(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】移動予測方法、移動予測プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20250121BHJP
G09B 29/10 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
G08G1/16 A
G09B29/10 A
(21)【出願番号】P 2023011827
(22)【出願日】2023-01-30
【審査請求日】2024-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保海 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】河内 太一
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-204181(JP,A)
【文献】特開2016-052835(JP,A)
【文献】特開2021-196632(JP,A)
【文献】特開2020-144140(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0210866(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G09B 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図データを用いて対象物体の移動を予測する移動予測方法であって、
前記地図データは、複数の領域に分割され、前記複数の領域のそれぞれについて1又は複数の移動体の移動履歴が記録され、
前記移動履歴は、到来方向で類別された前記1又は複数の移動体の移動方向の履歴を含み、
前記移動予測方法は、
前記複数の領域のうち前記対象物体の近傍の複数の近傍領域のそれぞれについて、所定のタイムステップで前記対象物体が内部に位置する存在可能性を算出することと、
前記複数の近傍領域のうち前記存在可能性がゼロでない領域の分布に基づいて、所定期間の間の前記対象物体の移動予測分布を算出することと、
を含み、
前記存在可能性を算出することは、
各タイムステップにおいて、前記複数の近傍領域のうちの第1領域に対する前記複数の近傍領域のうちの第2領域の相対方向と前記第1領域に記録された前記移動方向の履歴とに基づいて、前記第1領域から前記第2領域に移動する遷移可能性を取得することと、
前回タイムステップで前記第1領域について算出された前記存在可能性と今回タイムステップで取得された前記遷移可能性とに基づいて、今回タイムステップにおける前記第2領域についての前記存在可能性を算出することと、
を含む
ことを特徴とする移動予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の移動予測方法であって、
前記存在可能性は、前記到来方向で類別された複数の到来可能性の和であり、
前記遷移可能性を取得することは、さらに前回タイムステップで前記第1領域について算出された前記複数の到来可能性の各々の大きさに基づいて前記遷移可能性を取得することを含む
ことを特徴とする移動予測方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の移動予測方法であって、
前記移動方向の履歴は、前記1又は複数の移動体のカテゴリでさらに類別されており、
前記遷移可能性を取得することは、さらに前記対象物体のカテゴリに基づいて前記遷移可能性を取得することを含む
ことを特徴とする移動予測方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の移動予測方法であって、
前記移動方向の履歴は、前記1又は複数の移動体の通過速度帯でさらに類別されており、
前記遷移可能性を取得することは、さらに前記対象物体の速度に基づいて前記遷移可能性を取得することを含む
ことを特徴とする移動予測方法。
【請求項5】
地図データを用いて対象物体の移動を予測する処理をコンピュータに実行させる移動予測プログラムであって、
前記地図データは、複数の領域に分割され、前記複数の領域のそれぞれについて1又は複数の移動体の移動履歴が記録され、
前記移動履歴は、到来方向で類別された前記1又は複数の移動体の移動方向の履歴を含み、
前記移動予測プログラムは、
前記複数の領域のうち前記対象物体の近傍の複数の近傍領域のそれぞれについて、所定のタイムステップで前記対象物体が内部に位置する存在可能性を算出する処理と、
前記複数の近傍領域のうち前記存在可能性がゼロでない領域の分布に基づいて、所定期間の間の前記対象物体の移動予測分布を算出する処理と、
を前記コンピュータに実行させるように構成され、
前記存在可能性を算出することは、
各タイムステップにおいて、前記複数の近傍領域のうちの第1領域に対する前記複数の近傍領域のうちの第2領域の相対方向と前記第1領域に記録された前記移動方向の履歴とに基づいて、前記第1領域から前記第2領域に移動する遷移可能性を取得することと、
前回タイムステップで前記第1領域について算出された前記存在可能性と今回タイムステップで取得された前記遷移可能性とに基づいて、今回タイムステップにおける前記第2領域についての前記存在可能性を算出することと、
を含む
ことを特徴とする移動予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、地図データを用いて物体の移動を予測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、所定の期間内で移動した物体の位置と速度情報をロボットの移動空間を示した地図データ上に記録した履歴地図データを備え、移動物体が出現する可能性がある移動物体出現点の近傍位置に記録された速度情報を履歴地図データから読み出し、読み出した速度情報に応じて衝突危険領域の形状を決定する移動ロボットシステムが開示されている。また特許文献1には、移動物体出現点の直下の位置の履歴地図データに記録されている全ての速度ベクトルを内包する基準楕円を衝突危険領域として設定することが開示されている。
【0003】
その他、本技術分野の技術レベルを示す文献として以下の特許文献2及び特許文献3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/072002号
【文献】特開2021-098492号公報
【文献】特開2016-052835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、車両やロボットを自律的に動作させる技術が注目されている。これらの技術では、外界センサによって認識された物体の移動を精度良く予測することが求められる。そこで、地図データを用いて物体の移動を予測する技術が考えられている。
【0006】
ところで、物体が将来どのように移動していくかは、物体が過去にどのように移動してきたかが大きく影響すると考えられる。例えば、これまで前に向かって直進していた歩行者は、引き続き直進する可能性が高い一方で、後ろに向かって移動をし始める可能性は低いだろう。
【0007】
特許文献1で開示される技術を適用することで、物体の位置を中心とする基準楕円を物体の移動範囲の予測とすることが可能である。しかしながら、基準楕円は、物体の直下の位置の地図データ(履歴地図データ)に記録されている速度情報から生成されるため、物体が過去にどのように移動してきたかを考慮することができていない。このため、基準楕円は、実際に物体が移動する範囲よりも過度に広範囲となる虞がある。また、基準楕円による物体の移動の予測は、直線的に移動しない物体を対象とすると十分な精度が確保できない虞がある。
【0008】
本開示の1つの目的は、上記の課題を鑑み、地図データを用いて物体の移動を予測する技術に関して、予測の精度を向上させた技術を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の観点は、地図データを用いて対象物体の移動を予測する移動予測方法に関する。
【0010】
第1の観点に係る移動予測方法において、地図データは、複数の領域に分割され、複数の領域のそれぞれについて1又は複数の移動体の移動履歴が記録されており、移動履歴は、到来方向で類別された1又は複数の移動体の移動方向の履歴を含んでいる。第1の観点に係る移動予測方法は、複数の領域のうち対象物体の近傍の複数の近傍領域のそれぞれについて、所定のタイムステップで対象物体が内部に位置する存在可能性を算出することと、複数の近傍領域のうち存在可能性がゼロでない領域の分布に基づいて、所定期間の間の対象物体の移動予測分布を算出することと、を含み、存在可能性を算出することは、各タイムステップにおいて、複数の近傍領域のうちの第1領域に対する複数の近傍領域のうちの第2領域の相対方向と第1領域に記録された移動方向の履歴とに基づいて、第1領域から第2領域に移動する遷移可能性を取得することと、前回タイムステップで第1領域について算出された存在可能性と今回タイムステップで取得された遷移可能性とに基づいて、今回タイムステップにおける第2領域についての存在可能性を算出することと、を含むことを特徴とする。
【0011】
本開示の第2の観点は、第1の観点に係る移動予測方法をコンピュータに実行させる移動予測プログラムに関する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、対象物体の近傍の複数の近傍領域のそれぞれについて、所定のタイムステップで存在可能性が算出される。そして、各タイムステップにおける存在可能性がゼロでない領域の分布に基づいて、所定期間の間の対象物体の移動予測分布が算出される。これにより、分布の時間発展を得ることができ、各タイムステップで対象物体がどのように移動してきたかを考慮することができる。延いては、対象物体の予測の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る地図データについて説明するための概念図である。
【
図2】移動方向の履歴のいくつかの例を示す概念図である。
【
図3】存在可能性の算出の一例について説明するための概念図である。
【
図4】移動予測分布について説明するための概念図である。
【
図5】本実施形態に係る処理装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】プロセッサが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
【0015】
1.地図データ
本実施形態に係る移動予測方法は、地図データを用いて物体(対象物体)の移動を予測する。本実施形態に係る移動予測方法において、用いられる地図データは特徴的である。
【0016】
本実施形態に係る地図データは、複数の領域に分割され、複数の領域のそれぞれについて1又は複数の移動体(以下、単に「移動体」と呼ぶ。)の移動履歴が記録されている。移動体は、例えば、歩行者、自転車、バイク、車両、等である。
【0017】
図1の(A)に、地図データD10の一例を示す。
図1の(A)は、グリッド線で分割された地図データD10の一部を示している。つまり、
図1の(A)に示す地図データD10は、グリッド線で区切られた複数の領域のそれぞれに移動体の移動履歴が記録されている。ただし地図データD10の分割は、その他の形式(例えば、三角形のメッシュによる分割)を適用しても良い。また複数の領域のそれぞれのサイズは、本実施形態を適用する環境に応じて好適に定められていて良い。以下では特に、グリッド線で分割された地図データD10を考えることとする。またグリッド線で分割された領域を「セル」と呼ぶ。
【0018】
本実施形態に係る地図データD10において、セルに記録される移動履歴は、少なくとも到来方向で類別された移動体の移動方向の履歴を含んでいる。
【0019】
例えば、地図データD10は、複数のセルのそれぞれについて、到来方向で類別された移動方向の履歴をヒストグラムで管理するように構成することができる。この場合について、
図1の(B)及び(C)を参照して、移動方向の履歴の一例について説明する。特に
図1の(B)及び(C)は、到来方向及び移動方向を、北側(N)、南側(S)、東側(E)、及び西側(W)の4つの方向で管理する場合の例である。
【0020】
いま
図1の(B)に示すように、地図データD10上のある1つのセルC10を、5つの移動体1a,1b,1c,1d,及び1eが移動していた情報が得られたとする。ここで、移動体1a,1b,及び1cは、南側からセルC10に到来して、セルC10から北側に移動している。また移動体1d及び1eは、西側からセルC10に到来して、セルC10から東側に移動している。従って移動方向の履歴をヒストグラムで管理する場合、地図データD10は、セルC10について、到来方向が南側で移動方向が北側である度数に3を加え、到来方向が西側で移動方向が東側である度数に2を加える。
【0021】
図1の(C)に、ヒストグラムで管理された移動方向の履歴の一例を示す。
【0022】
このように複数のセルのそれぞれについて移動方向の履歴を記録することにより、地図データD10は、地図上の各地点を移動する移動体の経験的な移動方向の傾向を管理することができる。特に本実施形態では、移動方向の履歴は、到来方向で類別されている。これにより地図データD10は、さらに到来方向に応じた移動方向の傾向を管理することができる。
【0023】
例えば、
図1の(C)に示す移動方向の履歴によれば、このセルでは、南側から到来した移動体は北側に移動する傾向があり、また西側から到来した移動体は東側に移動する傾向があることがわかる。さらに、このセルでは、北側又は東側から到来する移動体はほとんど存在しないことがわかる。
【0024】
本実施形態に係る地図データD10において、移動方向の履歴は、移動体のカテゴリでさらに類別されていても良い。これにより、地図データD10は、さらに移動体のカテゴリに応じた移動方向の傾向を管理することができる。
図2の(A)に、移動体のカテゴリでさらに類別された移動方向の履歴の一例を示す。
図2の(A)は、移動方向の履歴が、歩行者、車両、バイクの3つの移動体のカテゴリで類別される場合の例を示している。
図2の(A)に示す移動方向の履歴によれば、このセルでは、歩行者は東側から到来して西側に移動する傾向があることがわかり、車両又はバイクは南側から到来して北側又は西側に移動する傾向があることがわかる。
【0025】
また本実施形態に係る地図データD10において、移動方向の履歴は、移動体がセルを通過する速度帯(通過速度帯)でさらに類別されていても良い。これにより、地図データD10は、さらに移動体の速度に応じた移動方向の傾向を管理することができる。
図2の(B)に、移動体の通過速度帯で類別された移動方向の履歴の一例を示す。
図2の(B)は、移動方向の履歴が、0-10km/h、10-20km/h、20-3km/hの3つの通過速度帯で類別される場合の例を示している。
図2の(B)に示す移動方向の履歴によれば、このセルでは、0-10km/h又は10-20km/hの速度の移動体は北側から到来して南側に移動する傾向があることがわかり、20-30km/hの速度の移動体は、南側から到来して北側に移動する傾向があることがわかる。
【0026】
以上説明したように本実施形態に係る地図データD10が構成される。ただし到来方向及び移動方向は、他の形式を適用しても良い。例えば、地図データD10は、到来方向及び移動方向を、0-360度の方位角で管理するように構成されていても良い。また例えば、地図データD10は、到来前のセル及び移動先のセルをそれぞれ特定して、到来方向及び移動方向を管理するように構成されていても良い。また例えば、地図データD10は、移動方向を、セルに到来してから一定期間の間の移動体の移動範囲によって管理するように構成されていても良い。例えば、地図データD10は、
図2の(C)に示すような2次元のヒストグラム(ヒートマップ)で移動方向の履歴を管理することができる。
図2の(C)に示す2次元のヒストグラムは、中心位置(星印)のセルについて記録された移動方向の履歴であり、南側から到来した移動体が一定期間の間に通過したセルの度数を示している。
【0027】
2.移動予測方法
以下、本実施形態に係る移動予測方法について説明する。
【0028】
本実施形態に係る移動予測方法では、まず地図データD10上の複数のセルのうち対象物体の近傍にある複数のセル(以下、単に「近傍セル」と呼ぶ。)のそれぞれについて、所定のタイムステップで対象物体が内部に位置する存在可能性を算出する。
【0029】
図3を参照して、存在可能性の算出の一例について説明する。
【0030】
図3の(A)は、対象物体2の近傍セルC20を示す概念図である。
図3の(A)では、近傍セルC20のそれぞれのセル(i,j)について、タイムステップがtのときの存在可能性p[(i,j),t]が示されている。近傍セルC20の範囲は、例えば、対象物体2の位置を基準としてあらかじめ規定された範囲であって良い。この場合、規定された範囲は、対象物体2のカテゴリに応じて異なるように与えられていても良い。あるいは、近傍セルC20の範囲は、対象物体2の状態(例えば、速度)に応じて定められる範囲であっても良い。
【0031】
各タイムステップではまず、近傍セルC20のそれぞれのセル(i,j)について、前回タイムステップから今回タイムステップにかけて他のセルに移動する可能性(以下、単に「遷移可能性」と呼ぶ。)を取得する。近傍セルC20のうちの1つを第1セルとし、他のセルを第2セルとするとき、第1セルから第2セルへの遷移可能性の取得は、第1セルに対する第2セルの相対方向と第1セルに記録された移動方向の履歴とに基づいて行われる。
【0032】
例えばいまタイムステップtにおいて、セル(2,3)について遷移可能性を取得する場合を考える。特に、地図データD10は、
図1で説明したように移動方向の履歴を管理しているとする。この場合、
図3の(B)に示すように、セル(2,3)と隣接するセル(2,2)、セル(1,3)、セル(2,4)、及びセル(3,4)への遷移可能性fを取得することが考えられる。このとき、セル(2,3)からセル(2,2)への移動に注目すると、セル(2,3)に対するセル(2,2)の相対方向は西側である。従って、セル(2,3)からセル(2,2)への遷移可能性f[(2,3)→(2,2),t]は、
セル(2,3)から西側に移動する頻度で表すことができる。セル(2,3)から西側に移動する頻度は、
図1の(C)に示すように、セル(2,3)に記録された移動方向の履歴から取得することができる。セル(1,3)、セル(2,4)、及びセル(3,4)それぞれへの遷移可能性fも同様に取得することができる。
【0033】
ここで、相対方向は、地図データD10における到来方向及び移動方向の形式に応じて特定されて良い。例えば、地図データD10が到来方向及び移動方向を0-360度の方位角で管理する場合、相対方向は0-360度の方位角で特定されて良い。また遷移可能性は、隣接していないセルへの移動についてまで拡張して取得されても良い。さらに遷移可能性は、同一のセルへ移動する(他のセルへ移動しない)場合について取得されても良い。ただし、あるセル(i,j)について取得する遷移可能性fは、以下の式を満たすことが望ましい。ここで、xは、前回タイムステップt-1から今回タイムステップtにかけてセル(i,j)の移動先となることが想定されるセル全体(セル(i,j)を含んでいても良い)を動く変数である。
【0034】
【0035】
そして各タイムステップでは、近傍セルC20のそれぞれについて、前回タイムステップで算出された存在可能性と、今回タイムステップで取得された遷移可能性とに基づいて、今回タイムステップにおける存在可能性を算出する。
【0036】
例えばいまタイムステップtにおいて、セル(2,2)について存在可能性を算出する場合を考える。ここで、近傍セルC20のそれぞれのセル(i,j)について、
図3の(B)で説明したように隣接するセルへの遷移可能性fが取得されているとする。この場合、今回タイムステップtにおけるセル(2,2)についての存在可能性p[(2,2),t]は、
図3の(C)に示すように、隣接するセル(2,1)、(1,2)、(2,3)、及び(3,2)それぞれについて前回タイムステップt-1で算出された存在可能性pと今回タイムステップtで取得されたセル(2,2)への遷移可能性fとに基づいて算出される。例えば、隣接するセル(2,1)、(1,2)、(2,3)、及び(3,2)それぞれについて、前回タイムステップt-1で算出された存在可能性pと今回タイムステップtで取得されたセル(2,2)への遷移可能性fの積を算出し、それぞれについて算出された積の和を存在可能性p[(2,2),t]とすることができる。
【0037】
一般化すれば、近傍セルC20のそれぞれのセル(i,j)について、タイムステップがtのときの存在可能性p[(i,j),t]は、以下の式で算出することができる。ここで、yは、前回タイムステップt-1から今回タイムステップtにかけてセル(i,j)に到来することが想定されるセル全体(セル(i,j)を含んでいても良い)を動く変数である。
【0038】
【0039】
ところで、f[y→(i,j),t]とp[y,t-1]の積p[y→(i,j),t]は、前回タイムステップt-1から今回タイムステップtにかけてyからセル(i,j)に到来する可能性(以下、「到来可能性」と呼ぶ。)と考えることができる。つまり、上記の式において、存在可能性p[(i,j),t]は、複数の到来可能性p[y→(i,j),t]の和である。またこのように存在可能性p[(i,j),t]を算出するとき、存在可能性p[(i,j),t]は、複数の到来可能性p[y→(i,j),t]に類別することができる。
【0040】
存在可能性p[(i,j),t]を複数の到来可能性p[y→(i,j),t]に類別するとき、複数の到来可能性p[y→(i,j),t]の各々の大きさは、対象物体2がセル(i,j)の内部に位置する場合にどの到来方向から対象物体2が到来してきた可能性が高いかを示す指標となる。つまり、対象物体2がどのように移動してきたかについての情報を含むと考えられる。
【0041】
そこで第1セルから第2セルへの遷移可能性の取得は、さらに前回タイムステップで第1セルについて算出された複数の到来可能性の各々の大きさに基づいて行われても良い。
【0042】
例えばいまタイムステップtにおいて、セル(2,3)について遷移可能性を取得する場合を考える。このとき
図3の(B)で説明したように、セル(2,3)からセル(2,2)への遷移可能性f[(2,3)→(2,2),t]は、セル(2,3)から西側に移動する頻度で表すことができる。ここで、セル(2,3)に記録された移動方向の履歴は到来方向で類別されていることから、セル(2,3)から西側に移動する頻度は、セル(2,3)への到来方向ごとに取得することができる。そこで、遷移可能性f[(2,3)→(2,2),t]は、前回タイムステップt-1でセル(2,3)について算出された複数の到来可能性の各々の大きさを重みとして、到来方向ごとに取得された頻度の重み付き平均で表すことができる。あるいは、遷移可能性f[(2,3)→(2,2),t]は、複数の到来可能性の各々と対応して、それぞれが到来方向ごとに取得された頻度で表される複数の遷移可能性を含んでいても良い。
【0043】
また地図データD10において、移動方向の履歴が移動体のカテゴリでさらに類別されている場合、第1セルから第2セルへの遷移可能性の取得は、さらに対象物体2のカテゴリに基づいて行われても良い。例えば、対象物体2のカテゴリが歩行者であるとき、カテゴリが歩行者である移動方向の履歴を参照して、遷移可能性を取得する。また地図データD10において、移動方向の履歴が移動体の通過速度帯でさらに類別されている場合、第1セルから第2セルへの遷移可能性の取得は、さらに対象物体2の速度に基づいて行われても良い。例えば、対象物体2の速度が25km/hであるとき、通過速度帯が20-30km/hである移動方向の履歴を参照して、遷移可能性を取得する。
【0044】
このように第1セルから第2セルへの遷移可能性を取得することで、対象物体2の状態に応じて適切な遷移可能性を取得することができる。延いては、対象物体2の移動の予測の精度を向上させることができる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態に係る移動予測方法では、近傍セルC20のそれぞれのセル(i,j)について、所定のタイムステップで存在可能性が算出される。
図4の(A)は、各タイムステップにおいて算出される存在可能性の一例を示す概念図である。
図4の(A)において、t=0は、対象物体2を検出した現在時刻である。
図4の(A)に示すように、本実施形態に係る移動予測方法により、存在可能性に係るセルの分布の時間発展を得ることができる。
【0046】
そして本実施形態に係る移動予測方法では、各タイムステップにおける存在可能性がゼロでないセルの分布に基づいて、所定期間の間の対象物体2の移動予測分布を算出する。特に、各タイムステップを時刻情報として、存在可能性がゼロでないセルの分布を対象物体2の移動予測分布として算出して良い。
【0047】
このように算出された移動予測分布によれば、存在可能性に係るセルの分布の時間発展を得ることができるため、各タイムステップで対象物体2がどのように移動してきたかを考慮することができる。延いては、対象物体2の予測の精度を向上させることができる。
【0048】
図4の(B)及び(C)は、移動予測分布5の一例を示す概念図である。
図4の(B)及び(C)は、ガードレール4が配置された道路を走行する自動運転車3が、認識した対象物体2(歩行者)の移動を予測する場合を示している。また
図4の(B)及び(C)において、移動予測分布5は、所定期間の間で存在可能性がゼロでないセルの範囲を簡易的に示している。
図4の(B)に示す移動予測分布5によれば、対象物体2がガードレール4を乗り越えて道路側に移動する可能性はないことがわかる。一方で
図4の(C)に示す移動予測分布5によれば、ガードレール4が途切れた地点から対象物体2が道路側に移動する可能性があることがわかる。これは例えば、移動方向の履歴において、ガードレール4が途切れた地点から歩行者が道路側に移動したという記録が多くある場合である。このように、本実施形態によれば、対象物体2の現実的で複雑な動きを予測することも可能である。
【0049】
3.構成
本実施形態に係る移動予測方法は、コンピュータが実行する処理により実現することができる。
【0050】
図5は、本実施形態に係る移動予測方法を実現する処理装置100の構成を示すブロック図である。処理装置100は、データサーバ200及び外界センサ300と通信可能に接続している。
【0051】
データサーバ200は、移動体との通信により移動履歴を取得し、取得した移動履歴を移動履歴データベースD20で管理する。
【0052】
外界センサ300は、自動運転車やロボットに備えられ、自動運転車やロボットの周辺環境を検出する。特に外界センサ300は、周辺の物体の認識を行う。外界センサ300として、カメラ、レーダー、LiDAR等が例示される。
【0053】
処理装置100は、プロセッサ110と記憶装置120を含むコンピュータである。処理装置100は、例えば、自動運転車やロボットの制御に係る処理を実行する装置であって良い。
【0054】
プロセッサ110は、各種処理を実行する。プロセッサ110は、例えば、演算装置やレジスタ等を含むCPU(Central Processing Unit)で構成することができる。記憶装置120は、プロセッサ110と結合し、プロセッサ110の処理の実行に必要な各種情報を格納する。記憶装置120は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、等の記録媒体で構成することができる。
【0055】
記憶装置120には、コンピュータプログラム121と、地図データD10と、検出情報D11と、が格納される。
【0056】
コンピュータプログラム121は、複数のインストラクション122により構成され、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納される。プロセッサ110が複数のインストラクション122に従って動作することにより、プロセッサ110による各種処理の実行が実現される。
【0057】
地図データD10は、プロセッサ110が実行する処理により更新されて良い。例えば、プロセッサ110は、定期的に移動履歴データベースD20にアクセスすることで、移動履歴データベースD20に基づいて地図データD10を更新するように構成されていて良い。
【0058】
検出情報D11は、外界センサ300によって検出された情報である。検出情報D11は、外界センサ300から取得される。検出情報D11は、対象物体2の地図上の位置、速度、及びカテゴリ等の情報を含んでいて良い。
【0059】
4.処理
図6は、プロセッサ110が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図6に示すフローチャートは、例えば、外界センサ300が物体(対象物体2)を認識したときに開始する。
【0060】
ステップS100で、プロセッサ110は、処理の実行に必要な各種情報を取得する。例えば、プロセッサ110は、検出情報D11と、対象物体2の近傍セルC20に係る移動方向の履歴を取得する。
【0061】
ステップS200で、プロセッサ110は、タイムステップを初期化(t=0)する。そして、プロセッサ110は、t=0で、近傍セルC20のうち対象物体2が位置するセルの存在可能性を1とする(ステップS300)。
【0062】
ステップS400で、プロセッサ110は、タイムステップをインクリメントする(t=t+1)。
【0063】
ステップS500で、プロセッサ110は、移動方向の履歴に基づいて、近傍セルC20のそれぞれについて遷移可能性を取得する。
【0064】
ステップS600で、プロセッサ110は、近傍セルC20のそれぞれについて、前回タイムステップt-1で算出された存在可能性と、今回タイムステップtで取得された遷移可能性とに基づいて、今回タイムステップにおける存在可能性を算出する。
【0065】
ステップS700で、今回タイムステップtが所定値Tより小さいか否かを判定する。所定値Tは、対象物体2の移動を予測する期間に対応しており、好適に与えられて良い。
【0066】
今回タイムステップtが所定値Tより小さい場合(ステップS700;Yes)、プロセッサ110は、タイムステップをインクリメントして(ステップS400)、再度ステップS500及びステップS600を繰り返す。
【0067】
今回タイムステップtが所定値Tを超える場合(ステップS700;No)、プロセッサ110は、各タイムステップにおける存在可能性がゼロでないセルを抽出する。
【0068】
ステップS900で、プロセッサ110は、ステップS800において抽出したセルに基づいて、対象物体2の移動予測分布を算出する。
【0069】
ステップS900の後、処理は終了する。
【0070】
以上説明したように、プロセッサ110が実行する処理により、本実施形態に係る移動予測方法が実現される。またこのようにプロセッサ110に処理を実行させるコンピュータプログラム121を構成することにより、本実施形態に係る移動予測プログラムが実現される。
【符号の説明】
【0071】
2 対象物体,5 移動予測分布,100 処理装置,110 プロセッサ,120 記憶装置,121 コンピュータプログラム,D10 地図データ