(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】欠陥計測装置、欠陥計測方法、亜鉛系めっき鋼板の製造設備、亜鉛系めっき鋼板の製造方法、及び亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/892 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
G01N21/892 B
(21)【出願番号】P 2022027379
(22)【出願日】2022-02-25
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 紘明
(72)【発明者】
【氏名】木庭 正貴
(72)【発明者】
【氏名】星野 克弥
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-169782(JP,A)
【文献】特開2002-148203(JP,A)
【文献】特開平07-043317(JP,A)
【文献】特開2007-285753(JP,A)
【文献】特開2018-155690(JP,A)
【文献】特開2000-065755(JP,A)
【文献】特開2020-158875(JP,A)
【文献】特開2004-151006(JP,A)
【文献】特開2017-067462(JP,A)
【文献】特開2014-081319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛系めっき鋼板の表面の筋状欠陥を計測する欠陥計測装置であって、
前記亜鉛系めっき鋼板の表面にライン照明光を照射する照射手段と、
前記亜鉛系めっき鋼板の表面で反射された前記ライン照明光を受光することによって、前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像を撮影する撮像手段と、
前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像から前記筋状欠陥の指標を算出する演算手段と、を備え、
前記演算手段は、2次元の筋状欠陥の画像を前記亜鉛系めっき鋼板の圧延方向に対して垂直な方向は1次元のままで前記亜鉛系めっき鋼板の圧延方向に対して平行な方向は0次元に圧縮することにより生成した1次元プロファイルの最大値と最小値を抽出し、最大値から最小値を引いた値を前記筋状欠陥の指標として算出し、
前記照射手段及び前記撮像手段は、前記ライン照明光の照射角と受光角との差が前記筋状欠陥の指標の差が筋状欠陥の有無により
比較的大きくなる角度
の範囲である20度以上40度以下の範囲内になるように配置されている、
欠陥計測装置。
【請求項2】
前記照射手段は、前記ライン照明光の延伸方向が前記亜鉛系めっき鋼板の圧延方向に対して垂直な方向になるように配置されている、請求項1に記載の欠陥計測装置。
【請求項3】
前記演算手段は、前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像から前記垂直な方向の輝度むらを補正した補正画像を生成し、前記補正画像から筋状欠陥を含んだ領域の画像を選択し、選択した前記筋状欠陥の画像から前記指標を算出する、請求項2に記載の欠陥計測装置。
【請求項4】
亜鉛系めっき鋼板の表面の筋状欠陥を計測する欠陥計測方法であって、
照射手段が前記亜鉛系めっき鋼板の表面にライン照明光を照射する照射ステップと、
撮像手段が前記亜鉛系めっき鋼板の表面で反射された前記ライン照明光を受光することによって、前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像を撮影する撮像ステップと、
前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像から前記筋状欠陥の指標を算出する演算ステップと、を含み、
前記演算ステップは、2次元の筋状欠陥の画像を前記亜鉛系めっき鋼板の圧延方向に対して垂直な方向は1次元のままで前記亜鉛系めっき鋼板の圧延方向に対して平行な方向は0次元に圧縮することにより生成した1次元プロファイルの最大値と最小値を抽出し、最大値から最小値を引いた値を前記筋状欠陥の指標として算出し、
前記照射手段及び前記撮像手段は、前記ライン照明光の照射角と受光角との差が前記筋状欠陥の指標の差が筋状欠陥の有無により
比較的大きくなる角度
の範囲である20度以上40度以下の範囲内になるように配置されている、
欠陥計測方法。
【請求項5】
亜鉛系めっき鋼板を製造する製造設備と、
前記製造設備により製造された亜鉛系めっき鋼板の表面を計測する請求項1~3のうち、いずれか1項に記載の欠陥計測装置と、
を備える、亜鉛系めっき鋼板の製造設備。
【請求項6】
亜鉛系めっき鋼板を製造する製造ステップと、
請求項4に記載の欠陥計測方法を用いて前記製造ステップにおいて製造された亜鉛系めっき鋼板の表面を計測する計測ステップと、
を含む、亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の欠陥計測方法を用いて亜鉛系めっき鋼板の表面を計測する計測ステップと、
前記計測ステップにおける筋状欠陥の計測結果から前記亜鉛系めっき鋼板の品質管理を行う品質管理ステップと、
を含む、亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、欠陥計測装置、欠陥計測方法、亜鉛系めっき鋼板の製造設備、亜鉛系めっき鋼板の製造方法、及び亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼製品の表面性状は鉄鋼製品の外観上重要な要素であり、特に外観を損ねる表面性状は鉄鋼製品の価値を大きく低下させる。表面性状による外観特性の変化は、鉄鋼製品表面の表面粗さ等の微小な形状、化学的組成、及び皮膜膜厚の偏り等によって発生することが多い。例えば亜鉛系めっき鋼板では、筋状欠陥状の微小(数100nm~数μm程度)な凹凸が表面に発生し、後工程の塗装処理によって凹凸が顕在化することにより外観が損なわれる場合がある。この凹凸は、亜鉛系めっき鋼板の製造工程において表面成分の僅かな偏析によって鉄と亜鉛の合金化度の進み易さに偏りが生じることによって発生する。また、合金化度の進み易さの偏りは圧延工程によって鋼板の圧延方向に延ばされるため、この凹凸は鋼板の圧延方向に幅数100μm~数10mmの筋となって発生することが多い。
【0003】
ところが、筋状欠陥状の微小な凹凸(以下、筋状欠陥と呼ぶ)に起因する亜鉛系めっき鋼板の外観特性の変化は、目視で観察するとうっすらと筋状の模様が確認される程度である。また、凹凸量が小さいこと及び発生面に対する微小な凹凸の割合が小さいことから、凹凸を直接計測して定量化することは困難である。このような背景から、過去の研究開発では、外観をいかに良くするかに焦点が置かれ、外観の評価は専ら目視に依存していた。具体的には、特許文献1,2には、溶融亜鉛めっき鋼板の外観を目視で判断する方法が記載されている。一方、このような外観特性の定量化に対し、めっき表面にパルスレーザ光を照射し、各分析点に対してパルス毎に発光スペクトルを分光分析する方法(特許文献3参照)や、めっき表面に光を照射することによって得られた画像の明部と暗部の面積からスパングルと呼ばれる模様を検査する方法(特許文献4参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-153004号公報
【文献】特開2018-44190号公報
【文献】特開2006-317379号公報
【文献】特開平11-72317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に記載の方法は、属人的な亜鉛系めっき鋼板の外観特性に対する判断のばらつきを生むだけでなく、外観特性の基準が曖昧となるため真に外観が改善されたかどうかに説得力を持たせることができない。一方、特許文献3に記載の方法は、亜鉛系めっき鋼板の外観特性の定量化方法というよりはめっき構造の分析方法であり、分析結果が外観に与える影響をさらに評価しなければならず、外観特性の判断という観点からは間接的である。また、パルスレーザ光の照射点のみの評価であることから、外観を面的に評価するにはパルスレーザ光を走査させる必要があり、装置が大がかりとなる。また、パルスレーザ光のスポット径より小さい幅の筋状欠陥の計測は困難である。また、特許文献4に記載の方法は、エリアセンサを用いているため、視野内で光学系がばらつくことがある。また、スパングルのみを評価対象としており、筋状欠陥の微小な凹凸までを評価可能であるかどうかが定かではない。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡素な光学系で筋状欠陥状の微小な凹凸(以下、筋状欠陥と呼ぶ)に起因する亜鉛系めっき鋼板の表面の外観特性を直接的に短時間で計測可能な欠陥計測装置及び欠陥計測方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、亜鉛系めっき鋼板を歩留まりよく製造可能な亜鉛系めっき鋼板の製造設備及び製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、高品質な亜鉛系めっき鋼板を提供可能な亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る欠陥計測装置は、亜鉛系めっき鋼板の表面の筋状欠陥を計測する欠陥計測装置であって、前記亜鉛系めっき鋼板の表面にライン照明光を照射する照射手段と、前記亜鉛系めっき鋼板の表面で反射された前記ライン照明光を受光することによって、前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像を撮影する撮像手段と、を備え、前記照射手段及び前記撮像手段は、前記ライン照明光の照射角と受光角との差が20度以上40度以下の範囲内になるように配置されている。
【0008】
前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像から、前記亜鉛系めっき鋼板の圧延方向に対して平行な方向における前記筋状欠陥の特徴量を前記筋状欠陥の指標として算出する演算手段を備え、前記照射手段は、前記ライン照明光の延伸方向が前記亜鉛系めっき鋼板の圧延方向に対して垂直な方向になるように配置されているとよい。
【0009】
前記演算手段は、前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像から前記垂直な方向の輝度むらを補正した補正画像を生成し、前記補正画像から筋状欠陥を含んだ領域の画像を選択し、選択した前記筋状欠陥の画像から前記指標を算出するとよい。
【0010】
本発明に係る欠陥計測方法は、亜鉛系めっき鋼板の表面の筋状欠陥を計測する欠陥計測方法であって、照射手段が前記亜鉛系めっき鋼板の表面にライン照明光を照射する照射ステップと、撮像手段が前記亜鉛系めっき鋼板の表面で反射された前記ライン照明光を受光することによって、前記亜鉛系めっき鋼板の表面画像を撮影する撮像ステップと、を含み、前記照射手段及び前記撮像手段は、前記ライン照明光の照射角と受光角との差が20度以上40度以下の範囲内になるように配置されている。
【0011】
本発明に係る亜鉛系めっき鋼板の製造設備は、亜鉛系めっき鋼板を製造する製造設備と、前記製造設備により製造された亜鉛系めっき鋼板の表面を計測する本発明に係る欠陥計測装置と、を備える。
【0012】
本発明に係る亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、亜鉛系めっき鋼板を製造する製造ステップと、本発明に係る欠陥計測方法を用いて前記製造ステップにおいて製造された亜鉛系めっき鋼板の表面を計測する計測ステップと、を含む。
【0013】
本発明に係る亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法は、本発明に係る欠陥計測方法を用いて亜鉛系めっき鋼板の表面を計測する計測ステップと、前記計測ステップにおける筋状欠陥の計測結果から前記亜鉛系めっき鋼板の品質管理を行う品質管理ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る欠陥計測装置及び欠陥計測方法によれば、簡素な光学系で筋状欠陥に起因する亜鉛系めっき鋼板の表面の外観特性を直接的に短時間で計測することができる。また、本発明に係る亜鉛系めっき鋼板の製造設備及び製造方法によれば、亜鉛系めっき鋼板を歩留まりよく製造することができる。また、本発明に係る亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法によれば、高品質な亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である欠陥計測装置の構成を示す側面図及び正面図である。
【
図2】
図2は、ライン光源の照射角及びラインセンサの受光角の定義を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態である定量化処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、溶融亜鉛めっき鋼板の表面画像の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す表面画像の補正画像を示す図である。
【
図6】
図6は、筋状欠陥画像及びプロファイルの一例を示す図である。
【
図7】
図7は、筋状欠陥がある場合と筋状欠陥がない場合における筋状欠陥画像及びプロファイルの一例を示す図である。
【
図8】
図8は、筋状欠陥がある場合と筋状欠陥がない場合における指標の推移の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態である欠陥計測装置の変形例の構成を示す側面図及び正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である欠陥計測装置、欠陥計測方法、亜鉛系めっき鋼板の製造設備、亜鉛系めっき鋼板の製造方法、及び亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法について説明する。
【0017】
なお、本明細書中において、「亜鉛系めっき鋼板」とは、めっき層中に亜鉛を含有するめっき鋼板を意味する。具体的には、亜鉛系めっき鋼板としては、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、溶融亜鉛めっき鋼板を合金化した合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、Zn-Niめっき鋼板、Zn-Mgめっき鋼板、Zn-Al-Mgめっき鋼板(例えばZn-6質量%Al-3質量%Mg合金めっき鋼板、Zn-11質量%Al-3質量%Mg合金めっき鋼板等)、Zn-Alめっき鋼板(例えば、Zn-5質量%Al合金めっき鋼板、Zn-55質量%Al合金めっき鋼板等)等を例示することができる。また、めっき層中に少量の異種金属元素又は不純物として、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、クロム、アルミニウム、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅、ケイ素のうちの一種又は二種以上を含有してもよい。また、めっき層は、同種又は異種のめっき層を2層以上形成してなるものであってもよい。
【0018】
また、亜鉛系めっき鋼板の下地となる鋼板の鋼種としては、鋼組成が質量%で、C:0.0001%以上0.25%以下、Si:0.001%以上2.0%以下、Mn:0.01%以上3.0%以下、P:0.001以上0.02%以下、S:0.0001以上0.02%以下、Al:0.001%以上0.10%以下、N:0.0001%以上0.007%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼種を例示できる。また、上記必須元素に加え選択元素として、Cr:0%超え2.0%以下、Nb:0.001%以上1.0%以下、V:0.001%以上1.0%以下、W:0%超え0.3%以下、Ni:0%超え2.0%以下、Cu:0%超え2.0%以下、Mo:0%超え1.0%以下、B:0%超え0.01%以下Ti:0.001%以上0.1%以下、Ca:0%超え0.03%以下、Mg:0%超え0.03%以下から選ばれる1種又は2種以上の元素を必要に応じて含有してもよい。さらに、上記鋼種に加え、冷間圧延による鋼板であれば、本発明はより効果的に作用する。
【0019】
〔欠陥計測装置の構成〕
まず、
図1,
図2を参照して、本発明の一実施形態である欠陥計測装置の構成について説明する。
【0020】
図1(a),(b)は、本発明の一実施形態である欠陥計測装置の構成を示す側面図及び正面図である。
図1(a),(b)に示すように、本発明の一実施形態である欠陥計測装置1は、亜鉛系めっき鋼板(以下、鋼板と略記)から部分的に切り取った切板サンプルSの外観特性を、切板サンプルSの表面における筋状欠陥の指標として定量化するオフライン型の欠陥計測装置である。欠陥計測装置1は、リニアステージ2、ライン光源3、ラインセンサ4、及び演算装置5を備えている。なお、切板サンプルSはできだけ平坦なものであることが望ましい。
【0021】
リニアステージ2は、上部に切板サンプルSを載置し、鋼板の圧延方向に沿って切板サンプルSを搬送する搬送装置である。
【0022】
ライン光源3は、鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に延伸するライン照明光を切板サンプルSの表面に照射する。なお、ライン照明光の照射方向と切板サンプルSの搬送方向は鋼板の圧延方向に対して平行な方向であることが好ましいが、鋼板の圧延方向に対して垂直な方向や斜め方向にライン照明光を照射してもよい。また、本実施形態では、筋状欠陥の延伸方向が鋼板の圧延方向と一致することが多いために、鋼板の圧延方向に対して平行な方向にライン照明光を照射した。一方、筋状欠陥の延伸方向が鋼板の圧延方向と一致しない場合には、筋状欠陥の延伸方向に対して平行な方向にライン照明光を照射するとよい。ライン光源3は、本発明に係る照射手段として機能する。
【0023】
ラインセンサ4は、鋼板の圧延方向に対して垂直な方向に配列された1ライン以上の撮像素子を有する撮像装置により構成されている。ラインセンサ4は、切板サンプルSの表面から反射されたライン照明光を受光することにより、リニアステージ2によって搬送される切板サンプルSの画像を連続的に撮影し、撮影された画像のデータを演算装置5に出力する。一般的なデジタルカメラとスポット光源を用いて切板サンプルSの画像を撮影すると、撮像位置によって照明光の照射角や受光角が異なるために、筋状欠陥の見え方が変化する。そこで、本実施形態の欠陥計測装置1では、鋼板の圧延方向に対して平行な方向に照明光の照射方向及び撮像方向を限定し、リニアステージ2を用いて切板サンプルSをスキャンした。このような態様では、切板サンプルS全体を均一な光学条件で撮像することができ、非常に好ましい。ラインセンサ4は、本発明に係る撮像手段として機能する。
【0024】
なお、
図2に示す切板サンプルSの表面垂直方向に対するライン光源3の照射角とラインセンサ4の受光角が等しい場合には、光学条件は正反射条件となり、切板サンプルSの鏡面反射成分の画像を取得することができる。そして、鏡面反射成分はライン光源3の照射角とラインセンサ4の受光角の差が大きくなるのに応じて減少し、逆に拡散反射成分が増加する。本発明の発明者らは、切板サンプルSの表面を詳細に観察した結果、光学条件が正反射条件に近づくと鏡面反射成分がノイズとなる一方、光学条件が正反射条件から遠ざかり過ぎると、切板サンプルSの地合いそのものが持つ表面粗さが強調され、筋状欠陥の信号が埋もれてしまうことを知見した。このため、ライン光源3の照射角とラインセンサ4の受光角の差は20度以上40度以下の範囲内に設定されている。なお、この角度範囲は、後述する筋状欠陥の指標の差が筋状欠陥の有無により最も大きくなる角度範囲を例えば機械学習手法により学習することによって求めることができる。
【0025】
また、ラインセンサ4の受光輝度は暗すぎずかつ飽和しない条件であることが好ましい。また、切板サンプルSの画像の幅方向(鋼板の圧延方向に対して垂直な方向)分解能は、評価したい筋状欠陥の幅方向ピッチに対し十分小さいことが好ましい。例えば最小0.5mm幅の筋状欠陥を評価したい場合には、幅方向分解能は0.25mm以下とすることが好ましい。一方、切板サンプルSの画像の長手方向(鋼板の圧延方向)分解能は特に制限はないが、切板サンプルSの搬送時に変化しないことが好ましい。そのためには、リニアステージ2を用いて切板サンプルSを一定速度で搬送したり、切板サンプルSの搬送量に応じたパルス信号をトリガー信号として切板サンプルSの画像を撮影したりするとよい。
【0026】
また、ライン照明光の波長及びラインセンサ4の受光波長としては、本実施形態の目的が目視での亜鉛系めっき鋼板の外観特性に対する判断を、筋状欠陥の指標として定量化することであることから、可視光領域の波長を用いることが好ましい。また、通常可視光用カメラに用いられるSi素子の感度特性は近赤外光を含むことから、赤外光カットフィルターを入れることによって赤外光領域の波長を除去するとよい。さらに、ライン照明光の波長は目視に合わせてブロードであることが好ましく、この場合、ライン光源3としてキセノン光源やハロゲン光源、メタルハライド光源等を用いるとよい。
【0027】
演算装置5は、情報処理装置によって構成されている。演算装置5は、ラインセンサ4によって連続的に撮影された幅方向の画像のデータを長手方向に繋ぎ合わせることにより切板サンプルSの表面画像を生成する。そして、演算装置5は、生成された切板サンプルSの表面画像に対して後述する定量化処理を実行ことにより筋状欠陥の指標を定量化する。演算装置5は、本発明に係る演算手段として機能する。
【0028】
〔定量化処理〕
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態である定量化処理について説明する。
【0029】
図3は、本発明の一実施形態である定量化処理の流れを示すフローチャートである。
図3に示すフローチャートは、演算装置5が、切板サンプルSの表面画像を生成したタイミングで開始となり、定量化処理はステップS1の処理に進む。
【0030】
ステップS1の処理では、演算装置5が、切板サンプルSの表面画像の幅方向(鋼板の圧延方向に対して垂直な方向)の輝度むらを補正(除去)することにより、筋状欠陥が表面画像内のどの位置で発生したとしても同一の計測値が得られるようにする。具体的には、光学系は幅方向に均一な輝度が得られるように設計されているが、それでも鋼板自体が持つ面的になだらかな反射特性の変化等の影響によって幅方向に輝度むらが発生する。そこで、演算装置5は、まず、切板サンプルSの表面画像に含まれる低周波成分を除去する。そして、演算装置5は、低周波成分のみを抽出した表面画像の輝度と低周波成分を除去した画像の輝度との比をとった画像を補正画像として生成する。
【0031】
単純に低周波成分を除去しただけでは、同じ筋状欠陥でも周辺部の輝度値が高ければコントラストが強くなり、低ければコントラストが弱くなるので、後工程で行われる筋状欠陥の計測値が表面画像内の位置に依存してしまう。これに対して、低周波成分のみを抽出した表面画像と低周波成分を除去した画像との輝度比をとった画像を補正画像として生成することにより、周辺部の輝度値が高い部分と低い部分に発生した筋状欠陥のコントラストの差を平均化することができる。ライン光源3の照射角を10度、ラインセンサ4の受光角を40度、幅方向分解能を0.11mm、長手方向分解能を0.08mmとして筋状欠陥が発生した溶融亜鉛めっき鋼板の表面を撮影した画像を
図4に示す。また、
図4に示す表面画像の補正画像を
図5に示す。これにより、ステップS1の処理は完了し、定量化処理はステップS2の処理に進む。
【0032】
ステップS2の処理では、演算装置5が、ステップS1の処理によって生成された補正画像から、筋状欠陥を含んだある範囲の領域の画像を選択し、選択された筋状欠陥を含んだ領域の画像を筋状欠陥画像と設定することにより筋状欠陥画像を生成する。筋状欠陥を含んだ領域を選択した例を
図6(a)に示す。領域選択後の画像はわかりやすいように色調補正している。本例では、外観不良となる縦筋である白い筋と黒い筋の安定した領域を含むように十分な長手方向の長さを選択している。なお、筋状欠陥画像において筋状欠陥は場所によって薄まっていることがあるので、できるだけ安定して発生している領域を選択することが好ましい。また、筋状欠陥の周辺に、汚れや欠陥等の筋状欠陥以外の異物がある場合、異物の画像が筋状欠陥画像におけるノイズ要因となるので、画像を選択する範囲から異物の画像を外すことが好ましい。これにより、ステップS2の処理は完了し、定量化処理はステップS3の処理に進む。
【0033】
ステップS3の処理では、演算装置5が、ステップS2の処理によって生成された筋状欠陥画像に対して長手方向における輝度の平均化処理等を実施する。具体的には、ステップS2の処理によって生成された筋状欠陥画像における筋状欠陥部の輝度と周辺部の輝度をそのまま単純に比較してしまうと、鋼板そのものが持つ表面粗さ等の表面性状によってばらつきが大きくなる。そこで、筋状欠陥が長手方向に延伸する特徴を考慮して、演算装置5は、筋状欠陥画像に対して長手方向における輝度の平均化処理等を実施する。言い換えると、演算装置5は、2次元の筋状欠陥画像を幅方向は1次元のままで長手方向は0次元に圧縮した1次元(線状)プロファイルを生成する。詳しくは、演算装置5は、長手方向に対しては2次元の筋状欠陥画像における長手方向の特徴を反映した代表値が得られるように処理を行う。例えば筋状欠陥画像は2次元の行列であるので、筋状欠陥画像はI(p,q)(1≦p≦P、1≦q≦Q、P×Qの解像度)と表現できる(
図6(a)参照)。従って、平均化処理の場合には、1次元プロファイルL(p)(1≦p≦P)は以下に示す数式(1)により算出することができる。
図6(a)に示す筋状欠陥画像から算出された1次元プロファイルL(p)を
図6(b)に示す。
【0034】
【0035】
なお、平均化処理以外の処理としては、最大値処理(長手方向の輝度の最大値を代表値とする処理)、最小値処理(長手方向の輝度の最小値を代表値とする処理)、中央値処理(長手方向の輝度の中央値を代表値とする処理)、及びパーセンタイル処理(大きい順に並び変えて決まった順位の輝度値を採用する処理)等を例示することができる。但し、長手方向に対して安定して筋状欠陥部の代表値が得られるのであれば、どのような処理であってもよい。また、筋状欠陥画像の長手方向の長さは、表面粗さによるばらつきを低減できるように十分長いことが好ましい。例えば平均値処理を採用する場合、表面粗さ起因のノイズがランダムに発生し、ノイズが正規分布であると仮定すると、Q点の平均化によってノイズは√Q倍される。従って、筋状欠陥画像の長手方向の長さ、すなわち長手方向の平均化する点数をQ、筋状欠陥の代表点の信号をS、健全部のノイズをN、必要なSN比をρと置くと、ρは以下に示す数式(2)を満たすとよい。
【0036】
【0037】
ステップS4の処理では、演算装置5が、ステップS3の処理によって得られた1次元プロファイルから筋状欠陥に対応する位置の数値を抽出し、その数値を筋状欠陥の指標とする。なお、周辺部と比較し筋状欠陥が明るい場合は正側、暗い場合は負側に信号強度が出るので、絶対値を筋状欠陥の指標としてもよいし、最大値から最小値を引いた値を筋状欠陥の指標としてもよい。ここで、
図7(a),(b)に筋状欠陥がある場合と筋状欠陥がない場合における筋状欠陥画像及び1次元プロファイルを示す。
図7(a)の黒矢印及び白矢印は目視によって確認された筋状欠陥の位置を示し、数値-6.8及び+3,4は筋状欠陥の位置における1次元プロファイルの数値を示す。得られた数値は目視の直感的な判定とよく一致していることがわかる。また、ライン光源3の照射角を10度に固定し、ラインセンサ4の受光角を変化させたときの筋状欠陥があるサンプルと筋状欠陥のないサンプルにおける指標の推移を
図8に示す。なお、
図8に示す例では、抽出した数値を筋状欠陥の指標とするために、指標は最大値と最小値の差とした。抽出した数値の最大値と最小値の差が大きければ大きいほど、筋状欠陥の程度が酷く亜鉛系めっき鋼板の外観特性は悪化することが明らかであるためである。また、
図8中の「欠陥ありの指標と欠陥なしの指標との差」は、各受光角(単位は度)における、筋状欠陥ありの場合の指標から筋状欠陥なしの場合の指標を引いた値である。筋状欠陥なしの場合の指標(
図8の場合、筋状欠陥がない領域における最大値と最小値の差)は、計測対象である亜鉛系めっき鋼板が元々持っている指標、例えば背景ノイズに相当すると考えられる。そこで、筋状欠陥ありの場合の指標(
図8の場合、筋状欠陥がある領域における最大値と最小値の差)からさらに背景ノイズに相当する筋状欠陥なしの場合の指標を引けば、筋状欠陥ありの場合における指標の変化をより強調できる。
【0038】
図8に示すように、ラインセンサ4の受光角が10度付近と正反射領域に近い場合、ミクロな鏡面反射がまばらに存在し、筋状欠陥の有無にかかわらず指標の値は大きくなった。これに対して、ラインセンサ4の受光角を大きくしていくと、筋状欠陥そのものの信号値が弱まり、筋状欠陥の有無にかかわらず指標の値は低下した。そして、ラインセンサ4の受光角が40度と正反射方向から30度離れたとき(ライン光源3の照射角との差が30度になったとき)に、筋状欠陥の有無による指標の差が最も大きくなった。詳しくは、ラインセンサ4の受光角を正反射方向である10度から大きくしていくと、30度で指標が上がり始め40度でピークとなり、その後50度まで低下した。これにより、ライン光源3の照射角が10度である場合、ラインセンサ4の受光角が30度から50度の範囲内で上述の指標の差を大きくできることが確認された。従って、本例では、ライン光源3の照射角を10度に固定しているため、ラインセンサ4の受光角を正反射方向から20度以上40度以下の範囲で異なるようにラインセンサ4を配置するとよく、30度異なる条件が最もよいと言える。また、このことから、ライン光源3の照射角とラインセンサ4の受光角の差は20度以上40度以下の範囲内に設定するとよい。これにより、ステップS4の処理は完了し、一連の定量化処理は終了する。
【0039】
以上の説明から明らかなように、本発明の一実施形態である欠陥計測装置1は、亜鉛系めっき鋼板の表面にライン照明光を照射するライン光源3と、亜鉛系めっき鋼板の表面で反射されたライン照明光を受光することによって亜鉛系めっき鋼板の表面画像を撮影するラインセンサ4と、を備え、ライン光源3及びラインセンサ4は、ライン照明光の照射角と受光角との差が20度以上40度以下の範囲内になるように配置されている。これにより、簡素な光学系で筋状欠陥を直接的に短時間で計測することができる。
【0040】
また、本指標を用いて製品毎に筋状欠陥の発生状況(例えば、筋状欠陥の外観程度、発生頻度および大きさ等)を等級化することにより様々な効果を得ることができる。例えば、指標を製品の合否判定に用いる、製品の製造工程のオペレーションに指標をフィードバックして筋状欠陥の発生を抑制する、指標をほかの様々な操業データと合わせて大規模データとして取り扱い、多変量解析により筋状欠陥の発生要因や発生条件を特定する、他操業データから筋状欠陥の発生リスクを予測する、予測結果を操業現場に提示する、予測結果を用いて自動操業する等が挙げられる。
【0041】
また、本発明を亜鉛系めっき鋼板の製造設備を構成する欠陥計測装置に適用し、本発明に係る欠陥計測装置によって公知又は既存の製造設備によって製造された亜鉛系めっき鋼板を計測し、当該亜鉛系めっき鋼板の筋状欠陥を計測するようにしてもよい。また、本発明を亜鉛系めっき鋼板の製造方法に含まれる欠陥計測方法に適用し、公知又は既存の製造ステップで製造された亜鉛系めっき鋼板を計測する計測ステップを備えることで、当該亜鉛系めっき鋼板において筋状欠陥を計測するようにしてもよい。このような亜鉛系めっき鋼板の製造設備及び金属帯の製造方法によれば、亜鉛系めっき鋼板を歩留りよく製造することができる。さらに、本発明を亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法に適用し、亜鉛系めっき鋼板を計測する計測ステップを備えることにより、亜鉛系めっき鋼板の筋状欠陥の計測結果から、亜鉛系めっき鋼板の品質管理を行うようにしてもよい。このような亜鉛系めっき鋼板の品質管理方法によれば、高品質の亜鉛系めっき鋼板を提供することができる。
【0042】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。
【0043】
例えば、上記実施形態は切板サンプルを用いた例であるが、オンラインで搬送中の亜鉛系めっき鋼板に本発明を適用することにより、製品の全長全幅に発生する筋状欠陥の指標、すなわち亜鉛系めっき鋼板の外観特性の定量化をオンラインで実施することもできる。オンラインでの本発明の適用例を
図9に示す。
図9に示す例では、搬送中の亜鉛系めっき鋼板STに対して切板サンプルSと同様にライン光源3とラインセンサ4を設置し、ロールRの回転に合わせてエンコーダ6によりパルス信号を発生させ、パルス信号をトリガーとして亜鉛系めっき鋼板STの表面画像を撮影する。このとき、エンコーダ6のパルス値をカウントして筋状欠陥の発生位置を突合せできるようにしておくことが好ましい。そして、演算装置5は、撮影された表面画像から筋状欠陥の指標をリアルタイムで算出する。また、演算装置5は、上位PC7から亜鉛系めっき鋼板STの情報を得て指標の有害度を判定し、上位PC7に指標を伝送することによって筋状欠陥の指標を管理する。また、演算装置5は、亜鉛系めっき鋼板STの全長全幅において筋状欠陥の指標を算出して指標マップを作成する。この時、閾値を設けることにより実際に筋状欠陥が発生した部位の画像のみを保存し、その後筋状欠陥の強度や幅、発生範囲等でより詳細に筋状欠陥の特徴を分析し、品質保証や要因解析に役立てても良い。このように、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0044】
1 欠陥計測装置
2 リニアステージ
3 ライン光源
4 ラインセンサ
5 演算装置
S 切板サンプル
ST 亜鉛系めっき鋼板