炭素原子数10であるジカルボン酸と、が共重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、ポリアミド1010には、1,10-デカンジアミン(デカメチレンジアミン)とセバシン酸とが利用される。デカメチレンジアミン及びセバシン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、環境保護の観点(特にカーボンニュートラルの観点)から望ましい。これらの炭素原子数10であるジアミンに由来する構成単位と、炭素原子数10であるジカルボン酸に由来する構成単位とは、ポリアミド1010内においてその合計が、全構成単位のうちの50%以上であることが好ましい。
【0027】
上記ポリアミド410は、炭素数4である単量体と炭素原子数10であるジアミンとが共重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常ポリアミド410には、セバシン酸とテトラメチレンジアミンとが利用される。セバシン酸としては、環境面から植物油由来のヒマシ油を原料とするものが好ましい。ここで用いるセバシン酸としては、ヒマシ油から得られるものが環境保護の観点(特にカーボンニュートラルの観点)から望ましい。
【0028】
バイオマス由来の原料から重合されたポリアミドの相対粘度は、1.8~4.5であることが好ましく、より好ましくは、2.4~3.2である。相対粘度が1.8より小さい場合は、フィルムの衝撃強度が不足する傾向がある。4.5より大きい場合は、押出機の負荷が大きくなる傾向がある。また、この範囲であれば、押出し機でポリアミド6樹脂と混練し易い。
【0029】
B層には必要に応じてその他のポリアミド樹脂を適宜添加してもよい。
その他のポリアミド樹脂としては、3員環以上のラクタム、ω-アミノ酸、二塩基酸とジアミン等の重縮合によって得られるポリアミド樹脂を挙げることができる。具体的には、ラクタム類としては、先に示したε-カプロラクタムの他に、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウリルラクタム、ω-アミノ酸類としては、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸を挙げることができる。また、二塩基酸類としては、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカジオン酸、ヘキサデカジオン酸、エイコサンジオン酸、エイコサジエンジオン酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸を挙げることができる。さらに、ジアミン類としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、2,2,4(または2,4,4)-トリメチルヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4,4’-アミノシクロヘキシル)メタン等を挙げることができる。
【0030】
また、少量の芳香族ジカルボン酸、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、キシリレンジカルボン酸等、または、少量の芳香族ジアミン、例えば、メタキシリレンジアミン等を含むことができる。そして、これらを重縮合して得られる重合体またはこれらの共重合体、例えばポリアミド6、ポリアミド7、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミドMXD6(ポリメタキシリレンアジパミド)、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12、ポリアミド6/6T、ポリアミド6/6I、ポリアミド6/MXD6等を用いることができる。
なお、上記のその他のポリアミド樹脂の相対粘度は、1.8~4.5が好ましい。この範囲であれば、押出し機でポリアミド6樹脂やバイオマス由来の原料から重合されたポリアミド樹脂と混練し易い。
【0031】
また、スキン層を形成する脂肪族ポリアミド樹脂を主体とするB層には、必要に応じて熱可塑性エラストマーを添加することができる。脂肪族ポリアミド樹脂中に添加する熱可塑性エラストマーの量の下限は0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であるとより好ましく、2.0質量%以上であると特に好ましい。上限は、8.0質量%以下であると好ましく、7.0質量%以下であるとより好ましく、6.0質量%以下であると特に好ましい。熱可塑性エラストマーの添加量が0.5質量%を下回ると、耐屈曲疲労性の改善効果が得られなくなる場合がある。反対に、熱可塑性エラストマーの添加量が8.0質量%を超えると、高い透明性(ヘイズ)を要求される食品等の包装用途に適さない場合がある。さらに、スキン層を形成する樹脂中には、必要に応じて、熱可塑性エラストマー、脂肪族ポリアミド樹脂、以外の樹脂を充填することも可能であるし、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃性改良剤等を充填することも可能である。
【0032】
上記熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリアミド6やポリアミド12等のポリアミド樹脂とPTMG(ポリテトラメチレングリコール)やPEG(ポリエチレングリコール)等とのブロックあるいはランダム共重合体等のポリアミド系エラストマー、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレンとブテンとの共重合体、スチレンやブタジエンとの共重合体等のポリオレフィン系エラストマー、エチレン系アイオノマー等のオレフィン系樹脂のアイオノマー等を好適に用いることができる。
【0033】
一方、コア層を形成するメタキシリレン含有ポリアミド重合体を主体とするA層には、必要に応じてポリアミド系樹脂や熱可塑性エラストマー等の他の樹脂を混合することができるが、コア層を形成する樹脂中にメタキシリレン含有ポリアミド重合体以外の樹脂を混合する場合には、メタキシリレン含有ポリアミド重合体の含有比率を99質量%以上、好ましくは100質量%とし、他の樹脂の含有比率を1質量%未満とすることが良好なガスバリア性を得るために必要である。特に、熱可塑性エラストマーを混合する場合には、その含有比率を1質量%未満とすることが必要である。そのように、硬質なメタキシリレン含有ポリアミド重合体を主成分とするコア層の外側に、相対的に軟質な脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とするスキン層を設けるとともに、スキン層に熱可塑性エラストマーを充填することにより、メタキシリレン含有ポリアミド重合体による良好なガスバリア性を発現させるのと同時に、熱可塑性エラストマー及びポリアミド系樹脂による良好な耐屈曲疲労性改善効果を発現させることが可能となる。
【0034】
A層を形成する樹脂中には、必要に応じて、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃性改良剤等を充填することも可能である。
【0035】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの層構成は、A/B(二種二層)、B/A/B(二種三層)、又はB1/A/B2(三種三層、脂肪族ポリアミド樹脂を主体としたB1層とB2層が異なる樹脂層の場合)の構成が好ましい。カールの点から、対称層構成であるB/A/B構成が特に好ましい。
なお、以下の説明においてメタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主体とする樹脂からなるA層(すなわち、B/A/B、またはB1/A/B2の層構成の場合におけるA層)及び、二種二層構成である場合のA層をコア層ともいう。また、脂肪族ポリアミド樹脂を主体とするB層(すなわち、B/A/BまたはB1/A/B2の層構成の場合におけるB1層、B2層)及び、二種二層構成である場合のB層をスキン層ともいう。
【0036】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの各層の厚み比率は、A層の厚み比率の下限を10%以上とすることが好ましく、さらに好ましくは15%以上、特に好ましくは18%以上である。A層の厚み比率の上限は30%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは25%以下、特に好ましくは23%以下である。B層、またはB1層及びB2層の厚み比率の下限は70%以上であることが好ましく、さらに好ましくは75%以上であり、特に好ましくは77%以上である。B層、またはB1層及びB2層の厚み比率の上限は90%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは85%以下、特に好ましくは82%以下である。二種三層のB/A/B構成の場合は、表層のB層の厚み比率は、両表層の厚み比率の和を意味し、三種三層のB1/A/B2構成の場合は、表層のB1層及びB2層の厚み比率は、両表層の厚み比率の和を意味する。A層の厚み比率が30%を超えると、耐屈曲疲労性が悪化しピンホールが増加する傾向があるので好ましくない。一方、A層の厚み比率が10%に満たないと、ガスバリア性が悪化する傾向があり好ましくない。
【0037】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、厚さ40μmのポリエチレンフィルムとラミネートしたラミネートフィルムを、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下において、以下の方法で、ゲルボフレックステスターを用いて、1分間あたりに40サイクルの速度で連続して2000サイクルの屈曲テストを行った場合のピンホール数が10個以下であることが好ましい。もちろん最も好ましくは0個である。
【0038】
上記ピンホール数の測定方法の概略は以下の通りである。ポリオレフィンフィルム等とラミネートして所定の大きさ(20.3cm×27.9cm)に切断したフィルムを、所定の温度下で所定の時間に亘ってコンディショニングした後、その長方形テストフィルムを巻架して所定の長さの円筒状にする。そして、その円筒状フィルムの両端を、それぞれ、ゲルボフレックステスターの円盤状固定ヘッドの外周及び円盤状可動ヘッドの外周に固定し、可動ヘッドを固定ヘッドの方向に、平行に対向した両ヘッドの軸に沿って所定長さ(7.6cm)だけ接近させる間に所定角度(440゜)回転させ、続いて回転させることなく所定長さ(6.4cm)直進させた後、それらの動作を逆向きに実行させて可動ヘッドを最初の位置に戻すという1サイクルの屈曲テストを、所定の速度(1分間あたり40サイクル)の速度で、所定サイクル(2000サイクル)だけ連続して繰り返す。しかる後に、テストしたフィルムの固定ヘッド及び可動ヘッドの外周に固定した部分を除く所定範囲(497cm2)の部分に生じたピンホール数を計測する。
【0039】
ピンホール数が上記の範囲にあることによって、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、これを用いたガスバリア性包装材料を輸送する際の振動や衝撃等による、破袋や微小な穴あきによる内容物の漏出や品質の劣化を防ぐ効果を有効に発現することができる。ピンホール数が8個以下であればより好ましく、ピンホール数が6個以下ならば特に好ましい。
【0040】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを用いた積層体のピンホール数を10個以下にするための手段としては、前述のとおり、メタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主成分とする樹脂層(A層)を極力薄くするとともに、脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とする樹脂層(B層)中に熱可塑性エラストマーを適宜含有させることで達成することができる。
【0041】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを用いた積層体は、温度23℃、相対湿度65%の酸素透過率が150ml/m2・MPa・day以下であることが好ましい。
酸素透過率が上記の範囲にあることによって、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを用いたガスバリア性包装材料を長期間保存した際の内容物の品質の劣化を防ぐ効果を有効に発現することができる。酸素透過率が130ml/m2・MPa・day以下であればより好ましく、110ml/m2・MPa・day以下であれば特に好ましい。なお、本発明の積層体の酸素透過率の下限は、メタキシリレン基含有ポリアミド重合体自体のガスバリア性の限界から、実質的には60ml/m2・MPa・day程度である。
【0042】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを用いた積層体の酸素透過率を150ml/m2・MPa・day以下にするための手段としては、前述のとおり、メタキシリレン基含有ポリアミド重合体を主成分とする樹脂層(A層)中のメタキシリレン基含有ポリアミド重合体の割合を極力大きくするとともに、A層の厚みの比率をフィルム全厚みの10~30%の範囲で適宜調整することにより達成することができる。
【0043】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、常温や低温環境下における弾性回復力が優れ、耐衝撃性や耐屈曲疲労性が優れた特性を示すと共に、印刷やラミネート等の加工適性も良好であり、各種の包装材料として好適な二軸延伸フィルムである。
【0044】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムの厚みは特に制限されるものではないが、包装材料として使用する場合、一般には8~50μmの厚みのものが好ましく、10~30μmのものがさらに好ましい。
【0045】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルム中の全炭素に対するバイオマス由来の炭素の含有量(バイオマス度)は、0.5~30%であることが好ましい。なお、全炭素に対するバイオマス由来の炭素の含有量は、実施例で示した放射性炭素(C14)測定によるものである。バイオマス度が0.5%より小さい場合は、カーボンニュートラルな素材への要求を満足しない。一方、バイオマス度を30%より大きくすると、B層の主成分のポリアミド6の含有量が少なくなるため、二軸延伸ポリアミドフィルムの衝撃強度が弱くなる場合やフィルムの均質性が悪くなる場合がある。
【0046】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは以下のような製造方法により製造することができる。例えば、各層を構成する重合体を別々の押出機を用いて溶融し、1つのダイスから共押出しにより製造する方法、各層を構成する重合体を別々にフィルム状に溶融押出ししてからラミネート法により積層する方法、及びこれらを組み合わせた方法などの方法をとることができ、各層を構成する重合体を別々の押出機を用いて溶融し、1つのダイスから共押出しにより製造する方法が好ましい。延伸方法としては、フラット式逐次二軸延伸方法、フラット式同時二軸延伸方法、チューブラー法などの方法を用いて製造することができ、フラット式逐次二軸延伸方法が好ましい。ここでは、溶融共押出法、及びフラット式逐次二軸延伸法によるフィルムの製造を例に説明する。
【0047】
共押出法により2台の押出機から原料樹脂を溶融押出しし、フィードブロックにより合流、Tダイから膜状に押出し、冷却ロール上に供給して冷却し、B層/A層/B層の2種3層積層構成の未延伸フィルムを得る。その際、各押出機での樹脂溶融温度は各層を構成する樹脂の融点+10℃~50℃の範囲で任意に選択する。膜厚の均一性や樹脂の劣化防止の点から、メタキシリレン基含有ポリアミド重合体からなるA層の場合は245~290℃、好ましくは、255~280℃の範囲、脂肪族ポリアミド樹脂からなるB層の場合は230~280℃、好ましくは250℃~270℃の範囲が好ましい。得られた未延伸シートをロール式縦延伸機に導いて、ロール間速度差を用いて65~100℃の範囲、好ましくは80~90℃の範囲の温度で縦方向に2.0~5.0倍、好ましくは3.0~4.0倍に延伸し、次いで、テンター式横延伸機に導入し、80~140℃の範囲、好ましくは100~130℃の範囲の温度で3.0~6.0倍、好ましくは3.5~4.0倍に横延伸したのち、180~230℃、好ましくは200~220℃の範囲で熱固定、及び0~8%の範囲、好ましくは2~9%の範囲で弛緩処理を施し、二軸延伸ポリアミドフィルムを得る。
【0048】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムには、特性を阻害しない範囲内で、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃性改良剤等の各種の添加剤を含有させることも可能である。特に、二軸延伸フィルムの滑り性を良好にする目的で、各種の無機粒子を含有させることが好ましい。また、表面エネルギーを下げる効果を発揮するエチレンビスステアリン酸等の有機滑剤を添加すると、フィルムロールを構成するフィルムの滑り性が優れたものになるので好ましい。
【0049】
さらに、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、用途に応じて寸法安定性を良くするために熱処理や調湿処理を施すことも可能である。加えて、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したり、印刷加工、金属物や無機酸化物等の蒸着加工を施したりすることも可能である。なお蒸着加工にて形成される蒸着膜としては、アルミニウムの蒸着膜、ケイ素酸化物やアルミニウム酸化物の単一物もしくは混合物の蒸着膜が好適に用いられる。さらにこれらの蒸着膜上に保護層などをコーティングすることにより、酸素や水素バリア性などを向上させることができる。
【0050】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、シーラントフィルムなどを積層した積層体にしてから包装袋に加工される。
シーラントフィルムとしては、未延伸線状低密度ポリエチレンフィルム、未延伸ポリプロピレンフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂フィルムなどが挙げられる。
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを使用した積層体の層構成としては、本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを積層体中に有するものであれば特に限定されない。また、積層体に使用するフィルムは、化石燃料由来原料でもバイオマス由来原料でも良いが、バイオマス由来原料を用いて重合されたポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレン、ポリエチレンフラノエートなどの方が環境負荷の低減という点で好ましい。
【0051】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムを使用した積層体の層構成の例としては、/で層の境界を表わすと、例えば、ONY/接/LLDPE、ONY/接/CPP、ONY/接/Al/接/CPP、ONY/接/Al/接/LLDPE、ONY/PE/Al/接/LLDPE、ONY/接/Al/PE/LLDPE、PET/接/ONY/接/LLDPE、PET/接/ONY/PE/LLDPE、PET/接/ONY/接/Al/接/LLDPE、PET/接/Al/接/ONY/接/LLDPE、PET/接/Al/接/ONY/PE/LLDPE、PET/PE/Al/PE/ONY/PE/LLDPE、PET/接/ONY/接/CPP、PET/接/ONY/接/Al/接/CPP、PET/接/Al/接/ONY/接/CPP、ONY/接/PET/接/LLDPE、ONY/接/PET/PE/LLDPE、ONY/接/PET/接/CPP、ONY//Al//PET//LLDPE、ONY/接/Al/接/PET/PE/LLDPE、ONY/PE/LLDPE、ONY/PE/CPP、ONY/PE/Al/PE、ONY/PE/Al/PE/LLDPE、OPP/接/ONY/接/LLDPE、ONY/接/EVOH/接/LLDPE、ONY/接/EVOH/接/CPP、ONY/接/アルミ蒸着PET/接/LLDPE、ONY/接/アルミ蒸着PET/接/ONY/接/LLDPE、ONY/接/アルミ蒸着PET/PE/LLDPE、ONY/PE/アルミ蒸着PET/PE/LLDPE、ONY/接/アルミ蒸着PET/接/CPP、PET/接/アルミ蒸着PET/接/ONY/接/LLDPE、CPP/接/ONY/接/LLDPE、ONY/接/アルミ蒸着LLDPE、ONY/接/アルミ蒸着CPPなどが挙げられる。
なお上記層構成に用いた各略称は以下の通りである。
ONY:本発明の二軸延伸ポリアミドフィルム、PET:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、LLDPE:未延伸線状低密度ポリエチレンフィルム、CPP:未延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:延伸ポリプロピレンフィルム、PE:押出しラミネート又は未延伸の低密度ポリエチレンフィルム、Al:アルミニウム箔、EVOH:エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、接:フィルム同士を接着させる接着剤層、アルミ蒸着はアルミニウムが蒸着されていることを表わす。
【実施例】
【0052】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、フィルムの評価は次の測定法によって行った。
【0053】
(1)フィルムのヘイズ値
(株)東洋精機製作所社製の直読ヘイズメーターを使用し、JIS-K-7105に準拠し、フィルムのヘイズ値を測定した。
【0054】
(2)フィルムの厚み
フィルムのTD方向に10等分して(幅が狭いフィルムについては厚みを測定できる幅が確保できる幅になるよう当分する)、MD方向に100mmのフィルムを10枚重ねで切り出し、温度23℃、相対湿度65%の環境下で2時間以上コンディショニングする。テスター産業製厚み測定器で、それぞれのサンプルの中央の厚み測定し、その平均値を厚みとした。
【0055】
(3)フィルムのバイオマス度
得られたフィルムのバイオマス度は、ASTM D6866-16 Method B(AMS)に示された放射性炭素(C14)測定により行った。
【0056】
(4)フィルムの熱収縮率
試験温度160℃、加熱時間10分間とした以外は、JIS C2318に記載の寸法変化試験法に準じて、MD方向及びTD方向について下記式によってフィルムの熱収縮率を測定した。
熱収縮率=[(処理前の長さ-処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(%)
【0057】
(5)フィルムの衝撃強度
(株)東洋精機製作所製のフィルムインパクトテスターを使用し測定した。測定値は、厚み15μm当たりに換算してJ(ジュール)/15μmで表した。
【0058】
(6)フィルムの動摩擦係数
JIS-C2151に準拠し、下記条件によりフィルム巻外面同士の動摩擦係数を評価した。なお、試験片の大きさは、幅130mm、長さ250mm、試験速度は150mm/分で行った。
【0059】
(7)酸素透過率(ガスバリア性)
<ラミネートフィルムの作製>
実施例で作製したフィルムにポリエステル系二液型接着剤(東洋モートン社製、TM590/CAT56=13/2(質量部))を塗布量3g/m2で塗布後、線状低密度ポリエチレンフィルム(L-LDPEフィルム:東洋紡績社製、L6102)40μmをドライラミネートし、40℃の環境下で3日間エージングを行いラミネートフィルムとした。
上記で得られたラミネートフィルムを、湿度65%RH、気温25℃の雰囲気下で、2日間に亘って酸素置換させた後に、JIS-K-7126(B法)に準拠して、酸素透過度測定装置(OX-TRAN 2/20:MOCON社製)を用いて測定した。なお、酸素透過度の測定は、ポリアミドフィルム層側から線状低密度ポリエチレンフィルム層側に酸素が透過する方向で行った。
【0060】
(8)ラミネート強度
耐屈曲ピンホール性評価の説明に記載した方法と同様にして作製したラミネートフィルムを幅15mm×長さ200mmの短冊状に切断し、ラミネートフィルムの一端を二軸延伸ポリアミドフィルムと線状低密度ポリエチレンフィルムとの界面で剥離し、(株式会社島津製作所製、オートグラフ)を用い、温度23℃、相対湿度50%、引張り速度200mm/分、剥離角度90°の条件下でラミネート強度をMD方向とTD方向にそれぞれ3回測定しその平均値で評価した。
【0061】
(9)耐ピンホール性
上記で得られたラミネートフィルムを、20.3cm×27.9cmの大きさに切断し、その切断後の長方形テストフイルム(ラミネートフィルム)を、温度23℃の相対湿度50%の条件下に、24時間以上放置してコンディショニングした。しかる後、その長方形テストフィルムを巻架して長さ20.32cmの円筒状にする。そして、その円筒状フィルムの一端を、ゲルボフレックステスター(理学工業社製、NO.901型)(MIL-B-131Cの規格に準拠)の円盤状固定ヘッドの外周に固定し、円筒状フィルムの他端を、固定ヘッドと17.8cm隔てて対向したテスターの円盤状可動ヘッドの外周に固定した。そして、可動ヘッドを固定ヘッドの方向に、平行に対向した両ヘッドの軸に沿って7.6cm接近させる間に440゜回転させ、続いて回転させることなく6.4cm直進させた後、それらの動作を逆向きに実行させて可動ヘッドを最初の位置に戻すという1サイクルの屈曲テストを、1分間あたり40サイクルの速度で、連続して2000サイクル繰り返した。しかる後に、円筒状テストサンプルをヘッドから取り外し、貼り合わせ部分を切り開いた長方形のフィルムの固定ヘッド及び可動ヘッドの外周に固定した部分を除く17.8cm×27.9cm内の部分に生じたピンホール数を以下の方法で計測した(すなわち、497cm2当たりのピンホール数を計測した)。テストフィルムのL-LDPEフィルム側を下面にしてろ紙(アドバンテック、No.50)の上に置き、4隅をセロテープ(登録商標)で固定した。インク(パイロット製インキ(品番INK-350-ブルー)を純水で5倍希釈したもの)をテストフィルム上に塗布し、ゴムローラーを用いて一面に延展させた。不要なインクをふき取った後、テストフィルムを取り除き、ろ紙に付いたインクの点の数を計測した。
【0062】
(10)保存安定性試験
<包装袋の作製>
上記で得られたラミネートフィルムを用いて、線状低密度ポリエチレンフィルム側を内側に重ね合わせて内寸が横15cm、縦19cmの三方シール袋を作製した。
<呈色液の作製>
水2000質量部に対し、寒天7質量部、メチレンブルー0.04質量部を加え、95℃の温湯中で溶かした。さらに、窒素雰囲気下でハイドロサルファイト(Na2S2O4)1.2質量部を加えて混ぜ、無色の溶液とした。
・窒素雰囲気下で、上記(a)で作製した三方シール袋内に250mlの上記(b)で作製した呈色液を入れ、袋内の気体を抜きながら袋の上部をシールして、内寸が横15cm、縦15cmの袋とした。
【0063】
・得られた袋を室温で3時間放置し、寒天を固めたのち、40℃、湿度90%の条件下に保存し、2週間後の袋の中のメチレンブルー寒天溶液の呈色状態を観察した。評価方法は下記の通りで、○以上ならば実用上問題なしとした。
◎:変色なし
○:非常に僅かに青く変色
△:若干青く変色
×:青く変色
【0064】
(11)振動耐久性試験
上記(a)~(d)で作製したメチレンブルー呈色液入り包装袋を用いて、以下の方法で振とう試験を行った。試験に供する包装袋を1つのダンボール箱につき20個入れ、振とう試験装置に設置し、23℃で水平方向に行程幅5cm、振とう回数120回/分の条件で24時間振とうした。ついで、40℃、湿度90%の条件下に保存し、3日後の袋の中のメチレンブルー寒天溶液の呈色状態を観察した。評価方法は下記の通りで、○以上ならば実用上問題なしとした。
◎:変色なし
○:非常に僅かに青く変色
△:若干青く変色
×:青く変色
【0065】
(12)ポリアミド樹脂の相対粘度(RV)
試料0.25gを96%硫酸25mlに溶解し、この溶液10mlを用い、オストワルド粘度管にて20℃で落下秒数を測定し、下記式より相対粘度を算出した。
RV=t/t0
ただし、t0:溶媒の落下秒数、t:試料溶液の落下秒数。
【0066】
[実施例1]
2種3層の共押出しTダイ設備を使用し、次のような構成の未延伸シートを得た。B層/A層/B層の構成で、未延伸シートのトータル厚みは190μmであり、トータル厚みに対する各層の厚み比率はB層/A層/B層=40%/20%/40%、A層の押出樹脂温度は270℃、B層の押出樹脂温度は260℃である。A層を構成する組成物:ポリタキシリレンアジパミド(三菱瓦斯化学(株)製、RV=2.65)100質量部からなる組成物。B層を構成する組成物:ポリアミド6(東洋紡績(株)製、RV=2.8)が91質量部とバイオマス由来の原料から重合されたポリアミド樹脂として、ポリアミド11(集盛社製、RV2.5、融点186℃)が4質量部、多孔質シリカ微粒子(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径2.0μm、細孔容積1.6ml/g)0.54質量%及び脂肪酸ビスアマイド(共栄社化学株式会社製エチエンビスステアリン酸アミド)0.15質量%からなる組成物。
【0067】
得られた未延伸シートをロールによって延伸温度85℃で縦方向に3.3倍延伸し、続いてテンターによって120℃の延伸温度で横方向に3.7倍延伸した。さらに215℃の温度で熱固定し、5%の熱弛緩処理を施すことにより厚み15μmの二軸延伸フィルムを作製した。さらに、線状低密度ポリエチレンフィルム(L-LDPEフィルム:東洋紡績社製、L6102)40μmとドライラミネートする側のB層表面にコロナ放電処理を実施した。得られた二軸延伸フィルムの物性。また、得られたフィルムから作製した積層体のラミネート強度、酸素透過度及び屈曲ピンホールを測定し、さらには包装袋の保存安定性、振動耐久性の試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0068】
[実施例2~9、比較例1~4]
実施例1においてA層及びB層の原料組成と厚みを表1にように変更した以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸フィルムを得た。
尚、バイオマス由来の原料から重合されたポリアミド樹脂であるポリアミド410、ポリアミド610、ポリアミド1010はそれぞれ下記のものを用いた。
ポリアミド410:(DSM社製、ECOPaXX Q150-E、融点250℃)
ポリアミド610:(アルケマ社製、RilsanS SMNO、融点222℃)
ポリアミド1010:(アルケマ社製、RilsanT TMNO、融点202℃)
得られた二軸延伸フィルムの評価結果を表1に示した。
【0069】
【0070】
表1に示したとおり、実施例のフィルムはヘイズが低く透明性が良好で、衝撃強度も優れていた。また、実施例のフィルムを用いた積層体は、シーラントフィルムとのラミネート強度も高く、酸素バリア性、保存安定性、振動耐久性に優れていた。
比較例1のポリアミドフィルムは、従来からある化石燃料由来の原料から重合されたポリアミド樹脂のみを使用しており、良好な特性が得られるものの、カーボンニュートラルな二軸延伸ポリアミドフィルムとは言えないものである。
比較例2のポリアミドフィルムは、融点の低いバイオマス由来の原料から重合されたポリアミド11が多すぎるため、熱処理により配向が崩れ、耐衝撃性が低下した。また酸素バリア性が悪化していた。
比較例3のポリアミドフィルムは、融点の低いバイオマス由来の原料から重合されたポリアミド11を多く添加した分A層(コア層)の厚みを厚くすることで、酸素バリア性は改善した。しかし、耐ピンホール性が悪化していた。
比較例4のポリアミドフィルムは、A層(コア層)を薄くし、B層のバイオマス由来の原料から重合されたポリアミド11を多く添加してバイオマス度を高くした。得られたフィルムは、酸素バリア性が悪化した。
比較例5のポリアミドフィルムは、A層(コア層)をさらに薄くした。B層のバイオマス由来の原料から重合されたポリアミド11の添加量は約15質量%にしたが、酸素バリア性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の二軸延伸ポリアミドフィルムは、特定のバイオマス(植物など)由来原料から重合されたポリアミド樹脂をブレンドすること及び特定の層構成と製膜条件を採用することで、原料がバイオマス由来の樹脂を用いたカーボンニュートラルなポリアミドフィルムが得られるだけでなく、優れた酸素ガスバリア性を有すると共に耐衝撃性及び耐屈曲疲労性が良好であり、食品包装等において内容物の変質や変色の防止に効果があり、さらに、輸送中における衝撃や振動による屈曲疲労から内容物を保護することができ、各種の包装材料として有効に使用することができ、産業の発展に大きく寄与するものである。