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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】ホウレンソウ植物
(51)【国際特許分類】
   A01H 6/02 20180101AFI20250121BHJP
   A01H 3/00 20060101ALI20250121BHJP
   A01H 5/10 20180101ALI20250121BHJP
【FI】
A01H6/02
A01H3/00
A01H5/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021009144
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2022113045
(43)【公開日】2022-08-03
【審査請求日】2023-10-12
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22406
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22407
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22408
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22409
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22410
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22411
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-22412
(73)【特許権者】
【識別番号】390028130
【氏名又は名称】タキイ種苗株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】神田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】林 宏信
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】International Seed Federation,Differential Sets,2018年04月,インターネット:<URL:https://www.worldseed.org/our-work/plant-health/differential-hosts/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FER P-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FER P-22412で寄託されている、ホウレンソウ植物の種子。
【請求項2】
番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FER P-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FER P-22412で寄託されている種子から生育された、ホウレンソウ植物。
【請求項3】
請求項2記載のホウレンソウ植物の後代系統を含み、
前記後代系統は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、ホウレンソウ植物:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
【請求項4】
請求項2または3記載のホウレンソウ植物の後代系統を含み、
前記後代系統は、下記(2’)、または(3’)の形質を有する、ホウレンソウ植物:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
【請求項10】
種子を採種する採種工程を含む、請求項8または9記載のホウレンソウ植物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウレンソウ植物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウレンソウ栽培において、べと病の病原菌による病害は、世界的に深刻な問題となっている。べと病の病原菌(べと病菌)に感染した植物体は、葉の枯死等により、植物体の生育が減退し、その結果、減収が生じる。
【0003】
このため、べと病に対する抵抗性遺伝子座を利用して、べと病菌に抵抗性を示す品種の育成が試みられている。しかしながら、これらの抵抗性遺伝子座を含むホウレンソウ植物に対して感染可能なべと病菌が出現し、問題となっている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Shyam L. Kandel et.al., “Spinach Downy Mildew: Advances in Our Understanding of the Disease Cycle and Prospects for Disease Management”, Plant Disease, 2019, vol 103, pages 791-803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、べと病抵抗性ホウレンソウ植物またはその種子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のホウレンソウ植物の種子は、受番号FER P-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で寄託されている。
【0007】
本発明のホウレンソウ植物は、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で寄託されている種子から生育される。
【0008】
本発明のホウレンソウ植物の製造方法は、前記本発明のホウレンソウ植物を自殖させる自殖工程を含む。
【0009】
本発明のホウレンソウ植物の製造方法は、前記本発明のホウレンソウ植物と、他のホウレンソウ植物とを交雑する交雑工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、べと病抵抗性ホウレンソウ植物またはその種子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ホウレンソウ植物の葉身の切れ込みの強弱の例を示す模式図である。
図2図2は、ホウレンソウ植物の葉柄の向きの例を示す模式図である。
図3図3は、ホウレンソウ植物の葉身の向きの例を示す模式図である。
図4図4は、ホウレンソウ植物の収穫した種子のとげの無の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ホウレンソウ植物>
本発明のホウレンソウ植物は、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物(以下、まとめて、「寄託系統」ともいう。)またはその後代系統を含む。本発明のホウレンソウ植物は、受番号FERM BP-22406、受番号FER P-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定されるホウレンソウ植物またはその後代系統を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。
【0013】
べと病の病原菌は、前述のように、レース分化が激しく、加速度的に新レースが発生している。このため、各レースに対して完全な抵抗性を示すホウレンソウ植物は、商業的価値が高い。他方、新レースの出現速度が速くなっているため、各レースに対して完全な抵抗性を示すホウレンソウ植物を育種することは、難しくなっている。また、IWGP(International Working Group of Peronospora)では、従来のべと病抵抗性ホウレンソウ品種を打破し、今後脅威となりうるべと病の病原菌の系統について、新レースの認定を行なっている。本発明のホウレンソウ植物は、今後、Pfs18以降の新レースに認定される可能性があるべと病の病原菌の系統(UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、UA201720B、isolate 195、isolate 254)の一部または全部に対して抵抗性を示す。このため、本発明のホウレンソウ植物は、今後認定されうる新レースに対する抵抗性を付与しうるため、育種において非常に有用であり、商業的に価値が高いと推定される。
【0014】
以下、特に言及しない場合、前記「寄託系統」は、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、および/または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物を意味し、読み替え可能である。
【0015】
本発明において、「ホウレンソウ植物」は、ヒユ科(Amaranthaceae)アカザ亜科(Chenopodiaceae)ホウレンソウ属(Spinacia L.)のホウレンソウ種(S.oleracea L.)に分類される植物である。前記ホウレンソウ植物は、例えば、近縁種または野生種との交雑種でもよい。
【0016】
本発明において、「栽培用ホウレンソウ植物」、「栽培用ホウレンソウ品種」、または「栽培用ホウレンソウ」は、ヒトが栽培し、栽培学的に優れたホウレンソウ植物もしくはその品種、育種系統、または栽培品種である。「栽培用ホウレンソウ植物」、「栽培用ホウレンソウ品種」、または「栽培用ホウレンソウ」は、それらの交雑種、または近縁種もしくは野生種との交雑種であってもよい。
【0017】
本発明において、「植物」は、植物全体を示す植物個体および前記植物個体の部分(植物の部分)のいずれの意味であってもよい。前記「植物」は、例えば、植物細胞、植物プロトプラスト、植物体を再生可能な植物細胞組織培養、植物カルス、植物塊(plant clumps)、植物または植物の部分から単離した植物細胞、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、根、根の先端(根端)、葯、雌しべ、花、子房(ovary)、胚珠、種子、果実、茎、苗等があげられる。前記植物個体の部分は、例えば、器官、組織、細胞または栄養繁殖体等があげられ、いずれでもよい。前記器官は、例えば、花弁、花冠、花、葉、種子、果実、茎、根等があげられる。前記組織は、例えば、前記器官の部分である。具体例として、前記植物個体の部分は、小胞子(microspore)、花、花芽、雌しべ、葯、花粉、子房(ovary)、胚、胚珠、胚軸、胚嚢、卵細胞、挿し木、根、根端、幹、茎、葉、葉柄、葉髄、子葉、細胞、分裂組織細胞(meristematic cell)、プロトプラスト、種子等があげられる。前記花粉は、成熟した花粉でも、未成熟の花粉でもよい。前記植物個体の部分は、例えば、植物のいずれの成長段階由来のものでもよく、例えば、発根前、発根後、苗、挿し木、成熟個体等に由来するものがあげられる。前記植物個体の部分は、例えば、一種類の器官、組織および/または細胞でもよいし、二種類以上の器官、組織および/または細胞でもよい。
【0018】
本発明において、「べと病」は、糸状菌により引き起こされる病害である。前記べと病の病原菌は、例えば、ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa、「Peronospora farinosa」ともいう。)等があげられる。前記べと病の病原菌のレース(Peronospora farinosa race(Pfs))は、特に制限されず、後述の公知のレースでもよいし、新たなレースでもよい。前記「レース」は、病原性が異なる菌系統、より具体的には、抵抗性遺伝子または抵抗性遺伝子座が異なる品種に対して、異なる病原性を示す系統を意味する。
【0019】
本発明において、「べと病抵抗性」は、例えば、「べと病耐性」ともいう。前記抵抗性は、例えば、べと病の病原菌の感染による病害の発生および進行に対する阻害能または抑制能を意味し、具体的に、例えば、病害の未発生、発生した病害の進行の停止、および、発生した病害の進行の抑制(「阻害」ともいう。)等のいずれの意味でもよい。
【0020】
本発明において、前記「べと病抵抗性」は、後述の形質番号18の測定方法に準じて、評価できる。本発明において、前記「べと病抵抗性」を示すホウレンソウ植物は、いずれか1つ以上のレースに対して抵抗性を示せばよく、複数のレースに対して抵抗性を示してもよい。
【0021】
<べと病ホウレンソウ植物>
本発明は、いくつかのべと病菌のレースに対して抵抗性を示すべと病抵抗性ホウレンソウ植物を提供する。
【0022】
本発明の第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、例えば、下記(1)の形質を有する。
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す。
【0023】
本発明の第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物としては、例えば、TK03、TK04、TK05、TK06、およびTK07があげられる。
【0024】
また、本発明の第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、例えば、下記(2)の形質を有する。
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す。
【0025】
本発明の第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、例えば、下記(2’)の形質を有してもよい。
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、Pfs4、Pfs16および/またはUA201621Aに対して罹病性(感受性)を示す。
【0026】
本発明の第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、例えば、第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物としては、TK01があげられる。前記罹病性は、前記抵抗性を示さないということもできる。前記形質(2’)において、前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、Pfs4、Pfs16およびUA201621Aのいずれか1つまたは2つ以上のレースに対して罹病性を示してもよく、全てのレースに対して罹病性を示してもよい。
【0027】
また、本発明の第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、例えば、下記(3)の形質を有する。
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す。
【0028】
本発明の第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、例えば、下記(3’)の形質を有してもよい。
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、Pfs2および/またはPfs3に対して罹病性(感受性)を示す。
【0029】
本発明の第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、例えば、第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物としては、TK02があげられる。前記形質(3’)において、前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、Pfs2およびPfs3のいずれか1つのレースに対して罹病性を示してもよく、両レースに対して罹病性を示してもよい。
【0030】
前記第1~第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物において、べと病抵抗性は、交雑により後代系統に移入(付加または付与)できる。このため、前記第1~第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物において、べと病抵抗性は、べと病抵抗性遺伝子座により、付与されると推定される。したがって、本発明のべと病抵抗性ホウレンソウ植物は、前記第1~第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の後代系統でもよい。前記後代系統は、対応するべと病抵抗性ホウレンソウ植物と同様のレースに対する抵抗性を示すことが好ましい。また、前記後代系統は、例えば、対応するべと病抵抗性ホウレンソウ植物と同様のレースに対する罹病性を示してもよい。
【0031】
<寄託系統>
本発明のホウレンソウ植物は、一例として、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FER P-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物またはその後代系統があげられる。以下、受番号FER P-受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、および受番号FERM BP-22412を、それぞれ、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06およびTK07ともいう。各品種の寄託に関する情報を、以下に示す。
【0032】
(TK01)
寄託の種類:国際寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
番号:FERM BP-22406
識別のための表示:Takii13
受領日:2020年12月28日
【0033】
(TK02)
寄託の種類:国際寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
番号:FERM BP-22407
識別のための表示:Takii14
受領日:2020年12月28日
【0034】
(TK03)
寄託の種類:国際寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
番号:FERM BP-22408
識別のための表示:Takii15
受領日:2020年12月28日
【0035】
(TK04)
寄託の種類:国際寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
番号:FERM BP-22409
識別のための表示:Takii16
受領日:2020年12月28日
【0036】
(TK05)
寄託の種類:国際寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
番号:FERM BP-22410
識別のための表示:Takii17
受領日:2020年12月28日
【0037】
(TK06)
寄託の種類:国際寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
番号:FERM BP-22411
識別のための表示:Takii18
受領日:2020年12月28日
【0038】
(TK07)
寄託の種類:国際寄託
寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
あて名:日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
番号:FERM BP-22412
識別のための表示:Takii19
受領日:2020年12月28日
【0039】
前記寄託系統は、例えば、下記表1に記載されている形態学的および生理学的特徴を示す。下記表1において、前記形態学的および生理学的特徴は、2019年における日本における試作に基づいている。下記表1において、前記形態学的および生理学的特徴は、農林水産省(Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries of Japan、MAFF)により発行されている、ホウレンソウ種の審査基準(2017年3月発行、http://www.hinshu2.maff.go.jp/info/sinsakijun/kijun/1605.pdf)に基づき評価している。なお、前記形態学的および生理学的特徴は、図1~4を参照できる。また、前記形態学的および生理学的特徴の評価においては、UPOVにおけるDUS試験ガイドラインを参照してもよい。前記DUS試験ガイドラインとしては、例えば、2019年6月14日発行のガイドライン(https://www.upov.int/edocs/tgdocs/en/tg055.pdf)を参照できる。
【0040】
【表1】
【0041】
(形質番号2)
前記「子葉の長さ」は、完全に展開した子葉の長さ(mm)を意味する。前記「子葉の長さ」は、階級3(短)、階級5(中)、および階級7(長)を基準として評価できる。
【0042】
(形質番号3)
前記「葉身の緑色の濃淡」は、抽だい前の十分に生育した株の第7本葉~第10本葉の葉身の表面の緑色の濃淡を意味し、目視観察により評価できる。前記「葉身の緑色の濃淡」は、階級1(極淡)、階級3(淡、標準品種:次郎丸)、階級5(中、標準品種:禹城)、階級7(濃、標準品種:キングオブデンマーク)、および階級9(極濃)を基準として評価できる。
【0043】
(形質番号4)
前記「葉身の表面の凹凸の強弱」は、葉身の表面の凹凸の強弱を意味し、目視観察により評価できる。前記「葉身の表面の凹凸の強弱」は、階級1(無または極弱)、階級3(弱)、階級5(中、標準品種:ノーベル)、階級7(強、標準品種:夕霧)、および階級9(極強)を基準として評価できる。
【0044】
(形質番号5)
前記「葉身の切れ込みの強弱」は、葉身の切れ込みの強弱を意味し、目視観察により評価できる(図1参照)。前記「葉身の切れ込みの強弱」は、階級1(無または極弱)、階級3(弱)、階級5(中)、および階級7(強)を基準として評価できる。
【0045】
(形質番号6)
前記「葉柄の向き」は、葉柄の向きを意味し、目視観察により評価できる(図2参照)。前記「葉柄の向き」は、階級1(直立)、階級3(斜上)、および階級5(水平)を基準として評価できる。
【0046】
(形質番号7)
前記「葉柄の長さ」は、葉柄の長さ(cm)を意味する。前記「葉柄の長さ」は、階級3(短、標準品種:夕霧)、階級5(中、標準品種:豊葉)、および階級7(長、標準品種:禹城)を基準として評価できる。
【0047】
(形質番号8)
前記「葉身の向き」は、葉身の展開方向を意味し、目視観察により評価できる(図3参照)。前記「葉身の向き」は、階級1(直立)、階級3(斜上)、階級5(水平)、および階級7(斜下)を基準として評価できる。
【0048】
(形質番号9)
前記「葉身の形」は、基部の裂片を除く葉身の形を意味し、目視観察により評価できる。前記「葉身の形」は、階級1(三角形)、階級2(卵形)、階級3(広卵形)、階級4(楕円形)、階級5(広楕円形)、および階級6(円形)を基準として評価できる。
【0049】
(形質番号10)
前記「葉身の周縁の反り」は、葉身の周縁の反りの方向を意味し、目視観察により評価できる。前記「葉身の周縁の反り」は、階級1(内曲)、階級2(平)、および階級3(反曲)を基準として評価できる。
【0050】
(形質番号11)
前記「葉身の先端の形」は、葉身の先端の形を意味し、目視観察により評価できる。前記「葉身の先端の形」は、階級1(鋭形)、階級2(鈍形)、および階級3(円形)を基準として評価できる。
【0051】
(形質番号12)
前記「葉身の縦断面の形」は、葉身の縦断面の湾曲の形を意味し、目視観察により評価できる。前記「葉身の縦断面の形」は、階級1(内曲)、階級2(平)、および階級3(反曲)を基準として評価できる。
【0052】
(形質番号13)
前記「雌雄同株の出現割合」は、雄花と雌花の両方を付ける個体が占める割合(%)を意味する。前記「雌雄同株の出現割合」は、下記表2を参照し、階級1(無または極低)、階級3(低)、階級5(中)、階級7(高)、および階級9(極高)を基準として評価できる。
【0053】
【表2】
【0054】
(形質番号14)
前記「雌株の出現割合」は、雌花のみを付ける個体が占める割合(%)を意味する。前記「雌株の出現割合」は、前記表2を参照し、階級1(無または極低)、階級3(低)、階級5(中)、階級7(高)、および階級9(極高)を基準として評価できる。
【0055】
(形質番号15)
前記「雄株の出現割合」は、雄花のみを付ける個体が占める割合(%)を意味する。前記「雄株の出現割合」は、前記表2を参照し、階級1(無または極低)、階級3(低)、階級5(中)、階級7(高)、および階級9(極高)を基準として評価できる。
【0056】
(形質番号16)
前記「抽だい期」は、抽だい(春まき栽培で、15%の株が抽だいした日)する時期の早晩を意味し、目視観察により評価できる。株の抽だい期は、中央の花茎が節間から伸びて現れた時を意味する。前記「抽だい期」は、階級1(極早)、階級3(早、標準品種:禹城)、階級5(中、標準品種:豊葉)、階級7(晩、標準品種:ノーベル)、および階級9(極晩)を基準として評価できる。
【0057】
(形質番号17)
前記「収穫した種子のとげの有無」は、収穫した種子表面のとげ状の突起の有無を意味し、目視観察により評価できる(図4参照)。前記「収穫した種子のとげの有無」は、階級1(無)および階級9(有)を基準として評価できる。
【0058】
(形質番号18)
前記「べと病抵抗性」は、接種試験におけるべと病菌(レース(Pfs)1、Pfs:2、Pfs:3、Pfs:4、Pfs:5、Pfs:6、Pfs:7、Pfs:8、Pfs:10等)に対する抵抗性の有無を意味し、目視観察により評価できる。前記「べと病抵抗性」は、階級1(無)および階級9(有)を基準として評価できる。
【0059】
前記べと病抵抗性は、下記試験方法により確認できる。
(べと病抵抗性の試験方法)
・菌系の維持
保存環境:べと病菌の分生胞子を形成させた植物体を-20℃で凍結保存したものを1年以内に用いること。

・試験の実行
植物体の生育ステージ:最初の子葉/本葉展開期、は種11日後の植物
温度:昼温15℃、夜温12℃
光:発芽後15時間日長
栽培方法:宿主植物と試験植物を温室で栽培する。鉢土を詰めた容器で育てる。
接種方法:接種7日後の宿主植物から分生胞子を形成している葉を採り、滅菌水(最大150ml/224個体)で十分洗って得られた分生胞子懸濁液をガーゼでろ過した後、葉からしたたり落ちない程度に植物体に散布する。150mlの懸濁液で3×224個体に処理できる。散布する懸濁液の胞子濃度は20,000~100,000分生胞子/ml(水)である。また、懸濁液は調製後直ちに使用する。
注記:ホウレンソウべと病は、風媒伝染するので、分生胞子を形成した供試植物は相互感染を防止するため隔離して維持する。抵抗性の対照品種は、レース特異性を保つために、各増殖個体群および各試験ごとに必ず供試する。実生および培養期間の光と湿度は重要である。植物および菌の生育にとって、約80~90%RH(相対湿度)の湿度が最適である。また、強い光は、胞子の発芽と感染を抑制する。試験実施時期は冬季とし、直射日光を避ける。接種後、植物体を3日間プラスチックで覆った状態に置き、その後は日中プラスチックの覆いを少し開ける。

・試験の継続期間
繁殖:接種後7日間の胞子
は種から接種まで:11日間
接種から調査まで:10日間
供試個体数:20または40個体
感染の評価:抵抗性は通常、感染によって引き起こされる壊死斑が認められることがある。また、罹病性個体での分生胞子の形成程度にばらつきがあるが、胞子形成はより湿度の高い葉裏から始まり、灰色斑として認められる。

・レースを同定するための判別品種
べと病菌レースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bは、下記表3AおよびBの判別品種(Viroflay、Resistoflay、Califlay、Clermont、Campania、Boeing、Lazio、Pigeon、Caladonia、Meerkat、Hydrus)を基準に定義される。下記表3AおよびBの判別品種および-20℃で保存されたPfs1-17の分生胞子が形成された植物素材は、下記から入手可能である。
(判別品種および植物素材(Pfs1-17)の入手先)
Naktuinbouw
P.O. Box 40
NL-2370 AA Roelofarendsveen
Netherlands
www.naktuinbouw.com

また、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bは、IWGP(the International Working Group on Peronospora in spinach)において新たに報告されたレースであり、下記参考文献1に記載さている。このため、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bを参照し、下記参考文献1の内容を参照して、入手可能である。
参考文献1:Chunda Feng et.al., “New Races and Novel Strains of the Spinach Downy Mildew Pathogen Peronospora effuse”, 2018, Plant Disease, vol. 102, No. 4, pages 613-618
【0060】
【表3A】
【0061】
【表3B】
【0062】
本発明において、「寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」を有する植物は、同一環境で生育した場合に、寄託系統の主要な形質を有する植物であることを意味する。前記寄託系統毎の主要な形質を以下に示す。前記「寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」を有する植物は、例えば、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、または1個の形質を除き、対応する寄託系統(由来する寄託系統)と同じ形質を有する植物であってもよい、すなわち、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、または1個の形質が、対応する寄託系統(由来する寄託系統)と異なる形質であってもよい。前記「寄託系統と異なる形質」は、前記寄託系統の主要な形質でもよいし、寄託系統の主要な形質以外の形質でもよいが、寄託系統の主要な形質以外の形質が好ましい。前記「寄託系統と異なる形質」は、例えば、後述の形質の導入および/または遺伝子の導入により実施できる。前記「寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」を有する植物において、前記形質番号2~18の全ての形質は、前記寄託系統と同じでもよい。
【0063】
<後代系統>
本発明のホウレンソウ植物は、寄託系統の後代系統であってもよい。前記後代系統は、後代系統の植物個体でもよいし、後代系統の植物個体の部分または後代系統の種子でもよい。
【0064】
本発明において、「後代系統」または「後代ホウレンソウ植物」(以下、あわせて「後代系統」という)は、寄託系統のホウレンソウ植物またはその後代系統から得られる植物である。本発明において、前記後代系統は、前記寄託系統と、別の寄託系統もしくは他のホウレンソウ植物との交雑、または前記寄託系統と野生のホウレンソウ植物との交雑から得られた植物でもよい。また、前記後代系統は、前記寄託系統もしくはその後代系統を自殖および/または他家受粉することにより直接または間接的に取得するか、取得しうるか、または由来してもよいし、自殖および/または他家受粉などの伝統的な育種方法を使用して、寄託系統から得られた親系統に由来してもよい。前記後代系統は、例えば、自殖後代系統、第1世代ハイブリッドF1(雑種第1代系統、F1ハイブリッド)、戻し交雑後代系統等があげられる。前記後代系統の取得において、前記寄託系統は、雌親として用いてもよいし、雄親として用いてもよいし、両親として用いてもよい。
【0065】
本発明において、「交雑」は、2つの親系統の交雑を意味する。前記交雑は、「他家受粉」でもよいし、「自家受粉」でもよい。前記他家受粉は、異なる植物に由来する2つの配偶子が結合することによる受精を意味する。前記自家受粉は、花粉が、同じ植物の葯から柱頭に移動することを意味する。前記自家受粉は、例えば、自殖ということもできる。前記交雑は、伝統的な育種法の1つである戻し交雑を含んでもよい。
【0066】
前記「戻し交雑」は、伝統的な育種技術の1つであり、ブリーダーがハイブリッドの後代系統を繰り返し親系統の1つに戻し交雑し、植物または品種に形質を導入する方法である。前記導入する形質を含む植物は、例えば、ドナー植物ということできる。また、前記形質が導入される植物は、例えば、反復親(recurrent parent)ということができる。前記戻し交雑では、ドナー植物と反復親とを交雑することにより実施でき、これにより、第1世代ハイブリッドF1(雑種第1代系統、F1ハイブリッド)が取得できる。つぎに、前記形質を有する後代系統を、反復親と交雑する。そして、数世代の戻し交雑および/または自殖することで、前記反復親に、ドナー植物の形質を導入できる。
【0067】
本発明において、前記後代系統は、前記寄託系統由来の細胞培養物もしくは組織培養物、プロトプラストまたは植物個体の部分から再生してもよいし、前記寄託系統の自殖によって取得してもよいし、前記寄託系統の植物個体から種子を生産することによって取得してもよい。
【0068】
本発明において、前記「再生」は、細胞培養物、組織培養物またはプロトプラストからの植物の発生または栄養繁殖を意味する。
【0069】
前記「組織培養物」または「細胞培養物」は、同じまたは異なるタイプの単離された細胞を含む組成物であってもよいし、植物の部分に組織化される細胞の集合体であってもよい。ホウレンソウ植物のさまざまな組織の組織培養物および前記組織培養物からの植物の再生方法は、よく知られており、例えば、下記参考文献2を参照できる。
参考文献2: Jameel M. Al-Khayri et.al., “Spinach Tissue Culture Improved with Coconut Water”, HORTSCIENCE, 1992, vol. 27, No. 4, pages 357-358
【0070】
前記後代系統は、べと病抵抗性を有することが好ましい。この場合、前記後代系統は、例えば、べと病菌レースPfs1-17、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bからなる群から選択された少なくとも1つのレースに対して抵抗性を示し、好ましくは、2つ、3つ、4つ、5つ、8つ、9つ、10つ、11つ、12つ、13つ、14つ、15つ、16つ、17つ、18つ、19つ、20つ、21つ、または22つに対して抵抗性を示す。前記後代系統は、例えば、由来する寄託系統と同一または類似するべと病抵抗性を示すことが好ましい。前記類似するべと病抵抗性は、例えば、前記後代系統が、由来する寄託系統と、1つ、2つ、3つ、または4つのレースに対するべと病抵抗性ホウレンソウ植物が異なることを意味する。
【0071】
具体例として、前記後代系統が前記第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記後代系統は、前記(1)の形質を有することが好ましい。前記後代系統が前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記後代系統は、前記(2)または(2’)の形質を有することが好ましい。前記後代系統が前記第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記後代系統は、前記(3)または(3’)の形質を有することが好ましい。
【0072】
前記後代系統は、所望の形質を有してもよい。前記後代系統は、例えば、同一の栽培条件で栽培した場合に、「寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」を有してもよい。具体的には、前記後代系統は、対応する寄託系統(由来する寄託系統)と共通する形質を有してもよい。具体例として、前記後代系統は、例えば、1個以上、2個以上、3個以上、4個以上、5個以上、6個以上、7個以上、8個以上、9個以上、10個以上、11個以上、12個以上、または13個以上の形質が、対応する寄託系統の形質と一致する。前記後代系統は、対応する寄託系統の主要な形質を有する植物であってもよい。前記対応する寄託系統の主要な形質は、前述の説明を援用できる。前記後代系統は、例えば、13個以下、12個以下、11個以下、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下、または1個の形質を除き、対応する寄託系統と同じ形質を有する植物であってもよい、すなわち、13個以下、12個以下、11個以下、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下または1個の形質が、対応する寄託系統と異なる形質であってもよい。前記「寄託系統と異なる形質」は、対応する寄託系統の主要な形質でもよいし、対応する寄託系統の主要な形質以外の形質でもよいが、対応する寄託系統の主要な形質以外の形質が好ましい。前記「寄託系統と異なる形質」は、例えば、後述の形質の導入および/または遺伝子の導入により実施できる。前記後代系統において、前記形質番号2~18の全ての形質は、対応する寄託系統と同じでもよい。
【0073】
前記後代系統は、対応する寄託系統に由来する、少なくとも1セットの染色体を含む細胞を含んでもよい。前記後代系統は、例えば、そのアリル(対立遺伝子)の少なくとも6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%が、対応する寄託系統由来でもよい。すなわち、前記後代系統は、対応する寄託系統と、少なくとも約6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の遺伝的相補性(genetic complement)を有してもよい。
【0074】
前記「アリル(対立遺伝子)」は、1または複数の遺伝子のいずれかであり、そのすべてがホウレンソウ植物の特性または形質に関連している。二倍体の細胞または生物では、所定の遺伝子の一対のアリルが、一対の相同染色体上の対応する遺伝子座を占める。
【0075】
前記遺伝的相補性は、例えば、分子マーカーまたは塩基配列を解読し、寄託系統の分子マーカーまたは塩基配列と比較し、一致率を計算することにより算出できる。前記分子マーカーは、例えば、SNP(一塩基多型)マーカー、増幅断片長多型(AFLP)マーカー、制限酵素断片長多型(RFLP)マーカー、マイクロサテライトマーカー、sequence-characterized amplified region (SCAR)マーカー、cleaved amplified polymorphic sequence (CAPS)マーカー等があげられる。前記分子マーカーを用いたゲノムの解析方法は、よく知られており、広く公開されている(例えば、下記参考文献3および4)。前記塩基配列の解読は、例えば、前記後代系統から染色体を抽出し、前記染色体に対してシークエンスを行なうことにより実施できる。前記寄託系統由来のアリルの割合および遺伝的相補性の割合は、例えば、交雑回数により推定してもよい。この場合、前記割合は、寄託系統からの交雑回数から推定できる。具体例として、前記寄託系統からの交雑回数がn回の場合、前記割合は、例えば、(1/2)×100%と推定できる。
参考文献3:Sinchan Adhikari et.al, “Application of molecular markers in plant genome analysis: a review”, The Nucleus, 2017, Volume 60, Issue 3, pp. 283-297
参考文献4:Elcio P. Guimaraes et.al., “MARKER-ASSISTED SELECTION Current status and future perspectives in crops, livestock, forestry and fish”, 2007, Springer, 29-49
【0076】
前記寄託系統由来のアリルおよび遺伝的相補性の割合は、例えば、複数の後代系統の割合の平均値であることが好ましい。前記複数は、例えば、統計学的な検討が可能な個体数であり、具体例として、200個体以上であり、好ましくは、200~1000個体である。
【0077】
前記後代系統は、前記寄託系統に由来するSNPを有してもよい。前記後代系統は、例えば、そのSNPの少なくとも6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%が、前記寄託系統由来でもよい。すなわち、前記後代系統は、前記寄託系統と、少なくとも約6.25%、12.5%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%のSNPが一致してもよい。本発明において、対象のホウレンソウ植物が、例えば、50%、55%、60%、65%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%以上のSNPが、前記寄託系統のSNPと一致する場合、前記対象のホウレンソウ植物は、前記寄託系統の後代系統であると判定(判別、推定、鑑定、または鑑別)できる。
【0078】
前記後代系統は、例えば、変異または導入遺伝子を有してもよい。この場合、前記後代系統は、例えば、1以上の形質が修飾されている。前記後代系統は、例えば、前記寄託系統またはその後代系統に対して、変異の導入または導入遺伝子の導入により、作製できる。前記変異は、人為的に導入されてもよいし、自然に導入されてもよい。前記変異は、例えば、化学物質誘導性の変異でもよいし(例えば、下記参考文献5)、放射線誘導性の変異でもよい。また、前記変異は、例えば、分子生物学的手法またはゲノム編集技術により導入されてもよい(例えば、下記参考文献6)。前記導入遺伝子は、例えば、アグロバクテリウム属(Agrobacterium tumefaciens)を用いる方法(例えば、下記参考文献7)等により導入できる。
参考文献5: Kenji Murakami1 et.al., “Low-oxalate Spinach Mutant Induced by Chemical Mutagenesis”, J. Japan. Soc. Hort. Sci., 2009, vol. 78, No 2, pages 180-184
参考文献6:Yanfei Mao et.al., “Gene editing in plants: progress and challenges”, National Science Review, 2019, vol. 6, pp. 421-437
参考文献7: Dong Poh Chin et.al., “Transgenic spinach plants produced by Agrobacterium-mediated method based on the low temperature-dependent high plant regeneration ability of leaf explants”, Plant Biotechnology, 2009, vol. 26, pages 243-248
【0079】
前記導入遺伝子(transgene)は、例えば、遺伝子工学的手法または伝統的な育種方法により、植物のゲノム内に導入された所望の遺伝子を意味する。前記導入遺伝子は、例えば、同一種に由来してもよいし、異なる種に由来してもよい。また、前記導入遺伝子は、由来の種と同一の塩基配列を含む遺伝子でもよいし、異なる塩基配列を含む遺伝子でもよい。後者の場合、異なる塩基配列は、例えば、前記同一の塩基配列に対して、コドン最適化、プロモーター等の転写制御因子の付加等を実施することにより調製できる。前記導入遺伝子は、翻訳領域と非翻訳領域とを含んでもよい。
【0080】
<半数体および倍加半数体植物>
本発明のホウレンソウ植物は、前記寄託系統から取得された、取得可能な、または誘導された半数体植物および/または倍加半数体植物であってもよい。前記寄託系統の半数体植物および/または倍加半数体植物は、前記寄託系統の親系統を生産する方法において使用してもよい。一実施形態において、本発明は、半数体植物および/または倍加半数体植物の植物、半数体植物および/または倍加半数体植物の植物部分、または半数体植物および/または倍加半数体植物の種子を提供してもよい。
【0081】
前記倍加半数体植物は、半数体植物または細胞において染色体を倍加することにより製造できる(例えば、下記参考文献8)。具体例として、半数体である花粉を、所定の条件下で培養することで染色体が1nの小植物体(plantlets)を形成させる。つぎに、前記小植物体に対して、例えば、コルヒチン等の化学物質で処理することにより、染色体を倍加させる。これにより、前記小植物体の細胞は、染色体が2nになる(倍加半数体)。そして、前記処理後の小植物体を生育することで、前記倍加半数体植物およびその後代系統を取得することができる。
参考文献8: Davut Keles et.al., “First Report of Obtaining Haploid Plants Using Tissue Culture Techniques in Spinach”, HORTSCIENCE, 2016, vol. 51, No 6, pages 742-749
【0082】
<ホウレンソウ植物の製造方法>
本発明のホウレンソウ植物の製造方法は、前述のように、第1のホウレンソウ植物と、第2のホウレンソウ植物とを交雑する交雑工程を含み、前記第1のホウレンソウ植物は、前記本発明のホウレンソウ植物である。本発明の製造方法は、前記交雑工程における親の少なくとも一方に、前記本発明のホウレンソウ植物を用いることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。
【0083】
また、本発明のホウレンソウ植物の製造方法は、前記本発明のホウレンソウ植物を自殖(自家受粉)させる自殖工程を含む。本発明の製造方法は、前記本発明のホウレンソウ植物を自殖させることが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。
【0084】
本発明の製造方法によれば、前記寄託系統の後代系統を製造できる。本発明の製造方法は、本発明のホウレンソウ植物の説明を援用できる。
【0085】
本発明において、前記第1のホウレンソウ植物(第1の親系統)と前記第2のホウレンソウ植物(第2の親系統)との交雑は、例えば、同一個体間の交雑(正自家受粉)でもよいし、同一クローン個体間または近交系で維持されている系統の個体間の交雑(準自家受粉)でもよいし、異なる個体間の交雑(他家受粉)でもよい。前記正自家受粉の場合、前記第1の親系統および前記第2の親系統は、例えば、いずれか一方が同一個体における雌器官であり、他方が、同一個体における花粉である。
【0086】
本発明において、前記第1の親系統は、前記本発明のホウレンソウ植物であり、例えば、前述の受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で寄託されたホウレンソウ植物またはその後代系統である。
【0087】
前記第2の親系統は、特に制限されず、任意のホウレンソウ植物を使用できる。前記第2の親系統は、例えば、前記第1の親系統と、分類学上、同じ種のホウレンソウ植物でもよいし、異なる種のホウレンソウ植物でもよい。前記第2の親系統は、例えば、前記寄託系統または後代系統でもよいし、その他のホウレンソウ植物でもよい。
【0088】
本発明の製造方法は、例えば、前記交雑工程の後、さらに、前記交雑工程で得られた後代系統を育成する育成工程を含んでもよい。前記育成工程における育成条件は、例えば、ホウレンソウ植物における一般的な育成条件があげられる。
【0089】
本発明のホウレンソウ植物は、例えば、前記本発明の製造方法により得ることができる。
【0090】
<ホウレンソウ植物の種子の生産方法>
本発明は、ホウレンソウ種子の製造方法を提供する。本発明のホウレンソウ種子の製造方法は、前記寄託系統のホウレンソウ植物を、自殖または別のホウレンソウ植物と交雑させる工程と、その結果得られる種子を任意で採種(収集または収穫)する工程とを含む。本発明の種子の製造方法は、ホウレンソウ植物の種子を生育させることにより、植物、植物部分または種子を提供してもよい。
【0091】
本発明の種子の生産方法は、前記寄託系統に由来する種子の生産方法であってもよい。この場合、本発明の種子の生産方法は、(a)前記寄託系統の植物を別のホウレンソウ植物と交雑して種子を生産する工程を含んでもよい。本発明の種子の生産方法は、さらに、(b)前記(a)工程の種子からホウレンソウ植物を栽培して、前記寄託系統に由来するホウレンソウ植物を生産する工程と、(c)前記(b)工程のホウレンソウ植物を、自殖または別のホウレンソウ植物と交雑し、前記寄託系統に由来する追加のホウレンソウ植物を作出する工程とを含んでもよい。さらに、本発明の種子の生産方法は、(d)任意に、前記(b)工程および前記(c)工程を1回以上繰り返し、前記寄託系統に由来するさらなるホウレンソウ植物を生産してもよい。この場合、前記(b)工程における前記(a)工程の種子から栽培したホウレンソウ植物としては、前記(c)工程で得られた追加のホウレンソウ植物を用いることができる。前記「1回以上」は、例えば、1回~10回、3回~7回、3回~5回である。本発明の種子の生産方法は、さらに、種子を収集または収穫する工程を含んでもよい。本発明の種子の生産方法は、上記の方法によって生産された種子、および種子を生育させることによって得られる植物または植物個体の部分を提供してもよい。
【0092】
本発明の種子の生産方法は、さらに、(e)前記(b)工程のホウレンソウ植物の生産、前記(c)工程の追加のホウレンソウ植物の作出、または前記(d)工程において得られる前記寄託系統に由来するさらなるホウレンソウ植物の作出において、べと病抵抗性を有する後代系統を特定してもよい。この場合、本発明の種子の生産方法は、以降の工程において、べと病抵抗性を有する後代系統を交雑対象のホウレンソウ植物として用いることが好ましい。前記「特定」は、例えば、識別、鑑定、同定、選択、または選抜ということもできる。前記(e)工程において、前記特定は、前述の形質番号18の接種試験により実施できる。前記後代系統が有するべと病抵抗性は、好ましくは、由来する寄託系統と同じであり、前述の説明を援用できる。
【0093】
<雑種ホウレンソウ植物の生産方法>
本発明は、ハイブリッド(雑種)ホウレンソウ植物を生産する方法を提供する。本発明の雑種植物の生産方法では、本発明のホウレンソウ植物を別のホウレンソウ植物と交雑させる工程を含む。本発明の雑種植物の生産方法では、交雑により得られた種子を収集または収穫する工程を含んでもよい。また、本発明の雑種植物の生産方法は、上記の方法により生産された種子および雑種植物または雑種植物個体の部分を提供してもよい。
【0094】
<新たな形質の導入方法>
本発明は、前記寄託系統に少なくとも1つの新しい特性または形質(以下、あわせて、「形質」という)を導入する方法を提供する。本発明の形質の導入方法は、例えば、新たな形質が導入されたホウレンソウ植物の生産方法ということもできる。本発明の形質の導入方法は、例えば、(a)前記寄託系統の植物を、後代系統を作出するために、少なくとも1つの新しい形質を含むホウレンソウ植物と交配させる工程と、(b)少なくとも1つの新しい形質を含む後代系統を選択する工程とを含む。本発明の形質の導入方法は、例えば、(c)前記後代系統を、前記寄託系統と交雑し、戻し交雑後代の種子を生産する工程と、(d)少なくとも1つの新しい形質と、べと病抵抗性とを有する戻し交雑後代を選択する工程とを含む。前記(b)および(d)工程において、新たな形質を有する後代系統の選択(選抜)は、例えば、前記形質を検出することにより実施してもよいし、前記形質と関連(連鎖)する遺伝子または分子マーカーを検出することにより実施してもよい。前記新たな形質は、例えば、べと病以外の病原菌に対する抵抗性等があげられる。
【0095】
前記(b)工程では、少なくとも1つの新しい形質を含み、かつべと病抵抗性を示すホウレンソウ植物を選択することが好ましい。この場合、前記(b)工程で選択されるホウレンソウ植物は、前述の後代系統と同様に、べと病菌レースPfs1-17、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bからなる群から選択された少なくとも1つのレースに対して抵抗性を示せばよい。前記(b)工程で選択されるホウレンソウ植物は、前記(a)工程の寄託系統と同一または類似するべと病抵抗性を示すことが好ましい。具体例として、前記寄託系統が前記第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(b)工程で選択されるホウレンソウ植物は、前記(1)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(b)工程で選択されるホウレンソウ植物は、前記(2)または(2’)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(b)工程で選択されるホウレンソウ植物は、前記(3)または(3’)の形質を有することが好ましい。
【0096】
前記(d)工程では、少なくとも1つの新しい形質と、べと病抵抗性とを有し、前記(a)工程の寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴を有する後代系統を選択してもよい。この場合、前記(d)工程の後代系統は、前述の後代系統と同様に、べと病菌レースPfs1-17、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bからなる群から選択された少なくとも1つのレースに対して抵抗性を示せばよい。前記(d)工程の後代系統は、前記(a)工程の寄託系統と同一または類似するべと病抵抗性を示すことが好ましい。具体例として、前記寄託系統が前記第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(d)工程の後代系統は、前記(1)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(d)工程の後代系統は、前記(2)または(2’)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(d)工程の後代系統は、前記(3)または(3’)の形質を有することが好ましい。前記「本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」は、前記後代系統の説明において、「後代系統」を「前記(d)工程の後代系統」に読み替えて、その説明を援用できる。
【0097】
本発明の形質の導入方法は、(e)任意に、前記(c)工程および(d)工程を1回以上繰り返して、少なくとも1つの新しい形質を含むホウレンソウ植物を生産してもよい。この場合、本発明の形質の導入方法は、前記(c)工程における前記後代系統としては、前記(d)工程で選択された戻し交雑後代を用いることができる。前記(e)工程で取得された、または取得可能なホウレンソウ植物は、べと病抵抗性を示してもよく、さらに、前記(a)工程の寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴のすべてを有してもよい。この場合、前記(e)工程のホウレンソウ植物は、前述の後代系統と同様に、べと病菌レースPfs1-17、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bからなる群から選択された少なくとも1つのレースに対して抵抗性を示せばよい。前記(e)工程のホウレンソウ植物は、前記(a)工程の寄託系統と同一または類似するべと病抵抗性を示すことが好ましい。具体例として、前記寄託系統が前記第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(e)工程のホウレンソウ植物は、前記(1)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(e)工程のホウレンソウ植物は、前記(2)または(2’)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記(e)工程のホウレンソウ植物は、前記(3)または(3’)の形質を有することが好ましい。前記「本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」は、前記後代系統の説明において、「後代系統」を「前記(e)工程で取得された、または取得可能なホウレンソウ植物」に読み替えて、その説明を援用できる。前記「1回以上」は、例えば、1回~10回、3回~7回、3回~5回である。本発明の形質の導入方法は、種子を収集または収穫する工程を含んでもよい。本発明の形質の導入方法は、上記の方法により生産された種子、および種子を生育させることによって得られる植物または植物個体の部分を提供してもよい。
【0098】
<導入遺伝子の導入方法>
本発明は、少なくとも1つの新しい特性または形質を含む、寄託系統に由来する植物を生産する方法を提供する。本発明の導入遺伝子の導入方法は、例えば、新たな形質が導入されたホウレンソウ植物の生産方法ということもできる。
【0099】
本発明の導入遺伝子の導入方法は、例えば、少なくとも1つの新しい形質を付与する突然変異または導入遺伝子を寄託系統またはその後代系統の植物に導入する工程を含む。前記変異または導入遺伝子の導入は、例えば、前記後代系統における変異または導入遺伝子の導入と同様にして実施できる。前記導入工程により取得された、または取得可能なホウレンソウ植物は、べと病抵抗性を示してもよく、さらに、前記寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴のすべてを有してもよい。この場合、前記導入工程後のホウレンソウ植物は、前述の後代系統と同様に、べと病菌レースPfs1-17、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bからなる群から選択された少なくとも1つのレースに対して抵抗性を示せばよい。前記導入工程後のホウレンソウ植物は、前記寄託系統と同一または類似するべと病抵抗性を示すことが好ましい。具体例として、前記寄託系統が前記第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記導入工程後のホウレンソウ植物は、前記(1)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記導入工程後のホウレンソウ植物は、前記(2)または(2’)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記導入工程後のホウレンソウ植物は、前記(3)または(3’)の形質を有することが好ましい。前記「本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」は、前記後代系統の説明において、「後代系統」を「前記導入工程により取得された、または取得可能なホウレンソウ植物」に読み替えて、その説明を援用できる。本発明の導入遺伝子の導入方法は、種子を収集または収穫する工程を含んでもよい。本発明の導入遺伝子の導入方法は、上記の方法により生産された種子、および種子を生育させることによって得られる植物または植物個体の部分を提供してもよい。前記新たな形質は、例えば、べと病以外の病原菌に対する抵抗性等があげられる。
【0100】
<ホウレンソウ植物の再生体および再生方法>
本発明は、寄託系統の細胞培養物、組織培養物、またはプロトプラストから再生されたホウレンソウ植物(以下、「再生体」という)を提供する。本発明は、再生可能な細胞の細胞培養物もしくは組織培養物、または寄託系統のトマト植物に由来するプロトプラストを提供してもよい。前記細胞、組織またはプロトプラストは、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞、根、根端、葯、花、種子または幹を含む組織に由来してもよい。
【0101】
本発明は、寄託系統のホウレンソウ植物の増殖または繁殖の方法を提供する。前記寄託系統のホウレンソウ植物の繁殖は、前記寄託系統のホウレンソウ植物の栄養繁殖であってもよい。この場合、本発明のホウレンソウ植物の再生方法は、例えば、(a)寄託系統の植物から増殖することができる組織を収集する工程と、(b)前記組織を培養して増殖したシュート(shoot)を取得する工程と、(c)前記増殖したシュートを発根させ、発根した小植物(plantlet)を取得する工程とを含む。本発明のホウレンソウ植物の再生方法は、さらに、(d)任意に、発根した小植物から植物を生育させる工程を含んでもよい。前記栄養繁殖の方法は、例えば、下記参考文献9を参照できる。本発明の再生方法は、例えば、上記の方法により再生(生産)された小植物、植物または植物個体の部分を提供してもよい。前記植物は、べと抵抗性を示してもよい。この場合、前記植物は、前述の後代系統と同様に、べと病菌レースPfs1-17、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bからなる群から選択された少なくとも1つのレースに対して抵抗性を示せばよい。前記植物は、前記寄託系統と同一または類似するべと病抵抗性を示すことが好ましい。具体例として、前記寄託系統が前記第1のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記植物は、前記(1)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第2のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記植物は、前記(2)または(2’)の形質を有することが好ましい。前記寄託系統が前記第3のべと病抵抗性ホウレンソウ植物の場合、前記植物は、前記(3)または(3’)の形質を有することが好ましい。また、前記植物は、前記寄託系統と本質的にすべての生理学的および形態学的特徴のすべてを有してもよい。前記「本質的にすべての生理学的および形態学的特徴」は、前記後代系統の説明において、「後代系統」を「再生された植物」に読み替えて、その説明を援用できる。
参考文献9:Habtamu Gudisa Megersa, “Propagation Methods of Selected Horticultural Crops by Specialized Organs: Review”, Journal of Horticulture, 2017, Volume 4, Issue 2, 1000198
【0102】
<ホウレンソウ植物の収穫物および加工品>
本発明は、寄託系統または後代系統の収穫物および/または加工品を提供する。前記収穫物は、植物全体または植物個体の部分であり、好ましくは、葉(例えば、葉柄および葉身)、葉および根、または種子を含む。
【0103】
前記加工品は、前記寄託系統または後代系統を処理した任意の製品が含まれる。前記処理は、特に制限されず、例えば、カット、スライス、粉砕(ground)、ピューレ、乾燥、缶詰、瓶詰め、洗浄、包装、冷凍および/または加熱処理等があげられる。前記寄託系統または後代系統において、前記加工品に用いられる植物または植物個体の部分は、例えば、葉である。前記加工品は、例えば、前記寄託系統または後代系統を洗浄し、包装したものでもよい。前記加工品は、例えば、任意のサイズまたは形状の容器に収納されてもよい。前記容器の具体例としては、バッグ、箱、カートン(carton)等があげられる。
【0104】
本発明は、1つまたは複数のホウレンソウ植物を含む容器を提供してもよい。前記容器は、植物全体または植物個体の部分を含む。
【0105】
本発明は、ホウレンソウ植物を食品として製造する方法(食品の製造方法)を提供してもよい。本発明の食品の製造方法は、例えば、前記寄託系統または後代系統の植物全体または植物個体の部分、好ましくは、前記寄託系統または後代系統の葉、または葉および根を収集または収穫する工程を含む。また、本発明の食品の製造方法は、前記寄託系統または後代系統のホウレンソウ植物が成熟するまで栽培する工程を含む。
【0106】
<遺伝子型の決定方法>
本発明は、寄託系統または後代系統の遺伝子型を決定または検出する方法を提供する。本発明の遺伝子型の決定方法は、例えば、(a)寄託系統または後代系統から核酸サンプルを入手する工程と、(b)核酸サンプル中のゲノムを検出する工程とを含む。前記(a)工程において、前記寄託系統または後代系統からの核酸の調製方法は、組織から核酸を調製する一般的な核酸の調製方法を用いて実施できる。前記(b)工程では、例えば、前記核酸サンプル中のゲノムにおける多型および/またはアリルを検出する。前記多型および/またはアリルの検出は、例えば、SNP(一塩基多型)ジェノタイピング、増幅断片長多型検出(AFLP)、ゲノムDNAの制限酵素断片長多型識別(RFLP)、ゲノムDNAのsequence-characterized amplified region detection (SCAR)、ゲノムDNAのcleaved amplified polymorphic sequence detection (CAPS)、ゲノムDNAのrandom amplified polymorphic detection (RAPD)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、DNAシーケンス、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(allele specific oligonucleotide 、ASO)プローブ、またはDNAマイクロアレイ等を用いて実施できる。前記多型および/またはアリルの検出は、例えば、前記ゲノムの塩基配列をシークエンスすることにより実施してもよいし、前述のように、寄託系統のSNPを参照して実施してもよい。前記(b)工程では、前記ゲノムDNAにおける1つの多型および/またはアリルを検出してもよいし、2つ以上の多型および/またはアリルを検出してもよい。本発明の遺伝子型の決定方法は、多型および/またはアリル(対立遺伝子)の検出結果をコンピュータ可読媒体に保存する工程を含んでもよい。本発明は、そのような方法によって生成されたコンピュータ可読媒体を提供してもよい。
【0107】
本発明の遺伝子型の決定方法は、例えば、前記寄託系統または前記後代系統に代えて、任意のホウレンソウ植物(対象ホウレンソウ植物)に対して実施してもよい。この場合、本発明の遺伝子型の決定方法は、例えば、さらに、前記(b)工程の結果に基づき、前記対象ホウレンソウ植物が、前記後代系統であるかを判定する工程を含んでもよい。前記判定は、例えば、判別、推定、鑑定、または鑑別ということもできる。前記判定は、例えば、前記(b)工程の結果と、前記寄託系統の遺伝子型との一致率に基づき判断できる。
【実施例
【0108】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例に記載された態様に限定されるものではない。
【0109】
[実施例1]
寄託系統のホウレンソウ植物を育種し、べと病抵抗性とその他の特性および形質とを確認した。
【0110】
(1)寄託系統の育種
Wageningen大学のCentre for Genetic Resourcesからホウレンソウの野生種を導入した。導入した野生種について、タキイ種苗社保有のホウレンソウ系統との交雑および/または自殖を複数回実施し、かつ各世代において、Pfs1~17、およびUUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、UA201720Bを指標に選抜を繰り返すことで、べと病抵抗性が固定されたTK01~TK07の親系統を選抜した。なお、TK01~TK07の親系統は、それぞれ、TK01~TK07と同じ、べと病抵抗性のパターンを示す。得られたTK01~TK07の親系統を、タキイ種苗株式会社が保有するホウレンソウ系統(べと病罹病性系統)と交雑し、TK01~TK07を得た。そして、TK01~TK07を、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、および受番号FERM BP-22412で寄託されたホウレンソウ植物として、NITE-IPODに寄託した。
【0111】
(2)寄託系統の形質
得られた寄託系統の植物個体の特性および形質について、前述のMAFFが発行しているホウレンソウ種の審査基準にしたがって評価した。この結果を下記表4に示す。
【0112】
【表4】
【0113】
(3)寄託系統のべと病抵抗性
寄託系統および判別品種(Viroflay、Resistoflay、Califlay、Clermont、Campania、Boeing、Lazio、Pigeon、Caladonia、Meerkat、Hydrus)について、各べと病菌レース(Pfs1-17、UA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720B)を用いて、MAFFが発行しているホウレンソウ種の審査基準にしたがって接種試験を実施し、べと病抵抗性を評価した。
【0114】
接種試験によるべと病抵抗性の評価結果および圃場栽培におけるべと病抵抗性の評価結果を、下記表5AおよびBに示す。下記表5AおよびBに示すように、寄託系統は、べと病抵抗性を示し、特に、TK03、TK04、TK05、TK06、およびTK07は、全てのレースに対して抵抗性を示し、極めて強いべと病抵抗性を示した。
【0115】
【表5A】
【0116】
【表5B】
【0117】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0118】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FER P-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FER P-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物またはその後代系統を含む、ホウレンソウ植物。
(付記2)
前記後代系統は、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物のアレルを50%以上含む、付記1記載のホウレンソウ植物。
(付記3)
前記後代系統は、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物のアレルを50%以上含み、
前記後代系統は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、付記1または2記載のホウレンソウ植物:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
(付記4)
前記後代系統は、下記(2’)または(3’)の形質を有する、付記1から3のいずれかに記載のホウレンソウ植物:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
(付記5)
前記ホウレンソウ植物は、植物体またはその部分である、付記1から4のいずれかに記載のホウレンソウ植物。
(付記6)
前記ホウレンソウ植物は、種子である、付記1から5のいずれかに記載のホウレンソウ植物。
(付記7)
第1のホウレンソウ植物と、第2のホウレンソウ植物とを交雑する交雑工程を含み、
前記第1のホウレンソウ植物は、付記1から6のいずれかに記載のホウレンソウ植物である、ホウレンソウ植物の製造方法。
(付記8)
ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07の種子であり、
代表的なサンプルが、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、種子。
(付記9)
ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07のホウレンソウ植物であり、
代表的なサンプルが、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ植物。
(付記10)
ホウレンソウ植物またはその部分であり、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、付記9記載のホウレンソウ植物の本質的にすべての生理学的および形態学的特徴を有する、ホウレンソウ植物またはその部分。
(付記11)
付記9記載のホウレンソウ植物の後代ホウレンソウ植物であり、
前記後代ホウレンソウ植物は、付記9記載のホウレンソウ植物の少なくとも50%のアレルを含み、
前記後代ホウレンソウ植物は、べと病抵抗性を有する、後代ホウレンソウ植物。
(付記12)
前記後代ホウレンソウ植物は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、付記11記載の後代ホウレンソウ植物:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
(付記13)
前記後代ホウレンソウ植物は、下記(2’)または(3’)の形質を有する、付記11または12記載の後代ホウレンソウ植物:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
(付記14)
付記9記載のホウレンソウ植物の部分。
(付記15)
付記14記載の植物の部分であり、
前記植物の部分は、小胞子(microspore)、花粉、子房(ovary)、胚珠、胚嚢、卵細胞
、挿し木、根、幹、葉、細胞またはプロトプラストを含む、植物の部分。
(付記16)
ホウレンソウ種子の生産方法であり、
前記方法は、
付記9記載のホウレンソウ植物を、自殖または他のホウレンソウ植物と交雑し、
得られた種子を採取することを含む、方法。
(付記17)
付記16記載の方法により生産された、ホウレンソウ植物由来のホウレンソウ種子。
(付記18)
付記17記載のホウレンソウ種子を育てることにより生産された、ホウレンソウ植物またはその部分。
(付記19)
付記18記載のホウレンソウ植物またはその部分であって、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、ホウレンソウ植物またはその部分:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
(付記20)
付記18記載のホウレンソウ植物またはその部分であって、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、下記(2’)または(3’)の形質を有する、ホウレンソウ植物またはその部分:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
(付記21)
付記18記載のホウレンソウ植物またはその部分であって、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、代表的なサンプルが、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07の少なくとも50%のアレルを含み、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、ホウレンソウ植物またはその部分:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
(付記22)
付記18記載のホウレンソウ植物またはその部分であって、
番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FER P-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FER P-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07の少なくとも50%のアレルを含み、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、下記(2’)または(3’)の形質を有する、ホウレンソウ植物またはその部分:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
(付記23)
付記18から22のいずれかに記載のホウレンソウ植物またはその部分であって、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、代表的なサンプルが、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07の本質的にすべての生理学的および形態学的特徴を有する、ホウレンソウ植物またはその部分。
(付記24)
付記18から23のいずれかに記載のホウレンソウ植物またはその部分であって、
前記ホウレンソウ植物またはその部分は、1以上の形質が改変されている、ホウレンソウ植物またはその部分。
(付記25)
付記24記載のホウレンソウ植物またはその部分であって、
前記改変は、突然変異誘発により行われる、ホウレンソウ植物またはその部分。
(付記26)
付記9記載のホウレンソウ植物由来のホウレンソウ植物の種子を生産する方法であって、前記方法は、
(a)受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07を、別のホウレンソウ植物と交雑し、種子を生産し、
(b)前記(a)工程の種子からホウレンソウ植物を育て、前記ホウレンソウ品種由来のホウレンソウ植物を生産し、
(c)前記(b)工程のホウレンソウ植物を、自殖または別のホウレンソウ植物と交雑し、前記ホウレンソウ品種由来の追加のホウレンソウ植物を生産し、
(d)任意に(b)および(c)工程を1回以上繰り返し、前記ホウレンソウ品種由来のホウレンソウ植物をさらに生産し、前記(b)工程におけるホウレンソウ植物は、前記(c)工程の追加のホウレンソウ植物から生育する、
ことを含む、方法。
(付記27)
付記26記載の方法により生産される種子であり、
前記種子から育つホウレンソウ植物は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、種子:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
(付記28)
付記26記載の方法により生産される種子であり、
前記種子から育つホウレンソウ植物は、下記(2’)または(3’)の形質を有する、種子:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
(付記29)
付記26記載の方法により生産される種子であり、
前記種子は、付記9記載のホウレンソウ植物の少なくとも50%のアレルを含み、
前記種子から育つホウレンソウ植物は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、種子:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
(付記30)
付記26記載の方法により生産される種子であり、
前記種子は、付記9記載のホウレンソウ植物の少なくとも50%のアレルを含み、
前記種子から育つホウレンソウ植物は、下記(2’)または(3’)の形質を有する、種子:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
(付記31)
付記27から30のいずれかに記載のホウレンソウ植物の種子を育てることにより生産される、ホウレンソウ植物。
(付記32)
付記9記載のホウレンソウ植物に、少なくとも1つの新たな形質を導入する方法であり、前記方法は、
(a)受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07を、少なくとも1つの新たな形質を有するホウレンソウ植物と交雑し、後代を生産し、
(b)少なくとも1つの新しい形質を含む後代を選抜し、
(c)前記後代を、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07(前記(a)工程で交雑した品種)と交雑し、戻し交雑後代を生産し、
(d)少なくとも1つの新しい形質を含み、かつべと病抵抗性を有する戻し交雑後代を選抜し、
(e)任意に、前記(c)工程および(d)工程を1回以上繰り返し、少なくとも1つの新しい形質を含み、かつべと病抵抗性を有するホウレンソウ植物を生産し、前記(c)工程におけるホウレンソウ植物は、前記(d)工程の選抜された戻し交雑後代である、
ことを含む、方法。
(付記33)
前記(c)工程のべと病抵抗性は、前記(a)工程で交雑したホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07と同一のべと病抵抗性である、付記32記載の方法。
(付記34)
前記(e)工程のべと病抵抗性は、前記(a)工程で交雑したホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07と同一のべと病抵抗性である、付記32または33記載の方法。
(付記35)
付記32から34のいずれかに記載の方法により生産された、ホウレンソウ植物。
(付記36)
少なくとも1つの新たな形質を含むホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07に由来するホウレンソウ植物の生産方法であり、
前記方法は、
番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FER P-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07に、少なくとも1つの形質を付与する突然変異または導入遺伝子を導入する、
ことを含む、方法。
(付記37)
付記36記載の方法により生産された、ホウレンソウ植物。
(付記38)
食品として、ホウレンソウの葉を生産する方法であり、
前記方法は、
付記9記載のホウレンソウ植物またはその後代系統の葉、または葉および根を収穫する、
ことを含む、方法。
(付記39)
付記9記載のホウレンソウ植物またはその後代系統の加工品であり、
前記加工品は、カット、スライス、粉砕(ground)、ピューレ、乾燥、缶詰、瓶詰め、洗浄、包装、冷凍および/または加熱処理された葉を含む、
加工品。
(付記40)
付記9記載のホウレンソウ植物またはその後代系統の遺伝子型を決定する方法であり、
前記方法は、
(a)付記9記載のホウレンソウ植物またはその後代系統から核酸サンプルを取得し、
(b)前記核酸サンプルにおける多型を検出する、
ことを含む、方法。
(付記41)
付記9記載のホウレンソウ植物由来の再生可能な細胞またはプロトプラストの培養組織(tissue culture)。
(付記42)
付記41記載の培養組織であり、
前記細胞またはプロトプラストは、葉、花粉、胚、子葉、胚軸、分裂組織細胞(meristematic cell)、根、根端、葯、花、種子または茎に由来する、
培養組織。
(付記43)
付記41または42記載の培養組織から再生された、ホウレンソウ植物。
(付記44)
付記43記載のホウレンソウ植物であり、
前記ホウレンソウ植物は、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07と同一のべと病抵抗性を有する、
ホウレンソウ植物。
(付記45)
付記9記載のホウレンソウ植物を栄養繁殖する方法であり、
前記方法は、
(a)受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07のホウレンソウ植物から繁殖可能な組織を回収し、
(b)前記組織を培養し、増殖したシュート(shoot)を取得し、
(c)前記増殖したシュートを発根させ、発根した小植物(plantlet)を取得し、
(d)任意に、前記発根した小植物から、植物を生育する、
ことを含む、方法。
(付記46)
付記45記載の方法により生産されるホウレンソウ小植物または植物であり、
前記ホウレンソウ小植物または植物は、受番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FER P-22409、受番号FERM BP-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FERM BP-22412で特定される(寄託されている)ホウレンソウ植物の種子である、ホウレンソウ品種TK01、TK02、TK03、TK04、TK05、TK06、またはTK07の本質的にすべての生理学的および形態学的特徴を有する、
ホウレンソウ小植物または植物。
(付記47)
番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FER P-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FER P-22412で特定される(寄託されている)、ホウレンソウ植物の種子。
(付記48)
番号FERM BP-22406、受番号FERM BP-22407、受番号FERM BP-22408、受番号FERM BP-22409、受番号FER P-22410、受番号FERM BP-22411、または受番号FER P-22412で特定される(寄託されている)種子から生育された、ホウレンソウ植物。
(付記49)
付記48記載のホウレンソウ植物の後代系統を含み、
前記後代系統は、下記(1)、(2)、または(3)の形質を有する、ホウレンソウ植物:
(1)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(2)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示す;
(3)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示
す。
(付記50)
付記48または49記載のホウレンソウ植物の後代系統を含み、
前記後代系統は、下記(2’)、または(3’)の形質を有する、ホウレンソウ植物:
(2’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1~3、5~15、および17ならびにUA1014、UA201550、UA201707A、およびUA201720Bに対して抵抗性を示し、レースPfs4およびPfs16およびUA201621Aに対して抵抗性を示さない;
(3’)ペロノスポラ エフサ(Peronospora effusa)のレースPfs1および4~17ならびにUA1014、UA201621A、UA201550、およびUA201707A、UA201720Bに対して抵抗性を
示し、レースPfs2およびPfs3に対して抵抗性を示さない。
(付記51)
付記48から50のいずれかに記載のホウレンソウ植物の雑種第1代系統を含む、ホウレンソウ植物。
(付記52)
前記ホウレンソウ植物は、植物体またはその部分である、付記48から51のいずれかに記載のホウレンソウ植物。
(付記53)
前記ホウレンソウ植物は、種子である、付記48から52のいずれかに記載のホウレンソウ植物。
(付記54)
付記48から53のいずれかに記載のホウレンソウ植物を自殖させる自殖工程を含む、ホウレンソウ植物の製造方法。
(付記55)
付記48から53のいずれかに記載のホウレンソウ植物と、他のホウレンソウ植物とを交雑する交雑工程を含む、ホウレンソウ植物の製造方法。
(付記56)
種子を採種する採種工程を含む、付記54または55記載のホウレンソウ植物の製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0119】
以上のように、本発明によれば、べと病抵抗性ホウレンソウ植物を提供できる。このため、本発明は、例えば、育種等の農業分野において極めて有用である。
図1
図2
図3
図4