(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20250121BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20250121BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250121BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20250121BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20250121BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20250121BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/131
H01M4/485
H01M4/505
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2023503790
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022008034
(87)【国際公開番号】W WO2022186087
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2021031887
(32)【優先日】2021-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】高野 良平
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-170734(JP,A)
【文献】特開2017-135041(JP,A)
【文献】特開2017-117775(JP,A)
【文献】特開2018-107130(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044902(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/225437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M10/00-10/39
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極層、負極層および前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層を含
む固体電池であって、
前記負極層は
、負極活物質、ならびにガーネット型固体電解質を含
み、
前記負極活物質は、一般式(N):
【化1】
(式(N)中、MはW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)およびZr(ジルコニウム)からなる群から選択される1種以上の元素であって、Wを含み;
M’は、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Sn(スズ)、Nb(ニオブ)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、およびGa(ガリウム)からなる群から選択される1種類以上の元素である;
αおよびβは2<α<10、0<β<1.5および7≧α/β>2を満たす;
γは0≦γ<3を満たす;
ωは4<ω<9を満たす)
で表される化学組成を有し、
前記ガーネット型固体電解質は、化学組成において、Li(リチウム)、La(ランタン)、Zr(ジルコニウム)およびO(酸素)を含み、
前記固体電池は共焼結型固体電池である、固体電池。
【請求項2】
前記負極活物質は、低温相Li
4WO
5型結晶構造、高温相Li
4WO
5型結晶構造、およびLi
6WO
6型結晶構造からなる群から選択される1種以上の結晶構造を有している、請求項
1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記負極活物質は、低温相Li
4WO
5型結晶構造または高温相Li
4WO
5型結晶構造を有している、請求項1
または2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記ガーネット型固体電解質は、化学組成において、W(タングステン)をさらに含む、請求項
1~3のいずれかに記載の固体電池。
【請求項5】
前記ガーネット型固体電解質は、一般式(G):
【化2】
[式(G)中、Aは、前記ガーネット型結晶構造を有する酸化物のLiサイトに固溶可能な1種以上の元素である;
B
Iは、酸素と8配位をとることが可能な第1族~第3族に属する元素のうち、3価の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種以上の元素である;
B
IIは、酸素と8配位をとることが可能な第1族~第3族に属する元素のうち、3価以外の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種以上の元素である;
D
Iは、酸素と6配位をとることが可能な遷移元素および第12族~第15族に属する典型元素のうち、4価の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種類以上の元素である;
D
IIは、酸素と6配位をとることが可能な遷移元素および第12族~第15族に属する典型元素のうち、4価以外の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種以上の元素である;
αは、3.0≦α≦8.0を満たす;
βは、2.5≦β≦3.5を満たす;
γは、1.5≦γ≦2.5を満たす;
ωは、11≦ω≦13を満たす;
xは、0≦x≦1.0を満たす;
yは、0≦y≦1.0を満たす;
zは、0≦z≦2.2を満たす]
で表される化学組成を有する、請求項1~
4のいずれかに記載の固体電池。
【請求項6】
前記負極活物質は、前記一般式(N)で表される化学組成を有し、かつ高温相Li
4WO
5型結晶構造の単相構造を有している、請求項
1~5のいずれかに記載の固体電池。
【請求項7】
前記負極活物質は、前記一般式(N)において、前記α/βが3.8≦α/β≦6.5を満たし、かつ前記MがW(タングステン)であり、
前記ガーネット型固体電解質は、前記一般式(G)において、以下の条件(s1)を満たす、請求項
5に従属する請求項6に記載の固体電池:
条件(s1):x=0または、前記AがGaを含み0<x≦1.0である。
【請求項8】
前記負極活物質は、前記一般式(N)において、前記α/βが3.8≦α/β≦6.5を満たし、かつ前記MがW(タングステン)であり、
前記ガーネット型固体電解質は、前記一般式(G)において、以下の条件(s1)および(s2)を満たす、請求項
5に従属する請求項6に記載の固体電池:
条件(s1):x=0または、前記AがGaを含み0<x≦1.0である;
条件(s2):前記D
IIはTa(タンタル)およびW(タングステン)を含む。
【請求項9】
前記固体電解質層が、ガーネット型固体電解質を含む、請求項1~
8のいずれかに記載の固体電池。
【請求項10】
前記正極層および前記負極層はリチウムイオンを吸蔵放出可能な層となっている、請求項1~
9のいずれかに記載の固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話や携帯型パーソナルコンピュータ等の携帯型電子機器の電源として、電池(特に二次電池)の需要が大幅に拡大している。このような用途に用いられる二次電池では、イオンを移動させるための媒体として、有機溶媒等の非水電解質(電解液)が従来から使用されている。このような非水電解質二次電池においては、負極活物質としてLi4WO5を用いることにより、平均放電電位および充放電ヒステリシス等の電池特性を向上させる試みがなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかし、上記の構成の電池では電解液が漏出するという危険性があり、しかも電解液に用いられる有機溶媒等は可燃性物質であるという問題がある。このため、電解液に代えて固体電解質を用いることが提案されている。電解質として固体電解質を用いると共に、その他の構成要素も固体で構成されている焼結型固体二次電池(いわゆる「固体電池」)の開発が進められている。
【0004】
固体電池は、正極層、負極層および正極層と負極層との間に積層されている固体電解質層を含む。このような固体電池においては、ガーネット型構造を有する固体電解質(例えば、LLZ)が、比較的高いイオン伝導度と広い電位窓を有することが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】R. Murugan et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2007, 46, 7778-7781
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の発明者は、上記のような従来の固体電池において、ガーネット型固体電解質と電極活物質との反応性が非常に高く、十分な電池性能が得られないことを見出した。
【0008】
詳しくは、固体電池において、ガーネット型固体電解質を負極活物質とともに負極層に含有させると、焼結時において、ガーネット型固体電解質が負極活物質と反応し、負極活物質の利用率が低下した。このため、焼結時において、ガーネット型固体電解質との反応性がより十分に低い負極活物質が求められていた。
【0009】
本発明は、負極層にガーネット型固体電解質を含有させても、負極活物質の利用率低下をより十分に抑制することができる、固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
正極層、負極層および前記正極層と前記負極層との間に配置される固体電解質層を含み、
前記負極層は、Li(リチウム)、M[MはW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)およびZr(ジルコニウム)からなる群から選択される1種以上の元素である]ならびにO(酸素)を含み、かつMの含有量に対するLiの含有量のモル比(Li/M)が2.0より大きい負極活物質、ならびにガーネット型固体電解質を含む、固体電池に関する。
【0011】
本発明は、特定の負極活物質がガーネット型固体電解質との共焼結に絶えうる電極材料であることを見出したことに基づいている。詳しくは、本発明の発明者等は、ガーネット型固体電解質を特定の負極活物質と組み合わせて用いることにより、それらの反応を十分に抑制できることを見出した。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る固体電池は、その負極層において、ガーネット型固体電解質と負極活物質との反応をより十分に抑制することができる。
本発明の固体電池においては、負極層にガーネット型固体電解質を含有させているにもかかわらず、負極活物質の利用率低下をより十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例で測定されたX線回折パターン(すなわちXRDパターン)を示す。
【
図2A】実施例4で作製された固体電池の充放電曲線を示す。
【
図2B】比較例2で作製された固体電池の充放電曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[固体電池]
本発明は固体電池を提供する。本明細書でいう「固体電池」とは、広義にはその構成要素(特に電解質層)が固体から構成されている電池を指し、狭義にはその構成要素(特に全ての構成要素)が固体から構成されている「全固体電池」を指す。本明細書でいう「固体電池」は、充電および放電の繰り返しが可能な、いわゆる「二次電池」、および放電のみが可能な「一次電池」を包含する。「固体電池」は好ましくは「二次電池」である。「二次電池」は、その名称に過度に拘泥されるものではなく、例えば、「蓄電デバイス」などの電気化学デバイスも包含し得る。
【0015】
本発明の固体電池は、正極層、負極層および固体電解質層を含み、通常は、正極層と負極層との間に固体電解質層が配置を介して積層されてなる積層構造を有する。正極層および負極層は、それらの間に固体電解質層が備わっている限り、それぞれ2層以上で積層されていてもよい。固体電解質層は正極層および負極層と接触して、それらに挟持されている。正極層と固体電解質層とは焼結体同士の一体焼結をなしてもよく、かつ/または負極層と固体電解質層とは焼結体同士の一体焼結をなしていてもよい。焼結体同士の一体焼結をなしているとは、隣接または接触する2つまたはそれ以上の部材(特に層)が焼結により接合されているという意味である。ここでは、当該2つまたはそれ以上の部材(特に層)はいずれも焼結体でありながら、一体的に焼結されていてもよい。本発明の固体電池は、正極層と固体電解質層とが焼結体同士の一体焼結をなしつつ、かつ負極層と固体電解質層とが焼結体同士の一体焼結をなしているという意味で、「焼結型固体電池」または「共焼結型固体電池」と称され得る。
【0016】
(負極層)
負極層は金属イオンを吸蔵放出可能な層であり、好ましくはリチウムイオンを吸蔵放出可能な層である。負極層は負極活物質および固体電解質を含む。
【0017】
負極活物質は、Li(リチウム)、M[MはW(タングステン)、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)およびZr(ジルコニウム)からなる群から選択される1種以上の元素である]およびO(酸素)を含み、かつMの含有量に対するLiの含有量のモル比(Li/M)が2.0より大きい負極活物質である。負極活物質がMを含まない場合、および負極活物質におけるLi/Mが2.0以下の場合、焼結時において、固体電解質が負極活物質と反応し、負極活物質の利用率が低下する。
【0018】
負極活物質は、固体電解質と負極活物質との反応を抑制する観点から、上記したMとしてWを含むことが好ましい。本負極活物質はWのレドックスによって充放電容量が発現する。MとしてWを含むとは、例えば、後述の一般式(N)において、Wに関するβ(すなわちWに関するβに相当する数)が0<β<1.5を満たし、好ましくは0.4≦β≦1.2、より好ましくは0.6≦β≦1.02、さらに好ましくは0.7≦β≦1.02を満たすという意味である。Mは、固体電解質と負極活物質との反応をより一層、抑制する観点から、Wであることがより好ましい。
【0019】
負極活物質は、固体電解質と負極活物質との反応を抑制する観点から、一般式(N)で表される化学組成を有することが好ましい。
【0020】
【0021】
式(N)中、Mは上記したMと同様である。Mは、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくはWを含み、より好ましくはWを含む。MがW(タングステン)を含む場合、MはW(タングステン)と、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)およびZr(ジルコニウム)からなる群から選択される1種以上の元素Mxとを組み合わせて含んでもよい。
M’は、Na(ナトリウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Sn(スズ)、Nb(ニオブ)、Zn(亜鉛)、Mn(マンガン)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、およびGa(ガリウム)からなる群から選択される1種類以上の元素である。また、M’は一部のLi元素と置換し得る金属元素であってもよい。
【0022】
αは2<α<10を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは3≦α≦8、より好ましくは3≦α≦5.5、さらに好ましくは3.9≦α≦5.5、特に好ましくは3.9≦α≦5.0、最も好ましくは3.9≦α≦4.5を満たす。
βは0<β<1.5を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは0.4≦β≦1.2、より好ましくは0.6≦β≦1.05、さらに好ましくは0.7≦β≦1.02を満たし、特に好ましくは0.9≦β≦1.03を満たし、最も好ましくは1である。なお、Mが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するβ(すなわち各元素に関するβに相当する数)の合計数が上記βの範囲内であればよい。Mが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するβ(すなわち各元素に関するβに相当する数)のそれぞれは独立して、0.01以上1.2以下、特に0.05以上1.05以下であってもよい。特にMがW(タングステン)と、Mo(モリブデン)、Ta(タンタル)およびZr(ジルコニウム)からなる群から選択される1種以上の元素Mxとを組み合わせて含む場合、Wに関するβ(以下、βWという)およびMxに関するβ(以下、βMxという)は、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、以下の範囲内であることが好ましい:
・βWは0.5以上1.1以下、特に0.7以上1.0以下である;
・βMxは0.05以上0.4以下、特に0.1以上0.3以下である;Mxが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するβMx(すなわち各元素に関するβMxに相当する数)の合計数が上記βMxの範囲内であればよい。
【0023】
γは0≦γ<3を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは0≦γ≦2、より好ましくは0≦γ≦1、さらに好ましくは0≦γ≦0.4を満たし、特に好ましくは0である。なお、M’が2種以上の元素を含む場合、各元素に関するγ(すなわち各元素に関するγに相当する数)の合計数が上記γの範囲内であればよい。
ωは4<ω<9を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは4<ω≦7(特に5,6または7)、より好ましくは4.5≦ω≦6.5(特に5または6)、さらに好ましくは4.5≦ω≦5.5を満たし、さらに好ましくは5である。
【0024】
α/βは、上記したMの含有量に対するLiの含有量のモル比(Li/M)に対応する値であり、2より大きく、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは2<α/β≦7、より好ましくは3≦α/β≦6.5、さらに好ましくは3.8≦α/β≦6.5、特に好ましくは3.8≦α/β≦5.5、最も好ましくは3.8≦α/β≦5.0である。
【0025】
負極活物質の化学組成は平均化学組成であってもよい。負極活物質の平均化学組成は、固体電池を破断しTEM-EELS(電子エネルギー損失分光法)、もしくはオージェ電子分光法等を用いて直接測定してもよい。負極層において負極活物質の平均化学組成と後述の固体電解質の平均化学組成とは、上記組成分析において、それらの組成により、区別して測定され得る(固体電解質のみに含まれる元素を検出し、その元素が検出されない部位を負極活物質としてみなすことができる。例えば、固体電解質にLaを含み、電極活物質にLaを含まない場合、Laが検出されない部位を負極活物質としてみなし、Laが検出される部位を固体電解質としてみなす)。
【0026】
一般式(N)で表される負極活物質の具体例として、例えば、Li4WO5、Li3.8W1.03O5、Li6WO6、Li4(W0.8Mo0.2)O5、Li4.4(W0.8Zr0.2)O5、Li4.1(W0.9Ta0.1)O5、Li4.23W0.96O5、およびLi3.84Mg0.2W0.96O5等が挙げられる。
【0027】
負極活物質は、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、低温相Li4WO5型結晶構造、高温相Li4WO5型結晶構造、Li6WO6型結晶構造からなる群から選択される1種以上の結晶構造を有することが好ましく、より好ましくは低温相Li4WO5型結晶構造または高温相Li4WO5型結晶構造を有し、さらに好ましくは高温相Li4WO5型結晶構造を有する。
【0028】
本発明において、負極活物質が低温相Li4WO5型構造を有するとは、当該負極活物質がICDD Card No.01-074-6445に帰属可能な結晶構造を有することを意味する。例えば、負極活物質が低温相Li4WO5型構造を有するとは、当該負極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆる低温相Li4WO5型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。低温相Li4WO5型構造は、いわゆるα-Li4WO5型構造のことである。
【0029】
本発明において、負極活物質が高温相Li4WO5型構造を有するとは、当該負極活物質がICDD Card No.01-074-6193、00-021-0530、または04-010-6772のいずれかに帰属可能な結晶構造を有することを意味する。例えば、負極活物質が高温相Li4WO5型構造を有するとは、当該負極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆる高温相Li4WO5型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。高温相Li4WO5型構造は、いわゆるβ-Li4WO5型構造とその類似構造を包含する。当該類似構造としては、例えば、上記した結晶構造のうち、ICDD Card No.00-021-0530または04-010-6772のいずれかに帰属可能な結晶構造が挙げられる。
【0030】
本発明において、負極活物質がLi6WO6型構造を有するとは、当該負極活物質がICDD Card No.01-073-6224に帰属可能な結晶構造を有することを意味する。例えば、負極活物質がLi6WO6型構造を有するとは、当該負極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるLi6WO6型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。
【0031】
本発明における負極活物質は充放電(Li挿入・脱挿入)によって、格子定数が変化する。したがって、上記のICDDカードと必ずしも厳密に等しい格子定数を有していなくてもよく、上記のICDDカードと近似する格子定数を有してればよい。本発明でいう近似とは、上記のICDDカードの格子定数に対して、±10%以内の数値範囲を示すことを言う。
【0032】
負極活物質は、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、高温相Li4WO5型結晶構造の単相構造を有することが好ましい。高温相Li4WO5型結晶構造の単相構造とは、X線回折(CuKα線を用いたXRD)において、各結晶構造に固有の最強ピークの強度について、高温相Li4WO5型結晶構造に固有の最強ピーク(入射角度 2θ=18°近辺のピーク)の強度IHが、全最強ピークの強度の総和に対して80%以上である結晶構造のことである。例えば、高温相Li4WO5型結晶構造の単相構造とは、X線回折(CuKα線を用いたXRD)において、高温相Li4WO5型結晶構造および低温相Li4WO5型結晶構造の混相構造と比較して、高温相Li4WO5型結晶構造に固有の最強ピーク(入射角度 2θ=18°近辺のピーク)の強度IHおよび低温相Li4WO5型結晶構造に固有の最強ピーク(例えば、入射角度 2θ=44°近辺のピーク)の強度ILが、IH/(IH+IL)≧0.80の関係を有する結晶構造のことである。他方、IHおよびILがIH/(IH+IL)<0.80の関係を有する結晶構造は混相と判断される。
【0033】
負極活物質は、負極層を正極層および固体電解質層とともに焼結した後の固体電池において、上記した化学組成および結晶構造を有していてもよい。
【0034】
負極活物質は、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、所定の金属原子を含有する原料化合物を、化学組成が所定の化学組成となるように秤量し、水を添加および混合してスラリーを得る。スラリーを乾燥させ、700℃以上1000℃以下で4時間以上24時間以下、仮焼し、粉砕して、負極活物質を得ることができる。
【0035】
負極活物質の平均粒径は、特に限定されず、例えば、0.01μm以上、20μm以下であってもよく、好ましくは0.1μm以上、5μm以下である。
【0036】
負極活物質の平均粒径は、例えば、SEM画像中から無作為に10個以上100個以下の粒子を選び出し、それらの粒径を単純に平均して平均粒径(算術平均)を求めることができる。
【0037】
粒径は、粒子が完全な球形であると仮定したときの球形粒子の直径とする。このような粒径は、例えば、固体電池の断面を切り出し、SEMを用いて断面SEM画像撮影後、画像解析ソフト(例えば、「A像くん」(旭化成エンジニアリング社製))を用いて粒子の断面積Sを算出後、以下の式によって粒子直径Rを求めることができる。
【0038】
【0039】
なお、負極層における負極活物質の平均粒径は、上記した化学組成の測定時において、組成により負極活物質を特定して、測定され得る。
【0040】
負極層における負極活物質の体積割合は特に限定されず、負極活物質の利用率のさらなる向上の観点から、20%以上80%以下であることが好ましく、30%以上75%以下であることがより好ましく、30%以上60%以下であることがさらに好ましい。
【0041】
負極層における負極活物質の体積割合はFIB断面加工後のSEM画像から測定することができる。詳しくは、負極層の断面を、SEM-EDXを用いて観測する。固体電解質のみに含まれる元素を検出し、その元素が検出されない部位を負極活物質としてみなすことができる。例えば、固体電解質にLaを含み、電極活物質にLaを含まない場合、EDXからWが検出され、かつLaが検出されない部位が負極活物質であると判断し、上記の部位の面積比率を算出することで、負極活物質の体積割合の測定が可能である。
【0042】
負極層における負極活物質の粒子形状は、特に限定されず、例えば、球状形状、扁平形状、不定形状いずれの粒子形状であってもよい。
【0043】
負極層に含まれる固体電解質はガーネット型構造を有する固体電解質である。負極層がガーネット型固体電解質の代わりに他の固体電解質(例えば、ナシコン型固体電解質)を含む場合、焼結時において、当該固体電解質が負極活物質と反応し、負極活物質の利用率が低下する。
【0044】
固体電解質がガーネット型構造を有するとは、当該固体電解質がガーネット型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりガーネット型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、固体電解質がガーネット型構造を有するとは、当該固体電解質は、X線回折において、いわゆるガーネット型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。
【0045】
ガーネット型固体電解質は、ガーネット型結晶構造を有する限り特に限定されない。ガーネット型固体電解質は、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、Li(リチウム)、La(ランタン)、Zr(ジルコニウム)およびO(酸素)を含むことが好ましく、より好ましくはWをさらに含む。
【0046】
ガーネット型固体電解質は、一般式(G):
【化2】
【0047】
式(G)中、Aは、前記ガーネット型結晶構造を有する酸化物のLiサイトに固溶可能な1種以上の元素である。Aは、詳しくは、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、およびSc(スカンジウム)からなる群から選択される1種類以上の元素である。Aは、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは、Ga(ガリウム)、Al(アルミニウム)、およびSc(スカンジウム)からなる群から選択される1種類以上の元素であるか、または無し(すなわちx=0)であり、より好ましくはGaを含むか、または無し(すなわちx=0)であり、さらに好ましくは無し(すなわちx=0)である。AがGaを含む場合、AはGaと、Al、Mg、Zn、およびScからなる群(特にAlおよびScからなる群)から選択される1種類以上の元素Axとを組み合わせて含んでもよい。
BIは、酸素と8配位をとることが可能な第1族~第3族に属する元素のうち、3価の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種以上の元素である。BIは、詳しくは、La(ランタン)、Y(イットリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミニウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)およびLu(ルテチウム)からなる群から選択される1種以上の元素である。BIは、焼成時における副反応およびガーネット型酸化物のイオン伝導度低下のさらなる抑制の観点および固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくはLa(ランタン)を含む。BIは、同様の観点から、La(ランタン)を含むことがより好ましい。
BIIは、酸素と8配位をとることが可能な第1族~第3族に属する元素のうち、3価以外の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種以上の元素である。BIIは、詳しくは、2価のBIIとしてのCa(カルシウム),Sr(ストロンチウム)およびBa(バリウム)、ならびに4価のBIIとしてのCe(セリウム)からなる群から選択される1種以上の元素である。BIIは、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは無し(すなわちy=0)である。
DIは、酸素と6配位をとることが可能な遷移元素および第12族~第15族に属する典型元素のうち、4価の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種類以上の元素である。DIは、詳しくは、Zr(ジルコニウム),Ti(チタン),Hf(ハフニウム,Ge(ゲルマニウム)およびSn(スズ)からなる群から選択される1種以上の元素である。DIは、焼成時における副反応およびガーネット型酸化物のイオン伝導度低下のさらなる抑制の観点および固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくはZr(ジルコニウム)を含む。DIは、同様の観点から、Zr(ジルコニウム)を含むことがより好ましい。
DIIは、酸素と6配位をとることが可能な遷移元素および第12族~第15族に属する典型元素のうち、4価以外の価数をとることができる元素からなる群から選択される1種以上の元素である。DIIは、詳しくは、3価のDIIとしてのSc(スカンジウム),5価のDIIとしてのTa(タンタル),Nb(ニオブ)、Sb(アンチモン)およびBi(ビスマス),ならびに6価のDIIとしてのMo(モリブデン),W(タングステン)およびTe(テルル)からなる群から選択される1種以上の元素である。DIIは、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、およびBi(ビスマス)からなる群から選択される1種類以上の元素であるか、または無し(すなわちz=0)である。DIIは、同様の観点から、より好ましくはW(タングステン)を含み、さらに好ましくはTa(タンタル)およびW(タングステン)を含む。
【0048】
式(G)中、αは、3.0≦α≦8.0を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは5.5≦α≦7.0を満たし、より好ましくは6.0≦α≦6.8、さらに好ましくは6.2≦α≦6.8、特に好ましくは6.2≦α≦6.7を満たす。
βは、2.5≦β≦3.5を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは2.6≦β≦3.4を満たし、より好ましくは2.7≦β≦3.3、さらに好ましくは2.8≦β≦3.2、特に好ましくは2.9≦β≦3.1を満たし、最も好ましくは3.0である。BIが2種以上の元素を含む場合、「β-y」は各元素に関する数の合計数である。
γは、1.5≦γ≦2.5を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは1.6≦γ≦2.4を満たし、より好ましくは1.7≦γ≦2.3、さらに好ましくは1.8≦γ≦2.2、特に好ましくは1.9≦γ≦2.1を満たし、最も好ましくは2.0である。DIが2種以上の元素を含む場合、「γ-z」は各元素に関する数の合計数である。「γ-z」は通常、1.0以上2.5以下であり、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは1.2以上2.2以下、より好ましくは1.3以上1.7以下である。
ωは、11≦ω≦13を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは11≦ω≦12.5、より好ましくは11.5≦ω≦12.5を満たし、さらに好ましくは「12-σ」である。δは酸素欠損量を示し、0であってもよい。δは通常、0≦δ<1を満たしていればよい。酸素欠損量δは、最新の装置を用いても定量分析できないため、0であるものと考えられてもよい。
xは、0≦x≦1.0を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは0≦x≦0.8、より好ましくは0≦x≦0.6、さらに好ましくは0≦x≦0.4を満たし、特に好ましくは0≦x≦0.2を満たし、最も好ましくは0である。なお、Aが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するx(すなわち各元素に関するxに相当する数)の合計数が上記xの範囲内であればよい。Aが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するx(すなわち各元素に関するxに相当する数)のそれぞれは独立して、0.01以上0.5以下、特に0.03以上0.18以下であってもよい。特にAがGaと、Al、Mg、Zn、およびScからなる群(特にAlおよびScからなる群)から選択される1種類以上の元素Axとを組み合わせて含む場合、Gaに関するx(以下、xGaという)およびAxに関するx(以下、xAxという)は、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、以下の範囲内であることが好ましい:
・xGaは0.01以上0.3以下、特に0.03以上0.18以下である;
・xAxは0.01以上0.3以下、特に0.03以上0.18以下である;Axが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するxAx(すなわち各元素に関するxAxに相当する数)の合計数が上記xAxの範囲内であればよい。
yは、βよりも小さい値であり、通常は0≦y≦1.0を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは0≦y≦0.8、より好ましくは0≦y≦0.6、さらに好ましくは0≦y≦0.4を満たし、特に好ましくは0≦y≦0.2を満たし、最も好ましくは0である。なお、BIIが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するy(すなわち各元素に関するyに相当する数)の合計数が上記yの範囲内であればよい。
zは、γ以下の値であり、通常は0≦z≦2.2を満たし、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、好ましくは0≦z≦2.0、より好ましくは0≦z≦1.0、さらに好ましくは0.2≦z≦0.8を満たし、特に好ましくは0.3≦z≦0.6を満たす。なお、DIIが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するz(すなわち各元素に関するzに相当する数)の合計数が上記zの範囲内であればよい。DIIが2種以上の元素を含む場合、各元素に関するz(すなわち各元素に関するzに相当する数)のそれぞれは独立して、0.01以上1.0以下、特に0.05以上0.5以下であってもよい。特にDIIがTaおよびWを含む場合、Taに関するz(以下、zTaという)およびWに関するz(以下、zWという)は、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、以下の範囲内であることが好ましい:
・zTaは0.1以上1.0以下、特に0.2以上0.6以下である;
・zWは0.01以上0.5以下、特に0.08以上0.2以下である。
【0049】
一般式(G)で表されるガーネット型固体電解質の具体例として、例えば、例えば、Li6.6La3(Zr1.6Ta0.4)O12、(Li6.4Ga0.05Al0.15)La3Zr2O12、(Li6.4Al0.2)La3Zr2O12、(Li6.4Ga0.15Sc0.05)La3Zr2O12、Li6.75La3(Zr1.75Nb0.25)O12、Li6.4La3(Zr1.5Ta0.4W0.1)O12、Li6.3La3(Zr1.45Ta0.4W0.15)O12、Li6.53La3(Zr1.53Ta0.4Bi0.07)O12等が挙げられる。
【0050】
固体電解質の化学組成は平均化学組成であってもよい。負極層における固体電解質(特にガーネット型構造を有する固体電解質)の平均化学組成は、負極層の厚み方向における固体電解質の化学組成の平均値を意味する。固体電解質の平均化学組成は、固体電池を破断し、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、負極層の厚み方向全体が収まる視野にてEDXによる組成分析を行うことで分析および測定可能である。
負極層において負極活物質の平均化学組成と固体電解質の平均化学組成とは、上記組成分析において、それらの組成により、区別して測定され得る。
【0051】
負極層の固体電解質は、所定の金属原子を含有する原料化合物を用いること以外、負極活物質と同様の方法により得ることができるし、または市販品として入手することもできる。
【0052】
負極層における固体電解質の化学組成および結晶構造は通常、焼結によってもほとんど変化しない。当該固体電解質は、負極層を正極層および固体電解質層とともに焼結した後の固体電池において、上記した平均化学組成および結晶構造を有していることが好ましい。
【0053】
負極層におけるガーネット型構造を有する固体電解質の体積割合は特に限定されず、負極活物質の利用率のさらなる向上と固体電池の高エネルギー密度化とのバランスの観点から、10%以上50%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であることがより好ましい。
【0054】
負極層におけるガーネット型固体電解質の体積割合は、負極活物質の体積割合と同様の方法により、測定することができる。ガーネット型固体電解質であることは、ガーネット型固体電解質に含まれる元素をEDXなどにて検出し、判定できる。例えば、固体電解質にZrやLaを含む場合、Zrおよび/またはLaがEDXにて検出される部位に基づくものとする。
【0055】
本発明は、負極層が固体電解質としてガーネット型固体電解質以外の他の固体電解質を含むことを妨げるものではない。本発明は、固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、他の固体電解質を含まないことが好ましい。
【0056】
本発明においては、負極層が、上記した負極活物質と上記したガーネット型固体電解質とを組み合わせて含むことにより、負極活物質とガーネット型固体電解質との反応を十分に抑制することができ、結果として、負極活物質の利用率低下を十分に抑制することができる。
【0057】
固体電解質と負極活物質との反応に関するより一層の抑制の観点から、より好ましい実施態様A、さらに好ましい実施態様Bおよび最も好ましい実施態様Cの各々において、負極層は以下に示す負極活物質およびガーネット型固体電解質を組み合わせて含む:
【0058】
・実施態様A
負極活物質A:
上記した負極活物質のうち、上記した一般式(N)と同様の一般式で表される化学組成を有し、かつ高温相Li4WO5型構造の単相構造を有する負極活物質。
負極活物質Aは、換言すると、上記した一般式(N)で表される化学組成を有し、かつ高温相Li4WO5型結晶構造の単相構造を有している負極活物質であってもよい。
ガーネット型固体電解質A:
上記した一般式(G)で表される化学組成を有するガーネット型固体電解質。
【0059】
・実施態様B
負極活物質B:
上記した負極活物質のうち、以下の化学組成を有し、かつ高温相Li4WO5型構造の単相構造を有する負極活物質:
化学組成=α/βが3.8≦α/β≦6.5を満たすこと、およびMがWであること以外、上記した一般式(N)と同様の一般式で表される化学組成。
負極活物質Bは、換言すると、上記した一般式(N)において、α/βが3.8≦α/β≦6.5を満たし、かつMがWである負極活物質であって、高温相Li4WO5型結晶構造の単相構造を有している負極活物質であってもよい。
ガーネット型固体電解質B:
上記したガーネット型固体電解質のうち、以下の化学組成を有するガーネット型固体電解質:
化学組成=条件(s1)を満たすこと以外、上記した一般式(G)と同様の一般式で表される化学組成:
条件(s1):AはGaを含むか、または無し(すなわちx=0)である。例えば、x=0または、前記AがGaを含み0<x≦1.0であってもよい。
ガーネット型固体電解質Bは、換言すると、上記した一般式(G)において、上記の条件(s1)を満たすガーネット型固体電解質であってもよい。
【0060】
・実施態様C
負極活物質C:
上記した負極活物質のうち、以下の化学組成を有し、かつ高温相Li4WO5型構造の単相構造を有する負極活物質:
化学組成=α/βが3.8≦α/β≦6.5を満たすこと、およびMがWであること以外、上記した一般式(N)と同様の一般式で表される化学組成。
負極活物質Cは、換言すると、上記した一般式(N)において、α/βが3.8≦α/β≦6.5を満たし、かつMがWである負極活物質であって、高温相Li4WO5型結晶構造の単相構造を有している負極活物質であってもよい。
ガーネット型固体電解質C:
上記したガーネット型固体電解質のうち、以下の化学組成を有するガーネット型固体電解質。
化学組成=条件(s1)と条件(s2)とを満たすこと以外、上記した一般式(G)と同様の一般式で表される化学組成:
条件(s1):AはGaを含むか、または無し(すなわちx=0)である;例えば、x=0または、前記AがGaを含み0<x≦1.0であってもよい。
条件(s2):DIIはTa(タンタル)およびW(タングステン)を含む。
ガーネット型固体電解質Cは、換言すると、上記した一般式(G)において、上記の条件(s1)および(s2)を満たすガーネット型固体電解質であってもよい。
【0061】
負極層は焼結助剤および/または導電助剤をさらに含んでもよい。
【0062】
負極層が焼結助剤を含むことで、より低温における焼結時においても緻密化が可能となり、負極活物質/固体電解質層界面における元素拡散を抑制することができる。焼結助剤は、固体電池の分野で知られている焼結助剤が使用可能である。負極活物質の利用率のさらなる向上の観点から、発明者らが検討した結果、焼結助剤の組成は、少なくともLi(リチウム)、B(ホウ素)、およびO(酸素)を含み、Bに対するLiのモル比(Li/B)を2.0以上とすることが好ましい。これらの焼結助剤は低融点であり、液相焼結を進行させることでより低温で負極層の緻密化が可能となる。また、上記の組成とすることで、焼結時に焼結助剤とガーネット型固体電解質との副反応がより一層、抑制できる。これらを満たす焼結助剤として、例えば、Li3BO3、(Li2.7Al0.3)BO3、Li2.4Al0.2BO3、Li2.8(B0.8C0.2)O3等があげられる。これらの内、イオン伝導度が特に高いLi2.4Al0.2BO3を用いることが特に好ましい。
【0063】
負極層における焼結助剤の体積割合は特に限定されず、負極活物質の利用率のさらなる向上および固体電池の高エネルギー密度化のバランスの観点から、0.1以上10%以下であることが好ましく、1%以上7%以下であることがより好ましい。
【0064】
負極層における焼結助剤の体積割合は、負極活物質の体積割合と同様の方法により、測定することができる。上記の焼結助剤を使用した場合、EDXでB(ホウ素)を検出し、焼結助剤の領域と判断することができる。
【0065】
負極層において導電助剤は、固体電池の分野で知られている導電助剤が使用可能である。イオン伝導性のさらなる向上およびLiデンドライトの成長のさらなる抑制の観点から、好ましく用いられる導電助剤としては、例えば、Ag(銀)、Au(金),Pd(パラジウム),Pt(白金),Cu(銅)、Sn(錫)、Ni(ニッケル)などの金属材料;およびアセチレンブラック、ケッチェンブラック、Super P(登録商標)、VGCF(登録商標)等のカーボンナノチューブなどの炭素材料等が挙げられる。炭素材料の形状に関しては、特に限定されず、球形、板状、繊維状など、どのような形状のものを使用してもよい。
【0066】
負極層における導電助剤の体積割合は特に限定されず、活物質の利用率のさらなる向上の観点から、10%以上50%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であることがより好ましい。
【0067】
負極層の厚みは通常、2~100μmであり、活物質の利用率のさらなる向上の観点から、好ましくは1~30μmである。負極層の厚みは、SEM画像において任意の10箇所で測定された厚みの平均値を用いている。
【0068】
負極層において、空隙率は特に限定されず、活物質の利用率のさらなる向上の観点から、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0069】
負極層の空隙率は、FIB断面加工後のSEM画像から測定された値を用いている。
【0070】
負極層において、負極活物質および固体電解質(ならびに所望により含まれる導電助剤および焼結助剤)はいずれも焼結体の形態を有していてもよい。例えば、負極層が負極活物質、固体電解質、導電助剤および焼結助剤を含む場合、負極層は、固体電解質、導電助剤および焼結助剤により負極活物質粒子間を結合しつつ、負極活物質粒子、固体電解質、導電助剤および焼結助剤は、それらの間で相互に焼結により接合されている焼結体の形態を有していてもよい。
【0071】
(正極層)
本発明において正極層は特に限定されない。例えば、正極層は正極活物質を含む。正極層は正極活物質粒子を含む焼結体の形態を有していてもよい。
【0072】
正極層は金属イオンを吸蔵放出可能な層であり、好ましくはリチウムイオンを吸蔵放出可能な層である。正極活物質は、特に限定されず、固体電池の分野で知られている正極活物質が使用可能である。正極活物質として、例えば、ナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物粒子、オリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物粒子、リチウム含有層状酸化物粒子、スピネル型構造を有するリチウム含有酸化物粒子等が挙げられる。好ましく用いられるナシコン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、Li3V2(PO4)3等が挙げられる。好ましく用いられるオリビン型構造を有するリチウム含有リン酸化合物の具体例としては、LiFePO4、LiMnPO4等が挙げられる。好ましく用いられるリチウム含有層状酸化物粒子の具体例としては、LiCoO2,LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2等が挙げられる。好ましく用いられるスピネル型構造を有するリチウム含有酸化物の具体例としては、LiMn2O4,LiNi0.5Mn1.5O4、Li4Ti5O12等が挙げられる。正極活物質として、LiCoO2,LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2等のリチウム含有層状酸化物がより好ましく用いられる。なお、これらの正極活物質粒子のうちの1種のみを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。
【0073】
正極層において正極活物質がナシコン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子がナシコン型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりナシコン型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、正極層において正極活物質がナシコン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるナシコン型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。好ましく用いられるナシコン型構造を有する正極活物質としては、上記で例示した化合物が挙げられる。
【0074】
正極層において正極活物質がオリビン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)がオリビン型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりオリビン型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、正極層において正極活物質がオリビン型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるオリビン型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。好ましく用いられるオリビン型構造を有する正極活物質としては、上記で例示した化合物が挙げられる。
【0075】
正極層において正極活物質がスピネル型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)がスピネル型の結晶構造を有するという意味であり、広義には、固体電池の分野の当業者によりスピネル型の結晶構造と認識され得る結晶構造を有することをいう。狭義には、正極層において正極活物質がスピネル型構造を有するとは、当該正極活物質(特にその粒子)は、X線回折において、いわゆるスピネル型の結晶構造に固有のミラー指数に対応する1つ以上の主要なピークを所定の入射角度において示すことを意味する。好ましく用いられるスピネル型構造を有する正極活物質としては、上記で例示した化合物が挙げられる。
【0076】
正極活物質の化学組成は平均化学組成であってもよい。正極活物質の平均化学組成は、正極層の厚み方向における正極活物質の化学組成の平均値を意味する。正極活物質の平均化学組成は、固体電池を破断し、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、正極層の厚み方向全体が収まる視野にてEDXによる組成分析を行うことで分析および測定可能である。
【0077】
正極活物質は、所定の金属原子を含有する原料化合物を用いること以外、負極活物質と同様の方法により得ることができるし、または市販品として入手することもできる。
【0078】
正極層における正極活物質の化学組成および結晶構造は通常、焼結によってもほとんど変化しない。正極活物質は、正極層を負極層および固体電解質層とともに焼結した後の固体電池において、上記した化学組成および結晶構造を有していてもよい。
【0079】
正極活物質の平均粒径は、特に限定されず、例えば、0.01μm以上、10μm以下であってもよく、好ましくは0.05μm以上、4μm以下である。
【0080】
正極活物質の平均粒径は、負極層における負極活物質の平均粒径と同様の方法により求めることができる。
【0081】
正極層における正極活物質の平均粒径は、製造時において使用された正極活物質の平均粒径がそのまま反映される。特に、正極粒子にLCOを使用した場合はそのまま反映される。
【0082】
正極層における正極活物質の粒子形状は、特に限定されず、例えば、球状形状、扁平形状、不定形状いずれの粒子形状であってもよい。
【0083】
正極層における正極活物質の体積割合は特に限定されず、30%以上90%以下であることが好ましく、40%以上70%以下であることがより好ましい。
【0084】
正極層は、正極活物質に加え、例えば、固体電解質、焼結助剤および/または導電助剤等をさらに含んでいてもよい。
【0085】
正極層に含まれる固体電解質の種類は特に限定されない。正極層に含まれる固体電解質として、例えば、ガーネット型構造を有する固体電解質(Li6.4Ga0.2)La3Zr2O12、Li6.4La3(Zr1.6Ta0.4)O12、(Li6.4Al0.2)La3Zr2O12、Li6.5La3(Zr1.5Mo0.25)O12、LISICON型構造を有する固体電解質Li3+x(V1-xSix)O4、ぺロブスカイト型構造を有する固体電解質La2/3-xLi3xTiO3、アモルファス構造を有する固体電解質Li3BO3-Li4SiO4等が挙げられる。このうち、ガーネット型構造を有する固体電解質、LISICON型構造を有する固体電解質を用いることが特に好ましい。
【0086】
正極層の固体電解質は、所定の金属原子を含有する原料化合物を用いること以外、負極活物質と同様の方法により得ることができるし、または市販品として入手することもできる。
【0087】
正極層における固体電解質の化学組成および結晶構造は通常、焼結によってもほとんど変化しない。当該固体電解質は、正極層を負極層および固体電解質層とともに焼結した後の固体電池において、上記した平均化学組成および結晶構造を有していてもよい。
【0088】
正極層における固体電解質の体積割合は特に限定されず、固体電池の高エネルギー密度化のバランスの観点から、20%以上60%以下であることが好ましく、30%以上45%以下であることがより好ましい。
【0089】
正極層における焼結助剤としては、負極層における焼結助剤と同様の化合物が使用可能である。
【0090】
正極層における焼結助剤の体積割合は特に限定されず、固体電池の高エネルギー密度化のバランスの観点から、0.1%以上20%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。
【0091】
正極層における導電助剤としては、負極層における導電助剤と同様の化合物が使用可能である。
【0092】
正極層における導電助剤の体積割合は特に限定されず、固体電池の高エネルギー密度化のバランスの観点から、10%以上50%以下であることが好ましく、20%以上40%以下であることがより好ましい。
【0093】
正極層において、空隙率は特に限定されず、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0094】
正極層の空隙率は、負極層の空隙率と同様の方法により測定された値を用いている。
【0095】
(固体電解質層)
本発明において固体電解質層は特に限定されない。固体電解質層は、負極活物質との焼成時の副反応をより一層、抑制し、活物質の利用率のさらなる向上の観点から、ガーネット型構造を有する固体電解質を含むことが好ましい。固体電解質層は、当該固体電解質を含む焼結体の形態を有していてもよい。
【0096】
固体電解質層に含まれるガーネット型固体電解質は、負極層に含まれるガーネット型構造を有する固体電解質と同様であり、負極層の説明で記載したガーネット型構造を有する固体電解質と同様の範囲内から選択されてもよい。固体電解質層および負極層が共に、ガーネット型構造を有する固体電解質を含む場合、固体電解質層に含まれるガーネット型構造を有する固体電解質と、負極層に含まれるガーネット型構造を有する固体電解質とは、同じ化学組成を有していてもよいし、または相互に異なる化学組成を有していてもよい。
【0097】
固体電解質層に含まれるガーネット型固体電解質は、ガーネット型結晶構造を有する限り特に限定されず、例えば、負極層に含まれるガーネット型固体電解質と同様に、上記した一般式(G)で表される化学組成の範囲内の化学組成を有することが好ましい。固体電解質層が当該化学組成を有する固体電解質を含むことで、負極層と固体電解質層の界面領域での負極活物質の利用率のさらなる向上を達成することができる。
【0098】
固体電解質層において固体電解質の化学組成は平均化学組成であってもよい。固体電解質層における固体電解質(特にガーネット型構造を有する固体電解質)の平均化学組成は、固体電解質層の厚み方向における固体電解質の化学組成の平均値を意味する。固体電解質の平均化学組成は、固体電池を破断し、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、固体電解質層の厚み方向全体が収まる視野にてEDXによる組成分析を行うことで分析および測定可能である。
【0099】
固体電解質層における固体電解質の化学組成および結晶構造は通常、焼結によってもほとんど変化しない。当該固体電解質は、固体電解質層を負極層および正極層とともに焼結した後の固体電池において、上記した化学組成および結晶構造を有していてもよい。
【0100】
固体電解質層における固体電解質の体積割合は特に限定されず、10%以上100%以下であることが好ましく、20%以上100%以下であることがより好ましく、30%以上100%以下であることがさらに好ましい。
【0101】
固体電解質層における固体電解質の体積割合は、負極層における固体電解質の体積割合と同様の方法により、測定することができる。
【0102】
固体電解質層は、固体電解質に加え、例えば、焼結助剤等をさらに含んでいてもよい。負極層または固体電解質層の少なくとも一方、好ましくは両方は、焼結助剤をさらに含むことが好ましい。負極層または固体電解質層の少なくとも一方は焼結助剤をさらに含むとは、負極層または固体電解質層の一方が焼結助剤をさらに含んでもよいし、またはそれらの両方が焼結助剤をさらに含んでもよいことを意味する。
【0103】
固体電解質層における焼結助剤としては、負極層における焼結助剤と同様の化合物が使用可能である。
【0104】
固体電解質層における焼結助剤の体積割合は特に限定されず、負極活物質の利用率のさらなる向上および固体電池の高エネルギー密度化のバランスの観点から、0.1%以上20%以下であることが好ましく、1%以上10%以下であることがより好ましい。
【0105】
固体電解質層の厚みは通常、0.1μm以上30μm以下であり、固体電解質層の薄型化の観点から、好ましくは1μm以上20μm以下である。
【0106】
固体電解質層の厚みは、SEM画像において任意の10箇所で測定された厚みの平均値を用いている。
【0107】
固体電解質層において、空隙率は特に限定されず、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0108】
固体電解質層の空隙率は、負極層の空隙率と同様の方法により測定された値を用いている。
【0109】
本発明の固体電池は、正極集電層、負極集電層、保護層、端面電極等のような、従来の固体電池が有し得るあらゆる部材をさらに有していてもよい。
【0110】
[固体電池の製造方法]
固体電池は、例えば、いわゆるグリーンシート法、印刷法またはこれらの方法を組み合わせた方法によって、製造することができる。
【0111】
グリーンシート法について説明する。
まず、正極活物質に対して、溶剤、バインダ等を適宜混合することにより、ペーストを調製する。そのペーストをシートの上に塗布し、乾燥させることにより正極層を構成するための第1のグリーンシートを形成する。第1のグリーンシートに、固体電解質、導電助剤および/または焼結助剤等を含ませてもよい。
【0112】
負極活物質に対して、固体電解質、溶剤、バインダ等を適宜混合することにより、ペーストを調製する。そのペーストをシートの上に塗布し、乾燥させることにより負極層を構成するための第2のグリーンシートを形成する。第2のグリーンシートに、導電助剤および/または焼結助剤等を含ませてもよい。
【0113】
固体電解質に対して、溶剤、バインダ等を適宜混合することにより、ペーストを調製する。そのペーストを塗布し、乾燥させることにより、固体電解質層を構成するための第3のグリーンシートを作製する。第3のグリーンシートに、焼結助剤等を含ませてもよい。
【0114】
第1~第3グリーンシートを作製するための溶剤およびバインダは特に限定されない。溶剤としては、例えば、固体電池の分野で、正極層、負極層または固体電解質層の製造に使用され得る溶剤が使用される。溶剤の具体例としは通常、後述のバインダを使用可能な溶剤が使用される。そのような溶剤として、例えば、2-プロパノール等のアルコール等が挙げられる。バインダとしては、例えば、固体電池の分野で、正極層、負極層または固体電解質層の製造に使用され得るバインダが使用される。そのようなバインダの具体例として、例えば、ブチラール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。
【0115】
次に、第1~第3のグリーンシートを適宜積層することにより積層体を作製する。作製した積層体をプレスしてもよい。好ましいプレス方法としては、静水圧プレス法等が挙げられる。その後、積層体を、例えば300℃以上500℃以下の温度に加熱してバインダを除去した後、600~900℃で焼結することにより固体電池を得ることができる。
【0116】
印刷法について説明する。印刷は塗布を含む概念で用いるものとする。
印刷法は、以下の事項以外、グリーンシート法と同様である。
・溶剤および樹脂の配合量がインクとしての使用に適した配合量とすること以外、グリーンシートを得るための各層のペーストの組成と同様の組成を有する各層のインクを調製する。
・各層のインクを用いて印刷および積層し、積層体を作製する。
【0117】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【実施例】
【0118】
<実験例1>
(ガーネット型固体電解質の製造)
水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)、水酸化ランタン(La(OH)3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)を含む原料を、固体電解質の組成が表1に示す組成となるように秤量した。次に、水を添加し、100mlのポリエチレン製ポリポットに封入して、ポット架上で150rpmにて、16時間回転させ、原料を混合した。なお、また、Li源である水酸化リチウム一水和物LiOH・H2Oは焼結時のLi欠損を考慮し、狙い組成に対し、3質量%過剰に仕込んだ。次に、得られたスラリーを乾燥させた後に、酸素ガス中で900℃で5時間仮焼結した。その後、得られた仮焼結物にトルエン-アセトンの混合溶媒を添加し、遊星ボールミルにて6時間粉砕した後に、乾燥させ、表1に示す組成の固体電解質粉末を得た。
【0119】
(ナシコン型固体電解質の製造)
炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ゲルマニウム(GeO2)、リン酸二水素アンモニウム((NH4)H2PO4)を含む原料を固体電解質の組成が表1に示す組成となるように秤量し、乳鉢にてよく混合した。混合物を大気雰囲気下で400℃で二時間仮焼した。仮焼粉に水を添加し、100mlのポリエチレン製ポリポットに封入して、ポット架上で150rpmにて、16時間回転させ、仮焼粉を粉砕した。次に、得られたスラリーを乾燥させた後に、酸素ガス中で850℃で5時間仮焼結した。その後、得られた仮焼結物にトルエン-アセトンの混合溶媒を添加し、遊星ボールミルにて6時間粉砕した後に、乾燥させ、表1に示す組成の固体電解質粉末を得た。
【0120】
(電極活物質の製造)
炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化タングステン(WO3)を含む原料を負極活物質の組成が表1に示すLi/W比率となるように秤量し、乳鉢にてよく混合した。なお、実施例3に関しては、Li/W比率が6.0となるように秤量した。次に、エタノールを添加し、100mlのポリエチレン製ポリポットに封入して、ポット架上で150rpmにて、16時間回転させ、原料を混合した。得られたスラリーを乾燥させた後、大気中、以下の条件で焼結を行った。比較例1,2,実施例2の負極活物質は650℃で5時間焼結した。比較例4、実施例1、3の負極活物質は750℃、5時間焼結した。その後、得られた焼結物にトルエン-アセトンの混合溶媒を添加し、遊星ボールミルにて6時間粉砕した後に、乾燥させ、表1に示す負極活物質粉末を得た。なお、比較例3に示す組成の電極活物質(純度99%以上)は市販品として入手したものを遊星ボールミルにて6時間粉砕した後に、乾燥させることで得た。
【0121】
(実施例1~3および比較例1~4)
表1に記載の固体電解質と電極活物質とを混合し、800℃で焼結した試料をXRD法により分析し、固体電解質および電極活物質の分解の有無を評価した。
焼結後に固体電解質および電極活物質の両方、もしくはいずれか一方に由来するピークが観測されなかった場合を「分解あり」、焼結後に固体電解質および電極活物質の両方に由来するピークが観測された場合は「分解なし」とした。
【0122】
図1には、比較例1および実施例1の焼結後のXRDパターンならびに固体電解質または電極活物質の一方の焼結後のXRDパターンを示した。
比較例1から、Li/W比率が2の電極活物質を用いた場合は、焼結後にガーネット型固体電解質に由来するピークが完全に消失し、焼結時に固体電解質が分解していることがわかった。Li/W比率が2以下の活物質を用いた場合は、焼結時にガーネット型固体電解質が分解していることがわかった(表1)。比較例1のように、Li/W比が2である負極活物質を用いた場合は、焼結により、固体電解質(LLZ)の分解が進行し、イオン伝導度のないLa
2Zr
2O
7が生成したものと考えられる。
【0123】
実施例1から、Li/W比率が2超(例えば4)の電極活物質を用いた場合は、焼結後に電極活物質とガーネット型固体電解質の両方に由来するピークが観測され、両者間での副反応が進行しにくいことがわかった。実施例1のように、Li/W比が2超(例えば4)である負極活物質を用いた場合は、焼結によっても、負極活物質および固体電解質(LLZ)ともに残存していることがわかった。焼結時に副反応が進行し難いため、良好な充放電特性が得られやすい。
【0124】
以上から、Li/W比率が2より大きい電極活物質を用いた場合は、ガーネット型固体電解質との焼結時の副反応が極端に抑制できることがわかった。
比較例4から、固体電解質にNASICON型固体電解質を用いた場合は、Li/W比率が2より大きい電極活物質を用いた場合でも反応が進行することがわかった。
従って、本発明の効果は、Li/W比率が2より大きい電極活物質とガーネット型固体電解質との組み合わせにて得られることがわかった。
【0125】
【0126】
表1において、特に「高温相Li4WO5」は「高温相Li4WO5型結晶構造の単相構造」を意味する。なお、結晶構造は、X線回折(CuKα線を用いたXRD)において、各結晶構造に固有のピークおよびその強度に基づいて、前記した方法により判断した。以下の表2および表3においても同様である。
【0127】
<実験例2>
(ガーネット型固体電解質の製造)
ガーネット型固体電解質の組成が表2に示す組成となるように、原料の選択および秤量を行ったこと以外、実験例1におけるガーネット型固体電解質の製造方法と同様の方法により、表2に示す組成の固体電解質粉末を得た。原料は、実験例1の「ガーネット型固体電解質の製造」に記載の原料と同様の原料に加え、酸化ガリウム(Ga2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化スカンジウム(Sc2O3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO3)、酸化ビスマス(Bi2O3)を用いた。
【0128】
(負極活物質の製造)
炭酸リチウム(Li2CO3)、酸化タングステン(WO3)、酸化モリブテン(MoO3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化マグネシウム(MgO)を含む原料を負極活物質の組成が表2に示す元素比率となるように秤量した。なお、実施例6に関しては、Li/W比率が3.7となるように秤量した。実施例7に関しては、Li/W比率が6.0となるように秤量した。実施例11に関しては、Li/W比率が4.4となるように秤量した。次に、エタノールを添加し、100mlのポリエチレン製ポリポットに封入して、ポット架上で150rpmにて、16時間回転させ、原料を混合した。得られたスラリーを乾燥させた後に、大気中、以下の条件で焼結を行った。比較例5,6,実施例5,6の負極活物質は650℃で5時間焼結した。比較例4、実施例4、7、8、9、10、11、12の負極活物質は750℃、5時間焼結した。その後、得られた焼結物にトルエン-アセトンの混合溶媒を添加し、遊星ボールミルにて6時間粉砕した後に、乾燥させ、表1に示す負極活物質粉末を得た。なお、比較例7に示す組成の電極活物質(純度99%以上)は市販品として入手したものを遊星ボールミルにて6時間粉砕した後に、乾燥させることで得た。
【0129】
(固体電解質層(ガーネット型固体電解質基板)の製造)
ガーネット型固体電解質の組成が「(Li6.4Ga0.05Al0.15)La3Zr2O12」となるように、原料の選択および秤量を行ったこと以外、実験例1におけるガーネット型固体電解質の製造方法と同様の方法により、「(Li6.4Ga0.05Al0.15)La3Zr2O12」組成のガーネット型固体電解質粉末を得た。
得られたガーネット型固体電解質の粉末、ブチラール樹脂、アルコールを、200:15:140の質量比率で混合した後、80℃のホットプレート上でアルコールを除去し、バインダとなるブチラール樹脂で被覆された固体電解質粉末を得た。次に、ブチラール樹脂で被覆された固体電解質粉末を錠剤成型機を用いて90MPaでプレスしてタブレット状に成型した。得られた固体電解質のタブレットを、マザーパウダーで十分に覆い、酸素雰囲気下、500℃の温度で焼結することにより、ブチラール樹脂を除去した後、酸素雰囲気下、約1200℃で3時間焼結した。その後、降温することで固体電解質の焼結体を得た。得られた焼結体の表面を研磨することにより、ガーネット型固体電解質基板(固体電解質層)を得た。
【0130】
(焼結助剤粉末の製造)
水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O、酸化ホウ素B2O3、酸化アルミニウムAl2O3を適宜秤量し、乳鉢にて混合した後、650℃で5時間仮焼結した。得られた仮焼結粉を乳鉢で粉砕、混合した後、680℃で40時間本焼結した。得られた本焼結粉にトルエン-アセトンの混合溶媒を添加し、遊星ボールミルを用いて6時間粉砕し、乾燥させることにより、組成式Li2.4Al0.2BO3で表される焼結助剤粉末を作製した。
【0131】
(実施例4~12および比較例5~7:固体電池の製造)
表2に記載の固体電解質粉末および負極活物質粉末、焼結助剤粉末、ならびに導電助剤粉末(Ag粒子)を、体積比で、35:30:5:30となるように秤量し、アルコール、バインダと混練することで、負極層ペーストを作製した。次に、負極層ペーストを固体電解質層(すなわち固体電解質基板)の上に塗布し、乾燥させて積層体を得た。その積層体を400℃に加熱することによりバインダを除去した後、大気雰囲気下、800℃で2時間熱処理することにより、固体電解質層および負極層の積層体を作製した。その後、積層体の固体電解質層における負極層側表面とは反対側の表面上に対極兼参照電極として金属リチウムを貼付したものを2032型のコインセルで封止することにより固体電池を製造した。
【0132】
(固体電池の評価;負極活物質の利用率)
各比較例及び各実施例において作製した固体電池に対して25℃にて以下の内容で評価を行った。
充電は定電流定電位充電とし、充電下限電位は0.2V(vs.Li/Li+)とした。充電終了条件は、充電電流が0.02Cに減衰した時点とした。放電は定電流放電とし、放電終了電位は3.0V(vs.Li/Li+)とした。充電および放電電流の定電流値は0.1Cとした。測定された初期可逆容量および初期可逆容量の理論値から負極活物質の利用率を以下の式に基づいて算出するとともに、以下の基準に従って評価した。なお、初期可逆容量の理論値は、Wに対して2電子反応進行した際の電気量とした。また、本発明でいう充電は、負極活物質にリチウムイオンを挿入する還元反応に対応し、放電は負極活物質からリチウムイオンを脱離する酸化反応に対応している。
【0133】
【0134】
◎◎;80%以上(最良);
◎;72%以上80%未満(優良);
○;60%以上72%未満(良);
△;50%以上60%未満(実用上問題なし);
×;50%未満(実用上問題あり)。
【0135】
図2Aおよび
図2Bの説明
図2Aおよび
図2Bはそれぞれ、実施例4および比較例2で作製した固体電池の充放電曲線を示す。
図2Bの充放電曲線から、比較例2においては、利用率が5%程度以下であり、充放電が不可であった。一方で、
図2Aの充放電曲線から、実施例4では、0.2V~3.0V(vs.Li/Li+)の電位範囲にて高温相Li4WO5へのLi挿入・脱挿入反応に由来する容量成分が観測され、固体電池として機能していることがわかる。
【0136】
Li/W比率が2以下の負極活物質を用いた場合の負極活物質の利用率はいずれも5%以下であった。これは、実験例1から、(1)焼結時に負極活物質とガーネット型固体電解質との間で副反応が生じ、負極活物質が失活したこと、および/または(2)固体電解質が分解することで電極合材中のイオンパスが形成されなかったことが原因であるものと考えられる。
Li/W比率が2超(例えば4以上)の負極活物質を用いることで、固体電池の充放電が可能となることがわかった。特に、負極活物質の結晶構造が高温相Li4WO5構造をとることで、高い可逆容量が得られることがわかった。
【0137】
【0138】
<実験例3>
(実施例13~19:固体電池の製造)
負極活物質および固体電解質を表3に示す組成としたこと以外、実験例2と同様の方法により、固体電池を製造した。なお、負極活物質の焼成条件は、実施例4と同様の条件で行った。
【0139】
(固体電池の評価;負極活物質の利用率)
実験例2と同様の方法により、負極活物質の利用率を算出および評価した。
【0140】
固体電解質がガーネット型の結晶構造を有していれば、いずれの組成の固体電解質を用いても、固体電池が良好に作動可能であることが分かった。
ガーネット型固体電解質がWを含むことで、より高い利用率が得られ、好ましいことがわかった。
【0141】
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の固体電池は、電池使用または蓄電が想定される様々な分野に利用することができる。あくまでも例示にすぎないが、本発明の一実施形態に係る固体電池は、エレクトロニクス実装分野で用いることができる。本発明の一実施形態に係る固体電池はまた、モバイル機器などが使用される電気・情報・通信分野(例えば、携帯電話、スマートフォン、スマートウォッチ、ノートパソコンおよびデジタルカメラ、活動量計、アームコンピューター、電子ペーパー、ウェアラブルデバイス、RFIDタグ、カード型電子マネー、スマートウォッチなどの小型電子機などを含む電気・電子機器分野あるいはモバイル機器分野)、家庭・小型産業用途(例えば、電動工具、ゴルフカート、家庭用・介護用・産業用ロボットの分野)、大型産業用途(例えば、フォークリフト、エレベーター、湾港クレーンの分野)、交通システム分野(例えば、ハイブリッド車、電気自動車、バス、電車、電動アシスト自転車、電動二輪車などの分野)、電力系統用途(例えば、各種発電、ロードコンディショナー、スマートグリッド、一般家庭設置型蓄電システムなどの分野)、医療用途(イヤホン補聴器などの医療用機器分野)、医薬用途(服用管理システムなどの分野)、ならびに、IoT分野、宇宙・深海用途(例えば、宇宙探査機、潜水調査船などの分野)などに利用することができる。