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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】発振回路および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
H03B5/32 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022538596
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017498
(87)【国際公開番号】W WO2022018930
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2020125663
(32)【優先日】2020-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515217498
【氏名又は名称】株式会社Piezo Studio
(73)【特許権者】
【識別番号】504151365
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】野原 正也
(72)【発明者】
【氏名】木村 悟利
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-53906(JP,A)
【文献】特開2005-86664(JP,A)
【文献】特開2005-244546(JP,A)
【文献】米国特許第6160457(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0121752(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0241791(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源端子と、接地端子と、振動子と、
前記振動子の両端の間に直列に接続された第1及び第2の容量と、前記振動子と前記第1の容量に接続される入力端子と、前記第1の容量と前記第2の容量に接続される出力端子と、ソース端子が前記出力端子に接続され、ドレイン端子が前記電源端子と接続された第1のスイッチに接続され、ゲート端子が前記入力端子に接続される第1のN型トランジスタと、ソース端子が前記出力端子に接続され、ドレイン端子が前記接地端子と接続された第2のスイッチに接続され、ゲート端子が前記入力端子に接続される第1のP型トランジスタと、ソース端子が前記電源端子に接続され、ドレイン端子が前記第1のN型トランジスタのゲート端子及び前記入力端子に接続される第2のP型トランジスタと、ソース端子が前記接地端子に接続され、ドレイン端子が前記第1のP型トランジスタのゲート端子及び前記入力端子に接続される第2のN型トランジスタを有する増幅回路
を含む発振回路。
【請求項2】
請求項1の発振回路において、
前記第1のスイッチは、発振動作時に前記第1のN型トランジスタのドレインと前記電源端子とを接続し、発振停止時に当該第1のN型トランジスタのドレインと前記電源端子とを切り離し、前記第2のスイッチは、発振動作時に前記第1のP型トランジスタのドレインと前記接地端子とを接続し、発振停止時に当該前記第1のP型トランジスタのドレインと前記接地端子とを切り離し、前記第2のP型トランジスタのゲートは発振動作時にオフに、発振停止時にオンになるよう制御され、前記第2のN型トランジスタのゲートは発振動作時にオフに、発振停止時にオンになるよう制御される発振回路。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の発振回路を備えたことを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子を用いた発振回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やIoT(Internet-Of-Things)機器などの無線回路付き小型電子機器においては、バッテリーの長寿命化が求められていることから、機器に使われている電子回路や電子部品の低消費電力化が重要技術課題となっている。
【0003】
小型電子機器では、従来から、図10に示すような水晶振動子を用いたインバータベースのピアース(Pierce)発振回路が広く使われている(特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。ピアース発振回路は、水晶振動子X10と、インバータINV10と、容量C10,C11とから構成される。
【0004】
ピアース発振回路は、構成がシンプルなことから、長い間使われてきた。しかしながら、ピアース発振回路は、発振するための電圧成分が大きく取れず、定常的に電流を流すために消費電力が大きい、という課題があった。また、ピアース発振回路は、発振起動時間が遅いという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3409061号公報
【文献】特開2004-328257号公報
【文献】国際公開WO2013/035346号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、低消費電力および高速発振起動を実現することができる発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発振回路は、電源端子と、接地端子と、振動子と、前記振動子の両端の間に直列に接続された第1及び第2の容量と、前記振動子と前記第1の容量に接続される入力端子と、前記第1の容量と前記第2の容量に接続される出力端子と、ソース端子が前記出力端子に接続され、ドレイン端子が前記電源端子と接続された第1のスイッチに接続され、ゲート端子が前記入力端子に接続される第1のN型トランジスタと、ソース端子が前記出力端子に接続され、ドレイン端子が前記接地端子と接続された第2のスイッチに接続され、ゲート端子が前記入力端子に接続される第1のP型トランジスタと、ソース端子が前記電源端子に接続され、ドレイン端子が前記第1のN型トランジスタのゲート端子及び前記入力端子に接続される第2のP型トランジスタと、ソース端子が前記接地端子に接続され、ドレイン端子が前記第1のP型トランジスタのゲート端子及び前記入力端子に接続される第2のN型トランジスタを有する増幅回路を含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の発振回路の1構成例において、前記第1のスイッチは、発振動作時に前記第1のN型トランジスタのドレインと前記電源端子とを接続し、発振停止時に当該第1のN型トランジスタのドレインと前記電源端子とを切り離し、前記第2のスイッチは、発振動作時に前記第1のP型トランジスタのドレインと前記接地端子とを接続し、発振停止時に当該前記第1のP型トランジスタのドレインと前記接地端子とを切り離し、前記第2のP型トランジスタのゲートは発振動作時にオフに、発振停止時にオンになるよう制御され、前記第2のN型トランジスタのゲートは発振動作時にオフに、発振停止時にオンになるよう制御されるものである。
また、本発明の電子機器は、上記の発振回路を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、増幅回路の第1のN型トランジスタのゲート端子を、第2のP型トランジスタのON時に電源電圧と接続し、第1の容量と第3の容量とを介して増幅回路の出力電圧を第1のN型トランジスタのゲート端子に帰還し、また増幅回路の第1のP型トランジスタのゲート端子を、第2のN型トランジスタのON時にグラウンドと接続し、第1の容量と第4の容量とを介して増幅回路の出力電圧を第1のP型トランジスタのゲート端子に帰還することにより、低消費電力および高速発振起動を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、従来のコルピッツ発振回路の構成を示す回路図である。
図2図2は、本発明の実施例に係る発振回路の構成を示す回路図である。
図3図3は、本発明の実施例に係る発振回路におけるバイアス用のPMOSトランジスタとNMOSトランジスタのOFF時の等価回路図である。
図4図4は、本発明の実施例に係る発振回路の出力電圧の変動範囲、バイアス用のPMOSトランジスタとNMOSトランジスタのゲート電圧およびゲート-ソース間電圧の変動範囲を示す図である。
図5図5は、本発明の実施例に係る発振回路における発振起動後の発振波形を示す図である。
図6図6は、従来のピアース発振回路と本発明の実施例に係る発振回路における出力電圧およびトランジスタの電流の波形を示す図である。
図7図7は、ピアース発振回路のインバータの構成を示す回路図である。
図8図8は、従来のピアース発振回路と本発明の実施例に係る発振回路の位相雑音特性を示す図である。
図9図9は、ランガサイト型圧電単結晶の振動子および水晶振動子の等価回路図である。
図10図10は、従来のピアース発振回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。まず、本実施例の発振回路の基になるコルピッツ(Colpitts)発振回路の構成を図1に示す。コルピッツ発振回路は、振動子Xと、増幅回路Aと、2つの容量C,Cとから構成される。
【0012】
<発振回路の構成>
このコルピッツ発振回路を基に、増幅器を低消費電力化した本実施例の発振回路を図2に示す。本実施例の発振回路は、電源端子(図示しない)と、接地端子(図示しない)と、振動子Xと、振動子Xの両端子間に直列に接続された容量C,Cと、入力端子が振動子Xと容量Cとの接続点に接続され、出力端子が容量Cと容量Cとの接続点に接続された増幅回路Aとを備えている。なお、電源端子とは、電源電圧の高電位側(例えばVdd)と接続される端子であり、また、接地端子とは、電源電圧の低電位側(例えばアース電位やVss)に接続される端子である。
【0013】
増幅回路Aは、ソース端子が増幅回路Aの出力端子に接続されたNMOSトランジスタ(N型トランジスタ)Mと、ソース端子が増幅回路Aの出力端子に接続されたPMOSトランジスタ(P型トランジスタ)Mと、ゲート端子にバイアスリセット信号バーBRが入力され、ドレイン端子がNMOSトランジスタMのゲート端子に接続され、ソース端子が電源電圧Vddに接続されたPMOSトランジスタMと、ゲート端子にバイアスリセット信号BRが入力され、ドレイン端子がPMOSトランジスタMのゲート端子に接続されソース端子がグラウンドに接続されたNMOSトランジスタMと、一端が増幅回路Aの入力端子に接続され、他端がNMOSトランジスタMのゲート端子に接続された容量Ccut1と、一端が増幅回路Aの入力端子に接続され、他端がPMOSトランジスタMのゲート端子に接続された容量Ccut2と、発振停止時にNMOSトランジスタMのドレイン端子と電源電圧Vddとを切り離し、発振動作時にNMOSトランジスタMのドレイン端子と電源電圧Vddとを接続するスイッチSWと、発振停止時にPMOSトランジスタMのドレイン端子とグラウンドとを切り離し、発振動作時にPMOSトランジスタMのドレイン端子とグラウンドとを接続するスイッチSWとから構成される。
【0014】
容量Ccut1は、NMOSトランジスタMのゲート端子及びPMOSトランジスタMのドレイン端子と増幅回路の入力端子との間に接続される。また、容量Ccut2は、PMOSトランジスタMのゲート端子及びNMOSトランジスタMのドレイン端子と増幅回路の入力端子との間に接続される。これらの容量Ccut1及び容量Ccut2は、直流電流成分などのノイズを除去する回路部品として機能する。N型トランジスタ(M、M)及びP型トランジスタ(M、M)として、CMOSを用いてもよい。
【0015】
本願の明細書及び請求の範囲において、「AとBとが接続されている」と明示的に記載する場合は、AとBとが電気的に接続されている場合と、AとBとが機能的に接続されている場合と、AとBとが直接接続されている場合とを含むものとする。ここで、A、Bは、対象物(例えば、装置、素子、回路、配線、電極、端子、導電膜、層、など)であるとする。したがって、所定の接続関係、例えば、図または文章に示された接続関係に限定されず、図または文章に示された接続関係以外のものも含むものとする。
【0016】
例えば、AとBとが電気的に接続されている場合として、AとBとの電気的な接続を可能とする素子(例えば、スイッチ、トランジスタ、容量素子、インダクタ、抵抗素子、ダイオードなど)が、AとBとの間に1個以上接続されていてもよい。
【0017】
また、スイッチとしてN型又はP型トランジスタを用いる場合、スイッチは、入力端子(ソース端子又はドレイン端子の一方)と、出力端子(ソース端子又はドレイン端子の一方)と、導通を制御する端子(ゲート端子)とを有している。ゲート端子に正又は負の電圧を加えることにより、入力端子から出力端子に対して流れる電流を制御できるため、スイッチとして機能する。スイッチがオンになったとき、スイッチの両端にある端子は接続されたことになり、一方、スイッチがオフになったとき、スイッチの両端にある端子は切り離されたことになる。
【0018】
NMOSトランジスタMとPMOSトランジスタMとは、カスコード接続されたコンプリメンタリー(相互補完)対を構成している。NMOSトランジスタMのゲート端子は、PMOSトランジスタMのON時に電源電圧Vddと接続され、容量C,Ccut1を介して増幅回路Aの出力電圧が帰還されるようになっている。PMOSトランジスタMのゲート端子は、NMOSトランジスタMのON時にグラウンドと接続され、容量C,Ccut2を介して増幅回路Aの出力電圧が帰還されるようになっている。
【0019】
<発振回路の動作>
PMOSトランジスタM、NMOSトランジスタMのゲート端子に入力されるバイアスリセット信号バーBR及びバイアスリセット信号BR、スイッチSW、スイッチSWを制御する発振許可信号ENは、発振の開始動作、停止動作、及び発振動作を制御する制御回路(図示しない)を発振回路の内部あるいは外部に設けることにより実現することができる。
【0020】
発振起動する際は高いトランスコンダクタンスgmが必要であるので、バイアスリセット信号BRは発振停止時にHigh、バイアスリセット信号バーBRは発振停止時にLowとなっている。したがって、PMOSトランジスタMとNMOSトランジスタMがON状態となり、NMOSトランジスタMとPMOSトランジスタMがON状態となる。
【0021】
また、発振停止時には発振許可信号ENがLowとなり、スイッチSW,SWがOFF状態となる。スイッチSW,SWとしては、例えばNMOSトランジスタを使用することができる。スイッチSWとなるNMOSトランジスタのゲート端子には発振許可信号ENが入力され、ドレイン端子が電源電圧Vddに接続され、ソース端子がNMOSトランジスタMのドレイン端子に接続される。スイッチSWとなるNMOSトランジスタのゲート端子には発振許可信号ENが入力され、ドレイン端子がPMOSトランジスタMのドレイン端子に接続され、ソース端子がグラウンドに接続される。
【0022】
一方、発振動作時には、バイアスリセット信号BRがLow、バイアスリセット信号バーBRがHighとなる。したがって、PMOSトランジスタMとNMOSトランジスタMがOFF状態となる。このOFF状態のとき、PMOSトランジスタMは、図3(A)のようにダイオードDと抵抗Rとからなる等価回路で表される。また、NMOSトランジスタMは、図3(B)のようにダイオードDと抵抗Rとからなる等価回路で表される。
【0023】
すなわち、PMOSトランジスタMがOFFの状態では、NMOSトランジスタMのゲート電圧VgNは、ダイオードDのリーク電流による電圧でバイアスされることになる。同様に、NMOSトランジスタMがOFFの状態では、PMOSトランジスタMのゲート電圧VgPは、ダイオードDのリーク電流による電圧でバイアスされることになる。抵抗RはダイオードDのリーク電流が流れる抵抗成分を表し、抵抗RはダイオードDのリーク電流が流れる抵抗成分を表している。
【0024】
PMOSトランジスタMを例にとると、ダイオードDのリーク電流は、常にNMOSトランジスタMのゲート電圧VgNを引き上げて、発振を維持するように働く。大信号により発振が始まると、NMOSトランジスタMのゲート端子は、容量C,Ccut1を介した増幅回路Aの出力からの帰還によって動的にバイアスされる。ただし、ダイオードDにより、NMOSトランジスタMのゲート電圧VgNは、最高値がVth3+Vddの電圧値にクランプされることになる(Vth3はPMOSトランジスタMのしきい値電圧)。同様に、ダイオードDにより、PMOSトランジスタMのゲート電圧VgPは、最低値が-Vth4の電圧値にクランプされることになる(Vth4はNMOSトランジスタMのしきい値電圧)。
【0025】
発振動作時における発振回路(増幅回路A)の出力電圧Vout、NMOSトランジスタMのゲート電圧VgN、PMOSトランジスタMのゲート電圧VgP、NMOSトランジスタMのゲート-ソース間電圧VgsN、PMOSトランジスタMのゲート-ソース間電圧VgsPの変動範囲を図4に示す。
また、発振動作時には発振許可信号ENがHighとなり、スイッチSW,SWがON状態となる。
【0026】
<発振回路の発振波形>
発振起動後の発振波形を図5に示す。IはNMOSトランジスタMのソース電流、IはPMOSトランジスタMのソース電流である。NMOSトランジスタMのゲート-ソース間電圧VgsNとPMOSトランジスタMのゲート-ソース間電圧VgsPは、発振起動時(バイアスリセット信号バーBRと発振許可信号ENがHighになったとき)に比較的高い電圧から始まり、その後、発振定常状態で-Vth4からVth3の電圧範囲に収まることが分かる。したがって、NMOSトランジスタMとPMOSトランジスタMを流れる電流は、定常状態では非常に小さくなる。
【0027】
図6は、発振定常状態における発振回路の出力電圧Vout、NMOSトランジスタMのソース電流I、およびPMOSトランジスタMのソース電流Iの波形を示す図である。ここでは、C=18pF、C=9pFとし、発振回路(増幅回路A)の出力端子に接続される負荷の容量を6pFとした。
【0028】
比較のため、容量C,Cと負荷容量を本実施例と同じ値にしたときのピアース発振回路の出力電圧Vout10と、インバータのトランジスタの電流IN10,IP10図6に示す。図10に示したピアース発振回路のインバータINV10は、図7に示すようにPMOSトランジスタMと、NMOSトランジスタMとから構成される。
【0029】
図6から分かるように、ピアース発振回路の電流IN10,IP10に比べ、本実施例の発振回路の電流I,Iは、出力電圧Voutが極値になるタイミングにおいてのみ流れ、また電流量も非常に小さい。したがって、本実施例によれば、発振状態において大幅な低電力化を実現できることが分かる。実際に、本実施例の発振回路の定常状態消費電力Pssは、ピアース発振回路の定常状態消費電力に比べて約1/10と小さいことが分かった。
【0030】
<発振回路の位相雑音特性>
図8に、本実施例の発振回路と従来のピアース発振回路のそれぞれの位相雑音特性を示す。図8のNはピアース発振回路の位相雑音を示し、Nは本実施例の発振回路の位相雑音を示している。通信機器に重要な発振回路性能である位相雑音は、従来のピアース発振回路と比較すると、発振回路の基本周波数に対するオフセット周波数が100Hzまでの範囲で約9dB改善されることが分かった。このように、本実施例の発振回路を使うことで、通信機器の低位相雑音化にも貢献できることが明らかとなった。
【0031】
<発振回路における振動子>
発振回路の振動子Xとしては、水晶型振動子、ランガサイト型圧電単結晶振動子等の種々の振動子を用いることができる。発振回路をより高速で発振起動させ、より低い発振起動エネルギーを実現するために、本実施例では、振動子Xとしてランガサイト型圧電単結晶の振動子を用いる。ランガサイト型圧電単結晶は種々あるが、実験ではCaTaGaSi14(CTGSと呼ぶ)を用いた振動子を使った。ランガサイトとは、CTGSのほか、CaNbGaSi14(CNGSと呼ぶ)、CaTa(Ga1-XAlSi14(CTGASと呼ぶ)、CaNb(Ga1-XAlSi14(CNGASと呼ぶ)などの化学組成で表現される単結晶であり、ランガサイト型圧電単結晶は、CTGSを用いた振動子に限定されるものではない。使用したCTGS振動子、ならびに参考のため使用した水晶振動子(Quartz)の等価回路を図9(A)、図9(B)に示す。図9(B)は図9(A)を簡略化した等価回路図である。図9(A)、図9(B)の線100より左側は振動子の等価回路を示し、線100より右側は発振回路の等価回路を示している。容量C、インダクタンスL、抵抗R、容量C、抵抗R、Q値を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
振動子XとしてCTGS振動子を用いて実験した結果、本実施例の発振回路の発振起動時間Tsは0.37msで、発振起動エネルギーEsは30nJとなった。一方、振動子Xとして水晶振動子を用いた場合、図2の発振回路の発振起動時間Tsは3.6ms、発振起動エネルギーEsは320nJであった。
【0034】
したがって、振動子XとしてCTGS振動子を用いた場合、水晶振動子を用いた場合よりも約一桁早い発振起動時間を実現することができ、発振起動エネルギーも約一桁小さくすることができ、低消費電力化を実現できることが確認された。
【0035】
以上のように、本実施例によれば、高速発振起動を実現することができ、発振起動後の定常発振状態において低消費電力の発振回路を実現することができる。
したがって、本実施例の発振回路を例えば携帯電話機やIoT機器などの電子機器に適用すれば、低消費電力の電子機器の実現に貢献することができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、小型電子機器で用いる発振回路に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
…増幅回路、C,C,Ccut1,Ccut2…容量、M~M…トランジスタ、SW,SW…スイッチ、X…振動子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10