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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】開閉体のロック解除制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/603 20150101AFI20250121BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20250121BHJP
   B60J 5/06 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
E05F15/603
B60J5/04 C
B60J5/06 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021116551
(22)【出願日】2021-07-14
(65)【公開番号】P2023012836
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2024-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】浅見 瞭
(72)【発明者】
【氏名】神谷 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 康平
【審査官】河本 明彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-322874(JP,A)
【文献】実公平07-012539(JP,Y2)
【文献】特開2004-257106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00 - 15/79
B60J 5/04
B60J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の開口部を開閉させる開閉体を制御対象とし、
前記開閉体は、全閉状態において前記車両の車体側に設けられたシール部材に接触し、
前記車両は、ロック装置、および開閉アクチュエータを備え、
前記ロック装置は、前記開閉体を全閉位置に拘束する装置であり、
前記開閉アクチュエータは、モータの回転によって、前記開閉体を開状態または閉状態の2つの状態のうちの1つの状態からもう1つの状態に遷移させるべく前記開閉体を変位させるアクチュエータであり、
開指令取得処理、引き込み処理、およびロック解除処理を実行し、
前記開指令取得処理は、前記開閉体を開状態とする指令を取得する処理であり、
前記引き込み処理は、前記開状態とする指令が取得される場合に前記開閉体を閉方向にさらに変位させるように前記モータの回転を制御する閉回転処理と、電圧徐変処理および抑制処理の2つのうちの少なくとも1つの処理と、を含み、
前記ロック解除処理は、前記開状態とする指令が取得される場合に、前記ロック装置を操作して前記開閉体の全閉位置での拘束を解除する処理であり、
前記電圧徐変処理は、前記閉回転処理の開始に伴い前記モータに印加する電圧を徐々に上昇させる処理であり、
前記抑制処理は、前記閉回転処理によって前記モータが所定量回転すると、前記開閉体のそれ以上の変位を抑制する処理である開閉体のロック解除制御装置。
【請求項2】
前記開閉体は、スライドドアであり、
前記車両は、ガイドレール、および連結部材を備え、
前記ガイドレールは、車体に連結されており、
前記連結部材は、前記ガイドレールおよび前記開閉体を連結して且つ、ガイドローラ、ガイドローラ支持部、および固定部を備え、
前記ガイドローラは、前記ガイドレールに沿って回転しつつ変位する部材であり、
前記ガイドローラ支持部は、前記ガイドレールの回転軸を支持する部材であり、
前記固定部は、前記開閉体に連結されており、
前記ガイドローラ支持部および前記固定部は、同一の軸に沿って相対回転可能であり、
前記ガイドローラの閉側対向面と、前記固定部の閉側対向面とは、前記開閉体の閉状態において互いに対向して且つ、前記開閉体が開状態へと変位するにつれて互いのなす角度を大きくするものであり、
前記引き込み処理は、前記電圧徐変処理を含む請求項1記載の開閉体のロック解除制御装置。
【請求項3】
前記モータの端子には、直流電圧源の電圧がスイッチング素子を介して印加され、
前記電圧徐変処理は、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン操作期間の時比率を徐々に増加させる処理である請求項2記載の開閉体のロック解除制御装置。
【請求項4】
前記引き込み処理は、前記抑制処理を含む請求項1~3のいずれか1項に記載の開閉体のロック解除制御装置。
【請求項5】
前記モータは、多相ブラシレスモータであって且つ、インバータの出力電圧が印加されるものであり、
前記抑制処理は、前記閉回転処理によって前記モータが所定量回転する場合に、上側アームの第1相と、下側アームの第2相とのそれぞれに対応する前記インバータのスイッチング素子をオン状態に固定する処理である請求項4記載の開閉体のロック解除制御装置。
【請求項6】
前記抑制処理は、前記閉回転処理によって前記モータが回転する回転量をフィードバック制御する処理である請求項4記載の開閉体のロック解除制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉体のロック解除制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば下記特許文献1には、車両の開閉体としてのスライドドアのロックを解除する制御を実行する制御装置が記載されている。この制御装置は、ドアのロックを解除する際、ドアを閉じ側にさらに変位させる処理を実行する。これは、開口部に設けられたシール部材がドアに及ぼす反力を減殺することによって、ロックを解除する際に要する力を軽減することを狙ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平4-68182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように、開閉体の全閉位置から開閉体をさらに閉じ側に変位させようとする場合、ユーザに違和感を与えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.車両の開口部を開閉させる開閉体を制御対象とし、前記開閉体は、全閉状態において前記車両の車体側に設けられたシール部材に接触し、前記車両は、ロック装置、および開閉アクチュエータを備え、前記ロック装置は、前記開閉体を全閉位置に拘束する装置であり、前記開閉アクチュエータは、モータの回転によって、前記開閉体を開状態または閉状態の2つの状態のうちの1つの状態からもう1つの状態に遷移させるべく前記開閉体を変位させるアクチュエータであり、開指令取得処理、引き込み処理、およびロック解除処理を実行し、前記開指令取得処理は、前記開閉体を開状態とする指令を取得する処理であり、前記引き込み処理は、前記開状態とする指令が取得される場合に前記開閉体を閉方向にさらに変位させるように前記モータの回転を制御する閉回転処理と、電圧徐変処理および抑制処理の2つのうちの少なくとも1つの処理と、を含み、前記ロック解除処理は、前記開状態とする指令が取得される場合に、前記ロック装置を操作して前記開閉体の全閉位置での拘束を解除する処理であり、前記電圧徐変処理は、前記閉回転処理の開始に伴い前記モータに印加する電圧を徐々に上昇させる処理であり、前記抑制処理は、前記閉回転処理によって前記モータが所定量回転すると、前記開閉体のそれ以上の変位を抑制する処理である開閉体のロック解除制御装置である。
【0006】
上記構成では、ロックを解除する際に、閉回転処理によって開閉体をシール部材に押し付ける。そのため、閉回転処理によって、シール部材が開閉体に及ぼす力を減殺できる。そのため、閉回転処理を実行しない場合と比較して、ロック装置がロック状態を解除する際に必要な力が小さくなる。そしてこれにより、ロック状態を解除するときに生じる音を低減できる。
【0007】
ただし、閉回転処理によって開閉体が閉じ側にさらに変位する場合、ユーザが視覚または聴覚を通じて違和感を抱くおそれがある。たとえば、開閉体が全閉位置よりも閉じ側に変位することにより、シール部材とは別の部材が互いに接触し音が生じるおそれがある。また、開閉体が閉じ側に大きく変位する場合には、開指令を出したにもかかわらず、意図した方向と逆側に開閉体が変位することをユーザが感知するおそれがある。
【0008】
これに対し、電圧徐変処理によれば、開閉体を閉じ側に変位させる際の加速度を小さくすることができる。そのため、開閉体が全閉位置よりも閉じ側に変位することにより、シール部材とは別の部材が互いに接触する際の衝撃を抑制することができる。そのため、開閉体が全閉位置よりも閉じ側に変位することに起因して生じる音を小さくすることができる。また、抑制処理によれば、開閉体が閉じ側に大きく変位することを抑制できる。
【0009】
2.前記開閉体は、スライドドアであり、前記車両は、ガイドレール、および連結部材を備え、前記ガイドレールは、車体に連結されており、前記連結部材は、前記ガイドレールおよび前記開閉体を連結して且つ、ガイドローラ、ガイドローラ支持部、および固定部を備え、前記ガイドローラは、前記ガイドレールに沿って回転しつつ変位する部材であり、前記ガイドローラ支持部は、前記ガイドレールの回転軸を支持する部材であり、前記固定部は、前記開閉体に連結されており、前記ガイドローラ支持部および前記固定部は、同一の軸に沿って相対回転可能であり、前記ガイドローラの閉側対向面と、前記固定部の閉側対向面とは、前記開閉体の閉状態において互いに対向して且つ、前記開閉体が開状態へと変位するにつれて互いのなす角度を大きくするものであり、前記引き込み処理は、前記電圧徐変処理を含む上記1記載の開閉体のロック解除制御装置である。
【0010】
上記構成では、閉回転処理によって開閉体が閉じ側に変位することにより、ガイドローラの閉側対向面と固定部の閉側対向面とが接触するおそれがある。そしてその際、ガイドローラの閉側対向面と固定部の閉側対向面との相対変位速度が大きい場合には、ユーザに違和感を抱かせる音が生じるおそれがある。これに対し、上記電圧徐変処理によれば、モータに印加する電圧をステップ状に上昇させる場合と比較して、閉回転処理によって生じる上記相対変位速度を小さくすることができる。そのため、ガイドローラの閉側対向面と固定部の閉側対向面との接触によって生じる音を低減できる。
【0011】
3.前記モータの端子には、直流電圧源の電圧がスイッチング素子を介して印加され、前記電圧徐変処理は、前記スイッチング素子のオン・オフ操作の一周期に対するオン操作期間の時比率を徐々に増加させる処理である上記2記載の開閉体のロック解除制御装置である。
【0012】
上記構成では、時比率を徐々に増加させることにより、モータに印加される電圧の実効値を徐々に上昇させることができる。
4.前記引き込み処理は、前記抑制処理を含む上記1~3のいずれか1つに記載の開閉体のロック解除制御装置である。
【0013】
上記構成によれば、引き込み処理に抑制処理が含まれることから、開閉体が閉じ側に大きく変位することを抑制できる。
5.前記モータは、多相ブラシレスモータであって且つ、インバータの出力電圧が印加されるものであり、前記抑制処理は、前記閉回転処理によって前記モータが所定量回転する場合に、上側アームの第1相と、下側アームの第2相とのそれぞれに対応する前記インバータのスイッチング素子をオン状態に固定する処理である上記4記載の開閉体のロック解除制御装置である。
【0014】
上記構成では、上側アームの第1相から下側アームの第2相に電流を流す状態が継続されることから、モータの回転角を所定角度に固定するトルクが生成される。そのため、モータが開閉体の閉じ側に過度に回転することを抑制できる。
【0015】
6.前記抑制処理は、前記閉回転処理によって前記モータが回転する回転量をフィードバック制御する処理である上記4記載の開閉体のロック解除制御装置である。
上記構成では、モータの回転量をフィードバック制御することから、モータが所定の所定量を大きく超えて開閉体のとじ方向に回転することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態にかかるスライドドアおよびその制御装置を示す図。
図2】(a)は、同実施形態にかかる開状態におけるスライドドアを示し、(b)は閉状態におけるスライドドアを示す。
図3】(a)および(b)は、同実施形態にかかる連結部材の側面構成を示す図。
図4】同実施形態にかかるスライドドアの開放制御を示すタイムチャート。
図5】同実施形態にかかるスライドドアの開放制御の処理手順を示す流れ図。
図6】同実施形態にかかるインバータのスイッチング手法を示すタイムチャート。
図7】(a)および(b)は、同実施形態および比較例におけるモータの回転量の推移を示すタイムチャート。
図8】第2の実施形態にかかるスライドドアの開放制御の処理手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施形態>
以下、第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、車両10は、車体12およびスライドドア20を備えている。車体12の側部には、開口部14が設けられている。また、車体12の開口部14には、スライドドア20が開口部14を閉鎖する際のシール性を向上させるシール部材としてのウェザーストッパ16が設けられている。車体12は、開口部14の前端における上下方向における中央部にストライカ18を有する。ストライカ18は、略U字状をなし、後方に向かって突出する。スライドドア20は、開口部14を全閉する全閉位置及び開口部14を全開する全開位置の間で開閉作動する。本実施形態では、スライドドア20が後方に移動することで開作動し、スライドドア20が前方に移動することで閉作動する。また、スライドドア20は、ドアロック装置22を備えている。ドアロック装置22は、スライドドア20が全閉位置に位置する場合にストライカ18と係合することで、スライドドア20を全閉位置に拘束する。
【0018】
車体12には、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50が設けられている。アッパレール30は、開口部14の上方に配置されている。センターレール40は、開口部14の後方に配置されている。ロアレール50は、スライドドア20の下部に配置されている。スライドドア20は、連結部材32,60,52のそれぞれを介して、アッパレール30、センターレール40、およびロアレール50のそれぞれに連結されている。
【0019】
図2に、連結部材60によるスライドドア20およびセンターレール40の機械的な連結状態を示す。
連結部材60は、固定部62、ガイドローラ支持部66、およびガイドローラ64を備える。固定部62は、スライドドア20に固定されている。ガイドローラ支持部66は、固定部62に回動可能に連結されている。ガイドローラ64は、ガイドローラ支持部66に回転可能に支持されている。
【0020】
連結部材60において、固定部62は、スライドドア20の上下方向における中央部の後端寄りの位置に固定されている。ガイドローラ支持部66は、固定部62に対して、上下方向に延びる回転軸67を回転中心として相対変位できるように連結される。ガイドローラ64は、上下方向と直交する方向に並ぶように配置される。
【0021】
連結部材60がセンターレール40に連結される状態では、ガイドローラ64がセンターレール40の側壁の間に配置される。そして、連結部材60が、センターレール40に対してセンターレール40の長手方向に移動する場合には、ガイドローラ64がセンターレール40の側壁に接した状態で上下方向に延びる回転軸68を回転中心として回転する。
【0022】
図2(a)は、スライドドア20が全開位置にある状態を示している。また、図2(b)は、スライドドア20が全閉位置にある状態を示している。
図3に、連結部材60を拡大して示す。詳しくは、図3(a)は、スライドドア20の全開状態を示す。また、図3(b)は、スライドドア20の全閉状態を示す。
【0023】
ガイドローラが回転軸68を中心に回転することによりスライドドア20が全閉位置へと変位をするにつれて、ガイドローラ支持部66は、固定部62に対し、回転軸67を中心に相対回転する。スライドドア20が全閉位置へと変位するにつれて、固定部62およびガイドローラ支持部66のそれぞれの閉側対向面62a,66aのなす角度が小さくなる。そして、図3(b)に示すように、スライドドア20の全閉位置においては、閉側対向面62a,66aが接触する寸前の位置で互いに対向する。
【0024】
図1に戻り、車両10は、ドアアクチュエータ70を備えている。ドアアクチュエータ70は、モータ72、インバータIVおよびコントローラ74を備えている。モータ72は、たとえばワイヤまたはベルトなどを介して動力をスライドドア20に伝達する。モータ72の回転方向によって、スライドドア20を閉作動させるか、スライドドア20を開作動させるか、が定まる。
【0025】
モータ72は、3相ブラシレスモータである。インバータIVは、スイッチング素子SW1,SW2の直列接続体、スイッチング素子SW3,SW4の直列接続体、およびスイッチング素子SW5,SW6の直列接続体が並列接続されたものである。そして、それら直列接続体には、直流電圧源であるバッテリの電圧が印加されている。コントローラ74は、スイッチング素子SW1~SW6をオン・オフ操作する。
【0026】
制御装置80は、制御対象としてのスライドドア20の開閉状態を制御すべく、ドアロック装置22およびドアアクチュエータ70を操作する。制御装置80は、上記制御のために、モータ72の回転角を感知する回転角センサ76の出力信号Smを参照する。出力信号Smは、モータ72が所定の回転角となる都度、パルス状の波形となるものである。また、制御装置80は、ハーフラッチ検出スイッチ90の出力信号、フルラッチ検出スイッチ92の出力信号、およびポール検出スイッチ94の出力信号を参照する。ここで、ハーフラッチ検出スイッチ90は、ドアロック装置22が備えるラッチの状態に基づき、スライドドア20がいわゆる半ドアの位置にあることを検知するスイッチである。フルラッチ検出スイッチ92は、ラッチの状態に基づき、スライドドア20が全閉位置にあることを検出するスイッチである。ポール検出スイッチ94は、ラッチの位置が解除側の所定の位置に達したことを検知するスイッチである。
【0027】
制御装置80において、CPU82、ROM84および周辺回路86は、通信線88を介して通信可能とされている。ここで、周辺回路86は、内部の動作を規定するクロック信号を生成する回路、電源回路、およびリセット回路等を含む。制御装置80は、ROM84に記憶されたプログラムをCPU82が実行することにより、スライドドア20を開閉制御する。特に、車両10のユーザがユーザインターフェース96を操作することによって、全閉状態のスライドドア20を開状態とする指示がなされると、CPU82は、スライドドア20を開放制御する。
【0028】
図4に、スライドドア20の開放制御を示す。図4に示すように、スライドドア20を開放する指示がなされると、CPU82は、時刻t1に、ドアロック装置22を開側に操作するとともに、ドアアクチュエータ70をさらに閉側に操作する。すなわち、モータ72をスライドドア20の閉作動側に回転させる。これは、ドアロック装置22によるロック状態の解除動作において、ウェザーストッパ16がスライドドア20を開く側に押す力を減殺するための処理である。これにより、時刻t2に、ポール検出スイッチ94によってドアロック装置22のラッチが解除方向に向けて所定位置まで変位したことが検知される。すると、CPU82は、時刻t2から所定時間が経過した時刻t3において、モータ72を反転させ、スライドドア20を開作動させる。
【0029】
ところで、上記のように、ロック解除のためにスライドドア20を一旦閉作動させる場合、スライドドア20がウェザーストッパ16を押して閉方向にさらに変位する。これにより、図3に示した固定部62の閉側対向面62aとガイドローラ支持部66の閉側対向面66aとがぶつかり異音が生じるおそれがある。さらに、ウェザーストッパ16の経年劣化によって、弾性力が低下していると、ユーザが感知するほどにスライドドア20が閉方向に変位するおそれがある。
【0030】
そこで本実施形態では、時刻t1~t3までの期間における制御である、スライドドア20の全閉位置でのロック状態を解除する処理を以下のように実行する。
図5に、上記解除に関する処理の手順を示す。図5に示す処理は、ROM84に記憶されたプログラムをCPU82がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」が付与された数字によって、各処理のステップ番号を表現する。
【0031】
図5に示す一連の処理において、CPU82は、まずフラグFが「1」であるか否かを判定する(S10)。フラグFは、スライドドア20の全閉位置でのロック状態を解除する処理を実行している場合に「1」となる一方、そうではない場合に「0」となる。CPU82は、「0」であると判定する場合(S10:NO)、ユーザインターフェース96の操作によってスライドドア20を開放する指令(開指令)がなされたか否かを判定する(S12)。そして、CPU82は、開放する指令がなされたと判定する場合(S12:YES)、フラグFに「1」を代入する(S14)。
【0032】
これに対し、CPU82は、フラグFが「1」であると判定する場合(S10:YES)、ポール検出スイッチ94がオンとなってから所定時間が経過したか否かを判定する(S16)。この処理は、図4の時刻t3となったか否かを判定する処理である。そしてCPU82は、所定時間が経過していないと判定する場合(S16:NO)、ドアロック装置22を用いてロックの解除操作を実行する(S18)。次にCPU82は、モータ72の総回転量Ntotが閾値Nthに到達したか否かを判定する(S20)。閾値Nthは、スライドドア20が閉方向に変位していることにユーザが違和感を抱くことがない上限値以下に設定されている。CPU82は、閾値Nthに到達していないと判定する場合(S20:NO)、時比率Dに増加量ΔDを加算した値と100とのうちの小さい方を、時比率Dに代入する(S22)。時比率Dは、スイッチング素子SW2,SW4,SW6を周期的にオン・オフ操作する周期に対するオン時間の比率である。この処理は、時比率Dを増加量ΔDずつ、100%に向けて増加させる処理である。
【0033】
図6に示すように、時比率Dが100%の場合、インバータIVのスイッチング素子SW1~SW6は、120°通電方式に従ってオン操作される。すなわち、スイッチング素子SW1~SW6は、360°の間に、互いに異なる位相で、120°ずつオン状態とされる。
【0034】
これに対し、時比率Dが100%よりも小さい場合、スイッチング素子SW2,SW4,SW6を、時比率Dが100%の場合にそれらがオン操作される期間において、周期的にオン・オフ操作される。ここでの周期は、PWM周期であり、PWM周期に対するオン時間の比率が、時比率Dとされる。この処理によれば、時比率Dが大きいほど、モータ72に印加される電圧の実効値を大きくすることができる。
【0035】
したがって、図5のS22の処理は、モータ72に印加される電圧の実効値を徐々に上昇させる処理である。
図5に戻り、CPU82は、スライドドア20を閉作動させるための指令である閉操作指令信号と、時比率Dとをコントローラ74に出力する(S24)。これにより、コントローラ74では、時比率Dに従って、スイッチング素子SW2,SW4,SW6を操作する。
【0036】
一方、CPU82は、総回転量Ntotが閾値Nthに到達したと判定する場合(S20:YES)、コントローラ74に、モータ72の回転角を固定するブレーキ指令を出力する(S26)。これにより、コントローラ74は、スイッチング素子SW1,SW4をオン状態とし、スイッチング素子SW2,SW3,SW5,SW6をオフ状態とする処理を実行する。これにより、モータ72の回転角が上記スイッチングパターンによって定まる所定角度に固定される。
【0037】
また、CPU82は、所定時間が経過したと判定する場合(S16:YES)、フラグFに「0」を代入する(S28)。
なお、CPU82は、S14,S24,S26,S28の処理を完了する場合と、S12の処理において否定判定する場合とには、図5に示す一連の処理を一旦終了する。
【0038】
ここで、本実施形態の作用および効果について説明する。
CPU82は、スライドドア20が全閉状態にあるときに、スライドドア20の開放指令がなされると、ドアロック装置22によってロック状態を解除する。また、CPU82は、ドアアクチュエータ70を操作して、スライドドア20を閉作動させる。これにより、ウェザーストッパ16がスライドドア20に及ぼすスライドドア20を開作動させる力を減殺することができる。そのため、ドアロック装置22がロック状態を解除する際に必要な力が小さくなる。そしてこれにより、ドアロック装置22がロック状態を解除することに起因して異音が生じることを抑制できる。
【0039】
CPU82は、スライドドア20を閉作動させる際、モータ72に印加される電圧の実効値を漸増させる。これにより、実効値をステップ状に上昇させる場合と比較すると、スライドドア20に付与される加速度が小さくなる。このため、互いに対向している固定部62の閉側対向面62aとガイドローラ支持部66の閉側対向面66aとが互いに接触する際の衝撃を低減できる。そのため、ユーザが異音を感知することを抑制できる。
【0040】
さらに、CPU82は、スライドドア20の閉作動の開始後のモータ72の総回転量Ntotが閾値Nthに到達すると、モータ72の回転角を固定する。これにより、ウェザーストッパ16の経年劣化によって、スライドドア20の閉作動に抗する力が低下している場合であっても、スライドドア20が過度に変位することを抑制できる。
【0041】
図7に、ウェザーストッパ16の経年劣化によってスライドドア20の閉作動に抗する力が低下している場合における総回転量Ntotを例示する。
図7(a)は、本実施形態にかかる総回転量Ntotの推移を示す。図7(a)に示すように、時刻t1にモータ72を閉作動方向に駆動すべくインバータIVの操作を開始する。図7には、この処理を「引き込み作動」と記載している。これにより、時刻t2以降、回転角センサ76の出力信号Smのパルスが検出されることから、CPU82は、総回転量Ntotを増加させていく。そして、CPU82は、時刻t3に、総回転量Ntotが閾値Nthに達すると、モータ72の回転角を固定する。これにより、総回転量Ntotが、ユーザが違和感を抱くほどスライドドア20が変位する量NAに到達することを抑制できる。
【0042】
図7(b)は、S20,S26の処理を行わない場合の総回転量Ntotの推移を示す。図7(b)に示すように、この場合、スライドドア20の閉作動に抗するウェザーストッパ16による力が低下していると、総回転量Ntotが上記量NAを超える。そのため、ユーザは、スライドドア20の開放を指示したにもかかわらず、スライドドア20が意図した方向と逆側に変位することを感知して違和感を抱くおそれがある。
【0043】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0044】
図8に、本実施形態にかかる解除に関する処理の手順を示す。図8に示す処理は、ROM84に記憶されたプログラムをCPU82がたとえば所定周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、図8において、図5に示した処理に対応する処理については、便宜上、同一のステップ番号を付与する。
【0045】
図8に示す一連の処理において、CPU82は、S20の処理において肯定判定する場合、総回転量Ntotを、閾値Nthにフィードバック制御する(S26a)。すなわち、閾値Nthから総回転量Ntotを減算した値にゲインKpを乗算した値を、時比率Dに加算する。
【0046】
なお、CPU82は、S26aの処理を完了する場合、図8に示す一連の処理を一旦終了する。
上記処理によれば、総回転量Ntotが閾値Nthを大きく上回ることを抑制できる。
【0047】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1,4]ロック解除制御装置は、制御装置80に対応する。開閉体は、スライドドア20に対応する。シール部材は、ウェザーストッパ16に対応する。ロック装置は、ドアロック装置22に対応する。開閉アクチュエータは、ドアアクチュエータ70に対応する。モータは、モータ72に対応する。開指令取得処理は、S12の処理に対応する。閉回転処理は、S22がなされる場合のS24の処理に対応する。電圧徐変処理は、S22の処理に対応する。抑制処理は、S26,S26aの処理に対応する。[2]ガイドレールは、センターレール40に対応する。連結部材は、連結部材60に対応する。ガイドローラは、ガイドローラ64に対応する。ガイドローラ支持部は、ガイドローラ支持部66に対応する。固定部は、固定部62に対応する。ガイドローラの回転軸は、回転軸68に対応する。「同一の回転軸」は、回転軸67に対応する。ガイドローラ支持部の閉側対向面は、閉側対向面66aに対応する。固定部の閉側対向面は、閉側対向面62aに対応する。[3]スイッチング素子は、スイッチング素子SW1~SW6に対応する。[5]第1相は、スイッチング素子SW1を備えて構成される相に対応する。第2相は、スイッチング素子SW4を備えて構成される相に対応する。抑制処理は、S26の処理に対応する。[6]抑制処理は、S26aの処理に対応する。
【0048】
<その他の実施形態>
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0049】
「電圧徐変処理について」
図5および図8においては、それらの図に示した一連の処理の実行周期で時比率Dを更新したが、これに限らない。たとえば一連の処理のうちのS22の処理以外の処理が所定回数実行される都度、S20の処理を実行してもよい。この場合を、時比率Dを段階的に上昇させる処理とするなら、図5および図8に示した処理では、時比率を連続的に上昇させる処理と見なせる。
【0050】
・時比率Dの操作対象としては、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6に限らない。たとえば、上側アームのスイッチング素子SW1,SW3,SW5であってもよい。また、PWM処理としては、120°通電方式においてオン状態とされる期間を利用するものにも限らない。たとえば、180°通電方式においてオン状態とされる期間を利用するものであってもよい。
【0051】
・電圧徐変処理としては、インバータIVから矩形波電圧を出力する処理を前提とするものに限らない。たとえばインバータIVから正弦波形状の電圧を出力するものであってもよい。その場合、電圧を徐々に上昇させる処理は、正弦波形状の電圧の振幅を徐々に上昇させる処理によって実現できる。なお、その場合のスイッチング素子SW1~SW6の操作に用いる操作信号は、周知の三角波PWM処理等によって生成できる。
【0052】
・たとえば下記「モータについて」の欄に記載したように、モータとして直流モータを用いる場合、モータに接続されるHブリッジ回路のスイッチング素子の時比率Dを徐々に上昇させればよい。これによっても、モータに印加される電圧の実効値を徐々に上昇させることができる。
【0053】
・電圧徐変処理としては、モータに電圧を印加する駆動回路のスイッチング操作によって実現されるものに限らない。たとえば、インバータIVの入力電圧を昇圧する昇圧回路を備えて、昇圧電圧を上昇させる処理であってもよい。
【0054】
「抑制処理について」
・上記実施形態では、総回転量Ntotを回転角センサ76の出力信号に基づき算出したが、これに限らない。たとえばスライドドア20の変位量を検出するリニアポジションセンサを備えてその出力信号に基づき算出してもよい。
【0055】
・S26の処理では、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW4をオン状態とする旨、予め定めておいたが、これに限らない。たとえば、総回転量Ntotが閾値Nthに到達したと判定した時点におけるモータ72の回転角に応じて、オン状態とするスイッチング素子を変更してもよい。その場合、上側アームの1相と下側アームの別の1相との6通りのスイッチング素子の組み合わせのうち、同判定した時点からの回転量を最小とする組み合わせを選択すればよい。
【0056】
・総回転量Ntotを閾値Nthにフィードバック制御する処理としては、S26aの処理に限らない。換言すれば総回転量Ntotと閾値Nthとの差を入力とする比例要素の出力値を、フィードバック制御のための操作量とする処理に限らない。たとえば、上記差を入力とする積分要素の出力値をフィードバック制御のための操作量とする処理であってもよい。
【0057】
・総回転量Ntotをフィードバック制御する処理としては、閾値Nthを目標値とする処理に限らない。たとえば、所定範囲から外れる場合に時比率Dを増加または減少させる処理であってもよい。
【0058】
・モータ72の回転角を固定する処理としては、S26,S26aの処理およびそれらの上記変更例に記載した処理に限らない。換言すれば、モータ72の駆動回路を操作する処理に限らない。たとえば、「開閉アクチュエータについて」の欄に記載したモータの回転角をロックする装置を備える場合には、同装置を操作する処理としてもよい。
【0059】
・抑制処理としては、総回転量Ntotを制御する処理に限らない。たとえば、総回転量Ntotが閾値Nthに達する場合にモータ72の出力を低下させる処理であってもよい。これは、たとえば、総回転量Ntotが閾値Nthに達する場合にモータ72に印加する電圧の実効値を低下させることによって実現できる。
【0060】
「電圧徐変処理の目的について」
・上記実施形態では、引き込み作動に起因して連結部材60によって生じる音を抑制するためにS22の処理を実行したが、これに限らない。たとえば、連結部材32がヒンジ構造を有するなどして、引き込み作動に起因して音を生じさせる可能性があるのであれば、その対策としてS22の処理を実行してもよい。
【0061】
・S22の処理が、ヒンジ構造を有した連結部材に生じる音を抑制することを目的とすることも必須ではない。たとえば、ガイドローラ支持部66とスライドドア20との接触によって音が生じることが懸念されるのであれば、その音を抑制することを目的としてもよい。
【0062】
「開閉体について」
・開閉体としては、人が車両10に出入りする開口部14を開閉するスライドドア20に限らない。たとえば、スライド式のサンルーフであってもよい。さらに、スライド式のドアにも限らない。たとえば開口部の上端部を回転軸として回転するいわゆる跳ね上げ式のバックドア等であってもよい。その場合であっても、開口部にシール部材を有する場合、ロックを解除する際に引き込み処理をすることは、ロックの解除に伴う音を低減するうえで有効である。そしてその場合において、シール部材の経年変化によって引き込み処理時にバックドアが全閉方向にさらに変位するのを抑制するうえでは、引き込み処理に抑制処理を含めることが有効である。
【0063】
「開閉アクチュエータについて」
・たとえばモータ72の回転角を所定角度にロックする装置を備えてもよい。
「モータについて」
・モータとしては、ブラシレス同期機に限らない。たとえば誘導機であってもよい。また、多相ブラシレスモータとしては、3相ブラシレスモータに限らない。さらに、多相ブラシレスモータに限らず、たとえば直流モータであってもよい。
【0064】
「解除制御装置について」
・解除制御装置としては、CPU82とROM84とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理するたとえばASIC等の専用のハードウェア回路を備えてもよい。すなわち、解除制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア実行装置や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。
【符号の説明】
【0065】
10…車両
12…車体
14…開口部
16…ウェザーストッパ
18…ストライカ
20…スライドドア
22…ドアロック装置
40…センターレール
60…連結部材
62…固定部
62a…閉側対向面
64…ガイドローラ
66…ガイドローラ支持部
66a…閉側対向面
67…回転軸
68…回転軸
70…ドアアクチュエータ
80…制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8