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特許7622947高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造、高定着型コケ植物利用緑化用マット、高定着型コケ植物利用緑化体、および高定着型コケ植物利用緑化方法
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  • 特許-高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造、高定着型コケ植物利用緑化用マット、高定着型コケ植物利用緑化体、および高定着型コケ植物利用緑化方法 図1
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  • 特許-高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造、高定着型コケ植物利用緑化用マット、高定着型コケ植物利用緑化体、および高定着型コケ植物利用緑化方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造、高定着型コケ植物利用緑化用マット、高定着型コケ植物利用緑化体、および高定着型コケ植物利用緑化方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/30 20180101AFI20250121BHJP
   A01G 24/13 20180101ALI20250121BHJP
   A01G 24/15 20180101ALI20250121BHJP
   A01G 24/23 20180101ALI20250121BHJP
   A01G 24/35 20180101ALI20250121BHJP
   A01G 24/46 20180101ALI20250121BHJP
【FI】
A01G22/30
A01G24/13
A01G24/15
A01G24/23
A01G24/35
A01G24/46
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022044468
(22)【出願日】2022-03-18
(65)【公開番号】P2023137996
(43)【公開日】2023-09-29
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503116257
【氏名又は名称】学校法人八戸工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119264
【弁理士】
【氏名又は名称】富沢 知成
(72)【発明者】
【氏名】鮎川 恵理
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-025708(JP,U)
【文献】特開2004-275039(JP,A)
【文献】特開2012-191879(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202595(WO,A1)
【文献】特開2002-363562(JP,A)
【文献】特開2013-000065(JP,A)
【文献】特開2006-304609(JP,A)
【文献】特開2010-263883(JP,A)
【文献】特開2017-221136(JP,A)
【文献】特開2016-202105(JP,A)
【文献】特開2005-237306(JP,A)
【文献】特開2004-344062(JP,A)
【文献】特開2006-320215(JP,A)
【文献】特開2005-006526(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0323154(US,A1)
【文献】特開2019-078067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 22/00
A01G 24/00-24/60
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置場所に対応して自然散布されコケ植物の散布体の定着により緑化状態を形成させる緑化用基盤構造であって、
散布体の定着を受けるための人工芝部と、
該人工芝部の下に設けられている基部とからなり、
該基部は保水層を備えており、
該保水層として、下記<R>列記の少なくともいずれかを基材とし、これに増粘剤またはゲル化剤の少なくともいずれかが添加されて用いられ、
コケ植物の植え付け、生育用の土壌、および定着後の給水が不要であり、
設置場所の環境に適応した種類のコケ植物の定着を得られる
ことを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
<R> スポンジ、珪藻土、バーミキュライト、砂、木質チップ、スギ・ヒノキ樹皮、パーライト、ゼオライト、粘土、炭、ポリアクリル酸塩等の高吸水性樹脂
【請求項2】
前記増粘剤またはゲル化剤は下記<S>列記の少なくともいずれかであることを特徴とする、請求項に記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
<S> セルロースエーテル、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム
【請求項3】
前記基部は接着剤層を備えており、コンクリート表面に設けられていることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
【請求項4】
前記基部は防草シート層を備えており、土壌表面に設けられていることを特徴とする、請求項1、2のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
【請求項5】
前記人工芝部はその材料に植物由来樹脂を含むことを特徴とする、請求項1、2、3、4のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
【請求項6】
設置場所に対応して自然散布されコケ植物の散布体の定着により緑化状態を形成させる緑化用マットであって、
散布体の定着を受けるための人工芝部と、
該人工芝部の底面に設けられている基部とからなり、
該基部は保水層を備えており、
該保水層として、下記<R>列記の少なくともいずれかを基材とし、これに増粘剤またはゲル化剤の少なくともいずれかが添加されて用いられ、
コケ植物の植え付け、生育用の土壌、および定着後の給水が不要であり、
設置場所の環境に適応した種類のコケ植物の定着を得られる
ことを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化用マット。
<R> スポンジ、珪藻土、バーミキュライト、砂、木質チップ、スギ・ヒノキ樹皮、パーライト、ゼオライト、粘土、炭、ポリアクリル酸塩等の高吸水性樹脂
【請求項7】
前記基部は接着剤層を備えており、コンクリート表面への設置用であることを特徴とする、請求項に記載の高定着型コケ植物利用緑化用マット。
【請求項8】
前記基部は防草シート層を備えており、土壌表面への設置用であることを特徴とする、請求項に記載の高定着型コケ植物利用緑化用マット。
【請求項9】
前記人工芝部はその材料に植物由来樹脂を含むことを特徴とする、請求項6、7、8のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用マット。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載のコケ植物利用緑化用基盤構造上にコケ植物が定着してなることを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化体。
【請求項11】
定着保持用の土壌不要、給水不要、除草不要、メンテナンス不要であることを特徴とする、請求項10に記載の高定着型コケ植物利用緑化体。
【請求項12】
緑化したい面上に請求項1、2、3、4、5のいずれかに記載のコケ植物利用緑化用基盤構造を設ける基盤構造形成過程と、その後は自然散布されたコケ植物の散布体の定着を得るための放置過程とからなり、コケ植物の育成過程が不要であることを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造、高定着型コケ植物利用緑化用マット、高定着型コケ植物利用緑化体、および高定着型コケ植物利用緑化方法に係り、特に、屋上・法面・道路の中央分離帯などの緑化において、定着植物の枯死を低減でき、コストおよびメンテナンス労力を軽減することのできる緑化技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋上・道路の中央分離帯などにおける緑化の現状を述べる。
まず、屋上緑化については、地球温暖化対策計画(平成28年5月13日 閣議決定)内の対策のひとつである「ヒートアイランド対策による熱環境改善を通じた都市の低炭素化」において、屋上緑化の推進が位置づけられている。
(参考:https://www.mlit.go.jp/toshi/park/toshi_parkgreen_tk_000065.html)
【0003】
また、中央分離帯緑化については、良好な道路景観の形成を図るなどの目的により低木などの植樹が実施されている一方、管理上、樹木の剪定や雑草の刈り取りが必要になる。法面緑化では、外来種の吹付けによる在来植物への悪影響や生態系の質の低下が懸念されている。そのため、建設発生土や表土を利用する工法や自然侵入促進工法などが実施されている。
(参考:https://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/1010-P010-013_kubo.pdf)
【0004】
なお、園芸でのコケ植物利用、庭園へのコケ植物植栽では、圃場で芝生状に育成されたコケを利用することもある。
【0005】
建造物の屋上その他における緑化技術については従来、特許出願等もなされている。たとえば後掲特許文献1には、緑化用蘚苔類植物担持体として、2つの繊維集合体の間に蘚苔類植物を挟み込み、機械的絡合手段により繊維同士を絡め合わせて積層一体化させ、この積層体に人工芝葉状体を植設することにより、外観良好かつ強固に結合させた積層体とする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-344062号公報「緑化用蘇苔類植物担持体および緑化用苔植物担持体の製造方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さて上述の屋上緑化では、緑化に用いる植物が草木の場合、土壌が必要となり、重量による建物への負担や、潅水システムの設備投資の問題がある。また、中央分離帯緑化では、表土利用工法・自然侵入促進工法はいずれも土壌の吹付けが必要である上、上述の通り外来種の吹付けによる在来植物への悪影響や生態系の質の低下が懸念される。さらに、低木などを植樹した場合には、樹木の生長や雑草の伸長による視界不良を防ぐため、剪定や草刈り作業が欠かせず、作業時には1車線通行止めなどの措置も必要となる。
【0008】
また、コケ植物を利用した緑化についてもいくつかの問題点がある。まず、植栽場所の環境によってはコケ植物が定着できずに枯死する場合があること、そして、育成期間中のコストがかかること、および移植後のメンテナンスも課題である。一方でコケ植物は、一旦定着しさえすれば永続的に生育できる可能性が高いという利点も有する。コケ植物利用による緑化の利点を生かしつつ、問題点を解消できれば、さまざまな場所における緑化を効果的、効率的に促進できると考えられる。
【0009】
そこで本発明が解決しようとする課題は、かかる従来技術の問題点を踏まえ、屋上・法面・道路の中央分離帯などさまざまな場所の緑化において、コケ植物利用による緑化の利点を生かしつつ、定着後の枯死を低減でき、さらに、コストおよびメンテナンス労力を軽減することのできる、コケ植物利用による緑化技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
コケ植物は、一度定着すれば相当長期間生育できる可能性が高い。自然由来の胞子やコケの断片などの散布体による定着では、13年間も生育しているという群落の観察例もある。たとえば、中央分離帯にはよく人工芝が敷設されているが、その上に自然に定着したコケなどである。このような場合、自然状態での定着であるため、設置場所(法面、屋上、中央分離帯など)のさまざまな環境に適応した種類のコケ植物のみが定着する。もちろんこれは、人工芝敷設者など従来工法を採用している立場からすると意図しないコケの定着であり、望ましいことではない。排除・防止したい現象である。
【0011】
しかし、自然状態に任せることによって設置場所の環境に適応した種類のコケのみを定着させられるということは、生育やメンテナンスにかかるコスト・労力を不要にできる、少なくとも低減できることに繋がり、また定着後の枯死も低減可能である。発明者はこのことに想到し、これに基づいて本発明を完成するに至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下の通りである。
【0012】
〔1〕 設置場所に対応して自然散布されコケ植物の散布体の定着により緑化状態を形成させる緑化用基盤構造であって、散布体の定着を受けるための人工芝部と、該人工芝部の下に設けられている基部とからなり、該基部は保水層を備えており、該保水層として、下記<R>列記の少なくともいずれかを基材とし、これに増粘剤またはゲル化剤の少なくともいずれかが添加されて用いられ、コケ植物の植え付け、生育用の土壌、および定着後の給水が不要であり、設置場所の環境に適応した種類のコケ植物の定着を得られることを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
<R> スポンジ、珪藻土、バーミキュライト、砂、木質チップ、スギ・ヒノキ樹皮、パーライト、ゼオライト、粘土、炭、ポリアクリル酸塩等の高吸水性樹脂
【0013】
〕 前記増粘剤またはゲル化剤は下記<S>列記の少なくともいずれかであることを特徴とする、〔〕に記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
<S> セルロースエーテル、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム
〕 前記基部は接着剤層を備えており、コンクリート表面に設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
〕 前記基部は防草シート層を備えており、土壌表面に設けられていることを特徴とする、〔1〕、〔2〕のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
〕 前記人工芝部はその材料に植物由来樹脂を含むことを特徴とする、〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造。
【0014】
設置場所に対応して自然散布されコケ植物の散布体の定着により緑化状態を形成させる緑化用マットであって、散布体の定着を受けるための人工芝部と、該人工芝部の底面に設けられている基部とからなり、該基部は保水層を備えており、該保水層として、下記<R>列記の少なくともいずれかを基材とし、これに増粘剤またはゲル化剤の少なくともいずれかが添加されて用いられ、コケ植物の植え付け、生育用の土壌、および定着後の給水が不要であり、設置場所の環境に適応した種類のコケ植物の定着を得られることを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化用マット。
<R> スポンジ、珪藻土、バーミキュライト、砂、木質チップ、スギ・ヒノキ樹皮、パーライト、ゼオライト、粘土、炭、ポリアクリル酸塩等の高吸水性樹脂
〕 前記基部は接着剤層を備えており、コンクリート表面への設置用であることを特徴とする、〔6〕に記載の高定着型コケ植物利用緑化用マット。
〕 前記基部は防草シート層を備えており、土壌表面への設置用であることを特徴とする、〔6〕に記載の高定着型コケ植物利用緑化用マット。
【0015】
〕 前記人工芝部はその材料に植物由来樹脂を含むことを特徴とする、〔6〕、〔7〕、〔8〕のいずれかに記載の高定着型コケ植物利用緑化用マット。
10〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載のコケ植物利用緑化用基盤構造上にコケ植物が定着してなることを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化体。
11〕 定着保持用の土壌不要、給水不要、除草不要、メンテナンス不要であることを特徴とする、〔10〕に記載の高定着型コケ植物利用緑化体。
12〕 緑化したい面上に 〔1〕、〔2〕、〔3〕、〔4〕、〔5〕のいずれかに記載のコケ植物利用緑化用基盤構造を設ける基盤構造形成過程と、その後は自然散布されたコケ植物の散布体の定着を得るための放置過程とからなり、コケ植物の育成過程が不要であることを特徴とする、高定着型コケ植物利用緑化方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造、高定着型コケ植物利用緑化用マット、高定着型コケ植物利用緑化体、および高定着型コケ植物利用緑化方法は上述のように構成されるため、これらによれば、屋上・法面・道路の中央分離帯などさまざまな場所の緑化において、それぞれの環境に対応して自然になされるコケ植物の定着を利用することによって、定着後の枯死を低減でき、さらに、生育やメンテナンスにかかるコストおよびメンテナンスを不要に、ないしは軽減することができる。
【0017】
従来の緑化を目的としたコケ植物のマットは、圃場でコケ植物を栽培した後、これを芝生状に切り分けた形で販売されているため、時間、費用、栽培場所、適したコケ植物種の選択が不可欠であった。しかし本発明高定着型緑化用基盤構造等によれば、設置場所に落下、定着するコケ植物をそのまま利用するため、設置場所の環境に適したコケ植物が自然に定着し、その後の給水などのメンテナンスも不要となるものである。従来の屋上緑化・中央分離帯緑化・法面緑化等で必要とされる土壌は不要であり、そのため雑草の生育を防止でき、コケ植物の栽培や植え付けも不要、そして、生育に必要な水分は雨水でも十分なため、給水システムも不要である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。
図2】保水層を備えた構成の本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。
図3】接着剤層を備えた構成の本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。
図4】防草シート層を備えた構成の本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。
図5】本発明高定着型コケ植物利用緑化用マットの基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。
図6】本発明高定着型コケ植物利用緑化体の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。
図7】本発明高定着型コケ植物利用緑化方法の構成を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面により本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。また、図2は保水層を備えた構成の本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。これらに図示するように本高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10は、自然散布されたコケ植物の散布体の定着により緑化状態を形成させる緑化用基盤構造であって、散布体の定着を受けるための人工芝部2と、人工芝部2の下に設けられている基部3とからなり、コケ植物の植え付けが不要であることを、主たる構成とする。また図2に示すように本高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10は、基部3が保水層4を備えている構成とすることができる。
【0020】
かかる構成の本高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10は、散布体の定着を受けるための人工芝部2と、基部3において本高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10が設置対象面に設置されており、基部3の上に設けられている人工芝部2は設置環境において自然になされる自然散布されたコケ植物の散布体の定着を受けて、その自然散布されたコケ植物による緑化状態が形成される。したがって、従来のようにコケ植物の植え付けを行う必要がない。
【0021】
また、図2に示すように基部3が保水層4を備えた構成では、人工芝部2に定着した自然散布されたコケ植物は保水層4が蓄える水を利用可能であり、それにより生育状態が保持され、枯死が低減され、緑化状態が安定的に保持される。また、潅水システム等によって潅水作業を行う必要がないか、あったとしても軽減される。
【0022】
すなわち本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10は、人工芝を利用して、コケ植物を生育・定着させるものであり、ビル屋上や中央分離帯などの対象面上に設置したり施工したりすることにより、自然由来のコケ植物散布体(胞子、無性芽、配偶体断片など)の落下を受けて定着を促し、緑化状態を形成するものである。
【0023】
従来の屋上緑化を目的としたコケ植物のマットは、圃場でコケ植物を栽培した後、市販の芝生状に切り分けられて販売されているため、時間や費用がかかる上に栽培場所の確保、そして適したコケ植物種の選択が不可欠である。しかし本発明では、設置・施工された場所に落下し、定着するコケ植物を利用するため、その場所に適したコケ植物が自然に定着し、その後の給水などのメンテナンスも不要である。つまり、従来はコケを育ててから緑化に使用したのだが、本発明ではコケ植物定着用の媒体のみを用意し、自然に生えてくるのを待つという方式である。
【0024】
なお、人工芝部2に用いる人工芝の深さや材質などは適宜に設計・選択可能であるが、たとえばバイオポリスチレン等の植物由来樹脂製の素材は好ましく、かかる素材を用いた環境配慮型の人工芝製品を好適に用いることができる。
【0025】
図2に示す保水層4としては、スポンジ、珪藻土、バーミキュライト、砂、木質チップ、スギ・ヒノキ樹皮、パーライト、ゼオライト、粘土、炭、ポリアクリル酸塩等の高吸水性樹脂の中から、適宜の一種類以上を用いるものとすることができるが、これには限定されない。要するに保水機能のある素材であればよい。また、生分解性の素材の使用はより好ましい。
【0026】
本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10の保水層4としてはまた、上述のいずれかを基材として、これに増粘剤またはゲル化剤の少なくともいずれかが添加されて用いられる構成としてもよい。増粘剤またはゲル化剤の添加により基材同士が良好につながれ、それによって保水能力をより高め、人工芝部2に落下して定着するコケ植物の良好な生育をより安定的に保持することができる。
【0027】
増粘剤等としてはたとえば、セルロースエーテル、カラギーナン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウム等を好適に用いることができる。なお、以降の発明説明に用いる各図においては保水層4を表示しないが、いずれの発明においても保水層を備えた構成をとることができる。
【0028】
図3は、接着剤層を備えた構成の本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。図示するように本高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造310は、基部33が接着剤層35を備えており、コンクリートC表面に設けられている構成とすることができる。
【0029】
これにより、道路の中央分離帯、ビルの屋上、法面などのコンクリートC表面を設置・施工対象とする際、コンクリートC表面に接着剤層35によって接着固定され、コケ植物定着・育成による緑化状態を保持することができる。なお、接着剤の仕様は限定されず、適宜のものを用いればよい。
【0030】
図4は、防草シート層を備えた構成の本発明高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。図示するように本高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造410は、基部43が防草シート層46を備えており、土壌G表面に設けられている構成とすることができる。
【0031】
これにより、土壌G表面を設置・施工対象とする際、土壌G表面からの雑草等の生育・成長を抑制することができ、基部43が生育・成長する雑草等により持ち上がってしまうことを防止することができる。また、土壌G表面の乾燥を防止して保湿効果を得、定着するコケ植物の生育を安定化することができる。なお、用いる防草シートの仕様は限定されず、適宜のものを用いればよい。
【0032】
図5は、本発明高定着型コケ植物利用緑化用マットの基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。図示するように本高定着型コケ植物利用緑化用マット50は、自然散布されたコケ植物の散布体の定着により緑化状態を形成させるものであって、散布体の定着を受けるための人工芝部42と、人工芝部42の底面に設けられている基部43とからなることを、主たる構成とする。
【0033】
高定着型コケ植物利用緑化用マット50が有する作用効果は、前出図1等により説明した高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10等における作用効果と基本的に共通する。高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10等は、設置・施工対象面に設置・施工された状態での形態を含む発明であるが、本高定着型コケ植物利用緑化用マット50は、マット製品として製造され流通されることを想定している発明である。
【0034】
高定着型コケ植物利用緑化用マット50は既に述べた高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造10等と同様に、その基部43に適宜構造の保水層を備えたり、コンクリート表面への設置用として接着剤層を備えたり、土壌表面への設置用として防草シート層を備えたりする構成を、パターンとして含む。また、人工芝部42として植物由来樹脂を含む材料製のものを使用可能であることも、同様である。
【0035】
図6は、本発明高定着型コケ植物利用緑化体の基本構成を概念的に示す断面視の説明図である。以上説明したいずれかの構成の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造610等の上に、または高定着型コケ植物利用緑化用マットの上に、コケ植物68が定着して形成されている高定着型コケ植物利用緑化体70もまた、本発明の範囲内である。なお、かかる高定着型コケ植物利用緑化体70は、コケ植物68定着保持用の土壌不要、給水不要、除草不要、メンテナンス不要なものとして提供することが可能である。
【0036】
図7は、本発明高定着型コケ植物利用緑化方法の構成を示すフロー図である。図示するように本高定着型コケ植物利用緑化方法は、緑化したい面上に上述のいずれかの構成を備えた高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造を形成する基盤構造形成過程P1と、その後は自然散布されたコケ植物の散布体の定着を得るための放置過程P2とから構成される。なお、図では基盤構造形成過程P1に供する媒体として高定着型コケ植物利用緑化マット50を用いる例を示すが、これには限定されない。つまり、かかるマットを用いずに施工することによる基盤構造形成であってもよい。
【0037】
かかる構成の本高定着型コケ植物利用緑化方法によれば、基盤構造形成過程P1において、緑化したい面上に高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造が形成され、ついで放置過程P2において、その環境に適した自然散布されたコケ植物の散布体の定着が得られ、高定着型コケ植物利用緑化体70が得られる。本方法では、コケ植物の育成過程が不要であることを初めとする、上述したさまざまな有利な効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造、高定着型コケ植物利用緑化用マット、高定着型コケ植物利用緑化体、および高定着型コケ植物利用緑化方法によれば、屋上・法面・道路の中央分離帯などさまざまな場所の緑化において、それぞれの環境に対応して自然になされるコケ植物の定着を利用することによって、定着後の枯死を低減でき、さらに、生育やメンテナンスにかかるコストおよびメンテナンスを不要に、ないしは軽減することができる。したがって、緑化技術分野および関連する全分野において、産業上利用性が高い発明である。
【符号の説明】
【0039】
2、32、42、52、62…人工芝部
3、33、43、53、63…基部
4…保水層
10、310、410、610…高定着型コケ植物利用緑化用基盤構造
35…接着剤層
46…防草シート層
50…高定着型コケ植物利用緑化用マット
68…コケ植物
70…高定着型コケ植物利用緑化体
C…コンクリート
G…土壌
P1…基盤構造形成過程
P2…放置過程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7