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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20250121BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20250121BHJP
【FI】
G08G1/16 D
B60W30/09
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022132545
(22)【出願日】2022-08-23
(65)【公開番号】P2024030021
(43)【公開日】2024-03-07
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎太郎
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-194979(JP,A)
【文献】特開2019-069659(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0011913(US,A1)
【文献】特開2021-100827(JP,A)
【文献】特開2006-154967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方に検出される死角に対応した前記車両の制御を行うことで前記車両の運転を支援する運転支援装置であって、
前記車両の前方に複数の死角が検出され、前記複数の死角が所定の条件を満たすときは、前記複数の死角を1つの複合リスクと判定し、
前記複合リスクが存在するときは、
前記複数の死角のそれぞれのリスクの高さを示す単体リスク推定値及び前記複合リスク全体のリスクの高さを示す複合リスク推定値を算出し、
前記死角に対応した車両の制御を終了させる制御終了位置を、前記単体リスク推定値が最も高い死角を通過する位置に決定し、
前記複合リスク推定値に応じて前記車両の前記制御終了位置の目標通過速度を決定し、
前記複合リスク推定値は、前記複合リスクに含まれる死角の単体リスク推定値の合計値である
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置であって、
前記所定の条件は、
前記複数の死角に含まれる第1の死角のみが存在するとしたときに前記運転支援装置が算出する前記車両の走行軌道が、前記車両が前記複数の死角が検出される前に走行していた元の走行車線をはみ出すものであり、かつ、前記複数の死角のうち前記第1の死角の次に位置する第2の死角を通過するまでの間に、前記元の走行車線に復帰しないことである
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の運転支援装置であって、
前記所定の条件は、更に、
前記元の走行車線が最左車線であり、かつ、前記車両が前記複数の死角が検出される前に走行していた位置が前記最左車線の範囲内であることを含む
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の運転支援装置であって、
前記運転支援装置が死角を検出するまでの間に設けられる事前評価区間において検出された歩行者の数と対向車の数の和が所定の閾値以下の場合は、前記複合リスク推定値を前記複合リスクに含まれる死角の単体リスク推定値の最大値に変更する
ことを特徴とする運転支援装置。
【請求項5】
車両の前方に死角を検出したときに、前記死角に対応した前記車両の制御を行うことで前記車両の運転を支援する運転支援方法であって、
前記車両の前方に複数の死角が検出され、前記複数の死角が所定の条件を満たすときは、前記複数の死角を1つの複合リスクと判定し、
前記死角のリスクの高さを示すリスク推定値を算出するためのリスク推定情報を取得し、
前記リスク推定情報に基づいて前記複数の死角のそれぞれに対してリスク推定値を算出し、
前記複合リスクに対しては、前記死角に対応した車両の制御を終了させる制御終了位置を前記算出されたリスク推定値が最も高い死角を通過する位置に決定し、前記算出されたリスク推定値の合計値に応じて前記車両の前記制御終了位置の目標通過速度を決定する
ことを特徴とする運転支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転支援装置及び運転支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両の運転者を支援する運転支援装置を開示している。運転支援装置は、車両の前方の障害物を検出し、その障害物の死角に存在する潜在リスクとして仮想的な移動体を想定した車両軌道を設定する。こうして、運転支援装置は、障害物の死角から飛び出してくる歩行者等の顕在していないリスクを考慮した支援を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-206117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は死角に存在する潜在的なリスクを考慮した車両の制御を行うことで車両の運転を支援する運転支援装置に関する。本開示は複数存在する死角に対して適切な制御を行うことのできる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点は、車両の前方に死角を検出したときに、死角に対応した車両の制御を行うことで車両の運転を支援する運転支援装置に関連する。運転支援装置は、死角のリスクの高さを示すリスク推定値を算出するためのリスク推定情報を記憶し、車両の前方に複数の死角が検出され、複数の死角が所定の条件を満たすときは、上記複数の死角を1つの複合リスクと判定する。また、運転支援装置は、複合リスクが存在するときは、リスク推定情報に基づいて複数の死角のそれぞれのリスクの高さを示す単体リスク推定値及び複合リスク全体のリスクの高さを示す複合リスク推定値を算出し、死角に対応した車両の制御を終了させる制御終了位置を単体リスク推定値が最も高い死角を通過する位置に決定し、複合リスク推定値に応じて車両の制御終了位置の目標通過速度を決定する。複合リスク推定値は、複合リスクに含まれる死角の単体リスク推定値の合計値とされる。
【0006】
第2の観点は、車両の前方に死角を検出したときに、死角に対応した車両の制御を行うことで車両の運転を支援する運転支援方法に関連する。運転支援方法は、車両の前方に複数の死角が検出され、複数の死角が所定の条件を満たすときは、上記複数の死角を1つの複合リスクと判定し、死角のリスクの高さを示すリスク推定値を算出するためのリスク推定情報を取得し、リスク推定情報に基づいて複数の死角のそれぞれに対してリスク推定値を算出する。複合リスクに対しては、死角に対応した車両の制御を終了させる制御終了位置は単体リスク推定値が最も高い死角を通過する位置とされ、算出されたリスク推定値の合計値に応じて車両の制御終了位置の目標通過速度が決定される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、死角に対応した車両の制御を行うことで車両の運転を支援する技術において、複数存在する死角に対して適切な制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】死角について説明するための概念図である。
図2】複数の死角について説明するための概念図である。
図3】複数の死角が複合リスクとして扱われない場面を説明する図である。
図4】複数の死角が複合リスクとして扱われる場面を説明する図である。
図5】単体リスク推定値と制御量の関係を説明するための表である。
図6】複合リスク推定値と減速支援量の関係を説明するためのグラフ図である。
図7】本実施の形態に係る運転支援装置が行う制御を説明するタイムチャートである。
図8】単体リスク推定値の算出方法を説明するための表である。
図9】事前評価区間を説明するための図である。
図10】複合リスクの判断の変形例において運転支援装置が複合リスクとして扱わない場面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面を参照して、本開示の実施の形態を説明する。
【0010】
1.複合リスク
道路の形状や路上の駐車車両などは道路を走行する車両に対して死角を生じさせることがある。死角が存在すると予期できない移動体の飛び出しが起こる可能性があり、車両の減速が間に合わずに死角から飛び出してきた移動体と衝突するリスクが発生する。そこで、本実施の形態に係る運転支援装置は、車両の前方に死角を検出したときは、死角に対応した車両の制御を行うことでドライバや自動運転装置による車両の運転を支援する。図1には、死角の例として見通しの悪い交差点が作る死角が示されている。運転支援装置は、歩行者などの移動体が飛び出してくる可能性に備えて、緩やかなブレーキによって死角通過時の車両10の車速を下げる減速支援や、死角に対して十分な距離を取るように車両10の走行軌道を制御する横マージン確保を行う。運転支援装置が行うこれらの制御により、死角からの急な移動体の飛び出しがあったとしても、車両10が衝突を回避できる可能性を高めることができる。
【0011】
死角は、道路上に連続して複数存在することもある。図2の例では、1つ目の死角として駐車車両が作る死角が存在し、2つ目の死角として交差点が作る死角が存在する。運転支援装置は、このように死角が複数存在する場合も、車両10を制御して横マージン確保や減速支援などを行う。ただし、死角が複数存在する場合に1つ1つの死角に対する制御を単独で行うと、車両10の走行軌道や車速が不規則に変動して車両10のドライバに不快感を与える可能性がある。また、死角が複数存在する場合には死角が1つのみ存在する場合よりも発生するリスクが大きくなる場合もある。そこで、運転支援装置は、車両10の前方に検出される複数の死角が所定の条件を満たす場合には、それらの複数の死角を「複合リスク」として一塊のリスクとして扱う。そして、複数の死角全体に対してまとめて制御を行うことで、リスクに対する備えを十分に行いつつも、ドライバの煩わしさを軽減することができる。
【0012】
具体的には、運転支援装置は、1つの死角に対して横マージンを確保するために走行車線をはみ出した車両10の走行軌道が次に位置する死角を通過するまでの間に元の走行車線に復帰しないときは、それら複数の死角を複合リスクとして扱う。車両10の走行軌道は、車両10の制御のために運転支援装置によって算出される。このとき、運転支援装置が算出する走行軌道には予め条件が設けられてもよい。例えば、車両10の移動が急激なものとならないために横方向の加速度を0.2G以下とするという条件が予め設定されてもよい。運転支援装置はそのような条件に従って車両10の走行軌道を算出した上で、車両10が元の走行車線に復帰できるか否かを判断する。
【0013】
図3の例では、死角1と死角2の間の距離Dが十分にあるため、死角1に対して横マージンを確保するために走行車線をはみ出した車両10は、死角2を通過するまでに元の走行車線に復帰することができる。このような場合、運転支援装置は、死角1と死角2を複合リスクとして扱わずにそれぞれに対して独立に制御を行う。一方、図4の例では死角1と死角2の距離Dが比較的短いため、死角1に対して横マージンを確保するために走行車線をはみ出した車両10は、死角2を通過するまでに元の走行車線に戻ることができない。運転支援装置は、このような場合には死角1と死角2を複合リスクとして扱い、運転支援のための車両10の制御を一体的に行う。なお、死角が3つ以上存在する場合も同様である。例えば図4の例において、死角2の次に位置する死角3を通過するまでの間に車両10の走行軌道が元の走行車線に復帰できない場合は、死角1、死角2、及び死角3が複合リスクとして扱われる。
【0014】
なお、車両10が元の走行車線に復帰できるか否かには、1つ目の死角と2つ目の死角の距離D、車速、道路幅、などが影響する。例えば、距離Dが十分に長いときや車両10の車速が低いときは車両10が元の走行車線に復帰できる可能性は高くなる。また、道路幅が広ければ横マージン確保のために車両10が元の走行車線からはみ出す量が小さくなり、車両10が元の走行車線に復帰できる可能性は高くなる。
【0015】
2.制御量の決定
死角が連続して存在する場合、死角が単独で存在するときよりも死角が生み出すリスクは大きくなる可能性がある。そのため、運転支援装置が複数の死角を複合リスクとして扱う場合には、制御量、特に減速支援の量やタイミングを適切なものとすることが重要となる。死角を通過するときの速度が十分に下がっていなければリスクに対して十分に備えることができないし、かといって速度を落とし過ぎたり減速して走行する距離が長すぎたりするとドライバに煩わしさを感じさせてしまう。そこで、運転支援装置は、死角が生み出すリスクの大きさを示す指標を「リスク推定値」として算出し、リスク推定値に基づいて制御量を決定する。リスク推定値を算出するための情報は、リスク推定情報として運転支援装置によって予め記憶される。リスク推定値のうち、複合リスクに含まれるそれぞれの死角が生み出すリスクの大きさを示す値を単体リスク推定値とする。制御量は、単体リスク推定値に基づいて決定される。
【0016】
図5の表には、死角1と死角2が複合リスクとして扱われるときのリスク推定値と制御量の関係の例が示されている。図5に示されるように、運転支援装置が死角に対応する車両10の制御を終了する制御終了位置は、複合リスクに含まれる死角のうち単体リスク推定値の最も高い死角の位置として決定される。ドライバは一般的に、最も減速して通過すべき位置を考えるときにリスクの1番高い死角の位置を意識するため、このように制御終了位置を決定することで運転支援装置による制御をドライバの感覚と合ったものとすることができる。
【0017】
また、運転支援装置は、制御終了位置、つまり単体リスク推定値が最も高い死角の位置を車両10が通過するときの目標通過速度についても単体リスク推定値に基づいて決定する。運転支援装置は、まず、単体リスク推定値に基づいて複合リスク全体のリスクの大きさを示す複合リスク推定値を算出する。そして、複合リスク推定値が大きいほど目標通過速度が低く、複合リスク推定値が小さいほど目標通過速度が高くなるように目標通過速度を決定する。ここで、複合リスク推定値は、複合リスクに含まれるそれぞれの死角の単体リスク推定値の合計値とされる。ドライバは一般的に、死角が生み出すリスクを考えるときに複数の死角を1つの塊としてリスクの大きさを意識しているため、このように複合リスク推定値を設定することで運転支援装置が行う減速支援の量をドライバの感覚に合ったものとすることができる。
【0018】
図6のグラフは、複合リスク推定値と目標通過速度との関係を示している。複合リスク推定値が大きいほど複数の死角が発生させるリスクが大きいことを意味し、リスクに対する備えを大きくするように目標通過速度は低く設定される。死角検出時の車速が等しいとすれば、車速を目標通過速度まで下げるために運転支援装置が行う減速支援の量は、複合リスク推定値が大きいほど大きくなる。このようにリスク推定値に基づいて制御量が決められることで、制御量を適切なものとすることができる。
【0019】
3.タイムチャート
運転支援装置が行う車両10の制御について、タイムチャートを用いて具体的に説明する。図7には、複合リスクとして扱われる死角1と死角2があるときの車速の推移が示されている。上のタイムチャートは図5の表の(1)の場合に、下のタイムチャートは図5の表の(2)の場合に相当する。
【0020】
地点P1で、運転支援装置は死角を検出する。死角を検出した運転支援装置は、車両10の走行軌道や死角のリスクの大きさについての推定を開始する。運転支援装置は、走行軌道を推定することで検出された死角1と死角2を複合リスクとして扱うか否かの判断を行い、地点P2において死角1と死角2を複合リスクとして扱うことが確定する。そこで、運転支援装置は、遅くとも地点P3において制御を開始するまでに死角1及び死角2の単体リスク推定値を算出し、単体リスク推定値に基づいて、複合リスク推定値、目標通過速度、及び制御終了位置を決定する。制御が開始する地点P3は、例えば、複合リスクに含まれる死角のうち最初に位置する死角1までの到達時間、つまり死角1までの距離を車両10の現在の車速で除したものが予め定められた閾値を下回った地点とされる。
【0021】
運転支援装置は、制御終了位置で目標通過速度に到達するように、車両10を緩やかに減速させる。このとき、緩やかなブレーキによる減速支援が行われるように、減速度の上限(例えば0.2G)が予め決められていてもよい。上記で述べたように、制御終了位置及び目標通過速度は死角1と死角2の単体リスク推定値に基づいて決定される。目標通過速度は単体リスク推定値の和である複合リスク推定値に応じて決められるため、図7の(1)と(2)の場合で等しい。一方、制御終了位置は、(1)では死角2の位置である地点P5、(2)では死角1の位置である地点P4に設定される。
【0022】
その結果、(1)で死角1を通過するときの車速は、リスク検出時の車速よりは低いが死角2を通過するときの車速よりは高い速度となる。ここで、単体リスク推定値は死角1に対するものよりも死角2に対するものの方が大きいため、車両10は死角2に対してより減速による備えを必要とする。そのため、目標通過速度が死角2通過時の車速として設定されて緩やかな減速が行われることは適切な制御と言える。
【0023】
(2)の場合には、死角2を通過する時点では既に運転支援装置による制御は終了している。ただし、死角1通過時までに減速が行われているため、運転支援装置による支援が無い場合と比較すると死角2を通過するときの車速は低減していることになる。そのため、もし死角2からの移動体の急な飛び出しがあったとしても衝突を回避できる可能性を向上させることができる。このように、(2)のような場合においても、運転支援装置による支援を適切なものとすることができる。
【0024】
なお、(1)と(2)どちらにおいても、運転支援装置による制御が終了すると車両10はドライバや自動運転装置により制御される状態に戻る。もしここで死角からの移動体の飛び出しがあった場合は、ドライバや自動運転装置が作動させる緊急ブレーキによる減速が行われることになる。移動体の飛び出しなどが発生しなければ、通常はドライバや自動運転装置による加速が行われる。
【0025】
4.単体リスク推定値の算出方法
単体リスク推定値は、例えば次の式により算出される。
【数1】

【0026】
このように、単体リスク推定値(R1、R2)は、対象となる死角に関わる環境因子(F1、F2、F3・・・)と、因子係数(α1、α2、α3・・・又はβ1、β2、β3・・・)に基づいて演算される。環境因子は、例えば図8の表のように、死角や死角の周囲の環境によって値が決められる。運転支援装置は、環境因子を決めるための死角や死角の周囲の環境についての情報を、車両10に搭載された自律センサが検出する情報や、車両10が予め記憶する、或いはサーバからネットワークを通じて取得する地図情報などから取得することができる。因子係数は、統計的に処理されたデータから事前に決定される。また、環境因子及び因子係数は、死角の種類により異なるものが選択される。例えば、検出された死角が交差点が作る死角のときは、因子係数としてβが選択され、図8の表の右側の列に従って環境因子が選択される。単体リスク推定値を算出するためのこれらの情報は、運転支援装置が記憶するリスク推定情報に含まれる。
【0027】
5.複合リスク推定値の算出の変形例
複合リスク推定値の算出方法の変形例を示す。この例では、図9のように、運転支援装置が死角を検出する地点(図7の地点P1)までの間に事前評価区間Hが設けられ、事前評価区間Hについての所定の条件が満たされる場合には、複合リスク推定値は、複合リスクに含まれるそれぞれの死角の単体リスク推定値の和ではなく最大値に変更される。事前評価区間Hについての所定の条件は、車両10が事前評価区間Hを走行中に検出した歩行者の数と対向車の数の和が一定の閾値A以下となることである。この条件が満たされることは道路全体のリスクが小さいことを意味し、死角から飛び出してきた移動体を車両10が緊急ブレーキなどによって回避することが比較的容易になるため、複合リスクに対する備えを比較的小さくすることが可能である。そこで、複合リスク推定値を複合リスクのうちの1つの死角が存在するときと同程度に小さくすることで、過剰な減速支援を抑制し、ドライバにとって、走行を快適なものとすることができる。
【0028】
なお、歩行者の数及び対向車の数は、車両10に搭載されたカメラやLiDARによって検出することができる。また、閾値Aは車両10が走行する道路の環境などによって変更される値でも良い。例えば、雨天で見通しが悪い状況や降雪により移動体が検出しにくくなる状況では、死角によるリスクが大きくなる可能性を考えて閾値Aを小さくしてもよい。事前評価区間Hが開始する地点は地図情報として運転支援装置によって予め記憶されてもよいし、交差点検出ごとに新たな事前評価区間Hが開始されてもよい。
【0029】
6.複合リスクの判断の変形例
上記の説明では、車両10の横方向の位置が、1つの死角を通過したあと次の死角を通過するまでに元の走行車線に戻れないときに複合リスクと判定するとした。しかし、車両10が元々最左車線を走行しておらず、マージン確保のために横方向に移動する必要がない場合や、死角を作る物体とは異なる物体を避けるために元々車線をはみ出して走行している場面もあり得る。当変形例においては、死角検出時点で車両10が最左車線の範囲内を走行していない場合は、死角同士の距離に関わらず複数の死角を複合リスクと扱わないこととする。
【0030】
図10は、変形例において複合リスクと判定されない場面の例である。上の図では、歩行者に対して横方向の間隔を確保するため、運転支援装置が死角を検出した時点で既に車両10は車線をはみ出して走行している。下の図では、工事現場があるため車両10は隣の車線に移動しており、運転支援装置が死角を検出した時点で既に最左車線を走行していない。このような場合には、車両10が道路を走行する際のリスクに対しては、死角以外の要因による影響がより大きくなる。また、既に死角に対する横方向の距離が確保されているため、制御量を大きくする必要もないと考えられる。そこで、当変形例においてはこのような場面では運転支援装置は死角が複数検出されても複合リスクとして扱わないこととする。これにより、よりドライバの感覚に沿った制御とすることができる。
【符号の説明】
【0031】
10 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10