(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】スロープ構造
(51)【国際特許分類】
E04G 27/00 20060101AFI20250121BHJP
E04F 11/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
E04G27/00
E04F11/00 100
(21)【出願番号】P 2020138652
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】598088723
【氏名又は名称】株式会社カイダー・ベースボード工業
(74)【代理人】
【識別番号】110003498
【氏名又は名称】弁理士法人アイピールーム
(74)【代理人】
【識別番号】100167117
【氏名又は名称】打越 佑介
(72)【発明者】
【氏名】岩沢 成吉
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-292585(JP,A)
【文献】特開2015-193991(JP,A)
【文献】特開2018-168594(JP,A)
【文献】実開平06-056371(JP,U)
【文献】特開2001-081925(JP,A)
【文献】登録実用新案第3202365(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 27/00
E04F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築躯体の表面部から突出した突出部に隣接して段差を解消するスロープ構造であって、
前記建築躯体の突出部と同程度の高さに位置する略水平な上面部を有する架台部と、
前記架台部の上面部から前記建築躯体の表面部に渡っている斜路部と、
前記架台部及び前記斜路部の裏側に配置されて前記建築躯体の表面部と突出部との境界に位置する溝部に嵌る嵌合部と、を備える
ことを特徴とするスロープ構造。
【請求項2】
建築躯体の表面部から突出した突出部に隣接して段差を解消するスロープ構造であって、
前記建築躯体の突出部と同程度の高さに位置する略水平な上面部を有する架台部と、
前記架台部の上面部から前記建築躯体の表面部に渡っている斜路部と、を備え、
前記突出部に向かうにつれて下り傾斜した前記建築躯体の表面部になだらかに接続するように、前記斜路部における、前記建築躯体の突出部側が、前記建築躯体の突出部から離間する側よりも前記架台部から離れる方向に長く形成されている
ことを特徴とするスロープ構造。
【請求項3】
前記建築躯体の突出部と対向する位置に設けられて前記架台部の上面部より高い立ち上がり部と、を備える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のスロープ構造。
【請求項4】
請求項1に記載のスロープ構造の前記嵌合部を前記溝部に嵌めて、前記架台部と前記斜路部とを前記建築躯体の表面部に載置し、
前記建築躯体の突出部側から前記架台部の上面部に向かって荷物をスライドし、
前記架台部の上面部から前記斜路部を経由して前記建築躯体の表面部に向かって前記荷物をスライドする
ことを含むスロープ構造の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建設中の集合住宅等の建築物における建材等の荷物の運搬経路に生じる段差を解消するスロープ構造である。
【背景技術】
【0002】
従来から、台車やハンドリフトで荷物の運搬をしやすくするために、運搬途中の段差を解消するスロープが活用されてきた。一般的に、スロープは、運搬に対する耐荷重性を有し、移動かつ着脱しやすい仕様を望まれていたが、材質によっては重過ぎて移動や着脱しにくかったり、軽過ぎて運搬中に位置ずれしたりしていたため、これらの問題を解決できる構造を検討されてきた。
【0003】
例えば、スロープ最上部とスロープ下部とが、蝶番で連結されて折り畳みでき、スロープ最上部の下面には、ハンドリフトの爪を挿入するための溝部が設けられ、スロープ最上部及び/又はスロープ下部の下面には、ゴム等の弾性シートが敷かれているスロープ構造が開示されている(特許文献1参照。)。これによれば、スロープの自重が重くても移動や着脱しやすく、荷物の重量が重くても位置ずれしにくく、作業効率の向上を期待できた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、建設現場特有の運搬経路に生じる段差を解消しにくく、作業効率の向上には至りにくい。例えば、上記段差としては、エレベーター式のリフトに対して荷物を出し入れする集合住宅の各階に設けられた外廊下やベランダ・テラスを形成する建築躯体と、上記リフトと上記建築躯体との間に配置されたリフトステージと、によるものがあげられる。
【0006】
具体的には、上記建築躯体が外側に向かって緩やかに傾斜している表面部の最外端から上方に突出している突出部を有し、上記リフトステージが上記突出部の上端の高さに合わせて固定設置されるために上記段差が生じることから、特許文献1のスロープ構造では、上記段差を解消しにくく、解消できたとしても荷物が重い場合、搬入時にスロープを下り切ったままの勢いで集合住宅における建設中の壁等に衝突する恐れがある。
【0007】
特許文献1のスロープ構造としては、移動や設置しやすい点を優先しているが、上述した課題を解決するスロープ構造としては、建築躯体のような段差の高低差及び形状に鑑みれば、スロープの勾配が急過ぎないように緩和したり、表面の傾斜を補ったり、搬入時の荷物がスロープから落下しないようにする点を優先すべきであることに、発明者は辿り着いた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、建設現場特有の運搬経路に生じる段差を解消し、荷物を安全に搬入出できるスロープ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明におけるスロープ構造は、建築躯体の表面部から突出した突出部に隣接して段差を解消するスロープ構造であって、上記建築躯体の突出部と同程度の高さに位置する略水平な上面部を有する架台部と、上記架台部の上面部から上記建築躯体の表面部に渡っている斜路部と、を備えることを特徴とする。上記スロープ構造は、上記架台部及び上記斜路部の裏側に配置されて上記建築躯体の表面部と突出部との境界に位置する溝部に嵌る嵌合部と、を備えることが望ましい。
【0010】
また、本発明におけるスロープ構造は、建築躯体の表面部から突出した突出部に隣接して段差を解消するスロープ構造であって、上記建築躯体の突出部と同程度の高さに位置する略水平な上面部を有する架台部と、上記架台部の上面部から上記建築躯体の表面部に渡っている斜路部と、を備え、上記突出部に向かうにつれて下り傾斜した上記建築躯体の表面部になだらかに接続するように、上記斜路部における、上記建築躯体の突出部側が、上記建築躯体の突出部から離間する側よりも上記架台部から離れる方向に長く形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、上記スロープ構造は、上記建築躯体の突出部と対向する位置に設けられて上記架台部の上面部より高い立ち上がり部と、を備えることが望ましい。
【0012】
また、本発明におけるスロープ構造の使用方法は、上記嵌合部を上記溝部に嵌めて、上記架台部と上記斜路部とを上記建築躯体の表面部に載置し、上記建築躯体の突出部側から上記架台部の上面部に向かって荷物をスライドし、上記架台部の上面部から上記斜路部を経由して上記建築躯体の表面部に向かって上記荷物をスライドすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によるスロープ構造によれば、建設現場特有の運搬経路に生じる段差を解消し、荷物を安全に搬入出できることを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態におけるスロープ構造の概要図である。
【
図2】上記スロープ構造の(a)平面図、(b)正面図、(c)背面図である。
【
図3】
図2(a)における(a)X-X部分断面図、(b)Y-Y部分断面図である。
【
図4】
図2(a)における(a)~(c)別のX-X部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、
図1~
図4を参照しつつ、本発明の一実施形態におけるスロープ構造(以下、「本スロープ構造」ともいう。)について説明する。
これらの図において、複数個存在する同一の部位については、一つの部位のみに符番した部分もある。説明の便宜上、所定の部位やこの部位の引き出し線をかくれ線(破線)で示した部分もある。説明において、上・下・側・垂直・鉛直・水平・外・内等の向きを示す用語は、基本的に集合住宅を基準とし、それ以外は必要に応じて基準を明示するものとする。
【0016】
図1に示すように、本スロープ構造は、建設中の集合住宅Mの各階に設けられた外廊下やベランダ・テラスを形成する建築躯体Cに生じる段差を解消するものであり、換言すれば、集合住宅Mの各階と、建築躯体Cの高さに合わせて固定設置されたリフトステージLとの間の建材等の荷物の出し入れにおける運搬経路を形成するものである。集合住宅Mは、建築躯体Cより内側に各居室を形成する壁W、付番しない柱等、又は所定の段差を有していてもよい。
【0017】
建築躯体Cは、公知の構造・形状・寸法であり、外側に向かって緩やかに傾斜している躯体表面部C1と、躯体表面部C1の最外端から上方に略鉛直に突出している躯体突出部C2と、躯体表面部C1と躯体突出部C2との境界に位置する直線状かつ所定の深さの躯体溝部C3と、を備えている。躯体突出部C2及び躯体溝部C3は、躯体表面部C1に沿って連なっている。躯体突出部C2の上端面は、内側に向かって緩やかに傾斜している。
【0018】
図1に示すように、本スロープ構造は、建築躯体Cの躯体表面部C1から突出した躯体突出部C2に隣接して段差を解消するものであって、躯体突出部C2と同程度の高さに位置する略水平な架台上面部11を有する架台部1と、架台上面部11から躯体表面部C1に渡っている斜路部2と、を備える。
【0019】
これによれば、架台部1が躯体表面部C1に載置された状態で、架台上面部11が躯体突出部C2の上端面と略同等の高さに位置し、斜路部2が架台上面部11の側端から躯体突出部C2に沿って躯体表面部C1に渡っているため、リフトステージLを介して運ばれてきた荷物Bを、架台部1及び斜路部2を経由して、集合住宅Mの各階の建築躯体Cに安全に搬入しやすくなる効果を期待できる。
【0020】
詳細には、
図2(a)~(c)に示すように、架台部1及び斜路部2の最外端は、躯体突出部C2の内側面に接しており、換言すれば、架台部1及び斜路部2と躯体突出部C2との間に隙間はない。架台部1及び斜路部2の奥行幅は同等でもよいが、荷物の搬送効率を考慮して斜路部2の奥行幅が架台部1の奥行幅より長くてもよい。架台部1は、平面視で長手辺と短手辺とを有する長方形状であり、例えば、横幅が3000mm~4000mm、縦幅が500mm~1500mmでもよい。
【0021】
図3(a)に示すように、架台部1は、架台上面部11と、躯体表面部C1に載置された状態で架台上面部11を略水平にする架台脚部12と、を有する。架台脚部12は、架台部1の長手辺と直交する向きに少なくとも2本以上設けられた所定幅の架台脚基礎部12aと、架台脚基礎部12aと躯体表面部C1との間に挟まれた架台脚下駄部12bと、架台部1の長手辺と平行かつ最外端に配置されて架台脚基礎部12aの外端面と面する架台脚補助部12cと、を有する。架台部1の高さは、例えば、50mm~150mmでもよい。
【0022】
架台脚基礎部12a及び架台脚補助部12cは、直方体状に加工された角材である。架台脚下駄部12bは、架台脚基礎部12aと躯体表面部C1との隙間寸法に応じて縦幅の異なる2つのゴム材であるが、3つ以上でも1つでもよく、換言すれば、架台脚基礎部12aの縦寸法と架台上面部11の高さ位置とに応じて設置個数を決定してもよい。
【0023】
架台部1は、例えば、架台上面部11を1枚、架台脚基礎部12aを3本、架台脚部12aの各々に応じた架台脚下駄部12bを所定個数、架台脚補助部12bを1本により構成されていてもよく、これを1セットとしてもよく、この横幅が1000mm前後でもよい。架台部1を2セット以上(
図3では3セット)組み合わせる場合、各々のセットは、架台脚基礎部12a同士を向け合い、コの字型のジョイトン材で連結されてもよい。
【0024】
図2(a)~(c)に示すように、斜路部2は、架台部1の両方の短手辺側に配置されてそれぞれ異なる傾斜角でもよいが、どちらか一方のみに配置されていてもよい。斜路部2は、平面視で台形状であり、例えば、横幅が700mm~1500mm、縦幅が500mm~1500mmでもよく、内側より外側(躯体突出部C2側)が長くなるように斜めにしてあることで、躯体表面部C1の傾斜に併せてガタつかずに斜路部2の斜面を形成できる。斜路部2の横幅は、双方異なっているが、同じでもよい。
【0025】
図3(b)に示すように、斜路部2は、斜路上面部21と、躯体表面部C1に載置された状態で斜路上面部21を所定の傾斜角にする斜路脚部22と、を有する。斜路脚部22は、斜路部2の長手辺と直交する向きに少なくとも2本以上設けられた所定幅の斜路脚基礎部22aと、斜路脚基礎部22aと躯体表面部C1との間に挟まれた斜路脚下駄部22bと、を有する。
【0026】
斜路脚基礎部22aは、直方体状に加工された角材であり、架台脚基礎部12aと同部材でもよい。斜路脚下駄部22bは、斜路脚基礎部22aと躯体表面部C1との隙間寸法に応じて縦幅の異なる2つのゴム材であるが、3つ以上でも1つでもよく、換言すれば、斜路脚基礎部22aの縦寸法と斜路上面部11の傾斜角とに応じて設置個数を決定してもよく、架台脚下駄部12bと同部材でもよい。
【0027】
図1及び
図2に示すように、本スロープ構造は、さらに、躯体突出部C2と対向する位置に設けられて架台上面部11より高い立ち上がり部3と、を備える。
【0028】
これによれば、荷物Bが、架台上面部11を超えて架台部1から落下しないよう予防できる。すなわち、立ち上がり部3は、荷物Bに対するストッパーであり、荷物Bを架台上面部11から斜路部2に安全に送り出せる効果を期待できる。
【0029】
詳細には、
図3に示すように、立ち上がり部3は、直方体状に加工された角材であり、躯体突出部C2から最も離れており、架台部1の最内端かつ架台上面部11と架台脚基礎部12aとを切り欠いた付番しない角部分に配置されているが、切り欠かずに所定の固定治具で架台上面部11に着脱自在に載置してもよい。立ち上がり部3の高さは、架台上面部11より高ければいずれでもよいが、例えば、架台上面部11から10mm以上でも50mm以上でも100mm以上突出してもよい。立ち上がり部3は、架台部1の1セット毎に分割して設けられても、架台部1の複数セットを横断するように設けられてもよい。
【0030】
図2に示すように、本スロープ構造は、さらに、架台部1及び斜路部2の裏側に配置されて躯体表面部C1と躯体突出部C2との境界に位置する躯体溝部C3に嵌る嵌合部4と、を備える。
【0031】
この構成によれば、架台部1及び斜路部2が木材等の比較的軽めな素材であっても、建築躯体Cに固定せずに位置ずれを予防できる。すなわち、架台部1及び斜路部2が躯体表面部C1に載置された状態で、嵌合部4が躯体溝部C3に嵌るように設けられているため、架台部1及び斜路部2を躯体突出部C2に沿ってスライドしようとする外力や、特に架台部1及び斜路部2を躯体突出部C2から離そうとする外力に対し、嵌合部4が架台部1及び斜路部2の位置ずれを回避する効果を期待できる。
【0032】
詳細には、
図3に示すように、嵌合部4は、直方体状に加工された角材であり、架台部1及び斜路部2の裏側の最外端(躯体突出部C2側)に配置され、架台脚部12及び斜路脚部22の裏面に貼り付けて設けられている。嵌合部4は、架台部1毎や斜路部2毎に分割して設けられても、架台部1及び斜路部2を横断するように設けられてもよい。
【0033】
また、架台部1の高さ次第で、架台上面部11と建築躯体Cの躯体突出部C2の上端面とで段差が生じ、荷物を搬送しにくくなる恐れもある。このような事象を予防又は回避するには、例えば、
図4(a)に示すように、躯体突出部C2の上端面に板材P1及びP2(板材P2はリフトステージLの一部でもよい。)をそれぞれ載置して上記段差を解消したり、
図4(b)に示すように、躯体突出部C2の上端面に板材Pを載置して上記段差を解消しめたり、
図4(c)に示すように、架台部1の高さを低めにして架台上面部11の高さを躯体突出部C2の上端面の最下端の高さに併せて上記段差を生じないようにしたりしてもよい。
【0034】
そして、本スロープ構造の使用方法は、
図1に示すように、躯体突出部C2に隣接するように架台部1と斜路部2とを組み合わせて躯体表面部C1に載置し、躯体突出部C2側から架台上面部11に向かって荷物Bをスライドし、架台上面部11から斜路部2を経由して躯体表面部C1に向かって荷物Bをスライドする。
【0035】
この使用方法によれば、本スロープ構造の基本パーツである架台部1及び斜路部2を集合住宅の各階の建築躯体Cに容易に持ち運び、手間なく組み立てて設置できる。そして、従来のスロープ構造と違い、荷物Bは集合住宅Mの壁Wに向かわず、架台上面部11上で進行方向を変更し、壁Wと平行して斜路部2を下って躯体表面部C1に安全に搬入されるため、荷降ろしの作業効率の向上を期待できる。
【0036】
なお、本実施形態に示したスロープ構造は、上述した内容に限定されず、同等の効果を得られる限り、あらゆる部位の位置・形状・寸法や、部位同士の関係を含む。
【符号の説明】
【0037】
1 架台部、11 架台上面部、12 架台脚部、12a 架台脚基礎部、12b 架台脚下駄部、12c 架台脚補助部、2 斜路部、21 斜路上面部、22 斜路脚部、3 立ち上がり部、4 嵌合部、B 荷物、C 躯体、C1 躯体表面部、C2 躯体突出部、C3 躯体溝部、L リフトステージ、M 集合住宅、W 壁