(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】被写界深度拡大用の可変収差の組み合わせを有する遠近調節眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/16 20060101AFI20250121BHJP
【FI】
A61F2/16
(21)【出願番号】P 2021518700
(86)(22)【出願日】2019-10-08
(86)【国際出願番号】 NL2019050669
(87)【国際公開番号】W WO2020076154
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-28
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】506270732
【氏名又は名称】アッコレンズ インターナショナル ビー.ヴイ.
【氏名又は名称原語表記】AKKOLENS INTERNATIONAL B.V.
【住所又は居所原語表記】Overaseweg 9,NL-4836 BA Breda,the Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【氏名又は名称】大西 正悟
(72)【発明者】
【氏名】ロンバック,ミッチェル,クリスティアン
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/055212(WO,A1)
【文献】特表2011-511671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸を有する遠近調節眼内レンズであって、2つの光学素子と、前記光軸に実質的に垂直な方向に前記2つの光学素子の相互並進移動を許容するハプティクスとを備え、
前記2つの光学素子の
それぞれが、眼のデフォーカスを生じさせる収差を修正するために、前記2つの光学素子を
前記方向に相互並進移動させ
る大きさに対応してデフォーカス能力を可変増加もしくは可変減少させるように形成された第1の自由形状光学面を有し、
前記2つの光学素子の
それぞれが、前記デフォーカスを生じさせる収差以外の
追加的収差に基づく光学出力特性を、前記2つの光学素子を
前記方向に相互並進移動させ
る大きさに対応して、可変増加もしくは可変減少させるように形成された第2の自由形状光学面を有
し、前記第2の自由形状光学面は、前記追加的収差を可変させて前記レンズの被写界深度を可変設定するように形成されていることを特徴とする遠近調節眼内レンズ。
【請求項2】
前記第2の自由形状光学面は、前記レンズの被写界深度を増加させるように光学出力特性を変化させる構成であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項3】
前記第2の自由形状光学面は、前記レンズの被写界深度を低減させるように光学出力特性を変化させる構成であることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項4】
前記第2の自由形状光学面は、非点収差に基づく可変光学出力特性を提供するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項5】
前記第2
の自由形状光学面は、非球面収差に基づく可変光学出力特性を提供するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項6】
前記第2の自由形状光学面は、任意のゼルニケモードに基づく可変光学出力特性を提供するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【請求項7】
前記第2の自由形状光学面は、任意の複数のゼルニケモードの組み合わせに基づく可変光学出力特性を提供するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(要約)
遠近調節レンズは、可変デフォーカスと所望の可変被写界深度との組み合わせを提供する。または代わりに、レンズは、可変デフォーカスと望ましくない可変光学収差の調節との組み合わせを提供する。可変光出力用の自由形状光学面は、手術前、製造の際、または代替的に手術後において移植レンズのレーザー処理によって提供することができる。
【背景技術】
【0002】
(本文)
この文献、すなわち本明細書は、人の眼内に埋め込まれる遠近調節眼内レンズ(以後、「レンズ」ともいう)の調節を開示する。そのようなレンズおよびそれらレンズの調節の詳細な説明は、多数の文献に開示されている。例えば、そのような遠近調節眼内レンズ(AIOLs)の設計については蘭国特許公報2012133号、蘭国特許公報201242号、欧州特許公報1871299号、欧州特許公報1932492号、および関連する文献に、および臨床結果に関しては、Alio著でAm J Ophthamol 2016 Apr, 164: 37-48に
記載されているが、これらに限定されるものではなく、これらの文献およびそれらの中でなされた参照文献は全て本明細書の一部であると考える。本明細書は、可変焦点レンズ(以後、「レンズ」ともいう)を開示する。レンズは、光軸と、各素子それぞれが少なくとも1つの自由形状光学面を備える少なくとも2つの光学素子を有する。各光学素子は好ましくは、少なくとも1つのアルバレス(Alvarez)、キュービックの光学面を有する。
そのようなレンズは、光出力を変化させ、「デフォーカス」を変化させるが、デフォーカスの程度(割合)は、主として光軸に垂直な方向における光学素子の相対移動の程度(割合)に依存する。加えて、可変焦点レンズは、また、波面符号化位相マスク(wavefront encoding phase mask)(以後「マスク」ともいう)を備えている。マスクは、自由形
状光学面の急峻さを徐々に変化させ、3次項の出力を変化させ、従って、被写界深度拡大(extended depth of field)「EDOF」を提供する。一定の3次項によるキュービッ
ク位相マスク、あるいは代替的に、徐々に変化する、例えば、増加する3次項による調節キュービック位相マスクが、マスクの好ましい実施形態である。可変の被写界深度拡大は、他のゼルニケ次数の他の面を組み合わせた光学面による代替マスク設計によっても達成することができる。
例えば、可変非球面、球面収差を提供する可変非球面収差用の少なくとも2つの自由形状光学面は、可変デフォーカスを提供するキュービック表面に追加することができる。被
写界深度に対する球面収差の効果に対しては、例えば、Mouroulis著「球面光学を用いた
被写界深度拡大」、Mouroulis, “Depth of field extension with spherical optics”,
Optics Express, August 2008, Vol.16, No. 17を参照のこと。
【0003】
被写界深度拡大用のキュービック波面符号化位相マスクは、例えば、欧州特許公報2110702号や米国特許公報6,547,139号などの技術的出願に記載されているように、被写界深度拡大のために最もよく知られている。キュービック位相符号化の主要な発明は、E. R. Dowski, Jr.およびW. T. Catheyにより「波面符号化による被写界深度拡
大(Extended depth of field through wavefront coding)」としてAppl. Opt. 34(11),
1859-1866 (1995)、および例えば、米国特許公報5,748,371号や国際公開公報
第99/57599号などの多くの付随する特許文献に報告されている。マスクは、好ましくは、光の振幅ではなく、光の位相を調整する。マスクは、3次項を修正するキュービックマスク、または、代替的に、非球面項を修正する非球面マスクであるが、光学マスクが光学伝達関数の拡大を維持する限りはこれらに限定されない。この拡大は、固定された拡大、または、代替的に本明細書に記載されているように、拡大の範囲が主として光軸に垂直な方向のマスクのシフトに依存する可変拡大でもよい。
【0004】
被写界深度拡大は焦点が伸びるが、被写界深度拡大は、定義上はまた、ぼやけを増加し、従って特に高い空間周波数に対してコントラストが失われることを注記する。被写界深度拡大は、光軸に沿って許容される焦点の範囲である「フォーカルトンネル」を広げる。このトンネルは、短い被写界深度で鮮明な焦点を持つという意味の「短くて狭い」ものから、長い被写界深度でぼやけた焦点を持つという意味の「長くて広い」ものへと変化する。被写界深度拡大が利点であるかどうかは、レンズの特定の用途の要件におけるコントラストが失われるという欠点を上回るかどうかであり、その拡大の程度(割合)は計算可能でありマスクの設計に組み込むことができる。例えば、人の視覚は、遠くを見るためには0.8以上の高い鮮明な視力を必要とするが、近くを読むための視力は0.4まで落ちると言われている。このような「非対称被写界深度拡大」を提供する遠近調節眼内レンズは、本明細書に開示されているような方法で設計することができる。
【0005】
例えば遠近調節眼内レンズのための光学素子の移動は、米国特許出願公開第2009/062912号および国際公開公報第2005/084587号に開示されているような原理によって、また、種々の調節を有する同様の概念が以下の特許文献などに開示されており、これらに限定されるものではないが達成することができる。ここで、以下の特許文献とは、米国特許出願公開第2014/074233号、国際公開公報第2014/058316号、欧州特許公報2765952号、蘭国特許出願公開第2012/257278号、米国特許出願公開第2010/131955号、米国特許出願公開第2010/106245号、および蘭国特許公報1029548号である。これらの原理はカメラ用途と同様に人の目にも、眼鏡および遠近調節眼内レンズの両方に対して良く機能することが示されている。
【0006】
そのような遠近調節眼内レンズ用途は、例えば眼鏡用および人の眼に埋め込まれる眼内レンズ用の眼科用である。そのような遠近調節、並進型の眼内レンズ構造は、他の文献からも知られている。例えば、そのような構造の設計については蘭国特許公報2012133号、蘭国特許公報201242号、欧州特許公報1871299号、欧州特許公報1932492号から知られている。および臨床結果については例えばAlioら著、Am J Ophthamol 2016 Apr, 164: 37-48から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】蘭国特許公報2012133号
【文献】蘭国特許公報201242号
【文献】欧州特許公報1871299号
【文献】欧州特許公報1932492号
【文献】欧州特許公報2110702号
【文献】米国特許公報6,547,139号
【文献】米国特許公報5,748,371号
【文献】国際公開公報第99/57599号
【文献】米国特許出願公開第2009/062912号
【文献】国際公開公報第2005/084587号
【文献】米国特許出願公開第2014/074233号
【文献】国際公開公報第2014/058316号
【文献】欧州特許公報2765952号
【文献】蘭国特許出願公開第2012/257278号
【文献】米国特許出願公開第2010/131955号
【文献】米国特許出願公開第2010/106245号
【文献】蘭国特許公報1029548号
【文献】国際公開公報第2018/152407号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Alioら著、Am J Ophthamol 2016 Apr, 164: 37-48
【文献】Mouroulis著「球面光学を用いた被写界深度拡大」、Mouroulis, “Depth of field extension with spherical optics”, Optics Express, August 2008, Vol.16, No. 17
【文献】E. R. Dowski, Jr.およびW. T. Cathey著「波面符号化による被写界深度拡大(Extended depth of field through wavefront coding)」:Appl. Opt. 34(11), 1859-1866 (1995)
【発明の概要】
【0009】
本明細書は、可変デフォーカスと所望の可変被写界深度との組み合わせを提供するレンズ、または代替的に可変デフォーカスと望ましくない可変光学収差の調節との組み合わせを提供するレンズを開示している。
【0010】
レンズは光軸を有して、少なくとも2つの光学素子を備え、そのうちの少なくとも1つの光学素子が光軸に主に垂直な少なくとも1つの方向に並進する。各光学素子は、少なくとも1つの自由形状光学面を備えており、これらの面の組み合わせによってレンズの少なくとも1つの光学収差の変化を提供する。この光学収差の変化の程度(割合)は光学素子の少なくとも1つのシフトの程度(割合)に依存する。そのような並進レンズは前述の文献から知られており、そのようなレンズは、通常は、しかし、必ずしも必要ではないが、可変デフォーカス出力を提供するためにキュービック光学面を有している。そのようなキュービック面、追加の光学面、および面の組み合わせはゼルニケ多項式によって定義することができ、そのうちの最初の15モードは、人の眼に関連すると考えられており、この多項式は、種々の光学面形状の自由形状光学面を説明するために本明細書に述べられている。そのような光学面、そのような自由形状の光学面、回転非対称の光学面は、例えばスプライン、またはカテーシアン(Cartesian)、または非一様加重Bスプライン(NUR
BS)アルゴリズム、または任意の他のアルゴリズムから導出可能である。任意の式またはアルゴリズムに由来する自由形状面は、本明細書に含まれると考える。そのようなキュービック面の例としては以下の式による面がある。
t1=A(xy2+1/3x3)+E
【0011】
そのようなレンズの光学系は、第1に眼の遠近調節を提供する可変焦点を提供する。す
なわち、遠くから読書距離である近傍までの鮮明な視覚を提供するために、眼のデフォーカス収差を補正するための可変デフォーカスを提供する。光学素子の少なくとも1つの並進移動は、光軸に垂直な方向への光学素子のスライドを意味するシフトであるか、または代替的に光軸に垂直な平面内における回転、または代替的に光学素子の楔化(wedging)
、または代替的に光軸に対して主に垂直な平面内での任意の動きの組み合わせである。
【0012】
レンズは、少なくとも1つの固定用ハプティックを備えることができる。ここで、ハプティックとは、眼の前房内、または代替的に眼の後房内で光学素子を位置決めし、固定する機械的構成要素を意味する。レンズは、少なくとも1つの並進ハプティックを備えることができる。ここで、並進ハプティックとは、眼内の少なくとも1つの構成要素の動きを少なくとも1つの光学素子に伝達することによって少なくとも1つの光学素子の並進を提供する機械的構成要素を意味する。レンズは、位置決めと並進の組み合わせを提供するための少なくとも1つのハプティックを備えることができる。レンズは、眼の生得の構成要素に結合された少なくとも1つのハプティックを備えることができる。この構成要素は、眼の毛様体塊(ciliary mass)または代替的に眼の小帯網目組織(zonula network)または代替的に眼の水晶体嚢(capsular bag)または代替的に眼の紅彩(iris)または代替的に眼の任意の生得の構成要素であることができる。
また、レンズは、眼の後房で発生する液圧、または代替的に微小電気機械システムを意味するMEMSによって駆動することができる。この微小電気機械システムは、少なくとも1つの光学素子の並進を提供する。さらに、レンズは、また、例えば、固定された光学的障害である老眼(また、読書遠視ともいう)などの眼の固定的な光学的障害を補正するための少なくとも1つの光学面を備えることができる。また、レンズは、眼の少なくとも1つの望ましくない可変光学的障害、たとえば、可変乱視、または代替的に、眼の光学面または代替的にレンズの光学面によって発生しうる望ましくない収差である可変球面収差を補正することができる。
【0013】
【0014】
追加可変光出力を提供するための光学面を、レンズを埋め込む眼の手術前測定に基づいた可変光出力の程度(割合)に基づいて、埋め込む前のレンズの製造時にレンズに追加することが出来る。代替的に、追加可変光出力を提供するための光学面は、手術後のレンズが埋め込まれている眼の測定に基づいた可変光出力の程度(割合)に基づいて埋め込み後に追加することが出来る。光学面の修正は、例えば、国際公開公報第2018/152407号に記載されたような手術後のレーザー治療による眼内物質の修正、手術後の遠近調節眼内レンズのカスタマイズされた波面誘導屈折レーザー治療によって提供できる。本明細書に記載された任意の少なくとも1つの可変収差のための光学面修正治療を行うことができる。そのような治療は、可変デフォーカスを提供する光学面を調整することができ、例えば、光学面の相互並進移動の単位当たりのジオプター変化を増加させるためにこれらの面の急峻さを増加させる。
【0015】
好ましくは、追加自由形状面は、素子の相互並進移動の割合に依存して追加光出力を可変増加するように構成されている。
【0016】
魅力的な実施形態では、追加自由形状面は、素子の相互並進移動の割合に依存して追加光出力を可変減少するように構成されている。
【0017】
好ましくは、追加自由形状面は、レンズの被写界深度拡大を提供する追加光出力を変化
させるように構成されている。
【0018】
別の魅力的な実施形態では、追加自由形状面は、レンズの被写界深度の低減を提供する追加光出力を変化させるように構成されているという特徴を提供する。
【0019】
追加自由形状面を非点収差の可変光出力を提供するように構成することも可能である。
【0020】
追加自由形状面は、非球面の可変光出力を提供するように構成されていることが好ましい。
【0021】
別の可能性によれば、追加自由形状面は、任意のゼルニケモードの任意の可変出力を提供するように構成されている。
【0022】
追加自由形状光学面は、任意の複数のゼルニケモードの複数の可変光出力の組み合わせを提供するように構成されていることもまた可能である。
【0023】
本発明はまた、請求項1~9のいずれかに記載のレンズと、人工レンズを具備する眼の光出力を測定するように構成され、測定された光出力を人工レンズの光出力に変換するように構成された装置との組み合わせを提供する。
【0024】
好ましくは、装置は、レンズが埋め込まれる眼の少なくとも1つの可変収差の光出力変化範囲の測定を含んで眼を測定するように構成されており、前記光出力変化をレンズの少なくとも2つの自由形状光学面により提供される同一の収差に対するジオプター変化へ変換するように構成されている。
【0025】
装置は、少なくとも1つの追加の可変収差のジオプター変化の範囲の測定を提供することを含んでレンズが埋め込まれた眼の測定を行うように構成されており、前記ジオプター変化をレンズの少なくとも2つの自由形状光学面で提供される同一の収差に対するジオプター変化へ変換し、任意の手術後の自由形状変化手順によって自由形状面の前記ジオプター変化の調節を行うように構成することもまた、可能である。
【0026】
1実施形態によれば、装置は、埋め込みを始める前にレンズを製造するように構成している。
【0027】
しかしながらまた、装置は手術後の自由形状変化手順を行うように構成することも可能である。
【0028】
より詳細には、装置は、手術後の現場においてレンズのレーザー治療による自由形状変化手順を行うように構成している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
(図面)
【
図1】可変非球面収差のための追加自由形状面を有する遠近調節レンズ用の被写界深度拡大の1実施例を示す説明図であり、
図1は
図3の本発明を説明するための先行技術の説明図である。
【
図2】可変非球面収差のための追加自由形状面を有する遠近調節レンズ用の被写界深度拡大の1実施例を示す説明図であり、
図2は
図3の本発明を説明するための先行技術の説明図である。
【
図3】可変非球面収差のための追加自由形状面を有する遠近調節レンズ用の被写界深度拡大の本発明の1実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、所望の範囲にわたって鮮明な焦点を有する光学系と言える非収差であり、完全な遠近調節レンズを示す。レンズは、光軸に主に垂直な方向3に並進移動する2つの光学素子1、2を備えており、入射光ビーム4、光軸5、出射集束光ビーム6により近方視用の焦点7を提供する。およびレンズは、光学素子の少なくとも1つの並進移動後に、出射集束光ビーム8により遠方視用の焦点9およびレンズの焦点範囲10を提供する。
【0031】
図2は、固定されたぼやけた焦点を有する収差固定光学系であり、ぼかし11を有して近方視での被写界深度拡大13aを追加しており、これは望ましい。しかし、また、遠方視用でのぼかし13bも追加しており、これは一般に望ましくない。なぜならば遠方での視覚は近方での視覚に比べて画像劣化により敏感であるからである。この図は、例えば、固定焦点レンズに固定出力の非球面を追加した効果を所望の範囲に亘って示しており、ぼかしは、拡大された焦点、つまりフォーカルトンネル12によって示されている。
【0032】
図3は本発明の1例を示す。例えば、可変焦点レンズへ可変非球面追加などの可変ぼかし焦点を有する可変収差光学系であって、第1に近方視で所望の範囲13aを拡大するぼかし16が得られ、第2にぼかしの調節により、フォーカルトンネルを徐々に縮小させて、第3に、
図2のような拡大焦点範囲17を維持しつつ明瞭な焦点15を遠方視で得られる。
【0033】
ここで要約すると、本明細書は、光軸を有する遠近調節眼内レンズを開示している。レンズは少なくとも2つの光学素子を備え、そのうちの少なくとも1つの素子は光軸にほぼ垂直な少なくとも1つの方向に並進移動するように構成されており、そのうちの少なくとも2つの素子は、光出力の程度(割合)が素子の相互シフトの程度(割合)に依存する可変デフォーカス光出力を提供するように構成されたそれぞれ少なくとも1つの自由形状光学面を有し、それぞれの素子は、また、デフォーカス以外の少なくとも1つの追加収差の可変光出力を提供するように構成されており、追加収差の可変光出力の程度(割合)は、素子の相互シフトの程度(割合)に依存する、少なくとも1つの追加自由形状光学面を有する。
追加自由形状面は、素子の相互シフトの程度(割合)に依存する追加可変光出力を可変増加することができ、または代替的に、追加自由形状面は、素子の相互シフトの程度(割合)に依存する追加可変光出力を可変減少することができる。例えば、追加自由形状面は、レンズの被写界深度拡大を提供する追加可変光出力を変化させることができ、または代替的に、追加自由形状面は、レンズの被写界深度減少を提供する追加可変光出力を変化させることができる。追加自由形状面は、非点収差の可変光出力を提供することができ、または代替的に非球面の可変光出力を提供することもでき、または代替的に、任意のゼルニケモードの任意の可変出力を提供することができ、または代替的に、任意の複数のゼルニケモードの複数の可変光出力の組み合わせを提供することができる。
【0034】
そのようなレンズを提供する方法は手術前の方法とすることができる。方法は、第1に、少なくとも1つの可変収差のジオプター変化の範囲を測定することを含んでレンズが埋め込まれる眼の測定を行い、第2に、前記ジオプター変化をレンズの少なくとも2つの自由形状光学面によって提供される同一の収差に対するジオプター変化に変換し、第3にレンズの製造と埋め込みを提供することを含む。
代替的に、そのようなレンズを提供する方法は手術後の方法とすることができる。方法は、第1に、少なくとも1つの追加可変収差のジオプター変化の範囲を測定することを含んでレンズが埋め込まれた眼の測定を行い、第2に、前記ジオプター変化をレンズの少なくとも2つの自由形状光学面によって提供される同一の収差に対するジオプター変化に変換し、第3に、手術後の任意の自由形状変化手順により自由形状面の前記ジオプター変化
の調節を提供する。手術後の任意の自由形状変化手順は、任意の手順であり得、例えばフェムト秒レーザー治療などのレーザー治療による眼内物質の手術後修正であることもできる。
【0035】
そのようなレンズを提供する方法は、
図1~3に例示されているように、所望の被写界深度拡大を提供するために、例えば非球面収差の増加など、光学素子の並進移動の単位当たりの任意の収差のジオプター変化の増加を提供することができるが、これに限定されることはない。
【0036】
代替的に、そのようなレンズを提供する方法は、例えば、望ましくない可変コマ収差の減少や、眼の視力を低下させる任意の望ましくない可変収差の減少など、光学素子の並進移動の単位当たりの任意の収差のジオプター変化の減少を提供することができる。
【0037】
本発明はさらに、本発明によるレンズと、人工レンズを具備する眼の光出力を測定するように構成され、測定された光出力を人工レンズの光出力に変換するように構成された装置との組み合わせに関する。
【0038】
1実施形態では、装置は、レンズが埋め込まれる眼の少なくとも1つの可変収差の光出力変化範囲の測定を含んで眼を測定するように構成されており、前記光出力変化をレンズの少なくとも2つの自由形状光学面により提供される同一の収差に対するジオプター変化へ変換するように構成されている。
【0039】
(本発明の他の実施形態と組み合わせ可能な)1実施形態では、装置は、少なくとも1つの追加の可変収差のジオプター変化の範囲の測定を提供することを含んでレンズが埋め込まれた眼の測定を行うように構成されており、前記ジオプター変化をレンズの少なくとも2つの自由形状光学面によって提供される同一の収差に対するジオプター変化に変換し、任意の手術後の自由形状変化手順によって自由形状面の前記ジオプター変化の調節を行うように構成されている。
【0040】
(本発明の他の実施形態と組み合わせ可能な)1実施形態では、装置は、レンズを製造するように構成されている。
【0041】
(本発明の他の実施形態と組み合わせ可能な)1実施形態では、装置は手術後の自由形状変化手順を行うように構成されている。
【0042】
(本発明の他の実施形態と組み合わせ可能な)1実施形態では、装置は、手術後の現場でのレーザー治療による自由形状変化手順を行うように構成されている。