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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】差動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/11 20120101AFI20250121BHJP
【FI】
F16H48/11
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023564297
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2021043840
(87)【国際公開番号】W WO2023100239
(87)【国際公開日】2023-06-08
【審査請求日】2024-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】串▲崎▼ 健二
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恒行
(72)【発明者】
【氏名】浅見 健二
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-134806(JP,A)
【文献】特開2021-173389(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動力を第1出力軸及び第2出力軸に配分する差動装置であって、
前記第1出力軸がストレートスプライン結合される複数のストレートスプライン突起を内周に有する円筒状の第1連結部材と、
前記第2出力軸がストレートスプライン結合される複数のストレートスプライン突起を内周に有する円筒状の第2連結部材と、
前記第1連結部材と組み合わされた第1サイドギヤと、
前記第2連結部材と組み合わされた第2サイドギヤと、
前記第1サイドギヤに噛み合う第1ピニオンギヤと前記第2サイドギヤに噛み合う第2ピニオンギヤとを噛み合わせてなる複数のピニオンギヤ組と、
前記複数のピニオンギヤ組を保持するデフケースと、
前記第1サイドギヤと前記第2サイドギヤとの間に配置され、前記デフケースとの相対回転が規制されたセンタワッシャと、を備え、
前記第1サイドギヤは、前記第1連結部材の外周に配置されて前記第1連結部材とヘリカルスプライン結合された第1円筒部と、前記第1円筒部の前記センタワッシャ側の一方の端部から内径側に延びる第1壁部とを有し、前記第1壁部が前記第1連結部材の前記複数のストレートスプライン突起よりも内径側に突出しており、
前記第2サイドギヤは、前記第2連結部材の外周に配置されて前記第2連結部材とヘリカルスプライン結合された第2円筒部と、前記第2円筒部の前記センタワッシャ側の一方の端部から内径側に延びる第2壁部とを有し、前記第2壁部が前記第2連結部材の前記複数のストレートスプライン突起よりも内径側に突出しており、
前記センタワッシャは、前記第1サイドギヤ及び前記第2サイドギヤから前記第1連結部材及び前記第2連結部材にトルクが伝達されるドライブ時に、前記ヘリカルスプライン結合によって発生するスラスト力によって前記第1サイドギヤの前記第1壁部及び前記第2サイドギヤの前記第2壁部との間に摩擦力を発生させる、
差動装置。
【請求項2】
前記第1サイドギヤの中心部に前記第1壁部を軸方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記第2サイドギヤの中心部に前記第2壁部を軸方向に貫通する貫通孔が形成された、
請求項1に記載の差動装置。
【請求項3】
前記第1連結部材は、前記第1サイドギヤの前記第1円筒部における前記センタワッシャとは反対側の端面と軸方向に対向する環状の第1外周壁部を有し、
前記第2連結部材は、前記第2サイドギヤの前記第2円筒部における前記センタワッシャとは反対側の端面と軸方向に対向する環状の第2外周壁部を有し、
前記第1連結部材及び前記第2連結部材から前記第1サイドギヤ及び前記第2サイドギヤにトルクが伝達されるコースト時に、前記第1円筒部の前記端面と前記第1外周壁部とが当接すると共に、前記第2円筒部の前記端面と前記第2外周壁部とが当接し、前記第1連結部材と前記第1壁部は当接せず、前記第2連結部材と前記第2壁部も当接しない、
請求項1又は2に記載の差動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源の駆動力を一対の出力軸に差動を許容して配分する車両用の差動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動源の駆動力を一対の出力軸に差動を許容して配分する差動装置には、出力軸間の差動回転を抑制する差動制限機能を備えたものがある。このような差動装置を備えた車両は、例えば右車輪がスリップした際にも左車輪に駆動力を伝達することができるので、走行安定性が高められる。本出願人は、差動制限機能を備えた差動装置として、特許文献1,2のものを提案している。
【0003】
特許文献1に記載の差動装置は、軸方向に並んで配置された第1サイドギヤ及び第2サイドギヤと、第1サイドギヤに噛み合う第1ピニオンギヤと第2サイドギヤに噛み合う第2ピニオンギヤとを噛み合わせてなる複数のピニオンギヤ組と、複数のピニオンギヤ組を保持するデフケースとを備えている。第1ピニオンギヤ及び第2ピニオンギヤ、ならびに第1サイドギヤ及び第2サイドギヤは、噛み合いにより軸方向のスラスト力を発生させるヘリカルギヤである。デフケースから一対の出力軸へのトルク伝達時には、このスラスト力によって第1サイドギヤ及び第2サイドギヤの端面がデフケース内に配置されたワッシャに押し付けられ、一対の出力軸の差動回転を抑制する摩擦力が発生する。
【0004】
特許文献2に記載の差動装置は、上記の構成に加え、さらに差動制限力を高めるため、第1サイドギヤにヘリカルスプライン結合された第1連結部材と、第2サイドギヤにヘリカルスプライン結合された第2連結部材とを備えている。デフケースから一対の出力軸へのトルク伝達時には、このヘリカルスプライン結合によって付加的に発生するスラスト力により、差動制限力が増大する。
【0005】
また、特許文献1に記載の差動装置には、第1サイドギヤと第2サイドギヤとの間にアクスルスペーサが配置されている。このアクスルスペーサの両端面には、車両の組み立て時に、第1サイドギヤ及び第2サイドギヤにそれぞれ挿通される一対の出力軸である左右のアクスルシャフトが突き当てられる。これにより、左右のアクスルシャフトの位置決めがなされ、車両の組み立てを容易に行うことが可能となる。一方、特許文献2に記載の差動装置は、このようなアクスルスペーサを有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-203483号公報
【文献】特開2021-173389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の差動装置のアクスルスペーサは、上記のように車両の組み立ての容易化に寄与するが、車両の組み立て後には何らの機能も発揮せず、むしろデフケース内での潤滑油の流動の妨げとなってしまう。また、特許文献2に記載の差動装置は、アクスルスペーサを有しないので、差動装置の部品点数や組み付け工数を削減することが可能となるが、車両の組み立て時において、アクスルスペーサへの突き当てによる一対の出力軸(左右のアクスルシャフト)の位置決めを行うことができない。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、アクスルスペーサを用いることなく、車両の組み立て時における一対の出力軸の位置決めを容易に行うことが可能な差動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するため、車両の駆動力を第1出力軸及び第2出力軸に配分する差動装置であって、前記第1出力軸がストレートスプライン結合される複数のストレートスプライン突起を内周に有する円筒状の第1連結部材と、前記第2出力軸がストレートスプライン結合される複数のストレートスプライン突起を内周に有する円筒状の第2連結部材と、前記第1連結部材と組み合わされた第1サイドギヤと、前記第2連結部材と組み合わされた第2サイドギヤと、前記第1サイドギヤに噛み合う第1ピニオンギヤと前記第2サイドギヤに噛み合う第2ピニオンギヤとを噛み合わせてなる複数のピニオンギヤ組と、前記複数のピニオンギヤ組を保持するデフケースと、前記第1サイドギヤと前記第2サイドギヤとの間に配置され、前記デフケースとの相対回転が規制されたセンタワッシャと、を備え、前記第1サイドギヤは、前記第1連結部材の外周に配置されて前記第1連結部材とヘリカルスプライン結合された第1円筒部と、前記第1円筒部の前記センタワッシャ側の一方の端部から内径側に延びる第1壁部とを有し、前記第1壁部が前記第1連結部材の前記複数のストレートスプライン突起よりも内径側に突出しており、前記第2サイドギヤは、前記第2連結部材の外周に配置されて前記第2連結部材とヘリカルスプライン結合された第2円筒部と、前記第2円筒部の前記センタワッシャ側の一方の端部から内径側に延びる第2壁部とを有し、前記第2壁部が前記第2連結部材の前記複数のストレートスプライン突起よりも内径側に突出しており、前記センタワッシャは、前記第1サイドギヤ及び前記第2サイドギヤから前記第1連結部材及び前記第2連結部材にトルクが伝達されるドライブ時に、前記ヘリカルスプライン結合によって発生するスラスト力によって前記第1サイドギヤの前記第1壁部及び前記第2サイドギヤの前記第2壁部との間に摩擦力を発生させる、差動装置を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る差動装置によれば、アクスルスペーサを用いることなく、車両の組み立て時における第1出力軸及び第2出力軸の軸方向の位置決めを容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る差動装置の構成例を示す断面図である。
図2】差動装置の分解斜視図である。
図3】第1連結部材、第2連結部材、第1サイドギヤ、第2サイドギヤ、センタワッシャ、第1サイドワッシャ、及び第2サイドワッシャを、軸方向の間隔をあけて示す説明図である。
図4】比較例に係る差動装置の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図3を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る差動装置の構成例を示す断面図である。図2は、差動装置の分解斜視図である。
【0014】
この差動装置1は、車両に搭載され、駆動源の駆動力を第1出力軸91及び第2出力軸92に差動を許容して配分するために用いられる。図1では、第1出力軸91及び第2出力軸92を仮想線で示している。駆動源は、例えば内燃機関であるエンジン、あるいは電動モータ、もしくはエンジンと電動モータの組み合わせによって構成される。
【0015】
差動装置1は、第1出力軸91と一体に回転する円筒状の第1連結部材2と、第2出力軸92と一体に回転する円筒状の第2連結部材3と、第1連結部材2と組み合わされた第1サイドギヤ4と、第2連結部材3と組み合わされた第2サイドギヤ5と、複数のピニオンギヤ組6と、複数のピニオンギヤ組6を保持するデフケース7と、デフケース7に相対回転不能に保持されたセンタワッシャ80ならびに第1サイドワッシャ81及び第2サイドワッシャ82とを備えている。
【0016】
デフケース7には、図1に仮想線で示すリングギヤ11が複数のボルト12によって固定される。デフケース7は、リングギヤ11から入力される駆動源の駆動力により、回転軸線Oを中心として回転する。第1連結部材2、第2連結部材3、第1サイドギヤ4、第2サイドギヤ5は、デフケース7に対して回転軸線Oを中心として相対回転可能である。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。また、回転軸線Oに対して垂直な方向を径方向という。
【0017】
デフケース7は、有底円筒状のケース本体71と、ケース本体71の開口を塞ぐように配置されたケース蓋体72とを有し、ケース本体71とケース蓋体72とが複数のボルト73によって結合されている。ケース本体71は、円筒状の筒部711と、筒部711における軸方向一側の端部から径方向内方に延出するように形成された円盤状の第1側壁部712と、第1側壁部712の中心部から軸方向に延出された円筒状の第1延出部713と、筒部711における軸方向他側の端部から径方向外方に張り出して形成された第1フランジ部714とを一体に有している。第1側壁部712には、潤滑油を流通させる油孔712aが形成されている。
【0018】
ケース蓋体72は、円盤状の第2側壁部721と、第2側壁部721の中心部から軸方向に延出された円筒状の第2延出部722と、第2側壁部721から径方向外方に張り出して形成された第2フランジ部723とを一体に有している。第2側壁部721には、潤滑油を流通させる油孔721aが形成されている。
【0019】
リングギヤ11を固定するためのボルト12は、ケース本体71の第1フランジ部714及びケース蓋体72の第2フランジ部723に挿通されている。デフケース7及びリングギヤ11は、不図示のデフキャリヤに収容され、リングギヤ11がデフキャリヤ内でピニオンギヤに噛み合わされる。第1延出部713及び第2延出部722の外周には、不図示の軸受が配置され、デフケース7がこれらの軸受によってデフキャリヤに対して回転可能に支持される。デフキャリヤには、潤滑油(デフオイル)が封入されている。
【0020】
センタワッシャ80は、ケース本体71の筒部711に保持されている。第1サイドワッシャ81は、ケース本体71の第1側壁部712に保持され、第2サイドワッシャ82は、ケース蓋体72の第2側壁部721に保持されている。センタワッシャ80は、第1サイドギヤ4と第2サイドギヤ5との間に配置されている。第1サイドワッシャ81は、センタワッシャ80との間に第1連結部材2及び第1サイドギヤ4を挟む位置に配置されている。第2サイドワッシャ82は、センタワッシャ80との間に第2連結部材3及び第2サイドギヤ5を挟む位置に配置されている。
【0021】
図2に示すように、センタワッシャ80、第1サイドワッシャ81、及び第2サイドワッシャ82は、それぞれ、円盤状の円盤部801,811,821と、円盤状の円盤部801,811,821の外縁から径方向外方に突出して設けられた複数の突部802,812,822とを有している。センタワッシャ80は、複数の突部802がケース本体71の筒部711に係合することにより、デフケース7との相対回転が規制されている。第1サイドワッシャ81は、複数の突部812がケース本体71の第1側壁部712に係合することにより、デフケース7との相対回転が規制されている。第2サイドワッシャ82は、複数の突部822がケース蓋体72の第2側壁部721に係合することにより、デフケース7との相対回転が規制されている。
【0022】
本実施の形態では、デフケース7に4組のピニオンギヤ組6が収容されている。それぞれのピニオンギヤ組6は、一つの第1ピニオンギヤ61と、二つの第2ピニオンギヤ62とを噛み合わせて構成されている。第1ピニオンギヤ61は、ピッチ円径が異なる大径ギヤ部611及び小径ギヤ部612を有している。二つの第2ピニオンギヤ62は、軸方向の長さが第1ピニオンギヤ61よりも短く、第1ピニオンギヤ61の小径ギヤ部612に噛み合わされている。
【0023】
ケース本体71には、4組のピニオンギヤ組6をそれぞれ保持する四つのボア70が形成されている。それぞれのボア70の内面は、第1ピニオンギヤ61の歯先が摺動する摺動面70a、及び第2ピニオンギヤ62の歯先が摺動する摺動面70bを含んでいる。車両の直進走行時には、第1ピニオンギヤ61及び第2ピニオンギヤ62がボア70内で自転することなくデフケース7と共に回転(公転)する。また、車両の旋回時等において第1出力軸91及び第2出力軸92が差動回転する際には、第1ピニオンギヤ61及び第2ピニオンギヤ62がボア70内で自転しながらデフケース7と共に回転する。
【0024】
図3は、第1連結部材2、第2連結部材3、第1サイドギヤ4、第2サイドギヤ5、センタワッシャ80、第1サイドワッシャ81、及び第2サイドワッシャ82を、軸方向の間隔をあけて示す説明図である。
【0025】
第1連結部材2は、円筒状に形成された第1筒状基体部21と、第1筒状基体部21における第1サイドワッシャ81側の端部から径方向外方に突出して形成された環状の第1外周壁部22と、第1外周壁部22と隣接して第1筒状基体部21から径方向外方に突出して形成された環状の第1支持壁部23とを一体に有している。第1筒状基体部21の内周には、軸方向に延在する複数のストレートスプライン突起211を有するストレートスプライン嵌合部212が形成されている。第1筒状基体部21の外周には、軸方向に対して傾斜した複数のヘリカルスプライン突起213を有するヘリカルスプライン嵌合部214が形成されている。ヘリカルスプライン嵌合部214と第1支持壁部23との間には、複数のヘリカルスプライン突起213の加工のための環状凹部20が形成されている。
【0026】
同様に、第2連結部材3は、円筒状に形成された第2筒状基体部31と、第2筒状基体部31における第2サイドワッシャ82側の端部から径方向外方に突出して形成された環状の第2外周壁部32と、第2外周壁部32と隣接して第2筒状基体部31から径方向外方に突出して形成された環状の第2支持壁部33とを一体に有している。第2筒状基体部31の内周には、軸方向に延在する複数のストレートスプライン突起311を有するストレートスプライン嵌合部312が形成されている。第2筒状基体部31の外周には、軸方向に対して傾斜した複数のヘリカルスプライン突起313を有するヘリカルスプライン嵌合部314が形成されている。ヘリカルスプライン嵌合部314と第2支持壁部33との間には、複数のヘリカルスプライン突起313の加工のための環状凹部30が形成されている。
【0027】
第1出力軸91は、第1筒状基体部21の内側に挿入されてストレートスプライン嵌合部212の複数のストレートスプライン突起211にストレートスプライン結合される。第2出力軸92は、第2筒状基体部31の内側に挿入されてストレートスプライン嵌合部312の複数のストレートスプライン突起311にストレートスプライン結合される。
【0028】
第1サイドギヤ4は、第1連結部材2の外周に配置されて第1連結部材2とヘリカルスプライン結合された第1円筒部41と、第1円筒部41のセンタワッシャ80側の一方の端部から内径側に延びる第1壁部42とを一体に有している。第1円筒部41の内周には、軸方向に対して傾斜した複数のヘリカルスプライン突起411を有するヘリカルスプライン嵌合部412が形成されている。第1円筒部41の外周には、軸方向に対して傾斜した複数の斜歯413を有するヘリカルギヤ部414が形成されている。
【0029】
同様に、第2サイドギヤ5は、第2連結部材3の外周に配置されて第2連結部材3とヘリカルスプライン結合された第2円筒部51と、第2円筒部51のセンタワッシャ80側の一方の端部から内径側に延びる第2壁部52とを一体に有している。第2円筒部51の内周には、軸方向に対して傾斜した複数のヘリカルスプライン突起511を有するヘリカルスプライン嵌合部512が形成されている。第2円筒部51の外周には、軸方向に対して傾斜した複数の斜歯513を有するヘリカルギヤ部514が形成されている。
【0030】
第1サイドギヤ4のヘリカルスプライン嵌合部412は、第1連結部材2のヘリカルスプライン嵌合部214と嵌合し、第1サイドギヤ4の複数のヘリカルスプライン突起411と第1連結部材2の複数のヘリカルスプライン突起213とが噛み合わされている。第1サイドギヤ4のヘリカルギヤ部414は、第1ピニオンギヤ61の大径ギヤ部611に噛み合っている。デフケース7から第1出力軸91へのトルク伝達時には、第1サイドギヤ4のヘリカルスプライン嵌合部412及びヘリカルギヤ部414ならびに第1連結部材2のヘリカルスプライン嵌合部214において軸方向のスラスト力が発生する。
【0031】
同様に、第2サイドギヤ5のヘリカルスプライン嵌合部512は、第2連結部材3のヘリカルスプライン嵌合部314と嵌合し、第2サイドギヤ5の複数のヘリカルスプライン突起511と第2連結部材3の複数のヘリカルスプライン突起313とが噛み合わされている。第2サイドギヤ5のヘリカルギヤ部514は、第2ピニオンギヤ62に噛み合っている。デフケース7から第2出力軸92へのトルク伝達時には、第2サイドギヤ5のヘリカルスプライン嵌合部512及びヘリカルギヤ部514ならびに第2連結部材3のヘリカルスプライン嵌合部314において軸方向のスラスト力が発生する。
【0032】
図3に示すように、第1連結部材2の第1外周壁部22は、そのセンタワッシャ80側の端面22aが第1サイドギヤ4の第1円筒部41におけるセンタワッシャ80と反対側(第1サイドワッシャ81側)の端面41aと軸方向に対向する。第1外周壁部22の端面22a、及び第1円筒部41の端面41aは、軸方向に対して垂直な平面である。第1サイドギヤ4の第1円筒部41における第1サイドワッシャ81側の端部の内周面41bは、第1連結部材2の第1支持壁部23の外周面23aと径方向に対向する。第1支持壁部23は、外周面23aが第1円筒部41の内周面41bに接触することで、第1連結部材2に対する第1サイドギヤ4の姿勢を安定化させる。
【0033】
第2連結部材3の第2外周壁部32は、そのセンタワッシャ80側の端面32aが第2サイドギヤ5の第2円筒部51におけるセンタワッシャ80と反対側(第2サイドワッシャ82側)の端面51aと軸方向に対向する。第2外周壁部32の端面32a、及び第2円筒部51の端面51aは、軸方向に対して垂直な平面である。第2サイドギヤ5の第2円筒部51における第2サイドワッシャ82側の端部の内周面51bは、第2連結部材3の第2支持壁部33の外周面33aと径方向に対向する。第2支持壁部33は、外周面33aが第2円筒部51の内周面51bに接触することで、第2連結部材3に対する第2サイドギヤ5の姿勢を安定化させる。
【0034】
第1連結部材2における第1サイドワッシャ81側の面は、第1サイドワッシャ81との摩擦接触によって摩擦力を発生させる当接面2aと、第1サイドワッシャ81に接触しない非接触面2bとを含んでいる。当接面2a及び非接触面2bは、軸方向に対して垂直な円環状の平面であり、当接面2aが非接触面2bの外周側に形成されている。当接面2aは、非接触面2bよりも第1サイドワッシャ81側に突出している。第1連結部材2の第1筒状基体部21におけるセンタワッシャ80側の端面21aは、第1サイドギヤ4の第1壁部42と軸方向に対向している。
【0035】
同様に、第2連結部材3における第2サイドワッシャ82側の面は、第2サイドワッシャ82との摩擦接触によって摩擦力を発生させる当接面3aと、第2サイドワッシャ82に接触しない非接触面3bとを含んでいる。当接面3a及び非接触面3bは、軸方向に対して垂直な円環状の平面であり、当接面3aが非接触面3bの外周側に形成されている。当接面3aは、非接触面3bよりも第2サイドワッシャ82側に突出している。第2連結部材3の第2筒状基体部31におけるセンタワッシャ80側の端面31aは、第2サイドギヤ5の第2壁部52と軸方向に対向している。
【0036】
第1サイドギヤ4の第1壁部42は、第1連結部材2の複数のストレートスプライン突起211よりも内径側に突出している。第1出力軸91は、差動装置1が搭載される車両の組み立て時において、デフケース7の第1延出部713及び第1連結部材2の内側に挿入され、第1サイドギヤ4の第1壁部42に突き当てられる。第1サイドギヤ4の中心部には、第1壁部42を軸方向に貫通する貫通孔420が形成されている。図3に示すように、第1サイドギヤ4の貫通孔420の内径をD11とし、第1連結部材2のストレートスプライン嵌合部212の内径をD12とすると、貫通孔420の内径D11は、ストレートスプライン嵌合部212の内径D12よりも小さい。
【0037】
第1サイドギヤ4の第1壁部42におけるセンタワッシャ80と反対側の面には、第1連結部材2の第1筒状基体部21の端面21aに対向する第1対向面42a、及び第1出力軸91の先端面91a(図1参照)が当接する第1当接面42bが含まれる。第1当接面42bは、第1壁部42における第1連結部材2の複数のストレートスプライン突起211よりも内径側に突出した部分に形成されている。第1当接面42bには、第1出力軸91の先端面91aが突き当てられた時の第1出力軸91の寸法精度を高めるための仕上げ加工が施されている。これにより、第1当接面42bは、第1対向面42aよりもセンタワッシャ80側に僅かにオフセットしている。
【0038】
同様に、第2サイドギヤ5の第2壁部52は、第2連結部材3の複数のストレートスプライン突起311よりも内径側に突出している。第2出力軸92は、差動装置1が搭載される車両の組み立て時において、デフケース7の第2延出部722及び第2連結部材3の内側に挿入され、第2サイドギヤ5の第2壁部52に突き当てられる。第2サイドギヤ5の中心部には、第2壁部52を軸方向に貫通する貫通孔520が形成されている。図3に示すように、第2サイドギヤ5の貫通孔520の内径をD21とし、第2連結部材3のストレートスプライン嵌合部312の内径をD22とすると、貫通孔520の内径D21は、ストレートスプライン嵌合部312の内径をD22よりも小さい。
【0039】
第2サイドギヤ5の第2壁部52におけるセンタワッシャ80と反対側の面には、第2連結部材3の第2筒状基体部31の端面31aに対向する第2対向面52a、及び第2出力軸92の先端面92a(図1参照)が当接する第2当接面52bが含まれる。第2当接面52bは、第2壁部52における第2連結部材3の複数のストレートスプライン突起311よりも内径側に突出した部分に形成されている。第2当接面52bには、第2出力軸92の先端面92aが突き当てられた時の第2出力軸92の寸法精度を高めるための仕上げ加工が施されている。これにより、第2当接面52bは、第2対向面52aよりもセンタワッシャ80側に僅かにオフセットしている。
【0040】
なお、第1出力軸91は、車両の組み立て時において一時的に第1サイドギヤ4の第1壁部42に突き当てられるが、組み立て完了時には第1サイドギヤ4の第1壁部42から軸方向に離間した位置に定位し、第1壁部42には接触しない。同様に、第2出力軸92は、車両の組み立て時において一時的に第2サイドギヤ5の第2壁部52に突き当てられるが、組み立て完了時には第2サイドギヤ5の第2壁部52から軸方向に離間した位置に定位し、第2壁部52には接触しない。
【0041】
車両が前進方向に加速もしくは一定の速度で前進するドライブ時には、第1サイドギヤ4から第1連結部材2に、及び第2サイドギヤ5から第2連結部材3に、それぞれトルクが伝達される。一方、車両が前進走行中にエンジンブレーキもしくは電動モータの回生ブレーキによって減速するコースト時には、第1連結部材2から第1サイドギヤ4に、及び第2連結部材3から第2サイドギヤ5に、それぞれトルクが伝達される。ただし、第1サイドギヤ4及び第2サイドギヤ5と第1連結部材2及び第2連結部材3との間でコースト時に伝達されるトルクは、ドライブ時に伝達されるトルクよりも比較的小さい。
【0042】
図3には、ドライブ時に第1連結部材2、第2連結部材3、第1サイドギヤ4、及び第2サイドギヤ5に発生する軸方向のスラスト力F11~F16の方向を黒塗りの矢印で示している。また、図3には、コースト時に第1連結部材2、第2連結部材3、第1サイドギヤ4、及び第2サイドギヤ5に発生する軸方向のスラスト力F21~F26の方向を白抜きの矢印で示している。ドライブ時には、第1サイドギヤ4のヘリカルギヤ部414と第1ピニオンギヤ61の大径ギヤ部611との噛み合いにより、第1サイドギヤ4にセンタワッシャ80側へのスラスト力F11が発生すると共に、第2サイドギヤ5のヘリカルギヤ部514と第2ピニオンギヤ62との噛み合いにより、第2サイドギヤ5にセンタワッシャ80側へのスラスト力F12が発生する。
【0043】
また、ドライブ時には、第1サイドギヤ4のヘリカルスプライン嵌合部412と第1連結部材2のヘリカルスプライン嵌合部214との嵌合により、第1サイドギヤ4にセンタワッシャ80側へのスラスト力F13が発生すると共に、第1連結部材2に第1サイドワッシャ81側へのスラスト力F14が発生する。またさらに、ドライブ時には、第2サイドギヤ5のヘリカルスプライン嵌合部512と第2連結部材3のヘリカルスプライン嵌合部314との嵌合により、第2サイドギヤ5にセンタワッシャ80側へのスラスト力F15が発生すると共に、第2連結部材3に第2サイドワッシャ82側へのスラスト力F16が発生する。
【0044】
第1サイドギヤ4の第1壁部42におけるセンタワッシャ80側の面には、センタワッシャ80と軸方向に対向し、ドライブ時にセンタワッシャ80に当接する当接面42cが形成されている。第2サイドギヤ5の第2壁部52におけるセンタワッシャ80側の面には、センタワッシャ80と軸方向に対向し、ドライブ時にセンタワッシャ80に当接する当接面52cが形成されている。
【0045】
センタワッシャ80は、ドライブ時において、第1サイドギヤ4と第1ピニオンギヤ61との噛み合いによって第1サイドギヤ4に発生するスラスト力F11、及び第1サイドギヤ4と第1連結部材2とのヘリカルスプライン結合によって第1サイドギヤ4に発生するスラスト力F13により、第1サイドギヤ4の第1壁部42との間に摩擦力を発生させる。
【0046】
また、センタワッシャ80は、ドライブ時において、第2サイドギヤ5と第2ピニオンギヤ62との噛み合いによって第2サイドギヤ5に発生するスラスト力F12、及び第2サイドギヤ5と第2連結部材3とのヘリカルスプライン結合によって第2サイドギヤ5に発生するスラスト力F15により、第2サイドギヤ5の第2壁部52との間に摩擦力を発生させる。
【0047】
第1サイドワッシャ81は、ドライブ時において、第1サイドギヤ4と第1連結部材2とのヘリカルスプライン結合によって第1連結部材2に発生するスラスト力F14により、第1連結部材2との間に摩擦力を発生させる。第2サイドワッシャ82は、ドライブ時において、第2サイドギヤ5と第2連結部材3とのヘリカルスプライン結合によって第2連結部材3に発生するスラスト力F16により、第2連結部材3との間に摩擦力を発生させる。これらのスラスト力F11~F16により発生する摩擦力は、ドライブ時に第1出力軸91と第2出力軸92との差動回転を抑制する差動制限力となる。
【0048】
一方、コースト時には、第1サイドギヤ4と第1ピニオンギヤ61との噛み合いにより、第1サイドギヤ4に第1サイドワッシャ81側へのスラスト力F21が発生する。第1連結部材2の第1外周壁部22は、このスラスト力F21を第1円筒部41の端面41aから受け、第1連結部材2の当接面2aが第1サイドワッシャ81に当接して摩擦力が発生する。しかし、第1サイドギヤ4と第1連結部材2とのヘリカルスプライン結合によって第1サイドギヤ4及び第1連結部材2に発生するスラスト力F23及びスラスト力F24は、第1サイドギヤ4の第1円筒部41の端面41aが第1連結部材2の第1外周壁部22の端面22aに当接することによって互いに打ち消される。
【0049】
また、コースト時には、第2サイドギヤ5と第2ピニオンギヤ62との噛み合いにより、第2サイドギヤ5に第2サイドワッシャ82側へのスラスト力F22が発生する。第2連結部材3の第2外周壁部32は、このスラスト力F22を第2円筒部51の端面51aから受け、第2連結部材3の当接面3aが第2サイドワッシャ82に当接して摩擦力が発生する。しかし、第2サイドギヤ5と第2連結部材3とのヘリカルスプライン結合によって第2サイドギヤ5及び第2連結部材3に発生するスラスト力F25及びスラスト力F26は、第2サイドギヤ5の第2円筒部51の端面51aが第2連結部材3の第2外周壁部32の端面32aに当接することによって互いに打ち消される。
【0050】
このように、コースト時には、第1サイドギヤ4と第1連結部材2とのヘリカルスプライン結合によって発生するスラスト力F23及びスラスト力F24が打ち消し合い、第2サイドギヤ5と第2連結部材3とのヘリカルスプライン結合によって発生するスラスト力F25及びスラスト力F26が打ち消し合う。このため、ドライブ時及びコースト時において、第1サイドギヤ4及び第2サイドギヤ5と第1連結部材2及び第2連結部材3との間で伝達されるトルクが同じであったとしても、コースト時に発生する差動制限力はドライブ時に発生する差動制限力よりも小さく、ドライブ時とコースト時とで発生する差動制限力の大きさが異なる。
【0051】
ドライブ時には、第1サイドギヤ4と第1ピニオンギヤ61との噛み合いによるスラスト力F11と、第1サイドギヤ4と第1連結部材2とのヘリカルスプライン結合によるスラスト力F13との合力により、第1サイドギヤ4の第1壁部42がセンタワッシャ80に押し付けられる。このため、仮に第1サイドギヤ4とセンタワッシャ80との接触面積が小さいと、接触面の発熱や摩耗が発生しやすくなるが、本実施の形態では、第1サイドギヤ4の第1壁部42が第1連結部材2の複数のストレートスプライン突起211よりも内径側に突出しており、センタワッシャ80に当接する第1壁部42の当接面42cが大きく確保されている。これにより、第1サイドギヤ4の第1壁部42とセンタワッシャ80との摩擦による発熱や摩耗が抑制される。
【0052】
また、ドライブ時には、第2サイドギヤ5と第2ピニオンギヤ62との噛み合いによるスラスト力F21と、第2サイドギヤ5と第2連結部材3とのヘリカルスプライン結合によるスラスト力F25との合力により、第2サイドギヤ5の第2壁部52がセンタワッシャ80に押し付けられる。本実施の形態では、第2サイドギヤ5の第2壁部52が第2連結部材3の複数のストレートスプライン突起311よりも内径側に突出し、センタワッシャ80に当接する第2壁部52の当接面52cが大きく確保されている。これにより、第2サイドギヤ5の第2壁部52とセンタワッシャ80との摩擦による発熱や摩耗が抑制される。
【0053】
第1サイドギヤ4の貫通孔420及び第2サイドギヤ5の貫通孔520は、デフケース7内において潤滑油が流動する油孔として機能する。センタワッシャ80の内径Dは、貫通孔420の内径D11、及び貫通孔520の内径D21よりも大きく、貫通孔420,520による潤滑油の流動を妨げない大きさである。なお、第1サイドギヤ4の貫通孔420及び第2サイドギヤ5の貫通孔520は、第1サイドギヤ4及び第2サイドギヤ5の製造時において、複数のヘリカルスプライン突起411,511を歯切りする際に発生する切粉を排出するためにも用いられる。
【0054】
センタワッシャ80の内径Dは、第1連結部材2のストレートスプライン嵌合部212の内径D12、及び第2連結部材3のストレートスプライン嵌合部312の内径D22より小さい。これにより、第1サイドギヤ4の第1壁部42及び第2サイドギヤ5の第2壁部52とセンタワッシャ80との接触面積が大きく確保されている。
【0055】
図3に示すように、第1連結部材2における第1筒状基体部21の端面21aと第1外周壁部22の端面22aとの間の軸方向長さをL11とし、第1サイドギヤ4における第1円筒部41の端面41aと第1壁部42の第1対向面42aとの間の軸方向長さをL12とすると、L12はL11よりも長い。これにより、第1筒状基体部21の端面21aと第1壁部42の第1対向面42aとの間には常に隙間が形成され、第1連結部材2は第1サイドギヤ4の第1壁部42に接触しない。これにより、第1筒状基体部21の端面21a及び第1壁部42の第1対向面42aには旋削加工等を施す必要がなく、例えば鍛造肌のままであってもよい。
【0056】
同様に、第3連結部材3における第2筒状基体部31の端面31aと第2外周壁部32の端面32aとの間の軸方向長さをL21とし、第2サイドギヤ5における第2円筒部51の端面51aと第2壁部52の第2対向面52aとの間の軸方向長さをL22とすると、L22はL21よりも長い。これにより、第2筒状基体部31の端面31aと第2壁部52の第2対向面52aとの間には常に隙間が形成され、第2連結部材3は第2サイドギヤ5の第2壁部52に接触しない。これにより、第2筒状基体部31の端面31a及び第2壁部52の第2対向面52aには旋削加工等を施す必要がなく、例えば鍛造肌のままであってもよい。
【0057】
図4は、比較例に係る差動装置1Aを示す断面図である。この差動装置1Aは、第1サイドギヤ4に第1壁部42が設けられておらず、第2サイドギヤ5に第2壁部52が設けられていない。一方、第1連結部材2に第1筒状基体部21におけるセンタワッシャ80側の端部から内径側に延びる第1壁部24が設けられ、第2連結部材3に第2筒状基体部31におけるセンタワッシャ80側の端部から内径側に延びる第2壁部34が設けられている。その他の構成は、上記の実施の形態に係る差動装置1の構成と同様であるので、図4において、差動装置1と共通する構成要素については、図2に付したものを同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0058】
比較例に係る差動装置1Aでは、車両の組み立て時において第1連結部材2の第1壁部24に第1出力軸91を突き当て、第3連結部材3の第2壁部34に第2出力軸92を突き当てることが可能である。しかし、ドライブ時における第1サイドギヤ4及び第2サイドギヤ5とセンタワッシャ80との接触面積が実施の形態に係る差動装置1の場合に比較して小さく、第1サイドギヤ4及び第2サイドギヤ5とセンタワッシャ80との接触面に発熱や摩耗が発生しやすい。また、第1壁部24及び第2壁部34は、車両の組み立て後には何らの機能も発揮しない。
【0059】
これに対し、本実施の形態に係る差動装置1では、第1サイドギヤ4に第1壁部42が設けられ、第2サイドギヤ5に第2壁部52が設けられていることにより、車両の組み立て時における第1出力軸91及び第2出力軸92の位置決めを容易に行うことができると共に、第1壁部42及び第2壁部52によって第1サイドギヤ4及び第2サイドギヤ5とセンタワッシャ80との接触面積を大きくすることができ、発熱や摩耗が抑制される。
【0060】
また、本実施の形態に係る差動装置1によれば、第1サイドギヤ4の貫通孔420及び第2サイドギヤ5の貫通孔520がデフケース7内において潤滑油が流動する油孔として機能するので、潤滑性の向上によってデフケース7における摩擦摺動部の発熱や摩耗が抑制される。
【0061】
またさらに、本実施の形態に係る差動装置1によれば、第1連結部材2が第1サイドギヤ4の第1壁部42に接触せず、第2連結部材3が第2サイドギヤ5の第2壁部52に接触しないので、第1筒状基体部21の端面21a、第2筒状基体部31の端面31a、第1壁部42の第1対向面42a、及び第2壁部52の第2対向面52aの加工を省略でき、加工コストを低減できる。
【0062】
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、この実施の形態は請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…差動装置
2…第1連結部材
21…第1筒状基体部
211…ストレートスプライン突起
213…ヘリカルスプライン突起
22…第1外周壁部
22a…端面
3…第2連結部材
31…第2筒状基体部
311…ストレートスプライン突起
313…ヘリカルスプライン突起
32…第2外周壁部
32a…端面
4…第1サイドギヤ
41…第1円筒部
41a…端面
411…ヘリカルスプライン突起
42…第1壁部
420…貫通孔
5…第2サイドギヤ
51…第2円筒部
51a…端面
511…ヘリカルスプライン突起
52…第2壁部
520…貫通孔
6…ピニオンギヤ組
61…第1ピニオンギヤ
62…第2ピニオンギヤ
7…デフケース
80…センタワッシャ
91…第1出力軸
92…第2出力軸
図1
図2
図3
図4