(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】希土類磁石の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20250121BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20250121BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20250121BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20250121BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20250121BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
B22F3/00 F
B22F3/24 K
C22C28/00 A
C22C38/00 303D
(21)【出願番号】P 2021120915
(22)【出願日】2021-07-21
【審査請求日】2024-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100186912
【氏名又は名称】松田 淳浩
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】庄司 哲也
(72)【発明者】
【氏名】木下 昭人
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-155657(JP,A)
【文献】特開2019-140279(JP,A)
【文献】特開2014-216463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/00- 1/117
H01F 1/40- 1/42
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R
2T
14B型(ただし、Rは希土類元素であり、Tは遷移金属元素である。)の結晶構造を有する主相、及び前記主相の周囲に存在する粒界相を備える希土類磁石前駆体を準備すること、及び
前記希土類磁石前駆体の内部に、希土類元素を含有する改質材を拡散浸透すること、
を含み、
前記希土類磁石前駆体の、モル比での全体組成が、式R
1
y
(Fe
(1-z)
Co
z
)
(100-y-w-v)
B
w
M
1
v
(ただし、R
1
は、Nd及びPrからなる群より選ばれる一種以上の元素であり、M
1
は、Ga、Al、及びCuからなる群より選ばれる一種以上の元素並びに不可避的不純物元素であり、かつ、
12.0≦y≦20.0、
0.10≦z≦0.30、
5.0≦w≦20.0、及び
0≦v≦2.0
である。)で表され、
前記主相の平均粒径が、1~10μmであり、
前記改質材の組成が、モル比で、式(R
2
(1-x)
La
x
)
(1-s)
M
2
s
(ただし、R
2
は、Nd及びTbからなる群より選ばれる一種以上の元素であり、M
2
は、Cu及び不可避的不純物元素であり、かつ、0.09<x<0.19及び0.05≦s≦0.40である。)で表される、
希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
yが13.5以上、13.9以下であり、
wが5.7以上、5.8以下であり、
vが0.2以上、0.5以下であり、
xが0.12以上、0.13以下であり、
sが0.15以上、0.20以下である、
請求項1記載の希土類磁石の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、希土類磁石の製造方法に関する。本開示は、特に、R2T14B型(ただし、Rは希土類元素であり、Tは遷移金属元素である。)の結晶構造を有する主相を備える希土類磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-Fe-B系希土類磁石は、主相と、主相の周囲に存在する粒界相とを備える。主相は、R2T14B型の結晶構造を有する磁性相である。この主相によって、高い残留磁化を得ることができる。そのため、R-Fe-B系希土類磁石は、モータに使用されることが多い。
【0003】
R-Fe-B系希土類磁石をはじめとする永久磁石がモータに使用される場合、永久磁石は周期的に変化する外部磁場環境下に配置される。そのため、永久磁石は外部磁場の増加により減磁され得る。永久磁石をモータに使用する場合、外部磁場の増加に対して、可能な限り減磁しないことが要求される。外部磁場の増加に対する減磁の程度を示したものが減磁曲線であり、上述の要求を満足する減磁曲線は角形を有している。このことから、上述の要求を満足することを角形性に優れるという。
【0004】
モータは、その動作中に発熱することから、モータに使用される永久磁石は、高温での磁気特性が高いことが要求される。なお、本明細書において、磁気特性に関し、高温とは、特に断りのない限り、130~200℃、特に、140~180℃の範囲の温度を意味する。
【0005】
R-Fe-B系希土類磁石の高温での磁気特性を高めるには、Feの一部をCoで置換することによって、キュリー温度を上昇させることが有用である。例えば、非特許文献1には、RとしてNdを選択したR-Fe-B系希土類磁石において、Feの一部をCoで置換することによって、キュリー温度を上昇させることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】真島一彦ら、「Nd2Fe14B磁石合金の焼結特性に及ぼすCo添加の影響」、粉体および粉末冶金、第39巻第10号、第855~859頁、1992年。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示されたR-Fe-B系希土類磁石のように、単純にFeの一部をCoで置換すると、キュリー温度が上昇し、高温での残留磁化が向上するが、角形性が低下する。このことから、Feの一部をCoで置換しても、角形性の低下が抑制されているR-Fe-B系希土類磁石が望まれている、という課題を本発明者らは見出した。なお、室温での角形性と、高温での角形性は高い相関があるため、本明細書では、特に断りのない限り、「角形性」とは、室温での角形性を意味するものとする。また、角形性は、Hr/Hcで表される角形比で評価する。Hcは保磁力、Hrは5%減磁時の磁界である。5%減磁時の磁界とは、残留磁化(印加磁界が0kA/mのときの磁界)よりも5%磁化が低下したときの、ヒステリシス曲線の第二象限(減磁曲線)の磁界を意味する。
【0008】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。本開示は、Feの一部がCoで置換されていても、角形性の低下を抑制することができる希土類磁石の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、本開示の希土類磁石の製造方法を完成させた。本開示の希土類磁石の製造方法は、次の態様を含む。
〈1〉R2T14B型(ただし、Rは希土類元素であり、Tは遷移金属元素である。)の結晶構造を有する主相、及び前記主相の周囲に存在する粒界相を備える希土類磁石前駆体を準備すること、及び
前記希土類磁石前駆体の内部に、希土類元素を含有する改質材を拡散浸透すること、
を含み、
前記希土類磁石前駆体がCoを含有し、かつ、
前記改質材中の希土類元素全体に対するLaのモル比xが、0.09<x<0.19を満足する、
希土類磁石の製造方法。
〈2〉前記主相の平均粒径が、1~10μmである、〈1〉項に記載の方法。
〈3〉前記希土類磁石前駆体の、モル比での全体組成が、式R1
y(Fe(1-z)Coz)(100-y-w-v)BwM1
v(ただし、R1は、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であり、M1は、Ga、Al、Cu、Au、Ag、Zn、In、及びMnからなる群より選ばれる一種以上の元素並びに不可避的不純物元素であり、かつ、
12.0≦y≦20.0、
0.10≦z≦0.30、
5.0≦w≦20.0、及び
0≦v≦2.0
である。)で表される、〈1〉又は〈2〉項に記載の方法。
〈4〉前記R1が、Nd及びPrからなる群より選ばれる一種以上の元素である、〈3〉項に記載の方法。
〈5〉前記改質材の組成が、モル比で、式(R2
(1-x)Lax)(1-s)M2
s(ただし、R2は、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であり、M2は、R2と合金化する希土類元素以外の金属元素及び不可避的不純物元素であり、かつ、0.09<x<0.19及び0.05≦s≦0.40である。)で表される、〈1〉~〈3〉項のいずれか一項に記載の方法。
〈6〉前記R2が、Nd及びTbからなる群より選ばれる一種以上の元素である、〈5〉項に記載の方法。
〈7〉前記M2が、Cu及び不可避的不純物元素である、〈5〉又は〈6〉項に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の希土類磁石の製造方法によれば、Feの一部がCoで置換されている希土類磁石前駆体の内部に、所定割合のLaを含有する改質材を拡散浸透することにより、粒界相中のCoを含有する強磁性相を非磁性化することができる。その結果、得られるR-T-B系希土類磁石の角形性の低下を抑制することができる。すなわち、本開示によれば、Feの一部がCoで置換されていても、角形性の低下を抑制することが可能なR-T-B系希土類磁石の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】
図1Aは、本開示の製造方法で用いる希土類磁石前駆体の組織を模式的に示す説明図である。
【
図2A】
図2Aは、本開示の製造方法で得られる希土類磁石の組織を模式的に示す説明図である。
【
図3A】
図3Aは、Laの含有割合が不足している改質材を拡散浸透した後の希土類磁石の組織を模式的に示す説明図である。
【
図4A】
図4Aは、Laの含有割合が過剰である改質材を拡散浸透した後の希土類磁石の組織を模式的に示す説明図である。
【
図5】
図5は、ストリップキャスト法に用いる冷却装置を模式的に示す説明図である。
【
図6】
図6は、各試料について、改質材中の希土類元素全体に対するLaのモル比xと角形比(Hr/Hc)の関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、各試料の減磁曲線を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1の試料について、SEM像及び面分析結果を示す説明図である。
【
図9】
図9は、比較例1の試料について、SEM像及び面分析結果を示す説明図である。
【
図10】
図10は、比較例5の試料について、SEM像及び面分析結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の希土類磁石の製造方法(以下、「本開示の製造方法」という。)の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の製造方法を限定するものではない。
【0013】
理論に拘束されないが、本開示の製造方法によって、角形性の低下が抑制されているR-T-B系希土類磁石を得られる理由に関する知見について、図面を用いて説明する。
図1Aは、本開示の製造方法で用いる希土類磁石前駆体の組織を模式的に示す説明図である。
図1Bは、
図1Aの破線で示した部分を拡大した説明図である。
図2Aは、本開示の製造方法で得られる希土類磁石の組織を模式的に示す説明図である。
図2Bは、
図2Aの破線で示した部分を拡大した説明図である。
図3Aは、Laの含有割合が不足している改質材を拡散浸透した後の希土類磁石の組織を模式的に示す説明図である。
図3Bは、
図3Aの破線で示した部分を拡大した説明図である。
図4Aは、Laの含有割合が過剰である改質材を拡散浸透した後の希土類磁石の組織を模式的に示す説明図である。
図4Bは、
図4Aの破線で示した部分を拡大した説明図である。
【0014】
図1A及び
図1Bに示したように、本開示の製造方法で用いる希土類磁石前駆体50は、主相10と主相10の周囲に存在する粒界相20を備える。粒界相20は、二つの主相10が隣接している隣接部22と、三つの主相10によって包囲されている三重点24を有する。
【0015】
主相10は、R2T14B型の結晶構造を有する相である。粒界相20には、主相10よりもRリッチな結晶構造を有する様々な相が存在している。粒界相20の相のうち、RT2型の結晶構造を有する相は、強磁性体の挙動を示す。希土類磁石前駆体50のFeの一部がCoで置換されていると、RT2型の結晶構造を有する相26が、粒界相20、特に隣接部22に存在しやすい。このようなRT2型の結晶構造を有する相26は、主相10同士の磁気分断を阻害し、保磁力を低下させ、角形性の低下につながる。
【0016】
希土類磁石前駆体50の粒界相20に、所定割合のLaが存在すると、RT2型の結晶構造を有する相26を減少させることができる。
【0017】
そこで、
図1A及び
図1Bに示したような希土類磁石前駆体50の内部に、所定割合のLaを含有する改質材を拡散浸透させる。改質材は、主として、希土類磁石前駆体50の粒界相20に拡散浸透する。そのため、
図2A及び
図2Bに示したように、改質材を拡散浸透した後の希土類磁石100においては、
図1A及び
図1Bの希土類磁石前駆体50の隣接部22に存在していたRT
2型の結晶構造を有する相26が、ほとんど解消する。隣接部22には、RT
2型の結晶構造を有する相26よりも、さらにRリッチな相が形成されていると考えられる。また、三重点24には、隣接部22よりも、さらにRリッチな相が形成されていると考えられる。RT
2型の結晶構造を有する相26よりもRリッチなこれらの相は、主相10同士を磁気分断するのに寄与することから、保磁力の低下を抑制し、角形性の低下を抑制する。
【0018】
これに対して、
図1A及び
図1Bに示したような希土類磁石前駆体50の内部に、Laの含有割合が不足している改質材を拡散浸透すると、隣接部22に存在しているRT
2型の結晶構造を有する相26を、充分に解消することができない。そのため、
図3A及び
図3Bに示したように、改質材を拡散浸透した後の希土類磁石100には、隣接部22に、多くのRT
2型の結晶構造を有する相26が残存する。その結果、保磁力の低下を抑制できず、角形性の低下を抑制できない。なお、改質材の拡散浸透により、三重点24には、改質材の拡散浸透前よりもRリッチな相が形成されていると考えられるが、保磁力及び角形性の低下の抑制には至らない。
【0019】
また、
図1A及び
図1Bに示したような希土類磁石前駆体50の内部に、Laの含有割合が過剰である改質材を拡散浸透すると、
図4A及び
図4Bに示したように、特に三重点24に、RT
2型の結晶構造を有する相26が再形成される。改質材の拡散浸透によって、RT
2型の結晶構造を有する相26を解消するには、その解消によって生じた単独のFeを、粒界相22が固溶する必要がある。しかし、その固溶が飽和することによって、RT
2型の結晶構造を有する相26が再形成される。そして、その再形成されたRT
2型の結晶構造を有する相26によって、保磁力が低下し、角形性が低下する。また、隣接部22は、過剰供給されたLaが、La相28として存在する。
【0020】
このようなことから、所定割合のLaを含有する改質材を、希土類磁石前駆体50の内部に拡散浸透することによって、角形性の低下を抑制したR-T-B系希土類磁石を得ることができる。
【0021】
なお、RT2型の結晶構造を有する相26の形成を抑制するには、上述したような改質材を拡散浸透しなくても、希土類磁石前駆体50が所定割合のLaを含有していればよい。そのような希土類磁石前駆体50は、所定割合のLaを含有する溶湯を冷却して得られるが、その際、主相10もLaを含有することになる。主相10が軽希土類元素を含有すると、残留磁化が低下する。Laは軽希土類元素であるため、そのような希土類磁石前駆体50の残留磁化は低い。
【0022】
これに対して、本開示の製造方法では、改質材の拡散浸透により、粒界相20にLaを供給する。したがって、本開示の製造方法に用いる希土類磁石前駆体50は、Laを含有しなくてもよい。このことから、本開示の製造方法は、残留磁化が低下することなく、保磁力の低下を抑制し、角形性の低下を抑制できる点でも有利である。
【0023】
これまでに説明した知見に基づく、本開示の製造方法の構成要件を、以下に説明する。
【0024】
《製造方法》
本開示の製造方法は、希土類磁石前駆体準備工程、改質材拡散浸透工程、及び、任意で、熱処理工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
【0025】
〈希土類磁石前駆体準備工程〉
先ず、希土類磁石前駆体を準備する。
図1に示したように、本開示の製造方法で用いる希土類磁石前駆体50は、主相10及び粒界相20を備える。粒界相20は、主相10の周囲に存在する。
【0026】
主相は、R2T14B型の結晶構造を有する。Rは希土類元素であり、Tは遷移金属元素である。本明細書において、特に断りがない限り、希土類元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの17元素である。このうち、特に断りがない限り、Sc、Y、La、及びCeは、軽希土類元素である。また、特に断りがない限り、Pr、Nd、Pm、Sm、及びEuは、中希土類元素である。そして、特に断りがない限り、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuは、重希土類元素である。一般に、重希土類元素の希少性は高く、軽希土類元素の希少性は低い。中希土類元素の希少性は、重希土類元素と軽希土類元素の間である。なお、Scはスカンジウム、Yはイットリウム、Laはランタン、Ceはセリウム、Prはプラセオジム、Ndはネオジム、Pmはプロメチウム、Smはサマリウム、Euはユウロビウム、Gdはガドリニウム、Tbはテルビウム、Dyはジスプロシウム、Hoはホルミウム、Erはエルビウム、Tmはツリウム、Ybはイッテルビウム、そして、Luはルテニウムである。
【0027】
希土類磁石前駆体は、その組成を有する溶湯を冷却して得る。希土類磁石前駆体50の製造方法の詳細は後述する。希土類磁石前駆体50中の主相10の粒径は、溶湯の冷却速度に依存する。溶湯の冷却速度が遅いと、粒界相20にRT2型の結晶構造を有する相が多く形成される。そのため、そのような冷却速度で得られた希土類磁石前駆体50を用いるとき、本開示の製造方法は、特に有用である。そのような冷却速度で得られた希土類磁石前駆体50中の主相の平均粒径は、1.0μm以上、3.0μm以上、5.0μm以上、又は6.0μm以上であってよく、10.0μm以下、8.0μm以下、6.0μm以下、又は6.5μm以下であってよい。
【0028】
主相の平均粒径は、次のように測定される。走査型電子顕微鏡像又は透過型電子顕微鏡像で、磁化容易軸の垂直方向から観察した一定領域を規定し、この一定領域内に存在する主相に対して磁化容易軸と垂直方向に複数の線を引き、主相の粒子内で交わった点と点の距離から主相の径(長さ)を算出する(切断法)。主相の断面が円に近い場合は、投影面積円相当径で換算する。主相の断面が長方形に近い場合は、直方体近似で換算する。このようにして得られた径(長さ)の分布(粒度分布)のD50の値が、平均粒径である。
【0029】
希土類磁石前駆体は、Coを含有している。これにより、本開示の製造方法で得た希土類磁石のキュリー温度を上昇させることができ、その結果、高温での磁気特性を向上させることができる。希土類磁石前駆体の主要元素は、典型的にはFeであり、Feの一部がCoで置換されている。その割合は、Feに対して、モル比で、例えば、0.10以上、0.12以上、0.14以上、又は0.16以上であってよく、0.30以下、0.28以下、0.26以下、0.24以下、0.22以下、又は0.20以下であってよい。なお、Coはコバルトであり、そして、Feは鉄である。
【0030】
R2T14B型の結晶構造を得やすく、かつ、高い残留磁化を得やすい観点から、希土類磁石前駆体中の希土類元素は、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。希土類磁石前駆体50中の希土類元素として、典型的には、その一部を、安価な軽希土類元素で置換してもよい。軽希土類元素を含有すると、残留磁化が低下するため、所望の残留磁化を考慮して、適宜、軽希土類元素の含有割合(置換割合)を決定すればよい。
【0031】
これまで説明してきたような希土類磁石前駆体の全体組成を式で表すと、例えば、次のようになる。なお、希土類磁石前駆体の全体組成とは、希土類磁石前駆体中の主相と粒界相のすべてを合わせた組成を意味する。
【0032】
希土類磁石前駆体の組成は、例えば、モル比で、式R1
y(Fe(1-z)Coz)(100-y-w-v)BwM1
vで表すことができる。この式で、R1がyモル、Fe及びCoの合計が(100-y-w-v)モル、Bがwモル、そして、M1がvモルであることを意味する。また、Fe(1-z)Cozは、Fe及びCoの合計に対して、モル比で、(1-z)のFeが存在し、zのCoが存在していることを意味する。
【0033】
上式中、R1は、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であってよい。上式中、Feは鉄であり、Coはコバルトであり、そして、Bはホウ素である。また、M1は、Ga、Al、Cu、Au、Ag、Zn、In、及びMnからなる群より選ばれる一種以上の元素並びに不可避的不純物元素であってよい。Gaはガリウム、Alはアルミニウム、Cuは銅、Auは金、Agは銀、Znは亜鉛、Inはインジウム、そして、Mnはマンガンである。
【0034】
上述した式で表される、希土類磁石前駆体の構成元素について、次に説明する。
【0035】
・R1
R1は、本開示の製造方法で得られる希土類磁石に必須の成分である。上述したように、R1は、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。R1は、主相(R2T14B型の結晶構造を有する相)の構成元素である。残留磁化及び保磁力と価格とのバランスの観点からは、R1は、Nd及びPrからなる群より選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。R1として、NdとPrを共存させる場合には、ジジミウムを用いてもよい。
【0036】
・R1の含有割合
上式において、R1の含有割合は、yで表され、12.0≦y≦20.0を満足する。なお、yの値は、希土類磁石前駆体全体に対する含有割合であり、モル%(原子%)に相当する。
【0037】
yが12.0以上であれば、希土類磁石前駆体中に、αFe相が多量に存在することはなく、充分な量の主相(R2T14B型の結晶構造を有する相)を得ることができる。この観点からは、yは、12.5以上、13.0以上、又は13.5以上であってもよい。一方、yが20.0以下であれば、粒界相が過剰になることはない。この観点からは、yは19.0以下、18.0以下、17.0以下、16.0以下、15.0以下、14.0以下、又は13.9以下であってもよい。
【0038】
・B
Bは、主相(R2T14B型の結晶構造を有する相)を構成し、主相及び粒界相の存在割合に影響を与える。
【0039】
Bの含有割合は、上式において、wで表される。wの値は、希土類磁石前駆体全体に対する含有割合であり、モル%(原子%)に相当する。wが20.0以下であれば、主相と粒界相が適正に存在する希土類磁石前駆体を得ることができる。この観点からは、wは、18.0以下、16.0以下、14.0以下、12.0以下、10.0以下、8.0以下、6.0以下、又は5.8以下であってよい。一方、wが5.0以上であれば、Th2Zn17型及び/又はTh2Ni17型の結晶構造を有する相が多量に発生しすることは起こり難く、その結果、R2T14B型の結晶構造を有する相の形成が阻害されることが少ない。この観点からは、wは、5.2以上、5.4以上、5.5以上、又は5.7以上であってよい。
【0040】
・M1
M1は、本開示の製造方法で得られる希土類磁石の特性を損なわない範囲で含有することができる元素である。M1には不可避的不純物元素を含んでよい。本明細書において、不可避的不純物元素とは、原材料に含まれる不純物元素、又は製造工程で混入してしまう不純物元素等、その含有を回避することができない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。製造工程で混入してしまう不純物元素等には、製造上の都合により、磁気特性に影響を与えない範囲で含有させる元素を含む。また、不可避的不純物元素には、R1及びR2として選択される希土類元素以外であって、上述したような理由等で不可避的に混入する希土類元素を含む。R2については後述する。
【0041】
本開示の製造方法で得られる希土類磁石の特性を損なわない範囲で含有することができる元素M1としては、例えば、Ga、Al、Cu、Au、Ag、Zn、In、及びMnからなる群より選ばれる一種以上の元素が挙げられる。これらの元素が、M1の含有量の上限以下で存在する限りにおいて、これらの元素は、実質的に磁気特性に影響を与えない。そのため、これらの元素は、不可避的不純物元素と同等に扱ってもよい。また、これらの元素以外にも、M1として、不可避的不純物元素を含有してもよい。M1としては、Ga、Al、及びCuからなる群より選ばれる一種以上、並びに不可避的不純物元素が好ましい。
【0042】
上式において、M1の含有割合は、vで表される。vの値は、希土類磁石前駆体全体に対する含有割合であり、モル%(原子%)に相当する。vの値が、2.0以下であれば、本開示の製造方法で得られる希土類磁石の磁気特性を損なうことはない。この観点からは、vは、1.5以下、1.0以下、0.65以下、0.6以下、又は0.5以下であってもよい。M1として、Ga、Al、Cu、Au、Ag、Zn、In、及びMn並びに不可避的不純物元素を皆無にすることはできないため、vの下限は、0.05、0.1、又は0.2であっても、実用上問題はない。
【0043】
・Fe
Feは、主相(R2T14B型の結晶構造を有する相)及び粒界相を構成する主成分である。Feの一部は、Coで置換されている。
【0044】
・Co
Coは、主相及び粒界相で、Feの一部と置換されている元素である。これにより、本開示の製造方法で得られる希土類磁石のキュリー点が向上し、高温での磁気特性、特に、高温での残留磁化が向上する。
【0045】
・FeとCoのモル比
上述の式で、FeとCoのモル比は、(1-z):zである。zが0.1以上であれば、キュリー点の上昇による高温での磁気特性、特に高温での残留磁化の向上が顕著に認められる。この観点からは、zは、0.12以上、0.14以上、又は0.16以上であってもよい。一方、zが0.30以下であれば、所定割合のLaを含有する改質材を拡散浸透することにより、RT2型の結晶構造を有する相を有効に解消することができる。この観点からは、zは、0.28以下、0.26以下、0.24以下、0.22以下、又は0.20以下であってもよい。また、Coは高価であるため、上述の範囲であることは好都合である。
【0046】
・FeとCoの合計含有割合
FeとCoの合計含有割合は、これまでに説明したR
1、B、及びM
1の残部であり、(100-y-w-v)で表される。上述したように、y、w、及びvの値は、希土類磁石前駆体全体に対する含有割合であることから、(100-y-w-v)はモル%(原子%)に相当する。y、w、及びvを、これまでに説明した範囲にすると、
図1Aに示したような主相10及び粒界相20が得られる。
【0047】
・希土類磁石前駆体の製造方法
希土類磁石前駆体の製造方法は、R-T-B系希土類磁石の周知の製造方法を適用することができる。これについて、以下に概説する。
【0048】
希土類磁石前駆体の組成を有する溶湯を冷却する。溶湯の冷却方法としては、例えば、ブックモールドを用いる方法及びストリップキャスト法等が挙げられる。安定した冷却速度が得られ、かつ大量の溶湯を連続的に冷却することができる観点からは、ストリップキャスト法が好ましい。ここでは、ストリップキャスト法について、図面を用いて説明する。
図5は、ストリップキャスト法に用いる冷却装置を模式的に示す説明図である。
【0049】
冷却装置70は、溶解炉71、タンディッシュ73、及び冷却ロール74を備える。溶解炉71において原材料が溶解され、上述の組成を有する溶湯72が準備される。溶湯72はタンディッシュ73に一定の供給量で供給される。タンディッシュ73に供給された溶湯72は、タンディッシュ73の端部から自重によって冷却ロール74に供給される。
【0050】
タンディッシュ73は、セラミックス等で構成され、溶解炉71から所定の流量で連続的に供給される溶湯72を一時的に貯湯し、冷却ロール74への溶湯72の流れを整流することができる。また、タンディッシュ73は、冷却ロール74に達する直前の溶湯72の温度を調整する機能をも有する。
【0051】
冷却ロール74は、銅やクロムなどの熱伝導性の高い材料で形成されており、冷却ロール74の表面は、高温の溶湯との浸食を防止するため、クロムメッキ等が施されている。冷却ロール74は、図示していない駆動装置により、所定の回転速度で矢印方向に回転することができる。
【0052】
平均粒径が1~10μmの主相を得るには、溶湯の冷却速度は、例えば、5℃/秒以上、10℃/秒以上、又は102℃/秒以上であってよく、5×103℃/秒以下、103℃/秒以下、5℃×102℃/秒以下であってよい。このような速度で溶湯を冷却するためには、冷却ロール74の周速は、0.5m/s以上、1.0m/s以上、又は1.5m/s以上であってよく、3.0m/s以下、2.5m/s以下、又は2.0m/s以下であってよい。
【0053】
タンディッシュ73の端部から冷却ロール74に供給されるときの溶湯の温度は、1350℃以上、1400℃以上、又は1450℃以上であってよく、1600℃以下、1550℃以下、又は1500℃以下であってよい。
【0054】
冷却ロール74の外周上で冷却され、凝固された溶湯72は、磁性合金75となって冷却ロール74から剥離し、回収装置(図示しない)で回収される。磁性合金75の形態は、薄帯又は薄片が典型的である。ストリップキャスト法を用いて溶湯を冷却する際の雰囲気は、溶湯の酸化等を防止するため、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0055】
上述のようにして得た薄帯又は薄片を粉砕し、磁性粉末を得る。粉砕の方法は特に限定されないが、例えば、磁性薄帯又は磁性薄片を粗粉砕した後、ジェットミル及び/又はカッターミル等で、さらに粉砕する方法等が挙げられる。粗粉砕の方法としては、例えば、ハンマミルを用いる方法、並びに磁性薄帯及び/又は磁性薄片を水素脆化粉砕する方法等が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。
【0056】
上述のようにして得た磁性粉末を900~1100℃で焼結して、焼結体を得る。無加圧で焼結して、焼結体の密度を高めるため、長時間にわたり、高温で焼結する。焼結温度は、例えば、900℃以上、950℃以上、又は1000℃以上であってよく、1100℃以下、1050℃以下、又は、1040℃以下であってよい。このような温度で焼結することにより、磁性粉末の一部が液相状で焼結が進行する、所謂液相焼結となる。焼結時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、又は4時間以上であってよく、24時間以下、18時間以下、12時間以下、又は6時間以下であってよい。焼結中の磁性粉末の酸化を抑制するため、焼結雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0057】
焼結体の密度を向上させるため、焼結前に予め磁性粉末を圧粉し、その圧粉体を焼結してもよい。圧粉時の成形圧力は、例えば、50MPa以上、100MPa以上、200MPa以上、又は300MPa以上であってよく、1000MPa以下、800MP以下、又は600MPa以下であってよい。焼結体に異方性を付与するため、磁性粉末に磁場を印加しながら圧粉してもよい。印加する磁場は、0.1T以上、0.5T以上、1.0T以上、1.5T以上、又は2.0T以上であってよく、10.0T以下、8.0T以下、6.0T以下、又は4.0T以下であってよい。
【0058】
これまで説明した方法で得られた希土類磁石前駆体の内部に、改質材を拡散浸透する。これについて、次に説明する。
【0059】
〈改質材拡散浸透工程〉
希土類磁石前駆体の内部に、希土類元素を含有する改質材を拡散浸透する。この改質材は、Laを含有し、改質材中の希土類元素全体に対するLaのモル比xは、0.09<x<0.19を満足する。Laのモル比xを前述の範囲にすることによって、希土類磁石前駆体の粒界相に存在するRT2型の結晶構造を有する相を解消することができる。その結果、保磁力の低下を抑制し、角形性の低下を抑制することができる。
【0060】
希土類元素の融点は、一般的に高い。改質材は、典型的には、希土類元素と希土類元素以外の遷移金属元素との合金で構成されている。そのため、このような改質材の融点は、希土類元素の融点よりも低い。したがって、典型的には、希土類元素の融点よりも低い温度で、改質材を溶融することができ、改質材の融液を、希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透することができる。
【0061】
改質材中の、希土類元素以外の遷移金属元素の含有割合は、改質材の融液を、希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透できるように、適宜決定すればよい。改質材の融点を低下させることを除き、希土類磁石前駆体の粒界相に存在するRT2型の結晶構造を有する相の解消に、改質材中の希土類元素以外の遷移金属元素は、ほとんど寄与しない。そのため、希土類磁石前駆体の粒界相に存在するRT2型の結晶構造を有する相の解消については、主として、改質材中の希土類元素全体に対するLaのモル比xを考慮すればよい。
【0062】
希土類磁石前駆体の粒界相に存在するRT2型の結晶構造を有する相を、不足なく解消する観点からは、Laのモル比xは、0.09超、0.10以上、0.11以上、又は0.12以上であってよい。希土類磁石前駆体の粒界相に存在するRT2型の結晶構造を有する相が、再形成されないようにする観点からは、Laのモル比xは、0.19未満、0.18以下、0.17以下、0.16以下、0.15以下、0.14以下、又は0.13以下であってよい。
【0063】
これまで説明してきた改質材の組成を式で表すと、例えば、次のようになる。
【0064】
改質材の組成は、例えば、モル比で、式(R2
(1-x)Lax)(1-s)M2
sで表すことができる。この式において、R2及びLaの合計は(1-s)モル、そして、M2はsモルであることを意味する。また、R2
(1-x)Lax)は、R2及びLaの合計に対して、モル比で、(1-x)のR2が存在し、そして、xのLaが存在することを意味する。
【0065】
上式中、R2は、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であってよい。M2は、R2と合金化する希土類元素以外の金属元素及び不可避的不純物元素であってよい。
【0066】
上述した式で表される、改質材の構成元素について、次に説明する。
【0067】
・R2
R2は、改質材の主要元素である。上述したように、R2は、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群より選ばれる一種以上の元素であってよく、主相同士を磁気分断して、保磁力を向上させる。そのため、上述の希土類元素のうち、R2としては少なくとも一部が重希土類元素であることが好ましい。これらのことから、R2は、Nd及びTbからなる群より選ばれる一種以上の元素であることが好ましい。R2として、NdとPrを共存させる場合には、ジジミウムを用いてもよい。
【0068】
・La
これまで説明したように、Laは、希土類磁石前駆体の粒界相に存在するRT2型の結晶構造を有する相の解消に寄与する。Laの存在割合については、これまで説明したとおりであり、上式のxで、0.09超、0.10以上、0.11以上、又は0.12以上であってよく、0.19未満、0.18以下、0.17以下、0.16以下、0.15以下、0.14以下、又は0.13以下であってよい。
【0069】
・M2
M2は、R2と合金化する希土類元素以外の金属元素及び不可避的不純物元素であり、典型的には、M2は、R2
(1-s)M2
sの融点をR2の融点よりも低下させる合金元素及び不可避的不純物元素である。M2としては、例えば、Cu、Al、Co、及びFeから選ばれる一種以上の元素並びに不可避的不純物元素が挙げられる。R2
(1-s)M2
sの融点低下の観点からは、M2としては、Cuが好ましい。
【0070】
・R2とM2のモル比
R2とM2は、モル比での式R2
(1-s)M2
sで表される組成を有する合金を構成する。sは、0.05~0.40であってよい。sが0.05以上であれば、主相の粗大化を回避できる温度で、改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透することができる。この観点からは、sは、0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましい。一方、sが0.40以下であれば、改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透した後、希土類磁石の粒界相に残留するM2の含有量を抑制して、残留磁化の低下の抑制に寄与する。この観点からは、sは、0.35以下、0.30以下、0.25以下、0.20以下、又は0.18以下であってもよい。
【0071】
上述の組成を有する改質材を準備する方法については、特に制限はなく、周知の方法を採用することができる。例えば、改質材の組成を有する溶湯から、液体急冷法又はストリップキャスト法等を用いて薄帯及び/又は薄片等を得る方法が挙げられる。この方法では、溶湯が急冷されるため、改質材中に偏析が少なく、好ましい。また、改質材を準備する方法としては、例えば、ブックモールド等の鋳型に、改質材の組成を有する溶湯を鋳造することが挙げられる。この方法では、比較的簡便に多量の改質材を得られる。改質材の偏析を少なくするためには、ブックモールドは、熱伝導率の高い材料でできていることが好ましい。また、鋳造材を均一化熱処理して、偏析を抑制することが好ましい。さらに、改質材を準備する方法としては、容器に改質材の原材料を装入し、その容器中で原材料をアーク溶解して、その溶融物を冷却して鋳塊を得る方法が挙げられる。この方法では、原材料の融点が高い場合でも、比較的容易に改質材を得ることができる。改質材の偏析を少なくする観点から、鋳塊を均一化熱処理することが好ましい。
【0072】
改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透する方法については、特に制限はなく、周知の方法を採用することができる。典型的には、希土類磁石前駆体に改質材を接触させて接触体を得て、その接触体を加熱して、改質材の融液を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透することが挙げられる。
【0073】
接触体の態様については、希土類磁石前駆体に改質材が接触していれば、特に制限はない。接触体の態様としては、希土類磁石前駆体にストリップキャスト法で得た薄帯及び/又は薄片の改質材を接触させた態様、あるいは、ストリップキャスト材、ブックモールド材、及び/又はアーク溶解凝固材を粉砕した改質材粉末を希土類磁石前駆体に接触させる態様等が挙げられる。
【0074】
拡散浸透温度は、改質材が希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透し、かつ、主相が粗大化しない温度であれば特に制限はない。典型的には、拡散浸透温度は、改質材の融点以上、希土類磁石前駆体を得るときの焼結温度以下である。拡散浸透温度は、例えば、750℃以上、775℃以上、又は800℃以上であってよく、1000℃以下、950℃以下、925℃以下、又は900℃以下であってよい。
【0075】
改質材の拡散浸透中は、希土類磁石前駆体及び/又は改質材の酸化を抑制するため、拡散浸透雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【0076】
改質材の拡散浸透を、後述する熱処理と兼ねてもよい。この場合には、改質材の加熱及び冷却条件を、熱処理の条件を参考にして適宜決定すればよい。これにより、改質材の拡散浸透で主相同士を磁気分断するとともに、主相と粒界相との界面を整合して、磁気特性、特に保磁力が向上する。
【0077】
本開示の製造方法では、所定割合のLaを含有する改質材を希土類磁石前駆体の内部に拡散浸透することにより、RT2型の結晶構造を有する相を解消する。改質材を拡散浸透する前の希土類磁石前駆体においては、保磁力が非常に小さいが、改質材中のLa以外の希土類元素を拡散浸透することによって、主相同士を磁気分断し、保磁力が著しく向上する。そのため、改質材の拡散浸透量は、従来と同等程度とすることができる。改質材の拡散浸透量は、例えば、モル比で、100部の希土類磁石前駆体に対して、0.1部以上、0.5部以上、1.0部以上、1.5部以上、2.0部以上、2.3部以上、2.5部以上、3.0部以上であってよく、10.0部以下、9.0部以下、8.0部以下、7.0部以下、6.0部以下、5.0部以下、4.0部以下、又は3.5部以下であってよい。特に、改質材の拡散浸透量は、2.0部以上、2.3部以上、2.5部以上、又は3.0部以上であってよく、6.0部以下、5.5部以下、又は5.0部以下であってよい。
【0078】
〈熱処理工程〉
主相の粒径が1~10μmの場合には、改質材の拡散浸透の前及び/又は後に、任意で、希土類磁石前駆体を熱処理して、主相と粒界相との界面を整合し、磁気特性、特に保磁力を向上させてもよい。熱処理中の希土類磁石前駆体の酸化を抑制するため、熱処理雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。このような熱処理としては、450~650℃で30~180分にわたり、好ましくは、500~600℃で45~90分にわたり、希土類磁石前駆体を熱処理することが挙げられる。
【0079】
《変形》
これまで説明してきたこと以外でも、本開示の製造方法は、特許請求の範囲に記載した内容の範囲内で種々の変形を加えることができる。これまでの説明では、希土類磁石前駆体は焼結体であったが、これに限られず、例えば、所謂二合金法を採用することができる。具体的には、粉末状の希土類磁石前駆体を準備し、これと改質材粉末を混合して、焼結すること等が挙げられる。焼結温度及び焼結時間は、無加圧焼結と改質材の拡散浸透とを兼ねるように、適宜決定することができる。焼結温度としては、例えば、900℃以上、950℃以上、又は1000℃以上であってよく、1100℃以下、1050℃以下、又は、1040℃以下であってよい。焼結時間としては、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、又は4時間以上であってよく、24時間以下、18時間以下、12時間以下、又は6時間以下であってよい。焼結中の希土類磁石前駆体及び改質材の酸化を抑制するため、焼結雰囲気は、不活性ガス雰囲気が好ましい。不活性ガス雰囲気には、窒素ガス雰囲気を含む。
【実施例】
【0080】
以下、本開示の製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
【0081】
《試料の準備》
次の手順で、実施例1及び比較例1~8の試料を準備した。
【0082】
表1-1及び表1-2に示す組成のストリップキャスト材(磁性薄帯)を準備した。このストリップキャスト材を水素脆化で粗粉砕した後、さらにジェットミルを用いて粉砕し、磁性粉末を得た。磁性粉末を1050℃で4時間にわたり無加圧焼結(無加圧液相焼結)した。焼結後、焼結体を室温まで冷却し、希土類磁石前駆体を得た。希土類磁石前駆体に改質材薄帯を接触させ、接触体を得た。接触体を950℃で165分にわたり加熱し、希土類磁石前駆体の内部に改質材を拡散浸透した。そして、拡散浸透後の希土類磁石前駆体を1.0℃/分の速度で室温まで冷却し、その後、これを550℃で60分にわたり熱処理して、各試料を得た。ただし、比較例8の試料については、熱処理温度を500℃とした。
【0083】
《評価》
振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて、各試料の磁気特性を27℃で測定した。
【0084】
各試料について、SEM(Scanning Electron Microscope)観察を行い、主相の平均粒径を求めた。また、SEM-EDX(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscope)を用いて、Fe、Co、Nd、Tb、及びLaについて面分析した。
【0085】
結果を、表1-1及び表1-2並びに
図6~10に示す。
図6は、各試料について、改質材中の希土類元素全体に対するLaのモル比xと角形比(Hr/Hc)の関係を示すグラフである。
図7は、各試料の減磁曲線を示すグラフである。
図8は、実施例1の試料について、SEM像及び面分析結果を示す説明図である。
図9は、比較例1の試料について、SEM像及び面分析結果を示す説明図である。
図10は、比較例5の試料について、SEM像及び面分析結果を示す説明図である。
図8~
図10の面分析結果については、該当元素の濃度が高い部位が明視野である。
【0086】
【0087】
【0088】
表1及び
図6~7から分かるように、xが0.09<x<0.19の範囲では、角形性の低下が抑制されていることが理解できる。また、
図8~
図10において、Feの面分析結果が暗視野であり、かつCoの面分析結果が明視野である部位が、RT
2型の結晶構造を有する相が存在している部位である。このような部位が、実施例1の試料では、僅かに認められるだけである。これに対して、Laを実質的に含有していない改質材を拡散浸透した比較例1の試料では、このような部位が、隣接部等に多く認められる。また、Laを過剰に含有する改質材を拡散浸透した比較例5の試料では、このような部位が三重点に多く認められ、RT
2型の結晶構造を有する相が再形成されていると考えられる。また、隣接部には、過剰なLaが存在していることが認められる。
【0089】
以上の結果から、本開示の製造方法の効果を確認できた。
【符号の説明】
【0090】
10 主相
20 粒界相
22 隣接部
24 三重点
26 RT2型の結晶構造を有する相
28 La相
50 希土類磁石前駆体
70 冷却装置
71 溶解炉
72 溶湯
73 タンディッシュ
74 冷却ロール
75 磁性合金
100 希土類磁石