(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】走査型プローブ顕微鏡およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01Q 30/04 20100101AFI20250121BHJP
【FI】
G01Q30/04
(21)【出願番号】P 2023551051
(86)(22)【出願日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2022014201
(87)【国際公開番号】W WO2023053535
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2021158202
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井 浩
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】森口 志穂
(72)【発明者】
【氏名】中野 智陽
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-191804(JP,A)
【文献】特開平8-160058(JP,A)
【文献】特開2000-180339(JP,A)
【文献】特開平8-094645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q10/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に載置された試料を含む観察視野の画像データを取得する観察装置と、
前記観察装置により取得された前記画像データを補正するデータ処理部とを備え、
前記画像データは、前記基板の表面に水平に延在する平面上の各位置における高さを示す複数の測定データを含み、
前記データ処理部は、
前記複数の測定データについて、前記高さの分布のヒストグラムを作成し、
前記ヒストグラムにおいて最頻値となる高さを、前記観察視野の高さ方向の基準点に設定し、かつ、
設定された前記基準点に基づいて、各前記複数の測定データの高さを補正
し、
前記データ処理部は、前記ヒストグラムにおいて、前記最頻値より大きい階級の累積相対度数を算出するように構成され、
前記データ処理部は、前記累積相対度数が予め設定された閾値より小さいときに、前記最頻値となる高さを前記基準点に設定する、走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記画像データの補正の実行指示を受け付ける入力手段をさらに備え、
前記データ処理部は、前記実行指示を受け付けた場合に、前記ヒストグラムを作成する、請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記観察装置は、探針が設けられたカンチレバーの変位量が目標値となるように前記探針と前記試料の表面との間隔をフィードバック制御するとともに、前記探針で前記観察視野を走査することによって、前記画像データを取得するように構成され、
前記画像データは、前記観察視野の各位置における前記変位量および、前記変位量と前記目標値との偏差の少なくとも一方によって得られる画像データである、請求項1
または2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載のデータ処理部を有するコンピュータを用いて、前記画像データを補正するためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、走査型プローブ顕微鏡およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2000-275159号公報(特許文献1)には、カンチレバーの先端に探針を設け、試料に対して探針を接近させて試料表面の情報を取得する走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)が開示される。この走査型プローブ顕微鏡は、取得した情報に基づいて画像データを生成し、試料表面の観察画像を該画像データに基づいて表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
画像データは、試料表面の各位置における高さを示す値を含んでいる。この高さは、試料を載置する基板上の各位置における表面の高さに対応し、そのうち試料が存在する位置では試料を含む高さに対応している。試料が粉体試料である場合には、画像データに含まれる高さの値に基づいて、基板表面に載置されている粒子を抽出することができる。
【0005】
しかしながら、基板の表面にキズなどにより凹部が形成されている場合、この凹部の高さを基準として試料表面の各位置における高さを求めると、基板上の隆起などの凸部を誤って粒子として抽出してしまう可能性がある。その結果、基板表面に存在する粒子を正確に抽出することが困難となることが懸念される。
【0006】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、走査型プローブ顕微鏡により得られた画像データから観察対象領域内の粒子を正確に抽出することができる走査型プローブ顕微鏡およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る走査型プローブ顕微鏡は、基板に載置された試料を含む観察視野の画像データを取得する観察装置と、観察装置により取得された画像データを補正するデータ処理部とを備える。画像データは、基板の表面に水平に延在する平面上の各位置における高さを示す複数の測定データを含む。データ処理部は、複数の測定データについて、高さの分布のヒストグラムを作成する。データ処理部は、ヒストグラムにおいて最頻値となる高さを、観察視野の高さ方向の基準点に設定し、かつ、設定された基準点に基づいて、各複数の測定データの高さを補正する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、走査型プローブ顕微鏡により得られた画像データから観察対象領域内の粒子を正確に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡の構成を概略的に示す図である。
【
図2】情報処理装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図3】走査型プローブ顕微鏡にて実行される画像データの取得処理の手順を説明するためのフローチャートである。
【
図4】画像データの処理条件を設定するための設定画面の一例を模式的に示す図である。
【
図5】粒子解析の処理条件を設定するための設定画面の一例を模式的に示す図である。
【
図6A】基板上に載置された粉体試料の画像データを示す図である。
【
図6B】基板上に載置された粉体試料の高さの分布を示すヒストグラムを示す図である。
【
図7】
図6Aの画像データから抽出されたデータを示す画像である。
【
図8】画像データのゼロ点調整処理を説明するための図である。
【
図9】ゼロ点調整処理によりZ値が補正された画像データにおける高さの分布を示すヒストグラムである。
【
図10】
図6Aの画像データから抽出されたデータを示す画像である。
【
図11】画像データを処理および抽出する工程の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【
図12】画像データを処理および抽出する工程の処理手順の変更例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0011】
[走査型プローブ顕微鏡の構成]
図1は、実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡(SPM:Scanning Probe Microscope)の構成を概略的に示す図である。本実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡100は、代表的には、プローブ(探針)3と試料Sの表面との間に働く原子間力(引力または斥力)を利用して試料Sの表面の形状を観察する原子間力顕微鏡(AFM:Automatic Force Microscope)である。その他の走査型プローブ顕微鏡、例えば走査型トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope)にも本開示を同様に適用することができる。
【0012】
図1を参照して、試料Sは、硬くて平らな基板15の表面に固定されている。本実施の形態では、試料Sを、微粒子から構成される粉体試料であるとする。なお、試料Sは、粉体を含む試料であればよく、例えば粉体を含有する液体試料であってもよい。基板15は、ガラス、マイカ(雲母)、シリコンウェハなどで形成されている。本実施の形態に係る走査型プローブ顕微鏡100は、粉体試料の粒子解析などに用いることができる。
【0013】
走査型プローブ顕微鏡100は、主たる構成要素として、観察装置10と、情報処理装置20と、表示装置30と、入力装置40とを備える。観察装置10は、主たる構成要素として、光学系1と、カンチレバー2と、スキャナ12と、試料保持部14と、XY方向駆動部16と、Z方向駆動部18と、フィードバック信号発生部22と、走査信号発生部24とを有する。
【0014】
スキャナ12は、円筒形状を有しており、試料Sと探針3との相対的な位置関係を変化させるための移動装置である。試料Sを載置した基板15は、スキャナ12上に設けられた試料保持部14によって保持される。スキャナ12は、試料Sを、試料保持部14の上面に平行な面内で互いに直交するX,Yの2軸方向に移動させるXYスキャナ12xyと、試料SをX軸およびY軸に対して直交するZ軸方向に微動させるZスキャナ12zとを有する。XYスキャナ12xyは、XY方向駆動部16から印加される電圧によって変形する圧電素子を有する。Zスキャナ12zは、Z方向駆動部18から印加される電圧によって変形する圧電素子を有する。なお、XYスキャナ12xyおよびZスキャナ12zは、圧電素子に限定されるものではない。
【0015】
カンチレバー2は、板ばね状に形成されており、その一方端がホルダ4によって支持されている。カンチレバー2の他方端は自由端であり、試料SのZ軸方向の上方に配置されている。カンチレバー2は、試料Sと対向する表面と、表面と反対側の裏面とを有する。カンチレバー2の自由端の先端部の表面には、試料Sに対向するように探針3が配置されている。当該先端部の裏面には、光を反射する反射面が設けられている。探針3の反対側探針3と試料Sとの間に働く原子間力によって、カンチレバー2の先端部がZ軸方向に変位する。
【0016】
カンチレバー2のZ軸方向の上方には、カンチレバー2の撓み量(すなわち、先端部の変位量)を検出するための光学系1が設けられている。光学系1は、試料Sの観察時にレーザ光をカンチレバー2の裏面(反射面)に照射し、当該反射面で反射されたレーザ光を検出する。具体的には、光学系1は、レーザ光源6と、ビームスプリッタ5と、反射鏡7と、光検出器8とを有する。
【0017】
レーザ光源6は、レーザ光を発射するレーザ発振器を有する。光検出器8は、入射されたレーザ光を検出するフォトダイオードを有する。レーザ光源6から発射されたレーザ光LAは、ビームスプリッタ5で反射され、カンチレバー2の裏面(反射面)に照射される。カンチレバー2の裏面で反射されたレーザ光は、さらに反射鏡7によって反射されて光検出器8に入射する。
【0018】
光検出器8は、カンチレバー2のZ軸方向(変位方向)に複数(通常2つ)に分割された受光面を有する。あるいは、光検出器8は、Z軸方向およびY軸方向に4分割された受光面を有する。カンチレバー2の先端部がZ軸方向に変位すると、複数の受光面に照射される光量の割合が変化することから、その複数の受光光量に基づいて、カンチレバー2の撓み量(変位量)を検出することができる。
【0019】
フィードバック信号発生部22は、光検出器8から与えられる検出信号を演算処理することによって、カンチレバー2の撓み量を算出する。フィードバック信号発生部22は、探針3と試料Sとの間の原子間力が常に一定になるように試料SのZ方向位置を制御する。具体的には、フィードバック信号発生部22は、算出したカンチレバー2の撓み量と目標値との偏差Sdを算出し、偏差SdがゼロになるようにZスキャナ12zを駆動するための制御量を算出する。フィードバック信号発生部22は、この制御量に対応してZスキャナ12zを変位させるための電圧値Vzを算出する。フィードバック信号発生部22は、電圧値Vzを示す信号をZ方向駆動部18に出力する。Z方向駆動部18は、電圧値VzをZスキャナ12zに印加する。
【0020】
走査信号発生部24は、予め設定された走査条件に従って、試料Sが探針3に対してX軸およびY軸方向に相対移動するように、X軸方向の電圧値VxおよびY軸方向の電圧値Vyを算出する。走査信号発生部24は、算出した電圧値Vx,Vyを示す信号をXY方向駆動部16に出力する。XY方向駆動部16は、電圧値Vx,VyをXYスキャナ12xyに印加する。なお、走査条件は、XY平面における走査範囲(すなわち、観察視野)および走査速度に関する情報を含んでいる。
【0021】
情報処理装置20は、主として観察装置10の動作を制御するものであり、データ処理部26と、記憶部28とを有する。
【0022】
Z軸方向のフィードバック量(Zスキャナ12zへの印加電圧Vzおよび偏差Sd)を示す信号はZ軸方向駆動部18からデータ処理部26に送られるとともに、記憶部28に記憶される。データ処理部26は、予め記憶部28に記憶されている電圧Vzとそれに対応した試料SのZ軸方向の変位量との関係を示す相関情報に基づいて、電圧Vzから試料SのZ軸方向の変位量を算出する。算出された変位量は、試料SのZ軸方向の位置を示す値(以下、「Z値」とも称する)を反映したものとなる。データ処理部26は、走査範囲におけるX軸およびY軸方向の各位置において、試料SのZ軸方向の変位量を算出することにより、試料Sの表面の形状を表す3次元の画像データを作成する。
【0023】
この画像データは、XY平面上の各位置におけるZ軸方向の位置を示す値(Z値)を含んでいる。なお、Z値は、基板15上の各位置における表面の高さに対応し、そのうち試料Sが存在する位置では試料Sを含む高さに対応している。データ処理部26は、作成した画像データを表示装置30に表示するとともに、記憶部28に記憶する。
【0024】
[情報処理装置のハードウェア構成]
図2は、情報処理装置20のハードウェア構成例を示す図である。
図2を参照して、情報処理装置20は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)160と、ROM(Read Only Memory)162と、RAM(Random Access Memory)164と、HDD(Hard Disk Drive)166と、通信I/F(Interface)168と、表示I/F170と、入力I/F172とを有する。各構成要素はデータバスによって相互に接続されている。なお、情報処理装置20のハードウェア構成のうち少なくとも一部分は、観察装置10の内部にあってもよい。あるいは、情報処理装置20は、走査型プローブ顕微鏡100とは別体として構成し、走査型プローブ顕微鏡100との間で双方向に通信を行なうように構成してもよい。
【0025】
通信I/F168は、観察装置10と通信するためのインターフェイスである。表示I/F170は、表示装置30と通信するためのインターフェイスである。入力I/F172は、入力装置40と通信するためのインターフェイスである。
【0026】
ROM162は、CPU160にて実行されるプログラムを格納する。RAM164は、CPU160におけるプログラムの実行により生成されるデータ、および通信I/F168を経由して入力されるデータを一時的に格納することができる。RAM164は、作業領域として利用される一時的なデータメモリとして機能し得る。HDD166は、不揮発性の記憶装置である。HDD166に代えて、フラッシュメモリなどの半導体記憶装置を採用してもよい。
【0027】
ROM162に格納されているプログラムは、記憶媒体に格納されて、プログラムプロダクトとして流通されてもよい。または、プログラムは、情報提供事業者によって、いわゆるインターネットなどによりダウンロード可能なプロダクトプログラムとして提供されてもよい。情報処理装置20は、記憶媒体またはインターネットなどにより提供されたプログラムを読み取る。情報処理装置20は、読み取ったプログラムを所定の記憶領域(例えばROM162)に記憶する。CPU160は、当該プログラムを実行することにより、後述する画像データの取得処理を実行することができる。
【0028】
表示装置30は、画像データの取得条件を設定するための設定画面を表示することができる。また、画像データの取得中、表示装置30は、情報処理装置20にて作成された画像データおよび、この画像データを処理して得られたデータを表示することができる。
【0029】
入力装置40は、ユーザ(例えば、分析者)からの情報処理装置20に対する指示を含む入力を受け付ける。入力装置40は、キーボード、マウスおよび、表示装置30の表示画面と一体的に構成されたタッチパネルなどを含み、画像の取得条件などを受け付ける。
【0030】
[走査型プローブ顕微鏡の動作]
次に、
図1に示した走査型プローブ顕微鏡100の動作について説明する。
【0031】
本実施の形態では、試料S(粉体試料)の粒径評価を行なうために、走査型プローブ顕微鏡100を用いて試料Sの表面形状の観察画像である画像データを取得するものとする。
【0032】
図3は、走査型プローブ顕微鏡100にて実行される画像データの取得処理の手順を説明するためのフローチャートである。
図3に示すように、画像データの取得処理は、画像データの取得条件を設定する工程(S01)、カンチレバー2をチューニングする工程(S02)、画像データを取得する工程(S03)、画像データを処理および抽出する工程(S04)、画像データを保存する工程(S05)および、画像データを表示する工程(S06)を備える。以下に、各工程の処理について説明する。
【0033】
(1)画像データの取得条件を設定する工程(
図3のS01)
画像データの取得条件を設定する工程(
図3のS01)では、カンチレバー2のチューニング条件(S10)、スキャナ12の走査条件(S11)、画像データの処理条件(S12)、粒子解析の処理条件(S13)、および画像データおよびこれに基づくデータの表示条件(S14)が設定される。なお、ステップS01にて設定される条件はこれらに限定されるものではない。また、これらの条件を設定する順序についても限定されるものではなく、ユーザが任意の順序で設定することができる。本実施の形態では、表示装置30は、画像データの取得条件を設定するための設定画面を表示可能に構成されている。ユーザは、入力装置40を操作することにより、当該設定画面上で各種条件を設定することができる。
【0034】
(1-1)カンチレバーのチューニング条件(S10)
カンチレバー2のチューニング条件(S10)は、走査型プローブ顕微鏡100の動作モードがダイナミックモードである場合に設定される条件である。チューニング条件は、カンチレバー2の種類、カンチレバー2を励振させる周波数範囲および振幅などの項目を含んでいる。ユーザは、入力装置40を用いて各項目を設定することができる。
【0035】
なお、ダイナミックモードでは、試料Sの表面に近づけたカンチレバー2をその共振点付近の周波数で励振させる。探針3と試料Sの表面との間に作用する原子間力によって、カンチレバー2の振動の振幅が変化する。フィードバック信号発生部22(
図1参照)は、この振動の振幅が一定となるように試料SをZ軸方向に微動させるべくZスキャナ12zをフィードバック制御する。このフィードバック制御のための制御量をデータ処理部26で処理することによって、試料Sの表面形状の画像データを作成することができる。
【0036】
(1-2)スキャナの走査条件(S11)
スキャナ12の走査条件の設定(S11)においては、XYスキャナ12xyのX軸およびY軸方向の移動に関する条件が設定される。ユーザは、XY平面における走査範囲(すなわち、観察視野)および、走査速度を設定することができる。なお、走査速度は、走査1ラインの速度である。1秒間で1ラインを往復走査するときの走査速度が1[Hz]となる。ユーザはさらに、フィードバック信号発生部22により実行されるフィードバック制御の条件(比例ゲインおよび積分ゲインなど)、および画像データの画素数を設定することができる。
【0037】
(1-3)画像データの処理条件(
図3のS12)
画像データの処理条件を設定する工程(
図3のS12)においては、取得した画像データの処理に関する条件が設定される。
図4は、画像データの処理条件を設定するための設定画面の一例を模式的に示す図である。
図4に示すように、設定画面には、画像処理の対象となる信号の種類を設定するためのタブ、および信号の方向を設定するためのタブが表示されている。なお、ユーザによる処理条件の設定を受け付けるための入力手段は、タブに限定されるものではなく、任意のインターフェイス(GUI(Graphical User Interface)など)を採用することができる。
【0038】
画像処理の対象となる信号には、試料SのZ軸方向の位置を示す値(Z値)を示す信号(以下、「高さ信号」とも称する)および、偏差Sdを示す信号などが含まれている。画像処理の対象となる信号の方向は、探針3で試料Sの表面を走査する方向に対応する。走査方向には、順方向であるトレース方向と、逆方向であるリトレース方向とがある。通常、同じ領域を順方向と逆方向とで2回走査(つまり往復走査)し、それぞれ独立に画像データが生成される。なお、往復走査を行なうのは、探針3の先端形状またはカンチレバー2の特性(ばね定数など)に起因して走査方向によって画像データが異なる場合があるためである。
【0039】
設定画面にはさらに、画像処理を実行するか否かを設定するためのタブが表示されている。
図4ではデータ処理の内容として、傾き補正処理およびゼロ点調整処理が例示されている。ただし、これらの処理以外の画像処理を含めることができる。
【0040】
傾き補正処理とは、試料表面の傾きを検出する補正する処理である。試料表面が全体的に傾斜していると、光学系1(光検出器8)からフィードバック信号発生部22に与えられる検出信号に傾き成分が含まれてしまう。この場合、画像表示された試料表面の高さが、試料表面の凹凸成分以外に傾き成分を含むため、試料表面の微細な形状の判別が困難となる。そこで、傾き補正処理を行なうことによって高さ補正した後に画像を表示する。
【0041】
ユーザは、設定画面において、傾き補正処理に用いる信号を選択することができる。
図4の例では、選択項目として、X方向の平均値、Y方向の平均値、X方向の中央値およびY方向の中央値が示されている。ユーザが選択した項目は、設定画面の処理内容の欄に表示される。
【0042】
ゼロ点調整処理とは、画像データに含まれる、XY平面上の各位置における高さ(Z値)について、高さ方向の基準点(以下、「ゼロ点」とも称する)を調整する処理である。ゼロ点調整処理の詳細については後述する。
【0043】
ユーザは、
図4の設定画面に表示される各タブにチェックを入れることにより、傾き補正処理およびゼロ点調整処理の実行を設定することができる。
【0044】
(1-4)粒子解析の処理条件(
図3のS13)
粒子解析の処理条件を設定する工程(
図3のS13)においては、取得した画像データの処理に関連する条件が設定される。
図5は、粒子解析の処理条件を設定するための設定画面の一例を模式的に示す図である。
図5に示すように、設定画面には、画像データから抽出するデータの条件を設定するためのタブが表示されている。このタブには、抽出するデータのZ値の範囲、XYしきい値、およびターゲットの形状を設定するためのタブが含まれている。Z値の範囲およびXYしきい値の各々は、絶対値または相対値(%)で指定することができる。ターゲットの形状については、粒子であるか穴であるかを指定することができる。なお、これらの条件以外の条件をさらに含めることができる。
【0045】
ユーザは、ステップS12による画像処理が施された画像データから抽出するデータのZ値の範囲(開始値ZHおよび/または終了値ZL)を設定することができる。開始値ZHは、抽出するデータのZ値の範囲の上限値に対応し、終了値ZLは、当該Z値の範囲の下限値に対応する。これにより、Z値が上限値ZH以下および下限値ZL以上の範囲内にあるXY方向の位置に粒子が存在すると特定される。
【0046】
ここで、画像データが示す観察画像のうち、粒子が存在する位置では、粒子が存在しない位置と高さが異なることから、Z値も異なることになる。そのため、抽出するZ値の範囲を適切に設定することにより、粒子が存在する位置を特定することができる。これによると、観察視野内に存在する粒子を抽出し、その数を求めることができる。
【0047】
本実施の形態では、粒子が存在する位置の高さ(Z値)と、粒子が存在しない位置の高さ(すなわち、基板15の表面の高さの平均値)との差を、粒子径として算出する構成とする。なお、粒子径は、粒子内の位置ごとに求めてもよいし、粒子内の位置全体での平均値として求めてもよい。
【0048】
このような構成は、走査型プローブ顕微鏡100では、一般的に、探針3の径よりも粒子径が小さい場合には、画像データにおける粒子の平面像の幅から粒子径を正確に求めることができないことに基づいている。高さの情報は、探針3の径の影響を受けることなく取得することができるため、粒子の平面像の幅を用いる場合よりも正確に粒子径を求めることができる。よって、画像データの各位置の高さ(Z値)に基づいて各粒子の粒子径を算出することにより、試料Sの粒度分布データを作成することができる。
【0049】
(1-5)表示条件(
図3のS14)
表示条件を設定する工程(
図3のS14)においては、ユーザは、画像データの表示に関する条件を設定することができる。本工程では、画像データおよび、粒子解析によって作成された粒度分布データなどの表示方法について設定することができる。
【0050】
(2)カンチレバーをチューニングする工程(
図3のS02)
図3のステップS01によりデータ取得条件が設定されると、情報処理装置20は、画像データの取得開始を指示するユーザ入力に応答して、画像データの取得を開始する。情報処理装置20は、最初にステップS02により、カンチレバー2のチューニングを行なう。走査型プローブ顕微鏡100の動作モードがダイナミックモードである場合、ステップS10で設定されたカンチレバー2のチューニング条件に従って、カンチレバー2を励振させる。
【0051】
(3)画像データを取得する工程(
図3のS03)
ステップS03では、情報処理装置20(走査信号発生部24)は、ステップS10により設定されたスキャナ12の走査条件に従ってXYスキャナ12xyを駆動する。データ処理部26は、フィードバック信号発生部22から伝送されるZ軸方向のフィードバック量(Zスキャナ12zへの印加電圧Vzおよび偏差Sd)を示す信号に基づいて、観察対象領域の画像データを取得する。
【0052】
ステップS03にて取得される画像データは、XYスキャナ12xyによってXY方向に試料Sを動かし、探針3との高さ方向(Z方向)の相対位置をZスキャナ12zによって探索することによって得られたデータから再現される画像(高さ像)である。取得される画像データは、高さ像に限らず、フィードバック信号発生部22から出力される偏差信号Sdから得られる画像(偏差像)であってもよい。
【0053】
(4)画像データを処理および抽出する工程(
図3のS04)
情報処理装置20(データ処理部26)は、ステップS04では、ステップS13により設定された画像データの処理条件に従って、ステップS03にて取得された画像データを処理する。データ処理の対象となる信号が高さ信号である場合には、高さ像が処理される。データ処理の対象となる信号が偏差信号Sdである場合には、偏差像が処理される。本実施の形態では、高さ像の画像データを処理する場合について説明する。偏差像の画像データを処理する場合にも、同様の手順を用いることができる。
【0054】
画像データの処理条件(
図3のS13)にて画像データのゼロ点調整処理の実行が設定されている場合には、高さ像の画像データに対してゼロ点調整処理が実行される。以下に、画像データのゼロ点調整処理について詳細に説明する。
【0055】
<ゼロ点調整処理>
図6から
図9は、画像データに対するゼロ点調整処理の概要を説明するための図である。
図6Aは、基板15上に載置された試料S(粉体試料)を模式的に示す図である。基板15の表面には、大小様々な粒子径を有する粒子が載置されている。画像データでは、粒子が存在する位置では、粒子が存在しない位置(基板15の表面)に比べて高さ(Z値)が大きくなる。また、その高さ(Z値)は粒子径によって異なる。
【0056】
図6Bは、
図6Aの画像データについて、高さ(Z値)の分布を示すヒストグラムを求めたものである。ヒストグラムの横軸はZ値であり、縦軸は度数である。ヒストグラムは、画像データに含まれる複数のZ値を複数の階級(区間)に区分し、各階級に含まれるデータ数(度数)を求めることにより作成することができる。
【0057】
このヒストグラムにおいて、粒子解析の処理条件(
図3のS13)にて設定された開始値ZH以下および終了値ZL以上の範囲内に、粒子が存在すると特定される。画像データからは、開始値ZH以下および終了値ZL以上の範囲内のデータが抽出される。
【0058】
通常、基板15の表面は平らであるため、基板15の表面のZ値を最低値として高さの分布(ヒストグラム)が形成されることになる。これに対して、
図6Aに示すように、基板15の表面にキズがある場合を想定する。この場合、キズの部分には凹部が形成されるため、基板15の他の部分に比べてZ値が小さくなる。この凹部の部分のZ値を基準点(ゼロ点)として、XY方向の各位置におけるZ値を求めると、求められたZ値は、基板15の表面をゼロ点とした場合に比べて大きい値となってしまう。
【0059】
図7は、
図6Aの画像データから、開始値ZHおよび終了値ZLを用いて抽出されたデータを示す画像である。抽出された画像データでは、XY方向の各位置は、粒子が存在する位置であるか、粒子が存在しない位置であるかによって二値化されて表現される。この二値化されたデータに基づいて、観察視野内に存在する粒子数を算出することができる。
【0060】
図6Bに示すように、開始値ZHおよび終了値ZLを用いて基板15上に存在する粒子を抽出した場合、Z値が開始値ZHを超えている粒子が抽出されずに漏れてしまう場合が起こり得る。あるいは、基板15上の隆起などの凸部のZ値が終了値ZLより大きいときには、この凸部を誤って粒子として抽出する場合が起こり得る。その結果、粒子を正確に抽出することができず、観察視野内に存在する粒子数を誤って算出することが懸念される。
【0061】
さらに、粒子が検出されなかった位置のZ値の平均値に基づいて基板15の表面の高さを算出した場合、算出された基板15の表面の高さは、実際の基板15の表面の高さよりも低くなる。その結果、実際の基板15の表面よりも低い高さと、粒子が存在する位置の高さとの差が粒子径として算出されることになり、算出された粒子径が実際の粒子径よりも大きい値となってしまうことが懸念される。
【0062】
そこで、ゼロ点調整処理では、
図8に示すように、高さ(Z値)の分布を示すヒストグラムにおいて最頻値となる高さ(Z値)を、観察視野の高さ方向の基準点(ゼロ点)に設定することとする。最頻値とは、ヒストグラムにおいて度数が最も大きい階級値(Z値)をいう。
図8に示すヒストグラムでは最頻値はZ1であるため、このZ1をゼロ点に設定する。これにより、Z1をゼロ点として、XY方向の各位置におけるZ値が補正されることになる。
図9は、ゼロ点調整処理によりZ値が補正された画像データについて、高さ(Z値)の分布を示すヒストグラムを求めたものである。
【0063】
このようにヒストグラムの最頻値を高さ方向の基準点(ゼロ点)としたことは、画像データを構成する複数のZ値において、基板15の表面を示すZ値の度数が最も大きいという仮定に基づいている。典型的には、
図6Aに示すように、基板15の表面に粒子がまばらに存在している場合が該当する。
図6Aの例では、粒子が存在する位置を示すZ値の度数の合計値に比べて、基板15の表面を示すZ値の度数が大きくなる。よって、ヒストグラムにおける最頻値を基板15の表面の高さとみなすことができる。
【0064】
このようにヒストグラムの最頻値Z1を基準点(ゼロ点)に設定したことにより、基準点Z1を下回るZ値を画像データから削除することができる。その結果、粒子解析において、基板15の表面のキズなどの凹部による影響を除去することが可能となる。具体的には、XY平面の各位置のZ値が基板15の表面からの高さを表すことになるため、基板15の表面に存在する粒子を適切に抽出することが可能となる。また、各粒子の粒子径を正確に算出することが可能となる。
【0065】
図10は、
図6Aの画像データから、開始値ZHおよび終了値ZLを用いて抽出されたデータを示す画像である。抽出された画像データでは、XY方向の各位置は、粒子が存在する位置か、粒子が存在しない位置かによって二値化されて表現される。
図10に示したように、Z1を基準点(ゼロ点)としてXY平面内の各位置におけるZ値が補正されることにより、粒子解析の処理条件(
図3のS13)にて設定された開始値ZHおよび終了値ZLに従って、基板15の表面に存在する粒子を適切に抽出することができる。なお、
図9に示す画像では、
図7に示す画像と比較して、粒子径の大きい粒子が漏れなく抽出されている。また、基板上の隆起が画像から除去されている。
【0066】
なお、上述したように、ゼロ点調整処理は、画像データの高さの分布を示すヒストグラムにおいて、基板15の表面の高さの度数が最も大きくなるという仮定に基づいている。そのため、この仮定が成り立たない場合、例えば、基板15上に粒子が密に存在しているような場合には、ゼロ点調整処理を行なうことは適当ではない。
【0067】
したがって、本実施の形態では、画像データの処理条件(
図3のS12)において、ゼロ点調整処理を実行するか否かをユーザが選択することができる構成としている。ユーザは、
図4の設定画面において、試料Sの状態に応じて、ゼロ点調整処理を実行するか否かを設定することができる。これにより、試料Sの状態に応じて、ゼロ点調整処理を適切に実行することができる。
【0068】
図11は、画像データを処理および抽出する工程の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0069】
図11を参照して、画像データを取得する工程(
図3のS03)によって観察対象領域についての画像データが取得されると、情報処理装置20のデータ処理部26は、ステップS41にて、画像データの処理条件(
図3のS12)において傾き補正処理の実行が設定されているか否かを判定する。傾き補正処理の実行が設定されている場合(S41にてYES)、データ処理部26は、ステップS42に進み、画像データの傾き補正処理を実行する。傾き補正処理は、公知の手法を用いることができる。一例として、
図4の設定画面において、傾き補正処理に用いる信号として、X方向の平均値およびY方向の平均値が選択された場合、画像データを構成する複数のZ値について、X方向の平均値およびY方向の平均値が算出される。そして、算出された平均値を用いて試料表面の傾き成分が求められ、求められた傾き成分を用いて各Z値を補正する。一方、傾き補正処理の実行が設定されていない場合(S41にてNO)、ステップS42の処理はスキップされる。
【0070】
次に、データ処理部26は、ステップS43により、画像データについて、高さ(Z値)の分布を示すヒストグラムを作成する。続いてデータ処理部26は、ステップS44にて、画像データの処理条件においてゼロ点調整処理の実行が設定されているか否かを判定する。
【0071】
ゼロ点調整処理の実行が設定されている場合(S44にてYES)、データ処理部26は、ステップS45に進み、ステップS43で作成したヒストグラムにおける最頻値を、Z方向の基準点(ゼロ点)に設定する。そして、データ処理部26は、ステップS46にて、設定した基準点を用いて、画像データを構成する複数のZ値を補正する。一方、ゼロ点調整処理の実行が設定されていない場合(S44にてNO)、ステップS45およびS46の処理はスキップされる。
【0072】
ステップS47では、データ処理部26は、粒子解析の処理条件(
図3のS13)において設定された開始値ZHおよび終了値ZLを用いて、画像データからデータを抽出する。開始値ZH以下かつ終了値ZL以上の範囲内にあるXY方向の位置に粒子が存在すると特定され、画像データから粒子が抽出される。
【0073】
ステップS48では、データ処理部26は、抽出したデータに基づいて、観察視野内に存在する粒子数を算出する。データ処理部26は、ステップS49にて、画像データに対して、算出された粒子数を紐づけて記憶部28に保存する。
【0074】
(5)画像データを表示する工程(
図3のS06)
情報処理装置20は、ステップS06では、ステップS14により設定された表示条件にしたがって、画像データを表示装置30に表示させる。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態によれば、走査型プローブ顕微鏡100により得られた画像データについて高さの分布のヒストグラムを作成し、作成したヒストグラムの最頻値となる高さを高さ方向の基準点(ゼロ点)に設定したことにより、ゼロ点よりも小さい高さのデータを画像データから削除することができる。これによると、基板15の表面のキズなどの凹部による影響を除去できるため、基板15の表面に存在する粒子を適切に抽出することが可能となる。また、各粒子の粒子径を正確に算出することができる。よって、走査型プローブ顕微鏡100により得られた画像データから観察対象領域内の粒子を正確に抽出することができる。
【0076】
(その他の構成例)
上述した実施の形態では、画像データに対してゼロ点調整処理を行なうか否かをユーザが設定する構成例について説明したが、情報処理装置20がゼロ点調整処理を実行するか否かを設定する構成としてもよい。
【0077】
このような構成の一例として、情報処理装置20は、画像データから作成される高さ(Z値)の分布を示すヒストグラムに基づいて、ゼロ点調整処理を実行するか否かを設定する構成とすることができる。この構成では、ヒストグラムにおいて、最頻値よりも大きい階級の累積相対度数に応じて、ゼロ点調整処理を実行するか否かが設定される。
図8に示すヒストグラムでは、最頻値であるZ1より大きい階級の累積相対度数が求められる。累積相対度数とは、その階級までの相対度数の全ての和である。
図8の例では、最もZ値が大きい階級から最頻値Z1の階級より1大きい階級までの相対度数を合計することにより累積相対度数を求めることができる。
【0078】
本構成例では、求められた累積相対度数と予め定められた閾値とを比較し、累積相対度数が閾値未満である場合において、ゼロ点調整処理を実行する構成とする。なお、閾値は0.5未満の任意の値に設定することができる。
【0079】
観察視野内に存在する粒子の数が増えるに従って、高さの分布を示すヒストグラムでは、基板15の表面の高さの度数が減少するとともに、基板15の表面よりも高い高さの度数が増加する。そのため、最頻値よりも大きい階級の累積相対度数も増加することになる。本構成例では、累積相対度数が閾値以上である場合には、ゼロ点調整処理を行なわない構成とすることにより、ゼロ点調整処理が不適切に行なわれることを防ぐことができる。
【0080】
図12は、画像データを処理および抽出する工程の処理手順の変更例を説明するためのフローチャートである。
図12に示すフローチャートは、
図11のフローチャートにおけるステップS44を、S44A,S44Bに置き換えたものである。
【0081】
図12を参照して、画像データを取得する工程(
図3のS03)によって観察対象領域についての画像データが取得されると、情報処理装置20のデータ処理部26は、
図11と同じステップS41~S43の処理を実行することにより、画像データについて、高さ(Z値)の分布を示すヒストグラムを作成する。
【0082】
データ処理部26は、ステップS44Aにて、作成したヒストグラムにおける最頻値を抽出する。データ処理部26は、最頻値より大きい高さの階級について累積相対度数を算出する。続いてデータ処理部26は、ステップS44Bにより、累積相対度数と閾値とを比較する。累積相対度数が閾値よりも小さい場合、データ処理部26は、ステップS45に進み、ゼロ点調整処理を実行する。すなわち、データ処理部26は、ヒストグラムにおける最頻値を、Z方向の基準点(ゼロ点)に設定する。そして、データ処理部26は、ステップS46にて、設定した基準点を用いて、画像データを構成する複数のZ値を補正する。一方、累積相対度数が閾値以上である場合(S44BにてNO)、ステップS45およびS46の処理はスキップされる。
【0083】
データ処理部26は、
図11と同じステップS47およびS48の処理を実行することにより、粒子解析の処理条件(
図3のS13)において設定された開始値ZHおよび終了値ZLを用いて画像データからデータを抽出し、抽出したデータに基づいて、観察視野内に存在する粒子数を算出する。データ処理部26は、ステップS49にて、画像データに対して、算出された粒子数を紐づけて記憶部28に保存する。
【0084】
[態様]
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0085】
(第1項)一態様に係る走査型プローブ顕微鏡は、基板に載置された試料を含む観察視野の画像データを取得する観察装置と、観察装置により取得された画像データを補正するデータ処理部とを備える。画像データは、基板の表面に水平に延在する平面上の各位置における高さを示す複数の測定データを含む。データ処理部は、複数の測定データについて、高さの分布のヒストグラムを作成する。データ処理部は、ヒストグラムにおいて最頻値となる高さを、観察視野の高さ方向の基準点に設定し、かつ、設定された基準点に基づいて、各複数の測定データの高さを補正する。
【0086】
第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、観察装置により得られた画像データについて高さの分布のヒストグラムを作成し、作成したヒストグラムの最頻値となる高さを高さ方向の基準点に設定したことにより、基準点を下回る高さのデータを画像データから削除することができる。その結果、基板の表面のキズなどの凹部による影響を除去することができるため、画像データから観察対象領域内の粒子を正確に抽出することができる。
【0087】
(第2項)第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡は、画像データの補正の実行指示を受け付ける入力手段をさらに備える。データ処理部は、実行指示を受け付けた場合に、ヒストグラムを作成する。
【0088】
第2項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、ヒストグラムにおいて基板表面の高さの度数が最も大きくなるという仮定が成り立たない場合(例えば、基板表面に試料の粒子が密に存在している場合)には、ユーザは、ゼロ点調整処理を行なわない設定とすることができる。これにより、試料の状態に応じて、ゼロ点調整処理を適切に実行することができる。
【0089】
(第3項)第1項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、データ処理部は、ヒストグラムにおいて、最頻値より大きい階級の累積相対度数を算出するように構成される。データ処理部は、累積相対度数が予め設定された閾値より小さいときに、最頻値となる高さを基準点に設定する。
【0090】
第3項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、ヒストグラムにおいて基板表面の高さの度数が最も大きくなるという仮定が成り立たない場合(例えば、基板表面に試料の粒子が密に存在している場合)を自動的に判定して、ゼロ点調整処理を行なわない構成とすることができる。これにより、ゼロ点調整処理を適切に実行することができる。
【0091】
(第4項)第1項から第3項に記載の走査型プローブ顕微鏡において、観察装置は、探針が設けられたカンチレバーの変位量が目標値となるように探針と試料の表面との間隔をフィードバック制御するとともに、探針で観察視野を走査することによって、画像データを取得するように構成される。画像データは、観察視野の各位置における変位量および、変位量と目標値との偏差の少なくとも一方によって得られる画像データである。
【0092】
第4項に記載の走査型プローブ顕微鏡によれば、観察装置におけるZ軸方向のフィードバック制御を反映した信号(試料の変位量および偏差)に基づいて画像データを作成するとともに、当該信号を用いてゼロ点調整処理を行なうことができる。
【0093】
(第5項)一態様に係るプログラムは、第1項から第4項に記載のデータ処理部を有するコンピュータを用いて、画像データを補正するためのプログラムである。
【0094】
第5項に記載のプログラムによれば、観察装置により得られた画像データから観察対象領域内の粒子を正確に抽出することができる。
【0095】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0096】
1 光学系、2 カンチレバー、3 探針、4 ホルダ、5 ビームスプリッタ、6 レーザ光源、7 反射鏡、8 光検出器、10 観察装置、12 スキャナ、12xy XYスキャナ、12z Zスキャナ、14 試料保持部、15 基板、16 XY方向駆動部、18 Z方向駆動部、20 情報処理装置、22 フィードバック信号発生部、24 走査信号発生部 26 データ処理部、28 記憶部、30 表示装置、40 入力装置、100 走査型プローブ顕微鏡、160 CPU,162 ROM、164 RAM、166 HDD、168 通信I/F、170 表示I/F、172 入力I/F。