(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】正極活物質粒子、正極活物質粒子の製造方法、及び、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/505 20100101AFI20250121BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250121BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/525
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2022143116
(22)【出願日】2022-09-08
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】徳田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】杉山 一生
(72)【発明者】
【氏名】澤井 健
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/108571(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218136(WO,A1)
【文献】特開2022-078776(JP,A)
【文献】特開2010-092824(JP,A)
【文献】特開2021-068556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/505
H01M 4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子であって、
O2型構造を有し、
Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含み、
前記元素Mが、
Al及びGaのうちの少なくとも一方であり、
粒子全体としての化学組成が、Li
a
Na
b
Mn
x-p
Ni
y-q
Co
z-r
M
p+q+r
O
2
(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0<p+q+r≦0.07である。)で示されるものであり、
前記粒子の表層部における前記元素Mのモル濃度が、前記粒子の中心部における前記元素Mのモル濃度よりも高い、
正極活物質粒子。
【請求項2】
前記表層部における化学組成が、Li
aNa
bMn
x-sNi
y-tCo
z-uM
s+t+uO
2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0.08<s+t+uである。)で示されるものである、
請求項
1に記載の正極活物質粒子。
【請求項3】
前記中心部における化学組成が、Li
aNa
bMn
x-hNi
y-iCo
z-jM
h+i+jO
2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0≦h+i+j<0.07である。)で示されるものである、
請求項
2に記載の正極活物質粒子。
【請求項4】
正極活物質粒子の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、及び、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、
Al及びGaのうちの少なくとも一方である元素Mを粒子表層にドープして、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得ること、
を含む、製造方法。
【請求項5】
前記Na含有遷移金属酸化物粒子に対して、Liと前記元素Mとを含む塩を接触させることで、前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、前記元素Mを粒子表層にドープする、
請求項
4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記塩がLiと前記元素Mとハロゲンとを含む塩である、
請求項
5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記Na含有遷移金属酸化物粒子が、Na
cMn
xNi
yCo
zO
2(ここで、0<c≦1.00、x+y+z=1である)で示される化学組成を有する、
請求項
4~
6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
リチウムイオン二次電池であって、正極、電解質層及び負極を有し、
前記正極が、請求項1~
3のいずれか1項に記載の正極活物質粒子を含む、
リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、正極活物質粒子、正極活物質粒子の製造方法、及び、リチウムイオン二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
正極活物質としてO2型構造を有するものが知られている。特許文献1に開示されているように、O2型構造を有する正極活物質は、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換することにより得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
O2型構造を有する従来の正極活物質は、高い容量と優れたサイクル特性とを両立することに関して改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
正極活物質粒子であって、
O2型構造を有し、
Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含み、
前記元素Mが、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、
前記粒子の表層部における前記元素Mのモル濃度が、前記粒子の中心部における前記元素Mのモル濃度よりも高い、
正極活物質粒子。
<態様2>
粒子全体としての化学組成が、LiaNabMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0<p+q+r≦0.07である。)で示されるものである、
態様1の正極活物質粒子。
<態様3>
前記表層部における化学組成が、LiaNabMnx-sNiy-tCoz-uMs+t+uO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0.08<s+t+uである。)で示されるものである、
態様1又は2の正極活物質粒子。
<態様4>
前記中心部における化学組成が、LiaNabMnx-hNiy-iCoz-jMh+i+jO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0≦h+i+j<0.07である。)で示されるものである、
態様1~3のいずれかの正極活物質粒子。
<態様5>
正極活物質粒子の製造方法であって、
P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、及び、
前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素Mを粒子表層にドープして、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得ること、
を含む、製造方法。
<態様6>
前記Na含有遷移金属酸化物粒子に対して、Liと前記元素Mとを含む塩を接触させることで、前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、前記元素Mを粒子表層にドープする、
態様5の製造方法。
<態様7>
前記塩がLiと前記元素Mとハロゲンとを含む塩である、
態様6の製造方法。
<態様8>
前記Na含有遷移金属酸化物粒子が、NacMnxNiyCozO2(ここで、0<c≦1.00、x+y+z=1である)で示される化学組成を有する、
態様5~7のいずれかの製造方法。
<態様9>
リチウムイオン二次電池であって、正極、電解質層及び負極を有し、
前記正極が、態様1~4のいずれかの正極活物質粒子を含む、
リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0006】
本開示の正極活物質粒子は、高い容量と優れたサイクル特性とを両立し易い。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】正極活物質粒子の表層部と中心部と概略的に示している。
【
図2】正極活物質粒子の製造方法の流れの一例を示している。
【
図3】リチウムイオン二次電池の構成の一例を概略的に示している。
【
図4】実施例1、2及び比較例1、2に係る正極活物質粒子のX線回折測定結果を示している。
【
図5】実施例1に係る正極活物質粒子の断面を観察した際のAlについてのEDX元素マップを示している。
【
図6】比較例2に係る正極活物質粒子の断面を観察した際のAlについてのEDX元素マップを示している。
【
図7】実施例1に係る正極活物質粒子の断面を観察した際のAlについてのEDX元素マップにおいて、粒子の一方の表面から中心を通って他方の表面に至るまでにおけるAl濃度分布の一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.経緯
O2型構造を有する正極活物質は、従来の正極活物質(例えば、O3型構造を有する正極活物質)と比較して高電位域における安定性に優れており、高電位域における充放電を活用することによって大きな容量を得ることができるものである。しかしながら、本発明者の新たな知見によると、O2型構造を有する正極活物質を4.7V(vs.Li/Li+)以上の高電位まで活用した場合の容量劣化は、従来の上限電位(例えば、4.4V(vs.Li/Li+))で使用した場合の容量劣化と比べて大きい。具体的には、O2型構造を有する正極活物質を4.7V(vs.Li/Li+)以上の高電位となるまで充電すると、O2型構造における特定の酸素間に存在するLiが抜けてしまい、O2型構造が不安定化し、これが容量劣化に繋がる。
【0009】
O2型構造を安定化するためには、O2型構造中にAl等の元素Mをドープすることが有効と考えられる。しかしながら、元素Mは、充放電への寄与が小さく、充放電容量の低下をもたらす。これを解決するためには、粒子の表層部に元素Mを濃化させることが有効と考えられる。正極活物質粒子は、充電時に粒子の表層部から順にLiを放出することから、粒子の表層部においてLiが欠乏してO2型構造が不安定化され易く、O2型構造を安定化させる優先度は粒子の中心部よりも粒子の表層部のほうが高いものと考えられ、また、粒子の表層部においてO2型構造が安定化できれば、その効果が中心部にまで及ぶものと考えられるためである。
【0010】
しかしながら、従来技術にあっては、O2型構造を有する正極活物質粒子の表層部に元素Mを濃化させることは困難であった。これは、O2型正極活物質粒子の製造工程の制約によるものである。すなわち、特許文献1に開示されているように、O2型構造を有する正極活物質を製造するためには、まず、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物を合成し、その後、NaとLiとをイオン交換してO2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物を得る必要がある。一方で、正極活物質の表層部にドープ元素を濃化させたい場合、ドープ元素が濃化したシェルとドープ元素が希薄であるコアとのコアシェル構造を形成するのが一般的である。通常、正極活物質のコアシェル構造は、前駆体合成時又は焼成時に形成される。そのため、従来常識にあっては、コアシェル構造を有するO2型活物質を得るためには、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物を得る際にコアシェル構造を形成させる必要があるものと考えられてきた。しかしながら、本発明者の知見によると、このような従来の方法では、P2型構造を得るための焼成時の加熱に伴う元素の拡散、イオン交換時の構造相転移に伴う元素の拡散、イオン交換時の加熱に伴う元素の拡散等によって、粒子の表層部から中心部へと、また、粒子の中心部から表層部へと元素が拡散してしまい、粒子表層部にドープ元素を濃化させることが難しい。
【0011】
以上に鑑み、本発明者は、O2型構造を有する正極活物質粒子の表層部に元素Mを濃化させる手法について鋭意研究を進めたところ、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得た後、NaをLiにイオン交換する際に元素Mのドープを行うことで、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子の表層部に元素Mを適切に濃化させることができることを見出した。また、このようにして製造された正極活物質粒子は、例えば4.7V(vs.Li/Li+)以上の高電位まで活用された場合においてもO2型構造が安定であり、容量低下を起こし難く、高い容量と優れたサイクル特性とを両立し易いことも確認した。以下、一実施形態に係る正極活物質粒子及びその製造方法、並びに、当該正極活物質粒子を用いたリチウムイオン二次電池等について説明する。
【0012】
2.正極活物質粒子
図1を参照しつつ、一実施形態に係る正極活物質粒子1について説明する。正極活物質粒子1は、O2型構造を有する。また、正極活物質粒子1は、Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含む。ここで、前記元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。正極活物質粒子1において、前記粒子の表層部1aにおける前記元素Mのモル濃度は、前記粒子の中心部1bにおける前記元素Mのモル濃度よりも高い。
【0013】
2.1 表層部及び中心部
本願においては、
図1に示されるように、正極活物質粒子1を表層部1aと中心部1bとに分けて説明する。正極活物質粒子1の表層部1aは、粒子表面から所定の深さまでの部分をいい、中心部1bは、粒子における表層部1aよりも深い部分をいう。表層部1aの深さ(厚み)は特に限定されるものではない。本願において、正極活物質粒子の「表層部」及び「中心部」とは、例えば、以下の通りに特定されるものであってもよい。すなわち、正極活物質の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等で観察しつつ、当該断面の元素分析を行った場合に、元素Mが濃化したシェルと、元素Mが希薄なコアとのコアシェル構造が確認できる場合は、当該シェルを「表層部」とみなし、当該コアを「中心部」とみなす。一方で、元素Mの濃度分布について明確なコアシェル構造が確認されない場合は、以下の通りにして表層部と中心部とを区別する。すなわち、
図1に示されるように、正極活物質粒子の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等で観察して、正極活物質粒子の断面の二次元画像を取得し、当該二次元画像における正極活物質粒子の表面から所定の深さまでの領域Xの面積をa1、粒子全体の面積をa1+a2とした場合に、a1/(a1+a2)が0.1となる領域Xを「正極活物質粒子の表層部」とみなす。このようにして特定される「正極活物質粒子の表層部」と、それよりも深い部分(中心側の部分)である「正極活物質粒子の中心部」との各々について、粒子断面における元素分析を行うことで、表層部における元素Mのモル濃度が中心部における元素Mのモル濃度よりも高いか否かを判断することができる。
【0014】
2.2 結晶構造
正極活物質粒子1は、結晶構造として、少なくともO2型構造(空間群P63mcに属する)を有する。正極活物質粒子1はO2型構造を有するとともに、O2型構造以外の結晶構造を有していてもよい。O2型構造以外の結晶構造としては、例えば、O2型構造からLiを脱挿入した際に形成されるT♯2型構造(空間群Cmcaに属する)やO6型構造(空間群R-3mに属し、c軸長が2.5nm以上3.5nm以下、典型的には2.9nm以上3.0nm以下であって、同じく空間群R-3mに属するO3型構造とは異なる)等が挙げられる。正極活物質粒子1は、主相としてO2型構造を有するものであってもよいし、主相としてO2型構造以外の結晶構造を有するものであってもよいが、特に、主相としてO2型構造を有するものが好ましい。正極活物質粒子1は、その充放電状態によって、主相となる結晶構造が変化するものであってもよい。
【0015】
2.3 化学組成
正極活物質粒子1は、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含む。特に、構成元素として、少なくとも、Mnと、Ni及びCoのうちの少なくとも一方と、Liと、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Liと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、一層高い性能が確保され易い。ただし、正極活物質粒子1は、例えば、充電によってLiがほぼ完全に放出されて、Liのモル濃度が極限にまで0に近付くこともあり得る。また、正極活物質粒子1は、後述の製造工程に起因して、構成元素としてNaを含み得る。また、正極活物質粒子1は、その他の不純物元素を含み得る。
【0016】
正極活物質粒子1においては、所定の元素Mが含まれることにより、O2型構造が安定化され得る。具体的には、正極活物質粒子1に価数が変化し難い元素Mが含まれることで、充電によって正極活物質粒子1からLiが脱離した場合においても、当該元素Mの周辺にLi+が残存し易く、これによりO2型構造が安定化され得る。元素Mは、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種である。中でも、正極活物質粒子1が、元素Mとして、Al、Ga、Mg、Ti、Cr、Nb及びMoから選ばれる少なくとも1種を含む場合、さらにその中でも、Al及びGaのうちの少なくとも一方を含む場合、特にAlを含む場合に、O2型構造がさらに安定化され易い。また、元素MとしてAlやGaが採用される場合、後述する製造方法において、工程S2におけるイオン交換温度(Li置換温度及び元素Mドープ温度)を大きく低下させることも可能である。
【0017】
O2型構造を有する正極活物質粒子においては、元素Mのモル濃度が高いほど、O2型構造を安定化できるものと考えられる。一方で、元素Mは、充放電への寄与が小さいことから、元素Mのモル濃度が低いほど、充放電容量を向上させることができるものと考えられる。この点、本開示の正極活物質粒子1においては、元素MによるO2型構造の安定化効果を確保しつつ、元素Mによる充放電容量の低下を抑えるために、粒子の表層部1aに元素Mを濃化させる。言い換えれば、本開示の正極活物質粒子1においては、粒子の表層部1aにおける元素Mのモル濃度が、粒子の中心部1bにおける元素Mのモル濃度よりも高い。上述の通り、正極活物質粒子1によれば、表層部1aに元素Mを濃化させることでO2型構造の安定化効果が確保されるとともに、中心部1bにおける元素Mの量を低下させることで高い充放電容量が確保される。
【0018】
尚、本願において、「粒子の表層部における元素Mのモル濃度」とは、粒子の表層部に含まれる元素Mの「平均モル濃度」を意味し、「粒子の中心部における元素Mのモル濃度」とは、粒子の中心部に含まれる元素Mの「平均モル濃度」を意味する。すなわち、正極活物質粒子1においては、表層部1a及び中心部1bの各々の「平均モル濃度」として、表層部1aにおける元素Mのモル濃度が中心部1bにおける元素Mのモル濃度よりも高ければよく、表層部1aや中心部1bの各々における元素Mの分散状態は特に限定されるものではない。すなわち、表層部1aにおいて、元素Mが均一に分散していてもよいし、不均一に分散していてもよい。また、中心部1bにおいて、元素Mが均一に分散していてもよいし、不均一に分散していてもよいし、元素Mが存在しなくてもよい。また、正極活物質粒子1において、元素Mのモル濃度は、粒子の表面から中心に向かって、連続的に変化していてもよいし、断続的に変化していてもよいし、不規則に変化していてもよい。特に、正極活物質粒子1は、元素Mが相対的に濃化した表層部1aをシェル、元素Mが相対的に少ないか又は元素Mを実質的に含まない中心部1bをコアとするコアシェル構造を有する場合に、一層高い効果が得られ易い。
【0019】
正極活物質粒子1は、Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含む。各々の元素の組成比は、O2型構造を維持できる限りにおいて、特に限定されるものではない。正極活物質粒子1は、様々な化学組成を採り得る。以下、化学組成の一例について説明する。
【0020】
正極活物質粒子1の粒子全体としての化学組成(粒子全体としての平均化学組成)は、LiaNabMnx-pNiy-qCoz-rMp+q+rO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0<p+q+r≦0.07である。)で示されるものであってもよい。
【0021】
上記の粒子全体としての化学組成において、aは、0超、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上又は0.6以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下又は0.7以下であってもよい。また、bは、0以上又は0超であってもよく、且つ、0.15以下、0.10以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下又は0.01以下であってもよい。また、xは、0以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上又は0.5以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下又は0.5以下であってもよい。また、yは、0以上、0.1以上又は0.2以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下又は0.2以下であってもよい。また、zは、0以上、0.1以上、0.2以上又は0.3以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下又は0.3以下であってもよい。
【0022】
上述の通り、元素Mは充放電への寄与が小さい。この点、上記の粒子全体としての化学組成において、p+q+rが0.07以下であることで、高い充放電容量が確保され易い。p+q+rは0.06以下、0.05以下又は0.04以下であってもよい。一方で、上述の通り、元素Mが含まれることで、O2型構造の安定化効果が得られる。この点、上記の粒子全体としての化学組成において、p+q+rは0超であり、0.01以上、0.02以上又は0.03以上であってもよい。
【0023】
Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0024】
また、正極活物質粒子1の粒子全体としての化学組成においては、元素Mの価数を+nとした場合、3.0≦4(x-p)+2(y-q)+3(z-r)+n(p+q+r)≦3.5なる関係が満たされてもよい。これは、正極活物質における金属の総価数が3.33価(aが0.67の場合の電荷中性)に近い範囲を意図している。後述するように、O2型構造を有する正極活物質は、その合成時にP2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物を経由するが、このときのNa組成が0.5以上1.0以下となる範囲において電荷中性となるのが、上記の関係が満たされる場合に相当する。
【0025】
正極活物質粒子1の表層部1aにおける化学組成(表層部1aにおける平均化学組成)は、LiaNabMnx-sNiy-tCoz-uMs+t+uO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0.08<s+t+uである。)で示されるものであってもよい。
【0026】
上記の表層部1aの化学組成において、aは、0超、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上又は0.6以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下又は0.7以下であってもよい。また、bは、0以上又は0超であってもよく、且つ、0.15以下、0.10以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下又は0.01以下であってもよい。また、xは、0以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上又は0.5以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下又は0.5以下であってもよい。また、yは、0以上、0.1以上又は0.2以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下又は0.2以下であってもよい。また、zは、0以上、0.1以上、0.2以上又は0.3以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下又は0.3以下であってもよい。
【0027】
上述の通り、正極活物質粒子1においては、O2型構造の安定化効果を高めるために、表層部1aにおける元素Mのモル濃度を高めている。具体的には、充電によって正極活物質粒子からLiが脱離した場合において、価数が変化し難い元素Mが含まれることで、元素Mの周辺にLi+が残存し、これがO2型構造を安定化させる。残存Liは、元素Mに最も近いLi+サイトを取る。この残存Li+による構造安定化効果をシェル部全体に及ぼすためには、当該残存Li+の第2近接Li+位置までに、別の残存Li+が存在するとよい。したがって、元素Mが均一に分布した時、すべての元素Mの第2近接金属位置に別の元素Mが存在する場合に、シェル部全体において構造安定化効果が発揮されるものと考えられる。元素Mの第1・第2近接金属位置の数は12であるから、第2近接金属位置までに別の元素Mが存在するために必要なs+t+uの最低量は、1/12≒0.08である。この点、上記の表層部1aの化学組成において、s+t+uが0.08超であることで、より優れた安定化効果が確保され易い。s+t+uは0.09以上又は0.10以上であってもよい。一方で、元素MによるO2型構造の安定化効果は、元素Mのモル濃度が一定以上となると飽和する。この点、上記の表層部1aの化学組成において、s+t+uは0.15以下、0.14以下、0.13以下又は0.12以下であってもよい。
【0028】
Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0029】
正極活物質粒子1の中心部1bにおける化学組成(中心部1bにおける平均化学組成)は、LiaNabMnx-hNiy-iCoz-jMh+i+jO2(ここで、0<a≦1.00、0≦b≦0.20、x+y+z=1、且つ、0≦h+i+j<0.07である。)で示されるものであってもよい。
【0030】
上記の中心部1bの化学組成において、aは、0超、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上又は0.6以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下又は0.7以下であってもよい。また、bは、0以上又は0超であってもよく、且つ、0.15以下、0.10以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下又は0.01以下であってもよい。また、xは、0以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上又は0.5以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下又は0.5以下であってもよい。また、yは、0以上、0.1以上又は0.2以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下又は0.2以下であってもよい。また、zは、0以上、0.1以上、0.2以上又は0.3以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下又は0.3以下であってもよい。
【0031】
上述の通り、中心部1bにおいては、高い充放電容量を確保するために、元素Mのモル濃度が低い。この点、上記の中心部1bの化学組成において、h+i+jが0.07未満であることで、より高い充放電容量が確保され易い。h+i+jは0.06以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下又は0.01以下であってもよい。一方で、上述の通り、中心部1bが元素Mを含まない場合でも、表層部1aによる構造安定化効果によって中心部1bの構造が安定に保たれ易い。この点、上記の中心部1bの化学組成において、h+i+jは0であってもよく、0以上であってもよく、0超であってもよい。
【0032】
Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0033】
2.4 粒子の形状
正極活物質粒子1は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよく、空隙を有するものであってもよい。正極活物質粒子1は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質粒子1の一次粒子の各々が、上記の化学組成を有することが好ましい。正極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上又は10nm以上であってもよく、且つ、500μm以下、100μm以下、50μm以下又は30μm以下であってもよい。尚、本願にいう平均粒子径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0034】
3.正極活物質粒子の製造方法
上述の通り、O2型構造を有する正極活物質粒子1は、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得た後、Naの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、元素Mをドープすることにより製造することができる。すなわち、
図2に示されるように、一実施形態に係る正極活物質粒子1の製造方法は、
工程S1:P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得ること、及び、
工程S2:前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の元素Mを粒子表層にドープして、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得ること、
を含む。
【0035】
3.1 工程S1
工程S1においては、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得る。
【0036】
O2型構造は準安定相であるため、類似構造であるP2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物を一度合成し、当該Na含有遷移金属酸化物のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換することによって、O2型構造を得る必要がある。そのため、本開示の製造方法においては、まず、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得る。P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物は、公知の方法により合成され得る。工程S1においては、例えば、遷移金属イオンと水溶液中で沈殿を形成し得るイオン源と、遷移金属源と、を用いて沈殿物(前駆体粒子)を得た後、当該沈殿物とNa源とを混合して混合物を得て、当該混合物を任意に成形及び予備焼成したうえで、本焼成を行うことによって、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物を合成することができる。
【0037】
工程S1において、遷移金属イオンと沈殿を形成し得るイオン源としては、例えば、炭酸塩、硝酸塩等の塩や、水酸化ナトリウムや酸化ナトリウム等が挙げられる。遷移金属源としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の塩や水酸化物等が挙げられる。工程S1においては、当該イオン源と当該遷移金属源を各々溶液としたうえで、各々の溶液を滴下・混合することで沈殿物を得てもよい。この際、塩基として各種ナトリウム化合物を用いてもよく、また、塩基性の調整のためにアンモニア水溶液等を加えてもよい。より詳細には、工程S1においては、沈殿物として、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素を含む塩を得てもよい。当該沈殿物は、例えば、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩及び水酸化物のうちの少なくとも1つであってもよい。具体的には、MeCO3(MeはMn、Ni及びCoのうちの少なくとも1つの遷移金属元素である)で示される塩であってもよいし、MeSO4で示される塩であってもよいし、Me(NO3)2で示される塩であってもよいし、Me(CH3COO)2で示される塩であってもよいし、Me(OH)2で示される化合物であってもよい。沈殿物は、例えば、共沈法やゾルゲル法等の溶液法によって得ることができる。具体的には、共沈法の場合、MeSO4の水溶液と、Na2CO3の水溶液とを準備し、各々の水溶液を滴下して混合することで、沈殿物が得られる。
【0038】
工程S1において、沈殿物に対して混合されるNa源の量は、その後の焼成時のNa消失分を加味して決定されればよい。Na源としては、例えば、炭酸塩や硫酸塩等のNa塩や酸化ナトリウムや水酸化ナトリウム等のNa化合物が用いられてもよい。工程S1においては、上記の沈殿物(前駆体粒子)の表面をNa塩で被覆して、被覆粒子を得てもよい。ここで、当該被覆粒子は、上記の前駆体粒子の表面の少なくとも一部がNa塩で被覆されて得られるものであってよい。当該被覆粒子は、上記の前駆体粒子の表面の40面積%以上、50面積%以上、60面積%以上又は70面積%がNa塩で被覆されて得られるものであってもよい。
【0039】
工程S1において、予備焼成は、本焼成以下の温度で行われる。例えば、600℃以下の温度にて予備焼成を行うことができる。予備焼成時間は特に限定されるものではない。予備焼成は省略されてもよい。
【0040】
工程S1において、本焼成は、例えば、700℃以上1100℃以下の温度で行われてもよい。好ましくは800℃以上1000℃以下である。本焼成温度が低過ぎると、Naドープが行われず、本焼成温度が高過ぎるとP2型構造ではなくO3型構造が生成し易い。本焼成時間は、特に限定されず、例えば、30分以上10時間以下であってもよい。本焼成雰囲気は、特に限定されず、例えば、大気雰囲気等の酸素含有雰囲気や不活性ガス雰囲気であってよい。
【0041】
工程S1により得られるNa含有遷移金属酸化物粒子は、例えば、構成元素として、少なくとも、Mn、Ni及びCoのうちの少なくとも1種の元素と、Naと、Oとを含む。特に、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Ni及びCoのうちの少なくとも一方と、Oとを含む場合、中でも、構成元素として、少なくとも、Naと、Mnと、Niと、Coと、Oとを含む場合に、正極活物質粒子の性能が一層高くなり易い。より具体的には、工程S1により得られるNa含有遷移金属酸化物粒子は、NacMnxNiyCozO2(ここで、0<c≦1.00、x+y+z=1である)で示される化学組成を有するものであってもよい。Na含有遷移金属酸化物粒子がこのような化学組成を有する場合、P2型構造が維持され易い。上記化学組成において、cは、0超、0.10以上、0.20以上、0.30以上、0.40以上、0.50以上又は0.60以上であってもよく、且つ、1.00以下、0.90以下、0.80以下又は0.70以下であってもよい。また、xは、0以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上又は0.5以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下又は0.5以下であってもよい。また、yは、0以上、0.1以上又は0.2以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下又は0.2以下であってもよい。また、zは、0以上、0.1以上、0.2以上又は0.3以上であってもよく、且つ、1.0以下、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下又は0.3以下であってもよい。Oの組成は、ほぼ2であるが、2.0ピッタリとは限らず、不定である。
【0042】
3.2 工程S2
工程S2においては、上記のようにして得られたNa含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、元素Mを粒子表層にドープして、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得る。
【0043】
工程S2においては、例えば、リチウム塩を用いたイオン交換によって、Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiに置換する。イオン交換には、リチウム塩を含む水溶液を用いる方法と、リチウム塩を加熱溶融させた溶融塩を用いる方法とがある。P2型構造が水の侵入により壊れ易いものである観点、及び、結晶性の観点から、上記の2つの方法のうち、溶融塩を用いる方法が好ましい。すなわち、上述のP2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子と当該溶融塩とを混合したうえで、当該溶融塩の融点以上の温度に加熱することで、イオン交換により、Naの少なくとも一部をLiに置換することができる。溶融塩を構成するリチウム塩としては、例えば、ハロゲン化リチウムが挙げられる。ハロゲン化リチウムは、塩化リチウム、臭化リチウム及びヨウ化リチウムのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0044】
工程S2においては、上記のイオン交換の際に、元素Mを粒子表層にドープする。例えば、元素Mを含む水溶液を上記粒子に接触させること、又は、元素Mを含む塩を加熱溶融させた溶融塩を上記粒子に接触させることで、上記粒子の表層に元素Mをドープすることができる。P2型構造が水の侵入により壊れ易いものである観点、及び、結晶性の観点から、上記の2つの方法のうち、溶融塩を用いる方法が好ましい。すなわち、上述のP2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子と当該溶融塩とを混合して溶融塩の融点以上の温度に加熱することで、当該粒子の表層に元素Mをドープすることができる。溶融塩を構成する元素Mを含む塩としては、例えば、元素Mのハロゲン化物が挙げられる。
【0045】
工程S2においては、上記のNa含有遷移金属酸化物粒子に対して、Liと元素Mとを含む塩を接触させることで、前記Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの少なくとも一部をLiにイオン交換するとともに、前記元素Mを粒子表層にドープしてもよい。このように、Liと元素Mとを含む塩(リチウム塩と元素Mの塩との混合塩、或いは、Liと元素Mとの複合塩)を用いた場合、リチウム塩や元素Mの塩を各々単独で用いた場合よりも、塩の融点が低下し得る。特に、元素MとしてAl及びGaのうちの少なくとも一方と、Liとを含む塩を用いた場合に、融点が大きく低下し易い。すなわち、溶融させるために必要となる温度が低下し、上記のLiのイオン交換と元素Mのドープとを低温で行うことができる。リチウム塩と元素Mの塩との混合比は、特に限定されるものではないが、リチウム塩の割合が多いと融点が高くなる傾向にある。Liと元素Mとを含む塩の具体例としては、例えば、Liと元素Mとハロゲンとを含む塩(ハロゲン化リチウムと元素Mのハロゲン化物との混合塩、或いは、Liと元素Mとの複合ハロゲン化物)が挙げられる。
【0046】
工程S2における温度(例えば、Na含有遷移金属酸化物粒子に対して、Liと元素Mとを含む塩を接触させたうえで加熱してイオン交換を行う場合の加熱温度)は、例えば、600℃以下、500℃以下、400℃以下、350℃以下、300℃以下、280℃以下、250℃以下、230℃以下、200℃以下、170℃以下又は150℃以下であってもよく、且つ、室温以上又は100℃以上であってもよい。温度が高過ぎると、O2型構造ではなく、安定相であるO3型構造が生成し易い。尚、塩を含む水溶液を用いる場合は、室温においてもLiのイオン交換及び元素Mのドープが可能と考えられる。一方、溶融塩を用いる場合は、上述の通り、溶融塩の融点以上でLiのイオン交換及び元素Mのドープを行う。工程S2にかかる時間を短時間とする観点からは、工程S2における温度は100℃以上であってもよい。
【0047】
工程S2における時間(例えば、Na含有遷移金属酸化物粒子に対して、Liと元素Mとを含む塩を接触させたうえで加熱してイオン交換を行う場合の加熱時間)は、Na含有遷移金属酸化物粒子のNaの大部分がLiに置換され、且つ、元素Mが粒子表層にドープされるように調整するとよい。あまりに長時間とすると、元素Mが粒子の中心部にまで拡散する虞がある。尚、元素Mが粒子の中心部に拡散した場合であっても、粒子の表層部と中心部とで元素Mのモル濃度差を確保することは可能と考えられる。Liと元素Mとを含む塩が溶融するのに十分な時間を確保する観点、中心部における元素Mのモル濃度をできるだけ低濃度とする観点、及び、表層部において元素Mが濃化したシェルが形成され易い観点等からは、工程S2における時間は、例えば、10分以上又は60分以上であってもよく、且つ、12時間以下又は6時間以下であってもよい。
【0048】
工程S2における雰囲気は、特に限定されず、例えば、大気雰囲気等の酸素含有雰囲気や不活性ガス雰囲気であってよい。
【0049】
尚、工程S2の後に、Li含有遷移金属酸化物粒子に対して、洗浄等の何らかの後処理を行ってもよい。以上の工程S1及びS2を経て製造される正極活物質粒子は、O2型構造を有し、Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含み、前記元素Mが、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、前記粒子の表層部における前記元素Mのモル濃度が、前記粒子の中心部における前記元素Mのモル濃度よりも高いものである。
【0050】
4.正極
本開示の技術は、正極としての側面も有する。すなわち、本開示の正極は、正極活物質粒子として、O2型構造を有し、Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含み、前記元素Mが、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、前記粒子の表層部における前記元素Mのモル濃度が、前記粒子の中心部における前記元素Mのモル濃度よりも高いものを含む。
図3に示されるように、一実施形態に係る正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってよく、この場合、正極活物質層11が上記の正極活物質粒子1を含み得る。
【0051】
4.1 正極活物質層
正極活物質層11は、正極活物質として少なくとも上記の正極活物質粒子1を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてよい。さらに、正極活物質層11はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層11における正極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層11全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の正極活物質層11であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0052】
4.1.1 正極活物質
正極活物質層11は、正極活物質として、上記の正極活物質粒子1のみを含むものであってよい。或いは、正極活物質層11は、上記の正極活物質粒子1に加えて、これとは異なる種類の正極活物質(その他の正極活物質)を含んでいてもよい。本開示の技術による効果を一層高める観点からは、正極活物質層11におけるその他の正極活物質の含有量は少量であってよい。例えば、正極活物質層11に含まれる正極活物質の全体を100質量%として、上記の正極活物質粒子1の含有量が、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上又は99質量%以上であってもよい。
【0053】
正極活物質の表面は、リチウムイオン伝導性酸化物を含有する保護層によって被覆されていてもよい。すなわち、正極活物質層11には、上記の正極活物質粒子1と、その表面に設けられた保護層と、を備える複合体が含まれていてもよい。これにより、正極活物質粒子1と硫化物(例えば、後述する硫化物固体電解質等)との反応等が抑制され易くなる。リチウムイオン伝導性酸化物としては、例えば、Li3BO3、LiBO2、Li2CO3、LiAlO2、Li4SiO4、Li2SiO3、Li3PO4、Li2SO4、Li2TiO3、Li4Ti5O12、Li2Ti2O5、Li2ZrO3、LiNbO3、Li2MoO4、Li2WO4が挙げられる。保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0054】
4.1.2 電解質
正極活物質層11に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
【0055】
固体電解質は、リチウムイオン二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導性及び耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlXGe2-X(PO4)3、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質;Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Si2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiI-LiBr、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5-GeS2等の硫化物固体電解質を例示することができる。特に、硫化物固体電解質、中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0056】
電解液は、例えば、キャリアイオンとしてのリチウムイオンを含み得る。電解液は水系電解液であっても非水系電解液であってもよい。電解液の組成はリチウムイオン二次電池の電解液の組成として公知のものと同様とすればよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)等が挙げられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6等が挙げられる。
【0057】
4.1.3 導電助剤
正極活物質層11に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0058】
4.1.4 バインダー
正極活物質層11に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0059】
4.2 正極集電体
図3に示されるように、正極10は、上記の正極活物質層11と接触する正極集電体12を備えていてもよい。正極集電体12は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体12は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体12は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体12は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体12を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体12がAlを含むものであってもよい。正極集電体12は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体12は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体12が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体12の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0060】
4.3 その他
正極10は、上記構成に加えて、リチウムイオン二次電池の正極として一般的な構成を備えていてもよい。例えば、タブや端子等である。正極10は、正極活物質として上記の正極活物質粒子1を用いること以外は、公知の方法により製造することができる。例えば、上記の各種成分を含む正極合剤を乾式又は湿式にて成形すること等によって正極活物質層11を容易に形成可能である。正極活物質層11は、正極集電体12とともに成形されてもよいし、正極集電体12とは別に成形されてもよい。
【0061】
5.リチウムイオン二次電池
図3に示されるように、一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、正極10、電解質層20及び負極30を有する。ここで、正極10は、上記の本開示の正極活物質粒子1を含む。上述の通り、正極活物質粒子1は、高い充放電容量と優れたサイクル特性とが両立され易い。この点、リチウムイオン二次電池100の正極10に正極活物質粒子1が含まれることで、リチウムイオン二次電池100の性能が高まり易い。正極10の具体的な構成例については上述した通りである。
【0062】
5.1 電解質層
電解質層20は少なくとも電解質を含む。リチウムイオン二次電池100が固体電池(固体電解質を含む電池であって、一部に液体電解質が併用されたものであってもよいし、液体電解質を含まない全固体電池であってもよい)である場合、電解質層20は、固体電解質を含み、さらに任意にバインダー等を含んでいてもよい。この場合、電解質層20における固体電解質とバインダー等との含有量は特に限定されない。一方で、リチウムイオン二次電池100が電解液電池である場合、電解質層20は、電解液を含み、さらに、当該電解液を保持するとともに、正極活物質層11と負極活物質層31との接触を防止するためのセパレータ等を有していてもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0063】
電解質層20に含まれる電解質としては、上述の正極活物質層に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。また、電解質層20に含まれ得るバインダーについても、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。セパレータは、リチウムイオン二次電池において通常用いられるセパレータであればよく、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル及びポリアミド等の樹脂からなるもの等が挙げられる。セパレータは、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。複層構造のセパレータとしては、例えばPE/PPの2層構造のセパレータ、又は、PP/PE/PP若しくはPE/PP/PEの3層構造のセパレータ等を挙げることができる。セパレータは、セルロース不織布、樹脂不織布、ガラス繊維不織布といった不織布からなるものであってもよい。
【0064】
5.2 負極
図3に示されるように、負極30は、負極活物質層31と負極集電体32とを備えるものであってよい。
【0065】
5.2.1 負極活物質層
負極活物質層31は、少なくとも負極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてもよい。さらに、負極活物質層31はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質層31における負極活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等の各々の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層31全体(固形分全体)を100質量%として、負極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層31の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の負極活物質層であってもよい。負極活物質層31の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0066】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出する電位(充放電電位)が上記のO2型構造を有する正極活物質粒子1のそれと比べて卑な電位である種々の物質が採用され得る。例えば、SiやSi合金や酸化ケイ素等のシリコン系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;チタン酸リチウム等の各種酸化物系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が採用され得る。負極活物質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0067】
負極活物質の形状は、電池の負極活物質として一般的な形状であればよい。例えば、負極活物質は粒子状であってもよい。負極活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。負極活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。或いは、負極活物質はリチウム箔等のシート状(箔状、膜状)であってもよい。すなわち、負極活物質層31が負極活物質のシートからなるものであってもよい。
【0068】
負極活物質層31に含まれ得る電解質としては、上述の固体電解質、電解液又はこれらの組み合わせが挙げられる。負極活物質層31に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料が挙げられる。負極活物質層31に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層11に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質やバインダーは、各々、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0069】
5.2.2 負極集電体
図3に示されるように、負極30は、上記の負極活物質層31と接触する負極集電体32を備えていてもよい。負極集電体32は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体32は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体32は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体32は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体32を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びリチウムと合金化し難い観点から、負極集電体32がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体32は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体32は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体32が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体32の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0070】
5.3 その他の事項
リチウムイオン二次電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。リチウムイオン二次電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。リチウムイオン二次電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0071】
リチウムイオン二次電池100は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、リチウムイオン二次電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)負極活物質層を構成する負極活物質等を溶媒に分散させて負極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて負極層用スラリーを負極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、当該負極集電体の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。
(2)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極層用スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて正極層用スラリーを正極集電体の表面に塗工し、その後乾燥させることで、当該正極集電体の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。
(3)負極と正極とで電解質層(固体電解質層又はセパレータ)を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材を取り付ける。
(4)積層体を電池ケースに収容し、電解液電池の場合は電池ケース内に電解液を充填し、積層体を電解液に浸漬するようにして、電池ケース内に積層体を密封することで、二次電池とする。尚、電解液電池の場合に上記(3)の段階で負極活物質層、セパレータ及び正極活物質層に電解液を含ませてもよい。
【0072】
6.電池システム
本開示の技術は、リチウムイオン二次電池の充放電を制御するシステムとしての側面も有する。すなわち、本開示の電池システムは、本開示のリチウムイオン二次電池100と、前記リチウムイオン二次電池100の充電及び放電を制御する制御部(不図示)とを備え、前記制御部は、前記リチウムイオン二次電池100の充電終止電位における正極電位が4.7V(vs.Li/Li+)以上、好ましくは4.8V(vs.Li/Li+)以上となるように、前記リチウムイオン二次電池100の充電を制御するものであってもよい。上述したように、本開示の正極活物質粒子1は、高電位域において活用された場合においても、カチオンミキシングが生じ難く、O2型構造の不安定化を抑えることができる。例えば、本開示の正極活物質粒子1は、Liのほぼ全量が引き抜かれる4.8V(vs.Li/Li+)に至ったとしても、カチオンミキシングがほとんど生じることなく、安定に充放電が可能である。制御部は、上記の通りにリチウムイオン二次電池100の充電及び放電を制御可能なものであればよい。制御部によってリチウムイオン二次電池100の充放電を制御する際、リチウムイオン二次電池100の放電終止電位における正極電位は特に限定されるものではなく、目的とする電池性能に応じて決定され得る。
【0073】
7.リチウムイオン二次電池の充放電方法、リチウムイオン二次電池の充放電容量を向上させる方法、及び、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善する方法
本開示の技術は、リチウムイオン二次電池の充放電方法や、リチウムイオン二次電池の充放電容量を向上させる方法や、リチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善する方法としての側面も有する。すなわち、本開示のリチウムイオン二次電池の充放電方法は、リチウムイオン二次電池の正極において上記本開示の正極活物質粒子を使用しつつ、前記リチウムイオン二次電池の充電又は放電を行うこと、を含み、充電終止電位における正極電位が4.7V(vs.Li/Li+)以上、好ましくは4.8V(vs.Li/Li+)以上となるように、前記リチウムイオン二次電池の充電が制御されることを特徴とする。また、本開示のリチウムイオン二次電池の充放電容量を向上させる方法、又は、本開示のリチウムイオン二次電池のサイクル特性を改善する方法は、リチウムイオン二次電池の正極において上記本開示の正極活物質粒子を使用することを特徴とする。
【0074】
8.リチウムイオン二次電池を有する車両
上述の通り、本開示の正極活物質粒子がリチウムイオン二次電池の正極に含まれる場合、当該リチウムイオン二次電池の高容量化及びサイクル特性の改善が期待できる。このような優れた性能を有するリチウムイオン二次電池は、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)及び電気自動車(BEV)から選ばれる少なくとも1種の車両において好適に使用され得る。すなわち、本開示の技術は、リチウムイオン二次電池を有する車両であって、前記リチウムイオン二次電池が、正極、電解質層及び負極を有し、前記正極が、本開示の正極活物質粒子を含むもの、としての側面も有する。
【実施例】
【0075】
以上の通り、本開示の正極活物質粒子、正極活物質粒子の製造方法、及び、リチウムイオン二次電池の一実施形態について説明したが、本開示の正極活物質粒子、正極活物質粒子の製造方法、及び、リチウムイオン二次電池は、その要旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態以外に種々変更が可能である。以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
1.評価用の正極活物質粒子及びコインセルの作製
1.1 実施例1
1.1.1 沈殿物(前駆体粒子)の作製
Mn(NO3)2・6H2Oと、Ni(NO3)2・6H2Oと、Co(NO3)2・6H2Oとを、Mn、Ni及びCoのモル比が5:2:3となるよう純水に溶解させて、第1溶液を得た。一方で、濃度12wt%のNa2CO3を含む第2溶液を作製した。第1溶液と第2溶液とを同時にビーカーへと滴定した。この際、pHは7.0以上7.1未満となるよう滴定速度を制御した。滴定終了後、混合溶液を50℃、300rpmの条件で24時間撹拌した。得られた反応生成物を純水で洗浄し、遠心分離によって沈殿物のみを分離した。得られた沈殿物を120℃で48hの間乾燥させたのち、メノウ乳鉢で解砕することで、前駆体粒子を得た。
【0077】
1.1.2 P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の作製
前駆体粒子とNa2CO3とを、組成比がNa0.67Mn0.5Ni0.2Co0.3O2となるように混合して、混合粉末を得た。得られた混合粉末を冷間等方圧加圧法により2tonの荷重でプレスし、ペレットを作製した。得られたペレットを大気雰囲気にて600℃で6h予備焼成した後、900℃で24h焼成することで、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子を得た。
【0078】
1.1.3 正極活物質粒子の作製
AlCl3とLiClとを1:1のモル比となるように混合して、混合塩を得た。得られた混合塩と上記のNa含有遷移金属酸化物粒子とを、Na含有遷移金属酸化物粒子に含まれるNaの物質量に対して混合塩に含まれるLiの物質量が2倍となるようにそれぞれ秤量した。混合塩とNa含有遷移金属酸化物粒子とを混合し、大気雰囲気にて150℃で1hイオン交換を行った。イオン交換後、水を加えて塩を溶解させ、さらに水洗を行うことで、O2型構造を有するLi含有遷移金属酸化物粒子を得た。得られたLi含有遷移金属酸化物粒子をボールミルによって解砕することで、目的物質である正極活物質粒子を得た。
【0079】
1.1.4 正極の作製
ポリビニリデンフロライド(PVdF)を5g溶解したn-メチルピロリドン溶液125mL中に、上記の正極活物質粒子85gと、カーボンブラック10gとを添加し、均一に混錬してペーストを作製した。このペーストを、厚さ15μmのAl箔上に目付量6mg/cm2で片面塗布し、乾燥することで、Al箔上に正極合剤層を有する積層体を得た。その後、この積層体をプレスし、合剤層の厚さを45μm、合剤層の密度を2.4g/cm3とした。最後に、プレス後の積層体をφ16mmとなるように切り出して、正極を得た。
【0080】
1.1.5 負極の作製
Li箔をφ19mmとなるように切り出して、負極を得た。
【0081】
1.1.6 コインセルの作製
上記の正極及び負極を用いてCR2032型コインセルを作製した。ここで、セパレータとしてPP製多孔質セパレータを使用し、電解液としてEC(エチレンカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)とを体積比率3:7で混合したものに、支持塩として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を濃度1mol/Lで溶解したものを使用した。
【0082】
1.2 実施例2
混合塩として、GaCl3とLiClとを1:1のモル比となるように混合したものを用い、且つ、イオン交換時の温度を100℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質粒子を作製し、正極、負極及びコインセルを作製した。
【0083】
1.3 比較例1
混合塩として、LiNO3とLiClとを88:12のモル比となるように混合したものを用い、且つ、イオン交換時の温度を280℃としたこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質粒子を作製し、正極、負極及びコインセルを作製した。
【0084】
1.4 比較例2
沈殿物(前駆体粒子)を作製する際、Mn(NO3)2・6H2Oと、Ni(NO3)2・6H2Oと、Co(NO3)2・6H2Oと、Al(NO3)3・9H2Oとを、Mn、Ni、Co及びAlのモル比が5:2:2:1となるように秤量したこと、並びに、P2型構造を有するNa含有遷移金属酸化物粒子の作製する際、前駆体粒子とNa2CO3とを、組成比がNa0.67Mn0.5Ni0.2Co0.2Al0.1O2となるように混合して混合粉末を得たこと以外は比較例1と同様にして正極活物質粒子を作製し、正極、負極及びコインセルを作製した。
【0085】
1.5 比較例3
沈殿物(前駆体粒子)を作製する際、Mn(NO3)2・6H2Oと、Ni(NO3)2・6H2Oと、Co(NO3)2・6H2Oと、Al(NO3)3・9H2Oとを、Mn、Ni、Co及びAlのモル比が50:20:26:4となるように秤量したこと以外は比較例2と同様にして正極活物質粒子を作製し、正極、負極及びコインセルを作製した。
【0086】
1.6 比較例4
沈殿物(前駆体粒子)を作製する際、Mn(NO3)2・6H2Oと、Ni(NO3)2・6H2Oと、Co(NO3)2・6H2Oと、Ga(NO3)3・nH2Oとを、Mn、Ni、Co及びGaのモル比が50:20:27:3となるように秤量したこと以外は比較例2と同様にして正極活物質粒子を作製し、正極、負極及びコインセルを作製した。
【0087】
2.正極活物質粒子に含まれる結晶相の特定
実施例及び比較例に係る各々の正極活物質粒子に対してX線回折測定を行ったところ、
図4に示される結果が得られた。
図4から、実施例1、2及び比較例1、2のいずれについても、T#2型構造(Li量に依存してO2型構造から派生する構造)をわずかに含むものの、O2型構造やその派生構造のみから形成されていることが分かる。図示されていないが、比較例3、4についても同様の構造であった。
【0088】
3.正極活物質粒子の化学組成の特定
実施例及び比較例に係る各々の正極活物質粒子について、粒子全体としての平均化学組成をICP-AESにより特定した。結果を下記表1に示す。なお、下記表1に示される組成はMn、Ni、Co及び元素M(Al又はGa)の和が1.00となるように規格化している。
【0089】
【0090】
4.正極活物質粒子における元素M(Al又はGa)の分布形態の観察
実施例及び比較例に係る各々の正極活物質粒子について、その断面における元素分布をEDXにて観察した。その結果、実施例1及び2に係る正極活物質粒子については、元素Mが粒子表層に濃化してシェル状となっているのに対し、比較例2~4に係る正極活物質粒子については、元素Mが粒子の全体に均一に存在していることが分かった。参考までに、
図5に、実施例1に係る正極活物質粒子の断面を観察した際のAlについてのEDX元素マップを、
図6に、比較例2に係る正極活物質粒子の断面を観察した際のAlについてのEDX元素マップを、各々示す。また、
図7に、実施例1に係る正極活物質粒子の断面のAlについてのEDX元素マップにおいて、粒子の一方の表面から中心を通って他方の表面に至るまでにおけるAl濃度分布の一例を示す。
図5~7に示される結果からも、実施例1に係る正極活物質粒子については、元素Mが粒子表層に濃化してシェル状となっているのに対し、比較例2に係る正極活物質粒子については、元素Mが粒子の全体に均一に存在していることが分かる。実施例1及び2に係る各々の正極活物質粒子について、粒子表層部における平均化学組成を特定したところ、下記表2に示される結果となった。また、実施例1及び2に係る各々の正極活物質粒子について、粒子中心部における平均化学組成を特定したところ、下記表3に示される結果となった。なお、下記表2、3に示される組成は、表1と同様に、Mn、Ni、Co及び元素M(Al又はGa)の和が1.00となるように規格化している。一方、比較例1~4に係る正極活物質粒子については、粒子の表層部の化学組成と中心部の化学組成とが実質的に同じであった。
【0091】
【0092】
【0093】
5.初回放電容量及び充放電サイクル特性の評価
作製したコインセルについて、0.1Cの充放電レートで充放電を行った際の初回放電容量と10サイクル後の容量維持率とを測定した。充放電は、いずれのサイクルについても充電4.8Vまで、放電2.0Vまでとした。
【0094】
6.充放電レート特性の評価
作製したコインセルについて、25℃に保持した恒温槽において、2.0-4.8Vの電圧範囲で、0.1Cで充電し、その後、0.1C、0.5C、1C又は5Cで放電し、各々のレートにおける放電容量を測定し、0.1Cでの放電容量を100%として相対化して評価した。
【0095】
7.評価結果
下記表4に、活物質粒子における元素Mの分布形態、コインセルの初回放電容量、コインセルの充放電サイクル特性、及び、コインセルの充放電レート特性の各々についての評価結果を示す。
【0096】
【0097】
表1~4に示される結果から以下のことが分かる。
(1)比較例1に係る正極活物質粒子は、初回放電容量が高いものの、サイクル特性やレート特性に劣る。比較例1においては、4.8Vの高電位域においてO2型構造が不安定化した結果、サイクル特性やレート特性が低下したものと考えられる。
(2)比較例2に係る正極活物質粒子は、サイクル特性やレート特性に優れるものの、初回放電容量が低い。比較例2においては、粒子の表層部及び中心部の全体に元素Mが多量にドープされたことで、O2型構造が安定化された一方、充放電への寄与が少ない元素Mが多量にドープされたことで、充放電容量が大きく低下したものと考えられる。
(3)比較例3、4に係る正極活物質粒子は、初回放電容量、サイクル特性及びレート特性のいずれについても、十分なものとはいえない。比較例3、4は、粒子の表層部及び中心部の全体に元素Mが均一且つ少量ドープされたものであるが、この場合、表層部において元素Mによる構造安定化効果が十分には確保されず、また、中心部にまで均一に元素Mがドープされたことで、中心部によって確保される充放電容量が低下したものと考えられる。
(4)これに対し、実施例1、2に係る正極活物質粒子は、比較例1~4に係る正極活物質に比べて、高い容量と優れたサイクル特性とを両立し易いことが分かる。また、実施例1、2に係る正極活物質粒子は、比較例1~4に係る正極活物質に比べて、優れたレート特性が確保され易いことも分かる。実施例1、2に係る正極活物質粒子は、粒子の表層部に元素Mが濃化して存在しており、粒子の表層部においてO2型構造が安定化され、その効果が中心部にまで及んだものと考えられる。また、粒子の中心部における元素Mのモル濃度が相対的に低下し、中心部によって大きな充放電容量が確保されたものと考えられる。
【0098】
8.補足
尚、上記実施例においては、遷移金属元素としてMn、Ni及びCoのすべてと、Liと、元素Mと、Oとを含むものを例示したが、正極活物質粒子を構成する遷移金属元素は、これに限定されるものではない。例えば、Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含む場合に、O2型構造が形成され易い。
【0099】
また、上記実施例においては、元素MとしてAl又はGaを含むものを例示したが、正極活物質粒子を構成する元素Mは、これに限定されるものではない。例えば、元素Mとして、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種が含まれる場合に、元素MによるO2型構造の安定化効果が得られるものと考えられる。
【0100】
7.まとめ
以上の実施例から、正極活物質粒子であって、(1)O2型構造を有し、(2)Mn、Ni及びCoから選ばれる少なくとも1種の元素と、Liと、元素Mと、Oとを含み、(3)前記元素Mが、B、Mg、Al、K、Ca、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Ge、Sr、Y、Zr、Nb、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種であり、(4)前記粒子の表層部における前記元素Mのモル濃度が、前記粒子の中心部における前記元素Mのモル濃度よりも高いものは、高い容量と優れたサイクル特性とを両立し易いものといえる。
【符号の説明】
【0101】
1 正極活物質粒子
1a 表層部
1b 中心部
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 リチウムイオン二次電池