(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H10D 30/66 20250101AFI20250121BHJP
H10D 30/01 20250101ALI20250121BHJP
H10D 62/10 20250101ALI20250121BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652S
H01L29/78 652F
H01L29/78 652M
H01L29/78 658A
H01L29/78 658E
H01L29/06 301D
H01L29/06 301V
(21)【出願番号】P 2021008857
(22)【出願日】2021-01-22
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(72)【発明者】
【氏名】奥村 啓樹
【審査官】杉山 芳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-092368(JP,A)
【文献】特開2020-136416(JP,A)
【文献】特開2020-064950(JP,A)
【文献】特開2019-121716(JP,A)
【文献】国際公開第2017/145594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
H01L 21/336
H01L 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンよりもバンドギャップが広い六方晶系半導体からなる第1導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の上面に設けられ、前記ドリフト層より高不純物濃度の第1導電型の第1電流拡散層と、
前記第1電流拡散層の上面に設けられた第2導電型のベース領域と、
前記第1電流拡散層の内部に設けられ、前記第1電流拡散層と側面及び底面が接する第2導電型のゲート底部保護領域と、
前記第1電流拡散層の内部に前記ゲート底部保護領域と離間し、前記ベース領域の下面に接する第2導電型のベース底部埋込領域と、
前記ベース底部埋込領域の側面に接し、前記ゲート底部保護領域と対向する側面を有する第1導電型の第2電流拡散層と、
前記ベース領域を貫通し前記ゲート底部保護領域に達するトレンチの内部に設けられた絶縁ゲート型電極構造と、
を備え、前記第1電流拡散層に対する前記ゲート底部保護領域の不純物濃度比が、前記第2電流拡散層に対する前記ベース底部埋込領域の不純物濃度比より大きいことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記六方晶系半導体が、炭化珪素であり、
前記ドリフト層の上面が、(0001)面であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記ゲート底部保護領域と前記ベース底部埋込領域とは、同一の不純物濃度を有し、
前記第2電流拡散層は、前記第1電流拡散層よりも高不純物濃度を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第2電流拡散層が、前記ベース底部埋込領域の前記側面の全面に設けられることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第2電流拡散層は、前記ベース底部埋込領域の底部の角部に接することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記ベース底部埋込領域が、前記ゲート底部保護領域と同一レベルに設けられた第2導電型の第1埋込領域と、下面が前記第1埋込領域の上面に接し、上面が前記ベース領域の前記下面に接する第2導電型の第2埋込領域を有し、
前記第2電流拡散層が、前記第1埋込領域の側面に接することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記ベース底部埋込領域が、前記ゲート底部保護領域と同一レベルに設けられた第2導電型の第1埋込領域と、下面が前記第1埋込領域の上面に接し、上面が前記ベース領域の前記下面に接する第2導電型の第2埋込領域を有し、
前記第2電流拡散層が、前記第2
埋込領域の側面に接することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記ベース底部埋込領域の底面に接する、前記第1電流拡散層よりも高不純物濃度の第1導電型の第3電流拡散層を有することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項9】
前記第3電流拡散層が複数あり、互いに離間して設けられることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
【請求項10】
前記ゲート底部保護領域と前記ベース底部埋込領域とを接続する第2導電型の接続部がさらに設けられ、
前記接続部の側壁にも前記第2電流拡散層が設けられていることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項11】
前記第1電流拡散層と前記第2電流拡散層とは、同一の不純物濃度を有し、
前記ゲート底部保護領域は、前記ベース底部埋込領域よりも高不純物濃度を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に関し、特に、高信頼性のトレンチ型半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力変換装置などに主として用いられるパワー半導体装置には、シリコン(Si)半導体が用いられている。近年、Siに代わる半導体材料として、ワイドギャップ半導体である炭化珪素(SiC)が期待されている。SiC半導体は、Siを材料に用いた従来の半導体素子と比較して、オン状態における素子の抵抗を数百分の1に低減できることや、より高温(例えば200℃以上)の環境下で使用可能なことなどの利点がある。これは、SiCのバンドギャップがSiに対して3倍程度大きく、絶縁破壊電界強度がSiより10倍ほど大きいという材料自体の特性による。
【0003】
パワー半導体装置としては、ショットキバリアダイオード(SBD)、電界効果トランジスタ(FET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)などが製品化されている。トレンチ型MOSFETは、SiC半導体基板にトレンチを形成し、トレンチの側壁をチャネルとして利用する3次元構造の半導体装置である。そのため、同じON抵抗の素子同士で比べた場合、プレーナ型縦型MOSFETよりもトレンチ型MOSFETは素子面積を圧倒的に小さくすることができ、特に有望な半導体素子構造と考えられる。
【0004】
従来のトレンチ型MOSFETにおいては、SiC半導体層内に設けたトレンチの側壁に沿って縦方向にチャネルを形成するため、トレンチの内壁全体をゲート絶縁膜で覆う構造となる。SiCでは絶縁破壊電界強度がSiより10倍ほど大きいため、高電圧印加時にSiC半導体層が絶縁破壊せず、トレンチ内壁に設けたゲート絶縁膜にも高電界が印加される。特に、ドレイン電極に対向するトレンチの底部には電界が集中し易く、ゲート絶縁膜の絶縁破壊が容易に発生してしまう。トレンチ型MOSFETの信頼性を向上させるために、トレンチ底部での電界集中を緩和してゲート絶縁膜の破壊を防止する電界緩和構造が要求される。トレンチ底部での電界集中を緩和する電界緩和構造として、トレンチの周囲に設けられたn型の電流拡散層(CSL)の内部にp+型のベース底部埋込領域と、トレンチ底部に接するp+型のゲート底部保護領域とを選択的に設けている。
【0005】
しかし、従来のトレンチ型MOSFETでは、ベース底部埋込領域及びゲート底部保護領域と、電流拡散層とのpn接合それぞれの耐圧はほぼ同じである。したがって、ゲート底部保護領域でのpn接合の耐圧が、ベース底部埋込領域でのpn接合より小さくなる場合がある。この場合、MOSFETの耐圧は、トレンチ底部での耐圧で規定される。トレンチ底部のpn接合でアバランシェ降伏が発生すると、トレンチ内部のゲート絶縁膜にキャリアが注入されてトレンチ底部に電界が集中し、ゲート絶縁膜が絶縁破壊される。
【0006】
特許文献1には、ベース領域とドリフト層の間に、ベース底部埋込領域の底面に接するn型の埋込層をイオン注入により設け、トレンチ底部のゲート絶縁膜を保護することが記載されている。埋込層のn型不純物濃度をゲート底部保護領域直下のn型不純物の濃度より高くすることで、ゲート底部保護領域よりもベース底部埋込領域にかかる電界強度が高くなる。そのため、アバランシェ降伏がゲート底部保護領域ではなくベース底部埋込領域で発生し易くなり、アバランシェ電流がゲート絶縁膜に流れることを防止している。
【0007】
特許文献2には、ベース底部埋込領域及びゲート底部保護領域より深い位置に、トレンチの長手方向に直交する方向にストライプ状にn型の埋込層をイオン注入により設けることが記載されている。埋込層は、n型のドリフト層、及びベース底部埋込領域とトレンチとの間のn型の電流拡散層(CSL)よりも高不純物濃度としている。その結果、埋め込層によって電流拡散ができトレンチ底部の電界集中を緩和して、トレンチ底部でのアバランシェ降伏を抑制している。
【0008】
特許文献3には、ベース底部埋込領域の表面及び側面を覆うn型のベース底部被覆層、及びゲート底部保護領域を部分的に覆うn型のゲート底部被覆層をイオン注入により設けることが記載されている。ベース底部被覆層及びゲート底部被覆層のそれぞれは電流拡散層より高不純物濃度であり、トレンチ底部のゲート絶縁膜に高電界が印加されることを防止している。
【0009】
六方晶系SiCには、絶縁破壊電界に異方性があってc軸方向の絶縁破壊電界が高い。(非特許文献1参照)。特許文献1~3においては、c軸に平行な方向での電界強度を緩和する構造が提案されており、絶縁破壊電界の異方性については考慮されていない。c軸に垂直な方向となる、ゲート底部保護領域とベース底部埋込領域とが対向する方向では絶縁破壊電界が低い。即ち、電界がc軸に垂直な方向に集中する場合、c軸方向よりも低い電界強度でアバランシェ降伏が発生する。ゲート底部保護領域とベース底部埋込領域の間の電流拡散層は一様な不純物濃度を有しているので、アバランシェ降伏がゲート底部保護領域で発生し、ゲート絶縁膜が絶縁破壊されてしまう。
【0010】
また、特許文献1~3においては、ベース底部埋込領域、あるいはゲート底部保護領域の底面より深い位置にn型不純物のイオン注入が必要となる。そのため、イオン注入工程におけるイオン注入装置の稼働時間が長くなり、生産能力が悪くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6617657号公報
【文献】特開2019‐121716号公報
【文献】特許第6759563号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】T.木本(Kimoto)及びJ.A.クーパー(Cooper)、「炭化珪素技術の基礎:成長、特性評価、デバイス、及び応用(Fundamentals of Silicon Carbide Technology: Growth, Characterization, Devices, and Applications)、付録C:一般的SiC結晶多形の主な物理的特性(Major Physical Properties of Common SiC Polytypes)」、ワイリー社(John Wiley &Sons)、2014年9月、pp521-524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点を鑑み、生産能力の改善が可能で、ゲート絶縁膜の破壊を防止できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、(a)シリコンよりもバンドギャップが広い六方晶系半導体からなる第1導電型のドリフト層と、(b)ドリフト層の上面に設けられ、ドリフト層より高不純物濃度の第1導電型の第1電流拡散層と、(c)第1電流拡散層の上面に設けられた第2導電型のベース領域と、(d)第1電流拡散層の内部に設けられ、第1電流拡散層と側面及び底面が接する第2導電型のゲート底部保護領域と、(e)第1電流拡散層の内部にゲート底部保護領域と離間し、ベース領域の下面に接する第2導電型のベース底部埋込領域と、(f)ベース底部埋込領域の側面に接し、ゲート底部保護領域と対向する側面を有する第1導電型の第2電流拡散層と、(g)ベース領域を貫通しゲート底部保護領域に達するトレンチの内部に設けられた絶縁ゲート型電極構造と、を備え、第1電流拡散層に対するゲート底部保護領域の不純物濃度比が、第2電流拡散層に対するベース底部埋込領域の不純物濃度比より大きい半導体装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生産能力の改善が可能で、ゲート絶縁膜の破壊を防止できる半導体装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態に係る半導体装置の製造に用いられる半導体ウェハを模式的に示す平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る半導体装置におけるトレンチの配置を模式的に示す平面図である。
【
図3A】
図2中のA-A線方向から見た、第1実施形態に係るSiC半導体装置の一例を示す断面概略図である。
【
図3B】
図3A中のC-C線方向から見た、第1実施形態に係るSiC半導体装置の一例を示す平面概略図である。
【
図4】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図5】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図4に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図6】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図5に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図7】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図6に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図8】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図7に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図9】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図8に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図10】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図9に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図11】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図10に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図12】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図11に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図13】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図12に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図14】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図13に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図15】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図14に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図16】第1実施形態に係る半導体装置の他の例を示す断面概略図である。
【
図17】第1実施形態に係る半導体装置の他の例を示す断面概略図である。
【
図18】第1実施形態に係る半導体装置の他の例を示す断面概略図である。
【
図19】第2実施形態に係る半導体装置の一例を示す断面概略図である。
【
図20】第2実施形態に係る半導体装置の製造方法の工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図21】第2実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図20に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図22】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図21に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図23】第1実施形態に係る半導体装置の製造方法の
図22に引き続く工程の一例を説明するための断面概略図である。
【
図24】第2実施形態に係る半導体装置の他の例を示す断面概略図である。
【
図25】その他の実施形態に係る半導体装置の一例を示す平面概略図である。
【
図27】その他の実施形態に係る半導体装置の他の例を示す平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率などは実際のものとは異なる場合がある。また、図面相互間においても寸法の関係や比率が異なる部分が含まれ得る。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。
【0018】
本明細書においてMOSトランジスタのソース領域は絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)のエミッタ領域として選択可能な「一方の主領域(第1主領域)」である。又、MOS制御静電誘導サイリスタ(SIサイリスタ)などのサイリスタにおいては、一方の主領域はカソード領域として選択可能である。MOSトランジスタのドレイン領域は、IGBTにおいてはコレクタ領域を、サイリスタにおいてはアノード領域として選択可能な半導体装置の「他方の主領域(第2主領域)」である。本明細書において単に「主領域」と言うときは、当業者の技術常識から妥当な第1主領域又は第2主領域のいずれかを意味する。
【0019】
また、以下の説明における上下などの方向の定義は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。例えば、対象を90°回転して観察すれば上下は左右に変換して読まれ、180°回転して観察すれば上下は反転して読まれることは勿論である。また以下の説明では、第1導電型がn型、これと反対となる第2導電型がp型の場合について例示的に説明する。しかし、導電型を逆の関係に選択して、第1導電型をp型、第2導電型をn型としても構わない。またnやpに付す+や-は、+及び-が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。ただし同じnとnとが付された半導体領域であっても、それぞれの半導体領域の不純物濃度が厳密に同じであることを意味するものではない。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“-”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0020】
(第1実施形態)
<半導体装置の構造>
第1実施形態に係る半導体装置は、
図1に示すように、SiCなどの六方晶系半導体からなる面方位(0001)の半導体基板100を基礎として作製される。半導体基板100の外周部には、半導体基板100の結晶方位を示すオリエンテーションフラットOFが設けられている。半導体基板100は、特定の結晶方位に対し一定のオフセット角(オフ角)だけ傾いた面となる方向に沿ってスライスされており、結晶方位によってオリエンテーションフラットOFの位置が決定されている。オリエンテーションフラットOFの代わりに、半導体基板100の外周部にノッチが設けられていてもよい。
図1の紙面に垂直なZ方向が<0001>(c軸)方向で、X方向が<11-20>方向で、Y方向が<1-100>方向である。
図1中に例示した半導体基板100の表面上には1個の半導体チップ103が例示されている。半導体チップ103は、矩形状の平面形状を有し、マトリックス状に半導体基板100に配置される。
【0021】
半導体チップ103には、活性素子を含む活性部と、耐圧構造を有する外周部とが設けられる。
図2では、活性部に設けられたトレンチゲート構造のMOSFETの複数のトレンチ10を例示している。なお、図示は省略したが、外周部には、ガードリングや接合終端構造(JTE)などの電界緩和領域、及びチャネルストッパなどが設けられてもよい。
図2に示すように、半導体チップ103の上面では<11-20>方向に沿って複数のトレンチ10がストライプ状に延びている。トレンチの側壁の結晶面は、(11-20)a面又は(1-100)m面である。
【0022】
図3は、
図2中のA-A線方向から見た第1実施形態に係る半導体装置の断面図である。
図3に示すように、第1実施形態に係る半導体装置では、第1導電型(n
-型)のドリフト層2の上面が<0001>(c軸)方向、即ちZ方向に垂直な面である。ドリフト層2の上面には第2導電型(p型)のベース領域6が配置されている。ドリフト層2及びベース領域6はSiCからなるエピタキシャル成長層(以下において「エピタキシャル層」と略記する。)でそれぞれ構成されている。ベース領域6の上部には、ベース領域6よりも高不純物濃度のp
+型のベースコンタクト領域8が選択的に設けられている。ベース領域6の上部には、ベースコンタクト領域8に接するように、ドリフト層2よりも高不純物濃度のn
+型の第1主領域(ソース領域)7が選択的に設けられている。
【0023】
例えば、ドリフト層2の不純物濃度は2×1015cm-3以上2×1016cm-3以下、ベース領域6の不純物濃度は1×1017cm-3以上1×1018cm-3以下である。ベースコンタクト領域8の不純物濃度は5×1018cm-3以上5×1020cm-3以下、ソース領域7の不純物濃度は5×1018cm-3以上5×1020cm-3以下である。
【0024】
ソース領域7及びベース領域6の上面からベース領域6を貫通して、幅が1μm以下のトレンチ10が設けられている。トレンチ10の側面には、ソース領域7及びベース領域6が接している。トレンチ10内部の底面及び側面にはゲート絶縁膜11が設けられている。トレンチ10の内部にはゲート絶縁膜11を介してゲート電極12が埋め込まれ、絶縁ゲート型電極構造(11,12)を構成する。ゲート絶縁膜11としては、二酸化珪素膜(SiO2膜)の他、酸窒化珪素(SiON)膜、ストロンチウム酸化物(SrO)膜、窒化珪素(Si3N4)膜、アルミニウム酸化物(Al2O3)膜、マグネシウム酸化物(MgO)膜、イットリウム酸化物(Y2O3)膜、ハフニウム酸化物(HfO2)膜、ジルコニウム酸化物(ZrO2)膜、タンタル酸化物(Ta2O5)膜、ビスマス酸化物(Bi2O3)膜のいずれか1つの単層膜或いはこれらの複数を積層した複合膜などが採用可能である。ゲート電極12aの材料としては、例えば燐(P)やボロン(B)などの不純物を高不純物濃度に添加したポリシリコン層(ドープドポリシリコン層)が使用可能である。
【0025】
ドリフト層2の上部には、ドリフト層2よりも高不純物濃度のn型の第1電流拡散層(CSL)3が選択的に設けられている。トレンチ10の底部は第1電流拡散層3に達する。第1電流拡散層3は必ずしも設ける必要はない。第1電流拡散層3を設けない場合、トレンチ10の底部はドリフト層2に達する。第1電流拡散層3の内部には、トレンチ10の底部に接するように、p+型のゲート底部保護領域4bが設けられている。ベースコンタクト領域8の下方の第1電流拡散層3の内部には、ゲート底部保護領域4bと同じ深さで、ゲート底部保護領域4bから離間してp+型の第1埋込領域4aが設けられている。第1電流拡散層3の上部には、第1埋込領域4aの上面とベース領域6の下面に接するようにp+型の第2埋込領域5が設けられている。第1埋込領域4aと第2埋込領域5とでベース底部埋込領域(4a,5)を構成する。第2埋込領域5も、ベースコンタクト領域8の下方に設けられる。
【0026】
図3Aに示すように、ベース底部埋込領域(4a,5)の第1埋込領域4aの側面に接するように、第1電流拡散層3より高不純物濃度のn
+型の第2電流拡散層9が設けられる。第2電流拡散層9は、ゲート底部保護領域4bと対向する側面19を有する。したがって、第2電流拡散層9の側面19に直交する方向は、Y方向、即ちc軸に垂直な方向となる。このように、c軸に垂直な方向のpn接合における、n型領域の不純物濃度を選択的に上げることで、低い電界強度でアバランシェ降伏を発生させることができる。これによりアバランシェ位置を第1埋込領域4aの側面に限定できるので、トレンチ10の底部におけるゲート絶縁膜の破壊を防止することができる。このとき、第2電流拡散層9をベース底部埋込領域(4a,5)のうち第1埋込領域4aの底部の角部に接するように設けてもよい。
【0027】
図3Bは、
図3AにおけるC-C断面から見た第1実施形態に係る半導体装置の平面図である。C-C断面において、第1埋込領域4a(ベース底部埋込領域)とゲート底部保護領域4bとはストライプ状に並んでおり、第1埋込領域4aの側壁に選択的に第2電流拡散層9が設けられている。ここで、第1埋込領域4aとゲート底部保護領域4bとをつなぐp
+型の接続部44を設けてもよい。接続部44により、ゲート底部保護領域4bがベース底部埋込領域(4a,5)を介してソース電極15につながるので、トレンチ10の底部のゲート絶縁膜を確実に保護することができる。このとき、接続部44の側壁に第2電流拡散層9を設けてもよい。これにより、トレンチ10の底部におけるゲート絶縁膜の破壊を防止する効果を高めることができる。なお、接続部44を第2埋込領域5の深さに形成して、接続部44の底部とゲート底部保護領域4bの上面とを接続してもよい。この場合、第2電流拡散層9は第1埋込領域4aに沿ったストライプ状となる。また、接続部44を第1埋込領域4aと第2埋込領域5の双方に設けてもよい。さらには、第2埋込領域5の側壁にも第2電流拡散層9を設けてもよい。
【0028】
ゲート電極12の上面には層間絶縁膜13が配置される。層間絶縁膜13としては、硼素(B)及び燐(P)を添加したシリコン酸化膜(BPSG)が用いられる。しかし、層間絶縁膜13としては、燐(P)を添加した酸化珪素膜(PSG)、「NSG」と称される燐(P)や硼素(B)を含まないノンドープのSiO2膜、硼素(B)を添加した酸化珪素膜(BSG)、Si3N4膜などでもよい。またこれらの積層膜でもよい。
【0029】
層間絶縁膜13の間に露出したソース領域7及びベースコンタクト領域8に物理的に接するようにソースコンタクト層14が設けられる。層間絶縁膜13及びソースコンタクト層14を覆うように第1主電極(ソース電極)15が設けられる。第1主電極(ソース電極)15は、ソースコンタクト層14を介してソース領域7及びベースコンタクト領域8に電気的に接続される。例えば、ソースコンタクト層14がニッケルシリサイド(NiSix)膜、ソース電極15がアルミニウム(Al)膜やアルミニウム-シリコン(Al-Si)膜で構成できる。層間絶縁膜13及びソースコンタクト層14と、第1主電極(ソース電極)15との間には、バリアメタル層(図示省略)が設けられていてもよい。バリアメタル層として窒化チタン(TiN)膜やチタン(Ti)膜などが使用可能である。ソース電極15は、ゲート表面電極(図示省略)と分離して配置されている。図示を省略するが、フィールド絶縁膜の上面に配置されたゲート電極パッド(図示省略)がゲート電極12に電気的に接続される。
【0030】
ドリフト層2の下面には、n+型の第2主領域(ドレイン領域)1が配置されている。ドレイン領域1の下面には第2主電極(ドレイン電極)16が配置されている。ドレイン電極16としては、例えば金(Au)からなる単層膜や、Ti、ニッケル(Ni)、Auの順で積層された金属膜が使用可能であり、更にその最下層にモリブデン(Mo)、タングステン(W)などの金属膜を積層してもよい。また、ドレイン領域1とドレイン電極16との間に、ドレインコンタクト層が設けられてもよい。ドレインコンタクト層は、例えばニッケルシリサイド(NiSix)膜である。
【0031】
第1電流拡散層3の不純物濃度は5×1016cm-3以上5×1017cm-3以下で、第2電流拡散層9の不純物濃度は5×1017cm-3以上5×1018cm-3以下である。ベース底部埋込領域(4a,5)の第1埋込領域4a及びゲート底部保護領域4bは同じ不純物濃度を有し、1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下である。第2埋込領域5の不純物濃度は1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下である。ドレイン領域1の不純物濃度は1×1018cm-3以上1×1019cm-3以下である。
【0032】
第1実施形態に係る半導体装置においては、ドレイン領域1はSiCからなる半導体基板(SiC基板)で構成され、ドリフト層2はSiCからなるエピタキシャル層(SiC層)で構成された構造を例示する。ドレイン領域1及びドリフト層2を含む第1実施形態に係る半導体装置を構成する半導体領域はSiCに限定されない。SiCの他にも、例えば窒化ガリウム(GaN)、ロンズデーライト(六方晶ダイヤモンド)又は窒化アルミニウム(AlN)等のSiの禁制帯幅1.1eVよりも広い六方晶系の半導体材料がそれぞれ使用可能である。室温における禁制帯幅は4H-SiCでは3.26eV、6H-SiCでは3.02eV、GaNでは3.4eV、ダイヤモンドでは5.5eV、AlNでは6.2eVの値が報告されている。本発明では禁制帯幅がシリコンよりも大きな半導体をワイドバンドギャップ半導体として定義している。
【0033】
第1実施形態に係る半導体装置の動作時は、ソース電極15をアース電位として、ドレイン電極16に正電圧を印加し、ゲート電極12に閾値以上の正電圧を印加すると、ベース領域6のトレンチ10の側面側に反転層(チャネル)が形成されてオン状態となる。反転層は、ベース領域6がゲート電極12に対向する位置に挟まれたゲート絶縁膜11とベース領域6との界面となるトレンチ10の側面に露出したベース領域6の表面に形成される。オン状態では、ドレイン電極16からドレイン領域1、ドリフト層2、第1電流拡散層3、ベース領域6の反転層及びソース領域7を経由してソース電極15へ電流が流れる。一方、ゲート電極12に印加される電圧が閾値未満の場合、ベース領域6に反転層が形成されないため、オフ状態となり、ドレイン電極16からソース電極15へ電流が流れない。
【0034】
第1実施形態では、
図3に示すように、第2電流拡散層9が、ゲート底部保護領域4bと対向するベース底部埋込領域(4a,5)の第1埋込領域4aの側面に接して設けられる。第2電流拡散層9は、第1電流拡散層3より高不純物濃度を有する。第1電流拡散層3に対するゲート底部保護領域4bの不純物濃度比は、第2電流拡散層9に対する第1埋込領域4aの不純物濃度比より大きい。したがって、Y方向において対向するゲート底部保護領域4bの側面より、第1埋込領域4aの側面に接した第2電流拡散層9の側面19の方が高電界となり、第2電流拡散層9の側面19側でアバランシェ降伏が生じ易くなる。ここで用いた各領域の不純物濃度は、p型不純物とn型不純物とを共に勘案した正味量の不純物濃度である。
【0035】
また、非特許文献1に記載のように、六方晶系の4H-SiCにおける絶縁破壊電界は、c軸に垂直方向で2.2MVcm
-1、c軸に平行方向で2.8MVcm
-1である。
図3のY方向がc軸に垂直方向で、Z方向がc軸に平行方向である。第1電流拡散層3に接する第1埋込領域4aの底面に比べ、第1電流拡散層3より高不純物濃度の第2電流拡散層9の側面19の方が高電界となる。更に、絶縁破壊電界は、c軸に平行な第1埋込領域4aの底面よりc軸に垂直な第2電流拡散層9の側面19の方が低い。そのため、絶縁破壊電界が低い第2電流拡散層9の側面19側でアバランシェ降伏が生じやすい。アバランシェ降伏が起こった場合、アバランシェ電流は、
図3に点線で示した第1埋込領域4aの底面を通る経路Pbではなく、
図3に実線で示した第2電流拡散層9の側面19を介して第1埋込領域4aの内部を通る経路Paに流れる。このように、第1実施形態に係る半導体装置では、絶縁破壊電界が低い第2電流拡散層9の側面19側でアバランシェ降伏が生じ、アバランシェ電流はゲート底部保護領域4bを回避して流れる。そのため、ゲート絶縁膜の絶縁破壊を防止することが可能となる。
【0036】
なお、後述するように、第2電流拡散層9は、第1電流拡散層3の下層となるnイオン注入層の上面よりn型不純物イオンを選択的に多段イオン注入することにより、第1埋込領域4aの側面に形成される。ベース底部埋込領域の底面に接して形成される従来の電界緩和構造では、ベース底部埋込領域の底面より深い位置にn型不純物のイオン注入が必要であった。それに対して、第1実施形態では、第2電流拡散層9を形成する多段イオン注入の深さは、第1埋込領域4aの底面までの深さでよい。したがって、第2電流拡散層9形成工程におけるイオン注入装置の稼働時間を短縮でき、生産能力の改善が可能となる。
【0037】
<半導体装置の製造方法>
次に、
図4~
図15の工程断面図を用いて、第1実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法を、トレンチゲート型MOSFETの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるトレンチゲート型MOSFETの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0038】
まず、窒素(N)などのn型不純物が添加されたn
+型のSiC半導体基板(基板)1pを用意する。基板1pは(0001)面である。
図4に示すように、基板1pの上面に、n
-型のドリフト層2をエピタキシャル成長させる。次に、ドリフト層2の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜をイオン注入用マスクとして用いて、ドリフト層2の上面側から、窒素(N)などのn型不純物イオンをドリフト層2に選択的に多段イオン注入する。このようにして、ドリフト層2の上部にn型のnイオン注入層3pが形成される。
【0039】
CVD技術などにより、nイオン注入層3pの上面にSiO
2からなる酸化膜を堆積する。酸化膜の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術などを用いて酸化膜をパターニングする。パターニングされた酸化膜40をイオン注入のマスクとして用いて、nイオン注入層3pにアルミニウム(Al)などのp型不純物イオンを多段イオン注入する。その結果、
図5に示すように、nイオン注入層3pの上部にp
+型の第1埋込領域4a及びp
+型のゲート底部保護領域4bが選択的に形成される。ここで、第1埋込領域4aとゲート底部保護領域4bの不純物濃度を異ならせたい場合、それぞれ別々にイオン注入すればよい。
【0040】
酸化膜40を除去後、nイオン注入層3p、第1埋込領域4a及びゲート底部保護領域4bの上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜42をイオン注入のマスクとして用いて、第1埋込領域4aと接するようにnイオン注入層3pに窒素(N)などのn型不純物イオンを選択的に多段イオン注入する。その結果、
図6に示すように、第1埋込領域4aのY方向に直交する側面に、nイオン注入層3pより高不純物濃度のn
+型の第2電流拡散層9が選択的に形成される。第2電流拡散層9は、第1埋込領域4aの側面で上面から底面に至るように形成される。
【0041】
フォトレジスト膜42を除去後、nイオン注入層3p、第2電流拡散層9、第1埋込領域4a及びゲート底部保護領域4bの上面にn
-型のエピタキシャル層を成長させる。エピタキシャル層の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜をイオン注入のマスクとして用いて、エピタキシャル層の上面側から、窒素(N)などのn型不純物イオンをエピタキシャル層の上部に選択的に多段イオン注入する。その結果、
図7に示すように、nイオン注入層3p、第2電流拡散層9、第1埋込領域4a及びゲート底部保護領域4bの上にnイオン注入層5pが形成される。後述するように、nイオン注入層3pとnイオン注入層5pは第1電流拡散層3を構成するが、nイオン注入層5pの不純物濃度はnイオン注入層3pより高不純物濃度とすることが望ましい。
【0042】
次に、CVD技術などにより、nイオン注入層5pの上面にSiO
2からなる酸化膜を堆積する。酸化膜の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術などを用いて酸化膜をパターニングする。パターニングされた酸化膜50をイオン注入のマスクとして用いて、nイオン注入層5pにアルミニウム(Al)などのp型不純物イオンを選択的に多段イオン注入する。その結果、
図8に示すように、第1埋込領域4aの上にp
+型の第2埋込領域5が選択的に形成される。そして、第1埋込領域4aと第2埋込領域5とからなるベース底部埋込領域(4a,5)が形成される。
【0043】
酸化膜50を除去後、
図9に示すように、第2埋込領域5及びnイオン注入層5pの上面にp型のベース領域6pをエピタキシャル成長させる。ベース領域6pの表面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜をイオン注入のマスクとして用いて、ベース領域6pの上面側から、燐(P)などのn型不純物イオンをベース領域6pに選択的に多段イオン注入する。その結果、
図10に示すように、ベース領域6pの上部にn
+型のソース領域7pが形成される。
【0044】
イオン注入用マスクとして用いたフォトレジスト膜を除去後、ソース領域7pの上面にCVD技術などによりSiO
2からなる酸化膜を堆積する。この酸化膜の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術などを用いて酸化膜をパターニングする。パターニングされた酸化膜80をイオン注入のマスクとして用いて、ソース領域7pの上面側から、アルミニウム(Al)などのp型不純物イオンをソース領域7pに選択的に多段イオン注入する。その結果、
図11に示すように、nイオン注入層5pの上方のベース領域6pの上部にp
+型のベースコンタクト領域8が形成される。
【0045】
イオン注入用マスクとして用いた酸化膜80を除去後、ベースコンタクト領域8及びソース領域7pの上面にCVD技術などによりSiO
2からなる酸化膜を堆積する。この酸化膜の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術などを用いて酸化膜をパターニングする。パターニングされた酸化膜82をエッチング用マスクとして用いて、ICP-RIEなどのドライエッチング技術により、トレンチ10を選択的に形成する。その結果、
図12に示すように、トレンチ10は、ソース領域7、ベース領域6、及び第1電流拡散層3を貫通してゲート底部保護領域4bに達する。nイオン注入層3pとnイオン注入層5pとからなるn型の第1電流拡散層3がドリフト層2の上面に形成される。
【0046】
酸化膜82を除去後、トレンチ10の上面に、カーボンスパッタ技術などにより、カーボン(C)膜を成膜する。その後、熱処理を行ってイオン注入されたn型不純物イオン及びp型不純物イオンを一斉に活性化させる。カーボン膜を除去後、熱酸化法又は化学気相成長(CVD)技術などにより、トレンチ10の底面及び側面、並びにソース領域7及びベースコンタクト領域8の上面に、SiO
2膜などのゲート絶縁膜11pを形成する。次に、
図13に示すように、CVD技術などにより、トレンチ10を埋めるように、燐(P)やボロン(B)などの不純物を高濃度で添加したポリシリコン層(ドープドポリシリコン層)12pを堆積する。
【0047】
その後、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチングにより、ポリシリコン層12pの一部及びゲート絶縁膜11pの一部を選択的に除去する。
図14に示すように、ゲート絶縁膜11及びポリシリコン層からなるゲート電極12のパターンを形成して絶縁ゲート型電極構造(11,12)を形成する。次に、CVD技術などにより、ゲート電極12及びゲート絶縁膜11からなる絶縁ゲート型電極構造(11,12)の上面に絶縁膜を堆積する。この絶縁膜として、ボロン燐ガラス(BPSG)やNSGなどが用いられる。そして、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術などにより、堆積した絶縁膜の一部を選択的に除去する。この結果、
図14に示すように、層間絶縁膜13にソース電極コンタクトホールが開口される。図示を省略しているが、ソース電極コンタクトホールとは異なる箇所において、ゲート電極12に接続されたゲート表面電極の一部が露出するように、ゲートコンタクトホールも層間絶縁膜13に開口される。
【0048】
スパッタリング法又は蒸着法などによりNi膜などの金属層を堆積して、フォトリソグラフィ技術及びRIE技術などを用いて金属層をパターニングする。その後、高速熱処理(RTA)、例えば1000℃程度で熱処理をすることにより、NiSi
x膜を形成する。その後、未反応のNi膜は除去することで、
図15に示すように、ソース領域7及びベースコンタクト領域8の上面にソースコンタクト層14を形成する。次に、スパッタリング技術などによりTi膜やTiN膜などのバリアメタル層(図示省略)とAl膜などの金属層とを堆積し、フォトリソグラフィ技術及びRIE技術などを用いてバリアメタル層と金属層をパターニングする。この結果、ソースコンタクト層14と層間絶縁膜13を被覆するように、バリアメタル層とソース電極15との積層構造が形成される。また、ソース電極15とゲート表面電極のパターンは分離され、ゲート表面電極は、フィールド絶縁膜(図示省略)の上に設けられた配線層(図示省略)を介してゲート電極12に電気的に接続される。
【0049】
更に、化学機械研磨(CMP)などにより基板1pの下面を研磨して厚さ調整をして、ドレイン領域1を形成する。その後、スパッタリング法又は蒸着法などにより、ドレイン領域1の下面の全面にTi,Ni,Auなどからなるドレイン電極16を形成する。このようにして、
図3に示したトレンチゲート型半導体装置が完成する。
【0050】
第1実施の形態では、
図6に示すように、第2電流拡散層9は、nイオン注入層3pの上面よりn型不純物イオンを選択的に多段イオン注入することにより、第1埋込領域4aの側面に形成される。ベース底部埋込領域の底面に接して形成される従来の電界緩和構造では、ベース底部埋込領域の底面より深い位置にn型不純物のイオン注入が必要であった。それに対して、第1実施形態では、第2電流拡散層9を形成する多段イオン注入の深さは、第1埋込領域4aの底面までの深さでよい。したがって、第2電流拡散層9形成工程におけるイオン注入装置の稼働時間を短縮でき、生産能力の改善が可能となる。その結果、半導体装置の製造コストを低減することが可能となる。
【0051】
上述のように、ゲート底部保護領域4bと、ベース底部埋込領域(4a,5)の第1埋込領域4aとは同一の不純物濃度を有し、第2電流拡散層9が第1電流拡散層3よりも高不純物濃度を有する。しかし、ゲート底部保護領域4bを第1埋込領域4aよりも高不純物濃度としてもよい。この場合、第1電流拡散層3と第2電流拡散層9とは、ほぼ同一の不純物濃度であってもよい。あるいは第2電流拡散層9を設けず、第1電流拡散層3だけ設けてもよい。第1電流拡散層3に対するゲート底部保護領域4bの不純物濃度比は、第2電流拡散層9又は第1電流拡散層3に対する第1埋込領域4aの不純物濃度比より大きくすることができる。したがって、Y方向において対向するゲート底部保護領域4bの側面より、第1埋込領域4aの側面側の方が高電界となり、第1埋込領域4aの側面側でアバランシェ降伏を生じ易くすることができる。ここで、不純物濃度が同一であるとは、製造ばらつきの範囲で同じであることを意味しており、10%程度の違いを含んでいる。
【0052】
また、第2電流拡散層9はベース底部埋め込領域(4a,5)の第1埋込領域4aの側面に設けているが、限定されない。
図16に示すように、Y方向に直交する側面19aを有するn
+型の第2電流拡散層9aを、ベース底部埋込領域(4a,5)側面の全面、即ち、第1埋込領域4aの側面から第2埋込領域5の側面にわたり連結するように設けてもよい。この場合、
図8に示した第2埋込領域5の形成工程の後に、nイオン注入層5pの上面から第2埋込領域5と接するようにnイオン注入層5pに窒素(N)などのn型不純物イオンを選択的に多段イオン注入すればよい。また、
図17に示すように、第1埋込領域4a底部の一部の側面だけに、Y方向に直交する側面19bを有するn
+型の第2電流拡散層9bを設けてもよい。側面19bの面積が低減するが、電界強度は増加させることができる。あるいは、
図18に示すように、第2埋込領域5側面の全面に、Y方向に直交する側面19cを有するn
+型の第2電流拡散層9cを設けてもよい。また、それぞれにおいて第2電流拡散層9a~9cは、トレンチ長手方向(X方向)の全面に設けてもよいし、選択的に設けてもよい。
【0053】
(第2実施形態)
<半導体装置の構造>
第2実施形態に係る半導体装置は、
図19に示すように、第1電流拡散層3の内部でベース底部埋込領域(4a,5)の第1埋込領域4aの側面に接するように、第1電流拡散層3より高不純物濃度のn
+型の第2電流拡散層9dが設けられる。また、ドリフト層2の上部には、第1埋込領域4aの底面に接するように、第1電流拡散層3より高不純物濃度のn
+型の第3電流拡散層20が設けられる。第3電流拡散層20は、第2電流拡散層9dに金属学的に接続される。第2電流拡散層9dは、ゲート底部保護領域4bに対向する側面19dを有する。第3電流拡散層20は、ドレイン領域1に対向する底面21aを有する。第2電流拡散層9dの側面19dに直交する方向は、c軸に垂直なY方向となる。第3電流拡散層20の底面21aに直交する方向は、c軸に平行なZ方向となる。第2実施形態に係る半導体装置の他の構成は、第1実施形態と同様であるので、重複した説明を省略する。
【0054】
図19に示すように、第1埋込領域4aの側面及び底面は第2及び第3電流拡散層9d、20で覆われている。したがって、第3電流拡散層20を加えることにより、第1埋込領域4aの周りの電界強度をより高くすることができる。第2電流拡散層9dの側面19dはc軸に垂直な面であり、絶縁破壊電界は、c軸に平行な面である第3電流拡散層20の底面21aよりも低くなる。そのため、アバランシェ降伏は、絶縁破壊電界が低い第2電流拡散層9dの側面19d側で生じ、アバランシェ電流は、第1実施形態と同様に、第2電流拡散層9dの側面19dを介して第1埋込領域4aの内部を通って流れる。第2実施形態でも、アバランシェ電流はゲート底部保護領域4bを回避して流れるため、ゲート絶縁膜の絶縁破壊を防止することが可能となる。
【0055】
<半導体装置の製造方法>
次に、
図20~
図23の工程断面図を用いて、第2実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法を、トレンチゲート型MOSFETの場合を一例に説明する。なお、以下に述べるトレンチゲート型MOSFETの製造方法は一例であり、特許請求の範囲に記載した趣旨の範囲であれば、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0056】
まず、窒素(N)などのn型不純物が添加されたn+型のSiC半導体基板(基板)1pを用意する。基板1pは(0001)面である。基板1pの上面に、n-型のドリフト層2をエピタキシャル成長させる。次に、ドリフト層2の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜をイオン注入用マスクとして用いて、ドリフト層2の上面側から、窒素(N)などのn型不純物イオンをドリフト層2に選択的に多段イオン注入する。このようにして、ドリフト層2の上部にn型のnイオン注入層3pが形成される。
【0057】
CVD技術などにより、nイオン注入層3pの上面にSiO
2からなる酸化膜を堆積する。酸化膜の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術及びドライエッチング技術などを用いて酸化膜をパターニングする。パターニングされた酸化膜40及びnイオン注入層3pの上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜41をイオン注入用マスクとして用いて、nイオン注入層3pの上面側から、窒素(N)などのn型不純物イオンをnイオン注入層3pとドリフト層2との界面からドリフト層2の上部に選択的に多段イオン注入する。このようにして、
図20に示すように、ドリフト層2の上部にn
+型の第3電流拡散層20が形成される。
【0058】
フォトレジスト膜41を除去後、酸化膜40をイオン注入のマスクとして用いて、nイオン注入層3pにアルミニウム(Al)などのp型不純物イオンを多段イオン注入する。その結果、
図21に示すように、nイオン注入層3pの上部に、p
+型の第1埋込領域4a及びp
+型のゲート底部保護領域4bが選択的に形成される。第1埋込領域4aは、第3電流拡散層20の上面に接するように形成される。
【0059】
酸化膜40を除去後、nイオン注入層3p、第1埋込領域4a及びゲート底部保護領域4bの上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜42をイオン注入のマスクとして用いて、第1埋込領域4aと接するようにnイオン注入層3pに窒素(N)などのn型不純物イオンを選択的に多段イオン注入する。その結果、
図22に示すように、Y方向に直交する第1埋込領域4aの側面にn
+型の第2電流拡散層9dが選択的に形成される。第2電流拡散層9dは、第1埋込領域4aの側面の全面に上面から底面に至り、第3電流拡散層20と接続するように形成される。
【0060】
フォトレジスト膜42を除去後、nイオン注入層3p、第2電流拡散層9、第1埋込領域4a及びゲート底部保護領域4bの上面にn
-型のエピタキシャル層を成長させる。エピタキシャル層の上面にフォトレジスト膜を塗布し、フォトリソグラフィ技術などを用いてフォトレジスト膜をパターニングする。パターニングされたフォトレジスト膜をイオン注入のマスクとして用いて、エピタキシャル層の上面側から、窒素(N)などのn型不純物イオンをエピタキシャル層の上部に選択的に多段イオン注入する。その結果、
図23に示すように、nイオン注入層3p、第2電流拡散層9d、第1埋込領域4a及びゲート底部保護領域4bの上にnイオン注入層5pが形成される。その後、
図8~
図15に示した第1実施形態の製造工程と同様の工程を実施して、
図19に示したトレンチゲート型半導体装置が完成する。
【0061】
第2電流拡散層9dは、ベース底部埋込領域(4a,5)の第1埋込領域4aの側面全面に設けているが、側面の一部であってもよい。例えば、
図24に示すように、第1埋込領域4a底部の一部の側面だけに、Y方向に直交する側面19fを有するn
+型の第2電流拡散層9fを設けてもよい。また、第1埋込領域4aの底面の全面に第3電流拡散層9dを設けたが、部分的に設けてもよい。この場合、第3電流拡散層9dの境界部分でアバランシェを起こしやすくすることができる。なお、
図24においては、ソース領域7及びベースコンタクト領域8の上側の構造は図示を省略している。第2電流拡散層9fは、第3電流拡散層20に接続される。側面19fの面積が低減するが、電界強度は増加させることができる。
【0062】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明の実施形態に係る絶縁ゲート型半導体装置を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0063】
第2実施形態に係る半導体装置においては、第3電流拡散層20を設けているが、複数の第3電流拡散層を設けてもよい。例えば、
図25及び
図26に示すように、矩形状の複数の第3電流拡散層20aが第1埋込領域4aの底面に接して設けられる。複数の第3電流拡散層20aのそれぞれの側面19gは、Y方向に垂直な面である。したがって、第3電流拡散層20の側面19gにアバランシェ電流を導入することができる。
【0064】
また、
図27及び
図28に示すように、帯状に延伸する2本の第3電流拡散層20bを第1埋込領域4aの底面に接して設けてもよい。第3電流拡散層20bのそれぞれの側面19hは、Y方向に垂直な面である。したがって、第3電流拡散層20bの側面19hにアバランシェ電流を導入することができる。
図27では、2本の第3電流拡散層20bを例示したが、第3電流拡散層20bは3以上の複数であってもよい。
【0065】
なお、
図25~
図28に例示した第3電流拡散層20a、20bのそれぞれは、図示省略した第2電流拡散層と接続されてもよい。あるいは、第3電流拡散層20a、20bのそれぞれだけで、第2電流拡散層は設けなくてもよい。
【0066】
このように、上記の実施形態及び各変形例において説明される各構成を任意に応用した構成など、本発明はここでは記載していない様々な実施形態などを含むことは勿論である。例えば、ベース底部埋込領域(4a,5)の内部に濃度分布を持たせることにより、ベース底部埋込領域(4a,5)の側壁でアバランシェが起きるように設計してもよい。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0067】
1…ドレイン領域(第2主領域)
1p,100…半導体基板(基板)
2…ドリフト層
3…第1電流拡散層
3p、5p…nイオン注入層
4a…第1埋込領域
(4a,5)…ベース底部埋込領域
4b…ゲート底部保護領域
5…第2埋込領域
6、6p…ベース領域
7、7p…ソース領域(第1主領域)
8…ベースコンタクト領域
9…第2電流拡散層
10…トレンチ
11、11p…ゲート絶縁膜
(11、12)…絶縁ゲート型電極構造
12、12a…ゲート電極
13…層間絶縁膜
14…ソースコンタクト層
15…ソース電極(第1主電極)
16…ドレイン電極(第2主電極)
19…側面
20…第3電流拡散層
21…底面
40、50、80、82…酸化膜
41、42…フォトレジスト膜
44…接続部