(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】脈波測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/02 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
A61B5/02 310M
A61B5/02 310P
(21)【出願番号】P 2021106487
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2024-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】永井 拓也
【審査官】村田 泰利
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-207340(JP,A)
【文献】特開平05-031085(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0066049(US,A1)
【文献】特開2002-078689(JP,A)
【文献】特開2021-056149(JP,A)
【文献】特開2020-120794(JP,A)
【文献】特開2003-290161(JP,A)
【文献】特開2014-166561(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111758012(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に装着可能な脈波測定装置であって、
筒状の保持部と、
ひずみゲージが配置された起歪体を備え、前記保持部の内側に少なくとも一部が入り込んで前記保持部の軸方向に移動可能に保持され、前記起歪体が前記保持部から露出して前記被験者に接触可能な脈波センサと、
前記保持部の内側において、前記脈波センサの前記起歪体とは反対側に配置され、前記脈波センサを前記被験者側に付勢する付勢部と、
前記付勢部を挟んで前記脈波センサとは反対側に配置され、前記付勢部の付勢力を調整可能な調整部と、を有
し、
前記調整部は、前記保持部の内側に少なくとも一部が入り込んで前記保持部に螺合され、螺合の程度により前記付勢部の付勢力を調整可能である、脈波測定装置。
【請求項2】
被験者に装着可能な脈波測定装置であって、
筒状の保持部と、
ひずみゲージが配置された起歪体を備え、前記保持部の内側に少なくとも一部が入り込んで前記保持部の軸方向に移動可能に保持され、前記起歪体が前記保持部から露出して前記被験者に接触可能な脈波センサと、
前記保持部の内側において、前記脈波センサの前記起歪体とは反対側に配置され、前記脈波センサを前記被験者側に付勢する付勢部と、
前記付勢部を挟んで前記脈波センサとは反対側に配置され、前記付勢部の付勢力を調整可能な調整部と、を有
し、
前記保持部は、溝を備え、
前記脈波センサは、側面に突起部を備え、
前記突起部は前記溝に嵌め込まれ、前記脈波センサは前記突起部を軸として揺動可能である、脈波測定装置。
【請求項3】
電子部品が搭載される本体と、前記本体を前記被験者に装着するための帯状体と、を有し、
前記保持部は、前記本体内に少なくとも一部が配置されている、請求項1
又は2に記載の脈波測定装置。
【請求項4】
前記保持部は、前記本体の中心からオフセットした位置に配置されている、請求項
3に記載の脈波測定装置。
【請求項5】
電子部品が搭載される本体と、前記本体を前記被験者に装着するための帯状体と、を有し、
前記保持部は、前記本体とは離隔して前記帯状体に配置されている、請求項1
又は2に記載の脈波測定装置。
【請求項6】
前記起歪体は、
円形開口部を備えた基部と、
前記基部の内側を橋渡しする梁部と、
前記梁部に設けられた負荷部と、を有し、
前記起歪体の変形に伴なう前記ひずみゲージの抵抗値の変化に基づいて脈波を検出する、請求項1乃至
5の何れか一項に記載の脈波測定装置。
【請求項7】
前記梁部は、平面視で十字状に交差する2本の梁を有し、
前記梁の交差する領域は、前記円形開口部の中心を含み、
前記梁の交差する領域に、前記負荷部が設けられている、請求項
6に記載の脈波測定装置。
【請求項8】
前記ひずみゲージを4つ備え、
4つの前記ひずみゲージのうちの2つは、第1方向を長手方向とする前記梁の前記負荷部に近い側に、平面視で前記負荷部を挟んで対向するように配置され、
4つの前記ひずみゲージのうちの他の2つは、前記第1方向と直交する第2方向を長手方向とする前記梁の前記基部に近い側に、平面視で前記負荷部を挟んで対向するように配置されている、請求項
7に記載の脈波測定装置。
【請求項9】
被験者に装着可能な脈波測定装置であって、
筒状の保持部と、
ひずみゲージが配置された起歪体を備え、前記保持部の内側に少なくとも一部が入り込んで前記保持部の軸方向に移動可能に保持され、前記起歪体が前記保持部から露出して前記被験者に接触可能な脈波センサと、
前記保持部の内側において、前記脈波センサの前記起歪体とは反対側に配置され、前記脈波センサを前記被験者側に付勢する付勢部と、
前記付勢部を挟んで前記脈波センサとは反対側に配置され、前記付勢部の付勢力を調整可能な調整部と、を有
し、
前記起歪体は、
円形開口部を備えた基部と、
前記基部の内側を橋渡しする梁部と、
前記梁部に設けられた負荷部と、を有し、
前記梁部は、平面視で十字状に交差する2本の梁を有し、
前記梁の交差する領域は、前記円形開口部の中心を含み、
前記梁の交差する領域に、前記負荷部が設けられ、
前記ひずみゲージを4つ備え、
4つの前記ひずみゲージのうちの2つは、第1方向を長手方向とする前記梁の前記負荷部に近い側に、平面視で前記負荷部を挟んで対向するように配置され、
4つの前記ひずみゲージのうちの他の2つは、前記第1方向と直交する第2方向を長手方向とする前記梁の前記基部に近い側に、平面視で前記負荷部を挟んで対向するように配置され、
前記起歪体の変形に伴なう前記ひずみゲージの抵抗値の変化に基づいて脈波を検出する、脈波測定装置。
【請求項10】
前記ひずみゲージは、Cr混相膜から形成された抵抗体を有する、請求項1乃至9の何れか一項に記載の脈波測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓が血液を送り出すことに伴い発生する脈波を検出する脈波センサが知られている。一例として、外力の作用により撓み可能に支持されている起歪体となる受圧板と、その受圧板の撓みを電気信号に変換する圧電変換手段とが設けられた脈波センサが挙げられる。この脈波センサは、受圧板の可撓領域が外方に向かって凸曲面となるドーム状に形成されており、圧電変換手段として受圧板における頂部の内面に圧力検出素子を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
脈波センサは、微小な信号を検出する必要があるため、脈波センサを用いた脈波測定装置では、測定精度を向上するために、脈波センサを被験者に適度に密着させる必要がある。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、被験者と脈波センサとの密着性を調整可能な脈波測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本脈波測定装置は、被験者に装着可能な脈波測定装置であって、筒状の保持部と、ひずみゲージが配置された起歪体を備え、前記保持部の内側に少なくとも一部が入り込んで前記保持部の軸方向に移動可能に保持され、前記起歪体が前記保持部から露出して前記被験者に接触可能な脈波センサと、前記保持部の内側において、前記脈波センサの前記起歪体とは反対側に配置され、前記脈波センサを前記被験者側に付勢する付勢部と、前記付勢部を挟んで前記脈波センサとは反対側に配置され、前記付勢部の付勢力を調整可能な調整部と、を有し、前記調整部は、前記保持部の内側に少なくとも一部が入り込んで前記保持部に螺合され、螺合の程度により前記付勢部の付勢力を調整可能である。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、被験者と脈波センサとの密着性を調整可能な脈波測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その1)である。
【
図2】第1実施形態に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その2)である。
【
図3】
図2の本体近傍を抜き出した表面側斜視図である。
【
図4】
図2の本体近傍を抜き出した裏面側斜視図である。
【
図6】第1実施形態に係る脈波センサを例示する斜視図である。
【
図7】第1実施形態に係る脈波センサを例示する平面図である。
【
図8】第1実施形態に係る脈波センサを例示する断面図である。
【
図9】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図10】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図11】第1実施形態の変形例1に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その1)である。
【
図12】第1実施形態の変形例2に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その2)である。
【
図13】
図12の脈波センサ近傍を抜き出した裏面側斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
[脈波測定装置1]
図1は、第1実施形態に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その1)である。
図2は、第1実施形態に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その2)である。
図3は、
図2の本体近傍を抜き出した表面側斜視図である。
図4は、
図2の本体近傍を抜き出した裏面側斜視図である。
図5は、
図3の分解斜視図である。なお、
図1は、
図2に示す脈波測定装置を被験者の手首に装着した様子を示している。また、
図3及び
図5の矢印Nは、調整部70の上面の法線方向を示している。
【0011】
図1~
図5を参照すると、脈波測定装置1は、被験者に装着可能な腕時計型のウェアラブルデバイスであり、主に、本体10と、ベルト40と、脈波センサ50と、付勢部60と、調整部70とを有している。
【0012】
脈波測定装置1は、例えば、脈波センサ50が被験者の橈骨動脈の近くに配置されるように、被験者の手首に装着される。脈波は、心臓が血液を送り出すことに伴い発生する血管の容積変化を波形としてとらえたもので、脈波測定装置1は、血管の容積変化をモニターすることができる。
【0013】
本体10は、下部材20と、上部材30とを有している。本体10には、例えば、電池や電子部品が搭載される。本体10に搭載される電子部品は、例えば、脈波センサ50が測定した信号を処理する信号処理用の半導体や、信号処理の結果を外部に送信する無線通信用の半導体を含んでもよい。
【0014】
下部材20は、脈波測定装置1が被験者に装着された際に被験者側に位置する部材である。上部材30は、脈波測定装置1が被験者に装着された際に被験者とは反対側に位置する部材である。下部材20と上部材30は、例えば、樹脂、ゴム、金属等から形成できる。下部材20と上部材30は、ネジ止めや圧入等の適宜な方法で接合できる。下部材20と上部材30は、取り外し自在に接合されることが好ましい。
【0015】
下部材20は、底部21と、側壁部22と、保持部23とを有している。底部21は、例えば、N方向から視て、略長方形状である。底部21は、被験者の手首等に装着しやすい形状に屈曲又は湾曲していてもよい。底部21には、例えば、ベルト40を取り付けるための取付部21xが長手方向の両側に2つずつ設けられている。底部21の外縁と連続するように、枠状の側壁部22が設けられている。
【0016】
底部21の側壁部22と同一側に、脈波センサ50を保持するための筒状の保持部23が、底部21を貫通するように設けられている。保持部23は(すなわち、脈波センサ50は)、本体10の中心(底部21の中心)からオフセットした位置に配置されていることが好ましい。これにより、脈波センサ50を被験者の橈骨動脈の近くに配置することが容易となる。
【0017】
保持部23は、例えば、円筒状であるが、脈波センサ50を内側に保持できる筒状であれば円筒状でなくてもかまわない。保持部23の高さは、側壁部22の高さと略等しい。保持部23は、本体10内に少なくとも一部が配置されていれば、本体10から突出する部分等を有していてもよい。
【0018】
保持部23は、脈波センサ50を回転方向に位置決めするために、調整部70側に開口する溝23xを備えている。溝23xは、例えば、N方向から視て、保持部23の中心を挟んで対向する位置に2つ設けることができる。
【0019】
上部材30は、頂部31と、側壁部32と、突起部33とを有している。上部材30は、N方向から視て、下部材20と略重複する形状とされている。頂部31は、例えば、N方向から視て、略長方形状である。頂部31は、底部21と同様の形状に屈曲又は湾曲していてもよい。頂部31の外縁と連続するように、枠状の側壁部32が設けられている。側壁部32は、下端面の全周が、下部材20の側壁部22の上端面の全周と接触可能な大きさ及び形状とされている。
【0020】
頂部31の側壁部32と反対側に、調整部70が挿入される筒状の突起部33が、頂部31を貫通するように設けられている。突起部33の内径は、保持部23の内径と略等しい。突起部33は、上部材30が下部材20に接合されたときに、N方向から視て、保持部23と重複するように配置されている。
【0021】
ベルト40は、本体10を被験者の手首等に装着するための帯状体であり、被験者の手首等に外側から巻き付け可能に構成されている。ベルト40は、例えば、第1帯状体41と、第2帯状体42とを備えている。第1帯状体41と、第2帯状体42は、例えば、樹脂、ゴム、布等により形成され、可撓性を有する。
【0022】
第1帯状体41の一端は、下部材20の一方側の取付部21xに揺動自在に取り付けられている。第2帯状体42の一端は、下部材20の他方側の取付部21xに揺動自在に取り付けられている。第1帯状体41の他端と第2帯状体42の他端は、例えば、面ファスナー等により取り外し自在に接続可能である。なお、ベルト40は、第1帯状体41と第2帯状体42の区別無く、一体形成されたものであっても良い。
【0023】
脈波センサ50は、略円筒状の部材であり、保持部23に挿入可能な大きさに形成されている。脈波センサ50は、側面に位置決め用の突起部50xを備えている。脈波センサ50は、突起部50xが保持部23の溝23xに嵌め込まれて位置決めされ、保持部23の軸方向に移動可能な状態で、保持部23に保持されている。保持部23の軸方向とは、例えば保持部23が円筒状であれば、円筒の中心軸方向である。
【0024】
脈波センサ50が保持部23に挿入された状態において、脈波センサ50の付勢部60側の面は、例えば、保持部23の上端よりも低い位置となる。脈波センサ50は、保持部23の内側に少なくとも一部が入り込んでいれば、保持部23から突出する部分を有してもよい。脈波センサ50の詳細については、後述する。
【0025】
付勢部60は、保持部23の内側において、脈波センサ50の起歪体52(後述)とは反対側に配置されている。付勢部60は、脈波センサ50をN方向に付勢することができる。すなわち、付勢部60は、脈波測定装置1が被験者に装着されたときに、脈波センサ50を被験者側に付勢することができる。付勢部60は、例えば、コイルばねであるが、板ばね等であってもよい。付勢部60は、例えば、金属や樹脂やゴム等により形成できる。なお、付勢部60は、電動モータを利用したエアーポンプ等であっても良い。
【0026】
調整部70は、付勢部60を挟んで脈波センサ50とは反対側に配置されている。調整部70は、例えば、略円筒状の挿入部71と、挿入部71の一端側が拡径した略円盤状の蓋部72とを有している。挿入部71は、突起部33内及び保持部23内に挿入可能な大きさとされ、蓋部72は、突起部33内に挿入できない大きさとされている。挿入部71は、突起部33に挿入されて、先端側が保持部23に達する。
【0027】
例えば、挿入部71の外側面には雄ねじが切られており、保持部23の内側面には雌ねじが切られている。蓋部72の上面には溝72xが設けられている。溝72xにドライバー等の先端を挿入して調整部70を回転させると、調整部70の挿入部71の少なくとも一部が保持部23の内側に入り込んで保持部23に螺合され、調整部70と保持部23とが固定される。螺合の程度により付勢部60の付勢力を調整可能である。言い換えれば、調整部70の回転量(保持部23内への挿入部71の挿入量)を調整することで、付勢部60の付勢力を調整可能である。
【0028】
このように、脈波測定装置1では、被験者に装着されたときに、調整部70を回転させることで、脈波センサ50を被験者側に移動させて付勢し、被験者の橈骨動脈に適度な値の初圧をかけることができる。すなわち、脈波測定装置1では、被験者の橈骨動脈と脈波センサ50との密着性を適度な値に調整可能であるため、脈波の測定精度を向上できる。
【0029】
また、脈波測定装置1では、脈波センサ50は保持部23の軸方向に移動可能であるが、保持部23と脈波センサ50の側面との間に適度ながたを設けておけば、突起部50xを軸にして保持部23内で揺動可能となる。この構造では、脈波測定装置1の被験者への取り付け状態に応じて脈波センサ50が突起部50xを軸として傾くことができるため、被験者の橈骨動脈と脈波センサ50との密着性を向上でき、一定の圧力をかけ続けることが容易となる。
【0030】
また、スポーツ中の場合には調整部70を多く回転させて比較的強い初圧をかけ、就寝中など脈波を測定する必要がない場合には調整部70の回転量を少なくして初圧をかけないなど、状況に応じた使い方の自由度を向上できる。
【0031】
また、脈波測定装置1で高精度の脈波を得ることで、血糖値や血圧等をモニターすることができる。また、動脈硬化等の予測が可能となる。
【0032】
[脈波センサ50]
図6は、第1実施形態に係る脈波センサを例示する斜視図である。
図7は、第1実施形態に係る脈波センサを例示する平面図である。
図8は、第1実施形態に係る脈波センサを例示する断面図であり、
図7のA-A線に沿う断面を示している。なお、
図6~
図8は、
図5とは視る方向が異なっており、
図5における脈波センサ50の下面は、
図6~
図8では上面となる。
【0033】
図6~
図8を参照すると、脈波センサ50は、筐体51と、起歪体52と、ひずみゲージ100とを有している。脈波センサ50は、起歪体52が保持部23の下部材20側から露出して被験者に接触可能な状態で、保持部23に保持されている(
図4参照)。脈波センサ50は、下部材20から被験者側に突出していてもよい。
【0034】
起歪体52は、基部52aと、梁部52bと、負荷部52cと、延伸部52dとを有している。起歪体52は、例えば、平面視で4回対称の形状である。起歪体52の材料としては、例えば、SUS(ステンレス鋼)、銅、及びアルミニウム等を用いることができる。起歪体52は例えば平板状であり、各構成要素は、例えばプレス加工法等により一体に形成されている。起歪体52は、平坦であってもよいし、被験者側が凸となるようにドーム状等に突起した形状であってもよい。負荷部52cを除く起歪体52の厚さtは、例えば、一定である。厚さtは、例えば、0.01mm以上0.25mm以下である。
【0035】
なお、
図6~
図8における脈波センサ50の説明では、便宜上、起歪体52の負荷部52cが設けられている側を上側又は一方の側、負荷部52cが設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の負荷部52cが設けられている側の面を一方の面又は上面、負荷部52cが設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、脈波センサ50は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を起歪体52の上面の法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を起歪体52の上面の法線方向から視た形状を指すものとする。
【0036】
脈波センサ50において、筐体51は起歪体52を保持する部分である。筐体51は円筒状であって、下面側が塞がれ上面側が開口されている。筐体51は、例えば、金属や樹脂等から形成できる。筐体51の上面側の開口を塞ぐように、略円板状の起歪体52が接着剤等により固定されている。起歪体52は、ひずみゲージ100が配置されており、脈波を検出する部分である。
【0037】
起歪体52において、基部52aは、
図7及び
図8で示す円形の破線よりも外側の円形枠状(リング状)の領域である。なお、円形の破線よりも内側の領域を円形開口部と称する場合がある。つまり、起歪体52の基部52aは、円形開口部を備えている。基部52aの幅w
1は、例えば、1mm以上5mm以下である。基部52aの内径d(すなわち、円形開口部の直径)は、例えば、5mm以上40mm以下である。
【0038】
梁部52bは、基部52aの内側を橋渡しするように設けられている。梁部52bは、例えば、平面視で十字状に交差する2本の梁を有し、2本の梁の交差する領域は円形開口部の中心を含む。
図7の例では、十字を構成する1本の梁がX方向を長手方向とし、十字を構成する他の1本の梁がY方向を長手方向とし、両者は直交している。直交する2本の梁の各々は、基部52aの内径d(円形開口部の直径)より内側にあり、かつ可能な限り長いことが好ましい。つまり、各々の梁の長さは、円形開口部の直径と略等しいことが好ましい。梁部52bを構成する各々の梁において、交差する領域以外の幅w
2は一定であり、例えば、1mm以上5mm以下である。幅w
2が一定であることは必須ではないが、幅w
2を一定とすることで、ひずみをリニアに検出するできる点で好ましい。
【0039】
負荷部52cは、梁部52bに設けられている。負荷部52cは、例えば、梁部52bを構成する2本の梁の交差する領域に設けられる。負荷部52cは、梁部52bの上面から突起している。梁部52bの上面を基準とする負荷部52cの突起量は、例えば、0.1mm程度である。梁部52bは可撓性を有しており、負荷部52cに負荷が加わると弾性変形する。
【0040】
4つの延伸部52dは、平面視で基部52aの内側から梁部52bの方向に延伸する扇形の部分である。各々の延伸部52dと梁部52bとの間には、1mm程度の隙間が設けられている。なお、当該隙間を例えば0.05~0.2mm程度とした場合には、外部から筐体51内部へのコンタミ侵入を防止することが可能である。延伸部52dは、脈波センサ50のセンシングには寄与しないため、設けなくてもよい。脈波センサ50は、外部との電気信号の入出力を行うシールドケーブルやフレキシブル基板等(図示せず)を有している。
【0041】
ひずみゲージ100は、起歪体52に設けられている。ひずみゲージ100は、例えば、梁部52bの下面側に設けることができる。梁部52bは平板状であるため、ひずみゲージを容易に貼り付けることができる。ひずみゲージ100は、1個以上設ければよいが、本実施形態では、4つのひずみゲージ100を設けている。4つのひずみゲージ100を設けることで、フルブリッジにより、ひずみを検出することができる。
【0042】
4つのひずみゲージ100のうちの2つは、X方向を長手方向とする梁の負荷部52cに近い側(円形開口部の中心側)に、平面視で負荷部52cを挟んで対向するように配置されている。4つのひずみゲージ100のうちの他の2つは、Y方向を長手方向とする梁の基部52aに近い側に、平面視で負荷部52cを挟んで対向するように配置されている。このような配置により、圧縮力と引張力を有効に検出してフルブリッジにより大きな出力を得ることができる。
【0043】
脈波センサ50は、負荷部52cが被験者の橈骨動脈に当たるように被験者の腕に固定して使用される。被験者の脈波に応じて負荷部52cに負荷が加わって梁部52bが弾性変形すると、ひずみゲージ100の抵抗体の抵抗値が変化する。脈波センサ50は、梁部52bの変形に伴なうひずみゲージ100の抵抗体の抵抗値の変化に基づいて脈波を検出できる。脈波は、例えば、ひずみゲージ100の電極と接続された測定回路から、周期的な電圧の変化として出力される。
【0044】
[ひずみゲージ100]
図9は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図10は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図9のB-B線に沿う断面を示している。
図9及び
図10を参照すると、ひずみゲージ100は、基材110と、抵抗体130と、配線140と、電極150と、カバー層160とを有している。なお、
図9では、便宜上、カバー層160の外縁のみを破線で示している。なお、カバー層160は、必要に応じて設ければよい。
【0045】
なお、
図9及び
図10におけるひずみゲージ100の説明では、便宜上、ひずみゲージ100において、基材110の抵抗体130が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体130が設けられていない側を下側又は他方の側とする。また、各部位の抵抗体130が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体130が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。ただし、ひずみゲージ100は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。例えば、
図8では、ひずみゲージ100は、
図10とは上下が反転した状態で梁部52bに貼り付けられる。つまり、
図10の基材110が接着剤等で梁部52bの下面に貼り付けられる。また、平面視とは対象物を基材110の上面110aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材110の上面110aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0046】
基材110は、抵抗体130等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材110の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材110の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材110の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0047】
基材110は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0048】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材110が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材110は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0049】
基材110の樹脂以外の材料としては、例えば、SiO2、ZrO2(YSZも含む)、Si、Si2N3、Al2O3(サファイヤも含む)、ZnO、ペロブスカイト系セラミックス(CaTiO3、BaTiO3)等の結晶性材料が挙げられ、更に、それ以外に非晶質のガラス等が挙げられる。また、基材110の材料として、アルミニウム、アルミニウム合金(ジュラルミン)、チタン等の金属を用いてもよい。この場合、金属製の基材110上に、例えば、絶縁膜が形成される。
【0050】
抵抗体130は、基材110上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体130は、基材110の上面110aに直接形成されてもよいし、基材110の上面110aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図9では、便宜上、抵抗体130を濃い梨地模様で示している。
【0051】
抵抗体130は、複数の細長状部が長手方向を同一方向(
図9のB-B線の方向)に向けて所定間隔で配置され、隣接する細長状部の端部が互い違いに連結されて、全体としてジグザグに折り返す構造である。複数の細長状部の長手方向がグリッド方向となり、グリッド方向と垂直な方向がグリッド幅方向(
図9ではB-B線と垂直な方向)となる。
【0052】
グリッド幅方向の最も外側に位置する2つの細長状部の長手方向の一端部は、グリッド幅方向に屈曲し、抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e1及び130e2を形成する。抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e1及び130e2は、配線140を介して、電極150と電気的に接続されている。言い換えれば、配線140は、抵抗体130のグリッド幅方向の各々の終端130e1及び130e2と各々の電極150とを電気的に接続している。
【0053】
抵抗体130は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体130は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0054】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0055】
抵抗体130の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体130の厚さが0.1μm以上であると、抵抗体130を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましい。また、抵抗体130の厚さが1μm以下であると、抵抗体130を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材110からの反りを低減できる点で更に好ましい。抵抗体130の幅は、抵抗値や横感度等の要求仕様に対して最適化し、かつ断線対策も考慮して、例えば、10μm~100μm程度とすることができる。
【0056】
例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、安定な結晶相であるα-Cr(アルファクロム)を主成分とすることで、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、抵抗体130がα-Crを主成分とすることで、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50重量%以上を占めることを意味するが、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体130はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0057】
また、抵抗体130がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0058】
また、CrN及びCr2N中のCr2Nの割合は80重量%以上90重量%未満であることが好ましく、90重量%以上95重量%未満であることが更に好ましい。CrN及びCr2N中のCr2Nの割合が90重量%以上95重量%未満であることで、半導体的な性質を有するCr2Nにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0059】
一方で、膜中に微量のN2もしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0060】
配線140は、基材110上に形成され、抵抗体130及び電極150と電気的に接続されている。配線140は、第1金属層141と、第1金属層141の上面に積層された第2金属層142とを有している。配線140は直線状には限定されず、任意のパターンとすることができる。また、配線140は、任意の幅及び任意の長さとすることができる。なお、
図9では、便宜上、配線140及び電極150を抵抗体130よりも薄い梨地模様で示している。
【0061】
電極150は、基材110上に形成され、配線140を介して抵抗体130と電気的に接続されており、例えば、配線140よりも拡幅して略矩形状に形成されている。電極150は、ひずみにより生じる抵抗体130の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。
【0062】
電極150は、一対の第1金属層151と、各々の第1金属層151の上面に積層された第2金属層152とを有している。第1金属層151は、配線140の第1金属層141を介して抵抗体130の終端130e1及び130e2と電気的に接続されている。第1金属層151は、平面視において、略矩形状に形成されている。第1金属層151は、配線140と同じ幅に形成しても構わない。
【0063】
なお、抵抗体130と第1金属層141と第1金属層151とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、抵抗体130と第1金属層141と第1金属層151とは、厚さが略同一である。また、第2金属層142と第2金属層152とは便宜上別符号としているが、同一工程において同一材料により一体に形成できる。従って、第2金属層142と第2金属層152とは、厚さが略同一である。
【0064】
第2金属層142及び152は、抵抗体130(第1金属層141及び151)よりも低抵抗の材料から形成されている。第2金属層142及び152の材料は、抵抗体130よりも低抵抗の材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できる。例えば、抵抗体130がCr混相膜である場合、第2金属層142及び152の材料として、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt等、又は、これら何れかの金属の合金、これら何れかの金属の化合物、あるいは、これら何れかの金属、合金、化合物を適宜積層した積層膜が挙げられる。第2金属層142及び152の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、3μm~5μm程度とすることができる。
【0065】
第2金属層142及び152は、第1金属層141及び151の上面の一部に形成されてもよいし、第1金属層141及び151の上面の全体に形成されてもよい。第2金属層152の上面に、更に他の1層以上の金属層を積層してもよい。例えば、第2金属層152を銅層とし、銅層の上面に金層を積層してもよい。あるいは、第2金属層152を銅層とし、銅層の上面にパラジウム層と金層を順次積層してもよい。電極150の最上層を金層とすることで、電極150のはんだ濡れ性を向上できる。
【0066】
このように、配線140は、抵抗体130と同一材料からなる第1金属層141上に第2金属層142が積層された構造である。そのため、配線140は抵抗体130よりも抵抗が低くなるため、配線140が抵抗体として機能してしまうことを抑制できる。その結果、抵抗体130によるひずみ検出精度を向上できる。
【0067】
言い換えれば、抵抗体130よりも低抵抗な配線140を設けることで、ひずみゲージ100の実質的な受感部を抵抗体130が形成された局所領域に制限できる。そのため、抵抗体130によるひずみ検出精度を向上できる。
【0068】
特に、抵抗体130としてCr混相膜を用いたゲージ率10以上の高感度なひずみゲージにおいて、配線140を抵抗体130よりも低抵抗化して実質的な受感部を抵抗体130が形成された局所領域に制限することは、ひずみ検出精度の向上に顕著な効果を発揮する。また、配線140を抵抗体130よりも低抵抗化することは、横感度を低減する効果も奏する。
【0069】
カバー層160は、基材110上に形成され、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出する。配線140の一部は、カバー層160から露出してもよい。抵抗体130及び配線140を被覆するカバー層160を設けることで、抵抗体130及び配線140に機械的な損傷等が生じることを防止できる。また、カバー層160を設けることで、抵抗体130及び配線140を湿気等から保護できる。なお、カバー層160は、電極150を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0070】
カバー層160は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成できる。カバー層160は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層160の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0071】
ひずみゲージ100を製造するためには、まず、基材110を準備し、基材110の上面110aに金属層(便宜上、金属層Aとする)を形成する。金属層Aは、最終的にパターニングされて抵抗体130、第1金属層141、及び第1金属層151となる層である。従って、金属層Aの材料や厚さは、前述の抵抗体130、第1金属層141、及び第1金属層151の材料や厚さと同様である。
【0072】
金属層Aは、例えば、金属層Aを形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜できる。金属層Aは、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0073】
ゲージ特性を安定化する観点から、金属層Aを成膜する前に、下地層として、基材110の上面110aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により所定の膜厚の機能層を真空成膜することが好ましい。
【0074】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である金属層A(抵抗体130)の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材110に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能や、基材110と金属層Aとの密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0075】
基材110を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に金属層AがCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が金属層Aの酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0076】
機能層の材料は、少なくとも上層である金属層A(抵抗体130)の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0077】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。また、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2等が挙げられる。
【0078】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/20以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0079】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/50以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0080】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0081】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0082】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0083】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0084】
なお、機能層の平面形状は、例えば、
図9に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。あるいは、機能層は、基材110の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0085】
また、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを50nm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材110側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ100において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0086】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材110の上面110aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0087】
ただし、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材110の上面110aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0088】
機能層の材料と金属層Aの材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、金属層Aとしてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0089】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、金属層Aを成膜できる。あるいは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、金属層Aを成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nの割合、並びにCrN及びCr2N中のCr2Nの割合を調整できる。
【0090】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。また、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ100のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0091】
なお、金属層AがCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、金属層Aの結晶成長を促進する機能、基材110に含まれる酸素や水分による金属層Aの酸化を防止する機能、及び基材110と金属層Aとの密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0092】
このように、金属層Aの下層に機能層を設けることにより、金属層Aの結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる金属層Aを作製できる。その結果、ひずみゲージ100において、ゲージ特性の安定性を向上できる。また、機能層を構成する材料が金属層Aに拡散することにより、ひずみゲージ100において、ゲージ特性を向上できる。
【0093】
次に、金属層Aの上面に、第2金属層142及び第2金属層152を形成する。第2金属層142及び第2金属層152は、例えば、フォトリソグラフィ法により形成できる。
【0094】
具体的には、まず、金属層Aの上面を覆うように、例えば、スパッタ法や無電解めっき法等により、シード層を形成する。次に、シード層の上面の全面に感光性のレジストを形成し、露光及び現像して第2金属層142及び第2金属層152を形成する領域を露出する開口部を形成する。このとき、レジストの開口部の形状を調整することで、第2金属層142のパターンを任意の形状とすることができる。レジストとしては、例えば、ドライフィルムレジスト等を用いることができる。
【0095】
次に、例えば、シード層を給電経路とする電解めっき法により、開口部内に露出するシード層上に第2金属層142及び第2金属層152を形成する。電解めっき法は、タクトが高く、かつ、第2金属層142及び第2金属層152として低応力の電解めっき層を形成できる点で好適である。膜厚の厚い電解めっき層を低応力とすることで、ひずみゲージ100に反りが生じることを防止できる。なお、第2金属層142及び第2金属層152は無電解めっき法により形成してもよい。
【0096】
次に、レジストを除去する。レジストは、例えば、レジストの材料を溶解可能な溶液に浸漬することで除去できる。
【0097】
次に、シード層の上面の全面に感光性のレジストを形成し、露光及び現像して、
図9の抵抗体130、配線140、及び電極150と同様の平面形状にパターニングする。レジストとしては、例えば、ドライフィルムレジスト等を用いることができる。そして、レジストをエッチングマスクとし、レジストから露出する金属層A及びシード層を除去し、
図9の平面形状の抵抗体130、配線140、及び電極150を形成する。
【0098】
例えば、ウェットエッチングにより、金属層A及びシード層の不要な部分を除去できる。金属層Aの下層に機能層が形成されている場合には、エッチングによって機能層は抵抗体130、配線140、及び電極150と同様に
図9に示す平面形状にパターニングされる。なお、この時点では、抵抗体130、第1金属層141、及び第1金属層151上にシード層が形成されている。
【0099】
次に、第2金属層142及び第2金属層152をエッチングマスクとし、第2金属層142及び第2金属層152から露出する不要なシード層を除去することで、第2金属層142及び第2金属層152が形成される。なお、第2金属層142及び第2金属層152の直下のシード層は残存する。例えば、シード層がエッチングされ、機能層、抵抗体130、配線140、及び電極150がエッチングされないエッチング液を用いたウェットエッチングにより、不要なシード層を除去できる。
【0100】
その後、必要に応じ、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するカバー層160を設けることで、ひずみゲージ100が完成する。カバー層160は、例えば、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層160は、基材110の上面110aに、抵抗体130及び配線140を被覆し電極150を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0101】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、保持部が本体とは離隔して配置される例を示す。なお、第1実施形態の変形例1において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0102】
図11は、第1実施形態の変形例1に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その1)である。
図12は、第1実施形態の変形例1に係る脈波測定装置を例示する斜視図(その2)である。
図13は、
図12の脈波センサ近傍を抜き出した裏面側斜視図である。なお、
図11は、
図12に示す脈波測定装置を被験者の手首に装着した様子を示している。
【0103】
図11~
図13を参照すると、脈波測定装置1Aは、保持部23が本体10Aとは離隔してベルト40に配置されている点が、脈波測定装置1と主に相違する。本体10Aは略直方体状である。本体10Aは、長手方向の長さが本体10よりも短いため、屈曲や湾曲をしていないが、必要に応じて屈曲や湾曲をしてもよい。
【0104】
保持部23は、例えば、第2帯状体42に固定されている。保持部23は、例えば、第2帯状体42を貫通し、第2帯状体42の両側に突出する。保持部23は、さらに第1帯状体41を貫通し、第1帯状体41側から調整部70の挿入部71を挿入可能である。保持部23は、
図12の状態で本体10Aとおおよそ対向する位置に配置されている。
【0105】
脈波センサ50は、突起部50xが保持部23の溝23xに嵌め込まれて位置決めされた状態で、保持部23に挿入されている。脈波センサ50の起歪体52側は、保持部23から被験者側に突起していてもよい。
【0106】
調整部70の挿入部71の少なくとも一部が保持部23の内側に入り込んで保持部23に螺合され、調整部70と保持部23とが固定されている。脈波センサ50と挿入部71との間には、
図5と同様に付勢部60が配置され、螺合の程度により付勢部60の付勢力を調整可能である。言い換えれば、調整部70の回転量(保持部23内への挿入部71の挿入量)を調整することで、付勢部60の付勢力を調整可能である。
【0107】
このように、保持部23及び保持部23に保持された脈波センサ50は、ベルト40に設けてもよい。
【0108】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0109】
1,1A 脈波測定装置、10,10A 本体、20 下部材、21 底部、21x 取付部、22 側壁部、23 保持部、23x 溝、30 上部材、31 頂部、32 側壁部、33 突起部、40 ベルト、41 第1帯状体、42 第2帯状体、50 脈波センサ、50x 突起部、51 筐体、52 起歪体、52a 基部、52b 梁部、52c 負荷部、52d 延伸部、60 付勢部、70 調整部、71 挿入部、72 蓋部、72x 溝