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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/04 20100101AFI20250121BHJP
   B60K 6/26 20071001ALI20250121BHJP
   B60K 6/405 20071001ALI20250121BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20250121BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 Z
F16H57/04 N
F16H57/04 Q
B60K6/26 ZHV
B60K6/405
B60K6/442
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024524955
(86)(22)【出願日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2023020602
(87)【国際公開番号】W WO2023234408
(87)【国際公開日】2023-12-07
【審査請求日】2024-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2022090114
(32)【優先日】2022-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 直也
(72)【発明者】
【氏名】行時 大地
(72)【発明者】
【氏名】長舩 司
(72)【発明者】
【氏名】平野 雅人
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-207387(JP,A)
【文献】特開2022-103151(JP,A)
【文献】国際公開第2020/067259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
B60K 6/26
B60K 6/405
B60K 6/442
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結され、第1軸に配置された入力部材と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
前記第1軸とは別軸であって前記第1軸と平行な第2軸に配置され、ロータを備えた回転電機と、
前記入力部材と前記出力部材と前記回転電機との間で動力を伝達する動力伝達機構とを備えた車両用駆動装置であって、
前記回転電機に供給されて前記回転電機から落下する冷却用の油を受けるように、前記回転電機の下方に配置された油受け部と、
前記油受け部に溜まった油を、前記油受け部に面して形成された流入口から潤滑対象箇所へ供給する油供給路と、
前記油受け部に面して形成され、前記油受け部の油を排出する排出口と、を備え、
前記排出口は、前記油受け部における、前記ロータよりも下側であって前記流入口よりも上側に設定された基準油面よりも上側であって、車両の姿勢変化及び加減速に起因して傾くことによって前記ロータに接する状態となった油面である制限対象油面よりも下側に位置する部分を有するように設けられている、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記流入口は、前記制限対象油面と平行で前記排出口の下端を通る油面よりも下側に位置するように設けられている、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記制限対象油面には、前記車両が前後方向に傾くことによって前記ロータに接する状態となった油面である第1対象油面と、前記車両が左右方向に傾くことによって前記ロータに接する状態となった油面である第2対象油面と、が含まれ、
前記排出口は、前記第1対象油面及び前記第2対象油面の双方よりも下側に位置する部分を有するように設けられている、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記制限対象油面には、前記車両が前後方向に傾くことによって前記ロータに接する状態となった油面である第1対象油面と、前記車両が左右方向に傾くことによって前記ロータに接する状態となった油面である第2対象油面と、が含まれ、
前記排出口には、第1排出口と第2排出口とが含まれ、
前記第1排出口は、前記第1対象油面よりも下側に位置する部分を有するように設けられ、
前記第2排出口は、前記第2対象油面よりも下側に位置する部分を有するように設けられている、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記第2軸が、前記第1軸よりも上方に配置され、
前記油供給路は、前記油受け部に溜まった油を、前記流入口から前記入力部材を支持する第1軸受、及び前記入力部材と一体的に回転する入力ギヤの少なくとも一方へ供給する、請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記回転電機を収容する第1室と、前記動力伝達機構を収容する第2室と、前記第1室と前記第2室とを区画する区画壁とを備えたケースを備え、
前記油供給路は、前記区画壁を貫通して前記第1室と前記第2室とを連通し、前記第1室に配置された前記油受け部から前記第2室へ油を供給する、
請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1軸に配置されて内燃機関に駆動連結された入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、第2軸に配置されてロータを備えた回転電機と、これらの間で動力を伝達する動力伝達機構とを備え、第2軸が第1軸よりも上方に配置された車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2017-114477号公報(特許文献1)には、車輪の駆動力源として、内燃機関及び回転電機を備えたハイブリッド車両における車両用駆動装置の潤滑についての技術が開示されている。この車両には、車輪の駆動力源とは別の駆動力源によって駆動されるオイルポンプ(電動オイルポンプ)が搭載されており、車両用駆動装置の一部の機構は、このオイルポンプから供給される油によって潤滑される。尚、潤滑には冷却も含まれる。また、回転するギヤによって掻き上げられた油によって別の潤滑対象箇所を潤滑することもできるため、オイルポンプから供給される油による潤滑には、あるギヤを潤滑した後の油によって別のギヤなどの他の潤滑対象箇所が潤滑されることも含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-114477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のようなハイブリッド車両では、車輪の停止中に内燃機関によって回転電機を回転させて発電を行う場合がある。この場合、動力伝達機構は、車輪を駆動するギヤが回転しないように制御される。このため、掻き上げによって潤滑用の油が供給される潤滑対象箇所に油が供給されず、潤滑が不十分となる可能性がある。そこで、回転電機を冷却した後に流れ落ちる油を溜め、この油を当該潤滑対象箇所に導くことも考えられる。有効に油を受け止めるためには、回転電機の下方に油を溜める油受け部を設けることが好ましい。しかし、車両の姿勢変化や加速度等によって油受け部の油面が傾くと、回転電機のロータと、油受け部に貯留された油とが干渉する場合がある。この干渉によって、油が攪拌されると、例えば、ロータの回転抵抗となって回転電機の効率が低下したり、油の泡立ちによって熱交換量が低下したり、油に生じた気泡によってオイルポンプの吐出圧や流量が低下したりするなど、種々の影響が生じるおそれがある。
【0005】
上記背景に鑑みて、車両の姿勢変化や加速度等によって貯留された油の油面が傾いた場合におけるロータとの干渉を少なく抑えつつ、回転電機を冷却した後の油を貯留して、回転電機とは別の潤滑対象箇所に適切に油を供給することができる車両用駆動装置を実現することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記に鑑みた車両用駆動装置は、内燃機関に駆動連結され、第1軸に配置された入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記第1軸とは別軸であって前記第1軸と平行な第2軸に配置され、ロータを備えた回転電機と、前記入力部材と前記出力部材と前記回転電機との間で動力を伝達する動力伝達機構とを備えた車両用駆動装置であって、前記回転電機に供給されて前記回転電機から落下する冷却用の油を受けるように、前記回転電機の下方に配置された油受け部と、前記油受け部に溜まった油を、前記油受け部に面して形成された流入口から潤滑対象箇所へ供給する油供給路と、前記油受け部に面して形成され、前記油受け部の油を排出する排出口と、を備え、前記排出口は、前記油受け部における、前記ロータよりも下側であって前記流入口よりも上側に設定された基準油面よりも上側であって、車両の姿勢変化及び加減速に起因して傾くことによって前記ロータに接する状態となった油面である制限対象油面よりも下側に位置する部分を有するように設けられている。
【0007】
本構成によれば、回転電機の冷却用に供給された後の油を利用して、潤滑対象箇所の潤滑を行うことができる。従って、潤滑対象箇所の潤滑のために例えばオイルポンプなど、別の油供給源を設けることが不要となる。また本構成によれば、例えば、登坂、降坂、旋回等に伴う車両の姿勢変化や加減速に起因した油受け部の油面の傾きが生じた場合にも、当該油面をロータの下端より下側に維持し易い。従って、油受け部の油がロータによって撹拌されることによるロータの回転抵抗の増加や、油の泡立ちによる熱交換量の低下を回避し易い。このように、本構成によれば、車両の姿勢変化や加速度等によって貯留された油の油面が傾いた場合におけるロータとの干渉を少なく抑えつつ、回転電機を冷却した後の油を貯留して、回転電機とは別の潤滑対象箇所に適切に油を供給することができる車両用駆動装置を実現することができる。
【0008】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】車両用駆動装置のスケルトン図
図2】車両用駆動装置の部分断面図
図3】軸方向に沿って区画壁に対向する側から第1室を見た模式的断面図
図4】軸方向に沿って区画壁に対向する側から第2室を見た模式的断面図
図5】軸方向視で、車両が水平面に位置している場合の油面(基準油面)と、ロータ、排出口及び流入口との関係を模式的に示す図
図6】軸方向視で、車両が前後方向の一方側に傾いた場合の油面と、ロータ、排出口及び流入口との関係を模式的に示す図
図7】軸方向視で、車両が前後方向の他方側に傾いた場合の油面と、ロータ、排出口及び流入口との関係を模式的に示す図
図8】軸直交方向視で、車両が水平面に位置している場合の油面(基準油面)と、ロータ、排出口及び流入口との関係を模式的に示す図
図9】軸直交方向視で、車両が左右方向の一方側に傾いた場合の油面と、ロータ、排出口及び流入口との関係を模式的に示す図
図10】軸直交方向視で、車両が左右方向の他方側に傾いた場合の油面と、ロータ、排出口及び流入口との関係を模式的に示す図
図11】油受け部の他の構成例を示す、軸方向に沿って区画壁に対向する側から第1室を見た模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両用駆動装置の実施形態について、図面を参照して説明する。尚、以下の説明における各部材についての方向(上下方向V、軸方向L、幅方向H)は、車両が水平な面に位置している状態(基準姿勢)において、それらが車両用駆動装置に組み付けられた状態での方向を基準とする。また、各部材についての寸法、配置方向、配置位置等に関する用語は、誤差(製造上許容され得る程度の誤差)による差異を有する状態を含む概念である。本実施形態では、車両が登坂、降坂、旋回等で水平状態から姿勢が変化する場合についても説明するが、その場合における方向は基準姿勢における方向と異なる場合がある。例えば、車両が水平状態では上下方向Vと水平面に直交する方向(鉛直方向)とが一致するが、車両が水平状態から傾いた状態では上下方向Vと鉛直方向とは一致しない。従って、適宜、上下方向Vとは別に鉛直方向との表現も用いて説明する場合がある。
【0011】
また、本明細書では、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力(トルクと同義)を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材(例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等)が含まれ、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置(例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等)が含まれていてもよい。
【0012】
また、本明細書では、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線に直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの部材の双方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを意味する。また、本明細書では、2つの部材の配置に関して、「軸方向の配置領域が重複する」とは、一方の部材の軸方向の配置領域内に、他方の部材の軸方向の配置領域の少なくとも一部が含まれることを意味する。
【0013】
図1に示すように、車両用駆動装置100は、第1回転電機1と、第2回転電機2と、内燃機関3に駆動連結される第1入力部材11と、車輪Wに駆動連結される出力部材5と、第2回転電機2に駆動連結される第2入力部材12と、第1回転電機1に駆動連結される第3入力部材13とを備えている。第1回転電機1は、ケース9等の固定部材に固定された第1ステータ1sと、第1ステータ1sの径方向内側に配置された第1ロータ1rとを備えている。第2回転電機2は、ケース9等の固定部材に固定された第2ステータ2sと、第2ステータ2sの径方向内側に配置された第2ロータ2rとを備えている。内燃機関3は、機関内部における燃料の燃焼により駆動されて動力を取り出す原動機(例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)である。第1回転電機1及び第2回転電機2は、バッテリやキャパシタ等の蓄電装置(図示せず)と電気的に接続されており、蓄電装置から電力の供給を受けて力行し、或いは、車両の慣性力や内燃機関3の駆動力等により発電した電力を蓄電装置に供給して蓄電させる。第1回転電機1及び第2回転電機2は、共通の蓄電装置に電気的に接続されており、第1回転電機1が発電した電力によって第2回転電機2を力行させることが可能となっている。
【0014】
本実施形態では、第3入力部材13は、第1回転電機1が備えるロータ(第1ロータ1r)と一体的に回転するように第1ロータ1rに連結され、第2入力部材12は、第2回転電機2が備えるロータ(第2ロータ2r)と一体的に回転するように第2ロータ2rに連結される。また、本実施形態では、第1入力部材11は、トルクリミッタTL(図2参照)を介して内燃機関3(具体的には、内燃機関3が備えるクランクシャフト等の出力部材、以下同様)に連結される。トルクリミッタTLは、第1入力部材11と内燃機関3との間で伝達されるトルクの大きさを制限して過大なトルクの伝達を遮断する。トルクリミッタTL付きのダンパ装置(ダンパ機構とトルクリミッタTLとを備えたダンパ装置)を用いる場合、第1入力部材11は、トルクリミッタTL及びダンパ機構を介して、内燃機関3に連結される。
【0015】
図2に示すように、車両用駆動装置100は、ケース9を備えており、第1入力部材11、第2入力部材12、及び第3入力部材13のそれぞれは、ケース9に収容されている。ここで、「収容する」とは、収容対象物の少なくとも一部を収容することを意味する。第1入力部材11、第2入力部材12、及び第3入力部材13のそれぞれは、ケース9に対して回転可能にケース9に支持されている。ケース9には、後述する差動歯車装置6、第1カウンタギヤ機構31、及び第2カウンタギヤ機構32も収容されている。
【0016】
ケース9は、図2に示すように、第1回転電機1及び第2回転電機2を収容する第1室91と、動力伝達機構20を収容する第2室92とを備えている。第1室91と第2室92とは、区画壁95によって区画されている。尚、ケース9は、区画壁95が形成された本体ケース97と、軸方向第1側L1から本体ケース97に当接して本体ケース97と共に第1室91を形成する不図示の回転電機側カバーケースと、軸方向第2側L2から本体ケース97に当接して本体ケース97と共に第2室92を形成する伝達機構側カバーケース96とを備えている。
【0017】
車両用駆動装置100は、差動歯車装置6を備えている。図1に示すように、差動歯車装置6は、差動入力ギヤGDを備え、差動入力ギヤGDの回転を、それぞれ車輪Wに駆動連結される一対の出力部材5に分配する。一方の出力部材5が駆動連結される車輪Wを第1車輪とし、他方の出力部材5が駆動連結される車輪Wを第2車輪とすると、第1車輪及び第2車輪は、左右一対の車輪W(例えば、左右一対の前輪、又は左右一対の後輪)である。本実施形態では、出力部材5はドライブシャフトであり、出力部材5のそれぞれは、連結対象となる車輪Wと同速で回転するように当該車輪Wに連結される。出力部材5は、例えば等速ジョイント(図示せず)を介して、連結対象となる車輪Wに連結される。出力部材5を介して伝達されるトルクによって車輪Wが駆動されることで、車両(車両用駆動装置100が搭載される車両、以下同様)が走行する。
【0018】
図2に示すように、本実施形態では、差動歯車装置6は、傘歯車式の差動ギヤ機構40と、差動ギヤ機構40を収容する差動ケース47と、を備えている。差動ケース47は、ケース9に対して回転可能にケース9に支持されている。差動入力ギヤGDは、差動ケース47と一体的に回転するように差動ケース47に連結されている。具体的には、差動入力ギヤGDは、差動ケース47から径方向(後述する第4軸A4を基準とする径方向)の外側に突出するように、差動ケース47に取り付けられている。
【0019】
差動ギヤ機構40は、ピニオンギヤ43と、ピニオンギヤ43にそれぞれ噛み合う一対のサイドギヤ44と、を備えている。ピニオンギヤ43(例えば、2つのピニオンギヤ43)は、差動ケース47に保持されたピニオンシャフト48に対して回転可能にピニオンシャフト48に支持されている。差動ギヤ機構40は、差動入力ギヤGDの回転を一対のサイドギヤ44に分配する。サイドギヤ44のそれぞれは、連結対象となる出力部材5と一体的に回転するように当該出力部材5に連結(ここでは、スプライン連結)される。
【0020】
図1及び図2に示すように、第1入力部材11は、第1軸A1上に配置され、第2入力部材12は、第2軸A2上に配置され、第3入力部材13は、第3軸A3上に配置され、差動歯車装置6は、第4軸A4上に配置され、後述する第1カウンタギヤ機構31は、第5軸A5上に配置され、後述する第2カウンタギヤ機構32は、第6軸A6上に配置されている。これらの第1軸A1、第2軸A2、第3軸A3、第4軸A4、第5軸A5、及び第6軸A6は、互いに異なる軸(仮想軸)であり、互いに平行に配置される。これらの各軸(A1~A6)に平行な方向(すなわち、各軸の間で共通する軸方向)を軸方向Lとする。また、軸方向Lの一方側を軸方向第1側L1とし、軸方向Lの他方側(軸方向Lにおける軸方向第1側L1とは反対側)を軸方向第2側L2とする。
【0021】
図1に示すように、第1入力部材11は、内燃機関3に対して軸方向第1側L1に配置される。また、第3入力部材13は、第1回転電機1に対して軸方向第2側L2に配置され、第2入力部材12は、第2回転電機2に対して軸方向第2側L2に配置される。
【0022】
図1に示すように、車両用駆動装置100は、第1入力部材11と第3入力部材13とを駆動連結すると共に、第1入力部材11と差動入力ギヤGDとを駆動連結する第1ギヤ機構21を備えている。第1ギヤ機構21は、第1入力部材11を介して第3入力部材13と差動入力ギヤGDとを駆動連結する。即ち、第1ギヤ機構21は、内燃機関3に駆動連結される第1入力部材11と第1回転電機1との間で駆動力を伝達する。第3入力部材13と第1入力部材11との間の動力伝達経路である第1動力伝達経路と、第1入力部材11と差動入力ギヤGDとの間の動力伝達経路である第3動力伝達経路とを、第1ギヤ機構21を用いて接続することができる。第3動力伝達経路は、後述する第1切替機構51によって選択的に接続される(すなわち、接続又は遮断される)。一方、本実施形態では、第1動力伝達経路は、常時接続される。
【0023】
また、車両用駆動装置100は、第2入力部材12と差動入力ギヤGDとを駆動連結する第2ギヤ機構22を備えている。第2ギヤ機構22は、第2入力部材12と差動入力ギヤGDとを、第1ギヤ機構21を介さずに駆動連結する。第2入力部材12と差動入力ギヤGDとの間の動力伝達経路である第2動力伝達経路を、第2ギヤ機構22を用いて接続することができる。即ち、第2ギヤ機構22は、第2回転電機2と出力部材5との間で駆動力を伝達する。本実施形態では、第2動力伝達経路は、後述する第2切替機構52によって選択的に接続される。
【0024】
第3動力伝達経路が遮断されると共に第2動力伝達経路が接続された状態で、車両用駆動装置100において電動走行モード及びシリーズモードを実現することができる。電動走行モードは、第2回転電機2の駆動力により出力部材5を駆動して車両を走行させる走行モードである。シリーズモードは、内燃機関3の駆動力により第1回転電機1に発電させると共に第2回転電機2の駆動力により出力部材5を駆動して車両を走行させる走行モードである。電動走行モード及びシリーズモードでは、第3動力伝達経路は遮断され、第1回転電機1及び内燃機関3は出力部材5から分離される。
【0025】
また、第2動力伝達経路及び第3動力伝達経路が接続された状態で、車両用駆動装置100においてパラレルモードを実現することができる。パラレルモードは、少なくとも内燃機関3の駆動力により出力部材5を駆動して車両を走行させる走行モードである。パラレルモードでは、必要に応じて第2回転電機2の駆動力を出力部材5に伝達させて、内燃機関3の駆動力を補助する。パラレルモードにおいて第2回転電機2を停止させる場合(例えば、車両の高速走行時)には、第2動力伝達経路を遮断することで、第1入力部材11を介さずに差動入力ギヤGDに駆動連結される第2回転電機2を、差動入力ギヤGDから切り離すことができる。よって、パラレルモードにおいて第2回転電機2を停止させる場合に、第2回転電機2の連れ回りを回避することができ、この結果、第2回転電機2の引き摺りによるエネルギー損失の発生を抑制することができる。尚、パラレルモードにおいて、第2回転電機2の駆動力に加えて或いは第2回転電機2の駆動力に代えて、第1回転電機1の駆動力を出力部材5に伝達させて、内燃機関3の駆動力を補助してもよい。
【0026】
第1ギヤ機構21及び第2ギヤ機構22は、第3入力部材13と出力部材5と第1回転電機1と第2回転電機2との間の動力伝達状態を変更して、これらの間で動力を伝達する動力伝達機構20に相当する。また、上述したように、シリーズモードは、第1入力部材11と第1回転電機1との間で駆動力が伝達され、第2回転電機2と出力部材5との間で駆動力が伝達される状態となる動作モードである。また、パラレルモードは、第1入力部材11と第2回転電機2と出力部材5との間で駆動力が伝達される状態となる動作モードである。動力伝達機構20は、少なくともシリーズモードとパラレルモードとの2つの動作モードを実行可能である。
【0027】
図1に示すように、第1ギヤ機構21は、第3入力部材13と同軸に配置される第3入力ギヤG9と、第1入力部材11と同軸に配置されると共に第3入力ギヤG9と噛み合う第1入力ギヤG10とを備えている。本実施形態では、第3入力ギヤG9は、第3入力部材13と一体的に回転するように第3入力部材13に連結され、第1入力ギヤG10は、第1入力部材11と一体的に回転するように第1入力部材11に連結されている。すなわち、本実施形態では、第3入力部材13と第1入力部材11とは、第3入力ギヤG9と第1入力ギヤG10とのギヤ対を介して常時連結されるため、第3入力部材13と第1入力部材11との間の第1動力伝達経路は、常時接続される。
【0028】
図1図2に示すように、本実施形態では、第3入力ギヤG9は、第1入力ギヤG10よりも小径に形成されている。すなわち、第3入力ギヤG9と第1入力ギヤG10とのギヤ比は、第3入力部材13の回転が減速して第1入力部材11に伝達されるように(言い換えれば、第1入力部材11の回転が増速して第3入力部材13に伝達されるように)設定されている。
【0029】
第1ギヤ機構21は、さらに、第1入力部材11とそれぞれ同軸に配置される第1ギヤG1及び第2ギヤG2と、第1カウンタギヤ機構31と、を備えている。第1ギヤG1は、第2ギヤG2に対して軸方向第1側L1に配置されている。第1カウンタギヤ機構31は、第1カウンタ軸31aと、第1ギヤG1と噛み合う第3ギヤG3と、第2ギヤG2と噛み合う第4ギヤG4と、第1カウンタ軸31aと一体的に回転すると共に差動入力ギヤGDと噛み合う第5ギヤG5とを備えている。第3ギヤG3は、第4ギヤG4に対して軸方向第1側L1に配置されている。そして、本実施形態では、第5ギヤG5は、第3ギヤG3と第4ギヤG4との軸方向Lの間に配置されている。
【0030】
図1図2に示すように、本実施形態では、第5ギヤG5は、差動入力ギヤGDよりも小径に形成されている。すなわち、第5ギヤG5と差動入力ギヤGDとのギヤ比は、第1カウンタ軸31aの回転が減速して差動歯車装置6(具体的には、差動入力ギヤGD)に伝達されるように設定されている。
【0031】
第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの間で第1ギヤG1と第3ギヤG3との第1ギヤ対GP1を介して駆動力が伝達される状態と、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの間で第2ギヤG2と第4ギヤG4との第2ギヤ対GP2を介して駆動力が伝達される状態と、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの間で駆動力が伝達されない状態とを切り替える第1切替機構51が、第1ギヤ機構21に設けられている。
【0032】
以下では、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの間で第1ギヤ対GP1を介して駆動力が伝達される状態(すなわち、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとが第1ギヤ対GP1を介して連結された状態)を、「第1連結状態」とする。また、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの間で第2ギヤ対GP2を介して駆動力が伝達される状態(すなわち、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとが第2ギヤ対GP2を介して連結された状態)を、「第2連結状態」とする。また、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの間で駆動力が伝達されない状態を、「非連結状態」とする。差動入力ギヤGDと噛み合う第5ギヤG5は、第1カウンタ軸31aと一体的に回転するように第1カウンタ軸31aに連結されている。そのため、第1連結状態及び第2連結状態では、第1入力部材11と差動入力ギヤGDとの間で駆動力が伝達される状態となり(すなわち、第3動力伝達経路が接続され)、非連結状態では、第1入力部材11と差動入力ギヤGDとの間で駆動力が伝達されない状態となる(すなわち、第3動力伝達経路が遮断される)。
【0033】
本実施形態では、第3ギヤG3及び第4ギヤG4は、第1カウンタ軸31aと一体的に回転するように第1カウンタ軸31aに連結されている。そして、第1切替機構51は、第1ギヤG1及び第2ギヤG2のうちの第1ギヤG1のみが第1入力部材11に連結された状態と、第1ギヤG1及び第2ギヤG2のうちの第2ギヤG2のみが第1入力部材11に連結された状態と、第1ギヤG1及び第2ギヤG2の双方が第1入力部材11から切り離された状態と、を切り替えるように構成されている。すなわち、第1ギヤG1及び第2ギヤG2は、第1切替機構51によって選択的に第1入力部材11に連結される。
【0034】
第1ギヤG1及び第2ギヤG2のうちの第1ギヤG1のみが第1入力部材11に連結された状態では、第1連結状態が実現される。また、第1ギヤG1及び第2ギヤG2のうちの第2ギヤG2のみが第1入力部材11に連結された状態では、第2連結状態が実現される。また、第1ギヤG1及び第2ギヤG2の双方が第1入力部材11から切り離された状態では、非連結状態が実現される。尚、第1連結状態では、第2ギヤG2は、第1入力部材11に対して相対回転可能に第1入力部材11に支持され、第2連結状態では、第1ギヤG1は、第1入力部材11に対して相対回転可能に第1入力部材11に支持され、非連結状態では、第1ギヤG1及び第2ギヤG2が、第1入力部材11に対して相対回転可能に第1入力部材11に支持される。
【0035】
第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの回転速度比は、第1連結状態では第1ギヤG1と第3ギヤG3とのギヤ比に応じて定まり、第2連結状態では、第2ギヤG2と第4ギヤG4とのギヤ比に応じて定まる。そして、第1ギヤG1と第3ギヤG3とのギヤ比は、第2ギヤG2と第4ギヤG4とのギヤ比と異なるように設定されている。よって、第1連結状態と第2連結状態とを第1切替機構51を用いて切り替えることで、第1入力部材11と第1カウンタ軸31aとの回転速度比が異なる値に切り替えられる。
【0036】
差動入力ギヤGDの回転速度に対する第1入力部材11の回転速度の比を変速比として、本実施形態では、第1連結状態での変速比が第2連結状態での変速比よりも大きくなるように、第1ギヤG1と第3ギヤG3とのギヤ比、及び第2ギヤG2と第4ギヤG4とのギヤ比が設定されている。よって、第1連結状態では、低速段が形成され、第2連結状態では、高速段が形成される。第1ギヤG1と第3ギヤG3とのギヤ比、及び第2ギヤG2と第4ギヤG4とのギヤ比がこのように設定されるため、本実施形態では、第1ギヤG1は、第2ギヤG2よりも小径に形成され、第3ギヤG3は、第4ギヤG4よりも大径に形成されている。
【0037】
本実施形態では、第1ギヤG1は、第3ギヤG3よりも小径に形成されている。すなわち、第1ギヤG1と第3ギヤG3とのギヤ比は、第1入力部材11の回転が減速して第1カウンタ軸31aに伝達されるように設定されている。また、本実施形態では、第2ギヤG2は、第4ギヤG4よりも大径に形成されている。すなわち、第2ギヤG2と第4ギヤG4とのギヤ比は、第1入力部材11の回転が増速して第1カウンタ軸31aに伝達されるように設定されている。
【0038】
本実施形態では、第1切替機構51は、噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)を用いて構成されている。具体的には、第1切替機構51は、軸方向Lに移動可能な第1スリーブ部材51aと、第1入力部材11と一体的に回転する第1係合部E1と、第1ギヤG1と一体的に回転する第2係合部E2と、第2ギヤG2と一体的に回転する第3係合部E3と、を備えている。第1スリーブ部材51a、第1係合部E1、第2係合部E2、及び第3係合部E3は、第1軸A1上に配置されている。すなわち、第1切替機構51(具体的には、少なくとも、第1スリーブ部材51a、第1係合部E1、第2係合部E2、及び第3係合部E3)は、第1入力部材11と同軸に配置されている。
【0039】
第1スリーブ部材51aの軸方向Lの位置は、軸方向Lに移動可能にケース9に支持された第1シフトフォーク51b(図2参照)によって切り替えられる。第1シフトフォーク51bは、第1スリーブ部材51aの回転(第1軸A1回りの回転)を許容する状態で第1スリーブ部材51aと一体的に軸方向Lに移動するように、第1スリーブ部材51a(具体的には、第1スリーブ部材51aの外周面に形成された溝部)に係合している。第1シフトフォーク51bは、電動アクチュエータや油圧アクチュエータ等のアクチュエータの駆動力によって軸方向Lに移動される。
【0040】
本実施形態では、第1スリーブ部材51aの内周面には、内歯が形成されており、第1係合部E1、第2係合部E2、及び第3係合部E3のそれぞれの外周面には、外歯が形成されている。第1スリーブ部材51aは、第1係合部E1に外嵌するように配置された状態で、第1係合部E1に対して相対回転不能に且つ第1係合部E1に対して軸方向Lに相対移動可能に、第1係合部E1に連結されている。第1係合部E1(具体的には、第1係合部E1に形成された外歯)は、第1スリーブ部材51aの軸方向Lの位置によらずに、第1スリーブ部材51a(具体的には、第1スリーブ部材51aに形成された内歯)に係合する。一方、第2係合部E2(具体的には、第2係合部E2に形成された外歯)及び第3係合部E3(具体的には、第3係合部E3に形成された外歯)は、第1スリーブ部材51aの軸方向Lの位置に応じて、第1スリーブ部材51a(具体的には、第1スリーブ部材51aに形成された内歯)に選択的に係合する。
【0041】
第1切替機構51は、第1スリーブ部材51aの軸方向Lの位置に応じて、第1連結状態と、第2連結状態と、非連結状態と、を切り替えるように構成されている。具体的には、第1スリーブ部材51aが、第1係合部E1に係合し且つ第2係合部E2及び第3係合部E3に係合しない軸方向Lの位置に移動した状態で(図1図2参照)、非連結状態が実現される。また、第1スリーブ部材51aが、第1係合部E1及び第2係合部E2に係合し且つ第3係合部E3に係合しない軸方向Lの位置(図1及び図2に示す第1スリーブ部材51aの位置よりも軸方向第1側L1の位置)に移動した状態で、第1連結状態が実現される。また、第1スリーブ部材51aが、第1係合部E1及び第3係合部E3に係合し且つ第2係合部E2に係合しない軸方向Lの位置(図1及び図2に示す第1スリーブ部材51aの位置よりも軸方向第2側L2の位置)に移動した状態で、第2連結状態が実現される。
【0042】
図2に示すように、本実施形態では、第1入力部材11は、一対の第1軸受B1により、軸方向Lの2ヶ所でケース9に支持されている。上述したように、本体ケース97と、本体ケース97に軸方向第2側L2から当接する伝達機構側カバーケース96とにより、第2室92が形成されている。一対の第1軸受B1は、一方が本体ケース97に形成された区画壁95に支持され、他方が伝達機構側カバーケース96に支持されている。第2室92に収容される第1入力ギヤG10、第1ギヤG1、及び第2ギヤG2は、一対の第1軸受B1の軸方向Lの間に配置されている。
【0043】
同様に、第3入力部材13は、一対の第2軸受B2により、軸方向Lの2ヶ所でケース9に支持されている。一対の第2軸受B2は、一方が本体ケース97に形成された区画壁95に支持され、他方が伝達機構側カバーケース96に支持されている。第2室92に収容される第3入力ギヤG9は、一対の第1軸受B1の軸方向Lの間に配置されている。
【0044】
また、本実施形態では、第1カウンタ軸31aは、一対の第3軸受B3により、軸方向Lの2ヶ所でケース9に支持されている。第1軸受B1、第2軸受B2と同様に、一対の第3軸受B3は、一方が本体ケース97に形成された区画壁95に支持され、他方が伝達機構側カバーケース96に支持されている。第3ギヤG3、第4ギヤG4、及び第5ギヤG5は、一対の第3軸受B3の間に配置されている。
【0045】
図1に示すように、第2ギヤ機構22は、第2入力部材12と同軸に配置される第6ギヤG6(第2入力ギヤ)と、第2カウンタギヤ機構32と、を備えている。第2カウンタギヤ機構32は、第2カウンタ軸32aと、第6ギヤG6と噛み合う第7ギヤG7と、第2カウンタ軸32aと一体的に回転すると共に差動入力ギヤGDと噛み合う第8ギヤG8と、を備えている。本実施形態では、第6ギヤG6は、第7ギヤG7よりも小径に形成されている。すなわち、第6ギヤG6と第7ギヤG7とのギヤ比は、第2入力部材12の回転が減速して第2カウンタ軸32aに伝達されるように設定されている。また、本実施形態では、第8ギヤG8は、差動入力ギヤGDよりも小径に形成されている。すなわち、第8ギヤG8と差動入力ギヤGDとのギヤ比は、第2カウンタ軸32aの回転が減速して差動歯車装置6(具体的には、差動入力ギヤGD)に伝達されるように設定されている。本実施形態では、第7ギヤG7は、第8ギヤG8よりも大径に形成されている。
【0046】
第2入力部材12と第2カウンタ軸32aとの間で第6ギヤG6と第7ギヤG7とのギヤ対を介して駆動力が伝達される伝動状態と、第2入力部材12と第2カウンタ軸32aとの間で駆動力が伝達されない非伝動状態と、を切り替える第2切替機構52が、第2ギヤ機構22に設けられている。差動入力ギヤGDと噛み合う第8ギヤG8は、第2カウンタ軸32aと一体的に回転するように第2カウンタ軸32aに連結されている。そのため、伝動状態では、第2入力部材12と差動入力ギヤGDとの間で駆動力が伝達される状態となり(すなわち、第2動力伝達経路が接続され)、非伝動状態では、第2入力部材12と差動入力ギヤGDとの間で駆動力が伝達されない状態となる(すなわち、第2動力伝達経路が遮断される)。
【0047】
本実施形態では、第6ギヤG6は、第2入力部材12と一体的に回転するように第2入力部材12に連結されている。そして、第2切替機構52は、第7ギヤG7が第2カウンタ軸32aに連結された状態と、第7ギヤG7が第2カウンタ軸32aから切り離された状態とを切り替えるように構成されている。すなわち、第7ギヤG7は、第2切替機構52によって選択的に第2カウンタ軸32aに連結される。第7ギヤG7が第2カウンタ軸32aに連結された状態では、伝動状態が実現される。また、第7ギヤG7が第2カウンタ軸32aから切り離された状態では、非伝動状態が実現される。尚、非伝動状態では、第7ギヤG7は、第2カウンタ軸32aに対して相対回転可能に第2カウンタ軸32aに支持される。
【0048】
本実施形態では、第2切替機構52は、噛み合い式係合装置(ドグクラッチ)を用いて構成されている。具体的には、第2切替機構52は、軸方向Lに移動可能な第2スリーブ部材52aと、第2カウンタ軸32aと一体的に回転する第4係合部E4と、第7ギヤG7と一体的に回転する第5係合部E5と、を備えている。第2スリーブ部材52a、第4係合部E4、及び第5係合部E5は、第6軸A6上に配置されている。すなわち、第2切替機構52(具体的には、少なくとも、第2スリーブ部材52a、第4係合部E4、及び第5係合部E5)は、第2カウンタギヤ機構32と同軸に配置されている。このように、第2切替機構52は、第2スリーブ部材52aを、第2カウンタギヤ機構32と同軸に備えている。後述するように、第2スリーブ部材52aは、軸方向Lに移動して伝動状態と非伝動状態とを切り替える。
【0049】
第2スリーブ部材52aの軸方向Lの位置は、軸方向Lに移動可能にケース9に支持された第2シフトフォーク52b(図2及び図3参照)によって切り替えられる。第2シフトフォーク52bは、第2スリーブ部材52aの回転(第6軸A6回りの回転)を許容する状態で第2スリーブ部材52aと一体的に軸方向Lに移動するように、第2スリーブ部材52a(具体的には、第2スリーブ部材52aの外周面に形成された溝部)に係合している。詳細は後述するが、第2スリーブ部材52aを軸方向Lに駆動する駆動機構は、第2シフトフォーク52bを用いて構成されている。
【0050】
本実施形態では、第2スリーブ部材52aの内周面には、内歯が形成されており、第4係合部E4及び第5係合部E5のそれぞれの外周面には、外歯が形成されている。第2スリーブ部材52aは、第4係合部E4に外嵌するように配置された状態で、第4係合部E4に対して相対回転不能に且つ第4係合部E4に対して軸方向Lに相対移動可能に、第4係合部E4に連結されている。第4係合部E4(具体的には、第4係合部E4に形成された外歯)は、第2スリーブ部材52aの軸方向Lの位置によらずに、第2スリーブ部材52a(具体的には、第2スリーブ部材52aに形成された内歯)に係合する。一方、第5係合部E5(具体的には、第5係合部E5に形成された外歯)は、第2スリーブ部材52aの軸方向Lの位置に応じて、第2スリーブ部材52a(具体的には、第2スリーブ部材52aに形成された内歯)に選択的に係合する。
【0051】
第2切替機構52は、第2スリーブ部材52aの軸方向Lの位置に応じて、伝動状態と、非伝動状態と、を切り替えるように構成されている。具体的には、第2スリーブ部材52aが、第4係合部E4に係合し且つ第5係合部E5に係合しない軸方向Lの位置に移動した状態で(図1図2参照)、非伝動状態が実現される。また、第2スリーブ部材52aが、第4係合部E4及び第5係合部E5に係合する軸方向Lの位置(図1及び図2に示す第2スリーブ部材52aの位置よりも軸方向第1側L1の位置)に移動した状態で、伝動状態が実現される。
【0052】
図2に示すように、本実施形態では、第2入力部材12は、一対の第4軸受B4により、軸方向Lの2ヶ所でケース9に支持されている。第1軸受B1等と同様に、一対の第4軸受B4は、一方が本体ケース97に形成された区画壁95に支持され、他方が伝達機構側カバーケース96に支持されている。第2室92に収容される第6ギヤG6は、一対の第4軸受B4の軸方向Lの間に配置されている。
【0053】
ところで、車両用駆動装置100を構成する第1回転電機1、第2回転電機2、動力伝達機構20、差動歯車装置6は、油によって潤滑(冷却を含む)されている。潤滑用の油は、車輪Wの駆動力源である内燃機関3、第1回転電機1、及び第2回転電機2の何れか1つ以上を駆動力源として駆動される不図示の機械式オイルポンプ、並びに、車輪Wの駆動力源とは別の駆動力源(例えば第1回転電機1及び第2回転電機2とは別の回転電機(モータ))により駆動される不図示の電動オイルポンプの少なくとも一方から車両用駆動装置100に供給される。本実施形態では、第2回転電機2に冷却用の油を供給するオイルポンプ、即ち車輪Wと連動せずに動作するオイルポンプは、電動オイルポンプである。
尚、車輪Wと連動せずに動作するオイルポンプは、この他にも、例えば、車輪の停止中に発電を行う場合に回転する第1回転電機1及び内燃機関3の少なくとも一方により駆動される機械式オイルポンプであっても良い。車両用駆動装置100には、各機構部への油路が形成され、これらのオイルポンプからの油が供給される。但し、全ての機構部への油路を形成すると、油路が複雑化し、車両用駆動装置100が大型化する可能性がある。また、油路が多くなると、オイルポンプの吐出能力を高くする必要が生じる場合がある。
【0054】
そこで、オイルポンプからの油路を形成してオイルポンプから直接的に油を供給するだけではなく、車両用駆動装置100の一部の機構に対して油を供給し、その機構を潤滑した後の油を使って他の機構を潤滑することがしばしば行われる。例えば、車両用駆動装置100が備える各種のギヤなどの回転部材により、油を掻き上げたり、遠心力によって油を飛ばしたりすることによって、当該他の機構を潤滑するように構成される場合がある。尚、このような回転部材としては、例えば、差動入力ギヤGDが主に用いられる。
【0055】
ここで、回転部材が回転する場合には、当該回転部材によって潤滑対象箇所へ油を供給することができるが、当該回転部材が回転しない場合には、十分に油を供給することができない。上述したように、車両用駆動装置100は、動力伝達機構20の状態によって、少なくともシリーズモードとパラレルモードとの2つの動作モードで動作可能である。シリーズモードでは、例えば、車輪の停止中に内燃機関3を駆動し、第1回転電機1を回生動作させて発電し、蓄電装置を充電することができる。このとき、内燃機関3からの駆動力が車輪Wに伝達しないように、第1ギヤ機構21が制御されている。また、第2ギヤ機構22も、第2回転電機2の駆動力が車輪Wに伝達されないように制御されている。即ち、車輪の停止中に発電を行う際には、動力伝達機構20を構成する多くの回転部材が回転しておらず、掻き上げ等によって油が充分に供給されない可能性がある。
【0056】
例えばシリーズモードでは、車輪停止中における発電の際に、少なくとも第1入力部材11、第1回転電機1、第3入力ギヤG9、及び第1入力ギヤG10が回転しており、これらとこれらを支持する軸受が適切に潤滑されることが好ましい。本実施形態に係る車両用駆動装置100は、このような場合にも、これらが適切に潤滑されるように構成されている。
【0057】
上述したように、ケース9は、第1回転電機1及び第2回転電機2を収容する第1室91と、動力伝達機構20を収容する第2室92と、第1室91と第2室92とを区画する区画壁95とを備えている。図3は、軸方向Lに沿って区画壁95に対向する側から第1室91を見た模式的断面図を示しており、図4は、軸方向Lに沿って区画壁95に対向する側から第2室92を見た模式的断面図を示している。以下の説明においては、車両用駆動装置100を車両に取り付けた状態において軸方向Lが水平方向に沿うものとし、水平方向に直交する方向を上下方向Vとする。また、軸方向L及び上下方向Vに直交する方向を幅方向Hとし、幅方向Hにおける一方側を幅方向第1側H1、他方側を幅方向第2側H2と称する。幅方向Hは、水平方向に沿う方向である。
【0058】
詳細は後述するが、車両用駆動装置100は、図3に示すように、第2回転電機2の下方V2に配置され、第2回転電機2から落下する油を受ける第1油受け部7を備えている。第1油受け部7は、第1室91に配置されている。具体的には、第1油受け部7は、本体ケース97における区画壁95から回転電機側カバーケースの側へ突出したリブ(第1本体側リブ75)と、回転電機側カバーケースの壁面から本体ケース97の側へ突出したリブ(第1カバー側リブ:不図示)とが当接して、第1室91内に形成されている。第1油受け部7は、油を貯留できるように、椀状に形成されている。尚、本実施形態において、第1油受け部7、第2油受け部8等を形成する「リブ」には、ケース9の内面から突出する突出壁の他、ケース9の外壁を構成する部分も含まれる。また、図3及び図4に示すように、車両用駆動装置100は、第1油受け部7に溜まった油を、第1入力部材11を支持する第1軸受B1、及び第1入力部材11と一体的に回転する第1入力ギヤG10に供給する第1油供給路70を備えている。第1油供給路70は、区画壁95を貫通して第1室91と第2室92とを連通するように設けられている。尚、本実施形態では、第1油供給路70に、第1の第1油路71と第2の第1油路77とが含まれる。
【0059】
また、図4に示すように、第2室92には、第2油受け部8と、第1の第1油路71(第1油供給路70)から第1入力ギヤG10に供給されて第1入力ギヤG10により掻き上げられた油を第2油受け部8に導く導油路88と、第2油受け部8に溜まった油を第1回転電機1の回転軸である第3入力部材13を支持する第2軸受B2に供給する第2油路81(第2油供給路80)とが形成されている。第2油受け部8は、本体ケース97における区画壁95から伝達機構側カバーケース96の側へ突出したリブ(第2本体側リブ85a)と、伝達機構側カバーケース96の壁面から本体ケース97の側へ突出したリブとが当接して、第2室92内に形成されている。第2油受け部8は、油を貯留できるように、椀状に形成されている。尚、第2油受け部8の底部89は、第1入力ギヤG10の上端よりも下方V2に配置されている。
【0060】
例えば、電動オイルポンプから供給された油は、第2回転電機2の冷却のため、第2回転電機2の上方V1から第2回転電機2に向けて供給される。より具体的には、油は、第2回転電機2の第2ステータ2sに巻き回されたステータコイルに向けて供給される。第2回転電機2を冷却した油は、重力に従って下方V2へ流れる。第2回転電機2から落下した油は、図3に示すように、第2ロータ2rの下方V2に配置された第1油受け部7によって受け止められ、第1油受け部7に貯留される。第1油受け部7には、区画壁95を貫通して第1室91と第2室92とを連通するように設けられて、第1油受け部7に溜まった油を第2室92へ供給する第1油供給路70(第1の第1油路71、第2の第1油路77)が形成されている。本実施形態では、車輪Wの停止中に第1回転電機1が発電している状態では、第2回転電機2は駆動されないが、油路の構成上、第1回転電機1と共に第2回転電機2にも冷却用の油が供給されるようになっている。
【0061】
第1の第1油路71を通って第2室92へ供給された油は、第1入力ギヤG10を潤滑する。第2の第1油路77を通った油は、第1入力部材11の第1軸受B1を潤滑する。そして、例えば、図2に示すように、第1油供給路70を通った油は、図示左側の第1軸受B1を潤滑した後、第1入力部材11の軸内空間11eに供給される。この油は、軸内潤滑を行うと共に、軸内空間11eから径方向に設けられた油路を介して他の部位の潤滑にも用いられる。
【0062】
第1の第1油路71を通って第2室92へ供給された油は、第1入力ギヤG10を潤滑する。図4に示すように、第1入力ギヤG10の回転により、第1の第1油路71を通って供給された油は掻き上げられる。油は、第1入力ギヤG10の外周に沿って形成されたガイドリブ86の径方向外側へ遠心力によって運ばれ、ガイドリブ86の径方向外側を通って、第2油受け部8へと流れる。即ち、ガイドリブ86の径方向外側には、第1の第1油路71から第1入力ギヤG10に供給されて第1入力ギヤG10により掻き上げられた油を、第2油受け部8に導く導油路88が形成されている。
【0063】
図4に示すように、第2油受け部8には、第2油受け部8に溜まった油を第1回転電機1の回転軸である第3入力部材13を支持する第2軸受B2(図2参照)に供給する第2油路81が接続されている。上述したように、第2油受け部8は、本体ケース97における区画壁95から伝達機構側カバーケース96の側へ突出した第2本体側リブ85aと、伝達機構側カバーケース96の壁面から本体ケース97の側へ突出した第2カバー側リブ(不図示)とが当接して、第2室92内に形成されている。例えば、第2油路81は、第2本体側リブ85aと第2カバー側リブとのそれぞれに1つずつ形成することができる。図4に示すように第2本体側リブ85aに本体側第2油路81aが形成され、第2カバー側リブにカバー側第2油路を形成することができる。図4に示すように、第2油受け部8は、第1回転電機1が配置される第3軸A3よりも上方V1に配置されており、第1回転電機1の第2軸受B2に適切に油を供給することができる。
【0064】
上述したように、一対の第2軸受B2は、区画壁95及び伝達機構側カバーケース96により支持されている。第2油路81が、区画壁95の側、伝達機構側カバーケース96の側にそれぞれ形成されていることで、一対の第2軸受B2のそれぞれを適切に潤滑することができる。
【0065】
ところで、車両の姿勢変化や加速度等によって第1油受け部7の油面が傾くと、第2ロータ2rと、第1油受け部7に貯留された油とが干渉する場合がある。この干渉によって、油が攪拌されると、例えば、第2ロータ2rの回転抵抗となって第2回転電機2の効率が低下したり、油の泡立ちによって熱交換量が低下したり、油に生じた気泡によってオイルポンプの吐出圧や流量が低下したりするなど、種々の影響が生じるおそれがある。本実施形態の車両用駆動装置100は、車両の姿勢変化や加速度等によって貯留された油の油面が傾いた場合に、油と第2ロータ2rとの干渉を少なく抑えつつ、第2回転電機2を冷却した後の油を貯留して、第2回転電機2とは別の潤滑対象箇所(第1軸受B1、第1入力ギヤG10)に適切に油を供給することができるように構成されている。
【0066】
上述したように、本実施形態の車両用駆動装置100は、内燃機関3に駆動連結され、第1軸A1に配置された入力部材(第1入力部材11)と、車輪Wに駆動連結される出力部材5と、第1軸A1とは別軸であって第1軸A1と平行な第2軸A2に配置され、ロータ(第2ロータ2r)を備えた回転電機(第2回転電機2)と、第1入力部材11と出力部材5と第2回転電機2との間で動力を伝達する動力伝達機構20とを備えている。また、第2軸A2は、第1軸A1よりも上方V1に配置されている。また、車両用駆動装置100は、第2回転電機2に供給されて第2回転電機2から落下する冷却用の油を受けるように、第2回転電機2の下方V2に配置された油受け部(第1油受け部7)と、第1油受け部7に溜まった油を、第1入力部材11を支持する第1軸受B1、及び第1入力部材11と一体的に回転する入力ギヤ(第1入力ギヤG10)の少なくとも一方へ供給する第1油供給路70とを備えている。第1油受け部7に面しては、第1油供給路70に連通する流入口79と、第1油受け部7の油を排出する排出口4とが形成されている。第1油受け部7に溜まった油は、流入口79から第1油供給路70を介して第1軸受B1及び第1入力ギヤG10の少なくとも一方へ供給される。排出口4からは、後述するように余分な油(第2ロータ2rに干渉する油)が排出される。本実施形態の車両用駆動装置100は、この排出口4を備えることによって、車両の姿勢変化や加速度等によって第1油受け部7に貯留された油の油面が傾いた場合における第2ロータ2rとの干渉を少なく抑えることができる。
【0067】
尚、流入口79及び排出口4は、第1油受け部7に面する部分を指し、その形状は、孔状の開口であっても溝状の開口であってもよい。また、流入口79及び排出口4は、ケース9等の壁面の端部における開口であってもよい。ここで、「第1油受け部7に面する」とは、「第1油受け部7が位置している側に面する」ことを意味する。例えば、第1油受け部7に油が全く溜まっていない状態では、流入口79は油には浸かっていない。また、排出口4も、油の排出が必要な場合のみ油に浸かる状態となる。従って、「第1油受け部7に面する」は必ずしも油が溜まった状態の第1油受け部7における当該「油」に面するものではない。当然ながら、流入口79は、油が充分に溜まった状態の第1油受け部7における「油」に向かい合っていてもよく、排出口4は、車両の姿勢変化等によって第1油受け部7に貯留される油が位置する領域が変化した場合に、第1油受け部7に溜まった「油」に向かい合うことになる。従って、「第1油受け部7に面する」とは、上記のような概念の全てを含み得るものである。
【0068】
以下、図5から図10も参照して、流入口79及び排出口4の配置について説明する。図5に示すように、車両が水平面に停止しており、第1油受け部7に油が満たされている状態の油面Pを基準油面P0とする。また、車両が水平面に位置している状態は基準姿勢である。車両が水平面に停止しており、上述した電動オイルポンプが動作中であって第1油受け部7の油面が安定している状態(言い換えれば、油の循環状態が定常状態となっている状態)での油面Pを、基準油面P0としてもよい。基準油面P0は、第2ロータ2rよりも下側(下方V2)に位置するように設定されている。
【0069】
図3及び図5に示すように、流入口79は、少なくとも、その一部、好ましくは全体が基準油面P0よりも下側に位置するように設けられている。本実施形態では、流入口79は、全体が基準油面P0よりも下側に位置するように設けられている。本実施形態では、基準油面P0は、第1油受け部7における、第2ロータ2rよりも下側であって流入口79よりも上側(上方V1)に設定されているということができる。そして、排出口4は、この基準油面P0よりも上側に設けられている。
【0070】
図6は、車両が前後方向(幅方向H)の一方側に傾いた場合の油面(第1油面P1)と、第2ロータ2r、排出口4及び流入口79との関係を模式的に示している。本実施形態では、幅方向第1側H1が車両の前方、幅方向第2側H2が車両の後方に対応しており、図6に示す例は、例えば車両が坂道を登る場合(登坂)を想定している。また、油面Pのみに着目すると、例えば、車両の加速時において前方への加速度が車両に生じた場合(油に慣性力による負の加速度が生じた場合)の油面Pも同様の傾きとなる。尚、車両の姿勢の変化には、車輪W(タイヤ)の撓みやサスペンションの伸縮によるものも含む。
【0071】
ここで、第1油面P1は、車両の姿勢変化及び加減速に起因して油面Pが傾くことによって油が第2ロータ2rに接する状態となった油面Pであり、制限対象油面Qである。後述するように、油面Pは車両が左右方向に傾く場合にも傾く場合があり、この場合にも同様に制限対象油面Qが設定される。これらの制限対象油面Qを区別する場合、車両が前後方向に傾く場合における制限対象油面Qを第1対象油面Q1と称する。
【0072】
図5及び図6に示すように、排出口4は、制限対象油面Qよりも下側に位置する部分を有するように設けられている。尚、この場合の「下側」は、車両の姿勢に拘わらず、鉛直方向における下方を指すが、本実施形態では、図5に示すように、基準姿勢において仮想的に制限対象油面Qを設定した場合も、排出口4は、基準油面P0よりも上側であって、制限対象油面Qよりも下側に位置する部分を有するように設けられている。換言すれば、図3に示すように、排出口4は、少なくとも第1油受け部7の上側の先端t7を通り、第2ロータ2rの軸方向Lの全体に亘って第2ロータ2rの下端t2に接する仮想面VPよりも下側に存在する部分を有している。即ち、車両が前後方向にのみ傾斜し、第1油受け部7の先端t7から油があふれ出さない状態で第1油受け部7に油が溜まっている状態で、第2ロータ2rが油に浸からないように、油を第1油受け部7から排出できる位置に排出口4が設けられいている。
【0073】
図7は、車両が前後方向(幅方向H)の他方側に傾いた場合の油面(第2油面P2)と、第2ロータ2r、排出口4及び流入口79との関係を模式的に示している。上述したように、本実施形態では、幅方向第1側H1が車両の前方、幅方向第2側H2が車両の後方に対応しており、図7に示す例は、例えば車両が坂道を下る場合(降坂)を想定している。また、油面Pのみに着目すると、例えば、車両の減速時において前方への負の加速度が車両に生じた場合(油に慣性力による正の加速度が生じた場合)の油面Pも同様の傾きとなる。
【0074】
ここで、第2油面P2は、車両の姿勢変化及び加減速に起因して油面Pが傾いた状態の油面Pであるが、第1油面P1とは異なり、第2油面P2では、油が第2ロータ2rに接する状態とはならない。従って、第2油面P2は、制限対象油面Qではない。図7に示すように、第1油受け部7における油面Pが第2油面P2となる状態では、第1油受け部7から油が溢れだし、第1油受け部7に貯留される油の量が減少している。本実施形態では、図7に示すように、流入口79は、油面Pが傾いても、当該油面P(第2油面P2)よりも下側に位置するように設けられている。従って、この場合においても第1油供給路70を介して第1軸受B1及び第1入力ギヤG10に適切に油を供給することができる。
【0075】
即ち、流入口79は、車両の姿勢変化及び加減速に起因して傾くことによって第1油受け部7における油の貯留量が減少する場合において予め規定された油面P(下限油面、例えば第2油面P2)よりも下側に設けられていると好適である。尚、この下限油面は、車両に許容される前後方向の傾斜角度や、負の加速度等に応じて設定されていると好適である。
【0076】
また、本実施形態では、流入口79は、図6に示すように、制限対象油面Qと平行で排出口4の下端を通る油面P(上限油面P9)よりも下側に位置するように設けられている。第1油受け部7に貯留された油が、排出口4から排出された場合、油面Pは上限油面P9まで低下する。流入口79が上限油面P9よりも下側に位置することにより、第1油受け部7に貯留された油と第2ロータ2rとの干渉を抑制しつつ、十分に流入口79から潤滑用の油を供給することができる。
【0077】
即ち、本実施形態によれば、車両の姿勢変化及び加減速に起因して油面が傾き、排出口4から油が排出された場合であっても、油の流入口79がその際の油面よりも下側に位置するため、油供給路(第1油供給路70)を介して第1軸受B1及び入力ギヤ(第1入力ギヤG10)の少なくとも一方に潤滑用の油を適切に供給することができる。
【0078】
尚、車両が基準姿勢の場合には、基準油面P0よりも下側に位置するように流入口79が設けられていれば、流入口79から潤滑用の油を供給することができる。図5に示すように、基準姿勢の場合には、基準油面P0よりも下側の領域に、上限油面P9よりも上側の領域が含まれる場合がある。従って、基準油面P0よりも下側であって、上限油面P9よりも上側に流入口79が設けられる形態を妨げるものではない。
【0079】
上記においては、車両が前後方向に傾く場合について説明したが、旋回時などでは、道路形状や加速度(車輪W(タイヤ)の撓みやサスペンションの伸縮も含む)によって、車両が左右方向に傾く場合がある。そして、車両が左右方向に傾いた場合においても、第1油受け部7に貯留された油と、第2ロータ2rとが干渉する可能性がある。図8は、軸直交方向視で、車両が水平面に位置している場合(基準姿勢の場合)の油面P(基準油面P0)と、第2ロータ2r、排出口4及び流入口79との関係を模式的に示している。
【0080】
尚、軸方向視で本体ケース97における第1室91の側の壁面を模式的に示した図3、及び図5から図7には、軸方向第2側L2に設けられた第1排出口41のみを例示し、上記においては、これを排出口4として説明した。軸直交方向視の図8から図10では、図3、及び図5から図7を参照して例示した第1排出口41に加えて、第1排出口41よりも軸方向第1側L1に設けられた第2排出口42も有する形態を例示している。尚、図8から図10は模式図であり、排出口4及び流入口79の開口形状は、理解を容易にするために、見る角度に拘わらず図5から図7と同様の形状としている。
【0081】
図9は、車両が左右方向(軸方向L)の一方側に傾いた場合の油面Pと、第2ロータ2r、排出口4及び流入口79との関係を模式的に示している。図9に示す例は、例えば車両が、軸方向第2側L2が下、軸方向第1側L1が上となるように左右方向に傾いている場合を想定している。また、油面Pのみに着目すると、例えば、車両の旋回時において軸方向第1側L1への加速度(遠心力)が車両に生じ、慣性力によって油に軸方向第2側L2への力が作用して油が取り残された場合も同様の傾きとなる。図示は省略するが、車両の旋回時において軸方向第2側L2への加速度(遠心力)が車両に作用し続け、同様に油にも軸方向第2側L2への加速度が作用した場合も、第2ロータ2rに対する油面Pの傾きは図9と同様となる。
【0082】
図10は、車両が左右方向(軸方向L)の他方側に傾いた場合の油面Pと、第2ロータ2r、排出口4及び流入口79との関係を模式的に示している。図10に示す例は、例えば車両が、軸方向第1側L1が下、軸方向第2側L2が上となるように左右方向に傾いている場合を想定している。また、油面Pのみに着目すると、例えば、車両の旋回時において軸方向第2側L2への加速度(遠心力)が車両に生じ、慣性力によって油に軸方向第1側L1への力が作用して油が取り残された場合も同様の傾きとなる。図示は省略するが、車両の旋回時において軸方向第1側L1への加速度(遠心力)が車両に作用し続け、同様に油にも軸方向第1側L1への加速度が作用した場合も、第2ロータ2rに対する油面Pの傾きは図10と同様となる。
【0083】
図9における第3油面P3、及び図10における第4油面P4は、共に、車両の姿勢変化及び加減速に起因して傾くことによって第2ロータ2rに接する状態となった油面Pであり、制限対象油面Qに相当する。これらの制限対象油面Qを、車両が前後方向に傾くことによって第2ロータ2rに接する状態となった場合の制限対象油面Q(第1対象油面Q1)と区別する場合には、第2対象油面Q2と称する。また、第2対象油面Q2としての第3油面P3と第4油面P4とを区別する場合には、第3油面P3を第1の第2対象油面Q21と称し、第4油面P4を第2の第2対象油面Q22と称する。
【0084】
図8に示すように、軸直交方向視においても、流入口79は、少なくとも、その一部、好ましくは全体が基準油面P0よりも下側に位置するように設けられている。本実施形態では、流入口79は、全体が基準油面P0よりも下側に位置するように設けられている。本実施形態では、基準油面P0は、第1油受け部7における、第2ロータ2rよりも下側であって流入口79よりも上側に設定されているということができる。そして、排出口4は、この基準油面P0よりも上側に設けられている。
【0085】
また、図9及び図10に示すように、排出口4は、制限対象油面Q(第2対象油面Q2)よりも下側に位置する部分を有するように設けられている。また、本実施形態では、排出口4として、軸方向視において相対的に軸方向第2側L2に配置された第1排出口41と、軸方向第1側L1に配置された第2排出口42とを有する形態を例示している。
【0086】
軸方向第2側L2が下がるように左右方向に車両が傾いた場合には、図9に示すように、軸方向第2側L2に設けられた第1排出口41の全体が第2対象油面Q2よりも下側に位置し、軸方向第1側L1に設けられた第2排出口42の少なくとも一部が第2対象油面Q2よりも下側に位置するように、排出口4が設けられている。また、軸方向第1側L1が下がるように左右方向に車両が傾いた場合には、図10に示すように、軸方向第1側L1に設けられた第2排出口42の全体が第2対象油面Q2よりも下側に位置し、軸方向第2側L2に設けられた第1排出口41の少なくとも一部が第2対象油面Q2よりも下側に位置するように、排出口4が設けられている。即ち、第2ロータ2rに対して軸方向Lの互いに反対側にそれぞれ第1排出口41及び第2排出口42が設けられることにより、車両が左右方向の何れに傾斜した場合でも、少なくとも何れかの排出口4より油が排出され、第2ロータ2rと第1油受け部7の油とが干渉しにくいように構成されている。
【0087】
また、図6等を参照し、車両が前後方向において傾斜した場合における例について上述したように、車両が左右方向に傾斜した場合においても、本実施形態では、流入口79は、制限対象油面Qと平行で排出口4の下端を通る油面P(上限油面P9)よりも下側に位置するように設けられている。第1油受け部7に貯留された油が、排出口4から排出された場合、油面Pは上限油面P9まで低下する。流入口79が上限油面P9よりも下側に位置することにより、貯留された油と第2ロータ2rとの干渉を抑制しつつ、十分に流入口79から潤滑用の油を供給することができる。
【0088】
また、上述したように、本実施形態では、制限対象油面Qには、車両が前後方向に傾くことによって第2ロータ2rに接する状態となった油面Pである第1対象油面Q1と、車両が左右方向に傾くことによって第2ロータ2rに接する状態となった油面Pである第2対象油面Q2とが含まれる。そして、排出口4は、第1対象油面Q1及び第2対象油面Q2の双方よりも下側に位置する部分を有するように設けられている。
【0089】
このような構成により、車両の姿勢変化及び加減速に起因して、車両の前後方向に油面Pが傾いた場合と車両の左右方向に油面Pが傾いた場合との双方で、排出口4から油が排出されるため、油受け部(第1油受け部7)の油面Pをロータ(第2ロータ2r)の下端よりも下側に維持し易い。油の流入口79は、それらの場合における油面Pである第1対象油面Q1及び第2対象油面Q2よりも下側に位置する。このため、油供給路(第1油供給路70)を介して第1軸受B1及び入力ギヤ(第1入力ギヤG10)の少なくとも一方に潤滑用の油を適切に供給することができる。また、油面Pが傾く方向に拘わらず、排出口4及び流入口79を設ける構造を簡略化し易い。
【0090】
また、本実施形態では、排出口4に、第1排出口41と第2排出口42とが含まれる。そして、第1排出口41は、図5及び図6に示すように、第1対象油面Q1よりも下側に位置する部分を有するように設けられている。また、第2排出口42は、第2対象油面Q2(第1の第2対象油面Q21、第2の第2対象油面Q22の双方)よりも下側に位置する部分を有するように設けられている。
【0091】
このような構成により、車両の姿勢変化及び加減速に起因して、車両の前後方向に油面Pが傾いた場合と車両の左右方向に油面Pが傾いた場合との双方で、第1排出口41又は第2排出口42から油が排出されるため、油受け部(第1油受け部7)の油面Pをロータ(第2ロータ2r)の下端よりも下側に維持し易い。油の流入口79は、それらの場合における油面Pである第1対象油面Q1及び第2対象油面Q2よりも下側に位置する。このため、油供給路(第1油供給路70)を介して第1軸受B1及び入力ギヤ(第1入力ギヤG10)の少なくとも一方に潤滑用の油を適切に供給することができる。また、油面が傾く方向に応じて、第1排出口41及び第2排出口42を配置することで、排出口4を適切な位置に設け易く、排出口4及び流入口79を設ける構造が複雑化することを抑制できる。
【0092】
尚、排出口4は、前後方向への傾斜にのみ対応する排出口4と、左右方向にのみ対応する排出口4とがそれぞれ別に設けられていても良いし、単一の排出口4が、前後方向への傾斜及び左右方向への傾斜の双方に対応するものであってもよい。また、排出口4が複数箇所に設けられる場合において、前後方向への傾斜及び左右方向への傾斜の内の何れか一方側への傾斜にのみ対応する排出口4と、双方に対応する排出口4とが共に含まれていてもよい。当然ながら、排出口4が複数箇所に設けられる場合において、全ての排出口4が前後方向への傾斜及び左右方向への傾斜の双方に対応する排出口4であってもよい。
【0093】
また、第1排出口41が、車両が前後方向に傾いた場合における油の排出に対して限定的に作用し、第2排出口42が、車両が左右方向に傾いた場合における油の排出に対して限定的に作用する場合には、第1排出口41及び第2排出口42が下記のように設けられていてもよい。例えば、第1排出口41は、第1対象油面Q1よりも下側に位置する部分を有するように設けられ、且つ、第2対象油面Q2よりも上側に位置するように設けられていてもよい。また、第2排出口42は、第2対象油面Q2よりも下側に位置する部分を有するように設けられ、且つ、第1対象油面Q1よりも上側に位置するように設けられていてもよい。
【0094】
また、本実施形態では、車両が前後方向に傾斜する場合、及び左右方向に傾斜する場合の双方において、第2ロータ2rと第1油受け部7の油との干渉を抑制できるように構成されている形態を例示した。しかし、車両が前後方向に傾斜する場合と、左右方向に傾斜する場合との出現頻度や、出現した場合の影響等を考慮して、車両が前後方向に傾斜する場合と、左右方向に傾斜する場合との何れか一方のみにおいて、第2ロータ2rと第1油受け部7の油との干渉を抑制できるように構成されていてもよい。
【0095】
上述したように、本実施形態の車両用駆動装置100は、第1回転電機1と第2回転電機2とを備えている。そして、動力伝達機構20は、第1入力部材11と出力部材5と第1回転電機1と第2回転電機2との間の動力伝達状態を変更することで、第1入力部材11と第1回転電機1との間で駆動力が伝達され、第2回転電機2と出力部材5との間で駆動力が伝達される状態となるシリーズモードと、入力部材(第1入力部材)と第2回転電機2と出力部材5との間で駆動力が伝達される状態となるパラレルモードとの2つの動作モードを実行可能である。
【0096】
シリーズモードでは、内燃機関3の駆動力によって第1回転電機1により発電を行い、第2回転電機2により車輪Wが駆動される。例えば、シリーズモードで停車中には、内燃機関3の駆動力によって第1軸受B1に支持された入力部材(第1入力部材11)が回転する一方で、出力部材5は回転していない状態となる場合がある。本実施形態によれば、このように、出力部材5が回転していない状態で掻き上げによる油の供給ができなくなるような場合であっても第1軸受B1及び入力ギヤ(第1入力ギヤG10)の少なくとも一方に油を供給することができる。つまり、シリーズモードで停車中であっても、発電のために回転する入力部材(第1入力部材11)を支持する第1軸受B1、及び入力部材(第1入力部材11)と一体的に回転する入力ギヤ(第1入力ギヤG10)の少なくとも一方を適切に潤滑することができる。
【0097】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0098】
(1)図11は、油受け部の別の構成例を示している。以下、共通する部分については図1から図4を参照して上述した形態と同一の符号を用いて説明する。図11に示すように、第1室91には、第1油受け部7(第2の第1油受け部7B)に加えて、第3油受け部73が設けられていてもよい。例えば、第1油受け部7を形成するリブ(第2の第1本体側リブ75B)に、上下方向Vにおいて第1の第1油路71と同じ位置に、第1の第1油路71と隣接するように、分岐油路72が形成される。第1の第1油路71と分岐油路72とは、上下方向Vにおける同じ位置に形成されているため、第1油受け部7に溜まった油は、ほぼ同じ割合で両油路を通って流れる。尚、分岐油路72は、第1本体側リブ75に当接する第1カバー側リブに形成されていても良いし、第1本体側リブ75と第1カバー側リブとの双方に形成されていてもよい。第3油受け部73は、第1油受け部7の下方V2に、分岐油路72からの油を受けるように形成されている。
【0099】
尚、第3油受け部73も第1油受け部7と同様に本体ケース97に形成されたリブ(第3本体側リブ76)と回転電機側カバーケースに形成されたリブ(第3カバー側リブ(不図示))との当接によって形成されている。第3油受け部73には、区画壁95を貫通して、第1室91と第2室92とを連通する第3油路74が設けられている。第3油路74を通った油は、第1入力部材11の第1軸受B1を潤滑する。第3油受け部73に貯留される油は、第1油受け部7から供給されているから、第3油路74は、第1油受け部7に溜まった油を、入力部材を支持する第1軸受B1に供給している。つまり、第3油路74は、第1の第1油路71と共に第1油供給路70を構成している。また、図2を参照して上述したように、第3油路74を通った油は、図示左側の第1軸受B1を潤滑した後、第1入力部材11の軸内空間11eに供給される。この油は、軸内潤滑を行うと共に、軸内空間11eから径方向に設けられた油路を介して他の部位の潤滑にも用いられる。
【0100】
(2)車両用駆動装置100の形態は、上述したような、第2回転電機2を含む2つの回転電機(第1回転電機1、第2回転電機2)を備え、内燃機関3から車輪Wまでの動力伝達経路に、内燃機関3、一方の回転電機(第1回転電機1)、他方の回転電機(第2回転電機2)、車輪Wが記載の順に配置された形態(いわゆる2モータシリーズパラレルハイブリッド)には限らない。内燃機関3が配置される軸(第1軸A1)が、油受け部(第1油受け部7)との干渉を抑制する対象のロータ(第2ロータ2r)が配置される軸(第2軸A2)よりも上下方向Vの下側に位置している形態であれば、他の構成であってもよい。
【0101】
例えば、車両用駆動装置100は、内燃機関から車輪までの動力伝達経路に、内燃機関、1つの回転電機、車輪が記載の順に配置された、いわゆる1モータパラレルハイブリッドの形態であってもよい。また、車両用駆動装置100が、1モータパラレルハイブリッドの場合は、内燃機関、車輪が記載の順に配置された動力伝達経路に対して並列に回転電機が配置され、当該回転電機がその動力伝達経路にトルクを伝達可能な形態であってもよい。また、車両用駆動装置100は、動力分割機構を備えた2モータスプリットハイブリッドであってもよい。
【0102】
(3)上記においては、第2軸A2が、第1軸A1よりも上方に配置され、第1油供給路70が、第1油受け部7に溜まった油を、流入口79から第1入力部材11を支持する第1軸受B1、及び第1入力部材11と一体的に回転する第1入力ギヤG10の少なくとも一方へ供給する形態を例示して説明した。しかし、第1軸A1と第2軸A2との配置はこの構成に限定されるものではなく、第1油供給路70を介した油の供給先にも第1軸受B1及び第1入力ギヤG10が含まれていなくてもよい。第1油供給路70は、任意の潤滑対象箇所へ油を供給する形態を採ることができる。即ち、第1油供給路70は、第1油受け部7に溜まった油を、当該第1油受け部7に面して形成された流入口79から潤滑対象箇所へ供給するものであればよい。
【0103】
〔本実施形態のまとめ〕
以下、上記において説明した車両用駆動装置(100)について簡単にまとめる。
【0104】
1つの態様として、車両用駆動装置(100)は、内燃機関(3)に駆動連結され、第1軸(A1)に配置された入力部材(11)と、車輪(W)に駆動連結される出力部材(5)と、前記第1軸(A1)とは別軸であって前記第1軸(A1)と平行な第2軸(A2)に配置され、ロータ(2r)を備えた回転電機(2)と、前記入力部材(11)と前記出力部材(5)と前記回転電機(2)との間で動力を伝達する動力伝達機構(20)とを備えた車両用駆動装置(100)であって、前記回転電機(2)に供給されて前記回転電機(2)から落下する冷却用の油を受けるように、前記回転電機(2)の下方に配置された油受け部(7)と、前記油受け部(7)に溜まった油を、前記油受け部(7)に面して形成された流入口(79)から潤滑対象箇所へ供給する油供給路(70)と、前記油受け部(7)に面して形成され、前記油受け部(7)の油を排出する排出口(4)と、を備え、前記排出口(4)は、前記油受け部(7)における、前記ロータ(2r)よりも下側であって前記流入口(79)よりも上側に設定された基準油面(P0)よりも上側であって、車両の姿勢変化及び加減速に起因して傾くことによって前記ロータ(2r)に接する状態となった油面である制限対象油面(Q)よりも下側に位置する部分を有するように設けられている。
【0105】
この構成によれば、回転電機(2)の冷却用に供給された後の油を利用して、潤滑対象箇所の潤滑を行うことができる。従って、潤滑対象箇所の潤滑のために例えばオイルポンプなど、別の油供給源を設けることが不要となる。また本構成によれば、例えば、登坂、降坂、旋回等に伴う車両の姿勢変化や加減速に起因した油受け部(7)の油面(P)の傾きが生じた場合にも、当該油面(P)をロータの下端(t2)より下側に維持し易い。従って、油受け部(7)の油がロータ(2r)によって撹拌されることによるロータ(2r)の回転抵抗の増加や、油の泡立ちによる熱交換量の低下を回避し易い。このように、本構成によれば、車両の姿勢変化や加速度等によって貯留された油の油面(P)が傾いた場合におけるロータ(2r)との干渉を少なく抑えつつ、回転電機(2)を冷却した後の油を貯留して、回転電機(2)とは別の潤滑対象箇所に適切に油を供給することができる車両用駆動装置(100)を実現することができる。
【0106】
ここで、前記流入口(79)が、前記制限対象油面(Q)と平行で前記排出口(4)の下端を通る油面(P9)よりも下側に位置するように設けられていると好適である。
【0107】
油受け部(7)に貯留された油が、排出口(4)から排出された場合、油面(P)は、制限対象油面(Q)と平行で前記排出口(4)の下端を通る油面(P9)まで低下する。流入口(79)が当該油面(P9)よりも下側に位置することにより、貯留された油とロータ(2r)との干渉を抑制しつつ、十分に流入口(79)から潤滑用の油を供給することができる。
【0108】
また、前記制限対象油面(Q)には、前記車両が前後方向に傾くことによって前記ロータ(2r)に接する状態となった油面(P)である第1対象油面(Q1)と、前記車両が左右方向に傾くことによって前記ロータ(2r)に接する状態となった油面である第2対象油面(Q2)と、が含まれ、前記排出口(4)は、前記第1対象油面(Q1)及び前記第2対象油面(Q2)の双方よりも下側に位置する部分を有するように設けられていると好適である。
【0109】
このような構成により、車両の姿勢変化及び加減速に起因して、車両の前後方向に油面(P)が傾いた場合と車両の左右方向に油面(P)が傾いた場合との双方で、排出口(4)から油が排出されるため、油受け部(7)の油面(P)をロータ(2r)の下端(2t)よりも下側に維持し易い。油の流入口(79)は、第1対象油面(Q1)及び第2対象油面(Q2)よりも下側に位置するため、油供給路(70)を介して潤滑対象箇所に潤滑用の油を適切に供給することができる。また、油面(P)が傾く方向に拘わらず、排出口(4)及び流入口(79)を設ける構造を簡略化し易い。
【0110】
また、前記制限対象油面(Q)には、前記車両が前後方向に傾くことによって前記ロータ(2r)に接する状態となった油面(P)である第1対象油面(Q1)と、前記車両が左右方向に傾くことによって前記ロータ(2r)に接する状態となった油面である第2対象油面(Q2)と、が含まれ、前記排出口(4)には、第1排出口(41)と第2排出口(42)とが含まれ、前記第1排出口(41)が、前記第1対象油面(Q1)よりも下側に位置する部分を有するように設けられ、前記第2排出口(42)が、前記第2対象油面(Q2(Q21,Q22))よりも下側に位置する部分を有するように設けられていると好適である。
【0111】
このような構成により、車両の姿勢変化及び加減速に起因して、車両の前後方向に油面(P)が傾いた場合と車両の左右方向に油面(P)が傾いた場合との双方で、第1排出口(41)又は第2排出口(42)から油が排出されるため、油受け部(7)の油面(P)をロータ(2r)の下端よりも下側に維持し易い。油の流入口(79)は、第1対象油面(Q1)及び第2対象油面(Q2(Q21,Q22))よりも下側に位置するため、油供給路(70)を介して潤滑対象箇所に潤滑用の油を適切に供給することができる。また、油面(P)が傾く方向に応じて、第1排出口(41)及び第2排出口(42)を配置することで、排出口(4)を適切な位置に設け易く、排出口(4)及び流入口(79)を設ける構造が複雑化することを抑制できる。
【0112】
また、車両用駆動装置(100)は、前記第2軸(A2)が、前記第1軸(A1)よりも上方に配置され、前記油供給路(70)が、前記油受け部(7)に溜まった油を、前記流入口(79)から前記入力部材(11)を支持する第1軸受(B1)、及び前記入力部材(11)と一体的に回転する入力ギヤ(G10)の少なくとも一方へ供給すると好適である。
【0113】
車両用駆動装置(100)が回転電機(2)とは別の回転電機を備えている場合などでは、例えば、車輪(W)の停止中に内燃機関(3)を駆動し、回転電機(2)とは別の回転電機を回生動作させて発電させることができる。このとき、出力部材(5)と回転電機(2)との間で動力を伝達する動力伝達機構(20)の回転部材の多くが回転せず、掻き上げ等によって供給可能な油の量は減少する場合がある。一方、内燃機関(3)に駆動連結されている入力部材(11)は内燃機関(3)と共に回転し、入力部材(11)を支持する第1軸受(B1)と入力部材(11)とは相対回転する。本構成によれば、入力部材(11)と一体的に回転する入力ギヤ(G10)や、入力部材(11)を回転自在に支持する第1軸受(B1)に、油供給路(70)を介して油受け部(7)に溜まった油を適切に供給することができる。
【0114】
また、車両用駆動装置(100)は、前記回転電機(2)を収容する第1室(91)と、前記動力伝達機構(20)を収容する第2室(92)と、前記第1室(91)と前記第2室(92)とを区画する区画壁(95)とを備えたケース(9)を備え、前記油供給路(70)は、前記区画壁(95)を貫通して前記第1室(91)と前記第2室(92)とを連通し、前記第1室(91)に配置された前記油受け部(7)から前記第2室(92)へ油を供給すると好適である。
【0115】
回転電機(2)と動力伝達機構(20)とがそれぞれ区画された第1室(91)及び第2室(92)に収容される場合、回転電機(2)に供給されて回転電機(2)から落下する油を受ける油受け部(7)は、回転電機(2)が収容される第1室(71)に配置されることが好ましい。第2室(92)に配置された動力伝達機構(20)には、多くの回転部材や回転部材を支持する部材(例えば軸受)が含まれることが多い。従って、潤滑対象箇所の多くが、第2室(92)に配置されている可能性が高くなる。本構成によれば、第1室(91)と第2室(92)とを区画する区画壁(95)を貫通して、第1室(91)と第2室(92)とを連通するように油供給路(70)が形成されている。従って、潤滑対象箇所が第2室(92)に配置されていても、油受け部(7)に溜まった油を、適切に潤滑対象箇所へ供給することができる。
【符号の説明】
【0116】
1:第1回転電機、2:第2回転電機(回転電機)、2r:第2ロータ(ロータ)、3:内燃機関、4:排出口、5:出力部材、7:第1油受け部(油受け部)、7B:第2の第1油受け部(油受け部)、9:ケース、11:第1入力部材(第1軸に配置された入力部材)、20:動力伝達機構、41:第1排出口、42:第2排出口、70:第1油供給路(油供給路)、71:第1の第1油路(油供給路)、77:第2の第1油路(油供給路)、79:流入口、91:第1室、92:第2室、95:区画壁、100:車両用駆動装置、A1:第1軸、A2:第2軸、B1:第1軸受、G10:第1入力ギヤ(入力部材と一体的に回転する入力ギヤ)、P:油面、P0:基準油面、Q:制限対象油面、Q1:第1対象油面、Q2:第2対象油面、Q21:第1の第2対象油面(第2対象油面)、Q22:第2の第2対象油面(第2対象油面)、W:車輪
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