(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】調理アーム、計測方法、および調理アーム用アタッチメント
(51)【国際特許分類】
A47J 43/044 20060101AFI20250121BHJP
B25J 5/02 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
A47J43/044
B25J5/02 Z
(21)【出願番号】P 2021537228
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2020028637
(87)【国際公開番号】W WO2021024828
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2019146400
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121131
【氏名又は名称】西川 孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】稲本 義雄
(74)【代理人】
【識別番号】100168686
【氏名又は名称】三浦 勇介
(72)【発明者】
【氏名】梨子田 辰志
(72)【発明者】
【氏名】シュプランガー ミカエル シェグフリード
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雅博
【審査官】川口 聖司
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-503875(JP,A)
【文献】特開2004-053582(JP,A)
【文献】特開平06-207304(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0193901(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 42/00-44/02
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理アームによる調理動作の対象となっている食材の香りを
、連結される吸気管から吸引する吸引部と、
調理機能
と前記吸気管を有するアタッチメント
を着脱可能な着脱部と、
前記調理動作に従って、前記吸引部により吸引された香りを計測する香りセンサと
を備える調理アーム。
【請求項2】
前記調理動作は、調理工程の情報が記述されたレシピデータに従って行われる
請求項1に記載の調理アーム。
【請求項3】
前記レシピデータは、調理人による調理の進捗に応じて計測された香りを表す香り情報と、前記調理アームに行わせる前記調理動作を表す調理動作情報とを紐付けたデータである
請求項2に記載の調理アーム。
【請求項4】
前記香りセンサにより計測された香りが、前記レシピデータに含まれる前記香り情報により表される香りに近づくように前記調理動作を実行する
請求項3に記載の調理アーム。
【請求項5】
前記香りセンサにより計測された香りと、前記レシピデータに含まれる前記香り情報により表される香りとの差が閾値以下の差になるように前記調理動作を実行する
請求項4に記載の調理アーム。
【請求項6】
前記レシピデータに従って、前記吸引部と前記香りセンサの動作を制御する制御部をさらに備える
請求項2に記載の調理アーム。
【請求項7】
前記レシピデータに従って、前記調理アームの駆動を制御する駆動部をさらに備える
請求項6に記載の調理アーム。
【請求項8】
前記調理動作に従って、前記食材に対して送風する送風部をさらに備える
請求項1に記載の調理アーム。
【請求項9】
前記香りセンサは、前記吸引部により吸引された気体に対する電気変化または重量変化に基づいて香りを計測する
請求項1に記載の調理アーム。
【請求項10】
前記調理アームは、
第1のアーム部材と、
第2のアーム部材と、
前記第1のアーム部材と前記第2のアーム部材とを回転可能な状態で接続するヒンジ部と
を備える請求項1に記載の調理アーム。
【請求項11】
前記吸引部は、前記アタッチメントとして構成される
請求項10に記載の調理アーム。
【請求項12】
前記第1のアーム部材は、前記アタッチメントを着脱可能な着脱部を備え、
前記第2のアーム部材は、調理ロボットに設けられた移動機構に沿って移動するアーム移動部に対して着脱可能な着脱部を備える
請求項11に記載の調理アーム。
【請求項13】
調理機能と
吸気管を有するアタッチメン
トが着脱可能に取りけられ
、
前記吸気管に連結される吸引部と、
香りセンサと
を備える調理アームが、
前記調理アームによる調理動作の対象となっている食材の香りを前記吸引部により
前記吸気管から吸引し、
前記調理動作に従って、前記吸引部により吸引された香りを
前記香りセンサにより計測する
計測方法。
【請求項14】
調理機能を有する調理
アーム用アタッチメントにおいて、
調理アームによる調理動作の対象となっている食材の香りを吸引する吸引部と、
前記吸引部に連結される吸気管と、
前記調理動作に従って、前記吸引部により吸引された香りを計測する香りセンサと、
前記調理アームに対して着脱可能な着脱部と
を備える調理アーム用アタッチメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、特に、調理の対象となっている食材の香りを容易に計測することができるようにした調理アーム、計測方法、および調理アーム用アタッチメントに関する。
【背景技術】
【0002】
食品などの香りを計測する方法としては、分子的な解析を用いたガスクロマトグラフィーなどの方法が一般的である。それぞれの分子を計測する方法であるため、香りの計測には一定の時間と空間が必要となる。
【0003】
リアルタイムでの計測が困難であることから、従来の香りの計測方法の用途としては、蓄積しておいたデータを解析することによって計測した香りを後から利用するような用途が多い。
【0004】
また、近年、香りの原因物質を多孔構造の吸着膜に吸着させ、重量変化を計測することによって、短い時間で香りを計測することが可能なデバイスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2017-506169号公報
【文献】特表2017-536247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
調理中の食材の香りを計測しようとした場合、調理を行っている人は、その都度、デバイスを食材に向けて香りを計測する必要がある。
【0007】
本技術はこのような状況に鑑みてなされたものであり、調理の対象となっている食材の香りを容易に計測することができるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術の第1の側面の調理アームは、調理アームによる調理動作の対象となっている食材の香りを、連結される吸気管から吸引する吸引部と、調理機能と前記吸気管を有するアタッチメントを着脱可能な着脱部と、前記調理動作に従って、前記吸引部により吸引された香りを計測する香りセンサとを備える。
【0009】
本技術の第2の側面の調理アーム用アタッチメントは、調理機能を有し、調理アームによる調理動作の対象となっている食材の香りを吸引する吸引部と、前記吸引部に連結される吸気管と、前記調理動作に従って、前記吸引部により吸引された香りを計測する香りセンサと、前記調理アームに対して着脱可能な着脱部とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本技術の一実施形態に係る制御システムの構成例を示す図である。
【
図2】レシピデータの記述内容の例を示す図である。
【
図3】レシピデータに基づく料理の再現の流れの例を示す図である。
【
図8】調理アームの各部の可動域の例を示す図である。
【
図9】調理アームとコントローラの接続の例を示す図である。
【
図11】調理アームの内部の構成例を示す図である。
【
図12】調理アームの内部の構成を模式的に示す図である。
【
図14】調理アームに取り付けられるアタッチメントの例を示す図である。
【
図19】調理アームによる香り計測機能を用いた調理システムの例を示す図である。
【
図20】調理工程データセットに含まれる情報の例を示す図である。
【
図22】レシピデータの生成の流れの例を示す図である。
【
図23】レシピデータに基づく料理の再現の流れの例を示す図である。
【
図24】シェフ側の流れと再現側の流れをまとめて示す図である。
【
図25】データ処理装置のハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【
図26】データ処理装置の機能構成例を示すブロック図である。
【
図27】調理ロボットの構成例を示すブロック図である。
【
図28】データ処理装置の処理について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本技術の概要>
本技術は、調理ロボットが備える調理アームに香りセンサを搭載した技術である。本技術においては、調理アームによる調理の対象となっている食材の香りが、調理アームによって計測される。
【0012】
調理ロボットは、レシピデータに基づいて動作し、調理を行うことによって料理を完成させるロボットである。レシピデータには、例えば料理の完成までの各調理工程に関する情報が記述されている。
【0013】
調理アームによる香りの計測は、レシピデータの記述に基づいて、調理動作に連動して行われる。例えば、調理アームを動かしながら、複数箇所での香りの計測が行われる。
【0014】
なお、料理は、調理を経て出来上がる成果物のことを意味する。調理は、料理を作る過程や、料理を作る行為(作業)のことを意味する。
【0015】
このようにして調理中に計測された香りは、調理ロボットによる調理が、レシピデータにおいて想定されている通りに行われているかどうかの判断などに用いられる
【0016】
以下、本技術を実施するための形態について説明する。説明は以下の順序で行う。
1.調理ロボットの制御
2.香りの計測について
3.調理アームによる香り計測の適用例
4.各装置の構成と動作
5.その他の例
【0017】
<調理ロボットの制御>
図1は、本技術の一実施形態に係る制御システムの構成例を示す図である。
【0018】
図1に示すように、制御システムは、データ処理装置1と調理ロボット2から構成される。調理ロボット2は、調理アームなどの駆動系の装置、および、各種のセンサを有し、調理を行う機能を搭載したロボットである。調理ロボット2は、例えば家庭内に設置される。
【0019】
データ処理装置1は、調理ロボット2を制御する装置である。データ処理装置1はコンピュータなどにより構成される。
【0020】
図1の左端に示すように、データ処理装置1による調理ロボット2の制御は、料理毎に用意されるレシピデータに基づいて行われる。レシピデータには、それぞれの調理工程に関する情報が記述されている。
【0021】
データ処理装置1は、レシピデータに基づいて調理ロボット2を制御し、料理を作らせることになる。例えば、矢印A1に示すようにある料理のレシピデータが入力された場合、データ処理装置1は、矢印A2に示すように、レシピデータの記述に基づいて命令コマンドを出力することによって、調理ロボット2の調理動作を制御する。
【0022】
調理ロボット2は、データ処理装置1から供給された命令コマンドに従って調理アームなどの各部を駆動し、各調理工程の調理動作を行う。命令コマンドには、調理アームに設けられたモータのトルク、駆動方向、駆動量を制御する情報などが含まれる。
【0023】
料理が完成するまでの間、データ処理装置1から調理ロボット2に対して命令コマンドが順次出力される。命令コマンドに応じた動作を調理ロボット2がとることにより、最終的に、料理が完成することになる。
【0024】
図2は、レシピデータの記述内容の例を示す図である。
【0025】
図2に示すように、1つのレシピデータは、複数の調理工程データセットから構成される。
図2の例においては、調理工程#1に関する調理工程データセット、調理工程#2に関する調理工程データセット、・・・、調理工程#Nに関する調理工程データセットが含まれる。
【0026】
各調理工程データセットには、調理工程を実現するための調理動作に関する情報である調理動作情報が含まれる。例えば、1つの調理工程を実現するための調理動作情報の時系列データにより1つの調理工程データセットが構成される。
【0027】
調理動作情報には、食材情報と動作情報が含まれる。
【0028】
食材情報は、調理工程において用いる食材に関する情報である。食材に関する情報には、食材の種類、食材の量、食材の大きさなどを表す情報が含まれる。
【0029】
なお、食材には、調理が全く施されていない食材だけでなく、ある調理が施されることによって得られた調理済み(下処理済み)の食材も含まれる。ある調理工程の調理動作情報に含まれる食材情報には、それより前の調理工程を経た食材の情報が含まれる。
【0030】
動作情報は、調理工程における調理アームなどの動きに関する情報である。動きに関する情報には、調理に用いる調理ツールの種類を表す情報などが含まれる。
【0031】
例えば、ある食材を切る調理工程の動作情報には、調理ツールとして包丁を使うことを表す情報、切る位置、切る回数、切り方の力加減、角度、スピードなどを表す情報が含まれる。
【0032】
また、食材としての液体が入った鍋をかき混ぜる調理工程の動作情報には、調理ツールとしておたまを使うことを表す情報、かき混ぜ方の力加減、角度、スピード、時間などを表す情報が含まれる。
【0033】
ある食材を、オーブンを使って焼く調理工程の動作情報には、調理ツールとしてオーブンを使うことを表す情報、オーブンの火力、焼き時間などを表す情報が含まれる。
【0034】
盛り付けを行う調理工程の動作情報には、盛り付けに使う食器、食材の配置の仕方、食材の色味などを表す盛り付け方の情報が含まれる。
【0035】
図3は、レシピデータに基づく料理の再現の流れの例を示す図である。
【0036】
図3に示すように、調理ロボット2による料理の再現は、レシピデータに記述された調理工程データセットに含まれる各時刻の調理動作情報に基づいて調理を行うことを、調理工程毎に繰り返すことによって行われる。
【0037】
例えば、各時刻の調理は、食材情報により表される食材を対象として、動作情報により表される動作を調理アームに実行させることによって行われる。調理工程#1~#Nの複数の調理工程を経て1つの料理が完成する。
【0038】
【0039】
図4のAに示すように、データ処理装置1は、例えば調理ロボット2の外部の装置として設けられる。
図4のAの例においては、データ処理装置1と調理ロボット2は、インターネットなどのネットワーク3を介して接続されている。
【0040】
データ処理装置1から送信された命令コマンドは、ネットワーク3を介して調理ロボット2により受信される。調理ロボット2からデータ処理装置1に対しては、調理ロボット2のカメラにより撮影された画像、調理ロボット2に設けられたセンサにより計測されたセンサデータなどの各種のデータがネットワーク3を介して送信される。
【0041】
図4のBに示すように、データ処理装置1が調理ロボット2の筐体の内部に設けられるようにしてもよい。この場合、データ処理装置1が生成する命令コマンドに従って、調理ロボット2の各部の動作が制御される。
【0042】
以下、主に、データ処理装置1が、調理ロボット2の外部の装置として設けられるものとして説明する。
【0043】
・調理ロボットの外観
図5は、調理ロボット2の外観を示す斜視図である。
【0044】
図5に示すように、調理ロボット2は、横長直方体状の筐体11を有するキッチン型のロボットである。調理ロボット2の本体となる筐体11の内部に各種の構成が設けられる。
【0045】
筐体11の背面側には調理補助システム12が設けられる。薄板状の部材で区切ることによって調理補助システム12に形成された各スペースは、冷蔵庫、オーブンレンジ、収納などの、調理アーム21-1乃至21-4による調理を補助するための機能を有する。
【0046】
天板11Aには長手方向にレールが設けられており、そのレールに調理アーム21-1乃至21-4が設けられる。調理アーム21-1乃至21-4は、移動機構としてのレールに沿って位置を変えることが可能とされる。
【0047】
調理アーム21-1乃至21-4は、円筒状の部材を関節部で接続することによって構成されるロボットアームである。調理に関する各種の作業が調理アーム21-1乃至21-4により行われる。
【0048】
天板11Aの上方の空間が、調理アーム21-1乃至21-4が調理を行う調理空間となる。
【0049】
図5においては4本の調理アームが示されているが、調理アームの数は4本に限定されるものではない。以下、適宜、調理アーム21-1乃至21-4のそれぞれを区別する必要がない場合、まとめて調理アーム21という。
【0050】
図6は、調理アーム21の様子を拡大して示す図である。
【0051】
図6に示すように、調理アーム21の先端には、各種の調理機能を有するアタッチメントが取り付けられる。調理アーム21用のアタッチメントとして、食材や食器などを掴むマニピュレーター機能(ハンド機能)を有するアタッチメント、食材をカットするナイフ機能を有するアタッチメントなどの各種のアタッチメントが用意される。
【0052】
図6の例においては、ナイフ機能を有するアタッチメントであるナイフアタッチメント31-1が調理アーム21-1に取り付けられている。ナイフアタッチメント31-1を用いて、天板11Aの上に置かれた肉の塊がカットされている。
【0053】
調理アーム21-2には、食材を固定させたり、食材を回転させたりすることに用いられるアタッチメントであるスピンドルアタッチメント31-2が取り付けられている。
【0054】
調理アーム21-3には、食材の皮をむくピーラーの機能を有するアタッチメントであるピーラーアタッチメント31-3が取り付けられている。
【0055】
スピンドルアタッチメント31-2を用いて調理アーム21-2により持ち上げられているジャガイモの皮が、ピーラーアタッチメント31-3を用いて調理アーム21-3によりむかれている。このように、複数の調理アーム21が連携して1つの作業を行うことも可能とされる。
【0056】
調理アーム21-4には、マニピュレーター機能を有するアタッチメントであるマニピュレーターアタッチメント31-4が取り付けられている。マニピュレーターアタッチメント31-4を用いて、チキンを載せたフライパンが、オーブン機能を有する調理補助システム12のスペースに運ばれている。
【0057】
このような調理アーム21による調理は、作業の内容に応じてアタッチメントを適宜取り替えて進められる。4本の調理アーム21のそれぞれにマニピュレーターアタッチメント31-4を取り付けるといったように、同じアタッチメントを複数の調理アーム21に取り付けることも可能とされる。
【0058】
調理ロボット2による調理は、調理アーム用のツールとして用意された以上のようなアタッチメントを用いて行われるだけでなく、適宜、人が調理に使うツールと同じツールを用いて行われる。例えば、人が使うナイフをマニピュレーターアタッチメント31-4によって掴み、ナイフを用いて食材のカットなどの調理が行われる。
【0059】
・調理アームの構成
図7は、調理アーム21の外観を示す図である。
【0060】
図7に示すように、調理アーム21は、全体的に、細い円筒状の部材を、関節部となるヒンジ部で接続することによって構成される。各ヒンジ部には、各部材を駆動させるための力を生じさせるモータなどが設けられる。
【0061】
円筒状の部材として、先端から順に、着脱部材51、中継部材53、およびベース部材55が設けられる。
【0062】
着脱部材51と中継部材53はヒンジ部52によって接続され、中継部材53とベース部材55はヒンジ部54によって接続される。
【0063】
着脱部材51の先端には、アタッチメントが着脱される着脱部51Aが設けられる。着脱部材51は、アタッチメントを動作させることによって調理を行う調理機能アーム部として機能する。
【0064】
ベース部材55の後端には、レールに取り付けられる着脱部56が設けられる。ベース部材55は、調理アーム21の移動を実現する移動機能アーム部として機能する。
【0065】
図8は、調理アーム21の各部の可動域の例を示す図である。
【0066】
楕円#1で囲んで示すように、着脱部材51は、円形断面の中心軸を中心として回転可能とされる。楕円#1の中心に示す扁平の小円は、一点鎖線の回転軸の方向を示す。
【0067】
円#2で囲んで示すように、着脱部材51は、ヒンジ部52との嵌合部51Bを通る軸を中心として回転可能とされる。また、中継部材53は、ヒンジ部52との嵌合部53Aを通る軸を中心として回転可能とされる。
【0068】
円#2の内側に示す2つの小円はそれぞれの回転軸の方向(紙面垂直方向)を示す。嵌合部51Bを通る軸を中心とした着脱部材51の可動範囲と、嵌合部53Aを通る軸を中心とした中継部材53の可動範囲は、それぞれ例えば90度の範囲である。
【0069】
中継部材53は、先端側の部材53-1と、後端側の部材53-2により分離して構成される。楕円#3で囲んで示すように、中継部材53は、部材53-1と部材53-2との連結部53Bにおいて、円形断面の中心軸を中心として回転可能とされる。他の可動部も、基本的に同様の可動域を有する。
【0070】
このように、先端に着脱部51Aを有する着脱部材51、着脱部材51とベース部材55を連結する中継部材53、後端に着脱部56が接続されるベース部材55は、それぞれ、ヒンジ部により回転可能に接続される。各可動部の動きが、調理ロボット2内のコントローラにより命令コマンドに従って制御される。
【0071】
図9は、調理アームとコントローラの接続の例を示す図である。
【0072】
図9に示すように、調理アーム21とコントローラ61は、筐体11の内部に形成された空間11B内において配線を介して接続される。
図9の例においては、調理アーム21-1乃至21-4とコントローラ61は、それぞれ、配線62-1乃至62-4を介して接続されている。可撓性を有する配線62-1乃至62-4は、調理アーム21-1乃至21-4の位置に応じて適宜撓むことになる。
【0073】
図10は、調理アーム21の着脱の様子を示す図である。
【0074】
図10に示すように、調理アーム21は、天板11Aに設けられたレールに対して着脱可能とされる。例えば、調理アーム21は単体で販売される。ユーザは、追加で購入するなどして調理アーム21を増やすことができる。
【0075】
<香りの計測について>
・香りセンサの搭載例
図11は、調理アーム21の内部の構成例を示す図である。
【0076】
図11にハッチを付して示すように、調理アーム21を構成するベース部材55の内部の根元近傍には香り計測部101が設けられる。
【0077】
図11に示す調理アーム21には、グリッパ機能を有するアタッチメントであるグリッパアタッチメント71が取り付けられている。グリッパ機能は、マニピュレーターアタッチメント31-4が有するマニピュレーター機能と同様に、物を挟んで持ち上げたり、移動させたりする機能である。
【0078】
グリッパアタッチメント71の中央には、細い棒状の送風管112が設けられる。調理中の食材の香りを計測する場合、対象となる食材に送風管112の先端を近付けるように、調理アーム21が駆動する。
【0079】
破線で示すように、送風管112と香り計測部101は、配管111によって連結される。配管111は、着脱部材51、中継部材53、ベース部材55内を挿通して設けられる。
【0080】
このように、
図11の調理アーム21には、食材などの香りを計測する機能が設けられる。
【0081】
図12は、調理アーム21の内部の構成を模式的に示す図である。
【0082】
図12に示すように、配管111は、排気管111-1と吸気管111-2から構成される。また、送風管112の内部には、排気管112-1と吸気管112-2が設けられる。
図12においては、グリッパアタッチメント71の図示が省略されている。
【0083】
排気管111-1の先端側は、排気管112-1の根元側に連結される。吸気管111-2の先端側も、吸気管112-2の根元側に連結される。
【0084】
香り計測部101には、送風部121と吸気部122が設けられる。
【0085】
送風部121は、送風用ファンを回転させることによって発生させた風を、白抜き矢印に示すように排気管111-1に送り込む。送風部121から送り込まれた風は、排気管111-1と排気管112-1の内部を流路として送風管112の先端から排出される。
【0086】
送風管112の先端が食材に近付けられている場合、送風管112から排出された風は食材の表面に当たり、食材の周囲に気流を生じさせる。食材の周囲に生じた気流には、食材の香り(香りの原因物質)が含まれる。
【0087】
吸気部122は、吸気用ファンを回転させることによって吸気部122の内部の気圧を低下させ、白抜き矢印に示すように吸気を行う。食材の香りを含む、送風管112の先端近傍の空気は、吸気管112-2と吸気管111-2の内部を流路として吸気部122に取り込まれる。このように、吸気部122は、食材の香りを吸引する吸引部として機能する。
【0088】
吸気部122の内部の、吸気管111-2との連結部分の近傍には香りセンサ123が設けられる。吸気部122により取り込まれた空気は香りセンサ123に流れ込む。
【0089】
香りセンサ123は、香りの原因物質を多孔構造の吸着膜に吸着させ、重量変化や電気変化を計測することによって、香りを計測するセンサである。香りセンサ123による香りの計測結果を表す信号は、コントローラ124に供給される。他の方式によって香りを計測するセンサが香りセンサ123として設けられるようにしてもよい。
【0090】
香り計測部101に設けられるコントローラ124は、調理ロボット2側のコントローラ61による制御に従って、送風部121、吸気部122、および香りセンサ123の各部を制御する。
【0091】
例えば、コントローラ124は、調理の対象になっている食材の香りを計測するタイミングになった場合、送風部121に送風を開始させるとともに、吸気部122に吸気を開始させる。また、コントローラ124は、香りの計測を香りセンサ123に開始させる。レシピデータには、香りの計測を行うタイミングを表す情報も含まれている。
【0092】
コントローラ124は、香りセンサ123から供給された信号に基づいて、香りの計測結果を表す香りデータを出力する。コントローラ124から出力された香りデータは、コントローラ61に供給され、コントローラ61からデータ処理装置1に対して送信される。
【0093】
このように、食材に対して吹き付けた風を取り込むことによって、食材の香りを効率的に計測することが可能となる。
【0094】
図13は、香り計測部101の他の搭載例を示す図である。
【0095】
図13に示すように、香り計測部101の位置は、ベース部材55の根元近傍の位置以外の位置とすることも可能である。
図13の例においては、着脱部材51の内部に香り計測部101が設けられている。
【0096】
着脱部材51の内部に香り計測部101が設けられるようにすることにより、食材と香りセンサ123との距離を近付けることが可能となる。
【0097】
図14は、調理アーム21に取り付けられるアタッチメントの例を示す図である。
【0098】
グリッパタイプのグリッパアタッチメント71ではなく、
図14のAに示すように、送風管112だけが設けられるアタッチメント72を用いて、香りの計測が行われるようにしてもよい。
【0099】
また、
図14のBに示すように、シェイカータイプのアタッチメント73を用いて、香りの計測が行われるようにしてもよい。アタッチメント73の中には例えば液体の食材が入れられ、その液体を対象として香りの計測が行われる。アタッチメント73の中に入れられた食材の香りを計測する場合、アタッチメント73を揺らすような動作が調理アーム21により行われる。
【0100】
【0101】
図15に示すアタッチメント74は、香り計測部101を内部に有するアタッチメントである。アタッチメント74の根元側には、着脱部材51の先端に設けられる着脱部51Aに対して着脱可能な着脱部が設けられる。
【0102】
アタッチメント74の内部の香り計測部101には送風管112が取り付けられる。このように、調理アーム21用のアタッチメントに香り計測部101が設けられるようにしてもよい。
【0103】
例えば、アタッチメント74は、調理の対象になっている食材の香りを計測するタイミングで調理アーム21に取り付けられ、香りの計測に用いられる。
【0104】
送風管112がそれぞれのアタッチメントに対して交換可能なパーツとして用意されるようにしてもよい。
【0105】
これにより、例えば、鍋に入ったスープに送風管112を差し込むといったように、食材に送風管112を接触させた状態で香りを計測させることが可能となる。香りの計測が終わった場合、新たな送風管112に交換され、他の食材の香りの計測などが行われる。
【0106】
・香りの計測の例
図16は、香りの計測の様子を示す図である。
【0107】
図16の例においては、調理アーム21-2が調理動作を行っている隣で、調理アーム21-1により香りの計測が行われている。調理アーム21-1にはグリッパアタッチメント71が取り付けられ、送風管112の先端が、鍋に入ったスープの表面に向けられている。
【0108】
調理アーム21-1の可動範囲内で送風管112の先端を自由に移動させることが可能であるから、
図17に示すように、位置を切り替えて、対象としている食材の複数の位置の香りを計測させることが可能となる。
【0109】
また、レシピデータの記述に基づいて他の調理アーム21の動作を特定できることから、他の調理アーム21の動作を妨害することなく、他の調理アーム21が動作を終えた後に、その動作によって得られた食材の香りを計測させることが可能となる。
【0110】
【0111】
特に、シチューなどの煮込み料理の場合、混ぜる調味料によって香りが複雑に変化する。この場合、複数の調理アーム21で協働して、調理動作と香りの計測を行わせることが可能となる。
【0112】
図18の例においては、調理アーム21-1により香りの計測が行われ、調理アーム21-2により調味料が入れられている。また、調理アーム21-3により、かき混ぜる動作が行われている。このように、複数の調理アーム21を連動させることにより、調味料を混ぜることによって香りの変化が生じた直後にその変化を計測することが可能となる。
【0113】
このように、香り計測部101を搭載した調理アーム21によれば、任意のタイミングで、食材の任意の位置の香りを計測させることが可能となる。
【0114】
調理において香りに大きな影響が出るのが「時間」と「熱」になるといわれている。例えば、ステーキ肉を焼くといった調理においては、肉の組成が時間と熱に応じて変化し、これにより、香りも変化する。
【0115】
肉を焼いている間、リアルタイムでの香りの計測を常時行わせ、計測結果を調理動作にフィードバックさせることにより、香りの変化に基づいて最適な調理が可能になる。
【0116】
例えば、ステーキ肉のレシピデータには、焼き始めからの各時刻の香りデータに関する情報が記述される。調理ロボット2においては、焼き始めからの各時刻の香りが計測され、計測された香りが、レシピデータに記述されている通りの香りになっているか否かに基づいて、焼き時間や温度の調整が行われる。
【0117】
香り計測部101により計測された香りが、レシピデータに記述されている香りに近づくように調整するための調理動作が行われる。香りを調整するための調理動作は、香り計測部101により計測された香りと、レシピデータに記述されている香りとの差が閾値以下の差となるまで行われる。
【0118】
例えば、レシピデータに記述される、焼くのを終了させるタイミングを表す香りと同じ香りが調理中の肉から計測された場合、調理は終了となる。
【0119】
また、ステーキ肉を焼く調理には、ワイン、塩、コショウなどの調味料をかける動作が含まれる。それぞれの調味料をかけたときの香りの変化を検出し、香りの変化に基づいて、かける調味料の種類を選択したり、調味料をかけるタイミングを調整したり、調味料の量を調整したりすることが可能となる。
【0120】
調味料の種類の選択、調味料をかけるタイミングや量の調整については、レシピデータに記述されている情報に基づいて行われるようにしてもよいし、深層学習などによってあらかじめ生成された予測モデルに基づいて行われるようにしてもよい。後者の場合、例えばデータ処理装置1には、調理中の肉を対象として計測された香りデータを入力とし、調味料の種類、調味料をかけるタイミングや量を出力とする予測モデルが用意される。
【0121】
このように、レシピデータに基づいて行われる調理動作は、適宜、調理中の食材の香りに基づいて調整される。これにより、外見からは判断できない香りに基づいて、調理動作を適切に制御することが可能となる。
【0122】
温かい食材には温風をあてて香りを計測し、冷たい食材には冷風をあてて計測するといったように、対象とする食材の温度に応じて、食材にあてる風の温度を調整するようにしてもよい。
【0123】
このように、香り計測部101を調理アーム21に搭載することにより、調理の対象となっている食材の香りを容易に計測することが可能となる。
【0124】
<調理アームによる香り計測の適用例>
・調理システムの構成
図19は、調理アームによる香り計測機能を用いた調理システムの例を示す図である。
【0125】
図19に示すように、調理システムは、調理を行うシェフ側の構成と、シェフが作った料理を再現する再現側の構成とから構成される。
【0126】
シェフ側の構成は、例えば、あるレストランに設けられる構成となり、再現側の構成は、例えば、一般の家庭に設けられる構成となる。再現側の構成として、調理ロボット2が用意される。
【0127】
図19の調理システムは、シェフが作った料理と同じ料理を、再現側の構成としての調理ロボット2において再現するシステムである。
【0128】
シェフ側の構成から、調理ロボット2を含む再現側の構成に対しては、矢印で示すようにレシピデータが提供される。レシピデータには、料理の食材を含む、シェフが作った料理に関する情報が記述されている。
【0129】
再現側の構成においては、調理ロボット2の調理動作をレシピデータに基づいて制御することによって、料理が再現されることになる。例えば、シェフの調理工程と同じ工程を実現するための調理動作を調理ロボット2に行わせることによって料理が再現される。
【0130】
調理を行う調理人としてシェフが示されているが、板前、コックなどの呼び方、厨房における役割に関わらず、調理を行う人であれば、どのような人が調理を行う場合にも、
図19の調理システムは適用可能である。
【0131】
また、
図19においては、1人のシェフ側の構成のみが示されているが、調理システムには、複数のレストランなどにそれぞれ設けられる複数のシェフ側の構成が含まれる。再現側の構成に対しては、例えば調理ロボット2により再現された料理を食べる人が選択した所定のシェフが作る、所定の料理のレシピデータが提供される。
【0132】
図20は、調理工程データセットに含まれる情報の例を示す図である。
【0133】
図20の吹き出しに示すように、レシピデータ(
図2)に含まれる調理工程データセットには、上述した調理動作情報と、調理工程において用いられる食材や調理工程を経た食材の風味に関する情報である風味情報が含まれる。
【0134】
【0135】
人が脳で感じるおいしさ、すなわち「風味」は、
図21に示すように、主に、人の味覚によって得られる味、人の嗅覚によって得られる香り、人の触覚によって得られる質感を組み合わせて構成される。
【0136】
調理工程データセットを構成する風味情報には、味測定器により計測された味データ、香り測定器により計測された香りデータ、質感測定器により計測された質感データが含まれる。なお、質感には、食材の弾力、粘性、温度などが含まれる。
【0137】
このように、調理工程データセットは、その調理工程において用いられる食材や調理工程を経てできる食材の風味を表す情報が、調理動作情報に紐付けられることによって構成される。
【0138】
味データ、香りデータ、質感データの3種類のデータが風味情報として用意されるのではなく、少なくとも香りデータが風味情報に含まれる。
【0139】
図22は、レシピデータの生成の流れの例を示す図である。
【0140】
図22に示すように、通常、シェフによる調理は、食材を用いた調理を行い、調理後の食材の味見をして、風味を調整することを、調理工程毎に繰り返すことによって行われる。
【0141】
風味の調整は、例えば、味については、塩味が足りない場合には塩を足す、酸味が足りない場合にはレモン汁を搾るなどの作業を加えるようにして行われる。香りについては、例えば、ハーブを刻んで足す、食材に火を通すなどの作業を加えるようにして行われる。質感については、例えば、食材が硬い場合には叩いて柔らかくする、煮込む時間を増やすなどの作業を加えるようにして行われる。
【0142】
調理工程データセットを構成する調理動作情報は、食材を用いた調理を行うシェフの動作と、風味を調整するシェフの動作とをセンシングし、センシング結果に基づいて生成される。
【0143】
また、風味情報は、調理後の食材の風味をセンシングし、センシング結果に基づいて生成される。
【0144】
図22の例においては、矢印A1,A2に示すように、調理工程#1としてシェフが行う調理の動作と、風味を調整するシェフの動作とのセンシング結果に基づいて、調理工程#1の調理工程データセットを構成する調理動作情報が生成されている。
【0145】
また、矢印A3に示すように、調理工程#1による調理後の食材の風味のセンシング結果に基づいて、調理工程#1の調理工程データセットを構成する風味情報が生成されている。
【0146】
調理工程#1が終了した後、次の調理工程である調理工程#2が行われる。
【0147】
同様に、矢印A11,A12に示すように、調理工程#2としてシェフが行う調理の動作と、風味を調整するシェフの動作とのセンシング結果に基づいて、調理工程#2の調理工程データセットを構成する調理動作情報が生成されている。
【0148】
また、矢印A13に示すように、調理工程#2による調理後の食材の風味のセンシング結果に基づいて、調理工程#2の調理工程データセットを構成する風味情報が生成されている。
【0149】
このような複数の調理工程を経て1つの料理が完成する。また、料理が完成するとともに、各調理工程の調理工程データセットを記述したレシピデータが生成される。
【0150】
以下、主に、1つの調理工程が調理、味見、調整の3つの調理動作から構成される場合について説明するが、1つの調理工程に含まれる調理動作の単位は任意に設定可能である。1つの調理工程が、味見や味見後の風味の調整を伴わない調理動作から構成されることもあるし、風味の調整だけから構成されることもある。この場合も同様に、調理工程毎に風味のセンシングが行われ、センシング結果に基づいて得られた風味情報が調理工程データセットに含まれる。
【0151】
1つの調理工程が終わる毎に風味のセンシングが行われるのではなく、風味のセンシングのタイミングについても任意に設定可能である。例えば、1つの調理工程の間、風味のセンシングが繰り返し行われるようにしてもよい。この場合、調理工程データセットには、風味情報の時系列データが含まれることになる。
【0152】
全ての調理工程データセットに風味情報が含まれるのではなく、風味の計測が任意のタイミングで行われる毎に、風味情報が、そのタイミングで行われていた調理動作の情報とともに調理工程データセットに含まれるようにしてもよい。
【0153】
図23は、レシピデータに基づく料理の再現の流れの例を示す図である。
【0154】
図23に示すように、調理ロボット2による料理の再現は、レシピデータに記述された調理工程データセットに含まれる調理動作情報に基づいて調理を行い、調理後の食材の風味を計測して、風味を調整することを、調理工程毎に繰り返すことによって行われる。
【0155】
風味の調整は、例えば、調理ロボット2側に用意されたセンサにより計測された風味が、風味情報により表される風味に近づくように、作業を加えるようにして行われる。調理ロボット2による風味の調整の詳細については後述する。
【0156】
風味の計測と調整は、例えば、1つの調理工程において複数回繰り返されることもある。すなわち、調整が行われる毎に、調整後の食材を対象として風味の計測が行われ、計測結果に基づいて風味の調整が行われる。
【0157】
図23の例においては、矢印A21に示すように、調理工程#1の調理工程データセットを構成する調理動作情報に基づいて調理ロボット2の調理動作が制御され、シェフの調理工程#1の動作と同じ動作が調理ロボット2により行われる。
【0158】
シェフの調理工程#1の動作と同じ動作が調理ロボット2により行われた後、調理後の食材の風味が計測され、矢印A22に示すように、調理工程#1の調理工程データセットを構成する風味情報に基づいて、調理ロボット2の風味の調整が制御される。
【0159】
調理ロボット2側に用意されたセンサにより計測された風味が、風味情報により表される風味に一致した場合、風味の調整が終わり、調理工程#1も終了となる。例えば、完全に一致するだけでなく、調理ロボット2側に用意されたセンサにより計測された風味と、風味情報により表される風味との差が閾値以下となった場合も、両者が一致するものとして判定される。
【0160】
例えば、風味のうちの香りについては、調理アーム21に搭載された香り計測部101により計測された香りが、風味情報により表される香りに一致した場合、香りの調整が終わり、調理工程#1も終了となる。例えば、完全に一致するだけでなく、香り計測部101により計測された香りと、風味情報により表される香りとの差が閾値以下となった場合も、両者が一致するものとして判定される。
【0161】
調理工程#1が終了した後、次の調理工程である調理工程#2が行われる。
【0162】
同様に、矢印A31に示すように、調理工程#2の調理工程データセットを構成する調理動作情報に基づいて調理ロボット2の調理動作が制御され、シェフの調理工程#2の動作と同じ動作が調理ロボット2により行われる。
【0163】
シェフの調理工程#2の動作と同じ動作が調理ロボット2により行われた後、調理後の食材の風味が計測され、矢印A32に示すように、調理工程#2の調理工程データセットを構成する風味情報に基づいて、調理ロボット2の風味の調整が制御される。
【0164】
調理ロボット2側に用意されたセンサにより計測された風味が、風味情報により表される風味に一致した場合、風味の調整が終わり、調理工程#2も終了となる。
【0165】
このような複数の調理工程を経て、シェフが作った料理が調理ロボット2により再現される。
【0166】
図24は、シェフ側の流れと再現側の流れをまとめて示す図である。
【0167】
図24の左側に示すように、調理工程#1~#Nの複数の調理工程を経て1つの料理が完成するとともに、各調理工程の調理工程データセットを記述したレシピデータが生成される。なお、レシピデータの生成は、シェフの動作の計測結果を収集し、解析するサーバなどの装置において行われる。
【0168】
一方、再現側においては、シェフの調理によって生成されたレシピデータに基づいて、シェフ側で行われた調理工程と同じ、調理工程#1~#Nの複数の調理工程を経て、1つの料理が再現される。
【0169】
調理ロボット2による調理は、調理工程毎に風味を調整するようにして行われるから、最終的に出来上がる料理は、シェフが作った料理と同じか、あるいは、近い風味の料理となる。このように、シェフが作った料理と同じ風味の料理が、再現性の高い形で、レシピデータに基づいて再現される。
【0170】
香り計測部101を用いた香りの計測機能は、このように、料理の再現時に行われる調理動作により得られた食材の風味が、レシピデータに記述されている風味情報により表される、シェフが作る食材の風味に一致するか否かをその都度判断するために用いられる。
【0171】
<各装置の構成と動作>
・データ処理装置1の構成
図25は、データ処理装置1のハードウェアの構成例を示すブロック図である。
【0172】
図25に示すように、データ処理装置1はコンピュータにより構成される。CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203は、バス204により相互に接続される。
【0173】
バス204には、さらに、入出力インタフェース205が接続される。入出力インタフェース205には、キーボード、マウスなどよりなる入力部206、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部207が接続される。
【0174】
また、入出力インタフェース205には、ハードディスクや不揮発性のメモリなどよりなる記憶部208、ネットワークインタフェースなどよりなる通信部209、リムーバブルメディア211を駆動するドライブ210が接続される。
【0175】
以上のように構成されるコンピュータでは、CPU201が、例えば、記憶部208に記憶されているプログラムを入出力インタフェース205およびバス204を介してRAM203にロードして実行することにより、各種の処理が行われる。
【0176】
図26は、データ処理装置1の機能構成例を示すブロック図である。
【0177】
図26に示す機能部のうちの少なくとも一部は、
図25のCPU201により所定のプログラムが実行されることによって実現される。
【0178】
図26に示すように、データ処理装置1においてはコマンド生成部221が実現される。コマンド生成部221は、レシピデータ取得部231、ロボット状態推定部232、制御部233、およびコマンド出力部234から構成される。
【0179】
レシピデータ取得部231は、シェフの調理動作を解析するなどして図示せぬ装置において生成されたレシピデータを取得し、制御部233に出力する。
【0180】
ロボット状態推定部232は、調理ロボット2から送信されてきた画像とセンサデータを受信する。調理ロボット2からは、調理ロボット2のカメラにより撮影された画像と、調理ロボット2の所定の位置に設けられたセンサにより測定されたセンサデータが所定の周期で送信されてくる。調理ロボット2のカメラにより撮影された画像には、調理ロボット2の周囲の様子が写っている。
【0181】
また、調理ロボット2からは、調理アーム21の香り計測部101により計測された香りデータが送信されてくる。
【0182】
ロボット状態推定部232は、調理ロボット2から送信されてきた画像と、香りデータを含むセンサデータを解析することによって、調理アーム21の状態、食材の状態などの、調理ロボット2の周囲の状態や調理工程の状態を推定する。ロボット状態推定部232により推定された調理ロボット2の周囲の状態などを示す情報は、制御部233に供給される。
【0183】
制御部233は、レシピデータ取得部231から供給されたレシピデータに記述される調理工程データセットに基づいて、調理ロボット2を制御するための命令コマンドを生成する。例えば、調理工程データセットに含まれる調理動作情報により表される通りの動作を調理アーム21に行わせるための命令コマンドが生成される。
【0184】
命令コマンドの生成には、ロボット状態推定部232により推定された調理ロボット2の周囲の状態なども参照される。制御部233により生成された命令コマンドはコマンド出力部234に供給される。
【0185】
コマンド出力部234は、制御部233により生成された命令コマンドを調理ロボット2に送信する。
【0186】
・調理ロボット2の構成
図27は、調理ロボット2の構成例を示すブロック図である。
【0187】
調理ロボット2は、調理ロボット2の動作を制御する制御装置としてのコントローラ61(
図9)に対して各部が接続されることによって構成される。
図27に示す構成のうち、上述した構成と同じ構成には同じ符号を付してある。重複する説明については適宜省略する。
【0188】
コントローラ61に対しては、調理アーム21の他に、カメラ251、センサ252、および通信部253が接続される。
【0189】
コントローラ61は、CPU,ROM,RAM、フラッシュメモリなどを有するコンピュータにより構成される。コントローラ61は、CPUにより所定のプログラムを実行し、調理ロボット2の全体の動作を制御する。コントローラ61によってデータ処理装置1が構成されるようにしてもよい。
【0190】
例えば、コントローラ61は、通信部253を制御し、カメラ251により撮影された画像とセンサ252により測定されたセンサデータをデータ処理装置1に送信する。
【0191】
コントローラ61においては、所定のプログラムが実行されることにより、命令コマンド取得部261、アーム制御部262が実現される。
【0192】
命令コマンド取得部261は、データ処理装置1から送信され、通信部253において受信された命令コマンドを取得する。命令コマンド取得部261により取得された命令コマンドはアーム制御部262に供給される。
【0193】
アーム制御部262は、命令コマンド取得部261により取得された命令コマンドに従って調理アーム21の動作を制御する。
【0194】
カメラ251は、調理ロボット2の周囲の様子を撮影し、撮影によって得られた画像をコントローラ61に出力する。カメラ251は、調理補助システム12の正面、調理アーム21の先端などの様々な位置に設けられる。
【0195】
センサ252は、温湿度センサ、圧力センサ、光センサ、距離センサ、人感センサ、測位センサ、振動センサなどの各種のセンサにより構成される。センサ252による測定は所定の周期で行われる。センサ252による測定結果を示すセンサデータはコントローラ61に供給される。
【0196】
カメラ251とセンサ252が、調理ロボット2の筐体11から離れた位置に設けられるようにしてもよい。
【0197】
通信部253は、無線LANモジュール、LTE(Long Term Evolution)に対応した携帯通信モジュールなどの無線通信モジュールである。通信部253は、データ処理装置1や、インターネット上のサーバなどの外部の装置との間で通信を行う。
【0198】
図27に示すように、調理アーム21には、香り計測部101の他に、モータ271とセンサ272が設けられる。
【0199】
モータ271は、調理アーム21の各関節部に設けられる。モータ271は、アーム制御部262による制御に従って軸周りの回転動作を行う。モータ271の回転量を測定するエンコーダ、モータ271の回転をエンコーダによる測定結果に基づいて適応的に制御するドライバなども各関節部に設けられる。モータ271は、調理アーム21の駆動を制御する駆動部として機能する。
【0200】
センサ272は、例えばジャイロセンサ、加速度センサ、タッチセンサなどにより構成される。センサ272は、調理アーム21の動作中、各関節部の角速度、加速度などを測定し、測定結果を示す情報をコントローラ61に出力する。調理ロボット2からデータ処理装置1に対しては、適宜、センサ272の測定結果を示すセンサデータも送信される。
【0201】
・データ処理装置1の動作
図28のフローチャートを参照して、データ処理装置1の処理について説明する。ここでは、風味の調整については、香りの調整に注目して説明する。
【0202】
ステップS1において、レシピデータ取得部231は、所定の料理のレシピデータを取得する。
【0203】
ステップS2において、制御部233は、レシピデータに記述される調理工程データセットに基づいて、1つの調理工程を選択し、選択した調理工程に含まれる調理動作を行わせるための命令コマンドを生成する。例えば、調理工程データセットが調理工程の順に選択されるとともに、選択された調理工程に含まれる調理動作が実行順に選択される。
【0204】
ステップS3において、制御部233は、調理動作情報の記述に従って調理動作を実行させる。コマンド出力部234から調理ロボット2に対しては、調理動作を実行させるための命令コマンドが送信される。
【0205】
ステップS4において、制御部233は、調理された食材を対象として風味を計測させる。コマンド出力部234から調理ロボット2に対しては、調理アーム21を駆動させ、食材の香りを計測させるための命令コマンドが送信される。
【0206】
調理ロボット2においては、命令コマンドに従って調理アーム21を移動させ、香り計測部101による香りの計測が行われる。計測された香りを表す香りデータは、香り計測部101からデータ処理装置1に対して送信されてくる。
【0207】
ステップS5において、制御部233は、調理済みの食材の風味とレシピデータに含まれる風味情報により表される風味が一致しているか否かを判定する。ここでは、調理済みの食材の香りと風味情報により表される香りが一致する場合に、風味が一致するものとして判定される。風味を構成する味、香り、質感の全てが風味情報により表される値と一致する場合に、風味が一致するものとして判定されるようにしてもよい。
【0208】
風味が一致しないとステップS5において判定された場合、ステップS6において、制御部233は、風味の調整を行わせる。コマンド出力部234から調理ロボット2に対しては、調理アーム21を駆動させるなどして、食材の香りを調整するための動作に関する命令コマンドが送信される。
【0209】
ここでは、上述したように、焼き時間や温度を調整することによって、香りの調整が行われる。また、所定の調味料を食材にかけたり、調味料をかけるタイミングを調整したり、調味料の量を調整したりして、香りの調整が行われる。
【0210】
風味の調整がステップS6において行われた後、ステップS4に戻り、風味が一致すると判定されるまで上述した処理が繰り返し実行される。
【0211】
調理済みの食材の風味とレシピデータに含まれる風味情報により表される風味が一致するとステップS5において判定された場合、処理はステップS7に進む。
【0212】
ステップS7において、制御部233は、全ての調理工程が終了したか否かを判定し、全ての調理工程がまだ終了していないと判定した場合、ステップS2に戻り、上述した処理を繰り返す。次の調理工程を対象として、同様の処理が繰り返される。
【0213】
一方、全ての調理工程が終了したとステップS7において判定された場合、料理が完成となり、再現処理が終了される。
【0214】
このように、調理アーム21の香り計測部101により計測された香りに基づいて食材の香りを調整しながら全体の調理が進められることにより、シェフが作った料理に香りが一致する料理、あるいは、近い香りの料理を再現することが可能となる。
【0215】
<その他の例>
・コンピュータの構成例
上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行することもできるし、ソフトウェアにより実行することもできる。一連の処理をソフトウェアにより実行する場合には、そのソフトウェアを構成するプログラムが、専用のハードウェアに組み込まれているコンピュータ、または、汎用のパーソナルコンピュータなどにインストールされる。
【0216】
インストールされるプログラムは、光ディスク(CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory),DVD(Digital Versatile Disc)等)や半導体メモリなどよりなる
図25に示されるリムーバブルメディア211に記録して提供される。また、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル放送といった、有線または無線の伝送媒体を介して提供されるようにしてもよい。プログラムは、ROM202や記憶部208に、あらかじめインストールしておくことができる。
【0217】
コンピュータが実行するプログラムは、本明細書で説明する順序に沿って時系列に処理が行われるプログラムであっても良いし、並列に、あるいは呼び出しが行われたとき等の必要なタイミングで処理が行われるプログラムであっても良い。
【0218】
なお、本明細書において、システムとは、複数の構成要素(装置、モジュール(部品)等)の集合を意味し、すべての構成要素が同一筐体中にあるか否かは問わない。したがって、別個の筐体に収納され、ネットワークを介して接続されている複数の装置、及び、1つの筐体の中に複数のモジュールが収納されている1つの装置は、いずれも、システムである。
【0219】
本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0220】
本技術の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0221】
例えば、本技術は、1つの機能をネットワークを介して複数の装置で分担、共同して処理するクラウドコンピューティングの構成をとることができる。
【0222】
また、上述のフローチャートで説明した各ステップは、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【0223】
さらに、1つのステップに複数の処理が含まれる場合には、その1つのステップに含まれる複数の処理は、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
【符号の説明】
【0224】
1 データ処理装置, 2 調理ロボット, 21-1乃至21-4 調理アーム, 61 コントローラ, 101 香り計測部, 121 送風部, 122 吸気部, 123 香りセンサ, 124 コントローラ, 221 コマンド生成部, 231 レシピデータ取得部, 232 ロボット状態推定部, 233 制御部, 234 コマンド出力部, 251 カメラ, 252 センサ, 253 通信部, 261 命令コマンド取得部, 262 アーム制御部