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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】電動車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/04 20060101AFI20250121BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20250121BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
F02N11/04 D
F02D41/06
F02D45/00 364A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021154214
(22)【出願日】2021-09-22
(65)【公開番号】P2023045666
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧村 健
(72)【発明者】
【氏名】南部 耕二
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸一
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-155357(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/108813(JP,A1)
【文献】特開2010-163992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 1/00-99/00
F02D 41/00-41/40
F02D 43/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットル弁を含む内燃機関と、前記内燃機関を駆動可能な第1回転電機と、を有する電動車両の制御装置であって、
前記内燃機関の水温に基づいて想定される前記内燃機関の始動のためのファイアリングを実行する前までの期間である前記内燃機関の起動時の出力として算出される第1出力と、前記第1回転電機が前記内燃機関を駆動してモータリングする、前記内燃機関の起動時の前記第1回転電機によって駆動された前記内燃機関の出力である第2出力との差に基づいて、前記内燃機関の始動時の吸入吸気量を学習する第1学習制御を実行し、
記第1学習制御によって学習した吸入吸気量となるように前記スロットル弁を制御した後、前記内燃機関の始動のための燃料噴射及びファイアリングを行う
電動車両の制御装置。
【請求項2】
前記モータリングに基づくエンジン回転数又はエンジン出力の変動が所定範囲内になった以降、前記第1学習制御を実行する、
請求項1に記載の電動車両の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関が完爆した以降は、前記第1出力に前記第1出力と前記第2出力の差分の値である第1学習値を反映した第3出力と、前記第2出力との差に基づいて前記吸入吸気量を学習する第2学習制御を実行する、
請求項1または2に記載の電動車両の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、前記内燃機関の水温を検知する水温検知部と、前記内燃機関の油温を検知する油温検知部と、を含み、
前記電動車両の制御装置は、前記第1出力と前記第2出力との差が所定出力以上、かつ、前記水温と前記油温の差が所定温度より小さい場合、前記内燃機関に投入される油種が前記第1出力の算出に用いた油種と異なることを判定する、
請求項1からのいずれか1項に記載の電動車両の制御装置。
【請求項5】
油種が異なることを判断した場合、前記判断した際の前記第1出力と前記第2出力との差に基づいて前記吸入吸気量を補正する、
請求項に記載の電動車両の制御装置。
【請求項6】
前記電動車両は、駆動用電池と、前記駆動用電池を前記電動車両の外部電源から充電する外部充電装置と、を有し、
前記電動車両の制御装置は、前記外部電源から前記駆動用電池を充電した場合、前記第1学習制御の実行時間を長くする、
請求項1からのいずれか1項に記載の電動車両の制御装置。
【請求項7】
前記第1回転電機が前記内燃機関を駆動する際の、前記電動車両に要求されるドライバ要求出力が高いほど、前記第1学習制御の実行時間を短くする、
請求項1からのいずれか1項に記載の電動車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関と、内燃機関を駆動可能なジェネレータと、を備えた電動車両の制御装置が知られている(例えば、特許文献1、および特許文献2参照)。特許文献1の電動車両の制御装置は、内燃機関の始動後のアイドル回転数を安定させるために、内燃機関の冷却水温に応じたフリクショントルク学習値を用いている。また、特許文献2の電動車両の制御装置では、内燃機関をクランキングする際のフリクショントルクを検出し、このフリクショントルク分のトルクを加算して内燃機関を始動させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-155357号公報
【文献】特開2015-164831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電動車両の制御装置では、内燃機関を始動させる際のトルクを補正することができない。このため、内燃機関を始動した直後に内燃機関の出力が低下するおそれがある。一方、特許文献2の電動車両の制御装置では、油温や水温の変化によって始動時の内燃機関の出力が不足するおそれがある。これによって、内燃機関の始動不良や、始動したとしても内燃機関が始動したのち目標とする出力に達するまで時間を要するおそれがある。このような電動車両の制御装置では、内燃機関の始動直後から発電機による発電ができるように、内燃機関が始動したのち速やかに目標とする出力を発揮できることが好ましい。
【0005】
本開示の課題は、内燃機関が始動したのち速やかに目標とする出力を発揮しやすい電動車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電動車両の制御装置は、スロットル弁を含む内燃機関と、内燃機関を駆動可能な第1回転電機と、を有する電動車両の制御装置である。電動車両の制御装置は、内燃機関の水温に基づいて想定される内燃機関の始動のためのファイアリングを実行する前までの期間である内燃機関の起動時の出力として算出される第1出力と、第1回転電機が内燃機関を駆動してモータリングする、内燃機関の起動時の第1回転電機によって駆動された内燃機関の出力である第2出力との差に基づいて、内燃機関の始動時の吸入吸気量を学習する第1学習制御を実行する。電動車両の制御装置は、1学習制御によって学習した吸入吸気量となるようにスロットル弁を制御した後、内燃機関の始動のための燃料噴射及びファイアリングを行う

【0007】
この電動車両の制御装置によれば、水温に基づいて算出される第1出力と、第1回転電機が内燃機関を実際に駆動する際の第1回転電機の出力である第2出力と、の差に基づいた第1学習制御によって、内燃機関の始動前に内燃機関の始動時の吸入吸気量を的確に学習できる。これによって、内燃機関が始動したのち速やかに目標とする出力が発揮されやすい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、内燃機関が始動したのち速やかに目標とする出力を発揮しやすい電動車両の制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態による電動車両のシステム図。
図2】本開示の実施形態による内燃機関のシステム図。
図3】本開示の実施形態による電動車両の制御装置の制御手順を示すフローチャート。
図4】本開示の実施形態による電動車両の制御装置による制御時の内燃機関の出力および回転数を示すタイミングチャート。
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、車両の前後方向をQと図面に記し、前方をFと記す。また、車両の車幅方向をPと図面に記し、車両の後方からみて右側をRと記す。
【0011】
図1に示すように、本実施形態による電動車両1は、四輪駆動型のプラグインハイブリッド自動車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)である。電動車両1は、内燃機関(ENG)2と、発電機(第1回転電機の一例:GEN)4と、フロントモータ(第2回転電機の一例:FrM)6と、リアモータ(RM)8と、駆動用電池(BT)10と、制御装置(HVECU)20と、アクセルペダル21と、外部充電装置22と、を有する。また、本実施形態では電動車両1は、内燃機関2のクランクシャフトが車幅方向に延びて配置される内燃機関横置き型の電動車両1である。
【0012】
本実施形態の電動車両1は、フロントモータ6がトランスアクスル16を介して前輪12の前輪駆動軸12aを駆動する。リアモータ8は、減速機8cを介して後輪14の後輪駆動軸14aを駆動する。フロントモータ6は、フロントインバータ18を介して駆動用電池10と接続され、駆動用電池10から電力(第2電力)が供給される。
【0013】
フロントインバータ18は、フロントモータ制御装置(FrMCU)6aと、発電機4を制御する発電機制御装置(GCU)4aと、を有する。フロントモータ制御装置6aは、制御装置20から信号を取得し、フロントモータ6が所望の運転状態となるようにフロントモータ6の回生と力行を制御する。リアモータ8も同様に、リアインバータ8bを介して駆動用電池10と接続され、駆動用電池10から電力(第2電力)が供給される。リアインバータ8bは、リアモータ制御装置(RMCU)8aを有する。リアモータ制御装置8aは、制御装置20から信号を取得し、リアモータ8が所望の運転状態となるようにリアモータ8の回生と力行を制御する。
【0014】
図2に示すように、内燃機関2は、スロットル弁2bと、吸気ポート2cと、燃料噴射弁2dと、水通路2eと、水温センサ(水温検知部の一例)2fと、オイルパン2gと、油温センサ(油温検知部の一例)2hと、を有する。内燃機関2は、本実施形態では、マルチインジェクション方式のガソリンエンジンである。内燃機関2は、吸気ポート2cに配置された燃料噴射弁2dによって燃料を噴射し、スロットル弁2bによって吸入空気量を調整することにより出力を調整する。具体的には、内燃機関2は、エンジン制御装置2aが目標充填効率Ecから図示しないエアフロセンサで検知した大気温度を取得し、目標吸入空気量Qtを演算する。エンジン制御装置2aは、目標吸入空気量Qtから目標スロットル流量Qthを演算する。エンジン制御装置2aは、この目標スロットル流量Qthに対して、スロットル流量係数Kthをかけ合わせることによって、スロットル開度ThOを演算する。このようにエンジン制御装置2aがスロットル弁2bのスロットル開度ThOを調整することによって、内燃機関2に供給される吸入空気量が調整される。なお、内燃機関2は、直噴方式のガソリンエンジンであってもよい。また、内燃機関2は、マルチインジェクション方式および直噴方式を併用するガソリンエンジンであってもよい。さらに、これらスロットル弁2bの制御を制御装置20によって実行してもよい。
【0015】
水通路2eは、内燃機関2を冷却する冷却水が流れる通路である。水通路2eは、内燃機関2を冷却したのち、図示しないラジエタを通過して再び内燃機関2に戻る。水温センサ2fは、水通路2e上に設けられ、水通路2eを流れる冷却水の温度を検知する。本実施形態では、シリンダーブロックに設けられる水通路2eに水温センサ2fが設けられるが、水温センサ2fは冷却水の温度(水温Wt)が検知できれば、水通路2e上のいずれの場所に設けられてもよい。オイルパン2gは内燃機関2に供給されるオイルを収集する。内燃機関2には、図示しないオイル通路が設けられ、クランクシャフトなど回転部分の潤滑や、ピストンなどが冷却される。油温センサ2hは、オイルの温度(油温Ot)を検知する。本実施形態では、油温センサ2hはオイルパン2gに設けられるが、油温センサ2hは、オイルの温度が計測できれば、オイル通路上のいずれの場所に設けてもよい。本実施形態では、水温センサ2fおよび油温センサ2hは、エンジン制御装置2aに電気的に接続される。しかし、水温センサ2fおよび油温センサ2hは、制御装置20と電気的に接続されてもよい。
【0016】
内燃機関2は、トランスアクスル16を介して発電機4を駆動する。内燃機関2は、燃料タンク(Fuel TANK)23から供給される燃料が燃焼することで駆動する。内燃機関2の各種装置および各種センサは、エンジン制御装置(ENG-ECU)2aと電気的に接続される。エンジン制御装置2aは、制御装置20からの信号を取得し、内燃機関2が所望の運転状態となるように制御する。トランスアクスル16は、内燃機関2の回転速度を増幅し、発電機4に伝達する。また、本実施形態のトランスアクスル16は、クラッチ16aを有する。クラッチ16aは、内燃機関2とフロントモータ6との間および内燃機関2と前輪駆動軸12aとの間で動力を伝達および遮断する。内燃機関2は、トランスアクスル16のクラッチ16aを介して前輪駆動軸12aに接続され、前輪駆動軸12aを駆動する。
【0017】
図1に示すように、発電機4は、内燃機関2と接続され、内燃機関2によって駆動されることにより発電する。発電機4によって発電された電力(第1電力)は、駆動用電池10を充電可能であるとともに、フロントインバータ18およびリアインバータ8bを介して各モータに供給可能である。本実施形態では、発電機4はモータジェネレータであり、発電に加えて内燃機関2を回転駆動することによって内燃機関2をクランキングまたはモータリングすることができる。発電機4は、内燃機関2から駆動される場合、発電機4に負荷を与えることで発電する。一方、発電機4は、駆動用電池10から電力が供給され力行することによって内燃機関2を駆動しクランキングまたはモータリングさせる。発電機4は、フロントインバータ18に設けられた発電機制御装置4aによって制御される。発電機制御装置4aは、制御装置20と電気的に接続され、制御装置20からの信号を取得し、発電機4が所望の運転状態となるように発電と力行を制御する。
【0018】
駆動用電池10は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成され、複数の電池セルがまとめて構成された図示しない電池モジュールを有する。駆動用電池10は、各モータの電源として機能する。さらに駆動用電池10は、電池モニタリングユニット(BMU)10aを有する。電池モニタリングユニット(BMU)10aは、電池モジュールの充電率(State Of Charge、以下、SOCと記す)の算出、電池モジュールの劣化状態(State Of Health 以下 SOH)、電池モジュールの電圧Bv、および電池温度Btmpの検出を行う。電池モニタリングユニット10aは、駆動用電池10の電圧Bv、充電率SOC、劣化状態SOH、および電池温度Btmpを取得し、制御装置20に送信する。
【0019】
制御装置20は、少なくとも走行モードの切り替えをする制御と、各走行モードにおいて、内燃機関2に発電させる発電制御と、内燃機関2を発電機4によって駆動するモータリング制御と、電動車両1を回生制動と摩擦制動とを用いて回生協調制動する制御と、を実行する。
【0020】
本実施形態では、制御装置20は、速度V、充電率SOC、およびアクセル開度Thなどの情報に基づいて、クラッチ16aを制御することによって、シリーズモード(シリーズ走行モード)、パラレルモード(パラレル走行モード)、およびEVモード(EV走行モード)の中から、いずれかにひとつの走行モードに切り替える。パラレルモードでは、制御装置20は、クラッチ16aを接続し、内燃機関2とフロントモータ6の両方よって前輪駆動軸12aを駆動する。このとき、フロントモータ6には、駆動用電池10からの電力(第2電力)、および発電機4で発電した電力(第1電力)のいずれか一方、または両方が供給される。リアモータ8も同様に駆動用電池10からの電力(第2電力)、および発電機4で発電した電力(第1電力)のいずれか一方、または両方が供給され、後輪駆動軸14aを駆動する。EVモードでは、制御装置20は、クラッチ16aを開放し、駆動用電池10の電力(第2電力)を各モータに供給し、各モータが前輪駆動軸12aおよび後輪駆動軸14a(以下明細書において各駆動軸と記す)を駆動する。
【0021】
シリーズモードでは、制御装置20は、クラッチ16aを開放し、内燃機関2で発電機4を駆動し、発電機4で発電した第1電力を各モータに供給する。また、第1電力によっては各モータが各駆動軸を駆動する駆動力が不足する場合、駆動用電池10からも各モータに第2電力が供給される。なお、パラレルモード、およびシリーズモードにおいて、内燃機関2によって発電した発電電力の一部を駆動用電池10に供給することによって駆動用電池10を充電してもよい。
【0022】
制御装置20は、パラレルモード、シリーズモード、およびEVモードの各走行モードにおいて、発電機4が発電すべき発電量として要求発電量GEqを演算する。制御装置20は、要求発電量GEqを達成できるように発電機4に負荷を与える。また、制御装置20は、内燃機関2が発電機4を駆動できるように内燃機関2に要求する出力(トルク)であるエンジン要求トルクETqを演算し、エンジン制御装置2aに送信する。エンジン制御装置2aは、エンジン要求トルクETqを取得し、エンジン要求トルクETqを達成できるように、内燃機関2を制御する。制御装置20は、実際には、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等と、を含むマイクロコンピュータによって構成される。制御装置20は、各センサおよび各種装置からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、電動車両1が、所望の運転状態となるように各装置を制御する。なお、本実施形態では、制御装置20は、後述するドライバ要求トルクDTqを基準として内燃機関2および各モータが出力すべきトルクを演算するトルクベース制御を実行する。したがって、以下明細書において出力の意味は、トルクと同じである。
【0023】
また、本実施形態では、エンジン制御装置2a、発電機制御装置4a、フロントモータ制御装置6a、リアモータ制御装置8a、および電池モニタリングユニット10aを含む各種制御装置が、それぞれ制御装置20と別に設けられる。各種制御装置は、それぞれ制御装置20と電気的に接続される。しかし、各種制御装置は、制御装置20と一体で設けられてもよい。各種制御装置は、制御装置20と同様に、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等と、を含むマイクロコンピュータによって構成される。
【0024】
アクセルペダル21は、電動車両1のドライバが踏み込み操作することで、電動車両1の加減速を制御するペダルである。アクセルペダル21には、踏み込み位置を検知するアクセルポジションセンサ21aが設けられる。アクセルポジションセンサ21aは、制御装置20と電気的に接続され、制御装置20にアクセル踏み込み位置(アクセル開度Th)を送信する。制御装置20は、アクセル開度Thからドライバ要求トルク(ドライバ要求出力の一例)DTqを演算する。
【0025】
外部充電装置22は、駆動用電池10の電力を、電動車両1の外部電源から充電する(以下明細書において外部充電と記す)装置である。外部充電装置22は、例えば電動車両1の外部にある充電設備から電力の供給を受ける。外部充電装置22は、外部電源から供給された電力を駆動用電池10の充電に適した電力に変換し、駆動用電池10を充電する。
【0026】
次に、図3のフローチャートおよび図4のタイミングチャートを用いて、本実施形態の制御装置20の制御手順について説明する。なお、下記の制御手順は、制御装置20のみならずエンジン制御装置2aを用いて実行させてもよいが、本実施形態では制御装置20が制御手順を実行する場合について説明する。制御装置20は、図示しないイグニッションスイッチがオンされることで、制御動作を開始する。
【0027】
図3に示すように、ステップS1において、制御装置20は、内燃機関2を運転させるためのエンジン要求トルクETqを演算し、内燃機関2を始動させるための準備をする。制御装置20が内燃機関2を始動させる場合とは、シリーズ走行モードにおいて発電機4によって発電させる必要が発生した場合、またはパラレル走行モードに切り替わる場合である。制御装置20は、エンジン要求トルクETqを演算(算出)すると、水温センサ2fで検知した水温Wtに基づいて、内燃機関2の起動時に内燃機関2が出力すると想定されるトルク(第1出力の一例、以下明細書において水温推定トルクTwと記す)を演算(算出)する。内燃機関2の起動時とは、内燃機関2をモータリング(クランキング)している期間を示している。すなわち、起動時とは、制御装置20がファイアリングを実行し内燃機関2を始動するまでの期間である。本実施形態では制御装置20は、内燃機関2のオイルとして予め設定した油種(例えば0W20等)と、この設定した油種を用いた場合に水温Wtにおいて想定される内燃機関2に発生する摩擦抵抗分およびポンプ損失分のトルクであるフリクショントルクを予め記憶している。制御装置20は、エンジン要求トルクETqにから内燃機関2に発生し得るフリクショントルクを加算して水温推定トルクTwを演算する。制御装置20は、この水温推定トルクTwから内燃機関2のシリンダに吸入させる目標吸入空気量Qtと、燃料噴射量を演算する。
【0028】
また、制御装置20は、発電機4が内燃機関2をモータリング(クランキング)させる際に発電機4が駆動した内燃機関2の出力軸の軸トルク(第2出力の一例、以下明細書において実トルクTrと記す)を検知する。モータリング(クランキング)させる際は発電機4が内燃機関2を駆動するため、制御装置20は発電機4に供給する電力量から実トルクTrを検知できる。したがって、発電機4が検知する内燃機関2の軸トルクは、内燃機関2の出力軸の実際のトルクに相当する。なお、発電機4と内燃機関2は軸を介して接続されているため、内燃機関2の出力やトルクは発電機4によって検出可能である。したがって、内燃機関2の出力やトルクは、発電機4の出力やトルクから演算して求めることができる。すなわち、内燃機関2の出力やトルクは、発電機4の出力やトルクに変換できる。このため、内燃機関2の出力やトルクは発電機4の出力やトルクと実質同一に扱ってもよい。具体的には、内燃機関2の出力(トルク)として用いた水温推定トルクTwや実トルクTrに代えて、これに相当する発電機4の出力やトルクを用いて下記の制御を実行してもよい。図4の時刻t0から時刻t1に示すように、ステップS1において制御装置20は、水温推定トルクTwの演算および実トルクTrの検知を開始するが、このとき内燃機関2のモータリング(クランキング)は開始していない。図3に示すように、制御装置20は、水温推定トルクTwおよび実トルクTrを検知すると、ステップS2に処理を進める。
【0029】
ステップS2において制御装置20は、内燃機関2を発電機4によってモータリング(クランキング)する。図4の時刻t1から時刻t2に示すように、内燃機関2をモータリング(クランキング)させると内燃機関2のエンジン回転数が上昇する。しかし、内燃機関2をモータリング(クランキング)させた直後は、水温推定トルクTw、および実トルクTrがともに安定しない。
【0030】
このため、制御装置20は、図3に示すようにステップS3においてモータリング(クランキング)が安定したか否か判断する。ここで、モータリング(クランキング)が安定した状態とは、モータリング(クランキング)に基づくエンジン回転数、またはエンジン出力の変動が所定範囲内になった状態であればよい。制御装置20は、モータリング(クランキング)を開始してから所定時間経過した場合、上記状態となりモータリング(クランキング)が安定したと判定してもよい。また、制御装置20は、実トルクTrの変化を検知し、実トルクTrの変化が所定範囲内となった場合に、モータリング(クランキング)が安定したと判断してもよい。制御装置20は、モータリング(クランキング)が安定するまでは、後述する第1学習制御の実行を禁止している。制御装置20は、モータリング(クランキング)が安定したと判断すると(ステップS3 YES)、ステップS4に処理を進める。制御装置20は、ステップS3においてモータリング(クランキング)が安定しない場合(ステップS3 NO)、ステップS2に処理を戻し、モータリング(クランキング)が安定するまで、内燃機関2のモータリング(クランキング)を継続する。
【0031】
ステップS4において、制御装置20は、実トルクTrと水温推定トルクTwの値の差の絶対値を演算し、絶対値が所定トルク(所定出力の一例)Td以上か否か判断する。このような電動車両1では、EVモードによって走行する場合および減速する場合に内燃機関2を停止させる。このため、このような電動車両1では、内燃機関2の始動と再始動を繰り返す。この結果、実トルクTrと水温推定トルクTwに乖離がある場合、設定した油種と異なる場合に加えて、水温Wtのみが上昇し、油温Otが上昇していない場合もある。そこで、制御装置20は、ステップS4において実トルクTrと水温推定トルクTwの乖離の有無を判断し、後述する第1学習制御の演算に用いる。制御装置20は、実トルクTrと水温推定トルクTwの値の差の絶対値を演算し、絶対値が所定トルクTdよりも大きい場合(ステップS4 YES)、ステップS5に処理を進める。
【0032】
ステップS5において制御装置20は、水温Wtと油温Otとの差の絶対値が所定温度Dtmp以内か否か判断する。油温Otは、水温Wtに比べて内燃機関2が始動してから上昇するまでの時間が長い。特に、内燃機関2の再始動を繰り返す電動車両1では、このような油温Otと水温Wtの乖離が発生しやすい。そこで、制御装置20は、ステップS5において、油温Otと水温Wtの乖離の有無を判断し、乖離の有無に応じた制御を実行する。制御装置20は、水温Wtと油温Otとの差の絶対値が所定温度Dtmpより大きい(ステップS5 NO)と判断すると、ステップS6に処理を進める。
【0033】
ステップS6において、制御装置20は、第1学習制御を開始する。図4の時刻t2から時刻t3は、モータリング(クランキング)中の実トルクTrと水温推定トルクTwの値の差の絶対値を演算し、絶対値が所定トルクTdより大きい場合の、実トルクTrおよび水温推定トルクTwの値を示したグラフである。図4のグラフでは、水温推定トルクTwが実トルクTrよりも高いトルクである。言い換えると、図4のグラフは、水温推定トルクTwに用いたフリクショントルクよりも、実際のフリクショントルクが大きい場合を示している。
【0034】
制御装置20は、このように実トルクTrと水温推定トルクTwとの間に所定トルクTd以上の乖離がある場合、実トルクTrと水温推定トルクTwとの差分トルクを第1学習値として記録する第1学習制御を実行する。第1学習制御は、モータリング(クランキング)が安定したのち、所定期間の間(例えば図4の時刻t2から時刻t3の間)の実トルクTrと水温推定トルクTwとの差分トルクを記録し、それらの平均値を演算し第1学習値としてもよい。また、時刻t3、または時刻t3直前における実トルクTrと水温推定トルクTwとの差分トルクを第1学習値として記録してもよい。
【0035】
さらに、制御装置20は、モータリング(クランキング)する際のドライバ要求トルクDTqが高いほど、第1学習制御を実行する時間(実行時間)を短くしてもよい。学習時間は長ければ長いほど精度の良い学習ができる。しかし、ドライバ要求トルクDTqが高い場合、学習よりもドライバビリティを優先した方がよい場合もある。制御装置20は、このようにドライバ要求トルクDTqに応じて、学習精度とドライバビリティのいずれかを優先するように制御してもよい。いずれにせよ、制御装置20は、モータリング(クランキング)中に第1学習制御を開始し、第1学習値を記録する。制御装置20は、第1学習制御を開始すると、ステップS7に処理を進める。
【0036】
ステップS7において制御装置20は、外部充電の有無を判断する。制御装置20は、外部充電がない場合(ステップS7 NO)、ステップS8に処理を進める。ステップS8において制御装置20は、第1学習値を取得する。上記のとおり第1学習値は、実トルクTrと水温推定トルクTwとの差分トルクである。制御装置20は、第1学習値を取得するとステップS9に処理を進める。
【0037】
ステップS9において制御装置20は、第1学習値を反映させて、目標吸入空気量Qtを補正する。具体的には、制御装置20は、差分トルクに基づいて内燃機関2に供給する目標吸入空気量Qtの補正量を演算する。例えば、水温推定トルクTwが実トルクTrよりも高いトルクである場合、フリクショントルクが想定よりも大きい。したがって、差分トルクは負の値である。このため制御装置20は、目標吸入空気量Qtを増加させるために、スロットル弁2bのスロットル開度ThOが大きくする補正制御を実行する。制御装置20は、目標吸入空気量Qtの増加に応じて、燃料噴射量も増加させるように制御を実行する。一方、水温推定トルクTwが実トルクTrよりも低いトルクである場合、フリクショントルクが想定よりも小さい。このため、制御装置20は、目標吸入空気量Qtを減らしスロットル開度ThOを小さくし、燃料噴射量も少なくなるように制御を実行する。制御装置20は、第1学習値を反映させた目標吸入空気量Qtの補正と、スロットル弁2bの開度の補正制御を実行すると、ステップS10において、点火プラグ2iを点火させてファイアリングを開始する。
【0038】
図4の時刻t3から時刻t4に示すように、本実施形態では、この間にファイアリングと燃料噴射が実行される。具体的には、時刻t3において燃料噴射とファイアリングが実行される。本実施形態では、図4の時刻t3における水温推定トルクTwの変化に示すように、時刻t3でファイリングが実行されると、第1学習値が反映された吸入空気量による燃焼トルクが加わる。制御装置20は、この第1学習値が反映された燃焼トルクを含めたエンジン推定トルクTw1の演算を開始する。なお、時刻t3から時刻t4の間は、ファイアリングの影響を考慮し、制御装置20は第1学習制御の実行を禁止する。制御装置20は、ファイアリングするとステップS11に処理を進める。
【0039】
ステップS11において、制御装置20は、完爆していることを判定する。完爆とは、内燃機関2のシリンダ内の混合気に着火した状態を示す。本実施形態では制御装置20は、内燃機関2の回転が安定したか否かを検知することによって完爆を判定する。しかし、制御装置20は、実トルクTrの変動が減少したか否かによって完爆を判定してもよい。制御装置20は、完爆するとステップS12へ処理を進める。
【0040】
ステップS12において、制御装置20は、内燃機関2が完爆した以降は第1学習値を反映した内燃機関2のエンジン推定トルクTw1(第3出力の一例)と、実トルクTrとの差に基づいて吸入吸気量を学習する第2学習制御を実行する。このとき、制御装置20は、実トルクTrを、発電機4の発電量に基づいて検知する。図4の時刻t4以降に示すように、制御装置20は完爆した以降は内燃機関2を所定回転数および所定負荷に維持しつつ内燃機関2の運転を安定させる。本実施形態では、制御装置20は、エンジン要求トルクETqを一定にしながら所定回転に維持し発電機4に所定負荷を与えて発電する。このとき、油温Otは上昇し水温Wtに近づいていく。
【0041】
図4の時刻t4以降に示すように、制御装置20は、エンジン推定トルクTw1と実トルクTrの差分(図4のX参照)に基づいて、第2学習値を記録する。図4の第2学習値のグラフに示すように、制御装置20は、第2学習値をリアルタイムで記録し目標吸入空気量Qtの補正、およびスロットル開度ThOの補正をリアルタイムで実行する。これによって、油温Otの上昇に合わせたフリクショントルクの減少分を補正している。この結果、実トルクTr(発揮する出力)をエンジン要求トルクETqに速やかに合わせることができる。制御装置20は、第2学習制御を実行すると、処理をステップS1に戻し、次の内燃機関2の再始動時に同様の制御手順を行う。
【0042】
ステップS4において、制御装置20は、実トルクTrと水温推定トルクTwの値の差の絶対値を演算し、絶対値が所定トルクTdより小さいと判断した場合(ステップS4 NO)、ステップS13に処理を進め、ファイアリングを実行したのち、ステップS11に処理を進める。実トルクTrと水温推定トルクTwの値の差の絶対値が所定トルクTdよりも小さい場合、水温Wtと油温Otとの乖離による内燃機関2の始動に対する影響は小さい。したがって、ステップS11では、制御装置20は第1学習制御を実行せず速やかに内燃機関2を完爆させ始動させる。
【0043】
ステップS5において、水温Wtと油温Otとの差の絶対値が所定温度より小さいと制御装置20が判断した場合(ステップS5 YES)、制御装置20は、ステップS14に処理を進め、内燃機関2に設定と異なる油種が投入されていると判断する。水温Wtと油温Otとの乖離がない場合、本来、水温推定トルクTwは、実トルクTrに近い値となるはずである。しかし、水温Wtと油温Otとの乖離がないにもかかわらず、実トルクTrと水温推定トルクTwとの差が所定以上である場合、水温推定トルクTwの算出と異なる粘度の油種が用いられたことが考えられる。そこで、制御装置20はこのような制御手順を実行することによって、設定された油種と異なる点を速やかに判断する。この場合、制御装置20は、ステップS14で油種違いを判断すると、ステップS15に処理を進め、速やかに実トルクTrと水温推定トルクTwとの差を取得し、目標吸入空気量Qtの補正演算とスロットル弁2bのスロットル開度ThOの補正を実行する。言い換えると、制御装置20は、第1学習制御を実行せずに水温推定トルクTwと実トルクTrの差分を取得する。そして、制御装置20は、ステップS15からステップS16に処理を進め、ファイアリングを実行し、処理をステップS11に進める。これによって、実トルクTr(発揮する出力)をエンジン要求トルクETq(目標とする出力)に速やかに合わせることができる。また、第1学習制御を実行しないため、制御装置20の演算負荷も下がる。
【0044】
ステップS7において、制御装置20は、外部充電があると判断した場合(ステップS7 YES)、ステップS17に処理を進め、第1学習制御の時間を変更する。具体的には、制御装置20は、第1学習制御の時間を長くする。外部充電がなされた場合、駆動用電池10の充電率SOCが高い。このため、モータリング(クランキング)時間も長くとれ、それに応じて第1学習制御の時間も長くとりやすい。これによって、第1学習値の精度が向上しやすい。この結果、始動不良を抑制しつつ、内燃機関2の始動したのち速やかに目標とする出力を発揮しやすい。
【0045】
以上説明した通り、本開示によれば、内燃機関2が始動したのち速やかに目標とする出力を発揮しやすい電動車両1の制御装置20を提供することができる。
【0046】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0047】
(a)上記実施形態では、四輪駆動型のプラグインハイブリッド自動車を例に説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。電動車両1は、前輪駆動のハイブリッド型およびプラグインハイブリッド型の自動車であってもよい。また、電動車両1は、四輪駆動型のハイブリッド自動車であってもよい。
【0048】
(b)上記実施形態では、制御装置20がすべての制御手順を実行する例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。制御装置20の制御手順の一部をエンジン制御装置2aで実行してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 :電動車両
2 :内燃機関
2b :スロットル弁
2f :水温センサ(水温検知部の一例)
2h :油温センサ(油温検知部の一例)
4 :発電機(第1回転電機)
20 :制御装置
22 :外部充電装置
Ot :油温
Wt :水温
図1
図2
図3
図4