(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-20
(45)【発行日】2025-01-28
(54)【発明の名称】洗浄用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
B29C 33/72 20060101AFI20250121BHJP
C08L 25/04 20060101ALI20250121BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20250121BHJP
C08L 55/02 20060101ALI20250121BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20250121BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20250121BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20250121BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20250121BHJP
【FI】
B29C33/72
C08L25/04
C08L51/04
C08L55/02
C08L71/02
C08K5/42
C08K7/14
C08L69/00
(21)【出願番号】P 2021050165
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】524280636
【氏名又は名称】ノバセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(72)【発明者】
【氏名】正村 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】内川 智朗
【審査官】田村 佳孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-126555(JP,A)
【文献】国際公開第2007/007521(WO,A1)
【文献】特開平09-183133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00
B29C 45/00
B29C 48/00
C08L 69/00
C08L 25/04
C08L 51/04
C08L 55/02
C08L 71/02
C08K 5/42
C08K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリカーボネート樹脂、
(B)スチレン系樹脂および
(C-1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを含有し、
(C-1)成分の含有割合が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.5~3.5質量部である、洗浄用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリカーボネート樹脂、
(B)スチレン系樹脂、
(C-1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールおよび
(C-2)アルキル(C10-16)ベンゼンスルホン酸ナトリウムを含有し、
(C-1)成分と(C-2)成分の合計100質量%中の(C-1)成分の含有割合が20~80質量%、(C-2)成分の含有割合が80~20質量%であり、
(C-1)成分と(C-2)成分の合計含有割合が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して1~5質量部である、洗浄用樹脂組成物。
【請求項3】
さらに(E)ガラス繊維を(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して10~100質量部含有している、請求項1または2記載の洗浄用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分と(B)成分の合計100質量%中の(A)成分の含有割合が75~95質量%、(B)成分の含有割合が25~5質量%である、請求項1~3のいずれか1項記載の洗浄用樹脂組成物。
【請求項5】
(B)成分のスチレン系樹脂が、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂(MBS樹脂)、ブチルアクリレート-アクリロニトリル-スチレン樹脂(AAS樹脂)から選ばれるものを含んでいる、請求項1~4のいずれか1項記載の洗浄用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂の成形加工に使用する押出加工機や射出成形機の洗浄に使用できる洗浄用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂の成形加工に使用する押出加工機や射出成形機を洗浄するための洗浄剤が知られている。
特許文献1(特許第5409522号公報)には、(a)熱可塑性樹脂30~90質量%と、(b)平均長さが100μm以下のガラス繊維70~10質量%とを含有し、引火温度が400℃以上である成形機用洗浄剤の発明が記載されている(特許請求の範囲)。
(a)熱可塑性樹脂については、ポリスチレン、ポリアミド、スチレン-アクリロニトリル共重合体、ポリカーボネートの中でもポリカーボネートが好ましく、2種以上混合して用いてもよいと記載されている。(段落番号0031、00364)
【0003】
特許文献2(特許第5171573号公報)は、ポリカーボネート(A)100重量部、珪酸塩化合物(B)0.1~100重量部並びに有機酸及び/又は有機酸誘導体(C)0.001~10重量部を含有し、珪酸塩化合物(B)並びに有機酸及び/又は有機酸誘導体(C)の混合物のpH値が5~8である洗浄剤の発明が記載されている(特許請求の範囲)。
ポリカーボネートのほかにポリスチレン、HIPS、AS樹脂、ABS樹脂などを含有しても良いことが記載されている。(段落番号0039)
【0004】
特許文献3(WO2019/069798 A1)には、熱可塑性樹脂、及びTGAの分解開始温度が200℃以上かつ融点が100℃未満の界面活性剤を含有する、射出成形機及び金型用洗浄剤樹脂組成物の発明が記載されており、前記界面活性剤はスルホン酸塩(アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩)が記載されている(特許請求の範囲)。
熱可塑性樹脂は多数列挙されており、ポリエチレンを含むことが特に好ましいと記載されている。(段落番号0021)
【0005】
特許文献4(特開2021-734号公報)には、(A)試験温度(θ)220℃、公称荷重(Mnom)10kgの条件におけるメルトマスフローレート(MFR)の値が1g/10min乃至40g/10minであるスチレン-アクリロニトリル共重合樹脂30質量部乃至90質量部、及び(B)試験温度(θ)300℃、公称荷重(Mnom)1.2kgの条件におけるメルトボリュームフローレート(MVR)の値が3cm3/10min乃至130cm3/10minであるポリカーボネート樹脂質70量部乃至10質量部からなり、(A)及び(B)成分の質量部の合計が100質量部であることを特徴とする、洗浄用樹脂組成物の発明が記載されている(特許請求の範囲)。
ポリカーボネート樹脂の含有量(AS樹脂の含有量)については、本発明の洗浄用樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂の含有量は、(A)及び(B)成分の合計100質量部に対して、70質量部乃至10質量部であり、60質量部乃至20質量部であることが好ましく、50質量部乃至30質量部であることがより好ましい。(段落番号0022)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5409522号公報
【文献】特許第5171573号公報
【文献】WO2019/069798 A1
【文献】特開2021-734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、押出成形機、射出成形機などの樹脂の成形加工機の洗浄性能が良い洗浄用樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)スチレン系樹脂および(C-1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを含有し、(C-1)成分の含有割合が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.5~3.5質量部である、洗浄用樹脂組成物を提供する。
【0009】
また本開示は、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)スチレン系樹脂、(C-1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールおよび(C-2)アルキル(C10-16)ベンゼンスルホン酸ナトリウムを含有し、(C-1)成分と(C-2)成分の合計100質量%中の(C-1)成分の含有割合が20~80質量%、(C-2)成分の含有割合が80~20質量%であり、(C-1)成分と(C-2)成分の合計含有割合が、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して1~5質量部である、洗浄用樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の洗浄用樹脂組成物は、押出成形機、射出成形機などの樹脂の成形加工機の洗浄性能が優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(A)成分のポリカーボネート樹脂は、例えば特開2019-127516号公報、特開2021-734号公報および特許第5171573号公報に記載されているものと同じものを使用することができる。
【0012】
(B)成分スチレン系樹脂は、ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS樹脂)、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン樹脂(MBS樹脂)、ブチルアクリレート-アクリロニトリル-スチレン樹脂(AAS樹脂)などを挙げることができ、これらの中でもAS樹脂が好ましい。
【0013】
(A)成分と(B)成分の合計100質量%中、
(A)成分の含有割合は60~95質量%が好ましく、70~90質量%がより好ましく、75~90質量%がさらに好ましく、
(B)成分の含有割合は40~5質量%が好ましく、30~10質量%がより好ましく、25~10質量%がさらに好ましい。
【0014】
さらに界面活性剤として、
(C-1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを単独で含有するか、または
(C-1)ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールおよび(C-2)アルキル(C10-16)ベンゼンスルホン酸ナトリウムの両方を含有することができる。
(C-2)成分のアルキル(C10-16)ベンゼンスルホン酸ナトリウムのアルキル基は、直鎖アルキル基と分岐鎖アルキル基のいずれでもよいが、直鎖アルキル基が好ましく、アルキル基の炭素数は10~13が好ましい。
【0015】
(C-1)成分を単独で含有するときの含有割合は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.5~3.5質量部が好ましく、1~3.5質量部がより好ましく、1.5~3質量部がさらに好ましい。
(C-1)成分と(C-2)成分の両方を含有するときの含有割合は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して合計で1~5質量部が好ましく、1.5~4重量部がより好ましく、2~4質量部がさらに好ましい。
(C-1)成分と(C-2)成分の両方を含有するときのそれぞれの含有割合は、(C-1)成分と(C-2)成分の合計100質量%中、(C-1)成分の含有割合は20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、(C-2)成分の含有割合は80~20質量%が好ましく、70~30質量%がより好ましい。
【0016】
上記した(C-1)成分と(C-2)成分に加えて、他の界面活性剤(陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤など)を含有することができるが、前記他の界面活性剤の含有割合は、界面活性剤全量中10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
さらに(E)成分としてガラス繊維を含有することができる。
(E)成分のガラス繊維は、公知のEガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラスからなるものを使用することができるが、Eガラスからなるガラス繊維が好ましい。
(E)成分の含有量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して10~100質量部が好ましい。
【0018】
本開示の洗浄用樹脂組成物は、上記各成分を、ヘンシェルミキサー、タンブラーブレンダー、ニーダー等の混合機で予備混合した後、押出機で混練したり、加熱ロール、バンバリーミキサーで溶融混練したりすることによって製造することができる。
【0019】
本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
各実施形態における各構成およびそれらの組み合わせなどは一例であって、本発明の開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換およびその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0020】
(A)成分
ポリカーボネート樹脂:カリバー300-4(住化スタイロンポリカーボネート株式会社)
(B)成分
スチレン系樹脂:SAN-A 100LS(テクノUMG株式会社)
(C-1)成分
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール:アデカプルロニック(登録商標)F-108(株式会社ADEKA)
(C-2)成分
直鎖アルキル(C10-13)ベンゼンスルホン酸ナトリウム:ニューレックスソフト 60-N(日油株式会社)(C10:8質量%、C11:32質量%、C12:34質量%、C13:26質量%)
比較(C)成分
アルカンスルホン酸ナトリウム:WeylClean SAS 93(クラリアントジャパン株式会社)
エチレングリコールジステアレート:エマノーン 3201M-V(花王株式会社)
(E)成分
ガラス繊維:ECS03 T-571(日本電気硝子株式会社)
【0021】
実施例1~4、比較例1~7
表1に示す各成分をタンブラーブレンダーで混合(混合時間:120秒混合速度:120r/min)後、押出機にて溶融混練して、洗浄用樹脂組成物を得た。
得られた洗浄用樹脂組成物を使用して、下記の洗浄試験1、2を実施した。結果を表1に示す。表中の各成分の量は質量部である。
なお、洗浄試験1、2で使用した射出成形機と前材は、以下のとおりである。
【0022】
(射出成形機)
三菱ファナック モデル:2000i-100B (スクリュー径32,型締力100t)
使用時の条件:射出速度 100mm/sec, 回転数100r/min,シリンダー温度:280℃~300℃,背圧:0.3MPa
ストローク:前材使用時50mm,洗浄時40mm
(前材)
ポリカーボネート樹脂: カリバー200-10 (住化スタイロンポリカーボネート株式会社)
黒マスター:PLASBLAK UN2014(Cabot Plastics Hong Kong Ltd.)
ポリカーボネート樹脂と黒マスターを100:0.5の比率でタンブラーブレンダーを用いて混合(混合時間:20秒混合速度:120r/min)した。
【0023】
<滑り性の確認>
射出成形機のホッパーに洗浄用樹脂組成物を投入した後に計量して、計量時間を評価した。計量は、射出成形機のシリンダー内のスクリューを回転させて後退させながら、ホッパーからシリンダー内に所定量の洗浄用樹脂組成物を充填することである。
「滑り性」とは、洗浄用樹脂組成物とスクリューまたはシリンダーとの滑りが激しくなるなどの理由で、計量時間が非常に長くなったり、計量できなくなったりすることである。
「滑り性」は、成形作業中の計量時間で判断した。滑りが発生せず、計量時間が5秒以内で完了する場合を〇と判定し、計量ができず、成形できない場合を×と判定した。
【0024】
<洗浄試験1>
前材500gを上記射出成形機(シリンダー温度300℃)に投入して、上記の条件で排出した。
その後、シリンダー温度300℃において洗浄用樹脂組成物を置換し、目視で前材の黒が見えなくなった時点を洗浄完了とし、洗浄完了に必要な洗浄用樹脂組成物の質量(g)を測定することで、洗浄用樹脂組成物の洗浄性能を評価した。
その後、シリンダー温度300℃で、透明PC樹脂(カリバー200-10)の置換を実施するとともに、前材に由来する樹脂の残留がないかを確認した。残留がない場合を〇、残留があった場合(透明PC樹脂が着色した場合)を×とした。
さらに洗浄用樹脂組成物で置換するときに、洗浄用樹脂組成物に由来するガスを含む白煙が発生するかどうかで、洗浄用樹脂組成物の熱安定性を評価した。ガスを含む白煙が発生しなかった(熱安定性が良い)場合を〇、ガスを含む白煙が発生した(熱安定性が悪い)場合を×とした。なお、前記白煙の有無は、目視により確認した。
【0025】
<洗浄試験2>
前材500gを上記射出成形機(シリンダー温度300℃)に投入して、上記の条件で排出した。
その後、シリンダー温度300℃において洗浄用樹脂組成物を置換し、目視で前材の黒が見えなくなった時点を洗浄完了とし、洗浄完了に必要な洗浄用樹脂組成物の質量(g)を測定することで、洗浄用樹脂組成物の洗浄性能を評価した。
その後、シリンダー温度240℃で、透明AS樹脂(050SF ダイセルミライズ株式会社)の置換を実施するとともに、前材に由来する樹脂の残留がないかを確認した。残留がない場合を〇、残留があった場合(透明AS樹脂が着色した場合)を×とした。
さらに洗浄試験1と同様の滑りと熱安定性も試験した。
【0026】
【0027】
実施例1~4と比較例1~7との対比から明らかなとおり、洗浄試験1、2の両方において良い結果が得られた。
比較例1、2、5は、洗浄作業中に洗浄用樹脂組成物に由来するガスが発生した。ガスの発生の有無は、作業環境を適正に維持し、作業員の健康を確保する上で重要である。
比較例3は、滑りが悪かった。
比較例4は、透明AS樹脂への置き換えにおいて洗浄用樹脂組成物が溶融しなかったため、置き換えができなかった。
比較例6は、透明AS樹脂,PC樹脂への置き換えにおいて界面活性剤が配合されていないことから、洗浄用樹脂組成物が排出され難くなり、置き換えができなかった。
比較例7は、高温のためAS樹脂の粘度が極端に下がり、計量時にAS樹脂がノズルから流れることで計量ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本開示の洗浄用樹脂組成物は、押出成形機、射出成形機などの樹脂の成形加工機の洗浄に利用することができる。