(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】電池パックの判定方法と車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20250121BHJP
G01N 25/72 20060101ALI20250121BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20250121BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20250121BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01N25/72 F
H01M10/48 301
H02J7/00 Q
G01R31/385
(21)【出願番号】P 2022134311
(22)【出願日】2022-08-25
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津本 友裕
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-114986(JP,A)
【文献】特開2019-158578(JP,A)
【文献】特開2022-113499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
G01R 31/36-31/396
G01N 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池パックが正常か否か判定する判定方法であって、
前記電池パックを加熱しながら、前記電池パックの温度と出力電圧の少なくとも一方の経時変化を測定し、測定した前記経時変化に基づいて前記電池パックが正常か否か判定する工程を有
し、
前記工程において、前記電池パックの周囲の環境温度に対する前記電池パックの温度上昇量が基準値を超えたときに、前記電池パックが異常であると判定する
、
判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の判定方法を実施する工程と、
前記判定方法において正常と判定された前記電池パックを車両に搭載する工程、
を有する車両の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、電池パックの判定方法に関する。
【0002】
特許文献1には、バッテリセルが正規品であるか非正規品であるかを判定する判定方法が開示されている。この判定方法では、バッテリセルの充放電のサイクル数に伴うバッテリセルの充電率の変化に基づいてバッテリセルの出荷時内部抵抗を算出し、算出した出荷時内部抵抗に基づいてバッテリセルが正規品であるか非正規品であるかを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の判定方法では、非正規品が正規品と似た内部抵抗を有している場合に、誤判定を起こす可能性がある。本明細書では、電池パックが正常か否か判定する新たな判定方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する項目1の判定方法は、電池パックが正常か否か判定する。この判定方法は、前記電池パックを加熱しながら、前記電池パックの温度と出力電圧の少なくとも一方の経時変化を測定し、測定した前記経時変化に基づいて前記電池パックが正常か否か判定する工程を有する。
【0006】
なお、電池パックが正常か否か判定することは、電池パックが正規品であるか非正規品であるかを判定することであってもよい。
【0007】
電池パックの内部の電極や電解液に異常がある場合には、電池パックを加熱したときに電池パックが自己発熱する場合がある。したがって、電池パックを加熱しながら電池パックの温度の経時変化を測定することで、電池パックが正常か否か判定することができる。また、電池パックの内部の電極、電解液、またはセパレータに異常がある場合には、電池パックを加熱したときに電池パックの出力電圧が低下する場合がある。したがって、電池パックを加熱しながら電池パックの出力電圧の経時変化を測定することで、電池パックが正常か否か判定することができる。このように、項目1の判定方法によれば、電池パックが正常であるか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】判定工程における炉内温度と電池パックの温度の経時変化を示すグラフ。
【
図2】判定工程における電池パックの出力電圧の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
上記項目1に続けて、本明細書が開示する技術の特徴を以下に列記する。
(項目2)
前記工程において、前記電池パックの周囲の環境温度を一定値に制御する項目1に記載の判定方法。
(項目3)
前記工程において、前記電池パックの周囲の環境温度に対する前記電池パックの温度上昇量が基準値を超えたときに、前記電池パックが異常であると判定する、項目1または2に記載の判定方法。
(項目4)
前記工程において、前記電池パックの前記出力電圧の低下量が基準値を超えたときに、前記電池パックが異常であると判定する、項目1~3のいずれか一項に記載の判定方法。
(項目5)
項目1~4のいずれか一項に記載の判定方法を実施する工程と、
前記判定方法において正常と判定された前記電池パックを車両に搭載する工程、
を有する車両の製造方法。
【0010】
上記項目2の判定方法によれば、より正確な判定が可能である。
【0011】
上記項目3の判定方法によれば、電池パックの異常を正確に検出できる。
【0012】
上記項目4の判定方法によれば、電池パックの異常を正確に検出できる。
【実施例】
【0013】
以下に説明する実施例の判定方法では、対象の電池パックが正規品(すなわち、製造者から正規に供給された製品)であるか、非正規品であるかを判定する。この判定方法は、電池パックを加熱しながら電池パックの温度と出力電圧の経時変化を測定する判定工程を有する。判定工程では、電池パックを炉内に収容し、
図1に示すように炉内温度(すなわち、炉内の空気の温度)を変化させる。炉内温度は、電池パックの周囲の環境温度に相当する。ここでは、時間t1において炉内温度が温度T0(例えば、110℃)に達するように炉内温度を上昇させ、時間t1以降は炉内温度を温度T0(すなわち、一定値)に所定時間(例えば、3時間)維持する。電池パックの温度は、温度センサにより検出する。電池パックの出力電圧は、炉内の電池パックの出力端子に配線を介して電圧センサを接続して検出する。
【0014】
図1は、判定工程中における電池パックA~Cの温度の経時変化を示している。電池パックAは正規品であり、電池パックB、Cは非正規品である。正規品である電池パックAの内部の電極と電解液は熱的に安定であり、電池パックAでは自己発熱がほとんど生じない。したがって、電池パックAの温度は炉内温度とほぼ一致する。これに対し、非正規品である電池パックBでは、内部で電極と電解液の少なくとも一方が加熱により反応し、自己発熱が生じる。このため、電池パックBの温度は、時間t1以降に温度T0よりも大幅に上昇する。また、非正規品である電池パックCでは、自己発熱により熱暴走が生じる。このため、電池パックCの温度は、時間t1以降に極めて高い温度まで上昇する。判定工程では、電池パックの温度の炉内温度T0に対する上昇量ΔTをモニタし、上昇量ΔTが基準値ΔTthを超えたときに電池パックが非正規品であると判定し、上昇量Δが基準値ΔTthを超えないときに電池パックが正規品であると判定する。
図1においては、電池パックAの温度上昇量ΔTは基準値ΔTthを一度も超えていないので、電池パックAは正規品と判定される。また、
図1において、電池パックB、Cの温度上昇量Δは基準値ΔTthを超えているので、電池パックB、Cは非正規品であると判定される。このように、正規品か非正規品かによって電池パックの熱的安定性が異なるので、電池パックを加熱しながら電池パックの温度の経時変化を測定することで、電池パックが正規品か非正規品かを正確に判定することができる。
【0015】
図2は、判定工程中における電池パックA~Cの出力電圧の経時変化を示している。電池パックAの内部の電極、電界液、及びセパレータは熱的に安定であるので、電池パックAを加熱したときにおける出力電圧の低下量ΔV(すなわち、出力電圧の初期値V0に対する低下量)は小さい。すなわち、電池パックAは、加熱時と初期値の間で出力電圧があまり変わらない。これに対し、電池パックBの内部の電極、電界液、及びセパレータは熱的に不安定である。このため、電池パックBを加熱すると、セパレータの劣化によって電池パックBの内部で自己放電が生じたり、電極または電解液の劣化によって電池パックBの内部抵抗が変化するなどして、電池パックBの出力電圧が低下する。このため、
図2に示すように、電池パックBの出力電圧の低下量ΔVは大きい。また、電池パックCを加熱すると、内部の電極、電界液、及びセパレータの劣化によって電池パックCの出力電圧が大幅に低下する。判定工程では、電池パックの出力電圧の低下量ΔVをモニタし、低下量ΔVが基準値ΔVthを超えたとき(すなわち、出力電圧がV0-ΔVthを下回ったとき)に電池パックが非正規品であると判定し、低下量ΔVが基準値ΔVthを超えないときに電池パックが正規品であると判定する。
図2において、電池パックAの出力電圧の低下量ΔVは基準値ΔVthを一度も超えていないので、電池パックAは正規品と判定される。また、
図2において、電池パックB、Cの出力電圧の低下量ΔVは基準値ΔVthを超えているので、電池パックB、Cは非正規品であると判定される。このように、正規品か非正規品かによって電池パックの加熱時における出力電圧の安定性が異なるので、電池パックを加熱しながら電池パックの出力電圧の経時変化を測定することで、電池パックが正規品か非正規品かを正確に判定することができる。
【0016】
なお、上述した実施例では、電池パックを加熱しながら電池パックの温度と出力電圧の両方の経時変化を測定した。しかしながら、電池パックを加熱しながら電池パックの温度と出力電圧のいずれか一方の経時変化のみを測定してもよい。また、本明細書に開示の判定方法に他の判定方法を組み合わせることで、より正確に正規品か非正規品かを判定してもよい。
【0017】
また、上述した実施例では、時間t1以降に電池パックの環境温度を一定温度(すなわち、温度T0)に維持した。このように環境温度を一定温度に維持することで、電池パックが正規品か非正規品かを正確に判定することができる。但し、他の実施例においては、電池パックの環境温度を変化させてもよい。
【0018】
また、上述した実施例では、電池パックが正規品か非正規品かを判定した。しかしながら、この判定方法によれば、正規品の電池パックに異常があるか否かを判定することもできる。例えば、正規品の電池パックであっても不適切な使用方法によって電池パックの内部で異常が生じる場合がある。このような場合に、本明細書に開示の判定方法によれば、正規品の電池パックの異常を検出することができる。
【0019】
また、上述した電池パックの判定方法により電池パックが正常であることを判定した後に、その電池パックを車両に搭載してもよい。車両搭載後に電池パックを加熱することは困難であるので、車両への搭載前に本明細書に開示の判定方法を実施することができる。
【0020】
以上、実施形態について詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例をさまざまに変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独あるいは各種の組み合わせによって技術有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの1つの目的を達成すること自体で技術有用性を持つものである。